(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-29
(54)【発明の名称】車両の横方向位置を調節するための方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
B62D6/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576265
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(85)【翻訳文提出日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2020066867
(87)【国際公開番号】W WO2020260114
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ペイレ, モード
(72)【発明者】
【氏名】ルエテ, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】サリウ, セバスチャン
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA24
3D232DA33
3D232DD03
3D232EB04
3D232GG01
(57)【要約】
交通車線(10)上の車両(1)の横方向位置を調節するための方法であって、 - 車両の基準状態ベクトル(Xref)を計算するステップ(E21)と、 - 車両の観測された状態ベクトル(Xobs)を計算するステップ(E22)と、 - 基準状態ベクトル(Xref)と観測された状態ベクトル(Xobs)との間の差(Xerr)の関数として、車両の操舵輪(2f)の操舵角度(δc)の設定値を計算するステップ(E23)と、 - 調節方法が始動されるときに実行される初期化ステップ(E1)とを含み、初期化ステップは、操舵輪の操舵角度(δc)設定値が、操舵輪の測定される操舵角度(δm)値に等しくなるように、初期の観測された状態ベクトル(X0)の成分(X07)を計算するサブステップ(E11)を含む、方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交通車線(10)上の車両(1)の横方向位置を調節するための方法であって、前記方法は、
前記車両(1)の基準状態ベクトル(Xref)を算出するステップ(E21)と、
前記車両(1)の観測された状態ベクトル(Xobs)を算出するステップ(E22)と、
前記基準状態ベクトル(Xref)と前記観測された状態ベクトル(Xobs)との間の差(Xerr)の関数として、前記車両(1)の被操舵輪(2f)の操舵角度設定値(δc)を算出するステップ(E23)と
を含み、
前記調節方法は、前記調節方法の始動の時点において実行される初期化ステップ(E1)を含み、前記初期化ステップ(E1)は、前記調節方法の始動の時点における前記被操舵輪(2f)の前記操舵角度設定値(δc)が、前記調節方法の始動の時点における前記被操舵輪(2f)の測定された操舵角度値(δm)に等しくなるように、初期の観測された状態ベクトル(X0)の成分(X07)を算出するサブステップ(E11)を含む
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記観測された状態ベクトル(Xobs)は、後に続く成分、すなわち、
前記車両(1)のヨー速度(dψ)、および、
前記車両(1)の向首方向角度(ψ)、および、
前記車両(1)の横方向速度(dy)、および、
基準軌道(12)に関しての前記車両(1)の横方向距離(y)、および、
前記車両(1)の前記被操舵輪(2f)の操舵速度(dδ)、および、
前記車両(1)の前記被操舵輪(2f)の操舵角度(δ)、および、
基準軌道(12)に関しての前記車両(1)の前記横方向距離の積分(ly)
のすべてまたは一部を含むことを特徴とする、請求項1に記載の調節方法。
【請求項3】
前記初期の観測された状態ベクトル(X0)の成分(X07)を算出する前記サブステップ(E11)の間に、前記成分(X07)は、前記調節方法の始動の時点における測定された操舵角度値(δm)の関数として算出されることを特徴とする、請求項1または2に記載の調節方法。
【請求項4】
前記観測された状態ベクトル(Xobs)は、基準軌道(12)に関しての前記車両(1)の前記横方向距離の積分(ly)に等しい成分を含み、前記初期化ステップ(E1)の間に規定される前記横方向距離の前記積分(ly)の初期値は、前記調節方法の始動の時点における前記被操舵輪(2f)の前記操舵角度設定値(δc)が、前記調節方法の始動の時点における前記被操舵輪の測定された操舵角度値(δm)に等しくなるように算出されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の調節方法。
