(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-01
(54)【発明の名称】昆虫細胞及び哺乳動物細胞におけるタンパク質発現のための組換え導入ベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/85 20060101AFI20220825BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220825BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220825BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220825BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20220825BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12P21/02 C
C12N15/12
C12N15/09 Z
C12N5/10
C12N7/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573156
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 US2020039584
(87)【国際公開番号】W WO2020264137
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511197774
【氏名又は名称】エックス-ケム インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】リトブチック アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラン ラグナス
(72)【発明者】
【氏名】フォン レーヒェンベルク モーリッツ
(72)【発明者】
【氏名】コゾー ジョン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】
本明細書において、昆虫細胞及び哺乳動物細胞内での組換えタンパク質の発現に使用するための組換えベクター及び方法を記載する。本発明は、いずれもベクター内の単一の発現カセット内に存在しかつ宿主細胞により条件付きで活性である昆虫細胞コンピテントプロモーター及び哺乳動物細胞コンピテントプロモーターによって1つ以上の導入遺伝子の発現が指示されることを可能にする組換え導入ベクターに基づいている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’から3’方向に向かって、
(a)哺乳動物細胞コンピテントプロモーター;
(b)人工イントロンに作動可能に連結された非コードエクソンであって、前記人工イントロンが、スプライスドナー配列、昆虫細胞コンピテントプロモーター、スプライス分岐点、ポリピリミジントラクト、及びスプライスアクセプター配列を含む、前記非コードエクソン;ならびに
(c)前記哺乳動物細胞コンピテントプロモーター及び前記昆虫細胞コンピテントプロモーターに作動可能に連結された1つ以上の導入遺伝子
を含む、組換えDNAベクター。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞コンピテントプロモーターが、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー/プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、CAGプロモーター、伸長因子1(EF1-α)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)プロモーター、β-アクチンプロモーター、初期増殖応答1(EGR1)プロモーター、真核生物翻訳開始因子4A1(eIF4A1)プロモーター、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルスロングターミナルリピート(HIV LTR)プロモーター、アデノウイルスプロモーター、及びラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターからなる群から選択される、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞コンピテントプロモーターが、CMVエンハンサー/プロモーターである、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記昆虫細胞コンピテントプロモーターが、ポリヘドリン(PH)プロモーター、熱ショックタンパク質(HSP)プロモーター、p6.9プロモーター、p9プロモーター、p10プロモーター、アクチン5c(Ac5)プロモーター、オルジイア・シュードツガタ(Orgyia pseudotsugata)・マルチキャプシド核多角体病ウイルス最初期-1(OpIE1)プロモーター、オルジイア・シュードツガタ・マルチキャプシド核多角体病ウイルス最初期-2(OpIE2)プロモーター、及び最初期0(IE0)プロモーターからなる群から選択される、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
