IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アーベーベー・シュバイツ・アーゲーの特許一覧

特表2022-537918同期機の電圧レギュレータのための制御パラメータを自動的に決定する方法
<>
  • 特表-同期機の電圧レギュレータのための制御パラメータを自動的に決定する方法 図1
  • 特表-同期機の電圧レギュレータのための制御パラメータを自動的に決定する方法 図2
  • 特表-同期機の電圧レギュレータのための制御パラメータを自動的に決定する方法 図3
  • 特表-同期機の電圧レギュレータのための制御パラメータを自動的に決定する方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(54)【発明の名称】同期機の電圧レギュレータのための制御パラメータを自動的に決定する方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/30 20060101AFI20220824BHJP
   H02P 103/20 20150101ALN20220824BHJP
【FI】
H02P9/30 K
H02P103:20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572464
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(85)【翻訳文提出日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2019064887
(87)【国際公開番号】W WO2020244769
(87)【国際公開日】2020-12-10
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505056845
【氏名又は名称】アーベーベー・シュバイツ・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】ABB Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 66, 5400 Baden, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ルンガー、マティアス
(72)【発明者】
【氏名】アル-ホカイェム、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ストライフ、ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】クナツキンス、ファレレイス
【テーマコード(参考)】
5H590
【Fターム(参考)】
5H590CA01
5H590CA08
5H590CA11
5H590CD01
5H590DD33
5H590DD64
5H590EB21
5H590HA02
5H590JA02
5H590JA12
5H590JA13
5H590JA14
5H590JA19
(57)【要約】
同期機(12)は、固定子端子(20)によって配電網(16)に接続された固定子巻線(18)を有する固定子(22)と、固定子(22)内に回転可能に取り付けられた回転子巻線(26)を有する回転子(24)とを備え、同期機(12)の電圧レギュレータ(14)は、同期機(12)を制御するために回転子巻線(26)の電流を調整するための励磁信号(u)を出力するように適合されている。電圧レギュレータ(14)のための制御パラメータ(54)を決定するための方法は、励磁信号(u)の値の第1の時系列と、固定子端子(20)における端子電圧(y)の測定値の第2の時系列とを受け取ることであって、第1の時系列及び第2の時系列は、ある時間間隔にわたって取得される、ことと、同期機(12)のシステム伝達関数(G(s))の係数(52)を決定することであって、システム伝達関数(G(s))は有理関数であり、システム伝達関数(G(s))の係数(52)は、システム入力としての第1の時系列及びシステム出力としての第2の時系列に基づく操作変数を用いた回帰分析によって再帰的に決定される、ことと、電圧レギュレータ(14)のコントローラ伝達関数(C(s))及びシステム伝達関数(G(s))から形成される閉ループ伝達関数を所望の閉ループ伝達関数と比較することによって、システム伝達関数(G(s))の係数(52)から電圧レギュレータ(14)のための制御パラメータ(54)を決定することとを含む。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期機(12)の電圧レギュレータ(14)のための制御パラメータ(54)を決定するための方法であって、前記同期機(12)は、固定子端子(20)によって配電網(16)に接続された固定子巻線(18)を有する固定子(22)と、前記固定子(22)内に回転可能に取り付けられた回転子巻線(26)を有する回転子(24)とを備え、前記電圧レギュレータ(14)は、前記同期機(12)を制御するために前記回転子巻線(26)の電流を調整するための励磁信号(u)を出力するように適合されており、
前記方法は、
前記励磁信号(u)の値の第1の時系列と、前記固定子端子(20)における端子電圧(y)の測定値の第2の時系列とを受け取ることと、ここで、前記第1の時系列及び前記第2の時系列は、ある時間間隔にわたって取得されるものであり、
前記同期機(12)のシステム伝達関数(G(s))の係数(52)を決定することと、ここで、前記システム伝達関数(G(s))は有理関数であり、前記システム伝達関数(G(s))の前記係数(52)は、システム入力としての前記第1の時系列及びシステム出力としての前記第2の時系列に基づく操作変数を用いた回帰分析によって再帰的に決定されるものであり、
前記電圧レギュレータ(14)のコントローラ伝達関数(C(s))及び前記システム伝達関数(G(s))から形成される閉ループ伝達関数を所望の閉ループ伝達関数と比較することによって、前記システム伝達関数(G(s))の前記係数(52)から前記電圧レギュレータ(14)のための前記制御パラメータ(54)を決定することと、
を含む方法。
【請求項2】
前記操作変数を用いた回帰分析において、前記システム伝達関数(G(s))の前記係数(52)は、
実ステップ係数を有する前記システム伝達関数(G(s))の分母で前ステップ励磁信号(u)をフィルタリングすることによって実ステップ励磁信号(u)を計算すること、
前記実ステップ係数を有する前記システム伝達関数(G(s))の前記分母で前ステップ端子電圧(y)をフィルタリングすることによって実ステップ端子電圧(y)を計算すること、
