(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-26
(54)【発明の名称】CAMKIIデルタ9のアンタゴニストおよびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220819BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220819BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220819BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/7115 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20220819BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20220819BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220819BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220819BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220819BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20220819BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20220819BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220819BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220819BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220819BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220819BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220819BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220819BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20220819BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20220819BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220819BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220819BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220819BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220819BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20220819BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20220819BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220819BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220819BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220819BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220819BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220819BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P9/00
A61P43/00 107
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61K31/7115
A61K31/712
A61K31/7125
A61K35/76
A61K35/761
A61P9/10
A61P9/04
A61P9/06
A61P9/12
A61P29/00 101
A61P3/04
A61P3/10
A61P3/06
A61P27/02
A61P19/06
C07K16/40 ZNA
C12N5/071
C07K16/46
C12N15/864 100Z
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N15/63 Z
C12Q1/02
C07K14/47
G01N33/53 D
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575976
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(85)【翻訳文提出日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 CN2020095555
(87)【国際公開番号】W WO2020253608
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/091685
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/103678
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513187900
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District Beijing 100871 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】チャン,マオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,ルイ-ピン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,フア
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ02
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4H045AA10
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4H045FA74
(57)【要約】
Ca
2+/カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII)介在性疾患を治療または予防する方法、心損傷を緩和する方法、ユビキチン結合酵素の活性を刺激する方法、ユビキチン結合酵素の分解を防ぐ方法、心筋細胞死を防ぐ方法、細胞中でのDNA損傷を軽減する方法、CaMKII介在性疾患を診断するための方法、CaMKII介在性疾患を診断するためのキット、CaMKII介在性疾患を診断するためのバイオマーカー、およびCaMKII介在性疾患を診断するためのバイオマーカーとしてのCaMKIIδ9の使用を提供する。分子を同定するための方法、単離ペプチド、単離核酸、およびそれらのアンタゴニストも本明細書中で提供される。
【選択図】
図2-2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてCaMKII介在性疾患を治療または予防する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項2】
対象において心損傷を緩和する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項3】
対象においてユビキチン結合酵素のレベルまたは活性を刺激する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項4】
対象においてユビキチン結合酵素の分解を防ぐ方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項5】
試料中での心筋細胞死を防ぐ方法であって、前記試料を、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量と接触させる工程を含む方法。
【請求項6】
細胞中でのDNA損傷を軽減する方法であって、前記細胞を、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量と接触させる工程を含む方法。
【請求項7】
前記アンタゴニストが、ユビキチン結合酵素のリン酸化を阻害するアンタゴニストである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ユビキチン結合酵素がユビキチン結合酵素2Tである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アンタゴニストが、Ser110でのユビキチン結合酵素2Tのリン酸化を阻害するアンタゴニストである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アンタゴニストが、CaMKII-δ9の特異的アンタゴニストである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アンタゴニストが、CaMKII-δ9のレベルまたは活性を阻害するが、CaMKII-δ2またはCaMKII-δ3のレベルまたは活性を有意に阻害しない、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アンタゴニストが、CaMKII-δ9を特異的に認識する抗体、CaMKII-δ9に結合する小分子化合物、CaMKII-δ9のコード配列を標的とするRNAi分子、CaMKII-δ9のコード配列を標的とするアンチセンスヌクレオチド、またはCaMKII-δ9と競合してその基質に結合する薬剤である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体がモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、ヒト化抗体、キメラ抗体、または完全ヒト抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体が、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16によってコードされるアミノ酸配列に結合する、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記RNAi分子が、低分子干渉RNA(siRNA)、小ヘアピンRNA(shRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記RNAi分子が10~100塩基を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記アンチセンスヌクレオチドが、その安定性を改善するために修飾されている、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記RNAi分子および前記アンチセンスヌクレオチドが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16に結合する、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記RNAi分子および前記アンチセンスヌクレオチドが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13およびエクソン16、またはCaMKII-δ遺伝子のエクソン16およびエクソン17、またはCaMKII-δ遺伝子のエクソン13およびエクソン16およびエクソン17に結合する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
CaMKII-δ9と競合してその基質に結合する前記薬剤が、リン酸化または酸化の機能を有しないCaMKII-δ9を発現するベクターである、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、またはプラスミドである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記AAVが、AAV1、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9またはAAVrh10である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記対象がヒトまたは非ヒト霊長類である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記非ヒト霊長類がアカゲザルである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記CaMKII介在性疾患が、CaMKII-δ9のレベルまたは活性の上昇と関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記CaMKII介在性疾患が、心疾患または代謝性疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記心疾患が、心筋症、心筋炎、糖尿病性心疾患、心筋虚血、心虚血/再灌流傷害、心筋梗塞、心不全、不整脈、心破裂、狭心症、心肥大、心損傷、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、狭心症、心筋炎、冠動脈心疾患および心膜炎からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記代謝性疾患が、インスリン抵抗性、肥満、糖尿病、高血圧症、脂質異常、糖尿病性脳血管疾患、糖尿病性眼合併症、糖尿病性神経障害、糖尿病性足病変、高インスリン血症、高コレステロール血症、高血糖症、高脂血症、痛風および高尿酸血症からなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
対象においてCaMKII介在性疾患を診断する方法であって、
(a)前記対象の検査生体試料を取得する工程;
(b)前記検査生体試料中のCaMKII-δ9のレベルまたは活性を検出する工程であって、前記対象の前記検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の前記レベルまたは活性が、前記対象がCaMKII介在性疾患を発症しているかまたは発症する可能性が増加していることを示す、工程
を含む方法。
【請求項31】
前記検査生体試料中のCaMKII-δ9の前記レベルまたは活性が、CaMKII-δ9と特異的に結合する試薬と前記試料を接触させることにより検出される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の前記レベルまたは活性が、基準試料中で検出されたCaMKII-δ9の基準のレベルまたは活性と比較される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の、CaMKII-δ9の前記基準のレベルまたは活性よりも高いレベルまたは活性が、前記対象がCaMKII介在性疾患を発症しているかまたは発症する可能性が増加していることを示す、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記基準試料が、健常対象からであるか、または前記同一対象から、前記検査生体試料よりも先にもしくは後に取得した試料である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記検査生体試料が、前記対象の心臓からである、請求項30から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記対象がヒトまたは非ヒト霊長類である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
CaMKII-δ9を特異的に認識する抗体または抗体断片を含む、対象においてCaMKII介在性疾患を診断するためのキット。
【請求項38】
CaMKII-δ9の活性を阻害する分子を同定するための方法であって、前記分子を、CaMKII-δ9およびユビキチン結合酵素2Tと接触させる工程、ならびにユビキチン結合酵素2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、ユビキチン結合酵素2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9を阻害する分子を同定する、方法。
【請求項39】
CaMKII-δ9のリン酸化を阻害する分子を同定するための方法であって、前記分子を、CaMKII-δ9およびユビキチン結合酵素2Tと接触させる工程、ならびにユビキチン結合酵素2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、ユビキチン結合酵素2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9を阻害する分子を同定する、方法。
【請求項40】
CaMKII介在性疾患を治療または予防する分子を同定するための方法であって、前記分子を、CaMKII-δ9およびユビキチン結合酵素2Tと接触させる工程、ならびにユビキチン結合酵素2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、ユビキチン結合酵素2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9を阻害する分子を同定する、方法。
【請求項41】
心損傷を緩和する分子を同定するための方法であって、前記分子を、CaMKII-δ9およびユビキチン結合酵素2Tと接触させる工程、ならびにユビキチン結合酵素2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、ユビキチン結合酵素2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9を阻害する分子を同定する、方法。
【請求項42】
心筋細胞死を防ぐ分子を同定するための方法であって、前記分子を、CaMKII-δ9およびユビキチン結合酵素2Tと接触させる工程、ならびにユビキチン結合酵素2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、ユビキチン結合酵素2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9を阻害する分子を同定する、方法。
【請求項43】
DNA損傷を軽減する分子を同定するための方法であって、前記分子を、CaMKII-δ9およびユビキチン結合酵素2Tと接触させる工程、ならびにユビキチン結合酵素2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、ユビキチン結合酵素2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9を阻害する分子を同定する、方法。
【請求項44】
ユビキチン結合酵素2Tのリン酸化が、Ser110においてである、請求項38から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
CaMKII-δ9の全長タンパク質配列またはその断片を含む、対象においてCaMKII介在性疾患を診断するためのバイオマーカー。
【請求項46】
配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列を含む、請求項45に記載のバイオマーカー。
【請求項47】
対象においてCaMKII介在性疾患を診断するためのバイオマーカーとしてのCaMKII-δ9の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[001]本発明は、生物医学分野に関する。特に、本発明は、CaMKII-δ9のアンタゴニストおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[002]生物の寿命にわたり絶えず、ゲノムは様々な内部ストレス信号および外部ストレス信号によって攻撃され、DNA損傷に至る。過剰なDNA損傷は、ゲノム完全性を損ない、DNAの複製および転写を妨げる(Campisi,J. & d’Adda di Fagagna,F.Nature reviews.Molecular cell biology 8,729-740,doi:10.1038/nrm2233(2007))。予防として、DNA修復が、有害なDNA損傷から守り、ゲノム安定性および細胞生存性を維持する。異常なDNA修復は、DNA損傷の蓄積およびゲノム不安定性を引き起こし、細胞死をもたらす。哺乳類の心筋細胞は、再生能力がほとんどないか、またはまったくないため、最終分化心筋細胞の損失は、心筋梗塞、心筋症および心不全を含む多数の型の心疾患の一般的な病因である。しかしながら、心筋細胞のDNA修復機構は、多くが不明なままである。
【0003】
[003]Ca2+/カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII)は、多機能性セリン/スレオニンプロテインキナーゼのファミリーであり、心臓の細胞生存および細胞死の調節に関与する(Erickson,J.R.,He,B.J.,Grumbach,I.M. & Anderson,M.E.Physiological reviews 91,889-915,doi:10.1152/physrev.00018.2010(2011))。CaMKIIは、4つの遺伝子、CaMKII-α、β、γおよびδによってコードされ、CaMKII-δが、主に心臓で発現される。CaMKII-δは、2つの可変ドメインである、エクソン13から17の間(可変ドメイン1)およびエクソン20から22の間(可変ドメイン2)において選択的スプライシングされて、11個の異なるスプライスバリアントを生成する。特に、CaMKII-δ2(CaMKII-δCとも呼ばれる)およびCaMKII-δ3(またはCaMKII-δB)が、心臓の主要スプライスバリアントとして以前に同定されており、それぞれ、細胞質および核に局在する。明らかになってきた証拠は、CaMKII-δ2およびCaMKII-δ3が、心筋細胞生存性に対して異なる作用、拮抗作用さえも誘発することを示唆する(Peng,W.等 Circulation research 106,102-110,doi:10.1161/CIRCRESAHA.109.210914(2010))。しかしながら、心臓におけるCaMKII-δ9の生理学的機能および病理学的機能についてはほとんど知られていない。
【発明の概要】
【0004】
[004]本発明では、本発明者が、ヒト心臓での主なCaMKII-δスプライスバリアントとして、よく研究されたCaMKII-δ2およびδ3よりむしろ、CaMKII-δ9を同定した。様々な刺激に反応してCaMKII-δ9はアップレギュレートされ、心筋細胞のDNA損傷、ゲノム不安定性の誘発および心臓病理において、別のスプライスバリアント(CaMKII-δ2およびδ3)よりもはるかに強力である。本発明者はさらに、CaMKII-δ9の特徴配列であるエクソン13-16-17によりコードされるペプチドが、UBE2Tのリン酸化および分解のスプライスバリアント特異的調節を与えることを解明した。
【0005】
[005]一態様では、本発明は、対象においてCaMKII介在性疾患を治療または予防する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を該対象に投与する工程を含む方法を開示する。
【0006】
[006]別の態様では、本発明は、対象において心損傷を緩和する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を該対象に投与する工程を含む方法を開示する。
[007]さらに別の態様では、本発明は、対象においてユビキチン結合酵素のレベルまたは活性を刺激する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を該対象に投与する工程を含む方法を開示する。
【0007】
[008]さらに別の態様では、本発明は、対象においてユビキチン結合酵素の分解を防ぐ方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を該対象に投与する工程を含む方法を開示する。
【0008】
[009]さらに別の態様では、本発明は、試料中での心筋細胞死を防ぐ方法であって、該試料を、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量と接触させる工程を含む方法を開示する。
【0009】
[0010]さらに別の態様では、本発明は、細胞中でのDNA損傷を軽減する方法であって、該細胞を、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量と接触させる工程を含む方法を開示する。
【0010】
[0011]いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるCaMKII-δ9のアンタゴニストが、CaMKII-δ9の活性化を阻害できるか、またはCaMKII-δ9のキナーゼ活性を阻害できる。いくつかの実施形態では、CaMKII-δ9が、CaMKII-δ9それ自体のリン酸化および/または酸化によって活性化される。いくつかの実施形態では、CaMKII-δ9のキナーゼ活性を、その基質、例えば、ユビキチン結合酵素、特にユビキチン結合酵素2T(UBE2T)のリン酸化能として示す。いくつかの実施形態では、本発明のアンタゴニストが、ユビキチン結合酵素のリン酸化を阻害するアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、該ユビキチン結合酵素が、UBE2Tである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、UBE2TのSer110におけるリン酸化を阻害するアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ9の特異的アンタゴニストである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ9のレベルまたは活性を阻害するが、CaMKII-δ2またはCaMKII-δ3のレベルまたは活性を有意に阻害しない。
【0011】
[0012]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ9を特異的に認識する抗体、CaMKII-δ9に結合する小分子化合物、CaMKII-δ9のコード配列を標的とするRNAi分子、CaMKII-δ9のコード配列を標的とするアンチセンスヌクレオチド、またはCaMKII-δ9と競合してその基質に結合する薬剤である。
【0012】
[0013]いくつかの実施形態では、抗体が、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗体が、ヒト化抗体、キメラ抗体、または完全ヒト抗体である。いくつかの実施形態では、抗体が、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16によってコードされるアミノ酸配列に結合する。
【0013】
[0014]いくつかの実施形態では、RNAi分子が、低分子干渉RNA(siRNA)、小ヘアピンRNA(shRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である。いくつかの実施形態では、RNAi分子が10~100塩基を有する。いくつかの実施形態では、アンチセンスヌクレオチドが、その安定性を改善するために修飾される。いくつかの実施形態では、RNAi分子およびアンチセンスヌクレオチドが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16に結合する。いくつかの実施形態では、RNAi分子およびアンチセンスヌクレオチドが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13およびエクソン16(本発明では「エクソン13-16」とも呼ばれる)、またはCaMKII-δ遺伝子のエクソン16およびエクソン17(本発明では「エクソン16-17」とも呼ばれる)、またはCaMKII-δ遺伝子のエクソン13およびエクソン16およびエクソン17(本発明では「エクソン13-16-17」とも呼ばれる)に結合する。
【0014】
[0015]いくつかの実施形態では、CaMKII-δ9と競合してその基質に結合する薬剤が、リン酸化または酸化の機能を有しないCaMKII-δ9を発現するベクターである。いくつかの実施形態では、該ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、またはプラスミドである。いくつかの実施形態では、AAVが、AAV1、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9またはAAVrh10である。
【0015】
[0016]いくつかの実施形態では、対象がヒトまたは非ヒト霊長類である。いくつかの実施形態では、該非ヒト霊長類がアカゲザルである。いくつかの実施形態では、対象が、げっ歯類、例えば、ラットまたはマウスである。
【0016】
[0017]いくつかの実施形態では、CaMKII介在性疾患が、CaMKII-δ9のレベルまたは活性の上昇と関連する。いくつかの実施形態では、CaMKII介在性疾患が、心疾患または代謝性疾患である。いくつかの実施形態では、該心疾患が、心筋症、心筋炎、糖尿病性心疾患、心筋虚血、心虚血/再灌流傷害、心筋梗塞、心不全、不整脈、心破裂、狭心症、心肥大、心損傷、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、狭心症、心筋炎、冠動脈心疾患および心膜炎からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、該心疾患が、肥大型心筋症である。いくつかの実施形態では、該代謝性疾患が、インスリン抵抗性、肥満、糖尿病、高血圧症、脂質異常、糖尿病性脳血管疾患、糖尿病性眼合併症、糖尿病性神経障害、糖尿病性足病変、高インスリン血症、高コレステロール血症、高血糖症、高脂血症、痛風および高尿酸血症からなる群から選択される。