前記昆虫細胞コンピテントプロモーターが、PHプロモーターである、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
Kozak配列を有する5’非翻訳領域(5’UTR)をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項7】
3’非翻訳領域(3’UTR)をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
前記3’UTRが、エンハンサー配列を含む、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
前記エンハンサー配列が、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)である、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
前記3’UTRが、1つ以上のターミネーター配列をさらに含む、請求項7~9のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項11】
前記1つ以上のターミネーター配列が、ウシ成長ホルモン(bGH)ターミネーター配列及びシミアンウイルス40(SV40)ターミネーター配列からなる群から選択される、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子をコードする1つ以上の核酸配列をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
前記1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子が、アンピシリン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、カルベニシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ノーセオトリシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子、及びスペクチノマイシン耐性遺伝子からなる群から選択される、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
2つの転座エレメントをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項15】
前記2つの転座エレメントが、細菌トランスポゾンTn7R及びTn7L転座エレメントである、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
前記1つ以上の導入遺伝子が哺乳動物遺伝子である、請求項1~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項17】
前記1つ以上の導入遺伝子が昆虫遺伝子である、請求項1~15のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項18】
宿主細胞内での組換えタンパク質の発現方法であって、前記宿主細胞を、請求項1~17のいずれか一項に記載のベクターと接触させる工程;及び、前記宿主細胞内で前記組換えタンパク質を発現させる工程を含む、前記発現方法。
【請求項19】
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
宿主細胞内での組換えタンパク質の発現方法であって、前記宿主細胞を、請求項1~17のいずれか一項に記載のベクターを用いて産生された組換えウイルスと接触させる工程;及び、前記宿主細胞内で前記組換えタンパク質を発現させる工程を含む、前記発現方法。
【請求項21】
前記宿主細胞が、昆虫細胞または哺乳動物細胞である、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に援用される。2020年6月24日に作成された前記ASCIIコピーは、50719-059WO2_Sequence_Listing_6_24_20_ST25という名称であり、サイズは8,864バイトである。
【0002】
発明の分野
本発明は、昆虫細胞及び哺乳動物細胞におけるタンパク質の発現に使用するための組換えベクターについての方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝子導入ベクターは、研究、バイオテクノロジー、及び臨床応用における導入遺伝子の送達及び発現のための強力なツールとして採用されてきた。そのようなベクターは、標的細胞におけるタンパク質の異種生産用発現カセットへの単一または複数の遺伝子の挿入を容易にする。組換え発現系の重要性を考えると、複数の宿主生物内での導入遺伝子の発現を可能にする改良された導入ベクターが必要である。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、昆虫細胞及び哺乳動物細胞において組換えタンパク質を発現させるための方法及び組成物を提供する。本発明は、いずれもベクター内の単一の発現カセット内に存在しかつ宿主細胞(例えば、昆虫細胞または哺乳動物細胞)により条件付きで活性である昆虫細胞コンピテントプロモーター及び哺乳動物細胞コンピテントプロモーターによって1つ以上(例えば、1、2、3、4、またはそれ以上)の導入遺伝子の発現が指示されることを可能にする組換え導入ベクターに基づく。本明細書に記載のベクターまたは前記ベクターから産生される組換えウイルスを使用して組換えタンパク質を発現させる方法も本明細書に記載する。