実ステップ係数を有する前記システム伝達関数(G(s))で前記励磁信号(u)の測定値の前記第1の時系列をフィルタリングすることによって実ステップ応答を計算すること、
前記実ステップ端子電圧(y)のn次導関数と、係数ベクトルと操作変数ベクトルとの積との間の差を最小化することによって、次ステップ係数を決定すること、ここで、nは、前記システム伝達関数(G(s))の分母の次数であり、前記係数ベクトルは、前記次ステップ係数から形成され、前記操作変数ベクトルは、前記実ステップ応答及び前記実ステップ励磁信号(u)の導関数から形成されるものであり、
によって再帰的に決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハイパスフィルタを用いて前記励磁信号(u)の測定値の前記第1の時系列をフィルタリングすることによって初期ステップ励磁信号(u)を形成することと、
前記ハイパスフィルタを用いて前記端子電圧(y)の測定値の前記第2の時系列をフィルタリングすることによって初期ステップ端子電圧(y)を形成することと
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
初期ステップ端子電圧(y)のn次導関数と、係数ベクトルと回帰ベクトルのとの積とを最小化することによって、前記システム伝達関数(G(s))のための初期ステップ係数を決定することを更に含み、前記係数ベクトルは、前記初期ステップ係数から形成され、回帰ベクトルは、前記初期ステップ端子電圧(y)及び初期ステップ励磁信号(u)の導関数から形成される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記閉ループ伝達関数は、前記コントローラ伝達関数と前記システム伝達関数(G(s))との積から決定される、及び/又は
前記所望の閉ループ伝達関数は、所望の整定時間(T)及び/又は所望のオーバーシュート(OS)を有する二次伝達関数である
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コントローラ伝達関数(C(s))は、PIDコントローラの伝達関数であり、
前記制御パラメータ(54)は、比例制御部、積分制御部、及び微分制御部のための係数を設定する
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記閉ループ伝達関数と前記コントローラ伝達関数(C(s))とを比較することによって、所望の定常状態誤差が設定される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記コントローラ伝達関数(C(s))は、リードラグコントローラの伝達関数である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記励磁信号(u)の値の前記第1の時系列を生成し、前記第1の時系列を前記同期機に印加することによって、前記回転子巻線(26)に印加される電圧を生成することと、
前記端子電圧(y)の前記第2の時系列を測定することと
を更に含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記制御パラメータ(54)は、前記同期機(12)の試運転中に決定される、及び/又は
前記制御パラメータ(54)は、前記同期機(12)の連続運転中に周期的に決定される、
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
同期機(12)を制御するための方法であって、
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法に従って制御パラメータ(54)を決定することと、
前記決定された制御パラメータ(54)を前記同期機(10)の前記電圧レギュレータ(14)に印加することと、
前記電圧レギュレータ(14)を用いて前記同期機(12)を制御することと
を含む方法。
【請求項12】
電圧レギュレータ(14)のための制御パラメータ(54)を決定するためのコンピュータプログラムであって、プロセッサ上で実行されると、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行するように適合されている、コンピュータプログラム。
【請求項13】
電圧レギュレータ(14)のための制御パラメータ(54)を決定するためのコンピュータ可読媒体であって、請求項12に記載のコンピュータプログラムが記憶されている、コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行するように適合されている、同期機(12)の電圧レギュレータ(14)のコントローラ(40)。
【請求項15】
端子(20)を介して配電網(16)に接続された固定子巻線(18)を有する固定子(22)と、回転子巻線(26)を有する回転子(24)とを備えた同期機(12)であって、前記回転子(24)が前記固定子(22)内に回転可能に取り付けられている、同期機(12)と、
前記回転子巻線(24)に電圧を供給するための電圧レギュレータ(14)と
を備え、
前記電圧レギュレータ(14)は、前記回転子巻線(26)のための前記電圧を生成するように適合された電気コンバータ(36)を備え、
前記電圧レギュレータ(14)は、前記電気コンバータ(36)を制御し、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行するためのコントローラ(40)を備える、
同期機システム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電気機械の分野に関する。特に、本発明は、同期電気機械の電圧レギュレータのための制御パラメータを決定するための方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ可読媒体、並びにそのような電圧レギュレータを有する同期電気機械に関する。
【背景技術】
【0002】
励磁機によって界磁巻線が通電される可能性がある同期発電機の端子における三相交流電圧の大きさを調整する自動電圧レギュレータは、通常、PIDコントローラを備える。PIDコントローラの制御パラメータは、同期発電機の試運転中に調整される必要がある場合がある。
【0003】
