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特表2022-537804最適化されたパルボウイルスH-1産生
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-30
(54)【発明の名称】最適化されたパルボウイルスH-1産生
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220823BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220823BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
C12N7/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573222
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2020066748
(87)【国際公開番号】W WO2020254395
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】19180628.0
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】502227745
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム スチフトゥング デス エッフェントリヒェン レヒツ
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】ロイクス,バーバラ
(72)【発明者】
【氏名】フレートマン,ヴェロニカ
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ロメレーレ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ダーム,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】クレブス,オッタインツ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AC20
4B065BD44
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、H-1パルボウイルス(H-1 PV)の最適化された産生のための強い単一クローンマスターセルバンク(MCB)を提供し、これは、標準的な産生体であるNB-324K混合細胞に比べて感染性のパルボウイルス産生を増大させるのに適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルボウイルスH-1PV産生のための単一クローンマスターセルバンク(MCB)の製造方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)細胞培養培地中で、NB-324K混合クローンを増殖させる工程、
(b)96ウェルプレート中で理想的には1ウェルあたり1細胞を播種し、20~28日間それを増殖させる工程、
(c)工程(b)で得られた2~5細胞クローンを選択する工程、ここで、該細胞は、1ウェルにつき単一コロニーを示した、
(d)少なくとも2つの第1ラウンド単一クローンを、20~23日間単一細胞/ウェルとして、96ウェルに播種し、増殖および産生について試験する工程、
(e)最良の増殖および産生特性を有する選択された単一細胞クローンを、継代が継代15より多くなるまで、増殖させ継代させる工程、
(f)得られた細胞を採取し保存する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程(a)の細胞培養培地が、ウシ胎仔血清(FBS)、L-グルタミンおよびゲンタマイシンを含むMEM培地である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(e)の増殖させ継代させる工程が、T-フラスコおよびローラーボトル中で実施される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
マスターシードウイルス(MSV)組成物の製造方法であって、該方法は、
(a)請求項1~3いずれかにおいて得られたマスターセルバンクを提供する工程、
(b)マスターセルバンクを配列決定されたpUC19ΔHindIII/H1プラスミドDNAでトランスフェクトする工程
