(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220824BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220824BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220824BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220824BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220824BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220824BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220824BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220824BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220824BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220824BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220824BHJP
【FI】
A61K39/395 N
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 D
A61P43/00 121
A61K47/68
A61P37/02
A61P29/00
A61P1/04
A61P17/00
A61P37/08
C12P21/08
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576307
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 GB2020051497
(87)【国際公開番号】W WO2020254828
(87)【国際公開日】2020-12-24
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521555823
【氏名又は名称】ソリッソ ファーマシューティカルズ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】クロウ,スコット
(72)【発明者】
【氏名】ウェスト,マイク
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】カールトン,ティム
(72)【発明者】
【氏名】マッジョーレ,ルアナ
(72)【発明者】
【氏名】キュービット,マリオン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥアルテ,ルルデス
(72)【発明者】
【氏名】レイ,キース
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC06
4B064CC10
4B064CC12
4B064CC24
4B064CE03
4B064DA01
4C076BB01
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC16
4C076CC18
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA15
(57)【要約】
【解決手段】
とりわけ、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物であって、IL-7R結合ポリペプチドは、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は、配列番号9と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR2は、配列番号10と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR3は、配列番号11と60%以上の配列同一性を共有する配列を含む、組成物。
【請求項2】
前記TNF-α結合ポリペプチドが、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は、配列番号1と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR2は、配列番号2と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR3は、配列番号3と60%以上の配列同一性を共有する配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記TNF-α結合ポリペプチドが、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は、配列番号1と80%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR2は、配列番号2と80%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR3は、配列番号3と80%以上の配列同一性を共有する配列を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記IL-7R結合ポリペプチドが、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は、配列番号9と80%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR2は、配列番号10と80%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR3は、配列番号11と80%以上の配列同一性を共有する配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
(a)前記TNF-α結合ポリペプチドが、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は配列番号1を含み、CDR2は配列番号2を含み、CDR3は配列番号3を含み、ならびに
(b)前記IL-7R結合ポリペプチドが、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は配列番号9を含み、CDR2は配列番号10を含み、CDR3は配列番号11を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(a)前記TNF-α結合ポリペプチドが、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は配列番号1からなり、CDR2は配列番号2からなり、CDR3は配列番号3からなり、ならびに
(b)前記IL-7R結合ポリペプチドが、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は配列番号9からなり、CDR2は配列番号10からなり、CDR3は配列番号11からなる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリペプチドが抗体または抗体フラグメントである、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリペプチドがそれぞれ、免疫グロブリン鎖可変ドメインを含む、または該ドメインからなる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリペプチドがそれぞれ、VHH、VH、またはVLから選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリペプチドがそれぞれ、VHHまたはVHから選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記TNF-α結合ポリペプチドは、10
-7M以下のKdをもってTNF-αに結合し、前記IL-7R結合ポリペプチドは、10
-7M以下のKdをもってIL-7Rに結合する、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記TNF-α結合ポリペプチドは、100nM以下のEC50をもってL929アッセイにおいてヒトTNF-α細胞毒性を中和し、前記IL-7R結合ポリペプチドは、100nM以下のEC50をもってヒトリンパ球においてIL-7R依存性、IL-7誘導型のSTAT5リン酸化を中和する、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
(a)前記TNF-α結合ポリペプチドが、配列番号8に対して少なくとも75%の同一性を共有する配列を含む、または該配列からなり、
(b)IL-7R結合ポリペプチドが、配列番号16に対して少なくとも75%の同一性を共有する配列を含む、または該配列からなる、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
(a)前記TNF-α結合ポリペプチドが、配列番号8を含む、または配列番号8からなり、
(b)IL-7R結合ポリペプチドが、配列番号16を含む、または配列番号16からなる、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記TNF-α結合ポリペプチドおよび前記IL-7R結合ポリペプチドが、結合される、請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記TNF-α結合ポリペプチドおよび前記IL-7R結合ポリペプチドが、プロテアーゼ不安定ペプチドリンカーにより結合される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記プロテアーゼ不安定ペプチドリンカーが、Kおよび/またはR残基を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記プロテアーゼ不安定リンカーが、フォーマット-(G
4S)
x-K-(G
4S)
y-の配列(配列番号34)を含む、または該配列からなり、xおよびyはそれぞれ独立して、1~5である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記プロテアーゼ不安定リンカーが、フォーマット-(G
4S)
2-K-(G
4S)
2-の配列(配列番号21)を含む、または該配列からなる、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記ポリペプチドが、小腸または大腸に存在する1つ以上のプロテアーゼに対して実質的に耐性を示す、請求項1から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記プロテアーゼが、トリプシンおよびキモトリプシンである、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の組成物と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項23】
薬剤として使用するための、請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置または予防に使用するためのものである、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置または予防のための薬剤の製造における、請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項26】
自己免疫疾患および/または炎症性疾患を処置または予防する方法であって、必要とする人に請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物を投与する工程を含む方法。
【請求項27】
前記自己免疫疾患および/または炎症性疾患が、炎症性腸疾患および/または粘膜炎である、請求項24から26のいずれか一項に記載の組成物、使用、または方法。
【請求項28】
前記自己免疫疾患および/または炎症性疾患が、アトピー性皮膚炎である、請求項24から26のいずれか一項に記載の組成物、使用、または方法。
【請求項29】
前記組成物が、経口投与用である、請求項23から28のいずれか一項に記載の組成物、使用、または方法。
【請求項30】
前記組成物が、局所投与用である、請求項23から28のいずれか一項に記載の組成物、使用、または方法。
【請求項31】
IL-7R結合ポリペプチドとともに、自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置または予防に使用されるTNF-α結合ポリペプチドであって、前記IL-7R結合ポリペプチドは、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は、配列番号9と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR2は、配列番号10と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR3は、配列番号11と60%以上の配列同一性を共有する配列を含む、TNF-α結合ポリペプチド。
【請求項32】
TNF-α結合ポリペプチドとともに、自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置または予防に使用されるIL-7R結合ポリペプチドであって、前記IL-7R結合ポリペプチドは、3つの相補性決定領域(CDR1~CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含み、CDR1は、配列番号9と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR2は、配列番号10と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR3は、配列番号11と60%以上の配列同一性を共有する配列を含む、IL-7R結合ポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物ならびに構築物に関する。本発明はまた、かかる構築物をコードする核酸、かかる組成物および構築物を調製する方法、かかる構築物をコードする核酸を含むcDNAおよびベクター、かかる構築物を発現するか発現可能な宿主細胞、ならびにかかる組成物および構築物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子αは、可溶性形態と膜結合形態の両方に存在する全身性炎症に関与するホモ三量体炎症促進性サイトカインである。TNF-αは、主に単球およびマクロファージにより分泌されるが、腫瘍細胞株のほか、CD4+およびCD8+末梢血Tリンパ球、ならびに一部の培養TおよびB細胞株により分泌される。TNF-αは、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症、悪性病変、および/または神経変性疾患に関係するものであり、関節リウマチやクローン病(CD)などの自己免疫/自己炎症性疾患を対象とする特異的な生物学的治療の標的である。
【0003】
インターロイキン-7(IL-7)は、非造血性の間質細胞および上皮細胞により構成上産生され、胸腺でのTリンパ球の発達、および末梢性T細胞の生存およびホメオスタシス調節に不可欠なものである。腸管粘膜では、IL-7はさらに、病原性微生物チャレンジに対する免疫応答の最初のプライミングに重要な自然リンパ球細胞のほか、リンパ系組織器官形成および一部の樹状細胞集団を促進する能力を有するCD4+リンパ組織誘導物質(LTi)細胞の、表現型的かつ機能的に別個の集団を調節する。T細胞に対するIL-7の効果は機能的であるため、IL-7は、防御免疫のほか、自己免疫および炎症の重要な強化因子(enhancer)となる。異なる標的細胞に対するIL-7の効果は、IL-7R、IL-7Rαサブユニット(CD127)を含むヘテロ二量体複合体、および共通のサイトカイン受容体γ鎖(γc)(CD132)を介して媒介される。IL-7Rαは、細胞膜結合型のフォーマットだけでなく、可溶性形態(sIL-7Rα)でも利用可能である。前臨床試験では、ヒトT細胞発達およびホメオスタシスにおいてIL-7/IL-7Rαが果たす役割に加えて、異なる自己免疫および炎症性疾患の動物モデルにおけるIL-7/IL-7Rα経路の関与を実証した。
【0004】
TSLPは、身体の粘膜表面での炎症プロセスの調節に関与すると考えられているサイトカインである。TSLPは、樹状細胞(DC)および自然リンパ球細胞(ILC)を刺激してTh2サイトカイン類(IL-4、IL-5、およびIL-13)の分泌を誘導し、Th2型炎症の進行を促進する。TSLPは現在、アトピー性皮膚炎や鼻炎を含む一部のアレルギー障害発症の基礎をなすとともに、エオシン好性食道炎(EoE)および潰瘍性大腸炎(UC)を含む腸障害を促進すると考えられている。逆説的には、TSLPはさらに、胃腸管における免疫ホメオスタシスおよび粘膜保護の維持に重要なものであるとも報告された。近年では、TSLPは2つの異なるアイソフォームとして発現される場合があるという発見は、このサイトカインの明らかに対照的な活性についての生物学的な説明を提供している。分子試験では、TSLP遺伝子は、2つの異なるプロモータ領域により調節される2つのコーディングRNAを生じさせる場合があると認められている。転写産物の1つは、159aaのTSLP(L-TSLP)の長いアイソフォーム(UNIPROT entry Q969D9、配列番号22)をコードし、第2の転写産物は、L-TSLPのC末端63aaを包含するTSLP(S-TSLP)の短い形態(UNIPROT entry Q969D9-2、配列番号23)をコードする。L-TSLPは、TSLP特異的受容体鎖(TSLPR)およびIL-7Rα鎖を含む受容体複合体を介して、標的細胞に作用する。近年の構造試験では、IL-7およびL-TSLPとTSLP受容体複合体のIL-7Rα鎖との相互作用は、共通のIL-7Rα結合部位を対象とすることが認められている(Verstraete et al 2017)。S-TSLPは、TSLPRに結合せず、この受容体に対するL-TSLPの結合を阻害することができない。著者の知る限りでは、S-TSLPに特異的な受容体は、現在まで特定されていない。重要なことに、S-TSLPは、主に健康な皮膚により、および上皮細胞と基底膜細胞により健康な腸粘膜組織に発現されることが認められている。S-TSLPは抗炎症性活性を有している。in vitroのS-TSLPは、単球由来のDCにより炎症促進性のサイトカインの産生を阻害し、免疫寛容原性表現型に対するCD103+DCの調整に寄与する。
【0005】
このため、TNFα、IL-7、およびL-TSLPはすべて、IBDにおける腸炎症の発症と維持に関与する細胞の種類と経路を調節するサイトカインである。抗TNF-α抗体は、クローン病および潰瘍性大腸炎の処置を変えた。しかし、抗TNF-α薬剤を処方された患者の約3分の1は、一次不応答者である。一次応答者において、その後の反応損失は、1年あたり10~50%変動する場合がある(二次不応答)。一次不応答を認めた患者は、2回目の抗TNF-α薬剤に切り替えても恐らく利益を受けない。その結果、このような患者において満たされていない臨床的必要性に対してより良く対処するために、新たな有効な治療が必要とされている。現在、IL-7R遮断抗体の有効性試験は、腸炎症疾患の患者を対象に行われていない。しかし、前臨床試験では、IL-7R遮断抗体の短期全身投与は、胃腸炎症モデルにおいて有効な処置となり得ることを実証した。マウスIBDモデルでは、IL-7Rアンタゴニスト投与後の有効性に関する一次機構は、中程度~高度のIL-7Rαを発現するとともに、炎症腸組織でのIL-7の産生増加に起因して活性化される病原性T細胞(IL-7R+作用因子/記憶T細胞)の局所的な枯渇または機能的阻害に関与している。IL-7/IL-7R経路の阻害は、TNF-α中和抗体の動作に関与するものとは異なる機構により炎症促進性T細胞に対処するための新規な戦略を表す。このため、抗TNF-αおよび抗IL-7R抗体の効果の組合せを完遂する組成物または構築物は、より幅広いIBD患者群において有効性が改善する可能性を有している。
【0006】
WO2004041862、WO2006122786、およびCoppieters et al 2006(本明細書ではそれら全体が参照により組み込まれる)は、TNF-αおよび関連する態様を対象とする単一ドメイン抗体を開示する。WO2013056984、WO2015189302、WO2011094259、およびWO2011104687(本明細書ではそれら全体が参照により組み込まれる)は、IL-7Rおよび関連する態様を対象とする抗体を開示する。
【0007】
本発明の組成物または構築物は、少なくともいくつかの実施形態では、先行技術の物質と比較して以下の利点のうち1つ以上を有する場合がある。これら利点は、本発明の組成物中の成分であるポリペプチドそれぞれによりそれ自体で実現することができ、あるいは、本発明の組成物中のポリペプチド同士の組合せにより、以下の利点のうち1つ以上に関して相加的またはさらに相乗的な効果が生じる場合がある。
(a)TNF-αおよび/またはIL-7Rの親和性および/または結合活性の増加、
(b)TNF-αおよび/またはIL-7Rに対する中和能の増加、
(c)シグナル伝達タンパク質のリン酸化阻害の増加、
(d)サイトカイン産生阻害の増加、
(e)例えばマウス、カニクイザル、またはヒトに投与したときの免疫原性の低下、
(f)例えば(a)小腸および/または大腸に見られるプロテアーゼ、ならびに/あるいはIBD炎症性プロテアーゼ、例えばトリプシン、キモトリプシン、エンテロキナーゼ、MMP3、MMP10、MMP12、他のMMP、およびカテプシンの存在下、ならびに/あるいは(b)細胞膜付着プロテアーゼ、分泌プロテアーゼ、および小腸および/または大腸に見られる腸共生マイクロフローラおよび/または病原性菌からの細胞溶解に放出されたプロテアーゼなどのプロテアーゼの存在下での安定性の増加、
(g)産生中のプロテアーゼ分解に対する安全性(例えば、酵母菌プロテアーゼに対する耐性)の増加、
(h)経口投与の適切性の増加、
(i)経口投与後の腸管および基底膜への局所送達の適切性の増加、
(j)細菌(例えば大腸菌)または酵母菌(例えばSaccharomyces cerevisiaeまたはPichia pastoris)などの異種の宿主における発現の適切性の増加、
(k)医薬品における使用の適切性、および特性の改善、
(l)機能性食品における使用の適切性、および特性の改善、
(m)粘膜下基底膜にアクセスするための、炎症を起こした結腸粘膜上皮および粘膜下組織の浸透などの組織浸透の改善、
(n)例えばヒト免疫グロブリンに対する配列類似性の増加に起因するヒトの免疫原性の低下、
(o)特に経口投与したときに、具体的には炎症性腸疾患および/または粘膜炎を含む自己免疫疾患および/または炎症性疾患のより有効な予防または処置、その症状の改善、ならびに
(p)新規なエピトープへの結合。
【発明の概要】
【0008】
本発明者は、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL7R結合ポリペプチドを含む、驚くほどに有効な組成物ならびに構築物を提供する。具体的には、単一の組成物中でのTNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドの提供は、各結合ポリペプチドを個別に提供するよりも有効な可能性があることが認められている。いくつかの実施形態では、本発明の組成物中でのこれらポリペプチドの組合せには相加効果があり、さらなる実施形態では、本発明の組成物中でのこれらポリペプチドの組合せには相乗効果がある可能性がある。
