(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-29
(54)【発明の名称】環境に優しいヒートパイプの作業物質
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20220822BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
C09K5/04 F
F28D15/02 104A
F28D15/02 101H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571302
(86)(22)【出願日】2019-12-31
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 CN2019130393
(87)【国際公開番号】W WO2020238207
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】201910461222.6
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520217629
【氏名又は名称】浙江省化工研究院有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】513016127
【氏名又は名称】中化藍天集団有限公司
【氏名又は名称原語表記】SINOCHEM LANTIAN CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.96, Jiangnan Avenue, Binjiang District, Hangzhou 310051, Zhejiang, China
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】チュエン へンダオ
(72)【発明者】
【氏名】グゥオ ジーカイ
(72)【発明者】
【氏名】チャオ シェン
(72)【発明者】
【氏名】オウヤン ホンシェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン フイエ
(72)【発明者】
【氏名】ソン ファフェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ガン
(72)【発明者】
【氏名】ルオ シア
(57)【要約】
本発明はHFO-1234ze(Z)、HFO-1234ze(E)、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1224yd(Z)、HFO-1233zd(E)およびその混合物から選択される重力ヒートパイプを開示している。本発明による重力ヒートパイプは、環境に優しく、冷却性能が良く、製造原価低いなど長所を有し、通信基地局やサーバーまたはデーターセンターなどの冷却に適合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重力ヒートパイプの作業流体はHFO-1234ze(Z)、HFO-1234ze(E)、HFO-1234yf、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1224yd(Z)、HFO-1233zd(E)およびその混合物から選択される、ことを特徴とする重力ヒートパイプ。
【請求項2】
前記作業流体はHFO-1234ze(Z)、HFO-1234yf、HFO-1233zd(E)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1224yd(Z)およびその混合物から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の重力ヒートパイプ。
【請求項3】
前記作業流体はHFO-1234ze(Z)である、ことを特徴とする請求項2に記載の重力ヒートパイプ。
【請求項4】
前記作業流体を混合物とする時に、1234ze(Z)、HFO-1233zd(E)またはHFO-1336mzz(E)をそのうちの1つの成分とする、ことを特徴とする請求項1に記載の重力ヒートパイプ。
【請求項5】
作業流体の混合物は、
HFO-1234ze(Z)/HFO-1336mzz(E)、HFO-1234ze(Z)/HFO-1336mzz(E)、HFO-1234ze(Z)/HCFO-1224yd、HFO-1234ze(Z)/HCFO-1224yd、HFO-1234ze(Z)/HCFO-1233zd(E)、HFO-1234ze(Z)/HCFO-1233zd(E) 、HCFO-1233zd(E)/HCFO-1224yd、HCFO-1233zd(E)/HCFO-1224yd、HFO-1336mzz(E)/HCFO-1224ydおよびHFO-1336mzz(E)/HCFO-1224ydから選択される、
