(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-29
(54)【発明の名称】D,L-メチオニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/28 20060101AFI20220822BHJP
C07C 323/58 20060101ALI20220822BHJP
C07C 319/20 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
C07C319/28
C07C323/58
C07C319/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575525
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2020066761
(87)【国際公開番号】W WO2020254403
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ウェーファー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ヨアヒム ハッセルバッハ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ヴィンクラー
(72)【発明者】
【氏名】ダニー ド コルテ
(72)【発明者】
【氏名】ベアント ドラパール
(72)【発明者】
【氏名】イマド ムサレム
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン レナー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リュックリーゲル
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC63
4H006AD15
4H006BC51
4H006TA04
(57)【要約】
本発明は、5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインをアルカリ加水分解して得られるアルカリメチオニン酸塩溶液からD,L-メチオニンを製造する単一サイクルの方法であって、アルカリメチオニン酸塩溶液を高温で二酸化炭素を用いて中和し、続いて種結晶の存在下でD,L-メチオニンを結晶化することによってD,L-メチオニンを得る、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインのアルカリ加水分解によってアルカリメチオニン酸塩溶液が得られるD,L-メチオニンの製造方法であって、(a)65℃~95℃の温度において、二酸化炭素で乱流混合することによりアルカリメチオニン酸塩溶液を中和して、中和された処理溶液を得る工程と、(b)前記処理溶液を25℃~35℃の範囲の温度に冷却することにより、D,L-メチオニン種結晶の存在下でD,L-メチオニン生成物を結晶化する工程との連続的な工程を含む、方法。
【請求項2】
前記アルカリメチオニン酸塩溶液が、メチオニン酸カリウム溶液であり、前記カリウムを任意で30%までのナトリウムで置き換える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(a)の前記中和された処理溶液中のカリウム濃度が、8質量%~11質量%である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(a)の前記中和された処理溶液中のメチオニン濃度が、10質量%~17質量%である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程(a)および(b)の間、圧力を100kPa~400kPaに調整し、pHを7.5~8.5に調整する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(b)で使用されるD,L-メチオニン種結晶が、125μm~1000μmの平均粒径を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(b)の前記中和された処理溶液中のD,L-メチオニン種結晶の量が、5質量%~15質量%である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