同期発電機の試運転手順を簡略化するために、データ及び大まかな仕様から制御パラメータを自動的に決定する自動調整方法が開発されてきた。利用可能な手順は、おおよそ3つのステップで進行する。第1に、システムを励磁して、励磁信号、例えば界磁電圧と共に端子電圧を記録する。第2に、記録されたデータを使用して、所与の動作点の周りのシステムの小信号挙動の伝達関数モデルを同定する。第3に、伝達関数モデルを使用して、レギュレータのパラメータを計算する。
【0004】
残念ながら、第2のステップにおける伝達関数モデル同定に現在利用可能な方法には問題がある可能性がある。例えば、最小二乗アプローチでは、制御パラメータの推定値に偏りが生じ、モデル品質が損なわれる可能性がある。粒子群最適化を使用することも知られている。しかしながら、粒子群最適化法では、パラメータの推定値が不正確になり得るため、初期値問題の多数の解を必要としたり、アルゴリズムのパラメータ、例えば、粒子の数、サンプル更新規則におけるパラメータを調整するための専門知識を必要としたりする可能性がある。
【0005】
第3のステップにおける制御パラメータ計算に利用可能な方法にも問題がある可能性がある。制御パラメータを計算する方法は、達成可能なコントローラ性能に関して非常に制限的であり得るか、面倒で時間を消費する試行錯誤アプローチに再び帰着し得るかのいずれかである。
【0006】
国際公開第2009/097605号には、デジタル励磁制御システムが記載されており、ここでは、伝達関数モデルが最小二乗法で決定され、そこから制御パラメータが極零点消去(pole zero cancellation)で導出される
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、同期機のための自動電圧レギュレータの制御パラメータを、使用し易くかつ自動的な方法で決定することである。
【0008】
この目的は、独立請求項の主題によって達成される。更なる例示的な実施形態は、従属請求項及び以下の説明から明らかである。
【0009】
本発明の一態様は、同期機の電圧レギュレータのための制御パラメータを決定するための方法に関する。この方法を用いて、自動電圧レギュレータの制御パラメータが自動的に計算され得る。電圧レギュレータは、同期発電機の三相交流端子電圧の大きさを所望のレベルで調整するために使用され得る。
【0010】
同期機は、固定子端子により配電網に接続された固定子巻線を有する固定子と、固定子内に回転可能に取り付けられた回転子巻線を有する回転子とを備え得る。(自動)電圧レギュレータは、固定子端子の端子電圧が制御されるように、同期機を制御するために回転子巻線の電流を調整するための励磁信号を出力するように適合され得る。例えば、励磁信号は、回転子巻線自体に印加される電圧信号、又は回転子に結合された励磁システムに印加される電圧信号であり得る。
【0011】
電圧レギュレータを用いて、固定子端子における端子電圧が調整及び/又は制御され得る。電圧レギュレータの更なる制御対象は、同期機の無効電力及び/又は力率であり得る。
【0012】
方法は、電圧レギュレータの一部であり得るコントローラによって自動的に実行され得る。制御パラメータは、電圧レギュレータの更なるコントローラ及び/又は制御部のパラメータであり得る。
【0013】
この方法を用いて、制御パラメータは3つのステップで決定され得る。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、方法は、第1のステップにおいて、励磁信号の値の第1の時系列及び端子電圧の測定値の第2の時系列を受け取ることであって、第1の時系列及び第2の時系列は、ある時間間隔にわたって取得される、ことを含む。第1に、発電機などの同期機は、場合によっては励磁システムによって励磁され得る。例えば、同期機は固定の動作点で励磁され得、励磁信号と共に端子電圧が記録され得る。第1及び第2の時系列は、連続した時刻及び/又は等しく離れた時刻で取得された値を含み得る。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、方法は、第2のステップにおいて、同期機のシステム伝達関数の係数を決定することであって、システム伝達関数は有理関数であり、システム伝達関数の係数は、操作変数を用いた回帰分析によって再帰的に決定される、ことを含む。回帰分析では、第1の時系列がシステム入力と見なされ得、第2の時系列がシステム出力と見なされ得る。
【0016】
システム伝達関数、並びに後述される他の伝達関数は、ラプラス変換システムにおいて提供され得る。第1及び第2の時系列は、回帰分析に入力される前にラプラス変換され得る。
【0017】
例えば、SRIV(simply refined instrumental variable)法が使用され得る。この操作変数法を用いて、連続時間伝達関数が同定され得る。システム伝達関数は、第1のステップから記録されたデータを使用して、所与の動作点の周りのシステムの小信号挙動について決定され得る。
【0018】
操作変数法では、(再帰的)最小二乗アプローチのようにパラメータの推定値に偏りが生じることはないであろう。更に、アルゴリズムを手動で調整する際に専門知識を必要としないであろう。更に、操作変数法では、システム伝達関数の係数を見つけるために必要となる初期値問題の解はほんのわずかであり得る。例えば、アルゴリズムが終了するまで解かなければならない初期値問題は25個未満であり得る。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、方法は、第3のステップにおいて、電圧レギュレータのコントローラ伝達関数及びシステム伝達関数から形成される閉ループ伝達関数を所望の閉ループ伝達関数と比較することによって、システム伝達関数の係数から電圧レギュレータのための制御パラメータを決定することを含む。
【0020】
コントローラ伝達関数は、制御係数が決定される電圧レギュレータのコントローラの伝達関数であり得る。従って、コントローラ伝達関数は、コントローラパラメータに依存し得る。コントローラ伝達関数及びシステム伝達関数から、例えばこれら2つの伝達関数を乗じることによって、開ループ伝達関数が決定され得る。開ループ伝達関数から、閉ループ伝達関数が決定され得る。最後に、閉ループ伝達関数が、一次又は二次システムの伝達関数などの既知の係数を有する所望の閉ループ伝達関数に等しいと仮定し得る。例えば、所望の伝達関数の所望の係数は、所望の整定時間及び/又は所望のオーバーシュートであり得る。このことから、制御パラメータは、所望の閉ループ伝達関数の所望の係数及びシステム伝達関数の係数から計算され得る。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、操作変数を用いた回帰分析において、システム伝達関数の係数は、実ステップ係数を有するシステム伝達関数の分母で前ステップ励磁信号をフィルタリングすることによって実ステップ励磁信号を計算することと、実ステップ係数を有するシステム伝達関数の分母で前ステップ端子電圧をフィルタリングすることによって実ステップ端子電圧を計算することとによって再帰的に決定される。
