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特表2022-538032比較的高い安定したpHを有する発酵乳製品を製造するためのST Gal(+)菌の使用
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  • 特表-比較的高い安定したpHを有する発酵乳製品を製造するためのST  Gal(+)菌の使用 図1
  • 特表-比較的高い安定したpHを有する発酵乳製品を製造するためのST  Gal(+)菌の使用 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(54)【発明の名称】比較的高い安定したpHを有する発酵乳製品を製造するためのST Gal(+)菌の使用
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/12 20060101AFI20220824BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20220824BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220824BHJP
   A23C 9/127 20060101ALI20220824BHJP
   A23C 17/02 20060101ALI20220824BHJP
   A23C 19/032 20060101ALI20220824BHJP
   C12R 1/46 20060101ALN20220824BHJP
   C12R 1/225 20060101ALN20220824BHJP
【FI】
A23C9/12
C12N1/02 ZNA
C12N1/20 A
A23C9/127
A23C17/02
A23C19/032
C12R1:46
C12R1:225
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575527
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 EP2020067150
(87)【国際公開番号】W WO2020254604
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】19181466.4
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503260310
【氏名又は名称】セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】トマス ヤンセン
(72)【発明者】
【氏名】ディデ エレゴー クレスチャンスン
【テーマコード(参考)】
4B001
4B065
【Fターム(参考)】
4B001AC06
4B001AC30
4B001AC31
4B001BC13
4B001BC14
4B001EC01
4B001EC99
4B065AA30X
4B065AA49X
4B065AC04
4B065AC06
4B065BA21
4B065CA42
(57)【要約】
ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(ST)Gal(+)菌を乳に接種することを含む、発酵の終わりに比較的高い安定したpH値を有する発酵乳製品(例えばヨーグルト)を製造するための方法に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵終了時に比較的高い安定したpH値を有する発酵乳製品を製造するための方法であって、次の工程:
(a):少なくとも100 Lの乳に、以下:
(I):ストレプトコッカス・サーモフィルス(ST)菌組成物であって、参照ST CHCC4323(DSM 32826)菌に比較した時、乳中の排泄ガラクトース量を少なくとも10%低減することができることにより特徴づけられる、104~1014 CFU/gのST菌細胞を含むストレプトコッカス・サーモフィルス(ST)菌組成物を接種する工程であって;
ここで、比較試験は、ST菌を一晩培養物から1%を脱脂牛乳に接種し、37℃で18時間インキュベートし、発酵の終了時に試料を採取して、発酵乳中のガラクトース含有量を測定し、それにより、参照CHCC4323と比較した排泄ガラクトースの低減を測定する工程;および
(b):(a)の細菌を用いて乳を発酵させる工程であって、この工程(b)のpH値を確実に測定できるような方法で発酵の間pHを測定し、そして発酵は、発酵終了時のpHが4.3~4.9のpHであることとして定義される、比較的高い安定したpH値で発酵が終わり、そして発酵の最後の2時間の間はpHが0.1ポイントより大きく変化せず、かつ24時間発酵より前に4.3~4.9のpHに到達するという工程;および
(c):更なる適切な工程を実施するために4.3~4.9のpHを有する(b)の発酵乳を使用し、最終的に発酵乳製品の製造に至る工程
を含む方法。
【請求項2】
請求項1の工程(a)の乳が牛乳であり、そして請求項1の工程(c)の発酵乳製品がヨーグルト、チーズ、ケフィアまたはバターミルクである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1の工程(c)の発酵乳製品がヨーグルトである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
請求項1の工程(a)において、乳に104~1014 CFU/gのラクトバチルス菌細胞(例えばラクトバチルス・デルブリューキィ亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)も更に接種する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
請求項1の工程「(a)(I)」のST菌が、該ST菌が参照ST CHCC4323菌に比較して乳中の排泄ガラクトース量を少なくとも25%低減させることができることにより特徴づけられるST菌である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記ストレプトコッカス・サーモフィルス(ST)菌が、
(a):登録番号DSM 33158で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)細胞CHCC28380;および
(b):登録番号DSM 33159で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)細胞CHCC32045
からなる群より選択された少なくとも1つの細胞である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
請求項1の工程「(a)(I)」のST Gal(+)菌が、ガラクトキナーゼ遺伝子(galK)プロモーター配列(配列番号8)の -10領域中に突然変異を有する細菌であり、ここで前記突然変異が、AおよびTからなる群より独立に選択されたヌクレオチドによる、野生型 -10領域(TAC-GAT、配列番号1)中のCおよびGの一方または両方の置換を引き起こす、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記突然変異が、ヌクレオチド配列TATGAT(配列番号2)を有する -10領域をもたらす、請求項7記載の方法。
【請求項9】
-請求項1の工程(b)のpH値が、発酵終了時まで連続的に測定され;
-請求項1の工程(b)の発酵温度が25℃~48℃であり;
-請求項1の工程(b)における発酵終了時のpHが4.4~4.8のpHであり;
-請求項1の工程(b)における発酵の最後の2時間の間にpHがpH 0.05より大きく変化せず;かつ
-請求項1の工程(b)において10時間発酵より前に4.3~4.9のpHに達する、
請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
請求項1の工程(b)において、発酵終了時のpHが、同一の発酵条件下で参照ST CHCC4323 (DSM 32826)の使用により得られる発酵終了時の対応する比較pHよりも、0.2~0.8ポイント高いpHである、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
請求項1の方法が、
(d) 少なくとも1週間の貯蔵期間の間の工程(c)で製造された発酵乳製品の貯蔵
という追加の工程を含んでなり、前記貯蔵期間の終了時の製品のpHが4.3~4.9のpHである、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記貯蔵温度が2℃~10℃であり、発酵乳製品がヨーグルトまたはチーズである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
