IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ドイチェス ツェントラム フューア ノイロデジェネラティヴ エアクランクンゲン エー. ファウ.(ディーゼットエヌイー)の特許一覧 ▶ マックス−デルブリュック−ツェントルム フューア モレキュラーレ メディツィンの特許一覧

特表2022-537658神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR)
<>
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図1
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図2
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図3
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図4
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図5
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図6
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図7
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図8
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図9
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図10
  • 特表-神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR) 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-29
(54)【発明の名称】神経学的自己免疫疾患における中枢神経系を標的とする自己抗体に結合するキメラ自己抗体受容体(CAAR)
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220822BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220822BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20220822BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220822BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220822BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20220822BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220822BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220822BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220822BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220822BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/12 ZNA
C07K14/725
C07K14/705
C07K19/00
C12N15/60
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61K35/17 Z
A61P25/00
A61P37/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572305
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2020065606
(87)【国際公開番号】W WO2020245343
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】19178541.9
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521529905
【氏名又は名称】ドイチェス ツェントラム フューア ノイロデジェネラティヴ エアクランクンゲン エー. ファウ.(ディーゼットエヌイー)
(71)【出願人】
【識別番号】504439274
【氏名又は名称】マックス-デルブリュック-ツェントルム フューア モレキュラーレ メディツィン イン デア ヘルムホルツ-ゲマインシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】プルス,ハーラル
(72)【発明者】
【氏名】ラインケ,エス.モンセン
(72)【発明者】
【氏名】エデス,イナン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZB07
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA86
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、免疫細胞を自己抗体産生B細胞に標的化することができるキメラ自己抗体受容体(CAAR)に関する。CAARは、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片を含む。本発明は、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子であって、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片をコードする配列と、膜貫通ドメインをコードする配列と、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列とを含む、核酸分子に関する。一実施形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)又は1つ以上のNMDAR断片を含む又はそれらからなる。さらに、本発明は、本発明のキメラ自己抗体受容体(CAAR)タンパク質、本発明のキメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子を含むベクター、CAARをコードする核酸分子を含む遺伝子改変免疫細胞、及び自己免疫性脳症又は自己免疫性脳脊髄症、好ましくは抗NMDAR脳炎等の、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患の処置又は予防における免疫細胞の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子であって、
i. 主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片をコードする配列と、
ii. 膜貫通ドメインをコードする配列と、
iii. 細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列と、
を含む、核酸分子。
【請求項2】
前記核酸配列によってコードされる前記自己抗原は、自己免疫性脳症又は自己免疫性脳脊髄症において自己抗体によって結合される、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記核酸配列によってコードされる前記自己抗原は、抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体脳炎(抗NMDAR脳炎)において自己抗体によって結合される、請求項1又は2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記核酸配列によってコードされる前記自己抗原は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)又は1つ以上のNMDAR断片を含む又はそれらからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記核酸配列によってコードされる前記自己抗原は、NMDA受容体のNR1サブユニット又はその1つ以上の断片を含む又はそれらからなる、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記核酸配列によってコードされる前記自己抗原は、NMDA受容体のアミノ末端ドメイン(ATD)、及び/又はS1ドメイン及び/又はS2ドメイン、又はそれらの1つ以上の断片、並びに任意に前記ドメイン又はその断片の間に配置されるリンカー又はスペーサーを含む又はそれらからなる、請求項5に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記核酸配列によってコードされる前記自己抗原は、ロイシンリッチグリオーマ不活性化1(LGI1)、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸受容体(AMPAR)、Ig様ドメイン含有タンパク質5(IgLON5)、代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、コンタクチン関連タンパク質様2(CASPR2)、GABA-A及び/又はGABA-B等のガンマアミノ酪酸(GABA)受容体、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)及びアクアポリン-4(AQP4)からなる群から選択されるタンパク質、又はそれらの1つ以上の断片を含む又はそれらからなる、請求項1又は2に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメイン、ICOS膜貫通ドメイン、又はCD8α膜貫通ドメインであり、
前記細胞内ドメインは、CD28共刺激ドメイン、ICOS共刺激ドメイン、又はCD137(4-1BB)共刺激ドメインを含み、
前記細胞内ドメインは、CD3ζ鎖シグナル伝達ドメインを含み、及び/又は、
前記核酸分子は、前記自己抗原と膜貫通ドメインとの間に、及び/又は該自己抗原の断片のN末端に及び/又は該自己抗原の断片の間に、及び/又は該膜貫通ドメインと細胞内共刺激ドメインとの間に配置される1つ以上のリーダーポリペプチド、リンカーポリペプチド、及び/又はスペーサーポリペプチドをコードする1つ以上の配列を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項9】
i. 好ましくは、それぞれ配列番号1又は配列番号2による配列を含む、CD8リーダーポリペプチド又はNR1リーダーポリペプチドであるリーダーポリペプチドをコードする配列、
ii. 好ましくは、配列番号3(ATD)及び/又は配列番号4(S1)及び/又は配列番号5(S2)及び/又は配列番号6(NR1)による配列、又はNMDARNR1タンパク質の自己抗原性断片をコードする配列番号6の任意の部分配列を含む、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)又は1つ以上のNMDAR断片である自己抗原をコードする配列、
iii. 任意に、好ましくは、GGCACC(リンカー-1)による配列を含む、1つ以上のNMDAR断片の間に配置されるリンカーポリペプチドをコードする配列、
iv. 任意に、好ましくは、配列番号7(リンカー-2)又は配列番号32(リンカー-2b)による配列を含む、前記自己抗原と膜貫通ドメインとの間に配置されるリンカーポリペプチドをコードする配列、
v. 好ましくは、配列番号8(CD8α)又は配列番号9(ICOS)による配列を含む、CD8α膜貫通ドメイン又はICOS膜貫通ドメインをコードする配列、
vi. 任意に、好ましくは、GGCAGC(リンカー-3)による配列を含む、膜貫通ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインとの間に配置されるリンカーポリペプチドをコードする配列、及び/又は、
vii. 好ましくは、それぞれ配列番号10(CD137)及び配列番号11(CD3z)による配列を含む、CD137(4-1BB)共刺激ドメイン及びCD3ζ鎖シグナル伝達ドメインを含み、任意に、該共刺激ドメインとシグナル伝達ドメインとの間にリンカー配列が配置されている細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列、
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のキメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のキメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子を含むベクターであって、該ベクターは、好ましくは、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター等のウイルスベクター、形質移入運搬体としてのナノ粒子、トランスポゾン、又はRNAベクターである、ベクター。
【請求項11】
主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原、好ましくは、請求項4~7の一項以上に記載の自己抗原と、
膜貫通ドメインと、
細胞内シグナル伝達ドメインと、
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸分子によってコードされるキメラ自己抗体受容体(CAAR)ポリペプチド。
【請求項12】
配列番号28(ATD-S1-S2)又は配列番号29(ATD-S1)又は配列番号30(ATD)又は配列番号31(ATD-ICOS)による配列を含む、請求項11に記載のキメラ自己抗体受容体(CAAR)ポリペプチド。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸分子若しくは請求項10に記載のベクターを含む、及び/又は請求項11若しくは12に記載のCAARを発現する、遺伝子改変免疫細胞。
【請求項14】
前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞、マクロファージ、又は樹状細胞からなる群から選択され、ここで、Tリンパ球は、好ましくはCD8+細胞傷害性Tリンパ球及び/又はCD4+細胞傷害性Tリンパ球、又はそれらの混合物である、請求項13に記載の遺伝子改変免疫細胞。
【請求項15】
自己免疫性脳症又は自己免疫性脳脊髄症等の、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患の処置又は予防に使用される、請求項13又は14に記載の免疫細胞。
【請求項16】
前記自己免疫疾患は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)に対する自己抗体に関連する病状であり、好ましくは、該病状は、抗NMDAR脳炎である、請求項15に記載の医薬として使用される免疫細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラ自己抗体受容体を使用する標的化細胞療法の分野、及び神経学的自己免疫疾患の処置に関する。
【0002】
本発明は、免疫細胞を自己抗体産生B細胞に標的化することができるキメラ自己抗体受容体(CAAR)に関する。CAARは、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片を含む。本発明は、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子であって、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片をコードする配列と、膜貫通ドメインをコードする配列と、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列とを含む、核酸分子に関する。
【0003】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)又は1つ以上のNMDAR断片を含む又はそれらからなる。さらに、本発明は、本発明のキメラ自己抗体受容体(CAAR)タンパク質、本発明のキメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子を含むベクター、CAARをコードする核酸分子を含む遺伝子改変免疫細胞、及び自己免疫性脳症又は自己免疫性脳脊髄症、好ましくは抗NMDAR脳炎等の、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患の処置又は予防における免疫細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
神経系疾患の主要構成要素である自己免疫は、自身の身体の臓器に対する見当違いの免疫応答である。神経学的自己免疫疾患は、自己免疫(自己抗体)が中枢神経系又は末梢神経系内の構造物を標的とする場合に発生する。抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体脳炎(抗NMDAR脳炎)は、NMDA受容体のNR1サブユニットに対する自己抗体が形成され、脳内のNMDA受容体(NMDAR)に結合する自己免疫神経精神疾患として最近発見された(非特許文献1)。自己抗体のNMDARへの結合は、受容体の細胞内陥入を引き起こすため、冒された神経細胞の機能不全を引き起こし(非特許文献2)、これは一般に、癲癇性発作、意識障害、運動障害、記憶喪失、及び精神病の兆候等の症状を特徴とする(非特許文献3、非特許文献4)。
【0005】
患者の血液及び脳脊髄液から自己抗体を除去すると、かなりの臨床的改善がもたらされるため、多くの患者は、上記自己抗体を除去する適切な処置の後には自立した生活を送ることができる。しかしながら、ステロイド処置、血漿交換、シクロホスファミド処置又は(抗体産生B細胞を枯渇させる)リツキシマブ処置等の非特異的免疫抑制を使用する確立された治療アプローチには重大な問題が付随する。これらの処置は患者の状態の改善をもたらしたものの、重大な副作用を伴う(非特許文献1)。
【0006】
血漿交換の場合に、不所望な副作用が、典型的には、中心静脈カテーテルによって引き起こされる損傷、降圧調節不全及び/又は循環調節不全等の、すなわち体液移動に起因する循環障害、血栓症を伴う凝固障害、並びに敗血症を含む感染症の発症として生じる。
【0007】
薬物誘発性免疫抑制は、特に、時に重大な既知の薬理療法の副作用に加えて、重度の感染症を引き起こしやすい。さらに、ワクチン接種による予防、並びに細菌感染及びウイルス感染に挑む有益な抗体による身体の保護が、非特異的な免疫療法によって打ち消される可能性がある。
【0008】
例えば、自己抗体の除去自体は概して、自己抗体産生細胞、すなわち、疾患を引き起こす要因の根源の除去にはつながらない。抗NMDAR脳炎の急性期には、原因となるB細胞によって相当な量の疾患を引き起こす自己抗体が産生される。原因となるB細胞が活性を維持している限り、この産生は自己抗体の除去によっては阻止されないため、アフェレーシス等のような繰り返しの自己抗体除去処置の必要性につながる。
【0009】
これらの問題は、疾患特異的自己抗体及びその産生の原因を除去する選択的アプローチによってのみ解決され得る。現在まで、本発明者らの知る限りでは、この原理に従って機能する神経学的自己免疫疾患の処置、すなわち選択された自己免疫抗体産生細胞の特異的除去に、有効な治療選択肢は利用可能ではない。
【0010】
一般的に言えば、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞(CAR-T細胞)は、その活性化がT細胞に位置するCARの抗体と標的細胞の表面上の標的ペプチドとの間の結合に依存するように遺伝子操作されたヒトT細胞である。CAR-T細胞は主として癌療法に使用され、そこでは、CAR-T細胞がCARの抗原部分を介して腫瘍特異的エピトープを検知し、T細胞に媒介される細胞傷害活性を選択的に活性化して腫瘍細胞を殺傷する。白血病B細胞及びリンパ腫B細胞上のCD19抗原を標的とする養子キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法は、相当な臨床的有効性をもたらし、現在では、40を超えるCD19 CAR-T細胞研究がB-NHL及びB-ALLの処置のためにFDAに登録されている。
【0011】
しかしながら、本発明では、操作されたT細胞(CAAR-T細胞)から発現されるキメラ自己抗体受容体(CAAR)であって、抗体断片の代わりに標的化ドメインとして、神経学的自己免疫疾患で現れ、疾患を引き起こすB細胞によって提示される自己抗体によって結合される自己抗原を含む、CAARが使用される。CAAR-自己抗原は、操作されたT細胞を自己抗体産生B細胞に誘導し、その際、自己抗体とCAAR-自己抗原との間の結合により、操作されたT細胞の活性化、及び疾患特異的B細胞の溶解をもたらす毒性メディエーターの放出が引き起こされる(図1A)。他のB細胞(例えばワクチン接種後に、例えば有益な抗体を産生/提示している細胞)は、T細胞に媒介されるB細胞の枯渇から免れ続ける(図1B)。
【0012】
非特許文献5及び特許文献1は、皮膚細胞接着タンパク質デスモグレイン3(Dsg3)に結合する自己抗体に対して指向されるCAAR-T構築物を使用する同様のアプローチを記載している。Dsg3自己抗体産生B細胞の枯渇が達成された。
【0013】
非特許文献6は、筋肉特異的キナーゼ(MuSK)-MGの実験的自己免疫性MuSK筋無力症(EAMM)のラットモデルにおいて自己抗体産生B細胞を攻撃するキメラ自己抗体受容体(CAAR)発現T細胞(CAART)も提案している。CAARの場合には、自己免疫B細胞の表面上に提示される抗MuSK自己抗体を標的とするために、従来のCARの一本鎖抗腫瘍Fvが、自己抗原であるMuSK外部ドメインに置き換えられた。
【0014】
非特許文献7は、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現するレンチウイルスベクター改変T細胞を開示している。非特許文献8は、非特許文献7を参照し、非特許文献5で開示されているDsg3-CAARについて言及している。これらの参考文献はいずれも、標的化ドメインとして、神経学的自己免疫疾患で現れる自己抗体によって結合される自己抗原を含むCAARを教示していない。
【0015】
特許文献2は、自己抗体産生B細胞に特異的なキメラ自己抗体受容体(CAAR)を教示している。そのような自己抗原の一例として、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体が提案されている。しかしながら、この実施の形態についての実験的裏付けは示されておらず、エフェクターT細胞はそのような構築物に使用することから除外されている。特許文献3は、Treg細胞がキメラ受容体を含み、上記キメラ受容体がB細胞表面マーカーを認識する、Treg細胞の単一特異性集団を教示している。神経学的自己免疫疾患における自己抗体によって結合される自己抗原を含むCAARについては言及されていない。
【0016】
非特許文献9及び非特許文献10は、CAAR技術の概要を示し、非特許文献5のCAARを参照している。非特許文献11、特許文献4、非特許文献2、及び非特許文献12は、NMDAR脳炎及びNMDAR自己抗体に関する背景情報を示している。神経学的自己免疫疾患における自己抗体によって結合される自己抗原を含むCAARについては言及されていない。
【0017】
したがって、本発明は、神経学的自己免疫疾患の処置における広範かつ非特異的な免疫枯渇及び免疫抑制の問題に取り組んでいる。神経学的自己免疫疾患を処置する多くの潜在的な代替案が確立されている又は開発中であるが、そのような疾患に対処するのに有効な手段、特に、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患を広範な免疫抑制を避けて処置するのに有効な手段を提供することに重要な必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2015/168613号
【特許文献2】国際公開第2018/127585号
【特許文献3】国際公開第2018/127584号
【特許文献4】国際公開第2015/177512号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Titulaer et al. Lancet Neurol. 2013;12:157-165.
【非特許文献2】Kreye et al, Brain, Vol. 139, No. 10, 2016, 2641-2652
【非特許文献3】Dalmau et al. Lancet Neurol. 2011;10:63-74.
【非特許文献4】Pruess, H. Neurotransmitter 2017;28, 34-41.
【非特許文献5】Ellebrecht et al. Science 2016;353(6295):179-84.
