(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(54)【発明の名称】前立腺特異的膜抗原(PSMA)リガンド及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 257/02 20060101AFI20220824BHJP
C07F 5/00 20060101ALI20220824BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20220824BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220824BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C07D257/02
C07F5/00 H CSP
A61K51/04 100
A61K51/04 200
A61P35/00
A61P13/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577271
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(85)【翻訳文提出日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2020068390
(87)【国際公開番号】W WO2021001362
(87)【国際公開日】2021-01-07
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】マリアニ,マウリーツォオ エフ.
(72)【発明者】
【氏名】バルバト,ドネート
(72)【発明者】
【氏名】オーランディ,フランチェスカ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H048
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085HH03
4C085JJ01
4C085KA09
4C085KA29
4C085KB12
4C085KB20
4C085KB56
4C085LL18
4H048AA01
4H048AB20
4H048VA11
4H048VA20
4H048VA32
4H048VA85
4H048VB10
(57)【要約】
本開示は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)リガンドに関する。特に、本開示は、グルタメート-尿素-リシン(GUL)成分、放射性同位元素、及び放射性金属を含むことができるキレート剤を有するPSMAリガンドに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
Zは、テトラゾール又はCOOQであり、好ましくは、Zは、COOQであり;
Qは、独立して、H又は保護基であり、好ましくは、Qは、Hであり;
mは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、mは、4であり;
qは、1、2、3、4、5、及び6からなる群から選択される整数であり、好ましくは、qは、1であり;
Rは、C
6~C
10アリール及び5~10個の環原子を含有するヘテロアリールからなる群から選択され、前記アリール及びヘテロアリールは、Xにより1回以上置換される;
Xは、-Z-Yであり;
Zは、結合又はC
1~C
6アルキレンであり、好ましくは、Zは、結合であり;
Yは、放射性同位元素であり;
Lは、C
1~C
6アルキレン、C
3~C
6シクロアルキレン、及びC
6~C
10アリーレンからなる群から選択されるリンカーであり、前記アルキレン、シクロアルキレン、及びアリーレンは、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R’’、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R’’R’’’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’,-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’、-NR’-C(NR’’R’’’)=NR’’’’、-S(O)R’、-S(O)
2R’、-S(O)
2NR’R’’、-NRSO
2R’、-CN、及び-NO
2から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換され、m’は、そのような基における炭素原子の総数であり。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよく;
Wは、-NR
2-(C=O)、-NR
2-(C=S)、-(C=O)-NR
2-、及び-(C=S)-NR
2-からなる群から選択される、好ましくは、Wは、-(C=O)-NR
2-であり;
L及びWの各存在は、同じ又は異なるものとすることができる;
R
2は、H又はC
1~C
4アルキルであり、好ましくは、R
2は、Hであり;
nは、1、2、及び3からなる群から選択される整数であり;
Chは、金属又は放射性金属を任意選択で含むキレート剤である)
の化合物並びにその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記化合物は、式(Ia)、(Ib)、(Ic)、又は(Id):
【化2】
の化合物である、請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
Yは、
18F、
34Cl、
75Br、
76Br、
77Br、
123I、
124I、
125I、
131I、及び
211Atからなる群から選択される放射性同位元素である、好ましくは、Yは、
18F又は
211Atである、請求項1又は2に記載の式(I)の化合物。
【請求項4】
Rは、以下からなる群から選択され、
【化3】
pは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、pは、1であり;
好ましくは、Rは、
【化4】
から選択され、
より好ましくは、Rは、
【化5】
である、請求項1~3のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項5】
Rは、
【化6】
である、請求項1~4のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項6】
Chは、以下からなる群から選択され:
【化7】
任意選択で、金属又は放射性金属を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項7】
Lは、-OR’、=O、=NR’、-NR’R’’、-ハロゲン、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換されるC
3~C
6アルキレンからなる群から選択されるリンカーであり、m’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよい、請求項1~6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項8】
