(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(54)【発明の名称】植物中の硝酸含有量の減少
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20220824BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20220824BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20220824BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
A01G7/06 A
A01G31/00 601D
B09B3/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021566571
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(85)【翻訳文提出日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 FI2020050309
(87)【国際公開番号】W WO2020225485
(87)【国際公開日】2020-11-12
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521488886
【氏名又は名称】ルオノンヴァラケスクス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ヨキネン,カリ
(72)【発明者】
【氏名】マケラ,ピルヨ
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
4D004
【Fターム(参考)】
2B022EA10
2B314MA14
2B314MA67
2B314PB09
4D004AA04
4D004AA50
4D004AB05
4D004CA34
4D004CB04
4D004CC03
4D004CC15
4D004DA20
(57)【要約】
葉菜類植物、特にサラダ用作物中の硝酸含有量を減少させるための方法を提供する。本方法では、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質化合物を当該植物、好ましくは水耕法で栽培される植物に所定量で供給する。本方法は有利にはベタイン化合物を利用する。関連する調製物および使用をさらに提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるための方法であって、前記方法は所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を前記植物に供給することを含み、前記植物は水耕法で栽培され、前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はその根を介して前記植物の中に供給されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はメチルアミン、アミノ酸およびそれらの誘導体、糖、および糖アルコールからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はベタイン化合物である、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインのうちのいずれか1つである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記植物は温室または植物工場において薄膜水耕(NFT)によって栽培される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記葉菜類植物はレタス、エンダイブおよびルッコラのうちのいずれかである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を含み、かつ葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるために温室または植物工場において水耕法で栽培される前記植物に所定量で供給可能である、調製物であって、その根を介して前記葉菜類植物に供給可能である、調製物。
【請求項8】
前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はメチルアミン、アミノ酸およびそれらの誘導体、糖、および糖アルコールからなる群から選択される、請求項7に記載の調製物。
【請求項9】
前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインから選択されるベタイン化合物である、請求項7または8のいずれか1項に記載の調製物。
【請求項10】
葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるための有機浸透圧調節物質中の使用であって、前記葉菜類植物は温室または植物工場において水耕法で栽培され、所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質がその根を介して前記植物の中に供給される、使用。
【請求項11】
葉菜類植物における葉の老化を遅らせるための有機浸透圧調節物質の使用であって、前記葉菜類植物は温室または植物工場において水耕法で栽培され、所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質がその根を介して前記植物の中に供給される、使用。
【請求項12】
葉物サラダ用作物の品質を改良するための有機浸透圧調節物質の使用であって、前記葉物サラダ用作物は温室または植物工場において水耕法で栽培され、所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質がその根を介して前記作物植物の中に供給される、使用。
【請求項13】
前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はメチルアミン、アミノ酸およびそれらの誘導体、糖、および糖アルコールからなる群から選択される、請求項10、11または12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインから選択されるベタイン化合物である、請求項10、11または12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
葉菜類植物における葉の老化を遅らせるための請求項1~6のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項16】
葉物サラダ用作物の品質を改良するための請求項1~6のいずれか1項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、商業的に実行可能な葉菜類植物の品質を改良することに関する。特に本発明は、温室または植物工場において水耕法で栽培される葉物サラダ用作物中の硝酸含有量(nitrate content)を減少させることに関する。
【背景技術】
【0002】