ことを特徴とする請求項4に記載の重力ヒートパイプ。
【請求項6】
前記作業流体は、重力ヒートパイプの作業流体として元々使用されていたHFC-245fa、HFC-134aまたはR410aに代わり、直接代替される、ことを特徴とする請求項1に記載の重力ヒートパイプ。
【請求項7】
前記重力ヒートパイプは平板式重力ヒートパイプである、ことを特徴とする請求項1に記載の重力ヒートパイプ。
【請求項8】
前記重力ヒートパイプは電子設備やコンピューター、通信基地局、サーバーまたはデータセンターなどに使用される、ことを特徴とする請求項1に記載の重力ヒートパイプ。
【請求項9】
請求項1に記載の重力ヒートパイプを冷却する方法。
【請求項10】
前記作業流体は、HFO-1234ze(Z)、HFO-1234ze(E)、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1224yd(Z)、HFO-1233zd(E)およびその混合物から選択される、ことを特徴とする請求項9に記載の冷却方法。
【請求項11】
前記作業流体はHFO-1234ze(Z)、HFO-1234yf、HFO-1233zd(E)、HFO-1224yd(Z)およびその混合物から選択される、ことを特徴とする請求項9に記載の冷却方法。
【請求項12】
前記作業流体はHFO-1234ze(Z)である、ことを特徴とする請求項9または10に記載の冷却方法。
【請求項13】
前記重力ヒートパイプは0~100℃の間にて作動される、ことを特徴とする請求項9に記載の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却媒体に関し、特に重力ヒートパイプの冷却作業物質に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数年来、インタネット産業の速やかな発展につれ、インタネットデータセンター(IDC)が迅速に成長し、IDC市場のニーズが急増する一方である。2016年、中国のIDC市場規模は714.5億元に達し、2019年、中国IDC市場規模は1800億元にも達する見込みである。データセンターのエネルギー消耗も急増し、2016年、中国データセンターの電力消耗量は1000億kW・hに達し、三峡発電所全体の年間発電量(900億kW・h)を超過し、全国の総電力消耗量の1%を占め、世界の総電力消耗量の2%を占めている。
【0003】
IDCエネルギー消耗には、IT設備や、冷却設備、配電システムおよびその他の補助設備が含まれるが、そのうち、冷却設備のエネルギー消耗がIDC総エネルギー消耗の40%を占めている。そのため、省エネ冷却技術を利用してデータセンターのPUE値を低下することが必要となっており、これは我が国の環境に優しい省エネデータセンター作りの有効なルートの一となっている。冷却設備から言えば、伝統的な精密エアコンはエネルギー利用率が低く、気流組織の分布が不均一である問題が存在しており、発熱量の増加と熱密度の急増につれ、サーバーキャビネットの放熱需要を満たすことができなくなる。
【0004】
重力ヒートパイプは省エネ・排出削減の冷却設備であって、優れた冷却効果があり、エネルギー消耗も低い。重力ヒートパイプは密封パイプであって、パイプの中には液体と気体状態の作業物質が同時に含まれている。液体作業流体は蒸発エリアの潜熱を吸収することによって気体状態となり、気体が凝縮エリアに入ると液体の作業物質に転化されると同時に潜熱を放出し、液体作業物質は重力によって蒸発エリアに戻って、サイクル完了となる。一般的に、重力ヒートパイプはサイズが小さくて、フレームの背面または基地局の側板として設置される。重力ヒートパイプは一対一の冷却を実現して、局所の過熱を避けることができるだけでなく、設備室の利用率を向上することもできる。
【0005】
0~100℃の温度範囲において、重力ヒートパイプに良く使われる作業物質としては、水やアンモニア水、メタノール、アセトン、HCFC-22、HFC-134a、R410aなどが含まれる。安全性と環境の要素を考えて、これらの作業物質はいずれもその欠点を克服することができない。例えば、水は初期温度が高いため、潜在の漏れを防ぐために、設備に対する保護策を取らなければならず、アンモニア水は激しい刺激性があって、一旦漏れると中毒の原因となり、メタノールとアセトンは燃えやすい化合物であるので、大量の使用に不適合であり、HCFC-22はオゾン層を破壊し、その地球温暖化係数(GWP)が1810であり、HFC-134aとR410aはオゾン層を破壊することはないけれど、それらのGWPも1300またはそれ以上に達するだけでなく、システムの圧力が高いため製造原価が高くなる。
【0006】