新規ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(ST)菌細胞をスクリーニングおよび単離するための方法であって、次の工程:
(i):個々のST菌のプールから、ST菌の新規選択されたプール(本明細書中では「ST Gal(+)菌」と呼ばれる)を選択および単離する工程であって、前記ST菌が請求項1の工程(a)(I)に要求されるようにガラクトースを低減することができることにより特徴づけられる工程;
(ii):工程(i)のST Gal(+)菌の選択されたプールから、請求項1の工程(b)に要求されるように発酵終了時に比較的高い安定したpH値を得ることができる、新規の単離されたST Gal(+)菌細胞を選択し単離する工程
を含む方法。
【請求項14】
登録番号DSM 33158で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC28380または登録番号DSM 33159で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC32045。
【請求項15】
登録番号DSM 33158で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC28380または登録番号DSM 33159で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC32045の機能的特性を共有する、ストレプトコッカス・サーモフィルス細胞。
【請求項16】
前記機能的特性が、前記ST細胞が参照ST CHCC4323 (DSM 32826)菌に比較したときに乳中の排泄ガラクトース量を少なくとも10%低減することができることを意味する、請求項15記載のストレプトコッカス・サーモフィルス細胞(「本明細書中ST Gal(+)菌」と呼ばれる)の変異株。
【請求項17】
-登録番号DSM 33158で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC28380の変異株;または
-登録番号DSM 33159で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC32045の変異株
を獲得する方法であって、出発株として前記寄託株を使用し、前記寄託株の変異株を作出し、そして新規変異株を単離することを含み、ここで前記変異株が寄託株のST Gal(+)であるという特性を保持していることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus;ST)Gal(+) 菌を乳に接種することを含む、発酵終了時に比較的高い安定したpH値を有する発酵乳製品(例えばチーズまたはヨーグルト)を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品産業は、食品の味や質感(テクスチャー)などを改善するために、多くの細菌、特に乳酸菌を利用する。乳業の場合、乳酸菌(LAB)は、乳の酸性化(発酵による)をもたらすだけでなく、例えばそれらが含まれている製品に質感を与えるためにも集中的に利用されている。
【0003】
ポスト酸性化(post-acidification)の管理は、商業的に重要である。
【0004】
当技術分野では、「ポスト酸性化」という用語は、一般に、発酵終了後のLABによる乳酸の生成に関連するものとして説明されている。例えば、欧州特許公報EP2957180B1(Chr. Hansen A/S、デンマーク国)の段落番号[0005]において、次のように記載されている:
「急冷工程を伴う方法であっても、ポスト酸性化、すなわち、発酵の終了後―いわゆる目的のpHに達した後―のLABによる乳酸の生成が観察される。ポスト酸性化は、今日、乳製品の発酵中に起こる最も重要な問題の1つであると考えられている。発酵乳製品の加工および貯蔵中にpH値がさらに低下すると、酸度の上昇と貯蔵寿命の短縮を引き起こすという問題が生じる。」
【0005】
発酵乳製品を製造するための多くの現行法は、次のような一連の工程(ステップ)により特徴づけられる:
(a) 乳中に存在するラクトース(乳糖)から得られるグルコース(ブドウ糖)を代謝することができる乳酸菌(またはLAB)を含むスターターカルチャーを使って乳を発酵させる工程;
(b) 前記発酵が乳酸の生成を引き起こし、それが最初は6.4~6.8のpH(牛乳の場合)をpH 3.8~4.2の間の範囲へとpHを低下させる工程;
(c) いったん問題の発酵製品に所望されるpHに達したら、発酵乳製品の急冷によって発酵を終了させる工程。
【0006】
この方法は、例えば、チーズ、ヨーグルトおよびヨーグルト飲料の製造に使用される。
【0007】
発酵乳製品では、所定のpH値で急冷することで発酵の停止が実施される。発酵製品を冷却しなければ、発酵は続くだろう。しかしながら、急冷は、例えば質感(テクスチャー)の損失につながる可能性があるため、欠点を有する可能性がある。
【0008】
例えば、急冷工程を回避するため、先行技術はポスト酸性化の制御の改善のための多種多様な技術的解決策を記載している。
【0009】
本願に関連する市販の製品の例は、デンマーク国クリスチャンハンセン・アクチェンゲゼルシャフト(以下Chr. Hansen A/S)のYOFLEX(登録商標) ACIDIFIX(登録商標)培養物であり、これは「優れたpH安定性を有する、品質と貯蔵寿命を改善する」製品である(例えばwww.chr-hansen.comを参照されたい)。本文脈において当業者が理解するように、優れたpH安定性による改善された貯蔵寿命は、ポスト酸性化の制御の改善に関連づけられる。
【0010】
欧州特許公報EP2957180B1(Chr. Hansen A/S、デンマーク国)は、例えば次のように、ポスト酸性化の制御を改善するための様々な技術的解決策を記載している:
- アミノ酸代謝に欠陥のあるL. ブルガリカス(L.bulgaricus;ブルガリア菌)株の使用、および/または、弱いポスト酸性化活性を特徴とする特別なLAB菌株の使用―例えば段落番号[0007]を参照;
- 発酵中の緩衝能力の制御、並びに所定の範囲内での緩衝能力とpHの維持―例えば段落番号[0008]を参照;
- ラクトース(乳糖)欠損(Lac(-))ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus;サーモフィルス菌)(ST)株およびラクトバチルス・デルブリューキィ亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii spp. bulgaricus;ブルガリア菌)株の使用―例えば請求項1を参照。
【0011】
当技術分野で公知のように、S.サーモフィルス(ST)菌では、ガラクトースはラクトース/ガラクトース代謝系を介して排泄される(本明細書の図1中のlac/gal代謝の概略図を参照)。細胞に取り込まれた1モルのラクトースにつき、1モルのガラクトースが排泄され得る。
【0012】
当技術分野で公知のように、サーモフィルス菌(ストレプトコッカス・サーモフィルスStreptococcus thermophilus;ST)株は、通常、乳中の排泄ガラクトース量を大幅に減らすことはできない。即ち、それらは、当該技術および本明細書において「ST Gal(-)菌」と称することができるものである。例えば、Anbukkarasi他の文献(J Food Sci Technol(2014年9月)51(9):2183-2189)を参照のこと。これは、要約において次のように記載されている:
「サーモフィルス菌(S. thermophilus)のほとんどの株は、ガラクトース陰性(Gal-)であり、ラクトースのグルコース部分のみを代謝して、ガラクトースを培地に放出することができる。この代謝の欠陥は、ヨーグルト中に遊離ガラクトースを蓄積させるため、消費者にガラクトース血症を引き起こす。そのため、低ガラクトースヨーグルトを開発すべき絶対的な必要性がある。従って、本研究では、3種のガラクトース陽性(Gal+)サーモフィルス菌(S.thermophilus)株を低ガラクトースヨーグルトの調製に使用した。」
【0013】
上記の欧州特許EP2957180B1(Chr. Hansen A/S)および上記の製品YOFLEX(登録商標)ACIDIFIX(登録商標)に記載されている全てのST菌株は、当業者と本明細書においてST Gal(-)菌であると見なされるものである。
【0014】
ガラクトースの濃度が比較的高いと、加熱中にチーズの「褐変」を引き起こす場合がある。これは、例えばピザの製造の際に、サーモフィルス菌(S. thermophilus)(ST)によってモッツァレラチーズが製造されるときに頻繁に報告される。
【0015】