【0022】
既に述べたように、これらの関数及び信号はすべて、ラプラス領域で評価され得る。特に、励磁信号及び端子電圧の高次導関数は、相応に指数化されたラプラス変数を乗じることによって決定され得る。励磁信号の場合、分母の次数n-1までのすべての導関数が決定され得、及び/又は端子電圧の場合、システム伝達関数の分子の次数mまでのすべての導関数が決定され得る。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、操作変数を用いた回帰分析において、システム伝達関数の係数は、実ステップ係数を有するシステム伝達関数で励磁信号の測定値の第1の時系列をフィルタリングすることによって実ステップ応答を計算することと、実ステップ端子電圧のn次導関数と、係数ベクトルと操作変数ベクトルとの積との間の差を最小化することによって次ステップ係数を決定することとによって再帰的に決定される。既に述べたように、nは、システム伝達関数の分母の次数である。
【0024】
係数ベクトルは、次ステップ係数から形成され得る。そのような係数がn+m-1個ある、すなわち分子にm個、分母にn-1個あることに留意されたい。
【0025】
操作変数ベクトルは、実ステップ応答のn-1導関数及び実ステップ励磁信号のm導関数から形成される。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、方法は、ハイパスフィルタを用いて励磁信号の測定値の第1の時系列をフィルタリングすることによって初期ステップ励磁信号を形成すること、及び/又はハイパスフィルタを用いて端子電圧の測定値の第2の時系列をフィルタリングすることによって初期ステップ端子電圧を形成することを更に含む。フィルタリングは、フィルタ係数を乗じることによってラプラス領域で実行され得る。フィルタ係数は、カットオフ周波数を、そのカットオフ周波数にラプラス変数を足したもので割った指数分数であり得る。フィルタ係数は、n+1で指数化され得る。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、方法は、初期ステップ端子電圧のn次導関数と、係数ベクトルと回帰ベクトルとの積とを最小化することによって、システム伝達関数のための初期ステップ係数を決定することを更に含み、係数ベクトルは、初期ステップ係数から形成され、回帰ベクトルは、初期ステップ端子電圧のn-1導関数及び初期ステップ励磁信号のm導関数から形成される。
【0028】
初期ステップ信号は、それぞれの時系列をラプラス変換することによって決定され得る。これらの信号の導関数は、相応に累乗されたラプラス変数を乗じることによって決定され得る。この場合も同様に、上で説明したようにフィルタ係数を乗じ得る。
【0029】
第3のステップにおいて、制御パラメータ計算は、結果として生じる閉ループ伝達関数の極及び/又は零点が所望の閉ループ伝達関数の極及び/又は零点に整合される極零点消去手順に基づき得る。特に、所望の整定時間及び/又はオーバーシュートを強制する極消去手順が適用され得る。一変形形態では、所望の定常状態誤差も所望のパラメータとして使用され得る。
【0030】
このようにして、時間領域挙動への閉ループ極のマッピングが必要なくなり得、及び/又は目的関数及びアルゴリズムの調整が必要なくなり得る。所望の設定、すなわち閉ループにおいて強制される整定時間、オーバーシュート、及び場合によっては定常状態誤差、は、コミッショニングエンジニアによる解釈が容易なものであり、面倒で時間のかかる間接的なパラメータ調整が回避される。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、所望の閉ループ伝達関数は、例えば、所望の整定時間及び/又は所望のオーバーシュートを有する二次伝達関数である。このようにして、閉ループの性能は、一次システムに制限される必要がない。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、所望の閉ループ伝達関数は、例えば、所望の整定時間を有する一次伝達関数である。既に述べたように、制御パラメータを決定するために一次伝達関数を使用することもできる。一般に、より高次の伝達関数も可能であり得る。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、コントローラ伝達関数は、PIDコントローラの伝達関数である。PIDコントローラは、比例制御部、積分制御部、及び微分制御部を備え得る。制御パラメータがこれらの部分の係数であり得るか、又はこれらの部分の係数は制御パラメータに依存し得る。制御パラメータは、比例制御部、積分制御部、及び微分制御部の係数の係数を設定し得る。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、所望の定常状態誤差は、閉ループ伝達関数とコントローラ伝達関数とを比較することによって設定される。自動で定常状態誤差を0にしないコントローラの場合、この誤差の最大の大きさもまた、制御パラメータを固定するための設定として使用され得る。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、コントローラ伝達関数は、リードラグコントローラの伝達関数である。そのような伝達関数は、少なくとも2つの係数を含み得、各係数は極及び零点を有する。一方の係数については、極は、零点よりも高い位置にあり得、他方の係数については、極は、零点よりも低い位置にあり得る。
【0036】