現在、HFC-245faは重力ヒートパイプ作業流体の安全且つ可能な代替品であって、難燃性を有するだけでなく、システムの圧力が低いため、使用条件を満足できる。しかし、HFC-245faのGWP値は1050でるため、将来替わるかも知れない。従って、環境に優しい重力ヒートパイプの作業流体を開発して、ヒートパイプ冷却に用いるHFC-245faに取って代わることが必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は重力ヒートパイプの冷却に用いる重力ヒートパイプ作業流体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は重力ヒートパイプに関し、前記ヒートパイプの作業流体はHFO-1234ze(Z)、HFO-1234ze(E)、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1224yd(Z)、HFO-1233zd(E)およびその混合物から選択される。ある好ましい実施形態において、前記作業流体はHFO-1234ze(Z)、HFO-1234yf、HFO-1233zd(E)、HFO-1224yd(Z)またはその混合物から選択される。あるさらに好ましい実施形態において、前記作業流体はHFO-1234ze(Z)である。
【0009】
HFO-1234ze(Z)、つまり、cis-1,3,3,3-テトラフルオロプロピレンの分子式はCHFCHCF3、分子量は114.04、標準沸点は9.72℃、臨界温度は150.12℃、臨界圧力は3.53MPaである。
【0010】
本発明は重力ヒートパイプ作業流体を使用する方法を提供して、前記重力ヒートパイプ中に使用されるHFO-1234ze(Z)を含む作業流体を提供する。
【0011】
ある好ましい実施例において、前記作業流体はHFO-1234ze(Z)だけで構成される。
【0012】
ある好ましい実施例において、重力ヒートパイプは0℃ないし100℃の温度の下で作動される。
【0013】
本発明の作業流体は、最初のデザインに重力ヒートパイプの作業流体として使用したHFC-245fa、HFC-134aまたはR410aを直接代替することに適する。
【0014】
本発明の重力ヒートパイプは分離式蒸発エリアと凝縮エリアのデザインとなっており、前記蒸発エリアと凝縮エリアはパイプによって連結される。本発明の重力ヒートパイプは遠距離熱量伝送を実現することができるだけでなく、必要に応じては熱交換面積比を調整して、異なる規模のIDC冷却の条件を満足することができる。好ましくて、本発明の重力ヒートパイプはプレート式重力ヒートパイプである。
【0015】
本発明の重力ヒートパイプ装置は、コンピューターや通信基地局、サーバーまたはデータセンターなど電子設備の冷却に適する。
【発明の効果】
【0016】
既存技術に比べた本発明の重力ヒートパイプ作業流体のメリット:
(1)環境に優しく、ODP値が0、GWP値<1である。
(2)優れた熱伝導性を有し、反応熱の物理的性能と熱伝導性綜合性能を代表する作業物質基準数M′はいずれもHFC-245faより高いが、HFC-245faはそれにしても現在IDCの冷却に使われる真っ先に選択される作業流体である。
(3)0℃~100℃の作業温度範囲において、優れた熱交換性と低い飽和蒸気圧を有し、当該作業流体の製造原価を低減することができる。
(4)安定性が良く、安全性が高い。
【0017】
本発明の重力式ヒートパイプ(即ち熱サイホン)作業流体の基準数M′の具体的な計算式は、数1で表される。
【0018】
【0019】
そのうち、基準数M′の次元は[数2]で表される。
【数2】
【0020】
ここで、Lは気化潜熱、単位は(kJ/kg)であり、ρlは飽和液体の密度、単位はkg/m3であり、klは飽和液体の熱伝導率、単位はW/(m・K)であり、μlは液体の動力粘度、単位はPa・sである。
本発明の重力ヒートパイプのODP値は、CFC-11を測定することによって1.0の参考値として得られ、GWP値はCO2を用いることによって1.0(100年)の参考値として得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は重力ヒートパイプ作業流体が0℃~100℃の温度範囲における飽和蒸気圧を示すグラフである。
【
図2】
図2は重力ヒートパイプ作業流体が0℃~100℃の温度範囲における基準数M′を示すグラフである。
【
図3】
図3は重力ヒートパイプ装置の工程フローチャートの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下具体的な実施例に結合して、本発明に対してさらに詳しく説明するが、本発明をこれらの具体的な実施形態に制限するものではない。本分野の技術者なら、特許請求の範囲に含まれる可能性のあるすべての予備手段や、改進手段および等価手段はいずれも本発明に属するということを理解すべきである。