(c)MCB細胞をH-1PVプラスミドDNAで少なくとも2ラウンド感染させ、MSVを生成する工程
を含む、方法。
【請求項5】
工程(b)におけるトランスフェクションが、リン酸カルシウムトランスフェクションによりなされる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
パルボウイルスH-1(H-1PV)の製造方法であって、該方法は:
(a)請求項1~3いずれかにおいて得られたマスターセルバンク(MCB)を提供する工程;
(b)MCB細胞に、請求項4および5のいずれかにおいて得られたマスターシードウイルス(MSV)をプレシーディングする工程、
(c)2.0~5.0 x 104細胞/cm2の細胞密度の該細胞を、0,5~5 x 10-2PFU/細胞のMOIでMSVで感染させる工程;
(d)該細胞を約2~6日間増殖させ、感染後2~6日で該細胞を採取し、遠心分離により細胞ペレットを得る工程;
(e)再懸濁された細胞ペレットを、パルボウイルス含有細胞溶解物を得るために、機械的、物理的または化学的細胞溶解法に供する工程;
(f)パルボウイルス採取物を濾過により清澄化する工程;ならびに
(g)それをDNAse処理に供する工程;
(h)クロマトグラフィー調製のためのバッファ交換;
(i)空の粒子およびほとんどの不純物の排除のためのクロマトグラフィー;
(j)脱塩カラムまたはタンジェンシャルフロー濾過によるバッファ交換および濃縮;
(k)Visipaque/Ringerまたは他の製剤化溶液中での最終製剤化
を含む、方法。
【請求項7】
工程(h)におけるクロマトグラフィーが陰イオン交換クロマトグラフィーである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項1~3いずれか記載の方法により得られ得るパルボウイルスH-1産生のための単一クローンマスターセルバンク(MCB)。
【請求項9】
ブダペスト条約に従って受託番号DSM ACC3353の下DSMZ(=German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)に寄託された細胞を含む、請求項8記載の単一クローンマスターセルバンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、H-1パルボウイルス(H-1 PV)の最適化された産生のための強い(robust)単一クローンマスターセルバンク(MCB)を提供し、これは、標準的な産生体であるNB-324K混合細胞に比べて、感染性パルボウイルスの産生を増大させるのに適している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
H-1PVは、パルボウイルス科のパルボウイルス亜科の中のプロトパルボウイルス(Protoparvovirus)属に属する(Cotmore et al., 2014)。それは、直径25nmの非エンベロープ型正二十面体キャプシドからなり、非構造タンパク質 - 特にNS1(83kDa)およびNS2(25kDa) - ならびにキャプシドタンパク質VP1(81kDa)およびVP2(65kDa)をコードする約5kb長の一本鎖DNAゲノムを含む。別のキャプシドタンパク質であるVP3(63kDa)は、VP2の翻訳後切断により生じる(Faisst et al., 1995; Halder et al., 2012; Hanson and Rhode, 1991; Toolan et al., 1960)。プロトパルボウイルスは、S期依存性様式で複製し、許容細胞の感染後溶解サイクルを経験する(Burnett et al., 2006)。H-1PVの天然の宿主はラットであるが、このウイルスは、いくらかのヒト腫瘍細胞を含む形質転換された細胞において優先的に複製するので、最近かなり興味を高めた。該ウイルスは、腫瘍崩壊性および腫瘍抑制性の特性を有し、これは、種々の細胞培養および動物モデルにおいて示されてきた(Nuesch et al., 2012; Rommelaere et al., 2010)。異種移植片モデルにおいて、H-1PVは、いくらかのヒト腫瘍、例えば、子宮頸腫瘍(Faisst et al., 1998; Li et al., 2013)、膵臓腫瘍(Angelova et al., 2009b; Grekova et al., 2011)、乳癌(Dupressoir et al., 1989)、神経膠腫(Geletneky et al., 2010; Kiprianova et al., 2011)、およびリンパ腫(Angelova et al., 2009a)を抑制することが示されてきた。概念のこれらの前臨床的証拠に基づいて、H-1PVの最初の臨床試験(第I/IIa相)は、再発多形性神経膠芽腫を有する患者について2011年に開始された(Geletneky et al., 2012)。