結晶化が行われる前記中和された処理溶液が、さらに消泡剤配合物を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記消泡剤配合物が、10ppm~2000ppmの量で存在する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記消泡剤配合物が、好ましくは0.65~10000mm
2/s(DIN 53018に従って25℃で測定)の動粘度を有するシリコーンオイルを含む、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
前記消泡剤配合物が、乳化剤として、イオン性または非イオン性の界面活性剤、またはそれらの混合物を含む、請求項8から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
工程(b)で適用される冷却時間が、最大360分である、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記方法がバッチプロセスである、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記方法が連続プロセスである、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、高濃度の処理溶液からの結晶化を可能にする、D,L-メチオニンの製造のための簡略化された方法に関する。
【0002】
発明の背景
アミノ酸であるメチオニンは、現在、世界中で工業的に大量に生産されており、商業的にもかなり重要なものである。メチオニンは、医薬品、健康およびフィットネス製品などの多くの分野で使用されているが、特に種々の家畜用の多くの飼料の添加物として使用されている。
【0003】
工業的に、D,L-メチオニン(以下、メチオニン)は、Strecker合成法の変形であるBucherer-Bergs反応によって化学的に製造されている。ここでは、出発物質の3-メチルメルカプトプロパナール(2-プロペナールおよびメチルメルカプタンから調製)、青酸(シアン化水素、HCN)、アンモニアおよび二酸化炭素が反応して、5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントイン(「メチオニンヒダントイン」)が生成し、これを加水分解してメチオニン酸塩にし、最後に中和してメチオニンを遊離する。加水分解および中和には複数の方法の変法がある。本発明は、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムを用いて加水分解してメチオニン酸カリウム(potassium methioninate)を得て、続いて二酸化炭素で処理(「炭酸化反応」)を行ってそのカリウム塩からメチオニンを遊離させる、炭酸カリウム法に特に適している。メチオニン生成物は、炭酸水素カリウムを含む母液から沈殿物として濾過される(米国特許第5,770,769号明細書)。メチオニンは、処理溶液から非常に平らなリーフレットの形で沈殿し、これは取り扱いが難しく、母液からゆっくりと分離する(欧州特許第1451139号明細書)。
【0004】
十分な純度および品質でメチオニン生成物を得るためには、通常、原料のメチオニンを溶解して水溶液から再結晶させ、濾過し、最後に乾燥させなければならない。再結晶は、好ましくは異なる温度レベルでの2段階の真空結晶化として実施される(欧州特許第1451139号明細書)。
【0005】
結晶化および濾過を改善するためには様々な戦略が開発されている。
【0006】
中国実用新案第206642401号明細書には、撹拌式晶析装置内の直接熱交換器を介して冷却結晶化を行うことができる結晶化ユニットを特徴とする、代替的な再結晶化技術が記載されている。さらに、結晶化添加剤が再結晶工程で存在することにより、メチオニンの濾過特性および嵩密度が向上する。特開2004-292324号公報では、結晶化添加剤としてのポリビニルアルコールまたはグルテンが特許請求されており、欧州特許出願公開第2641898号明細書では、イオン性および非イオン性の界面活性剤(例えば、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル、アルケニルまたはアリールスルフェート)が利用されており、そして欧州特許第1451139号明細書では、嵩密度を高めるためにヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシメチルセルロースが適用されている。メチオニン生成物が再結晶なしでプロセスマトリックスから直接得られる炭酸カリウム法の変法が文献に記載されている。
【0007】