【0009】
本明細書に開示される発見に基づき、炎症性腸疾患患者(実施例4および5)からex vivoで培養した腸の粘膜組織を使用すると、これらの組成物は、自己免疫疾患および/または炎症性疾患の予防あるいは処置において特に有効であると予想することができる。より具体的には、本明細書に開示される発見は、これら組成物が、特に経口投与されたときに、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、またはチェックポイント阻害剤誘導型大腸炎)の予防または処置、あるいは粘膜炎もしくは食道炎の予防または処置において特に有効であることを示している。
【0010】
疾患の処置においてTNF-α結合ポリペプチドをIL-7R結合ポリペプチドとともに使用することにより、同じ利益が導き出される可能性があると予想することができ、この場合、ポリペプチドは同じ組成物中で組み合わされていない。同様に、疾患の処置においてIL-7R結合ポリペプチドをTNF-α結合ポリペプチドとともに使用することにより、同じ利益が導き出される可能性があると予想することができ、この場合、ポリペプチドは同じ組成物中で組み合わされていない。
【0011】
本発明は、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物を提供する。
【0012】
また、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチド、ならびにこの構築物をコードするポリヌクレオチドも提供される。
【0013】
さらに、自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置あるいは予防において、IL-7R結合ポリペプチドとともに使用されるTNF-α結合ポリペプチド、ならびに自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置あるいは予防において、TNF-α結合ポリペプチドとともに使用されるIL-7R結合ポリペプチドも、提供される。
【0014】
特異的なTNF-α結合ポリペプチド、および本明細書に開示されるデータの一部は、PCT国際公開WO/2016/156465にも開示される(特にこの出願がTNF-α結合ポリペプチドID-38Fに関係がある限りでは、その全体を参照することにより本明細書に組み込まれる)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】胃腸抽出物におけるV7R-2E9およびID-A40Uの生存率の図である。
【
図2】ヒトの便の上清におけるID-A62UおよびID-A41Uの生存率の図である。
【
図3】UC生検組織(Lckに対するリンタンパク質p38α)でのリン酸化に対するID-38FとID-A62Uの組合せの効果の図である。
【
図4】UC生検組織(hsp60に対するリンタンパク質STAT5a)でのリン酸化に対するID-38FとID-A62Uの組合せの効果の図である。
【
図5】薬剤を個別および組み合わせて投与した後、患者UC2747、UC2748、UC2749、およびUC2750の生検を対象に測定したホスホ強度(phospho-intensity)の合計値の図である。
【
図6】薬剤(IL-1βおよびIL-6)を個別および組み合わせて投与した後、全患者の生検を対象に測定した平均サイトカイン産生の図である。
【
図7】薬剤(IL-8およびTNF-α)を個別および組み合わせて投与した後、全患者の生検を対象に測定した平均サイトカイン産生の図である。
【
図8】薬剤(IL-17AおよびIL-10)を個別および組み合わせて投与した後、全患者の生検を対象に測定した平均サイトカイン産生の図である。
【
図9】トリプシン処置を行う前後での、両頭(bihead)構築物FU3KからのID-38FおよびID-A62Uの放出に対するSDS PAGE解析の図である。
【
図10】IL-7/IL-7R ELISAを使用するトリプシン処置の前後でのFU3KおよびID-A62Uの効力の図である。
【
図11】ビオチン化Humira競合ELISAを使用するトリプシン処置の前後でのFU3KおよびID-38Fの効力の図である。
【
図12】ヒトの便の上清における、(a)ID-A62U、(b)ID-38F、(c)FU3Kからの放出後のID-A62UおよびID-38F、ならびに(d)ID-A41Uの生存率の図である。
【0016】
配列の説明
配列番号1 ID-38FのCDR1のポリペプチド配列
配列番号2 ID-38FのCDR2のポリペプチド配列
配列番号3 ID-38FのCDR3のポリペプチド配列
配列番号4 ID-38FのFR1のポリペプチド配列
配列番号5 ID-38FのFR2のポリペプチド配列
配列番号6 ID-38FのFR3のポリペプチド配列
配列番号7 ID-38FのFR4のポリペプチド配列
配列番号8 ID-38Fのポリペプチド配列
配列番号9 ID-A62UのCDR1のポリペプチド配列
配列番号10 ID-A62UのCDR2のポリペプチド配列
配列番号11 ID-A62UのCDR3のポリペプチド配列
配列番号12 ID-A62UのFR1のポリペプチド配列
配列番号13 ID-A62UのFR2のポリペプチド配列
配列番号14 ID-A62UのFR3のポリペプチド配列
配列番号15 ID-A62UのFR4のポリペプチド配列
配列番号16 ID-A62Uのポリペプチド配列
配列番号17 ID-38F(2つの停止コドンを含む)をコードするポリヌクレオチド配列
配列番号18 ID-A62U(2つの停止コドンを含む)をコードするポリヌクレオチド配列
配列番号19 エンテロキナーゼ切断部位のポリペプチド配列
配列番号20 エンテロキナーゼ切断部位を含むポリペプチド配列
配列番号21 FU3Kに使用される特定の不安定リンカーのポリペプチド配列
配列番号22 L-TSLPのポリペプチド配列
配列番号23 S-TSLPのポリペプチド配列
配列番号24 ID-A40Uのポリペプチド配列
配列番号25 V7R-2E9のポリペプチド配列
配列番号26 FU3K両頭のポリペプチド配列
配列番号27 FU3K両頭をコードするポリヌクレオチド配列
配列番号28 配列番号9の残基1での任意選択の保存的置換を伴うCDR1のポリペプチド配列
配列番号29 配列番号10の残基2、3、7、12、および16での任意選択の保存的置換を伴うCDR2のポリペプチド配列
配列番号30 配列番号11の残基3および9での任意選択の保存的置換を伴うCDR3のポリペプチド配列
配列番号31 非プロテアーゼ不安定ペプチドリンカーフォーマットのポリペプチド配列
配列番号32 トリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーフォーマットのポリペプチド配列
配列番号33 トリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーフォーマットのポリペプチド配列
配列番号34 第2のトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーフォーマットのポリペプチド配列
配列番号35 例となるトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーのポリペプチド配列
配列番号36 例となるトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーのポリペプチド配列
配列番号37 例となるトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーのポリペプチド配列
配列番号38 例となるトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーのポリペプチド配列
配列番号39 例となるトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーのポリペプチド配列
配列番号40 例となるトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーのポリペプチド配列
配列番号41 例となるトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーのポリペプチド配列
配列番号42 第3のトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーフォーマットのポリペプチド配列
配列番号43 キモトリプシンプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーフォーマットのポリペプチド配列
【発明を実施するための形態】
【0017】
VHおよびVHHなどの免疫グロブリン鎖可変ドメイン(ICVD)を含む抗体および抗体フラグメントなどのポリペプチド
【0018】
ポリペプチドは、鎖の中で一体的に結合した多数のアミノ酸残基からなる有機高分子である。本明細書で使用するとき、「ポリペプチド」は、「タンパク質」および「ペプチド」と交換可能に使用される。ポリペプチドは、結合部位を形成するアミノ酸残基の1つ以上の伸張部を含有し、一定の親和性(適切なものでは、本明細書にさらに記載されるようなKd値、Ka値、kon率、および/またはkoff率)をもって標的上でエピトープに結合可能であるときは、結合ポリペプチドであると言われる。
【0019】
結合ポリペプチドは、DARPins(Binz et al.2003)、Affimers(商標)(Johnson et al 2012)、Fynomers(商標)(Grabulovski et al 2007)、Centyrins(Goldberg et al 2016)、Affitins(例えば、Nanofitins(登録商標)、Krehenbrink et al 2008)、環状ペプチド、抗体、および抗体フラグメントなどのポリペプチドを含む。結合ポリペプチドはさらに、Affibodies(Nygren 2008)、Affilins(Ebersbach et al.2007)、Alphabodies(Desmet et al 2014)、Anticalins(Skerra et al 2008)、Avimers(Silverman et al 2005)、Kunitzドメインペプチド(Nixon and Wood 2006)、Monobodies(Koide and Koide 2007)、nanoCLAMPs(Suderman et al 2017)、Adnectins(Lipovsek 2011)、および二環式ペプチドなどのポリペプチドを含む。
【0020】
従来の抗体または免疫グロブリン(Ig)は、4つのポリペプチド鎖として、2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖を含むタンパク質である。各鎖は、定常領域と可変ドメインとに分割される。重鎖可変ドメインは、本明細書ではVHCと省略され、軽(L)鎖可変ドメインは、本明細書ではVLCと省略される。これらドメイン、これに関連するドメイン、およびこれに由来するドメインは、本明細書では免疫グロブリン鎖可変ドメイン(「ICVD」)と呼ばれる。
【0021】
VHCおよびVLCドメインはさらに、「相補性決定領域」(「CDR」)と称される超可変性領域に細分され、さらに保存されるドメインに散在する場合があり、このドメインは「フレームワーク領域」(「FR」)と称される。フレームワークおよび相補性決定領域は、正確に定義されている(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Kabat et al 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication Number 91-3242)。従来の抗体では、VHCとVLCはそれぞれ、アミノ末端からカルボキシ末端に配置される3つのCDRおよび4つのFRで構成されており、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置される。2つの重免疫グロブリン鎖および2つの軽免疫グロブリン鎖からなる従来の抗体四量体は、例えばジスルフィド結合により重および軽免疫グロブリン鎖を相互に接続し、重鎖を同様に(similarity)接続した状態で形成される。重鎖定常領域は、3つのドメインとしてCH1、CH2、CH3を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメインとしてCLで構成される。
【0022】
重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインは、抗原と相互に作用する結合ドメインである。抗体の定常領域は一般的に、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1の要素(C1q)を含む宿主組織または因子への抗体の結合を媒介するものである。抗体という用語は、IgA、IgG、IgE、IgD、IgM型の免疫グロブリン(ならびにこれらの亜型)を含み、ここで免疫グロブリンの軽鎖は、カッパまたはラムダ型の場合がある。2つの同一の重(H)鎖および2つの同一の軽(L)鎖ポリペプチドから組み立てた免疫グロブリンγ(IgG)抗体の全体構造は、十分に確立されており、哺乳動物において高度に保存されている(Padlan 1994 Mol Immunol 31:169-217)。
【0023】
従来の抗体構造の例外は、ラクダの血清に見出されている。これら血清は、従来の抗体に加えて特殊なIgG抗体を持つ。これらIgG抗体は、重鎖抗体(HCAbs)と知られており、L鎖ポリペプチドがなく、第1の定常ドメイン(CH1)を欠く。そのN末端領域では、ホモ二量体タンパク質の重鎖が、VHHと称される専用の免疫グロブリン鎖可変ドメインを含有しており、このドメインは、その同種抗原と会合する役割を果たす(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Muyldermans et al 2013、Hamers-Casterman et al 1993、Muyldermans et al 1994)。
【0024】
抗体フラグメントは、本明細書で使用するとき、標的(例えば、1つ以上の免疫グロブリン鎖が完全長でないが、特異的に標的に結合する分子)に特異的に結合する抗体の一部を指す。抗体フラグメント(または「抗原結合フラグメント」)という用語に包含される結合フラグメントの例は、
(i)Fabフラグメント(VLC、VHC、CL、およびCH1ドメインからなる単価フラグメント)、
(ii)F(ab’)2フラグメント(ヒンジ領域でのジスルフィド架橋により結合される2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント)、
(iii)Fdフラグメント(VHCおよびCH1ドメインからなる)、
(iv)Fvフラグメント(抗体の単一群のVLCおよびVHCドメインからなる)、
(v)scFvフラグメント(VLCおよびVHC領域が対になり単価分子を形成する単一タンパク質鎖としての作製を可能にする合成リンカーにより、組換え法を使用して結合されるVLCおよびVHCドメインからなる)、
(vi)VH(従来の4つの鎖免疫グロブリンのVHCドメインからなる免疫グロブリン鎖可変ドメイン(Ward et al 1989)、
(vii)VL(VLCドメインからなる免疫グロブリン鎖可変ドメイン、
(viii)V-NAR(軟骨魚鋼IgNAR由来のVHCドメインからなる免疫グロブリン鎖可変ドメイン)(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Roux et al 1998 and Griffiths et al 2013)、
(ix)VHH
を含む。
【0025】
VHHまたはVHのアミノ酸残基の合計数は、110~140、より適切には110~120の領域にある場合がある。
【0026】
本明細書に提供される例は、TNF-αに結合する免疫グロブリン鎖可変ドメインと、IL-7Rに結合する免疫グロブリン鎖可変ドメインとを含む組成物に関する。しかし、本明細書に開示される本発明の原理は、抗体および抗体フラグメントなど、TNF-αに結合するポリペプチドと、IL-7Rに結合するポリペプチドとを含むあらゆる組成物に対して等しく適用可能である。例えば、免疫グロブリン鎖可変ドメインは、完全長の抗体などのポリペプチドに組み込むことができる。このような手法は、McCoy et al.,2014により実証されており、ヒトFc領域(ヒンジ、CH2、およびCH3ドメインを含む)との融合として操作され、二量体構築物として発現される抗HIV VHHを提供している。
【0027】
適切には、本発明のポリペプチドは、免疫グロブリン鎖可変ドメインを含む。より適切には、本発明のポリペプチドは、免疫グロブリン鎖可変ドメインからなる。適切には、本発明のポリペプチドは、抗体または抗体フラグメントである。より適切には、本発明のポリペプチドは、抗体フラグメントである。適切には、抗体フラグメントは、VHH、VH、VL、V-NAR、scFv、Fabフラグメント、またはF(ab’)2フラグメントである。適切には、抗体フラグメントは、免疫グロブリン鎖可変ドメイン(VHH、VH、VLなど)である。適切には、抗体フラグメントは、免疫グロブリン重鎖可変ドメインである。より適切には、抗体フラグメントは、VHHまたはVHであり、最も適切にはVHHである。
【0028】
特異性、親和性、結合活性、効力、阻害、および中和
特異性は、特定の結合ポリペプチドが結合可能である様々な標的(抗原や抗原決定基など)の数を指す。結合ポリペプチドの特異性は、結合ポリペプチドが特定の標的を固有の分子実体として認識し、これを別のものと区別する能力である。
【0029】
親和性は、結合ポリペプチド(Kd)からの標的の解離に関する平衡定数により表されるものであり、結合ポリペプチド上の標的と結合部位との結合強度の測定値である。Kd値が低いほど、標的と結合ポリペプチドとの結合強度は高くなる(代替的に、親和性は、1/Kdである結合定数(Ka)として表すこともできる)。親和性は、目的の特異性抗原に応じて既知の方法により求めることができる。適切には、親和性は、動的に切替え可能なバイオ表面を用いて(例えば「switchSENSER」、Knezevic et al 2012を参照)、または表面プラズモン共鳴により求められる。
【0030】
結合活性は、結合ポリペプチドと関連する標的との結合強度の測定値である。結合活性は、結合ポリペプチド上での標的とその結合部位との親和性、および結合ポリペプチドに存在する関連する結合部位の数の両方に関係する。
【0031】
10-6M未満のKd値は、結合を示すと考えられる。標的(抗原または抗原決定基など)への結合ポリペプチドの特異的結合は、例えば、スキャチャード解析、および/または放射免疫定量法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、サンドイッチ競合アッセイなどの競合結合測定法を含む適切な既知の様式、ならびに当該技術分野で知られるこれらの様々な変形において求めることができる。
【0032】
効力は、所与の強度の効果をもたらすのに必要な量の観点における発現された治療薬(結合ポリペプチドなど)の活性の測定値である。高度に有力な薬剤は、低濃度で小さな反応を誘発する効力が低い薬剤と比較して、低濃度でも高い反応を誘発する。効力は、親和性および効果に左右される。効果は、治療薬が標的への結合に際して生体応答をもたらす能力、およびこの反応の定量的規模を指す。半数効果濃度(EC50)という用語は、特定の暴露時間後に下限と最大との間の半分で反応を生じさせる治療薬の濃度を指す。治療薬は、阻害(具体的には半数阻害濃度「IC50」と称される場合がある)または刺激を引き起こす場合がある。EC50およびIC50はよく使用されるものであり、本明細書では効力の測定値として使用される。EC50およびIC50は、両方の結合ポリペプチドが標的の阻害を生じさせることに起因して、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドに関して本明細書では交換可能に使用される。
【0033】
TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドの効力を確認するのに適した特異的な分析は、それぞれ「TNFα結合ポリペプチド」および「IL-7R結合ポリペプチド」という表題の下で以下に詳述する。
【0034】
ポリペプチドおよびポリヌクレオチド配列
密接に関連する2つのポリペプチド配列を比較するために、第1のポリペプチド配列と第2のポリペプチド配列との「配列同一性%」は、ポリペプチド配列に対する標準設定を用いるNCBI BLAST v2.0(BLASTP)を使用して、算出することができる。密接に関連する2つのポリヌクレオチド配列を比較するために、第1のヌクレオチド配列と第2のヌクレオチド配列との「配列同一性%」は、ヌクレオチド配列に対する標準設定を用いるNCBI BLAST v2.0(BLASTN)を使用して、算出することができる。
【0035】
ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列は、その全体の長さにわたり100%の配列同一性を共有する場合、他のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの配列と同じまたは同一であると言われる。配列中の残基は、左から右、すなわちポリペプチドではN末端からC末端、ポリヌクレオチドでは5’末端から3’末端へと番号を付けられる。
【0036】
配列間の「差」は、第1の配列と比較した場合の第2の配列の一部における単一アミノ酸の挿入、欠失、または置換を指す。2つのポリペプチド配列が、このようなアミノ酸差を1、2、またはそれより多く伴う場合がある。その他の点では第1の配列と同一(100%の配列同一性)である第2の配列の挿入、欠失、または置換は、配列同一性%の低下をもたらす。例えば、同一の配列が9のアミノ酸残基長である場合、第2の配列における1つの置換は、88.9%の配列同一性をもたらす。同一の配列が17のアミノ酸残基長である場合、第2の配列における2つの置換は、88.2%の配列同一性をもたらす。同一の配列が7のアミノ酸残基長である場合、第2の配列における3つの置換は、57.1%の配列同一性をもたらす。第1および第2のポリペプチド配列が9のアミノ酸残基長であり、6の同一残基を共有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、66%超の同一性を共有する(第1および第2のポリペプチド配列は、66.7%の同一性を共有する)。第1および第2のポリペプチド配列が17のアミノ酸残基長であり、16の同一残基を共有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、94%超の同一性を共有する(第1および第2のポリペプチド配列は、94.1%の同一性を共有する)。第1および第2のポリペプチド配列が7のアミノ酸残基長であり、3の同一残基を共有する場合、第1および第2のポリペプチド配列は、42%超の同一性を共有する(第1および第2のポリペプチド配列は、42.9%の同一性を共有する)。
【0037】
代替的に、第1の基準ポリペプチド配列を第2の比較ポリペプチド配列と比較するために、第2の配列を産生するために第1の配列に行われる付加、置換、および/または欠失の数が、確認される場合がある。付加とは、第1のポリペプチド配列への1つのアミノ酸残基の付加(第1のポリペプチドのいずれかの末端における付加を含む)である。置換とは、1つの異なるアミノ酸残基を伴う第1のポリペプチド配列における1つのアミノ酸残基の置換である。欠失とは、第1ポリペプチド(第1ポリペプチドのいずれの終点における欠失を含む)の配列からの1つのアミノ酸残基の欠失である。
【0038】
「保存的」アミノ酸置換とは、アミノ酸残基が同様の化学構造を持つ別のアミノ酸残基と置き換えられ、およびポリペプチドの機能、活性、またはその他の生物学的特性にほとんど影響が無いと予測されるアミノ酸置換である。このような保存的置換は、以下の基にある1つのアミノ酸が、同じ基にある別のアミノ酸残基により置換される置換である。