【0017】
[0018]別の態様では、本発明が、対象のCaMKII介在性疾患を診断するための方法であって、(a)該対象の検査生体試料を取得する工程;(b)該検査生体試料中のCaMKII-δ9のレベルまたは活性を検出する工程であって、該対象の該検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の該レベルまたは活性が、該対象がCaMKII介在性疾患を発症しているかまたは発症する可能性が増加していることを示す、工程を含む方法に関する。
【0018】
[0019]いくつかの実施形態では、検査生体試料中のCaMKII-δ9のレベルまたは活性は、CaMKII-δ9に特異的に結合する試薬と試料を接触させることにより検出される。いくつかの実施形態では、検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9のレベルまたは活性が、基準試料中で検出されたCaMKII-δ9の基準のレベルまたは活性と比較される。いくつかの実施形態では、検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の、CaMKII-δ9の基準のレベルまたは活性よりも高いレベルまたは活性が、対象がCaMKII介在性疾患を発症しているかまたは発症する可能性が増加していることを示す。いくつかの実施形態では、基準試料が、健常対象からであるか、または同一対象から、検査生体試料よりも先にもしくは後に取得した試料である。いくつかの実施形態では、検査生体試料が、対象の心臓からである。いくつかの実施形態では、対象がヒトまたは非ヒト霊長類である。
【0019】
[0020]別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9を特異的に認識する抗体または抗体断片を含む、対象においてCaMKII介在性疾患を診断するためのキットを開示する。
【0020】
[0021]別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9の全長タンパク質配列またはその断片を含む、対象においてCaMKII介在性疾患を診断するためのバイオマーカーを開示する。いくつかの実施形態では、該バイオマーカーが、配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列を含む。
【0021】
[0022]別の態様では、本発明が、対象においてCaMKII介在性疾患を診断するためのバイオマーカーとしてのCaMKII-δ9の使用を開示する。
[0023]別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9の活性を阻害する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9およびUBE2Tと接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9を阻害する分子を同定する、方法を開示する。
【0022】
[0024]さらに別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9のリン酸化能を阻害する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9およびUBE2Tと接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9のリン酸化能を阻害する分子を同定する、方法を開示する。
【0023】
[0025]さらに別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9それ自体のリン酸化および/または酸化を阻害する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9、およびCaMKII-δ9のリン酸化および/または酸化の状態を検出できる抗体と接触させる工程、ならびにリン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルが低下するかどうかを決定する工程を含み、リン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルの低下が、CaMKII-δ9のリン酸化および/または酸化を阻害する分子を同定する、方法を開示する。
【0024】
[0026]さらに別の態様では、本発明が、CaMKII介在性疾患を治療または予防する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9およびUBE2Tと接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII介在性疾患を治療または予防する分子を同定する、方法を開示する。
【0025】
[0027]さらに別の態様では、本発明が、CaMKII介在性疾患を治療または予防する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9、およびCaMKII-δ9のリン酸化および/または酸化の状態を検出できる抗体と接触させる工程、ならびにリン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルが低下するかどうかを決定する工程を含み、リン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルの低下が、CaMKII介在性疾患を治療または予防する分子を同定する、方法を開示する。
【0026】
[0028]さらに別の態様では、本発明が、心損傷を緩和する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9およびUBE2Tと接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、心損傷を緩和する分子を同定する、方法を開示する。
【0027】
[0029]さらに別の態様では、本発明が、心損傷を緩和する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9、およびCaMKII-δ9のリン酸化および/または酸化の状態を検出できる抗体と接触させる工程、ならびにリン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルが低下するかどうかを決定する工程を含み、リン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルの低下が、心損傷を緩和する分子を同定する、方法を開示する。
【0028】
[0030]さらに別の態様では、本発明が、心筋細胞死を防ぐ分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9およびUBE2Tと接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、心筋細胞死を防ぐ分子を同定する、方法を開示する。
【0029】
[0031]さらに別の態様では、本発明が、心筋細胞死を防ぐ分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9、およびCaMKII-δ9のリン酸化および/または酸化の状態を検出できる抗体と接触させる工程、ならびにリン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルが低下するかどうかを決定する工程を含み、リン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルの低下が、心筋細胞死を防ぐ分子を同定する、方法を開示する。
【0030】
[0032]さらに別の態様では、本発明が、DNA損傷を軽減する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9およびUBE2Tと接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、DNA損傷を軽減する分子を同定する、方法を開示する。
【0031】
[0033]いくつかの実施形態では、UBE2Tのリン酸化は、Ser110においてである。
[0034]さらに別の態様では、本発明が、DNA損傷を軽減する分子を同定するための方法であって、該分子を、CaMKII-δ9、およびCaMKII-δ9のリン酸化および/または酸化の状態を検出できる抗体と接触させる工程、ならびにリン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルが低下するかどうかを決定する工程を含み、リン酸化および/または酸化されたCaMKII-δ9のレベルの低下が、DNA損傷を軽減する分子を同定する、方法を開示する。
【0032】
[0035]別の態様では、本発明が、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、配列番号2に記載されるアミノ酸配列、配列番号3に記載されるアミノ酸配列、配列番号4に記載されるアミノ酸配列、配列番号5に記載されるアミノ酸配列、または配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む単離CaMKII-δポリペプチドを開示する。
【0033】
[0036]さらに別の態様では、本発明が、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離CaMKII-δ核酸を開示する。いくつかの実施形態では、該CaMKII-δ核酸が、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号6~19に対する少なくとも80%の相同性を有する核酸配列からなる群から選択される核酸配列の1つを含む。
【0034】
[0037]さらに別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9のレベルまたは活性を阻害できるCaMKIIアンタゴニストを開示する。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、ユビキチン結合酵素のリン酸化を阻害するアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、該ユビキチン結合酵素が、UBE2Tである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、UBE2TのSer110におけるリン酸化を阻害するアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ9の特異的アンタゴニストである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ9のレベルまたは活性を阻害するが、CaMKII-δ2またはCaMKII-δ3のレベルまたは活性を有意に阻害しない。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16によりコードされるアミノ酸配列に結合する抗体、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16を標的とするRNAi分子、またはCaMKII-δ遺伝子のエクソン16を標的とするアンチセンスヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13およびエクソン16によりコードされるアミノ酸配列に結合する抗体、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13およびエクソン16を標的とするRNAi分子、またはCaMKII-δ遺伝子のエクソン13およびエクソン16を標的とするアンチセンスヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16およびエクソン17によりコードされるアミノ酸配列に結合する抗体、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16およびエクソン17を標的とするRNAi分子、またはCaMKII-δ遺伝子のエクソン16およびエクソン17を標的とするアンチセンスヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13、エクソン16およびエクソン17によりコードされるアミノ酸配列に結合する抗体、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13、エクソン16およびエクソン17を標的とするRNAi分子、またはCaMKII-δ遺伝子のエクソン13、エクソン16およびエクソン17を標的とするアンチセンスヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、全長CaMKII-δ9のアミノ酸配列に結合する抗体、全長CaMKII-δ9のコード配列を標的とするRNAi分子、または全長CaMKII-δ9のコード配列を標的とするアンチセンスヌクレオチドである。
【0035】
[0038]さらに別の態様では、本発明が、本発明のアンタゴニストおよび薬学上許容される担体を含む医薬組成物を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】[0039]
図1は、CaMKII-δ9が、重要な心臓細胞質基質CaMKII-δスプライスバリアントであることを示す。
図1aは、スプライシングのランドスケープならびにマウス、ラット、アカゲザルおよびヒトの心臓における全CaMKII-δスプライスバリアントの発現レベルの図である。転写産物地図が、SMRTシーケンシングにより得られた11個の報告されている選択的スプライシングバリアント(行)を視覚化する。エクソン(列)が存在する場合は黒色であり、下部に番号を付けた(低い方の列、UTR領域;黒線、エクソン結合)。各ボックスの長さは、各エクソンの長さに比例し、各スプライシングバリアントの百分率を棒グラフに示し(右図、CaMKII-δ9は灰色)、主要バリアントのいくつかの絶対的リード数をバー上に示す(各種において3つの試料をまとめた)。
図1bは、エクソン21抗体によるマウス心臓からの総タンパク質をエクソン16抗体で検査、およびその逆の場合の相互免疫沈降の図である。入力レーンは、同じ膜の長時間の露出である。n=3の生物学的独立サンプル。
図1cは、抗エクソン21抗体または抗エクソン16抗体で免疫沈降したヒト心臓中の、定量的質量分析によりアッセイしたCaMKII-δエクソンジャンクションの相対的ペプチド量の図である。n=3(左図)およびn=8(右図)の生物学的独立サンプル。
図1dは、Ad-Flag-CaMKII-δ9およびAd-HA-CaMKII-δ2で感染させたNRVM中でのFlag-CaMKII-δ9(右上図)およびHA-CaMKII-δ2(左下図)の細胞質基質局在を示す共焦点免疫蛍光顕微鏡画像である。スケールバー、10μm。n=6の生物学的独立サンプル。
図1eは、1μMのドキソルビシン(24h)に曝したNRVM中でのCaMKII-δ9タンパク質レベルの図である(
図1e、n=12(媒介物)および10(Dox)の生物学的独立サンプル)。
図1fは、200μMのH
2O
2(24h)に曝したNRVM中でのCaMKII-δ9タンパク質レベルの図である(
図1f、n=7(媒介物)および5(H
2O
2)の生物学的独立サンプル)。
図1gは、肥大心マウス(TACを2週間)中でのCaMKII-δ9タンパク質レベルを、対応する対照と共に示した図である(
図1g、n=5(シャム)および6(TAC)の生物学的独立サンプル)。
図1hは、肥大型心筋症(HCM)を患うヒトからの心筋組織中でのCaMKII-δ9タンパク質レベルを、対応する対照と共に示した図である(
図1h、n=7(正常ヒト)および6(HCM)の生物学的独立サンプル)。データは平均値±s.e.m.である。一元配置分散分析(
図1cの左図)、スチューデントの両側t検定(
図1cの右図、
図1e~
図1h)。
【
図2-1】[0040]
図2は、CaMKII-δ9が、UBE2Tのダウンレギュレーションにより、心筋細胞死を誘導することを示す。
図2aは、H
2O
2(200μM)の存在下または不在下にスクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。
図2bは、Dox(1μM)の存在下または不在下にスクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図2cは、表示するMOI(感染多重度)のAd-β-gal、Ad-CaMKII-δ9およびAd-CaMKII-δ2で48hにわたり感染させたNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=6(Ad-β-galおよびAd-CaMKII-δ9)、n=4(Ad-CaMKII-δ2)の生物学的独立サンプル。
図2dは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI50、48h)NRVM中で、CaMKII-δ9によりアップレギュレートされたがCaMKII-δ2によってはアップレギュレートされなかった3遺伝子のリアルタイムPCRによりアッセイしたmRNAレベルの平均化データの図である。n=14の生物学的独立サンプル。
図2eは、CaMKII-δ9は用量依存性にUBE2Tを低下させるが、CaMKII-δ2は低下させないことを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=8の生物学的独立サンプル。
図2fは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAでトランスフェクトしたNRVM中でのUBE2Tの発現を示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2gは、UBE2Tの過剰発現と共にまたは伴わずにAd-β-galおよびAd-CaMKII-δ9で感染させた(MOI50、48h)NRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2hは、スクランブルまたはUBE2T siRNAで60hにわたり処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2iは、H
2O
2(200μM)を含むまたは含まないNRVM中でのUBE2Tの発現を示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2jは、UBE2Tの過剰発現と共にまたは伴わずにH
2O
2(200μM)に曝したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=8の生物学的独立サンプル。データは平均値±s.e.m.である。二元配置分散分析(a、b、g、j)、一元配置分散分析(c、d、e、h)、またはスチューデントの両側t検定(f、i)。
【
図2-2】[0040]
図2は、CaMKII-δ9が、UBE2Tのダウンレギュレーションにより、心筋細胞死を誘導することを示す。
図2aは、H
2O
2(200μM)の存在下または不在下にスクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。
図2bは、Dox(1μM)の存在下または不在下にスクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図2cは、表示するMOI(感染多重度)のAd-β-gal、Ad-CaMKII-δ9およびAd-CaMKII-δ2で48hにわたり感染させたNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=6(Ad-β-galおよびAd-CaMKII-δ9)、n=4(Ad-CaMKII-δ2)の生物学的独立サンプル。
図2dは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI50、48h)NRVM中で、CaMKII-δ9によりアップレギュレートされたがCaMKII-δ2によってはアップレギュレートされなかった3遺伝子のリアルタイムPCRによりアッセイしたmRNAレベルの平均化データの図である。n=14の生物学的独立サンプル。
図2eは、CaMKII-δ9は用量依存性にUBE2Tを低下させるが、CaMKII-δ2は低下させないことを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=8の生物学的独立サンプル。
図2fは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAでトランスフェクトしたNRVM中でのUBE2Tの発現を示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2gは、UBE2Tの過剰発現と共にまたは伴わずにAd-β-galおよびAd-CaMKII-δ9で感染させた(MOI50、48h)NRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2hは、スクランブルまたはUBE2T siRNAで60hにわたり処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2iは、H
2O
2(200μM)を含むまたは含まないNRVM中でのUBE2Tの発現を示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2jは、UBE2Tの過剰発現と共にまたは伴わずにH
2O
2(200μM)に曝したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=8の生物学的独立サンプル。データは平均値±s.e.m.である。二元配置分散分析(a、b、g、j)、一元配置分散分析(c、d、e、h)、またはスチューデントの両側t検定(f、i)。
【
図2-3】[0040]
図2は、CaMKII-δ9が、UBE2Tのダウンレギュレーションにより、心筋細胞死を誘導することを示す。
図2aは、H
2O
2(200μM)の存在下または不在下にスクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。
図2bは、Dox(1μM)の存在下または不在下にスクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図2cは、表示するMOI(感染多重度)のAd-β-gal、Ad-CaMKII-δ9およびAd-CaMKII-δ2で48hにわたり感染させたNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=6(Ad-β-galおよびAd-CaMKII-δ9)、n=4(Ad-CaMKII-δ2)の生物学的独立サンプル。
図2dは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI50、48h)NRVM中で、CaMKII-δ9によりアップレギュレートされたがCaMKII-δ2によってはアップレギュレートされなかった3遺伝子のリアルタイムPCRによりアッセイしたmRNAレベルの平均化データの図である。n=14の生物学的独立サンプル。
図2eは、CaMKII-δ9は用量依存性にUBE2Tを低下させるが、CaMKII-δ2は低下させないことを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=8の生物学的独立サンプル。
図2fは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAでトランスフェクトしたNRVM中でのUBE2Tの発現を示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2gは、UBE2Tの過剰発現と共にまたは伴わずにAd-β-galおよびAd-CaMKII-δ9で感染させた(MOI50、48h)NRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2hは、スクランブルまたはUBE2T siRNAで60hにわたり処理したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2iは、H
2O
2(200μM)を含むまたは含まないNRVM中でのUBE2Tの発現を示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=5の生物学的独立サンプル。
図2jは、UBE2Tの過剰発現と共にまたは伴わずにH
2O
2(200μM)に曝したNRVM中での細胞カスパーゼ3/7活性の図である。n=8の生物学的独立サンプル。データは平均値±s.e.m.である。二元配置分散分析(a、b、g、j)、一元配置分散分析(c、d、e、h)、またはスチューデントの両側t検定(f、i)。
【
図3】[0041]
図3は、CaMKII-δ9が、UBE2T介在性DNA修復を破壊することにより、心筋細胞のDNA損傷およびゲノム不安定性を誘導することを示す。
図3aは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ2またはAd-CaMKII-δ9で感染させた(MOI50、48h)γH2AX陽性NRVMの代表的免疫染色および統計データの図である。n=6の生物学的独立サンプル。矢印は、γH2AX陽性の核を示す。スケールバー、20μm。
図3bは、NRVM中のCaMKII-δ9が、用量依存性にγH2AXを増加させることを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=10の生物学的独立サンプル。
図3cは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ2またはAd-CaMKII-δ9で感染させた(MOI50、48h)NRVM中でのコメットアッセイにより評価したDNA損傷の図である。n=6の生物学的独立サンプル。矢印が、DNA損傷を伴う核を示す。スケールバー、20μm。
図3dは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理した、H
2O
2(100μM、10分間)を伴うまたは伴わないNRVM中でのγH2AX免疫染色により評価したDNA損傷の図である。
図3eは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理した、H
2O
2(100μM、10分間)を伴うまたは伴わないNRVM中でのコメットアッセイにより評価したDNA損傷の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図3fは、Ad-β-galまたはAd-UBE2Tで感染させた(MOI50、48h)、CaMKII-δ9の過剰発現を伴うまたは伴わないNRVM中でのγH2AX免疫染色により評価したDNA損傷の図である。
図3gは、Ad-β-galまたはAd-UBE2Tで感染させた(MOI50、48h)、CaMKII-δ9の過剰発現を伴うまたは伴わないNRVM中でのコメットアッセイにより評価したDNA損傷の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図3hは、Ad-β-galまたはAd-UBE2Tで感染させた、H
2O
2(100μM、10分間)を含むまたは含まないNRVM中でのγH2AX免疫染色により評価したDNA損傷の図である。
図3iは、Ad-β-galまたはAd-UBE2Tで感染させた、H
2O
2(100μM、10分間)を含むまたは含まないNRVM中でのコメットアッセイにより評価したDNA損傷の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図3jは、スクランブルまたはUBE2T siRNAで60hにわたり処理したNRVM中でのγH2AX免疫染色により評価したDNA損傷の図である。
図3kは、スクランブルまたはUBE2T siRNAで60hにわたり処理したNRVM中でのコメットアッセイにより評価したDNA損傷の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図3lは、スクランブル、FANCD2 siRNAで感染させたNRVM中でのH2AXのレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。
図3mは、スクランブル、FANCI siRNAで感染させたNRVM中でのH2AXのレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=4の生物学的独立サンプル。データは平均値±s.e.m.である。一元配置分散分析(a、b、c、j、k、l、m)または二元配置分散分析(d~i)。
【
図4】[0042]
図4は、心筋症および心不全におけるCaMKII-δ9-UBE2T-DNA損傷シグナル伝達の増強を示す。
図4aは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの心筋組織のCaMKII-δ9タンパク質レベルの図である(n=8の生物学的独立動物)。
図4bは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスのカプラン・マイヤー生存曲線の図である(n=20(wt)および22(CaMKII-δ9 tg)の生物学的独立動物)。
図4cは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの心臓肉眼形態の図である(n=15(wt)および9(CaMKII-δ9 tg)の生物学的独立動物)。
図4dは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの心臓TUNEL染色の統計データの図である(n=5の生物学的独立動物)。スケールバー、2mm。
図4eは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの6週齢および10週齢での代表的な心エコー画像である。
図4fは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの6週齢および10週齢での統計データの図である。n=13(wt6週齢)、15(wt10週齢)、15(CaMKII-δ9 tg6週齢)および9(CaMKII-δ9 tg10週齢)の生物学的独立動物。EF、駆出率;FS、短縮率;LVIDdおよびLVIDs、拡張期左室内径および収縮期左室内径;LVPWdおよびLVPWs、拡張期左室後壁厚および収縮期左室後壁厚。
図4gは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの10週齢での心臓γH2AX染色の統計データの図である。n=6の生物学的独立動物。