【非特許文献6】Richmanら(NIHグラント申請9600548)
【非特許文献7】Fransson et al. J. of Neuroinflammation, vol. 9, no. 1, 2012, 112
【非特許文献8】Ryan et al, Advanced Drug Delivery Reviews, Vol. 114, 2017, 240-255
【非特許文献9】Chatenoud, Nature Biotechnology, Vol. 34, No. 9, 2016, 930-932
【非特許文献10】Tahir, Cureus, 2018 XP055647054, ISSN: 2168-8184
【非特許文献11】Ludwig et al, Frontiers In Immunology, Vol. 8, 2017, XP055420435
【非特許文献12】McKee et al, Rare Disease Review, 2017, XP055647052
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従来技術に鑑みて、本発明の基礎をなす技術的課題は、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患、好ましくは抗NMDAR脳炎等の神経学的自己免疫疾患を処置及び/又は予防する代替的な又は改善された手段を提供することであった。本発明の更なる目的は、広範囲にわたる非特異的な免疫抑制を回避又は最小限に抑えながら、そのような治療選択肢を与えることであった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この課題は、独立請求項の特徴により解決される。本発明の好ましい実施の形態は、従属請求項により提供される。
【0022】
したがって、本発明は、キメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子であって、
i. 主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片をコードする配列と、
ii. 膜貫通ドメインをコードする配列と、
iii. 細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列と、
を含む、核酸分子に関する。
【0023】
本発明者らの知る限りでは、本発明のCAARは、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患の処置に向けた初めての自己抗体特異的細胞免疫療法アプローチを表す。本明細書に記載される自己抗原を含む構築物が、以下の実施例で適用されるin vitroモデル及びin vivoモデルにおいてそのような優れた自己抗体特異的B細胞枯渇を示すというのは驚くべきことであった。
【0024】
本発明は、従来技術に記載された処置、例えば本明細書に記載されるCAAR、及び対応するCAAR改変免疫細胞を含む本発明の関連する態様に対する多くの根本的な改善及び利点をもたらし、本明細書に記載される神経学的自己免疫疾患の処置に向けた選択的で潜在的に治癒的なアプローチを可能にする。CAAR改変免疫細胞の標的化ドメインとして、神経学的自己免疫疾患における自己抗体によって結合される自己抗原を組み込むことによって達成される自己抗体特異性は、広範な免疫抑制をほとんど又は全く伴わずに疾患因子の選択的な除去をもたらす。さらに、自己抗体産生B細胞の排除は、疾患因子の根本的な原因が取り除かれるため、因果関係のレベルで疾患に対処され、疾患の長期的又は永続的な緩和の可能性の向上をもたらすような潜在的な治癒的効果を表す。この利点の組合せは、広範な免疫抑制又は疾患再発による潜在的な副作用に関して低いリスクプロファイルを有する予想外に有効なアプローチに相当する。
【0025】
したがって、本明細書に記載される構築物で使用される特定の自己抗原は、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患における自己抗体によって標的とされる自己抗原の新規な本発明による群を表す。したがって、本発明により処置される特定の病状も、自己抗体が主に中枢神経系を標的とする新規な本発明による自己免疫疾患の群を表す。
【0026】
本発明は、例えば、重症筋無力症等の末梢神経学的自己免疫疾患の処置におけるそのようなCAAR構築物の以前の報告に対する驚くべき有益な進歩を表す。主に中枢神経系の自己抗原を標的とする自己抗体の効果的な枯渇は、同様のCAAR構築物の以前の報告に対する大幅な驚くべき医学的進歩を表す。
【0027】
当業者は、本発明のCAARに導入するために、主に中枢神経系を標的とする自己抗体の標的であることが知られている適切な自己抗原を選択することができる。例えば、任意の所与の自己抗原に対する血清抗体又は脳脊髄液(CSF)抗体の存在は、本発明における自己抗原の適性を示す。そのような自己免疫疾患の様々な部分群を以下に示すが、これらは本発明の好ましい非限定的な実施の形態を表す。
【0028】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、自己免疫性脳症又は自己免疫性脳脊髄症において自己抗体によって結合される。
【0029】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体脳炎(抗NMDAR脳炎)において自己抗体によって結合される。
【0030】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)又は1つ以上のNMDAR断片を含む又はそれらからなる。
【0031】
抗N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体脳炎は、Dalmauと同僚(Dalmau et al 2008)によって初めて報告され、彼らは顕著な神経精神症状を呈する複数の患者を特定した。全員がNMDA受容体に対する血清抗体又は脳脊髄液(CSF)抗体を有することが確認された。抗NMDAR脳炎は重度の疾患であり、患者は典型的には、焦燥、奇妙な脱抑制行動、妄想、幻聴及び幻視等の精神症状、短期記憶喪失等の認知機能障害、運動障害及び口顔面ジスキネジア等の運動機能障害、並びに癲癇性発作を示す。
【0032】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、NMDA受容体のNR1サブユニット又はその1つ以上の断片を含む又はそれらからなる。
【0033】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、NMDA受容体のNR2サブユニット又はその1つ以上の断片を含む又はそれらからなる。
【0034】
研究により、NR1サブユニットの細胞外N末端ドメインが、抗NMDAR脳炎における疾患を引き起こす自己抗体の主要なエピトープであることが明らかになった。したがって、NMDARの様々な部分を使用することができるため、NR1サブユニット又はその1つ以上の断片が好ましい。
【0035】
NMDA受容体の様々なドメインを定義するのに使用される名称は、本発明に対する限定とは見なされない。したがって、ドメインの代替的な名称が相応して含まれる。例えば、「GluN1」という用語は、関連文献において「NR1」という用語を表すのに使用されており、「GluN2」という用語は、文献において「NR2」を表すのに使用されている。加えて、GRIN1(グルタミン酸イオンチャネル型受容体NMDA型サブユニット1)という用語は、例えば、NCBIデータベースで遺伝子ID:2902として、NR1サブユニットを記載するのに使用されている。当該技術分野で通常使用されるように、NR1、MRD8、GluN1、NMDA1、NDHMSD、NDHMSR、NMD-R1、及びNMDAR1等の代替的な名称が使用され得る。したがって、この代替的なNMDARドメインの名称及び対応するドメインは、本発明によって包含される。
【0036】
細胞ベースのアッセイ若しくは固定されていないマウス脳切片の免疫組織化学を使用する方法論、又は様々な実験条件下で使用される同様の方法論等のNMDAR由来の自己抗原及び関連のエピトープを決定する方法論は当業者に知られている。自己抗原の種々のサブユニット(例えば、NR1及び/又はNR2、又はそれらの様々な断片)又は種々の体液(血清、血漿、又はCSF)を使用することができ、種々の免疫グロブリン(限定されるものではないが、IgG、IgA、及び/又はIgM)を検出することができる。
【0037】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、NMDA受容体のアミノ末端ドメイン(ATD)又はその1つ以上の断片を含む又はそれらからなる。
【0038】
更なる実施の形態において、NMDA受容体又はNMDA受容体の任意の所与のドメインの1つ以上の断片は、関連の疾患に存在する自己抗体によって結合される断片である。当業者は、本明細書に記載される関連の疾患のいずれかにおいて自己抗体を検出することができ、更に上記抗体によって結合される自己抗原を決定することができる。したがって、自己抗原は、本発明のCAARにおいて相応して使用され得る。
【0039】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、NMDA受容体のアミノ末端ドメイン(ATD)、S1ドメイン及びS2ドメイン、又はそれらの1つ以上の断片、並びに任意に上記ドメイン又はその断片の間に配置されるリンカー又はスペーサーを含む又はそれらからなる。
【0040】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、NMDA受容体のアミノ末端ドメイン(ATD)、及びS1ドメイン及び/又はS2ドメイン、又はそれらの1つ以上の断片、並びに任意に上記ドメイン又はその断片の間に配置されるリンカー又はスペーサーを含む又はそれらからなる。
【0041】
以下の実施例に示されるように、NMDARのアミノ末端ドメインとS1ドメイン及びS2ドメインとを組み合わせて使用すると、効果的な自己抗体結合に続いて、病原性自己抗体を産生する細胞の枯渇がもたらされる。
【0042】
一実施の形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、ロイシンリッチグリオーマ不活性化1(LGI1)、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸受容体(AMPAR)、Ig様ドメイン含有タンパク質5(IgLON5)、代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、コンタクチン関連タンパク質様2(CASPR2)、GABA-A及び/又はGABA-B等のガンマアミノ酪酸(GABA)受容体、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)及びアクアポリン-4(AQP4)からなる群から選択されるタンパク質、又はそれらの1つ以上の断片を含む又はそれらからなる。
【0043】
上記の追加の自己抗原は、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患における病原性自己抗体の標的であることが知られている。当業者は、抗原が本明細書に記載されるアプローチに適しているかどうかを判断することができる。任意の所与の固定化された候補自己抗原を用い、これらを引き続き、尿、血液、血清、又はCSF等の患者試料とともにインキュベートした後に、固定化された抗原に結合した抗体の検出を行い、任意の所与の自己抗原が、CAARで操作された免疫細胞の活性を誘導して対象となる特定の病原性B細胞を枯渇させるのに適した標的化ドメインに相当するかどうかを判断する、例えばELISA技術を使用した定型的な方法を適用することができる。
【0044】
さらに、本発明のCAAR構築物は、予想外の有利な特性を示す。例えば、本発明によるCAARが形質導入されたT細胞は、可溶性のNR1反応性抗体が細胞培養培地に存在する場合に、殺傷効率のわずかな低下しか示さない。以下でより詳細に記載されるこのデータは、本発明によるCAAR発現細胞が、患者に見られるのと同様の状況で、すなわち、可溶性のNR1反応性抗体が存在し、本発明によるCAAR発現細胞の結合標的として潜在的に競合している場合に、それらの機能を維持することを裏付けている。この特性は、従来技術から予想し又は導き出すことはできず、本発明によるCAARによって導かれる優れた活性を示している。これらの利点は、ATD-CAAR細胞及びATD-S1-S2-T細胞の両方に特に関係している。
【0045】
本発明の一実施の形態において、T細胞等のCAAR発現細胞は、可溶性の反応性抗体の存在下で不所望な自己抗体を提示する標的細胞に対する細胞傷害活性を維持する。好ましい実施の形態において、CAARは、NMDA受容体のアミノ末端ドメイン(ATD)、S1ドメイン及びS2ドメイン又はそれらの1つ以上の断片を含む又はそれらからなる自己抗原と、任意に上記ドメイン又はその断片の間に配置されるリンカー又はスペーサーとを含む。
【0046】
本発明のCAARの有益な特性の更なる例は、CAAR-T細胞等の本発明によるCAARを発現する細胞が、臨床的に承認されたチロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブを使用して一時的に停止され得ることである。したがって、この特性は、T細胞等のCAAR発現細胞をダサチニブという薬物を使用して一時的に不活性化して、急性毒性の軽減を補助することができる「安全性戦略」を可能にする。投与されたCAAR発現細胞の細胞傷害性が何らかの不所望な効果をもたらすならば、ダサチニブを投与してそれらの活性を一時的に不活性化することができる。CAAR発現細胞は、該薬物が中止された後に(不所望な自己抗体を提示する細胞に対する)それらの細胞傷害性効果を回復することができる。したがって、ダサチニブの併用投与は、CAAR発現細胞の細胞傷害性を調節するためのオプションであり、副作用のタイトレーションに又は投与後の安全スイッチとして有用である。この特性は、従来技術から予想し又は導き出すことはできず、本発明によるCAARによって導かれる優れた活性を示している。これらの利点は、ATD-CAAR細胞及びATD-S1-S2-T細胞の両方に特に関係している。
【0047】
本発明の一実施の形態において、T細胞等のCAAR発現細胞は、適切な作用物質、好ましくはダサチニブでの処置によって一時的に阻害され得る。好ましい実施の形態において、CAARは、NMDA受容体のアミノ末端ドメイン(ATD)、S1ドメイン及びS2ドメイン又はそれらの1つ以上の断片を含む又はそれらからなる自己抗原と、任意に上記ドメイン又はその断片の間に配置されるリンカー又はスペーサーとを含む。
【0048】
幾つかの実施の形態において、CAAR構築物は更に、形質導入マーカー(好ましくは、短縮型上皮成長因子受容体;EGFRt)等のマーカーをコードする(したがって、CAARポリペプチドはこれらを含む)ため、より多数のCAAR陽性T細胞が濃縮され得る。更なる利点として、追加の形質導入マーカーを有する構築物は、invivoの状況において、救急薬としてのセツキシマブ等の治療用抗体による処置を通じて治療の制御された終結を可能にし得る。したがって、これらの構築物は、操作された細胞を選択、in vivo追跡、及び/又は除去(ablation)する導入遺伝子にコードされた細胞表面ポリペプチドを含む。
【0049】
更なる実施の形態において、本明細書に記載されるCAARをコードする核酸分子は、以下の特徴の1つ以上を特徴とする:
膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメイン、ICOS膜貫通ドメイン、又はCD8α膜貫通ドメインであり、
細胞内ドメインは、CD28共刺激ドメイン、ICOS共刺激ドメイン、若しくはCD137(4-1BB)共刺激ドメイン、又はそれらの任意の組合せを含み、
細胞内ドメインは、CD3ζ鎖シグナル伝達ドメインを含み、及び/又は、
核酸分子は、自己抗原と膜貫通ドメインとの間に、及び/又は自己抗原の断片のN末端に及び/又は自己抗原の断片の間に、及び/又は膜貫通ドメインと細胞内共刺激ドメインとの間に配置される1つ以上のリーダーポリペプチド、リンカーポリペプチド、及び/又はスペーサーポリペプチドをコードする1つ以上の配列を更に含む。
【0050】
以下の実施例に示されるように、上記の膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、及びシグナル伝達ドメインは、任意に本明細書に記載されるリンカーと組み合わせて、効果的な自己抗体特異的B細胞枯渇をもたらす。これらの好ましい実施の形態は限定されるものではなく、当業者は、本明細書において述べられるそれらの好ましい実施の形態の代わりに代替的なCAR構築物を使用することができる。
【0051】
更なる実施の形態において、本発明のCAARは、共刺激ドメイン(膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメイン)が、CD28、CD137(4-1BB)、ICOS、CD134(OX40)、DaplO、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1、Lck、TNFR-J、TNFR-II、Fas、CD30、CD40の任意の1つ以上、及びそれらの組合せからのシグナル伝達ドメインを含むことを特徴とする。
【0052】
更なる実施の形態において、本発明のCAARは、膜貫通ドメインが、I型膜貫通タンパク質の人工的疎水性配列及び膜貫通ドメイン、T細胞受容体のα鎖、β鎖、又はζ鎖、CD28、ICOS、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及びCD154から選択されることを特徴とする。
【0053】
更なる実施の形態において、本発明のCAARは、細胞内シグナル伝達ドメインが、ヒトCD3ζ鎖、FcyRIII、FccRI、Fc受容体の細胞質テール、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を有する細胞質受容体、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dの1つ以上、並びにそれらの組合せのシグナル伝達ドメインを含むことを特徴とする。
【0054】
以下に記載される実施の形態は、本発明者らによって開発されたCAAR構築物の好ましいが非限定的な実施の形態を表す。以下に記載される特定のドメインの変形形態が企図されており、本発明の範囲内に包含される。
【0055】
更なる実施の形態において、本明細書に記載されるキメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子は、
i.好ましくは、それぞれ配列番号1又は配列番号2による配列を含む、好ましくはCD8リーダーポリペプチド又はNR1リーダーポリペプチドであるリーダーポリペプチドをコードする配列、
ii.好ましくは、配列番号3(ATD)及び/又は配列番号4(S1)及び/又は配列番号5(S2)及び/又は配列番号6(NR1)による配列、又はNMDAR NR1タンパク質の自己抗原性断片をコードする配列番号6の任意の部分配列を含む、好ましくはN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)又は1つ以上のNMDAR断片である自己抗原をコードする配列、
iii.任意に、好ましくは、GGCACC(リンカー-1)による配列を含む、1つ以上のNMDAR断片の間に配置されるリンカーポリペプチドをコードする配列、
iv.任意に、好ましくは、配列番号7(リンカー-2)又は配列番号32(リンカー-2b)による配列を含む、自己抗原と膜貫通ドメインとの間に配置されるリンカーポリペプチドをコードする配列、