更に、リードラグコントローラは、定常状態誤差を自動的にゼロに調整する必要はない。このようにして、リードラグコントローラは、所望の整定時間、所望のオーバーシュート、及び所望の定常状態誤差が達成されるように決定され得る少なくとも4つの制御パラメータを有し得る。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、方法は、励磁信号の値の第1の時系列を生成し、第1の時系列を同期機に印加することによって、回転子巻線に印加される電圧を生成することと、端子電圧の第2の時系列を測定することとを更に含む。例えば、第1の時系列は、特定のステップ関数又はランダム信号などの特殊な形態を有し得る。また、第1の時系列は、同期機システムの通常動作中に決定され得、すなわち、第1の時系列は、制御パラメータの別のセットを用いて電圧レギュレータによって生成され得る。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、制御パラメータは、同期機の試運転中に決定される。この方法は、同期機が設置されるときに一度実行され得る。その後、同期機の動作中、以前決定された制御パラメータが使用され得る。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、制御パラメータは、同期機の連続動作中に周期的に決定される。この場合、第1及び第2の時系列が一定間隔で決定され得、そこから制御パラメータが決定され得る。換言すると、決定された制御パラメータは、時間と共に変化し得る。この場合、同期機システムの動作中に2つの時系列が決定され得ることに留意されたい。
【0040】
一般に、3ステップ手順は、電圧レギュレータの試運転中にコントローラパラメータを一度決定するために、及び/又は同期機システムが動作している間制御パラメータを更新するために周期的に適用され得る。
【0041】
本発明の更なる態様は、同期機を制御するための方法に関する。この方法は、制御パラメータを設定及び/又は決定するためだけでなく、同期機の動作中に制御パラメータを使用するためにも使用され得る。
【0042】
同期機を制御するための方法は、上記及び下記で説明される制御パラメータを決定することと、決定された制御パラメータを同期機の電圧レギュレータ、特に電圧レギュレータのコントローラに印加することと、電圧レギュレータを用いて同期機を制御することとを含み得る。特に、同期機は、電圧レギュレータを用いて端子電圧を調整することによって制御され得る。
【0043】
本発明の更なる態様は、電圧レギュレータのための制御パラメータを決定するためのコンピュータプログラムに関し、コンピュータプログラムは、プロセッサ上で実行されると、上記及び下記で説明される方法を実行するように適合されている。
【0044】
本発明の更なる態様は、そのようなコンピュータプログラムが記憶された電圧レギュレータのための制御パラメータを決定するためのコンピュータ可読媒体に関する。コンピュータ可読媒体は、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、USB(Universal Serial Bus)ストレージデバイス、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、又はFLASH(登録商標)メモリであり得る。コンピュータ可読媒体はまた、プログラムコードのダウンロードを可能にするデータ通信ネットワーク、例えばインターネットであり得る。一般に、コンピュータ可読媒体は、非一時的又は一時的媒体であり得る。
【0045】
本発明の更なる態様は、同期機の電圧レギュレータのコントローラに関し、コントローラは、上記及び下記で説明される方法を実行するように制御される。コントローラは、プロセッサと、コンピュータプログラムが記憶されるメモリとを備え得る。しかしながら、方法は、部分的に又は完全にハードウェアに実装されてもよい。
【0046】
本発明の更なる態様は、端子を介して配電網に接続された固定子巻線を有する固定子と、固定子内に回転可能に取り付けられた回転子巻線を有する回転子とを有する同期機と、回転子巻線に電圧を供給するための電圧レギュレータとを備える同期機システムに関する。電圧レギュレータは、配電網から電力を供給可能であり、かつ、回転子巻線のための電圧を発生させるように適合された電気コンバータを備え得る。電圧レギュレータはまた、永久磁石発電機(PMG)及び/又はバッテリによって給電され得る。更に、電圧レギュレータは、コンバータを制御し、上記及び下記で説明される方法を実行するためのコントローラを備え得る。
【0047】
上記及び下記で説明される方法の特徴が、上記及び下記で説明される同期機システム、コントローラ、コンピュータプログラム、及び/又はコンピュータ可読媒体の特徴であり得ることは理解されるべきである。
【0048】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に記載される実施形態から明らかであり、それらを参照して説明される。
【0049】
本発明の主題は、添付の図面に例示される例示的な実施形態を参照して、以下の本文においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は、本発明の一実施形態による同期機システムを概略的に示す。
図2図2は、図1のシステムを制御するために使用される応答関数を有する図を示す。
図3図3は、本発明の一実施形態によるコントローラを含む図1のシステムの一部のブロック図を概略的に示す。
図4図4は、本発明の一実施形態による電圧レギュレータの制御パラメータを決定するための方法のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図面で使用される参照記号及びそれらの意味は、参照記号のリストに要約形式で列挙されている。原理上、図において同一の部分には同一の参照記号が付されている。
【0052】
図1は、同期機12及び電圧レギュレータ14を有する同期機システム10を示す。同期発電機及び/又は同期モータなどの同期機12は、その固定子巻線18、特に固定子端子20を介して配電網16に接続される。固定子巻線は、同期機12の固定子22に取り付けられ、同期機12の回転子24は、固定子20内に回転可能に取り付けられ、電圧レギュレータ14によって給電される回転子巻線26を担持する。
【0053】
図1に示されるように、回転子巻線26は、励磁システム28によって給電され得、励磁システム28は、回転子24と共に回転する励磁巻線30を備え、電圧レギュレータ14に電気的に接続された静的電圧レギュレータ巻線32によって給電される。電圧レギュレータ14からの電圧は、励磁巻線30に電圧を誘起し、この電圧は、励磁整流器34で整流されて回転子巻線26に供給される。
【0054】
電圧レギュレータ14は、配電網16に接続された変圧器38を介して給電されるコンバータ36を備える。同期機12の端子20の端子電圧y及び端子電流iを測定するコントローラ40は、コンバータ36を制御する。
【0055】