Chは、Y、Lu、Tc、Zr、In、Sm、Re、Cu、Pb、Ac、Bi、Al、Ga、Re、Ho、及びScから選択される金属を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項9】
前記金属は、
68Ga、
64Cu、
86Y、
90Y、
89Zr、
111In、
99mTc、
177Lu、
153Sm、
186Re、
188Re、
67Cu、
212Pb、
225Ac、
213Bi、
212Bi、
212Pb、
67Ga、
203Pb、
47Sc、及び
166Hoから選択される放射性金属である、請求項8に記載の式(I)の化合物。
【請求項10】
前記化合物は、式(II):
【化8】
(式中、Lは、-OR’、=O、=NR’、-NR’R’’、-ハロゲン、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換されるC
3~C
6アルキレンからなる群から選択されるリンカーであり、m’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよい)の化合物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項11】
前記式(II)の化合物は、
68Ga又は
67Gaを含む、請求項10に記載の式(II)の化合物。
【請求項12】
前記式(II)の化合物は、
177Lu又は
176Luを含む、請求項10に記載の式(II)の化合物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物及び少なくとも1つの薬学的に許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物は、i)PSMA結合リガンド、ii)任意選択でリンカー、及びiii)金属又は放射性金属を任意選択で含むキレート剤を含む化合物をさらに含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
医薬品として使用するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項16】
前記化合物は、癌を、特に標的アルファ線治療によって及びベータ線によって治療する際に使用するためのものである、請求項15に記載の使用のための化合物。
【請求項17】
前記化合物は、前立腺癌を治療する際に使用するためのものである、請求項15又は16に記載の使用のための化合物。
【請求項18】
画像診断、好ましくはPET及びSPECTにおいて使用するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項19】
典型的に、PSMA発現癌などの癌障害において使用するための診断法において使用するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物の治療上有効な量と癌細胞を接触させることを含む、癌を治療するための方法。
【請求項21】
請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物の有効量を対象に投与すること並びに前記化合物中に存在する前記放射性同位元素及び/又は前記放射性金属の崩壊から得られるシグナルを検出することを含む、画像診断のための方法。
【請求項22】
対象において、癌細胞又はPSMA発現腫瘍若しくは細胞を診断する及び/又は検出するための方法であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物の治療上有効な量を、前記対象、好ましくはヒトに投与すること並びに前記化合物中に存在する前記放射性同位元素及び/又は前記放射性金属の崩壊から得られるシグナルを検出することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)リガンドに関する。特に、本開示は、グルタメート-尿素-リシン(GUL)成分、放射性同位元素、及び放射性金属(radiometal)を含むことができるキレート剤を有するPSMAリガンドに関する。
【0002】
本開示はまた、前立腺癌の画像診断における及び治療におけるこれらの化合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
セラグノスティクスは、診断法及び治療法の融合を内包する患者管理戦略である。
【0004】
核医学に関連して、セラグノスティクスは、診断用放射性金属(例えば陽電子若しくはガンマ放射体)により又は治療用放射性金属(例えばベータ放射体)により標識される分子標的分子の、特定の疾患の診断及び療法のための使用を指す。最も発達した足掛かりとなるものは、腫瘍細胞上に発現される受容体に対して高親和性を有する標的分子を、診断用途のガリウムGa-68又は治療目的のルテチウムLu-177により放射標識することをベースとする。そのため、分子画像診断及び疾患の診断に続いて、同じ分子標的化合物を利用する個別化治療を有効に行うことができる。
【0005】
このように同じ標的化合物を使用することはまた、患者管理に対する、より徹底したアプローチを可能にする、なぜなら、この診断法は、そのうえ、いくつかの同時の役割、すなわち診断、再現、モニタリング、治療用放射性核種により標識される同じ分子を使用する療法又は異なる治療方針の選択、及び治療後の追跡調査を果たすことができるからである。
【0006】
患者にとって、セラグノスティクスは結果として、より有効な医療となり、不必要な治療を減らすか又はなくすと共に、最大限に利益を得るであろう患者に治療的介入を合わせることができる。不必要な治療に応答しない可能性があるか、又はそうでなければ副作用を経験するであろう患者を予測することによって、セラグノスティックアプローチは効率的なだけでなく、患者中心的なものにもなる。
【0007】
医師にとって、セラグノスティクスは、疾患を診断し及びステージ分類する最適な療法を選択する、並びに治療効果及び疾患進行をモニターする、自身の能力を向上させ、健康上のアウトカムがより良好となるように、安全且つ有効に予測能力を改善することができる。
【0008】
支払人にとって、セラグノスティックアプローチは、最適ではない診断法及び治療と関連する費用を減らす及び診断するために必要な時間を短縮し、有効な個別の治療計画により患者を治療することができる。
【0009】
前立腺癌は、米国及び欧州において最も広く存在する癌の1つである。特に、転移性前立腺癌(mCRPC)は、予後不良及び生活の質の低下と関連する。
【0010】
昨今、PSMAリガンドをベースとする内部放射線治療(endo-radiotherapy)は、前立腺癌を治療するための新たな開発の潮流の一例となっており、PSMAは、原発性癌病変において及び軟部組織/骨転移性疾患において過剰発現するので、画像診断及び療法に適した標的であるとみなされている。さらに、PSMA発現は、疾患のうち最も悪性度が高い去勢抵抗性バリアントにおいてさらに高いようであり、これは、未だ対処されていない高い医学的必要性を有する患者集団の典型となっている(Marchal et al.,Histol Histopathol,2004,Jul;19(3):715-8;Mease et al.,Curr Top Med Chem,2013,13(8):951-62)。