【0005】
第1の態様では、本発明は、5’から3’方向に向かって、以下を含む組換えDNAベクターを提供する:(a)哺乳動物細胞コンピテントプロモーター、(b)人工イントロンに作動可能に連結された非コードエクソン(人工イントロンは、スプライスドナー配列、昆虫細胞コンピテントプロモーター、スプライス分岐点、ポリピリミジントラクト、及びスプライスアクセプター配列を含む)、ならびに(c)哺乳動物細胞コンピテントプロモーター及び昆虫細胞コンピテントプロモーターに作動可能に連結された1つ以上(例えば、1、2、3、4個、またはそれ以上)の導入遺伝子。
【0006】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞コンピテントプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー/プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、CAGプロモーター、伸長因子1(EF1-α)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)プロモーター、β-アクチンプロモーター、初期増殖応答1(EGR1)プロモーター、真核生物翻訳開始因子4A1(eIF4A1)プロモーター、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルスロングターミナルリピート(HIV LTR)プロモーター、アデノウイルスプロモーター、及びラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターを含む群から選択される。いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞コンピテントプロモーターは、CMVエンハンサー/プロモーターである。
【0007】
いくつかの実施形態では、昆虫細胞コンピテントプロモーターは、ポリヘドリン(PH)プロモーター、熱ショックタンパク質(HSP)プロモーター、p6.9プロモーター、p9プロモーター、p10プロモーター、アクチン5c(Ac5)プロモーター、オルジイア・シュードツガタ(Orgyia pseudotsugata)・マルチキャプシド核多角体病ウイルス最初期-1(OpIE1)プロモーター、オルジイア・シュードツガタ・マルチキャプシド核多角体病ウイルス最初期-2(OpIE2)プロモーター、及び最初期0(IE0)プロモーターを含む群から選択される。いくつかの実施形態では、昆虫細胞コンピテントプロモーターは、PHプロモーターである。
【0008】
いくつかの実施形態では、ベクターは、Kozak配列を有する5’非翻訳領域(5’UTR)をさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、ベクターは、3’非翻訳領域(3’UTR)をさらに含む。いくつかの実施形態では、3’UTRは、エンハンサー配列を含む。いくつかの実施形態では、エンハンサー配列は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)である。いくつかの実施形態では、3’UTRは、1つ以上のターミネーター配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のターミネーター配列は、ウシ成長ホルモン(bGH)ターミネーター配列及びSV40ターミネーター配列を含む群から選択される。
【0010】
いくつかの実施形態では、ベクターは、1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子をコードする1つ以上の核酸配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子は、アンピシリン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、カルベニシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ヌルセオトリシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子、及びスペクチノマイシン耐性遺伝子を含む群から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、ベクターはさらに2つの転座エレメントを含む。いくつかの実施形態では、2つの転座エレメントは、細菌トランスポゾンTn7R及びTn7L転座エレメントである。
【0012】
いくつかの実施形態では、1つ以上(例えば、1、2、3、4個、またはそれ以上)の導入遺伝子は、哺乳動物遺伝子である。いくつかの実施形態では、1つ以上(例えば、1、2、3、4個、またはそれ以上)の導入遺伝子は、昆虫遺伝子である。
【0013】