【0003】
H-1PVの治療的可能性を試験し、最終的に活用するために、効率的で単純で確固とした再現性のあるウイルスの産生および精製プロセスを開発する必要がある。精製方法は、塩化セシウム(Halder et al., 2012; Paradiso, 1981)またはイオジキサノール(Wrzesinski et al., 2003; Zolotukhin et al., 1999)密度勾配遠心分離によるスモールスケールの産生について公開されている。
【0004】
腫瘍崩壊性プロトパルボウイルスの研究は、再発切除可能悪性神経膠腫を有する患者におけるH-1PVの最初の第I/IIa相試験を伴う臨床実施へと移行する段階に到達した(Geletneky et al., 2012)。さらに、第I/II相臨床試験は、手術不能の転移性膵臓癌を有する患者において開始された(ClinicalTrials.gov 識別子: NCT02653313;準備中の原稿)。
【0005】
これらの開発は、プロトパルボウイルス産生および特徴づけのための確固とした手順の利用可能性に依存する。一方、標準化された手順が、概念の証拠を提供し得る前臨床データを生じるために必要である。他方、標準的な操作手順もまた、臨床バッチを生成し、それらの詳細(specification)を確立することを担当する認証された施設に、技術および標準(standards)を移譲するために必要である。
【0006】
しかし、良好に特徴づけられたウイルス調製および分析方法の使用は、本当に、腫瘍崩壊性プロトパルボウイルスの腫瘍学における治療的効力の妥当かつ再現性のある証拠を得るために必須であり、規制当局により必要とされる。
【0007】
H-1PV産生は、ヒト新生児腎臓細胞であるNB-324K混合細胞等の細胞培養においてルーチンに実施される(WO 2016/206807 A1)。
【0008】
しかし、より高い機械的安定性を有し、より高いトランスフェクション効率を有し、NB-324K混合細胞に比べてのより高い生産性およびアンモニアに対するより高い強さ(robustness)を生じ、より感染性のH-1PVを生じるH-1PV産生のための新たな産生体細胞に対するニーズが残る。
【0009】
従って、本発明の基礎をなす技術的課題は、単一クローンMCB細胞によるパルボウイルスのラージスケール産生を最適化することである。
【0010】
該技術的課題の解決手段は、特許請求の範囲に特徴づけられる態様を提供することにより達成される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、NB-324K混合クローン(Shein & Enders,1962; Solon L. Rhode, 1976; Tattersall and Bratton, 1983)を、適切な培地中、好ましくは、ウシ胎仔血清(FBS)、L-グルタミンおよびゲンタマイシンを含むMEM培地中、適切な条件(例えば、37°C、5%CO2)下で増殖することにより、パルボウイルスH-1PV産生のための単一クローンマスターセルバンク(MCB)を調製する方法に関する。単一細胞クローニングを、96ウェルプレート中で、20~28日間、好ましくは、約24日間、1ウェルあたり1細胞(理論上)を播種することにより生じた。細胞が1ウェルあたり単一コロニーを示し、経時的に迅速な増殖を示す2~5、好ましくは、3細胞クローンを、最初に選択した。これらを、良好な細胞増殖および生産性について試験した。その後、2つの第1ラウンド単一クローンを、再度、96ウェルに、20~23日間、好ましくは、約21日間、単一細胞/ウェルとして播種し、再度、増殖および生産性について試験した。次いで、最良の選択された単一細胞クローンを、適切な培地中適切な条件下で継代15以上(例えば、継代16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41)まで、例えば、T-フラスコおよびRollerボトル中で、増殖および継代した。細胞を採取し、細胞懸濁液を、クライオバイアルに充填した。得られたMCBを、欧州薬局方の要件に従って特定する。これは、H-1PV産生方法がGMP要件に適合し、最終産物が品質要件を充足することを確実にするために必要である。
【0012】
最適な結果について、「マスターセルバンク」は、(a)形態、(b)少なくとも80%の生存能力、(c)滅菌性(d)継代数15(e)マイコプラスマおよびマイコバクテリア夾雑の欠失、(f)SV40産生の欠失、(g)外来因子の欠失、(f)外来ウイルス夾雑の欠失、(g)同一性、(h)腫瘍形成性の欠失ならびに(i)腫瘍原性(oncogenity)を特徴とする。