v.好ましくは、配列番号8(CD8α)又は配列番号9(ICOS)による配列を含む、膜貫通ドメイン、好ましくはCD8α膜貫通ドメイン又はICOS膜貫通ドメインをコードする配列、
vi.任意に、好ましくは、GGCAGC(リンカー-3)による配列を含む、膜貫通ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインとの間に配置されるリンカーポリペプチドをコードする配列、及び/又は、
vii.好ましくは、それぞれ配列番号10(CD137)及び配列番号11(CD3z)による配列を含む、好ましくはCD137(4-1BB)共刺激ドメイン及びCD3ζ鎖シグナル伝達ドメインを含み、任意に、共刺激ドメインとシグナル伝達ドメインの間にリンカー配列が配置されている細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列、
を含む。
【0056】
幾つかの実施の形態において、本明細書に記載されるキメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子は、配列番号24(ATD-S1-S2)又は配列番号25(ATD-S1)又は配列番号26(ATD)又は配列番号27(ATD-ICOS)による配列を含む。
【0057】
好ましい実施の形態において、本発明は、任意に、
a)以下のヌクレオチド配列、
本明細書に記載されるCAARポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
標的化(すなわち、細胞外抗原結合(自己抗体結合))ドメイン又はその一部をコードし、配列番号3、配列番号4、配列番号5、及び/又は配列番号6の1つ以上を含むヌクレオチド配列、及び/又は、
本明細書に記載されるCAARポリペプチドをコードし、配列番号24、配列番号25、配列番号26、及び/又は配列番号27の1つ以上を含むヌクレオチド配列、
を含む核酸分子、
b)a)によるヌクレオチド配列に相補的である核酸分子、
c)a)又はb)によるヌクレオチド配列と機能的に類似/同等であるのに十分な配列同一性を有するヌクレオチド配列を含み、好ましくはa)又はb)によるヌクレオチド配列に対して少なくとも50%、好ましくは60%、70%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有する核酸分子、
d)遺伝暗号の結果として、a)~c)によるヌクレオチド配列に縮重される核酸分子、及び/又は、
e)欠失、付加、置換、転座、逆位、及び/又は挿入によって修飾され、かつa)~d)によるヌクレオチド配列と機能的に類似/同等である、a)~d)のヌクレオチド配列による核酸分子、
からなる群から選択される、単離されたウイルスベクター又はトランスポゾン等の単離されたベクターの形態の単離された核酸分子に関する。
【0058】
本明細書に記載されるヌクレオチド配列の長さの変形形態もまた、本発明によって包含される。当業者は、配列番号3~配列番号6よりも長い又は短いけれども、本明細書に記載されるタンパク質をコードするのに十分な類似性を示して、所望の結果をもたらす核酸配列バリアントを提供することができる。
【0059】
例えば、開示された形態よりも10個、20個、30個、40個、又は最大50個少ない核酸を含む配列番号3~配列番号6のより短いバリアントもまた、本明細書に記載されるように自己抗原の効果的なコーディングを可能にし得る。したがって、配列番号3~配列番号6の断片も考慮に入れられる。さらに、配列番号3~配列番号6よりも10個、20個、30個、40個、又は最大50個多い任意の所与の追加の配列の核酸を含む配列番号3~配列番号6のより長いバリアントもまた、本明細書に記載されるように効果的な結果を可能にし得る。
【0060】
更なる態様において、本発明は、本明細書に記載されるキメラ自己抗体受容体(CAAR)をコードする核酸分子を含むベクターに関する。
【0061】
幾つかの実施の形態において、ベクターは、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクター等のウイルスベクターである。
【0062】
幾つかの実施の形態において、ベクターは、形質移入運搬体としてのナノ粒子である。
【0063】
幾つかの実施の形態において、ベクターは、トランスポゾン又はRNAベクターである。
【0064】
幾つかの実施の形態において、ベクターは、sleepingbeautyトランスポゾン、好ましくはSB100/pT4 sleeping beautyトランスポゾンである。
【0065】
幾つかの実施の形態において、ベクターは、CRISPR/Cas9媒介遺伝子改変を介した細胞へのCAARをコードする配列の組み込みに適している。
【0066】
所望のポリペプチドを発現させるには、CAARポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が適切なベクターへと挿入され得る。ベクターの例は、プラスミド、自律複製配列、及び転移因子である。追加の例示的なベクターとしては、限定されるものではないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、又はP1由来の人工染色体(PAC)等の人工染色体、ラムダファージ又はM13ファージ等のバクテリオファージ、及び動物ウイルスが挙げられる。CAARをコードするヌクレオチド配列は、CRISPR/Cas9媒介遺伝子改変を介した細胞への組み込みに適した形態で存在する場合もある。
【0067】
更なる態様において、本発明は、好ましくは、上記の請求項のいずれか一項に記載の核酸分子によってコードされるキメラ自己抗体受容体(CAAR)ポリペプチドであって、
主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原、好ましくは、上記に詳細に記載された自己抗原、例えば、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)若しくは1つ以上のNMDAR断片、ロイシンリッチグリオーマ不活性化1(LGI1)、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸受容体(AMPAR)、Ig様ドメイン含有タンパク質5(IgLON5)、代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、コンタクチン関連タンパク質様2(CASPR2)、GABA-A及び/又はGABA-B等のガンマアミノ酪酸(GABA)受容体、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)及びアクアポリン-4(AQP4)、又はそれらの1つ以上の断片と、
膜貫通ドメインと、
細胞内シグナル伝達ドメインと、
を含む、CAARに関する。
【0068】
幾つかの実施の形態において、キメラ自己抗体受容体(CAAR)ポリペプチドは、
i. リーダーポリペプチドであって、好ましくは、それぞれ配列番号12又は配列番号13によるCD8リーダーポリペプチド又はNR1リーダーポリペプチドである、リーダーポリペプチド、
ii. 自己抗原であって、好ましくは、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)又は1つ以上のNMDAR断片であり、好ましくは、配列番号14(ATD)及び/又は配列番号15(S1)及び/又は配列番号16(S2)及び/又は配列番号17(NR1)による配列、又はNMDARNR1タンパク質の自己抗原性断片(すなわち、病原性自己抗体によって結合される断片)である配列番号17の任意の部分配列を含む、自己抗原、
iii. 任意に、1つ以上のNMDAR断片の間に配置されるリンカーポリペプチドであって、好ましくは、GT(リンカー-1)による配列を含む、リンカーポリペプチド、
iv. 任意に、自己抗原と膜貫通ドメインとの間に配置されるリンカーポリペプチドであって、好ましくは、配列番号18又は配列番号19(リンカー-2又はリンカー-2b)による配列を含む、リンカーポリペプチド、
v. 膜貫通ドメインであって、好ましくは、配列番号20(CD8α)又は配列番号21(ICOS)による配列を含む、膜貫通ドメイン、好ましくはCD8α膜貫通ドメイン又はICOS膜貫通ドメイン、
vi. 任意に、膜貫通ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインとの間に配置されるリンカーポリペプチドであって、好ましくは、GS(リンカー-3)による配列を含む、リンカーポリペプチド、及び/又は、
vii. 細胞内シグナル伝達ドメインであって、好ましくは、CD137(4-1BB)共刺激ドメイン及びCD3ζ鎖シグナル伝達ドメインを含み、好ましくは、上記ドメインは、それぞれ配列番号22(CD137)及び配列番号23(CD3z)による配列を含み、任意に、共刺激ドメインとシグナル伝達ドメインとの間にリンカー配列が配置されている、細胞内シグナル伝達ドメイン、
を含む。
【0069】
幾つかの実施の形態において、本明細書に記載されるキメラ自己抗体受容体(CAAR)は、配列番号28(ATD-S1-S2)又は配列番号29(ATD-S1)又は配列番号30(ATD)又は配列番号31(ATD-ICOS)による配列を含む。
【0070】
本明細書に記載されるヌクレオチド配列の長さの変形形態もまた、本発明によって包含される。当業者は、配列番号14~配列番号17よりも長い又は短いけれども、本明細書に記載される特定のタンパク質と十分な類似性を示して、所望の結果をもたらすアミノ酸配列バリアントを提供することができる。例えば、完全長形態よりも10個、20個、30個、40個、又は最大50個少ないアミノ酸を含む配列番号14~配列番号17のより短いバリアントもまた、本明細書に記載されるように効果的な結合を可能にし得る。したがって、配列番号14~配列番号17の断片も考慮に入れられる。さらに、10個、20個、30個、40個、又は最大50個の任意の所与の追加の配列のアミノ酸を含む配列番号14~配列番号17のより長いバリアントもまた、本明細書に記載されるように効果的な結果を可能にし得る。
【0071】
本発明の他の実施の形態において、使用される自己抗原タンパク質は、配列番号14~配列番号17に対して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む又は該アミノ酸配列からなり得る。好ましくは、配列バリアントは、配列番号14~配列番号17に対して少なくとも80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有し、好ましくは、本明細書に記載される特定のヒトタンパク質に対して機能的類似性を示す。機能的類似性は、本明細書に記載されるのと同じ又は同様の自己抗原結合及び/又は自己抗体特異的B細胞枯渇の決定を介して評価される。所望の結合を決定するのに適したin vitroアッセイは、当業者に知られている。
【0072】
アミノ酸配列はまた、0個~100個、2個~50個、5個~20個、若しくは例えば8個~15個、又は0個~20個の任意の値の、配列番号14~配列番号17のタンパク質のN末端及び/又はC末端のいずれかでのアミノ酸の付加又は欠失を含み得る。自己抗体結合に関するタンパク質の特性が本質的に維持されている限り、追加のリンカー配列又は配列の除去により末端が修飾されている場合もある。
【0073】
本発明の追加の驚くべき態様は、本明細書に開示されるCAARの改善された安定性である。CAARポリペプチドは、結合親和性を一切失わずに、適切な条件下で長期間容易に貯蔵され得る。
【0074】
本発明の好ましいアミノ酸配列及びヌクレオチド配列:
【表1-1】

【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【0075】
更なる態様において、本発明は、本明細書に記載されるCAARをコードする核酸分子を含む遺伝子改変免疫細胞、又はそのような核酸分子を含む及び/又は本明細書に記載されるCAARを発現するベクターに関する。
【0076】
一実施の形態において、遺伝子改変免疫細胞は、T細胞、NK細胞、マクロファージ、又は樹状細胞からなる群から選択される。
【0077】
一実施の形態において、本明細書に記載される遺伝子改変免疫細胞は、Tリンパ球(T細胞)であり、上記Tリンパ球は、CD8+細胞傷害性Tリンパ球及び/又はCD4+細胞傷害性Tリンパ球、又はそれらの混合物である。
【0078】
幾つかの実施の形態において、CAARで操作された免疫細胞をTCRの欠失について編集して、GVHD反応を回避することができる。幾つかの実施の形態において、CAARで操作された免疫細胞をHLAの欠失について編集して、同種異系拒絶反応を回避し、「汎用的なCAAR-T細胞」になることができる。
【0079】
好ましい実施の形態において、免疫細胞は、好ましくは、Tリンパ球、NK細胞、マクロファージ、又は樹状細胞である。幾つかの好ましい実施の形態において、免疫細胞は、細胞傷害性であり、好ましくは、自己抗体提示B細胞及び/又は分泌B細胞に対して細胞傷害性である。細胞傷害性免疫細胞は、この分野において、不所望な作用物質、細胞、又は病原体に応答して細胞溶解活性及び/又は他の有益な活性を示すことが知られている。これらの細胞の活性を特定の免疫原性標的、すなわち本明細書に記載される自己抗原に向けることにより、病原性細胞は、本明細書に記載される免疫細胞の対応する活性によって排除され得る。
【0080】
好ましい実施の形態において、免疫細胞は、Tリンパ球、好ましくは細胞傷害性Tリンパ球、又はTヘルパー細胞である。
【0081】
幾つかの実施の形態において、CAARで操作された免疫細胞を、サイトカイン(例えば、IL-15、IL-12、IFNγ、IFNα、GM-CSF、FLT3L、IL-21、IL-23)又は共刺激リガンド(CD80、CD86、CD40L)を更に共発現するように操作して、免疫治療効果を改善することができる。
【0082】
幾つかの実施の形態において、CAARで操作された免疫細胞を、siRNA又はshRNA又はmiRNAを更に共発現するように操作して、T細胞受容体及び主要組織適合性複合体の発現を下方調節することができ、又はCRISPR/Casで遺伝子編集して、T細胞受容体及び主要組織適合性複合体の発現をノックアウトすることができ、こうして、これらの細胞は同種異系細胞治療薬として使用され得る。
【0083】
幾つかの実施の形態において、CAARで操作された免疫細胞を、siRNA又はshRNA又はmiRNAを更に共発現するように操作して、T細胞表面上のチェックポイント分子(PD1、Tim3、LAG等)の発現を下方調節することができ、又はCRISPR/Casで遺伝子編集して、T細胞表面上のチェックポイント分子(PD1、Tim3、LAG等)の発現をノックアウトすることができる。
【0084】
T細胞表面上の主要組織適合性複合体又はチェックポイント分子の下方調節を使用する組み合わされたアプローチでは、局所免疫環境を最適化して、本発明のCAARで操作された免疫細胞の病原性B細胞に対する細胞溶解効果を増強することにおいて、追加の潜在的に相乗的な効果がもたらされる。
【0085】
更なる態様において、本発明は、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患の処置又は予防に使用される、本明細書に記載される免疫細胞に関する。
【0086】
幾つかの実施の形態において、本発明は、自己抗体媒介性精神状態の処置又は予防において使用される、本明細書に記載される免疫細胞に関する。
【0087】
一実施の形態において、主に末梢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患の処置又は予防は、本発明により包含されない。一実施の形態において、そのような疾患は重症筋無力症である。
【0088】
幾つかの実施の形態において、本発明は、自己免疫性脳症又は自己免疫性脳脊髄症の処置又は予防に使用される、本明細書に記載される免疫細胞に関する。
【0089】
したがって、本発明は、CAARで操作された免疫細胞の医学的使用に関する。したがって、本発明はまた、本明細書に記載される病状を処置又は予防する方法であって、それを必要とする対象に(本発明のCAARを含む/発現する)本明細書に記載される免疫細胞を投与することを含む、方法を包含する。
【0090】
幾つかの実施の形態において、自己免疫性脳症は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)に対する自己抗体に関連する病状である。
【0091】
好ましい実施の形態において、処置される病状は、抗NMDAR脳炎である。
【0092】
したがって、本発明の主題は、対象における疾患又は状態の治療における本発明のCAAR又は対応する操作された免疫細胞の医学的使用であって、上記疾患又は状態が、抗NMDAR抗体に関連しており、かつ特定の実施の形態においては、以下のリスト(括弧内のICD番号は、臨床状態を規定するWHO国際疾病分類を指す):
鬱病(F32)、精神病症状を伴う躁病(F30.2)、不安(F06.4)、恐怖症性不安(F40)、妄想(F22.0)、強迫性障害(F42)、器質性妄想性障害(F06.3)、緊張病(F06.1、F20.2)、急性多形性精神病性障害(F23.0、F23.1)、解離性障害(F44)を含む精神異常
ジスキネジア/ジストニア(G24)、ミオクローヌス(G25.3)、振戦(G25.0、G25-1、G25-2)、チック(F95、G25.69)等の運動障害
癲癇性発作(G40)
低換気(R06.89)
軽度認知障害(F06.7)
アルツハイマー病における認知症(F00)、血管性認知症(F01)、その他の疾患における認知症(F02)
妊娠
による臨床症状/状態を含む群から選択される少なくとも1つの臨床症状又は臨床状態を更に有する、医学的使用である。
【0093】
本発明は、以下の利点:
NMDA受容体抗体産生B細胞の高度に選択的な除去、
短期的な治療効果と、長期的で永続的な可能性がある病原性抗体の枯渇、
臨床的再燃の予防又はリスクの大幅な低下、
重度の一般的な免疫抑制がないこと又はそれが低減されること、すなわち感染症又は敗血症のリスクが低減されること、
ワクチン接種への悪影響がないこと又はそれが低減されること、
毒性の免疫学的副作用がないこと又はそれが低減されること、
不所望な免疫学的応答が、例えばIL-6アンタゴニストを介して処置可能であること、
病原性B細胞の即時(好ましくは、数時間以内)の枯渇、
投与回数が少ないこと、好ましくは細胞の単回投与が、例えば静脈内経路を介して行われること、
を特徴とする。
【0094】
本発明によれば、任意の所与の態様の実施形態は、他の態様及び実施形態に適用することが考慮されるため、本明細書に開示される特定の実施形態の組合せが企図される。例えば、医学的処置に関して開示された実施形態をCAARの機能的特徴として含むことができ、その逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
図1】本発明のアプローチの概略図である。
図2】DMDA受容体及び対応するCAAR構築物の概略図である。
図3】NMDAR抗体とNMDAR-CAAR-T細胞との組合せにより、インターフェロン-γの放出が引き起こされることを示す図である。
図4】HEK細胞の表面上に提示されるNMDAR NR1抗体によるCAAR-T細胞の活性化を示す図である。
図5】K562細胞の表面上に提示されるNMDAR NR1抗体によるCAAR-T細胞の活性化を示す図である。
図6】CAAR-T細胞による表面NR1反応性抗体を発現するK562細胞の細胞溶解を示す図である。
図7】HEK細胞の表面上に提示されるNMDAR NR1抗体によって誘導されたCAAR-T細胞の細胞傷害性を示す図である。
図8】動物モデルにおける治療有効性を実証するin vivoアプローチの実験計画を示す図である。