日本国特許第4482973号明細書および特開平4-169570号公報には、結晶化添加剤を用いて15~30℃で炭酸化することが記載されている。ここでは、液相中和(炭酸化)に二酸化炭素を添加して、メチオニンを沈殿させている(メチオニン13質量%)。しかしながら、より大きな粒子への凝集は、カゼイン、ポリビニルアルコールまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの高濃度(3000ppmまで必要)の有機凝集剤の存在下で起こる。得られた球状の凝集粒子は、濾過特性が向上し、低水分であることを特徴とする。
【0008】
中国特許第1178909号明細書には、嵩密度を高めるために、上記で使用された凝集剤が存在するバッチ式結晶化において種結晶を生成し、これらの種結晶を第2の半連続結晶化工程に供給し、ここで、先に生成した凝集粒子の存在下で、メチオニン酸カリウム(13.3質量%のメチオニン、初期濃度)が炭酸化される、2段階の炭酸化プロセスが記載されている。
【0009】
中国特許第104744326号明細書は、ドラフト-チューブ-バッフェル型(Draft-Tube-Baffel)晶析装置での中和結晶化に関する。炭酸化および結晶化は、20~30℃の連続反応器で行われる。冷却されたメチオニン酸カリウム溶液(メチオニン15質量%)が、反応器上部の二酸化炭素雰囲気中に噴霧され、中和された溶液が結晶化し始める。新たに形成された結晶は、母液とともに晶析装置の下部に下降し、さらに成長することができる。大きな結晶は分離される。小さくなった結晶は再び溶解し、メチオニン酸カリウム溶液と混合されて再利用される。このプロセスにより、嵩密度の高い凝集生成物が得られる。
【0010】
さらに、2つの代替プロセスの変法(硫酸ナトリウムメチオニンプロセス、L-メチオニンのバイオテクノロジープロセス)は、結晶性メチオニンの品質を向上させるために、以下の結晶化技術を適用している。双方のプロセスについて記載したプロセスマトリックスは、炭酸カリウムプロセスと比較して異なっている。
【0011】
中国特許出願公開第108794363号明細書は、硫酸ナトリウム処理溶液(メチオニン8質量%、初期濃度)からのメチオニンの結晶化方法に関する。処理溶液を硫酸で中和し、種結晶の存在下に規定の冷却速度で冷却することにより、高い嵩密度を有する結晶性メチオニンが得られる。
【0012】
韓国公開特許第2018-0078621号公報には、結晶化技術を用いた高い嵩密度の結晶性L-メチオニンの製造方法が記載されている。この製造方法には、異なる試薬によるpH調整(具体的にはpH2.0~3.0またはpH8.0~9.0)、加熱による完全溶解、および最終的に様々なタイプの冷却(目盛、蒸発、凍結等)による温度制御された結晶化が含まれる。所与の例におけるメチオニンの初期濃度は、13質量%を超えない。
【0013】
上記に鑑みて、本発明の課題は、メチオニンを連続的、半連続的またはバッチ式に調製するための、簡略化された高濃度プロセスを提供することである。このプロセスは、600g/Lまでの高い嵩密度と99%を上回るメチオニン含有率の純度を有する、容易に濾過可能な結晶性メチオニン生成物を得るために使用することができる。この課題は、以下に記載される本発明による方法によって解決される。
【0014】
本発明の概要
本発明は、5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインのアルカリ加水分解によってアルカリメチオニン酸塩溶液が得られるD,L-メチオニンの製造方法であって、(a)アルカリメチオニン酸塩溶液を、65℃~95℃の温度で、二酸化炭素で乱流混合することにより中和して、中和された処理溶液を得る工程と、(b)該処理溶液を25℃~35℃の温度範囲に冷却することにより、D,L-メチオニン種結晶の存在下でD,L-メチオニン生成物を結晶化する工程との連続的な工程を含む方法を提供する。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明者らは、予想外にも、メチオニンヒダントインのアルカリ加水分解を含む上述のメチオニンプロセスを、簡略化されたプロセスとして実施できることを見出し、その際、上記メチオニンは、再結晶化を行わなくても、不純物濃度が高い、濃縮されたプロセスマトリックスから得られる。得られたメチオニンは、その母液から容易に分離することができ、さらに高純度および高嵩密度を特徴とする。このプロセスにより、粗メチオニン生成物の再結晶における溶解および冷却のためのエネルギー消費が回避される。
【0016】