【0011】
PSMAを標的にする多くの小分子リガンドの中で、尿素ベースの低子量の作用物質は、最も広汎に調査されたものであった。これらの作用物質は、前立腺癌臨床評価及びPRRT療法に適していることが示された。これらの作用物質のいくつかは、標的骨格としてグルタメート-尿素-リシン(GUL)を有する。
【0012】
PSMAのいくつかの放射標識小分子阻害剤は、これを足掛かりとして設計された(Kiess AP,Banerjee SR,Mease RC,et al.Prostate-specific membrane antigen as a target for cancer imaging and therapy.Q J Nucl Med Mol Imaging.2015;59:241-268)
【0013】
しかし、ある状況において、診断用放射性金属の使用は、限られたものになり得る(68Gaの入手のしやすさ、生産が分散していることによる問題)。
【0014】
一方、68Gaは、物理学的半減期を68分しか有していない。そのため、68Ga-PSMA-PETスキャンは、好ましくは社内で実行され、十分なトレーサーの放射能をリモートセンターに配送することは困難である。その結果、多くの患者を有する大規模なセンターでは、1日当たり数回の生産が必要とされるか、又は複数の生産装置を同時に作動させることを必要とし、費用を増やしてしまう。そのようなセンターの量的な需要を満たすために、18F標識PSMAトレーサーの使用により、こういった限界を克服してもよい。現場にサイクロトロンを有するPET放射性医薬品専門薬局(radiopharmacy)は、手ごろな費用で放射能が高い18Fを産生することができる。18F標識PSMAトレーサーの物理学的半減期(110分)はまた、生産の集中化及び遠くのサテライトセンターへの配送を可能にし得る。18Fはまた、68Gaよりも低い陽電子エネルギーを有し(0.65対1.90MeV)、理論上は空間分解能の改善をもたらす。
【0015】
しかしながら、代替的なPSMAリガンドの開発は常に望ましい。その理由は、診断法及び/又は治療法としての使用に適した、代替的な多様なPSMAリガンドの開発が有益になり得るからである。
【発明の概要】
【0016】
第1の態様において、本開示は、式(I):
【化1】
(式中、
Zは、テトラゾール又はCOOQである、好ましくは、Zは、COOQであり;
Qは、独立して、H又は保護基であり、好ましくは、Qは、Hであり;
mは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、mは、4であり;
qは、1、2、3、4、5、及び6からなる群から選択される整数であり、好ましくは、qは、1であり;
Rは、C
6~C
10アリール及び5~10個の環原子を含有するヘテロアリールからなる群から選択され、前記アリール及びヘテロアリールは、Xにより1回以上置換される;
Xは、-Z-Yであり;
Zは、結合又はC
1~C
6アルキレンであり、好ましくは、Zは、結合であり;
Yは、放射性同位元素であり;
Lは、C
1~C
6アルキレン、C
3~C
6シクロアルキレン、及びC
6~C
10アリーレンからなる群から選択されるリンカーであり、前記アルキレン、シクロアルキレン、及びアリーレンは、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R’’、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R’’R’’’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’,-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’、-NR’-C(NR’’R’’’)=NR’’’’、-S(O)R’、-S(O)
2R’、-S(O)
2NR’R’’、-NRSO
2R’、-CN、及び-NO
2から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換され、m’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよく;
Wは、-NR
2-(C=O)、-NR
2-(C=S)、-(C=O)-NR
2-、及び-(C=S)-NR
2-からなる群から選択される、好ましくは、Wは、-(C=O)-NR
2-であり;
L及びWの各存在は、同じ又は異なるものとすることができ;
R
2は、H又はC
1~C
4アルキルであり、好ましくは、R
2は、Hであり;
nは、1、2、及び3からなる群から選択される整数であり;
Chは、金属又は放射性金属を任意選択で含むキレート剤である)
の化合物並びにその薬学的に許容される塩に関する。
【0017】
式(I)の化合物は、放射性同位元素及び放射性金属を含むことができるキレート剤の両方を含む。PSMAリガンドが様々な様式を介して標識されてもよいということは、その使用を拡張することを可能にする。例えば、式(I)の化合物は、核医学において画像診断又は療法の目的のために使用される放射性ハロゲン及び金属を含むことができる。
【0018】
第2の態様において、本開示は、式(I)の化合物及び少なくとも1つの薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物に関する。
【0019】
第3の態様において、本開示は、医薬品として使用するための式(I)の化合物に関する。
【0020】
第4の態様において、本開示は、癌、とりわけ前立腺癌を治療するのに使用するための式(I)の化合物に関する。
【0021】
第5の態様において、本開示は、画像診断において使用するための式(I)の化合物に関する。
【0022】
第6の態様において、本開示はまた、前立腺癌を治療するための方法であって、癌細胞を、有効量の式(I)の化合物と接触させることを含む方法にも関する。
【0023】
第7の態様において、本開示はまた、画像診断のための方法であって、癌細胞を、有効量の式(I)の化合物と接触させること及び前記化合物中に存在する放射性同位元素の崩壊から得られるシグナルを検出することを含む方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
本明細書において使用されるように、式(I)の化合物に関する用語「保護基」は、再び生じた官能基又は分子中の他の官能基を攻撃しない容易に入手可能な試薬によって選択的に除去することができる化学置換基を指す。適した保護基は、当技術分野において知られており、開発され続けている。適した保護基は、例えば、Wutz et al.(「Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,Fourth Edition」,Wiley-Interscience,2007)において見つけられてもよい。カルボキシル基の保護のための保護基は、Wutz et al.(533-643ページ)において記載されるように、ある実施形態において使用される。いくつかの実施形態において、保護基は、酸による処理によって除去可能である。