先行技術は、いくつかのサーモフィルス菌(S. thermophilus)(ST)いわゆるガラクトース陽性株(本明細書では「ST Gal(+)菌」と称される)が、重要な加熱工程(例えば70℃を上回る温度への加熱)を伴う製法(例えばピザを作る製法)において使用されるチーズ(例えばモッツァレラ)の起こり得る褐変問題を減らすために使用することができることを記載している。例えば、Anbukkarasi他の文献(“Production of low browning Mozzarella cheese: Screening and characterization of wild galactose fermenting Streptococcus thermophilus strains”, International of Journal of advanced research, 2013年、第1巻、第5号、83-96頁)を参照されたい。
【0016】
現在の状況で当業者に知られているように、「起こり得る褐変の低減」と「ポスト酸性化の制御の改善」とは、例えば、異なる乳製品に関連付けられうる、有意に異なる(別の)問題である。
【0017】
例えば、褐変の問題は、通常、重要な加熱工程(例えば70℃を上回る温度)の使用を伴う製法(例えば、ピザを作る製法)で使用されるチーズ(例えばモッツァレラ)に関連し得る。
【0018】
それに対して、ポスト酸性化の問題は、チーズ、ヨーグルトなどの重要な加熱工程(例えば70℃を上回る温度)を使用せずに製造される乳製品に関連付けられる。
【0019】
Derkx他の文献(“The art of strain improvement of industrial lactic acid bacteria without the use of recombinant DNA technology”(「組換えDNA技術を使用しない工業用乳酸菌の菌株改良の技術」; Microbial Cell Factories 2014、13(追補1))は、例えば第9頁にてポスト酸性化の問題について論及しており、第9頁の左側の欄に次のように記載されている総説である:
「ポスト酸性化が低減された改善菌株を得るための別のアプローチにおいて、乳中のサーモフィルス菌(S. thermophilus)の生育適合性に対するオリゴペプチド輸送の重要性が調査された…そして、改変されたオリゴペプチド輸送システムを示す変異株は酸性化率(酸度)が低くなることが判明した。」
【0020】
Derkx他(2014)の上記文献は、第9頁の右上の欄において次のように記載している:
「そのうえ、過剰な遊離ガラクトースは、常在乳酸菌の増殖によってポスト酸性化問題やチーズフローラ(微生物叢)の不均衡を引き起こしうる。従って、ガラクトース陽性野生型株またはガラクトース発酵性変異株は、特にピザチーズの褐変を低減する目的で興味深いものである。」
【0021】
本文脈において当業者が理解するとおり、Derkx他(2014)の文献中の上記に引用した段落において論及されたポスト酸性化問題は、「常在乳酸菌の増殖」、つまり発酵終了後の常在LABによる乳酸の生産に関連する。
【0022】
国際公開WO2011/026863A1(Chr. Hansen)およびWO2011/092300A1(Chr. Hansen)パンフレットは、galK(ガラクトキナーゼ)遺伝子中に突然変異を有するサーモフィルス菌(S. thermophilus;ST)株が、発酵乳に高粘度を生じさせることを記載している。
【0023】
国際公開WO2019/042881A1(Chr. Hansen)パンフレットは、いくつかのST Gal(+)菌の例を記載している。それらの3つのWO公報のいずれも、本明細書中で論ずる「ポスト酸性化」に関連する問題を記載/関連付けていない。
【0024】
要約すると、当該技術の現状では、発酵終了「後」の常在LABによる乳酸の生成に関連するものとして一般に説明される「ポスト酸性化」問題があり、当該技術は、ポスト酸性化問題を制御/低減することに関連する多くの異なる解決策を記載している―例えば、ST Lac(-)菌の使用、または改変されたオリゴペプチド輸送システムを有するST菌の使用など。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明が解決すべき課題は、発酵の終わりに比較的高い安定なpH値を有する発酵乳製品(例えばヨーグルト)を製造する方法を提供することであり、ここで、製造された発酵乳製品(例えばヨーグルト)の利点は、例えば、生産された発酵乳製品の例えば貯蔵の間の、低減されたポスト酸性化であり得る。
【0026】
この解決策は、本発明者らが、サーモフィルス菌(ST)ガラクトース陽性株(本明細書では「ST Gal(+)菌」と称する)と、その結果として発酵の終了時に安定した比較的高いpHを獲得する可能性との間の驚くべき関連性を突き止めたことに基づいている。
【0027】
上述した通り、当該技術分野には、発酵の終了「後」、例えば結果として発酵後の貯蔵の間、常在乳酸菌(LAB)による乳酸の生成に関連があるとして通常説明される「ポスト酸性化」問題が存在する。
【0028】
上述した驚くべき関連性の結果としての、上述した発酵終了時の比較的高いpHは、Gal(+) ST菌の増殖プロフィールに基づいて、結果として発酵中に開始される効果であることは、明白である。
【0029】
理論に縛られることなく、本発明者らは、ST Gal(+)菌と結果としての発酵終了時の安定した比較的高いpHを獲得する可能性との間の上記の驚くべき関連性を、直接的にかつ一義的に記載している単一の先行技術文書を一切知らない。
【0030】
例えば本明細書の実施例で論じられ、例えば図2及び図3に示されるような、本明細書に記載のST Gal(+)菌の使用は、発酵終了時に対応する野生型ST Gal(-)菌よりも有意に高い(約0.2~0.6ポイント)安定したpH値だった。
【0031】
例えば図2に見られるような、本明細書に記載のST Gal(+)菌の使用は、発酵終了時に4.3~4.8のpHを与え、野生型CHCC27806 ST Gal(-)の使用は、4.15付近(すなわち、pH 4.3よりも低い)pHを与えた。
【0032】
言い換えれば、ST Gal(+)菌を使用すると、対応する野生型CHCC27806 ST Gal(-)株を使用した場合よりも、有意に高い(約0.3~0.6ポイント高い)安定した最終pH値を与えた。
【0033】
さらに、初期の酸性化活性は比較的変化しなかった(例えば図2または図3を参照)。これは、観察された低い酸性化活性(すなわち、発酵終了時の比較的高い安定したpH値)が、一般的な低い酸性化率(酸度)によるものではないことを証明している。
【0034】
理論に縛られることなく、発酵終了時の最終pHが高くなると、貯蔵寿命に対するポスト酸性化の影響が大きくなると考えられる。これは、例えばヨーグルトなどの乳製品では重大な問題となる可能性がある(上記参照)。
【0035】
従って、本明細書で論じられる、発酵終了時に安定したより高いpHを有するST Gal(+)株は、例えば市販の関連乳製品の所望の特性である、例えば貯蔵(条件の)下でより低いポスト酸性化をもたらすであろう。
【0036】
ST Gal(+)株と、発酵終了時に安定した比較的高いpHを獲得する可能性との間の本発明において確定された新規の関連性は、結果として、当業者の「(従来の)行動を変える」と言ってよいだろう。例えば、「低ポスト酸性化」ヨーグルト培養物を所望する場合、本発明の開示後には、当業者は、別の先行技術の既知の様々な「低ポスト酸性化」培養物(上記参照)の代わりに、(本発明に係る)適切なST Gal(+)菌を選択するだろう。
【0037】
本明細書の実施例で論じられるように、試験したST Gal(+)株の約20%が、実際に本明細書で要求されるとおりに機能した(すなわち本明細書で論じられる発酵終了時の比較的高い安定したpH値を与えた)。
【0038】
従って、本発明の知見がなければ、当業者は、目的のST Gal(+)株を容易に試験し、かつ本発明に関連する「発酵終了時の安定した比較的高いpH」というプラス効果(陽性結果)を特定することはできなかった。
【0039】
しかしながら、本明細書で論じられる新規なST Gal(+)と「発酵終了時の安定した比較的高いpH」効果との間の関連性がいったん本発明により開示された後では、この「発酵終了時の安定した比較的高いpH」という本明細書に記載のプラス効果を有するST Gal(+)株を同定することは、当業者にとって日常的なスクリーニング/選択作業となる。
【0040】
例えば、最初に、日常的手順によって例えば約100種の異なるST Gal(+)株を単純に分離/選択し、次いで異なるST Gal(+)株のこのプール(本明細書に開示されているようにほぼ20%が陽性)から、本明細書に記載の「発酵終了時の安定した比較的高いpH」というプラス効果(陽性結果)を有するST Gal(+)株についてスクリーニング/選択が行われる。
【0041】
従って、下記に更に詳細に論ずるように、本発明は、本発明者らが「発酵終了時の安定した比較的高いpH」というプラス効果(陽性結果)を有する新規ST Gal(+)株の同定のための新規選択方法を発見したことに基づいていると言ってよいだろう。
【0042】
