(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(54)【発明の名称】インスリン欠乏状態の治療に使用するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20220824BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220824BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20220824BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220824BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220824BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220824BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220824BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220824BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20220824BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220824BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220824BHJP
C12N 15/17 20060101ALI20220824BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220824BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220824BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220824BHJP
C07K 14/62 20060101ALN20220824BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P3/10 ZNA
A61K38/28
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K35/76
A61K35/12
A61K9/08
A61K31/155
A61K31/7088
A61K48/00
C12N15/17
C12N15/12
C12N15/63 Z
C07K14/47
C07K14/62
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573268
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(85)【翻訳文提出日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2020066371
(87)【国際公開番号】W WO2020260043
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503083421
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ジュネーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】コッパリ ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ラマドリ ジョルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ミクロポウロウ デスポイナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
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4H045AA10
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4H045DA37
4H045EA20
4H045EA27
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療に使用するための組成物及び方法を提供し、この組成物は、S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、インスリン、その変異体又は断片とを含む。
【選択図】
図1D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療に使用するための組成物であって、
i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、
ii)インスリン、その変異体又は断片と
を含む、使用するための組成物。
【請求項2】
前記S100A9タンパク質、その変異体又は断片が、少なくとも1種のアフィニティタグを含む請求項1に記載の使用するための組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のアフィニティタグが、前記S100A9タンパク質、その変異体又は断片のC’末端及び/若しくはN’末端に結合している請求項2に記載の使用するための組成物。
【請求項4】
前記アフィニティタグが、FLAGタグ(配列番号21)、キチン結合タンパク質(CBP)タグ(配列番号24)、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ(配列番号25)、StrepタグII(配列番号31)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ(配列番号32)、ポリ(His)タグ(配列番号33)、C-myc(配列番号26)、SBP(配列番号27)、S(配列番号28)、HAT(配列番号29)、及びこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される請求項2又は請求項3に記載の使用するための組成物。
【請求項5】
i)前記S100A9タンパク質、その変異体又は断片、ii)インスリン、その変異体又は断片、及び任意にiii)少なくとも1種のアフィニティタグが同じペプチド上に存在する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項6】
前記S100A9タンパク質のアミノ酸配列が配列番号1に示されているとおりである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項7】
前記S100A9タンパク質変異体のアミノ酸配列が、配列番号1に示されるアミノ酸配列、又はその活性断片と、1~約60アミノ酸、好ましくは1~約40アミノ酸、より好ましくは1~約20アミノ酸、さらにより好ましくは1~約10アミノ酸において異なる請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項8】
前記S100A9タンパク質の前記断片が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも約25個の連続したアミノ酸、少なくとも約30個の連続したアミノ酸、少なくとも約35個の連続したアミノ酸、少なくとも約40個の連続したアミノ酸、少なくとも約45個の連続したアミノ酸、少なくとも約50個の連続したアミノ酸、少なくとも約55個の連続したアミノ酸、少なくとも約60個の連続したアミノ酸、少なくとも約65個の連続したアミノ酸、少なくとも約70個の連続したアミノ酸、少なくとも約75個の連続したアミノ酸、少なくとも約80個の連続したアミノ酸、少なくとも約85個の連続したアミノ酸、少なくとも約90個の連続したアミノ酸、少なくとも約95個の連続したアミノ酸、又は少なくとも約100個の連続したアミノ酸、少なくとも約105個の連続したアミノ酸、又は少なくとも約110個の連続したアミノ酸を含む活性断片である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項9】
インスリンが、未変性のインスリン、プロインスリン、基礎インスリン又は追加インスリンである請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項10】
前記インスリンタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号7及び/又は配列番号8に示されているとおりである請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項11】
前記インスリンタンパク質変異体のアミノ酸配列が、配列番号7及び/又は配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はその活性断片と、1~約60アミノ酸、好ましくは1~約40アミノ酸、より好ましくは1~約20アミノ酸、さらにより好ましくは1~約10アミノ酸において異なる請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項12】
前記変異体インスリン変異体が、インスリンリスプロ(配列番号9及び/又は配列番号10)、インスリングルリジン(配列番号11及び/又は配列番号12)、インスリンアスパルト(配列番号13及び/又は配列番号14)、インスリングラルギン(配列番号15及び/又は配列番号16)、インスリンデテミル(配列番号17及び/又は配列番号18)、及びインスリンデグルデク(配列番号19及び/又は配列番号20)、並びにこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項13】
インスリン欠乏関連症状が、高血糖、高ケトン血症、ケトアシドーシス、高トリグリセリド血症、高グルカゴン血症、高カルプロテクチン血症、上昇した又は高い循環(非エステル化脂肪酸(NEFA))レベル、重度の低レプチン血症、低下した又は低い体脂肪量、過食症、多飲症及びこれらのいずれかの組み合わせを含む群から選択される請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項14】
前記インスリン欠乏(ID)状態が1型糖尿病又は2型糖尿病である請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項15】
前記治療が、高血糖を緩和すること、低血糖のリスクを緩和及び/若しくは低下すること、血中糖化ヘモグロビンレベルの上昇を緩和すること、高グルカゴン血症を緩和すること、高ケトン血症及びケトアシドーシスのリスクを緩和並びに/若しくは低下すること、高トリグリセリド血症を緩和すること、肝臓脂肪酸酸化(FAO)の上昇を緩和すること、肝臓の未変性の若しくは改変したS100A9 mRNAのレベルを上昇すること、肝臓の未変性の若しくは改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、血漿の未変性の若しくは改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、肝臓ATPレベルを上昇すること、寿命を延ばすこと、循環非エステル化脂肪酸(NEFA)レベルを低下すること、肝臓ミトコンドリアDNAレベルを低下すること、循環カルプロテクチンレベルを低下すること、リパーゼ活性を低下すること、又はこれらのいずれかの組み合わせを含む請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項16】
前記i)S100A9タンパク質、その変異体又は断片、及びii)前記インスリン、その変異体又は断片が、同時に、別々に、又は時間をずらして投与される請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項17】
ナトリウム-グルコースコトランスポーター1(SGLT1)及び/又は2(SGLT2)阻害剤、アミリンアナログ、ビグアニド類(例えばメトホルミン)、インクレチン模倣薬(例えば、グルカゴン様ペプチド受容体作動薬、ジペプチジル-ペプチダーゼ-4阻害剤)をさらに含む請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の使用するための組成物。