例えば、同期発電機12は、機械的エネルギーを電気エネルギーに変換することによって配電網16内の電力に寄与し得る。機械的エネルギーは、蒸気タービン、ガスタービン、又は水力タービンによって供給され得る。タービンは、回転子24に取り付けられたワイヤのコイルなどの回転子巻線26を通って流れる電流によって発生する磁場を保持する同期発電機12の回転子24に電力供給し得る。固定子22に取り付けられたワイヤのコイルなどの固定子巻線18に対する回転子24上の磁場の回転運動は、固定子巻線18に電圧を誘起する。通常、定常状態条件下では、固定子巻線18の端子20において測定される誘起電圧yが、120度ずつ位相シフトされた同一の振幅及び周波数を有する3つの正弦波形をもたらすように、3つの固定子巻線18が固定子22に幾何学的に取り付けられている。端子電圧yの周波数及び振幅は、主に、回転子24の角速度及び界磁電流の大きさにそれぞれ影響される。
【0056】
配電網16の安定した動作には、同期発電機12の(通常は三相の)端子電圧yの大きさが、ほぼ一定であり、かつ、所与の目標値からわずかしか逸脱しないことが必要であり得る。しかしながら、グリッド接続された発電機12の端子電圧yは、電気負荷、再生可能な電源、他の発電機などの、配電網16内に存在する他のすべてのエンティティに非局所的に依存し得、その所望の波形から大幅に逸脱する可能性がある。従って、界磁電流及び回転子速度をそれぞれ適切に調整することによって、端子電圧yの大きさ及び周波数を目標値に調整する必要があり得る。多くの場合、回転子巻線26の電流は、第2の発電機30,32と見なされ得る励磁システム28によって供給される。励磁システム28の巻線30は、整流器34を通して同期発電機12の回転子巻線26に接続され得るため、同期発電機12の端子電圧yの大きさは、励磁システム28の界磁電流を操作することによって調整され得る。
【0057】
(自動)電圧レギュレータ(AVR)14は、同期機12の端子電圧y(t)の実際の大きさを調整するために使用される。一般に、その出力は、同期機12の回転子巻線26に直接接続されるか、又は励磁システム28の巻線32に接続される。電圧レギュレータ14の出力信号uavr(t)は、端子電圧r(t)の所望の大きさと端子電圧y(t)の測定された大きさとの間の誤差e(t)=r(t)-y(t)に基づいて決定され得る。
【0058】
例えば、PIDコントローラの場合、出力信号は、3つの項から構成され得る:
【数1】
電圧レギュレータ14の出力は、誤差、誤差の積分、及び誤差の導関数の線形結合によって形成され得る。線形結合の一定の係数k、k、及びkは、コントローラパラメータ又はコントローラゲインと呼ばれ得る。制御パラメータは、電圧レギュレータ14を備える動的システムによって形成される閉ループの性能に影響を及ぼし、同期機12は、場合によっては、励磁システム28を含む。
【0059】
図2は、通常ステップ応答と呼ばれる、コントローラ40の制御下での初期目標値rから最終目標値rへのステップ中の端子電圧y(t)の実際の大きさの例を有する図を示す。
【0060】
更に、図2は、ステップ応答の性能指数を示す。一般に、端子電圧y(t)の実際の大きさができるだけ速く新しい目標値rに近づくように、閉ループが基準信号の変化に迅速に反応することが望ましいであろう。ステップ応答に関連する立ち上がり時間T、整定時間T、及びオーバーシュートOSは、コントローラの性能指数として使用され得る。例えば、立ち上がり時間Tは、端子電圧y(t)の大きさが初期目標値rと最終目標値rとの間の基準ステップの10%から90%に増加するのに必要な時間間隔を指し得る。整定時間Tは、基準ステップが発生した瞬間からy(t)がr(t)の+2%内に留まるまでの時間間隔を指し得る。オーバーシュートOSは、最終目標値rに対するy(t)の最大超過を指し得、及び/又は、例えば、以下のように%で記述され得る:
【数2】
【0061】
整定時間T及びオーバーシュートOSを有する端子電圧y(t)の曲線の形は、二次システムに典型的である。以下では、コントローラ40及び同期機12から構成される閉ループは、整定時間T及びオーバーシュートOSの特定値を達成するようにコントローラ30の制御パラメータを設定するための二次システムであると仮定する。
【0062】
図3は、コントローラ40のコントローラ部42,44,46,48と、コントローラ40の励磁機信号u(t)に反応する同期機12及び励磁システム28などのシステム10の部分を図示するブロック50とを有するブロック図を示す。図4は、コントローラ部42,44,46,48によって実行され得る方法のフロー図を示す。
【0063】
ステップS10において、同期機12及びオプションで励磁システム28を含むシステムを特定の時間間隔[0,T]にわたって励磁し、信号の2つの時系列、巻線32又は26に印加される電圧などの励磁信号u、及び端子電圧yの大きさを特定のサンプリング時間hで記録し得る。
【0064】
例えば、励磁信号uは、信号発生器42によって生成され得、及び/又はステップ信号若しくは疑似ランダムバイナリ信号のいずれかであり得る。信号発生器42は、励磁信号uの値の第1の時系列を生成し、それらを同期機12に印加することによって、回転子巻線に印加されるべき電圧を発生させ得る。
【0065】
しかしながら、励磁信号uは、コントローラ48によって、すなわち同期機12の動作中に生成されてもよい。
【0066】
第2の時系列は、端子電圧yを測定することによって決定され得る。
【0067】
次いで、励磁信号uの値の第1の時系列及び端子電圧yの測定値の第2の時系列がシステム同定ブロック40において受け取られ得る。
【0068】
ステップS12において、システム同定器44は、ブロック50によって示されるシステムのシステム伝達関数G(s)の係数52を決定する。システム伝達関数G(s)は、ラプラス変数sにおける有理関数である。
【数3】
【0069】
一般に、システム伝達関数G(s)の係数b,...,b,...,b,a,...,a図3及び図4において参照番号52として示される)は、以下で説明されるように、システム入力としての第1の時系列及びシステム出力としての第2の時系列に基づく操作変数を用いた回帰分析によって再帰的に決定される。
【0070】
特定の用途に応じて、モデル構造(n,m)、すなわち、分子mの次数及び分母nの次数は変化し得る。同期機12の巻線26が励磁システム28によって通電され、同期機12が配電網16から切り離されている間の端子電圧yの小信号挙動が重要である典型的な用途では、この構造は(2,1)に固定され得る。分母の次数を増やすことで、より良好なフィッティングモデルを得るためにダイナミクスを考慮に入れることも可能であり得る。同様に、(n,m)は、異なる状況、例えば、同期機12の巻線26が静的励磁システムによって通電されるときに適合され得る。
【0071】
SRIV(simply refined instrumental variable)法
