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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(54)【発明の名称】セトロレリクスの安定な製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20220824BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20220824BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220824BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220824BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K47/40
A61K47/12
A61K47/26
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021574253
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(85)【翻訳文提出日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 IB2020055604
(87)【国際公開番号】W WO2020254952
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】201921023926
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519263578
【氏名又は名称】インタス ファーマシューティカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ,アレックス ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ジェイン,シャイレッシュ クマール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC29
4C076DD38D
4C076DD41
4C076DD46E
4C076EE39
4C076FF14
4C076FF15
4C076FF63
4C076GG41
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA17
4C084DB71
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA03
4C084ZC02
4C084ZC41
(57)【要約】
本発明は、使用準備済み溶液の形態のセトロレリクス又はその薬学的に許容される塩の安定な製剤に関する。セトロレリクスの前記安定な使用準備済み溶液は、ゲル形成を防止し、より優れた患者コンプライアンスを提供する。さらに、本発明は、セトロレリクスの前記安定な使用準備済み溶液を調製するためのプロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セトロレリクスの安定な製剤であって、
a)セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩と、
b)シクロデキストリンと、
c)氷酢酸と、
d)界面活性剤と
を含み、前記製剤は、使用準備済み溶液として投与することができる、安定な製剤。
【請求項2】
前記製剤のpHは3.5~8.5である、請求項1に記載の安定な製剤。
【請求項3】
セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩は、約0.01~10%W/Vの濃度である、請求項1に記載の安定な製剤。
【請求項4】
前記シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、スルホブチル-エーテル-βシクロデキストリン又は同等のものから選択される、請求項1に記載の安定な製剤。
【請求項5】
前記界面活性剤は、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート20又は同等のものから選択される、請求項1に記載の安定な製剤。
【請求項6】
前記製剤は、マンニトール、デキストロース、ラクトース、スクロース又は同等のものから選択される張度調整剤をさらに含む、請求項1に記載の安定な製剤。
【請求項7】
酢酸セトロレリクス、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、ポリソルベート80、氷酢酸、マンニトール、及び注射用水を含む、セトロレリクスの安定な製剤。