したがって、本発明は、5-(2-メチルメルカプトエチル)-ヒダントインのアルカリ加水分解によって、アルカリメチオニン酸塩溶液を得るメチオニンの製造方法であって、(a)アルカリメチオニン酸塩溶液を、65℃~95℃の温度で、二酸化炭素で乱流混合することにより中和して、中和された処理溶液を得る工程と、(b)該処理溶液を25℃~35℃の範囲の温度に冷却することにより、メチオニン種結晶の存在下でメチオニン生成物を結晶化する工程との連続的な工程を含む方法を提供する。
【0017】
前述の中和工程(a)における高温により、粗メチオニン生成物の沈殿が妨げられる。本発明の特定のプロセス様式および温度プロファイルに従って必要とされる結晶化からの脱共役中和は、制御されたメチオニン形成プロセスをもたらす。結晶化は、結晶成長の促進と、新しい結晶核形成の減少を特徴とする。このようにして、母液を含むメチオニン生成物の制御されていない凝集を防ぐことができる。さらに、本発明の方法によって得られるメチオニン生成物は、気体および液体から容易に分離することができ、600g/Lまでの高い嵩密度をもたらす。
【0018】
炭酸化については、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩および/またはアルカリ金属炭酸水素塩の濃度が高くなると、濾過性能が低下することが経験的に判明している(実施例を参照のこと)。
【0019】
驚くべきことに、高濃度の粗メチオニン溶液中に存在する不純物が、工程(b)の制御された冷却結晶化を妨害することはなく、純度の低いメチオニン生成物が生じることはない。本発明による方法では、低温で炭酸化を行う従来の炭酸カリウム法に比べて、より高濃度で方法を実施することが可能である。炭酸カリウムは、冷却された処理溶液中のメチオニンの溶解度を低下させるので、より高濃度での方法の副次的効果として、結晶化後のメチオニン生成物の収率を高めることができる。
【0020】
「アルカリメチオニン酸塩溶液」という用語は、メチオニン酸のアルカリ金属塩の水溶液を指す。アルカリメチオニン酸塩溶液は、水酸化アルカリ金属および/または炭酸アルカリ金属および/または炭酸水素アルカリ金属を含むアルカリ処理溶液中で5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントインを苛性加水分解(「ケン化」)して、メチオニンアルカリ金属塩を形成することによって得られる。好ましくは、アルカリ加水分解は、メチオニン酸カリウムを得るために、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムを用いて行われる。
【0021】
しかしながら、炭酸化反応において望ましくない炭酸水素ナトリウムの共沈を招くことなく、カリウムの30%までの量をナトリウムで置き換えてもよいことがわかった。
【0022】
高温の中和された処理液中のカリウム濃度は、8質量%~11質量%であってよく、高温の中和された処理液中のメチオニン濃度は、10質量%~17質量%であってよい。
【0023】
工程(a)および(b)の間、圧力は、100kPa~400kPaになるように調整されてよい。好ましくは、圧力は、200kPa~300kPaになるように調整されてよい。pHは、7.5~8.5になるように調整されてよい。
【0024】
圧力およびそれに応じて添加される二酸化炭素の量は制御される。中和工程(a)におけるpHは、結晶化工程(b)で必要とされる設定値よりも約0.3ユニット高く保たれる。結晶化の間、pHはわずかに低下し、最終的に所望の設定値に到達する。
【0025】
工程(b)で使用されるメチオニン種結晶は、125μm~1000μmの平均粒径を示し、好ましくは約250μmで最大値を有する。
【0026】
工程(b)の高温の中和された処理溶液中のメチオニン種結晶の量は、5質量%~15質量%であってよい。好ましくは、工程(b)の中和された処理溶液中のメチオニン種結晶の量は、9質量%~13質量%である。
【0027】
任意で、結晶化が行われる中和された処理溶液は、さらに消泡剤配合物を含む。消泡剤は、メチオニン処理溶液または懸濁液を取り扱う際に形成される泡を抑制する。さらに、消泡剤配合物は、結晶化を制御するための結晶化添加剤を含み、三次元の結晶成長を促進する。
【0028】
消泡剤配合物は、好ましくは0.65~10000mm2/s(DIN 53018に従って25℃で測定)、特に好ましくは90~1500mm2/sの動粘度を有するシリコーンオイルを含んでいてもよい。消泡剤は、乳化剤として有効な成分、例えば、イオン性または非イオン性の界面活性剤、またはそれらの混合物をさらに含有していてもよい。適切な消泡剤組成物は、例えば、欧州特許第1451139号明細書および欧州特許第2641898号明細書に記載されている。
【0029】