【請求項18】
S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体若しくは断片及びインスリン、その変異体若しくは断片、及び任意にアフィニティタグをコードする1種以上の核酸を含むプラスミド又はベクター。
【請求項19】
S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片及びインスリン、その変異体又は断片、及び任意にアフィニティタグをコードする1種以上の核酸。
【請求項20】
請求項18に記載のプラスミド若しくはベクター、又は請求項19に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項21】
治療有効量の、i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体若しくは断片及びインスリン、その変異体若しくは断片を含む組成物、又はii)請求項18に記載のプラスミド若しくはベクター、又はiii)請求項20に記載の宿主細胞と、
少なくとも1種の薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、担体、塩及び/又は添加剤と
を含む医薬組成物。
【請求項22】
必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療方法であって、前記対象に、治療有効量の、S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片及びインスリン、その変異体又は断片を投与する工程を含む治療方法。
【請求項23】
前記治療が、肝臓の改変したS100A9 mRNAのレベルを上昇すること、肝臓の改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、血漿の改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、グルカゴン血症を緩和すること、ケトン血症を緩和すること、トリグリセリド血症を緩和すること、循環非エステル化脂肪酸(NEFA)レベルを低下すること、高ケトン血症を緩和すること、肝臓脂肪酸酸化(FAO)を緩和すること、肝臓ATPレベルを上昇すること、肝臓ミトコンドリアDNAレベルを低下すること、寿命を延ばすこと、カルプロテクチンレベルを低下すること、高血糖を緩和すること、高トリグリセリド血症を緩和すること、高グルカゴン血症を緩和すること、高カルプロテクチン血症を緩和すること、低レプチン血症を緩和すること、体脂肪量を低下すること、過食症を緩和すること、多飲症を緩和すること、又はこれらのいずれかの組み合わせを含む請求項22に記載の治療方法。
【請求項24】
前記治療が、S100A9タンパク質、その変異体又は断片の不存在下でのインスリンの投与と比較して、インスリン投与量を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、又はこれより多く減少させることを含む請求項22又は請求項23に記載の治療方法。
【請求項25】
前記S100A9タンパク質、その変異体又は断片が、少なくとも1種のアフィニティタグを含む請求項22から請求項24のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項26】
前記少なくとも1種のアフィニティタグが、前記S100A9タンパク質、その変異体又は断片のC’末端及び/若しくはN’末端に結合している請求項25に記載の治療方法。
【請求項27】
前記アフィニティタグが、FLAGタグ(配列番号21)、キチン結合タンパク質(CBP)タグ(配列番号24)、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ(配列番号25)、StrepタグII(配列番号31)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ(配列番号32)、ポリ(His)タグ(配列番号33)、C-myc(配列番号26)、SBP(配列番号27)、S(配列番号28)、HAT(配列番号29)、及びこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される請求項25又は請求項26に記載の治療方法。
【請求項28】
i)前記S100A9タンパク質、その変異体又は断片、ii)インスリン、その変異体又は断片、及び任意にiii)少なくとも1種のアフィニティタグが同じペプチド上に存在する請求項22から請求項27のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項29】
前記S100A9タンパク質のアミノ酸配列が配列番号1に示されているとおりである請求項22から請求項28のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項30】
前記S100A9タンパク質、変異体のアミノ酸配列が、配列番号1に示されるアミノ酸配列、又はその活性断片と、1~約60アミノ酸、好ましくは1~約40アミノ酸、より好ましくは1~約20アミノ酸、さらにより好ましくは1~約10アミノ酸において異なる請求項22から請求項29のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項31】
前記S100A9タンパク質の前記断片が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも約25個の連続したアミノ酸、少なくとも約30個の連続したアミノ酸、少なくとも約35個の連続したアミノ酸、少なくとも約40個の連続したアミノ酸、少なくとも約45個の連続したアミノ酸、少なくとも約50個の連続したアミノ酸、少なくとも約55個の連続したアミノ酸、少なくとも約60個の連続したアミノ酸、少なくとも約65個の連続したアミノ酸、少なくとも約70個の連続したアミノ酸、少なくとも約75個の連続したアミノ酸、少なくとも約80個の連続したアミノ酸、少なくとも約85個の連続したアミノ酸、少なくとも約90個の連続したアミノ酸、少なくとも約95個の連続したアミノ酸、又は少なくとも約100個の連続したアミノ酸、少なくとも約105個の連続したアミノ酸、又は少なくとも約110個の連続したアミノ酸を含む活性断片である請求項22から請求項30のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項32】
インスリンが、未変性のインスリン、プロインスリン、基礎インスリン又は追加インスリンである請求項22から請求項31のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項33】
前記インスリンタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号7及び/又は配列番号8に示されているとおりである請求項22から請求項32のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項34】
前記インスリンタンパク質変異体のアミノ酸配列が、配列番号7及び/又は配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はその活性断片と、1~約60アミノ酸、好ましくは1~約40アミノ酸、より好ましくは1~約20アミノ酸、さらにより好ましくは1~約10アミノ酸において異なる請求項22から請求項32のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項35】
インスリン欠乏関連症状が、高血糖、高ケトン血症、ケトアシドーシス、高トリグリセリド血症、高グルカゴン血症、高カルプロテクチン血症、上昇した又は高い循環(非エステル化脂肪酸(NEFA))レベル、重度の低レプチン血症、低下した又は低い体脂肪量、過食症、多飲症及びこれらのいずれかの組み合わせを含む群から選択される請求項22から請求項34のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項36】
前記インスリン欠乏(ID)状態が1型糖尿病又は2型糖尿病である請求項22から請求項35のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項37】
前記治療が、高血糖を緩和すること、低血糖のリスクを緩和及び/若しくは低下すること、血中糖化ヘモグロビンレベルの上昇を緩和すること、高グルカゴン血症を緩和すること、高ケトン血症及びケトアシドーシスのリスクを緩和並びに/若しくは低下すること、高トリグリセリド血症を緩和すること、肝臓脂肪酸酸化(FAO)の上昇を緩和すること、肝臓の未変性の若しくは改変したS100A9 mRNAのレベルを上昇すること、肝臓の未変性の若しくは改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、血漿の未変性の若しくは改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、肝臓ATPレベルを上昇すること、寿命を延ばすこと、循環非エステル化脂肪酸(NEFA)レベルを低下すること、肝臓ミトコンドリアDNAレベルを低下すること、循環カルプロテクチンレベルを低下すること、リパーゼ活性を低下すること、又はこれらのいずれかの組み合わせを含む請求項22から請求項36のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項38】
前記i)S100A9タンパク質、その変異体又は断片、及びii)前記インスリン、その変異体又は断片が、同時に、別々に、又は時間をずらして投与される請求項22から請求項37のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項39】
ナトリウム-グルコースコトランスポーター1(SGLT1)及び/又は2(SGLT2)阻害剤、アミリンアナログ、ビグアニド類(例えばメトホルミン)、インクレチン模倣薬(例えば、グルカゴン様ペプチド受容体作動薬、ジペプチジル-ペプチダーゼ-4阻害剤)を投与する工程をさらに含む請求項22から請求項38のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項40】
インスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療のための医薬の調製における、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の組成物又は請求項21に記載の医薬組成物の使用。
【請求項41】
i)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するS100A9タンパク質、その変異体若しくは断片、又は
ii)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するS100A9タンパク質、その変異体若しくは断片、及びインスリン、その変異体若しくは断片、及び任意に、少なくとも1種のアフィニティタグ
を含むタンパク質又はポリペプチド。
【請求項42】
請求項21に記載の医薬組成物を含む、シリンジ注射器、ポンプ、ペン、マイクロニードルパッチ、ニードルレス注射装置、又は留置カテーテルを含む群から選択される送達デバイス。
【請求項43】
i)請求項21に記載の医薬組成物を含む1種以上の貯蔵物、又はii)請求項42に記載の送達デバイスを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年6月28日出願の欧州特許出願第19183317.7号の利益を主張し、その特許出願の内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願に関連する配列表は、紙のコピーの代わりにテキスト形式で提供され、参照することにより本明細書に組み込まれる。配列表を含むテキストファイルの名称は、PAT7278PC00_ST25.txtである。
【0003】
発明の分野
本開示は、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療に使用するための組成物及び方法を提供し、この組成物は、S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、インスリン、その変異体又は断片とを含む。
【背景技術】
【0004】