【請求項5】
前記操舵角度設定値(δc)を算出する前記ステップ(E23)は、前記基準状態ベクトル(Xref)と前記観測された状態ベクトル(Xobs)との間の前記差(Xerr)に、調節ベクトル(Ks)を乗算することを含み、前記調節ベクトル(Ks)は、前記車両(1)の速度(v)に依存的であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の調節方法。
【請求項6】
前記基準軌道(12)に関しての前記車両(1)の前記横方向距離の前記積分(ly)の前記初期値は、前記基準状態ベクトル(Xref)と前記観測された状態ベクトル(Xobs)との間の前記差(Xerr)の成分の関数として、および、前記調節ベクトル(Ks)の成分の関数として、および、前記調節方法の始動の時点における前記測定された操舵角度値(δm)の関数として算出されることを特徴とする、請求項4または5に記載の調節方法。
【請求項7】
前記観測された状態ベクトル(Xobs)の前記算出は、前記車両(1)の搭載センサ(7)により測定される数量、前記車両を特徴付ける定数(cf、cr、lf、lr、lz、m、ζ、ω)、前記車両(1)の前記速度(v)、および、前記調節方法の先行する反復の間に算出された前記車両(1)の前記被操舵輪(2f)の操舵角度(δr)の設定値の値に基づくことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の調節方法。
【請求項8】
コンピュータ可読媒体上に記憶されるプログラムコード命令であって、前記プログラムがコンピュータ上で走っているときに、請求項1から7のいずれか一項に記載の調節方法の前記ステップを実装するためのプログラムコード命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の調節方法を実装するためのプログラムコード命令を含むコンピュータプログラムが記憶されるコンピュータ可読データ記憶媒体。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の調節方法を実装するためのハードウェアおよび/またはソフトウェア手段を含むことを特徴とするモータ車両(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通車線上の車両、特に自律車両の横方向位置を調節するための方法に関する。本発明は、特に、調節方法の始動の時点において実行される初期化ステップに関する。本発明は、そのような方法を実装するためのハードウェアおよび/またはソフトウェア手段を含むモータ車両にも関する。
【背景技術】
【0002】
自律車両は、一般的には、コンピュータにより制御される操舵システムを含む。操舵システムは、車両が所与の軌道を自律的にたどるように、車両の被操舵輪(steered wheel)の向きを制御する。コンピュータは、車両が交通車線上で横方向に位置決めされることを可能とする、調節プロセスを実装する。特に、コンピュータは、車両がその車両の交通車線の中央にとどまることを可能とする、LCA(車線センタリング支援(Lane Centering Assist))として知られている調節プロセスを実装し得る。
【0003】
そのようなプロセスが運転の間に始動させられるとき、車両は、運転者により手動で規定される軌道から、自律的に決定される基準軌道に移動する。軌道におけるこの変化は、ある決まった特定の事例において、車両の相当量の横方向加速を生成し得る。これらの横方向加速は、乗り手に対する不安を、および、車両のグリップの不安定化または喪失さえも引き起こすことがある。
【0004】
特に、車両が軌道の手動制御から軌道の自律制御への移行を機にさらされる横方向加速は、ある決まった特定の状況において特に高いということが特記される。特に、それらの横方向加速は、車両センサ、特に、車両の操舵輪(steering wheel)における角度センサが、較正されていない、または、較正ずれ(すなわち、このセンサにより測定される値と、真の値との間の差)を含むときに、特に高い。これらの横方向加速は、さらには、車両が、この移行の時間において、バンクを付けられた、または上反りにされた交通車線、すなわち、横方向に傾斜させられた交通車線上で移動しているときに、特に高い。
【0005】
本発明の提示
本発明の目的は、上記で述べられた欠点を取り除き、従来技術から知られている調節方法を改善する、交通車線上の車両の位置を調節するための方法を提供することである。
【0006】
より具体的には、本発明の第1の目的は、始動の間の車両の過度の横方向加速を回避する、交通車線上の車両の横方向位置を調節するための方法である。
【0007】