下記の実施例において論じるように、本発明者らは、異なるST Gal(-)株のプールに基づいて「発酵終了時の安定した比較的高いpH」を有する陽性ST株を同定しようと試みたのであり、単一の陽性株/細胞を同定したのではない。すなわち、本発明の知見なくしては、本明細書に記載の「発酵終了時の安定した比較的高いpH」というプラス効果(陽性結果)を有するST株を同定することは不可能であった(または非常に長い期間がかかった)だろう。
【課題を解決するための手段】
【0043】
従って、本発明の第1態様は、発酵終了時に比較的高い安定したpH値を有する発酵乳製品を製造するための方法であって、次の工程(ステップ)を含む方法に関する:
(a):少なくとも100 Lの乳に、以下:
(I):104~1014 CFU/gのST菌細胞を含むストレプトコッカス・サーモフィルス(サーモフィルス菌;ST)組成物であって、参照ST CHCC4323(DSM 32826)菌に比較した時、前記ST菌が乳中の排泄ガラクトース量を少なくとも10%低減することができることにより特徴づけられる、ストレプトコッカス・サーモフィルス菌組成物(本明細書中では「ST Gal(+)菌」と称する)
を接種する工程であって;
ここで、比較試験は、ST菌を一晩培養物から脱脂牛乳に1%接種し、37℃で18時間インキュベートし、発酵の終了時に試料を採取して、発酵乳中のガラクトース含有量を測定し、それにより、参照CHCC4323と比較した排泄ガラクトース量の低減を測定することにより実施される工程;および
(b):(a)の細菌を用いて乳を発酵させる工程であって、ここで、この工程(b)のpH値を確実に測定できるような方法で発酵の間pHを測定し、そして発酵終了時のpHが4.3~4.9のpHであることとして定義される、比較的高い安定したpH値で発酵が終わり、そして発酵の最後の2時間の間pHが0.1ポイントより大きく変化せず、かつ24時間発酵より前に(例えば15時間発酵より前に)4.3~4.9のpHに到達するという工程;および
(c):更なる適切な工程を実施するために4.3~4.9のpHを有する(b)の発酵乳を使用し、最終的に発酵乳製品の製造に至る工程。
【0044】
本発明の第1態様は、あるいは、いわゆる用途クレームとして定式化することができる。すなわち、発酵の終了時に4.3~4.9のpHという比較的高い安定したpH値を有する発酵乳製品を製造する方法における、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus;サーモフィルス菌(ST))Gal(+)菌の使用であって、前記方法が次の工程を含んでいる使用に関する:
(a):少なくとも100 Lの乳に、以下:
(I):104~1014 CFU/gのST菌細胞を含むストレプトコッカス・サーモフィルス(ST)組成物であって、参照ST CHCC4323(DSM 32826)菌に比較した時、乳中の排泄ガラクトース量を少なくとも10%低減することができることにより特徴づけられる、サーモフィルス菌組成物(本明細書中では「ST Gal(+)菌」と称する)を接種する工程であって;
ここで、比較試験は、ST菌を一晩培養物から脱脂乳に1%を接種し、37℃で18時間インキュベートし、発酵の終了時に試料を採取して、発酵乳中のガラクトース含有量を測定し、それにより参照CHCC4323と比較した排泄ガラクトース量の低減を測定することにより実施される工程;および
(b):(a)の細菌を用いて乳を発酵させる工程であって。ここで、確実にこの工程(b)のpH値を測定できるような方法で発酵の間pHを測定し、そして発酵終了時のpHが4.3~4.9のpHであることとして定義される、比較的高い安定したpH値で発酵が終わり、そして発酵の最後の2時間の間pHが0.1ポイントより大きく変化せず、かつ24時間発酵より前に4.3~4.9のpHに到達するという工程;および
(c):更なる適切な工程を実施するために4.3~4.9のpHを有する(b)の発酵乳を使用し、製造された発酵乳製品を最終的に得る工程。
【0045】
第1態様の「(a)(I)」に係るST Gal(+)菌は、当業者が日常的に実施することができる本発明関連の標準試験と見なすことができる。
【0046】
上記の従来技術において記載された多くのST Gal(+)菌は、ST Gal(+)試験に準拠するだろうと考えられる。つまり、従来技術と本明細書に提供される技術情報に基づいて、第1態様の「(a)(I)」の比較試験に準拠するST Gal(+)菌を取得することは、比較的日常的な作業であると見なすことができる。
【0047】
本明細書の実施例1には、第1態様の工程「(a)(I)」の比較試験に準拠する、別の異なる様々なST Gal(+)菌を獲得するための方法が記載され、すなわち第1態様の工程「(a)(I)」の比較試験は、好ましくは実施例1に従って実施される。
【0048】
上述したとおり、本発明者らは、ST Gal(+)菌と、結果としての発酵終了時の安定した比較的高いpHを得る可能性との間の上述の驚くべき関連性を、直接的かつ一義的に説明している単一の先行技術文書をまったく知らない。
【0049】
従って、工程(b)はそれ自体新規の工程である。すなわち、先行技術は、第1態様の工程(a)に従って乳にST Gal(+)菌を接種し、次いで第1態様の工程(b)に要求されるように発酵工程(b)においてpHを監視/測定する方法を、直接的にかつ一義的に記載していない。
【0050】
これの理由の1つは、本発明より以前には、当業者は、ST Gal(+)菌が本明細書に記載の「発酵終了時の安定した比較的高いpH」というプラス効果(陽性結果)を有しうる可能性を全く知らなかった、ということに関連する。従って、当業者はこのプラス効果を制御/監視するために第1態様の工程(b)で要求されるようにpHを監視/測定することを考えなかったのである。
【0051】
現在の状況との関連で当業者により理解されるように、第1態様の工程(b)は、「発酵終了時のpHが4.3~4.9のpHであり、そしてそのpHが発酵の少なくとも2時間の間、0.1ポイントより大きくpHが変化せず、かつ24時間発酵より前に4.3~4.9のpHに到達するということを決定づけるのに十分である、ある種のpHの監視(モニタリング)/測定を少なくとも必要とする。
【0052】
当業者が理解しているように、このpHの監視/測定は、関連するpH値を客観的に決定/評価することができる様々な方法で行うことができる。
【0053】
例えば、発酵終了時より正確に2時間前にpHを測定することは要求されないかもしれない。例えば、発酵終了時の例えば3時間前、1時間前、および発酵終了時に実施され、そしてその3回の測定時の全てのpH値が正しい範囲にあるならば、当業者は、pHが発酵の最後の2時間に関する工程(b)の要件の範囲内に正確にある、と客観的に理解するだろう。
【0054】
本明細書中の実施例(例えば本明細書の図2を参照)では、pHは連続的に監視/測定されたが、これは好ましい手順であり得る。
【0055】
第1態様の工程(b)は:「発酵終了時のpH」が理解される。
【0056】
当業者は、発酵終了時にあるとき、それは本質的に文脈中において、pHがこれ以上有意に下落/低下しない時に関すると理解できる。
【0057】
当業界で公知のように、発酵培地が細菌の増殖/代謝にとって十分な、関連の栄養分(例えばラクトース、ガラクトースなどの糖類)をもはや含まなくなると、発酵は終了/停止し、または温度を細菌の増殖に最適な温度から有意に異なる温度へと変更することにより、発酵は終了/停止しうる。
【0058】
あるいは、発酵は乳酸または他の増殖阻害化合物の濃度増加で必然的に終了する。
【0059】
工程(b)の発酵条件は通常、目的のST菌に関連した、標準的な適切なST発酵条件―例えば本明細書の実施例で使用されるような37℃付近であることができる。
【0060】
本文脈において当業者が理解するように―この理由は、発酵終了時のpHの原因となるのが、本質的に本明細書に記載のとおり使用されたST Gal(+)菌の固有の特性であるということに関連している―すなわち、ここで機能しないST菌は、例えば、標準的なST発酵条件下でpH 4.1付近の発酵終了時の最終pHを与えるだろうと言ってよい。
【0061】
本明細書の技術的開示と一般的な知見を考慮すれば、当業者がここで陽性の(プラス効果の)/有用なST Gal(+)株を選択/特定し、そして第1態様の工程(b)の要件に準拠するための適切な条件を見つけることは日常的な作業である。
【0062】
第1態様の工程(c)は、当業者にとって日常的な作業として理解することができる。すなわち、当業者は、目的の発酵乳製品(例えばチーズ、または例えばヨーグルト)を製造する方法を知っている。
【0063】
本文脈において当業者が理解するとおり、第1態様の工程(a)において、乳に、例えばヨーグルトを製造するための他の例えば目的の乳酸菌(LAB)―例えば、ブルガリア菌(L. ブルガリカス)―が接種されてもよい(発酵乳製品は例えばヨーグルトである)。
【0064】
本発明の第2態様は、以下の工程(ステップ)を含む、新規ストレプトコッカス・サーモフィルス(ST)菌細胞をスクリーニングおよび単離するための方法であって、
(i):個々のST細菌のプールから、
第1態様の工程(a)(I)で要求されるとおりガラクトースを低減できることを特徴とするST菌の新規の選択されたプール(本明細書では「ST Gal(+)菌」と称される)を選択および単離する工程;および