別の態様では、本発明は、宿主細胞内での組換えタンパク質の発現方法を提供し、方法は、宿主細胞を前述の態様及び実施形態のいずれか1つのベクターと接触させる工程;及び、宿主細胞内で組換えタンパク質を発現させる工程を含む。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、哺乳動物細胞である。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、宿主細胞内での組換えタンパク質の発現方法を提供し、方法は、宿主細胞を、前述の態様及び実施形態のいずれか1つのベクターを使用して生成する組換えウイルスと接触させる工程;及び、宿主細胞内で組換えタンパク質を発現させる工程を含む。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、哺乳動物細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1A~1Cは、昆虫及び哺乳動物細胞内での組換えタンパク質の産生に使用するための導入ベクターを示す一連の概略図を示す。
図1Aは、この例示的な遺伝子発現カセットの個々のエレメントを概説する例示的な導入ベクターの概略図を示しており、導入ベクターは、Kozak配列を含む5’非翻訳領域(5’UTR)、開始コドンATG、エメラルドグリーン蛍光タンパク質(GFP)モデルタンパク質として例示される遺伝子コード配列、続いて終止コドンTAA、次いで3’UTR発現エンハンサーウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、ならびにウシ成長ホルモン(bGH)及びシミアンウイルス40(SV40)ポリアデニル化シグナルを有する。5’UTRの上流は、PHプロモーターを含む人工イントロンであり、その上流には非コードミニエクソン配列があり、さらに上流にはCMVエンハンサー/プロモーターがある。このベクターの他のエレメントには、転座部位Tn7L及びTn7R、ゲンタマイシン及びアンピシリン耐性遺伝子、ならびに大腸菌(E.coli)の複製起点が含まれる。
図1Bは、昆虫細胞内で
図1Aの導入ベクターから生成されるmRNAの概略図を示す。
図1Cは、哺乳動物細胞内で同じベクターから生成されるmRNAの概略図を示す。
【
図2】
図2A~2Bは、本発明の組換えベクターに感染させた昆虫及び哺乳動物細胞におけるGFP導入遺伝子の用量依存的発現を示す一連の蛍光画像を示す。昆虫SF9細胞(
図2A)及び哺乳動物HEK293F細胞(
図2B)の培養物を、様々な用量で
図1Aのベクターによって表されるゲノムを宿すウイルス粒子に感染させた。アラビア数字は、ウイルス投与計画に対応する(例えば、1=ウイルスなしの対照;2=200uLウイルス;3=400uLウイルス)。感染の16時間後に蛍光画像を取得したが、同じ組換えウイルスに感染させた昆虫細胞と哺乳動物細胞の両方において、ロバストかつ用量依存的なGFP発現を示している。
【
図3】臭化エチジウムで染色した4%アガロースゲルの画像を示しており、哺乳動物細胞内での
図1Aに示したベクターによって生成された転写産物におけるスプライシング事象を示している。培養したHEK293細胞を、GFP導入遺伝子を含む組換えウイルスベクターに感染させた。全RNAを抽出し、逆転写を行った後、PCR増幅を行った。対照として、プラスミドのみからのPCR増幅も行った。スプライシング産物の予想される長さは186bpであり、一方、スプライシングされていない前駆体(プラスミド内と同様に)は357bpの長さであった。遺伝子特異的(レーン2)及びオリゴdT/ランダムヘキサマー(レーン3)の両方のRT-PCR反応物がスプライシングされ、それらの長さは、イントロンが除去された場合の予想と同様に、ゲル上で約180~190bpであった。イントロンが存在する場合に予想されるように、プラスミドの増幅により350bpの産物が生成された(レーン4)。
【
図4A】組換えベクター及びベクターから生成されるmRNA転写産物の配列アラインメントを示す一連の画像を示す。
図3に示した結果と合致して、ベクターのみのPCR産物のサンガーシーケンシング(Genewiz)により、全長ベクターの予測される長さが確認された。
【
図4B】組換えベクター及びベクターから生成されるmRNA転写産物の配列アラインメントを示す一連の画像を示す。
図3に示した結果と合致して、HEK293細胞内でベクターによって生成されたmRNA産物のサンガーシーケンシング(Genewiz)により、スプライシングされたmRNA転写産物の予測される長さが確認された。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書中で使用する場合、用語「人工」とは、天然に存在しないことを意味する。例えば、イントロン配列が、ポリヘドリン(PH)プロモーターを含むヌクレオチド配列などの組換えヌクレオチド配列で修飾され(例えば、置換、挿入、連結、または隣接され)、その修飾された配列が天然に存在することが見出されていない場合、それは人工的であると見なされ得る。人工イントロン配列の非限定的な例として、5’から3’方向に向かって、スプライスドナー配列、異種プロモーター(例えば、昆虫細胞コンピテントプロモーターまたはPHプロモーターなどの強力なプロモーター)、スプライス分岐点、ポリピリミジントラクト、及びスプライスアクセプター配列を有するイントロンが挙げられる。