図9】NR1-CAAR-T細胞がNMDAR脳炎のin-vivoモデルにおいて有効性を示すことを示す図である。
図10】ATD-CAAR及びATD-S1-S2-T細胞がダサチニブで一時的に停止され得ることを示す図である。
図11】NR1-CAAR T細胞が可溶性のNR1反応性抗体の存在下でそれらの機能を維持することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0096】
特許文献及び非特許文献の全ての引用された文書は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0097】
自己抗原及び疾患の説明:
本発明は、免疫細胞を自己抗体産生B細胞に標的化することができるキメラ自己抗体受容体(CAAR)であって、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片を含む、CAARに関する。
【0098】
したがって、CAARの自己抗原は、免疫細胞を枯渇されるB細胞に標的化させる、CARの細胞外抗原結合ドメインに相当する標的化サブユニットを表す。
【0099】
本明細書において使用される場合に、「主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患に関連する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片」という用語は、CAAR内に含まれる自己抗原の機能的定義を表す。当業者は、この部類の自己抗原及び関連する病状を決定することができる。したがって、自己抗原と抗体との間の結合は、確立された現象であり、本質的に、任意の所与の抗体とその標的との間の物理的相互作用を反映している。
【0100】
本明細書において使用される場合に、「主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患」という用語は、末梢神経系と比較して、中枢神経系で主に発現される特定の自己抗原に対して自己抗体が存在する自己免疫成分を伴う任意の病状、又は中枢神経系で発現される特定の自己抗原への自己抗体の結合が疾患の主な病原性効果である自己免疫成分を伴う任意の病状に関連する。
【0101】
自己抗体が典型的には、主に中枢神経系又は末梢神経系のいずれかの自己抗原を標的とする様々な神経学的自己免疫状態が当業者に知られている。しかしながら、自己抗体が中枢神経系及び末梢神経系の両方に存在する標的に対して指向される病状も知られている。したがって、本発明は、疾患における自己抗体標的である本発明のCAARにおける自己抗原の使用を想定しており、ここで、上記自己抗体は、主に中枢神経系の構成要素を標的とする、又は上記自己抗体の病原性効果は、中枢神経系における自己抗原を標的とする自己抗体によって引き起こされる。
【0102】
本明細書において使用される場合に、「中枢神経系」又はCNSは、脳及び脊髄からなる神経系の部分を指す。CNSは背側体腔内に収容されており、脳は頭蓋腔に収容されており、脊髄は脊柱管に収容されている。CNSは白質及び灰白質に分かれている。これは、脳組織において巨視的に見ることもできる。白質は軸索及びオリゴデンドロサイトからなり、一方で、灰白質はニューロン及び無髄線維からなる。両方の組織には、しばしばCNSの支持細胞と呼ばれるグリア細胞が多数含まれる(白質にはより多くのグリア細胞が含まれる)。
【0103】
脊髄から脊髄へは、脊髄神経の形で末梢神経系の突起がある。神経は脊髄を皮膚、関節、筋肉等に接続し、遠心性運動並びに求心性感覚信号及び刺激の伝達を可能にする。これにより、筋肉の自発的な動き及び非自発的な動き、並びに感覚の知覚が可能となる。
【0104】
本明細書において使用される場合に、「末梢神経系」(PNS)は、脳及び脊髄の以外の神経及び神経節からなる。PNSの主な機能は、CNSを手足及び臓器に接続することであり、本質的には脳及び脊髄と身体の残りの部分との間の中継として働く。CNSとは異なり、PNSは脊柱及び頭蓋骨、又は血液脳関門によって保護されていない。
【0105】
幾つかの実施形態においては本発明によって包含されない、主に末梢神経系を標的とする神経学的自己免疫状態の一例は、重症筋無力症の状態である。重症筋無力症は、呼吸並びに腕及び脚を含む身体の可動部に役割を果たす骨格筋の衰弱を引き起こす慢性の自己免疫性神経筋疾患である。重症筋無力症は、筋肉への神経インパルスの伝達の誤りによって引き起こされる。重症筋無力症は、神経と筋肉との間の正常なコミュニケーションが神経筋接合部(神経細胞がその制御する筋肉と接続する場所)で中断されるときに発生する。重症筋無力症においては、自己抗体が神経筋接合部でアセチルコリン受容体を遮断及び/又は破壊し、それにより筋肉の収縮が妨げられる。重症筋無力症のほとんどの個体において、アセチルコリン受容体自体に対する抗体によってこれが引き起こされる。しかしながら、MuSK(Muscle-Specific Kinase:筋肉特異的キナーゼ)タンパク質等の他のタンパク質に対する抗体が神経筋接合部での伝達障害を引き起こす場合もある。したがって、重症筋無力症の状態は、本発明によれば、中枢神経系ではなく、主に末梢神経系を標的とする神経学的自己免疫状態の一例である。幾つかの実施形態において、本発明は、神経筋疾患において標的とされる自己抗原が主に末梢神経系において標的とされる場合に、これらの自己抗原を包含しない。
【0106】
現在、新たな研究により、自己抗体がCNSに到達し(Zong et al 2017)、自己抗体産生B細胞がCNSに存在することが示されている。通常の条件下で、免疫グロブリンは血液脳関門(BBB)を低率で通過し、良い例は免疫グロブリンG(IgG)である。脳脊髄液(CSF)中のIgG濃度は、末梢循環中のレベルのおよそ1%である。これは、自己免疫性脳炎で観察されているように、自己抗体がCNSに到達すると、それらが疾患を引き起こし得ることを示している。或る特定の状況では、脳卒中、脳外傷、出血、細小血管障害、又は脳腫瘍のためBBBが漏洩しやすくなる場合もあり、抗体の浸透が増加する可能性がある。
【0107】
本明細書において使用される場合に、「自己抗体媒介性精神状態」という用語は、好ましくは、中枢神経系において主に標的とされる自己抗原に対する自己抗体の存在を含み、精神(神経精神)症状も観察される任意の病状に関連する。脳炎及び重度の精神障害を含む多くの中枢神経系障害は、特定の神経表面自己抗体(NSAb)と関連していることが裏付けられている。神経表面抗原及びイオンチャネルを標的とする特定の自己抗体が重度の精神障害を引き起こす、すなわち神経精神症状を引き起こすことが明らかになった。多くの研究は、統合失調症及び双極性障害等の特定の精神状態における自己抗体の存在を示している。追加の障害は、統合失調症、双極性障害、MDD、物質誘発性精神病、ハンチントン病、アルツハイマー病、及び神経精神全身性エリテマトーデス等の神経精神障害に関連している(Zong et al, 2017)。
【0108】
幾つかの実施形態においては、処置される疾患は、自己免疫性脳症又は自己免疫性脳脊髄症である。
【0109】
「脳症」は、典型的には、脳のあらゆる障害又は疾患、特に慢性変性状態である。脳症は、永続的な(又は変性)脳損傷、又は可逆的損傷を指し得る。脳症は、脳への直接的な損傷、又は脳とはかけ離れた病気が原因である場合がある。症状としては、しばしば、知的障害、癇癪、焦燥、譫妄、錯乱、傾眠、昏迷、昏睡、及び精神病が挙げられる。本明細書において使用される場合に、「自己免疫性脳症」は、自己免疫成分を伴う任意の脳疾患を指す。本明細書において使用される場合に、「自己免疫性脳脊髄症」は、自己免疫成分を伴う脳及び脊髄の両方を冒す任意の疾患である。
【0110】
抗N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体脳炎は、女性に多発する脳炎の一形態であり、NMDA受容体のNR1サブユニット及び/又はNR2サブユニットに対するが、主にNR1サブユニットに対する抗体に関連している。
【0111】
抗NMDA受容体脳炎は、数年前に、臨床症候群を詳細に特徴付けた複数の大規模な研究で初めて報告された(Dalmau et al. 2008)。抗NMDAR脳炎を伴う患者は、主に小児及び若い女性が罹る特徴的な臨床的多段階の特徴を備えた重症型の脳炎に罹患する。その脳症は、精神症状、記憶障害、及び癲癇性発作から、意識喪失、自律神経機能障害、ジスキネジア、及び低換気の状態に進行する(非特許文献3、Pruess et al. 2010、Pruess et al. 2013)。この疾患のホールマークは、NMDAR1のNR1サブユニットに対する抗体である。NMDAR脳炎は、2007年以前には脳炎の明確な下位群として認識されていなかったため、これにより脳炎の治療概念が大きく変わった。したがって、NMDAR脳炎は、以前は病因不明の脳炎と見なされていて、適切に処置されていなかった。
【0112】
NMDAR NR1は、高いカルシウム透過性及びマグネシウムに対する電位依存性感受性を備えた、ヘテロ四量体のリガンド依存性イオンチャネルとして機能するNMDA受容体複合体の構成要素である。チャネルの活性化には、神経伝達物質であるグルタメートのεサブユニットへの結合、グリシンのζサブユニットへの結合に加えて、Mg2+によるチャネル阻害を排除する膜脱分極が必要とされる。限定されるものではないが、Gene Bankアクセッション番号:XP_011516885.1、XP_005266130.1、XP_005266129.1、XP_005266128.1、NP_001172020.1、NP_001172019.1、NP_000823.4、NP_015566.1、NP_067544.1のタンパク質アイソフォーム等の多くのNMDAR NR1タンパク質のタンパク質アイソフォームが知られている。上記配列又はアイソフォーム又はそれらの機能的に類似した誘導体のいずれか1つ以上が、本明細書に記載されるCAARの自己抗原として使用され得る。
【0113】
NMDARは、様々な生理学的役割を有し、活動の増強又は減少のいずれかの機能不全は、統合失調症、双極性障害、MDD、物質誘発性精神病、ハンチントン病、アルツハイマー病、及び神経精神全身性エリテマトーデス(NPSLE)等の神経精神障害を引き起こし得る。したがって、NMDARは、鬱病を含む複数の精神障害において重要な役割を果たす。さらに、非典型認知症を伴う患者の下位群は、抗NMDAR1抗体を有し、全ての抗体を非特異的に除去することにより抗NMDAR1抗体を除去することで、選択された症例において臨床的改善が得られた(Pruess et al. 2010、Doss et al. 2014)。さらに、自閉症は、自己抗体媒介姓障害に罹患している母親の子供に起こる場合がある。幾つかの研究では、循環する母体の自己抗体の存在と新生児の神経機能不全との間に相関関係が見られた(Fox-Edmiston et al, 2015)。具体的には、妊娠中に胎児区画に到達し得る母体の抗脳自己抗体は、自閉症スペクトラム障害(ASD)を発症する1つの危険因子として特定されている。したがって、NMDAR自己抗体の存在は、罹患した母親の子孫に自閉症を引き起こし得るため、本発明はまた、そのような障害の潜在的な処置及び/又は小児におけるそのような疾患の回避に向けた予防的アプローチを表す。
【0114】
主にNR1サブユニットを標的とする自己免疫性脳炎における抗NMDARとは対照的に、NMDARのNR2サブユニットを標的とする自己抗体が見出され、これらは全身性エリテマトーデス(SLE)患者における鬱病と関連していた(Lapteva et al. 2006)。本発明の幾つかの実施形態において、核酸配列によってコードされる自己抗原は、ロイシンリッチグリオーマ不活性化1(LGI1)、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸受容体(AMPAR)、Ig様ドメイン含有タンパク質5(IgLON5)、代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、コンタクチン関連タンパク質様2(CASPR2)、GABA-A及び/又はGABA-B等のガンマアミノ酪酸(GABA)受容体、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)及びアクアポリン-4(AQP4)からなる群から選択されるタンパク質、又はそれらの1つ以上の断片を含む又はそれらからなる。
【0115】
上述の自己抗原は、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患における自己抗体の既知の標的である。
【0116】
AMPARは、CNSにおける素早い興奮性神経伝達を媒介するイオンチャネル型グルタミン酸受容体である。Laiと同僚により、辺縁系脳炎においてAMPARに対する自己抗体が初めて報告された(Lai et al, 2009)。この種類の自己免疫性脳炎の臨床的特徴は、短期記憶障害、感情的/行動的変化、及び発作、傍腫瘍性疾患との頻繁な関連、処置応答性であり、再燃する傾向を有する。
【0117】
最近の研究では、電位依存性カリウムチャネル(VGKC)複合体内の抗原性標的は、これらの膜タンパク質の細胞外ドメインを標的とする自己抗体によって結合されるため、それらが自己免疫神経学において病態生理学的役割を果たしていることが示された。例えば、自己抗体は、ロイシンリッチグリオーマ不活性化1(LGI1)及びコンタクチン関連タンパク質様2(CASPR2)の両方に結合することが知られている。LGI1抗体又はCASPR2抗体を有する患者は大部分が男性で、典型的な発症時期は中年後半であり、発作、健忘症、及び認知障害を含む辺縁系脳炎(脳炎の一形態で、自己抗体によって引き起こされる脳の炎症を特徴とする疾患)の症状を示す。
【0118】
IgLON5関連脳炎は、睡眠機能障害、延髄機能障害、舞踏病、及び進行性核上性麻痺様症状を含む種々の臨床症状を伴う症候群である。患者は、急速に進行する認知機能低下、脳磁気共鳴画像法での炎症性病変、脳脊髄液でのオリゴクローナルバンド、及びIgG1クラスの抗IgLON5抗体を呈するIgLON5関連脳炎を伴うと報告されている(Montagna et al, 2018)。
【0119】
代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5)は、ホジキンリンパ腫(HL)及び辺縁系脳症(オフィーリア症候群)を伴う患者における自己抗原として報告されている(Lancaster et al, 2011)。
【0120】
GABA-A受容体はイオンチャネル型受容体であり、GABAがリガンドである。GABA-ARのサブユニットは、脳内で種々の分布を有し、GABAに対して種々の感度で応答して、種々の機能を引き起こし得る。GABA-ARシグナル伝達の低下は、不眠症、不安、及び癲癇等の神経障害において活動亢進を惹起する。GABA-A受容体に対する自己抗体は、最近、自己免疫性脳炎において確認された(Zong 2017)。
【0121】
GABA-B受容体は、Gタンパク質依存性カリウムチャネルに連結される代謝型膜貫通型受容体である。機能的なGABA(B)受容体を欠くマウスは、より多くの不安及び無動の減少を示した(抗鬱様行動)。GABA-BRに対する自己抗体(抗GABABR)は、辺縁系脳炎で報告された(Zong 2017)。
【0122】
アクアポリン-4(AQP4)に対する自己抗体は、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)を伴う患者の大多数で見られており、AQP4自己抗体の検出は、血清反応陽性のNMOSD疾患の症例を分類するのに使用される。NMOSDは、主に視神経炎(ON)及び横断性脊髄炎(TM)を特徴とする中枢神経系(CNS)の炎症状態である。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質に対する自己抗体(MOG-IgG)は、血清反応陰性のNMOSDと診断される或る特定の症例に見られている(Fujihara, 2019)。
【0123】
上記から明らかなように、本明細書に記載されるCAARアプローチにおいて、主に中枢神経系を標的とする神経疾患において自己抗体特異的病原性B細胞を標的化するのに、様々な自己抗原を使用することができる。
【0124】
キメラ抗原受容体及びキメラ自己抗体受容体:
本発明によれば、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドは、標的抗原に結合する抗体又は抗体断片を含む細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを含む。CARは、通常、抗体に由来する細胞外エクトドメイン(extracellular ectodomain)(抗原結合ドメイン)及びT細胞のシグナル伝達タンパク質に由来するシグナル伝達モジュールを含むエンドドメインを含むと記載される。本発明のCAARは、CAR構造に基づいているが、自己抗原を使用してCAAR特異性を誘導している。したがって、必要に応じて、CAR構築物についての言及及びCAR構築物の文脈における一般的な知識が本発明に適用される。
【0125】
本発明において、キメラ自己抗体受容体(CAAR)は、CARの細胞外抗原結合ドメインの代わりに自己抗原を含む。この自己抗原は、限定されるものではないが、標的化ドメイン、結合ドメイン、若しくは細胞外自己抗体結合ドメイン、又は細胞外エクトドメインと呼ばれ得る。
【0126】
好ましい実施形態において、エクトドメインは、好ましくは、主に中枢免疫系を標的とする神経学的自己免疫状態において存在する自己抗体によって結合される自己抗原又はその断片を含む。
【0127】
自己抗原は、柔軟性を与え、かつアンカー型膜貫通部を通じて細胞内シグナル伝達ドメインへとシグナルを伝達するヒンジ領域に結合され得る。
【0128】
膜貫通ドメインは、好ましくはCD8α又はCD28に由来する。第一世代のCARにおいては、シグナル伝達ドメインは、TCR複合体のゼータ鎖からなる。用語「世代」とは、細胞内シグナル伝達ドメインの構造に対するものである。第二世代のCARは、CD28又は4-1BBに由来する単一の共刺激ドメインを備えている。第三世代のCARは、既に2個の共刺激ドメイン、例えばCD28、4-1BB、ICOS又はOX40、CD3ζを含む。本発明は、好ましくは、第二世代又は第三世代の「CAR」形式に関するが、本明細書に記載される自己抗体結合断片は、任意の所与のCAR形式で使用され得る。
【0129】
様々な実施形態において、免疫エフェクター細胞の細胞傷害性をB細胞に再方向付け(redirect:リダイレクト)する遺伝子操作された受容体が提供される。
【0130】
これらの遺伝子操作された受容体は、本明細書においてはCAARと呼ばれる。CAARは、所望の標的(病原性自己抗体を分泌/提示するB細胞)に対する自己抗原-自己抗体特異性とT細胞受容体活性化細胞内ドメインとを組み合わせて、特定の細胞性免疫活性を示すキメラタンパク質を生成する分子である。本明細書において使用される場合に、「キメラ」という用語は、異なる起源からの異なるタンパク質又はDNAの部分から構成されることを記載している。
【0131】
本明細書に記載されるCAARの主な特質は、CAARが免疫エフェクター細胞の特異性をリダイレクトすることにより、抗原特異的エフェクターT細胞の増殖、サイトカイン産生(例えば、IFN-γ)、及び標的自己抗体を発現する標的B細胞の死を媒介し得る分子の産生を惹起する能力である。
【0132】
自己抗原ドメイン:
本発明は、キメラ自己抗体受容体を使用して、自己免疫疾患を引き起こす自己抗体を標的化することができるという発見を部分的に基礎とするものである。本発明には、自己抗体に特異的な少なくとも1つのキメラ自己抗体受容体(CAAR)を含む組成物、それを含むベクター、ウイルス粒子にパッケージングされたCAARベクターを含む組成物、及びCAARを含む組換えT細胞又は他のエフェクター細胞が含まれる。本発明には、CAARを発現する遺伝子改変T細胞(CAART)を作製する方法であって、発現されるCAARが、主に中枢神経系を標的とする神経学的自己免疫疾患において存在する自己抗体によって結合される自己抗原を含む、方法も含まれる。