(ii):工程(i)のST Gal(+)菌の選択されたプールから、第1態様の工程(b)で要求されるとおりに発酵終了時に比較的高い安定したpH値を与えることができる、新規の単離されたST Gal(+)菌細胞を選択および単離する工程
を含む方法に関する。
【0065】
本発明の実施形態は、単なる例としてのみ以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1図1は、lac/gal代謝の概略図である。
【0067】
図2図2は、本明細書に記載のST Gal(+)菌が、発酵の終了時に、対応する野生型CHCC27806 ST Gal(-)菌よりも有意に高い安定したpH(約0.3~0.6ポイント高いpH)を有することを示した図面である。この図は、例えば、ここで初めて寄託された新規ST Gal(+)株(CHCC28380=DSM 33158; CHCC32045=DSM 33159)が、発酵終了時に、結果として非常に良好で安定した比較的高いpHを有することを示している。詳細については、本明細書中の実施例を参照されたい。
【0068】
図3図3は、本明細書に記載のST Gal(+)菌が、発酵終了時に、結果として対応する野生型CHCC4426 ST Gal(-)菌よりも有意に高い安定したpH(約0.2~0.5ポイント高いpH)を有することを示した図である。詳細については、本明細書の実施例を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0069】
寄託した菌株/細胞
ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌細胞CHCC4323の試料は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Inhoffenstr. 7B、D-38124 Braunschweig)に、受託番号DSM 32826のもと2018年6月5日の寄託日で寄託されている。この寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の条件下で行われた。
【0070】
以下の寄託菌株は、本出願に関連して初めて寄託された菌株であり、すなわち、それ自体が新規の菌株である。
【0071】
新規ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌細胞CHCC28380の試料は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Inhoffenstr. 7B、D-38124 Braunschweig)に、受託番号DSM 33158のもと2019年6月12日の寄託日で寄託されている。この寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の条件下で行われた。
【0072】
新規ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)菌細胞CHCC32045の試料は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Inhoffenstr. 7B、D-38124 Braunschweig)に、受託番号DSM 33159のもと2019年6月12日の寄託日で寄託されている。この寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の条件下で行われた。
【0073】
本明細書の実施例で論じられているように、ここで新規に寄託された菌株は、それ自体、発酵終了時に非常に良好で安定した比較的高いpHを有する。
【0074】
従って、本発明の別の態様は、登録番号DSM 33158で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC28380または登録番号DSM 33159で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC32045に関連する。
【0075】
従って、本発明のさらなる態様は、登録番号DSM 33158で寄託されたCHCC28380の機能的特徴を共有するストレプトコッカス・サーモフィルス細胞、または登録番号DSM 33159で寄託されたCHCC32045の機能的特徴を共有するストレプトコッカス・サーモフィルス細胞に関するものである。それに関連した態様では、機能的特性とは、ST株が、参照ST CHCC4323(DSM 32826)菌と比較して、乳中の排泄ガラクトース量を少なくとも10%低減させることができることを意味する(本明細書中では「ST Gal(+)菌」と称される)。
【0076】
本発明の別の態様は、以下:
- 登録番号DSM 33158で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC28380の変異株;または
- 登録番号DSM 33159で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス細胞CHCC32045の変異株
を獲得する方法であって、前記寄託株を出発株として使用し、寄託株の変異株を作出し、そして新規変異株を単離することを含んでなり、ここで前記変異株が寄託株のST Gal(+)であるという性質を保持している方法に関する。
【0077】
発酵乳製品
第1態様の工程(a)の乳、およびその結果として第1態様の工程の発酵乳製品の乳は、例えば、豆乳または動物乳(例えば、ヤギ、水牛、ヒツジ、ウマ、ラクダまたはウシの乳など)であり得る。好ましくは、乳は牛乳である。
【0078】
発酵乳製品は、好ましくは、例えばヨーグルト、チーズ、ケフィアまたはバターミルクなどの乳製品である。
【0079】
チーズは、例えば、フレッシュチーズ製品、ソフトチーズ製品、チェダー、コンチネンタルチーズ、パスタフィラタチーズ、ピザチーズまたはモッツレラチーズであることが好ましいかもしれない。
【0080】
製品はヨーグルトであることが好ましいことがある。
【0081】
乳の接種―第1態様の工程(a)
上記のように、第1態様の工程(a)において、別の例えば目的の乳酸菌(LAB)―例えば、ヨーグルト製造用のL. ブルガリカス(L. bulgaricus;ブルガリア菌)―を乳に接種することもできる。
【0082】
第1態様の工程(a)において、104~1014 CFU/gのラクトバチルス菌細胞(例えば、ラクトバチルス・デルブルーキィ亜種ブルガリカスなど)も乳に接種されることが好ましい場合がある。これは、発酵乳製品が例えばヨーグルトであるときに特に関連があり得る。
【0083】
第1態様の工程(a)において、104~1014 CFU/gのラクトコッカス菌細胞(例えば、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)など)も乳に接種されることが好ましい場合がある。これは、発酵乳製品が例えばチーズであるときに特に関連があり得る。
【0084】
第1態様の工程(a)において、104~1014 CFU/gのロイコノストック菌細胞も乳に接種されることが好ましい場合がある。これは、発酵乳製品が例えばチーズであるときに特に関連があり得る。
【0085】
第1態様の工程(a)は、少なくとも200 Lの乳に接種すること、または少なくとも1000 Lの乳に接種することに関することが好ましい場合がある。
【0086】
第1態様の工程「(a)(I)」のST Gal(+)菌
本明細書の実施例1では、第1態様の工程「(a)(I)」の比較試験に準拠する様々なST Gal(+)菌を取得する方法が記載されている。
【0087】
実施例1の表1に見られるように、この実施例に記載されたサーモフィルス菌(S. thermophilus)からガラクトース過発酵性変異株を単離するための特別な方法の使用により、参照ST CHCC4323菌に比較して乳中の排泄ガラクトース量を約50%低減させることができるST菌(例えばCHCC27912およびCHCC29526参照)を獲得することが可能であった。
【0088】
参照STCHCC4323菌と比較して乳中の排泄ガラクトース量を少なくとも20%減らすことができるST細菌は、本明細書ではST Gal(++)菌と呼ばれることがある。
【0089】
理論に縛られることなく、実施例1に記載のサーモフィルス菌(S. thermophilus)からガラクトース過発酵性ST Gal(++)変異株を単離する方法は、ガラクトース量の低減レベルが、本明細書中で命名されたGal(+)株に比べて劇的に増加するため、特別な方法と見なすことができる。実施例1に記載されるように、野生型CHCC4323に比較した、CHCC4323のGal(+)変異株であるCHCC14993のガラクトース低減レベルは17%であるが、CHCC4323のGal(+)変異株であるCHCC14994のガラクトース低減レベルは30%である。CHCC4459のGal(++)変異株であるCHCC29526のガラクトース低減レベルは、参照CHCC4323と比較して実に52%ですらある。