【請求項8】
セトロレリクスの前記不純物Cは、少なくとも6ヶ月間、2~8℃及び25℃/60%RHの保存条件下で0.50%未満である、請求項7に記載の安定な製剤。
【請求項9】
前記製剤は、2~8℃及び25℃/60%RHの保存条件下で少なくとも6ヶ月間、凝集しない無色透明な溶液のままである、請求項7に記載の安定な製剤。
【請求項10】
安定な製剤を調製するためのプロセスであって、
a)前記注射用水をステンレス鋼製の容器に移し、窒素ガスを前記水中に注入するステップと、
b)シクロデキストリンを前記溶液に添加し、前記溶液を撹拌するステップと、
c)張度調整剤、界面活性剤、及び酢酸セトロレリクスを前記バルク溶液に溶解するまで撹拌しながら添加するステップと、
d)氷酢酸を用いて前記バルク溶液を所望のpHに調整するステップと、
e)前記バルク溶液を濾過し、前記滅菌溶液を好適な容器に充填するステップと
を含むプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年6月17日に出願されたインド仮特許出願第201921023926号に関連しており、その全文が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩の安定な製剤に関する。前記安定な製剤は、使用準備済み溶液の形態である。さらに、セトロレリクスの前記安定な使用準備済み溶液は、ゲル形成のような製剤関連の問題を防止し、より優れた患者コンプライアンスを提供する。さらに、本発明は、セトロレリクスの前記安定な使用準備済み溶液を調製するためのプロセスに関する。さらに、本発明は、セトロレリクスの前記安定な使用準備済み溶液を含むプレフィルド使用準備済み装置に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
化学的には、セトロレリクスは、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)拮抗薬の、次式を有するアセチル-D-3-(2’-ナフチル)-アラニン-D-4-クロロフェニルアラニン-D-3-(3’ピリジル)-アラニン-L-セリン-L-チロシン-D-シトルリン-L-ロイシン-L-アルギニン-L-プロリン-D-アラニン-アミド(C70921714)である。
【化1】
【0004】
セトロレリクスの構造
セトロレリクスは末端に酸アミド基を有するデカペプチドである。セトロレリクスは、早くに米国特許第4800191号に開示されていた。現在では、酢酸セトロレリクスは、Cetrotide(登録商標)凍結乾燥粉末として、EMD Serono Inc.から市販されている。滅菌凍結乾燥粉末は、注射用の滅菌水を用いて再構成された後に皮下注射されることが意図されている。Cetrotide(登録商標)は、調節卵巣刺激法を受けている女性の未熟黄体形成ホルモン(LH)サージの抑制に用いられる。
【0005】
現在市販されているCetrotide(登録商標)は、ガラスバイアル内の凍結乾燥粉末の形態でのみ存在しており、皮下投与前に再構成が必要とされる。前記再構成プロセスは、セトロレリクスが入っている前記ガラスバイアル内に希釈剤を注入することによって達成される。Cetrotide(登録商標)の製品概要(SmPC)によると、得られる再構成溶液は穏やかな渦巻き運動を用いて再構成しなければならず、気泡の形成を伴う激しい振盪は避けなければならない。その結果、前記再構成プロセスは時間のかかるイベントであるため、患者の治療コンプライアンスを妨げ得る。
【0006】
酢酸セトロレリクスの安定な製剤を開発するという製剤的見地は、特に末端に酸アミド基を有するオリゴペプチドはゲル形成しやすいという事実によって妨げられる。
【0007】
PCT特許出願の国際公開第2012077131号は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩を含む安定な使用準備済み水性医薬製剤を開示しており、この製剤は、界面活性剤及びシクロデキストリンをまったく含有していない。氷酢酸の濃度は4.5mg/mlであり、前記製剤のpHは2.8~3.5の好ましい範囲で得られた。しかし、このセトロレリクス製剤は、注射部位に激しい痛みをもたらすことが判明し、したがって、患者コンプライアンスの点で受け入れられない製品であった。
【0008】
カナダ特許第2115943号は、セトロレリクスの凍結乾燥物(lyophilisate)を調製するためのプロセスを開示している。これは、デカペプチドの水溶液が不安定であるため、これらのデカペプチドの水溶液はオートクレーブできないことも開示している。バルク溶液の滅菌濾過の間、滅菌フィルタでゲルが形成されれば、溶液の粘度が上昇し、その結果、濾過ステップを妨げることになる。