1年を通じて栽培される葉菜類、特に葉物サラダ用野菜は現在のところ、前記葉物サラダを日常的に消費することによって与えられる明白な健康上の利点から見て最も経済的に重要な野菜作物のうちの1つである。葉菜類は、ビタミンA、CおよびEなどのビタミン、カルシウムおよびカリウムなどのミネラルならびに上記ビタミンおよびアントシアニンなどのフラボノイドファイトケミカルを含む抗酸化物質の重要な寄与体である。
【0003】
レタス(アキノノゲシ属種(Lactuca spp.))サラダ種、その変種および栽培品種、例えばアイスバーグレタスなどは、温室および植物工場において一年中栽培される主要な葉菜類植物の1つである。上記施設では葉菜類植物、本明細書では葉菜類サラダ用植物の栽培は、典型的には薄膜水耕(NFT)などの水耕法ベースの方法を利用し、そこでは水溶液に溶解した栄養分を栽培される植物の根系を通して循環させる。
【0004】
水耕栽培方法に関連する主要な欠点の1つは、植物の成長のために不可欠な元素である窒素(N)が、慣例的に肥料として使用されている水溶性硝酸(NO3
-)の形態で植物に供給されることである。葉菜類(例えばレタス)などのいくつかの好窒素植物種は、栄養溶液(施肥灌漑溶液)を介した豊富な硝酸供給条件下で硝酸を緑色葉の中に蓄積させる傾向がある。
【0005】
硝酸の取込みが植物による同化をはるかに超えた場合に、植物組織中への硝酸の蓄積が生じる。結果として、食用葉物植物中の硝酸含有量は欧州委員会規則第1258/2011号によって規定されている最大限界を超えることが多い。この品質基準が満たされていない場合、食料卸売業者は野菜製品を農家に戻すこと以外の選択肢はなく、これは農家および食料卸売業者チェーンの両方に大きな損失を強いる。
【0006】
この状況は、1年を通じて葉菜類作物の工業的栽培に適し、かつ緑色葉の中の硝酸含有量に対する信頼できる制御手段を提供すると共に高収率作物を安定的に生産することができる代替法が現時点では提供されていないという事実により悪化する。
【0007】
別の基本的な問題は、葉物サラダなどの工業的に栽培される葉菜類野菜はヒトの健康を促進するために必須の多くの化合物を含んでいるが、前記葉菜類を日常的に消費することは、場合によっては硝酸摂取の増加および付随する健康被害をもたらすことがあるという事実に関する。従って植物組織中に蓄積される過剰な硝酸は酵素により還元されて亜硝酸になり、これはさらに一酸化窒素(NO)に変換され得、一酸化窒素は酸素の存在下で急速に触媒されて過酸化亜硝酸(ONOO-)になることができ、これは植物には非常に有毒である。植物中の高い硝酸蓄積はヒトの健康ならびに植物の成長に有害である。
【0008】
さらに生の野菜、特に新鮮なサラダ用野菜は、ヒトによる毎日の硝酸摂取のための主要な供給源であり、総硝酸の70~90%を供給する。
【0009】
無土壌栽培される葉菜類中の硝酸含有量を減少させる方法がCN101849497(Liuら)に開示されている。上記公報は、工業的に栽培される葉物緑色野菜を収穫前の2~5日の間にカリウムおよびアンモニウムの塩化物および硫酸塩などの無機浸透圧調節物質溶液で処理することについて記載しており、ここでは浸透圧調節物質処理は人工照明によって補われる。それにも関わらず、K+、NH4
+などの無機イオンが高等植物細胞代謝経路に関与することが一般に認められているので、上記無機塩が硝酸還元酵素(植物組織における硝酸同化に関与する鍵酵素のうちの1つ)の活性を妨害する程度、および無機栄養溶液を用いることにより安定な硝酸還元率を保存することができるか否かについての議論がなお存在する。
【0010】
さらに浸透圧調節物質としての無機塩の利用に関連する主要な問題の1つは、細胞における複数の生化学的プロセスは特定の無機イオンの存在を必要とするが、特定の閾値を超える前記イオンの濃度の増加は細胞代謝および特に細胞タンパク質機能を乱し、少なくとも部分的なタンパク質変性および結果として生じる栽培される野菜製品の品質の低下をもたらすことである。
【0011】
温室では、強度および/または持続期間の点での照明の増加は一般に、葉物植物中の硝酸含有量を減少させることが分かっている。所定の強度および持続期間の人工照明を利用する上記CN101849497に加えて、レタスおよびマジョラムなどの葉菜類中の有害な硝酸の減少がWO08048080(Zukauskasら)に開示されている。光は植物における光合成および代謝プロセスを促進し、それにより硝酸含有量を減少させることができる。
【0012】
しかし光曝露の増加により間接的ではあるが、葉菜類において葉を枯れさせ(葉焼けともいう)、ここでは強い照明により葉表面の過熱および乾燥が生じる。水が葉の気孔(葉の表皮における孔)を形成している孔辺細胞から出て行き、気孔の閉鎖を引き起こし、それにより植物蒸散が抑制されるか著しく減少する。蒸散の抑制の結果として、カルシウムイオンの取込みおよび植物組織中でのそれらの移動性が阻害され、従って新しく形成された細胞および組織および/または発達中の細胞および組織は深刻なカルシウム欠乏を経験する。結果として、葉菜類植物は不可逆的な褐色の葉縁(葉焼けという)を発生させ、かつ葉物サラダ用作物の販売可能性に大きく影響を与える。最近の推定によれば、工業的に栽培されるポットサラダの20~30%は葉の枯れにより廃棄しなければならない。
【0013】
さらに、カルシウムは植物細胞における浸透圧平衡の調節において重要な役割を担っているので、維管束組織を介したカルシウム輸送の減少により緑色葉中の硝酸蓄積が自然に生じる。
【0014】
以前に得られたデータを考慮に入れると、EU規則を満たすために葉菜類作物中の硝酸含有量を調整することに関連する技術分野を補完および更新し、かつ経済的に実行可能な規模で高品質な葉菜類、特に葉物サラダ用野菜を栽培するための水耕法ベースの方法、特にNFT技術の利用により達成可能な信頼できる再現可能な方法を開発することが望ましいように思われる。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、従来の技術の限界および欠点から生じる問題のそれぞれを解決するか少なくとも軽減することにある。この目的は、葉物サラダ用作物などの葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるための方法、その関連する調製物および使用の様々な実施形態によって達成される。それにより本発明の一態様では、独立請求項1に定義されている発明に係る葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるための方法が提供される。
【0016】
一実施形態では、本方法は所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を当該植物に供給することを含む。
【0017】
一実施形態では、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はメチルアミン、アミノ酸およびそれらの誘導体、糖および糖アルコールからなる群から選択される。
【0018】
一実施形態では、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はベタイン化合物である。さらなる実施形態では、前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質は、グリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインのうちのいずれか1つである。一実施形態では、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はグリシンベタインである。