本発明の第2の目的は、車両の被操舵輪の最大操舵角度の制限を可能とする、交通車線上の車両の位置を調節するための方法である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、交通車線上の車両の横方向位置を調節するための方法であって、調節方法は、
- 車両の基準状態ベクトルを算出するステップと、
- 車両の観測された状態ベクトルを算出するステップと、
- 基準状態ベクトルと観測された状態ベクトルとの間の差の関数として、車両の被操舵輪の操舵角度設定値を算出するステップと
を含み、
調節方法は、調節方法の始動の時点において実行される初期化ステップを含み、初期化ステップは、調節方法の始動の時点における被操舵輪の操舵角度設定値が、調節方法の始動の時点における被操舵輪の測定される操舵角度値に等しくなるように、初期の観測された状態ベクトルの成分を算出するサブステップを含む、方法に関係する。
【0009】
観測された状態ベクトルは、後に続く成分、すなわち、
- 車両のヨー速度、および/または、
- 車両の向首方向角度、および/または、
- 車両の横方向速度、および/または、
- 基準軌道に関しての車両の横方向距離、および/または、
- 車両の被操舵輪の操舵速度、および/または、
- 車両の被操舵輪の操舵角度、および/または、
- 基準軌道に関しての車両の横方向距離の積分
のすべてまたは一部を含み得る。
【0010】
初期の観測された状態ベクトルの成分を算出するサブステップの間に、前記成分は、調節方法の始動の時点における測定される操舵角度値の関数として算出され得る。
【0011】
観測された状態ベクトルは、基準軌道に関しての車両の横方向距離の積分に等しい成分を含み得るものであり、初期化ステップの間に規定される横方向距離の積分の初期値は、調節方法の始動の時点における被操舵輪の操舵角度設定値が、調節方法の始動の時点における被操舵輪の測定される操舵角度値に等しくなるように算出される。
【0012】
操舵角度設定値を算出するステップは、基準状態ベクトルと観測された状態ベクトルとの間の差に、調節ベクトルを乗算することを含み得るものであり、調節ベクトルは、車両の速度に依存的である。
【0013】
基準軌道に関しての車両の横方向距離の積分の初期値は、基準状態ベクトルと観測された状態ベクトルとの間の差の成分の関数として、および、調節ベクトルの成分の関数として、および、調節方法の始動の時点における測定される操舵角度値の関数として算出され得る。
【0014】
観測された状態ベクトルの算出は、車両の搭載センサにより測定される数量、車両を特徴付ける定数、車両の速度、および、調節方法の先行する反復の間に算出された車両の被操舵輪の操舵角度の設定値の値に基づき得る。
【0015】
本発明は、さらには、コンピュータ可読媒体(support)上に記憶されるプログラムコード命令であって、前記プログラムがコンピュータ上で走っているときに、上記で定義されたような調節方法のステップを実装するための、プログラムコード命令を含むコンピュータプログラム製品に関係する。
【0016】
本発明は、さらには、上記で定義されたような調節方法を実装するためのプログラムコード命令を含むコンピュータプログラムが記憶されるコンピュータ可読データ記憶媒体に関係する。
【0017】
本発明は、さらには、上記で定義されたような調節方法を実装するためのハードウェアおよび/またはソフトウェア手段を含むモータ車両に関係する。
【0018】
図の提示
本発明のこれらの目的、特色、および利点は、添付される図と組み合わせた形で、純粋に非制限的に与えられる、個別の実施形態の、後に続く説明において、詳細に解説されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態によるモータ車両の上方からの概略図である。
【
図2】交通車線上の車両の上方からの概略図である。
【
図3】交通車線上の車両の正面からの概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態による調節方法の概要の図である。
【
図5】調節方法において使用される調節器の概略図である。
【
図6】従来技術による調節方法との比較において、本発明の一実施形態による調節方法の性能を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態によるモータ車両1を概略的に例示する。車両1は、任意のタイプのものであり得る。特に、その車両1は、例えば、自動車、ユーティリティビークル、トラック、またはバスであり得る。車両1は、2つの被操舵前輪2fと、2つの後輪2rとを有する。被操舵輪2fの向きは、操舵システム3により制御され得る。操舵システム3は、2つの前輪2fに機械的に接続される操舵デバイス4と、操舵デバイス4に機械的に接続される操舵輪5とを含む。操舵システムは、さらには、例えば操舵デバイス4内に統合される、パワーアシスト操舵モジュールを含み得る。操舵システム3は、さらには、電子制御ユニット6と、操舵輪角度センサ7とを含む。操舵輪角度センサ7は、操舵輪7の向きを測定する能力がある。特に、その操舵輪角度センサ7は、操舵輪7に接続される操舵コラムの角度位置を測定することができる。操舵輪7の向きは、被操舵輪2fの向き、すなわち、被操舵輪2fの操舵角度に比例する。したがって、被操舵輪の操舵角度の制御は、車両1の操舵輪における角度を制御することと等価である。さらには、車両1は、車両速度の決定を可能とする、ヨーセンサ、および/または、少なくとも1つの輪速度センサなどの、他のセンサを装備され得る。