【0023】
本発明の実施例はヒートパイプ(例えば、重力型ヒートパイプ)に用いる作業流体に関し、特にコンピューターや通信基地局、サーバーまたはインタネットデータセンター(IDC)など電子設備の冷却に用いる作業流体に関する。ヒートパイプは作業流体の相転移(液相と気相との相転移)を利用して熱量をあるエリアから他のエリアに転移させる。ヒートパイプの正常な作業には飽和状態の作業流体が必要であり、作業流体は蒸発エリアにて潜熱(蒸発熱)を吸収して液体を気体に蒸発させ、凝縮エリアにて気体を液体に凝縮させて潜熱を放出する。
【0024】
ヒートパイプは飽和条件下で使用(即ち、ヒートパイプ中には液相と気相が共存)されるために、作業流体を選択する時に、真っ先に考慮しなければならない要素は作業温度範囲であり、前記作業温度範囲は作業流体の3倍の氷点と臨界点との間に置かれる。事実上、すべての入手できる流体の作業温度範囲は、いずれも小さい。なぜならば、ヒートパイプが携帯できる熱量は氷点と臨界温度の近くで急激に下がるからである。作業温度が高すぎると、作業流体は凝縮できなくなり、作業温度が低過ぎると、作業流体は蒸発できなくなる。電子設備の冷却への利用、例えばIDCへの利用において、作業温度範囲は一般的に0℃~150℃であり、さらに良く見られる温度範囲は0℃~100℃である。
【0025】
多くの潜在の作業流体はこの温度範囲にて効果があり、作業流体の正しい選択は作業流体の特性と関連する多くの要素によって決定される。
【0026】
気候変化問題は急に解決しなければならない問題なので、すべての作業流体は環境に影響があるか影響が少なくてもならない。つまり、オゾン層破壊係数(ODP)が0、地球温暖化係数(GWP)が低い。ODPとGWP値に基づき、幾つかの予備作業流体は表1のとおりである。表1から見えるように、すべての作業流体のODP値はいずれも低いか、0である。一部の作業流体はGWP値が比較的高く、一部の作業流体はGWPが低い。環境に影響をもたらす要素を考慮して、条件を満たす作業流体としては、HFO-1234yfや、HFO-1234ze(Z)、HFO-1234ze(E)、HFO-1233zd(E)、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1336mzz (E)およびこれらの混合物が含まれる。
【0027】
【0028】
ヒートパイプは作業流体の相転移(液体と気体)方式によって熱を転移させるので、作業流体は作業温度範囲において、十分の熱量を伝導するために、十分の飽和蒸気圧がなければならない。これほかにも、作業流体の飽和蒸気圧は作業温度範囲内で高過ぎてはならなく、さもないと、管壁に高すぎる圧力を与える。そのため、優れた作業流体は作業温度範囲内で適当な飽和蒸気圧を有するべきである。そして、温度関数としての圧力の変化も激しすぎてはならない。
【0029】
図1には異なる予備作業流体を異なる温度下での飽和蒸気圧の変化グラフを示しているが、
図1のとおり、大部の作業流体は0~100℃の作業温度範囲内で蒸気圧の条件を満たすが、そのうち、一部はより優れた圧力と温度との関連性がある。例えば、HFO-1336mzz(E)、HFO-1234ze(Z)、HFO-1233zd(E)、HCFO-1224yd(Z)およびHFO-1336mzz(E)は、同じ温度下での飽和蒸気圧がHFC-245faと接近しており、これらの特性は、これらの作業液がHFC-245faの代替物として使用できることを表明し、すべてのこれらの作業液でHFC-245faを代替する時に、パイプに対する修正が要らない。
【0030】
また、同じ温度の下で、R410a、HCFC-22、HFC-134a、HFO-1234yfおよびHFO-1234ze(E)は、HFC-245faに比べてより高い飽和蒸気圧を有し、比較的高い圧力と温度との関連性を有し、これらの特性はこれらの作業流体が作業流体としてHFC-245faを代替できないことを表明し、そのうち、R134aとHFC-1234yfは相似した性質を有するので、HFC-1234yfをR134aの代替品として使用することができる。面白いのは、トランス異性体HFO-1234ze(E)はそのシス異性体HFO-1234ze(Z)に比べて、より高い飽和蒸気圧と温度依頼性を有する。
【0031】