【0013】
本発明はまた、マスターシードウイルス(MSV)組成物を調製する方法に関し、該方法は、
(a)上記されるようにNB-324K混合クローン細胞からマスターセルバンクを調製する工程;
(b)適切な方法(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション法; Graham and Van der Eb, 1973)により配列決定されたpUC19ΔHindII/H1プラスミドDNA(Kestler et al, 1999)でマスターセルバンクをトランスフェクトする工程
(c)MSVを生成するためのH-1PVプラスミドDNAでのMCB細胞の少なくとも2ラウンドの感染
を含む。
【0014】
本発明は、パルボウイルスH-1PV製剤の製造方法にさらに関し、該方法は:
(a)上記されるようにマスターセルバンクを提供する工程、
(b)MCB細胞をプレシーディングする工程
(c)適切な細胞密度、例えば、2.0~5.0x104細胞/cm2の該細胞を、マスターシードウイルス(MSV)で、適切なMOI、例えば、0,5~5x10-2PFU/細胞で感染させる工程;
(d)該細胞を約2~6日間増殖させ、感染後2~6日目に該細胞を採取し、遠心分離により細胞ペレットを得る工程;
(e)パルボウイルス含有細胞溶解物を得るために、再懸濁された細胞ペレットを機械的、物理的または化学的細胞溶解法に供する工程;
(f)濾過によりパルボウイルス採取物を清澄化する工程;ならびに
(g)それをDNAse処理に供する工程;
(h)クロマトグラフィー調製のためのバッファ交換;
(i)空の粒子およびほとんどの不純物の排除のためのクロマトグラフィー、例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー;
(j)脱塩カラムまたはタンジェンシャルフロー濾過によるバッファ交換および濃縮;
(k)Visipaque/Ringerまたは他の製剤化溶液中での最終製剤化
を含む。
【0015】
用語「細胞培養」は、人工的なインビトロ環境中での細胞の維持を意味する。本発明の培地は、接着性のNB-324K 細胞を培養するために使用され得る。
【0016】
用語「培養(cultivation)」は、活動性または静止性の状態における細胞の増殖、分化または引き続きの生存能力に好ましい条件下でのインビトロでの細胞の維持を意味する。
【0017】
句「細胞培養培地」は、細胞を培養するための栄養性の溶液を言う。
【0018】
用語「セルバンク」は、その内容物が規定条件(defined condition)下で保存された一様な組成物である適切な容器の集合を言う。各容器は、細胞の単一プールのアリコートを示す。
【0019】
用語「マスターセルバンク(MCB)」または「マスターセルシード(MCS)」(両方の用語は交換可能に使用され得る)は、単一供給源に由来する一様な組成物の細胞の集合を言う。特に、それは、ブダペスト条約下でGerman Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)に寄託されたScNB-324K(同義語:MCS NB 324K)である。
【0020】
当業者は、マスターセル株を増殖させるための一般的な条件および細胞をパルボウイルスで感染させるための一般的な条件を知っている。通常、細胞は、37°Cで、例えば、5% CO2雰囲気中で熱不活性化ウシ胎仔血清(例えば、FBS 5%)を有する最少必須培地(MEM)中で培養される。好ましくは、培地は、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン)および/または栄養分(nutriens)、例えば、L-グルタミンを補充されるべきである。
【0021】
本発明の好ましい態様において、細胞密度は、2.5x103~1x105細胞/cm2である。
【0022】
本発明の方法のさらに好ましい態様において、ウイルス産生は、単回使用の細胞培養システム、好ましくは、10層細胞STACK(登録商標)(CS)チャンバーにおいて実施される。さらなるグレードアップ(upscaling)は、例えば、40層CSチャンバーまたはキャリアシステムを用いて達成され得る。
【0023】