【0017】
本明細書中で使用する場合、用語「3’非翻訳領域」及び「3’UTR」とは、mRNA分子の終止コドンに対する3’領域を指す。3’UTRはタンパク質に翻訳されないが、mRNAのポリアデニル化、局在化、安定化、及び/または翻訳効率に重要な調節配列が含まれている。3’UTRの調節配列には、エンハンサー、サイレンサー、AUリッチエレメント、ポリAテール、ターミネーター、マイクロRNA認識配列が含まれ得る。用語「3’非翻訳領域」及び「3’UTR」とは、mRNA分子をコードする遺伝子の対応する領域を指す場合もある。
【0018】
本明細書中で使用する場合、用語「5’非翻訳領域」及び「5’UTR」とは、開始コドンに対して5’であるmRNA分子の領域を指す。この領域は、翻訳開始の調節に不可欠である。5’UTRは完全に翻訳されない場合もあれば、一部の生物でその領域の一部が翻訳される場合もある。転写開始部位は5’UTRの開始を示し、開始コドンの1ヌクレオチド前で終了する。真核生物では、5’UTRには、AUG開始コドンを含むKozakコンセンサス配列が含まれる。5’UTRには、翻訳の調節に重要な上流オープンリーディングフレームとしても知られるシス作用性調節エレメントが含まれる場合がある。この領域には、上流のAUGコドン及び終止コドンも含まれる場合がある。その高いGC含有量を考えると、5’UTRは、翻訳の調節に役割を果たすヘアピンループなどの二次構造を形成し得る。
【0019】
本明細書中で使用する場合、用語「バキュロウイルス」及び「バキュロウイルス」とは、節足動物、鱗翅目、膜翅目、双翅目、及び十脚目に感染することが知られているバキュロウイルス科ウイルスの二本鎖DNAウイルスを指す。これらの用語は、野生型または組換えバキュロウイルスゲノム、ウイルス粒子(例えば、ビリオン)、及び/またはバキュロウイルス由来のDNAまたはタンパク質を指し得る。天然に存在するバキュロウイルスは、主に無脊椎動物(例えば、昆虫)を標的とすることが知られており、細胞培養で哺乳動物細胞に侵入する能力があるにもかかわらず、そこで天然では複製することができない。
【0020】
本明細書中で使用する場合、用語「細胞型」とは、遺伝子発現データに基づいて統計的に分離可能な表現型を共有する細胞群を指す。例えば、一般的な細胞型の細胞は、同様の構造的特徴及び/または機能的特徴、例えば、同様の遺伝子活性化パターン及び抗原提示特性を共有している場合がある。一般的な細胞型の細胞には、一般的な生物(例えば、昆虫細胞または哺乳動物細胞)、一般的な組織(例えば、上皮組織、神経組織、結合組織、または筋肉組織)及び/または一般的な臓器、組織系、血管、または生物内の他の構造及び/または領域から分離された細胞が含まれ得る。
【0021】
本明細書中で使用する場合、用語「保存的変異」、「保存的置換」、及び「保存的アミノ酸置換」とは、1つ以上のアミノ酸から、極性、静電荷、及び立体体積などの同様の物理化学的特性を示す1つ以上の異なるアミノ酸への置換を指す。
【0022】
本明細書中で使用する場合、用語「発現する」とは、以下の事象の1つ以上を指す:(1)DNA配列からの転写によるRNA一次転写産物の産生;(2)RNA転写産物から成熟mRNAへのプロセシング(例えば、スプライシング、編集、5’キャップ形成、及び/または3’末端プロセシング);(3)mRNAからポリペプチドまたはタンパク質への翻訳;及び(4)ポリペプチドまたはタンパク質の翻訳後修飾。
【0023】
本明細書中で使用する場合、用語「エクソン」とは、スプライシング後に成熟mRNAにおいて保存されている遺伝子の領域を指す(例えば、5’UTR)。一次RNA転写産物には、エクソンとイントロンの両方が含まれる。さらにイントロンがスプライシングされて除かれ、一次転写産物の処理後、成熟mRNAにはエクソンのみが含まれている。いくつかのエクソンの配列がタンパク質に翻訳され、その場合、エクソンの配列がタンパク質のアミノ酸組成を決定する。成熟mRNAに含まれるいくつかのエクソンは非コード性であり得る(例えば、5’及び/または3’UTR)。
【0024】
本明細書中で使用する場合、用語「イントロン」とは、そのヌクレオチド配列が切り出されるか、またはmRNA成熟中にスプライシングされる遺伝子の領域を指す。用語イントロンはまた、遺伝子から転写されたRNAの対応する領域も指す。イントロンはエクソンと一緒に一次RNA転写産物に転写されるが、スプライシングによってさらに除去され、成熟mRNAには含まれない。2種類のスプライシング機構:1)核内低分子リボ核タンパク質によって支援されるスプライソソームプロセス;及び2.)自己スプライシングが知られている。スプライソソームスプライシングの対象となるイントロンには、通常、5’スプライスドナー部位と、分岐点及びポリピリミジントラクトなどの他の調節配列とともにイントロンの3’末端にあるスプライスアクセプター部位が含まれる。本明細書中で使用する場合、用語「イントロン」とはまた、スプライソソームによる認識の標的とされる、スプライスドナー配列、アクセプター配列、分岐点、及びポリピリミジントラクトなどの調節配列を、宿主細胞内で発現させるDNA構築物へ挿入することによって構築される人工イントロン(例えば、非天然に存在する)を指し得る。人工イントロンの非限定的な例として、5’から3’方向に向かって、5’スプライスドナー部位、スプライシングの標的となる配列(例えば、ポリヘドリンプロモーター配列などの異種プロモーター配列)、分岐点、ポリピリミジントラクト、及び3’スプライスアクセプター部位を有するヌクレオチド配列が挙げられる。