【0090】
従って、実施例1のM17-galブロス中で継代培養する方法を使用することにより、特有のガラクトース低減能力を有するガラクトース過発酵性変異株を単離することが可能であった。
【0091】
好ましくは、第1態様の工程「(a)(I)」のST菌は、参照ST CHCC4323菌と比較して乳中の排泄ガラクトース量を少なくとも20%(例えば、少なくとも25%、より好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%)低減させることができることにより特徴づけられるST菌である。
【0092】
好ましくは、ストレプトコッカス・サーモフィルス(サーモフィルス菌)(ST)菌細胞は、以下からなる群より選択された少なくとも1つの細胞である:
(a):登録番号DSM 33158で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)細胞CHCC28380;および
(b):登録番号DSM 33159で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)細胞CHCC32045。
【0093】
好ましくは、第1態様の工程「(a)(I)」において、乳1gあたり104~1015 cfu(または104~1014 cfu)(コロニー形成単位)、乳1gあたり少なくとも105 cfu、例えば少なくとも106 cfu/g乳、例えば少なくとも107 cfu/g乳、例えば少なくとも108 cfu/g乳、例えば少なくとも109 cfu/g、例えば少なくとも1010 cfu/g乳、例えば少なくとも1011 cfu/g乳を含む生存可能ST菌細胞を乳に接種した。
【0094】
ST菌細胞は、様々なST株の混合物(例えば本明細書に記載のCHCC28380とCHCC32045の混合物)であってもよい―例えば、1つのST株(例えばCHCC28380)108 cfu/g乳+ 別のST株(例えばCHCC32045)10 cfu/g乳であってよい。これは、合計すると乳に2×108 cfu/g乳の生存可能ST菌細胞が接種されることを意味する。
【0095】
典型的には、細菌(例えばスターターカルチャー組成物)は、凍結された、乾燥された、または凍結乾燥された濃縮物をはじめとする濃縮形態である。
【0096】
本明細書中の実施例において論じるように、試験したST Gal(+)株のすべてが、実際に本発明で要求されるとおりに機能したわけではない(つまり、発酵終了時に本明細書に記載の比較的高い安定したpH値を与えたわけではない)。
【0097】
従って本明細書の実施例で論じられるように、ゲノム分析を実施して、良好に機能する、好ましい陽性ST Gal(+)株の間で共通の構造要素を突き止めた。
【0098】
結果は、好適なST Gal(+)株の大部分が、ガラクトキナーゼ遺伝子(galK)のプロモーターの -10領域/ボックス中に突然変異を有することを示した。
【0099】
このようなgalK変異株は、例えば国際公開WO2011/026863A1パンフレット(Chr. Hansen)に記載されている。上述したとおり、このWO公報は、本明細書で論じる「ポスト酸性化」に関連する問題を記載していない/に関連していない。
【0100】
以下は、国際公開WO2011/026863A1パンフレット(Chr. Hansen)の第10頁の図を示す。
【0101】
【化1】
【0102】
上の図に示され、国際公開WO2011/026863A1パンフレット中で説明されているように、-10領域/ボックスの野生型/共通配列は「TACGAT」であり、「CHCC11379」と称される株は、-10領域/ボックス中に1つの突然変異を含んでいる。
【0103】
ガラクトキナーゼ遺伝子(galK)の野生型/共通プロモーター配列は、上図に配列番号8(SEQ ID NO:8)として示されており、これは本明細書の配列番号8と同一である。
【0104】
言わば、当業者は、目的のST Gal(+)株が、ガラクトキナーゼ遺伝子(galK)のプロモーターの -10領域/ボックス中に突然変異を有するかどうかを日常的に決定することができる。
【0105】
従って、好ましい実施形態では、第1態様の工程「(a)(I)」のST Gal(+)菌は、好ましくはガラクトキナーゼ遺伝子(galK)のプロモーター配列(配列番号8)の -10領域に1つの突然変異を有する細菌であり、ここで、その突然変異は、野生型 -10領域(TACGAT、配列番号1)中のCおよびGの一方または両方を、AおよびTからなる群より独立して選択されたヌクレオチドで置き換える。
【0106】
好ましくは、該突然変異は、ヌクレオチド配列TATGAT(配列番号2―例えば、下記で論じられるCHCC28380およびCHCC32045の著しく陽性の結果を参照)またはTACTAT(配列番号4―例えば、以下で論じられるCHCC29248の陽性結果を参照)を有する -10領域をもたらす。最も好ましくは、突然変異は、ヌクレオチド配列TATGAT(配列番号2)を有する -10領域をもたらす。
【0107】
本明細書中の実施例に記載の通り、本発明において新規に寄託されたST Gal(+)株(CHCC28380=DSM 33158;CHCC32045=DSM 33159)は、それ自体、発酵終了時に非常に安定した比較的高いpHを有している。これらの寄託株は、突然変異「TATGAT」(配列番号2)を含み、従ってその菌株は本明細書では最も好ましい。
【0108】
理論に限定されることなく、galK遺伝子の野生型発現よりも高レベルの発現は、発酵終了時に比較的高い安定したpHを得るという本明細書中にて論じられるプラス効果を与えるだろうと思われる。従って、好ましい実施形態では、第1態様の工程「(a)(I)」のST Gal(+)菌は、好ましくは、野生型よりも高レベルのgalK遺伝子発現を有する細菌であり、そして該ST Gal(+)菌は配列番号8の -35位、-10位、またはリボソーム結合部位(RBS)中に1つの突然変異を有する菌である。
【0109】
細菌により乳を発酵させる―第1態様の工程 (b)
第1態様の工程(b)は、工程(a)の細菌により乳を発酵させることに関する。
【0110】
上述したとおり、工程(b)の発酵条件は、一般に、目的のST菌に関連する標準の適切なST発酵条件であり得る。例えば、本明細書の実施例において使用されるような約37℃。
【0111】
上述したとおり、この理由は、例えば発酵終了時のpHの原因となる、本明細書に記載の使用されるST Gal(+)菌の固有の特性であることに関連している。例えば、標準の発酵条件下で4.1付近の発酵終了時の最終pHを与える。
【0112】
当業者は、関連のある細菌で乳を発酵させ、目的の発酵乳製品(例えばチーズ)を製造する方法を知っている。従って、本文脈において、これを詳細に説明する必要はない。
【0113】
当技術分野によれば、例えば使用するSTに応じて、発酵温度は、例えば25℃~48℃、例えば35℃~48℃、または例えば36℃~38℃であり得る。
【0114】
当技術分野によれば、第1態様の工程(b)における発酵時間は、2~96時間、例えば3~72時間、または例えば4~48時間であり得る。第1態様の工程(b)における発酵時間は、2~30時間、例えば、3~24時間であることが好ましい場合がある。
【0115】
第1態様の工程(b)は、「発酵終了時のpH」と解釈される。
【0116】
上で論じたように、当業者は、発酵がいつ終了するかを知っており、これは、本質的に、本文脈においてpHがもはや有意に下落/低下していない時点に関連すると見なしてよい。
【0117】
当技術分野で知られているように、例えば発酵培地が細菌の増殖/代謝に十分な関連栄養素(例えばラクトース、ガラクトースなどの糖類)をもはや含まない時には発酵は終了/停止するだろうし、または温度を細菌の生育に最適な温度とは有意に異なる温度へと変化させることによって(例えば急冷することによって)発酵は終了/停止するだろう。あるいは、発酵は乳酸または他の成長抑制化合物の濃度の増加により自然に停止する。
【0118】
発酵終了時のpHは、4.3~4.8、例えば4.4~4.8または4.4~4.7のpHであることが好ましい場合がある。
【0119】
好ましい実施形態では、発酵の最後の2時間の間、pHはpH 0.05より大きくは変化しないままである。
【0120】
好ましい実施形態において、4.3~4.9のpHは、15時間発酵より前(より好ましくは10時間発酵より前、さらにより好ましくは8時間発酵より前)に到達する。
【0121】
本発明に関連がある乳の大量発酵に関連して、乳の発酵は約5時間以内に完了しうる場合があることが当技術分野で知られている。
【0122】
本明細書で論じられるように、ST株CHCC4323(DSM 32826)は、例えば本発明に関連がある乳製品を製造するための今日商業利用される関連のST Gal(-)株に相当するST参照株と見なすことができる。
【0123】