1型糖尿病(T1D)は、自己免疫を介した膵臓β細胞の攻撃により引き起こされ、β細胞が完全に(又はほぼ完全に)失われ、インスリンの欠乏が起こる状態であり、数千万人がこれに苦しんでいる1。未治療の場合、T1Dは高血糖を特徴とする致死的な異化作用のある疾患である。そのため、T1Dの研究及び薬剤開発の焦点は、主に、生命を脅かす低血糖を引き起こすことなく高血糖を低下させる戦略の改良に置かれてきた2、3。しかしながら、循環グルコースレベルの上昇に加えて、β細胞の減少はいくつかの「他の欠陥」を引き起こし、そのうちのいくつか(例えば、重度の高ケトン血症及びケトアシドーシス)は生命を脅かすものである4~7。それゆえ、高血糖の改善に加えて、インスリン欠乏によって引き起こされる「他の欠陥」(例えば、ケトン体生成の増加)も救うことができる戦略を開発することが重要である。例えば、以下に示す結果は、高血糖と「他の欠陥」を改善することの重要性を強調する。実際、本発明者らのデータは、高血糖がわずかに改善されたにもかかわらず、高ケトン血症及び高トリグリセリド血症の正常化が、β細胞喪失及びインスリン欠乏のマウスの寿命の著しい延長に関連していることを示す。
【0005】
未治療のT1Dは、急速に死につながる4。しかしながら、1920年代初頭にインスリンが発見されて以来8、9、T1Dはインスリン療法によって治療されるようになり、このアプローチは、この致死的な疾患を、人が疾患を抱えながらも生きていけるものに変えた。インスリンの目覚ましい業績(これは、医学における最も重要な発見の1つを表す)は、インスリンなしでは生きられないという結論に至ったが、科学界はインスリン療法が満足のいくものではないことを認めざるを得なかった4。実際、T1D対象(患者)は腎不全、失明、神経損傷、心臓発作、脳卒中、及び低血糖を起こすリスクが高い4。これらの欠陥のいくつかには、インスリン療法そのものが有利に働いている可能性がある。例えば、インスリンは脂質とコレステロールの合成を促進し、そのため、おそらくその確立された脂質生成作用10により、慢性的なインスリン療法は脂肪組織外への脂質の沈着を促進する。この効果は、糖尿病対象に認められる冠動脈疾患の極めて高い発生率に寄与している可能性がある5、6。加えて、インスリンの脂質生成作用は、脂質誘導のインスリン抵抗性を促進し、それゆえ、少なくとも部分的には、長期にわたるT1D治療におけるインスリン必要量の増加の原因となっている可能性がある11。インスリンはまた、強力な血糖降下ホルモンでもある。この作用により、集中的なインスリン療法は低血糖を引き起こし、この低血糖は、身体障害を引き起こし、時には死に至ることもある12~14。インスリン療法は、T1Dに併発する身体障害(例えば心臓発作、脳卒中、失明、腎不全、神経障害等)を根絶しないため、T1Dの治療に必要な費用は膨大で、T1D患者の生活の質は正常対象と比較して低下する15。現在の治療法の上記限界のため、T1D治療の改善を目指した研究が緊急に求められている。
【0006】
主なアプローチは、インスリン投与量を減らし、従って、生命を脅かす低血糖等のインスリン療法に伴うリスクを軽減することを目的としている。しかし、インスリンの補助療法として期待されているものは、事実上すべて、高血糖の改善に焦点を当てたものである。例えば、アミリンの合成アナログ(プラムリンタイド)、インクレチン模倣薬(例えば、グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬及びジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤)、並びにナトリウム-グルコース-トランスポーター-1及びナトリウム-グルコース-トランスポーター-2(SGLT1及び2)阻害剤は高血糖の低下を目的としているが、低血糖のリスク上昇と関連している2、3。これらの治療法の中には、ケトアシドーシスのリスクリスク上昇と関連しているものもある2、3。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】1Wasserfall,C.ら、Cell metabolism 26、568-575 e563(2017)
【非特許文献2】Harris,K.、Boland,C.、Meade,L.及びBattise,D. Diabetes Metab Syndr Obes 11、159-173(2018)
【非特許文献3】Lyons,S.K.ら、 Diabetes Care 40、e139-e140(2017)
【非特許文献4】Coppari,R.及びBjorbaek,C. Nature reviews.Drug discovery 11、692-708(2012)
【非特許文献5】Larsen,J.ら、Diabetes 51、2637-2641(2002)
【非特許文献6】Orchard,T.J.ら、Diabetes care 26、1374-1379(2003)
【非特許文献7】Umpierrez,G.及びKorytkowski,M. Nature reviews. Endocrinology 12、222-232(2016)
【非特許文献8】Banting,F.G.、Best,C.H.、Collip,J.B.、Campbell,W.R.及びFletcher,A.A. Canadian Medical Association journal 12、141-146(1922)
【非特許文献9】Banting,F.G.、Campbell,W.R.及びFletcher,A.A. British medical journal 1、8-12(1923)
【非特許文献10】Horton,J.D.、Goldstein,J.L.及びBrown,M.S. The Journal of clinical investigation 109、1125-1131(2002)
【非特許文献11】Shulman,G.I. The Journal of clinical investigation 106、171-176(2000)
【非特許文献12】Bulsara,M.K.、Holman,C.D.、Davis,E.A.及びJones,T.W. Diabetes Care 27、2293-2298(2004)
【非特許文献13】Cryer,P.E. American journal of physiology. Endocrinology and metabolism 281、E1115-1121(2001)
【非特許文献14】Cryer,P.E. Diabetes 54、3592-3601(2005)
【非特許文献15】Chiang,J.L.、Kirkman,M.S.、Laffel,L.M.、Peters,A.L. Diabetes Care 37、2034-2054(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、低血糖及びケトアシドーシスのリスクを低減する、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状を治療するための改善された治療方法に対する必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療に使用するための組成物であって、
i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、
ii)インスリン、その変異体又は断片と
を含む組成物を提供する。
【0010】
本発明の別の態様は、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療方法であって、その対象に、治療有効量の
i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、
ii)インスリン、その変異体又は断片と
を投与する工程を含む方法に関する。
【0011】
本発明のさらなる態様は、本発明のS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体若しくは断片、及びインスリン、その変異体若しくは断片、並びに/又はアフィニティタグをコードする1種以上の核酸を含むプラスミド又はベクターに関する。
【0012】
本発明のさらなる態様は、本発明のS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体若しくは断片、及びインスリン、その変異体若しくは断片、並びに/又はアフィニティタグをコードする核酸に関する。
【0013】
本発明のさらなる態様は、本発明のプラスミド若しくはベクター、又は核酸を含む宿主細胞に関する。
【0014】
本発明のさらなる態様は、医薬組成物であって、治療有効量のi)本発明の組成物、又はii)本発明のプラスミド若しくはベクター、又はiii)本発明の宿主細胞と、少なくとも1種の薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、担体、塩及び/又は添加剤とを含む医薬組成物に関する。
【0015】
本発明のさらなる態様は、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療方法であって、その対象に、治療有効量の
i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、
ii)インスリン、その変異体又は断片と
を投与する工程を含む方法に関する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、インスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療のための医薬の調製における本発明の組成物又は医薬組成物の使用に関する。
【0017】
本発明のさらなる態様は、本発明の医薬組成物を含む送達デバイス、並びにi)本発明の医薬組成物を含む1種以上の貯蔵物又は送達デバイスを含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】マウスS100A9は、DT誘発IDマウスの代謝不均衡を改善する。DT処理RIP-DTRマウス(流体力学的尾静脈注射(HTVI)の10日後に犠牲にした)及びその齢を合わせた非糖尿病健常対照におけるプロインスリンmRNAの含量。エラーバーはSEMを表す。統計解析は一元配置ANOVA(テューキー(Tukey)の事後検定)を用いて行った。健常(n=3~6)、DT-pLIVE(n=7~12)及びDT-pLIVE-S100A9(n=7~12)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図1B】マウスS100A9は、DT誘発IDマウスの代謝不均衡を改善する。DT-pLIVEマウス及びDT-pLIVE-S100A9マウス(HTVIの10日後)及び齢を合わせた健常対照における血漿インスリン含量。エラーバーはSEMを表す。統計解析は一元配置ANOVA(テューキーの事後検定)を用いて行った。健常(n=3~6)、DT-pLIVE(n=7~12)及びDT-pLIVE-S100A9(n=7~12)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図1C】マウスS100A9は、DT誘発IDマウスの代謝不均衡を改善する。血漿S100A9レベル。エラーバーはSEMを表す。統計解析は一元配置ANOVA(テューキーの事後検定)を用いて行った。健常(n=3~6)、DT-pLIVE(n=7~12)及びDT-pLIVE-S100A9(n=7~12)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図1D】マウスS100A9は、DT誘発IDマウスの代謝不均衡を改善する。循環グルコース。エラーバーはSEMを表す。統計解析は一元配置ANOVA(テューキーの事後検定)を用いて行った。健常(n=3~6)、DT-pLIVE(n=7~12)及びDT-pLIVE-S100A9(n=7~12)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図1E】マウスS100A9は、DT誘発IDマウスの代謝不均衡を改善する。循環グルカゴン及びβ-ヒドロキシ酪酸。エラーバーはSEMを表す。統計解析は一元配置ANOVA(テューキーの事後検定)を用いて行った。健常(n=3~6)、DT-pLIVE(n=7~12)及びDT-pLIVE-S100A9(n=7~12)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図1F】マウスS100A9は、DT誘発IDマウスの代謝不均衡を改善する。循環トリグリセリド。エラーバーはSEMを表す。統計解析は一元配置ANOVA(テューキーの事後検定)を用いて行った。健常(n=3~6)、DT-pLIVE(n=7~12)及びDT-pLIVE-S100A9(n=7~12)。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図2】強化されたマウスS100A9は、IDマウスの高血糖を低下させることにおけるインスリン有効性を改善する。1.5U/マウスのインスリン投与は、DT-pLIVEマウス(流体力学的尾静脈注射(HTVI)の14日後)の高血糖に影響を与えなかったが、DT-pLIVE-S100A9マウス(HTVIの14日後)の高血糖を急速に低下させた。血糖値は、インスリン注射の3時間後に測定した。