【0019】
一実施形態では、葉菜類植物を水耕法で栽培する方法が提供される。さらなる実施形態では、前記植物を温室または植物工場において薄膜水耕(NFT)により栽培する。
【0020】
一実施形態では、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質は、その根を介して葉菜類植物の中に供給される。
【0021】
一実施形態では、葉菜類植物はレタス、エンダイブおよびルッコラのうちのいずれか1つから選択される。
【0022】
別の態様では、独立請求項7に定義されている発明に係る調製物が提供される。本調製物は少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を含み、かつそれは前記植物中の硝酸含有量を減少させるために所定量で葉菜類植物に供給可能である。
【0023】
一実施形態では、本調製物は、メチルアミン、アミノ酸およびそれらの誘導体、糖および糖アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を含む。
【0024】
一実施形態では、前記調製物中の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はベタイン化合物である。一実施形態では、前記ベタイン化合物はグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインから選択される。一実施形態では、前記調製物中の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はグリシンベタインである。
【0025】
さらなる態様では、独立請求項10に定義されている発明に係る葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるための有機浸透圧調節物質の使用が提供される。
【0026】
なおさらなる態様では、独立請求項11に定義されている発明に係る葉菜類植物における葉組織の老化(leaf tissue senescence)を遅らせるための有機浸透圧調節物質の使用が提供される。
【0027】
さらなる態様では、独立請求項12に定義されている発明に係る葉物サラダ用作物の品質を改良するための有機浸透圧調節物質の使用が提供される。
【0028】
いくつかの実施形態では、前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はメチルアミン、アミノ酸およびそれらの誘導体、糖および糖アルコールからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はベタイン化合物として提供される。いくつかの実施形態では、ベタイン化合物はグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインから選択される。一実施形態では、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はグリシンベタインである。いくつかの実施形態では、葉菜類植物を温室または植物工場において水耕法で栽培する。
【0029】
本発明の有用性は、その各特定の実施形態に応じた様々な理由から生じる。第1に、本発明は一般に葉菜類植物、特に工業的栽培のために実行可能な葉物サラダ用作物の品質を高めることを目指す。特に本発明は、硝酸含有量が適正なEU規則によって設定され、かついずれの場合も前記規則によって規定された最大値をはるかに下回る値範囲内に維持されている葉菜類作物を生産することを目指す。従って本発明は、例えばEU規則第1258/2011号によって許容される値のほぼ半分(レタスのための最大許容値4000~5000ppmと比較して約2200ppm)まで減少した硝酸含有量を有するレタス種を栽培するのを可能にする。
【0030】
本発明は、NFT方法などの工業的水耕法ベースの栽培方法と共に利用するのに特に有益である。上記EU規則に準拠していないサラダ用野菜を農家に戻すことに伴う大きな損失を回避することができる。全体的に見て、本発明は葉菜類の商業的栽培方法、特に現代の温室および植物工場において用いられる方法の持続可能性および費用対効果を増大させる。
【0031】
本発明は、硝酸肥料の除去を必要としないという意味でさらに有益である。硝酸は、最大収率を達成するために最も農業的に重要な植物によって容易かつ大量に吸収される最も重要な形態の窒素であることは一般に認められている。従って本発明は、標準的な受精様式の背景で緑色葉中の硝酸の減少を達成するのを可能にする。
【0032】
さらに、野菜植物中の硝酸の減少が潜在的な健康リスクおよび人間によって工業的に栽培される葉菜類作物の消費に一般に伴う影響を顕著に減少させることは言うまでもない。
【0033】
本開示は、前記葉菜類植物中の硝酸の減少が葉組織の老化(葉の老化(leaf ageing))を遅らせる、葉の枯れを無くすか少なくとも顕著に減少させる、および植物葉中の乾燥物質レベルを増加させるなどのさらなる有益な効果を伴うという強力な証拠をさらに提供する。後者は植物組織構造を強化し、従って葉菜類製品の貯蔵寿命を引き延ばし、かつ消費者を最も引きつける外観を有する植物にするのを可能にする。
【0034】
本開示では、「葉菜類植物(leafy vegetable plant)」、「葉物サラダ用野菜植物(leafy salad vegetable plant)」、「葉物サラダ用野菜(leafy salad green)」、「サラダ用野菜(salad green)」、「葉物サラダ用作物(leafy salad crop)」、「サラダ用作物(salad crop)」、「葉菜類野菜(leafy vegetable green)」などの表現は同義で使用され、非限定的には、特に新鮮な(調理していない)状態でヒトの消費に適した卓越した葉を有する植物を指す。
【0035】
「いくつかの」という表現は本明細書では、1から開始する任意の正の整数、例えば1、2または3を指す。「複数の」という表現は本明細書では、2から開始する任意の正の整数、例えば2、3または4を指す。
【0036】
本発明の異なる実施形態は詳細な説明を検討することにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、葉菜類植物中の硝酸含有量に対する一実施形態に係る浸透圧調節物質によって与えられる効果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、浸透圧調節物質濃度と葉菜類植物中の相対的硝酸含有量との依存性を示すグラフである。
【
図3】
図3は、葉菜類植物の乾燥物質に対する一実施形態に係る浸透圧調節物質によって与えられる効果を示すグラフである。
【
図4A】
図4Aおよび4Bは、葉の老化実験から得られた結果を示す。
【
図4B】
図4Aおよび4Bは、葉の老化実験から得られた結果を示す。
【
図5】