【0021】
電子制御ユニット6は、操舵輪角度センサ7に、操舵デバイス4に、および一部の事例において、車両の他のセンサに電気的に接続される。特に、その電子制御ユニット6は、メモリと、マイクロプロセッサと、車両1の他の機器により供給されるデータを受信するための、または、車両1の他の機器の注意のためのデータを送信するための入出力インターフェイスとを含む。電子制御ユニットのメモリは、本発明の実施形態による方法を実装するためのプログラムコード命令を含むコンピュータプログラムが記憶されるデータ記憶媒体である。マイクロプロセッサは、この方法を実行する能力がある。特に、電子制御ユニット6は、算出される角度によって、被操舵輪を操舵する、すなわち、被操舵輪の向きを定めるように、その電子制御ユニット6の入出力インターフェイスを介して、操舵デバイス4に制御コマンドを送出する能力がある。車両の長手軸X1は、車両が直線的な線において走行している方向と平行な軸と定義され得る。
【0022】
車両1は、さらには、例えばレーダ、ライダ、またはカメラなどの、車両1の周囲を検出するための手段8を含む。検出手段8は、さらには、電子制御ユニット6に接続される。車両1は、自律車両であり、すなわち、操舵システムは、運転者が操舵輪5を操作することなく、被操舵輪2fの向きを制御することができる。車両1は、それゆえに、運転者の介入なしに、操舵進路に沿って走行し、その操舵進路上にとどまり得る。車両1は、さらには、操舵輪を動かす運転者により、従前のように制御され得る。車両1は、それゆえに、2つの別個の機能モードにおいて使用され得るものであり、手動モードと呼ばれる第1のモードにおいて、被操舵輪の向きは、運転者により制御される。自律モードと呼ばれる第2のモードにおいて、被操舵輪の向きは、電子制御ユニットにより、特に、その電子制御ユニットに接続される検出手段8の手段により制御される。
【0023】
図2は、交通車線10上で走行する車両1を例示する。交通車線10は、例えば、色において白または黄である、実線または破線の形式で、交通車線上にマーキングされる2つの境界線11により、左および右に境を定められる。検出手段8は、境界線11を識別する能力がある。電子制御ユニットは、基準軌道12またはセットポイント軌道の算出を可能とするソフトウェア手段を含む。基準軌道12は、
図2において点線により識別される。基準軌道12は、交通車線10上で可視でない、理論的な線である。基準軌道12は、例えば、2つの境界線11から等距離に据えられる線であり得る。変形例として、基準軌道12は、異なって規定されることがある。その基準軌道12は、2つの境界線11の一方または他方の方に、より多くずらされることがある。その基準軌道12は、さらには、交通車線上に、または、交通車線10に近接する交通車線上に存在する、障害物または他の車両の検出の関数として算出されることがある。
【0024】
本文書において、長手軸Xは、車両1の高さにおける基準軌道と平行な交通車線の軸と定義される。横手軸Yは、車両1の高さにおける基準軌道と直角をなす交通車線の軸である。軸Zは、交通車線により形成される平面と直角をなす軸である。軸X、Y、およびZは、直交基準系を形成する。
【0025】
図2において例示される交通車線は、直線的な線である。しかしながら、本発明は、さらには、交通車線がカーブまたは曲折部を示すときに使用され得る。
図3が図示するように、交通車線10は、バンクを付けられ得る。交通車線10の表面に対して法線の軸Zは、したがって、垂直軸Z’に関してゼロに等しくない角度A1だけ傾斜させられる。角度A1は、横手に向きを定められる。このことは、交通車線が横手軸Yに沿って坂になるということを意味する。車両がそのような交通車線上で走行しているとき、被操舵輪は、車両が直線状の軌道を維持するために、全体的に坂の頂部の方に、わずかに操舵されなければならない。空転が、次いで、被操舵輪2fと道路表面との間の界面において発生し得る。そのような状況において、被操舵輪は、車両によりたどられる方向と完璧にはそろえられない。操舵輪角度センサにより測定される操舵輪角度は、したがって、車両が平坦な道路表面上で同じ向首方向をたどっていたならば付与されることになる値に関してずらされる、操舵輪角度に対する値を供給する。説明される本発明は、有利には、従来技術から知られている車両の位置を調節するための方法との比較において、そのようなバンクを付けられた交通車線上で使用され、車両の位置の円滑な調節につながり得る。