【0133】
「細胞外抗原結合ドメイン」又は「細胞外結合ドメイン」又は「標的化ドメイン」又は「自己抗原」は区別なく使用され、対象となる標的自己抗体に特異的に結合する能力を有するCAARを示す。結合ドメインは、天然、合成、半合成、又は組換えの供給源のいずれかから誘導され得る。自己抗原ドメインの複数の例が本明細書に提示されている。
【0134】
「特異的結合」は、結合及び結合特異性の試験に使用することができる様々な実験手順を、当業者であれば明らかに認識するものと当業者には解釈されるべきである。平衡会合定数又は平衡解離定数の測定方法は当該技術分野で知られている。幾つかの交差反応又はバックグラウンド結合は、多くのタンパク質間相互作用において不可避である場合があり、これは、CAAR及び自己抗体の間の結合の「特異性」から減じられるべきではない。「特異的結合」は、自己抗原の自己抗体への、バックグラウンド(非特異的)結合よりも大きな結合親和性での結合を説明している。用語「~に対して指向する(directed against)」は、用語「特異性」を考慮する場合に、抗体及びエピトープの間の相互作用の理解において適用することもできる。
【0135】
「抗原(Ag)」は、動物における抗体の産生又はT細胞応答を刺激することができる化合物、組成物、又は物質を指す。「エピトープ」とは、抗体が結合する抗原の領域を指す。エピトープは、タンパク質の三次折り畳みにより並置される隣接アミノ酸又は非隣接アミノ酸の両方から形成され得る。
【0136】
「自己抗原」とは、自己抗体の産生等の自己免疫応答の生成を刺激する内因性抗原を意味する。自己抗原には、自己免疫疾患の発症をもたらし得る細胞媒介性又は抗体媒介性の免疫応答の標的である正常組織由来の自己抗原又は抗原も含まれる。
【0137】
「自己抗体」は、自己抗原に特異的なB細胞によって産生される抗体を指す。
【0138】
本明細書において企図されるCAARの自己抗原成分の例示的な例としては、限定されるものではないが、配列番号2~配列番号4及び配列番号10~配列番号12に示される配列が挙げられる。
【0139】
抗体及び抗体断片:
本発明のCAARは、幾つかの実施形態において、本明細書に記載される標的ポリペプチドに結合する抗体又は抗体断片を含む細胞外抗原結合ドメインを含まない。したがって、本CAAR構築物は、一般的なCAR構築物とは異なる。
【0140】
本明細書において使用される場合、「抗体」は、一般に、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる1種以上のポリペプチドからなるタンパク質を指す。用語「抗体」が使用される場合、用語「抗体断片」も指すとみなされ得る。知られている免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α、γ、δ、ε、及びμ定常領域遺伝子、並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖はκ又はλに分類される。重鎖はγ、μ、α、δ、又はεに分類され、これらはまた、それぞれ、免疫グロブリンクラスであるIgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEを規定する。基本的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体又は二量体を含むことが知られている。各四量体は、2対の同一のポリペプチド鎖から構成され、各対が1本の「軽」(L)鎖(約25 kD)及び1本の「重」(H)鎖(約50 kD~70 kD)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識を担う、約100アミノ酸~110アミノ酸以上の可変領域を規定する。用語「可変軽鎖」及び「可変重鎖」は、それぞれ軽鎖及び重鎖のこれらの可変領域を指す。
【0141】
本発明のCAARは、哺乳動物、特にヒトの自己抗体標的に対して結合することが意図される。例えば、CAAR構築物の自己抗原を定義するタンパク質名の使用は、マウス版又はヒト版のタンパク質のいずれかに相当し得る。
【0142】
CAARの追加的構成要素
或る特定の実施形態において、本明細書において企図されるCAARは、様々なドメインの間に、分子の適切な間隔及び立体構造のために追加されるリンカー残基、例えば、細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン、又は自己抗原の断片を連結するアミノ酸配列を含むリンカーを含み得る。本明細書において企図されるCAARは、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つ以上のリンカーを含み得る。特定の実施形態において、リンカーの長さは、約1アミノ酸~約25アミノ酸、約5アミノ酸~約20アミノ酸、若しくは約10アミノ酸~約20アミノ酸、又は任意の中間の長さのアミノ酸である。
【0143】
リンカーの実例としては、グリシンポリマー、グリシン-セリンポリマー、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、及び当該技術分野において既知の他の可動性リンカー、例えば、Whitlowリンカーが挙げられる。グリシンポリマー及びグリシン-セリンポリマーは、相対的に不定形であり、したがって、本明細書に記載されるCAAR等の融合タンパク質のドメイン間の中立的なテザーとして機能することができ得る。
【0144】
特定の実施形態において、CAARの結合ドメインの後に1つ以上の「リンカー」、「スペーサー」又は「リンカーポリペプチド」又は「スペーサーポリペプチド」が続き、これらは、幾つかの実施形態において、自己抗体結合ドメインをエフェクター細胞表面から遠ざけて、適切な接触、抗原結合、及び免疫細胞活性化を可能にする領域を指す。或る特定の実施形態において、スペーサードメインは、限定されるものではないが、1つ以上の重鎖定常領域、例えば、CH2及びCH3が挙げられる、免疫グロブリンの一部である。スペーサードメインは、天然に存在する免疫グロブリンヒンジ領域又は改変された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含み得る。一実施形態において、スペーサードメインは、IgG1又はIgG4のCH2及びCH3ドメインを含む。
【0145】
幾つかの実施形態において、CAARの細胞外結合ドメインの後に1つ以上の「ヒンジドメイン」が続き、これは、結合ドメインをエフェクター細胞表面から離して配置して、適切な細胞間接触、抗原結合、及び活性化を可能にすることに関与する。CAARは、結合ドメインと膜貫通ドメイン(TM)との間に1つ以上のヒンジドメインを含み得る。ヒンジドメインは、天然源、合成源、半合成源、又は組換え源のいずれかに由来し得る。ヒンジドメインは、天然に存在する免疫グロブリンヒンジ領域又は改変された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含み得る。本明細書に記載されるCAARに使用するのに好適な例示的なヒンジドメインとしては、1型膜タンパク質、例えば、CD8α、CD4、CD28、PD1、CD 152、及びCD7の細胞外領域に由来するヒンジ領域が挙げられ、これは、これらの分子由来の野生型ヒンジ領域であってもよく、改変されてもよい。別の実施形態において、ヒンジドメインは、PD1、CD 152、又はCD8αのヒンジ領域を含む。
【0146】
「膜貫通ドメイン」は、細胞外結合部分及び細胞内シグナル伝達ドメインを融合し、CAARを免疫エフェクター細胞の形質膜に固定するCAARの一部である。
【0147】
TMドメインは、天然源、合成源、半合成源、又は組換え源のいずれかに由来し得る。TMドメインは、T細胞受容体であるCD3ε、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD 16、CD22、CD27、CD28、CD33、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD 134、CD 137、CD 152、CD 154、及びPD1のα、β、又はζ鎖に由来し得る。一実施形態において、本明細書において企図されるCAARは、CD8α又はCD28に由来するTMドメインを含む。
【0148】
特定の実施形態において、本明細書において企図されるCAARは、細胞内シグナル伝達ドメインを含む。「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、標的自己抗体への有効なCAAR結合の情報を免疫エフェクター細胞の内部に伝達して、エフェクター細胞機能、例えば、活性化、サイトカイン産生、増殖、及びCAARに結合した標的への細胞傷害性因子の放出、又はCAARの細胞外ドメインへの抗原結合により誘発される他の細胞応答を含む細胞傷害活性の誘発に関与するCAARの一部を指す。
【0149】
用語「エフェクター機能」は、免疫エフェクター細胞の特殊な機能を指す。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性又はサイトカインの分泌を含む活性の補助であり得る。したがって、用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、エフェクター機能シグナルを伝達し、特殊な機能を実行するように細胞に指示するタンパク質の一部を指す。本明細書において企図されるCAARは、CAAR受容体を発現するT細胞の効力、増殖、及び/又は記憶形成を増強する1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。本明細書において使用される場合、用語「共刺激シグナル伝達ドメイン」は、共刺激分子の細胞内シグナル伝達ドメインを指す。共刺激分子は、標的に結合する際に、Tリンパ球の効率的な活性化及び機能に必要とされる第2のシグナルを提供する、抗原受容体又はFc受容体以外の細胞表面分子である。
【0150】
ポリペプチド
「ペプチド」、「ポリペプチド」、「ポリペプチド断片」、及び「タンパク質」は、特に明記しない限り、互換的に使用され、通常の意味に従って、すなわち、アミノ酸の配列として使用される。ポリペプチドは、特定の長さに限定されず、例えば、それらは全長タンパク質配列又は全長タンパク質の断片を含み得て、ポリペプチドの翻訳後修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化等、並びに当該技術分野において既知の天然に存在する他の修飾及び天然に存在しない他の修飾の両方を含み得る。
【0151】
様々な実施形態において、本明細書において企図されるCAARポリペプチドは、翻訳時又は翻訳後にタンパク質の移送を指示するシグナル(又はリーダー)配列をタンパク質のN末端に含む。ポリペプチドは、種々のよく知られた組換え技術及び/又は合成技術のいずれかを使用して調製され得る。本明細書において企図されるポリペプチドは、具体的には、本開示のCAAR、又は本明細書において開示されるCAARからの欠失、それへの付加、及び/又はそれの1つ以上のアミノ酸の置換を有する配列を包含する。
【0152】
本明細書において使用される場合、「単離ペプチド」又は「単離ポリペプチド」等は、細胞環境から、及び細胞の他の成分との会合からの、ペプチド又はポリペプチド分子のin vitroでの単離及び/又は精製を指し、すなわち、それは、in vivoでの物質と著しく会合していない。同様に、「単離細胞」は、組織又は器官からin vivoで得られた細胞を指し、細胞外マトリックスを実質的に含まない。
【0153】
核酸
本明細書において使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」又は「核酸分子」は、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムRNA(gRNA)、プラス鎖RNA(RNA(+))、マイナス鎖RNA(RNA(-))、ゲノムDNA(gDNA)、相補的DNA(cDNA)、又は組換えDNA等の任意の核酸分枝、例えばDNA又はRNAを指す。ポリヌクレオチドは、単鎖及び二本鎖ポリヌクレオチドを含む。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、本明細書に記載される参照配列のいずれかに対する少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するポリヌクレオチド又はバリアントを含み、ここで、該バリアントは、通常、参照配列の少なくとも1つの生物活性を保持する。様々な例示的実施形態において、本発明は、部分的に、発現ベクター、ウイルスベクター、及び導入プラスミドを含むポリヌクレオチド、並びに組成物、並びにそれを含む細胞を意図する。
【0154】
ポリヌクレオチドは、当該技術分野において既知かつ利用可能な種々の確立されている技術のいずれかを使用して調製、操作、及び/又は発現され得る。所望のポリペプチドを発現させるために、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が適切なベクターに挿入され得る。ベクターの例は、プラスミド、自己複製配列、及び転移因子である。更なる例示的なベクターとしては、限定されるものではないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、又はP1由来の人工染色体(PAC)等の人工染色体、ラムダファージ又はM13ファージ等のバクテリオファージ、及び動物ウイルスが挙げられる。ベクターとして有用な動物ウイルスのカテゴリーの例としては、限定されるものではないが、レトロウイルス(レンチウイルスが含まれる)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、及びパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。発現ベクターの例は、哺乳動物細胞での発現のためのpClneoベクター(Promega社);哺乳動物細胞でのレンチウイルスにより媒介される遺伝子導入及び発現のためのpLenti4/V5-DEST(商標)、pLenti6/V5-DEST(商標)、及びpLenti6.2/V5-GW/lacZ(Invitrogen社)である。特定の実施形態において、本明細書において開示されるキメラタンパク質のコード配列は、哺乳動物細胞におけるキメラタンパク質の発現のためのかかる発現ベクターにライゲーションされ得る。発現ベクターに存在する「調節エレメント」又は「制御配列」は、宿主細胞のタンパク質と相互作用して、転写及び翻訳を実行する、ベクターの非翻訳領域、すなわち、複製開始点、選択カセット、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(シャイン・ダルガーノ配列又はコザック配列)、イントロン、ポリアデニル化配列、5'及び3'非翻訳領域である。かかるエレメントは、それらの強さ及び特異性が異なり得る。利用されるベクターシステム及び宿主に応じて、任意の数の好適な転写及び翻訳エレメント(ユビキタスプロモーター及び誘導性プロモーターが挙げられる)が使用され得る。
【0155】
ベクター
特定の実施形態において、細胞(例えば、T細胞等の免疫エフェクター細胞)は、レトロウイルスベクター、例えば、CAARをコードするγレトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターで形質導入される。
【0156】
レトロウイルスは、遺伝子送達の一般的なツールである。特定の実施形態において、レトロウイルスは、CAARをコードするポリヌクレオチドを細胞に送達するために使用される。本明細書において使用される場合、用語「レトロウイルス」は、そのゲノムRNAを線状二本鎖DNAコピーに逆転写し、その後、宿主ゲノムにそのゲノムDNAを共有結合的に組み込むRNAウイルスを指す。一旦ウイルスが宿主ゲノムに組み込まれると、それは「プロウイルス」と称される。プロウイルスは、RNAポリメラーゼIIのテンプレートとして機能し、新たなウイルス粒子を生成するために必要とされる構造タンパク質及び酵素をコードするRNA分子の発現を指示する。
【0157】
特定の実施形態に使用するのに好適な例示的レトロウイルスとしては、限定されるものではないが、以下が挙げられる:モロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、及びラウス肉腫ウイルス(RSV)、及びレンチウイルス。
【0158】
本明細書において使用される場合、用語「レンチウイルス」は、複合レトロウイルスの一群(又は一属)を指す。例示的なレンチウイルスは、限定されるものではないが、以下が挙げられる:HIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIV 1型及びHIV 2型が挙げられる)、ビスナ・マエディウイルス(VMV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)。一実施形態において、HIVベースのベクター骨格(すなわち、HIVシス作用配列エレメント)が想定される。特定の実施形態において、CAARを含むポリヌクレオチドを細胞に送達するためにレンチウイルスが使用される。
【0159】
本明細書において使用される用語「ベクター」は、別の核酸分子を導入又は運搬することができる核酸分子を指す。導入される核酸は、一般に、ベクター核酸分子に連結、例えば、挿入される。ベクターは、細胞において自律複製を指示する配列を含み得るか、又は宿主細胞DNAへの組込みを可能にするのに十分な配列を含み得る。有用なベクターとしては、例えば、プラスミド(例えば、DNAプラスミド又はRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、細菌人工染色体、及びウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターとしては、例えば、複製欠損レトロウイルス及びレンチウイルスが挙げられる。
【0160】
当業者に明白であるように、用語「ウイルスベクター」は、通常、核酸分子の導入又は細胞のゲノムへの組込みを促進するウイルス由来の核酸エレメントを含む核酸分子(例えば、導入プラスミド)、又は核酸の導入を媒介するウイルス粒子のいずれかを指すために広く使用される。ウイルス粒子は、通常、核酸(複数の場合もある)に加えて、様々なウイルス成分及び場合により、宿主細胞成分も含む。
【0161】
ウイルスベクターという用語は、細胞に核酸を導入することができるウイルス若しくはウイルス粒子又は導入された核酸自体のいずれかを指し得る。ウイルスベクター及び導入プラスミドは、主にウイルスに由来する構造的及び/又は機能的な遺伝的エレメントを含有する。用語「レトロウイルスベクター」は、主にレトロウイルスに由来する構造的及び機能的な遺伝的エレメント又はその一部を含有するウイルスベクター又はプラスミドを指す。
【0162】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、CAARをコードする発現ベクターで細胞を形質移入する方法に関する。例えば、幾つかの実施形態において、ベクターは、追加の配列、例えば、CAARの発現を促進する配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリAシグナル若しくはウッドチャック肝炎ウイルス(WHP)転写後調節エレメント(WPRE)、及び/又は1つ以上のイントロンを含む。好ましい実施形態において、CAARをコードする配列は、トランスポゾン配列と隣接しており、その結果、トランスポサーゼの存在が、形質移入された細胞のゲノムにコード配列が組み込まれるのを可能にする。