【0039】
【0040】
適切には、疎水性アミノ酸残基は、非極性アミノ酸である。より適切には、疎水性アミノ酸残基は、V、I、L、M、F、W、またはCから選択される。
【0041】
本明細書で使用するとき、CDRおよびFRのポリペプチド配列の番号付けは、Kabatシステムに従い定められるとおりである(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Kabat et al 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication Number 91-3242)。第1のポリペプチド配列と第2のポリペプチド配列との間の「対応する」アミノ酸残基は、Kabatシステムに従い同じ位置を第2の配列と共有される第1の配列のアミノ酸残基であるが、第2の配列のアミノ酸残基の同一性は、第1の配列と異なる場合がある。適切には、対応する残基は、フレームワークおよびCDRがKabat定義に従い同じ長さである場合、同じ数(および文字)を共有することになる。アライメントは、手動で、または例えば、標準設定を使用したNCBI BLAST v2.0(BLASTPまたはBLASTN)などの配列アライメント用の既知のコンピュータアルゴリズムを使用することにより、達成可能である。
【0042】
Kabatナンバリングシステムは、以下のように、本明細書に提供される例に使用される特定のTNF-αおよびIL-7R結合ポリペプチドに適用される。
【0043】
【0044】
N末端からC末端への残基の番号付けは、下の列に提供される。Kabatナンバリングは、接頭辞「H」を含み、第2の列に提供される。CDR1、CDR2、およびCDR3は、それぞれ「CDR-H1」、「CDR-H2」、および「CDR-H3」と標識される。CDRまたはFRそれぞれの残基はまた、そのCDRまたはFRのN末端からC末端へと番号付け可能である。
【0045】
【0046】
【0047】
接頭辞「H」により上にあるID-38F図の番号付けは、Kabatナンバリングであり、一方でアミノ酸配列より上にある番号付けは、N末端からC末端まで連続するアミノ酸の番号付けである。CDRまたはFRそれぞれの残基はまた、そのCDRまたはFRのN末端からC末端へと番号付け可能である。
【0048】
ID-38Fは、配列番号17のポリヌクレオチド配列によりコードされる。ID-A62Uは、配列番号18のポリヌクレオチド配列によりコードされる。適切には、本発明で使用されるポリヌクレオチドは、単離される。「単離された」ポリヌクレオチドは、その元の環境から取り除かれたポリヌクレオチドである。例えば、自然発生のポリヌクレオチドは、自然系に共存する物質の一部またはすべてから分離される場合に、単離される。ポリヌクレオチドは、例えば、その自然環境の一部でないベクターへとクローニングされる場合、またはcDNA内に含まれる場合に、単離されると考えられる。
【0049】
TNFα結合ポリペプチド
機能特性
抗TNF-αポリペプチド、TNF-αと相互作用するポリペプチド、またはTNF-αに対するポリペプチドはすべて、有効なTNF-α結合ポリペプチドである。TNF-α結合ポリペプチドは、TNF-α上の線状または配座エピトープに結合する場合がある。適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、ヒトTNF-αに結合する。
【0050】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、10-6M以下、より適切には10-7M以下、さらに適切には10-8M以下、またさらに適切には10-9M以下の平衡解離定数(Kd)をもってTNF-αに結合する。
【0051】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドの親和性は、動的に切替え可能なバイオ表面(例えば「switchSENSER」、Knezevic et al 2012を参照)を使用して求められる。
【0052】
一実施形態では、TNF-α結合ポリペプチドの親和性は、TNF-α結合ポリペプチドをそのC末端にて単鎖DNAと融合させ、DNA-ポリペプチド融合体を、単鎖DNAの蛍光標識した相補鎖において被覆される金電極につなげてから、チップが結合したTNF-α結合ポリペプチドを、10kHzの電流、および5つの異なる50pM~4.5nMの濃度のヒトTNF-αに600秒間さらして、時間分解蛍光により8時間解離を観察することにより、25℃で確立される。
【0053】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、TNF-αを中和する。TNF-αを中和するポリペプチドは、例えばTNF-αの生物学的効果を阻害することにより、細胞をTNF-αの効果から守るポリペプチドである。従来より、抗TNF-α治療用抗体生成物は、中和分析として、細胞死エンドポイントを伴うL929マウス細胞株を使用している(Humphreys and Wilson 1999)。L929分析は、TNF-α結合ポリペプチドが、TNF-α結合ポリペプチドの半数効果濃度(EC50)を確認することによりTNF-α細胞毒性の効果を中和する能力を分析するために行われる場合がある。L929分析の詳細なプロトコルは、以下に提供する。
【0054】
L929分析
L929細胞(10000細胞/ウェル)は、精製ポリペプチドの希釈物とともに可溶性TNFα(500pg/ml)およびアクチノマイシン(0.75ug/mL)の存在下で、24時間培養される。実験の終わりに、リザズリンを使用して細胞毒性を求める。マウスL929細胞の可溶性ヒトTNF誘導型細胞毒性の阻害に対する試験を行い、ヒトTNF-αに結合する各ポリペプチドのTNF-α中和活性を求める。
【0055】
材料
-L929細胞(10000細胞/ウェル)
-滅菌ポリプロピレン96ウェルプレート
-DMEM
-ヒトTNFα濃度:500pg/ml
-アクチノマイシンD濃度:0.75ug/ml
-精製された被験ポリペプチド
-精製されたポリペプチドの希釈範囲(例えば):300nM~5pM(1:3希釈)
-ヒトTNF-αの用量反応曲線:10ng/mL~0.5pg/mL
-インキュベーション時間:22時間
-リザズリン細胞生存率試薬
【0056】
方法
0日目、100ul中の10000細胞/ウェルを、96ウェルマイクロプレート中のDMEM完全培地に蒔き、37℃で一晩、5%CO2で保管した。1日目、精製した各可変ドメインに対する1:3の系列希釈(DMEM+Act.D+TNFにおける)を設定し(各時点で三通りに十分な量)、300nMの最上濃度から始める。
【0057】
以下の対照をプレートに加える。
1.DMEM完全+0.75ug/mLアクチノマイシンD
2.DMEM完全+0.75ug/mLアクチノマイシンD+0.5ng/mLのh-TNF-α
3.DMEM完全+0.01%Triton(TNF-α用量応答を含むプレートのみにおける)
4.DMEM完全(TNF-α用量応答を含むプレートのみにおける)。
【0058】
マイクロプレートの各ウェルから培地を取り除き、100ulの各ポリペプチド希釈、または100ulの異なる対照を用いて細胞をインキュベートする。37℃および5%CO2でのインキュベーションの22時間後、リザズリン10ulを各ウェルに加え、細胞を37℃で2時間インキュベートした。続いて、50ulの3%SDSを各ウェルに加える。次いで、蛍光プレートリーダEx544nm/Em590nmを使用して、プレートを読み取る。
【0059】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、100nM以下、50nM以下、10nM以下、5mM以下、1nM以下、0.9nM以下、0.8nM以下、0.7nM以下、0.6nM以下、0.5nM以下、0.4nM以下、0.3nM以下、0.2nM以下、0.15nM以下などのEC50をもって、L929分析において、ヒトTNF-α細胞毒性を中和する。
【0060】
TNF-α結合ポリペプチドの中和能力は、ELISAによっても確認可能である。適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、30nM以下、適切には10nM以下、より適切には3nM以下、さらに適切には1nM以下、また適切には0.6nM以下、またさらに適切には0.5nM以下、さらに適切には0.4nM以下のEC50をもって、ELISA分析において、TNFR1へのヒトTNF-αの結合を阻害する。
【0061】
代替的に、または付加的に、TNF-α結合ポリペプチドは、2nM以下、適切には1nM以下、より適切には0.9nM以下、さらに適切には0.8nM以下、また適切には0.7nM以下、またさらに適切には0.6nM以下、さらに適切には0.5nM以下、より適切には0.4nM以下のEC50をもって、ELISA分析において、TNFR2へのヒトTNF-αの結合を阻害する。
【0062】
適切には、ELISAは、WO2018/060453の実施例2に記載されるように実行される。
【0063】
一実施形態では、TNF-α結合ポリペプチドの親和性は、Biacore(または同等物)のセンサプレートに直接被覆を施すことにより確立され、ここでポリペプチドは、結合を検出するためにプレートの上を流れる。適切には、Biacore T200プレートは、30ul/分でHBS-EP+(GE Healthcare)のランニングバッファ中、25℃で使用される。
【0064】
構造特性
適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、抗体フラグメントを含むポリペプチドである。ポリペプチドは、抗体であり得る。適切には、抗体フラグメントは、V-NAR、scFvs、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、またはVL、VHH、およびVHなどの免疫グロブリン鎖可変ドメインからなる群から選択される。より適切には、抗体フラグメントは、免疫グロブリン鎖可変ドメイン、より適切にはVHHまたはVH、最も適切にはVHHである。
【0065】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、3つのCDR(CDR1、CDR2、CDR3)を含む。
【0066】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR1は、20%以上、適切には40%以上、より適切には60%以上、さらに適切には80%以上の配列同一性を配列番号1と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0067】
代替的に、TNF-α結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号1と比較して3以下、適切には2以下、より適切には1以下の付加、置換、および/または欠失を有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0068】
適切には、配列番号1の対応する残基とは異なるTNF-α結合ポリペプチドのCDR1の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、CDR1は、配列番号1を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0069】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR2は、20%以上、適切には30%以上、より適切には40%、さらに適切には50%以上、また適切には55%以上、さらに適切には60%以上、また適切には70%以上、さらに適切には75%以上、また適切には80%以上、さらに適切には85%以上、またさらに適切には90%以上の配列同一性を配列番号2と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0070】
代替的には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号2と比較して8以下、適切には7以下、より適切には6以下、さらに適切には5以下、また適切には4以下、さらに適切には3以下、また適切には2以下、またさらに適切には1以下の付加、置換、および/または欠失を有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0071】
適切には、配列番号2の対応する残基とは異なるTNF-α結合ポリペプチドのCDR2の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、配列番号2の残基番号10に対応するTNF-α結合ポリペプチドのCDR2の残基は、R、H、D、E、N、Q、S、T、Y、G、A、V、L、W、P、M、C、F、またはI(最も適切にはH)である。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号2を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0072】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR3は、30%以上、適切には50%、より適切には60%以上、さらに適切には80%以上の配列同一性を配列番号3と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0073】
代替的に、TNF-α結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号1と比較して3以下、適切には2以下、より適切には1以下の付加、置換、および/または欠失を有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0074】
適切には、配列番号3の対応する残基とは異なるTNF-α結合ポリペプチドのCDR3の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、配列番号3の残基番号3に対応するTNF-α結合ポリペプチドのCDR3の残基は、R、H、D、E、N、Q、S、T、Y、G、A、V、L、W、P、M、C、F、またはIであり、または適切には、R、H、D、E、N、Q、S、T、Y、G、V、L、W、P、M、C、F、またはI(最も適切にはH)である。適切には、配列番号3の残基番号3に対応するTNF-α結合ポリペプチドのCDR3の残基は、Hであり、配列番号3の対応する残基と異なるTNF-α結合ポリペプチドのCDR3の他の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号3を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0075】
代替的に、TNF-α結合ポリペプチドのCDR3は、30%、50%、60%、80%などの配列同一性を配列番号3と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなり、CDR3の残基番号3は、R、D、N、C、E、Q、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y、またはV(適切にはHまたはHの保存的置換、より適切にはH)である。代替的に、CDR3の残基番号3は、HまたはHの保存的置換(最も適切にはH)であり、配列番号3の対応する残基と異なるCDR3の他の残基は、保存的置換である。
【0076】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR1の残基1は、S、V、またはNであり、残基2~4は、HWMであり、残基5は、YまたはCである。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR2の残基1~9は、EINTNGLITであり、残基10は、H、K、S、またはNであり、残基11は、Yであり、残基12は、G、V、I、またはAであり、残基13は、Dであり、残基14は、SまたはFであり、残基15は、VまたはTであり、残基16は、H、K、R、またはGであり、残基17は、Gである。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのCDR3の残基1は、Nであり、残基2は、QまたはEであり、残基3は、H、K、M、またはRであり、残基4~6は、GLNである。
【0077】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、3つのCDR(CDR1、CDR2、CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含む。
【0078】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドのFR1は、5%、12%、18%、26%、32%、38%、46%、52%、58%、62%、66%、68%、72%、75%、78%、82%、85%、90%、または95%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号4と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0079】
適切には、配列番号4の対応する残基とは異なるTNF-α結合ポリペプチドのFR1の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、配列番号4の残基番号1に対応するTNF-α結合ポリペプチドのFR1の残基は、G、A、V、L、I、F、P、S、T、Y、C、M、K、R、H、W、D、E、またはN(より適切にはDまたはE、最も適切にはD)である。適切には、配列番号4の残基番号5に対応するTNF-α結合ポリペプチドのFR1の残基は、G、A、V、L、I、F、P、S、T、Y、C、M、K、R、H、W、D、E、またはN(適切にはV)である。適切には、配列番号4の残基番号1~5に対応するTNF-α結合ポリペプチドのFR1の残基は、DVQLVである。適切には、配列番号4の残基番号20および/または24に対応するTNF-α結合ポリペプチドのFR1の残基は、疎水性であるアミノ酸(最も適切には、それぞれLまたはA)である。適切には、配列番号4の残基番号29に対応するTNF-α結合ポリペプチドのFR1の残基は、Fである。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのFR1は、配列番号4を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0080】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドのFR2は、10%、15%、25%、30%、40%、45%、55%、60%、70%、75%、85%、または90%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号5と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0081】
適切には、配列番号5の対応する残基とは異なるTNF-α結合ポリペプチドのFR2の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、配列番号5の残基番号8~11に対応するTNF-α結合ポリペプチドのFR2の残基は、KEXEであり、ここでXは、RまたはLである。代替的に、配列番号5の残基番号9~12に対応するTNF-α結合ポリペプチドのFR2の残基は、GLEWである。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのFR2は、配列番号5を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0082】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドのFR3は、8%、15%、20%、26%、32%、40%、45%、52%、58%、65%、70%、76%、80%、82%、85%、90%、92%、または95%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号6と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0083】
適切には、配列番号6の残基番号26に対応するTNF-α結合ポリペプチドのFR3の残基は、疎水性であるアミノ酸(適切には、A)である。適切には、配列番号6の対応する残基とは異なるTNF-α結合ポリペプチドのFR3の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのFR3は、配列番号6を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0084】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドのFR4は、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号7と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0085】
適切には、配列番号7の対応する残基とは異なるTNF-α結合ポリペプチドのFR4の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのFR4は、配列番号7を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0086】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号8と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。適切には、TNF-α結合ポリペプチドのN末端は、Dである。適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、配列番号8を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0087】
特定の実施形態により、TNF-α結合ポリペプチドは、自然発生のポリペプチドのアミノ酸配列と正確に同じではない(正確に100%の配列同一性を共有しない)アミノ酸配列を有する。
【0088】
IL-7R結合ポリペプチド
機能特性
抗IL-7Rポリペプチド、IL-7Rと相互作用するポリペプチド、またはIL-7Rに対するポリペプチドはすべて、有効なIL-7R結合ポリペプチドである。IL-7R結合ポリペプチドは、IL-7R上の線状または配座エピトープに結合する場合がある。好ましくは、IL-7R結合ポリペプチドは、IL-7Rαに結合する。
【0089】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、ヒトIL-7Rに結合する。適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、可溶性および膜結合型IL-7Rの両方に結合する。
【0090】
適切には、本発明のポリペプチドは、ヒトIL-7Rに結合するIL-7および/またはL-TSLPを中和する。
【0091】
適切には、本発明のポリペプチドは、ヒトIL-7Rに結合するヒトIL-7および/またはヒトL-TSLPを中和する。より適切には、本発明のポリペプチドは、ヒトIL-7R、ならびにヒヒIL-7R、マーモセットIL-7R、カニクイザルIL-7R、およびアカゲザルIL-7Rからなる群から選択される少なくとも1つの追加の霊長類IL-7Rに結合するヒトIL-7および/またはヒトL-TSLPを中和する。最も適切には、本発明のポリペプチドは、ヒトIL-7Rに結合するヒトIL-7およびヒトL-TSLPを中和する。