【0025】
本明細書中で使用する場合、用語「異種」とは、特定のDNAまたはRNA分子内に通常含まれず、細胞(例えば、哺乳動物細胞または昆虫細胞)内で通常発現せず、及び/または天然には通常存在が見出されない核酸配列を指す。本明細書中で使用する場合、異種核酸とは、例えば、プロモーター配列、人工イントロン、非コードエクソン、導入遺伝子、または任意の個々にもしくは組み合わせで関連する調節配列であり得る。さらに、用語「異種」とはまた、細胞(例えば、哺乳動物細胞または昆虫細胞)において通常発現しない、及び/または天然には通常存在が見出されないタンパク質のアミノ酸配列を指し得る。
【0026】
本明細書中で使用する場合、用語「宿主」及び「宿主細胞」とは、本明細書に記載のベクターによる感染が可能な任意の原核生物または真核生物(例えば、哺乳動物、無脊椎動物、細菌、及び鳥類など)を指す。これらの用語は、野生型宿主または本発明の組換えベクターに感染させた宿主を指し得る。
【0027】
本明細書中で使用する場合、用語「感染する」及び「感染」とは、ウイルス粒子(例えば、ビリオン)が宿主細胞(例えば、昆虫細胞、哺乳動物細胞)に侵入して入り込むプロセスを指す。一般的に、このプロセスは、細胞接着、浸透、コーティング解除、複製、組み立て、及び放出を含むいくつかの段階に分けることができる。接着段階では、ウイルス粒子がウイルスキャプシドタンパク質を介して宿主の細胞表面受容体に結合する。受容体へ接着することにより、ウイルス粒子が、エンドサイトーシス、マイクロピノサイトーシス、または宿主の細胞膜との融合によって内在化される浸透段階へと移行する。細胞内に入ると、ウイルス粒子はコーティングを解除する過程でキャプシドタンパク質を脱落させ、それによって宿主細胞内にゲノムを放出する。ウイルスが宿主細胞の細胞内で複製可能である場合、複製段階に移行し得る。この段階では、ウイルスゲノムが自身のRNAベースまたはDNAベースのゲノムを複製し、このプロセスでは、ウイルスタンパク質の合成及び組み立てが必要になる場合がある。続く組み立て段階では、新しく合成されたウイルスタンパク質が新規ウイルス粒子(例えば、ビリオン)に組み立てられ、さらに翻訳後修飾を受ける場合がある。最終的な放出段階では、ウイルス粒子は、宿主細胞膜の一部を利用し、修飾することによってウイルスエンベロープを獲得する。この最終段階で、ウイルス粒子は細胞溶解によって宿主細胞から離脱する。
【0028】
本明細書中で使用する場合、用語「作動可能に連結された」とは、第2の分子に結合する第1の分子を指し、その場合、第1の分子が第2の分子の機能に影響を与えるように分子を配置する。2つの分子は、単一の切れ目のない分子の一部であってもよく、そうでなくてもよく、隣接していても、隣接していなくてもよい。例えば、プロモーターが細胞内の目的の転写可能なポリヌクレオチド分子の転写を調節する場合、そのプロモーターは転写可能なポリヌクレオチド分子に作動可能に連結されている。さらに、転写調節エレメントの2つの部分は、一方の部分の転写活性化機能が他方の部分の存在により悪影響を受けないようにそれらが結合している場合、互いに作動可能に連結している。2つの転写調節エレメントは、リンカー核酸(例えば、介在非コード核酸)を介して互いに作動可能に連結してもよく、または介在ヌクレオチドが存在せずに互いに作動可能に連結してもよい。非限定的な例として、一次RNA転写産物または前記転写産物をコードするDNA配列中のエクソンとイントロンは、エクソンがイントロンのスプライシングを促進する場合、互いに作動可能に連結させてもよい。
【0029】
本明細書中で使用する場合、用語「モノシストロン性」とは、単一のタンパク質またはポリペプチド産物のコード配列を含むRNAまたはDNA構築物を指す。
【0030】
本明細書中で使用する場合、用語「プラスミド」とは、追加のDNAセグメントを挿入(例えば、ライゲート)し得る染色体外環状二本鎖DNA分子を指す。プラスミドとは、ベクターのタイプであり、連結している別の核酸を輸送することができる核酸分子である。特定のプラスミドは、それらが導入される宿主細胞において自己複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌プラスミド及びエピソーム性プラスミド)。他のプラスミド(例えば、非エピソーム性ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれることが可能であり、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。特定のプラスミドは、それらが作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導することができる。
【0031】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリシストロン性」とは、少なくとも2つのタンパク質またはポリペプチド産物のコード配列を含むRNAまたはDNA構築物を指す。
【0032】