よって、より優れた性質を有する作業流体は、HFO-1336mzz(E)、HFO-1234ze(Z)、HFC-245fa、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1233zd(E)およびHFO-1336mzz(Z)を含み、これらの作業流体が100℃の際の飽和蒸気圧は1.0MPaより低いか、やや高く、HFO-1336mzz(E)、HFO-1234ze(Z)、HFC-245fa、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1233zd(E)およびHFO-1336mzz(Z)の蒸気圧が低く、管壁に対する要求が低いため、システムの製造原価も低い。もっと重要なのは、これらの作業液体の蒸気圧と温度との関連性はHFC-245 faと良く似ており、HFC-245faは現在最も良く使われているヒートパイプの作業流体である。これらの流体は類似した圧力-温度分布を有し、ということは、これらの流体が現在ヒートパイプシステム中に使われているHFC-245faの「代替物」であることを表明し、現在のシステムをそのまま使用するか、ちょっとの変動をするだけで済むことを表明する。
【0032】
上記考慮の以外に、作業流体中に固有の幾つかの特性はヒートパイプ作業流体としての性能に影響がある。例えば、高い液体密度と高い蒸発潜熱は所定の出力への輸送に要る流体の流量(即ち、所要の作業流体の量)を減らし、低い液体粘度は液体の圧力損失を低下させる。
【0033】
作業流体のこれらの特性を考慮して、ある基準数(または基準図)を用いて、一連の予備作業流体の相対的な性能を評価することができる。重力ヒートパイプ(芯のないヒートパイプまたはサイホン)である場合、その基準数(M′)は、以下のおとりに定義される。
【0034】
【0035】
式中、基準数M′の大きさは[数4]で表される。そのうち、Lは気化潜熱、単位は(kJ/kg)であり、ρlは飽和液体の密度、単位はkg/m3であり、μlは液体の動力粘度、単位はPa・sである。
【0036】
【0037】
図2は幾つかの予備作業流体が15~95℃の温度範囲における基準数(M′)を示しているが、図のとおり、HFO-1234ze(Z)は温度範囲内の基準数が高く、甚だしくはHFC-245faよりも高い。そのため、HFO-1234ze(Z)は現在ヒートパイプシステム中のHFC-245faの代替に適するだけでなく、HFC-245faに比べて、高い性能を有する。その他の作業流体中、高い基準数を有するものとしては、HFO-1233ze(E)、HFO-1224yd(Z)、HFO-1336mzz(Z)およびHFO-1234ze(E)が含まれる。比較して見ると、近代の自動車冷却液として使用されているHFO-1234ze(E)は、この温度範囲下での基準数がその他の作業流体に比べて著しく低い。面白いのは、この温度範囲において、シス異性体HFO-1234ze(Z)の長所はそのトランス異性体HFO-1234ze(Z)に比べて著しく高い。そのため、HFO-1234ze(z)はHFO-1234ze(e)に比べてもっと優れた作業流体である。なぜならば、それは低い圧力―温度依頼性と大きい基準数を有するからである。
【0038】
蒸発潜熱は単位質量の作業流体に発生する相転移(例えば、蒸気エリアの液相から気相へ)際の熱伝達量と関りがあり、上記基準数計算式に示されているとおり、作業流体の蒸発潜熱が高ければ高いほど、その基準数も高くなる。そのため、その条件が同じである状況において、高い潜熱を有する作業流体を選ぶことが好ましい。なぜならば、蒸発潜熱が低い作業流体に比べて、少ない作業流体を使って同じ熱量を伝達できるからである。以下表2は幾つかの種類の作業流体と混合作業物質の蒸発潜熱を示している。
【0039】
【0040】
表2のとおり、幾つかの作業液体は非常に高い蒸発潜熱を有し、これらの作業流体を使用すると、少ない量(質量)で同じ熱伝導量を達成できる。
【0041】
重力ヒートパイプ装置を用いて本発明作業流体の冷却性能をテストしたが、前記重力ヒートパイプ装置は2セットの互いに緊密にくっ付けたヒートパイプシステムによって構成されており、一つの重力ヒートパイプシステムはHFC-245faを使って比較対象とし、他の一つの重力ヒートパイプシステムは本発明に関わる作業流体を使ってテストを行う。当該緊密にくっ付けたシステムは二種の作業流体をはっきりと比較することができ、シングルパイプの重力ヒートパイプシステムも作業流体の性能テストに使用されている。2種のシステムのテスト結果はいずれもコンピューターにアップロードされて、モデリングと計算が行われる。
【0042】
重力ヒートパイプ装置の工程フローチャートは
図3のとおりである。試験中、内外の側板と背板を同時に開いて、ヒートパイプのサイクル試験を行なう。試験条件:室内吸気乾球温度を35℃、室内吸気湿球温度を22℃とし、テスト群(HFO-1234ze)システムと比較群(HFC-245fa)システムである場合、空気循環量を同じくし、両システム循環水温度も同じく(入口:15℃、出口:20℃)する。
【0043】
HFC-245faに比べて、作業流体の熱循環性能パラメータは表3のとおりであり、同じ出入口の水温の下で、熱交換能力と幾つかの予備作業流体の表現係数はいずれもHFC-245faより優れているとともに、冷気通路吸気エリアの温度は国家規格の条件18~27℃を満たすことができる。
【0044】
【0045】