【0026】
本発明は、さらには、有利には、横手方向において上反りを伴う交通車線上で使用され得る。そのような道路上で、前左輪と接触している道路表面の部分は、前右輪と接触している道路表面の部分と平行ではない。往来する車が右で運転される国において、上反りにされた交通車線は、道路上で走行する車両が道路の右手側の方にわずかにドリフトするように構築され得る。運転者が不注意であるならば、このことは、運転者が、対向する方向において来る、およびゆえに、運転者の左で走行する車両と衝突することを防止することになる。より一般的には、本発明は、有利には、操舵輪角度センサにより取得される被操舵輪の操舵角度が、車両により実際上たどられる方向に対応しない、すべての状況において使用されることになる。
【0027】
車両の状態、すなわち、交通車線10上のその車両の位置、および、その車両の軌道は、
図2上で部分的に例示される、物理的数量または状態変数のセットにより特徴付けられ得る。特に、車両状態は、
- 車両のヨー速度dψ、および/または、
- 車両の向首方向角度ψ、および/または、
- 車両の横方向速度dy、および/または、
- 基準軌道に関しての車両の横方向距離y、および/または、
- 車両の被操舵輪の操舵速度dδ、および/または、
- 車両の被操舵輪の操舵角度δ、および/または、
- 基準軌道に関しての車両の横方向距離の積分ly
により特徴付けられ得る。
【0028】
ヨー速度dψは、軸Zの周りの車両の回転速度である。ヨー速度は、例えばヨーセンサの手段により測定され得る。向首方向角度ψは、交通車線10の長手軸X、すなわち、車両の高さにおける基準軌道12に対して接線の軸と、車両の長手軸X1との間に形成される角度と定義され得る。横方向距離yは、基準軌道12から車両の一点(特に、その車両の重心C)を隔てる距離と定義され得る。変形例として、横方向距離yは、さらには、境界線11から車両の一点を隔てる距離を測定することがある。向首方向角度ψおよび横方向距離yは、例えば、車両の検出手段8により算出され得る。横方向速度dyは、横方向距離yの、時間に関しての微分である。横方向距離の積分lyは、時間に関して、および、調節方法の始動の時点に対応する初期時点から算出され得る。
【0029】
被操舵輪の操舵角度δは、被操舵輪の走行の方向と平行な軸X2と、車両の長手軸X1との間に形成される角度と定義され得る。操舵角度δは、操舵輪角度センサ7により測定される操舵輪角度に比例する。車両が転回するとき、車両の2つの被操舵輪は、一般的には、被操舵輪の各々によりたどられる湾曲部の異なる半径を考慮に入れるように、わずかに異なる角度において操舵されるということが特記される。有利には、車両の状態は、いわゆる「自転車」モデルを使用して、すなわち、単一の被操舵輪を考察することにより単純化され得るものであり、その被操舵輪の操舵角度は、異なる操舵角度を伴う2つの被操舵輪によるのと同じカーブをたどることを車両に行わせる。「自転車」モデルを使用する被操舵輪の操舵角度は、例えば、左被操舵輪の操舵角度と、右被操舵輪の操舵角度との間の平均角度であり得る。被操舵輪の操舵速度dδは、操舵角度δの、時間に関しての微分である。
【0030】
先程説明された状態変数を使用して、状態ベクトルXが、後に続くように定義され得る。
[数式1]
【0031】
状態ベクトルXは、したがって、7つの成分を含む。その状態ベクトルXは、所与の瞬間における車両1の位置および軌道の特徴付けを可能とする。変形例として、状態ベクトルの成分は、異なる順序で提示されることがあり、または、提案される変数の代わりに、もしくは、それらの変数に加えて、異なる変数を含むことさえある。下記の説明は、それゆえ、そのことに応じて改変されることになる。一般的に、状態ベクトルは、所与の瞬間における車両の位置、速度、および加速を特徴付け得る。状態ベクトルは、それゆえに、時間的に可変なベクトルである。
【0032】
図4を参照して、本願では、今から、交通車線10上の車両1の横方向位置を調節するための方法を説明することになる。方法は、2つの主なステップE1およびE2へと細分化され得る。第1のステップE1は、調節方法の始動の時点において遂行される初期化のステップである。特に、第1のステップE1は、車両1の手動運転モードから自律運転モードへの移行の間に遂行され得る。第2のステップE2は、初期化ステップE1の後に続いて遂行される、車両1の位置を調節するステップである。第2のステップは、車両の被操舵輪に対する操舵角度設定値δcを算出する働きをする。第2のステップは、それゆえ、車両1が自律的に制御される限りにおいて、所与の頻度において繰り返され得る。