図5は、商業規模生産ユニットにおける葉菜類植物中の相対的硝酸含有量に対する一実施形態に係る浸透圧調節物質によって与えられる効果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、葉菜類植物中の硝酸含有量に対する当該実施形態に係る浸透圧調節物質化合物によって与えられる効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
一態様に係る本発明は、葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるための方法に関する。
【0039】
好ましい実施形態では、本方法は、所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を当該植物に供給することを含む。
【0040】
干ばつ、土壌塩分および極端な温度などの非生物的ストレスに曝されると、植物はストレス耐性を高めるのに寄与する小さい水溶性有機分子の細胞内含有量の変化を示す。細胞代謝を妨害せず、かつ/または細胞の機能活性を損うことなく細胞内に高濃度に蓄積するそれらの能力により、これらの分子をまとめて浸透圧調節物質または適合溶質と呼ぶ。上記非生物的ストレスは典型的には浸透ストレスとして現れ、従って適合溶質化合物は、細胞の浸透ポテンシャル(浸透圧調節として知られているプロセス)を修復および/または維持することにより作用すると考えられている。
【0041】
従って、細胞の代謝機能を乱す無機浸透圧調節物質(すなわち無機塩)とは反対に、例えばタンパク質機能(有機浸透圧調節物質)は細胞代謝を妨害しない。
【0042】
浸透圧調節および/または浸透圧保護機能を有するいくつかの有機浸透圧調節物質は、それらの合成速度を上げることにより植物中に蓄積する。しかしいくつかの植物、特に工業的栽培すなわち温室および/または植物工場栽培条件下で育てられる植物は、浸透圧調節/浸透圧保護機能を有する化合物を合成する能力を欠いている。
【0043】
本発明の基礎をなす研究は本発明者らを、水耕法ベースの栽培条件下、特に商業的に重要なNFT栽培条件下では、所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質化合物の葉菜類植物への供給により前記植物中の硝酸含有量が顕著に減少するという驚くべき結果に導いた。
【0044】
少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はメチルアミン、アミノ酸およびそれらの誘導体、糖および糖アルコールからなる群から選択することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はベタイン化合物である。いくつかの実施形態では、ベタイン化合物としては、限定されるものではないがグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインが挙げられる。
【0046】
ベタイン化合物は藻類、特に海藻類およびフダンソウ属、特にテンサイ(これはビート栽培品種群を構成してる)植物などのいくつかの高等植物中に蓄積することが知られているN-メチル化アミノ酸誘導体である。植物中で同定されているベタイン化合物としては、グリシンベタイン、プロリンベタインおよびN-メチルニコチン酸ベタイン(nicotinic acid N-methylbetaine)(トリゴネリン)が挙げられる(De Zwartら、[1])。
【0047】
植物の収率を高めるためのベタイン化合物の使用は、例えばEP0831699(Pehuら)において認められている。
【0048】
場合によっては、グリシンベタインの利用はその商業的利用能および比較的低いコストにより有利である。
【0049】
グリシンベタイン(GB)すなわち植物中に最も豊富なベタイン化合物は、テンサイおよびいくつかの禾穀類(例えばオオムギ、コムギ)などの植物作物におけるストレスに応答して細胞内で合成および輸送される。しかし葉物サラダ用作物などの複数の農業作物はグリシンベタインを合成する能力を欠いている。そのような場合には、グリシンベタインを外部から作物に供給することができる。
【0050】
トリメチルグリシン、リシンまたはオキシネウリンとしても知られているグリシンベタイン(CAS107-43-7、EINECS203-490-6)は、非毒性で無臭の風味のない無色の化合物であり、テンサイ糖蜜および海草から商業的に供給可能であるか合成で生成される。合成のグリシンベタインは典型的には塩酸ベタインの形態で提供される。
【0051】
適合溶質としてのグリシンベタインの役割は、生理食塩水または乾燥環境への植物適応の研究において長年認められている。GBは植物細胞の細胞質に蓄積して、細胞の代謝経路を妨害することなく細胞質と液胞との浸透圧平衡に寄与することが分かっている(Makela、[2])。
【0052】
本明細書によって提供される方法は葉菜類植物、特に水耕法で栽培される葉物サラダ用作物中の硝酸含有量を減少させることを目指す。従って硝酸含有量は、商業的に実行可能な薄膜水耕(NFT)によって栽培されるサラダ用作物中で有意に減少することが証明されている。
【0053】
本発明の概念の基礎をなす発見を支持するために行った実験の結果が以下に示されている。
【0054】
非限定的には、レタス(学名:Lactuca sativa)、エンダイブレタスともいうエンダイブ(学名:Cichorium endivia)およびロケット(ロケットサラダ)ともいうルッコラ(学名:Eruca sativa)を含む市販されているサラダ用作物種および栽培品種を用いて実験を行った。以下の栽培品種:(A)アイスバーグレタスとカーリーエンダイブとの交配種であるカーリーアイスバーグレタス(curly iceberg lettuce)(変種フリリス(Frillice))、(B)カーリーエンダイブまたはフリゼ(frisee)(スイートクリスプフリゼ 変種エグザクト(Sweet crisp frisee var. Exact))および(C)ルッコラ(ロケットルッコラ)を実験目的のために選択した。
【0055】
上記種/栽培品種を従来のNFT設備および関連する条件を利用して栽培した。当該実験では、栄養溶液中の硝酸濃度および照明強度などの植物の成長率に影響を与え得る環境因子は、従来の工業的(NFT)栽培で使用される条件、すなわち180mg/Lの硝酸濃度および160μmol/m2/sの照明強度に対応していた。上記制御値はサラダ用作物の最大成長率を達成するのに最適であることが証明され、それにより当該植物は6週間で1つの植物当たり約140~150gの新鮮重(FW)値に達する。他方、上記条件はアイスバーグレタスでは、葉の枯れを伴う例えばEU規則(第1258/2011号)による最大許容値に非常に近いレベルまでの硝酸含有量の増加をもたらす。
【0056】
少なくとも1種の有機浸透圧調節物質化合物、本明細書ではグリシンベタインを含む調製物を得て、ここではグリシンベタインを1mM、7.5mMおよび15mMの例示的な濃度でNFT栄養溶液(施肥灌漑液体)の中に混合した。植物が1つの植物当たり約50gのFW値に達した播種後29日目(DAS)に、前記調製物を植物に供給した。試験メンバーをランダムに温室環境に置き、各実験を4回繰り返して行った。栄養溶液中のグリシンベタインの量を毎日監視した。
【0057】
それから1週間後(36DAS)に葉試料を得て、全ての試料中の硝酸含有量を分析した。試料採取の時点で、植物は重量の点で販売可能性(1つの植物当たり100~150gFW)のための通常の条件を満たしていた。硝酸含有量は標準的な測定技術を用いて推定した。