【
図3】C末端のFLAG配列の存在は、マウスS100A9がマウスのID症状を改善する能力を阻害しない。(a)DT-pLIVEマウス、DT-pLIVE-n-S100A9マウス及びDT-pLIVE-S100A9-FLAGマウス(HTVIの7日後)及び齢を合わせた健常対照(健常)における血漿インスリン含量(ND=検出不能)。(b)血糖値。(c)血漿β-ヒドロキシ酪酸レベル。各群n=4~9。エラーバーはSEMを表す。統計解析は、一元配置ANOVA(テューキーの事後検定)を用いて行った。各条件で表された統計結果は、DT-pLIVE群に対する相対値である。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001。
【
図4】最適とはいえないインスリン治療と組み合わせた組換えマウスS100A9は、IDマウスの代謝不均衡を改善する。(A)実験治療及び群。(B)最初のSTZ注射から13日後のマウス(及びその健常対照)の血漿インスリンレベル及び(C)最初のSTZ注射から13日後のマウス(及びその健常対照)の血糖値。(D)実験17日目(ペレット埋め込みの3日後)のマウス(及び健常対照)の血漿中ウシインスリン(Linbitペレットから放出される)及び(E)血糖値。(F)rS100A9又は生理食塩水を腹腔内注射した後のマウス(及びその健常対照)の血糖値。rS100A9又は生理食塩水の注射は、ツァイトゲーバー(ZT)2で行った。(G)体重。(H)左側のパネルは、1日又は平均/日の食物摂取量を表し、右側のパネルは、生理食塩水又はrS100A9のいずれかの注射後3時間における食物摂取量を表す。血漿値及び血糖値は、自由摂取(「給餌」)又は3時間の食物除去後(「3時間絶食」)のマウスから、示された実験時間において得られたものである。各群n=8/9。インスリン処置群では、血漿中のウシインスリンレベルが25pg/mL未満を示したマウスはすべて試験から除外した。C及びEでは、給餌及び絶食時の値は、それぞれZT2及びZT5に採取した血漿から得た。エラーバーはSEMを表す。統計解析は一元配置ANOVA(テューキーの事後検定)を用いて行った。各条件で表される統計結果は、STZ-シャム-生理食塩水群に対する相対値である。
*p<0.05;
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書に記載される方法及び材料と類似又は等価な方法及び材料を本発明の実施又は試験で使用することができるが、好適な方法及び材料が以下に記載されている。本明細書中で言及されるすべての公開公報、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりその全体を援用したものとする。本明細書で論じられる公開公報及び出願は、本願の出願日前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書中の記載には、本発明が、先行発明であるという理由からそのような刊行物に先行する権利がないということを認めるものと解釈されるものは何もない。加えて、それらの材料、方法及び例は、説明のためだけのものであり、限定することは意図されていない。
【0020】
矛盾する場合、定義を含めて本明細書が優先することになる。特段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明の主題が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の理解を容易にするために、本明細書で使用する場合、以下の定義が与えられる。
【0021】
用語「comprise(…を含む)」又は「comprising(…を含む)」は、include/including(…を含む)の意味で一般に使用され、つまり1種以上の特徴又は構成要素の存在を許容する。用語「comprise」及び「comprising」は、より限定的なものである「consist(…からなる)」及び「consisting(…からなる)」もそれぞれ包含する。
【0022】
本明細書及び請求項で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて複数の指示対象を含む。
【0023】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つ(1種)」は、「1つ(1種)以上」、「2つ(2種)以上」、「3つ(3種)以上」等を意味する。例えば、少なくとも1種のアフィニティタグは、1種、2種以上、3種以上、等のアフィニティタグを包含する。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「対象」、「必要とする対象」、又は「患者」、「必要とする患者」は当該技術分野で十分に認識されており、本明細書中では、イヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、及び最も好ましくはヒトを含む哺乳動物を指すために互換的に使用される。ある場合には、上記対象は、処置の必要がある対象又は疾患若しくは障害を抱える対象である。しかしながら、他の態様では、上記対象は、健康な対象であることができる。この用語は、特定の年齢も性別も表さない。従って、雄であろうと雌であろうと、成人及び新生の対象が包含されることが意図されている。好ましくは、対象はヒトであり、最も好ましくは、インスリン欠乏(ID)状態又は関連症状に罹患しているヒトである。
【0025】
本明細書で使用される用語「治療すること」、「治療される」又は「治療」は、防止的(例えば、予防的)、緩和的、及び治癒的な使用又は結果を含む。
【0026】
本明細書で使用される用語「インスリン欠乏」は、膵臓のインスリン産生β細胞の部分的又は完全な喪失を指す。この用語はさらに、循環インスリンレベルの低下をもたらす、上記細胞のインスリン分泌能力の低下を含む。
【0027】
本明細書で使用する用語「インスリン欠乏関連症状」は、インスリンの低レベル又は不存在によって引き起こされる副作用を指す。
【0028】
インスリン欠乏関連症状は、通常、高血糖、高ケトン血症、ケトアシドーシス、高トリグリセリド血症、高グルカゴン血症、高カルプロテクチン血症、上昇した又は高い循環(非エステル化脂肪酸(NEFA))レベル、重度の低レプチン血症、低下した又は低い体脂肪量、過食症、多飲症及びこれらのいずれかの組み合わせを含む群を指し、その群から選択される。
【0029】
インスリン欠乏(ID)状態は、通常、1型糖尿病又は2型糖尿病、及び2型糖尿病のサブタイプを指す。
【0030】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用され、任意の種類のデオキシリボヌクレオチド(例えば、DNA、cDNA、...)若しくはリボヌクレオチド(例えば、RNA、mRNA、...)のポリマー、又はデオキシリボヌクレオチドポリマーとリボヌクレオチドポリマーとの組み合わせ(例えば、DNA/RNA)で、直鎖状若しくは環状の立体構造の、一本鎖若しくは二本鎖の形態のものを指す。これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定的に解釈されるものではなく、天然ヌクレオチドの公知の類似体、並びに塩基、糖及び/又はリン酸部分が修飾されたヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)を包含することができる。一般に、特定のヌクレオチドの類似体は、同じ塩基対形成の特異性を持つ。すなわち、Aの類似体はTと塩基対形成する。
【0031】
用語「ベクター」は、本明細書で使用される場合、ウイルスベクター、又はプラスミド若しくは他のビヒクル等の核酸(DNA若しくはRNA)分子を指し、これらは1種以上の異種核酸配列(本発明のペプチド(例えば、S100A9、インスリン、及び/又はアフィニティタグ、それらの変異体若しくは断片をコードする1種以上の核酸をコードする核酸配列等)を含有する。用語「発現ベクター」、「遺伝子導入ベクター」及び「遺伝子治療ベクター」は、1種以上の核酸を、好ましくはプロモーター(例えば、Kallunki T、Barisic M、Jaattela M、Liu B. How to Choose the Right Inducible Gene Expression System for Mammalian Studies? Cells. 2019;8(8):796に記載の誘導性プロモーター等)の制御下で細胞内に組み込んで発現させるのに有効な任意のベクターを指す。クローニングベクター又は発現ベクターは、プロモーターに加えて、例えば、調節要素及び/又は転写後調節要素等の追加要素を含んでいてもよい。
【0032】
用語「約」は、特に所定の量に関しては、プラス及びマイナス10パーセント(例えば±10%)の偏差を包含することを意味する。例えば、約20個の連続するアミノ酸は、18~22個の連続するアミノ酸も包含し、約30個の連続するアミノ酸は、27~33個の連続するアミノ酸も包含する、等である。
【0033】
本明細書で使用する場合、本発明のタンパク質、ペプチド又はポリペプチドの「断片」は、本発明のタンパク質、ペプチド又はポリペプチドよりも少ないアミノ酸の長さを含む配列を指す。この配列は、それが由来する未変性の(ネイティブ)配列と同じ特性を示す、すなわち生物学的に活性である限り、使用することができる。
【0034】
用語「変異体」は、未変性の配列のペプチドとある程度異なるアミノ酸配列を有するタンパク質、ペプチド又はポリペプチド、すなわち、1つ以上のアミノ酸が同じ特性及びコンフォメーションの役割を有する別のアミノ酸によって置換されているアミノ酸置換によって未変性の配列から変わっているアミノ酸配列を指す。アミノ酸配列変異体は、未変性のアミノ酸配列のアミノ酸配列内の特定の位置における置換、欠失、及び/又は挿入を有する。置換は保存的であることもでき、この場合、保存的アミノ酸置換は、本明細書では、以下の5つのグループのうちの1つの枠内の交換として定義される。
I.小さな脂肪族、非極性又はわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr、Pro、Gly
II.極性を持ち、正電荷を帯びた残基:His、Arg、Lys
III.極性を持ち、負電荷を帯びた残基:及びそのアミド:Asp、Asn、Glu、Gin
IV.大きな芳香族残基:Phe、Tyr、Tip
V.大きな脂肪族、非極性残基:Met、Leu、Ile、Val、Cys。
【0035】
本発明は、S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)を、S100A9を伴わなければ最適とはいえない量のインスリンとともに投与すると、低血糖を引き起こすことなくインスリン欠乏マウスの代謝を大幅に改善するという驚くべき知見に、部分的に基づく。
【0036】
S100A9は、Ca2+結合タンパク質のEFハンドスーパーファミリーに属し、単球及び好中球に高発現し、関節リウマチ又は敗血症のような炎症が亢進した状態で分泌される
16、17。S100A9は、そのパートナーS100A8とヘテロ複合体(S100A9/S100A8;カルプロテクチンとも呼ばれる)を形成し、これも炎症状態に応答して分泌される
18。カルプロテクチンは、Toll様受容体4(TLR4)
17及び終末糖化産物(RAGE)
19の受容体の内因性活性化因子である。カルプロテクチンは、敗血症による致死の基礎となる等、いくつかの有害な作用を及ぼすことが示されている
16、17、19~21。しかしながら、カルグラニュリンは単量体でも存在することができ、抗炎症作用を示すことが他の研究によって示されている
20。注目すべきは、S100A9ホモ二量体がTLR4シグナル伝達に直接影響を与えることが報告されていることである