図4hは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの10週齢での心臓UBE2Tタンパク質レベルの図である。n=5(wt)およびn=6(CaMKII-δ9 tg)の生物学的独立動物。
図4iは、wtおよびCaMKII-δ9 shRNAトランスジェニック(shRNA tg)マウスの10週齢での心臓中のCaMKII-δ9タンパク質レベルの図である。n=14(wt)およびn=11(shRNA tg)の生物学的独立動物。
図4jは、TAC手術から4週間後のwtおよびshRNA tgマウスのEFおよびFSの統計データの図である(n=10(シャム)、16(wt TAC)、9(shRNA tg TAC)の生物学的独立動物)。
図4kは、TAC手術から4週間後のwtおよびshRNA tgマウスのカプラン・マイヤー生存曲線の図である(n=17(wt)および28(shRNA tg)の生物学的独立動物)。
図4lは、TAC手術から4週間後のwtおよびshRNA tgマウスの心臓γH2AXの図である(n=5の生物学的独立動物)。
図4mは、TAC手術から4週間後のwtおよびshRNA tgマウスのTUNEL染色の図である(n=5の生物学的独立動物)。データは平均値±s.e.m.である。スチューデントの両側t検定(a、d、g~i、l、m)、ログランク(マンテル・コックス)検定(b、k)、または二元配置分散分析(f、j)。
【
図5】[0043]
図5は、UBE2Tの過剰発現が、CaMKII-δ9誘導性のDNA損傷、心筋細胞死および心筋症を和らげることを示す。
図5aは、UBE2T tgマウスの構築の略図である。
図5bは、wtおよびUBE2T tgマウスと交配させたwtおよびCaMKII-δ9 tgマウスのカプラン・マイヤー生存曲線の図である。n=6(wt+wt)、5(wt+UBE2T tg)、22(CaMKII-δ9 tg+wt)および8(CaMKII-δ9 tg+UBE2T tg)の生物学的独立動物。
図5cは、wtおよびUBE2T tgマウスと交配させたwtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの心エコー検査により評価した左室の駆出率(EF)および短縮率(FS)の図である。n=6(wt+wt)、5(wt+UBE2T tg)、10(CaMKII-δ9 tg+wt)および7(CaMKII-δ9 tg+UBE2T tg)の生物学的独立動物。
図5dは、wtおよびUBE2T tgマウスと交配させたwtおよびCaMKII-δ9 tgマウスからの心臓中のTUNEL陽性細胞を指標とする細胞死の統計データの図である。
図5eは、wtおよびUBE2T tgマウスと交配させたwtおよびCaMKII-δ9 tgマウスからの心臓中のγH2AX陽性細胞により明示されるDNA損傷の図である。n=5の生物学的独立動物。
図5fは、wtおよびUBE2T tgマウスと交配させたwtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの心臓からのUBE2Tのレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=4の生物学的独立動物。データは平均値±s.e.m.である。ログランク(マンテル・コックス)検定(b)または二元配置分散分析(c~f)。
【
図6】[0044]
図6は、肥大型心筋症を患う患者からの心筋、およびドキソルビシンで処理したヒト心筋細胞中でのCaMKII-δ9-UBE2T-DNA損傷シグナル伝達の増強を示す。
図6aは、肥大型心筋症(HCM)を患うヒトまたは正常対照からの心筋組織中での切断型カスパーゼ3の代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=4(正常ヒト)および8(HCM)の生物学的独立サンプル。
図6bは、肥大型心筋症(HCM)を患うヒトまたは正常対照からの心筋組織中でのUBE2Tの代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=4(正常ヒト)および8(HCM)の生物学的独立サンプル。
図6cは、肥大型心筋症(HCM)を患うヒトまたは正常対照からの心筋組織中でのγH2AXの代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=4(正常ヒト)および8(HCM)の生物学的独立サンプル。
図6dは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI100、48h)ヒト胚性幹細胞由来心筋細胞中でのカスパーゼ3/7活性によりアッセイした細胞生存率の図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図6eは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI100、48h)ヒト胚性幹細胞由来心筋細胞中でのγH2AXのレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図6fは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI100、48h)ヒト胚性幹細胞由来心筋細胞中でのUBE2Tのレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図6gは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで感染させた、ドキソルビシン(Dox)処理(1mM、24h)を伴うまたは伴わないヒト胚性幹細胞由来心筋細胞中でのカスパーゼ3/7活性によりアッセイした細胞生存率の図である(n=6の生物学的独立サンプル)。
図6hは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで感染させた、ドキソルビシン(Dox)処理(1mM、24h)を伴うまたは伴わないヒト胚性幹細胞由来心筋細胞中でのγH2AXのレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図6iは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで感染させた、ドキソルビシン(Dox)処理(1mM、24h)を伴うまたは伴わないヒト胚性幹細胞由来心筋細胞中でのUBE2Tのレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。データは平均値±s.e.m.である。スチューデントの両側t検定(a~c)、一元配置分散分析(d~f)、または二元配置分散分析(g~i)。
【
図7】[0045]
図7は、CaMKII-δ9がUBE2TのSer110でのリン酸化を上昇させ、その分解を促進することを示す。
図7aは、プロテアソーム阻害剤β-lacが、NRVM中でのCaMKII-δ9介在性のUBE2T分解およびγH2AXアップレギュレーションを防ぐことを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である(5μM、n=8の生物学的独立サンプル)。
図7bは、プロテアソーム阻害剤MG132が、NRVM中でのCaMKII-δ9介在性のUBE2T分解およびγH2AXアップレギュレーションを防ぐことを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である(10μM、n=6の生物学的独立サンプル)。
図7cは、CaMKII-δ9の不在下および存在下、MG132(10μM)を含むまたは含まないNRVM中でのmycタグ付きUBE2Tの局在を示す代表的免疫染色画像の図である。n=6の生物学的独立サンプル。スケールバー、20μm。
図7dは、Ad-Flag-CaMKII-δ9およびAd-UBE2T-mycで感染させたNRVM中での、UBE2TによるCaMKII-δ9の共免疫沈降の図である。入力は、各免疫沈降に使用した全細胞溶解物の6%を表す。n=4の生物学的独立サンプル。
図7eは、CaMKII-δ9がNRVM中でのUBE2Tのセリンリン酸化を上昇させることを示す代表的ウエスタンブロットの図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図7fは、CaMKII-δ9がNRVM中でのスレオニンリン酸化は上昇させないことを示す代表的ウエスタンブロットの図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図7gは、UBE2T-S110A変異体はCaMKII-δ9介在性分解に抵抗するが、WT UBE2TまたはUBE2T-S193A変異体は抵抗しないことを示す代表的ウエスタンブロットおよび平均データの図である(MOI50、48h)。n=4の生物学的独立サンプル。
図7hは、CaMKII-δ9またはCaMKII-δ2タンパク質の共インキュベーションを伴うまたは伴わない無細胞系中での、UBE2T組換えタンパク質のセリンリン酸化および総レベルを例証する典型的ウエスタンブロットおよび平均データの図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図7iは、Ad-UBE2T-mycおよびAd-HA-CaMKII-δ2で感染させたNRVMの溶解物中でのUBE2TおよびCaMKII-δ2の共免疫沈降の図である。n=4の生物学的独立サンプル。データは平均値±s.e.m.である。二元配置分散分析(a、b)または一元配置分散分析(g、h)。
【
図8】[0046]
図8は、CaMKII-δ9によるUBE2Tの特異的リン酸化を示す。
図8aは、Ad-Flag-CaMKII-δ1およびAd-UBE2T-mycで感染させたNRVM中での、UBE2TによるCaMKII-δ1の共免疫沈降の図である。入力は、各免疫沈降に使用した全細胞溶解物の6%を表す。n=4の生物学的独立サンプル。
図8bは、CaMKII-δ9はNRVM中のUBE2Tを低下させるが、CaMKII-δ1は低下させないことを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図8cは、Ad-HA-CaMKII-δ3およびAd-UBE2T-mycで感染させたNRVM中での、UBE2TによるCaMKII-δ3の共免疫沈降の図である。入力は、各免疫沈降に使用した全細胞溶解物の6%を表す。n=4の生物学的独立サンプル。
図8dは、CaMKII-δ9はNRVM中のUBE2Tを低下させるが、CaMKII-δ3は低下させないことを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図8eは、エクソン13-16-17のCaMKII-δ9エクソンジャンクション(Flag-GFPのタグ付き)またはUBE2T-mycのプラスミドでトランスフェクトされたHEK293細胞中での、UBE2Tによる、対応するエクソンジャンクションによりコードされるペプチドの共免疫沈降の図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図8fは、CaMKII-δ9介在性の心臓DNA損傷および心筋細胞死シグナル伝達を示す略図である。正常状態では、UBE2Tが、心筋細胞の生存を維持するために様々な型のDNA損傷からゲノムを守る。心筋細胞が損傷を受けると、CaMKII-δ9がアップレギュレートおよび過活性化され、それにより、UBE2TのSer110リン酸化とそれに続く分解が高まる。UBE2Tレベルの低下が、DNA修復機構を損ない、DNA損傷の蓄積、ゲノム不安定性および細胞死をもたらす。データは平均値±s.e.m.である。一元配置分散分析。
【
図9】[0047]
図9は、CaMKII-δ9が心臓に存在することを示す。
図9aは、CaMKII-δスプライスバリアントの略図である。CaMKII-δは、主に、2つの可変ドメイン(一方はエクソン13とエクソン17との間で他方はエクソン20以降)において選択的スプライシングイベントを受ける。エクソンには番号を付け、フルサイズのボックスはコーディングエクソンを表し、小さい緑色ボックスは非翻訳領域(UTR)を意味し、特別なエクソンには彩色した。
図9bは、全長CaMKII-δ転写産物のSMRTシーケンシングの戦略の図である。CaMKII-δ転写産物は、異なる種の心臓から単離された全RNAから逆転写した。各cDNAを、異なる色の矢印でその位置を示した対プライマーで増幅した。フォワードプライマー(左側)はエクソン1上に位置し、リバースプライマー(右側)は、エクソン22上に位置する。PCR産物を濃縮し、SMRTシーケンシング用に精製した。
図9cは、RNA-seqによりアッセイした、ヒト、アカゲザル、イヌ、ラットおよびマウスの心臓におけるCaMKII-δの可変ドメイン1(エクソン13からエクソン17の間)中のエクソンジャンクションの百分率の図である。
図9dは、RNA-seqによりアッセイした、ヒト、アカゲザル、イヌ、ラットおよびマウスの心臓におけるCaMKII-δの可変ドメイン1(エクソン14からエクソン17の間)中のエクソンジャンクションの百分率の図である。
図9eは、RNA-seqによりアッセイした、ヒト、アカゲザル、イヌ、ラットおよびマウスの心臓におけるCaMKII-δの可変ドメイン2(エクソン20からエクソン22の間)中のエクソンジャンクションの百分率の図である。パネルeでのサルおよびヒトの心臓において、エクソン20bは、典型的なエクソン20よりも147塩基長く、かつ以前に記載されていない、エクソン20の別型である。データは平均値s.e.m.である(n=8(ヒトおよびラット)、7(アカゲザル)、6(イヌおよびマウス)の生物学的独立サンプル)。データは平均値±s.e.m.である。一元配置分散分析。
【
図10】[0048]
図10は、心臓におけるCaMKII-δ9タンパク質の同定を示す。
図10aは、抗体を産生するための抗原として使用したエクソン16および21のペプチド配列の図である。
図10bは、Ad-β-gal、Ad-HA-CaMKII-δ2、Ad-HA-CaMKII-δ3、またはAd-Flag-CaMKII-δ9でトランスフェクトしたNRVMの、抗エクソン16または抗エクソン21を含有する血清による免疫ブロットの図である。n=3の生物学的独立サンプル。
図10cは、CaMKII-δ9タンパク質に対する相応する抗原ペプチドの比率を上昇させた際の、Flagタグ付きCaMKII-δ9組換えタンパク質の、抗エクソン16によるウエスタンブロットの図である。n=4の生物学的独立サンプル。平均値±s.e.m.。一元配置分散分析。
図10dは、CaMKII-δ9タンパク質に対する相応する抗原ペプチドの比率を上昇させた際の、Flagタグ付きCaMKII-δ9組換えタンパク質の、抗エクソン21によるウエスタンブロットの図である。n=4の生物学的独立サンプル。平均値±s.e.m.。一元配置分散分析。
図10eは、抗エクソン21で免疫沈降した、10週齢マウスの心臓溶解物をSDS-PAGEに続いてクマシーブルー染色した図である。
図10fは、抗エクソン16で免疫沈降した、10週齢マウスの心臓溶解物をSDS-PAGEに続いてクマシーブルー染色した図である。約50kDのバンド(ボックス)をMS分析用にカットした。
図10gは、抗エクソン21で免疫沈降したマウス心臓からのCaMKII-δエクソン13-16-17のジャンクションに一致するペプチドのLC-MS/MSスペクトルの図である。
図10hは、抗エクソン16で免疫沈降したマウス心臓からのCaMKII-δエクソン20-21のジャンクションに一致するペプチドのLC-MS/MSスペクトルの図である。上方のペプチド配列は、相当するエクソンジャンクションであり、特異的なエクソン16およびエクソン21を太字で示す。b
nイオンは、n番目のペプチド結合での、ペプチドのアミノ末端部を含有する断片であり、y
nイオンは、カルボキシ末端部を含有する。NL、正規化した強度レベル(カウント毎秒)。
図10iは、アカゲザルにおけるCaMKII-δ9の組織分布の図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図10jは、wtマウスにおけるCaMKII-δ9の組織分布の図である。n=4の生物学的独立サンプル。CaMKII-δ9組換えタンパク質を、陽性対照(PC)として利用した。両種ともにおいて、分子量が大きいバンドが脳内で検出され、それは、脳に濃縮されたスプライスバリアントCaMKII-δ1(エクソン13-15-16-17)であった。
図10kは、ラットの成体(左側)および新生仔(右側)の心室心筋細胞中の内在性CaMKII-δ9(灰色)の細胞質基質局在を示す共焦点免疫蛍光顕微鏡画像である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図10lは、Ad-HA-CaMKII-δ3で感染させたNRVM中でのHA-CaMKII-δ3(灰色)の核局在を示す共焦点免疫蛍光顕微鏡画像である(n=6の生物学的独立サンプル)。スケールバー、10μm。
図10mは、NRVMの核分画および細胞質基質分画中のCaMKII-δ9タンパク質レベルの図である。n=6の生物学的独立サンプル。
【
図11】[0049]
図11は、心臓におけるCaMKII-δ9の病理学的な関連性を示す。
図11aは、Dox処理(1μM、30分間および60分間)を伴うまたは伴わないNRVM中でのCaMKII-δ9のリン酸化レベルを示すウエスタンブロットの図である(n=8の生物学的独立サンプル)。
図11bは、Dox処理(1μM、30分間および60分間)を伴うまたは伴わないNRVM中でのCaMKII-δ9の酸化レベルを示すウエスタンブロットの図である(n=7の生物学的独立サンプル)。NRVMをAd-Flag-CaMKII-δ9で感染させて、溶解物を、Flag抗体で免疫沈降してウエスタンブロット解析した。
図11cは、I/R傷害(30分間の虚血に続く60分間の再灌流)を伴うまたは伴わない灌流マウス心臓中でのCaMKII-δ9のリン酸化レベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=6の生物学的独立サンプル。心臓溶解物を、エクソン16抗体で免疫沈降し、ウエスタンブロット解析を行った。
図11dは、I/R傷害(30分間の虚血に続く60分間の再灌流)を伴うまたは伴わない灌流マウス心臓中でのCaMKII-δ9の酸化レベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=6の生物学的独立サンプル。心臓溶解物を、エクソン16抗体で免疫沈降し、ウエスタンブロット解析を行った。
図11eは、CaMKII-δ9 siRNAの配列の図である。黒色配列が、CaMKII-δ9のエクソン16中のsiRNA標的である。siRNA配列は、灰色でその下にある。
図11fは、mRNAレベルにより確認したCaMKII-δ9 siRNAのノックダウン効率の図である(n=5(スクランブル)および8(CaMKII-δ9 siRNA)の生物学的独立サンプル)。
図11gは、タンパク質レベルにより確認したCaMKII-δ9 siRNAのノックダウン効率の図である(n=3の生物学的独立サンプル)。
図11hは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで感染させたNRVM中での、リアルタイムPCRによりアッセイしたCaMKII-δ2およびCaMKII-δ3のmRNAレベルの平均化データの図である。n=18(CaMKII-δ2)およびn=15(CaMKII-δ3)の生物学的独立サンプル。
図11iは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理した、H
2O
2(200μM)を含むまたは含まないNRVMの培養培地中のLDH濃度により評価した細胞生存率の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図11jは、スクランブルまたはCaMKII-δ9 siRNAで処理した、Dox(1μM)を含むまたは含まないNRVMの培養培地中のLDH濃度により評価した細胞生存率の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図11kは、表示するMOIのAd-β-gal、Ad-CaMKII-δ9およびAd-CaMKII-δ2で48hにわたり感染させたNRVMの培地中でのLDH濃度により評価した細胞生存率の図である。n=10の生物学的独立サンプル。
図11lは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI50、48h)NRVM中でのCaMKII-δ発現の代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である。n=3の生物学的独立サンプル。データは平均値±s.e.m.である。一元配置分散分析(a、b、g、k)、スチューデントの両側t検定(c、d、f、h、l)、または二元配置分散分析(i、j)。
【
図12】[0050]
図12は、CaMKII-δ9およびCaMKII-δ2の遺伝子発現プロファイルのRNA-seq解析を示す。
図12aは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI50、48h)NRVM間での、Ad-β-galとAd-CaMKII-δ9との間での発現変動遺伝子に基づく遺伝子発現署名を表すヒートマップの図である。各遺伝子の発現値は、マッピングされた100万断片当たりの転写産物のキロベース当たりの断片(FPKM)として計算した。77個の遺伝子を列挙する。これらの遺伝子発現は、Ad-β-galで感染させた細胞中と比べてAd-CaMKII-δ9で感染させた細胞中では差次的かつ有意に変化した(>1.5倍または<0.67倍、n=3の生物学的独立サンプル)。Ad-CaMKII-δ9およびAd-CaMKII-δ2において差次的に調節された15個の遺伝子を灰色で示す。ヒートマップは、Rパッケージ「ピートマップ」により、オプション「スケール=行」で生成し、それは、各遺伝子の発現値が、FPKM値によりZスコア標準化されたことを意味する。
図12bは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(MOI50、48h)NRVM中で、CaMKII-δ9により調節されるがCaMKII-δ2によっては調節されないとRNA-seqにより同定された15遺伝子のうちの12遺伝子のリアルタイムPCRによりアッセイしたmRNAレベルのデータの図である。n=14の生物学的独立サンプル。
図12cは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(表示の用量、48h)培養NRVM中でのCOX-2のタンパク質レベルの図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図12dは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ9またはAd-CaMKII-δ2で感染させた(表示の用量、48h)培養NRVM中でのPAI-2のタンパク質レベルの図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図12eは、スクランブルまたはCOX-2 siRNAでトランスフェクトしたNRVM中でのCOX-2のタンパク質レベルを示す典型的ウエスタンブロットおよび平均化データの図である。n=4の生物学的独立サンプル。
図12fは、COX-2 siRNAの存在下または不在下にAd-β-galまたはAd-CaMKII-δ9で感染させたNRVM中でのカスパーゼ3/7活性を指標とする細胞生存率の図である。n=3の生物学的独立サンプル。
図12gは、COX-2 siRNAの存在下または不在下にAd-β-galまたはAd-CaMKII-δ9で感染させたNRVM中での培養培地中のLDH濃度の図である。n=6の生物学的独立サンプル。
図12hは、スクランブルまたはUBE2T siRNAでトランスフェクトしたNRVM中でのUBE2Tのタンパク質レベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび平均化データの図である。n=4の生物学的独立サンプル。データは平均値±s.e.m.である。一元配置分散分析(b、c、d、e、h)または二元配置分散分析(f、g)。
【
図13】[0051]
図13は、CaMKII-δ9が心筋細胞DNA損傷を誘導したことを示す。
図13aは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ2またはAd-CaMKII-δ9で感染させた(MOI50、48h)NRVM中でのγH2AXの完全な代表的免疫染色の図である。スケールバー、20μm。
図13bは、Ad-β-gal、Ad-CaMKII-δ2またはAd-CaMKII-δ9で感染させた(MOI50、48h)NRVM中での完全なコメットアッセイの図である。スケールバー、20μm。代表的画像の一部および平均化データを
図3aおよび
図3cに示す。
図13cは、スクランブル、FANCD2 siRNAで感染させたNRVM中でのFANCD2のレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図13dは、スクランブル、FANCI siRNAで感染させたNRVM中でのFANCIのレベルを示す代表的ウエスタンブロットおよび統計データの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図13eは、スクランブル、FANCD2 siRNAで感染させたNRVM中でのカスパーゼ3/7活性を示す統計データの図である(n=5の生物学的独立サンプル)。
図13fは、スクランブル、FANCI siRNAで感染させたNRVM中でのカスパーゼ3/7活性を示す統計データの図である(n=5の生物学的独立サンプル)。データは平均値±s.e.m.である。一元配置分散分析。
【
図14】[0052]
図14は、心臓病態生理におけるCaMKII-δ9-UBE2Tシグナル伝達の役割を示す。
図14aは、CaMKII-δ9 tgマウスの構築の略図である。
図14bは、wtおよびCaMKII-δ9 tgマウスのPCRジェノタイピングの図である。
図14cは、10週齢のwtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの心臓重量・体重比の図である(n=15(wt)および9(CaMKII-δ9 tg)の生物学的独立サンプル)。
図14dは、10週齢のwtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの心室の遺伝子発現の図である(n=7(wt)および6(CaMKII-δ9 tg)の生物学的独立サンプル)。
図14eは、10週齢のwtおよびCaMKII-δ9 tgマウスの心臓γH2AXの免疫染色の図である。矢印、γH2AX陽性細胞。右側ウィンドウ、表示の視野の拡大画像。平均化データは
図4gにある。スケールバー、20μm。
図14fは、CaMKII-δ9 shRNAトランスジェニック(shRNA tg)マウスの構築の略図である。
図14gは、wtおよびshRNA tgマウスのPCRジェノタイピングの図である。
図14hは、10週齢のwtおよびshRNA tgマウスの心臓エクソン21タンパク質レベルの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図14iは、TAC手術から4週間後のwtおよびshRNA tgマウスの心臓重量・体重比の図である(n=16(wt)および8(shRNA tg)の生物学的独立サンプル)。
図14jは、TAC手術から4週間後のwtおよびshRNA tgマウスの心臓UBE2Tタンパク質レベルの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図14kは、10週齢のCaMKII-δ9 tgマウスおよびCaMKII-δ2 tgマウスの心臓CaMKII-δタンパク質レベルの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図14lは、wt、CaMKII-δ9 tgおよびCaMKII-δ2 tgマウスからの心臓TUNEL染色の図である(n=8の生物学的独立サンプル)。
図14mは、wt、CaMKII-δ9 tgおよびCaMKII-δ2 tgマウスからの心エコー検査の図である(n=8の生物学的独立サンプル)。
図14nは、wt、CaMKII-δ9 tgおよびCaMKII-δ2 tgマウスからの、心臓重量・体重比の図である(n=8の生物学的独立動物)。
図14oは、wt、CaMKII-δ9 tgおよびCaMKII-δ2 tgマウスからのカプラン・マイヤー生存曲線の図である(n=10(wt)、19(CaMKII-δ9 tg)および12(CaMKII-δ2)の生物学的独立サンプル)。
図14pは、wt、CaMKII-δ9 tgおよびCaMKII-δ2 tgマウスからの心臓γH2AX染色の図である(n=8の生物学的独立サンプル)。
図14qは、wt、CaMKII-δ9 tgおよびCaMKII-δ2 tgマウスからの心臓UBE2Tタンパク質レベルの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。データは平均値±s.e.m.である。スチューデントの両側t検定(c、d、i)、一元配置分散分析(k~n、p、q)、二元配置分散分析(j)、またはログランク(マンテル・コックス)検定(o)。
【
図15】[0053]
図15は、CAMKII-δ9が、UBE2TをSer110部位でリン酸化することを示す。
図15aは、CAMKII-δ9によって仲介される、UBE2Tの2つの潜在的なリン酸化部位(Ser110およびSer193、円)を示す質量分析データの図である(n=3の生物学的独立サンプル)。HEK293細胞を、対照ベクターまたはFlagタグ付きCAMKII-δ9の存在下にmycタグ付きUBE2Tでトランスフェクトし、全細胞溶解物をmyc抗体で免疫沈降してから、免疫複合体を翻訳後修飾質量分析した。
図15bは、12種でのUBE2TのSer193部位はそうではないが、Ser110部位の保存を示す(矢印)UBE2Tタンパク質の配列アライメントの図である。
図15cは、CaMKII-δ9タンパク質の共インキュベーションを伴うまたは伴わない無細胞系中での、UBE2TおよびUBE2T-S110A組換えタンパク質のセリンリン酸化および総レベルを示す典型的ウエスタンブロットおよび平均化データの図である(n=4の生物学的独立サンプル)。二元配置分散分析。
図15dは、Ad-UBE2T、Ad-UBE2T-S110AまたはAd-UBE2T-S193Aで感染させたNRVM中での、wt UBE2T、UBE2T-S110AおよびUBE2T-S193A(すべてmycタグ付き)の代表的免疫蛍光画像の図である(n=6の生物学的独立サンプル)。UBE2T-S110Aが分解に対して抵抗性であり、細胞質にも核にも分布したことは、UBE2TのSer110部位がその分解の原因であるがその細胞内分布の原因ではないことを示すことに留意。スケールバー、10μm。データは平均値±s.e.m.である。