【0092】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、IL-7RのIL-7結合部位にある、および/またはその一部を形成するIL-7R上のエピトープを対象とするものであり、これにより前記ポリペプチドは、IL-7Rへの結合に際して、IL-7Rが媒介するシグナル伝達の阻害または低減をもたらす。
【0093】
IL-7R結合ポリペプチドは、ELISAにより測定されるようにポリペプチドがIL-7R(適切にはIL-7Rα)に結合し、IL-7および/またはL-TSLPへのIL-7Rの結合を阻害する場合、本発明の目的ための中和ポリペプチドである。本文脈において阻害のレベルを求めるのに適した特異的なELISA法は、以下の実施例1で詳述する。
【0094】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、2.00nM以下、1.50nM以下、1.00nM以下、0.90nM以下、0.80nM以下、0.70nM以下、0.65nM以下、0.60nM以下、0.55nM以下、0.50nM以下、0.45nM以下、0.4nM以下、0.35nM以下、0.30nM以下などのEC50をもってIL-7に結合するIL-7Rを中和する。適切には、EC50は、以下の実施例1で詳述されるIL-7/IL-7R中和ELISAを使用して確立される。
【0095】
適切には、IL-7R結合するポリペプチドは、100nM以下、50nM以下、25nM以下、10nM以下、8nM以下、6nM以下、5nM以下、4nM以下、3nM以下、2nM以下、1.5nM以下、1nM以下などのEC50をもって、ヒトリンパ球において、IL-7R依存性、IL-7誘導型のSTAT5リン酸化を中和する。適切には、EC50は、以下の実施例1で詳述されるIL-7誘導型STAT5リン酸化分析を使用して確立される。
【0096】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドの親和性は、表面プラズモン共鳴により求められる。
【0097】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、10-7M以下、より適切には10-8M以下、さらに適切には10-9M以下、またさらに適切には10-10M以下の平衡解離定数(Kd)をもってIL-7Rに結合する。
【0098】
一実施形態では、IL-7R結合ポリペプチドの親和性は、Biacore(または同等物)のセンサプレートに直接被覆を施すことにより確立され、ここでポリペプチドは、結合を検出するためにプレートの上を流れる。適切には、Biacore T200プレートは、30ul/分でHBS-EP+(GE Healthcare)のランニングバッファ中、25℃で使用される。
【0099】
構造特性
適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、抗体フラグメントを含むポリペプチドである。ポリペプチドは、抗体であり得る。適切には、抗体フラグメントは、V-NAR、scFvs、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、またはVL、VHH、およびVHなどの免疫グロブリン鎖可変ドメインからなる群から選択される。より適切には、抗体フラグメントは、免疫グロブリン鎖可変ドメイン、より適切にはVHHまたはVH、最も適切にはVHHである。
【0100】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、3つのCDR(CDR1、CDR2、CDR3)を含む。
【0101】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのCDR1は、20%、40%、60%、80%、またはそれより多くの配列同一性を配列番号9と共有する配列を含む。
【0102】
代替的に、IL-7R結合ポリペプチドのポリペプチドのCDR1は、配列番号9と比較して4以下、適切には3以下、より適切には2以下、さらに適切には1以下の付加、置換、および/または欠失を有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0103】
適切には、配列番号9の対応する残基とは異なるIL-7R結合ポリペプチドのCDR1の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、IL-7R結合ポリペプチドのFR2は、配列番号9を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0104】
適切には、CDR1の残基は、以下の同一性(配列番号28)を有する。
【0105】
【0106】
より適切には、CDR1は、配列番号9を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0107】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのCDR2は、20%以上、適切には30%以上、より適切には40%、さらに適切には50%以上、また適切には55%以上、さらに適切には60%以上、また適切には65%以上、さらに適切には70%以上、また適切には75%以上、さらに適切には80%以上、また適切には85%以上、またさらに適切には90%以上の配列同一性を配列番号10と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0108】
代替的には、IL-7R結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号10と比較して8以下、適切には7以下、より適切には6以下、さらに適切には5以下、また適切には4以下、さらに適切には3以下、また適切には2以下、またさらに適切には1以下の付加、置換、および/または欠失を有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0109】
適切には、配列番号10の対応する残基とは異なるIL-7R結合ポリペプチドのCDR2の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、IL-7R結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号10を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0110】
適切には、CDR2の残基は、以下の同一性(配列番号29)を有する。
【0111】
【0112】
適切には、配列番号10の残基番号16に対応するCDR2の残基は、QまたはK、最も適切にはKである。適切には、CDR2は、配列番号10を含み、またはこの配列からなる。より適切には、CDR2は、配列番号10を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0113】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのCDR3は、20%以上、適切には30%以上、より適切には40%、さらに適切には50%以上、また適切には55%以上、さらに適切には60%以上、また適切には65%以上、さらに適切には70%以上、また適切には75%以上、さらに適切には80%以上、また適切には85%以上、またさらに適切には90%以上の配列同一性を配列番号11と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0114】
代替的には、IL-7R結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号11と比較して6以下、適切には5以下、また適切には4以下、さらに適切には3、また適切には2以下、またさらに適切には1以下の付加、置換、および/または欠失を有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0115】
適切には、配列番号11の対応する残基とは異なるIL-7R結合ポリペプチドのCDR3の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。
【0116】
適切には、CDR3の残基は、以下の同一性(配列番号30)を有する。
【0117】
【0118】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号11を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0119】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、3つのCDR(CDR1、CDR2、CDR3)および4つのフレームワーク領域(FR1~FR4)を含む。
【0120】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのFR1は、5%、12%、18%、26%、32%、38%、46%、52%、58%、62%、66%、68%、72%、75%、78%、82%、85%、90%、または95%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号12と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0121】
適切には、配列番号12の対応する残基とは異なるFR1の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、配列番号12の残基番号1に対応するFR1の残基は、DまたはE、最も適切にはDである。適切には、配列番号12の残基番号1~5に対応するFR1の残基は、DVQLVである。適切には、FR1は、配列番号12を含み、さらに適切にはこの配列からなる。適切には、配列番号12の残基番号24に対応するFR1の残基は、Sである。
【0122】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのFR2は、10%、15%、25%、30%、40%、45%、55%、60%、70%、75%、85%、または90%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号13と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0123】
適切には、配列番号13の対応する残基とは異なるFR2の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、配列番号13の残基番号10に対応するFR2の残基は、RまたはL、最も適切にはLである。適切には、配列番号13の残基番号8~11に対応するFR2の残基は、KEXEであり、Xは、RまたはL、最も適切にはLである。代替的に、配列番号13の残基番号9~12に対応するFR2の残基は、GLEWである。適切には、FR2は、配列番号13を含み、さらに適切にはこの配列からなる。適切には、配列番号13の残基番号2に対応するFR2の残基は、Fであり、加えて、より適切には、配列番号13の残基番号14に対応するFR2の残基は、Aである。適切には、配列番号13の残基9~14に対応するFR2の残基は、ELEFLA(配列番号79)である。適切には、配列番号13の残基9~14に対応するFR2の残基は、GLEWVS(配列番号80)ではない。適切には、配列番号13の残基番号9に対応するFR2の残基は、Gではない。より適切には、配列番号13の残基番号9に対応するFR2の残基は、Eである。
【0124】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのFR3は、8%、15%、20%、26%、32%、40%、45%、52%、58%、65%、70%、76%、80%、82%、85%、90%、92%、または95%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号14と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0125】
適切には、配列番号14の対応する残基とは異なるFR3の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、FR3は、配列番号14を含み、さらに適切にはこの配列からなる。適切には、配列番号14の残基番号18、19、および20に対応するFR3の残基は、NSLである。適切には、配列番号14の残基番号21に対応するFR3の残基は、Rである。適切には、配列番号14の残基番号22に対応するFR3の残基は、Aである。
【0126】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのFR4は、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号15と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0127】
適切には、配列番号15の対応する残基とは異なるIL-7R結合ポリペプチドのFR4の任意の残基は、その対応する残基に対して保存的置換である。適切には、IL-7R結合ポリペプチドのFR4は、配列番号15を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0128】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドは、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%、あるいはそれより多くの配列同一性を配列番号16と共有する配列を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0129】
適切には、IL-7R結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号16を含み、さらに適切にはこの配列からなる。
【0130】
特定の実施形態により、IL-7R結合ポリペプチドは、自然発生のポリペプチドのアミノ酸配列と正確に同じではない(正確に100%の配列同一性を共有しない)アミノ酸配列を有する。
【0131】
TNF-α結合ポリペプチドとIL-7R結合ポリペプチド両方の構造特性および機能特性の特定の組合せ
適切には、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドはともに、免疫グロブリン鎖可変ドメインであり、ここで、
(a)TNF-α結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号1と40%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(b)TNF-α結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号2と40%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(c)TNF-α結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号3と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(d)IL-7R結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号9と40%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(e)IL-7R結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号10と40%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(f)IL-7R結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号11と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
より適切には、
(a)TNF-α結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号1と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(b)TNF-α結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号2と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(c)TNF-α結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号3と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(d)IL-7R結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号9と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(e)IL-7R結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号10と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(f)IL-7R結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号11と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
より適切には、
(a)TNF-α結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号1と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(b)TNF-α結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号2と70%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(c)TNF-α結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号3と65%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(d)IL-7R結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号9と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(e)IL-7R結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号10と70%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(f)IL-7R結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号11と65%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
より適切には、
(a)TNF-α結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号1と80%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(b)TNF-α結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号2と85%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(c)TNF-α結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号3と80%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(d)IL-7R結合ポリペプチドのCDR1は、配列番号9と80%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(e)IL-7R結合ポリペプチドのCDR2は、配列番号10と85%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
(f)IL-7R結合ポリペプチドのCDR3は、配列番号11と80%以上の配列同一性を共有する配列を含み、
それぞれの場合、最も適切には、TNF-α結合ポリペプチドは、100nM以下のEC50をもってL929アッセイにおいてヒトTNF-α細胞毒性を中和し、前記IL-7R結合ポリペプチドは、100nM以下のEC50をもってヒトリンパ球においてIL-7R依存性、IL7誘導型のSTAT5リン酸化を中和し、ならびに/または、TNF-α結合ポリペプチドは、10-7M以下のKdをもってTNF-αに結合し、IL-7R結合ポリペプチドは、10-7M以下のKdをもってIL7Rに結合する。最も適切には、上記ポリペプチドは、クローン病または潰瘍性大腸炎の処置において経口投与により使用される両頭構築物に提供される。
【0132】
適切には、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドはともに、同じ種類の免疫グロブリン鎖可変ドメイン、例えばVH、VHH、またはVL、より適切にはVHまたはVHHである。
【0133】
TNF-αおよびIL-7R結合ポリペプチドのフォーマット
TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドは、結合される場合も、されない場合もある。
【0134】
一実施形態では、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドは、本発明の組成物中で互いに独立して存在する場合がある(TNF-αおよびIL-7R結合ポリペプチドは、互いに結合されていない)。特定の実施形態では、組成物は、(a)ID-38F(配列番号8)またはこれに対して少なくとも75%、より適切には少なくとも85%の同一性を有するポリペプチド、および(b)ID-A62U(配列番号16)またはこれに対して少なくとも75%、より適切には少なくとも85%の同一性を有するポリペプチドを含む。
【0135】
さらなる実施形態では、本発明の組成物に含まれるTNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドは、互いに結合されている(それにより単一の構築物を形成する)。このようなフォーマットは、組換え発現に都合の良い場合がある。そのため、このような本発明の構築物は、多量体および多価性である。これ以上ポリペプチドが構築物に含まれない場合、かかる構築物は「ヘテロ両頭(heterobihead)」と呼ぶことができる。多価構築物は、2つ以上の結合ポリペプチドを含むので、抗原への付着が生じ得る2つ以上の部位を提供する(適切には、かかるリンカーが構築物に存在する場合、不安定ペプチドリンカーの切断の前または後。以下の「リンカー」を参照)。
【0136】
適切には、構築物中の各ポリペプチドの分子量は、300kDa以下、250kDa、200kDa、180kDa、160kDa、140kDa、120kDa、100kDa、80kDa、60kDa、40kDa、30kDa、20kDa、15kDaなどである。
【0137】
リンカー
TNF-αおよびIL-7R結合ポリペプチドは、結合する場合、直接(リンカーを使用しない)またはリンカーを介して互いに結合可能である。適切には、リンカーが使用される。このリンカーは、プロテアーゼ不安定または非プロテアーゼ不安定リンカーであり得る。リンカーは、適切にはポリペプチドとそのエピトープとの結合を可能にするように選択されたペプチドである。適切には、リンカーは可撓性であり、例えば、両結合ポリペプチドがその標的へと同時に結合するのを可能にするのに十分な可撓性である。治療目的に使用される場合、リンカーは、適切にはポリペプチドが投与される対象において非免疫原性である。適切には、ポリペプチドおよびリンカーは、単一の隣接ポリペプチド構築物として発現される。