22。総合すると、これらのデータは、カルプロテクチン(S100A9/S100A8ヘテロ二量体)及びS100A9(S100A9/S100A9ホモ二量体)が炎症経路を制御していることを示す。カルプロテクチンは有害な作用を及ぼすと考えられているが、S100A9は有益であることを示すマウスやヒトのエビデンスが存在する。例えば、強化されたS100A9は、T1Dマウスにおいて著しい有益な代謝効果をもたらす(
図1)。
【0037】
本発明の一態様は、i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、ii)インスリン、その変異体又は断片とを含む組成物に関する。好ましくは、当該組成物は、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療に使用するための組成物であって、i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、ii)インスリン、その変異体又は断片とを含む組成物である。
【0038】
上記治療は、高血糖を緩和すること、低血糖のリスクを緩和及び/若しくは低下すること、血中糖化ヘモグロビンレベルの上昇を緩和すること、高グルカゴン血症を緩和すること、高ケトン血症及びケトアシドーシスのリスクを緩和並びに/若しくは低下すること、高トリグリセリド血症を緩和すること、肝臓脂肪酸酸化(FAO)の上昇を緩和すること、肝臓の未変性の若しくは改変したS100A9 mRNAのレベルを上昇すること、肝臓の未変性の若しくは改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、血漿の未変性の若しくは改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、肝臓ATPレベルを上昇すること、寿命を延ばすこと、循環非エステル化脂肪酸(NEFA)レベルを低下すること、肝臓ミトコンドリアDNAレベルを低下すること、循環カルプロテクチンレベルを低下すること、リパーゼ活性を低下すること、又はこれらのいずれかの組み合わせを含む。
【0039】
特定の態様では、治療は、S100A9タンパク質、その変異体又は断片の不存在下でのインスリン投与と比較して、インスリン、又はその変異体若しくは断片の投与量を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、又はこれより多く減少させることを含む。
【0040】
好ましくは、S100A9タンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する未変性のタンパク質又は組換えタンパク質、その変異体若しくは断片である。
【0041】
S100A9タンパク質の断片は、好ましくは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の少なくとも約25個の連続したアミノ酸、少なくとも約30個の連続したアミノ酸、少なくとも約35個の連続したアミノ酸、少なくとも約40個の連続したアミノ酸、少なくとも約45個の連続したアミノ酸、少なくとも約50個の連続したアミノ酸、少なくとも約55個の連続したアミノ酸、少なくとも約60個の連続したアミノ酸、少なくとも約65個の連続したアミノ酸、少なくとも約70個の連続したアミノ酸、少なくとも約75個の連続したアミノ酸、少なくとも約80個の連続したアミノ酸、少なくとも約85個の連続したアミノ酸、少なくとも約90個の連続したアミノ酸、少なくとも約95個の連続したアミノ酸、又は少なくとも約100個の連続したアミノ酸、少なくとも約105個の連続したアミノ酸、又は少なくとも約110個の連続したアミノ酸を含む活性断片である。
【0042】
S100A9断片の非限定的な例は、S100A9 N91(配列番号2)、S100A9 C91(配列番号3)、S100A9 N76(配列番号4)及びS100A9 C76(配列番号5)、及びこれらの1つ以上の組み合わせを含む。
【0043】
S100A9タンパク質の変異体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列、又はその活性断片と、1~約60アミノ酸、好ましくは1~約40アミノ酸、より好ましくは1~約20アミノ酸、さらにより好ましくは1~約10アミノ酸において異なる。好ましくは、アミノ酸配列変異体は、N末端及び/若しくはC末端、並びに1つ以上の内部ドメイン内での置換、欠失、並びに/又は未変性のアミノ酸配列、若しくは上述の配列番号1のアミノ酸配列内の特定の位置での挿入を有する直鎖状又は環状ペプチドである。
【0044】
通常、このような変異体の配列は、機能的に、すなわち生物学的に活性な変異体であり、基準アミノ酸配列に対して高い程度の配列相同性、例えば、2つの配列がアラインメントされたときに50%超、一般に60%超、さらに特に80%以上、例えば少なくとも90%又は95%以上の配列相同性を有することになる。このアラインメント及びパーセント相同性又は配列同一性は、当該技術分野で公知のソフトウェアプログラム、例えば、Ausubelら編(2007)、Current Protocols in Molecular Biologyに記載されているものを使用して決定することができる。好ましくは、デフォルトのパラメータがアライメントに使用される。1つのアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータを使用するBLASTである。特に、プログラムは、以下のデフォルトパラメータを使用するBLASTN及びBLASTPである。Genetic code(遺伝コード)=standard(標準)、filter(フィルター)=none(なし)、strand(鎖)=both(両方)、cutoff(カットオフ)=60、expect(期待値)=10、Matrix(マトリクス)=BLOSUM62、Descriptions(記述)=50 sequences(50配列)、sort by(ソートの方法)=HIGH SCORE(ハイスコア)、Databases(データベース)=non-redundant、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+SwissProtein+SPupdate+PIR。生物学的に同等なポリヌクレオチドは、上記の規定割合の相同性を有し、同一又は類似の生物学的活性を有するポリペプチドをコードするものである。
【0045】
S100A9タンパク質変異体の非限定的な例は、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、及び配列番号53並びにこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される。これらの配列は、以下の表1に示すように、他の動物種(例えば)哺乳類種に見出されるS100A9タンパク質に対応する。
【0046】
【0047】
S100A9タンパク質の変異体及び断片の両方は、S100A9タンパク質の天然に存在するアミノ酸配列から誘導可能な合成、非標準及び/又は天然に存在するアミノ酸配列(D体及び/又はレトロインベルソ異性体を含む)を含むことができる。例として、置換アミノ酸は、塩基性非標準アミノ酸(例えば、L-オルニチン、L-2-アミノ-3-グアニジノプロピオン酸、又はリジン、アルギニン及びオルニチンのD-異性体)であってもよい。非標準アミノ酸をタンパク質に導入する方法は当該技術分野で公知であり、大腸菌の栄養要求性発現宿主を用いた組換えタンパク質合成を含む。
【0048】
非天然型アミノ酸としては、限定されないが、trans-3-メチルプロリン、2,4-メタノ-プロリン、cis-4-ヒドロキシプロリン、trans-4-ヒドロキシ-プロリン、N-メチルグリシン、アロトレオニン、メチル-トレオニン、ヒドロキシ-エチルシステイン、ヒドロキシエチルホモシステイン、ニトロ-グルタミン、ホモグルタミン、ピペコリン酸、tert-ロイシン、ノルバリン、2-アザフェニルアラニン、3-アザフェニル-アラニン、4-アザフェニル-アラニン、及び4-フルオロフェニルアラニンが挙げられる。非天然型のアミノ酸残基をタンパク質に組み込むためのいくつかの方法が、当該技術分野で公知である。
【0049】
S100A9変異体のさらなる例は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するS100A9 N69A-E78A変異体を含む。
【0050】
S100A9タンパク質、その変異体又は断片は、化学的部分又は酵素的部分に結合されてもよい。これらの部分は、典型的には、溶解度を高め、安定性を延長し、免疫原性を低減し、及び/又は免疫グロブリン若しくは免疫グロブリンの特定の領域との融合を可能にするために使用される。これらの部分の非限定的な例は、PEG、マレイミド-PEG(n)-スクシンイミジルエステル及びビオチンを含む。
【0051】
あるいは、本発明は、i)配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するS100A9タンパク質を含むタンパク質若しくはポリペプチド、その変異体若しくは断片、又はii)i)S100A9タンパク質、その変異体若しくは断片、インスリン、その変異体若しくは断片も包含し、存在する場合、iii)少なくとも1種のアフィニティタグは任意の順序で、同じペプチド上にある。
【0052】
インスリンは、未変性のインスリン、組換えインスリン、プロインスリン、基礎インスリン、インスリンアナログ、又は追加インスリンから選択される。インスリンは、それぞれ配列番号7及び/又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する鎖A及び/又は鎖B、その変異体若しくは断片を含むタンパク質である。
【0053】
インスリンタンパク質の断片は、インスリンの鎖A及び/又は鎖Bの断片を指す。A鎖のインスリン断片は、未変性のA鎖アミノ酸配列の少なくとも約15個の連続したアミノ酸、少なくとも約16個の連続したアミノ酸、少なくとも約17個の連続したアミノ酸、少なくとも約18個の連続したアミノ酸、少なくとも約19個の連続したアミノ酸、少なくとも約20個の連続したアミノ酸、少なくとも約21個の連続したアミノ酸、少なくとも約22個の連続したアミノ酸、少なくとも約23個の連続したアミノ酸、少なくとも約24個の連続したアミノ酸、少なくとも約25個の連続したアミノ酸、少なくとも約26個の連続したアミノ酸、少なくとも約27個の連続したアミノ酸、少なくとも約28個の連続したアミノ酸、少なくとも約29個の連続したアミノ酸、少なくとも約30個の連続したアミノ酸、少なくとも約35個の連続したアミノ酸、又はこれより多くの連続したアミノ酸のA鎖長を有する。B鎖のインスリン断片は、未変性のアミノ酸B鎖配列の少なくとも約25個の連続したアミノ酸、少なくとも約26個の連続したアミノ酸、少なくとも約27個の連続したアミノ酸、少なくとも約28個の連続したアミノ酸、少なくとも約29個の連続したアミノ酸、少なくとも約29個の連続したアミノ酸、少なくとも約30個の連続したアミノ酸、少なくとも約31個の連続したアミノ酸、少なくとも約32個の連続したアミノ酸、少なくとも約33個の連続したアミノ酸、少なくとも約34個の連続したアミノ酸、少なくとも約35個の連続したアミノ酸、少なくとも約36個の連続したアミノ酸、少なくとも約37個の連続したアミノ酸、少なくとも約38個の連続したアミノ酸、少なくとも約39個の連続したアミノ酸、少なくとも約40個の連続したアミノ酸、少なくとも約41個の連続したアミノ酸、少なくとも約42個の連続したアミノ酸、少なくとも約42個の連続したアミノ酸、少なくとも約43個の連続したアミノ酸、少なくとも約44個の連続したアミノ酸、少なくとも約45個の連続したアミノ酸、少なくとも約50個の連続したアミノ酸又はこれより多くの連続したアミノ酸のB鎖長を有する。
【0054】
インスリンタンパク質の変異体は、配列番号7及び/又は配列番号8に示されるアミノ酸配列、又はその活性断片と、1~約60アミノ酸、好ましくは1~約40アミノ酸、より好ましくは1~約20アミノ酸、さらにより好ましくは1~約10アミノ酸において異なる、直鎖状又は環状のペプチドである。好ましくは、アミノ酸配列変異体は、2本の鎖の少なくとも一方のN末端及び/若しくはC末端、並びに1つ以上の内部ドメイン内での置換、欠失、及び/若しくは上述のアミノ酸配列のアミノ酸配列内の特定の位置における挿入を有する。通常、このような変異体の配列は、機能的に、すなわち生物学的に活性な変異体であり、基準アミノ酸配列に対して高い程度の配列相同性、例えば、2つの配列がアラインメントされたときに50%超、一般に60%超、さらに特に80%以上、例えば少なくとも90%又は95%以上の配列相同性を有することになる。