【
図16】[0054]
図16は、CAMKII-δエクソンジャンクションによってコードされるペプチドとUBE2Tとの間の相互作用を示す。
図16aは、CAMKII-δエクソン13-17のエクソンジャンクション(Flag-GFPのタグ付き)またはUBE2T-mycのプラスミドでトランスフェクトされたHEK293細胞中での、UBE2Tによる、対応するエクソンジャンクションによりコードされるペプチドの共免疫沈降の図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図16bは、CAMKII-δエクソン13-14-17のエクソンジャンクション(Flag-GFPのタグ付き)またはUBE2T-mycのプラスミドでトランスフェクトされたHEK293細胞中での、UBE2Tによる、対応するエクソンジャンクションによりコードされるペプチドの共免疫沈降の図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
図16cは、CAMKII-δエクソン13-15-16-17のエクソンジャンクション(Flag-GFPのタグ付き)またはUBE2T-mycのプラスミドでトランスフェクトされたHEK293細胞中での、UBE2Tによる、対応するエクソンジャンクションによりコードされるペプチドの共免疫沈降の図である(n=4の生物学的独立サンプル)。
【
図17】[0055]
図17は、CAMKII-δ遺伝子のエクソン16のアミノ酸配列(配列番号1)、CAMKII-δ遺伝子のエクソン13-16のアミノ酸配列(配列番号2)、CAMKII-δ遺伝子のエクソン16-17のアミノ酸配列(配列番号3)、CAMKII-δ遺伝子のエクソン13-16-17のアミノ酸配列(配列番号4)、CAMKII-δ9の全長アミノ酸配列(配列番号5)を示す。
【
図18】[0056]
図18は、CAMKII-δ遺伝子のヒトおよびラットのエクソン16の核酸配列(配列番号6)、CAMKII-δ遺伝子のマウスのエクソン16の核酸配列(配列番号7)、CAMKII-δ遺伝子のヒトのエクソン13-16の核酸配列(配列番号8)、CAMKII-δ遺伝子のラットのエクソン13-16の核酸配列(配列番号9)、CAMKII-δ遺伝子のマウスのエクソン13-16の核酸配列(配列番号10)、CAMKII-δ遺伝子のヒトのエクソン16-17の核酸配列(配列番号11)、CAMKII-δ遺伝子のラットのエクソン16-17の核酸配列(配列番号12)、CAMKII-δ遺伝子のマウスのエクソン16-17の核酸配列(配列番号13)、CAMKII-δ遺伝子のヒトのエクソン13-16-17の核酸配列(配列番号14)、CAMKII-δ遺伝子のラットのエクソン13-16-17の核酸配列(配列番号15)、CAMKII-δ遺伝子のマウスのエクソン13-16-17の核酸配列(配列番号16)を示す。
【
図19】[0057]
図19は、全長ヒトCAMKII-δ9の核酸配列(配列番号17)を示す。
【
図20】[0058]
図20は、全長ラットCAMKII-δ9の核酸配列(配列番号18)を示す。
【
図21】[0059]
図21は、全長マウスCAMKII-δ9の核酸配列(配列番号19)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[0060]本発明をより詳細に記載する前に、本開示は、記載される特定の実施形態に限定されず、それ自体、当然のことながら異なり得ると理解される。同じく、本明細書で使用する術語は、単に特定の実施形態を記載する目的のためであり、限定的であるとは意図されないと理解される。なぜなら、本発明の範囲は、添付クレームによってのみ限定されるからである。値の範囲が提供される場合、その範囲の上限値と下限値との間にある、間の各々の値(intervening value)が、文脈が明らかに異なる指定をしない限り下限値の単位の10分の1まで、およびその記載される範囲内の別の任意の記載される値または間の値が、本開示の範囲内に含まれると理解される。それらのより小さい範囲の上限値および下限値は、独立にそのより小さい範囲に含まれ得て、同じく本発明の範囲内に含まれ、該記載される範囲における任意の特に除外される範囲の対象となる。該記載される範囲が、限界値の一方または両方を含む場合、含まれるそれらの限界値の一方または両方を除いた範囲も本発明に含まれる。
【0038】
[0061]異なる定義がない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が帰属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。Singleton等, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 第2版,J.Wiley & Sons(New York, N.Y.1994年)およびMarch,Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure 第4版,John Wiley & Sons(New York,N.Y.1992年)が、技術分野の当業者に、本発明で使用する用語の多くに対する一般的ガイドを提供する。本明細書に記載されるのと類似または同等の任意の方法および材料が、本発明の実践または試験において使用できるが、好ましい方法および材料をここで記載する。
【0039】
[0062]本明細書で引用されるすべての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許が明確かつ個別に参照によって組み込まれていると示されるように、参照によって組み込まれており、それと関連して該刊行物が引用される方法および/または材料を開示および記載するために参照により本明細書に組み込まれている。どの刊行物の引用も、出願日前のその開示に関し、事前開示の理由で本発明がそのような刊行物に先行する権利がないという承認として解釈されるべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は、実際の刊行日とは異なり得て、独立に確認される必要があり得る。
【0040】
[0063]本開示を読むと当業者には明らかであるように、本明細書に記載および例証される個々の実施形態の各々は、個別の成分および特徴を有し、それらは、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、容易に分離され得る、またはいくつかの別の実施形態のいずれかの特徴と合体され得る。列挙される任意の方法は、列挙されるイベントの順番または論理的に可能な別の任意の順番で行い得る。
【0041】
[0064]本発明の実施形態は、異なる指定がない限り、当該分野の技術範囲内にある、化学、固体化学、無機化学、有機化学、物理化学、分析化学、物質化学、生化学、生物学、分子生物学、組換えDNA技術、薬理学、イメージング等の技術を使用する。そのような技術は、文献、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」,第2版(Sambrook等,1989年);「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait,編,1984年);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney編,1987年);「Methods in Enzymology」シリーズ(Academic Press,Inc.);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubel等編,1987年,および定期的更新);「PCR:The Polymerase Chain Reaction」(Mullis等編,1994年)において完全に説明されている。本発明で使用するプライマー、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、技術分野では公知の標準的技術を使用して生成できる。
【0042】
[0065]本明細書で開示および特許請求される、方法の行い方ならびにバイオマーカーおよびキットの使用のし方に関する完全な開示および記載を当業者に提供するために、以下の実施形態を提示する。数(例えば、量、温度等)に関する正確さを確保するように努めたが、いくつかの誤りおよび偏差が考慮される。
【0043】
[0066]本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに異なる指定をしない限り、同一物の複数形も含むと明記する。したがって、例えば、「1つの化合物」への言及は、複数の化合物を含む。本明細書およびそれに続く特許請求の範囲では、多数の用語に言及し、それらの用語は、反対の意図が明らかでない限りは以下の意味を有すると定義される。
【0044】
[0067]一態様では、本発明は、対象においてCaMKII介在性疾患を治療または予防する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を該対象に投与する工程を含む方法を開示する。別の態様では、本発明が、対象においてCaMKII介在性疾患を治療または予防するための医薬品の製造におけるCaMKII-δ9のアンタゴニストの使用を開示する。さらに別の態様では、本発明が、対象におけるCaMKII介在性疾患の治療または予防に用いるCaMKII-δ9のアンタゴニストを開示する。
【0045】
[0068]本明細書で使用する用語「治療する」、「治療すること」、「治療」は、治療対象の対象における疾患、状態または障害の自然経過を変える試みにおける臨床的介入に関し、予防用、または臨床病理の過程において行い得る。治療の望ましい効果は、疾患、状態または障害の発生または再発の予防、症状の緩和、疾患、状態または障害の任意の直接的または間接的な病理学的帰結の軽減、疾患、状態または障害の進行速度の低下、病態の改善または緩和、および寛解または予後の改善を含む。
【0046】
[0069]本明細書で使用する用語「予防する」、「予防すること」、「予防」は、疾患、状態または障害を有しないが、発症する危険性があるか、または発症しやすい対象における疾患、状態または障害の発症する可能性の低下に関する。
【0047】
[0070]本明細書で使用する用語「CaMKII介在性疾患」は、対象におけるCaMKIIの異常な活性化または破壊に起因するCaMKIIの異常に高いまたは低いレベルおよび/または活性により引き起こされるか、または促進される、CaMKIIの異常なレベルおよび/または活性に伴う疾患、状態または障害に関する。いくつかの実施形態では、CaMKII介在性疾患が、CaMKII-δ9のレベルおよび/または活性の上昇と関連する。いくつかの実施形態では、CaMKII介在性疾患が、心疾患または代謝性疾患である。いくつかの実施形態では、該心疾患が、心筋症、心筋炎、糖尿病性心疾患、心筋虚血、心虚血/再灌流傷害、心筋梗塞、心不全、不整脈、心破裂、狭心症、心肥大、心損傷、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、狭心症、心筋炎、冠動脈心疾患および心膜炎からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、該心疾患が、肥大型心筋症である。いくつかの実施形態では、該代謝性疾患が、インスリン抵抗性、肥満、糖尿病、高血圧症、脂質異常、糖尿病性脳血管疾患、糖尿病性眼合併症、糖尿病性神経障害、糖尿病性足病変、高インスリン血症、高コレステロール血症、高血糖症、高脂血症、痛風および高尿酸血症からなる群から選択される。
【0048】
[0071]本明細書で使用する用語「投与する」、「投与すること」、「投与した」および「投与」は、物質を必要とする対象へのその送達に関する。投与経路は、局所、経口、鼻腔内、非経口、腸内、直腸、静脈内、腹腔内、皮下、肺内、経皮、筋内、バッカル、舌下または眼球であり得る。いくつかの実施形態では、末梢全身性送達を使用して、静脈内、腹腔内、または皮下注射により、物質を対象に投与してもよい。
【0049】
[0072]本明細書で使用する用語「対象」は、ヒトおよび非ヒト動物の両方を含む。非ヒト動物は、すべての脊椎動物、例えば、哺乳類および非哺乳類を含む。「対象」は、飼育動物、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、家禽およびウマ、またはげっ歯動物、例えば、ラット、マウス、または非ヒト霊長類、例えば、類人猿、サル、アカゲザル、または飼い慣らした動物、例えば、イヌもしくはネコであり得る。用語「対象」は、いかなる側面においても限定的である意図はなく、任意の年齢、性別、および健康状態であり得て、例えば、男性または女性であり得て、年配者、成人、青年、子供または幼児であり得る。ヒト「対象」は、コーカサス人、アフリカ人、アジア人、ユダヤ人、または別の人種、または前記の人種的背景の混血であり得る。いくつかの実施形態では、対象がヒトまたは非ヒト霊長類である。いくつかの実施形態では、該非ヒト霊長類がアカゲザルである。いくつかの実施形態では、対象がヒトである。
【0050】
[0073]本明細書で使用する用語「有効量」は、対象の疾患、状態もしくは障害の抑制もしくは緩和により、または疾患、障害もしくは症状の発症を予防的に抑制するかもしくは防ぐことにより治療効果または予防効果を達成する医薬品の量に関する。有効量は、対象における疾患または障害の1つ以上の症状をある程度和らげる;疾患もしくは障害と関連するか、または疾患もしくは障害を引き起こす1つ以上の生理学的もしくは生化学的パラメーターを、部分的もしくは完全に正常レベルに戻す;および/または疾患もしくは障害の発症の可能性を低下させる、医薬品の量であり得る。熟練した技術を有する臨床医は、特定の疾患または障害を治療または予防するための医薬品の有効量を、投与時に特定できる。効果的であるために必要とされる、医薬品の正確な量は、多くの患者特有の考慮に加えて、多数の要素、例えば、活性物質の比活性、使用する送達装置、物質の物理的特性、投与の目的に依存する。有効量であるために投与されるべき、医薬品の量の決定は、当該分野における日常であり、熟練した技術を有する臨床医の技量の範囲内である。
【0051】
[0074]本明細書で使用する用語「アンタゴニスト」は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの発現レベルまたは活性を抑制することにより、該タンパク質、該ポリペプチドまたは該ペプチドの量、形成、機能および/または下流シグナル伝達を低下させる分子に関する。例えば、本発明の「CaMKII-δ9のアンタゴニスト」は、CaMKII-δ9の発現レベルまたは活性を抑制することにより、CaMKII-δ9の量、形成、機能および/または下流シグナル伝達を低下させる分子に関する。
【0052】
[0075]分子は、その分子が、CaMKII-δ9の発現(転写レベルもしくは翻訳レベルのいずれか一方での)レベルまたは活性の著しい低下を引き起こす場合に、CaMKII-δ9の発現レベルまたは活性を抑制すると見なされる。同じく、分子は、その分子が、CaMKII-δ9とその基質との間の結合の著しい低下を引き起こす場合に、CaMKII-δ9とその基質との間の結合を抑制すると見なされ、それは、CaMKII-δ9が介在する下流シグナル伝達および機能の著しい低下を引き起こす(例えば、ユビキチン結合酵素のリン酸化の低下)。低下が少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%であれば、その低下は著しいと見なされる。
【0053】
[0076]結合アンタゴニストは、2つのやり方で作用し得る。いくつかの実施形態では、本発明の結合アンタゴニストが、CaMKII-δ9と競合してその基質と結合し、それにより、CaMKII-δ9の、その基質への結合に干渉、ブロック、または妨害する。基質に結合するが、見込まれるシグナル伝達形質導入を誘発しないこの型のアンタゴニストは、「競合アンタゴニスト」としても知られ、例えば、リン酸化または酸化の機能を有しないCaMKII-δ9を発現するベクターを含み得る。別の実施形態では、本発明の結合アンタゴニストが、CaMKII-δ9に、十分な親和性および特異性で結合し封鎖し得て、CaMKII-δ9の、その基質への結合に実質的に干渉、ブロック、または妨害する。この型のアンタゴニストは、「中和アンタゴニスト」としても知られ、例えば、CaMKII-δ9に特異的に結合するCaMKII-δ9に対する抗体またはアプタマーを含み得る。
【0054】
[0077]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、ユビキチン結合酵素のリン酸化を阻害するアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、該ユビキチン結合酵素が、UBE2Tである。いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、UBE2TのSer110におけるリン酸化を阻害するアンタゴニストである。
【0055】
[0078]ユビキチン化は、ユビキチン・プロテアソーム系により細胞タンパク質の分解を調節し、タンパク質の半減期および発現レベルを制御する。この過程は、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)およびユビキチンリガーゼ(E3)の連続作用を含む。ユビキチン結合酵素は、タンパク質を、プロテアソームによる分解に向けて標的とするユビキチン化反応における第2のステップを行う。リン酸化は、リン酸基が、タンパク質のセリン(Ser)、スレオニン(Thr)またはチロシン(Tyr)残基に添加される、かつプロテインキナーゼ酵素により触媒される生化学反応である。例えば、CaMKII-δ9は、UBE2TをSer110においてリン酸化する。リン酸化は、通常、標的タンパク質の機能を修飾し、頻繁には活性化を引き起こす。細胞の恒常性維持機構の一部として、リン酸化は、単なる過渡的過程であり、ホスファターゼと呼ばれる別の酵素によって逆転される。したがって、タンパク質リン酸化レベルは、経時的に変化し、多数の周知のやり方で、例えば免疫学的アプローチにより評価可能である。例えば、リン酸化されたUBE2Tの量は、リン酸化UBE2Tに特異的に結合する試薬を使用した免疫アッセイにより測定される。そのような免疫アッセイは、多数の周知の形態を有し得て、制限なしに、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロットアッセイ、免疫蛍光アッセイ、酵素イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、化学発光アッセイ、免疫組織化学アッセイ、ドットブロットアッセイ、またはスロットブロットアッセイを含む。
【0056】
[0079]いくつかの実施形態では、酵素イムノアッセイが、UBE2Tと特異的に結合する捕捉抗体またはその断片、およびリン酸化UBE2Tと特異的に結合する検出抗体またはその断片を使用する、サンドイッチ酵素イムノアッセイである。そのような酵素イムノアッセイは特に有利である。なぜなら、関連キナーゼファミリーメンバーまたはアイソフォーム間でのタンパク質レベルの差異の同定は、キナーゼそれ自体の間でのおよびそれらのリン酸化型の間での比較的高い相同関係を与えるからである。
【0057】
[0080]リン酸化型および非リン酸化型の両方のUBE2Tを同定するため、ならびにCaMKII-δ9を検出するための免疫試薬は、技術分野では周知であり、標準的技術を使用して、例えば、抗CaMKII-δ9抗体、抗UBE2T抗体および/または抗ホスホUBE2T抗体(例えばモノクローナル抗体)を生成するための適切な、UBE2Tの断片での宿主動物の接種により生成できる。そのような抗CaMKII-δ9抗体、抗UBE2T抗体および/または抗ホスホUBE2T抗体試薬を、例えば細胞溶解物中でのそれぞれのタンパク質を単離および/またはその量を決定するために使用し得る。そのような試薬はさらに、臨床試験方法の一部として、例えば、阻害剤の最適用量を監視するために、細胞または組織、例えば、白血球細胞またはリンパ球中のタンパク質レベルの監視に使用することができる。検出は、検出可能物質への抗体のカップリング(例えば、物理的結合)により促進できる。検出可能物質の例は、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質および放射性物質を含む。適切な酵素の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼを含み、適切な補欠分子族複合体の例は、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンを含み、適切な蛍光物質の例は、ウンベリフェロン、フルオロセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリトリンを含み、発光物質の例は、ルミノールを含み、生物発光物質の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンを含み、適切な放射性物質の例は、125I、131I、35Sまたは3Hを含む。
【0058】
[0081]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ9の特異的アンタゴニストである。
[0082]本明細書で使用する用語「特異的アンタゴニスト」は、該アンタゴニストが、CaMKII-δ9以外の任意のペプチド、ポリペプチドまたは物質を有意に阻害しないことを意味する。いくつかの実施形態では、該特異的アンタゴニストが、CaMKII-δ9に対して、別の任意の関連するペプチドまたはポリペプチドに対するよりも少なくとも3倍、10倍、20倍、30倍、40倍、または50倍以上の阻害効果を有する。例えば、該アンタゴニストは、CaMKII-δ9に対して、CaMKII-δ2またはCaMKII-δ3に対するよりも少なくとも3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍以上の阻害効果を有する。いくつかの実施形態では、該アンタゴニストが、CaMKII-δ9のレベルまたは活性を阻害するが、CaMKII-δ2またはCaMKII-δ3のレベルまたは活性を有意に阻害しない。本明細書で使用する用語「有意に」は、統計的に有意な差異、または当業者が認識できる顕著な差異に関する。
【0059】
[0083]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ9を特異的に認識する抗体である。
[0084]本明細書で特に指定がない限り、用語「抗体」は、広く、天然型の抗体(例えば、IgG、IgA、IgM、IgE)および組換え抗体、例えば、一本鎖抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体および多重特異性抗体、ならびにその断片および誘導体が少なくとも1つの抗原結合部位を有する前記のすべての断片および誘導体を含む。抗体誘導体は、抗体に結合させたタンパク質または化学的部分を含み得る。
【0060】
[0085]本明細書で使用する用語「抗体」はさらに、抗体の「抗原結合部分」(または単に「抗体部分」)を含む。本明細書で使用する用語「抗原結合部分」は、抗原に特異的に結合する能力を維持する、抗体の1つ以上の断片に関する(例えば、バイオマーカーポリペプチドまたはその断片)。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片により行い得ることが示された。用語抗体の「抗原結合部分」の範囲内に含まれる結合断片の例は、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメインおよびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド架橋で結合された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片、(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単アームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward等,(1989) Nature 341:544-546)、ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。さらに、Fv断片の2つのドメイン、VLおよびVHは、別個の遺伝子によってコードされるが、組換え法を使用して、合成リンカーにより結合可能であり、その合成リンカーは、VLおよびVHを一本タンパク質鎖として生成させ、その中ではVL領域とVH領域とが一対になり一価ポリペプチドを形成する(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird等(1988)Science 242:423-426;およびHuston等(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883;およびOsbourn等1998,Nature Biotechnology 16:778を参照)。そのような一本鎖抗体も、用語、抗体の「抗原結合部分」の範囲内に含まれると意図される。完全IgGポリペプチドまたは別のアイソタイプをコードする発現ベクターを生成するために、特異的scFvの任意のVHおよびVLの核酸配列を、ヒト免疫グロブリン定常領域のcDNAまたはゲノム配列に結合し得る。VHおよびVLはさらに、タンパク質化学または組換えDNA技術のいずれか一方を使用して、Fab、Fvまたは免疫グロブリンの別の断片の生成において使用できる。別の型の一本鎖抗体、例えば、ダイアボディも含まれる。ダイアボディは、二価の二重特異性抗体であり、その場合、VHドメインとVLドメインとが、一本ポリペプチド鎖上で発現するが、同一鎖上の2つのドメイン間でペアリングさせるには短すぎるリンカーを使用することにより、それらのドメインに、別の鎖の相補性ドメインとの対形成を強いて、2つの抗原結合部位を創生する(例えば、Holliger,P.等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448;Poljak,R.J.等(1994)Structure 2:1121-1123を参照)。
【0061】
[0086]さらに、抗体またはその抗原結合部分は、該抗体または抗体部分の、1つ以上の別のタンパク質またはペプチドとの共有会合または非共有会合によって形成される、かなり大きい免疫接着ポリペプチドの一部であり得る。そのような免疫接着ポリペプチドの例は、四量体scFvポリペプチドを生成するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov,S.M.等(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)、ならびに二価のビオチン化scFvポリペプチドを生成するためのシステイン残基、バイオマーカーペプチドおよびC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov,S.M.等(1994)Mol.Immunol.31:1047-1058)を含む。抗体部分、例えば、Fab断片およびF(ab’)2断片は、従来の技術、例えば、それぞれ、抗体全体のパパイン消化またはペプシン消化を使用して抗体全体から調製し得る。さらに、抗体、抗体部分および免疫接着ポリペプチドは、本明細書に記載される標準的組換えDNA技術を使用して得られる。
【0062】
[0087]抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体;異種抗体、同種抗体または同系抗体;またはそれらの修飾型であり得る(例えば、ヒト化、キメラ等)。抗体はさらに、完全にヒトであり得る。いくつかの実施形態では、本発明の抗体が、CaMKII-δ9またはその断片に対して特異的にまたは実質的に特異的に結合する。
【0063】
[0088]本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」は、ある抗原の特定エピトープと免疫反応し得る、唯一の種類の抗原結合部位を含有する抗体ポリペプチドの集団に関し、用語「ポリクローナル抗体」は、特定抗体と相互作用し得る、複数種類の抗原結合部位を含有する抗体ポリペプチドの集団に関する。モノクローナル抗体は、典型的には、その抗体が免疫反応する特定抗原に対する単一の結合親和性を示す。いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体が、典型的には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、ただし、該標的結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列からの単一標的結合ポリペプチド配列の選択を含む工程によって得られる。例えば、選択工程は、複数のクローン、例えば、ハイブリドーマクローン、ファージクローンまたは組換えDNAクローンのプールからの唯一のクローンの選択であり得る。選択された標的結合配列は、例えば、標的に対する親和性を改善する、標的結合配列をヒト化する、細胞培養におけるその産生を改善する、in vivoでのその免疫原性を低下させる、多重特異性抗体を創生する等のためにさらに変更可能である、かつ変更させた標的結合配列を含む抗体も本発明のモノクローナル抗体であると理解される。目的の抗体が結合した抗原上のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするためには、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed HarlowおよびDavid Lane(1988)に記載されるようなルーチンクロスブロッキングアッセイを行い得る。
【0064】
[0089]抗体はさらに「ヒト化」されてもよく、それは、ヒト細胞に作製させた抗体に酷似するように変更させた可変領域および定常領域を有する、非ヒト細胞に作製させた抗体を含むと意図される。例えば、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に見出されるアミノ酸を組み込むために、非ヒト抗体アミノ酸配列を変更させる。本発明のヒト化抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってはコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムまたは部位特異的な変異導入によるか、またはin vivoでの体細胞変異によって導入された変異)を、例えば、CDR中に含み得る。本明細書で使用する用語「ヒト化抗体」はさらに、別の哺乳動物種、例えばマウスの生殖系列由来のCDR配列をヒトフレームワーク配列上にグラフトした抗体を含む。
【0065】