【0033】
本発明を明確に理解するために、本願では、最初に第2のステップE2を、および次いで、第1のステップE1を説明することになる。第2のステップE2は、閉ループ制御システムを図示する
図5において概略的に例示される。
【0034】
第2のステップE2は、車両の基準状態ベクトルXrefを算出するステップE21と、車両の観測された状態ベクトルXobsを算出するステップE22と、基準状態ベクトルXrefと観測された状態ベクトルXobsとの間の差Xerrの関数として、車両の被操舵輪の操舵角度設定値δcを算出するステップE23とを含む。次いで、操舵角度設定値δcは、第2のステップE2の、後に続く反復の間に、観測された状態ベクトルXobsを算出するために使用される。
【0035】
算出ステップE21の間に、基準状態ベクトルXrefが算出される。この状態ベクトルは、車両に対する位置および所望される軌道を示す。この状態ベクトルは、特に、基準軌道12の関数として算出され得る。車両1は、例えば、車両1の外部の要因、または、車両1の内部の要因から結果的に生じる、様々な乱れを経るので、所与の瞬間における基準状態ベクトルXrefは、車両の観測された状態ベクトルXobsとは異なり得る。
【0036】
算出ステップE22の間に、観測された状態ベクトルXobsが、車両に搭載のセンサ、車両の動力学モデル(
図5において21により識別される)、および観測器(
図5において22により識別される)から算出される。動力学モデル21は、後に続く式により示され得る。
[数式2]
dX=A.X+B1.δc+B2.ρ
【0037】
この式において、
- dXは、状態ベクトルXの、時間に関しての微分である、
- δcは、第2のステップE2の先行する反復の間に算出された被操舵輪の操舵角度設定値である、
- ρは、交通車線の曲率である。この値は、交通車線が直線的であるときにゼロである。この説明の残り部分を単純にするために、交通車線が実際上は直線的な線であるということが考察される。本発明による調節方法は、しかしながら、車両がカーブを曲がって走行する状況に置き換えられ得る。
- Aは、下記で定義されることになる7x7行列である、
- B1およびB2は、下記で定義される7つの成分を伴うベクトルである。
【0038】
行列Aは、後に続く算式により定義され得る。
[数式3]
【0039】
その式において、
- cfは、車両の前車輪部(train)のドリフトの剛性を指示する、
- crは、車両の後車輪部のドリフトの剛性を指示する、
- lfは、車両の重心Cと前車輪部との間の距離を指示する、
- lrは、車両の重心Cと後車輪部との間の距離を指示する、
- lzは、車両の慣性を指示する、
- mは、車両の質量を指示する、
- vは、車両の速度を指示する、
- ζは、操舵システムの減衰因子を指示する、
- ωは、操舵システムのフィルタの固有振動数を指示する。
【0040】
パラメータcf、cr、lf、lr、m、ζ、およびωは、それゆえに、車両を特徴付ける定数である。それらのパラメータは、車両の開発の間に1回限りで規定され、電子制御ユニットのメモリ内に記憶され得る。
【0041】
ベクトルB1は、後に続く算式により定義され得る。
[数式4]
【0042】
その式において、ωは、操舵システムのフィルタの固有振動数を指示する。
【0043】
ベクトルB2は、後に続く算式により定義され得る。
[数式5]
【0044】
その式において、vは、車両の速度を指示する。
【0045】
さらには、測定値ベクトルYが、後に続く算式により定義され得る。
[数式6]
Y=C.X
【0046】
その式において、Cは、車両1の搭載センサのおかげで直接的に入手可能である、ベクトルXを組成する状態変数の分離を可能とする対角行列を指示する。行列Cは、それゆえに、車両上で入手可能な測定値に依存する行列である。
【0047】
上記で提示された動力学モデル21を基礎として、観測された状態ベクトルXobsが、観測器22の手段により算出され得る。観測器22は、観測された状態ベクトルの測定されない成分の推定を可能とする。道路の曲率がゼロである事例において、観測された状態ベクトルは、したがって、後に続く式の手段により算出され得る。
[数式7]
dXobs=(A-Lp.C).Xobs+B1.δ+Lp.Y
【0048】
その式において、
- Xobsは、観測された状態ベクトルを指示する、
- dXobsは、観測された状態ベクトルの、時間に関しての微分を指示する、
- Lpは、車両速度に依存する正の線形行列である、
- A、B1、C、およびδは、上記で定義された数量である。
【0049】
第3の算出ステップE23の間に、最初に、基準状態ベクトルXrefと観測された状態ベクトルXobsとの間の差が算出される。この差は、車両の理論的な状態と、その車両の現実の状態との間の誤差を表すベクトルXerrを与える。ベクトルXerrは、それゆえに、後に続く算式により定義され得る。