【0058】
簡単に言うと、葉菜類作物中の硝酸含有量の迅速な分析のために、例示的なHoriba社製計測器(LAQUAtwin B-731、測定範囲:100~9900mg/L)を用いて硝酸含有量を測定した。
【0059】
なお散在的な測定結果は、同じ水耕栽培チャンネルで栽培した植物の中であっても変化する場合がある。同じ栽培チャンネル内の植物に異なる量の施肥灌漑液体および/または栄養分が与えられる場合があり、結果として僅かに多様な成長率を有する。これらの差を生じさせる因子としては、栽培チャンネルの水平長さおよび傾斜ならびに栽培施設(例えば温室)における温度および照明条件のばらつきが挙げられる。故に信頼できる測定結果を得るために、いくつかの試料は栽培チャンネルの水平長さ全体から、例えばチャンネルの開始部分から、チャンネルの3分の1終了部分から、チャンネルの最後の3分の1の開始部分から、およびチャンネルの終了部分から回収しなければならない。
【0060】
上に指示されている計測装置(Horiba法)による迅速な測定から得られた結果の信頼性は、比色検出技術と組み合わせた標準化されたフローインジェクション分析(FIA)方法を用いて、硝酸および亜硝酸について圧搾した植物試料を分析することにより研究室において検証した。
【0061】
これらの結果は、植物の根を介して投与されたグリシンベタインを含有する本調製物による葉菜類植物の1週間の処理により緑色葉中の硝酸含有量が顕著に減少することを実証している(
図1)。これらの結果は明らかに用量依存性であり、施肥灌漑液体中の浸透圧調節物質濃度(本明細書ではグリシンベタイン濃度)が高くなるほど、緑色葉中の硝酸含有量のより大きな減少を観察することができることを示している。
【0062】
故にEU規則第1258/2011号に従って、硝酸の最大レベルは、レタス(学名:L.sativa)では4000~5000単位、アイスバーグ型レタスでは2000~2500単位、ルッコラでは6000~7000単位であり、ここでは1単位=1kgの新鮮なサラダ用野菜中1ppmまたは1mgの硝酸(1mgのNO3/kgFW)である。
【0063】
図1から観察することができるように、緑色葉中の硝酸濃度は、本明細書において開示されている方法に係る1週間の処理後に、最大許容値をはるかに下回るレベルまで減少していた。全体的に見て、約1000~2000単位の硝酸含有量の減少が観察された。従って実験の終了時に測定した硝酸含有量は、レタス(フリリス;A)およびフリゼ(エグザクト;B)では約2200~3000単位、ルッコラ(C)では約4600単位であった。
【0064】
一般にグリシンベタインなどの浸透圧調節物質化合物の施肥灌漑液体の中への添加により緑色葉中の硝酸含有量の40~50%の減少が生じるように思われる。従って観察された効果は全ての上記植物種に関する。
【0065】
いくつかの実験では、緑色葉中の硝酸含有量を減少させるために最適な条件としては浸透圧調節物質化合物、本明細書ではグリシンベタインの1~30mMの範囲内の濃度での2~7日間にわたる供給が挙げられることが観察された。場合によっては、1~7.5mMの濃度範囲が特に有利であることが分かった。
【0066】
さらに、良好な結果は収穫前の3~6日間での浸透圧調節物質化合物(グリシンベタイン、10mM)の単回用量の投与により実証された。
【0067】
さらに投与量の点で、いわゆる分割投与が実行可能な投与経路として実証された。分割投与中に、活性化合物(本明細書では浸透圧調節物質化合物)の典型的な単回投与をいくつかの時点での投与のために分ける(分割する)。分割用量は上記単回用量と比較して活性化合物をより低い濃度で含み、従って各分割用量は典型的には1~5日間隔で投与する。従って所定量(例えば10mM)の活性化合物を1回で投与することができ(単回用量)、あるいは数日間隔での投与のために4回の等しい用量(2.5mM)に分割することができる。
【0068】
投与期間および投与量は、異なる植物種および浸透圧調節物質化合物で異なってもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、本明細書において開示されている方法は葉菜類植物、特に食用の緑色葉を有するものに適用可能である。いくつかの実施形態では、野菜緑色植物は、その変種および栽培品種(すなわちヒトによって選択および栽培される変種)を含むレタス、エンダイブおよびルッコラ(ロケット)からなる群から選択される。
【0070】
特にレタスに関しては、1年の異なる時期にピークになり、かつ1年を通じてレタスサラダの生産を可能にする複数の変種および栽培品種を各種分類に従って認識することができる。一般にレタス(学名:Lactuca sativa)種内では、栽培品種の4つの主要なグループが結球および葉の構造に基づいて、結球レタス(アイスバーグ(すなわちクリスプヘッド型)およびバターヘッド型などの栽培品種を含む、可変形状を有する葉の密な発芽を形成する玉レタス)(学名:L.sativa var.capitata)、立ちレタス(ロメインレタスまたはコスレタス)(学名:L.sativa var.longifolia)、葉レタス(リーフレタス)(学名:L.sativa var.crispa)および茎レタス(その茎のために栽培されるステムレタス)(学名:L.sativa var.asparagina)のように区別されている。
【0071】
但し本方法は一般に、硝酸化合物を蓄積する傾向のある工業的に重要なあらゆる種類の葉菜類作物に適用可能である。非限定的には本方法は、キク科(レタス、エンダイブ)、アブラナ科(ルッコラ、カラシ)、セリ科(セロリ、パセリ)およびヒユ科(アマランサス)に属する植物の種、変種、栽培品種およびそれらの間での交配種に適用可能である。
【0072】
いくつかの実施形態では、本方法は、前記植物の子葉が発達した後であってその植物が成熟に達するかなり前に収穫される葉菜類植物にさらに適用可能である。そのような葉菜類植物をまとめて「マイクログリーン」と呼ぶ。
【0073】
マイクログリーンは芽よりも若い植物であり、それらは典型的には根およびシュートと共に販売されており、任意に全体として消費される。マイクログリーンは高い栄養価、強い風味および味ならびに繊細なテクスチャを有する。マイクログリーンは通常、上記繊細なテクスチャ(マイクログリーンを収穫するのをより難しくさせる)およびより短い貯蔵寿命(典型的には10日以下)を理由に、それらの十分に成長した対応物よりも高価である。
【0074】
以前の研究によれば、植物はグリシンベタインなどの有機浸透圧調節物質に対して異なる感受性を示すことに留意すべきである。例えばアブラナ(学名:Brassica rapa)に0.5mMの濃度で投与されるグリシンベタインは前記植物の成長を完全に阻害し、0.01mMの濃度のグリシンベタインは当該植物のストレス耐性を顕著に向上させる(Makelaら、[3])。上記を考慮に入れると、例えば脂肪種子植物種に適用可能な浸透圧調節物質処理条件は、異なる属またはさらには前記属内の異なる種に属する植物に関して当然なものとしてみなすことはできない。
【0075】
本発明の基礎をなす研究実験において、浸透圧調節物質化合物をその根およびその葉を介して植物の中に供給した際に緑色葉中の硝酸含有量の減少が観察された。
【0076】