消泡剤は、同様にシリカを含んでいてもよい。好ましい実施形態では、消泡剤は、水溶液であり、この水溶液は、5~10質量%のシリコーンオイル、0.05~1質量%のシリカ、0.5~5質量%のポリエトキシル化脂肪アルコールの混合物を含む。消泡剤配合物は、10ppm~2000ppmの量で存在していてよい。好ましくは、消泡剤配合物は、50ppm~250ppmの量で存在する。
【0030】
工程(b)で適用される冷却時間は、最大360分、好ましくは60分~180分である。
【0031】
工程(b)で得られたプロセス混合物は、最後に減圧して濾過される。このようにして得られた固体のメチオニン生成物は、洗浄され、乾燥される。
【0032】
本発明による方法は、連続的、半連続的または不連続的(バッチ式)に実施することができる。好ましくは、この方法は連続的に行われる。この場合、晶析装置懸濁液(b)の質量流量に対する供給質量流量の比は、好ましくは1:5~1:30である。連続運転のために好ましい設定は、
図20に示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】30℃での炭酸化によって得られた粗製沈殿メチオニンの走査型電子顕微鏡(SEM)写真:低濃度の消泡剤(左)および高濃度の消泡剤(右)を示す図である(例1を参照のこと)。
【
図2】例1について120秒超音波処理後に測定した、対応する粒度分布(PSD、q
3)のグラフを示す図である。
【
図3】120分、180分および300分の典型的な三次元冷却プロファイル(cubic cooling profile)を示す図である。
【
図4】種物質を使用せずに、高温で炭酸化とその後の結晶化を行うことによって得られたD,L-メチオニンのSEM写真を示す図である(例2を参照のこと)。
【
図5】例2の対応するPSDグラフ(シーディングなしの結晶化)を示す図である。
【
図6】種物質(左)および例3の結晶生成物(右)のSEM写真を示す図である。
【
図7】種物質を含む、例3のPSDグラフを示す図である。
【
図8】プロセスの再現性を証明するための例4の3枚のSEM写真を示す図である。
【
図9】例4のPSDグラフを示す図である。すべてのエントリーは、類似のパターンを示すが、いくつかの偏差が認められる。
【
図10】例5のSEM写真(左上=エントリー1;右上=エントリー2、左下=エントリー3;右下=エントリー4)を示す図である。
【
図11】例5に準じて、結晶化添加剤がPSDに及ぼす影響を示すグラフの図である。
【
図12】異なる冷却プロファイル/種結晶比で得られた、例6の結晶性D,L-メチオニンのSEM写真を示す図である。
【
図13】例6のメチオニン生成物のPSDグラフを示す図である。
【
図14】例7の結晶性D,L-メチオニンのSEM写真を示す図である。
【
図15】例7のメチオニン生成物のPSDグラフを示す図である。種結晶の量が少なすぎると(エントリー1)、結晶成長の代わりにより多くの核が形成される。
【
図16】例8の結晶性D,L-メチオニンのSEM写真を示す図である。
【
図17】種結晶を多量に使用した場合(左)と少量だけ使用した場合(右)の例8のメチオニン結晶のPSDグラフを示す図である。
【
図18】例9の結晶性D,L-メチオニンのSEM写真を示す図である。
【
図19】例9の連続運転によるメチオニン結晶のPSDグラフを示す図である。
【
図20】処理溶液を中和するための炭酸化ユニットと、制御された結晶化のためのn個の結晶化ユニットとから構成される、連続プロセスおよびそのユニットの総括を示す図である。
【0034】
以下では、非限定的な例および例示的な実施形態によって本発明を説明する。
【0035】
実施例
例1(比較例):30℃での炭酸化プロセス
撹拌機、燻蒸、pH測定および温度制御装置を備えたオートクレーブに、13.5質量%のメチオニンおよび8.3質量%のカリウムを含有するカリウム含有処理溶液(1200g)を装入する。さらに、乳化剤としてイオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤を含むシリコンオイルベースの消泡剤配合物(欧州特許第2641898号明細書に記載のもの)を添加する。圧力3.0バールおよび温度32℃で、二酸化炭素により処理溶液をpH8に中和する。この混合物を、500rpmの速度で連続的に撹拌し、二酸化炭素を均一に分散させる。得られた懸濁液を減圧し、真空を用いて濾過(900ミリバールで10分+500ミリバールで10分)し、0℃の冷水で洗浄し、最後に乾燥させる。500mlの濾液を採取するのに要した時間で濾過性能を評価する。その結果を、表1にまとめる。
【表1】
【0036】