【0163】
幾つかの実施形態において、遺伝的に形質転換された細胞は、CAARをコードする配列の形質移入された細胞のゲノムへの組込みを促進するトランスポサーゼにより更に形質移入される。幾つかの実施形態において、トランスポサーゼは、DNA発現ベクターとして提供される。しかしながら、好ましい実施形態において、トランスポサーゼは、トランスポサーゼの長期的発現がトランスジェニック細胞で発生しないように、発現可能なRNA又はタンパク質として提供される。例えば、幾つかの実施形態において、トランスポサーゼは、mRNA(例えば、キャップ及びポリA尾部を含むmRNA)として提供される。任意のトランスポサーゼ系が、本発明の実施形態に従って使用され得る。しかしながら、幾つかの実施形態において、トランスポサーゼは、サケ科型Tel様トランスポサーゼ(SB)である。例えば、トランスポサーゼは、いわゆる「Sleeping beauty」トランスポサーゼであり得る(例えば、引用することにより本明細書の一部をなす米国特許第6,489,458号を参照のこと)。幾つかの実施形態において、トランスポサーゼは、増加した酵素活性を有する操作された酵素である。トランスポサーゼの幾つかの具体例としては、限定されるものではないが、SB 10、SB 11、又はSB 100Xトランスポサーゼが挙げられる(例えば、引用することにより本明細書の一部をなす、Mates et al, 2009, Nat Genet. 41(6):753-61又は米国特許第9228180号を参照のこと)。例えば、方法は、SB 10、SB 11、又はSB 100XトランスポサーゼをコードするmRNAと共に細胞をエレクトロポレーションすることを含み得る。
【0164】
転移因子は、安定したゲノム組み込みを媒介することができる天然の非ウイルス性遺伝子送達運搬体である。Sleeping Beauty(SB)トランスポゾンは、対象となる核酸配列をゲノムに切り貼りする能力を有しており、この場合に免疫細胞、好ましくはT細胞を本発明のCAARをコードする核酸配列で形質転換するためのトランスジェニック細胞及びトランスジェニック生物における長期の永続的な導入遺伝子発現の基礎となる。SBトランスポゾン系は比較的十分に特徴付けられており、ヒトを含む広範囲の脊椎動物における効率的な遺伝子送達及び遺伝子発見のために広範囲にわたって操作されている。当業者は、SB系の適切なバリアントを特定し、必要に応じてこれらを本発明に含めることができる。具体的な非限定的な例を以下に示す。SB系は、治療用量の細胞製品の費用効果の高い迅速な調製を可能にする安全で使いやすいベクターである。
【0165】
一般に、トランスポゾン系は、トランスポゾン及びトランスポザーゼを含む。トランスポゾンは、ゲノムに挿入される遺伝子を運ぶ担体として機能する。トランスポザーゼは、系のいわゆる「主力」であり、これが転移の過程を触媒する。トランスポザーゼは、トランスポゾンの逆方向末端反復(ITR)の間に位置する。重要なことには、トランスポザーゼ遺伝子は、対象となる任意の核酸配列と置き換えることができ、トランスポザーゼは、別のプラスミドによってトランスでコードされる場合に、転移事象を管理することができる。トランスポゾンとトランスポザーゼとの物理的分離は、トランスポゾン対トランスポザーゼ比の最適化を可能にし、また、DNAの代わりにmRNAの形でトランスポザーゼを供給する自由をもたらした。最初にトランスポザーゼはトランスポゾンを認識し、ITRに結合する。対合複合体の形成中に、トランスポゾン末端はトランスポザーゼ単量体によってまとめられる(おそらく四量体を形成する)。トランスポザーゼは、切り出されるとDNA二本鎖切断を生成し、一方で、組み込み部位には一本鎖ギャップを生成する。トランスポゾンに結合したトランスポザーゼを含む組み込み前複合体が、宿主ゲノムへの組み込みを実行する。SB転移は、異常で毒性のある転移中間体を効率的に除く高度に調整された反応である(Narayanavari & Izsvak, Cell & Gene Therapy insights, 2017でレビューされている)。
【0166】
当初のSBトランスポゾン(pT)のITR内のヌクレオチド残基の以前の最適化(突然変異、欠失、及び付加を含む)により、本明細書に記載されるCAARをコードする配列に使用され得るpT2、pT3、pT2B、及びpT4等のトランスポゾンの改良版が得られた。一実施形態において、pT4が使用される。
【0167】
SBトランスポザーゼの一次アミノ酸配列の突然変異誘発を伴う以前のスクリーニングにより、多くの高活性版のトランスポザーゼが提供された。SB100Xは、原型のトランスポザーゼ(SB10)と比較して或る特定の細胞型において100倍高活性である。現在入手可能なSBトランスポザーゼとしては、限定されるものではないが、SB10、SB11(SB10より3倍高い活性)、SB12(SB10より4倍高い)、HSB1~HSB5(SB10より最大10倍高い)、HSB13~HSB17(HSB17はSB10より17倍高い)、SB100X(SB10より100倍高い)、SB150X(SB10より130倍高い)が挙げられる。一実施形態において、SB100Xが使用される。
【0168】
本発明の更なる態様は、本明細書に記載される核酸分子若しくはベクターを含む、及び/又は本明細書に記載されるCAARを発現する遺伝子改変免疫細胞に関する。
【0169】
本発明の更なる態様は、本明細書に記載される核酸分子を含むベクター、好ましくはウイルスベクター、より好ましくはγレトロウイルスベクターに関する。本発明の他の態様において、本発明は、本発明のCAARをコードし、好ましくは発現することができるトランスポゾンベクター、好ましくはsleeping beautyベクターに関する。
【0170】
好ましい実施形態において、本明細書に記載される疾患の処置において投与することを目的とする免疫細胞は、「Sleeping beauty」トランスポゾン系、特にsleeping beautyトランスポサーゼを使用して、本明細書に記載されるCAARをコード及び発現する核酸で、本明細書に記載されるように遺伝子改変されている。Sleeping Beautyトランスポゾン系は、本発明の文脈では、脊椎動物の染色体に既定のDNA配列を正確に導入するように設計されている、本明細書に記載されるCAARを発現するように免疫細胞を改変するための、合成DNAトランスポゾンである。sleeping beautyトランスポゾンは、ウイルス及び裸のDNAの利点を併せ持つ。ウイルスは、それらの感染能力及び新規な宿主細胞での複製能力に基づいて進化的に選択されてきた。同時に細胞は、ウイルス感染からそれ自身を保護するために主要な分子防御機構を発達させてきた。ウイルスの使用を回避することは、社会的理由及び規制的理由としても重要である。したがって、sleeping beauty系等の非ウイルスベクターの使用により、細胞がベクターに対して用いる防御の全てではないがその多くが回避される。この理由のために、sleeping beauty系は、患者に投与する免疫細胞の特に効果的かつ安全な遺伝子改変を可能にする。
【0171】
配列バリアント:
例えば%配列同一性によって規定され、本発明の類似の結合特性を維持する特許請求される核酸、タンパク質、抗体、抗体断片及び/又はCAARの配列バリアントも本発明の範囲内に含まれる。代替配列を示すが、提示される特定の配列と本質的に同じ標的特異性等の結合特性を維持するこのようなバリアントは機能的類似体として、又は機能的に類似しているとして既知である。配列同一性は、配列アラインメントを行った場合の同一のヌクレオチド又はアミノ酸のパーセンテージに関する。
【0172】
本明細書において使用される場合、「配列同一性」という記載は、ヌクレオチド単位ベース又はアミノ酸単位ベースで比較ウインドウにわたって配列が同一である程度を指す。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適にアラインメントした配列を比較ウインドウにわたって比較すること、同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)又は同一のアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、Cys、及びMet)が両方の配列に見出される位置の数を決定して、一致した位置の数を得ること、一致した位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数(すなわち、ウインドウサイズ)で割ること、及び結果に100を乗じて、配列同一性のパーセンテージを得ることにより計算され得る。本明細書に記載される参照配列のいずれかに対する少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド及びポリペプチドが含まれ、ここで、ポリペプチドバリアントは、通常、参照ポリペプチドの少なくとも1つの生物活性を保持する。
【0173】
遺伝暗号の縮重の結果として、本明細書に記載されるポリペプチドをコードする多くのヌクレオチド配列が存在することが当業者には理解されるであろう。これらのポリヌクレオチドの一部は、任意のネイティブ遺伝子のヌクレオチド配列に対して最小の相同性又は配列同一性を保有する。それにもかかわらず、コドン使用頻度の差異によって変動するポリヌクレオチドは本発明によって具体的に企図される。記載の配列同一性に該当する欠失、置換及び配列中の他の変化も本発明に包含される。
【0174】
置換によって生じ得るタンパク質配列修飾も本発明の範囲内に含まれる。本明細書で規定される置換はタンパク質のアミノ酸配列に対して行われる修飾であり、1つ以上のアミノ酸が同じ数の(異なる)アミノ酸で置き換えられ、一次タンパク質とは異なるアミノ酸配列を含有するタンパク質が生じる。好ましくはタンパク質の機能が顕著に変更されることがない置換が行われ得る。付加と同様、置換は天然又は人為的なものであり得る。タンパク質の機能を顕著に変更することなくアミノ酸置換を行うことができることは当該技術分野で既知である。これは修飾が同様の特性の別のアミノ酸への1つのアミノ酸の置換である「保存的」アミノ酸置換に関する場合に特に当てはまる。かかる「保存」アミノ酸はサイズ、電荷、極性及び立体構造のために、タンパク質の構造及び機能に顕著に影響を及ぼすことなく置換され得る天然又は合成アミノ酸であり得る。多くのアミノ酸がタンパク質の機能に有害な影響を及ぼすことなく保存的アミノ酸によって置換され得ることが多い。
【0175】
概して、非極性アミノ酸Gly、Ala、Val、Ile及びLeu、非極性芳香族アミノ酸Phe、Trp及びTyr、中性極性アミノ酸Ser、Thr、Cys、Gln、Asn及びMet、正電荷アミノ酸Lys、Arg及びHis、負電荷アミノ酸Asp及びGluが保存的アミノ酸群である。このリストは包括的なものではない。例えばAla、Gly、Ser、場合によってCysは異なる群に属するにもかかわらず互いに置き換えることができることが既知である。
【0176】
置換バリアントでは、抗体分子中の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、異なる残基がその位置に挿入されている。置換変異導入に最も興味深い部位として超可変領域が挙げられるが、FRの変更も企図される。かかる置換により生物活性の変化が生じる場合、真下の表で「例示的置換」と称されるか、又はアミノ酸クラスに関連して下記で更に説明されるより大きな変化が導入される可能性があり、生成物がスクリーニングされる。
【0177】
潜在的アミノ酸置換:
【表2】
【0178】
抗体の生物学的特性の実質的修飾は、(a)置換領域における、例えばシート若しくは螺旋構造としてのポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位での分子の電荷若しくは疎水性、又は(c)側鎖の大きさの維持に対する影響が顕著に異なる置換を選択することによって達成される。
【0179】
保存的アミノ酸置換は天然のアミノ酸に限定されず、合成アミノ酸も含む。一般に使用される合成アミノ酸は、中性非極性類似体である様々な鎖長のωアミノ酸及びシクロヘキシルアラニン、中性非極性類似体であるシトルリン及びメチオニンスルホキシド、芳香族中性類似体であるフェニルグリシン、負電荷類似体であるシステイン酸、並びに正電荷アミノ酸類似体であるオルニチンである。天然のアミノ酸と同様、このリストは包括的なものではなく、当該技術分野で既知の置換の例示にすぎない。
【0180】
遺伝子改変細胞及び免疫細胞
特定の実施形態において、本発明は、B細胞関連状態の処置に使用される、本明細書において企図されるCAARを発現するように遺伝子改変された細胞を企図する。本明細書で使用される場合、用語「遺伝子操作された」又は「遺伝子改変された」は、細胞の遺伝物質全体へのDNA又はRNA形態の余分な遺伝子材料の付加を指す。用語「遺伝子改変細胞」、「改変された細胞」、及び「再方向付けされた細胞」は、互換的に使用される。
【0181】
「免疫細胞」又は「免疫エフェクター細胞」は、1つ以上のエフェクター機能(例えば、細胞傷害性細胞殺傷活性、サイトカインの分泌、ADCC及び/又はCDCの誘導)を有する免疫系の任意の細胞である。
【0182】
本発明の免疫エフェクター細胞は、自家/自原性(autogeneic)(「自己」)又は非自家(「非自己」、例えば、同種、同系、又は異種)であり得る。本明細書で使用される場合、「自家」は、同一の対象由来の細胞を指し、本発明の好ましい実施形態である。本明細書で使用される場合、「同種」は、比較される細胞と遺伝的に異なる同一の種の細胞を指す。本明細書で使用される場合、「同系」は、比較される細胞と遺伝的に同一である異なる対象の細胞を指す。本明細書で使用される場合、「異種」は、比較される細胞と異なる種の細胞を指す。好ましい実施形態において、本発明の細胞は、自家又は同種である。
【0183】
本明細書において企図されるCAARとともに使用される例示的な免疫エフェクター細胞としては、Tリンパ球が挙げられる。用語「T細胞」又は「Tリンパ球」は、当該技術分野において認められており、胸腺細胞、未成熟Tリンパ球、成熟Tリンパ球、休止Tリンパ球、サイトカイン誘導性キラー細胞(CIK細胞)、又は活性化Tリンパ球を包含することを意図する。サイトカイン誘導性キラー(CIK)細胞は、通常、CD3及びCD56陽性の非主要組織適合複合体(MHC)拘束性ナチュラルキラー(NK)様Tリンパ球である。T細胞は、Tヘルパー(Th;CD4+T細胞)細胞、例えば、Tヘルパー1(Th1)又はTヘルパー2(Th2)細胞であり得る。T細胞は、細胞傷害性T細胞(CTL;CD8+T細胞)、CD4+CD8+T細胞、CD4 CD8 T細胞、又は任意の他のサブセットのT細胞であり得る。特定の実施形態に使用するのに好適なT細胞の他の例示的集団としては、ナイーブT細胞及び記憶T細胞が挙げられる。
【0184】
例えば、自家細胞移植後に患者に再導入される場合、本明細書に記載される本発明のCAARで改変されたT細胞は、腫瘍細胞を認識して、殺傷し得る。CIK細胞は、他のT細胞と比較して増強された細胞傷害活性を有し得るため、本発明の免疫細胞の好ましい実施形態に相当する。
【0185】
当業者によって理解されるように、その他の細胞もまた、本明細書に記載されるCAARとともに免疫エフェクター細胞として使用され得る。特に、免疫エフェクター細胞としては、NK細胞、NKT細胞、好中球、及びマクロファージも挙げられる。免疫エフェクター細胞としては、エフェクター細胞の前駆細胞も挙げられ、ここで、そのような前駆細胞を、in vivo又はin vitroで免疫エフェクター細胞に分化させるように誘導することができる。
【0186】
本発明は、本明細書において企図されるCAAR発現免疫エフェクター細胞を作製する方法を提供する。一実施形態において、この方法は、免疫エフェクター細胞が本明細書に記載される1つ以上のCAARを発現するように、個体から分離された免疫エフェクター細胞を形質移入又は形質導入することを含む。或る特定の実施形態において、免疫エフェクター細胞は、個体から分離され、in vitroで更に操作せずに遺伝子改変される。そのような細胞を、その後に個体に直接再投与することができる。更なる実施形態においては、免疫エフェクター細胞を、最初にin vitroで活性化及び刺激して増殖させた後に、CAARを発現するように遺伝子改変する。これに関して、免疫エフェクター細胞は、遺伝子改変(すなわち、本明細書において企図されるCAARを発現するように形質導入又は形質移入)する前及び/又はその後に培養され得る。
【0187】
特定の実施形態において、本明細書に記載される免疫エフェクター細胞のin vitroでの操作又は遺伝子改変の前に、細胞供給源が対象から取得される。特定の実施形態において、CAAR改変免疫エフェクター細胞は、T細胞を含む。T細胞は、限定されるものではないが、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍が挙げられる多数の供給源から取得され得る。或る特定の実施形態において、T細胞は、対象から採取された血液単位から、当業者に既知の任意の数の技術、例えば、沈降、例えば、FICOLL(商標)分離、抗体コンジュゲートビーズベースの方法、例えば、MACS(商標)分離(Miltenyi社)を使用して取得され得る。一実施形態において、個体の循環血液由来の細胞がアフェレーシスにより取得される。アフェレーシス生成物は、通常、T細胞、単球、顆粒球、B細胞が含まれるリンパ球、他の有核白血球、赤血球、及び血小板を含有する。一実施形態において、アフェレーシスにより採取された細胞は、血漿分画を除去するために、及びその後の処理のために細胞を適切な緩衝液又は培地中に入れるために洗浄され得る。細胞は、PBS又はカルシウム、マグネシウム、及び全てではないが、ほとんどの他の二価カチオンを欠く別の好適な溶液で洗浄され得る。当業者により認められるように、洗浄工程は、当業者に既知の方法により、例えば、半自動フロースルー遠心分離機を使用することにより達成され得る。例えば、Cobe 2991細胞処理装置、Baxter CytoMate等である。洗浄後、細胞は、種々の生体適合性の緩衝剤又は緩衝剤を含有する若しくは含有しない他の生理食塩液中に再懸濁され得る。或る特定の実施形態において、アフェレーシス試料の望ましくない成分は、細胞が直接再懸濁された培養培地中で除去され得る。
【0188】
或る特定の実施形態において、T細胞は、赤血球を溶解すること、及び例えば、PERCOLL(商標)勾配遠心分離により単球を除去することにより末梢血単核細胞(PBMC)から単離される。T細胞の特定の亜集団が、ポジティブ又はネガティブセレクション技術により更に単離され得る。本明細書において使用される1つの方法は、負に選択される細胞に存在する細胞表面マーカーに対して指向されたモノクローナル抗体カクテルを使用するネガティブ磁気免疫付着又はフローサイトメトリーによる細胞選別及び/又は細胞選択である。
【0189】
PBMCは、本明細書において企図される方法を使用して、CAARを発現するように直接遺伝子改変され得る。或る特定の実施形態において、PBMCの単離後にTリンパ球が更に単離され、或る特定の実施形態において、細胞傷害性及びヘルパーTリンパ球の両方が、遺伝子改変及び/又は増殖の前又は後のいずれかに、ナイーブ、記憶、及びエフェクターT細胞亜集団に選別され得る。CD8+細胞は、標準的方法を使用することにより取得され得る。幾つかの実施形態において、CD8+細胞は、ナイーブ、中心記憶、及びエフェクター細胞に、これらの種類のCD8+細胞の各々に関連する細胞表面抗原を同定することにより更に選別される。
【0190】