[0090]本明細書で使用する用語「特異的に認識する」は、抗体が、別のペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合(「交差反応」)しないことを意味する。いくつかの実施形態では、特異的に認識されるペプチドまたはポリペプチドに、別の任意の関連するペプチドまたはポリペプチドよりも少なくとも3倍、10倍、20倍、30倍、40倍、または50倍以上の親和性で結合する。例えば、アンタゴニストは、CaMKII-δ9に、CaMKII-δ2またはCaMKII-δ3よりも少なくとも3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍以上の親和性で特異的に結合する。いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ9の活性を阻害するが、CaMKII-δ2またはCaMKII-δ3の活性を有意に阻害しない。
【0066】
[0091]本明細書で使用する用語「阻害/抑制する(inhibit)」、「阻害/抑制する(inhibiting)」および「阻害/抑制」は、生物活性または生物過程のベースライン活性の低下に関する。「CaMKII-δ9の活性の阻害」は、本発明のアンタゴニストの不在下でのCaMKII-δ9のレベルまたは活性と比べた、本発明のアンタゴニストの存在に対する直接的または間接的な応答としてのCaMKII-δ9のレベルまたは活性の低下に関する。いくつかの実施形態では、CaMKII-δ9の活性が、当業者によって測定可能である、CaMKII-δ9の、リン酸化および/または酸化の活性を含む。
【0067】
[0092]いくつかの実施形態では、抗体が、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16によってコードされるアミノ酸配列に結合する。いくつかの実施形態では、抗体が、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13-16によってコードされるアミノ酸配列に結合する。いくつかの実施形態では、抗体が、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16-17によってコードされるアミノ酸配列に結合する。いくつかの実施形態では、抗体が、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13-16-17によってコードされるアミノ酸配列に結合する。いくつかの実施形態では、抗体が、全長CaMKII-δ9のアミノ酸配列に結合する。
【0068】
[0093]本明細書で使用する用語「アミノ酸」は、そのもっとも広い意味で、例えば、1つ以上のペプチド結合の形成によってポリペプチド鎖内に組み込まれ得る任意の化合物および/または物質に関する。いくつかの実施形態では、アミノ酸が、一般構造H2N-C(H)(R)-COOHを有する。いくつかの実施形態では、アミノ酸が天然アミノ酸である。いくつかの実施形態では、アミノ酸が合成アミノ酸であり、いくつかの実施形態では、アミノ酸がD-アミノ酸であり、いくつかの実施形態では、アミノ酸がL-アミノ酸であり、いくつかの実施形態では、アミノ酸が標準アミノ酸であり、いくつかの実施形態では、アミノ酸が非標準アミノ酸である。「標準アミノ酸」は、天然ペプチド中に一般的に見出される20個の標準L-アミノ酸のいずれかに関する。「非標準アミノ酸」は、合成的に調製されたか、または天然源から得られたかにかかわらず、標準アミノ酸以外の任意のアミノ酸に関する。いくつかの実施形態では、アミノ酸が、ポリペプチド内のカルボキシ末端および/またはアミノ末端のアミノ酸を含め、前記の一般構造と比べて、構造修飾を含有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、アミノ酸を、一般構造と比べて、メチル化、アミド化、アセチル化、および/または置換により修飾してもよい。いくつかの実施形態では、そのような修飾が、例えば、その他の点では同一の非修飾アミノ酸を含有するポリペプチドと比べて、該修飾アミノ酸を含有するポリペプチドの循環半減期を変更し得る。いくつかの実施形態では、そのような修飾が、その他の点では同一の非修飾アミノ酸を含有するポリペプチドと比べて、該修飾アミノ酸を含有するポリペプチドの関連活性を有意に変更しない。文脈から明らかであるように、いくつかの実施形態では、用語「アミノ酸」は遊離アミノ酸に関して使用し、いくつかの実施形態では、ポリペプチドのアミノ酸残基に関して使用する。アミノ酸の名称はさらに、本開示では標準的な1文字表記または3文字表記として表し、以下にまとめる。
【0069】
【0070】
[0094]本明細書で使用する用語「コードされる」または「コードする」は、mRNAへの転写能および/またはペプチドもしくはタンパク質への翻訳能を意味する。用語「コード配列」または「遺伝子」は、ペプチドまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に関する。これら2つの用語は、本発明では交換可能に使用できる。いくつかの実施形態では、コード配列が、メッセンジャーRNA(mRNA)から逆転写される相補性DNA(cDNA)配列である。いくつかの実施形態では、コード配列がmRNAである。
【0071】
[0095]いくつかの実施形態では、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16、エクソン13-16、エクソン16-17およびエクソン13-16-17、ならびに全長CaMKII-δ9の核酸配列が、配列番号6~19に記載される核酸配列のいずれか1つに対して少なくとも70%の相同性、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の相同性を有する核酸配列を含み、かつさらに配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列の1つをコードする。
【0072】
[0096]いくつかの実施形態では、CaMKII-δ9が、配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、CaMKII-δ9のコード配列が、配列番号6~19に記載される核酸配列を有する。いくつかの実施形態では、本発明が、配列番号1~5をコードする核酸配列を提供するが、それらの配列は、遺伝暗号の縮重に起因し、配列番号6~19に記載される核酸配列のいずれか1つとは異なる。
【0073】
[0097]本明細書で使用する用語「遺伝暗号の縮重」は、1つのアミノ酸が、2つ以上の対応する遺伝暗号を有する現象に関する。例えば、プロリンは、4つの同義コドン、CCU、CCC、CCAおよびCCGを有する。当該分野では、遺伝暗号の縮重ゆえ、コードされるアミノ酸配列が変わることなしに特定位置での核酸を任意の核酸配列に置換できることが周知である。遺伝暗号の縮重の置換を、例えば、塩基の部位特異的変異導入により行うことは当業者にはありふれたことである。異なる生物は、異なるコドンに対する異なる好みをもつようになった。本発明のポリペプチドを、選択した生物細胞中で発現させるためには、対応するコード配列を得るために該生物細胞の好ましいコドンを選択することができ、本発明のアミノ酸配列(例えば、配列番号1~5)が、組換え発現により得られる。
【0074】
[0098]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ9に結合する小分子化合物である。
[0099]本明細書で使用する用語「小分子化合物」は、酵素基質または生物過程のレギュレーターとして機能し得る低分子量化合物を意味する。概して、「小分子化合物」は、大きさが約5キロダルトン(kD)未満の分子である。いくつかの実施形態では、該小分子化合物が、約4kD、約3kD、約2kDまたは約1kD未満である。いくつかの実施形態では、該小分子化合物が、約800ダルトン(D)、約600D、約500D、約400D、約300D、約200Dまたは約100D未満である。いくつかの実施形態では、小分子が、約2000g/mol未満、約1500g/mol未満、約1000g/mol未満、約800g/mol未満または約500g/mol未満である。いくつかの実施形態では、小分子が非重合性である。いくつかの実施形態では、本発明に従って、小分子は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン等でない。いくつかの実施形態では、小分子が治療薬である。いくつかの実施形態では、小分子がアジュバントである。いくつかの実施形態では、小分子が薬物である。
【0075】
[00100]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ9のコード配列を標的とするRNAi(RNA干渉)分子、またはCaMKII-δ9のコード配列を標的とするアンチセンスヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、該RNAi分子が、低分子干渉RNA(siRNA)、小ヘアピンRNA(shRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である。
【0076】
[00101]本発明のRNAiは、CaMKII-δ9に対する特異性を有する1つまたは2つ以上の種類の核酸分子を含み得る。例えば、CaMKII-δ9をダウンレギュレートするために唯一の種類のsiRNAを使用し得て、CaMKII-δ9の発現レベルを調節するために2種類のsiRNA(例えば、異なる配列を有する)を組み合わせて使用し得て、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、CaMKII-δ9のレベルを低下させるためにsiRNAと組み合わせてもよい。
【0077】
[00102]本発明のRNAiは、CaMKII-δ9を様々なレベル、例えば、転写後レベル、転写前レベルまたはエピジェネティックレベルでダウンレギュレートする。非限定的な例では、本発明のRNAi分子による、遺伝子発現のエピジェネティック制御が、遺伝子発現を変える、クロマチン構造のRNAi分子介在性修飾に起因し得る(例えば、Verdel等,2004,Science,303,672-676;Pal-Bhadra等,2004,Science,303,669-672;Allshire,2002,Science,297,1818-1819;Volpe等,2002,Science,297,1833-1837;Jenuwein,2002,Science,297,2215-2218;およびHall等,2002,Science,297,2232-2237を参照)。
【0078】
[00103]本発明のRNAi分子は、二本鎖または一本鎖であり得る。RNAiが二本鎖である場合、一方の鎖はセンス鎖であり、他方はアンチセンス鎖である。アンチセンス鎖は、CaMKII-δ9のコード配列またはその部分に対して相補性であるヌクレオチド配列を含み、センス鎖は、CaMKII-δ9のコード配列またはその部分に相当するヌクレオチド配列を含む。その代わりに、RNAi分子は、単一オリゴヌクレオチドからアセンブルされ、その場合、RNAi分子の、自己相補性のセンス領域およびアンチセンス領域が、核酸ベースまたは非核酸ベースのリンカーを用いて連結される。RNAi分子は、二本鎖、非対称二本鎖、ヘアピン二次構造または非対称ヘアピン二次構造を有するポリヌクレオチドであり得る。RNAiは、2つ以上のループ構造ならびに自己相補性のセンス領域およびアンチセンス領域を含むステムを有する環状一本鎖ポリヌクレオチドであり得る。該環状ポリヌクレオチドは、活性RNAi分子を生成するためにin vivoまたはin vitroのいずれか一方でプロセスされ得る。
【0079】
[00104]いくつかの実施形態では、RNAi分子が10~100塩基を有する、例えば、長さ約10~約100塩基、約15~約90塩基、約20~約80塩基、約25~約70塩基、約30~約60塩基、約35~約50塩基を有し得る。
【0080】
[00105]低分子干渉RNA(siRNA)は、相同性を共有する遺伝子の発現を抑制するまたは低下させることができる二本鎖RNA分子である。siRNAの各鎖は、長さ約10~約100塩基、約15~約90塩基、約20~約80塩基、約25~約70塩基、約30~約60塩基、約35~約50塩基を有し得る。二本鎖siRNAは、約10~約50塩基対、約12~約45塩基対、約15~約40塩基対、約20~約35塩基対、約20~約30塩基対、または約20~約25塩基対を有し得る。
【0081】
[00106]小ヘアピンRNA(shRNA)は、RNA干渉を介して標的遺伝子発現をサイレンス化するために使用できる、緊密ヘアピンカーブを有する人工RNA分子である。いくつかの実施形態では、細胞中でのshRNAの発現が、プラスミドの送達またはウイルスベクターもしくは細菌ベクターにより達成される。shRNAは、典型的には、長さ約10~100塩基対、例えば、長さ約10~約100塩基対、約15~約90塩基対、約20~約80塩基対、約25~約70塩基対、約30~約60塩基対、または約35~約50塩基対を有する。
【0082】
[00107]マイクロRNA(miRNA)は、その標的mRNAの分解および/またはその翻訳の抑制により、転写後レベルでの遺伝子発現の制御に関与する小分子非コードRNAの類である。miRNAは、典型的には、長さ約10~100塩基、例えば、長さ約10~約100塩基、約15~約90塩基、約20~約80塩基、約25~約70塩基、約30~約60塩基、または約35~約50塩基を有する。
【0083】
[00108]本明細書で使用する用語「アンチセンスヌクレオチド」は、水素結合を介して標的核酸にハイブリダイズできるオリゴマー化合物に関する。例えば、「CaMKII-δ9のコード配列を標的とするアンチセンスヌクレオチド」は、CaMKII-δ9のコード配列またはその部分にハイブリダイズできるヌクレオチドに関する。
【0084】
[00109]いくつかの実施形態では、アンチセンスヌクレオチドが、その安定性を改善するために修飾され得る。アンチセンスヌクレオチドに対する修飾は、ヌクレオシド間結合、糖部もしくは核酸塩基への置換または変化を含む。修飾されたアンチセンスヌクレオチドは、望ましい特性、例えば、細胞取込みの高まり、核酸標的に対する親和性の高まり、ヌクレアーゼの存在下での安定性の上昇、または抑制活性の上昇により、頻繁に、天然型よりも好まれる。
【0085】
[00110]いくつかの実施形態では、RNAi分子またはアンチセンスヌクレオチドが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16に対して相補性である。いくつかの実施形態では、RNAi分子またはアンチセンスヌクレオチドが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13-16に対して相補性である。いくつかの実施形態では、RNAi分子またはアンチセンスヌクレオチドが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16-17に対して相補性である。いくつかの実施形態では、RNAi分子またはアンチセンスヌクレオチドが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13-17に対して相補性である。いくつかの実施形態では、RNAi分子またはアンチセンスヌクレオチドが、全長CaMKII-δ9のコード配列に対して相補性である。
【0086】
[00111]本明細書で使用する用語「相補性の」または「相補性」は、第1の核酸の核酸塩基と第2の核酸の核酸塩基との間の対合能に関する。いくつかの実施形態では、本明細書中で提供されるRNAi分子またはアンチセンスヌクレオチドが、標的核酸に対して少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%相補性であり、ただし、該標的核酸は、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13-16、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16-17、CaMKII-δ遺伝子のエクソン13-17、および全長CaMKII-δ9のコード配列からなる群から選択される。RNAi分子またはアンチセンスヌクレオチドの、標的核酸との相補性%は、当該分野の日常的方法を使用して決定できる。
【0087】
[00112]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ9と競合してその基質に結合する薬剤である。
[00113]本明細書で使用する用語「競合する」または「~と競合する」は、CaMKII-δ9の基質への結合についてそれと競合することにより、CaMKII-δ9の効果を部分的または完全に阻害する薬剤に関する。その基質へのCaMKII-δ9の結合の阻害は、そのような阻害なくその基質にCaMKII-δ9が結合する場合に起こる正常なレベルまたは種類の細胞シグナル伝達を低下または変化させる。阻害はさらに、本明細書に開示されるアンタゴニストと接触していないCaMKII-δ9と比べて、そのアンタゴニストの存在下、その基質に対するCaMKII-δ9の結合の、例えば、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の任意の測定可能な低下を含むと意図される。
【0088】
[00114]いくつかの実施形態では、CaMKII-δ9と競合してその基質に結合する薬剤が、リン酸化または酸化の機能を有しないCaMKII-δ9を発現するベクターである。いくつかの実施形態では、本発明のベクターが、当該分野では公知の任意の遺伝子導入ベクターであり得る。いくつかの実施形態では、本発明のベクターが、CaMKII-δ9のコード遺伝子を含む、本質的にCaMKII-δ9のコード遺伝子からなる、またはCaMKII-δ9のコード遺伝子からなる外来遺伝子を含み得る。いくつかの実施形態では、本明細書中で提供されるベクターによって発現するCaMKII-δ9が、リン酸化または酸化の機能を有しない。なぜなら、CaMKII-δ9のリン酸化または酸化の機能を担うコード遺伝子が変異、サイレンス化または欠失しているからである。いくつかの実施形態では、本明細書中で提供されるベクターによって発現するCaMKII-δ9が、リン酸化または酸化の機能を有しない。なぜなら、そのCaMKII-δ9は、翻訳後プロセシングを受けるため、そのリン酸化または酸化の機能が消失しているからである。いくつかの実施形態では、該ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、またはプラスミドである。
【0089】
[00115]AAVは、Parvoviridaeファミリーのメンバーであり、かつ約5,000ヌクレオチド未満の直鎖状一本鎖DNAゲノムを含む。AAVは、効率よい複製のために、ヘルパーウイルス(すなわちアデノウイルスもしくはヘルパーウイルス)との共感染、またはヘルパー遺伝子の発現を必要とする。治療用の核酸の投与に使用するAAVベクターは、典型的には、DNA複製およびパッケージング用の認識シグナルを含有する末端反復配列(ITR)のみが残存するように、親ゲノムの約96%が欠失している。それが、ウイルスゲノムの発現による、免疫性または毒性の副作用を排除する。さらに、特異的AAVタンパク質の、産生細胞への送達は、望ましければ、AAV ITRを含む該AAVベクターを、細胞ゲノムの特異的領域へと組み込むことを可能にする(例えば、米国特許第6342390号および米国特許第6821511号を参照)。組み込まれたAAVゲノムを含む宿主細胞は、細胞増殖または形態において変化を示さない(例えば米国特許第4797368号を参照)。
【0090】
[00116]AAVベクターは、当該分野で公知の任意のAAV血清型を使用して生成可能である。いくつかのAAV血清型および100超のAAVバリアントが、アデノウイルスストックまたはヒト組織もしくは非ヒト霊長類組織から単離された(例えばWu等,Molecular Therapy,14(3):316-327(2006)に概説)。概して、AAV血清型は、核酸配列レベルおよびアミノ酸配列レベルでの相同性が著しいゲノム配列を有するため、異なる血清型は、同一の一組の遺伝機能を有し、物理的および機能的に本質的に同等でありかつ事実上同一の機構により複製およびアセンブルするビリオンを産生する。いくつかの実施形態では、本発明のAAVが、AAV1、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9またはAAVrh10である。
【0091】
[00117]別の態様では、本発明は、対象において心損傷を緩和する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を該対象に投与する工程を含む方法を開示する。さらに別の態様では、本発明が、対象の心損傷を緩和するための医薬品の製造におけるCaMKII-δ9のアンタゴニストの使用を開示する。さらに別の態様では、本発明が、対象の心損傷の緩和に用いるCaMKII-δ9のアンタゴニストを開示する。
【0092】
[00118]本明細書で使用する用語「緩和する」、「緩和すること」または「緩和」は、例えば、特定の作用、機能または相互作用の低下、制限または妨害を含む。いくつかの実施形態では、心損傷の少なくとも1つの症状を終結、減速、予防した場合、心損傷が緩和された状態である。いくつかの実施形態では、心損傷を引き起こし得るタンパク質(例えばCaMKII-δ9)のレベルまたは活性が、基準状態と比べて低下している場合、心損傷が緩和された状態である。そのような緩和は、部分的または完全であり得る。
【0093】
[00119]別の態様では、本発明は、対象においてユビキチン結合酵素のレベルまたは活性を刺激する方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を該対象に投与する工程を含む方法を開示する。さらに別の態様では、本発明が、対象においてユビキチン結合酵素のレベルまたは活性を刺激するための医薬品の製造におけるCaMKII-δ9のアンタゴニストの使用を開示する。さらに別の態様では、本発明が、対象におけるユビキチン結合酵素のレベルまたは活性の刺激に用いるCaMKII-δ9のアンタゴニストを開示する。「ユビキチン結合酵素のレベルまたは活性」は、対象におけるユビキチン結合酵素の量、または対象におけるユビキチン結合酵素の、ユビキチン化反応中にタンパク質をプロテアソームによる分解の標的とする能力に関する。
【0094】
[00120]いくつかの実施形態では、検査生体試料中のユビキチン結合酵素のレベルまたは活性が、基準試料中のユビキチン結合酵素の基準のレベルまたは活性と比較される。本明細書で使用する用語「基準のレベルまたは活性」は、対象における物質の閾値レベルまたは閾値活性に関する。例えば、CaMKII-δ9のアンタゴニストを得た対象からの検査生体試料のユビキチン結合酵素のレベルまたは活性が、基準試料中のユビキチン結合酵素の基準のレベルまたは活性よりも高い場合、CaMKII-δ9の該アンタゴニストが、該対象におけるユビキチン結合酵素のレベルまたは活性を刺激すると見なされ得る。ユビキチン結合酵素の基準のレベルまたは活性は、1つ以上の基準試料に由来し得て、ただし、該基準のレベルまたは活性は、目的の試料を試験するための実験と並行して行った実験から得られる。その代わりに、基準のレベルまたは活性を、データのコレクション、標準、1つ以上の基準試料または疾患基準試料からのレベルまたは活性を含む参照データベースから得てもよい。いくつかの実施形態では、そのようなデータのコレクション、標準、レベルまたは活性が正規化されているため、1つ以上の試料からのデータとの比較目的に使用できることになる。「正規化する」または「正規化」とは、測定の生データを、別のそのように正規化されたデータと直接に比較し得るデータへと変換する処理である。正規化は、アッセイごとに異なり得る要素が引き起こすアッセイ固有誤差、例えば、ロード量の変動、結合効率、検出感度、および別の様々な誤差を克服するために使用する。特定の実施形態では、参照データベースが、1つ以上の基準試料からのユビキチン結合酵素の濃度および/または別の実験室データおよび臨床データを含む。いくつかの実施形態では、参照データベースが、基準試料と同一条件下に試験した、基準試料のユビキチン結合酵素のレベルまたは活性(例えば、ユビキチン結合酵素の公知の量または活性)のパーセントとして各々が正規化されている、ユビキチン結合酵素のレベルまたは活性を含む。ユビキチン結合酵素のそのように正規化したレベルまたは活性と比較するために、検査生体試料のユビキチン結合酵素のレベルまたは活性も、測定して、該検査試料と同一条件下に試験した基準試料のユビキチン結合酵素のレベルまたは活性のパーセントとして計算する。
【0095】
[00121]いかなる理論に拘束されることもないが、対象におけるユビキチン結合酵素のレベルまたは活性の上昇は、該対象にとって有益であると考えられる。いくつかの実施形態では、検査生体試料中で検出されたユビキチン結合酵素のレベルまたは活性が、ユビキチン結合酵素の基準のレベルまたは活性の少なくとも2倍である。いくつかの実施形態では、検査生体試料中で検出されたユビキチン結合酵素のレベルまたは活性が、ユビキチン結合酵素の基準のレベルまたは活性の少なくとも3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍である。
【0096】
[00122]いくつかの実施形態では、基準試料が、健常被検者からであるか、または同一対象から、検査生体試料よりも先にもしくは後に取得した試料である。
[00123]本明細書で使用する用語「健常対象」は、本発明の方法または組成物をその同定に使用する疾患、状態または障害を患ってないことが公知であるか、または患っていないと信じられている対象に関する。いくつかの実施形態では、基準試料を、本発明の方法または組成物を使用して疾患または状態が同定された同一対象の身体の健常部分から得る。いくつかの実施形態では、検査生体試料が、対象の心臓からである。いくつかの実施形態では、対象がヒトまたは非ヒト霊長類である。
【0097】
[00124]別の態様では、本発明は、対象においてユビキチン結合酵素の分解を防ぐ方法であって、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量を該対象に投与する工程を含む方法を開示する。さらに別の態様では、本発明が、対象においてユビキチン結合酵素の分解を防ぐための医薬品の製造におけるCaMKII-δ9のアンタゴニストの使用を開示する。さらに別の態様では、本発明が、対象におけるユビキチン結合酵素の分解の防止に用いるCaMKII-δ9のアンタゴニストを開示する。
【0098】
[00125]本明細書で使用する「ユビキチン結合酵素の分解」は、検査生体試料中のユビキチン結合酵素のレベルまたは活性が、基準試料中のユビキチン結合酵素の基準のレベルまたは活性と比べて低下していることに関する。いかなる理論に拘束されることもないが、対象におけるユビキチン結合酵素の分解は、該対象にとって有害であると考えられる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるCaMKII-δ9のアンタゴニストが、例えば、検査生体試料中のユビキチン結合酵素の量または活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の分解を防止できる。
【0099】
[00126]別の態様では、本発明は、試料中での心筋細胞死を防ぐ方法であって、該試料を、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量と接触させる工程を含む方法を開示する。さらに別の態様では、本発明が、試料中での心筋細胞死を防ぐための医薬品の製造におけるCaMKII-δ9のアンタゴニストの使用を開示する。さらに別の態様では、本発明が、試料中での心筋細胞死の防止に用いるCaMKII-δ9のアンタゴニストを開示する。いくつかの実施形態では、本明細書中で提供される方法または使用が、例えば、検査試料中の心筋細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の死を防ぐことができる。
【0100】
[00127]別の態様では、本発明が、細胞中でのDNA損傷を軽減する方法であって、該細胞を、CaMKII-δ9のアンタゴニストの有効量と接触させる工程を含む方法を開示する。さらに別の態様では、本発明が、細胞中でのDNA損傷を軽減させるための医薬品の製造におけるCaMKII-δ9のアンタゴニストの使用を開示する。さらに別の態様では、本発明が、細胞中でDNA損傷の軽減に用いるCaMKII-δ9のアンタゴニストを開示する。本明細書で使用する用語「DNA損傷」は、DNAの化学構造の変化、例えば、DNAの鎖中の切断、DNAの骨格からの塩基欠落、または化学的に変化した塩基に関する。
【0101】
[00128]細胞は、DNA損傷を引き起こし得る要素、例えば、細胞内活性種および環境要因に絶えず曝される。DNA損傷の潜在的な変異結果は、概して3つの型、つまり塩基除去修復(BER)、ミスマッチ修復(MMR)およびヌクレオチド除去修復(NER)に特徴づけられるDNA修復経路によって最小限に抑えられる(Wood等,Science,291:1284-1289(2001))。いくつかの実施形態では、本発明のアンタゴニストが、例えば、細胞内のCaMKII-δ9のレベルおよび/または活性を抑制することによってDNA修復経路を活性化し得る。
【0102】
[00129]別の態様では、本発明が、対象においてCaMKII介在性疾患を診断するための方法であって、(a)該対象の検査生体試料を取得する工程;(b)該検査生体試料中のCaMKII-δ9のレベルまたは活性を検出する工程であって、該対象の該検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の該レベルまたは活性が、該対象がCaMKII介在性疾患を発症しているかまたは発症する可能性が増加していることを示す、工程を含む方法を開示する。
【0103】
[00130]さらに別の態様では、本発明が、対象のCaMKII介在性疾患を診断するための医薬品の製造における薬剤の使用であって、該診断が、(a)該対象の検査生体試料を取得する工程;(b)該検査生体試料中のCaMKII-δ9のレベルまたは活性を検出する工程であって、該対象の該検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の該レベルまたは活性が、該対象がCaMKII介在性疾患を発症しているかまたは発症する可能性が増加していることを示す、工程を含む使用を開示する。
【0104】
[00131]さらに別の態様では、本発明が、対象のCaMKII介在性疾患の診断に用いる薬剤を開示し、該診断は、(a)該対象の検査生体試料を取得する工程;(b)該検査生体試料中のCaMKII-δ9のレベルまたは活性を検出する工程であって、該対象の該検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の該レベルまたは活性が、該対象がCaMKII介在性疾患を発症しているかまたは発症する可能性が増加していることを示す、工程を含む。