好ましくは、採取のために、培養培地は、吸引され、感染細胞は、適切なバッファおよび/または酵素もしくは界面活性剤、例えば、PBS-EDTA、Trisバッファ、Tweenまたはトリプシンで処理される。剥離された(detached)細胞および適切な場合培地上清は、細胞ペレットを得るために、好ましくは、5,000xgで好ましくは、約5分間遠心分離されるか、または濾過される。当業者は、パルボウイルスを産生体細胞から放出するための適切な機械的、化学的または物理的方法を知っている。好ましくは、これは、凍結/融解サイクル、超音波処理および/または酵素/界面活性剤処理によりなされ得る。当業者は、細胞を超音波処理し次いでDNAse処理するための適切な方法も知っている。例えば、細胞は、30~70Wで十分な時間超音波処理され得、DNAse処理は、10~80U/ml DNAseを用いて、通常37°Cで10~60分間行われる。
【0024】
上記されるように、最終H-1PV製剤は、好ましくは、担体としてのVisipaque/Ringer中にある。本発明の好ましい態様に従うと、担体は、73.62% VISIPAQUETM 320 (GE Healthcare)と26.38% Ringer 溶液を混合することにより調製されるRinger 溶液中のイオジキサノールである。VISIPAQUETM 320 (GE Healthcare)は、652 mg/ml イオジキサノール(= 65.2% イオジキサノール)を含むので、Ringer溶液との混合後のイオジキサノール濃度は48%である。「イオジキサノール」は、「Visipaque」(ヒト注射用途について)または「イオジキサノラム(Iodixanolum)」(研究等級)の同義語である。IUPAC名は、5-[アセチル-[3-[N-アセチル-3,5-ビス(2,3-ジヒドロキシプロピルカルバモイル)2,4,6,-トリヨードアニリノ]2-ヒドロキシプロピル]アミノ]-1-N,3,N-ビス(2,3-ジヒドロキシプロピル)-2,4,6-トリヨードベンゼン-1,3-ジカルボキサミドである。CAS番号は、92339―11-2である。それは、CT画像化のための周知の造影剤でもある。
【0025】
以下の実施例に示すように、単一クローンMCB(ScNB-324K)は、NB-324K混合細胞に対して明確な利点を示す:ケラチンは、単一クローンMCB細胞中でより多く(more profoundly)発現され、より高い機械的安定性を生じ、MCB細胞を用いたトランスフェクション効力はより大きく、より高い感染性の生産性を生じ、単一クローンMCB細胞は、アンモニアに対してより強い。
【0026】
以下の実施例は、例示を意図するが、本発明の限定を意図しない。かかる実施例は、使用され得るものの典型であるが、当業者に公知の他の方法が、代替的に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図面の簡単な説明
図1図1:H-1PV産生のためのマスターセルバンクおよびマスターシードウイルスの生成。NB-324K 混合クローンの細胞は、MEM、5% FBS、2% L-グルタミンおよび0.2% ゲンタマイシンでの2ラウンドの単一コロニー選択を受け、選択されたクローンD8-G3を、最初に、リサーチセルシード(RCS)の確立に使用し、次いで、H1-PV産生のためのマスターセルバンク(MCB;継代15以上)の確立に使用した。マスターシードウイルス(MSV)生成のために、単一クローンMCB細胞を、配列決定されたpUC19ΔHindII/H1プラスミドDNAでトランスフェクトした。H-1PVでの2ラウンドのMCB細胞感染の後、最終継代を、MSVと規定した。医薬産生のために、MCBワーキングセルバンク細胞を、MSV(または対応するワーキングシードウイルス(WSV))で感染させる。
図2図2:H-1PV GMP産生のための2ラウンドの単一細胞クローン選択。第1ラウンドの選択(A)。クローンD8(4.07E+03±2.88E+03 PFU/細胞)、クローンE6(4.86E3 ± 3.27E+02 PFU/細胞)およびC5(5.0E+03±1.05E+03 PFU/細胞)(n=2)は、NB-324K混合クローン(6.9E3 PFU/細胞)に匹敵する同じ生産性を示す。さらに、3つの選択されたクローンの生成時間(約33~35h)はまた、混合クローンNB-324K(約32h;示さず)の生成時間と同様であり、ここで、クローンD8は、32.9hの最良の生成時間を有する。結果として、さらなる実験において、クローンD8を用いて作業することを決定した。第2ラウンドの選択(B)。両方の混合クローンD8-G3およびD8-F7の生成時間は、50hである。クローンD8-G3の生産性は、クローンD8-F7より良好であり、混合クローンNB-324Kと同様である。結果として、D8-G3クローンを用いてリサーチセルバンクおよびマスターセルバンク(MCB)を確立することを決定した。確立されたMCB細胞株の生成は、約30hであり、H-1PV産生のために使用する。