本明細書中で使用する場合、用語「ポリピリミジントラクト」とは、スプライスアクセプター部位の約5~40ヌクレオチド上流(例えば5’)に位置し、一般的に15~20ピリミジンヌクレオチド(例えば、C及びT/U)を含む、イントロンの領域を指す。ポリピリミジントラクトは、スプライソソームの組織化を促進することにより、スプライシング中に機能する。
【0033】
本明細書中で使用する場合、用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼが結合するDNA上の認識部位を指す。ポリメラーゼは、導入遺伝子の転写を促進する。プロモーターは、「哺乳動物細胞コンピテントプロモーター」であってもよく、これは、プロモーターが哺乳動物細胞内で遺伝子発現を駆動することができることを意味する。哺乳動物細胞コンピテントプロモーターは、哺乳動物細胞のみで駆動可能である場合もあれば、哺乳動物細胞及び他の細胞型で駆動可能である場合もある。プロモーターはまた、「昆虫細胞コンピテントプロモーター」であってもよく、これは、プロモーターが昆虫細胞内で遺伝子発現を駆動することができることを意味する。昆虫細胞コンピテントプロモーターは、昆虫細胞のみで駆動可能である場合もあれば、昆虫細胞及び他の細胞型で駆動可能である場合もある。プロモーターは、RNAポリメラーゼ及び/またはシグマ因子に対する親和性、転写開始の速度、及び転写レベルに応じて、強力なプロモーターまたは弱いプロモーターであってもよい。プロモーターの強度は、RNAポリメラーゼの理想的なコンセンサス配列に対するプロモーターヌクレオチド配列の類似性に関連している。強力なプロモーターは、RNAポリメラーゼの頻繁かつ強力な結合、高レベルの転写、及びその結果として、その制御下での高レベルの転写産物を呈する。プロモーターの強度は、特定のレベルのRNA発現を有する特定の宿主細胞型内での、その制御下のRNA発現レベルを、参照プロモーター(例えば、アデノウイルスプロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、またはヒト免疫不全ウイルスロングターミナルリピート(HIV LTR)プロモーターなど)と比較することによって決定し得る。導入遺伝子の発現を、特定の細胞型内の参照プロモーターによって駆動される発現レベル以上で駆動するプロモーターは、強力なプロモーターと見なされ得る。強力なプロモーターの非限定的な例として、CMVエンハンサー/プロモーター、EF1-αプロモーター、及びCAGプロモーター、PHプロモーター、及びAc5プロモーターが挙げられる。弱いプロモーターは、RNAポリメラーゼのまれな及び/または弱い結合、低レベルの転写、及びその結果として、その制御下での低レベルの転写産物を呈する。弱いプロモーターの非限定的な例として、ユビキチンCプロモーター及びホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーターが挙げられる。さらに、用語「プロモーター」は、生物系では天然に存在しない調節DNA配列である合成プロモーターを指す場合がある。合成プロモーターには、天然には存在しないポリヌクレオチド配列と組み合わせた天然プロモーターの一部が含まれ、多くの場合、様々な導入遺伝子、ベクター、及び標的細胞型を用いて組換えDNAを発現するように最適化され得る。当業者であれば、プロモーターの強度が、プロモーターが活性である特定の細胞型、組織、及び生物に依存し得ることを理解するであろう。
【0034】
参照ポリヌクレオチド配列または参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性の割合(%)」とは、配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入して、最大の配列同一性の割合を達成した後、参照ポリヌクレオチド配列または参照ポリペプチド配列内の核酸またはアミノ酸と同一である候補配列内の核酸またはアミノ酸の割合と定義される。核酸またはアミノ酸配列同一性の割合を決定することを目的としたアラインメントは、当業者の能力の範囲内である様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、またはMegalignソフトウェアなどの、公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、達成することができる。当業者であれば、比較している配列の全長にわたる最大のアラインメントを得るために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインメントするための適切なパラメータを決定することができる。例えば、配列同一性の割合の値は、配列比較コンピュータプログラムBLASTを使用して生成してもよい。実例として、所与の核酸またはアミノ酸配列Aの、所与の核酸またはアミノ酸配列Bに対する、それとの、またはそれに対しての配列同一性の割合(あるいは、所与の核酸またはアミノ酸配列Bに対する、それとの、またはそれに対しての特定の割合の配列同一性を有する所与の核酸またはアミノ酸配列Aと表現することができる)は、以下のように計算される:
100×(分数X/Y)
式中、Xは、AとBとのプログラムのアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラム(例えば、BLAST)によって同一の一致としてスコアリングされたヌクレオチドまたはアミノ酸の数であり、Yは、Bの核酸の総数である。核酸またはアミノ酸配列Aの長さが核酸またはアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAの配列同一性の割合は、Aに対するBの配列同一性の割合と等しくないと考えられる。