システム伝達関数G(s)の係数52 b,...,b,a,...,aを計算して、同期機12及び場合によっては励磁システム28を含むシステム50の小信号挙動をモデル化するために、SRIV(simply refined instrumental variable)アプローチを使用し得る。
【0072】
計算の基礎は、データセット
(u,y)
であり、ここで、u及びyは、離散間隔{1,2,.,T}から実数にマッピングする離散時間信号である。ここでは、yは、端子電圧の測定された大きさであり、uは、同期機12又は励磁システム28のいずれかの巻線26,32の電圧である。定数hは、信号が記録されるサンプリング時間である。データは、基準ステップによってシステムを励磁することによって、又は疑似ランダムバイナリ信号を界磁巻線電圧に印加することによって収集され得る。
【0073】
続いて、係数52を係数ベクトル
【数4】
とし、それぞれ信号u及びyのゼロ次ホールド補間から得られる連続時間信号をu及びyと表記する。パラメータθは、反復的に計算される。
【0074】
初期パラメータ計算
以下では、すべての信号がラプラス変換されていることに留意されたい。最初に、信号u及びyは、カットオフ周波数λ=10/(2πh)のフィルタを用いてフィルタリングされる:
【数5】
【0075】
具体的には、i∈{1,...,n}、j∈{0,...,m}について、y=y及びu=uとして、以下のフィルタ応答が計算される:
【数6】
【数7】
ハイパスフィルタを用いて励磁信号uの測定値の第1の時系列をフィルタリングすることによって初期ステップ励磁信号uが形成され得、及び/又はハイパスフィルタを用いて端子電圧yの測定値の第2の時系列をフィルタリングすることによって初期ステップ端子電圧yfが形成され得る。
【0076】
【数8】
がyの導関数であり、yがuに対するG(s)の応答であるとすると、すべてのt=∈[0,h(T-1)]について以下の式が成り立つ:
【数9】
【0077】
回帰ベクトル
【数10】
を使用すると、
【数11】
となる。i∈{1,...,T}として、サンプリング時間t=(i-1)hにわたって要約された
【数12】
からの
【数13】
の偏差を最小化することによって初期パラメータ推定が得られる。目的関数は、以下によって得られる:
【数14】
【0078】
一般に、システム伝達関数G(s)のための初期ステップ係数θは、初期ステップ端子電圧yのn次導関数と、係数ベクトルθと回帰ベクトルφとの積とを最小化することによって得ることができ、ここで、係数ベクトルは、初期ステップ係数から形成され、回帰ベクトルは、初期ステップ端子電圧y及び初期ステップ励磁信号uの導関数から形成される。
【0079】
初期ステップ係数θは、次式によって明示的に計算され得る:
【数15】
【0080】
パラメータ更新
パラメータ更新手順では、本質的に初期化手順を繰り返し、係数θを再帰的に決定する。しかしながら、著しい違いが2つある。第1に、高次導関数を計算するためのフィルタ
【数16】
【0081】
ここでは、
【数17】
は、実際の反復kにおける係数52である。ここで、フィルタ応答は、次式によって計算される:
【数18】
【数19】
実ステップ励磁信号uは、実ステップ係数θを有するシステム伝達関数G(s)の分母Aで前ステップ励磁信号uをフィルタリングすることによって計算される。同様に、実ステップ端子電圧yは、実ステップ係数θを有する分母Aで前ステップ端子電圧yをフィルタリングすることによって計算される。
【0082】
第2の違いは、係数更新の計算の際に操作変数を使用することによるものである。この目的のために、システム伝達関数G(s)を使用して、以下のノイズのない応答を計算する:
【数20】
【0083】
実ステップ応答xは、実ステップ係数θを有するシステム伝達関数G(s)で励磁信号の測定値uの第1の時系列をフィルタリングすることによって計算される。
【0084】
続いて、xの導関数i∈{1,...,n-1}が、
【数21】
によって計算され、以下の操作変数ベクトルが定義される:
【数22】
【0085】
次ステップ係数θk+1は、実ステップ端子電圧yのn次導関数と、係数ベクトルθと操作変数ベクトルζTとの積との間の差を最小化することによって決定され得る。操作変数ベクトルζは、実ステップ応答x及び実ステップ励磁信号uの導関数から形成される。
【0086】
特に、次ステップ係数θk+1は、次式によって計算され得る:
【数23】
【0087】
反復は、|θk+1-θ|が十分に小さくなるまで、及び/若しくは閾値よりも小さくなる、例えば0.01未満になるまで、又は反復の回数が特定の数、例えば10を超えるまで、繰り返され得る。
【0088】
この方法は調整が不要であること、すなわち、データセット(u,y)と仮定すると、計算の結果に影響を及ぼすパラメータは本質的に存在しないことに留意されたい。
【0089】
更に、フィルタ応答
【数24】
は、1つの初期値問題を解くことによってすべてのi∈{1,...,n}について一度に計算される。同様のことが
【数25】
及び
【数26】
にも当てはまる。従って、
【数27】
及び
【数28】
にも当てはまる。従って、フィルタ応答を計算するためには、初期パラメータ計算において2つの初期値問題を解かなければならない可能性があり、各係数更新反復において3つの初期値問題を解かなければならない可能性がある。例えば、初期値問題を解くために、固定のステップサイズを有する四次ルンゲ-クッタ方式を使用することができる。
【0090】
制御パラメータの計算
ステップS14において、パラメータコンピュータ46は、制御パラメータ54を決定するために使用される更なる仕様56と共に、モデルG(s)の係数52を使用する。
【0091】
一般に、コントローラ伝達関数C(s)を有するコントローラ48を設計するための様々な方法が存在する。以下では、システム伝達モデル関数がn=2及びm=1の構造を有し、以下の形式であると仮定する:
【数29】
【0092】
同定された伝達関数G(s)は、2つの複素共役極を有するものであり、2つの実数極でG(s)を表すことができない場合があり得る。この場合、G(s)の分母多項式の係数a
【数30】
で修正して、修正後の伝達関数
【数31】
が2つの実数極で表されることができることを保証するようにする。
【0093】
特に、以下に説明されるように、コントローラ48のコントローラ伝達関数C(s)及びシステム伝達関数G(s)から形成される閉ループ伝達関数は、コントローラパラメータ54を決定するために、図2に示されるような所望の閉ループ伝達関数と比較される。
【0094】