【0138】
適切には、ペプチドリンカーの長さは、少なくとも5、少なくとも7、少なくとも10、少なくとも13、少なくとも16、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21などである。適切には、ペプチドリンカーの長さは、40残基以下、35残基以下、30残基以下、25残基以下などである。
【0139】
適切には、ペプチドリンカーは、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンからなる群から選択される任意のアミノ酸からなる。プロリンは、リンカーに含めるために最適以下のアミノ酸であってもよく、それゆえ、より適切には、ペプチドリンカーは、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンからなる群から選択される任意のアミノ酸からなる。
【0140】
TNF-αおよびIL-7R結合ポリペプチドは、結合する場合、抗TNF-αリンカー-抗IL-7Rの配向(N末端からC末端まで)にあるか、抗IL-7Rリンカー-抗TNF-αの配向にあってもよい。最も適切には、これらは、抗TNF-αリンカー-抗IL-7Rの配向にある。
【0141】
ペプチドリンカーにより結合されるTNF-αおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む本発明の組成物は、例えば、核酸合成用の技法を使用して2つの結合ポリペプチドをコードする核酸およびペプチドリンカーを調製し、その後、こうして得られる核酸を発現することにより、得ることができる(以下の「調製法」の見出しの下で詳述されるように)。
【0142】
非プロテアーゼ不安定リンカー
適切には、非プロテアーゼ不安定リンカーは、ペプチドであり、プロテアーゼに対する切断部位を含まない。
【0143】
適切には、非プロテアーゼ不安定リンカーは、フォーマットが-(GaSb)x-であり、ここで、aは1~10であり、bは1~5であり、xは1~15である(配列番号31)。適切には、aは1~5であり、bは1~2であり、xは1~10である。適切には、aは4であり、bは1であり、xは1~8である(配列番号32)。
【0144】
プロテアーゼ不安定リンカー
プロテアーゼ不安定リンカーは、構成モノマーが放出されて、切断に際しその標的へと自由に結合するのを可能にするので、非プロテアーゼ不安定リンカーよりも適切である。プロテアーゼ不安定リンカー(または「不安定ペプチドリンカー」)は、ペプチドであり、プロテアーゼに対する少なくとも1つの切断部位を含む。プロテアーゼ不安定リンカーを本発明の構築物に含めることにより、例えば、構築物を、後に別個の結合ポリペプチドへの投与後に切断されるヘテロ両頭の形態で都合良く産生することが可能となる。
【0145】
本発明の一実施形態では、不安定ペプチドリンカーは、プロテアーゼによる切断を所望の程度耐える、および/または特定の腸管領域への暴露に際してのみ切断されるように、操作することができる。例えば、構築物が酵母菌などの宿主中で組換え産生される場合、酵母菌により産生されるトリプシン様プロテアーゼは、組換え構築生成物を切断する場合がある。これにより、精製が困難となり、調節的、臨床的、および人為的な合併症(commercial complications)が生じる場合がある。
【0146】
これは、不安定部位に隣接する不安定ペプチドリンカーへ遮蔽残基を組み込むことにより達成可能である。遮蔽残基は、不安定ペプチドリンカーの不安定部位に隣接して、その不安定性を低減させる。不安定ペプチドリンカー付近またはその外周部に不安定部位を位置決めすることにより、切断耐性も増大させることができる。この概念は、「遮蔽された不安定部位」と呼ばれ、不安定性を調節する。
【0147】
代替的に、不安定ペプチドリンカーは、腸管プロテアーゼによる切断に対して大いに不安定であり、そのため経口投与後に構築物の構成ポリペプチドを速やかに放出するように操作することができる。これは、1つ以上の不安定部位を不安定ペプチドリンカーに組み込むことにより達成され、そうすることで、不安定部位は、例えば不安定部位を不安定ペプチドリンカーのほぼ中心に位置決めすることにより、および/または隣接残基により実質的に遮蔽されていない不安定部位により、タンパク質分解のために暴露される。この概念は、「保護されていない不安定部位」と呼ばれる。
【0148】
RまたはK残基の直後にP残基を本発明の構築物の不安定ペプチドリンカーへ組み込むことは、不安定ペプチドリンカーの切断を実質的に妨げると推測される。適切には、不安定ペプチドリンカーは、P残基を含まない。
【0149】
トリプシン不安定部位
適切には、不安定ペプチドリンカーは、トリプシンまたはトリプシン様プロテアーゼに対する切断部位を含む。適切には、不安定ペプチドリンカーは、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10などのK残基を含む。適切には、不安定ペプチドリンカーは、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10などのR残基を含む。好ましくは、切断部位は、1つ以上のK残基である。
【0150】
適切には、プロテアーゼ不安定リンカーは、フォーマット[-(GaSb)v-(GcSd)w-Bt-(GeSf)x-(GgSh)y]zを含むか、より適切にはこのフォーマットからなり、ここで、Bはリジンまたはアルギニンであり、tは1~5であり、a、c、e、およびgはそれぞれ独立して、0~10であり、b、d、f、およびhはそれぞれ独立して、0~5であり、v、w、x、およびyはそれぞれ独立して、0~10であり、およびzは1~5である(配列番号33)。より適切には、Bはリジンまたはアルギニンであり、tは1または2であり、a、c、e、およびgはそれぞれ独立して、1~5であり、b、d、f、およびhはそれぞれ独立して、1~3であり、v、w、x、およびyはそれぞれ独立して、1~3であり、およびzは1~3であり、さらに適切には、Bはリジンまたはアルギニンであり、tは1~3であり、a、c、e、およびgはそれぞれ独立して、2~4であり、b、d、f、およびhはそれぞれ独立して、1~2であり、v、w、x、およびyはそれぞれ独立して、1~2であり、およびzは1である。
【0151】
このフォーマットの特に好ましいリンカーは、-(G4S)x-K-(G4S)y-から選択され、ここで、xとyはそれぞれ独立して、1~5であり(配列番号34)、より適切には-(G4S)2-K-(G4S)2-(すなわち-GGGGSGGGGSKGGGGSGGGGS-(配列番号21))から選択される。
【0152】
適切には、不安定ペプチドリンカーは、次のフォーマットのポリペプチド配列を含むか、より適切にはこの配列からなり、
-B-(GaS)x-B’-
式中、
aは1~10であり、
xは1~10であり、
BはKまたはRであり、および
B’はKまたはRである(配列番号35)。
【0153】
一実施形態では、aは2~5、より適切には4である。さらなる実施形態では、xは1~5である。より適切には、xは2である。Bは、存在する場合も存在しない場合もある。B’は、存在する場合も存在しない場合もある適切には、BはKである。適切には、B’はKである。
【0154】
このフォーマットの特に好ましいリンカーは、-K-(G4S)2-K-(配列番号36)、-(G4S)2-K-(配列番号37)、-K-(G4S)2-(配列番号38)、-R-(G4S)2-R-(配列番号39)、-(G4S)2-R-(配列番号40)、および-R-(G4S)2-(配列番号41)からなる群のうち1つから選択される。
【0155】
適切には、不安定ペプチドリンカーは、次のフォーマットのポリペプチド配列を含むか、より適切にはこの配列からなり、
-B-(GaS)x-B’-(GbS)y-B”-
式中、
aは1~10であり、
bは1~10であり、
xは1~10であり、
yは1~10であり、
BはKまたはRであり、
B’はKまたはRであり、および
B”はKまたはRである(配列番号42)。
【0156】
一実施形態では、aは2~5、より適切には4である。一実施形態では、bは2~5、より適切には4である。さらなる実施形態では、xは1~5である。より適切には、xは2である。さらなる実施形態では、yは1~5である。より適切には、yは2である。適切には、BはKである。適切には、B’はKである。適切には、B”はKである。
【0157】
キモトリプシン不安定部位
代替的に、またはトリプシン不安定部位に加えて、構築物の不安定ペプチドリンカーは、キモトリプシンまたはキモトリプシン様プロテアーゼに対する切断部位を含む場合がある。適切には、不安定ペプチドリンカーは、W、F、Y、L、およびM、より適切にはW、F、およびYからなる群から選択される、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10などの残基を含む。適切には、不安定ペプチドリンカーは、S、G、W、F、およびYなど、S、G、W、F、Y、L、およびMからなる群から選択される残基からなる。
【0158】
適切には、プロテアーゼ不安定リンカーは、フォーマット[-(GaSb)v-(GcSd)w-Jt-(GeSf)x-(GgSh)y]zを含むか、より適切にはこのフォーマットからなり、ここで、Jは、W、F、Y、L、またはMであり、tは1~5であり、a、c、e、およびgはそれぞれ独立して、0~10であり、b、d、f、およびhはそれぞれ独立して、0~5であり、v、w、x、およびyはそれぞれ独立して、0~10であり、およびzは1~5である(配列番号43)。より適切には、Jは、W、F、Y、L、またはMであり、tは1または2であり、a、c、e、およびgはそれぞれ独立して、1~5であり、b、d、f、およびhはそれぞれ独立して、1~3であり、v、w、x、およびyはそれぞれ独立して、1~3であり、およびzは1~3であり、さらに適切には、Jは、W、F、Y、L、またはMであり、tは1~3であり、a、c、e、およびgはそれぞれ独立して、2~4であり、b、d、f、およびhはそれぞれ独立して、1~2であり、v、w、x、およびyはそれぞれ独立して、1~2であり、およびzは1である。
【0159】
エンテロキナーゼ不安定部位
代替的に、あるいはトリプシンおよび/またはキモトリプシン不安定部位に加えて、構築物の不安定ペプチドリンカーは、エンテロキナーゼに対する切断部位を含む場合がある。適切には、不安定ペプチドリンカーは、-G4S-DDDDK-G4S-(配列番号20)を含むか、これからなる配列など、配列DDDDK(配列番号19)を含む。
【0160】
MMP不安定部位
一実施形態では、構築物の不安定ペプチドリンカーは、MMP3、MMP10、またはMMP12に対する切断部位を含む場合がある。
【0161】
他の不安定部位
一実施形態では、構築物の不安定ペプチドリンカーは、切断部位が把握されている他の炎症性または微生物プロテアーゼに対する切断部位を含む場合がある。
【0162】
構築物内のポリペプチドの安定性
構築物が非プロテアーゼ不安定リンカーを含む実施形態では、適切には、構築物は全体として(結合ポリペプチド(免疫グロブリン鎖可変ドメインの場合がある)および非プロテアーゼ不安定リンカー)、トリプシンやキモトリプシンなどのプロテアーゼに耐性を実質的に示す。構築物がプロテアーゼ不安定リンカーを含む実施形態では、適切には、ポリペプチド(免疫グロブリン鎖可変ドメインの場合がある結合ポリペプチド)は、トリプシンやキモトリプシンなどのプロテアーゼに耐性を実質的に示すが、プロテアーゼ不安定リンカーは、トリプシンまたはキモトリプシンなどのプロテアーゼに対し不安定である。
【0163】
発現宿主に対する不安定ペプチドリンカーの安定性
様々な生物体が、組換えポリペプチドを発現するために使用されてもよい。よく使用される発現生物体として、酵母菌、カビ、哺乳動物細胞が挙げられる。しかし、これらの発現生物体の多くは、トリプシン様プロテアーゼなどのプロテアーゼを産生し、これにより発現された組換えポリペプチドを切断する場合もある。発現されたポリペプチドが、腸管に存在する1つ以上のプロテアーゼ不安定ペプチドリンカーを組み込む場合、このペプチドリンカーは、発現生物体により産生されるプロテアーゼに対して不必要に不安定であり、このため、無傷のポリペプチドの有効な発現を妨げる場合もある。
【0164】
不安定ペプチドリンカーでは、構築物の産生に使用される組換え宿主により産生される酵素に対し実質的に不安定でないことが都合が良い。適切には、不安定ペプチドリンカーは、大腸菌などの細菌、あるいはAspergillus属、Saccharomyces属、Kluyveromyces属、Hansenula属、もしくはPichia属に属するSaccharomyces cerevisiaeやPichia pastorisなどの酵母菌またはカビといった組換え宿主により産生されるプロテアーゼに対して実質的に耐性を示す。
【0165】
適切には、組換えの宿主は、酵母菌またはカビである。適切には、酵母菌は、Saccharomyces属、Kluyveromyces属、Hansenula属、Pichia属、Candida属、またはTorulopsis属に属する。適切には、カビは、Aspergillus属、Acremonium属、Alternaria属、Chrysosporium属、Cladosporium属、Dictyostelium属、Fusarium属、Mucor属、Penicillium属、Rhizopus属、Stachybotrys属、Trichoderma属、およびTrichophyton属に属する。
【0166】
胃腸管および消化酵素
胃腸管(GIT)は、食料の消費と消化、栄養素の吸収、および排泄物の排出を担う臓器系である。ヒトおよび他の哺乳動物では、GITは、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、および回腸)、ならびに大腸(盲腸、結腸、直腸、および肛門管)からなる。GITの様々な領域に、様々な病原体が生着し、様々な疾患が生じる場合がある。腸管(胃腸管と対照的に)は、小腸と大腸からなる。
【0167】
胃腸管の様々な部分はそれぞれ、消化酵素の複合混合物を含有している。プロテアーゼは、アミノ酸残基を結合するペプチド結合を分割すること(タンパク質分解)により、ポリペプチド鎖をより短いフラグメントへと消化することに関与する。一部はタンパク質鎖(エキソペプチダーゼ)から末端アミノ酸を引き離し、その他はタンパク質(エンドペプチダーゼ)の内部ペプチド結合を攻撃する。タンパク質分解は、広範囲のタンパク質基質が加水分解されるように大いに乱雑となる場合がある。これが、腸管で摂取された多様なポリペプチドをより小さなポリペプチドフラグメントへと切断するプロテアーゼの例である。
【0168】
多くのプロテアーゼは、一般的には基質上で単一のアミノ酸(不安定部位)に結合するため、その残基に対する特異性しかない。腸管に存在するプロテアーゼとして、トリプシン、トリプシン様プロテアーゼ、キモトリプシン、キモトリプシン様プロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、エラスターゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、およびエンテロペプチダーゼが挙げられる。トリプシン様プロテアーゼは、リジンまたはアルギニン残基の後でペプチド結合を切断する。キモトリプシン様プロテアーゼは、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、およびメチオニンなどの疎水性残基の後でペプチド結合を切断する。特に、チロシン、フェニルアラニン、およびトリプトファン。
【0169】
特に、経口用薬剤の文脈では、結合ポリペプチドは、腸管の(すべてなどの)1つ以上のプロテアーゼに対して実質的に耐性を示す一方で、不安定ペプチドリンカー(使用される場合)は、腸管の(すべてなどの)1つ以上のプロテアーゼに対して不安定であることが望ましい場合がある。
【0170】
適切には、構築物にあるポリペプチドは、1つ以上のプロテアーゼに対して実質的に耐性を示し、適切には、不安定ペプチドリンカー(存在する場合)は、1つ以上のプロテアーゼに対して不安定であり、この1つ以上のプロテアーゼは、小腸または大腸、より適切には空腸、回腸、および/または盲腸に存在する。実質的に耐性を示すポリペプチドは、1つ以上のプロテアーゼに暴露されると、中和能および/または効力を実質的に保持する。
【0171】
このようなプロテアーゼは、胃腸管に共生するマイクロフローラまたは病原性菌から供給されるプロテアーゼを含み、例えば、このプロテアーゼは、細胞膜に付着したプロテアーゼ、分泌されたプロテアーゼ、および細胞溶解物上に放出されるプロテアーゼである。かかるプロテアーゼはさらに、MMP3、MMP10、およびMMP12などのIBD炎症性プロテアーゼを含む場合がある。適切には、1つ以上のプロテアーゼはセリンプロテアーゼである。適切には、1つ以上のプロテアーゼは、エンテロペプチダーゼ、トリプシン、トリプシン様プロテアーゼ、キモトリプシン、およびキモトリプシン様プロテアーゼからなる群から選択される。
【0172】
適切には、ポリペプチドは、経口送達時、および腸管への暴露後(例えば、小腸および/または大腸のプロテアーゼ、ならびに/あるいはIBD炎症性プロテアーゼへの曝露後)に、中和能および/または効力を実質的に保持する。小腸および/または大腸のプロテアーゼ、あるいは小腸および/または大腸に産生されるプロテアーゼは、腸に共生するマイクロフローラおよび/または病原性菌から供給されるプロテアーゼを含み、例えば、このプロテアーゼは、細胞膜に付着したプロテアーゼ、分泌されたプロテアーゼ、および細胞溶解物上に放出されるプロテアーゼである。最も適切には、プロテアーゼは、トリプシンおよびキモトリプシンである。
【0173】
適切には、腸管は、イヌ、ブタ、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒト、カニクイザル、またはマウスの腸管である。小腸は、適切には十二指腸、空腸、および回腸からなる。大腸は、適切には盲腸、結腸、直腸、および肛門管からなる。
【0174】
ポリペプチドは、ポリペプチドまたは構築物本来の中和能の少なくとも10%、適切には20%、より適切には30%、また適切には40%、さらに適切には50%、また適切には60%、さらに適切には70%、また適切には80%、さらに適切には90%、また適切には95%、さらに適切には100%が、小腸および/または大腸に存在するプロテアーゼならびに/あるいはIBD炎症性プロテアーゼへの暴露後、所与の温度での所与の暴露期間後に保持されると、中和能を実質的に保持する。この概念は、本明細書では「生存率」と称される。
【0175】
適切には、ポリペプチドは、小腸および/または大腸に存在するプロテアーゼならびに/あるいはIBD炎症性プロテアーゼへと、37℃で例えば少なくとも最大2時間、適切には少なくとも最大3時間、より適切には少なくとも最大4時間、さらに適切には少なくとも最大5時間、また適切には少なくとも最大5.5時間、さらに適切には少なくとも最大6時間、また適切には少なくとも最大12時間、さらに適切には少なくとも最大14時間、また適切には少なくとも最大16時間暴露した後、中和能を実質的に保持する。
【0176】
ポリペプチドは、ポリペプチドまたは構築物本来の中和能の少なくとも10%、適切には20%、より適切には30%、また適切には40%、さらに適切には50%、また適切には60%、さらに適切には70%、また適切には80%、さらに適切には90%、また適切には95%、さらに適切には100%が、ヒトの便の上清またはマウスの小腸の流体への暴露後、所与の温度での所与の暴露期間後に保持されると、中和能を実質的に保持する。この概念は、本明細書では「生存率」と称される。
【0177】
適切には、ポリペプチドは、ヒトの便の上清またはマウスの小腸の流体へと、37℃で例えば少なくとも最大2時間、適切には少なくとも最大3時間、より適切には少なくとも最大4時間、さらに適切には少なくとも最大5時間、また適切には少なくとも最大5.5時間、さらに適切には少なくとも最大6時間、また適切には少なくとも最大12時間、さらに適切には少なくとも最大14時間、また適切には少なくとも最大16時間暴露した後、中和能を実質的に保持する。
【0178】
自己免疫疾患および/または炎症性疾患
本発明により提供される組成物および構築物は、特に自己免疫疾患および/または炎症性疾患の予防または処置における有用性を見出す可能性がある。適切には、自己免疫疾患および/または炎症性疾患は、炎症性腸疾患および/または粘膜炎、最も適切には炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎、またはチェックポイント阻害剤誘導型大腸炎、最も適切には潰瘍性大腸炎またはクローン病)である。
【0179】
自己免疫疾患は、免疫系が正常な体内組織に有害に反応するときに発症する。自己免疫疾患は、体内組織への損傷、異常な器官成長、および/または器官機能の変化をもたらすおそれがある。この障害は、わずか1つの器官または組織型に影響を及ぼす、または複数の器官および組織に影響を及ぼす場合がある。自己免疫疾患の影響をよく受ける器官および組織として、赤血球、血管、結合組織、甲状腺や膵臓などの内分泌腺、筋肉、関節、および皮膚といった血液構成成分が挙げられる。炎症性疾患は、炎症を特徴とする疾患である。多くの炎症性疾患は自己免疫疾患であり、その逆も然りである。
【0180】
GITの自己免疫疾患および/または炎症性疾患
慢性炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、および潰瘍性大腸炎は、小児および成人の両方を悩ませるものであり、GIT(胃腸管)の自己免疫および炎症性疾患の例である(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Hendrickson et al 2002)。潰瘍性大腸炎は、炎症反応および形態学的変化が結腸に存在し続ける疾病として定義される。直腸は、患者の95%に関係する。炎症の大部分は粘膜に限定されており、結腸の長さに沿って潰瘍、浮腫、および出血を伴う様々な重症度の連続的な関与で構成される(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Hendrickson et al 2002)。潰瘍性大腸炎は通常、排便の通過中に最も重度となる下腹部痙攣に加えて、血液や粘液が混じった糞便の存在により示される。臨床的に、血液や粘液が混じった下痢の存在により、潰瘍性大腸炎と、血液が生じない過敏性腸症候群とが区別される。潰瘍性大腸炎と異なり、クローン病の症状は、通常微細なものであり、後に診断される。関与の位置、程度、および重症度などの因子は、胃腸症状の程度を決定する。回腸結腸が関与する患者には通常、右下腹部の圧痛および時折炎症性腫瘤を伴う食後腹痛が生じる。胃十二指腸のクローン病に関連する症状は、早期の満腹感、悪心、嘔吐、上腹部痛、または嚥下困難を含む。肛門周囲の疾患は一般的に、肛門ポリープに加え、深い肛門裂傷、および痔瘻である(その全体を本明細書に組み込まれる、Hendrickson et al 2002)。
【0181】
他のGIT疾患は、例えば、炎症性病変が上皮の密着結合を妨害する粘膜に存在する炎症性疾患である粘膜炎(適切には、薬物および放射線誘導型粘膜炎)を含む。粘膜炎では、病変は、口から肛門までのあらゆる場所に生じるおそれがあり、口腔および食道の病変に対しては、組成物を含有する口内洗浄液またはクリーム調製物が、使用可能である。肛門および直腸の病変に対しては、組成物を含有する局所投与用の坐薬、クリーム、またはフォームが適切である。組成物は、炎症部位における血流への吸収、またはリンパ液の除去とその後の血流への侵入を介して、基底膜または他の炎症性部位から取り除かれる。それゆえ、組成物は、血流を介して肝臓に到達し、腎臓において糸球体濾過を介して取り除かれる。このため、したがって、本発明の組成物が、自己免疫性肝炎、II型糖尿病、および糸球体腎炎などの疾患に対して機能するという、優れた理論的根拠が存在する。