浸透圧調節物質含有調製物を例えば噴霧により緑色葉を介して施用した場合、浸透圧調節物質化合物は植物の新しく形成された部分に最も効率的に輸送される。浸透圧調節物質はさらに根に運ばれ、そこを介して浸透圧調節物質は1つの植物から別の植物に輸送することができる。さらに噴霧により施用された浸透圧調節物質化合物は植物の成長により植物中で希釈され、そのため、より長期間の効果を達成することが望まれるかに関わらず噴霧処理は所定の間隔で繰り返さなければならない。根投与経路は、栄養溶液中の浸透圧調節物質化合物の濃度をより正確な方法で調節するのを可能にする。
【0077】
さらに根投与はNFT栽培などの工業的栽培のために好ましい。
【0078】
図2は、葉菜類植物中の浸透圧調節物質化合物の濃度と前記植物中の相対的硝酸含有量との関係を示している。当該実験のためにカーリーアイスバーグレタス(変種フリリス)を選択した。
【0079】
当該実験では、少なくとも1種の浸透圧調節物質化合物(本明細書ではグリシンベタイン)を含む調製物を、根を介して2~7日間投与した。典型的には、植物のサイズおよび本調製物中の浸透圧調節物質化合物の濃度に基づいて投与期間を最適化する。
【0080】
図2では、このグラフはいくつかの実験から得られたデータに基づいているので、硝酸含有量は相対的単位(Rel)で示されている。相対的硝酸含有量値100は対照として使用されており、これは実験によって3600~4000ppm(mg/kgFW)の範囲内の硝酸含有量に対応している。植物組織中のグリシンベタイン含有量(μg/g乾燥重量、DW)は、本明細書ではHPLC(高速液体クロマトグラフィ)による標準的な方法により決定した。
【0081】
以下では例示的な実験について説明する。この実験は60日間(播種後日数、DAS)行い、その時に植物は1つの植物当たり約350gの新鮮重に達した。なお、典型的には1つの植物当たり約130gの新鮮重(45DAS)に達した植物は販売のために既に収穫されるが、栽培期間を前記45DASを超えて引き延ばすことにより、本発明者らは、より広範囲な葉を有するより古い植物から得ることができる応答を分析することを目指した。
【0082】
この実験中に、グリシンベタイン含有調製物を1週間(長期投与)または単回用量(1回投与)として植物に投与した。単回用量中の前記浸透圧調節物質化合物の濃度は長期投与のために利用される濃度と比較して一般により高かった。
【0083】
例として、10mMのグリシンベタイン(GB)を含む単回用量調製物を、45DASすなわち収穫前の3~5日間に植物に投与した。より古い植物(45DAS、GB10mM)に関しては、グリシンベタインは硝酸含有量が30~40%減少していることが観察された。
【0084】
図2に示されている結果は、植物中のグリシンベタインの含有量を増加させた際に、未処理の対照植物と比較して相対的硝酸含有量が減少していることを明らかに示している。硝酸含有量の減少に換算した植物応答は、植物の年齢に依存していなかった。
【0085】
一態様では、葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるための所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を含む本調製物の使用が本明細書において提供されている。一実施形態では、前記調製物中の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はベタイン化合物である。いくつかの実施形態では、ベタイン化合物は有利にはグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインから選択される。一実施形態では、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はグリシンベタインである。
【0086】
一実施形態では、葉菜類植物は温室または植物工場において水耕法で栽培される1種以上の植物である。
【0087】
葉菜類植物における乾燥物質含有量に対する少なくとも1種の浸透圧調節物質化合物の効果を決定することを目指して、さらなる実験を行った。サラダ用作物中の乾燥物質含有量が高くなるにつれて、植物組織の構造がより密で堅くなる。そのような葉物サラダ用製品は、従来の柔らかい構造のサラダと比較して輸送および貯蔵により良好に耐える。高い乾燥物質含有量を有するサラダ用作物は一般に、スーパーマーケットにある間および消費者によって購入された後にもより長い貯蔵寿命を有する。
【0088】
図3は、NFT栽培中に所定量のグリシンベタインを施肥灌漑液体中に混合した際の葉菜類植物中の乾燥物質含有量に対する有機浸透圧調節物質化合物(本明細書ではグリシンベタイン)の効果を示す。この実験では、カーリーアイスバーグレタス変種フリリスを利用した。植物緑色葉中の乾燥物質含有量を播種後36、41および49日目(DAS)に分析した。
【0089】
図3に示されている結果は、葉菜類植物のグリシンベタインでの処理により前記植物中の乾燥物質含有量の顕著な増加が生じることを明らかに示している。
【0090】
なお、葉物サラダ用作物を本明細書の上で考察されている有機浸透圧調節物質、特にグリシンベタインで処理しても植物の香りおよび風味(味)には全く影響しない。レタスの味実験が10人の審査団のために準備され、審査団員は全員、未処理の製品と比較して浸透圧調節物質で処理された製品の味に変化がないことを報告した。従って浸透圧調節物質処理は、サラダ用作物製品の味および香りに対してマイナスの影響を与えないことを示してる。
【0091】
葉物サラダ用作物の品質に対して有機浸透圧調節物質によって与えられる効果を調べることを目指す実験中に、本発明者らは、所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を含む調製物での前記葉物サラダ用作物の処理が水耕栽培において葉組織の老化(葉の老化)を遅らせることを観察した。さらに老化の遅れにより引き起こされる葉腐れの明白な減少が観察された。
【0092】
当該実験は、グリシンベタイン(GB)を含有する本調製物により、NFT方法を利用して温室条件下で栽培されるサラダ種フリゼ(変種エグザクト)を処理することにより行った。当該調製物は施肥灌漑溶液中に所定量のGBを含んでおり、従って浸透圧調節物質は根を介して植物に供給された。葉の老化に対するグリシンベタインの効果は、実験の終了時すなわち播種後44日目(DAS)に観察された。
【0093】
以下のとおり4回の実験を行った。
実験1:対照(GB0)、
実験2:GB1mM(32DASに施用)、
実験3:GB1mM(29DASに施用)+GB1mM(32DASに施用)+GB1mM(37DASに施用)のような分割投与、および
実験4:GB4mM(32DASに施用)。
【0094】
各処理において1処理当たり16個の植物を監視し(n=16)、各植物は1つの植物当たり約25枚の葉からなっていた。
【0095】
葉はその色が少なくとも部分的に褐色および/または黄色および/または蒼白色に変わった際に老化しているとみなした。老化中に葉の細胞は細胞構造が分解し、これは葉緑体において最も際立って観察され、それにはクロロフィルの分解による葉の色の変化も伴っている。従ってこのような葉は、その典型的な緑色の色が少なくとも部分的に消失した場合に老化しているとみなした。葉の変色は標準的な技術、本明細書ではSPADメーターを用いた葉の透過率の測定により葉のクロロフィル含有量を評価することにより監視した。
【0096】