図3図3:混合クローンNB-324および単一クローンMCB細胞の免疫蛍光比較(A-C)。NB-324KおよびMCB細胞を、中間体ケラチンをマークするCH/HKケラチン抗体および核染色のためのDAPIで染色した。核計数および総強度の評価を、ImageJソフトウェア(https://imagej.nih.gov/ij/)で実施し、カスタム開発された(custom-developed)マクロ(Dr. Damir Krunic, DKFZ Light Microscopy Facilityにより提供)で評価した。ケラチンは、単一の上皮細胞および細胞-細胞接触を介して上皮組織の両方の完全性および機械的安定性において主な機能的役割を果たす(Moll et al, 2008; The human keratins: biology and pathology, Histochem Cell Biol, 129:705-733)。単一クローンMCB細胞は、2.7x高いケラチンシグナル強度/細胞を示し、NB-324K混合クローン細胞に比べてより高い単一クローンMCB細胞の機械的安定性を示す。この機械的安定性は、確固としたグレードアッププロセスにおいて役割を果たし得る。
図4A図4:単一クローンMCB細胞のより高いトランスフェクション効率。NB-324KおよびMCB細胞を、リン酸カルシウム法を使用してH-1PV産生プラスミドクローンでトランスフェクトした。単一クローンMCBは、混合NB-324K細胞に比べてのより高いトランスフェクション効力についての利点を示す(A)。
図4B図4:単一クローンMCB細胞のより高いトランスフェクション効率。NB-324KおよびMCB細胞を、リン酸カルシウム法を使用してH-1PV産生プラスミドクローンでトランスフェクトした。ゲノム含有粒子対感染性粒子比(GP/PFU)は、単一クローンMCBでより低く(B)、製品中のより少ない欠損粒子およびより多い感染性粒子を示す。
図5図5:NB-324K混合細胞に比べての単一クローンMCB細胞のアンモニアに対する高い強さ。細胞を、異なるアンモニア濃度で処理し、5日の増殖後に計数した。単一クローンMCB細胞は、NB-324K混合細胞に比べて、20mMアンモニアまでより高い強さを示す。この強さは、アンモニアがグルタミン代謝からの主な生成物であるので、細胞増殖およびH-1PV産生プロセスの間のMCB細胞の利点を示す。その蓄積は、増殖を低減させ、代謝に負の影響を与えることが示された。アンモニア蓄積は、電気化学的細胞勾配を破壊し得、細胞質酸性化を誘導し得る。さらに、それは、培養細胞においてアポトーシスを誘導し得る(Cruz et al., 2000,” Effects of ammonia and lactate on growth, metabolism, and productivity of BHK cells”; Hassell et al., 1990, “Growth inhibition in Animal cell culture”)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
特定の好ましい単一細胞MCB(「MCS NB324Kヒト」)の細胞は、受託番号DSM ACC3353において2019年5月16日に、BraunschweigのGerman Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)にブダペスト条約下で寄託された。
【実施例
【0029】
実施例1
材料および方法
A.免疫蛍光試験
免疫蛍光試験は、特定の抗原に結合する蛍光マークされた抗体の使用に基づき、これにより、特定の細胞外および細胞内構造が証明され得る。この原理は、中間体ケラチンをマークするCH/HK-ケラチン抗体でのケラチン染色に使用される。このために、単一クローンMCB(ScNB-324K)およびNB-324K混合細胞を、6E5(図3C)および1.2E6(図3A、B)細胞/ディッシュで、6cm細胞ディッシュ中のガラススライドに播種した。24時間のインキュベーション時間後に、スライド上の細胞をPBS中で洗浄し、氷冷メタノール中で10分間固定し、その後氷冷アセトン中で5分間固定した。ケラチン検出のために、スライドを、0.05% BSAを有するPBSでプレブロックし、その後、CH/HK-ケラチン抗体で1時間インキュベートした。その後、スライドを、0.1% Tritonを有するPBS中で洗浄し、その後、二次抗体Cy3gp(Dianova, Germany)を1時間インキュベートした。