以下では、2つの異なるコントローラ48の制御パラメータ計算についての2つの実施形態について説明する。第1のコントローラは、いわゆる直列/カスケード式のPIDコントローラである。第2のコントローラは、ダブルリードラグコントローラである。
【0095】
PIDコントローラパラメータ計算
PIDコントローラのパラメータを計算するための仕様56は、所望の整定時間T及び所望のオーバーシュートOSである(図2参照)。
【0096】
PIDコントローラ48の伝達関数は、次式で与えられる:
【数32】
上述したように、制御パラメータT、T、及びKを用いて、比例制御部、積分制御部、及び微分制御部の係数k、k、及びkを設定し得ることに留意されたい。
【0097】
制御パラメータ54、T、T及びKは、コントローラ伝達関数C(s)とシステム伝達関数G(s)との積である開ループ伝達関数が、以下をもたらすように決定される:
【数33】
ここで、α∈]0,1[は、第2のステップで決定されるべきパラメータである。明示的に、制御パラメータ54は、次式で与えられる:
【数34】
【0098】
開ループ伝達関数から、閉ループ伝達関数が、以下によって得られる:
【数35】
【0099】
この閉ループ伝達関数は、二次伝達関数(図2参照)と比較され、ここで、二次伝達関数の標準形式は、
【数36】
によって与えられ、これについて、ヒューリスティック
【数37】
は、減衰係数θを整定時間Tに正確に関連付ける。閉ループ伝達関数の係数と二次伝達関数の標準形式とを比較することによって、パラメータ
【数38】
及び
【数39】
を得ることができる。減衰係数θは、オーバーシュート仕様OSから導出され得る。OS>0の場合、減衰係数は、
【数40】
によって得られ、OS=0の場合は、θ=1となる。パラメータαが区間]0,1[に制限されることに留意されたい。しかしながら、所望の整定時間Tが大きすぎる場合、αは、1よりも大きくなる可能性がある。この場合、所望の整定時間Tは、α∈]0,1[となるように単純に低減され得る。
【0100】
リードラグコントローラパラメータ計算
リードラグコントローラ48の制御パラメータ54を計算するための仕様56は、所望の整定時間T、所望のオーバーシュートOS、及び所望の定常状態誤差essである。
【0101】
コントローラ48のコントローラ伝達関数C(s)は、次式で与えられる:
【数41】
【0102】
コントローラの分子時定数は
【数42】
に設定され、その結果、開ループ伝達関数は、以下のようになる:
【数43】
【0103】
B1=T及びTB2=cTとすると、閉ループは、以下によって得られる:
【数44】
【0104】
ゲインKは、所望の定常状態誤差essが閉ループにおいて強制されるように、すなわち以下になるように選択される:
【数45】
【0105】
残りのパラメータTB1及びTB2(又は同等にc及びT)は、実際の閉ループ伝達関数を厳密に近似する伝達関数
【数46】
において所望の整定時間及びオーバーシュートを強制するように選択され得る。第1のステップにおいて、減衰係数θは、PIDコントローラの1つのようなオーバーシュート仕様から導出される。これらの係数を、二次伝達関数の標準形式
【数47】
と比較すると、以下がもたらされる:
【数48】
【0106】
cについて方程式を解くと、以下となる:
【数49】
【0107】
cが複素数になる場合、ゲインKを増加させて、cが実数になることを保証し得る。時定数Tは、整定時間ヒューリスティック
【数50】
によって決定され、これは、以下をもたらす:
【数51】
及び
【数52】
【0108】
同期機の制御
ステップS10,S12,S14のための3ステップ手順は、コントローラパラメータ54を決定するために電圧レギュレータ14の試運転中に、及び/又はシステム10が動作している間コントローラパラメータ54を更新するために定期的に適用され得る。この場合、ステップS10におけるデータは、システム10が動作している間に所望の信号u,yを測定することによって得ることができる。
【0109】
ステップS10,S12,S14の後、制御パラメータ54は、電圧レギュレータ14のコントローラ48に印加され得る。
【0110】
ステップS16において、コントローラ48は、時間依存している可能性がある基準信号r(t)に向けて端子電圧yを調整し得る。コントローラ48は、基準信号r(t)を受け取り得、この基準信号r(t)に向けて端子電圧y(t)の大きさを制御し得る。
【0111】
本発明は、図面及び前述の説明において詳細に図示及び説明されたが、そのような図示及び説明は、限定的ではなく実例的又は例示的と見なされるべきであり、本発明は、開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態に対する他の変形は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求される発明を実施する当業者によって理解され達成され得る。特許請求の範囲において、「含む/備える(comprising)」という語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は、複数を排除するものではない。単一のプロセッサ若しくはコントローラ又は他のユニットが、特許請求の範囲に記載されているいくつかの項目の機能を発揮し得る。特定の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているという単なる事実だけでは、これらの手段の組合せを有利に使用することができないことを示すことにはならない。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0112】
[参照記号のリスト]
10 同期機システム
12 同期機
14 電圧レギュレータ
16 配電網
18 固定子巻線
20 固定子端子
22 固定子
24 回転子
26 回転子巻線
28 励磁システム
30 励磁巻線
32 電圧レギュレータ巻線
34 励磁整流器
36 コンバータ
38 変圧器
40 コントローラ
42 信号発生器
44 システム同定
46 パラメータ計算
48 電圧コントローラ
50 システムを表すブロック
t 時間
y,y(t) 端子電圧の大きさ
立ち上がり時間
整定時間
OS オーバーシュート
G(s) システム伝達関数
52 システム伝達モデルの係数
C(s) コントローラ伝達関数
54 制御パラメータ
u,u(t) 励磁信号
r(t) 基準信号
56 仕様
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】