【0055】
インスリン変異体の非限定的な例は、インスリンリスプロ(配列番号9及び/又は配列番号10)、インスリングルリジン(配列番号11及び/又は配列番号12)、インスリンアスパルト(配列番号13及び/又は配列番号14)、インスリングラルギン(配列番号15及び/又は配列番号16)、インスリンデテミル(配列番号17及び/又は配列番号18)、及びインスリンデグルデク(配列番号19及び/又は配列番号20)、及びこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される。
【0056】
インスリンタンパク質の変異体及び断片の両方は、インスリンタンパク質の天然に存在するアミノ酸配列から誘導可能な合成及び/又は天然に存在するアミノ酸配列(D体及び/又はレトロインベルソ異性体を含む)を含むことができ、上述されている。
【0057】
インスリンタンパク質、その変異体又は断片も、化学的部分又は酵素的部分に結合されてもよい。これらの部分は、典型的には、溶解度を高め、安定性を延長し、免疫原性を低減し、及び/又は免疫グロブリン若しくは免疫グロブリンの特定の領域との融合を可能にするために使用される。これらの部分の非限定的な例は、PEG及びビオチンを含む。例は、例えば、米国特許出願公開第2010/0216690号明細書及び国際公開第2007/104738号パンフレット(その全体が本明細書に組み込まれる)に見出すことができる。
【0058】
多数のインスリンアナログが当該技術分野で公知である。例として、インスリンアナログは、例えば米国特許第第5597796号明細書、欧州特許出願公開第1193272号明細書、米国特許出願公開第20090069216号明細書及び国際公開第2007/096332号パンフレット(これらの全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているものを含む。
【0059】
プロインスリン及びプロインスリン誘導体も当該技術分野で公知であり、例えば米国特許出願公開第20190263881号明細書に記載されているものから選択することができる。
【0060】
本発明の特定の態様では、S100A9タンパク質、その変異体又は断片は、少なくとも1種のアフィニティタグをさらに含む。この少なくとも1種のアフィニティタグは、S100A9タンパク質、その変異体又は断片のC’末端及び/若しくはN’末端に結合される。
【0061】
アフィニティタグは通常、アフィニティ精製及び検出を容易にするために、組換えタンパク質のC’末端若しくはN’末端のいずれか、又はC’とN’の両方の末端に融合される。このアプローチは、高選択的な捕捉を可能にし、研究開発中のスループットを制限する多段階の精製プロセスを回避する。
【0062】
本発明のアフィニティタグは、S100A9タンパク質、その変異体若しくは断片(Kimpleら、Curr Protoc Protein Sci.;73:Unit-9.9.、2013)及び/又はインスリン、その変異体若しくは断片に付加することができる、研究及び治療の両方で有用な任意の分子、ペプチド等であることができる。
【0063】
好ましくは、親和性タグは、FLAGタグ(配列番号21)、キチン結合タンパク質(CBP)タグ(配列番号24)、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ(配列番号25)、StrepタグII(配列番号31)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ(配列番号32)、ポリ(His)タグ(配列番号33)、C-myc(配列番号26)、SBP(配列番号27)、S(配列番号28)、HAT(配列番号29)及びこれらの1つ以上の組み合わせを含む群から選択される。
【0064】
より好ましくは、アフィニティタグは、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる、又はそれを含むFLAGタグ、及びその1つ以上の組み合わせである。FLAGタグの組み合わせ、又はタンデムの例は、2x FLAG(配列番号22)、3x FLAG(配列番号23)等を含む。
【0065】
あるいは、3xFLAGの組み合わせの最終タグは、配列番号23(DYKDHD-G-DYKDHD-I-DYKDDDDK)に示されるエンテロキナーゼ切断部位をコードしていてもよい。
【0066】
1つ以上のFLAGタグを含むS100A9タンパク質、その変異体又は断片の非限定的な例は、表2に記載されているものから選択される。
【0067】
本発明の特定の態様では、i)S100A9タンパク質、その変異体又は断片、ii)インスリン、その変異体又は断片、及び存在する場合、iii)少なくとも1種のアフィニティタグは、同じペプチド上にある。例えば、(N末端からC末端まで)以下のような任意の組み合わせを想定することができる:ペプチジルリンカー若しくは非ペプチジルリンカーで隔てられているか若しくは隔てられていない、同じペプチド上にあるS100A9-アフィニティタグ-インスリン、又はS100A9-インスリン、又はインスリン-S100A9、又はインスリン-アフィニティタグ-S100A9、又はアフィニティタグ-インスリン-S100A9、又はインスリン-S100A9-アフィニティタグ、又はアフィニティタグ-S100A9-インスリン。ペプチジルリンカーの一例(配列番号47)は表2に与えられている。
【0068】
本発明の組成物は、ナトリウム-グルコースコトランスポーター1(SGLT1)及び/又は2(SGLT2)阻害剤、アミリンアナログ、ビグアニド類(例えばメトホルミン)、インクレチン模倣薬(例えば、グルカゴン様ペプチド受容体作動薬、ジペプチジル-ペプチダーゼ-4阻害剤)をさらに含んでもよい。
【0069】
アフィニティタグに結合していてもよい本発明のi)S100A9タンパク質、その変異体若しくは断片、及び/又はii)インスリン、その変異体若しくは断片は、例えば化学合成、又はManiatisら、1982、Molecular Cloning、A laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratoryに記載のような組換え技術等の当該技術分野で公知の種々の方法及び技術によって調製することができる。
【0070】
アフィニティタグに結合していてもよい本明細書に記載のi)本発明のS100A9タンパク質、その変異体若しくは断片、及び/又はii)インスリン、その変異体若しくは断片は、好ましくは、細胞発現系において組換え的に産生される。多種多様な単細胞の宿主細胞が、本発明のペプチド(例えば、S100A9、インスリン、及び/若しくはアフィニティタグ)、その変異体又は断片をコードする核酸配列を発現させるうえで有用である。これらの宿主は、周知の真核宿主及び原核宿主、例えば、大腸菌、シュードモナス(Pseudomonas)、バチルス(Bacillus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)の株、酵母等の真菌、並びに動物細胞、例えば、CHO、YB/20、NSO、SP2/0、Rl.1、B-W細胞及びL-M細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(例えば、COS 1、COS 7、BSC1、BSC40及びBMT10)、昆虫細胞(例えば、Sf9)、並びに組織培養中のヒト細胞及び植物細胞を含んでもよい。
【0071】
本発明は、本発明のペプチド(例えば、S100A9、インスリン、及び/若しくはアフィニティタグ)、その変異体又は断片をコードする1種以上の核酸も企図する。
【0072】
本発明は、本発明のペプチド(例えば、S100A9、インスリン、及び/若しくはアフィニティタグ)、その変異体又は断片をコードする1種以上の核酸を含む、好ましくはプラスミド又はベクターの形態の遺伝子導入ベクターも企図する。
【0073】
本明細書で使用する場合、「ベクター」は、核酸配列を標的細胞に移す(導入する)ことができる(例えば、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、微粒子担体、及びリポソーム)。
【0074】
好適なベクターとしては、SV40の誘導体及び公知の細菌プラスミド、例えば大腸菌プラスミドcol El、pCRl、pBR322、pLive、pMB9及びそれらの誘導体、RP4等のプラスミド;ファージDNA、例えばファージXの多数の誘導体、例えばNM989、及び他のファージDNA、例えばMl 3及び糸状一本鎖ファージDNA;2μプラスミド又はその誘導体等の酵母プラスミド;真核細胞で有用なベクター、例えば昆虫細胞又は哺乳類細胞で有用なベクター;プラスミドとファージDNAの組み合わせから誘導されるベクター、例えばファージDNA又は他の発現制御配列を用いるよう改変したプラスミド等が挙げられる。核酸をインビトロ又はインビボで細胞に送達するために、様々なウイルスベクターが使用される。非限定的な例は、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス等に基づくベクターである。原理上は、それらのすべては、本発明のペプチド(例えば、S100A9、インスリン、及び/若しくはアフィニティタグ)、その変異体又は断片をコードする1種以上の核酸をコードする発現可能な核酸分子を含む発現カセットを送達するのに適している。
【0075】
一態様では、上記ウイルスベクターは、エクスビボ及びインビボでの遺伝子導入に適したベクターであり、より好ましくは、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)及びレンチウイルス、例えば、第1、第2、第3世代のレンチウイルスを含む群から選択されるが、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等の他のウイルスベクターを除外しない。他の送達手段又はビヒクルが知られており(例えば、酵母系、マイクロベシクル、マイクロエマルション、遺伝子銃/金ナノ粒子にベクターを結合させる手段)、提供され、いくつかの態様では、ウイルスベクター又はプラスミドベクターの1つ以上は、リポソーム、マイクロ粒子若しくはナノ粒子、エクソソーム、マイクロベシクル、又は遺伝子銃を介して送達されてもよい。
【0076】
本発明の他の態様では、本発明の医薬組成物は、徐放性製剤、又は徐放性デバイスを用いて投与される製剤である。そのようなデバイスは当該技術分野で周知であり、例えば、経皮パッチ、及び非徐放性医薬組成物で徐放効果を達成するために様々な用量で連続的な定常状態で経時的に薬物送達を提供することができる小型の埋め込み型のポンプを含む。
【0077】
また、本発明では、好ましくはプラスミド若しくはベクターの形態の本発明の遺伝子導入ベクター、又は本発明のペプチド(例えば、S100A9、インスリン、及び/若しくはアフィニティタグ)、その変異体若しくは断片をコードする1種以上の核酸を含む宿主細胞も企図される。宿主細胞は、任意の原核細胞又は真核細胞であることができるが、好ましくは、宿主細胞は真核細胞であり、最も好ましくは宿主細胞は哺乳動物細胞である。さらにより好ましくは、宿主細胞は、膵臓細胞(例えば、β細胞)、膵島細胞及び膵臓前駆細胞を含む群から選択される。好ましくは、宿主細胞は、ヒトβ細胞である。
【0078】
本発明は、i)野生型及び/又は遺伝子操作された膵臓β細胞、ii)薬剤誘導性操作膵臓β細胞又は他の種類の細胞、ii)光誘導性操作膵臓β細胞又は他の種類の細胞、iii)電磁気誘導性操作膵臓β細胞又は他の種類の細胞、及びiv)電気誘導性操作細胞の移植により、本発明のペプチド(例えばS100A9、インスリン、及び/若しくはアフィニティタグ)、その変異体若しくは断片、その変異体又は断片の分泌を増強することを目的とした方法も企図する。
【0079】
本発明は、リザーバ材料(例えば、皮下移植された固体ペレット及び/又はヒドロゲル)の移植によりインスリン及び/若しくはS100A9、これらの変異体又は断片の含量を高めることを目的とした方法も企図する。
【0080】
本発明は、上記の方法の組み合わせによりインスリン及び/又はS100A9、それらの変異体若しくは断片の含量を高めることを目的とした方法も企図する。
【0081】