非結合の二次抗体を、0.1% Tritonを有するPBS中での3回の洗浄により除去した。スライドを、エタノールに浸漬し、乾燥させた。スライドを、細胞の核を染色する1μg/ml DAPI (4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール, SigmaAldrich, Germany)を含むFluoromountTMスライドマウント媒体(SigmaAldrich, Germany)を用いて包埋させた。分析を、蛍光顕微鏡BZ-9000(Keyence, Germany)を用いて行った(occur)。核計数および総強度の評価を、ImageJソフトウェア(https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて行った。
【0030】
B.単一クローンMCBおよびNB-324K混合細胞の培養、トランスフェクションおよび感染
単一クローンMCB(ScNB-324K)およびNB-324K混合細胞を、5% FBSおよび4mM L-グルタミンを有するVP-SFM培地中で37°Cで培養する。トランスフェクションのために、単一クローンMCBおよびNB-324K混合細胞を、5% FBS、2mM グルタミン(Glutamin)、Pen/Strepを有するMEM培地中で3.6E4細胞/75cm2フラスコで播種し、リン酸カルシウムトランスフェクション法を使用してpuc19ΔHindIII/H1プラスミドでトランスフェクトした。細胞を、3、4および5日目に採取した。
【0031】
単一クローンMCBおよび混合NB-324Kに対するアンモニアの毒性効果の同定のために、単一クローンMCBおよび混合NB-324K細胞を、Corningフラスコ(25cm2増殖表面ならびに5% FBSおよび4mMグルタミン培地/フラスコを有する5mL VP-SFM)またはNuncフラスコ(75cm2増殖表面および5% FBSおよび4mM グルタミン培地/フラスコを有する10mL VP-SFM)中で培養した。塩化アンモニウム(Pan Reac AppliChem, Germany)を、異なる濃度(0、5、10および20mM、各設定につき1フラスコ)で培地に添加した。5日目に、各設定を、Countess(登録商標) Cell カウンター(Life Technologies, Germany)で計数した。
【0032】
H-1PV産生のために、NB-324K細胞および単一クローンMCB(ScNB-324K)を、3.6E4細胞/cm2で播種し、1細胞あたり0.01プラーク形成単位(PFU)の感染多重度(MOI)でH-1PVで即座に感染させた。感染細胞を、光学顕微鏡下で観察される死細胞および剥離された細胞のパーセンテージとして測定された細胞変性効果(CPE)が少なくとも30%に到達するまで、37°Cで5% CO2下で4日間インキュベートした。細胞密度および生存能力を、生細胞を0.4%トリパンブルー(InvitrogenTM, Germany)で染色することにより測定した。細胞を、Countess(登録商標)Cell カウンター(Life Technologies, Germany)を用いて計数し、形態を、顕微鏡的に観察した。
【0033】
採取のために、培地を吸引し、感染細胞をPBS/1mM EDTAで処理した。培地上清および剥離された細胞を、5分間5,000xgで遠心分離した。ペレットをPBSで洗浄し、0.05M Tris HCl、0.5mM EDTAを含むVirus Tris/EDTAバッファ、pH8.7 (VTE)中に再懸濁し、3回の凍結/融解サイクルに供した。5分間5,000xgの遠心分離後、細胞残骸を廃棄した。次いで、細胞溶解物を、Sonorex Super 10 P超音波ホモジナイザー(Bandelin, Germany)で48Wで1分間超音波処理し、DNAse(50 U/ml, Sigma, Germany)で30分間37°Cで処理した。
【0034】
C.プラーク形成アッセイ(PFU)
プラークアッセイを、本質的にTattersall and Bratton, 1983に記載されるように行った。NB-324K細胞を、5% FBS、100μg/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、および2mM L-グルタミンを含むMEM培地中で単層培養において増殖させた。それらは、60%コンフルエンスでH-1PVの連続希釈物で感染させ、1h 37°Cでインキュベートした。次いで、接種物を、バクトアガー(bacto-agar)オーバーレイ(overlay)(5% FBSを含むMEM中1.7%)と交換した。感染後4日目に、生細胞を、バクトアガー (Becton Dickinson, Germany)を含む0.02%トルイレンレッド染色溶液(Sigma, Germany)の添加により18~24h染色した。ディッシュを、37°Cで5% CO2下でインキュベートした。プラーク形成単位を、ライトボックス上で感染後5日目に計数し、それらの濃度をPFU/mlで表した。