【0105】
[00132]本明細書で使用する用語「診断」または「診断する」は、病理学的状態、疾患または状態の同定、例えば、CaMKII介在性疾患の同定に関するか、または特定の治療計画から恩恵を受け得る、CaMKII介在性疾患を患う対象の同定に関する。いくつかの実施形態では、診断が、CaMKII-δ9の異常なレベルまたは活性の同定を含有する。いくつかの実施形態では、診断が、対象における心疾患または代謝性疾患の同定に関する。
【0106】
[00133]本明細書で使用する用語「生体試料」は、例えば、物理特性、生化学特性、化学特性および/または生理特性に基づいて特徴づけられるおよび/または同定されるべき細胞実体および/または別の分子実体を含有する、目的の対象から得た、または目的の被検者に由来する生物学的組成物に関する。生体試料は、当業者には公知の任意の方法によって取得される対象の細胞、組織、臓器、および/または生物学的流体を含むがそれらに限定されない。いくつかの実施形態では、該生体試料が流体試料である。いくつかの実施形態では、該流体試料が、全血、血漿、血清、粘液(鼻漏および痰を含む)、腹腔液、胸水、胸液、唾液、尿、滑液、脳脊髄液(CSF)、胸腔穿刺液、腹水液、腹水または心嚢液である。いくつかの実施形態では、該生体試料が、該対象の心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、皮膚または血管から得た組織または細胞である。いくつかの実施形態では、該生体試料を、該対象の心臓から取得する。
【0107】
[00134]本発明に従って、検査生体試料中の目的のペプチド(例えば、ユビキチン結合酵素、CaMKII-δ9等)のレベルまたは活性の検出は、試料中のペプチドのレベルまたは活性を決定するための任意の適切な手段により達成できる。いくつかの実施形態では、検出方法が、様々なサンドイッチ、競合または別のアッセイフォーマットにおいて標識分子を利用し得る免疫アッセイの装置および方法を含む。該アッセイは、目的のペプチドの存在または不在を示唆するシグナルを発現する。さらに、そのシグナル強度は、試料中に存在する目的のペプチドの量と直接的または間接的(例えば反比例)に相関し得る。さらなる適切な方法は、目的のペプチドに特異的な物理特性または化学特性、例えば、その正確な分子量またはNMRスペクトルの測定を含む。適切な検出方法はさらに、バイオセンサ、免疫アッセイと連結した光学装置、バイオチップ、分析装置、例えば、質量分析計、NMR分析装置またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、適切な検出方法は、マイクロプレートELISAベース法、完全自動式またはロボット式の免疫アッセイ(例えばELECSYS分析装置で利用可能)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイ、例えばRoche-日立アナライザで利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-日立アナライザで利用可能)を含み得る。いくつかの実施形態では、目的のペプチドのレベルまたは活性は、試料中のペプチドから得られる比強度シグナルの測定により検出される。前記のように、そのようなシグナルは、目的のペプチドに特異的な質量スペクトルまたはNMRスペクトルにおいて観察される、目的のペプチドに特異的なm/z(質量電荷比)変数で観察されるシグナル強度であり得る。
【0108】
[00135]いくつかの実施形態では、検査生体試料中のCaMKII-δ9のレベルまたは活性は、CaMKII-δ9に特異的に結合する試薬と試料を接触させることにより検出される。該試薬は、強度シグナルを生成する。本発明による結合は、共有結合および非共有結合の両方を含む。本発明によりCaMKII-δ9に結合する試薬は、本明細書に記載されるCaMKII-δ9に結合する任意の化合物、例えば、ペプチド、ポリペプチド、核酸または小分子であり得る。いくつかの実施形態では、該試薬が、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチド、例えば、該ペプチドに対する結合ドメインを含有する、該ペプチドまたはその断片に対する受容体または結合相手、およびアプタマー、例えば、核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーを含む。そのような試薬を調製するための方法は、当該分野では周知である。例えば、適切な抗体またはアプタマーの同定および産生は同じく、市販供給者によって提供される。当業者は、より高い親和性または特異性を有する、そのような試薬の誘導体を開発する方法に精通している。例えば、核酸、ペプチドまたはポリペプチドにランダム変異を導入し得る。次いでそれらの誘導体は、当該分野では公知のスクリーニング法、例えばファージディスプレイにより、結合に関して試験し得る。
【0109】
[00136]いくつかの実施形態では、非特異的結合は、例えば、ウエスタンブロット上でのそのサイズにより、または試料中でのその比較的多い存在量により、なおも明解に区別および測定可能であれば許容され得る。試薬の結合は、当該分野では公知の任意の方法により測定可能である。いくつかの実施形態では、該方法が、半定量的または定量的である。適切な方法は、以下を含む。(1)試薬の結合を、例えば、NMRまたは表面プラズモン共鳴により直接に測定し得る;(2)該試薬がさらに、目的のペプチドの酵素活性の基質として利用される場合、酵素反応生成物を測定し得る(例えば、切断された基質の量を、例えばウエスタンブロット上で測定することにより、プロテアーゼの量を測定できる)。その代わりに、該試薬は、それ自体酵素特性を示し得て、ペプチドが結合した該試薬を、適切な基質と接触させて、強度シグナルの生成による検出を可能にする。いくつかの実施形態では、酵素反応生成物の測定に関して、基質の量が飽和する。該基質をさらに、反応前に、検出可能標識で標識してもよい。いくつかの実施形態では、試料を、適切な期間にわたり基質と接触させる。適切な期間は、生成物の検出可能または測定可能な量を生じさせるために必要な時間に関する。生成物の量を測定する代わりに、任意の(例えば検出可能な)量の生成物の出現に必要な時間を測定してもよい;(3)試薬の検出および測定を可能にする標識に、試薬を共有結合または非共有結合してもよい。ラベリングは、直接法または間接法によって行い得る。直接ラベリングは、試薬への標識の直接的(共有結合的または非共有結合的)なカップリングを含む。間接ラベリングは、一次試薬への二次試薬の結合(共有結合的または非共有結合的)を含む。該二次試薬は、該一次試薬に特異的に結合すべきである。該二次試薬は、適切な標識と結合していてもよい、および/または該二次試薬に結合する三次試薬の標的(受容体)であり得る。二次試薬、三次試薬、しかもさらに高次の試薬の使用は、頻繁にはシグナル強度を高めるためである。適切な二次試薬および高次試薬は、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含み得る。試薬または基質はさらに、当該分野では公知の1つ以上のタグによる「タグ付き」であってもよい。そのようなタグが、次いで高次試薬の標的であり得る。適切なタグは、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、インフルエンザAウイルス、ヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質等を含む。ペプチドまたはポリペプチドの場合、該タグは、N末端および/またはC末端にある。
【0110】
[00137]いくつかの実施形態では、CaMKII-δ9に特異的に結合する試薬が、抗体または抗体断片である。いくつかの実施形態では、該抗体が、モノクローナル抗体である。
【0111】
[00138]いくつかの実施形態では、検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9のレベルまたは活性が、基準試料中で検出されたCaMKII-δ9の基準のレベルまたは活性と比較される。
【0112】
[00139]本明細書で使用する用語「比較する」は、分析対象の検査生体試料に含まれる標的タンパク質(例えば、ユビキチン結合酵素、CaMKII-δ9等)のレベルまたは活性の、適切な基準試料のレベルまたは活性との比較に関する。本明細書で使用する用語は、対応するパラメーターまたは値の比較に関すると理解され、例えば、絶対量は絶対基準量と比較され、濃度は基準濃度と比較される、または検査試料から得られた強度シグナルは、基準試料の同類の強度シグナルと比較される。該比較は、手動またはコンピュータ支援で行ってもよい。コンピュータ支援の比較では、決定した量の値を、データベースに保存された、適切な基準に対応する値とコンピュータプログラムにより比較してもよい。該コンピュータプログラムがさらに、比較の結果を評価して、適切な出力フォーマットでの望ましい評価を自動的に提供してもよい。検出されたCaMKII-δ9のレベルまたは活性の、適切な基準レベルに対する比較に基づいて、該対象におけるCaMKII介在性疾患の診断が可能である。
【0113】
[00140]いくつかの実施形態では、検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9の、CaMKII-δ9の基準のレベルまたは活性よりも高いレベルまたは活性が、対象がCaMKII介在性疾患を発症しているかまたは発症する可能性が増加していることを示す。好ましくは、検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9のレベルまたは活性が、CaMKII-δ9の基準のレベルまたは活性の少なくとも2倍である。さらに好ましくは、検査生体試料中で検出されたCaMKII-δ9のレベルまたは活性が、CaMKII-δ9の基準のレベルまたは活性の少なくとも3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍である。
【0114】
[00141]本明細書で使用する用語「可能性が増加している」は、対象がCaMKII介在性疾患を発症する可能性のレベルの、基準試料が由来する対象と比べて5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、1倍、2倍、3倍、5倍、8倍、10倍、20倍、50倍以上の全体的増加に関する。
【0115】
[00142]いくつかの実施形態では、基準試料が、健常対象からであるか、または同一対象から、検査生体試料よりも先にもしくは後に取得した試料である。
[00143]さらに別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9を特異的に認識する抗体または抗体断片を含む、対象においてCaMKII介在性疾患を診断するためのキットを開示する。いくつかの実施形態では、該抗体または抗体断片が、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16によってコードされるアミノ酸配列に特異的に結合する。該キットは、試料中のCaMKII-δ9の含有量または活性を検出するために適切な任意の手段を使用し得る。
【0116】
[00144]いくつかの実施形態では、キットがさらに、本出願中で定義される対象におけるCaMKII介在性疾患の診断に関して、任意の測定の結果を解釈するためのユーザマニュアルを含有し得る。特に、そのようなマニュアルは、どの決定したレベルがどのような診断に対応するかについての情報を含み得る。さらに、そのようなユーザマニュアルは、CaMKII-δ9のレベルを検出するためのキットの成分の正確な使用に関する説明書を提供し得る。いくつかの実施形態では、キットの検出用手段および取扱説明書が、単一コンテナ内に提供される。
【0117】
[00145]一態様では、本発明が、CaMKII-δ9の活性を阻害する分子を同定するための方法であって、該分子を、(i)CaMKII-δ9および(ii)UBE2Tを含む試料と接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9を阻害する分子を同定する、方法を開示する。
【0118】
[00146]別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9のリン酸化能を阻害する分子を同定するための方法であって、該分子を、(i)CaMKII-δ9および(ii)UBE2Tを含む試料と接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII-δ9のリン酸化能を阻害する分子を同定する、方法を開示する。
【0119】
[00147]さらに別の態様では、本発明が、CaMKII介在性疾患を治療または予防する分子を同定するための方法であって、該分子を、(i)CaMKII-δ9および(ii)UBE2Tを含む試料と接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、CaMKII介在性疾患を治療または予防する分子を同定する、方法を開示する。
【0120】
[00148]さらに別の態様では、本発明が、心損傷を緩和する分子を同定するための方法であって、該分子を、(i)CaMKII-δ9および(ii)UBE2Tを含む試料と接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、心損傷を緩和する分子を同定する、方法を開示する。
【0121】
[00149]さらに別の態様では、本発明が、心筋細胞死を防ぐ分子を同定するための方法であって、該分子を、(i)CaMKII-δ9および(ii)UBE2Tを含む試料と接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、心筋細胞死を防ぐ分子を同定する、方法を開示する。
【0122】
[00150]さらに別の態様では、本発明が、DNA損傷を軽減する分子を同定するための方法であって、該分子を、(i)CaMKII-δ9および(ii)UBE2Tを含む試料と接触させる工程、ならびにUBE2Tのリン酸化が阻害されるかどうかを決定する工程を含み、UBE2Tのリン酸化の阻害が、DNA損傷を軽減する分子を同定する、方法を開示する。
【0123】
[00151]これらの方法はさらに、本明細書では薬物スクリーニングアッセイと称され、典型的には、CaMKII-δ9と相互作用する(例えば結合する)能力、CaMKII-δ9によるUBE2Tのリン酸化を調節する能力、および/またはUBE2Tのリン酸化可能残基の、CaMKII-δ9介在性細胞内シグナル伝達標的との相互作用を調節する能力に関する候補/試験分子をスクリーニングする工程を含む。
【0124】
[00152]いくつかの実施形態では、本方法がさらに、該分子が、該CaMKII-δ9に直接に結合するかどうかを決定する工程を含む。
[00153]いくつかの実施形態では、試料中のリン酸化UBE2Tの量を対照と比較することにより、UBE2Tのリン酸化の阻害を決定する。いくつかの実施形態では、該対照が、分子の不在下または試料を分子と接触させた後の早期の時点でのリン酸化UBE2Tの量に対する、試料中のリン酸化UBE2Tの量である。いくつかの実施形態では、試料中のUBE2Tのリン酸化の量の、UBE2Tの総量に対する比率を対照と比較することにより、UBE2Tのリン酸化の阻害を決定する。いくつかの実施形態では、該対照が、分子の不在下または試料を分子と接触させた後の早期の時点でのリン酸化UBE2Tの量の比率に対する、試料中のリン酸化UBE2Tの量の比率である。
【0125】
[00154]いくつかの実施形態では、試料が、in vitro試料、ex vivo試料およびin vivo試料からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、試料が、細胞(例えば心細胞)を含む。いくつかの実施形態では、細胞を患者から取得する。いくつかの実施形態では、試料が、組織、全血、血清、血漿、バッカル掻爬、唾液、脳脊髄液、尿、大便および骨髄からなる群から選択される。
【0126】
[00155]いくつかの実施形態では、薬物スクリーニングアッセイで使用する候補/試験分子が、小分子化合物または抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態では、候補/試験分子が、リン酸化UBE2Tの量を、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%低下させる。
【0127】
[00156]同定対象である本発明の候補/試験分子は、少なくとも部分的には、生物学的ライブラリー、空間的にアドレス可能なパラレル固相または液相ライブラリー、逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法、「1-ビーズ-1-化合物」ライブラリー法、およびアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法を含む、当該分野では公知の組合せライブラリー法における多数の手法のいずれかを使用して得られる。生物学的ライブラリー法は、ペプチドライブラリーに限定されるが、別の4つの手法は、ペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または化合物の小分子ライブラリーに適用できる(Lam,K.S.(1997)Anticancer Drug Des.12:145)。
【0128】
[00157]分子ライブラリーを合成するための方法の例は、当該分野では、例えば、DeWitt等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909;Erb等(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422;Zuckermann等(1994)J.Med.Chem.37:2678;Cho等(1993)Science 261:1303;Carrell等(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059;Carell等(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061;およびGallop等(1994)J.Med.Chem.37:1233に見出され得る。
【0129】
[00158]化合物のライブラリーは、溶液中(例えばHoughten(1992)Biotechniques 13:412-421)、またはビーズ上(Lam(1991)Nature 354:82-84)、チップ(Fodor(1993)Nature 364:555-556)、細菌(Ladner 米国特許第5233409号)、胞子(Ladner 米国特許第5233409号)、プラスミド(Cull等(1992)Proc Natl Acad Sci USA 89:1865-1869)またはファージ上(ScottとSmith(1990)Science 249:386-390);(Devlin(1990)Science 249:404-406);(Cwirla等(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.87:6378-6382);(Felici(1991)J.Mol.Biol.222:301-310);(Ladner前記))に提示してもよい。
【0130】
[00159]いくつかの実施形態では、UBE2Tのリン酸化は、任意の位置のセリン(Ser)、スレオニン(Thr)またはチロシン(Tyr)においてである。いくつかの実施形態では、UBE2Tのリン酸化は、Ser5、Ser81、Ser82、Ser101、Ser110、Ser129、Ser130、Ser165、Ser166、Ser172、Ser174、Ser176、Ser177、Ser193またはSer204においてである。いくつかの実施形態では、UBE2Tのリン酸化は、Ser110においてである。いくつかの実施形態では、UBE2Tのリン酸化は、Thr23、Thr44、Thr52、Thr72、Thr106、Thr109、Thr144、Thr177またはThr178においてである。いくつかの実施形態では、UBE2Tのリン酸化は、Tyr46、Tyr61、Tyr74またはTyr134においてである。本明細書で言及されるアミノ酸の位置は、例えば、ヒト、マウスおよびラットの野生型UBE2Tのセリン、スレオニンおよびチロシンの位置に関する。
【0131】
[00160]一態様では、本発明が、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、配列番号2に記載されるアミノ酸配列、配列番号3に記載されるアミノ酸配列、配列番号4に記載されるアミノ酸配列、配列番号5に記載されるアミノ酸配列、または配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む単離CaMKII-δポリペプチドを開示する。いくつかの実施形態では、該単離CaMKII-δポリペプチドが、全長天然ポリペプチドではない。いくつかの実施形態では、該単離CaMKII-δポリペプチドの長さが、14アミノ酸、27アミノ酸、30アミノ酸、43アミノ酸または513アミノ酸である。
【0132】
[00161]いくつかの実施形態では、本発明が、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、配列番号2に記載されるアミノ酸配列、配列番号3に記載されるアミノ酸配列、配列番号4に記載されるアミノ酸配列、配列番号5に記載されるアミノ酸配列、または配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を有する単離CaMKII-δポリペプチドを開示する。
【0133】
[00162]本明細書で使用する用語「単離した」は、物質(例えば、ポリペプチドまたは核酸)が自然界で通常存在する環境から分離されているか、または自然界で通常見出される環境とは異なる環境にあることに関する。
【0134】
[00163]本明細書で使用する「配列相同性」パーセント(%)は、アミノ酸配列に関しては、候補配列と参照配列とをアライメントし、必要であればギャップを導入して同一アミノ酸数の最大値を達成した後の、2つのアミノ酸配列間の同一性の百分率に関し、ヌクレオチド配列に関しては、候補配列と参照配列とをアライメントし、必要であればギャップを導入して同一ヌクレオチド数の最大値を達成した後の、2つのヌクレオチド配列間の同一性の百分率に関する。
【0135】
[00164]相同性の百分率は、当該分野では周知の様々な方法により決定できる。例えば、配列の比較は、以下の一般に利用可能なツール、つまりBLASTpソフトウェア(National Center for Biotechnology Information (NCBI)のウェブサイトhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiから利用可能、Altschul SF等,J.Mol.Biol.,215:403-410(1990);Stephen F.等,Nucleic Acids Res.,25:3389-3402(1997)も参照)、ClustalW2(European Bioinformatics Instituteのウェブサイトhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/から利用可能、Higgins DG等,Methods in Enzymology,266:383-402(1996);Larkin MA等,Bioinformatics(Oxford,England),23(21):2947-8(2007)を参照)およびTCoffee(Swiss Institute of Bioinformaticsのウェブサイトから利用可能、Poirot O.等,Nucleic Acids Res.,31(13):3503-6(2003);Notredame C.等,J.Mol.Boil.,302(1):205-17(2000)も参照)により達成可能である。ソフトウェアを使用して配列のアライメントを行う場合、ソフトウェアにおいて利用可能なデフォルトパラメーターを使用してもよく、またはアライメント目的に適するように、パラメーターをカスタマイズしてもよい。これらのすべては、当業者の知識の範囲内である。
【0136】
[00165]アミノ酸残基の保存的置換は、類似の特性を有するアミノ酸間の置換、例えば、極性アミノ酸間の置換(例えば、グルタミンとアスパラギンとの間の置換)、疎水性アミノ酸間の置換(例えば、アルギニン、イソロイシン、メチオニンおよびバリン間の置換)、ならびに同じ電荷を有するアミノ酸間の置換(例えば、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間の置換、またはグルタミンとアスパラギン酸塩との間の置換)等に関する。
【0137】
[00166]別の態様では、本発明が、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、配列番号2に記載されるアミノ酸配列、配列番号3に記載されるアミノ酸配列、配列番号4に記載されるアミノ酸配列、配列番号5に記載されるアミノ酸配列、または配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むCaMKII-δポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離CaMKII-δ核酸を開示する。
【0138】
[00167]本明細書で使用する用語「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、またはリボヌクレオシド-デオキシリボ核酸の混合物、例えばDNA-RNAハイブリッドに関する。該核酸またはポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖のDNA、RNA、またはDNA-RNAハイブリッドであり得る。核酸またはポリヌクレオチドは、直鎖または環状であり得る。
【0139】
[00168]いくつかの実施形態では、CaMKII-δ核酸が、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号6~19に対する少なくとも80%の相同性を有する核酸配列からなる群から選択される核酸配列の1つを含む。
【0140】
[00169]いくつかの実施形態では、本明細書中で提供される単離CaMKII-δ核酸が、配列番号6~19に記載される核酸配列のいずれか1つに対して少なくとも70%の相同性、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の相同性を有する核酸配列を含み、かつさらに配列番号1に記載されるアミノ酸配列、配列番号2に記載されるアミノ酸配列、配列番号3に記載されるアミノ酸配列、配列番号4に記載されるアミノ酸配列、配列番号5に記載されるアミノ酸配列、または配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むCaMKII-δポリペプチドをコードする。
【0141】
[00170]いくつかの実施形態では、本発明が、配列番号1に記載されるアミノ酸配列、配列番号2に記載されるアミノ酸配列、配列番号3に記載されるアミノ酸配列、配列番号4に記載されるアミノ酸配列、配列番号5に記載されるアミノ酸配列、または配列番号1~5に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むCaMKII-δポリペプチドをコードするCaMKII-δ核酸配列を提供するがそれらの配列は、遺伝暗号の縮重に起因し、配列番号6~19に記載される核酸配列のいずれか1つとは異なる。
【0142】
[00171]別の態様では、本発明が、CaMKII-δ9の活性を阻害できるCaMKIIアンタゴニストを開示する。
[00172]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ9によるユビキチン結合酵素のリン酸化を阻害するアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、該ユビキチン結合酵素がUBE2Tである。いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、UBE2TのSer110におけるリン酸化を阻害するアンタゴニストである。
【0143】
[00173]いくつかの実施形態では、アンタゴニストが、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16によりコードされるアミノ酸配列に結合する抗体、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16を標的とするRNAi分子、CaMKII-δ遺伝子のエクソン16を標的とするアンチセンスヌクレオチドである。
【0144】
[00174]別の態様では、本発明が、本発明に開示されるCaMKII-δ9の活性を阻害できるアンタゴニストを含む医薬組成物を開示する。
[00175]いくつかの実施形態では、医薬組成物がさらに、薬学上許容される担体を含む。
【0145】
[00176]本明細書で使用する表現「薬学上許容される」は、健全な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび動物の組織との接触に用いるために適切である、過剰の毒性、炎症、アレルギー応答または別の問題もしくは合併症を伴わない、妥当な利益/リスク比に応じた化合物、材料、組成物、および/または剤形に関する。いくつかの実施形態では、薬学上許容される化合物、材料、組成物、および/または剤形は、動物、特にヒトでの使用向けに、監督機関(例えば、米国食品医薬品局、中国食品医薬品局または欧州医薬品庁)によって認可されたか、または一般的に承認された薬局方(例えば、米国薬局方、中国薬局方または欧州薬局方)に列挙されているようなものに関する。
【0146】
[00177]本発明の医薬組成物に用いる薬学上許容される担体は、例えば、薬学上許容される液体、ゲル、または固体担体、水性媒介物(例えば、塩化ナトリウム注、リンゲル注射液、等張ブドウ糖注、滅菌水注、ブドウ糖乳酸リンゲル注射液(Ringer’s injection of glucose and lactate))、非水性媒介物(例えば、植物由来固定油、綿実油、コーン油、ゴマ油もしくは落花生油)、抗菌剤、等張剤(例えば、塩化ナトリウムもしくは右旋糖)、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液)、抗酸化剤(例えば硫酸水素ナトリウム)、麻酔剤(例えば塩酸プロカイン)、懸濁化剤/分散剤(dispending agents)(例えば、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、もしくポリビニルピロリドン)、キレート剤(例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)もしくはEGTA(エチレングリコール四酢酸))、乳化剤(例えばポリソルベート80(TWEEN(登録商標)-80))、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または非毒性補助剤、当該分野では公知の別の成分、またはそれらの様々な組合せを含み得るが、それらに限定されない。適切な成分は、例えば、充填剤、バインダ、崩壊剤、緩衝液、保存剤、滑剤、香味料、増粘剤、着色剤または乳化剤を含み得る。