上記の30℃における炭酸化では、原料のメチオニンが沈殿し、これには混入した母液の不純物や高い残留水分が含有されている(
図1にその結晶を示す)。固液分離は、低い性能を示している。消泡剤の濃度を上げることで、濾過性能が向上する。形成された粒子は、凝集しており、超音波で容易に破壊することができる(PSD、Horiba LA-950 V、Retsch社、
図2)。得られた生成物の純度が低いため、嵩密度は、無関係なパラメータである。
【0037】
例2(比較例):高温での炭酸化とその後の種物質を使用しない結晶化
撹拌機、燻蒸、pH測定および温度制御装置を備えたオートクレーブに、13.5質量%のメチオニンおよび8.7質量%のカリウムを含有するカリウム含有処理溶液(1200g)を装入する。
【0038】
さらに、乳化剤としてイオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤を含むシリコンオイルベースの消泡剤配合物(欧州特許第2641898号明細書に記載のもの)500ppmを添加する。圧力1.0~3.0バールで、二酸化炭素を用いて処理溶液をpH8に中和する。温度を80℃超に維持する。
【0039】
250rpmの速度で連続的に撹拌しながら、制御された結晶化のために80~32℃の制御された冷却プログラムを適用する。180分間および300分間の三次元冷却プロファイルの典型的な形状を
図3に示す。
【0040】
このようにして得られた懸濁液を減圧し、真空を用いて濾過(900ミリバールで10分&500ミリバールで10分)し、0℃の冷水で洗浄し、最後に乾燥させる。500mlの濾液を採取するのに要した時間で濾過性能を評価する。その結果を、表2にまとめる。
【表2】
【0041】
得られたメチオニン懸濁液の濾過は困難である。この粒子は、30℃での炭酸化によって得られる平らなリーフレット型の結晶のものと同等である(例1)。しかしながら、母液の混入が少ないため、得られた生成物は、高い純度を有する。濾過ケーキは、31%の残留水分しか保持していない。乾燥後、嵩密度は非常に低い。これは、形態(粗い表面を有する平坦な微粒子;SEM写真(
図4)および100μmを下回る多数の微細結晶によって説明することができる。粒子の大きさ(PSDの比較、
図6)は、30℃での炭酸化によって得られた材料と同様である(例1)。
【0042】
例3:高温での炭酸化とそれに続く種物質を用いた結晶化
一般的な手順
撹拌機、燻蒸、pH測定および温度制御装置を備えたオートクレーブに、規定濃度の12.0~17.0質量%の範囲のメチオニンおよび7.0~12.0質量%の範囲のカリウムを含有する1200gのカリウム含有処理溶液を装入する。
【0043】
さらに、乳化剤としてイオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤の混合物を含有するシリコンオイルベースの消泡剤配合物(欧州特許第2641898号明細書に記載のもの)0~800ppmを添加する。この溶液を、その濃度に応じて圧力1.0~3.0バールおよび温度65~95℃の範囲で二酸化炭素によりpH8に中和して、沈殿を防止する。
【0044】
核生成温度より約5℃高い温度で、種結晶(0g~100g)を一回のバッチで添加する。使用する種結晶は、質量比で1.6:1~1.2:1(250μm~1000μm:125~250μm)の2つのフラクションからなる。種結晶は、欧州特許第2641898号明細書に記載の結晶化添加剤が存在するマトリックスから調製され、ふるい分けによってフラクションに分離される。種(すべてのフラクション)の粒度分布(PSD)は、
図7に示されている。最大値は、約250μmである。
【0045】
100rpmおよび500rpmの速度で連続的に撹拌しながら、32℃までの三次元温度制御された冷却プログラムにより、結晶化を制御する(
図3を参照のこと)。得られた懸濁液を減圧し、真空を用いて濾過(900ミリバールで10分&500ミリバールで10分)し、0℃の冷水で洗浄し、最後に乾燥させる。500mlの濾液を採取するのに要した時間で濾過性能を評価する。全てのPSDについて、測定開始前に超音波(120秒)を適用する(PSD、Horiba LA-950 V、Retsch社)。
【0046】
例3a
撹拌機、燻蒸、pH測定および温度制御装置を備えたオートクレーブに、13.1質量%のメチオニンおよび8.0質量%のカリウムを含有するカリウム含有処理溶液(1200g)を装入する。
【0047】
さらに、シリコンオイルベースの消泡剤配合物(欧州特許第2641898号明細書に記載のもの)600ppmを添加する。圧力2.0~3.0バールおよび温度85℃で二酸化炭素を用いて処理溶液をpH8に中和する。