【0025】
保護基の代表例は、ベンジル、p-メトキシベンジル(PMB)、第三級ブチル(t-Bu)、メトキシメチル(MOM)、メトキシエトキシメチル(MEM)、メチルチオメチル(MTM)、テトラヒドロピラニル(THP)、テトラヒドロフラニル(THF)、ベンジルオキシメチル(BOM)、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、及びトリフェニルメチル(トリチル、Tr)を含むが、これらに限定されない。当業者は、保護基が必要とされる適切な条件を認識し、特定の状況において使用するための適切な保護基を選択することができるであろう。
【0026】
本明細書において使用されるように、用語「アルキル」は、単独で又は別の置換基の一部として、1~12個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル官能基を指す。適したアルキル基は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、及びt-ブチル、ペンチル及びその異性体(例えばn-ペンチル、iso-ペンチル)、並びにヘキシル及びその異性体(例えばn-ヘキシル、iso-ヘキシル)を含む。
【0027】
アルキレンは、上記に定義される二価のアルキルを指す。
【0028】
本明細書において使用されるように、用語「シクロアルキル」は、3~6個の炭素原子を有する飽和又は不飽和環式基を指す。適したシクロアルキル基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルを含む。
【0029】
シクロアルキレンは、上記に定義される二価のシクロアルキルを指す。
【0030】
本明細書において使用されるように、用語「アリール」は、少なくとも1つの環は芳香族である、6~10個の環原子を含有する単一の環又は互いに融合された複数の芳香環を有する多価不飽和芳香族ヒドロカルビル基を指す。芳香環は、任意選択で、それに融合された1~2個の追加の環(本明細書において定義されるシクロアルキル、ヘテロシクリル、又はヘテロアリール)を含んでいてもよい。適したアリール基は、ベンゾピラニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキサニル、及びその他同種のもののように、ヘテロシクリルに融合されたフェニル、ナフチル、及びフェニル環を含む。
【0031】
アリーレンは、上記に定義される二価のアリールを指す。
【0032】
アルキル、シクロアルキル、並びにアリール一価及び二価誘導基は、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R’’、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R’’R’’’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’,-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’、-NR’-C(NR’’R’’’)=NR’’’’、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R’’、-NRSO2R’、-CN、及び-NO2から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で置換することができ、m’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよい。
【0033】
本明細書において使用されるように、用語「ハロゲン」は、フルオロ(-F)、クロロ(-Cl)、ブロモ(-Br)、又はヨード(-I)基を指す。
【0034】
本明細書において使用されるように、用語「ヘテロアルキル」は、1~6個の炭素原子並びにO、N、Si、及びSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を有する直鎖又は分岐アルキル官能基を指し、窒素及び硫黄原子は、任意選択で酸化されてもよく、窒素ヘテロ原子は、任意選択で四級化されてもよい。ヘテロ原子O、N、及びSは、ヘテロアルキル基の任意の内側の位置に又はアルキル基が分子の残りの部分に付加される位置に置かれてもよい。
【0035】
本明細書において使用されるように、用語「ヘテロアリール」は、単一の環又は互いに融合された若しくは共有結合された複数の芳香環を有し、5~10個の原子を含有する多価不飽和芳香族環系を指し、少なくとも1つの環は、芳香族であり、少なくとも1つの環原子は、N、O、及びSから選択されるヘテロ原子である。窒素及び硫黄ヘテロ原子は、任意選択で酸化されてもよく、窒素ヘテロ原子は、任意選択で四級化されてもよい。そのような環は、アリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリル環に融合されてもよい。そのようなヘテロアリールの非限定的な例は、フラニル、チオフェニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、テトラゾリル、オキサトリアゾリル(oxatriazolyl)、チアトリアゾリル(thiatriazolyl)、ピリジニル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、オキサジニル(oxazinyl)、ジオキシニル(dioxinyl)、チアジニル(thiazinyl)、トリアジニル、インドリル、イソインドリル(isoindolyl)、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、イソベンゾチオフェニル(isobenzothiophenyl)、インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、プリニル、ベンゾチアジアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キナゾリニル、及びキノキサリニルを含む。
【0036】
本明細書において使用されるように、用語「ヘテロシクロアルキル」は、5~10個の環原子を有する飽和又は不飽和環式基を指し、少なくとも1つの環原子は、N、O、及びSから選択されるヘテロ原子である。窒素及び硫黄ヘテロ原子は、任意選択で酸化されてもよく、窒素ヘテロ原子は、任意選択で四級化されてもよい。ヘテロ環の例は、テトラヒドロピリジル(tetrahydropyridyl)、ピペリジニル、モルホリニル、テトラヒドロフラニル、ヒトラヒドロチエニル、ピペラジニル、1-アゼパニル、イミダゾリニル、1,4-ジオキサニル、及びその他同種のものを含むが、これらに限定されない。
【0037】
本開示の様々な実施形態が、本明細書において記載される。各実施形態において特定される特徴は、他の特定の特徴と組み合わせられ、さらなる実施形態を提供してもよいことが認識されるであろう。
【0038】