【0147】
[00178]いくつかの実施形態では、医薬組成物が、経口製剤である。該経口製剤は、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、トローチ剤(味のある基材の場合、通常はスクロースおよびアカシアもしくはトラガント)、散剤、顆粒剤、または水性もしくは非水性の液剤もしくは懸濁剤、または油中水型乳剤もしくは水中油型乳剤、またはエリキシル剤、またはシロップ剤、または製菓トローチ剤(confectionery lozenge)(不活性塩基用、例えば、ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースまたはアカシア)および/またはうがい薬およびその類似物を含むが、それらに限定されない。
【0148】
[00179]いくつかの実施形態では、経口固形剤(例えば、カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒剤等)が、活性物質および1つ以上の薬学上許容される担体、例えば、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウム、ならびに/または以下:(1)充填剤もしくは増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトールおよび/もしくはケイ酸;(2)バインダ、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/もしくはアカシア;(3)湿潤剤、例えばグリセロール;(4)切断剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプン、タピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム;(5)遅延剤液(retarder solution)、例えばパラフィン;(6)吸収促進剤(accelerating absorber)、例えば第四級アンモニウム化合物;(7)滑剤、例えば、アセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロール;(8)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイト;(9)滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物;(10)着色剤を含む。
【0149】
[00180]いくつかの実施形態では、経口液剤が、薬学上許容される乳剤、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。活性物質に加えて、液体剤形はさらに、従来の不活性希釈剤、例えば、水または別の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えば、エタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、ベンゼン(メタ)アクリレート、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ピーナッツ油、コーン油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビトール脂肪酸エステル、およびそれらの混合物を含有し得る。不活性希釈剤の他に、経口組成物はさらに、アジュバント、例えば、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、甘味料、香味料、着色剤、香味剤および保存剤を含有してもよい。
【0150】
[00181]いくつかの実施形態では、医薬組成物が、無菌水性の溶液、分散液、懸濁液または乳剤を含む注射剤であり得る。いずれの場合も、注射剤は、無菌であり、かつ注射を容易にする液体である。医薬組成物は、製造および貯蔵の条件下に安定であり、かつ微生物(例えば、細菌および真菌)の感染に対して抵抗性である。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)、ならびに適切な混合物、ならびに/またはそれらの植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。注射剤は、様々なやり方で、例えば、レシチンのようなコーティングを使用して、界面活性剤等を使用して維持され得る適切な流動性を維持するべきである。抗菌性汚染は、様々な抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等)の添加により生じ得る。
【0151】
[00182]いくつかの実施形態では、医薬組成物が、経口スプレー製剤または鼻腔スプレー製剤である。そのようなスプレー製剤は、水性エアロゾル、非水性懸濁剤、リポソーム製剤、または固体粒子製剤等を含むが、それらに限定されない。水性エアロゾルは、薬剤の水性溶液または水性懸濁液を、従来の薬学上許容される担体および安定剤と合体させることにより調合する。該担体および安定剤は、特定の化合物の必要性に応じて異なり得るが、概して、非イオン性界面活性剤(Tween(登録商標)もしくはポリエチレングリコール)、オレイン酸、レシチン、アミノ酸、例えば、グリシン、緩衝液、塩、糖、または糖アルコールを含む。エアロゾルは、通常、等張溶液から調製され、ネブライザによって送達され得る。
【0152】
[00183]いくつかの実施形態では、医薬組成物を、1つ以上の別の薬物と組み合わせて使用してもよい。いくつかの実施形態では、組成物が、少なくとも1つの別の薬物を含む。いくつかの実施形態では、該別の薬物が、心臓血管薬、腎疾患治療用の薬物、細胞膜修復用の薬物等である。
【0153】
[00184]いくつかの実施形態では、医薬組成物を、経口経路、注射経路(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、心内注射、くも膜下注射、胸腔内注射、腹腔内注射等)、粘膜経路(例えば、鼻腔内投与、経口投与等)、舌下経路、直腸経路、経皮経路、眼内経路、経肺経路を含むがそれらに限定されない適切な経路により、対象に送達してもよい。いくつかの実施形態では、医薬組成物を、注射経路で投与し得る。
【実施例】
【0154】
実施形態
[00185]すべての実施例で使用した生物材料、様々なクローン、および発現プラスミド、培地、酵素、緩衝液、および様々な培養方法、タンパク質抽出・精製方法、および別の分子生物学的な操作方法はすべて、当業者には周知である。さらなる詳細については、Sambrook等編(Cold Spring Harbor,1989)の「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」および「Short Protocols in Molecular Biology」(Frederick M.Ausubel等,Yan Ziying等による翻訳,Science Press(Beijing),1998)を参照のこと。
【0155】
[00186]一般的な方法および材料
[00187]1.1 動物
[00188]動物は、北京大学(北京、中国)の実験動物センター(実験動物ケア評価認証協会認定の実験動物施設)で飼育した。動物は、実験群へとランダムに割り当てた。オスのみを使用した。我々の研究では、非含有パラメーターまたは除外パラメーターは使用しなかった。調査者は、治療に対して盲検化されなかったが、主観的評価は行わなかった。実験動物(マウス、ラットおよびアカゲザル)を含むすべての方法は、北京大学の動物実験委員会によって承認され、かつ実験動物の管理と使用に関する指針に準拠したプロトコールに従った。
【0156】
[00189]成体C57BL/6マウスおよびSprague-Dawleyラットは、Vital River Laboratories(北京、中国)によった。アカゲザルは、以前に報告した自組織内コホートによった(Zhang,X.等,Circulation 124,77-86,doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.110.990333(2011))。動物は、ペントバルビタールナトリウムの過剰用量の静脈内注射により安楽死させ、タンパク質および全RNAの抽出に向けて、組織を液体窒素中で素早く凍結した。
【0157】
[00190]1.2 動物の外科手術および処理
[00191]横大動脈狭窄(TAC)は、6週齢の雄性マウスで行った。挿管による3%イソフルランでマウスを麻酔し、開胸し、大動脈弓を視覚化し、7-0絹縫合糸を、弓の下方で無名動脈と左総頸動脈との間に通した。大動脈と28ゲージ針の両方の周囲に縫合糸を固定し、針を除去し、閉胸し、マウスを抜管した。偽手術マウスには、大動脈の結紮を除くと、同じ手順を行った。マウスには、回復期間中、腹腔内注射により、ブプレノルフィンを与えた。
【0158】
[00192]1.3 SMRTシーケンシング用のライブラリー調製、シーケンシング、およびデータ収集
[00193]RNeasy線維組織ミニキット(Qiagen、カタログ番号:74704)を使用して、正常なマウス、ラットおよびアカゲザルの左室から全RNAを調製した。正常成人の左室からの全RNAは、MY Biosource(カタログ番号:MBS537570)、Biological(カタログ番号:T5595-7325)およびBiochain(カタログ番号:R1234138-50)によった。第1鎖の合成には、全RNA 2マイクログラムを使用した。第1コードエクソンおよび最終コードエクソンにアニールするCaMKII-δ特異的プライマーを、cDNA増幅に使用した(
図9b)。PCR産物精製キット(Qiagen、カタログ番号:28004)を使用して、全長CaMKII-δ(約1600bp)に相当するPCR産物を濃縮した。標準PacBioガイドラインに従って、SMRTbellシーケンシングライブラリーを調製した。シーケンシングは、武漢バイオテクノロジー研究所公共技術サービスプラットフォームにおいて、Pacific Biosciencesリアルタイムシーケンサーを用い、C2シーケンシング試薬を使用して行った。Pacific BiosciencesのSMRT解析ソフトウェア(v2.2)を使用して、サブリードフィルタリングを行った。GMAP(2014-09-29バージョン)を使用し、以下のパラメーター:-形式=1-バッチ=2-nthreads=6-trimendexons=4-orderedを用いて、FASTQ形式の循環コンセンサス配列(CCS)リードを、全試料種からのCaMKII-δ遺伝子座にマッピングした。その間に、flexbar(バージョン2.5)を使用し、以下のパラメーター:-threads 6-barcode-min-overlap 8-barcode-threshold 2-log-level TAB-barcode-keep-barcode-unassignedを用いて、プライマー/バーコードを検出した。アライメントは、同種に由来した場合にのみ、ベストマッピングおよび示されるプライマーとして維持した。以下の解析は、Treutlein等 PNAS 111,E1291-1299,doi:10.1073/pnas.1403244111(2014)を参照した。アライメントを、スプライスジャンクション(すなわちバリアント構造)に関して、ギャップ許容値3bpで解析した。明確で一致したスプライスジャンクションに関して解析されたCCSリードのみを維持した。次いで、スプライスジャンクションの頻度を計算した。
【0159】
[00194]プライマーは以下のとおり:
【0160】
【0161】
[00195]1.4 ヒト試料
[00196]肥大型心筋症の患者からヒト心室組織は、阜外病院(北京、中国)での肥大型心室中隔心筋切除術中に取得し、プロトコールは、阜外病院、中国医科学アカデミーおよび北京協和医学院の倫理委員会によって承認された。本研究は、すべての倫理規定に準拠している。全患者は、書面による同意書を提供した。正常ヒト心室組織は、メリーランド大学(ボルチモア、MD)のNIH NeuroBioBankによった。
【0162】
[00197]1.5 RNA-seq(第2世代シーケンシング)およびCaMKII-δエクソンジャンクション解析
[00198]マウス組織の全RNAは、RNeasyミニキット(Qiagen、カタログ番号:74104)を使用して調製し、シーケンシング工程は、以前に報告されたとおりであった(Liu,F.等 Circulation 131,795-804,doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.114.012285(2015))。別種のRNA-seqデータは、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)シーケンスリードアーカイブデータベースにより、以下のとおり:ヒト左室(SRR830965、SRR830966、SRR830967、SRR830968、SRR830969、SRR830970、SRR830971、およびSRR830972)、アカゲザル心臓(SRX196319、SRX196328、SRX196337、SRX081927、SRX081928、SRX494639、およびSRX066573)、イヌ左室(SRR1735880、SRR1735881、SRR1735882、SRR1735883、SRR1735884、およびSRR1735885)ならびにラット心臓(SRX471444、SRX471445、SRX471446、SRX471447、SRX471460、SRX471461、SRX471462、およびSRX471463)。
図9aに示す、CaMKII-δスプライスバリアントのエクソン構造は、RefSeq、Uniprot、およびUCSC KnownGeneのデータベースからまとめた。CaMKII-δの分類は、Mayerを参照した(Mayer,P.等,The Biochemical journal 298 第3部,757-758(1994))。マウスCaMKII-δの構造は、LiftOverを使用しデフォルトパラメーターを用いて検索した。多重配列アラインメントにおいて、本発明者は、2つの主要選択的スプライシングドメインを見出し、一方はエクソン13とエクソン17との間であり、他方はエクソン20とエクソン22との間であった。RNA-seqリードは、TopHat-2.0.8を使用しデフォルトパラメーターを用いて、マウス(mm9)、ラット(rn4)、イヌ(canFam2)、アカゲザル(rheMac2)、またはヒトゲノム(hg19)にマッピングされた。すべての潜在的なジャンクションリードをカウントし、寸法係数(size factor)で正規化した(標的組織の1か所にのみマップされたリードと最小シーケンシングを含む組織との比率)。
【0163】
[00199]1.6 CaMKII-δのエクソン16またはエクソン21に特異的な抗体の生成
[00200]ウサギで抗体を作製するために、ペプチドを、市販で合成および精製させた(Abcam、米国)。抗原エピトープは、以下のアミノ酸配列:CaMKII-δのスプライスバリアントの一サブクラスに特有のC末端であるエクソン21に相当するPPCIPNGKENFSGGTSLW(配列番号28)、およびCaMKII-δのエクソン16に相当するCEPQTTVIHNPDGNK(配列番号29)を含んだ。3つの異なる担体タンパク質との結合には、内部システインを使用した。2匹のニュージーランド産月齢3か月の白ウサギを免疫化するために、各ペプチドを、スカシガイ由来ヘモシアニンまたはオボアルブミンと結合した。カスタマイズした、5~6回の注射のプロトコールを使用してウサギを免疫化した。精製用アフィニティーカラムを調製するために、本来の抗原を、予備活性化マトリクス(アガロースビーズ、1.5ml)に結合した。抗血清すべてを捕集し、調製済みペプチドアフィニティーカラム上にロードして、溶出バッファー(pH2.7)で溶出した。溶出したポリ抗体を捕集し、UV280吸収に基づいて中和した。
【0164】
[00201]1.7 質量分析によるCaMKII-δスプライスバリアントの絶対定量
[00202]ヒト左室を、RIPAバッファーでホモジナイズし、溶解物を13,000rpmで10分間遠心分離した。エクソン21またはエクソン16を認識する抗体でCaMKII-δを免疫沈降してから、アガロースペレットを洗浄し溶出した。溶出したタンパク質をSDS-PAGEし、CaMKII-δに相当するバンドを、質量分析のために切り出した。CaMKII-δスプライシングバリアントの絶対定量は、以前に報告されたように行った(Gerber,S.A.等,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100,6940-6945,doi:10.1073/pnas.0832254100(2003);Kawakami,H.等 Journal of pharmaceutical sciences 100,341-352,doi:10.1002/jps.22255(2011))。特に、最良の作業条件を試験するために、トリプシン(400ng)を用いて異なる時間(0.5h、1h、2hまたは4h)にわたり、ゲル内消化を行ってから、質量分析を行った。2hトリプシン消化を選んだ。なぜなら、この条件下にもっとも多くのユニークペプチドが認められたからであり、その条件下で、各標的バリアントからいくつかのユニークペプチドを、定量用の標準ペプチドとして選択した(表1)。合成ペプチドは、13Cおよび15N標識リジンを含有した。トリプシン消化して免疫沈降した心臓試料との、合成ペプチドの段階希釈(0.78、1.56、3.31、6.25、12.5、25、50、100および200fmol)の混合に続いて質量分析を行うことにより検量線を作成した。負荷量およびピーク面積に基づき、どの合成ペプチドも、R2が0.992超の直線検量線を得た。各標的ペプチドの定量化値は、ピーク面積の、同位元素標識ペプチド(50fmolを添加した標準)のピーク面積に対する比率を計算して求めた。エクソン21免疫沈降試料中の平均ペプチド量は、エクソン13-17に関して2.32±0.27fmol、エクソン13-14に関して4.02±1.50fmol、およびエクソン13-16に関して9.52±0.88fmolである。エクソン16免疫沈降試料中の平均ペプチド量は、エクソン20-21に関して11.87±3.73fmol、およびエクソン20-22に関して1.73±0.71fmolである。相対的データを
図1cに示す。
【0165】
【0166】
[00203]Easy-nLC1000液体クロマトグラフィーシステム(Thermo)を伴ったQ-Exactive HF(Thermo)質量分析計を使用して、すべての試料を分析した。ペプチドを、内径100μmx2cmのC18トラップカラムから溶出し、内径150μmx15cmの手製カラム(C18樹脂、1.9μm、120Å、Dr.Maisch GmbH)上で、75分の5~35%アセトニトリル直線勾配を用いて600nL/分で分離した。Q-Exactive HFのMS分析は、自動ゲイン制御ターゲット3e6イオンにおけるフルスキャン(300~1400m/z、200m/zでのR=120,000)で行い、続いて、高エネルギー衝突解離により、最高で20のデータ依存性MS/MSスキャンを行い(AGCターゲット2e4イオン、最大許容注入時間40ms、単離ウィンドウ1.6m/z、27%の正規化衝突エネルギー)、オービトラップで検出した(200m/zでのR=15,000)。事前に取得した前駆イオンのダイナミックエクスクルージョンは、12sで可能であった。
【0167】
[00204]ペプチドは、<1%の誤検出率を達成するために、Mascotソフトウェア(バージョン2.3.01、Matrix Science)で適合させたProteome Discovererソフトウェア(バージョン1.4.1.14、Thermo)を使用して同定した。質量許容差は、前駆体に関しては20ppmに設定し、生成イオンの許容差に関しては50mmuに設定した。修飾の種類としては、酸化(M)、アセチル(タンパク質N末端)、およびDeStreak(C)を選択し、トリプシンによる2つの未切断を許容した。
【0168】
[00205]1.8 質量分析
[00206]UBE2Tリン酸化の分析には、HEK293細胞を、対照ベクターまたはflagタグ付きCaMKII-δ9プラスミドの存在下にmycタグ付きUBE2Tでトランスフェクトした。細胞収穫の12h前に、プロテアソーム阻害剤MG132を添加してから、総タンパク質をRIPAバッファーで抽出した。総UBE2Tを抗myc抗体で免疫沈降し、次いでアガロースペレットを洗浄し溶出した。溶出したタンパク質をSDS-PAGEし、UBE2Tに相当するバンドを、質量分析のために切り出した。
【0169】
[00207]LC-MS/MS分析では、Thermo LTQ Orbitrap Velos Pro質量分析計と直接にインタフェース接続されたDionex 3000 nano-HPLCシステムを用いて、消化産物を、0.3μL/分の流速での65分の勾配溶出により分離した。分析カラムは、溶融シリカキャピラリーカラムであった(内径75μm、150mm長、C18樹脂充填)。移動相Aは0.1%ギ酸からなり、移動相Bは、80%アセトニトリルと0.08%ギ酸とからなった。質量分析計は、Xcalibur2.1.3ソフトウェアを使用してデータ依存性取得モードで操作し、オービトラップ(400~1800m/z、分解能30,000)でのシングルフルスキャンマススペクトルに続いて10のデータ依存性MS/MSスキャンが存在した。各LC-MS/MSランからのMS/MSスペクトルは、Proteome Discovery検索アルゴリズム(バージョン1.3)を使用して、選択したデータベースに対して検索した。
【0170】
[00208]1.9 コメットアッセイ
[00209]培養新生仔ラット心室心筋細胞(NRVM)を、指示どおりに処理し、次いで冷PBSで洗浄し、アルカリ性条件下、コメットアッセイキット(Trevigen、カタログ番号4250-050-K)のプロトコールに従った。各実験において試料当たり300~500細胞に対して、コメットアッセイソフトウェアプロジェクト(v1.2.3b1)を用いて、平均テールモーメントを定量化した。
【0171】
[00210]1.10 CaMKII-δ9 tgマウスの生成
[00211]N末端Flagタグを有する全長ヒトCaMKII-δ9 cDNAコード配列を、αMHCプロモータを含有する発現ベクターのHindIII部位およびEcoRV部位にクローニングした。XhoIおよびNotIでの線状化後、ゲル精製を行った。この構築物を、C57BL/6マウス受精卵の前核にマイクロインジェクトした。ジェノタイピングにはPCRを使用した。プライマー配列は、5’-GTATCGATAAGCTTGCCACCATGG-3’(フォワード)(配列番号35)および5’-CATGAAGTCGCACAATATTAGG-3’(リバース)(配列番号36)であった。
【0172】
[00212]1.11 CaMKII-δ9 shRNA tgマウスの生成
[00213]miR30ベースのCaMKII-δ9 shRNAの配列は、5’-GAAGGTATATTGCTGTTGACAGTGAGCGCAATCCACAACCCTGACGGAAATAGTGAAGCCACAGATGTATTTCCGTCAGGGTTGTGGATTATGCCTACTGCCTCGG-3’であった(配列番号37)。N末端EGFPタグおよびC末端BGHポリA配列を有するshRNAを、U6プロモータを含有するpLKO.1プラスミドにクローニングした。線状化後、ゲル精製を行った。この構築物を、C57BL/6マウス受精卵の前核にマイクロインジェクトした。ジェノタイピングにはPCRを使用した。プライマー配列は、5’-CTTCACCGAGGGCCTATTTCC-3’(フォワード)(配列番号38)および5’-CCGTAGGTGGCATCGCCCTC-3’(リバース)(配列番号39)であった。
【0173】
[00214]1.12 CaMKII-δ2 tgマウスの生成
[00215]N末端HAタグを有する全長ヒトCaMKII-δ2 cDNAコード配列を、αMHCプロモータを含有する発現ベクターのHindIII部位およびEcoRV部位にクローニングした。XhoIおよびNotIでの線状化後、ゲル精製を行った。この構築物を、C57BL/6マウス受精卵の前核にマイクロインジェクトした。ジェノタイピングにはPCRを使用した。プライマー配列は、5’-CGGTATCGATAAGCTTGGCC-3’(フォワード)(配列番号40)および5’-TCACAATATTGGGGTGCTTC-3’(リバース)(配列番号41)であった。
【0174】
[00216]1.13 UBE2T tgマウスの生成
[00217]C末端mycタグを有する全長ラットUBE2T cDNAコード配列を、αMHCプロモータを含有する発現ベクターのHindIII部位およびEcoRV部位にクローニングした。XhoIおよびNotIでの線状化後、ゲル精製を行った。この構築物を、C57BL/6マウス受精卵の前核にマイクロインジェクトした。ジェノタイピングにはPCRを使用した。プライマー配列は、5’-ATAGAAGCCTAGCCCACACC-3’(フォワード)(配列番号42)および5’-GATCTGTGGTGGCTCAAATG-3’(リバース)(配列番号43)であった。
【0175】
[00218]1.14 心エコー検査
[00219]6週齢および10週齢において、1%イソフルラン下、Vevo2100デジタルイメージングシステム(Visual Sonics、トロント、ON、カナダ)を使用して、乳頭筋のレベルでの傍胸骨短軸像において取得された、心室中部MおよびBモード測定結果により、心エコー解析を行った。マウスが手法に慣れたら、検査および解析に向けて、画像を、光磁気ディスク上にデジタル形式で保存した。LV拡張末期内径(LVIDd)の測定は、左室見かけ最大拡張径の時に測定し、LV収縮末期内径(LVIDs)の測定は、後壁の収縮期前方変動が最大の時に行った。LV駆出率(EF)は、キュービック法:LVEF(%)={(LVIDd)3-(LVIDs)3}/(LVIDd)3x100により計算し、LV短縮率(FS)は、FS(%)=(LVIDd-LVIDs)/LVIDdx100により計算した。データは、5心周期から平均化した。
【0176】
[00220]1.15 組織学的解析
[00221]心臓組織の組織学的解析は、以前に記載した(Zhang,T.等 Nature medicine 22,175-182,doi:10.1038/nm.4017(2016))。TUNEL染色には、以前に記載したように(Zhang,T.等 Nature medicine 22,175-182,doi:10.1038/nm.4017(2016))、CardioTACSTM in situアポトーシス検出キット(Roche Applied Science、カタログ番号:11684795910)を使用した。
【0177】
[00222]1.16 遺伝子発現解析およびプライマー
[00223]定量的リアルタイムPCRに使用したプライマー対は、表2のとおりであった。増幅は以下のとおりに行った:95℃を30s、95℃で15sおよび60℃で30sを40サイクル。データは、少なくとも3回の独立した実験の平均値である。
【0178】
【0179】
【0180】
[00224]1.17 プラスミド構築
[00225]CaMKII-δ9を発現するベクターを、ヒト左室のcDNAからクローニングした。ラットUBE2Tは、ラット心臓のcDNAからクローニングし、ラットUBE2TのS110A点変異またはS913A変異を有するプラスミドは、Stratagene QuikChangeII部位特異的変異導入キットを使用して生成した。それぞれ、CaMKII-δ1、δ2、δ3およびδ9の特徴配列であるエクソン13-15-16-17、エクソン13-17、エクソン13-14-17、およびエクソン13-16-17を発現するプラスミドを、GFPタグと共にpcDNA5/flagプラスミドにクローニングした。HEK293細胞が80%のコンフルエンスに達したらプラスミドをトランスフェクトした。
【0181】
[00226]ヒトCaMKII-δ9、ラットUBE2T、ラットUBE2T-S110A、またはラットUBE2T-S193Aを発現するアデノウイルスベクターは、Sino Geno Max Co.,Ltd.が構築した。CaMKII-δ2を発現するアデノウイルスベクターは、以前に記載した(Zhu,W.等,The Journal of biological chemistry 282,10833-10839,doi:10.1074/jbc.M611507200(2007))。
【0182】
[00227]ヒトUBE2Tを発現するプラスミドは、OriGene(カタログ番号:TP300748の発現プラスミド)からであり、S110A点変異は、Stratagene QuikChangeII部位特異的変異導入キットを使用して生成した。S110A点変異を有する陽性クローンは、シーケンシングにより確認し、次いでタンパク質を精製するためにプラスミドを増幅した。
【0183】
[00228]1.18 心室筋細胞の単離、培養、およびアデノウイルス感染
[00229]NRVMは、1日齢のSprague-Dawleyラットから単離し、アデノウイルス媒介遺伝子導入は、以前に記載された方法を使用して実施した(Zhang,T.等,Nature medicine 22,175-182,doi:10.1038/nm.4017(2016))。NRVMを、24hにわたってH2O2(200μM)またはDox(1μM)に曝した。
【0184】
[00230]1.19 単離したマウス心臓灌流
[00231]成体マウス(10~12週齢)を、ペントバルビタール(70mg/kg)の腹腔内注射により麻酔した。心臓を切除して、ランゲンドルフ装置を用いて、55mmHgの定圧で灌流した。緩衝液には、連続的に95%O2/5%CO2(pH7.4)でガス供給し、熱浴/循環装置で加温した。心臓温度を連続的に監視し、37±0.5℃に維持した。30分間にわたり灌流を中断してから再灌流することにより、全虚血を誘導した。
【0185】
[00232]1.20 亜細胞分画
[00233]核/細胞質分画キット(Biovision Research Products、カタログ番号:K266、米国)により、メーカ説明書に従って細胞質タンパク質と核タンパク質とを分離した。
【0186】
[00234]1.21 細胞生存率分析
[00235]心筋細胞生存率は、以前に記載したように(Zhang,T.等,Nature medicine 22,175-182,doi:10.1038/nm.4017(2016))、カスパーゼ3/7活性および培養培地中のLDH濃度によりアッセイした。カスパーゼ3/7活性は、Promegaのキット(カタログ番号:G8091)により、メーカ説明書に従って測定した。培養培地中のLDH濃度は、Sigmaのキット(カタログ番号:MAK066)を使用して分光測定でアッセイした。