【0009】
しかし、バルク溶液は、以下の制約があるため、使用準備済み注射液としてそのまま投与することができない。
- 例えば、刺激、浮腫、腫脹、発赤など、局所部位を傷つけ得る、溶液の高張性。
- 皮下/非経口経路での投与には、多量の酢酸が安全水準を超えている。
【0010】
米国特許第7718599号は、溶解又は分散形態の酢酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、又はリン酸塩の形態のペプチドと、遊離酸形態の塩を形成するために、グルコン酸、グルカル酸又はガラクトウロン(galactouronic)酸の群から選択される酸のうちの少なくとも1つとを含む、非経口投与に好適な医薬組成物に関する。薬学的に許容される酸は、組成物のpHを2.5~4.5とすることができ、これは酢酸セトロレリクスの凝集を抑制するのに役立つ。さらに、本特許は、種々のシクロデキストリンを含有する凍結乾燥された凝集しないセトロレリクス製剤を開示している。
【0011】
米国特許第7214662号は、グルコン酸などの有機酸中のセトロレリクスの注射可能な水溶液を開示している。さらに、本特許は、界面活性剤の使用によりLHRH物質が凝集する傾向を低下させることにも言及していた。米国特許出願公開第20170189536号は、抗体などのポリペプチドの水性製剤中でのシクロデキストリン及び界面活性剤の使用を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
セトロレリクスを含む使用準備済み溶液に関する参考文献があるが、安定な使用準備済み溶液の製剤化は非常に困難である。したがって、使用準備済み溶液として投与可能なセトロレリクスの安定な製剤を提供する必要があり、ここで、医薬品は、簡便に調製され、濾過によって滅菌され得る。
【0013】
本発明の発明者らは、セトロレリクスの安定な使用準備済み水溶液を開発したが、これは、ゲル形成などの製剤化上の困難を克服し、より優れた患者コンプライアンスも提供する。
【0014】
本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な使用準備済み溶液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の目的
本発明の主な目的は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤であって、前記製剤は使用準備済み溶液として投与することができる、安定な製剤を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤であって、前記製剤のpHは約3.5~8.5である、安定な製剤を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤であって、前記製剤はゲルを形成することなく透明な溶液のままである、安定な製剤を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤であって、前記製剤の濾過滅菌後のセトロレリクスの分析値は、濾過滅菌前のセトロレリクスの分析値の95%以上である、安定な製剤を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤を調製するためのプロセスを提供することである。
【0021】
発明の概要
第1の実施形態では、本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤に関する。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤であって、前記製剤は使用準備済み溶液として投与できる、安定な製剤に関する。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤であって、前記製剤のpHは約3.5~8.5である、安定な製剤に関する。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン(HP-β-CD)、ポリソルベート80、氷酢酸、マンニトール、及び注射用水を含む安定な製剤であって、前記製剤はゲルを形成することなく透明な溶液のままである、安定な製剤に関する。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤であって、前記製剤の濾過滅菌後のセトロレリクスの分析値は、濾過滅菌前のセトロレリクスの分析値の95%以上である、安定な製剤に関する。
【0026】
別の実施形態では、本発明は、安定な製剤を調製するためのプロセスであって、