本開示は、式(I)、(II)、(III)、及び(IV)の化合物、それらの立体異性体、互変異性体、鏡像異性体、ジアステレオマー、ラセミ体、又はその混合物、並びにそれらの水和物、溶媒和物、又は薬学的に許容される塩を包含する。
【0039】
用語「薬学的に許容される塩」は、本開示の化合物の生物学的な有効性及び特性を保持し、且つ通常、生物学的に又はその他の点で望ましくないものではない塩を指す。
【0040】
「薬学的に」又は「薬学的に許容される」は、しかるべく哺乳類、とりわけヒトに投与された場合に、有害な、アレルギー性の、又は他の厄介な反応を引き起こさない分子的実体及び組成物を指す。薬学的に許容されるキャリア又は賦形剤は、無毒の固体、半固体若しくは液体の増量剤、希釈剤、封入剤、又は任意のタイプの製剤助剤を指す。
【0041】
本明細書において使用されるように、用語「対象」は、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。
【0042】
式(I)の化合物
第1の態様において、本開示は、式(I):
【化2】
(式中、
Zは、テトラゾール又はCOOQであり、好ましくは、Zは、COOQであり;
Qは、独立して、H又は保護基であり、好ましくは、Qは、Hであり;
mは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、mは、4であり;
qは、1、2、3、4、5、及び6からなる群から選択される整数であり、好ましくは、qは、1であり;
Rは、C
6~C
10アリール及び5~10個の環原子を含有するヘテロアリールからなる群から選択され、前記アリール及びヘテロアリールは、Xにより1回以上置換される;
Xは、-Z-Yであり;
Zは、結合又はC
1~C
6アルキレンであり、好ましくは、Zは、結合であり;
Yは、放射性同位元素であり;
Lは、C
1~C
6アルキレン、C
3~C
6シクロアルキレン、及びC
6~C
10アリーレンからなる群から選択されるリンカーであり、前記アルキレン、シクロアルキレン、及びアリーレンは、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R’’、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R’’R’’’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’,-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’、-NR’-C(NR’’R’’’)=NR’’’’、-S(O)R’、-S(O)
2R’、-S(O)
2NR’R’’、-NRSO
2R’、-CN、及び-NO
2から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換され、m’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよく;
Wは、-NR
2-(C=O)、-NR
2-(C=S)、-(C=O)-NR
2-、及び-(C=S)-NR
2-からなる群から選択される、好ましくは、Wは、-(C=O)-NR
2-であり;
L及びWの各存在は、同じ又は異なるものとすることができる;
R
2は、H又はC
1~C
4アルキルであり、好ましくは、R
2は、Hであり;
nは、1、2、及び3からなる群から選択される整数であり;
Chは、金属又は放射性金属を任意選択で含むキレート剤である)
の化合物並びにその薬学的に許容される塩に関する。
【0043】
式(I)の化合物は、式(Ia)、(Ib)、(Ic)、及び(Id):
【化3】
の立体異性体を含む。
【0044】
「L及びWの各存在は、同じ又は異なるものとすることができる」という句は、変数「n」が、2又は3である場合、一方の「L」基は、C1~C6アルキレンとすることができ、他方の「L」基は、C3~C6シクロアルキレン若しくはアリーレンとすることができる又は他の実施形態において、各「L」基は、例えばC1~C6アルキレンとすることができることを意味する。同様に、例えば、「n」が、2又は3である場合、一方の「W」基は、-(C=O)-NR2-とすることができ、他方の「W」基は、-(C=S)-NR2-とすることができる又は他の実施形態において、各「W」は、例えば-(C=O)-NR2-とすることができる。
【0045】
一実施形態によれば、Lは、C1~C6アルキレン、C3~C6シクロアルキレン、及びC6~C10アリーレンからなる群から選択されるリンカーであり、前記アルキレン、シクロアルキレン、及びアリーレンは、-OR’、=O、=NR’、-NR’R’’、-ハロゲン、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換され、m’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよい。
【0046】
一実施形態によれば、Lは、-OR’、=O、=NR’、-NR’R’’、-ハロゲン、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換されるC3~C6アルキレンからなる群から選択されるリンカーであり、m ’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよい。
【0047】
典型的に、放射性同位元素Yは、放射性ハロゲンであり、18F、34Cl、75Br、76Br、77Br、123I、124I、125I、131I、及び211Atからなる群から選択することができる、好ましくは、Yは、18F又は211Atである。
【0048】
一実施形態によれば、Rは、以下からなる群から選択され:
【化4】
pは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、pは、1であり;
好ましくは、Rは、
【化5】
から選択され、
より好ましくは、Rは、
【化6】
である。
【0049】
【0050】
Chは、以下からなる群から選択され:
【化8】
任意選択で、金属又は放射性金属を含む。
【0051】
特定の実施形態によれば、Chは、
【化9】
であり、任意選択で、金属又は放射性金属を含む。
【0052】
金属又は放射性金属は、好ましくは、画像診断法における又は療法における使用に適している金属及び放射性金属から選ばれる。
【0053】
一実施形態によれば、Chは、Y、Lu、Tc、Zr、In、Sm、Re、Cu、Pb、Ac、Bi、Al、Ga、Re、Ho、及びScから選択される金属を含む。金属は、68Ga、64Cu、86Y、90Y、89Zr、111In、99mTc、177Lu、153Sm、186Re、188Re、67Cu、212Pb、225Ac、213Bi、212Bi、212Pb、67Ga、203Pb、47Sc、及び166Hoから選択される放射性金属とすることができる。
【0054】
有利には、Chは、放射性金属68Ga又は177Luを含む。
【0055】
一実施形態によれば、Wは、-(C=O)-NR
2-であり、及びChは、
【化10】
であり、任意選択で、金属又は放射性金属を含む。
【0056】
一実施形態によれば、mは、4であり、Zは、COOQであり、及びQは、Hである。