【0097】
図4Aは、少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を葉菜類植物に供給した際に観察された老化遅延効果を示すグラフである。有機浸透圧調節物質はグリシンベタインであった。
図4Aから、グリシンベタインを施肥灌漑溶液の中に混合した際に、収穫時(44DAS)でのサラダ用作物葉の老化を有意に減少させることができることを観察することができる。
図4Aは、グリシンベタインを含んでいない施肥灌漑溶液(GB0)によって処理した植物において最も高い割合(23%)の老化した葉が生じたことを示している。
【0098】
それどころか、グリシンベタインを4mMの濃度で1回添加した(実験4)施肥灌漑溶液で処理した植物、およびグリシンベタインを3~5日間間隔で3回添加した(分割投与、1mM+1mM+1mM、実験3)施肥灌漑溶液で処理した植物において、最も低い割合(2~3%)の老化した葉が生じた。
【0099】
施肥灌漑溶液の中への1mMの濃度でのグリシンベタインの単回の添加(実験2)では、老化した葉の割合は対照(GB0、実験1)と比較してより低かったが、実験3および4と比較してより高かった。故にこれらの結果は、入念に選択された濃度でのみ有機浸透圧調節物質化合物が葉菜類植物において葉の老化を減少させることを明らかに示している。
【0100】
図4Bは収穫時(44DAS)の植物、本明細書ではフリゼ(変種エグザクト)の写真を示す。上側のパネルはa1およびa2に、実験3(GB1mM+1mM+1mM)および実験1(GB0)において得られた結果をそれに応じて示しており、下側のパネルはb1、b2およびb3に、実験4(GB4mM)、実験3(GB1mM+1mM+1mM)および実験1(GB0)において得られた結果をそれに応じて示している。老化した葉はこれらの植物において最も古い葉であるように見え、かつ前記植物の基部に位置していたことがさらに観察された(
図4B、a2、b3)。老化した葉は
図4Bでは破線の円および矢印によって示されている(a2、b3)。
【0101】
従って一態様では、葉菜類植物において葉の老化を遅らせるために所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を含む本調製物の使用が提供される。一実施形態では、前記調製物中の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はベタイン化合物である。非限定的には、ベタイン化合物はグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインのうちのいずれか1つとして提供される。場合によっては、前記少なくとも1種の有機化合物はグリシンベタインである。
【0102】
葉菜類植物は有利には、温室または植物工場において水耕法で栽培される1種以上の植物である。
【0103】
後者の観察に基づいて、少なくとも1種の浸透圧調節物質を含む本調製物での葉菜類植物の処理により植物の老化を伴う葉組織の枯れを顕著に減少させることができると結論づけることができる。この観察は、葉物サラダ用作物を浸透圧調節物質調製物、例えばグリシンベタイン調製物で処理することにより外部因子、例えば過剰な照明によって引き起こされる葉組織の枯れを阻害させるという事実をさらに支持している。
【0104】
いくつかの実験を行って、例えば植物工場などでの商業規模での栽培において浸透圧調節物質化合物が葉菜類植物に対して同じ硝酸減少効果を与えることを確認した。これらの実験の結果は
図5に要約されている。
図5ではグラフはいくつかの実験から得られたデータに基づいているので、葉硝酸含有量は相対的単位(Rel)で提供されている。相対的硝酸含有量値100は、実験に応じて3600~4000ppm(mg/kgFW)の範囲内の硝酸含有量に対応する対照として使用されている。
【0105】
上記温室実験と同じ栽培方法に基づき、NFT水耕チャンネルシステムを備えた商業的葉物緑色野菜生産ユニットで実験を行った。この実験では、施肥灌漑溶液中に所定量のグリシンベタインを含む調製物でレタス(栽培品種ダンスター(Danstar))を処理した。
【0106】
0日目に7.5mMの濃度のGBの単回用量を施肥灌漑液体を含むタンクの中に添加し、その後に当該液体を所定の期間(数日間など、
図5では1~6日間)にわたってNFTの溝を通して連続的に循環させた。従ってNFTの溝を通る浅い層の水の流れは、実験期間を通して根によって取込まれる栄養分(施肥灌漑液体から)および少なくとも1種の有機浸透圧調節物質(本明細書ではグリシンベタイン)を含んでいた。対照栽培ユニットにはグリシンベタインは添加されていなかった。
【0107】
所定の試料採取時点(3、4および5日目、
図5)で、処理済(A)および未処理(B)植物のために試料を回収した。従って
図5は、前記レタス植物を浸透圧調節物質化合物(本明細書ではグリシンベタイン)で処理したか否かに応じた、商業規模生産ユニットにおけるレタス(栽培品種ダンスター)中の葉硝酸含有量の調整を示すグラフである。十分に成長し、かつ配達する準備が整ったレタス植物(1つの植物当たり約150gの新鮮重を有する)を試料採取のために回収した。各試料は10個の植物からなっており、各植物中の葉硝酸含有量を個々に分析した。
【0108】
図5に示されている結果は、前記浸透圧調節物質とのインキュベーション時間が約4日に達した際に緑色葉中の硝酸含有量の有意な減少を観察することができることを明らかにを示している(線A)。およそこの時点において、根から施用された浸透圧調節物質化合物(本明細書ではグリシンベタイン)は葉物植物に対して硝酸減少効果を与え始める。未処理植物では、硝酸減少は観察されなかった(線B)。この結果は温室および/または生育箱において行われた以前の研究の結果に十分一致しており、レタスなどの葉菜類中の葉硝酸含有量を浸透圧調節物質濃度、投与のタイミングおよび/または植物のサイズに応じて約10~40%減少させることができることを示している。
【0109】
図5の結果は、グリシンベタインなどの浸透圧調節物質化合物が商業規模栽培ユニットで生産され、かつ顧客に配達する準備が整った葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させることを実証している。本結果はさらに、葉菜類植物に対する浸透圧調節物質化合物によって与えられる硝酸減少効果が遺伝子型依存性でないことを実証している(本明細書の上に記載されている実験で使用したレタス栽培品種ダンスター対カーリーアイスバーグレタス変種フリリス)。従って本開示は、工業的栽培において葉菜類植物の緑色葉中の硝酸含有量を制御するための効率的な方法を提供する。
【0110】
先の実施例は、グリシンベタインなどの有機浸透圧調節物質化合物が、それらの根を介して葉菜類植物に施用された場合に、前記植物の緑色葉中の硝酸含有量を有意に減少させることを実証している。施肥灌漑溶液中の前記浸透圧調節物質化合物の濃度は約4mM~約20mMの範囲内で異なっていた。
【0111】
有機浸透圧調節物質化合物が一般に葉菜類植物中の硝酸含有量を制御/減少させるという性質を示すか否かをさらに探求した。
図6は、カーリーアイスバーグレタス(変種フリリス)中の硝酸含有量に対する異なる浸透圧調節物質化合物の効果を決定することを目指す2回の実験の結果を示す。これらの実験のために選択した浸透圧調節物質化合物はグリシンベタインなどのベタイン化合物、トレハロースなどの炭水化物糖化合物およびグリセロールなどの糖アルコール化合物であった。上記種は化学構造の点で別種の有機浸透圧調節物質群に属する。