a)注射用水をステンレス鋼製の容器に移し、窒素ガスを水中に注入するステップと、
b)ヒドロキシプロピルβシクロデキストリンを溶液に添加し、溶液を撹拌するステップと、
c)マンニトール、ポリソルベート80、及び酢酸セトロレリクスを上記バルク溶液に溶解するまで撹拌しながら添加するステップと、
d)氷酢酸を用いてバルク溶液を所望のpHに調整するステップと、
e)バルク溶液を濾過し、滅菌溶液をプレフィルドシリンジ、又はバイアル、又はペン、又は別の装置に充填するステップと
を含むプロセスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
本明細書に記載されている詳細な説明及び実施例は例示的なものであり、本発明の範囲内の任意の改変又は変形は当業者には明らかであろう。さらに、別途定義しない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者により理解されるものと同じ意味を有する。
【0028】
一実施形態では、本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩、シクロデキストリン、氷酢酸、及び界面活性剤を含む安定な製剤を提供する。セトロレリクスの安定な製剤は、使用準備済み溶液として投与することができる。セトロレリクス溶液の投与は、皮下注射、静脈内注射、又は筋肉内注射として行うことができる。好ましい実施形態では、セトロレリクス溶液は、皮下注射として投与することができる。
【0029】
ペプチドの滅菌は困難であり、加熱滅菌はタンパク質を変質させ、効力の損失を引き起こし得る。そのため、ペプチド注射剤の調製には濾過滅菌を用いることができる。しかし、バルク溶液の滅菌濾過の間、フィルタにゲルが形成されると、溶液の粘度が上昇し、それゆえに濾過ステップを妨げる。したがって、本発明の発明者らは、セトロレリクスの製剤が、容易に濾過滅菌できる、凝集しない無色透明な溶液のままであり、濾過滅菌後も効力が損なわれないようなセトロレリクスの安定な製剤を開発した。
【0030】
本発明の「安定な製剤」という用語は、凝集しない無色透明な溶液のままであるセトロレリクス溶液を意味し、前記製剤の濾過滅菌後(濾過済みバルク)のセトロレリクスの分析値が濾過滅菌前(未濾過バルク)のセトロレリクスの分析値の95%以上である。製剤は、2~8℃及び25℃/60%RH(相対湿度)の保存条件下で、少なくとも1ヶ月間、好ましくは少なくとも6ヶ月間、より好ましくは少なくとも12ヶ月間、安定した状態を保つことができる。
【0031】
本発明の発明者らは、凍結乾燥品(Cetrotide(登録商標))並びに使用準備済み(RTU)セトロレリクス製剤の不純物プロファイルを調査したが、これは、凍結乾燥品及び使用準備済み製品が両方とも2~8℃で保存されることが意図されていたためである。
【0032】
ペプチドは加水分解され得ることが文献から知られている。セトロレリクスは、末端のアミド基が加水分解され、セトロレリクスの不純物Cを生じる。そのため、特に酢酸セトロレリクス注射剤には、不純物Cの制御が必要とされていた。一実施形態では、セトロレリクスの不純物Cは、少なくとも6ヶ月間、2~8℃及び25℃/60%RHの保存条件下で0.50%未満である。
【化2】
【0033】
セトロレリクスの不純物Cの構造
不純物Cとは、(R)-2-((S)-1-((2S,5S,8R,11S,14S,17R,20R,23R)-20-(4-クロロベンジル)-2-(3-グアニジノプロピル)-11-(4-ヒドロキシベンジル)-14-(ヒドロキシメチル)-5-イソブチル-23-(ナフタレン-2-イルメチル)-4,7,10,13,16,19,22,25-オクタオキソ-17-(ピリジン-3-イルメチル)-8-(3-ウレイドプロピル)-3,6,9,12,15,18,21,24-オクタアザヘキサコサン-1-オイル)ピロリジン-2-カルボキサミド)プロパン酸を意味する。
【0034】
本発明の安定な使用準備済み(RTU)セトロレリクス製剤は、基準物質の凍結乾燥品(Cetrotide(登録商標))と比較して、優れた不純物プロファイルを示すことが見出された。特に、セトロレリクスRTU製剤では、凍結乾燥された基準製品と比較して、不純物Cが定量限界未満に制御されていた。少なくとも6ヶ月間、2~8℃及び25℃/60%RHの保存条件下で保管された凍結乾燥品中の不純物Cの濃度が上昇することが観察されたが、本発明のセトロレリクス製剤では、同じ保存条件下でも不純物C濃度は定量限界未満のままであった。したがって、本発明のセトロレリクスRTU製剤では、凍結乾燥品と比較して、不純物Cがより良好に制御され、安定化されていた。一実施形態では、セトロレリクスの不純物Cは、少なくとも6ヶ月間、2~8℃の保存条件下で0.50%未満である。
【0035】