【0057】
一実施形態によれば、Rは、
【化11】
であり、及びChは、
【化12】
であり、任意選択で、金属又は放射性金属を含む。
【0058】
特定の実施形態によれば、式(I)の化合物は、式(II):
【化13】
の化合物であり、Lは、-OR’、=O、=NR’、-NR’R’’、-ハロゲン、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換されるC
3~C
6アルキレンからなる群から選択されるリンカーであり、m’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよい。
【0059】
有利には、式(II)の化合物は、好ましくは68Ga、67Ga、177Lu、及び176Luから選択される金属又は放射性金属を含む。
【0060】
特定の実施形態によれば、式(II)の化合物は、68Ga又は67Gaを含む。
【0061】
別の特定の実施形態によれば、式(II)の化合物は、177Lu又は176Luを含む。
【0062】
特定の実施形態によれば、式(I)の化合物は、式(III):
【化14】
の化合物であり、任意選択で、金属又は放射性金属を含む。
【0063】
式(III)の化合物は、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、及び(IIId):
【化15】
の立体異性体を含む。
【0064】
有利には、式(III)の化合物は、好ましくは68Ga、67Ga、177Lu、及び176Luから選択される、金属又は放射性金属を含む。
【0065】
特定の実施形態によれば、式(III)の化合物は、68Ga又は67Gaを含む。
【0066】
別の特定の実施形態によれば、式(III)の化合物は、177Lu又は176Luを含む。
【0067】
一実施形態によれば、式(I)の化合物は、式(IV):
【化16】
の化合物である。
【0068】
式(IV)の化合物は、式(IVa)、(IVb)、(IVc)、及び(IVd):
【化17】
の立体異性体を含む。
【0069】
別の実施形態によれば、式(I)の化合物は、式(V):
【化18】
の化合物である。
【0070】
式(V)の化合物は、式(Va)、(Vb)、(Vc)、及び(Vd):
【化19】
の立体異性体を含む。
【0071】
医薬組成物
本開示はまた、式(I)~(V)の化合物及び少なくとも1つの薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物にも関する。
【0072】
医薬組成物は、i)PSMA結合リガンド、ii)任意選択でリンカー、及びiii)金属又は放射性金属を任意選択で含むキレート剤を含む化合物をさらに含むことができる。
【0073】
一実施形態によれば、医薬組成物は、式(I)の化合物である式(I’)の化合物をさらに含み、Yは、ハロゲンであり、放射性同位元素ではない。式(I’)の化合物は、以下の式:
【化20】
(式中、
Zは、テトラゾール又はCOOQであり、好ましくは、Zは、COOQであり;
Qは、独立して、H又は保護基であり、好ましくは、Qは、Hであり;
mは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、mは、4であり;
qは、1、2、3、4、5、及び6からなる群から選択される整数であり、好ましくは、qは、1であり;
Rは、C
6~C
10アリール及び5~10個の環原子を含有するヘテロアリールからなる群から選択され、前記アリール及びヘテロアリールは、Xにより1回以上置換される;
Xは、-Z-Yであり;
Zは、結合又はC
1~C
6アルキレンであり、好ましくは、Zは、結合であり;
Yは、ハロゲンであり;
Lは、C
1~C
6アルキレン、C
3~C
6シクロアルキレン、及びC
6~C
10アリーレンからなる群から選択されるリンカーであり、前記アルキレン、シクロアルキレン、及びアリーレンは、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R’’、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R’’R’’’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’,-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’、-NR’-C(NR’’R’’’)=NR’’’’、-S(O)R’、-S(O)
2R’、-S(O)
2NR’R’’、-NRSO
2R’、-CN、及び-NO
2から選択される1つ以上の置換基により、ゼロ~(2m’+l)の範囲にわたる数で任意選択で置換され、m’は、そのような基における炭素原子の総数である。R’、R’’、R’’’、及びR’’’’は、それぞれ、独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリールを指してもよく;
Wは、-NR
2-(C=O)、-NR
2-(C=S)、-(C=O)-NR
2-、及び-(C=S)-NR
2-からなる群から選択される、好ましくは、Wは、-(C=O)-NR
2-であり;
L及びWの各存在は、同じ又は異なるものとすることができる;
R
2は、H又はC
1~C
4アルキルであり、好ましくは、R
2は、Hであり;
nは、1、2、及び3からなる群から選択される整数であり;
Chは、金属又は放射性金属を任意選択で含むキレート剤である)
並びにその薬学的に許容される塩を有する。
【0074】
医薬組成物の形態、投与のルート、投薬量、及びレジメンは、当然、治療される状態、病気の重症度、患者の年齢、体重、及び性別等による。
【0075】
本開示の医薬組成物は、静脈内、筋肉内、又は皮下投与及びその他同種のもののために製剤することができる。
【0076】
医薬組成物は、水溶液、例えば、本開示による少なくとも1つの化合物を含む注射用製剤の形態をとることができる。
【0077】
好ましくは、医薬組成物は、注射することが可能な製剤のための、薬学的に許容されるビヒクルを含有する。これらは、特に、等張、滅菌、食塩溶液(リン酸一ナトリウム若しくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、若しくは塩化マグネシウム、及びその他同種のもの又はそのような塩の混合物)或いは場合に応じて、滅菌水又は生理食塩水の追加に際して、注射用溶液の作製を可能にする乾燥、とりわけ凍結乾燥組成物であってもよい。
【0078】
滅菌注射用溶液は、上記に挙げられるいくつかの他の成分と共に、適切な溶媒において必要とされる量で活性化合物を組み込むことによって調製され、必要に応じて、続いて滅菌ろ過される。一般に、分散液は、種々の滅菌活性成分を、塩基性分散媒及び上記に挙げられるものからの必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルの中に組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、調製の好ましい方法は、そのあらかじめ滅菌ろ過された溶液から、活性成分と任意の追加の所望される成分の粉末を産出する真空乾燥及び凍結乾燥技術である。製剤に際して、溶液は、投薬製剤と適合性の方式で及び治療上有効である量で投与されるであろう。製剤は、上記に記載される注射用溶液のタイプなどのように、様々な剤形で簡単に投与される。