【0112】
レタス葉中の硝酸の蓄積を示す結果が
図6に要約されている(1回目および2回目の実験は破線によって分離されている)。実験1では、全ての選択した浸透圧調節物質化合物を完全な栄養溶液中に7.5mMの濃度で添加した。浸透圧調節物質を使用せずに対照実験を行った。各処理を4種類の植物で行った。浸透圧調節物質含有栄養溶液中での植物インキュベーションは播種後18日目(DAS)に開始した。140μmol m
-2s
-1の光強度および20℃の周囲空気温度の生育箱内での一定の環境条件下でレタス植物を育てた。明期は20時間であった。32DASの日齢で(浸透圧調節物質処理を開始してから2週間後に)、それらの植物を収穫してそれらの葉硝酸含有量を分析した。
【0113】
実験2は、緑色葉中の硝酸含有量に対するこの浸透圧調節物質化合物の効果がより低い濃度(1.875mM)およびより短いインキュベーション時間(7日間)で保存されるか否かを試験するために、トレハロースのみを使用して行った。さらに浸透圧調節物質処理は、当該植物が実験1のサイズと比較した場合にサイズがより大きくなるようにそれに応じて後で(28DASに)開始した。浸透圧調節物質を使用せずに対照実験を行った。35DASの日齢で(浸透圧調節物質処理を開始してから1週間後に)、これらの植物を収穫してそれらの葉の硝酸を分析した。
【0114】
図6から、実験1において根を介して7.5mMの濃度で施用された全ての試験した浸透圧調節物質化合物は、2週間の処理中に対照(浸透圧調節物質を含まない)と比較してレタス葉中の硝酸含有量の顕著な減少を引き起こしたことは明らかである。実験2の結果によれば、トレハロースは最も顕著な硝酸減少効果を引き起こすことが分かった。そのより低い濃度(1.875mM)およびより短い処理期間(1週間)にも関わらず、トレハロースは例えば実験1で試験したグリシンベタインと同じ位に効率的であるように見えた。
【0115】
一態様では、葉物サラダ用作物の品質を改良するために所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質を含む本調製物の使用が本明細書において提供される。一実施形態では、前記調製物中の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質はベタイン化合物である。非限定的には、ベタイン化合物はグリシンベタイン、プロリンベタインおよびβ-アラニンベタインのうちのいずれか1つとして提供される。場合によっては、前記少なくとも1種の有機化合物はグリシンベタインである。
【0116】
植物中の乾燥物質含有量のかなりの増加と共により多くのクロロフィルが細胞構造中に保存される顕著な葉の老化遅延効果を生じさせることに加えて、グリシンベタインなどの少なくとも1種の有機浸透圧調節物質化合物での葉物サラダ用作物の処理により前記作物を最終顧客にとって商業的により魅力的なものにし、かつ収穫および/または包装中に老化している(および貧相な)葉を除去する必要がなくなる。さらに処理済の葉物サラダ用製品は、小売店チェーンおよび消費者の下で長期の貯蔵寿命を有し、これは改良された製品品質を説明している。
【0117】
葉菜類植物は有利には温室または植物工場において水耕法で栽培された1種以上の植物である。
【0118】
いくつかの実施形態では、葉菜類植物はいわゆるマイクログリーン植物である。
【0119】
所定量の少なくとも1種の有機浸透圧調節物質化合物、好ましくはベタイン化合物を含む本調製物は有利には、貯蔵寿命の延長および/またはその収穫後特性の向上の点でマイクログリーンの品質を改良させるために利用される。従ってマイクログリーンを例えばグリシンベタインなどの前記少なくとも1種の有機浸透圧調節物質により処理することは、収穫後により長い時間(最長2週間)にわたってマイクログリーン植物の少なくとも風味および味ならびに外観(色、密度)を維持することを説明している。
【0120】
本明細書の上で考察されている葉菜類植物中の硝酸含有量を減少させるための方法および関連する調製物はさらに有利には、ベタイン以外のいくつかの有機浸透圧調節物質化合物を利用することができる。故に例えばいくつかのアミノ酸、特にプロリンおよび/またはグリシン、エクトイン、タウリンおよびサルコシンなどのそれらの誘導体、炭水化物糖、特にトレハロース、ならびにソルビトール、マンニトールおよびD-オノニトールなどの糖アルコールを利用することができる。さらに、ジメチルスルホニオプロピオナート(スルホニウムベタイン)およびコリン-O-硫酸(choline-O-sulfate)(アンモニウムベタイン、コリン硫酸のメンバー)などのそのようなベタイン化合物をさらに利用することができる。
【0121】
様々な有機浸透圧調節物質を使用して葉菜類植物中の硝酸含有量を効率的に調節することができるということは、
図6に示されている結果から明らかである。本研究に関与している浸透圧調節物質(ベタイン化合物、炭水化物糖化合物および糖アルコール化合物)は、化学構造の点で別種の有機浸透圧調節物質化合物群であることを明らかに表している。それにも関わらずこれらの化合物は全て、植物代謝における浸透圧平衡の調節および葉菜類植物への硝酸の蓄積の制御/減少に関して同じ作用様式を示している。
【0122】
これらの化合物の浸透圧保護機能は、(高等)植物において認識されている。有機浸透圧保護物質は一般に細胞におけるあらゆる生化学的反応への関与を回避することが知られており、細胞質基質に貯蔵されている。
【0123】
葉菜類植物中の硝酸含有量の減少に関する浸透圧調節物質化合物の作用様式は伝えられるところでは、植物細胞における浸透ポテンシャルを調節する前記化合物の能力に基づいている。
【0124】
葉菜類などの好窒素植物では、吸収された硝酸は植物細胞の細胞質において有機形態の窒素(アミノ酸およびタンパク質)に還元および同化されるか、液胞において遊離イオンの形態で一時的に貯蔵される。しかし10~20%のみの硝酸が細胞代謝において使用され、それに応じて残りの80~90%の硝酸は液胞の硝酸プールに保存される。蓄積された硝酸は、還元および同化のために細胞質中でほぼ一定の硝酸濃度を維持することにより細胞の浸透ポテンシャルに寄与する。過剰な硝酸の取込み(例えば栄養溶液から)の条件下では、液胞プールから遊離硝酸を代謝する植物の能力は低く、従って硝酸正味吸収と同化率との確立された平衡異常により緑色葉中の硝酸の濃度は増加する。これは、NFT栽培などの温室および植物工場における工業的水耕法ベースの栽培条件下では一般的な状況である。
【0125】
グリシンベタインなどの浸透圧調節物質化合物は植物細胞の細胞質に蓄積し、細胞質と液胞との浸透圧平衡を調節する。植物細胞中の硝酸以外の他の浸透圧平衡調節因子の存在は伝えられるところでは、植物がより少ない硝酸を液胞プールの中に割り当てるのを可能にし、それにより緑色葉中の硝酸含有量は減少する。
【0126】
本発明の概念は、本明細書において開示されている基本的な実施形態の様々な修正を包含することを意図していることは当業者には明らかなはずである。上に示されている実施形態は本発明の様々な実施形態の例示であると理解され、添付の特許請求の範囲に関して限定的に理解されるべきできはない。
【0127】
【国際調査報告】