[数式8]
Xerr=Xref-Xobs
【0050】
次いで、被操舵輪の操舵角度設定値が、Xerrに調節ベクトルKsを乗算することにより、ベクトルXerrから推論され、調節ベクトルKsは、車両速度に依存的なベクトルである。したがって、被操舵輪の操舵角度設定値δcは、後に続く算式を使用して算出され得る。
[数式9]
δc=Ks.Xerr+δvir
【0051】
その式において、δvirは、曲がって車両が走行している、可能性のあるカーブの湾曲部をたどるために必要な被操舵輪の操舵角度を指示する。方法は直線的な交通車線上で遂行されるということを想定すると、項δvirは、それゆえにゼロであることになる。
【0052】
第2のステップE2は、ベクトルKsおよび行列Lpを使用し、両方は、車両速度の関数として規定されるということが特記される。電子制御ユニットのメモリは、それゆえに、あらかじめ規定された速度値に対して規定される、ベクトルKsおよび行列Lpに対する異なる値を内包し得る。車両が、2つのあらかじめ規定された速度値の間の中程度の速度において実際上走行しているとき、ベクトルKsおよび行列Lpは、車両の現実の速度より高い速度、および、低い速度に対する、記憶されるベクトルKsおよび行列Lpそれぞれの重み付けにより外挿され得る。
【0053】
今から、第1のステップE1が説明されることになり、そのステップE1の間に、調節方法が初期化される。
【0054】
初期化ステップE1は、調節方法の始動の時点における被操舵輪の操舵角度設定値δcが、調節方法の始動の時点における被操舵輪の測定される操舵角度δmに等しくなるように、初期の観測された状態ベクトルX0の成分を算出するサブステップE11を含む。初期の観測された状態ベクトルX0は、手動運転モードと自律運転モードとの間の移行の瞬間における、すなわち、調節方法の初期化の時点における、観測された状態ベクトルに対応する。それゆえに、特定の初期条件が、手動運転モードと自律運転モードとの間の円滑な移行を達成するように、観測された状態ベクトルに課される。被操舵輪の測定される操舵角度δmは、操舵デバイスに依存する比例の係数を操舵輪角度に乗算することにより、操舵輪角度センサを使用して取得される。操舵輪角度センサ7が(例えば、現実の値に関してのずれによって)現実の操舵輪角度とは異なる測定される値を返すことになったとしても、操舵角度設定値は、この測定される値に等しい。このことは、初期化の間の、被操舵輪の操舵角度における突然の変動を回避する。
【0055】
下記でベクトルX0と、より単純に呼ばれる、初期の観測された状態ベクトルX0は、初期化ステップE1の時点における観測された状態ベクトルに対応する。そのベクトルX0は、後に続く算式により定義され得る。
[数式10]
【0056】
その式において、
- X01、X02、X03、X04、X05、X06、X07は、ベクトルX0の第1の、第2の、第3の、第4の、第5の、第6の、および第7の成分をそれぞれ指示する、
- dψ0は、現在の瞬間において、すなわち、調節方法の初期化の時点において、測定または算出される、車両のヨー速度である、
- ψ0は、初期化ステップE1の時点において測定または算出される、車両の向首方向角度である、
- dy0は、初期化ステップE1の時点において測定または算出される、車両の横方向速度dyである、
- y0は、初期化ステップE1の時点において測定または算出される、基準軌道に関しての車両の横方向距離である、
- dδ0は、初期化ステップE1の時点において測定または算出される、車両の被操舵輪の操舵速度である、
- δ0は、初期化ステップE1の時点において測定または算出される、車両の被操舵輪の操舵角度である、
- X07は、ベクトルX0の第7の成分である。X07は、後に続く算式によって算出される。
[数式11]
【0057】
その式において、
- Ks,iは、調節ベクトルKsの成分iを指示する、
- Xerr,iは、初期化ステップE1の時点における、基準ベクトルとベクトルX0との間の差の成分iを指示する、
- δmは、初期化ステップE1の時点において測定される、および、操舵輪角度センサを使用して取得される、車両の被操舵輪の操舵角度である、
- δvirは、曲がって車両が走行している、可能性のあるカーブの湾曲部をたどるために必要な被操舵輪の操舵角度を指示する。
【0058】
第7の成分X07は、したがって、調節方法の始動の時点において測定される操舵角度δmの値の関数として、ただしさらには、調節ベクトルKsの関数として算出される。
【0059】