本発明はさらに、治療有効量の、i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体若しくは断片及びインスリン、その変異体若しくは断片、又はii)本発明のプラスミド若しくはベクター、又はiii)本発明の宿主細胞と、少なくとも1種の薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、担体、塩及び/若しくは添加剤とを含む組成物を含む医薬組成物を提供する。
【0082】
通常、本発明の医薬組成物は、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療に使用するためのものである。
【0083】
本明細書で使用される用語「治療有効量」は、健全な医学的判断の範囲内で、治療するべき症状及び/又は状態を有意に良い方向に変更するのに十分な高さでありながら、重篤な副作用を回避するのに十分な低さである(合理的なリスク/効果比である)、本発明の組成物の量、又はペプチド(群)の量を意味する。
【0084】
本発明の組成物、又はペプチド(群)の治療有効量は、患者の種類、種、年齢、体重、性別及び病状、治療すべき状態の重症度、投与経路、患者の腎機能及び肝機能等の様々な要因に応じて選択される。当業者の医師であれば、インスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の進行を予防、対策、又は阻止するために必要な当該薬剤の有効量を容易に決定し、処方することができる。
【0085】
治療有効量は患者ごとに異なるが、好適な1日量は、患者あたり約0.1~約5000mg(例えば、0.1、0.5、1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000mg、1250mg、1500mg、1750mg、2000mg、2500mg、3000mg、3500mg、4000mg、4500mg、5000mg等、又はその任意の範囲若しくは数値)の範囲にあり、これが単回又は複数回に分けて投与される。投与は、連続的又は間欠的(例えば、ボーラス注射による)であってもよい。治療上有効な投与量は、投与のタイミング及び頻度によっても決定される。経口投与又は非経口投与の場合、投与量は、好ましくは、1日当たり約1mg~約2000mgの本発明のペプチド(又は、採用される場合、その薬学的に許容できる塩又はプロドラッグの対応量)で変わるであろう。特定の態様では、本発明のペプチドは、約1mg~約2000mgの範囲の1日用量で対象に投与される。
【0086】
医師又は他の当業者は、個々の患者に最も適した治療有効量を日常的に決定することができるだろう。上述の投与量は、平均的な場合の例示であり、当然、より高い又はより低い投与量範囲が妥当である個々の場合がある可能性があり、そのようなものは本発明の範囲内である。
【0087】
いくつかの態様では、当該医薬組成物は、注射用デポ製剤として投与される。他の態様では、当該医薬組成物は、ボーラス注入又は静注として投与される。
【0088】
「薬学的に許容できる担体又は希釈剤」は、一般に安全で、非毒性で、望ましい医薬組成物を調製するのに有用な担体又は希釈剤を意味し、ヒトの医薬用途に許容できる担体又は希釈剤が含まれる。
【0089】
このような薬学的に許容できる担体は、水及び油等の無菌の液体であることができ、この油には、ピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油等の石油、動物、植物又は合成由来のものが含まれる。水は、当該医薬組成物を静脈内に投与する場合に好ましい担体である。生理食塩水、並びにブドウ糖及びグリセロールの水溶液も、特に注射液の場合には、液体の担体として採用することができる。
【0090】
薬学的に許容できる賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール、フェノール、硫酸プロタミン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0091】
当該医薬組成物は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等の有機酸の塩等、1種以上の医薬的に許容できる塩をさらに含有していてもよい。加えて、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、ゲル又はゲル化材料、香料、着色料、ミクロスフェア、ポリマー、懸濁剤等の補助物質も当該医薬組成物中に存在してもよい。加えて、とりわけ剤形が再構成可能な形態である場合には、防腐剤、湿潤剤、懸濁剤、界面活性剤、酸化防止剤、アンチケーキング剤、充填剤、キレート剤、コーティング剤、化学的安定剤等の1種以上の他の従来の医薬成分も存在してもよい。適当な例示的成分としては、大結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリソルベート80、フェニルエチルアルコール、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン類、エチルバニリン、グリセリン、フェノール、パラクロロフェノール、ゼラチン、アルブミン及びこれらの組み合わせが挙げられる。薬学的に許容できる賦形剤の詳しい議論は、参照により本明細書に組み込まれるREMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub.Co.、ニュージャージー州、1991)で入手可能である。
【0092】
本発明の医薬組成物は、経口で、非経口で、舌下に、経皮で、直腸に、経粘膜で、局所的に、吸入により、口腔内投与により、胸腔内に、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、皮下に、筋肉内に、鼻腔内に、髄腔内に、及び関節内に、又はこれらの組み合わせを含む異なる経路で対象に投与されてもよい。ヒトでの使用の場合、当該組成物は、ヒトの通常の使用方法に従って、適切に許容できる製剤として投与されてもよい。当業者であれば、特定の患者に最も適した投与法や投与経路を容易に決定するであろう。本発明の組成物は、従来のシリンジ、ポンプ、注射ペン、マイクロニードルパッチ、留置カテーテル、ニードルレス注射装置、「微粒子衝撃遺伝子銃(microprojectile bombardment gone gun)」、又はエレクトロポレーション(「EP」)、「ハイドロダイナミック法」、若しくは超音波等の他の物理的方法によって投与されてもよい。
【0093】
本発明の医薬組成物はまた、インビボエレクトロポレーションを伴う及び伴わない本発明のペプチド(例えばS100A9、インスリン、及び/又はアフィニティタグ)をコードする核酸のDNA注入、リポソーム媒介、ナノ粒子促進の組換えベクター、例えば本明細書に記載された組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス及び組換えアデノウイルス随伴ウイルスを含むいくつかの技術によって患者に送達されてもよい。
【0094】
本発明は、i)野生型及び/又は遺伝子操作された宿主細胞、ii)薬剤誘導性操作宿主細胞、ii)光誘導性操作宿主細胞、iii)電磁気誘導性操作宿主細胞、及びiv)電気誘導性操作宿主細胞の移植により(例えば、Krawczyk K、Xue S、Buchmann Pら、Electrogenetic cellular insulin release for real-time glycemic control in type 1 diabetic mice. Science. 2020;368(6494):993-1001を参照のこと。これは参照により本明細書に組み込まれる)、本発明のペプチド(例えばS100A9、インスリン及び/又はアフィニティタグ)の分泌を増強することを目的としたいくつかの技術も提供する。
【0095】
リザーバ材料(例えば、皮下移植された固体ペレット及び/又はヒドロゲル)の移植により本発明のペプチド(例えば、S100A9、インスリン、及び/又はアフィニティタグ)の含量を高めることを目的としたいくつかの技術も企図される。本明細書に開示された送達方法及び技術の任意の組み合わせが企図される。
【0096】
本発明は、インスリン欠乏(ID)状態又は関連症状の治療のための医薬の調製における、本発明の組成物及び医薬組成物の使用も提供する。
【0097】
本発明の組成物又は医薬組成物は、同時に、別々に、又は時間をずらして(staggered)投与される。
【0098】
併用投与又は同時投与は、単一の医薬製剤中で、若しくは別々の製剤を使用しての共投与、又はいずれかの順序での連続投与を含むことができるが、一般に、すべての活性薬剤が同時にその生物活性を発揮できるような時間内に行われる。このような薬剤の調製及び投与スケジュールは、製造者の指示に従って、又は当業者が経験的に決定して使用することができる。
【0099】
本発明はさらに、必要とする対象におけるインスリン欠乏(ID)状態又は関連症状を治療する方法であって、その対象に治療有効量の
i)S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)、その変異体又は断片と、
ii)インスリン、その変異体又は断片と
を投与する工程を含む方法をさらに提供する。
【0100】
特定の態様では、上記治療は、肝臓の改変したS100A9 mRNAのレベルを上昇すること、肝臓の改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、血漿の改変したS100A9タンパク質のレベルを上昇すること、グルカゴン血症を緩和すること、ケトン血症を緩和すること、トリグリセリド血症を緩和すること、循環非エステル化脂肪酸(NEFA)レベルを低下すること、高ケトン血症を緩和すること、肝臓脂肪酸酸化(FAO)を緩和すること、肝臓ATPレベルを上昇すること、肝臓ミトコンドリアDNAレベルを低下すること、寿命を延ばすこと、カルプロテクチンレベルを低下すること、高血糖を緩和すること、高トリグリセリド血症を緩和すること、高グルカゴン血症を緩和すること、高カルプロテクチン血症を緩和すること、低レプチン血症を緩和すること、体脂肪量を低下すること、過食症を緩和すること、多飲症を緩和すること、又はこれらのいずれかの組み合わせを含む。
【0101】
特定の態様では、上記治療は、S100A9タンパク質、その変異体又は断片の不存在下でのインスリン投与と比較して、インスリン量を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、又はこれより多く減少させることを含む。
【0102】
S100A9タンパク質、その変異体又は断片を併用した場合の上述のインスリン投与量の低減は、S100A9タンパク質、その変異体又は断片の不存在下でのインスリン投与量100%と比較して、同等又はそれ以上の代謝制御を達成することが可能である。
【0103】
【表2(1)】
【表2(2)】
【表2(3)】
【表2(4)】
【表2(5)】
【0104】
本発明は、本発明の組成物、使用するための組成物又は医薬組成物を含む送達デバイスも企図する。好ましくは、当該送達デバイスは、本発明の組成物、使用するための組成物又は医薬組成物を含むシリンジ注射器、ポンプ、ペン、マイクロニードルパッチ、ニードルレス注射装置、又は留置カテーテルを含む群から選択される。
【0105】
本発明はさらに、キットであって、
i)本発明の組成物を含む第1の貯蔵物、及びii)薬学的に許容できる賦形剤、希釈剤、担体、塩及び/若しくは添加剤を含む第2の貯蔵物、
又は
iii)本発明の医薬組成物を含む1種以上の貯蔵物、又は
iv)本発明の組成物若しくは医薬組成物を含む、シリンジ注射器、ポンプ、ペン、針、若しくは留置カテーテルを含む群から選択される送達デバイス
を含むキットを企図する。
【0106】
本発明のキットは、貯蔵物(複数可)若しくは容器(複数可)上に、又は貯蔵物(複数可)若しくは容器(複数可)に付随するラベル若しくはパッケージ挿入物も含んでいてよい。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ等が挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチック等の様々な材料から形成されてもよい。容器は、本発明の疾患又は障害の治療に有効な組成物を保持し、無菌アクセスポートを有していてもよい。あるいは、又は追加的に、当該キットは、静菌注射用水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液及びブドウ糖液等の薬学的に許容できる緩衝液を含む第2(又は第3)容器をさらに含んでいてもよい。当該キットはさらに、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針及び注射器等の商業的及び使用者の立場から望ましい他の材料を含んでもよい。