T細胞等の免疫エフェクター細胞は、既知の方法を使用した単離後に遺伝子改変され得るか、又は免疫エフェクター細胞は、遺伝子改変前にin vitroで活性化されて、増やされ得る(又は前駆細胞の場合に分化され得る)。特定の実施形態において、T細胞等の免疫エフェクター細胞は、本明細書において企図されるキメラ抗原受容体で遺伝子改変され(例えば、CAARをコードする核酸を含むウイルスベクターで形質導入される)、次いで、in vitroで活性化され、増やされる。各種の実施形態において、T細胞は、例えば、米国特許第6,352,694号、同第6,534,055号、同第6,905,680号、同第6,692,964号、同第5,858,358号、同第6,887,466号、同第6,905,681号、同第7,144,575号、同第7,067,318号、同第7,172,869号、同第7,232,566号、同第7,175,843号、同第5,883,223号、同第6,905,874号、同第6,797,514号、同第6,867,041号、及び米国特許出願公開第20060121005号に記載の方法を使用して、CAARを発現するように遺伝子改変される前又は後に活性化されて、増やされ得る。
【0191】
更なる実施形態において、例えば、1、2、3、4、5種以上の異なる発現ベクターの混合物を、ドナー免疫エフェクター細胞群の遺伝子改変に使用することができ、ここで、各ベクターは、本明細書において企図される異なるキメラ抗原受容体タンパク質をコードする。得られた改変免疫エフェクター細胞は、改変細胞の混合集団を形成し、ここで、改変細胞の一部が2種以上の異なるCAARタンパク質を発現する。
【0192】
一実施形態において、本発明は、遺伝子改変されたマウス、ヒト、又はヒト化されたCAARタンパク質を発現する、自己抗体を標的とする免疫エフェクター細胞を貯蔵する方法であって、解凍時に細胞が生存したままとなるように免疫エフェクター細胞を凍結保存することを含む、方法を提供する。B細胞関連状態に罹った患者の将来の処置用にそのような細胞の永続的な供給源を提供するために、CAARタンパク質を発現する免疫エフェクター細胞の一部を当該技術分野で既知の方法によって凍結保存することができる。必要時に、凍結保存された形質転換免疫エフェクター細胞を解凍し、成長及び増殖させて、そのような細胞をより増やすことができる。
【0193】
一実施形態において、免疫細胞は、好ましくは、Tリンパ球又はNK細胞、より好ましくは細胞傷害性Tリンパ球からなる群から選択される。
【0194】
好ましい実施形態において、本明細書に記載される核酸分子又はベクターを含む、及び/又は本明細書に記載されるCAARを発現する遺伝子改変免疫細胞は、これがCD4+T細胞及び/又はCD8+T細胞であり、好ましくはCD4+T細胞及びCD8+T細胞の混合物であることを特徴とする。これらのT細胞集団及び好ましくは、形質転換されたCD4+及びCD8+細胞の両方を含む組成物は、様々なB細胞に対して、好ましくは、本明細書に記載される細胞及び/又は関連する病状に対して特に効果的な細胞溶解活性を示す。
【0195】
好ましい実施形態において、本明細書に記載される核酸分子又はベクターを含む、及び/又は本明細書に記載されるCAARを発現する遺伝子改変免疫細胞は、好ましくは1:10~10:1の比率、より好ましくは5:1~1:5、2:1~1:2、又は1:1の比率のCD4+T細胞及びCD8+T細胞である。記載される比率、好ましくは、1:1のCD4+/CD8+の比率の、本明細書に記載されるCAARを発現する改変CAAR-T細胞の投与は、本明細書に記載される疾患の処置において有益な特性をもたらす、例えば、これらの比率は、治療反応の改善及び毒性の低減をもたらす。
【0196】
組成物及び製剤
本明細書において企図される組成物は、本明細書において企図される1種以上のポリペプチド、ポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、遺伝子改変免疫エフェクター細胞等を含み得る。組成物としては、限定されるものではないが、医薬組成物が挙げられる。
【0197】
「医薬組成物」は、単独で又は1種以上の他の治療モダリティと組み合わせて細胞又は動物に投与するために、薬学的に許容されるか、又は生理学的に許容される溶液に製剤化された組成物を指す。必要に応じて、本発明の組成物は、他の作用物質、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、低分子、化学療法薬、プロドラッグ、薬物、抗体、又は他の様々な薬学的活性作用物質等とも組み合わせて投与され得ることも理解されるであろう。組成物に含まれてもよい他の成分への制限は実質的にないが、追加の作用物質が、意図される治療を送達する組成物の能力に悪影響を与えないこととする。
【0198】
語句「薬学的に許容される」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、又は他の問題若しくは合併症を伴わずにヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに好適であり、妥当な利益/リスク比に見合う化合物、物質、組成物、及び/又は剤形を指すために本明細書において用いられる。
【0199】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤」としては、限定されるものではないが、ヒト又は飼育動物での使用が許容可能であるとアメリカ食品医薬品局(United States Food and Drug Administration)により認められている、任意の補助剤、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味剤、希釈剤、防腐剤、色素/着色剤、調味料、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、安定剤、等張剤、溶媒、界面活性剤、又は乳化剤が挙げられる。例示的な薬学的に許容される担体としては、限定されるものではないが、糖、例えば、ラクトース、グルコース、及びスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン;セルロース及びその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロース;トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター、蝋、動物性及び植物性脂肪、パラフィン、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、酸化亜鉛;油、例えば、落花生油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及び大豆油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張食塩水;リンガー液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;並びに医薬製剤に用いられる任意の他の適合可能な物質が挙げられる。
【0200】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、本明細書において企図される量のCAAR発言免疫エフェクター細胞を含む。本明細書で使用される場合、用語「量」は、臨床結果を含む、有益な又は所望の予防結果又は治療結果を達成するための、遺伝子改変治療細胞、例えば、T細胞の「効果的な量」又は「有効量」を指す。
【0201】
「予防上有効量」は、所望の予防結果を達成するのに有効な遺伝子改変治療細胞の量を指す。予防用量は、疾患の早期段階の前に又は早期段階で対象に使用されるため、予防上有効量は、典型的には、治療上有効量未満であるが、必ずしも治療上有効量未満ではない。予防上という用語は、必ずしも特定の医学的障害の完全な阻止又は防止を指すわけではない。予防上という用語は、或る特定の医学的障害を発症するリスク又はその症状が悪化するリスクの低減も指す。
【0202】
遺伝子改変治療細胞の「治療上有効量」は、個体の病態、年齢、性別、及び体重、並びに幹細胞及び前駆細胞が個体において所望の反応を誘発する能力等の因子により異なり得る。また治療上有効量は、治療上有益な効果がウイルス又は形質導入された治療細胞の任意の毒性又は有害作用を上回るものでもある。用語「治療上有効量」は、対象(例えば、患者)を「処置」するのに有効な量を包含する。治療量が示される場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、年齢、体重、腫瘍サイズ、感染又は転移の程度、及び患者(対象)の状態の個体差を考慮して医師により決定され得る。
【0203】
一般に、本明細書に記載される免疫細胞(T細胞)を含む医薬組成物は、102個細胞/kg体重~1010個細胞/kg体重、好ましくは105個細胞/kg体重~106個細胞/kg体重の投与量(それらの範囲内の全ての整数値が含まれる)で投与され得ると述べることができる。細胞数は、組成物が意図される最終的な用途及びそれに含まれる細胞の種類に依存する。本明細書において提供される用途では、細胞は、一般に1リットル以下の容量であり、500 mL以下、更には250 mL又は100 mL以下であり得る。したがって、所望の細胞密度は、典型的には、106個細胞/mlより高く、一般に、107個細胞/mlより高く、一般に、108個細胞/ml以上である。臨床的に関連する数の免疫細胞は、累積的に105個細胞、106個細胞、107個細胞、108個細胞、109個細胞、1010個細胞、1011個細胞、又は1012個細胞に等しいか、又はそれを超える複数回注入に分割され得る。本発明の幾つかの態様において、特に全ての注入される細胞が特定の標的抗原に対して再方向付けされている場合、より少数の細胞が投与され得る。CAAR発現細胞組成物は、これらの範囲内の投与量で複数回投与され得る。細胞は、治療を受けている患者に対して同種、同系、異種、又は自家であり得る。
【0204】
一般に、本明細書に記載されるように活性化され、増やされた細胞を含む組成物は、免疫不全状態である個体において生じる疾患の処置及び予防において利用され得る。本発明のCAAR改変T細胞は、単独で、又は担体、希釈剤、賦形剤、及び/又は他の成分、例えば、IL-2若しくは他のサイトカイン若しくは細胞集団と組み合わせた医薬組成物として投与され得る。特定の実施形態において、本明細書において企図される医薬組成物は、1種以上の薬学的又は生理学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤と組み合わされたいくらかの量の遺伝子改変T細胞を含む。
【0205】
T細胞等のCAAR発現免疫エフェクター細胞集団を含む本発明の医薬組成物は、緩衝剤、例えば、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水等;炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、スクロース、又はデキストラン、マンニトール;タンパク質;ポリペプチド又はアミノ酸、例えば、グリシン;酸化防止剤;キレート剤、例えば、EDTA又はグルタチオン;補助剤(例えば、水酸化アルミニウム);及び防腐剤を含み得る。本発明の組成物は、好ましくは非経口投与、例えば、血管内(静脈内又は動脈内)、腹腔内、又は筋肉内投与用に製剤化される。
【0206】
液体医薬組成物(それらが溶液、懸濁液等の形態であるかに関わらず)は以下の1つ以上を含み得る:滅菌希釈剤、例えば注射用水、食塩水、好ましくは生理食塩水、リンガー液、等張塩化ナトリウム、溶媒若しくは懸濁媒として働くことができる合成モノグリセリド若しくはジグリセリド等の不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の溶媒;ベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩等の緩衝剤、及び塩化ナトリウム又はデキストロース等の等張化剤。非経口調製物は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、又は複数回投与バイアルに封入することができる。注射用医薬組成物は無菌であるのが好ましい。
【0207】
特定の実施形態において、本明細書において企図される組成物は、有効量のCAAR発現免疫エフェクター細胞を、単独で又は1つ以上の治療剤と組み合わせて含む。したがって、CAAR発現免疫エフェクター細胞組成物は、単独で又は他の免疫療法等のような他の既知の処置と組み合わせて投与され得る。組成物はまた、抗生物質と組み合わせて投与され得る。かかる治療剤は、本明細書に記載される特定の病態、例えば、特定の癌の標準的な処置として当該技術分野において認められていてもよい。企図される例示的な治療剤としては、サイトカイン、成長因子、ステロイド、NSAID、DMARD、抗炎症薬、化学療法薬、放射線療法、治療用抗体、又は他の活性作用物質及び補助作用物質が挙げられる。
【0208】
治療方法
本明細書で使用される場合、用語「個体」及び「対象」は、多くの場合、互換的に使用され、遺伝子治療ベクター、細胞ベースの治療薬、及び本明細書の他箇所で開示される方法で処置され得る疾患、障害、又は病態の症状を示す任意の動物を指す。好ましい実施形態において、対象としては、細胞ベースの治療薬及び本明細書において開示される方法で処置され得る造血系の疾患、障害、又は病態、例えば、自己免疫疾患の症状を示す任意の動物が挙げられる。好適な対象としては、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、又はモルモット)、家畜、及び飼育動物又はペット(例えば、ネコ又はイヌ)が挙げられる。非ヒト霊長類及び好ましくはヒト患者が挙げられる。
【0209】
本明細書で使用される場合、「処置」又は「処置すること」は、疾患又は病態の症状又は病理に対する任意の有益な又は所望の効果を含み、処置されている疾患又は病態の1つ以上の測定可能なマーカーにおけるわずかな減少でさえ含み得る。処置は、任意に、疾患若しくは病態の症状の低減若しくは改善、又は疾患若しくは病態の進行の遅延を含み得る。「処置」は、必ずしも疾患若しくは病態又はそれらの随伴症状の完全な根絶又は治癒を意味するわけではない。
【0210】
本明細書で使用される場合、「予防」及び同様の語、例えば、「予防した」、「予防すること」、又は「予防上」等は、疾患又は病態の発症又は再発を予防するか、阻害するか、又はその可能性を低減する手法を意味する。これは、疾患若しくは病態の発症若しくは再発を遅延させること、又は疾患若しくは病態の症状の発症若しくは再発を遅延させることも指す。本明細書で使用される場合、「予防」及び同様の語は、疾患又は病態の強度、影響、症状、及び/又は負荷を、疾患又は病態の発症又は再発前に低減することも含む。
【0211】
投与の量及び回数は、患者の状態、並びに患者の疾患の種類及び重症度等の要因によって決定されるが、適切な投与量は臨床試験によって決定される場合がある。
【0212】
本明細書において企図される組成物の投与は、エアロゾル吸入、注射、服用、輸液、インプラント、又は移植を含む、任意の手頃な方法で実施され得る。好ましい実施形態において、組成物は非経口的に投与される。本明細書において使用される「非経口投与」及び「非経口的に投与」という語句は、経腸投与及び局所投与以外の、通常は注射による投与様式を指し、限定されるものではないが、血管内、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、被膜内、眼窩内、腫瘍内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、及び胸骨内の注射及び注入を含む。一実施形態において、本明細書において企図される組成物は、腫瘍、リンパ節、又は感染部位への直接的な注射によって対象に投与される。
【0213】
図面
本発明は、添付の図による例示により実証される。これらの図は、本発明の1つ以上の非限定的実施形態の裏付けを強化する潜在的に好ましい実施形態の更なる説明を提供するとみなされるべきである。
【0214】
図面の詳細な説明
図1:本発明のアプローチの概略図
A:自己抗原として1つ以上のNMDARタンパク質配列、ドメイン、断片、又はそれらの組合せを含む、本発明のCAAR構築物を発現するCAAR-T細胞は、B細胞の表面上に提示されるNMDARに対して指向される自己抗原を認識する。これにより、CAAR活性化及びT細胞の細胞溶解能力を介して、上記B細胞の特異的な枯渇が引き起こされる。B:本発明のCAAR-T細胞は、他の標的に対して指向される抗体を産生するB細胞に対して効果を示ないため、本発明が病原性自己抗体産生B細胞に対して特異的な効果を示すことが可能となる。
【0215】
図2:DMDA受容体及び対応するCAAR構築物の概略図
A:NR1ドメインのアミノ末端ドメインとサブユニットS1及びS2とを示すNMDA受容体構造の概略が示される。膜貫通ドメインはバレル1~バレル4として表されている。B:CAARの抗原(標的化)部分を作製するのに使用されるNMDARのドメインを示す、好ましいが非限定的なNMDAR-CAAR構築物の概要。
【0216】
図3:NMDAR抗体とNMDAR-CAAR-T細胞との組合せにより、インターフェロン-γの放出が引き起こされる。
NMDAR抗体(003-102、008-218)との組合せでのみ、CAAR-T細胞(図中の左側のバー)はインターフェロン-γの強力な放出を示す。ELISAプレートがコントロール抗体でコーティングされている試料(mGo、113-115)、又はNMDAR抗体がコントロールT細胞とともにインキュベートされている試料(図中の右側のバー)では、多量のインターフェロン-γは検出されない。固定化された抗体の存在下で細胞を48時間インキュベートした。
【0217】
図4:HEK細胞の表面上に提示されるNMDAR NR1抗体によるCAAR-T細胞の活性化
NMDAR NR1抗体を発現する標的HEK293細胞との48時間(上のパネル)又は24時間(下のパネル)の共培養が行われた試料におけるインターフェロン-γの大量放出によって、CAAR T細胞の強力な活性化(図中の左側のバー)が見られるが、これは、HEK野生型細胞とも、コントロールT細胞との組合せにおいても見られなかった(図中の右側のバー)。
【0218】
図5:K562細胞の表面上に提示されるNMDAR NR1抗体によるCAAR-T細胞の活性化
50000個のCAAR T細胞を、表面上にNR1反応性抗体又はコントロール抗体を発現するK562細胞と1:1で48時間共培養した。活性化されたATD-CAAR及びATD-S1-S2(コントロールではない)T細胞はインターフェロン-γを大量に放出した。
【0219】
図6:CAAR-T細胞による表面NR1反応性抗体を発現するK562細胞の細胞溶解
細胞殺傷の定量化のために、標的細胞を30:1~1:1の範囲の種々のエフェクター:標的(E:T)比でCAAR T細胞とともに4時間インキュベートした。死細胞を7-AADで染色し、フローサイトメトリーにより分析した。ATD-CAAR又はATD-S1-S2-CAARが形質導入された健康なドナー由来のT細胞は、表面NR1反応性抗体を発現するK562細胞の用量依存的な殺傷をもたらした。
【0220】
図7:HEK細胞の表面上に提示されるNMDAR NR1抗体によって誘導されたCAAR-T細胞の細胞傷害性
抗体提示HEK細胞とNMDAR-CAAR-T細胞との共培養により、CAAR-T細胞活性化の結果として広範囲かつ早期の細胞死がもたらされた(左パネル)。対照的に、コントロールT細胞は細胞傷害性を引き起こさなかった(右パネル)。
【0221】
図8:動物モデルにおける治療有効性を実証するin vivoアプローチの実験計画
NR1自己抗体の表面提示を伴い、蛍光タンパク質(例えば、GFP)でタグ付けされたルシフェラーゼ酵素(例えば、ホタル-ルシフェラーゼ)を発現するNalm6細胞を1日目にマウスに注射する。5日目に、本発明のCAARを発現する治療用CAAR-T細胞又はCAAR発現を伴わないコントロールT細胞を注射する。生物発光イメージングを定期的に、例えば1日、5日、8日、12日、15日、19日、及び22日の時点で実施して、Nalm6細胞に対する治療効果を評価する。
【0222】