【0182】
適切には、本発明の組成物は、GITの自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置または予防に使用される。
【0183】
適切には、本発明の組成物は、クローン病、潰瘍性大腸炎、刺激反応性腸疾患、II型糖尿病、糸球体腎炎、自己免疫性肝炎、シェーグレン症候群、セリアック病、薬物または放射線誘導型粘膜炎、食道炎、およびチェックポイント阻害剤誘導型大腸炎(より適切には、クローン病、潰瘍性大腸炎、またはチェックポイント阻害剤誘導型大腸炎、最も適切には潰瘍性大腸炎またはクローン病)からなる群から選択されるGITの自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置に使用されるものである。
【0184】
組成物の経口送達は、理想的には炎症性疾患を処置する。この場合、TNF-α(またはTNF-α受容体)および/またはIL-7R(あるいはIL-7またはL-TSLP)は、病態の少なくとも一部に寄与し、より適切には、免疫グロブリン鎖可変ドメインは、これらサイトカイン類が生物学的に活性である組織にアクセス可能である。
【0185】
皮膚の自己免疫疾患および/または炎症性疾患
乾癬は、衰弱性自己免疫皮膚科学疾患である。この疾患の最もよく見られる形態はプラーク乾癬であり、銀鱗で覆われた赤色の皮膚を特徴とする。組織学的には、像(picture)は、炎症細胞浸潤を伴う乾癬プラーク内の角化細胞における分化の乱れおよび超増殖の1つである(Ortonne,1999)。乾癬皮膚病変は、特徴的な光沢のある銀鱗を伴う様々な形状の、境界の明瞭な赤色の炎症性プラークである。乾癬という用語は、乾癬、ならびに紅斑、皮膚の肥厚/隆起、および鱗屑を含む乾癬症状を含む。
【0186】
乾癬の処置に使用される生物学的薬剤として、抗TNF-α治療薬(TNFに対するモノクローナル抗体、例えばアダリムマブやインフリキシマブ、またはエタネルセプトなどのTNF-α受容体融合タンパク質など)、CD11aに対するヒト化抗体(エファリズマブ)、あるいはCD2に結合する(それによりCD2 LFA3相互作用を遮断する)アレファセプトなどの薬剤が挙げられる。本明細書中で列記した生物学的薬剤のすべてが、乾癬の処置に対する使用を承認されていないことに留意されたい。
【0187】
本発明の組成物は、TNF-α(またはTNF-α受容体)および/またはIL-7R(あるいはIL-7またはL-TSLP)が、このような病変の病態に寄与する炎症性皮膚病変に対する投与のために、クリーム/軟膏またはその他局所用担体に組み込まれる場合がある。
【0188】
適切には、本発明の組成物は、天疱瘡、乾癬、湿疹、および強皮症からなる群から選択される皮膚自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置に使用されるものである。
【0189】
一実施形態では、本発明のポリペプチドまたは構築物は、適切には局所送達による、および/あるいは、適切にはクリーム、ナノ粒子、軟膏、またはヒドロゲルの形態で皮膚を介したアトピー性皮膚炎の処置または予防において使用するためのものである。
【0190】
治療用途および送達
適切には、本発明の組成物は、適切には経口投与により投与される薬剤として使用、適切には、GIT疾患の処置および/または予防、ならびに/あるいは炎症性腸疾患などの自己免疫疾患および/または炎症性疾患などの疾患の処置または予防に使用されるものである。適切には、本発明の構築物は、適切には経口投与により投与される薬剤として使用されるものである。本発明の組成物はまた、肥満症などの代謝異常といった他の健康状態に対する経口投与による処置または予防に使用されてもよい。一実施形態では、本発明の組成物は、腸管を対象とする局所効果があるように意図される。一実施形態では、本発明の組成物は、治療上有効量で循環へと送達することによる疾患の処置または予防に使用されるものではない。
【0191】
本発明の一態様では、自己免疫疾患および/または炎症性疾患を処置する方法が提供され、該方法は、必要とする人に本発明の組成物を治療上有効量で投与する工程を含む。適切には、自己免疫疾患および/または炎症性疾患は、炎症性腸疾患および/または粘膜炎である。
【0192】
抗TNF-α結合ポリペプチドおよび抗IL-7R結合ポリペプチドは、本発明の組成物中でともに製剤化されるか、あるいは別個に製剤化されて、別個に、連続的に、または同時に投与される場合がある。
【0193】
TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドは、同じ経路、または異なる経路により投与される場合がある。例えば、TNF-α結合ポリペプチドは経口投与され、一方でIL-7R結合ポリペプチドは直腸投与される場合がある。
【0194】
本発明の一態様では、自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置あるいは予防において、IL-7R結合ポリペプチドとともに使用されるTNF-α結合ポリペプチドが提供される。さらなる態様では、自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置あるいは予防において、TNF-α結合ポリペプチドとともに使用されるIL-7R結合ポリペプチドが提供される。
【0195】
本発明のさらなる態様では、自己免疫疾患および/または炎症性疾患を処置する方法が提供され、該方法は、必要とする人に、TNF-α結合ポリペプチドをIL-7R結合ポリペプチドとともに投与する工程を含む。また、必要とする人に、IL-7R結合ポリペプチドをTNF-α結合ポリペプチドとともに投与する工程を含む、自己免疫疾患および/または炎症性疾患を処置する方法も提供される。
【0196】
本発明のさらなる態様では、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む、炎症性腸疾患および/または粘膜炎の処置あるいは予防に使用される組成物が提供される。
【0197】
本発明のさらなる態様では、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む、炎症性腸疾患および/または粘膜炎の処置あるいは予防に使用される組成物が提供され、該組成物は、経口投与される。
【0198】
本発明のさらなる態様では、自己免疫疾患および/または炎症性疾患、適切には炎症性腸疾患および/または粘膜炎の処置あるいは予防のための薬剤の製造における、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物の使用が提供される。
【0199】
本発明のさらなる態様では、経口投与による、自己免疫疾患および/または炎症性疾患、適切には炎症性腸疾患および/または粘膜炎の処置あるいは予防のための薬剤の製造における、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物の使用が提供される。
【0200】
本発明のさらなる態様では、炎症性腸疾患および/または粘膜炎を処置あるいは予防する方法が提供され、該方法は、必要とする人に、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物を投与する工程を含む。
【0201】
本発明のさらなる態様では、炎症性腸疾患および/または粘膜炎を処置あるいは予防する方法が提供され、該方法は、必要とする人に、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物を経口投与する工程を含む。
【0202】
上記実施形態では、炎症性疾患は、適切には粘膜炎または食道炎であり、炎症性腸疾患は、適切にはクローン病、潰瘍性大腸炎、またはチェックポイント阻害剤誘導型大腸炎、最も適切には潰瘍性大腸炎またはクローン病である。さらに、上記実施形態では、TNF-α結合ポリペプチドは、適切には抗体フラグメントを含むポリペプチドであり、および/またはIL-7R結合ポリペプチドは、適切には抗体フラグメントを含むポリペプチドである。より適切には、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドは、ともに抗体フラグメントを含むポリペプチドである。より適切には、両ポリペプチドは、ICVDである。
【0203】
1つの結合ポリペプチドを別の結合ポリペプチドと「ともに」投与することは、各結合ポリペプチドの治療濃度域が互いに重なることを意味する。このことは、例えば、治療上有効量の各結合ポリペプチドが、対象の身体に同時に存在することを意味する。特定の実施形態では、治療上有効量の各結合ポリペプチドは、治療が必要な部位に同時に存在する。
【0204】
本発明の組成物の治療上有効量は、対象への単回または複数回投与後に、対象において選択標的の生物学的効果を有意な程度に中和するのに有効な量である。治療上有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および重量などの要因、ならびに構築物が個体の望ましい反応を誘発する能力に応じて変動する場合がある。治療上有効量は、治療上有益な効果が構築物の有毒または有害な効果を上回る量でもある。本発明の組成物は、対象への経口投与に適した医薬組成物へと組み込むことが可能である。
【0205】
本発明の組成物は、経口送達用に製剤化可能である。本発明の組成物は、様々な形態を呈する場合がある。例えば、液体、液体溶液、分散液、または懸濁液、錠剤、丸剤、および粉末などの半固形および固形剤形が挙げられる。固形剤形が好ましい。適切には、本発明の組成物は、錠剤、より適切には小型錠剤に入れて提供される。適切には、本発明の構築物は、潰瘍性大腸炎またはクローン病の処置用の錠剤、より適切には小型錠剤に入れて提供される。より適切には、本発明の構築物は、経口投与用の腸溶コーティングを施した小型錠剤に入れて提供される。
【0206】
好酸球性食道炎の処置では、ロゼンジの形態での送達が特に好ましい。アトピー性皮膚炎の処置では、クリームの形態での送達が特に好ましい。
【0207】
組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤を含み、適切には、摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェーハなどの形態で使用可能である。
【0208】
一般的に、組成物は、医薬組成物を形成する担体などの薬学的に許容可能な賦形剤を含む。薬学的に許容可能な担体の例として、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどうち1つ以上、ならびにこれらの組合せが挙げられる。薬学的に許容可能な担体は、湿潤剤、乳化剤、保存料、または緩衝液などの微量の補助物質を含む場合があり、これにより、本発明のポリペプチドまたは構築物の貯蔵期間または有効性が増強される。医薬組成物は、抗付着剤(antiadherents)、結合剤、コーティング、崩壊剤、香料、色、潤滑剤、吸着剤、保存料、甘味料、凍結乾燥賦形剤(リオプロテクタントを含む)、または圧縮補助物質(compression aids)を含む場合がある。適切には、本発明の組成物中のポリペプチドは、凍結乾燥してから医薬組成物に組み込まれる。
【0209】
本発明の組成物はまた、腸溶コーティングとともに提供される場合がある。腸溶コーティングは、経口薬剤に適用されるポリマー障壁であり、胃の低いpHからポリペプチドを保護する。腸溶コーティングに使用される材料は、脂肪酸、ワックス、セラック、プラスチック、植物性繊維が挙げられる。適切な腸溶コーティングの構成成分として、メチルアクリレート-メタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(ヒプロメロースアセテートスクシネート)、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、メチルメタクリレート-メタクリル酸コポリマー、アルギン酸ナトリウム、およびステアリン酸が挙げられる。適切な腸溶コーティングは、pH依存性放出ポリマーを含む。これらは、胃で見られる高酸性pHでは溶けないが、低酸性pHでは速やかに溶けるポリマーである。ゆえに、適切には、腸溶コーティングは、酸性の胃液(pH最大3)では溶けないが、小腸(pH6超)または結腸(pH7.0超)にある高pH環境では溶けることになる。pH依存性放出ポリマーは、本発明の組成物が、腸管の標的領域に到達するおよその時間に放出されるように選択される。
【0210】
本発明の医薬組成物は、組成物のpHを安定させるために、5~50、より適切には15~40,またはさらに適切には25~30g/リットルの濃度で、緩衝液に入れて製剤化される場合がある。適切な緩衝液構成成分の例として、クエン酸ナトリウムおよび/またはクエン酸などの生理塩が挙げられる。適切には、緩衝液は、100~200、より適切には125~175mMの塩化ナトリウムなどの生理塩を含有する。適切には、緩衝液は、組成物のpHまたは患者の生理pHに近いpKaを有するように選択される。
【0211】
典型的な医薬組成物中のポリペプチド濃度は、約1mg/mL~約200mg/ml、約50mg/mL~約200mg/mL、または約150mg/mL~約200mg/mLに及ぶ場合がある。
【0212】
本発明の医薬組成物の水性製剤は、例えば約4.0~約7.0、約5.0~約6.0、あるいは約5.5のpH範囲で、pH緩衝液に入れて製剤化される場合がある。適切な緩衝液の例として、リン酸塩緩衝液、ヒスチジン緩衝液、クエン酸塩緩衝液、コハク酸塩緩衝液、酢酸塩緩衝液、および他の有機酸緩衝液が挙げられる。緩衝液濃度は、例えば、緩衝液、および製剤の所望の張度に依存して、約1mM~約100mM、約5mM~約50mMにあってもよい。
【0213】
医薬組成物の張度は、張度改質薬を含めることにより改質可能である。このような張度改質薬は、帯電または未帯電の化学種であってもよい。典型的な未帯電張度改質薬として、糖類、糖アルコール、または他のポリオール、好ましくはトレハロース、スクロース、マンニトール、グリセロール、1,2-プロパンジオール、ラフィノース、ソルビトールまたは、ラクチトール(特にトレハロース、マンニトール、グリセロール、または1,2-プロパンジオール)が挙げられる。典型的な帯電張度改質薬として、塩化物、硫酸塩、炭酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、またはマレイン酸塩イオン(特に塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウム)を伴うナトリウム、カリウム、またはカルシウムイオンの組合せなどの塩、あるいはアルギニンやヒスチジンなどのアミノ酸が挙げられる。適切には、水性製剤は等張であるが、高張液または低張液が適切な場合もある。「等張」という用語は、生理的食塩水または血清など、比較対象である一部の他の溶液と張度が同じである溶液を表す。等張化剤は、約5mM~約350mM、例えば1mM~500nMの量で使用可能である。適切には、少なくとも1つの等張剤が、組成物に含まれる。
【0214】
製剤化された構築物の凝集を低減し、製剤中の粒子形成を最小限にし、および/または吸収を低下させるために、医薬組成物に界面活性剤が添加される場合もある。典型的な界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij)、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(Triton-X)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(ポロキサマー、Pluronic(登録商標))、およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。適切なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの例は、ポリソルベート20、およびポリソルベート80である。典型的な界面活性剤の濃度は、約0.001%~約10%w/vに及ぶ場合がある。
【0215】
凍結乾燥プロセス中にポリペプチドを不安定条件から保護するために、リポプロテクタントも添加される場合がある。例えば、既知のリポプロテクタントは、糖類(グルコース、スクロース、マンノース、およびトレハロースを含む)、ポリオール(マンニトール、ソルビトール、およびグリセロールを含む)、およびアミノ酸(アラニン、グリシン、およびグルタミン酸を含む)を含む。リポプロテクタントは、約10mM~500mMの量で含めることができる。
【0216】
本発明の医薬組成物の投与量範囲は、所望の治療効果を産み出すための範囲である。必要な用量範囲は、医薬組成物または構築物の正確な性質、腸管の標的領域、製剤の性質、患者の年齢、患者の疾病の性質、程度、または重症度、存在する場合は禁忌、および主治医の判断に左右される。これら用量レベルの変動は、最適化のための標準の経験的なルーチンを使用して調整可能である。
【0217】
適切な本発明の医薬組成物の一日量は、50ug~40mg/kg、5~30mg/kgなど、50ng~50mg/kgの範囲にある。単位用量は、100mg未満まで変動可能であるが、一般的には、一回の投与につき250~2000mgの領域にあり、この量は、一日以上にわたり頻繁に、例えば、一日二回、三回、または四回、あるいは一日おきの頻度、または週一回の頻度で投与されてもよい。
【0218】
TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドは、本発明の組成物に存在するが、互いに結合されていないとき、TNF-α結合ポリペプチドとIL-7R結合ポリペプチドのモル比が20:1~1:20、例えば15:1~1:15、適切には10:1~1:10、より適切には5:1~1:5、さらに適切には3:1~1:3、また適切には2:1~1:2、さらに適切には1.5:1~1:1.5の状態で存在してもよい。
【0219】
疾患の処置はさらに、疾患の悪化の処置、症状の改善、および病徴の再発を防ぐために病徴からの寛解における患者の処置を包含する。
【0220】
併用療法
本発明の医薬組成物はまた、1つ以上の活性薬剤(例えば、本明細書に記載のものなどの疾患を処置するのに適した活性薬剤)を含む場合がある。自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置のための治療方法に本発明の医薬組成物を、細菌性疾患、自己免疫疾患、および/または炎症性疾患の処置に通常使用される他の確立された治療薬に対する補助剤として、あるいはこの治療薬と併用して使用することは、本発明の範囲内である。
【0221】
炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎など)の処置において、考えられ得る組合せとして、例えば、5-アミノサリチル酸またはそのプロドラッグ(スルファサラジン、オルサラジン、またはビサラジドなど)、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、またはブデソニド)、免疫抑制薬(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、メトトレキサート、アザチオプリン、または6-メルカプトプリン)、抗TNF-α抗体(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、またはゴリムマブ)、抗IL12/IL23抗体(例えば、ウステキヌマブ)、抗IL-23p19特異抗体(例えば、ブラジクマブ、リサンキズマブ、またはミリキズマブ)、抗IL6R抗体、または小分子IL12/IL23阻害剤(例えばアピリモド)、抗オンコスタチンM抗体(抗α-4-β-7抗体(例えばベドリズマブ))、MAdCAM-1遮断薬(例えばPF-00547659)、細胞接着分子α-4-インテグリンに対する抗体(例えばナタリズマブ)、IL2受容体αサブユニットに対する抗体(例えばダクリズマブまたはバシリキシマブ)、JAK1阻害剤(例えばフィルゴチニブまたはウパダシチニブ)、JAK3阻害剤(例えばトファシチニブまたはR348)、Syk阻害剤およびそのプロドラッグ(例えばフォスタマチニブおよびR-406)、ホスホジエステラーゼ-4阻害剤(例えばテトミラスト)、HMPL-004、プロバイオティクス、デルサラジン、セマピモド/CPSI-2364、およびプロテインキナーゼC阻害剤(例えばAEB-071)を含む群から選択される1つ以上の活性薬剤との組合せが挙げられる。最も適切な併用薬剤は、JAK1阻害剤(例えばフィルゴチニブまたはウパダシチニブ)、JAK3阻害剤(例えばトファシチニブまたはR348)、抗IL12/IL23抗体(例えば、ウステキヌマブ)、抗IL-23p19特異抗体(例えば、ブラジクマブ、リサンキズマブ、またはミリキズマブ)、あるいは抗α-4-β-7抗体(例えばベドリズマブ)である。
【0222】
したがって、本発明の他の態様は、1つ以上のさらなる活性薬剤、例えば上述の1つ以上のさらなる活性薬剤と併用して、本発明の医薬組成物を提供する。本発明のさらなる態様では、医薬組成物または構築物は、上記の群から選択した少なくとも1つの活性薬剤と連続的に、同時に、または別個に投与される。
【0223】
同様に、本発明の他の態様は、配合医薬品を提供し、該配合医薬品は、
(A)本発明の医薬組成物と、
(B)1つ以上の他の活性薬剤と
を含み、成分(A)および(B)はそれぞれ、薬学的に許容可能なアジュバント、希釈剤、または担体と混合させて製剤化される。この本発明の態様では、配合医薬品は、単一(併用)製剤、またはキットの一部であってもよい。このため、この本発明の態様は、本発明の医薬組成物または構築物および別の治療薬を、薬学的に許容可能なアジュバント、希釈剤、または担体と混合させて含む併用製剤を包含する。
【0224】
本発明はまた、キットの一部を包含しており、このキットの一部は、
(i)薬学的に許容可能なアジュバント、希釈剤、または担体と混合させた本発明の医薬組成物と、
(ii)1つ以上の他の活性薬剤を薬学的に許容可能なアジュバント、希釈剤、または担体と混合させて含んでいる製剤と
を含み、構成要素(i)と(ii)はそれぞれ、他方と組み合わせての投与に適した形態で投与される。
【0225】
このため、キットの一部の構成要素(i)は、上記成分(A)を薬学的に許容可能なアジュバント、希釈剤、または担体と混合させたものである。同様に、構成要素(ii)は、上記成分(B)を薬学的に許容可能なアジュバント、希釈剤、または担体と混合させたものである。1つ以上の他の活性薬剤(すなわち、上記成分(B))は、例えば、Clostridium difficile感染症などの細菌感染症、IBDなどの自己免疫疾患および/または炎症性疾患(例えばクローン病および/または潰瘍性大腸炎)などの処置に関連して上述した薬剤のうちいずれかであってもよい。成分(B)が2以上のさらなる活性薬剤である場合、これらの活性薬剤は、互いに製剤化されるか、成分(A)とともに製剤化されるか、別個に製剤化される場合がある。一実施形態では、成分(B)は、1つの他の治療薬である。別の実施形態では、成分(B)は、2つの他の治療薬である。この本発明の態様の配合医薬品(複合成分製剤またはキットの一部のいずれか)は、自己免疫疾患(例えば本明細書に記載の自己免疫疾患)の処置または予防に使用されてもよい。
【0226】
ベクターおよび宿主