【0079】
水溶液中での非経口投与について、例えば、溶液は、適切に緩衝剤で処理し、液体希釈剤は、最初に、十分な食塩水又はグルコースにより等張にしてもよい。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内投与にとりわけ適している。この点について、用いることができる滅菌水性媒質は、本開示を考慮すれば、当業者らにわかるであろう。例えば、1投薬量を、1mlの等張NaCl溶液中に溶解し、1000mlの皮下注射療法の液体に追加されてもよい又は注入するつもりである部位に注射されてもよい(例えば「Remington’s Pharmaceutical Sciences」15th Edition,1035-1038及び1570-1580ページを参照されたい)。投薬量におけるいくらかの変動は、治療されている対象の状態に応じて、必然的に起こるであろう。投与の担当者は、いずれにしても、個々の対象にとって適切な用量を決定するであろう。
【0080】
特定の実施形態において、医薬組成物は、放射線分解に対する安定化剤、バッファー、金属イオン遮閉剤、及びその混合物から選択される1つ以上の賦形剤を含む。
【0081】
本明細書において使用されるように、「放射線分解に対する安定化剤」は、例えば、放射性核種から放射されるガンマ線が有機分子の原子間の結合を切断し、ラジカルが形成される場合に、放射線分解から有機分子を保護する安定剤を指し、それから、それらのラジカルは、望まれない、可能性として無効である又はさらには毒性である分子をもたらすかもしれない任意の他の化学反応をラジカルが受けることを回避する安定化剤によって、捕捉される。そのため、それらの安定化剤はまた、「フリーラジカル捕捉剤」又は略して「ラジカル捕捉剤」とも称される。それらの安定化剤のための他の代替的な用語は、「放射線安定性促進剤」、「放射線分解安定化剤」、又は単純に「失活剤」である。
【0082】
本明細書において使用されるように、「金属イオン遮閉剤」は、製剤中の遊離放射性核種金属錯イオンに適したキレート剤を指す(放射標識ペプチドとは錯体をつくらない)。
【0083】
バッファーは、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、及びリン酸緩衝液を含む。
【0084】
投与に使用される用量は、種々のパラメーターの関数として、特に、使用される投与のモードの、関連する病態の、又はその代わりに、治療の所望の期間の関数として、調整することができる。化合物及び化合物を含む組成物の適切な投薬量は、患者によって変動し得ることが理解されるであろう。最適な投薬量を決定することは、本明細書において記載される治療のあらゆる危険性又は有害な副作用に対する治療上の有益性のレベルについてバランスをとることを一般に伴う。選択される投薬量のレベルは、特定の化合物の活性、投与のルート、投与の時間、化合物の排出の速度、治療の期間、組み合わせて使用される他の医薬品、化合物、及び/又は材料、並びに患者の年齢、性別、体重、状態、健康状態、及びこれまでの病歴を含むが、これらに限定されない種々の要因によるであろう。
【0085】
医薬品として使用するための式(I)~(V)の化合物及びその方法
本開示はまた、医薬品として使用するための式(I)~(V)の化合物にも関する。式(I)~(V)の化合物は、実施例において提供される試験において示されるように、有益な医薬品としての特性を呈し、そのため、療法にとって望ましい。
【0086】
本開示はまた、癌を、特に標的アルファ線治療によって又はベータ線によって治療する際に使用するための式(I)~(V)の化合物にも関する。
【0087】
式(IV)の化合物は、特に、医薬品として使用するのに、好ましくは、癌を治療する際に使用するのに適している。
【0088】
本明細書において使用されるように、用語「癌」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、急速に増殖している細胞の成長によって特徴づけられる異常な状況又は状態を含む。用語は、病理組織学的タイプ又は浸潤のステージに関係なく、すべてのタイプの癌性の成長又は発癌性プロセス、転移性組織又は悪性形質転換した細胞、組織、若しくは器官を含むことを意味する。癌という用語は、皮膚、肺、乳房、甲状腺、リンパ系、消化管、及び泌尿生殖器に影響を及ぼすなど、種々の器官系の悪性腫瘍並びにほとんどの結腸癌、腎細胞腫、前立腺癌及び/又は精巣腫瘍、非小細胞肺癌、小腸の癌、並びに食道(oesophages)の癌などの悪性腫瘍を含む腺癌を含む。
【0089】
癌の例は、B細胞リンパ系新生物、T細胞リンパ系新生物などの血液悪性腫瘍、非ホジキンリンパ腫(NHL)、B-NHL、T-NHL、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、NK細胞リンパ系新生物、及び骨髄細胞系譜新生物を含むが、これらに限定されない。非血液癌の例は、皮膚癌、結腸癌、乳癌、肺癌、脳癌、前立腺癌、頭頸部癌、膵癌、膀胱癌、結腸直腸癌、骨癌、子宮頸癌、肝臓癌、口腔癌、食道癌、甲状腺癌、腎臓癌、胃癌、及び精巣癌を含むが、これらに限定されない。
【0090】
特定の実施形態において、癌は、PSMA発現腫瘍又は細胞を有する癌である。
【0091】
特定の実施形態において、本開示はまた、前立腺癌を治療する際に使用するための式(I)~(V)の化合物にも関する。
【0092】
特定の実施形態において、前立腺癌は、転移性前立腺癌である。
【0093】
本開示はまた、PSMA発現腫瘍又は細胞を治療する際に使用するための式(I)~(V)の化合物にも関する。
【0094】
PSMA発現腫瘍又は細胞は、以下からなる群から選択することができる:前立腺腫瘍又は細胞、転移前立腺腫瘍又は細胞、肺腫瘍又は細胞、腎腫瘍又は細胞、膠芽腫、膵腫瘍又は細胞、膀胱腫瘍又は細胞、肉腫、黒色腫、乳房腫瘍又は細胞、結腸腫瘍又は細胞、生殖細胞、褐色細胞腫、食道腫瘍又は細胞、胃腫瘍又は細胞、及びその組み合わせ。いくつかの他の実施形態において、PSMA発現腫瘍又は細胞は、前立腺腫瘍又は細胞である。
【0095】
よって、本開示はまた、癌を治療するための方法であって、癌細胞を、治療上効率的な量の式(I)~(V)の化合物と接触させることを含む方法にも関する。
【0096】
特定の実施形態において、治療するべき癌は、PSMA発現腫瘍又は細胞を有する癌である。
【0097】
治療するべき癌は、好ましくは、前立腺癌、典型的に、転移性前立腺癌を含む前立腺癌とすることができる。
【0098】
本開示はまた、癌の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、治療上効率的な量の式(I)~(V)の化合物を、前記対象、好ましくはヒト対象に投与することを含む方法にも関する。
【0099】