好ましい実施形態では、有効成分は酢酸セトロレリクスである。セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩の濃度は、約0.01~10%W/Vの濃度である。好ましい実施形態では、酢酸セトロレリクスの濃度は約0.05%W/Vである。さらに、製剤中の有効成分の量は、当業者の範囲内で変化させることができる。好ましい実施形態では、前記水性医薬組成物の体積は、0.25~1ml、好ましくは約0.5mlである。
【0036】
別の実施形態では、本発明は、セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩を含む安定な製剤であって、前記製剤のpHは、約3.5~8.5、好ましくは約4~6、より好ましくは約pH5である、安定な製剤を提供する。
【0037】
本発明の発明者らは、PCT特許出願の国際公開第2012077131号に開示されたセトロレリクスの先行技術製剤が、注射部位に激しい痛みを引き起こすことを認めた。先行技術製剤が患者コンプライアンスを欠いている理由の1つは、氷酢酸の量がより多く(すなわち4.5mg/ml)、pHがより低い(すなわち3.5未満)ことである。本発明のセトロレリクス製剤は、約3.5~8.5のpHと、より少量の氷酢酸(すなわち、0.05μg/ml以下)とを有する。さらに、本発明のセトロレリクス製剤は、シクロデキストリン及び界面活性剤を含み、このことは、前記製剤に優れた安定性を与えるのに有利であることが分かった。
【0038】
本発明の安定な製剤は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、HP-β-CD(ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)、スルホブチル-エーテル-βシクロデキストリン(SBE-β-CD)又は同等のものの群から選択された様々な種類のシクロデキストリンを含むことができる。セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩の安定な製剤に使用される好ましいシクロデキストリンは、HP-β-CD(ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン)である。製剤中のシクロデキストリンの量は、約0.1~30%W/V、好ましくは約5~25%W/V、より好ましくは20%W/VのHP-β-CDであり得る。
【0039】
本発明の安定な製剤は、さらに界面活性剤を含む。界面活性剤は、表面張力を低下させることによって凝集を防止する。界面活性剤は、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート20又は同等のものから選択される。セトロレリクス又はその薬学的に許容される塩の安定な製剤に使用される好ましい界面活性剤は、ポリソルベート80である。製剤中のポリソルベートの量は、約0.001~1%W/V、好ましくは約0.001~0.05%、より好ましくは0.001~0.01%W/Vであり得る。
【0040】
本発明の安定な製剤は、さらに張度調整剤を含むことができ、これにより血球の溶血を減少させ、注射部位での痛みを軽減することができる。張度調整剤は、マンニトール、デキストロース、ラクトース、スクロース又は同等のものから選択される。本発明に好ましい張度調整剤はマンニトールである。製剤中の張度調整剤の量は、0~10%W/V、好ましくは0.5~5%W/V、より好ましくは1~3%W/Vのマンニトールであり得る。
【0041】
さらに、本発明で任意選択で使用できる他の医薬品賦形剤としては、キレート剤、緩衝剤、pH調整剤、酸化防止剤、及び防腐剤が挙げられる。
【0042】
別の実施形態では、本発明は、酢酸セトロレリクス、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、ポリソルベート80、氷酢酸、マンニトール、及び注射用水を含む、セトロレリクスの安定な製剤に関する。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明は、0.5%W/Vの酢酸セトロレリクス、20%W/Vのヒドロキシプロピルβシクロデキストリン(HP-β-CD)、0.001%W/Vのポリソルベート80、2%W/Vのマンニトール、(pHを調整するための)氷酢酸、及び注射用水を含む安定な製剤であって、前記製剤のpHが約3.5~8.5である、安定な製剤に関する。
【0044】
本発明の使用準備済み製剤は、好適な容器、例えば、アンプル、バイアル、又はプレフィルド装置、例えば、プレフィルドシリンジ若しくはペンに入れて供給することができ、好ましくは、プレフィルド装置はガラス製のプレフィルドシリンジである。