用語「ベクター」は、本明細書で使用するとき、それが結合される他の核酸を運ぶことが可能な核酸分子を指すように意図される。ベクターの一種はプラスミドであり、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る円形の二本鎖DNAループを指す。他の種類のベクターはウイルスベクターであり、ここでは追加のDNAセグメントは、ウイルスゲノムへとライゲートされる場合がある。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞(例えば、細菌性の複製起点を有する細菌ベクター、ならびにエピソーム哺乳動物および酵母菌ベクター)において自律複製が可能である。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入に際して宿主細胞のゲノムへと統合され、それにより宿主ゲノムとともに複製される。さらに、特定のベクターは、それらが動作可能に結合される遺伝子の発現を方向付けることが可能である。このようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と本明細書と称される。一般的に、組換えDNA技法に有用な発現ベクターは、しばしばプラスミドの形態を呈する。本明細書では、「プラスミド」および「ベクター」は、プラスミドが最もよく使用されるベクターの形態であるため、交換可能に使用される場合がある。しかし、本発明は、同等の役割を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)などの発現ウイルス、ならびにバクテリオファージおよびファージミド系の他の形態を含むように意図されている。本発明はまた、本発明の組成物中のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に関する。「組換え体宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)という用語は、本明細書で使用するとき、組換え発現ベクターが導入された細胞を指すように意図される。かかる用語は、特定の対象細胞以外に、この細胞の後代も指すように意図される。
【0227】
本発明の一態様では、本発明の構築物をコードするポリヌクレオチド、および該ポリヌクレオチドを含むcDNAを含んでいるベクターが提供される。本発明のさらなる態様では、前記ベクターにより形質転換される宿主細胞が提供され、本発明の構築物を発現することが可能である。適切には、宿主細胞は、Aspergillus属、Saccharomyces属、Kluyveromyces属、Saccharomyces cerevisiaeなどのHansenulaまたはPichia属、Escherchia coliまたはPichia pastoris属に属する酵母菌などの、酵母菌である。
【0228】
調製法
ポリペプチド、およびポリペプチドを含む構築物は、例えばGreen and Sambrook 2012に開示される技法を使用して取得および操作可能である。
【0229】
モノクローナル抗体は、特異抗体を産生するB細胞を、組織培養における成長能、および抗体鎖合成の欠如について選択される骨髄腫(B細胞癌)細胞と融合することにより、ハイブリドーマ技術を使用して産生可能である(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Kohler et al.,1975 and Nelson et al.,2000)。
【0230】
決定された抗原に向けられるモノクローナル抗体は、例えば、
a)ハイブリドーマを形成するために、決定された抗原、不死細胞、好ましくは骨髄腫細胞で事前に免疫化させた動物の末梢血から得たリンパ球を不死化すること、
b)形成された不死化細胞(ハイブリドーマ)を培養し、所望の特異性を有する抗体を産生する細胞を回復させること
により、取得可能である。
【0231】
代替的に、ハイブリドーマ細胞の使用は、必要ではない。したがって、モノクローナル抗体は、
a)ベクターへ、具体的にはファージへ、より具体的には、リンパ球、特に(適切には、決定された抗原で事前に免疫化される)動物の末梢血リンパ球から得た糸状バクテリオファージ、DNA、またはcDNA配列へとクローニングする工程、
b)抗体の産生を可能にする条件で上記ベクターを伴う原核細胞を形質転換する工程、
c)抗原親和性選択にかけることにより抗体を選択する工程、
d)所望の特異性を有する抗体を回復させる工程
を含むプロセスにより取得可能である。
【0232】
ラクダを免疫化し、血液を循環するB細胞のVHHレパートリーをクローニングし(Chomezynnski et al.,1987)、ならびにファージ、酵母菌、またはリボソームディスプレイを用いて抗原特異的VHHを免疫(Arbabi-Ghahroudi et al.,1997)および非免疫(Tanha et al 2002)ライブラリから単離する方法が、知られている(WO92/01047、Nguyen et al.,2001、およびHarmsen et al.,2007)。これら参考文献は、その全体を参照により本明細書に組み込まれている。
【0233】
scFvおよびFvフラグメントなどの抗体フラグメントは、大腸菌において単離かつ発現可能である(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Miethe et al.,2013、Skerra et al.,1988、およびWard et al.,1989)。
【0234】
突然変異は、ポリペプチドのアミノ酸配列に関して無変化であるが特定の宿主の翻訳に好ましいコドンを提供するポリペプチドをコードする、DNAまたはcDNAに対してなされる場合がある。例えば大腸菌、P.pastoris、S.cerevisiaeにおける核酸の翻訳に好ましいコドンが、知られている。ポリペプチドの突然変異は、例えばポリペプチドをコードする核酸の置換、付加、または欠失により達成可能である。ポリペプチドをコードする核酸の置換、付加、または欠失は、多くの方法、例えば、error-prone PCR、シャフリング、オリゴヌクレオチドを対象とする突然変異、アセンブリPCR、PCR突然変異誘発、in vivo突然変異誘発、カセット式突然変異誘発、回帰的アンサンブル突然変異誘発、指数関数的アンサンブル突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Ling et al 1997)、遺伝子再構築、遺伝子部位飽和突然変異誘発(GSSM)、合成ライゲーション再構築(SLR)、またはこれら方法の組合せにより、導入することができる。核酸の修飾、付加、または欠失はさらに、組換え、回帰的配列組換え、ホスホチオエート修飾DNA突然変異誘発、ウラシル含有鋳型突然変異誘発、ギャップドデュプレックス突然変異誘発、ポイントミスマッチ修復突然変異誘発、修復欠損宿主株突然変異誘発、化学的突然変異誘発、放射性突然変異誘発、欠失突然変異誘発、制限選択突然変異誘発、制限精製突然変異誘発、アンサンブル突然変異誘発、キメラ核酸多量体作成、またはこれらの組合せを含む方法によっても導入可能である。
【0235】
特に、人工遺伝子合成が使用される場合がある(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Nambiar et al 1984、Sakamar et al.,1988、Wells et al.,1985、およびGrundstrom et al.,1985)。ポリペプチドをコードする遺伝子は、例えば固相DNA合成により合成的に産生可能である。遺伝子全体は、前駆物質鋳型DNAを必要とすることなく、de novo合成可能である。所望のオリゴヌクレオチドを得るために、ビルディングブロックは、生成物の配列に必要な順序で成長オリゴヌクレオチド鎖へと連続的に結合される。鎖のアセンブリが完了すると、生成物は、固相から溶液へと放出され、脱保護され、集められる。生成物は、高純度で所望のオリゴヌクレオチドを得るために高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により単離可能である(Verma et al.,1998)。
【0236】
VHおよびVHHなどの免疫グロブリン鎖可変ドメインの発現は、(例えば、参照により本明細書に組み込まれるとともに以下に詳述されるWO94/04678に開示されるプロトコルに従い)細菌、例えば大腸菌などの原核細胞といった適切な発現ベクターを使用して達成可能である。VHおよびVHHなどの免疫グロブリン鎖可変ドメインの発現はまた、真核細胞、例えば昆虫細胞、CHO細胞、ベロ細胞、あるいは、Aspergillus属、Saccharomyces属、Kluyveromyces属、Hansenula属、またはPichia属に属する酵母菌などの酵母菌を使用して達成可能である。適切には、(例えば、参照により本明細書に組み込まれるとともに以下に詳述されるWO94/025591に開示されるプロトコルに従い)S.cerevisiaeが使用される。
【0237】
具体的には、VHHは、次の工程を含むプロセスにより、大腸菌細胞を使用して、WO94/04678に開示される方法に従い調製可能である:
a)ブルースクリプトベクター(Agilent Technologies)において、任意選択でHisタグを含む(例えば、ラクダのリンパ球から得られるか、合成的に産生される)VHHをコードするDNAまたはcDNAの配列をクローニングする工程、
b)XhoI部位を含有するVHHに特異的な5’プライマー、および配列TC TTA ACT AGT GAG GAG ACG GTG ACC TG(配列番号13)を有するSpeI部位を含有する3’プライマーを使用した増幅後に、クローニングされたフラグメントを回復させる工程、
c)XhoIおよびSpeI制限酵素でのベクターの消化後にImmuno PBSベクター(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Huse et al.,1989)において、回復されたフラグメントを同位相でクローニングする工程、
d)工程cの組換えImmuno PBSベクターでのトランスフェクションにより宿主細胞、特に大腸菌を形質転換する工程、
e)VHHコーディング配列の発現産物を、例えば、プロテインAを用いたカラムクロマトグラフィー、陽イオン交換、またはVHHがHisタグを含む場合にはニッケル親和性レジンなどの親和性精製により回復させる工程。
【0238】
代替的に、VHやVHHなどの免疫グロブリン鎖可変ドメインは、
a)判定された特異性抗原結合部位を有するVHHをコードするDNAまたはcDNAの配列を得る工程、
b)開始コドンおよびHindlll部位を含む5’プライマー、ならびにXhoI部位を有する終止コドンを含有する3’プライマーを使用して、得られたDNAまたはcDNAを増幅する工程、
c)増幅されたDNAまたはcDNAを、プラスミドpMM984(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Merchlinsky et al.,1983)のHindlll(2650位)およびXhoI(4067位)部位へと再び組み合わせる工程、
d)許容細胞を特にNB-E細胞(参照により本明細書に組み込まれる、Faisst et al.,1995)にトランスフェクトする工程、
e)得られた生成物を回復する工程
を含むプロセスにより取得可能である。
【0239】
さらに、VHHまたはVHなどの免疫グロブリン鎖可変ドメインは、次のように、Frenken et al.,2000およびWO99/23221(その全体を参照により本明細書に組み込まれる)に開示される方法に従い、大腸菌またはS.cerevisiaeを使用して産生可能である。
【0240】
免疫化されたラマからの血液試料を採取し、Ficoll(水溶液に溶けやすい中性で、高度に分枝し、高質量で、親水性のポリサッカリド-Pharmacia)での不連続勾配遠心分離を介してリンパ球集団を富化させ、不連続の勾配遠心分離、酸性グアニジウムチオシアネート抽出(Chomezynnski et al.,1987)により全RNAを単離し、第1の鎖cDNA合成(例えば、RPN 1266(Amersham)などのcDNAキットを使用)を行った後、VHHおよびVHフラグメント、ならびに短いまたは長いヒンジ領域の一部をコードするDNAフラグメントは、WO99/23221の22頁および23頁に詳述される特異的なプライマーを使用するPCRにより増幅される。PstIおよびHindIIIまたはBstEIIを用いたPCRフラグメントの消化に際して、長さ約300~450bpのDNAフラグメントは、アガロースゲル電気泳動を介して精製され、それぞれ大腸菌ファージミドベクターpUR4536またはエピゾームのS.cerevisiae発現ベクターpUR4548にてライゲートされる。pUR4536は、pHEN(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Hoogenboom et al.,1991)に由来するものであり、ラマVHHおよびVH遺伝子のクローニングを可能とするためにlacIq遺伝子および固有の制限部位を包含している。pUR4548は、pSY1(その全体を参照により本明細書に組み込まれる、Harmsen et al.,1993)に由来するものである。leu2遺伝子におけるBstEII部位は、このプラスミドからPCRを介して取り除かれ、SUC2シグナル配列とターミネーターとの間にあるクローニング部位は、VH/VHH遺伝子フラグメントのクローニングを容易にするために置き換えられる。VH/VHHは、検出対象C末端にc-mycタグを有している。個々の大腸菌JM109コロニーは、1%グルコースおよびL-1アンピシリンを補足した2TY培地150mlを包含する96ウェル微量定量プレートに移される。一晩かけて成長(37℃)させた後、プレートは、L-1アンピシリン100mgおよび0.1mM IPTGを包含する2TY培地に複製される。さらに一晩インキュベーションを行い、任意選択で凍結解凍した後、細胞は遠心分離されてペレット状になり、上清はELISAで使用可能である。個々のS.cerevisiaeコロニーは、選択的な最少培地(0.7%酵母窒素原基礎培地、2%グルコースを含み、必須アミノ酸および塩基が補足されている)を包含する試験管に移され、30℃で48時間かけて成長される。続いて、培養物は、YPGal培地(1%酵母抽出物、2%のbactoペプトン、および5%ガラクトースを含む)の中、10倍希釈される。成長の24時間と48時間後、細胞はペレット状にされ、培養液上清はELISAで解析可能である。600nm(OD600)の吸光度が、任意選択で測定される。
【0241】
さらに、VH/VHHなどの免疫グロブリン鎖可変ドメインは、次のような手順を使用して、S.cerevisiaeまたはP.pastorisにより産生可能である。
【0242】
VH/VHHをコードする自然発生のDNA配列を単離するか、5’-UTR、シグナル配列、停止コドンを含み、ならびにSacIおよびHindIII部位に隣接するVH/VHHをコードするDNA配列を合成により産生する(このような合成配列は、上記に概説されるように産生可能であるか、例えばGeneart(Life Technologies)などの市販のサプライヤから注文される場合がある)。
【0243】
次のように、制限部位を使用して、VH/VHH遺伝子を多コピー統合(MCI)ベクターpUR8569またはpUR8542に移す。25ulのVHH DNA(GeneartプラスミドまたはMCIベクター)、1ulのSacI、1ulのHindIII、NEB緩衝液1(New England Biolabs)などの二重消化に適した3ulの緩衝液を使用して、37℃で一晩、シャトルベクター、カセット、または他の合成遺伝子構築物内に任意選択で包含されるVHH、ならびにSacIおよびHindIIIを伴うMCIベクターをコードするDNA配列を、切断する。1xTAE緩衝液を有する1.5%アガロースゲル上で、VHHをコードする消化DNA25ul、および消化MCIベクター25ulを実施し、次いで、例えばQIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen)を使用してゲル抽出を行う。次のように、VH/VHHをコードする消化MCIベクターおよび消化DNAのライゲーションを設定する:ベクター100ng、VHH遺伝子30ng、10×リガーゼ緩衝液1.5ul、T4DNAリガーゼ1ul、およびddH2O。次いで、16℃で一晩、ライゲーションを行う。
【0244】
次に、大腸菌細胞を形質転換する。化学コンピテントXL-1青色細胞では、熱コンピテントXL-1青色細胞200ulを解凍し、氷の上に5ulライゲーション混合物を約30分かけて添加し、続いて熱ショックを42℃で90秒間かけて添加する。次いで、2%グルコースを補足した800ulのLuria-Bertani低塩培地を添加し、細胞を37℃で2時間かけて回復する。Luria-Bertani寒天およびアンピシリン(100ug/ml)上に細胞を蒔き、温度を一晩37℃に維持する。電気コンピテントTG1大腸菌細胞では、エレクトロポレーションキュベットを使用する。エレクトロポレーションキュベットにおいて、氷の上にある50ulの電気コンピテントTG1細胞および1ulのライゲーション混合物を、約15分間かけて解凍する。ホルダーおよびパルスにキュベットを配置する。500ulの2TY培地を添加し、細胞を37℃で30分かけて回復させる。Luria-Bertani、寒天、アンピシリン(100ug/ml)、および2%グルコースに、100ulの細胞を蒔く。プレートの温度を37℃で一晩維持する。
【0245】
上記で詳述したようにVH/VHH遺伝子を大腸菌へとクローニングした後、S.cerevisiaeまたはP.pastorisは、線形化されたMCIベクターで形質転換可能である。形質転換を行う前に、いくつかの工程が実行される。(i)DNAは、消化により環状から線形へと変更される必要があるか、酵母ゲノムへと統合することはできない、および(ii)消化DNAは、エタノール沈澱により不純物を取り除く必要がある。また、形質転換プロセス中、酵母菌は半透過性とされ、そうすることでDNAは膜を通過可能となる。
【0246】
酵母菌形質転換の調製物:次のように、VH/VHH遺伝子を発現する選択された大腸菌コロニーから調製したmidi-prepのHpaI消化を行う。20ngのmidi-prep、5ulのHpaI、NEB4緩衝液(BioLabs)などの適切な緩衝液10ul、およびddH2Oを含有する100ulの溶液を調製する。
【0247】
HpaIでDNAを、室温で一晩かけて切断する。次に、エタノール沈澱を行う(および片側に、HpaI消化からの5ul試料を添加する)。300ulのエタノール100%を95ulのHpaI消化midiprepに添加し、ボルテックス処理を行い、5分間全速力で回転させる。ペレットが存在するときは慎重にデカントし、100ulのエタノール70%を添加し、次いで5分間全速力で回転させる。再び試料をデカントし、ペレットが乾燥するまで50~60℃に保つ。ペレットを50ulのddH2O中で再懸濁させる。5ulのHpaI消化試料の傍、ゲル上で5ulを実行する。
【0248】
酵母菌の形質転換:YNBgluプレートを調製する。寒天10g+水425ml(殺菌済)、25mlの濾過した20×YNB(25mlの滅菌H2O中の3.35gのYNB(酵母窒素原基礎培地))、および50mlの滅菌20%グルコースを使用し、ペトリ皿へと流し込む。マスタープレートから1つの酵母菌コロニーを取り上げ、3mlのYPD(酵母抽出物ペプトンデキストロース)中で一晩、30℃で成長させる。翌日、約600mlのYPDを調製し、これを使用して、3つのフラスコを275ml、225ml、および100mlのYPDで満たす。27.5ulの酵母菌YPD培養物を第1のフラスコに添加し、軽く混合する。第1のフラスコから75mlを取り、これを第2のフラスコに入れて軽く混合する。第2のフラスコから100mlを取り、これを第3のフラスコに入れて軽く混合する。1~2のOD660に到達するまで成長させる。このODに達するフラスコを、4つのFalcon管に対して、それぞれ±45mlで分割する。4200rpmで2分間回転させる。上清を捨てる。2つのFalcon管内のペレットを、45mlのH2Oで溶かす(管の数は4から2に減少)。4200rpmで2分間回転させる。ペレットを45mlのH2Oに溶かす(管の数は2から1に減少)。4200rpmで2分間回転させる。ペレットを酢酸リチウム(LiAc)5ml(100mM)に軽く溶かし、数秒間回転させる。一部のLiAcを慎重に捨て、LiAcの半分以上を管に保持しておく。細胞をボルテックスし、キャリアDNAを5分間煮沸し、氷水の中で急冷する。240ulのPEG、50ulの細胞、36uLiAc(1M)、25ulのキャリアDNA、45ulのエタノール沈殿VH/VHHを含有する15ml管に添加する。各工程後、軽く混合する(同じブランク試料を処理するが、エタノール沈殿させたVH/VHHのみを使用しない)。30℃に30分間インキュベートし、管を3~4回軽く反転し、次いで42℃で20~25分間、熱ショックを与える。最大6000rpmで短時間回転させる。上清を軽く取り除き、250ulのddH2Oを添加し、混合する。プレートが乾燥するまですべてをYNBgluプレート上で線を付け(Streak)、30℃で4~5日間成長させる。最後に、プレートを6等分にすることによりYNBgluプレートを調製し、これに1~6の番号を付け、最大コロニーを播種し、番号1をストリークアウト(streak out)する。1~6の大きなものから小さなものまで他のコロニーに対して繰り返す。コロニーが産生されるまで、30℃で3~4日間、大きな方を成長させる。炭素源としてグルコースを使用してVH/VHHクローンを成長させ、VH/VHH発現の誘導は、0.5%ガラクトースを添加することによりガラクトース-7-プロモータを開くことで行われる。3mLの小規模培養を行い、コロニーを試験し、どれがVHまたはVHHの最良の発現を示すかを選択する。次いで、このコロニーは精製に使用される。
【0249】
精製:VH/VHHは、強力なアニオン樹脂(Capto Sなど)でのカチオン交換クロマトグラフィーにより精製される。1日目、VH/VHHを発現する選択酵母菌コロニーを5mlのYPD培地(YP培地+2%グルコース)に播種し、細胞を25mL滅菌密封管の中、30℃で一晩成長させる(180rpmで振盪させる)。2日目、5mlの培養物を一晩、新たに調製した50mLのYP培地+2%グルコース+0.5%ガラクトースに希釈し、細胞を通気済の250mlのバッフルドフラスコの中、30℃で二晩かけて成長させる(180rpmで振盪させる)。4日目、細胞を遠心分離機の中、4200rpmで20分間沈降させる。強力なアニオン樹脂を使用するカチオン交換精製の工程:リガンドを含有する上清のpHを3.5に調整する。上清50mLにつき0.75mlの樹脂(+/-0.5mLのスラリー)を、50mLのddH2Oで洗浄し、続いて結合緩衝液で3回洗浄する。洗浄した樹脂を上清に添加し、懸濁液をシェーカーの中、4℃で1.5時間インキュベートする。500gで2分間の遠心分離により、樹脂に結合したVH/VHHをペレット状にし、これを洗浄緩衝液で洗浄する。上清をデカントし、樹脂を結合緩衝液10mLで再懸濁させる。フィルタをPD-10カラムに入れ、樹脂をカラムに注ぎ、しばらくの間静置し、次いで樹脂の上にフィルタを添加する。結合緩衝液がすべて流れるまで待つ。6×0.5ml溶出緩衝液でVH/VHHを溶出する。溶出分画をエッペンドルフ管に集める。6つの溶出分画のタンパク濃度をNanodropで測定する。VHHを含有するとともに、溶液を3,500Daのカットオフ透析膜に移す分画をプールする。精製タンパク質溶液を3LのPBSに対し、4℃で一晩かけて透析する。5日目、精製タンパク質溶液を、2Lの新たなPBSに対し、4℃でさらに3時間かけて透析する。最後に、BCAにより最終濃度を算出する。
【0250】
VH/VHHの文脈で論じられているが、上述の技法は、必要な場合にはscFv、Fab、Fv、および他の抗体フラグメントにも使用可能である。
【0251】
複数の抗原結合フラグメント(適切にはVH/VHH)は、Blattler et al.,1985(その全体を参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるものなどの有機誘導体化剤にアミノ酸残基を反応させることによる化学架橋により、融合可能である。代替的に、抗原結合フラグメントは、DNAレベルで遺伝的に融合可能であり、すなわち、1つ以上の抗原結合フラグメントを含む完全なポリペプチド構築物をコードするポリヌクレオチド構築物が、形成される。遺伝学的経路を介した複数の抗原結合フラグメントを結合する方法の1つは、抗原結合フラグメントコーディング配列を直接またはペプチドリンカーを介して結合させることにより行われる。例えば、第1の抗原結合フラグメントのカルボキシ末端は、次の抗原結合フラグメントのアミノ末端に結合される場合がある。この結合形態は、トリ-、テトラ-などの機能的構築物の構築に対して抗原結合フラグメントを結合するために伸長される場合がある。多価(二価など)VHHポリペプチド構築物を産生する方法は、WO96/34103(その全体を参照により本明細書に組み込まれる)に開示される。