そのような初期値をベクトルX0の第7の成分に課すことにより、算出ステップE2の最初の反復において、本願では、調節方法の始動の時点における車両の被操舵輪の測定される操舵角度δmに等しい、被操舵輪に対する操舵角度設定値δcを取得する。基本的には、基準ベクトルXrefの第7の成分は、算出ステップE2の最初の反復の間はゼロであり、上記で定義された式、数式9の求解は、それゆえに、δc=δmに至る。
【0060】
その結果、基準軌道に関しての車両の横方向距離の積分lyの初期値を表す、ベクトルX0の第7の成分X07は、調節方法の始動の時点における被操舵輪の操舵角度設定値の値が、調節方法の始動の時点における被操舵輪の測定される操舵角度に等しくなるように規定される。基準軌道に関しての車両の横方向距離の積分の初期値は、それゆえに、定数値において規定されず、特に、その初期値は、ゼロ値において規定されない。そうではなく、その初期値は、調節方法の始動の時点における被操舵輪の操舵角度の測定される値の関数として算出される。次いで、算出ステップE2の後続の反復の間に、横方向距離の積分ly(すなわち、観測された状態ベクトルXobsの第7の成分)は、この算出される初期値からの乖離により、車両が横方向に左にドリフトしているか、それとも右かに依存して、漸増または漸減させられ得る。
【0061】
図6は、本発明の実施形態による調節方法を実装する車両1によりたどられる軌道T1の、従来技術による調節方法を実装する車両1によりたどられる軌道T2との比較を可能とするグラフである。この比較を果たすために、15°のずれが、操舵輪角度センサにより発される操舵輪角度の値に付与される。それゆえに、現実の操舵輪角度と測定される操舵輪角度との間に15°の差が存する。この状況は、車両1が、特にバンクを付けられた、もしくは上反りにされた交通車線上で走行している、または、操舵輪角度センサの較正失策の事例における、極端な事例を例示する。そのような較正失策は、例えば、車両が製造工場または修理工場を去っており、操舵輪角度センサに対する較正アルゴリズムがまだ実行されていないときに発生し得るということが特記される。車両は、直線的な線において移動しながら、手動運転モードと自律運転モードとの間で切り替えるということ、および、その車両の現実の軌道は、基準軌道12にすでに実質的に対応するということが考察される。
【0062】
グラフは、3つの部分P1、P2、P3へと細分化され得るものであり、横軸は、すべての3つの部分に共通である。横軸は、秒単位で表現される時間を表す。車両は、横軸0において手動運転モードから自律運転モードに切り替えるということが考察される。軌道T2は、調節方法の始動の後の、おおよそ1.7秒の時間幅の後に中断されており、なぜならば、運転者は、調節方法を中断し、車両の手動制御を再開しなければならなかったからである。
【0063】
グラフの上部部分P1は、軌道T1に対する、および、軌道T2に対する、(度単位で表現される)操舵輪角度を例示する。軌道T1は、多くともプラスまたはマイナス5度の、操舵輪角度における変動を引き起こすということが特記される。しかしながら、軌道T2は、操舵輪角度における大きい変動を引き起こす。これらの変動は、およそ1秒の時間幅にわたって10°より大でさえある。実のところ、車両はすでに基準軌道12をたどっているので、従来技術による車両により算出される操舵角度設定値は、実質的に0°に等しいことになる。その結果、操舵輪角度は、ずれに等しい値(この事例においては15°)から、0°に等しい値に突然切り替わり、そのことは、突然の大きい操舵入力の影響を有することになる。
【0064】
グラフの中間部分P2は、軌道T1に対する、および、軌道T2に対する、基準軌道12に関しての車両1の(メートル単位で表現される)横方向距離を例示する。
【0065】
グラフの下部部分P3は、軌道T1に対する、および、軌道T2に対する、車両1の(m/s2単位で表現される)横方向加速を例示する。軌道T1をたどる車両に付与される横方向加速は、およそ0.7m/s2未満にとどまる。軌道T2をたどる車両に付与される横方向加速は、およそ1.5m/s2である。
【0066】
車両が軌道T2をたどるとき、乗り手は、それらの乗り手を当惑させ、それらの乗り手の快適さを台無しにすることがある、突然の操舵入力の印象を有する。車両が軌道T1をたどるとき、操舵輪角度および横方向加速における変動は、より適度である。乗り手の快適さが改善される。運転者は、車両1の制御を再開することの必要性を感じない。
【0067】
本発明のおかげで、車両1が、バンクを付けられた、もしくは上反りにされた交通車線上で走行しているときでさえ、または、操舵輪角度センサが、操舵輪角度の現実の値に関してのずれだけ異なる値を提供するとしても、横方向位置を調節するための方法であって、その方法の始動の間に何らの突然の操舵入力も引き起こさない、方法が達成される。この方法は、すべての環境において快適であり心強い、手動運転モードと自律運転モードとの間の移行を与える。
【国際調査報告】