【0048】
83℃で種結晶(60g)を添加する。250rpmの速度で連続的に撹拌しながら、32℃までの温度制御された冷却プログラムを適用する(180分以内の三次元プロファイル、平均0.28K/分、
図3を参照のこと)。このようにして得られた懸濁液を減圧し、真空を用いて濾過(900ミリバールで10分&500ミリバールで10分)し、0℃の冷水で洗浄し、最後に乾燥させる。500mlの濾液を採取するのに要した時間で濾過性能を評価する。その結果を、表3にまとめる。
【表3】
【0049】
得られたD,L-メチオニンの品質は、純度および嵩密度の点で優れている。このようにして得られた粒子の濾過特性は、30℃での基準の炭酸化によって得られたものよりも改善されている(例1)。濾過ケーキは、迅速な濾過時間後に12.5%の残留水分を保持している。粒度分布(二峰性プロファイル)は、核生成によって新たな結晶が形成され、種物質に比べてより大きな粒子へと種が成長していることを示している(
図7)。
【0050】
例4:高温での炭酸化およびその後の種物質による結晶化(再現性)
選択した設定での結果の再現性を評価するために、例3で示した一般的な手順に従って、実験を3回繰り返した。
【0051】
撹拌機、燻蒸、pH測定および温度制御装置を備えたオートクレーブに、規定濃度の13.5質量%のメチオニンを含有する1200gのカリウム含有処理溶液を装入する。さらに、シリコンオイルベースの消泡剤配合物(欧州特許第2641898号明細書に記載のもの)250ppmを添加する。3.0バール未満の圧力で二酸化炭素を用いて処理溶液をpH8に中和し、温度を80℃超に維持する。
【0052】
85℃で種結晶(60g、1.4:1;一般的な手順例3を参照のこと)を加え、連続的な撹拌の下、温度制御された冷却プログラムを適用する(三次元プロファイルで210分以内に80℃から32℃まで、平均0.25K/分)。このようにして得られた懸濁液を減圧し、真空を用いて濾過(900ミリバールで10分&500ミリバールで10分)し、0℃の冷水で洗浄し、最後に乾燥させる。
【表4】
【0053】
プロセス設定の再現性は、同一条件下での実験の繰り返しにより証明されている。プロセスの制御が可能であり、所望の品質の結晶生成物を得ることが可能である。3回の実験で得られた材料は、非常に類似したPSD、SEMおよび嵩密度を示している(
図8&
図9)。濾過ケーキは、13%~15%の残留水分を保持しており、洗浄や取り扱いが容易である。
【0054】
例5:消泡剤および結晶化添加剤の影響
処理溶液:13.5質量%のメチオニンおよび8.7質量%または8.3質量%のカリウム。手順は一般的な手順(例3)に従う。
【0055】
結晶化プロセスに対する影響を調べるために、異なる量の消泡剤を使用する。三次元冷却プロファイルを適用し(三次元プロファイルで180分以内に80℃から32℃に冷却、平均0.28K/分、
図3)、種結晶の質量を一定(60g)に保つ。
【表5】
【0056】
溶液中に存在する消泡剤の濃度が高くなると、嵩密度も若干高くなる。250ppm超の消泡剤では、嵩密度に関して有意な効果は認められない。表5のエントリー1~4および対応する
図10は、添加剤の量が粒度分布(PSD)に大きな影響を及ぼすことを示している。添加剤は、結晶成長を遅らせ、核生成プロセスを加速させる。より小さな粒子の形成により、嵩密度が497g/Lから539g/Lに増加する。濾過性能に関しては、50ppm~250ppmの消泡剤で最適となる。
【0057】
例6:冷却プロファイルの影響
処理溶液:13.5質量%のメチオニンおよび8.7質量%のカリウム。手順は一般的な手順(例3)に従う。
【0058】
冷却プロファイルの影響を調べるために、2つの三次元プロファイルを120分(平均0.47K/分)または300分(平均0.16K/分)の時間で試験する(
図4を参照のこと)。
【0059】
種結晶の量は、一定(60g)に保たれるが、種のフラクションの比は、1.2:1から1.6:1まで変化する(フラクションの特定の粒径については、例3の一般的な手順を参照のこと)。
【表6】
【0060】
冷却プロファイルを長くすることで、得られるメチオニン結晶の品質が向上する。滞留時間が長いほど、結晶化は遅くなる。種結晶上の成長により過飽和度は減少し、核生成は抑制される。PSDおよびSEMでは、遅く得られる材料の方が高品質であることが証明されている。300分の冷却プロファイルを適用する場合、嵩密度は、520g/Lから560g/Lに増加する。結晶化の時間が短縮されたことで、核生成による微細な結晶の形成が促進される。種結晶の粒径は、最終的な嵩密度またはPSDに対して全く影響を与えないか、限定的な影響を与えるにすぎない(