【0252】
適切には、ポリペプチドは、WO02/48382に開示される方法に従い、炭素源を含む培地上の真菌成長を含む酵母菌(例えばS.cerevisiaeまたはP.pastoris)などの真菌類において、産生可能であり、前記炭素源の50~100wt%は、エタノールである。S.cerevisiaeにおけるVHHフラグメントの大規模産生は、Thomassen et al.,2002(その全体を参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0253】
本発明の一態様では、本発明の組成物を作製する方法が提供され、該方法は、適切な宿主を使用してTNF-αをコードするポリヌクレオチドを発現させる工程と、適切な宿主を使用してIL-7Rをコードするポリヌクレオチドを発現させる工程と、両ポリヌクレオチドを比較する工程とを含む。本発明のさらなる態様では、本発明の構築物を作製する方法が提供され、該方法は、適切な宿主を使用して本発明の構築物をコードするポリヌクレオチドを発現させる工程を含む。
【0254】
本発明のさらなる実施形態を、以下の節に述べる。
【0255】
節
1.TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含む組成物。
2.(a)前記TNF-α結合ポリペプチドが3つの相補性決定領域(CDR~CDR3)を含み、CDR1は、配列番号1と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR2は、配列番号2と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR3は、配列番号3と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、ならびに
(b)前記TNF-α結合ポリペプチドが3つの相補性決定領域(CDR~CDR3)を含み、CDR1は、配列番号9と60%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR2は、配列番号10と50%以上の配列同一性を共有する配列を含み、CDR3は、配列番号11と60%以上の配列同一性を共有する配列を含む、節1に記載の組成物。
3.抗体フラグメントを含むポリペプチドは、免疫グロブリン鎖可変ドメインである、節1または2に記載の組成物。
4.前記TNF-α結合ポリペプチドは、10-7M以下のKdをもってTNF-αに結合し、前記IL-7R結合ポリペプチドは、10-7M以下のKdをもってIL-7Rに結合する、節1から3のいずれか1つに記載の組成物。
5.前記TNF-α結合ポリペプチドは、100nM以下のEC50をもってL929アッセイにおいてヒトTNF-α細胞毒性を中和し、前記IL-7R結合ポリペプチドは、100nM以下のEC50をもってヒトリンパ球においてIL-7R依存性、IL-7誘導型のSTAT5リン酸化を中和する、節1から4のいずれか1つに記載の組成物。
6.前記TNF-α結合ポリペプチドおよび前記IL-7R結合ポリペプチドが、結合される、節1から5のいずれか1つに記載の組成物。
7.前記TNF-α結合ポリペプチドおよび前記IL-7R結合ポリペプチドが、プロテアーゼ不安定ペプチドリンカーにより結合される、節6に記載の組成物。
8.前記プロテアーゼ不安定ペプチドリンカーが、Kおよび/またはR残基を含む、節7に記載の組成物。
9.前記ポリペプチドが、小腸または大腸に存在する1つ以上のプロテアーゼに対して実質的に耐性を示す、節1から8のいずれか1つに記載の組成物。
10.節1から9のいずれか1つに記載の組成物と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
11.腸溶コーティングを含む、節1から10のいずれか1つに記載の組成物。
12.経口投与に適している、節1から11のいずれか1つに記載の組成物。
13.自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置または予防に使用するためのものである、節1から12のいずれか1つに記載の組成物。
14.自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置あるいは予防において、IL-7R結合ポリペプチドとともに使用されるTNF-α結合ポリペプチド、
15.自己免疫疾患および/または炎症性疾患の処置あるいは予防において、TNF-α結合ポリペプチドとともに使用されるIL-7R結合ポリペプチド。
【0256】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに記載される。
【実施例】
【0257】
実施例1~3は、特異的なIL-7R結合ポリペプチドの特性に関する情報を提供する。実施例4と5は、IL-7R結合ポリペプチドとTNF-α結合ポリペプチドとの併用を対象とする実験に関する情報を提供する。実施例6は、IL-7R結合ポリペプチドおよびTNF-α結合ポリペプチドを含む構築物の産生を詳述する。
【実施例1】
【0258】
先行技術のIL-7R結合ポリペプチドと比較した、IL-7R結合ポリペプチドID-A40U、V7R-2E9、およびID-A62Uの効力
ともに大腸菌に産生されるIL-7R結合ポリペプチドID-A40U(配列番号24)およびV7R-2E9(配列番号25)の阻害効力と有効性(最大阻害)を、L-7/IL-7R中和ELISAにおいてin vitroで分析し、mAb829、臨床的抗IL-7R抗体(「GSK2618960」としても知られており、Ellis et al 2019に開示される抗IL-7Rαモノクローナル抗体である)と比較した。
【0259】
300nMから出発し、3.2の希釈係数を使用して、1%BSA(2xのアッセイ濃度)において、ICVDの7点希釈系列を調製した。mAb829対照薬抗体は、10nM~0.088nMの濃度範囲(2xのアッセイ濃度)でELISAにおいて陽性対照として使用した。トリプリケートに十分な体積を各ICVD希釈に対して調製し、一方で2つのトリプリケート(2つのプレート)に十分な体積をmAb829に対して調製した。85μL(または170μL)の各ICVD(またはmAb829)希釈を、85μL(または170μL)の10ng/mL IL-7(2xのアッセイ濃度)と混合した。85μLのIL-7を85μLのブロック緩衝液と混合させ、各プレートにIL-7(1x)完全結合シグナルを含ませた。ブロック緩衝液も、ブランクとして各プレートに添加した。次いで、ビオチン化抗-hIL-7、続いてExtravidin-HRPを使用して、結合したIL-7を測定した。TMB反応を30分後に止めた。
【0260】
ELISAシグナルブランクを補正したA450データおよび「対数(阻害剤)vs反応--可変勾配(4つのパラメータ)」を使用して、EC50値をGraphpadプリズムにおいて生成し、曲線に適合させ、EC50を生成した。
【0261】
加えて、IL-7Rαに結合するIL-7を阻害してSTAT5リン酸化を妨げるID-A40UおよびV7R-2E9の能力を、in vitroで、ヒトリンパ球を対象に試験した。ヒト末梢血単核球(PBMC)は、IL-7Rシグナル伝達を介した細胞内STAT5リン酸化の刺激により外生IL-7に反応するが、この反応は、IL-7/IL-7R結合を妨げるIL-7Rαに特異的なICVDにより無効にすることができる。
【0262】
リンパ球が豊富な集団をヒトバフィーコートから単離し、液体窒素中の90%FBS 10%DMSOに保管した。回復のために、細胞を完全RPMI-1640において解凍し、静置させた。回復後、丸底96ウェルプレート中の100μl、2.5x105細胞/ウェル)に細胞を蒔き、FBSを含まない完全RPMI中で1時間飢餓させた。飢餓後、所望のICVD濃度を各ウェル(50μL/ウェル)に添加し、プレートを室温で15分間インキュベートした。次いで、50μL/ウェルのIL-7を各ウェルに加え、プレートを15分間、37℃、5%CO2でインキュベートした。氷の上でプレートを急冷して反応を止め、続いて遠心分離を行い、上清を取り除いた。次いで、固着、透過化、およびpSTAT5細胞内染色のために、細胞を処理した。氷の上で20分間、100μL/ウェルのCytofix/Cytoperm溶液(BD Bioscience #554722)で細胞をインキュベートし、150μl/ウェルの1x Perm/Wash緩衝液(BD Bioscience #554723)で2回洗浄し、氷の上で30分間、200μL/ウェルのPerm緩衝液III(BD Bioscience #558050)でインキュベートし、150μL/ウェルの1xPBS2%BSA(FACS緩衝液)で2回洗浄した。続いて、室温で1時間、25μL/ウェルのpSTAT5抗体([47/Stat5(pY694)](A488)(BD Bioscience #612598))またはアイソタイプ対照マウスIgG1([B11/6](FITC)(Abcam #ab91356))で細胞を染色した。150μL/ウェルのFACS緩衝液を添加することにより、反応を止めた。1回の洗浄/遠心分離工程の後、最終的に200μL/ウェルのFACS緩衝液の中で細胞を再懸濁し、データをCytoFlexフローサイトメーター(Beckman Coulter)中で獲得した。FlowJoソフトウェアを使用してデータ解析を行った。
【0263】
対照薬とともに、これら実験の結果を表1aに示す。
【0264】
【0265】
別個の実験では、この同じIL-7/IL-7R中和ELISAを、対照薬とともにID-A62U(配列番号16)(S.cerevisiaeにおいて産生)上で実施した。結果を表1bに示す。ID-A62Uは、ID-A40Uに対してE1DおよびR45Lの突然変異を含む。
【0266】
【0267】
IL-7Rαに結合するL-TSLP/TSLP-R複合体をV7R-2E9が中和する能力を、試験した。96ウェルプレートを0.25μg/mLの組換えヒトIL-7Rα-His6-Fc+5μg/mLのBSAで被覆し、次いで遮断した。V7R-2E9を連続希釈し、組換えヒトL-TSLP(最終濃度15ng/mL)およびヒトTSLP-R(最終濃度20ng/mL)と1:1:1で混合した。次いで、混合物を30分間インキュベートし、結合を可能にしてから、IL-7Rαで被覆したプレートに添加する。2時間のインキュベーション後、結合したL-TSLPを、50μL/ウェルの0.3μg/mLビオチン化ウサギ抗hTSLP抗体、次いで50μL/ウェルの1/2000のExtravidin-HRPで検出し、ICVDによりIL-7Rαに結合するL-TSLP/TSLP-R複合体の中和レベルを、GraphPadプリズムを使用して判定した。結果を以下の表1cに示す。
【0268】
【0269】
まとめると、ID-A62UおよびID-A40Uは、対照薬である臨床的抗IL-7R抗体mAb829以上の効力を有することを認めた。ID-A40UとID-A62Uはともに、同じICVDファミリーに属するものであり、同一の配列を有しておらず(ID-A62UはID-A40Uに対してE1DおよびR45Lの突然変異を含む)、異なる生物体を使用して産生されたとしても、高い効力を維持することに留意されたい。
【実施例2】
【0270】
ICVD-IL-7R結合親和性のBiocore推計
ID-A40Uの結合動態を、Biacore試験においてmAb829臨床的抗体と比較した。IL-7Rα-His6-Fcを、Biacoreセンサプレート(mAb829解析用)に直接被覆するか、抗ヒトIgG Fc(ICVD解析用)で捕捉して、ICVD/Abをプレート上に流して結合を検出した。ID-A40Uの親和性(KD)は7.8x10-11Mであり、mAb829の親和性(KD)は、5.67x10-10Mとわずかに低かった。この結果より、ID-A40Uは抗原への強力な結合を呈することを認める。ID-A62Uは、ID-A40Uに対してE1DおよびR45Lの突然変異を含む。
【実施例3】
【0271】
胃腸抽出物への耐性
腸の上清でのex vivoインキュベーションにより、カニクイザルおよびヒトの腸管におけるICVDの安定性を予測可能である。哺乳動物種を介して主要な小腸プロテアーゼ、トリプシン、およびキモトリプシンの活性を保存し、一方で大腸に存在するプロテアーゼは、宿主に特異的な腸マイクロフローラより産生される可能性が高い。これらの2つの環境を反映する試験マトリクスを生成するために、プールされたマウス小腸の上清、およびプールされた便の上清を、調製した。これらマトリクスはともに、未選別かつ未操作のICVDに対して高度に消化性(digestive)である。
【0272】
以前に、 抗TNF-αICVD ID-38Fの安定性はこれらマトリクス中で高いこと(WO2016/156465を参照)、この特性がID-38Fの腸の通過中に高い安定性を予測することが、認められている。
【0273】
マウス源とヒト源からの胃腸抽出物中での生存について、V7R-2E9およびID-A40Uを試験した。ICVDを、37℃で6時間、マウス小腸上清でインキュベートし、そしてヒトの便の上清で16時間インキュベートした。実施例1において上述したIL-7/IL-7R中和ELISAにより、生存を測定した。両構築物は、試験した消化マトリクスでの良好な生存を実証した(
図1。「SI」=マウス小腸液、「HF」=ヒトの便の上清)。
【0274】
別個の実験では、ID-A41U(不安定な対照薬ICVD)とともに、同じヒトの便の上清アッセイにおいて生存に関してID-A62Uを試験した。ID-A62Uは、ID-A41Uでの約40%の生存と比較して約100%の生存を示した(
図2。ID-A62Uのラベルを付けた「A62U」、およびID-A41Uのラベルを付けた「A41U」)。
【0275】
これらは、拡張インキュベーション時間に関与する厳密な試験であった。そのため、これらICVDのうちいずれかは、胃腸環境で非常によく残存すると推計されることになる。
【実施例4】
【0276】
培養したIBD組織中のシグナル伝達タンパク質のリン酸化に対する、別個および併用して投与されるTNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドの阻害効果の調査
試験を行い、リンタンパク質バイオマーカーのレベル、およびUC患者から得た炎症結腸粘膜組織のex vivo培養物中での炎症性サイトカインの自発的な産生に対する、TNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドの阻害効果を調べた。試験したポリペプチドはともにICVDであった。ICVDは、ID-A62U(上記実施例1~3で論じたIL-7R結合ICVD)およびID-38F(WO2016/156465において開示されるTNF-α結合ICVD)であった。個々のICVDの効果を、2つのICVDの混合物、および陰性対照ICVD(「ID-2A」、どちらの標的にも結合しない無関係のICVD)と比較して、様々な抗サイトカイン機構を組み合わせた効果を評価する。
【0277】
4つの異なるUC患者それぞれの生検を、様々なICVD(対照ID-2A 50nM、ID-38F 50nM、ID-A62U 50nM、またはID-38F+ID-A62U(それぞれ50nM))で24時間インキュベートし、処置後、組織溶解物をリンタンパク質抗体アレイで解析した。結果生じるヒストグラム(
図3~4)は、生検(1つの処置あたり4つ)それぞれに対して得たホスホ強度データの組合せの視覚的表現を提供する。様々なICVD処置の阻害効果を、対照ICVD ID-2Aで処置した生検での優勢的に高いホスホ強度値から、抗TNF-αまたは抗IL-7R ICVDあるいはこれらの組合せで処置した生検での比較的低いホスホ強度値への推移により実証する。これら平均結果は、組織リン酸化レベルに対するID-A62UおよびID-38Fの一貫した全体阻害効果を示し、2つのICVDを組み合わせたときに効果はさらに高くなる。リンタンパク質のいずれかが本解析でより重要であり得る場合に、各生検でのタンパク質リン酸化に対する処置の全体効果を評価したことは知られていない。
【0278】
図5に示した結果は、各患者の4つの生検に対して測定したホスホ強度の合計値を示す。各生検において、アレイ上で45のタンパク質すべてに対して測定した強度値を合計することにより、全リン酸化レベルを算出した。各患者において、各処置に対して測定した全リン酸化レベルを示す。3例(UC2748、UC2749、およびUC2750)では顕著な阻害を認め(組合せで約50%)、第4のUC2747でも顕著な阻害を認めたが、一般的に反応性は少なかった。
【0279】
ID-38FとID-A62Uを併用した処置における阻害効果は、1つのICVDで達成した効果を超えるものであり、その結果、大半のリンタンパク質に対してほぼ最大の阻害を達成した。この実験で観察した予想外に高い阻害レベルに起因して、UC組織における併用薬剤の相乗効果に関する決定的な証拠は、さらに調査が必要となる。しかし、IL-7RおよびTNF-α結合ポリペプチドによるUC組織における炎症性バイオマーカーの顕著阻害に関する証拠は、有望なものであり、より低濃度のポリペプチドを組み合わせたときに観察可能な相乗作用が生じる可能性が高いことを示唆する。
【0280】
全体的に、これらの結果は、共投与した抗TNF-αおよび抗IL-7Rポリペプチドにおける少なくとも相加的で、場合により相乗的な効果を実証する。
【実施例5】
【0281】
IBD組織のex vivo培養物中のサイトカイン産生に対する、別個および併用して投与されるTNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドの阻害効果の調査
上記実施例4で論じられる生検中の自発的サイトカイン産生平均に対する様々な処置の効果を、
図6~8に示す。ID-38FまたはID-A62U単独の処置は、IL-8、TNFα、およびIL-17Fの産生を阻害したが、他のサイトカインには効果がほとんどなかった。しかし、ID-38FとID-A62Uを組み合わせると、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-17A、およびIL-33に対する阻害効果は、個々のICVDで認めたものよりも明らかに高かった。TNFαおよびIL-17F産生に対する組合せの阻害効果は、上述の個々のICVDの効果以下であった。
【0282】
結論として、本試験で患者3例から得た結果は、ID-38FまたはID-A62Uのいずれか個別での処置が、一部の炎症促進性サイトカイン(IL-8、TNFα、IL-17F)の産生を阻害したことを示した。他のサイトカインに対する阻害効果は小さく/部分的であり、このことは恐らく、本試験で選択したICVDの最大以下の濃度を反映した。重要なことに、2つのICVDを組み合わせると、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-17A、およびIL-33を含む大半のサイトカインの産生に対する阻害効果は、増大した。
【0283】
全体的に、これらの結果は、共投与した抗TNF-αおよび抗IL-7Rポリペプチドにおける少なくとも相加的で、場合により相乗的な効果を実証する。
【実施例6】
【0284】
不安定リンカーにより結合されるTNF-α結合ポリペプチドおよびIL-7R結合ポリペプチドを含むヘテロ両頭(heterobihead)の産生、切断、ならびに試験
ID-38FおよびID-A62Uを組み合わせた「FU3K」と呼ばれる両頭構築物を産生し、中央リジン(K)残基(配列番号21)を有するフレキシブル(G4S)2リンカーにより分離して、トリプシン切断部位を作製した。
【0285】
FU3KをSacI/HindIIIフラグメント上でベクターpUR9013へとクローニングし、S.cerevisiae発現株の染色体への安定した多コピーの統合を容易にした。標準のクローニング手順に従いこれを達成した。この統合および発現系を使用して、FU3Kをガラクトース誘導可能なプロモータの制御下に置き、酵母菌交配因子αシグナル配列を介して両頭分泌を達成した。酵母菌染色体からのFU3Kの発現を、誘導培養物50mLにおいて評価した。完全長のFU3Kが、小規模の酵母菌培養物中で十分に発現した。
【0286】
トリプシンを用いた37℃でのFU3Kのインキュベーションの結果、ID-38FおよびID-A62U単量体腕は速やかに分離された。SDS-PAGEにより解析を実施した(
図9。レーンは時間(分)であり、St=標準(トリプシンの添加なし)、L=分子量マーカー、レーンごとに充填される等しい体積)。未切断のFU3K両頭(約27kDa)および切断単量体(約13.5kDa)に対応する帯が、はっきりと視認視可能である。これにより、ヒト小腸中でのトリプシンへの曝露に際した両単量体腕、または結腸中での微生物トリプシン様プロテアーゼの速やかな放出に対して、FU3Kが十分にフォーマット化されることを確認する。
【0287】
IL-7/IL-7R ELISAを、上記実施例1に記載の方法を使用して実施した。消化前のFU3KにおけるIL-7Rに対する効力は、ID-A62Uおよび消化後と同程度であり、FU3Kは、IL-7Rに対して高い(ナノモル以下)効力を保持した(
図10。ID-A62Uは「A62U」とラベル付けする)。
【0288】
ビオチン化Humira競合ELISAを実施し、TNFα上でのID-38FおよびHumiraの重複エピトープに対する競合を測定した。リン酸緩衝生理食塩水(1xPBS)中の250μg/mLウシ血清アルブミン(BSA)における100ng/mLのヒトTNFαで、ELISAプレートを被覆し、1xPBS中の1%BSAで遮断した。ビオチン化アダリムマブを1:1ですべての標準および試料と混合して、最終濃度が2nMのビオチン化アダリムマブを得てから、混合物をプレートに添加した。ExtrAvidin-ホースラディッシュペルオキシダーゼを使用して、結合したビオチン化アダリムマブを検出し、TMB Micowell Substrateを使用して視覚化してから、0.5M H2SO4で中止し、450nmで読み取りを行った。
【0289】
消化前と後のFU3Kの効力は、この競合ELISAではID-38Fと同程度であったことを認めた(
図11)。
【0290】
FU3Kの単量体腕はともに、上記実施例2に記載されるように実行されるヒトの便の上清を対象とする4時間のインキュベーション後に、親単量体であるID-38FおよびID-A62Uの好意的な安定特性を保持することを認めた。
【0291】
これらのデータは、FU3Kが、ヒトの結腸を対象とする二重治療としてこれら単量体それぞれを高濃度で送達するのに適切なフォーマットであることを実証する。
【0292】
その他
本出願で言及される、特許および特許出願を含む参考文献はすべて、参照により可能な限り完全な程度にまで組み込まれている。
【0293】
本明細書、および続く特許請求の範囲全体では、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という用語、および「comprises」や「comprising」などの変形は、明示した整数、工程、整数群、または工程群を包含するが、他の整数、工程、整数群、または工程群を除外するものではないことが理解される。
【0294】
本明細書および特許請求の範囲が一部を形成する出願は、あらゆる後出願に関する優先権の根拠として使用される場合がある。かかる後出願の特許請求の範囲は、本明細書に記載の特徴またはその組合せを対象とする場合がある。これらは、生成物、組成物、プロセス、または使用の請求項の形態を呈する場合があり、一例ではあるが限定されないものとして以下の請求項を含む場合がある。
【0295】
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