【0107】
ラベル又はパッケージ挿入物は、その使用説明書を含んでいてもよい。含まれる説明書は、包装材料に貼付されてもよいし、パッケージ挿入物として含まれてもよい。説明書は、典型的には書面又は印刷物であるが、これに限定されるものではない。このような説明書を保存し、エンドユーザーに伝達することができる任意の媒体が、本開示によって企図されている。
【0108】
本発明の特定の特徴を本明細書で例示し、説明したが、多くの改変、置換、変更、及び等価物が、当業者にはこれから思い浮かぶであろう。それゆえ、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神の範囲内に入るようなすべてのそのような改変及び変更をカバーすることを意図していることが理解される。
【0109】
参考文献
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【実施例】
【0110】
材料及び方法
動物及びインスリン欠乏の誘発。すべてのマウスは、光と温度が制御された環境下で、標準的な飼料及び水を自由に摂取できる状態で維持した。本研究で記載したすべての実験では、成体雄マウスを使用した。インスリン欠乏の動物モデルは、以下のように作製した。ジフテリア毒素(DT、Sigma Aldrich(シグマ・アルドリッチ)を滅菌した0.9%NaClに溶解し、RIP-DTR動物に腹腔内投与した(0日目、1日目、4日目に0.5μg/kg体重)。
【0111】
mRNA、タンパク質、基質含量の評価。マウスを犠牲にし、その組織を素早く取り出し、液体窒素中で急速冷凍し、その後-80℃で保存した。RNAはTrizol試薬(Invitrogen(インビトロジェン))を用いて抽出した。相補的DNAはSuperscript II(Invitrogen)によって生成し、SYBR Green PCRマスターミックス(Applied Biosystem(アプライド・バイオシステズ)、フォスターシティ(Foster City)、カリフォルニア州、米国)とともに定量リアルタイムPCR(q-RTPCR)分析に用いた。mRNA含量は18s mRNAレベルに対して正規化した。すべてのアッセイは、Applied Biosystems QuantStudio(登録商標) 5 Real-Time PCR Systemを用いて実施した。各mRNAの評価について、q-RTPCR分析は少なくとも3回繰り返した。タンパク質は、溶解バッファ(Tris 20mM、EDTA 5mM、NP40 1%(v/v)、プロテアーゼ阻害剤(Sigma(シグマ)、セントルイス(St.Louis)、ミズーリ州、米国からのP2714-1BTL)で試料を均質化して抽出し、SDS-PAGEで分離して、最後にエレクトロブロットでニトロセルロース膜に移した。以下の抗体を使用した:カルグラヌリン(Calgranulin)B-S100A9(カタログ番号 PB9678、Boster(ボスター))。
【0112】
循環基質及びホルモンのレベル。自由摂取させたマウスから午後2時から4時の間に尾静脈血を採取した。食後のランダムな交絡効果を避けるため、採血の2時間前に餌を除去した。血清又は血漿の試料を遠心分離(3500×g、10分)して集め、-80℃で保存した。グルコース、非エステル化脂肪酸、トリグリセリド、ケトン体、及びグルカゴンのレベルは市販のキットを用いて測定した。
【0113】
S100A9の過剰発現。流体力学的尾静脈注射(HTVI)を実施した。S100A9の過剰発現は、アルブミンプロモーターの制御下で所定の遺伝子を発現させることができるpLIVEベクター(Myrus(マイラス))を用いて達成した。以下の配列を制限部位BamH1とXho1との間でpLIVEにクローニングした。
【化1】
pLIVE-S100A9プラスミドDNAは、正しい配列及び向きを確認するために配列決定した。各マウスに50μgのpLIVE-S100A9又はpLIVEを投与し、いかなる処理も受けなかった齢を合わせたマウスを健常対照として使用した。
図2に示すデータは、20マイクログラムの組換えS100A9を腹腔内注射したマウスから収集した。
【0114】
統計解析。データセットは、PRISM(GraphPad(グラフパッド)、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて、2つのグループを比較した場合には両側の対応のないスチューデントのt検定(Student’s t test)、2つを超えるグループを比較した場合には1元又は2元ANOVA(テューキーのポスト検定(Tukey’s post test))で統計的有意性について解析した。
【0115】
実施例1
結果
T1Dマウスモデルにおける強化されたS100A9の有益な代謝作用
本発明者らは、インスリン欠乏のマウスでS100A9を過剰発現させた。本発明者らは、X染色体のHprt遺伝子座にクローニングしたジフテリア毒素受容体(DTR)配列の上流にラットインスリンプロモーター(RIP)を有するRIP-DTRマウスにおいて流体力学的尾静脈注射試験を実施した。RIP-DTRマウスは、3回連続してDTを腹腔内に投与すると、膵臓のβ細胞をほぼ完全に失ってしまう
27。実際、pLIVE(DT-pLIVE)又はpLIVE-S100A9(DT-pLIVE-S100A9)のいずれかのHTVIを受けたDT注射RIP-DTRマウスでは、ほぼすべての膵臓β細胞が消失した(データは示さず)。β細胞の喪失に伴い、膵臓のプロインスリンのmRNAレベルはほとんど測定できず、これらの欠損によりDT-pLIVEマウス及びDT-pLIVE-S100A9マウスでは循環インスリンがほとんど検出されなかった(
図1a、
図1b)。DT-pLIVE-S100A9マウスでS100A9が増加しているかどうかを調べるために、血漿中のS100A9レベルを評価したところ、DT-pLIVE及び健常対照と比較してDT-pLIVE-S100A9マウスでS100A9が増加していることがわかった(
図1c)。総合すると、これらのデータは、DT-pLIVE-S100A9マウスはインスリン欠乏であり、S100A9を過剰発現していることを明らかにした。そのIDにより、DT-pLIVEマウスは、高血糖、高ケトン血症、高トリグリセリド血症、及び高グルカゴン血症を発症した(
図1d~
図1f)。次に、本発明者らは、S100A9の過剰発現が上述の欠陥に及ぼす影響を評価した。DT-pLIVE-S100A9では、DT-pLIVEマウスと比較して、高血糖がわずかに改善された(
図1c)。注目すべきことに、グルカゴン、β-ヒドロキシ酪酸、及びトリグリセリドの循環レベルはすべて同様であり、DT-pLIVE-S100A9マウスと健常対照及びDT-pLIVE対照との間で有意に減少した(
図1e~
図1f)。
【0116】
T1DにおけるS100A9とインスリンの併用療法の治療的価値
図2に示す結果は、T1Dマウスにおける強化されたS100A9の代謝改善作用及び生存促進作用を示す。本発明者らは、強化されたS100A9がT1Dの管理のためのインスリン投与量を減らすことができるかどうかの試験を開始した。具体的には、本発明者らは、最適とはいえないインスリン投与量(これは、β細胞喪失に起因する高血糖及び高ケトン血症を改善することができないインスリンレジメンである)と組み合わせて、循環S100A9濃度を増加させた。
【0117】
図2に示す結果はさらに、最適とはいえない用量のインスリンが対照マウスの高血糖に影響を与えない一方で、それが低血糖を引き起こすことなく、S100A9を過剰発現するマウスの高血糖を有意に減少させることを示す。
【0118】
実施例2
C末端のFLAG配列の存在は、S100A9がマウスのID症状を改善する能力を阻害しない。
S100A9へのFLAGタグ配列の付加が、S100A9がマウスのID症状を改善する能力に影響を与えうるかどうかを調べるために、本発明者らは、HTVIを用いて、全長の未変性のS100a9配列(C末端FLAGタグあり若しくはなし)をアルブミンプロモーターの制御下で過剰発現するいずれかのプラスミド(pLIVE-n-S100A9若しくはpLIVE-S100A9-FLAG)又は対照空ベクター(pLIVE)を送達させた。pLIVE(DT-pLIVE)又はpLIVE-n-S100A9(DT-pLIVE-n-S100A9)又はpLIVE-S100A9-FLAG(DT-pLIVE-S100A9-FLAG)のいずれかのHTVIを受けたDT処理RIP-DTRマウス
27は同程度の低インスリン血症を示した(
図3a)。DT-pLIVEマウスは高血糖と高ケトン血症を示したが、DT-pLIVE-n-S100A9マウス及びDT-pLIVE-S100A9-FLAGマウスはこれらのパラメータに同様の改善を示した(
図3b~c)。これらのデータは、S100A9とFLAGタグ配列との融合は、S100A9の有益な作用を阻害しないことを実証する。さらには、これらの結果は、FLAG配列に加えて、関心のある他の配列を、ID症状を改善する能力を阻害することなくS100A9に融合させることができる可能性を示す。
【0119】
最適とはいえないインスリン療法と組み合わせた組換えS100A9はIDマウスの代謝不均衡を改善する。
S100A9の治療的な潜在能力を直接試験するために、本発明者らは、ストレプトゾトシン(STZ)処理マウスに組換えS100A9(rS100A9)を単独で、又は最適とはいえない用量のインスリンと組み合わせて注射することによってもたらされる代謝の結果を評価した。
図4aに示すように、8週齢の雄性FVBマウスにSTZ(150mg/kg体重)を1週間の間隔で2回腹腔内(ip)注射した(この処理は、確立したIDのモデルを生み出す)
27、28、29。最初のSTZ注射から2週間後、マウスを3群に無作為に割り付けた。i)「STZ-インスリン-rS100A9」群には、皮下インスリンペレット(Linbitペレット、Linshin-Canada(リンシン・カナダ)の半分からなり、血糖値に最小限の影響を引き起こす用量でウシインスリンを連続的に供給することが期待される)を外科的に埋め込み、手術の3日後にこれらのマウスにrS100A9(1mg/kg重量)をip注射した。ii)「STZ-インスリン-生理食塩水」群には、上記のように皮下インスリンペレットを外科的に埋め込み、手術の3日後にこれらのマウスに生理食塩水をip注射した。iii)「STZ-シャム(偽)-生理食塩水」群は、前の群と同様に外科的に処置し、手術の3日後にこれらのマウスに生理食塩水をip注射した。週齢を合わせた未処理のマウスを、健常対照として含めた(
図4a)。予想通り、STZ処理は、重度のインスリン減少症(insulinopenia)及び高血糖を引き起こした(
図4b~c)。手術の3日後に、STZ-インスリン-rS100A9マウス及びSTZ-インスリン-生理食塩水マウスは、検出可能なウシインスリンの血漿レベルを示した(
図4d)一方、ウシインスリンは、予想通りSTZ-シャム-生理食塩水、及び健常マウスにおいて測定不可能であった(
図4d)。最適とはいえないインスリン投与量に伴い、手術の3日後に、STZ-インスリン-rS100A9マウス及びSTZ-インスリン-生理食塩水マウスは、STZ-シャム-生理食塩水群と比較して、食物除去3時間後の血糖値のわずかな低下のみを示したため高血糖であった(
図4e)。次に、本発明者らは、ip注入したrS100A9の急性代謝効果をモニターした。
【0120】
本発明者らのデータは、注射の3時間後に、高血糖は、STZ-インスリン-生理食塩水マウス及びSTZ-シャム-インスリンマウスとで同程度であったことを示している(
図4f)。しかしながら、インスリンとrS100A9のip注射との組み合わせは、STZ-インスリン-rS100A9群において、STZ-シャム-インスリン群と比較して小さいが有意な血糖の低下を引き起こすことができた(
図4f)。注目すべきは、これらのデータは、同程度の体重のIDマウスから得られたことである。実際、STZ処理は3群すべてにおいて同様の体重減少を引き起こしたが、インスリン又はrS100A9処置のいずれか、又は両者の組み合わせは体重に影響を与えなかった(
図4g)。さらに、3つのID群すべてが食欲亢進を示し、インスリンで処置したマウスでは食物摂取量が減少する傾向が見られた(そしてrS100A9注入による追加効果はなかった)(
図4h)。全体として、これらのデータは、最適とはいえない量のインスリンと組み合わせたrS100A9(1mg/kg体重)のip注射が、IDマウスの血糖に有益な効果をもたらすのに十分であることを実証する。
【配列表】
【国際調査報告】