図12&
図13を参照のこと)。
【0061】
例7:種結晶の量の影響
処理溶液:13.5質量%のメチオニンおよび8.7質量%のカリウム。手順は一般的な手順(例3)に従う。180分(平均0.27K/分;
図3を参照のこと)の三次元冷却プロファイルを適用する。
【0062】
結晶成長に利用可能な総結晶表面積の影響を調べるために、種結晶の質量を変化させる(40gの種結晶および80gの種結晶、種のフラクションの比1.4:1)。
【表7】
【0063】
種結晶の質量(表面積)の増加に伴い、嵩密度および平均粒径が増加する。表7のエントリー2は、より表面粗さの少ない、品質が向上した結晶を示す(
図14&
図15)。選択されたパラメータは、結晶成長を促進させ、核生成を抑制する、制御された結晶化を可能にする。濾過性能に関しては、2回目のエントリーで得られたケーキは、濾過特性が改善され、微粉末が少なく、残留水分が少ない。
【0064】
例8:処理溶液の高濃度化
処理溶液:15.1質量%のメチオニンおよび9.3質量%のカリウム。手順は一般的な手順(例3)に従う。180分の三次元冷却プロファイルを適用し、種結晶の質量を60gから80gまで変化させて、結晶成長に利用できる総結晶表面積を変化させる(種のフラクションの比1.4:1)。
【表8】
【0065】
メチオニン濃度が高く、他のプロセスパラメータが一定に保たれると、過飽和度は増加する。したがって、種結晶の総結晶表面積は、結晶成長を制御するために重要である。エントリー2は、より高い嵩密度およびより高い平均粒径を示す(
図16&
図17)。選択されたパラメータにより、なお、結晶成長および核生成の抑制を伴う制御された結晶化は依然として可能である。濾過性能に関して、2回目のエントリーで得られたケーキは、濾過特性が改善され、微粉末が少なく、残留水分が非常に少ない。
【0066】
例9:連続プロセス
図20は、連続プロセスの設定を示す。これには複数のプロセスユニットが必要である。第1のプロセスユニットでは、処理溶液が中和される。第2プロセスユニットは、少なくとも1つの晶析装置からなる。各晶析装置は、一定の温度で運転される。結晶化容器の数(n)に応じて、冷却は、n工程で行われ、冷却プロファイルに近似している。
【0067】
以下の例では、結晶化段階が一段階である設定について説明する:
撹拌機、燻蒸、pH測定および温度制御装置を備えた容器に、カリウムを含有する処理溶液[(a)12.0~17.0質量%のメチオニン、7.0~12.0質量%のカリウム、および欧州特許第2641898号明細書に記載のシリコンオイルベースの消泡剤配合物250ppmを含む]を連続的に供給する。(b)圧力2.0~3.0バールおよび温度85℃で、(c)連続的な撹拌下に、二酸化炭素を用いて連続的に処理溶液をpH8.0に中和する。中和した溶液を、ヒートトレース配管を介して結晶化ユニット(d)に移送し、懸濁液(e)と混合する。始動のために、晶析装置には、メチオニン懸濁液(固形物15質量%)が装入されている。これらの固形物が、始動中に種結晶として機能する。バッチプロセスでは、固形物は、質量比1.6:1~1.2:1(250μm~1000μm:125~250μm)の2つのフラクションからなる。連続運転中、晶析装置は、外部熱交換器を用いて常に32℃で運転されている。晶析装置は、中和装置と同じ圧力下に維持されている。炭酸化供給液と循環する晶析装置懸濁液との質量流量比を、1:5~1:20の範囲の値に調整する。
【0068】
このようにして得られた懸濁液(h)を回収し、減圧し、真空を用いて濾過(900ミリバールで10分&500ミリバールで10分)し、0℃の冷水で洗浄し、最後に乾燥させる。
【0069】
24時間の連続運転(13.5質量%のメチオニン、8.3質量%のカリウム、および欧州特許第2641898号明細書に記載のシリコンオイルベースの消泡剤配合物250ppm)後に、1Lの生成物の試料を回収し、減圧し、濾過し、0℃の冷水で洗浄し、最後に乾燥させる(表9)。
【表9】
【0070】
得られたD,L-メチオニンの品質は、純度および嵩密度の点で優れている。濾過ケーキは、急速な濾過時間後に12%の残留水分を保持する。粒度分布は、核生成によって新たな結晶が形成され、種物質に比べてより大きな粒子に種が成長していることを示している(
図18&19)。
【符号の説明】
【0071】
a - 中和への供給
b - CO2の供給
c - 冷却循環
d - 炭化した溶液の晶析装置ループへの供給
e - 細かい結晶を含む懸濁液
f - 過飽和の混合物
g - 晶析装置への混合物の供給
h - 生成物の懸濁液
【国際調査報告】