【0187】
[00236]1.22 心臓および心筋細胞の組織学
[00237]心臓は、4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)中で一晩固定し、パラフィンに包埋し、5μmで連続切片を作製した。それらの切片を用いて、標準的なヘマトキシリン・エオシン染色または免疫組織染色を行った。
【0188】
[00238]心筋細胞の免疫蛍光は、以前に記載したように測定した(Erickson,J.R.等,Physiological reviews 91,889-915,doi:10.1152/physrev.00018.2010(2011))。
【0189】
[00239]1.23 ウエスタンブロットおよび共免疫沈降
[00240]ウエスタンブロットおよび共免疫沈降は、以前に記載したように行った(Zhang,T.等 Nature medicine 22,175-182,doi:10.1038/nm.4017(2016))。
【0190】
[00241]1.24 RNA干渉介在性遺伝子サイレンシング
[00242]遺伝子サイレンシングアッセイには、Invitrogenのウェブサイトを使用して、3’末端にdTdTオーバーハングを有する長さ19ヌクレオチドのsiRNAを設計した。心筋細胞は、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)を使用しメーカ説明書に従って、siRNAでトランスフェクトした(Erickson,J.R.等,Physiological reviews 91,889-915,doi:10.1152/physrev.00018.2010(2011))。遺伝子ノックダウンの効率は、siRNAトランスフェクションから72h後にウエスタンブロットで評価した。siRNAの配列は表3のとおりであった。
【0191】
【0192】
[00243]1.25 CaMKII-δのセルフリーキナーゼアッセイ
[00244]ヒトCaMKII-δ2タンパク質はAbcam(カタログ番号:ab84552)製、ヒトUBE2Tタンパク質はOriGene(カタログ番号:TP300748)製であり、ヒトCaMKII-δ9およびUBE2T-S110Aタンパク質はOriGeneで産生した。セルフリーキナーゼアッセイは、100mM Tris-HCl、pH7.5、20mM MgCl2および4mM DTTを含有するキナーゼバッファ中で行った。CaMKII-δ9またはδ2のタンパク質を、200μM CaCl2および1μM CaM(Sigma)と共に氷上で1分間インキュベートしてから、UBE2Tタンパク質の存在下に、30℃で30分間、1mM ATPに曝した。SDSローディングバッファの添加により反応を停止させた。試料を5分間沸騰させ、SDS-PAGE上で分離した。免疫ブロット分析には、リン酸化セリンおよびUBE2Tに対する市販抗体を使用した。
【0193】
[00245]1.26 心筋細胞へと誘導されたヒト胚性幹細胞
[00246]ヒト胚性幹細胞H9は、以前に報告されたように(Burridge,P.W.等,Nature methods 11,855-860,doi:10.1038/nmeth.2999(2014))、既知組成、異種物不含、小分子ベースの方法を使用して心筋細胞に分化させた。簡単に言うと、H9細胞を、マトリゲル(BD Biosciences、カタログ番号:354277)でプレコートした6ウェルプレート上のE8培地(Life Technologies、カタログ番号:A1517001)中に維持した。細胞が70%のコンフルエンスに増殖したら、培地を、6μM CHIR99021(Selleckchem、カタログ番号:S1263-25mg)を補足した基本培地で置換し、48h後にその培地を、次の48hにわたり、2μM Wnt-C59(Biorbyt、カタログ番号:orb181132)を補足した基本培地に交換した。次いで、細胞を基本培地に維持し、48hごとに新鮮培地に交換した。約8日目に、拍動する心筋細胞が出現した。10日目に、心筋細胞を精製するために、その基本培地を、グルコースを含まないRPMI1640(Life Technologies、カタログ番号:11879020)で置換した。2日後、心筋細胞を、TrypLE(商標)発現酵素(Life Technologies)と10分間にわたり混ぜて、マトリゲルプレコートしたウェルプレートに移した。
【0194】
[00247]1.27 材料
[00248]次のタンパク質に対する抗体を使用した:ラット/ヒトUBE2Tおよびp-スレオニン(Cell Signaling Technology、12992(ロット番号:1、1:1000)および9381(ロット番号:22、1:1000));マウスUBE2T(Aviva Systems Biology、ARP-43145(ロット番号:QC13585-40506、1:1000));p-CaMKII(Thermo、MA1-047(ロット番号:QC207772、1:1000))、t-CaMKII-δ(GeneTex、GTX111401(ロット番号:40058、1:1000))、MycおよびFlag(Sigma、SAB4700447(ロット番号:522137、ウエスタンブロット用には1:5000、免疫組織染色用には1:200))、ならびにF1804(ロット番号:SLBR7936V、ウエスタンブロット用には1:5000、免疫組織染色用には1:200))、γH2AX、p-セリンおよびox-CaMKII(Millipore、05-636、クローンJBW301(ロット番号:2884537、ウエスタンブロット用には1:1000、免疫組織染色用には1:200)、05-1000、クローン4A4(ロット番号:2691195、1:1000)および07-1387(ロット番号:2739150、1:1000))、COX-2、HAおよびラミンA/C(Santa Cruz、sc-1747(ロット番号:H1911、1:1000)、sc-7392(ロット番号:L1115、ウエスタンブロット用には1:1000、免疫組織染色用には1:200)およびsc-6215(ロット番号:J2615、1:1000))、PAI-2(Bioworld、BS3702(ロット番号:CA36131、1:1000))、β-アクチン(EARTHOX、E021070-01(ロット番号:0a1401、免疫組織染色用には1:100))、FANCD2およびFANCI(abcam、ab108928(ロット番号:GR130039-32、1:1000)およびab74332(ロット番号:GR251812-8、1:1000))、ならびにGAPDH(EASYBIO、BE0023、クローン2B8(1:10000))。MG132、クラスト-ラクタシスチンβ-ラクトン(β-lac)、ドキソルビシンおよびH2O2は、Sigma-Aldrich製であった。
【0195】
[00249]1.28 統計および再現性
[00250]データは平均値±s.e.m.で表す。統計解析は、GraphPad Prismバージョン5.01(GraphPad Software,Inc.)およびSPSS18.0ソフトウェアパッケージ(SPSS,Inc.)を用いて行った。データセットの分布の正規性は、コルモゴロフ-スミルノフ検定を用いて検定した。正規分布を有するデータ群(2群)は、スチューデントの対応なし両側t検定を使用して比較した。ノンパラメトリックデータには、マン・ホイットニーのU検定を使用した。多群間の比較は、テューキーの多重比較検定を用いる一元または二元の配置分散分析により評価した。所定標本数に対しては統計手法を使用しなかった。
【0196】
[00251]
実施例1
ヒト心臓におけるCaMKII-δ9の存在
[00252]本発明者は、CaMKII-δのスプライスバリアントの濃度を検出するために、マウス、ラット、アカゲザルおよびヒトからの心臓組織の単一分子リアルタイム(SMRT)シーケンシング(Pacific Biosciences)(Sharon,D.等,Nature biotechnology 31,1009-1014,doi:10.1038/nbt.2705(2013))を行った。SMRTシーケンシング用のライブラリー調製、シーケンシング、およびデータ収集は、一般的な方法および材料の第1.3項に記載した。CaMKII-δスプライスバリアントの定量化は、一般的な方法および材料の第1.7項に記載した方法に従って行った。
【0197】
[00253]驚くべきことに、本発明者は、十分に研究されたスプライスバリアントであるCaMKII-δ2が、マウスおよびラットでは、それぞれ、全心臓CaMKII-δ転写産物の29%および22.5%を占めたものの、アカゲザルの心臓(3.1%)およびヒトの心臓(6.3%)では非常に少ないことを見出した。以前に報告されているが機能的に見落とされていたCaMKII-δ9が、アカゲザル、ヒト、マウスおよびラットにおいてそれぞれ、33.5%、31.9%、32.9%および14.9%を占め、すべての場合にCaMKII-δ3に匹敵し、かつ霊長類ではδ2よりもはるかに量が多い、非常に豊富なスプライスバリアントとして出現した(
図1a)。
【0198】
[00254]さらに、タンパク質レベルでの心臓CaMKII-δ9発現を、それぞれ、エクソン16に相当するペプチドおよびエクソン21に相当するペプチドと反応する2つのカスタム抗体(抗エクソン16、抗エクソン21)により検出した。該抗体は、一般的な方法および材料の第1.6項に記載した方法に従って調製された。一方の抗体によるマウス心筋タンパク質の免疫沈降に続く他方の抗体での免疫ブロットアッセイにより、50kDに近い単一バンドが現れた。抗エクソン21によりマウス心臓から免疫沈降した約50kDのバンドの質量分析(MS)は、CaMKII-δ9の特徴配列であるエクソン13-16-17によってコードされるペプチドを同定した(
図10e、g)。その代わりに、エクソン20-21によってコードされるペプチドは、抗エクソン16により免疫沈降した試料中に検出された(
図10f、h)。重要なことに、本発明者は、ヒト心臓組織の絶対定量MS分析を行い(Gerber,S.A.等,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100,6940-6945,doi:10.1073/pnas.0832254100(2003);Kawakami,H.等 Journal of pharmaceutical sciences 100,341-352,doi:10.1002/jps.22255(2011))(表1)、抗エクソン21で免疫沈降した場合、エクソン13-16(δ9)およびエクソン13-14(δ3およびδ11)を含有するペプチドのレベルが、エクソン13-17(δ2)のレベルよりも4.1倍および1.7倍であることを見出した(
図1c)。同じく、抗エクソン16で免疫沈降した場合、エクソン20-21(δ1、δ9およびδ11)によりコードされるペプチドのレベルが、エクソン20-22(δ5およびδ10)によりコードされるペプチドの9.2倍であって(
図1c)、CaMKII-δ9をδ10から区別する。したがって、本発明者は、CaMKII-δ9が、哺乳類、特に非ヒト霊長類およびヒトでは、mRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方で、心臓の主要CaMKII-δスプライスバリアントをなすと結論づける。
【0199】
[00255]CaMKII-δ9の組織分布を特定するために、本発明者は、抗エクソン16を使用して、CaMKII-δ9が、アカゲザルでは、心臓および骨格筋の両方の横紋筋中に検出されることを見出した(
図10i)。しかしながら、マウスでは、CaMKII-δ9が心臓に特異的に発現した(
図10j)。免疫蛍光イメージングは、心筋細胞中のCaMKII-δ9の、CaMKII-δ2と部分的に重複する(
図1d)細胞質分布パターンを明らかにし(
図1dおよび
図10k)、CaMKII-δ3は核分画に濃縮された(
図10l)。CaMKII-δ9の細胞質分布は、培養新生仔ラット心室心筋細胞(NRVM)の(一般的な方法および材料の第1.20項に記載した方法に従って行った)亜細胞分画のウエスタンブロットによって確証された(
図10m)。したがって、本発明者は、CaMKII-δ9が、哺乳類、特に非ヒト霊長類およびヒトの心臓での細胞質分布を有する重要なCaMKII-δスプライスバリアントをなすと結論づける。
【0200】
[00256]
実施例2
CaMKII-δ9のアップレギュレーションは、様々な心疾患と関連する
[00257]CaMKII-δ9の病理学的な関連性を調べるために、本発明者はまず、いくつかの心損傷モデルにおけるそのレベルを評価した。本発明者は、血行動態の圧負荷を模倣するために、マウスにおける横大動脈狭窄(transverse thoracic constriction)(TAC)手術を行った。この実施例に使用した実験方法、動物および材料は、一般的な方法および材料の第1.1項、第1.2項、第1.4項、第1.15項、第1.18項、第1.19項、第1.26項および第1.27項に記載した。
【0201】
[00258]CaMKII-δ9の発現は、化学療法薬ドキソルビシン(Dox、1μM)またはH
2O
2(200μM)による酸化ストレスに曝したNRVM中では、有意に上昇した(
図1e、f)。CaMKII-δ9のタンパク質レベルは、TAC心臓では、シャム群と比べて明らかに上昇した(
図1g)。さらに重要なことに、CaMKII-δ9は、肥大型心筋症(HCM)の患者からの心臓組織中では、対照と比べて非常に上昇した(
図1h)。CaMKIIは、リン酸化および酸化の両方によって活性化されることが公知である(Erickson,J.R.等,Physiological reviews 91,889-915,doi:10.1152/physrev.00018.2010(2011);Erickson,J.R.等,Cell 133,462-474,doi:10.1016/j.cell.2008.02.048(2008))。急性のDox処理は、心筋細胞中でのCaMKII-δ9のリン酸化レベルも酸化レベルも上昇させた(
図11a、b)。さらに、CaMKII-δ9のリン酸化および酸化は、急性虚血/再灌流傷害(30分の虚血に続く60分の再灌流)を受けたマウス心臓においても上昇した(
図11c、d)。したがって、心臓CaMKII-δ9は、様々な病理的ストレスに応じてアップレギュレートおよび過活性化され、心臓中でのCaMKII-δ9の病理学的な関連性を明白にする。
【0202】
[00259]
実施例3
CaMKII-δ9シグナル伝達の増強が心筋細胞死を誘発する
[00260]次に、本発明者は、心細胞運命の制御におけるCaMKII-δ9の可能な役割の特定に努めた。本発明者は、心筋細胞中でのCaMKII-δ2またはδ3の発現レベルを変化させることなしに(
図11h)CaMKII-δ9レベルを特異的に低下させるために(
図11e~g)、CaMKII-δのエクソン16を標的とするsiRNAを設計した。該siRNAは、一般的な方法および材料の第1.24項に記載した方法に従って設計した。細胞生存率分析は、一般的な方法および材料の第1.21項に記載した方法に従って行った。
【0203】
[00261]CaMKII-δ9のノックダウンは、カスパーゼ3/7活性および培養培地中の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)濃度により示されるように(
図2a、bおよび
図11i、j)、H
2O
2誘導性およびDox誘導性の心筋細胞死の両方を有意に緩和することが分かり、CaMKII-δ9が、酸化ストレスおよびDoxによって誘導される心損傷に関与することを示唆する。さらに、CaMKII-δ9のアデノウイルス遺伝子導入が、力価依存性に強固な心筋細胞死を引き起こすために十分であった(
図11k)。さらに、匹敵するレベルで過剰発現させた場合(
図11l)、CaMKII-δ9は、心筋細胞死の誘導において、CaMKII-δ2よりもはるかに強力であり(
図11k)、CaMKII-δ9を、酸化損傷および肥大型心筋症に関与する重要な病原因子として特徴づけることが特筆に値する。
【0204】
[00262]
実施例4
CaMKII-δ9は、UBE2Tのダウンレギュレーションにより心筋細胞のDNA損傷および細胞死を誘発する
[00263]CaMKII-δ9誘発性心筋細胞死を担う機構を解明するため、かつその機構をCaMKII-δ2の機構と区別するために、本発明者は、匹敵するタンパク質レベルでCaMKII-δ9またはCaMKII-δ2を過剰発現する培養NRVMを用いて、RNA-seq解析を行った。RNA-seq解析は、一般的な方法および材料の第1.5項に記載した方法に従って行った。
【0205】
[00264]対照群(Ad-β-gal)に対する正規化後、CaMKII-δ9の過剰発現により15個の遺伝子が変化したが、δ2によっては変化しなかった(
図12aおよび表4)。リアルタイムPCRを使用して(一般的な方法および材料の第1.16項に記載した方法に従って行い)、本発明者は、CaMKII-δ9対CaMKII-δ2による遺伝子発現の示差的制御を検証した。特に、UBE2T(ユビキチン結合酵素E2T)、COX-2(プロスタグランジンG/Hシンターゼ2)、およびPAI-2(プラスミノーゲン活性化抑制因子2のA型)が、CaMKII-δ9によってアップレギュレートされたが、δ2によってはされなかった(
図2dおよび
図12b)。タンパク質レベルでは、COX-2は、CaMKII-δ9によって上昇したがδ2によっては上昇せず、そのmRNAレベルと一致したが(
図12c)、PAI-2タンパク質レベルは、CaMKII-δ9またはδ2の過剰発現のいずれによっても不変であった(
図12d)。
【0206】
【0207】
【0208】
[00265]CaMKII-δ9の過剰発現は、培養心筋細胞中でのUBE2Tタンパク質レベルを、そのmRNAレベルの上昇にもかかわらず(
図2d)、有意に低下させ(
図2e)、CaMKII-δ9のノックダウンは、UBE2Tタンパク質レベルを上昇させることができた(
図2f)。それに対して、別の細胞質スプライスバリアント、CaMKII-δ2の過剰発現は、同じ実験設定において、UBE2Tのタンパク質レベルを変化させなかった(
図2e)。さらに、UBE2Tの過剰発現は、カスパーゼ3/7活性により明示されるように、心筋細胞を、CaMKII-δ9誘発性の細胞死から救済した一方(
図2g)、UBE2Tのノックダウンは、心細胞死の誘発に十分であった(
図2hおよび
図12h)。さらに、UBE2Tタンパク質レベルは、酸化ストレスを受けたNRVM中で低下し(
図2i)、UBE2Tの過剰発現は、H
2O
2誘導性の心筋細胞死を低下させた(
図2j)。したがって、本発明者は、UBE2Tのダウンレギュレーションが、CaMKII-δ9誘導性の心細胞死の仲介において重要な役割を担うことの一連の複数の証拠を提供する。
【0209】
[00266]UBE2Tは、ファンコニ貧血(FA)DNA修復経路におけるユビキチン結合酵素(E2)であり、FANCLによる、FANCD2およびFANCIのモノユビキチン化とそれに続くDNA修復に必要とされる。本発明者は、CaMKII-δ9による心細胞運命の制御が、UBE2T依存性のDNA修復経路の障害およびそれがもたらすDNA損傷に起因するのかを調べた。DNA損傷は、一般的な方法および材料の第1.9項に記載した方法に従って行ったコメットアッセイにより評価した。
【0210】
[00267]DNA二本鎖切断マーカー、γH2AXの増加(Kuo,L.J. & Yang,L.X.,In Vivo 22,305-309(2008))およびコメットアッセイ(Olive,P.L. & Banath,J.P.Nature protocols 1,23-29,doi:10.1038/nprot.2006.5(2006))により明示されるように、CaMKII-δ9の過剰発現は、心筋細胞中でDNA損傷を誘発するが、δ2はそうでないことが見出された(
図3a~cおよび
図13a、b)。それに対して、CaMKII-δ9のノックダウンは、培養心筋細胞中での酸化ストレス誘導性のDNA損傷を緩和し(
図3d、e)、同じく、CaMKII-δ9欠損は、心細胞死の低下をもたらした(
図2a、b)。さらに、UBE2T過剰発現は、CaMKII-δ9および酸化ストレスによって誘導される心臓ゲノム不安定性を低下させたが(
図3f~i)、UBE2Tのノックダウンは、心筋細胞中での重大なDNA損傷をもたらした(
図3j、k)。さらに、本発明者は、FANCD2およびFANCIという2つのUBE2Tの下流分子の、siRNAによるサイレンシングが、DNA損傷を顕著に高めて、心筋細胞死の増加を伴うことを見出した(
図3l、mおよび
図13c~f)。したがって、本発明者は、CaMKII-δ9による心細胞運命の制御は、主として、UBE2Tのダウンレギュレーションとそれに続くDNA損傷の増加に起因することを示した。
【0211】
[00268]
実施例5
心筋症および心不全におけるCaMKII-δ9-UBE2T-DNA損傷シグナル伝達の増強
[00269]心損傷および心不全におけるCaMKII-δ9の役割をさらに評価するために、本発明者は、CaMKII-δ9の心臓特異的過剰発現を有するトランスジェニックマウス(CaMKII-δ9 tg)を生成した(
図14a、b)。CaMKII-δ9 tgマウスおよびUBE2T tgマウスをそれぞれ、一般的な方法および材料の第1.10項および第1.13項に記載した方法に従って生成した。
【0212】
[00270]CaMKII-δ9タンパク質レベルが、tgマウス中では、野生型(wt)同腹仔と比べて、約8倍だけ上昇しており(
図4a)、HCMを患う患者におけるそのスプライスバリアントの上昇と同様であることが分かった。tgマウスは、2週齢で死亡し始め、15週までにはすべて死亡した一方、wtマウスのいずれも同じ期間中に死亡しなかった(
図4b)。10週齢で、tgマウスは重大な心筋症を示し、心肥大、心室拡張および心筋細胞死により明らかになった(
図4c、d)。心筋症は、心臓重量・体重比の上昇および肥大型遺伝子発現プロファイルによっても示された(
図14c、d)。その結果、tgマウスでの心機能は、経時的に低下した(
図4e、f)。10週齢までに、tgマウスは重度の心不全になり、wtマウスと比べて非常に低下した駆出率(EF)および短縮率(FS)により示された(
図4e、f)。さらに、tgマウスでの心室拡張および心臓壁薄肉化が、心エコー検査により確証された(
図4e、f、一般的な方法および材料の第1.14項に記載した方法に従って行った)。重要なことに、CaMKII-δ9 tgマウスの心臓では、DNA損傷が明らかに上昇し(
図4gおよび
図14e)、かつそれには、wtマウスと比べた、UBE2Tタンパク質存在量の低下が伴った(
図4h)。それに対して、CaMKII-δのエクソン16を標的としたshRNAのトランスジェニック発現による、CaMKII-δ9の心臓特異的ノックダウン(一般的な方法および材料の第1.11項に記載した方法に従って行った)は、TAC誘導性の心肥大、収縮不全およびマウスの早期死亡を顕著に減衰させた(
図4i~kおよび
図14f~i)。TAC誘導性の心臓DNA損傷および心筋細胞死も、CaMKII-δ9のノックダウンにより低下した(
図4l、m)。同時に、UBE2Tタンパク質存在量が、CaMKII-δ9欠損マウスの心臓では増加した(
図14j)。UBE2Tの心臓特異的過剰発現それ自体は、肉眼で識別できる表現型を示さなかったが(
図5)、CaMKII-δ9 tgマウスと交配すると、CaMKII-δ9誘導性の心損傷および心機能不全を効果的に改善し、マウスの生存率を顕著に高めた(
図5)。したがって、CaMKII-δ9誘導性のUBE2Tのダウンレギュレーションは、複合的な損傷刺激に誘導される、心不全およびマウスの死につながる、心臓DNA損傷、細胞死および心筋症の根拠となる主要な機構である。
【0213】
[00271]CaMKII-δ9およびCaMKII-δ2の機能およびシグナル伝達機構をin vivoでさらに比較して対比させるために、本発明者は、CaMKII-δ9 tgマウスの場合と同様に、wtマウスの発現に対して約8倍のCaMKII-δ2の心臓特異的過剰発現を有するトランスジェニックマウスを構築した(
図14k)。該CaMKII-δ2 tgマウスは、一般的な方法および材料の第1.12項に記載した方法に従って生成した。
【0214】
[00272]CaMKII-δ2 tgマウスは、心筋細胞死、心肥大、心機能不全、およびマウスの死亡を示したが、すべてのパラメーターにより判断すると、有害効果は、CaMKII-δ9 tgマウスの有害効果よりもはるかに重度が低かったことを見出した(
図14l~o)。さらに、本発明者は、CaMKII-δ2 tg心臓中では、UBE2T存在量の低下もDNA損傷の増加も検出しなかった(
図14p、q)。これらの結果は、2つの細胞質CaMKIIスプライスバリアントが、異なるシグナル伝達経路を活性化し、心臓生理学および心臓病理学において異なる役割を果たすということを示す。
【0215】
[00273]HCM患者からの心筋中では、CaMKII-δ9の上昇(
図1h)に、UBE2T存在量の低下およびDNA損傷の上昇(γH2AXが指標)と共に、心筋細胞アポトーシスの増加が伴った(切断型カスパーゼ3が指標)(
図6a~c)。さらに、ヒト胚性幹細胞に由来する心筋細胞(一般的な方法および材料の第1.26項に記載した方法に従って取得した)中では、CaMKII-δ9の過剰発現が、CaMKII-δ2の過剰発現よりも重大な細胞死をもたらした(
図6d)。同時に、CaMKII-δ9は、UBE2Tの分解と、それに続くDNA損傷を誘発したが、δ2はそうではなかった(
図6e、f)。それに対して、CaMKII-δ9ノックダウンは、それらのヒト細胞中におけるDox誘導性のUBE2T分解、DNA損傷および細胞死を効果的に改善した(
図6g~i)。
【0216】
[00274]
実施例6
CaMKII-δ9はUBE2TをSer110においてリン酸化しその分解を促進する
[00275]CaMKII-δ9の過剰発現によってUBE2TのmRNAレベルは上昇したため、UBE2Tの、タンパク質レベルでのダウンレギュレーションは、タンパク質分解の上昇によって仲介されるのかもしれない。この仮説を試験するために、本発明者は、プロテアソーム阻害剤β-lacおよびMG132を使用し、両方ともが、CaMKII-δ9誘導性のUBE2Tタンパク質レベルの低下を完全に無効にすることを見出した(
図7a、b)。UBE2Tは、主に心筋細胞の核中に局在する(
図7c)。CaMKII-δ9を過剰発現する細胞中では、UBE2Tがなおも核に富むが、その存在量は低下した(
図7c)。特に、プロテアソーム阻害剤MG132は、UBE2Tを、核分画および細胞質分画の両方に存在させた(
図7c)。これらの結果は、UBE2Tが、心筋細胞の細胞質および核の両方に分布すること、ならびに明らかな核中での濃縮は、細胞質中でのUBET2のCaMKII-δ9介在性分解の結果であることを示唆する。CaMKII-δ9誘導性のUBE2TのmRNAレベルの上昇は、おそらく、そのタンパク質存在量の低下に対する細胞補償による。
【0217】
[00276]本発明者は、心筋細胞中でのCaMKII-δ9とUBE2Tとの潜在的な物理的相互作用を調べた。共免疫沈降アッセイは、CaMKII-δ9とUBE2Tとがタンパク質複合体を形成することを明らかにした(
図7d)。NRVM中でのCaMKII-δ9の過剰発現は、UBE2Tのセリンリン酸化を特異的に高めたが(
図7e)、スレオニンリン酸化は高めなかった(
図7f)。CaMKII-δ9に対するUBE2Tのリン酸化部位を詳細に記すために、本発明者は、CaMKII-δ9フリーのHEK293細胞(ヒト胚腎臓細胞)を、mycタグ付きUBE2TプラスミドとCaMKII-δ9プラスミドとでトランスフェクトした。細胞溶解物を、myc抗体で免疫沈降してから、MS分析をした。MS分析は、一般的な方法および材料の第1.8項に記載した方法に従って行った。UBE2Tの2つのセリン部位(Ser110およびSer193)が、CaMKII-δ9の標的候補として同定された(
図15a)。本発明者は、UBE2T-S193A変異はそうではないが、UBE2T-S110A変異はCaMKII-δ9介在性分解に対して抵抗性であることを見出し(
図7g)、複数種での高度に保存された部位であるSer110でのUBE2Tのリン酸化(
図15b)が、CaMKII-δ9介在性のUBE2T分解に不可欠であることを示す。
【0218】
[00277]次に、本発明者は、セルフリーキナーゼアッセイ(一般的な方法および材料の第1.25項に記載した方法に従って行った)により、CaMKII-δ9の存在下または不在下に組換えUBE2Tタンパク質を使用して、UBE2Tが、CaMKII-δ9の直接基質であるかを特定した。組換えCaMKII-δ9タンパク質の存在は、wtUBE2Tのセリンリン酸化レベルを有意に増強したが、そのS110A変異では増強しなかった(
図7hおよび
図15c)。この結果は、CaMKII-δ9がUBE2TのSer110でのリン酸化を介在することの直接的証拠を提供する。さらに、S110でのリン酸化の破壊(UBE2T-S110A)は、UBE2Tを細胞質にも核にも存在させたがS193でのリン酸化の破壊(UBE2T-S193A)はそうではなく(
図15d)、CaMKII-δ9が、Ser110でUBE2Tをリン酸化し、細胞質中でのプロテアソーム依存性のUBE2T分解を促進することが、核内でのUBE2Tの濃縮をもたらすことを確証する。まとめると、in vivoおよびin vitroのデータは、心損傷の後、CaMKII-δ9が活性化およびアップレギュレートされ、Ser110リン酸化とそれに続くUBE2Tの分解を促進させ、最終的に、心筋DNA損傷、ゲノム不安定性および細胞死をもたらすことを示す。
【0219】
[00278]
実施例7
UBE2Tは、CaMKII-δ1、δ2またはδ3によっては制御されない
[00279]少ない方の細胞質CaMKII-δスプライスバリアントであるCaMKII-δ2は、UBE2Tと相互作用もせず(
図7i)、そのセリンのリン酸化も上昇させず(
図7h)、UBE2Tが、CaMKII-δ2ではなくδ9の特異的基質であることを示唆する。さらに、CaMKII-δ1もδ3もUBE2Tと相互作用しない、またはその分解を誘導せず(
図8a~d)、UBE2Tが、CaMKII-δ9の選択的標的であることを再確認する。CaMKII-δ9による、UBE2Tのスプライスバリアント特異的制御の分子基盤を正確に示すために、本発明者は、それぞれ、CaMKII-δ1、δ2、δ3およびδ9の特徴配列であるエクソン13-15-16-17、13-17、13-14-17、および13-16-17によりコードされるペプチドを発現するプラスミドを構築した(
図9a)。該プラスミドは、一般的な方法および材料の第1.17項に記載した方法に従って構築した。エクソン13-16-17によりコードされるペプチドはUBE2Tと相互作用したが別のペプチドは相互作用せず(
図8eおよび
図16)、CaMKII-δ9の特徴配列(エクソン13-16-17)が、その基質選択性を担うことを示唆する。
【配列表】
【国際調査報告】