本明細書において使用されるように、用語「接触させること」は、本開示の主題の治療薬を含む少なくとも1つの化合物が、少なくとも1つの癌細胞と物理的に接触することになる任意の処置を意味する。接触させることは、少なくとも1つの化合物の少なくとも1つの細胞又は腫瘍との接触をもたらすのに十分な量で、細胞又は腫瘍を化合物に曝露することを含むことができる。方法は、培養皿又はチューブなどのコントロールされた環境中に化合物及び細胞又は腫瘍を導入し、好ましくは混合することによって、インビトロ又はエクスビボにおいて実施することができる。方法は、インビボにおいて実施することができ、この場合、接触させることは、任意の適したルートを介して対象に化合物を投与することなどのように、本開示の主題の少なくとも1つの化合物に、対象における少なくとも1つの細胞又は腫瘍を曝露することを意味する。典型的に、化合物は、静脈内ルートを介して投与される。
【0100】
本明細書において使用されるように、用語「治療すること」は、そのような用語が適用される疾患、障害、若しくは状態又はそのような疾患、障害、若しくは状態の1つ以上の症状若しくは徴候の進行を逆転させること、軽減すること、阻害すること、予防すること、又はその可能性を低下させることを含む。予防することは、疾患、障害、状態、又はそのようなものの症状若しくは徴候或いはそのようなものの重症度の悪化が、生じないようにすることを指す。従って、本開示の化合物は、疾患、障害、又は状態の発生又は再発を予防する又は低下させるために、予防的に投与することができる。
【0101】
本明細書において使用されるように、化合物の「治療上効率的な量」という用語は、対象の生物学的又は医学的応答を誘起するであろう、例えば、症状を寛解させる、状態を軽減する、疾患進行を遅らせる若しくは遅延させる、又は疾患を予防するであろう、化合物の量を指す。
【0102】
本開示はまた、癌、好ましくは前立腺癌の治療のための医薬の製造のための、式(I)~(V)の化合物又は式(I)~(V)の化合物及び少なくとも1つの薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物の使用にも関する。
【0103】
本開示はまた、PSMA発現腫瘍又は細胞の治療のための医薬の製造のための、式(I)~(V)の化合物又は式(I)~(V)の化合物及び少なくとも1つの薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物の使用にも関する。
【0104】
画像診断において使用するための式(I)~(V)の化合物及びその方法
本開示はまた、画像診断、好ましくはインビボにおける画像診断において使用するための式(I)~(V)の化合物にも関する。
【0105】
本開示はまた、対象におけるPSMA発現腫瘍又は細胞、例えば前立腺腫瘍又は細胞を画像診断する際に使用するための式(I)~(V)の化合物にも関する。
【0106】
式(V)の化合物は、特に、画像診断における使用に、好ましくは、PSMA発現腫瘍又は細胞を画像診断する際の使用に適している。
【0107】
特定の実施形態において、式(I)~(V)の化合物が使用される画像診断法は、PET(陽電子放射型断層撮影法)又はSPECT(単光子放射型コンピューター断層撮影法)である。
【0108】
よって、本開示はまた、画像診断のための方法であって、癌細胞を、有効量の式(I)~(V)の化合物と接触させることを含む方法にも関する。
【0109】
本開示はまた、PSMA発現腫瘍又は細胞を画像診断するための方法であって、PSMA発現腫瘍又は細胞を、治療上効率的な量の式(I)~(V)の化合物と接触させることを含む方法にも関する。方法は、前記化合物中に存在する前記化合物中に存在する放射性同位元素及び/又は放射性金属の崩壊から得られるシグナルを検出するステップをさらに含むことができる。
【0110】
本開示はまた、対象におけるPSMA発現腫瘍又は細胞をインビボにおいて画像診断するための方法であって、前記対象、好ましくはヒトに、治療上効率的な量の式(I)~(V)の化合物を投与すること並びに前記化合物中に存在する放射性同位元素及び/又は放射性金属の崩壊から得られるシグナルを検出することを含む方法にも関する。
【0111】
特定の実施形態において、本開示は、対象におけるPSMA発現腫瘍の存在又は非存在を検出するための方法であって、
(i)前記対象において、例えば静脈内注射として、式(I)~(V)の化合物を投与すること;
(ii)典型的にPET又はSPECT画像診断によって、画像を取得すること;及び
(iii)前記対象におけるPSMA発現腫瘍の存在又は非存在を検出することを含む方法を提供する。
【0112】
本開示はまた、診断法において使用するための、典型的に、PSMA発現癌などの癌障害を診断する際に使用するための式(I)~(V)の化合物にも関する。
【0113】
本開示はまた、対象における癌細胞又はPSMA発現腫瘍若しくは細胞、例えば前立腺腫瘍若しくは細胞を診断する及び/又は検出するための方法であって、前記対象、好ましくはヒトに、治療上効率的な量の式(I)~(V)の化合物を投与すること並びに前記化合物中に存在する放射性同位元素及び/又は放射性金属の崩壊から得られるシグナルを検出することを含む方法にも関する。
【0114】
式(I)~(V)の化合物の合成
式(III)の化合物は、スキーム1において開示されるように、合成することができる。Glu-Lys尿素で修飾されたp-ニトロベンジル基2は、メタノール中シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下において、p-ニトロベンズアルデヒドによるGlu-Lys尿素1の還元的アルキル化によって調製することができる。このタイプの手順は、文献において記載されている(Tykvart et al.(2015)Journal of medicinal chemistry 58,4357-63)。それから、脂肪族リンカー、Boc-5-アミノ吉草酸を、2の同じε-Lysアミンと、例えば、塩基(N,N-ジイソプロピルエチルアミンのような)及び結合剤(N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロボラート又は1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェートのような)を使用して、結合させ、化合物3を産出することができる。化合物3は、それから、例えば、トリフルオロ酢酸のような酸を使用して、化合物4を産出するために脱保護することができる。市販で入手可能なDOTA-NHSエステルとのコンジュゲーションを、化合物5を産出するために実行することができる。最後に、化合物(III)を、18F-を使用するニトロ基の置換によって得ることができる。
【0115】
式(I)、(II)、及び(III)の化合物は、放射標識の分野において一般に使用される方法を使用して放射標識することができる。特に、式(III)の化合物はまた、国際公開第2017/165473号パンフレットにおいて記載される方法を使用して、式(IV)の化合物を形成するために、177Luにより放射標識することもできる。式(III)の化合物はまた、国際公開第024013号パンフレットにおいて記載される方法を使用して、式(V)の化合物を形成するために、68Gaにより放射標識することもできる。
【0116】
スキーム1:式(III)の化合物の合成
【化21】
【国際調査報告】