【0045】
別の実施形態では、本発明は、安定な製剤を調製するためのプロセスであって、
a)注射用水をステンレス鋼製の容器に移し、窒素ガスを水中に注入するステップと、
b)ヒドロキシプロピルβシクロデキストリンを溶液に添加し、溶液を撹拌するステップと、
c)マンニトール、ポリソルベート80、及び酢酸セトロレリクスを上記バルク溶液に溶解するまで撹拌しながら添加するステップと、
d)氷酢酸を用いてバルク溶液を所望のpHに調整するステップと、
e)バルク溶液を濾過し、滅菌溶液を好適な容器、例えば、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、ペン、又は別の装置に充填するステップと
を含むプロセスを提供する。
【0046】
さらに、調製プロセスのステップのいずれかで不活性ガス(窒素ガス)の注入を行うことができる。調製プロセスの改変は、当業者に知られているように行うことができる。
【0047】
本発明によるセトロレリクスの分析は、当業者に知られている方法のいずれか、例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC法)、分光測定法(UV分光測定法)などによって行うことができる。分析試験を行うためにHPLC法を適用した。
【実施例
【0048】
実施例
本発明は、例示としてのみ説明されており、添付の請求項の範囲及び趣旨の範囲内にあり、本明細書の開示に基づいて当業者に明らかになるであろう改変も、本発明の範囲に含まれるとみなすべきである。
【0049】
実施例-1:セトロレリクスの安定な製剤
【0050】
【表1】
【0051】
製造プロセス:
a)注射用水をステンレス鋼製の容器に移し、窒素ガスを水中に注入する、
b)シクロデキストリンを溶液に添加し、溶液を撹拌する、
c)等張化剤、界面活性剤、及び酢酸セトロレリクスを上記で得られた溶液に溶解するまで撹拌しながら添加する、
d)氷酢酸を用いて溶液を所望のpHに調整する、
e)溶液を濾過し、滅菌溶液をプレフィルドシリンジに充填する。
【0052】
実施例-2:セトロレリクス(0.5mg/ml)の安定な製剤
【0053】
【表2】
【0054】
実施例-2は、上記実施例-1に記載されるプロセスによって調製できる。
【0055】
未濾過及び濾過済みバルクの分析結果を下表に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
目視観察及び分析結果は、酢酸セトロレリクスの製剤が、凝集しない無色透明な溶液のままであり、濾過滅菌後のセトロレリクスの分析値が95%以上であることを示す。
【0058】
実施例-3:セトロレリクス(0.25mg/0.5ml)の安定な製剤
【0059】
【表4】
【0060】
実施例-3(酢酸セトロレリクス注射剤、0.25mg/0.5ml)は実施例-1に記載されるプロセスによって調製できる。
【0061】
少なくとも1ヶ月間、25℃/60%RHの条件下で保存したときの酢酸セトロレリクス注射剤0.25mg/0.5mlの安定性データは以下の通りである。
【0062】
【表5】
【0063】
目視観察及び分析結果は、酢酸セトロレリクスの製剤が、凝集しない無色透明な溶液のままであり、濾過滅菌後のセトロレリクスの分析値が95%以上であることを示す。したがって、セトロレリクスの安定な製剤は、使用準備済み溶液として使用され、より優れた患者コンプライアンスを提供する。
【0064】
実施例-4:セトロレリクス製剤の安定性結果
少なくとも6ヶ月間、2~8℃及び25℃/60%RHの条件下で保存したときの実施例-3の酢酸セトロレリクス注射剤の安定性データは以下の通りである。
【0065】
【表6】
【0066】
この安定性データは、製剤のpHが所望の範囲内に留まり、製剤中のセトロレリクスの分析値が95%以上であることを示している。さらに、溶液は、少なくとも6ヶ月間、2~8℃及び25℃/60%RHの保存条件下で凝集しない無色透明な溶液のままであった。
【0067】
実施例-5:基準物質のCetrotide(登録商標)及び酢酸セトロレリクス注射剤(0.25mg/0.5ml)RTU製剤における不純物Cの挙動に関する安定性結果
【0068】
【表7】
【0069】
Cetrotide(登録商標)製品を再構成した後の注射用の凍結乾燥粉末は不純物Cの濃度の上昇を示していたが、使用準備済みセトロレリクス製剤では、不純物Cを定量限界未満に制御していた。セトロレリクスの不純物Cは、少なくとも6ヶ月間、2~8℃及び25℃/60%RHの保存条件下で0.50%未満である。したがって、本発明の安定な使用準備済み(RTU)セトロレリクス製剤は、凍結乾燥品(Cetrotide(登録商標))と比較して、優れた不純物プロファイルを示した。
【国際調査報告】