図9:NR1-CAAR-T細胞はNMDAR脳炎のin-vivoモデルにおいて有効性を示す。
図8に記載されるように、NR1自己抗体#003-102の表面提示を伴い、蛍光タンパク質(GFP、緑色蛍光タンパク質)でタグ付けされたルシフェラーゼ酵素(ホタル-ルシフェラーゼ、ffluc)を発現するNalm6細胞を1日目に18匹のマウスに注射する。5日目に、本発明のCAARを発現する治療用CAAR-T細胞又はCAAR発現を伴わないコントロールT細胞を1群当たり6匹の動物に注射する。9日目(処置4日後)でのin vivoの生物発光測定を図に示す。薄い灰色で塗られた白い雲/リングのような構造は、Nalm6細胞の腫瘍負荷を示している。腫瘍負荷の詳細な色に基づく描写は、提示された図のカラー画像を介して取得され得る。
【0223】
図10:ATD-CAAR及びATD-S1-S2-T細胞はダサチニブで一時的に停止され得る。
ATD-CAAR細胞及びATD-S1-S2-T細胞の両者とも、臨床的に承認されたチロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブを使用して一時的に停止させることができる(「安全性戦略」)。ATD-CAAR又はATD-S1-S2-CAARが形質導入された健康なドナー由来のT細胞は、NR1反応性抗体#003-102を発現するNalm6標的細胞の用量依存的な殺傷をもたらした。細胞殺傷の定量化のために、NR1反応性抗体#003-102を発現するNalm6標的細胞を1:2~8:1の範囲の種々のエフェクター:標的(E:T)比でCAAR T細胞とともに18時間インキュベートした。特異的溶解のパーセンテージを、ルシフェラーゼアッセイにおける生物発光の減少によって決定した。
【0224】
図11:NR1-CAAR T細胞は可溶性のNR1反応性抗体の存在下でそれらの機能を維持する。
ATD-CAARが形質導入された健康なドナー由来のT細胞は、可溶性のNR1反応性抗体#003-102が細胞培養培地中に存在する場合に、殺傷効率のわずかな低下(20%未満)しか示さない。細胞殺傷の定量化のために、NR1反応性抗体#003-102を発現するNalm6標的細胞を1:16~1:1の範囲の種々のエフェクター:標的(E:T)比でCAAR T細胞とともに18時間インキュベートした。特異的溶解のパーセンテージを、ルシフェラーゼアッセイにおける生物発光の減少によって決定した。可溶性の抗体#003-102は、実験全体を通じて、0 μg/ml(コントロール)、10 μg/μl、及び50 μg/mlの3つの濃度で存在した。
【実施例
【0225】
本発明は、以下に開示される実施例により実証される。実施例は、本発明の潜在的に好ましい非限定的実施形態のより詳細な説明の技術的裏付けを提供する。
【0226】
実施例1:NMDAR-CAAR構築物及び対応するCAAR-T細胞の作製
本発明のアプローチの概略図を図1に示す。
【0227】
本発明の実際の非限定的な実施形態を実証するために、本発明者らは、幾つかのCAAR-T構築物を作製した(図2)。これらは、CARベクターの骨格を基礎としている(図2B)。典型的にCARベクターに含まれる慣用の抗体断片の代わりに、NMDA受容体のドメインをCARベクターに配置している。
【0228】
この目的のために、免疫関連の細胞外NMDA受容体ドメインの様々な組合せをCAR構築物にクローニングした(図2A)。図2Aに示されるように、CAR構築物の典型的な抗原結合抗体断片の代わりに、NMDA受容体のNR1サブユニットのアミノ末端ドメイン(ATD)並びにドメインS1及びS2を使用することにより、キメラ自己抗体受容体(CAAR)構築物を形成した。その構築物において、NMDA受容体断片は、CAAR発現T細胞を、NMDA受容体に対して指向される自己抗体を提示するB細胞に指向する働きをする。
【0229】
CAARを作製する際に使用されるヌクレオチド配列の特定の好ましいが非限定的な実施形態は、上記で本発明の好ましい配列を概説する表に示されている。以下の実験的検証で使用されるCAAR構築物は、配列番号19に概説されている。この構築物は、自己抗原としてのNMDA受容体断片の特定の免疫原性の組合せ、つまりCAARの標的化部分を含む。
【0230】
このCAAR-T構築物を、シャトルベクターFUGW(Addgene #14883)を使用してレンチウイルスにより60%を上回る形質導入率で初代ヒトT細胞に形質導入し、確立されたin vitroの培養条件を使用して8日間~12日間で10倍~20倍に増殖させた。
【0231】
CAAR-T細胞の機能を、3つのin vitroアッセイで試験した。CAAR-T細胞と標的抗NMDAR抗体との間の接触によりインターフェロンγ測定によって証明されるCAAR-T細胞の活性化及び標的細胞の細胞傷害性がもたらされるかどうかを決定することによって、本発明のCAAR構築物を発現するCAAR-T細胞の所望の効果についてのin vitroでの証拠を集めた。
【0232】
実施例2:クラスター化された抗NMDAR NR1抗体によるCAAR-T細胞の活性化
この目的のために、ELISAプレートをヒトNMDAR抗体でコーティングした後、CAAR-T細胞又はコントロールT細胞とともにインキュベートした。CAAR-T細胞の活性化は、上清中で測定されるインターフェロン-γの放出をもたらす。
【0233】
図3は、NMDAR抗体(003-102、008-218)及びCAAR-T細胞との組合せでのみ(図中の左側のバー)、インターフェロン-γの強力な放出が現れている。ELISAプレートがコントロール抗体でコーティングされている試料(mGo、113-115)、又はNMDAR抗体がコントロールT細胞とともにインキュベートされている試料(図中の右側のバー)では、多量のインターフェロン-γは検出されない。
【0234】
実施例3:HEK細胞又はK562細胞の表面上に提示されるNMDAR NR1抗体によるCAAR-T細胞の活性化
この目的のために、本発明者らは、以前に確立されたNMDA受容体抗体産生ヒト細胞のモデルを使用した。このモデルにおいて、HEK293細胞はその細胞膜に局在化されるヒトモノクローナルNMDA受容体抗体を発現する。ヒトNMDA受容体抗体の配列は、以前に特定されている(非特許文献2)。
【0235】
図4は、実施例2に記載されるアッセイと同様に、標的細胞との48時間(上のパネル)又は24時間(下のパネル)の共培養が行われた試料においてのみ見られるインターフェロン-γの大量放出に対応する、CAAR T細胞の強力な活性化(図中の左側のバー)が現れているが、これは、HEK野生型細胞とも、コントロールT細胞との組合せにおいても現れていなかった(図中の右側のバー)。
【0236】
図5は、CAAR-T細胞を、表面上にNR1反応性抗体又はコントロール抗体を発現するK562細胞と1:1の比率で48時間共培養すると、インターフェロンγのかなりの放出がもたらされることを示している。
【0237】
実施例4:CAAR-T細胞によるNR1抗体を有するHEK細胞又はK562細胞の細胞傷害性
標的K562細胞を30:1~1:1の範囲の種々のエフェクター:標的(E:T)比でCAAR T細胞とともにインキュベートした。ATD-CAAR又はATD-S1-S2-CAARが形質導入された健康なドナー由来のT細胞は、表面NR1反応性抗体を発現するK562細胞の用量依存的な殺傷をもたらした。データの定量的な表現を図6に示す。
【0238】
CAAR-T細胞の細胞傷害性を更に試験するために、本発明者らは、NMDA受容体抗体がそれらの細胞膜上に提示される実施例3に記載されるHEK293細胞を使用した。図7は、抗体提示HEK細胞とNMDAR-CAAR-T細胞との共培養により、CAAR-T細胞活性化の結果として広範囲かつ早期の細胞死がもたらされた(左パネル)。対照的に、コントロールT細胞は細胞傷害性を引き起こさなかった(右パネル)。
【0239】
実施例5:NMDA受容体脳炎を伴う患者由来のヒトB細胞を上記のCAAR-T細胞を使用して評価する
ヒトモデルにおける上記のCAAR-T細胞の細胞傷害性を検証するために、NMDA受容体脳炎を伴う患者由来のヒトB細胞を上記のようにCAAR-T細胞とともにインキュベートするべきである。CAAR-T細胞とNMDA受容体脳炎を伴う患者から得られたB細胞とを共にインキュベートすると、患者B細胞によって提示されるNMDAR自己抗体に対する自己抗体と本発明によるCAAR-T細胞との間の相互作用によりCAAR-T細胞活性化及びB細胞死が引き起こされることから、疾患に関連する臨床前のin vitroの状況における本発明の利用可能性が裏付けられることとなる。
【0240】
実施例6:動物モデルにおける治療有効性を実証するin vivoアプローチ
動物モデルにおけるin vivoでの治療有効性を示すために、NR1自己抗体#003-102又は#008-218の表面提示を伴い、蛍光タンパク質(GFP、緑色蛍光タンパク質)でタグ付けされたルシフェラーゼ酵素であるホタル-ルシフェラーゼ(ffluc)を発現するNalm6細胞を、1日目に16匹のマウスに注射した。5日目に、本発明のCAARを発現する治療用CAAR-T細胞又はCAAR発現を伴わないコントロールT細胞を1群当たり6匹の動物に注射した。アッセイの読み取り値として、動物の生存、標的細胞の減少(in vivoでの生物発光測定を介した)及び血清抗体レベルが決定される。実験の構成は、原則として、非特許文献5に開示される方法に従う。実験的構成の概略図については、図8を参照のこと。
【0241】
アッセイの潜在的な読み取り値は、生物発光イメージングの定量化(in vivoでの殺傷の検出用)、ELISAによる抗NR1血清レベルの定量化(循環抗体の減少の検出用)、及び処置された動物の死後分析(オフターゲット毒性の決定用)に関連している。
【0242】
CAAR-T細胞の増殖を決定するためのフローサイトメトリーによる検査、及びオフターゲット効果が現れているかどうかを決定するためのリンパ器官、脳、又は他の器官の組織学的分析を介しても情報を取得することができる。低いオフターゲット効果(組織学的分析を介した)及び顕著な標的細胞殺傷(生物発光の減少によって証明される)により、疾患に関連する臨床前のin vivoの状況における本発明の利用可能性が裏付けられることとなる。
【0243】
NR1自己抗体#003-102の表面提示を伴い、蛍光タンパク質(GFP、緑色蛍光タンパク質)でタグ付けされたルシフェラーゼ酵素(ホタル-ルシフェラーゼ、ffluc)を発現するNalm6細胞の上記のスキームに従う生物発光イメージングを介して、予備データは取得されている。図9に示されるように、9日目(処置4日後)のin vivoでの生物発光測定は、コントロール群での動物の6匹中0匹と比較して、ATD-CAARで処置された動物の6匹中6匹、及びATD-S1-S2-CAARで処置された動物の6匹中5匹で、Nalm6の負担が劇的に減少したことを示している。これらのデータは、NR1-CAAR-T細胞がin-vivoの状況でもそれらの標的細胞を殺傷することを示している。
【0244】
実施例7:ATD-CAAR及びATD-S1-S2-T細胞はダサチニブを用いて一時的に停止され得る
ATD-CAAR細胞及びATD-S1-S2-T細胞の両者とも、臨床的に承認されたチロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブを使用して一時的に停止させることができる(「安全性戦略」)。100 nMのダサチニブの添加により、実施されたアッセイにおいて標的細胞の殺傷が完全に無効となった。結果は図10に示されている。
【0245】
ATD-CAAR又はATD-S1-S2-CAARが形質導入された健康なドナー由来のT細胞は、NR1反応性抗体#003-102を発現するNalm6標的細胞の用量依存的な殺傷をもたらした。細胞殺傷の定量化のために、NR1反応性抗体#003-102を発現するNalm6標的細胞を1:2~8:1の範囲の種々のエフェクター:標的(E:T)比でCAAR T細胞とともに18時間インキュベートした。特異的溶解のパーセンテージを、ルシフェラーゼアッセイにおける生物発光の減少によって決定した。
【0246】
このデータは、NR1-CAAR T細胞をダサチニブという薬物を使用して一時的に不活性化して、急性毒性の軽減を補助することができ、該薬物が中止された後にT細胞がそれらの細胞傷害性効果を回復することができることを示している。
【0247】
実施例8:NR1-CAAR T細胞は可溶性のNR1反応性抗体の存在下でそれらの機能を維持する
ATD-CAARが形質導入された健康なドナー由来のT細胞は、可溶性のNR1反応性抗体#003-102が細胞培養培地中に存在する場合に、殺傷効率のわずかな低下(20%未満)しか示さない。可溶性のNR1反応性抗体の存在は、病原性NR1反応性抗体が、CAAR構築物への結合を介したNR1-CAAR-T細胞殺傷に媒介される標的細胞溶解を潜在的に妨げる可能性がある、患者におけるin vivoの状況を反映している。
【0248】
この実験において、細胞殺傷の定量化のために、NR1反応性抗体#003-102を発現するNalm6標的細胞を1:16~1:1の範囲の種々のエフェクター:標的(E:T)比でCAAR T細胞とともに18時間インキュベートした。特異的溶解のパーセンテージを、ルシフェラーゼアッセイにおける生物発光の減少によって決定した。可溶性の抗体#003-102は、実験全体を通じて、0 μg/ml(コントロール)、10 μg/μl、及び50 μg/mlの3つの濃度で存在した。結果は図11に示している。
【0249】
このデータは、NR1-CAAR-T細胞が、患者に見られるのと同様の状況で、すなわち、可溶性のNR1反応性抗体が存在し、本発明によるCAAR-T細胞の結合標的として潜在的に競合している場合に、それらの機能を維持することを裏付けている。特に、患者において見られるよりもおそらく大きい可溶性のNR1反応性抗体のレベルである50 μg/μlの高親和性NR1抗体#003-102を添加した場合に、NR1-CAAR-T細胞機能の関連する低下は観察されなかった。この特性は、従来技術から予想し又は導き出すことはできない。
【0250】
参考文献
Dalmau et al. Lancet Neurol. 2011;10:63-74.
Ellebrecht et al. Science 2016;353(6295):179-84.
Kreye et al. Brain. 2016;139:2641-2652.
Pruess, H. Neurotransmitter 2017;28, 34-41.
Titulaer et al. Lancet Neurol. 2013;12:157-165.
Zong et al. Front Immunol. 2017; 8: 752.
Dalmau et al. 2008; 7:1091-1098.
Pruess et al. 2010. Neurology. 75(19):1735-9.
Doss et al. 2014. Ann Clin Transl Neurol. 1(10):822-32.
Pruess et al. 2013. Neurology. 78(22):1743-53.
Lapteva et al. Arthritis Rheum (2006) 54(8):2505-14.
Lai et al. Ann Neurol (2009) 65(4):424-34.
Montagna et al (2018) Front. Neurol. 9:329.
Lancaster et al, Neurology 77, 2011, 1701.
dos Passos et al. 2018, Front. Neurol. 9:217.
Fox-Edmiston et al. 2015 CNS Drugs, 29(9): 715-724.
Fujihara, 2019, Curr Opin Neurol. Jun;32(3):385-394.
Narayanavari & Izsv?k, Cell & Gene Therapy insights, 2017; 3(2), 131-158.
Fransson et al. J. of Neuroinflammation, vol. 9, no. 1, 2012, 112
Ryan et al, Advanced Drug Delivery Reviews, Vol. 114, 2017, 240-255
Chatenoud, Nature Biotechnology, Vol. 34, No. 9, 2016, 930-932
Tahir, Cureus, 2018 XP055647054, ISSN: 2168-8184
Ludwig et al, Frontiers In Immunology, Vol. 8, 2017, XP055420435
Kreye et al, Brain, Vol. 139, No. 10, 2016, 2641-2652
McKee et al, Rare Disease Review, 2017, XP055647052
【符号の説明】
【0251】
図面の用語(訳)
図1
CAAR-T-Cell CAAR-T細胞
NMDAR-autoantibody NMDAR自己抗体
Specific depletionof autoantibody-producing B cells 自己抗体産生B細胞の特異的枯渇
No binding 結合なし
No effect 影響なし
図2
NMDA receptor NMDA受容体
図3
ATD-S1-S2-CAAR Tcells ATD-S1-S2-CAAR T細胞
CTL T cells コントロールT細胞
IFN-gamma IFN-γ
NR1-reactive NR1反応性
negative control ネガティブコントロール
図4
IFN-gamma IFN-γ
CTL T cells コントロールT細胞
HEK WT HEK野生型
図5
ATD-S1-S2-CAAR Tcells ATD-S1-S2-CAAR T細胞
CTL T cells コントロールT細胞
IFN-gamma IFN-γ
control コントロール
NR1-reactive NR1反応性
図6
specific cytolysisin % 特異的細胞溶解の%
control T cells コントロールT細胞
Effector:Targetratio エフェクター:標的比
図7
Control T cells コントロールT細胞
図8
CAAR T cellinjection CAAR T細胞の注射
BioluminiscenceImaging - 10 min after D-Luciferin injection i.p. 生物発光イメージング-i.p.でのD-ルシフェリンの注射の10分後
Day 日
NSG mice NSGマウス
i.v.:intravenous i.v.:静脈内
i.p.:intraperitoneal i.p.:腹腔内
図9
Control コントロール
Day 5(pre-treatment) 5日目(処置前)
Day 9 (4 dayspost-treatment) 9日目(処置4日後)
図10
specific cytolysisin % 特異的細胞溶解の%
Effector:Targetratio エフェクター:標的比
Dasatinib ダサチニブ
図11
Luciferase KillingAssay ルシフェラーゼ殺傷アッセイ
specific cytolysisin % 特異的細胞溶解の%
Effector:Targetratio エフェクター:標的比
control T cells vs.sIg-003-102 コントロールT細胞対sIg-003-102
ATD-CAAR vs.sIg-003-102 ATD-CAAR対sIg-003-102
soluble mcABconcentration 可溶性のモノクローナル抗体(mcAB)濃度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2022537658000001.app
【国際調査報告】