従って、第1態様の工程(b)の好ましい実施形態では、同等の比較発酵条件下で実施した参照ST CHCC4323(DSM 32826)菌の使用によって得られる発酵終了時の対応する比較pHよりも、発酵終了時のpHは、0.1~0.8ポイント(好ましくは0.2~0.8ポイント、例えば0.2~0.6ポイント)だけ高いpHである。
【0124】
当業者はもちろん、そのような比較実験を行う方法を知っている。すなわち、工程(b)の発酵が、第1態様にかかるST Gal(+)株を使って行われ、その後、参照ST株CHCC4323(DSM 32826)菌と同一の条件下で繰り返され、次いで最終pH値が比較される。
【0125】
目的の発酵乳製品を製造するための更なる適切な工程―第1態様の工程(c)
第1態様の工程(c)は、最終的に目的の発酵乳製品になるようにするための更なる適切な工程を行うことに関する。
【0126】
上で論じたように、当業者は、目的の発酵乳製品(例えば、チーズまたはヨーグルト)を製造する方法を知っている。従って、本文脈においてこれを詳細に説明する必要はない。
【0127】
製造された発酵乳製品の貯蔵―第1段階の任意選択(オプション)工程(d)
上記のように、発酵終了時の最終pHが高くなると、貯蔵寿命中のポスト酸性化の影響が大きくなると考えられる。これは、ヨーグルトなどの乳製品では重大な問題となる可能性がある(上記参照)。
【0128】
従って、本明細書で論じられる、より高い安定したpHを有するST Gal(+)株は、例えば、市販の関連乳製品の望ましい特性である、より低いポスト酸性化をもたらすだろう。
【0129】
従って、第1態様の方法の好ましい実施形態では、この方法は、以下に関連する追加の工程も含む:
(d):少なくとも1日間(例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1か月間、または少なくとも2か月間)の貯蔵期間の間の、工程(c)で製造された発酵乳製品の貯蔵であって、前記貯蔵期間の終了時の製品のpHが4.3~4.9のpHである貯蔵。
【0130】
好ましくは、貯蔵期間中、pHは、pH 0.3より大きい幅には変化しない(好ましくは、pH 0.2よりも大きくは変化しない、または更に好ましくは、pH 0.1より大きくは変化しない)。
【0131】
貯蔵は、乳製品の生産者および/または発酵乳製品(例えばヨーグルト)を販売する小売業者/商店の所であり得る。
【0132】
工程(d)に関連して―工程(d)の貯蔵期間が例えば少なくとも1日間であり、かつ製品のpHを測定した結果、製品が工程(b)の4.3~4.9の範囲内のpH(例えばpH 4,4)を有することが決定された場合、1つの工程(d)が実施される―これは、製品を長期間(たとえば、1年間)貯蔵しうる場合であっても当てはまり、そして例えば1年後の製品はpH 4.3より低いpHを有する。
【0133】
当業者は、製造された目的の発酵乳製品を貯蔵する方法を知っている。例えば、ヨーグルトは、例えば2℃~10℃、例えば5℃付近で貯蔵され得る。
【0134】
当業者は、貯蔵された目的の発酵乳製品のpHを測定する方法を知っており、そのため、工程(d)の条件が満たされているかどうかを日常的に決定することができる。
【0135】
新規ST菌のスクリーニングおよび単離方法―第2態様
【0136】
上記のように、本発明の第2態様は以下の工程を含む、新規ストレプトコッカス・サーモフィルス(ST)菌の細胞をスクリーニングおよび単離するための方法に関する:
(i):個々のST菌のプールから、第1態様の工程(a)(I)で要求されるとおりガラクトースを低減できることを特徴とする、新規の選択されたST菌のプール(本明細書では「ST Gal(+)菌」と呼ばれる)を選択および単離する工程;
(ii):工程(i)の前記選択されたST Gal(+)菌のプールから、第1態様の工程(b)で要求されるとおり発酵終了時に比較的高い安定したpH値を与えることができる、新規の単離されたST Gal(+)菌細胞を選択および単離する工程。
【0137】
第2態様の方法の工程(i)は、「個々のST菌のプールからの選択および単離」と理解される。
【0138】
知られているように、そのような個々の細菌細胞のプールを作製する/創出することは、当業者にとって日常的な作業である。
【0139】
それは、例えば、適切な好ましい開始細胞から作出でき、その開始細胞を適切な突然変異誘発(例えば、化学的突然変異原またはUV突然変異誘発を利用)に供して、前記開始細胞の変異体のプールを作製することができ、すなわち、個々の細菌細胞のプールを創出することができる。
【0140】
本明細書で論じられるように、本明細書の技術的開示および通常の一般知識を考慮すれば、第2態様のスクリーニングおよび単離方法によって、本明細書の陽性の/有用なST株を選択/同定することは当業者にとって日常業務である。
【実施例
【0141】
実施例1: ST Gal(+)菌―大量のラクトースの存在下でも(乳中のように)ガラクトースの放出を大幅に減らすことができる―すなわち、第1態様の工程「(a)(I)」のST Gal(+)菌
【0142】
参照株:
・ST株CHCC4323:これはgalK天然野生型配列(本明細書中ではGalK(-)と称する)と呼ばれる場合があり、かつ例えばチーズなどを製造するために今日商業的に使用されている関連のST株に対応するST参照株として見ることができる配列を有する。
・ST株4323-2(CHCC14993):これはgalK(ガラクトキナーゼ)遺伝子中に変異を含み(ここではGal(+)と称される)、上記WO2011/026863A1(Chr. Hansen)およびWO2011/092300A1(Chr. Hansen)の記載に従って作製された株に対応する参照株として見ることができる。
【0143】
寄託株:
CHCC14994:DSM 25838 ST株-WO2013/160413A1(Chr. Hansen)に開示されている。
CHCC19097:DSM 32594 ST株
CHCC19100:DSM 32595 ST株
CHCC27912:DSM 32596 ST株
CHCC29526:DSM 32597 ST株
CHCC29530:DSM 32598 ST株
【0144】
寄託されたST Gal(+)株のいくつかは、国際公開WO2019/042881A1(Chr. Hansen)パンフレット中に論じられている。上記のように、この国際公開(WO)公報は、本明細書で説明する「ポスト酸性化」に関連する問題について記載/関連していない。
【0145】
サーモフィルス菌(S.thermophilus)からのガラクトース過発酵性変異株の単離:
変異株を単離する前に、菌株を2%ガラクトースを含むM17寒天プレート(M17-galプレート)に画線塗抹した。野生型(wt)株は、唯一の炭水化物源としてのガラクトース上では有意に増殖しなかった。
【0146】
次に一晩培養物をM17-galプレートに塗抹し、37℃で2日間増殖させた後、いくつかのコロニーを単離することができた。いくつかの変異株をM17-galプレート上で精製し、2%ガラクトースを唯一の炭水化物として含むM17ブロス中で再試験した。精製されたガラクトース陽性変異株から、完全に成長した一晩培養物から毎日1%の再接種を行い、M17-galブロス中で継代培養することにより、第2世代のガラクトース過発酵性変異株を単離した。インキュベーションは37℃で行われた。希釈塗抹後、100個の単一コロニーをM17-galプレートから単離し、M17-galブロスを用いてマイクロタイタープレートに接種した。ODリーダーによりODを追跡し、37℃で16時間のインキュベーション中に野生型に対してODの良好な増加を示すクローンを更に精製し、特徴づけた。
【0147】
ガラクトース過発酵性変異株が単離された元の野生型(wt)サーモフィルス菌(S. サーモフィルス)は以下のものであった:
CHCC9861
CHCC4459
CHCC4426
CHCC4323
CHCC7018
CHCC3050
【0148】
著しく高いガラクトース発酵能力と培地中へのガラクトース排出の減少を示すガラクトース過発酵性変異株は以下のものであった(変異株/野生株):
CHCC27912 / CHCC9861
CHCC29526 / CHCC4459
CHCC29530 / CHCC4426
CHCC14994 / CHCC4323
CHCC19100 / CHCC7018
CHCC19097 / CHCC3050
【0149】
この例には、CHCC14993と命名された、CHCC4323から第1世代の変異体として単離された典型的なガラクトース陽性株も含まれる。CHCC14993は、17%の乳中の典型的なガラクトースの減少(野生型(wt) CHCC4323と比較した場合の乳中のガラクトース排泄の低減)を示した。
【0150】
乳の発酵
変異株を一晩培養物から脱脂牛乳に1%接種し、37℃で24時間インキュベートした。変異株の酸性化活性は、野生型(WT)株と同様であった。発酵終了時に、発酵乳中のガラクトース含有量を測定するために試料を採取し、これを用いて、ガラクトース陰性参照株CHCC4323に比較した排出ガラクトースの減少を測定した。