上記表3のとおり、本発明に関わる作業流体の性能パラメータは、全体的に既存技術に使用されるHFC-245faなどの作業流体より優れている。例えば、予備作業流体はもっと少ない充填量で同じ熱交換量を達成することができ、作業流体の冷却性能係数はHFC-245faより優れているが、これはこれらの作業流体がHFC-245faに比べてより優れた使用効果を有することを意味する。これだけでなく、これらの多くの作業流体、例えばHFO-1234yfとHFO-1234ze(E)などはもっと低いシステム圧力を有するが、これはHFC-245faの代わりにこれらを使用するプロセス安全性が保証でき、ヒートパイプに対する補強・改良の必要がないということを意味する。
【0046】
また、HFC-245faに比べて、本発明の作業流体はもっと低い最適需要量(質量)を有し、もっと環境に優しい。
【0047】
上記データはほん発明のHFOとHCFOとの化合物がヒートパイプ、特に重力ヒートパイプの優良な作業流体であることを表明する。本発明の作業流体には、HFO-1234ze(Z)、HFO-1234ze(E)、HFO-1234yf、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1224yd(Z)、HFO-1233zd(E)およびその混合作業流体などが含まれる。本発明の真っ先に選択される作業流体には、HFO-1234ze(Z)、HFO-1233zd(E)、HFO-1234yf、HFO-1336mzz(E)、HFO-1224yd(Z)およびその混合作業流体が含まれる。
【0048】
これらの作業流体の混合物は2種の成分が含まれるが、その比例は1:99であり、好ましくは、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、およびそれらの任意比例にすることができ、好ましくて、HFO-1234ze(Z)、HFO-1233zd(E)またはHFO-1336mzz(E)をその中の成分の一つとすることができる。
本発明に関わる混合流体には、以下のものが含まれうる。
HFO-1234ze(Z)/HFO-1336mzz(E)を適当な比例で混合(例えば80/20)、
HFO-1234ze(Z)/HFO-1336mzz(E) を適当な比例で混合(例えば20/80)、
HFO-1234ze(Z)/HCFO-1224yd を適当な比例で混合 (例えば90/10)、
HFO-1234ze(Z)/HCFO-1224ydを適当な比例で混合(例えば10/90)、
HFO-1234ze(Z)/HCFO-1233zd(E) を適当な比例で混合(例えば10/90)、
HFO-1234ze(Z)/HCFO-1233zd(E) を適当な比例で混合(例えば90/10)、
HCFO-1233zd(E)/HCFO-1224yd を適当な比例で混合(例えば10/90)、
HCFO-1233zd(E)/HCFO-1224ydを適当な比例で混合 (例えば90/10)、
HFO-1336mzz(E)/HCFO-1224ydを適当な比例で混合(例えば90/10)、
HFO-1336mzz(E)/HCFO-1224ydを適当な比例で混合(例えば10/90)。
【0049】
意外なことに、本発明のHFO作業流体は、HFO-1234ze(E)とHFC-245 faに比べて、もっと優れた性能パラメータを有する。HFC-245faは、重力ヒートパイプの優れた代替作業流体と認められている。その熱物理性質は、多くの熱伝導と作業流体として、遠心式冷却装置やエネルギー回収の有機ランキンサイクル、低温冷却および従動冷却装置中の顕熱伝達などの活用に適合する。
【0050】
そして、トランス異性体HFO-1234ze(E)は、第4世代冷却剤として、HFC-134aなどの冷却剤を代替している。HFO-1234ze(E)のオゾン層破壊係数はゼロ(ODP=0)であり、地球温暖化係数(GWP<1)も極めて低く、甚だしくはCO2よりも低い。HFO-1234ze(E)は、すでに冷却装置や熱ポンプおよびスパーの冷却システム中の作業流体として使用されている。ところが、シス異性体HFO-1234ze(Z)は、事実上トランス異性体HFO-1234ze(E)に比べて、電子設備やインタネットデータセンターなどに使用されるヒートパイプ(特に重力ヒートパイプ)にもっと適する。なぜならば、シス異性体HFO-1234ze(Z)は、もっと低いシステム圧力を有すると同時に、同じ熱量の転位に要する作業流体がもっと少ないからである。
【0051】
本発明の具体的な様態は、すでに上記幾つかの例を挙げて説明をしたが、本分野の技術者なら、これらの事例はただの説明の目的で使用されるものであって、本発明の範囲を制限するものではなく、本発明の保護範囲を離れずに、その他の修正と変動ができるということを理解できるはずである。従って、本発明の範囲は添付の声明に限る。
【国際調査報告】