【0035】
D.ゲノム含有粒子(GP)の決定
ゲノム含有ウイルス粒子(GP)の数を、本質的に以前に記載されるとおりに(Lacroix et al., 2010)、Q-PCRにより決定した。各ウェルは、1x Premix Ex TaqTM (TaKaRa, France)、0.3μM標識NS1-TaqManTMプローブ、0.3μMの各プライマー、および3μlテンプレートを含む20μlの反応混合物を受けた。Q-PCRを、QuantStudio 3 Real-Time PCR Systemにおいて行い、結果を、QuantStudio 3 Design and Analysis Software 1.4 (Applied Biosystems, Germany)で処理した。
【0036】
実施例2
H-1PV GMP産生選択についての単一細胞クローンの生産性の比較
A.第1ラウンドの選択
クローンD8(4.07E+03±2.88E+03)、クローンE6(4.86E3 E+02 ± 3.27E+02)およびC5(5.0E+03±1.05E+03)(n=2)は、NB-324K混合クローン(6.9E3 PFU/細胞)に匹敵する同じ生産性を示す。さらに、3つの選択されたクローンの生成時間(約33~35h)もまた、混合クローンNB-324K(約32h;示さず)の生成時間と同様であった。クローンD8は、32.9hである(with)最良の生成時間を有する。
【0037】
結果として、短い生成時間および同様の生産性のために、2.選択ラウンドにおいて、クローンD8を用いて作業することを決定した。
【0038】
B.第2ラウンドの選択
両方の混合クローンD8-G3およびD8-F7の生成時間は、50hである。クローンD8-G3の生産性は、クローンD8-F7より良好であり、混合クローンNB-324Kと同様である。結果として、D8-G3クローンを用いてマスターセルバンク(MCB)を生成することを決定した。確立されたMCB細胞株の生成は、約30hであり、H-1PV産生のために使用する。
【0039】
実施例3
混合クローンNB-324Kおよび単一クローンMCB細胞のケラチン強度の比較
混合クローンNB-324および単一クローンMCB細胞の免疫蛍光の比較(A-C)
NB-324KおよびMCB細胞を、中間体ケラチンをマークするCH/HKケラチン抗体および核染色のためのDAPIで染色した。核計数および総強度の評価を、ImageJソフトウェア(https://imagej.nih.gov/ij/)で行った。単一クローンMCB細胞(ScNB-324K)は、2.7x高いケラチンシグナル強度/細胞を示し、これは、混合クローンNB-324K細胞に比べての単一クローンMCB細胞のより高い機械的安定性を示す。
【0040】
実施例 4
NB-324KおよびMCB細胞のH-1PVトランスフェクション効率の測定
A.NB-324KおよびMCB細胞を、リン酸カルシウム法を使用して、H-1PV産生プラスミドクローンでトランスフェクトした。単一クローンMCBは、NB-324K混合細胞に比べて、約1 log高いトランスフェクション効力を伴う利点を示す。
【0041】
B.ゲノム含有粒子対感染性の粒子比(GP/PFU)は、単一クローンMCB(ScNB-324K)についてより低く(約1 log)、これは、製品中のより少ない欠損粒子およびより多い感染性の粒子を示す。
【0042】
実施例5
混合クローンNB-234K単一クローンMCB細胞に対するアンモニアの影響
細胞を、異なるアンモニア濃度で処理し、5日間の増殖の後計数した。単一クローンMCB細胞(ScNB-324K)は、NB-324K混合細胞に比べて、20mMアンモニアまでより高い強さを示す。この強さは、アンモニアがグルタミン代謝の主な産物であるので、細胞増殖およびH-1PV産生プロセスの間のMCB細胞の利点を示す。その蓄積は、増殖を低減し、代謝に負の影響を与えることが示されてきた。アンモニア蓄積は、電気化学的細胞勾配を破壊し得、細胞質酸性化を誘導し得る。さらに、それは、培養細胞においてアポトーシスを誘導し得る。
【0043】
参考文献の一覧
【表1-1】

【表1-2】

【表1-3】

【表1-4】

【表1-5】
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
【国際調査報告】