【0151】
結果―発酵乳中の酸性化と排泄ガラクトースの分析
試験したすべてのST菌株は、同様の酸性化プロフィールを有していた。すなわち、寄託されたST菌株は、乳中で酸性化する能力を失っていなかった。
【0152】
試験した様々な菌株のガラクトースの排泄量を以下の表1に示す。
【0153】
表1は、発酵脱脂牛乳中のガラクトース量と、参照CHCC4323と比較したガラクトースの減少とを示す。典型的なgal+ 変異株CHCC14993は、20%未満のガラクトース減少を示したが、過発酵性変異株は最大52%の極めて高い減少を示した。これは、例えば新規変異株を用いてピザチーズを製造するときに、遊離ガラクトースの量がずっと低くなり、ベーキング中の褐変の減少につながることを意味する。
【0154】
【表1】
【0155】
結論
上記結果は、寄託した菌株が、大量のラクトースの存在下でも(乳中のように)ガラクトースの放出をある程度まで減らすことができ、これは上記の参照株と比較して有意に改善されることを示した。
【0156】
実施例2: ST Gal(+)菌―発酵終了時のpH値
菌株
この実施例で検討される全てのST Gal(+)株は、本明細書の第1態様(すなわち請求項1)の要件(a)に従うST Gal(+)株であり、比較試験は、上記の実施例1に従って実施される。
【0157】
新規寄託株:
以下の新規寄託株は、本発明に関連して初めて寄託された。
【0158】
CHCC28380:DSM 33158 ST株
CHCC32045:DSM 33159 ST株
【0159】
乳の発酵
ST Gal(+)変異株および参照/野生型ST Gal(-)株を、2%ラクトースを含むM17培地中で一晩培養した脱脂牛乳1%に接種し、37℃で24時間インキュベートした。発酵中、継続的にpHを監視/測定した(Intab PCロガー、EasyView(登録商標)ソフトウェア)。
【0160】
結果
本明細書の図2は、本明細書に記載のST Gal(+)菌CHCC28380、CHCC32045およびCHCC32046が、発酵終了時に、対応する野生型ST Gal(-)菌CHCC27806よりも有意に高い安定したpH(約0.3~0.6ポイント高いpH)を有することを示した。
【0161】
本明細書の図3は、本明細書に記載のST Gal(+)菌CHCC29249およびCHCC29529が、発酵終了時に、対応する野生型ST Gal(-)菌CHCC4426自体よりも有意に高い安定したpH(約0.2~0.5ポイント高いpH)を有することを示した。また、発酵終了時、CHCC4426のpHは継続的に低下するが、変異株CHCC29249およびCHCC29529のpHはより安定しているように見えた。
【0162】
ここで別の試験菌株の関連するpHの結果は、以下の表に示される。
【0163】
【表2】
【0164】
上記表に示されるように、様々なST Gal(+)菌の例では、発酵終了時に対応する野生型ST Gal(-)菌よりも、安定したpHが大幅に高くなっている(約0.2~0.6ポイント)。
【0165】
上記表に示されるように、試験したST Gal(+)株の幾つかは、本発明に要求されるとおりには機能しなかった(すなわち、発酵終了時の比較的高い安定したpH値を与えなかった)。例として、ST Gal(+)変異株4459-GAL6が挙げられる。この株はCHCC4459のガラクトース発酵性変異株である。ただし、24時間のインキュベーション後の最終pHは、野生型株の24時間後のpHと同様であった。
【0166】
発酵終了時に比較的高いpHを持つ変異株は、一般に、いわゆるガラクトース過発酵性ST Gal(++)変異株であった。すなわち、(上記のように)それらの菌株は、少なくとも20%(例えば少なくとも25%、より好ましくは少なくとも30%、更により好ましくは少なくとも40%)だけ、上記の実施例1による参照ST CHCC4323菌と比較して乳中の排泄ガラクトース量を低減させることができた。
【0167】
試験した全ての機能しなかったST Gal(+)株のデータは示されていないが、試験したST Gal(+)株の約20%は、実際に本発明において要求される通りに機能した(すなわち、本明細書で論じられる発酵終了時に比較的高い安定したpH値を与えた)。
【0168】
結論:
上記結果は、様々なST Gal(+)菌の例が、発酵終了時、それ自体対応する野生型ST Gal(-)菌よりも有意に高い安定したpH(約0.2~0.6ポイント高いpH)を有していることを示した。
【0169】
試験した多くの異なるST Gal(+)菌について、乳の発酵は、本明細書の第1態様の工程(b)に従って、発酵終了時に比較的高い安定したpH値を与えた。
【0170】
データはまた、試験したST Gal(+)株の約20%が、実際に本明細書で要求される通りに機能したことを示した(すなわち、本明細書で論じられる発酵終了時の比較的高い安定したpH値を与えた)。
【0171】
結果はまた、本明細書の技術的教示および通常の一般的知識に基づいて、本明細書に記載の陽性の(有用な)「発酵終了時に安定した比較的高いpH」を有する新規ST Gal(+)株を同定することは、当業者にとって日常的なスクリーニング/選択作業であることも証明した。
【0172】
試験したST Gal(-)株はいずれも陽性でなかった。すなわち、本発明の第1態様の工程(b)に従う発酵終了時のpH値を与えるものは1つもなかった。
【0173】
実施例3:試験したST Gal(+)株のゲノム分析
上述したとおり、試験したST Gal(+)株のすべてが、実際に本発明に要求されるとおりに機能した(すなわち、発酵終了時に本明細書で論じられる比較的高い安定したpHを与えた)わけではなかった。
【0174】
従って、好ましい良好に機能する陽性のST Gal(+)変異株の間で共通の構造要素を見つけ出すために、ゲノム分析を実施した。
【0175】
結果:
以下の表は、上記実施例2で論じた幾つかの株―すなわち、上記実施例2の陽性と陰性(機能しない)株の両株のガラクトキナーゼ遺伝子(galK)のプロモーターの -10領域中の変異を示す。
【0176】
Table 2.野生型株と比較したガラクトース陽性変異株のガラクトキナーゼ遺伝子(galK)のプロモーターの -10領域のDNA配列。野生型株の対応するgal+変異体は、それぞれの野生型株の下に示されている。
【0177】
【表3】
【0178】
結論:
結果は、本発明に関連する良好に機能するST Gal(+)株が、好ましくは、ガラクトキナーゼ遺伝子(galK)のプロモーター配列(配列番号8)の -10領域に突然変異を有するST Gal(+)菌であることを証明した。この突然変異により、野生型 -10領域(TACGAT、配列番号1)のCとGの一方または両方が、AとTからなる群より独立に選択されるヌクレオチドにより置換される。
【0179】
より好ましくは、突然変異は、ヌクレオチド配列TATGAT(配列番号2―例えば、CHCC28380およびCHCC32045の著しく陽性の結果を参照)またはTACTAT(配列番号4―例えば、CHCC29248の著しく陽性の結果を参照)を有する-10領域をもたらす。
【0180】
本明細書において新規に寄託されたST Gal(+)株(CHCC28380=DSM 33158; CHCC32045=DSM 33159)は、発酵終了時に非常に良好な安定した比較的高いpHを有し、これらの寄託株は、突然変異「TATGAT」を有し(配列番号2)、従ってここでは最も好ましい。
【0181】
参考文献
1. EP2957180B1 (Chr. Hansen A/S, Denmark)
2. YOFLEX(登録商標) ACIDIFIX(登録商標) of Chr. Hansen A/S
3. Anbukkarasi et al. (J Food Sci Technol (September 2014) 51(9):2183-2189)
4. Anbukkarasi et al. (“Production of low browning Mozzarella cheese: Screening and characterization of wild galactose fermenting Streptococcus thermophilus strains”, International Journal of advanced research, 2013, vol. 1, no. 5, pp. 83-96)
5. Derkx et al. (“The art of strain improvement of industrial lactic acid bacteria without the use of recombinant DNA technology”; Microbial Cell Factories 2014, 13 (Suppl 1))
6. WO2011/026863A1 (Chr. Hansen)
7. WO2011/092300A1 (Chr. Hansen)
図1
図2
図3
【配列表】
2022538032000001.app
【国際調査報告】