【0035】
本明細書中で使用する場合、用語「調節配列」には、遺伝子の転写または翻訳を制御するプロモーター、エンハンサー、ターミネーター、及び他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)が含まれる。そのような調節配列は、例えば、Goeddel,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185(Academic Press,San Diego,CA,1990)に記載されており;参照により本明細書に援用される。
【0036】
本明細書中で使用する場合、用語「選択可能なマーカー」及び「選択可能なマーカー遺伝子」とは、細胞の選択を容易にするために細胞に導入される遺伝子を指す。例えば、1つ以上の選択可能なマーカーを本明細書に記載の組換えベクターに導入して、ベクターを含む細胞を選択できるようにしてもよい。選択可能なマーカーは、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、カルベニシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、またはノーセオトリシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子であり得る。
【0037】
本明細書中で使用する場合、用語「スプライスアクセプター配列」または「スプライスアクセプター部位」とは、一次転写産物からイントロンをスプライシングするために必要なイントロンの3’末端にあるDNAまたはRNA配列を指す。スプライスアクセプター配列は、通常、不変のAG配列で終結する。
【0038】
本明細書中で使用する場合、用語「スプライス分岐点」とは、一次転写産物からイントロンをスプライシングするために必要なアデニンヌクレオチドを含むイントロンの領域を指す。スプライス分岐点は、スプライシング中にイントロン内で生じるラリアット形成に重要である。スプライス分岐点は、通常、スプライスアクセプター配列の上流(例えば、5’)の20~50ヌクレオチド以内に配置される。
【0039】
本明細書中で使用する場合、用語「スプライスドナー配列」または「スプライスドナー部位」とは、一次転写産物からイントロンをスプライシングするために必要なイントロンの5’末端にあるDNAまたはRNAヌクレオチド配列を指す。スプライスドナー配列は、通常、イントロンの5’末端にある不変のGU配列である。
【0040】
本明細書中で使用する場合、用語「ターミネーター」及び「ターミネーター配列」とは、転写ユニット(例えば、遺伝子または導入遺伝子)の末端をマークし、転写タンパク質のアンサンブルからの新規合成RNAの遊離を開始させるDNAまたはRNAヌクレオチド配列を指す。ターミネーターは、目的の遺伝子の下流(例えば、3’)かつ3’調節エレメントの下流にある。ターミネーター配列は、RNA分子の半減期に寄与し、その結果、遺伝子発現のレベルに寄与する。
【0041】
本明細書中で使用する場合、用語「形質移入」とは、原核生物または真核生物の宿主細胞への外来性DNAの導入に一般的に使用される任意の多種多様な技術、例えば、電気穿孔法、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラン形質移入法、Nucleofection、スクイーズポレーション、ソノポレーション、光学形質移入法、Magnetofection、インパレフェクションなどを指す。
【0042】
本明細書中で使用する場合、用語「形質導入」及び「形質導入する」とは、ベクター構築物またはその一部を細胞に導入する方法を指す。ベクター構築物が、例えば、AAVベクターなどのウイルスベクターに含まれる場合、形質導入とは、細胞のウイルス感染、及びその後のベクター構築物またはその一部の細胞ゲノムへの移入及び/または組み込みを指す。
【0043】
本明細書中で使用する場合、用語「導入遺伝子」とは、遺伝子産物(例えば、組換えタンパク質)をコードする組換え核酸(例えば、DNAまたはcDNA)を指す。遺伝子産物は、RNA、ペプチド、またはタンパク質であってもよい。遺伝子産物のコード領域に加えて、導入遺伝子は、プロモーター、エンハンサー(複数可)、不安定化ドメイン(複数可)、応答エレメント(複数可)、レポーターエレメント(複数可)、インシュレーターエレメント(複数可)、ポリアデニル化シグナル(複数可)及び/または他の機能エレメントなどの発現を促進または増強するための1つ以上のエレメントを含むか、またはそれらに作動可能に連結され得る。本開示の実施形態は、任意の既知の適切なプロモーター、エンハンサー(複数可)、不安定化ドメイン(複数可)、応答エレメント(複数可)、レポーターエレメント(複数可)、インシュレーターエレメント(複数可)、ポリアデニル化シグナル(複数可)、及び/または他の機能エレメントを利用してもよい。
【0044】
本明細書中で使用する場合、用語「ベクター」には、核酸を移入するための生物学的ビヒクル、例えば、プラスミドなどのDNAベクター、RNAベクター、ウイルスまたは他の適切なレプリコン(例えば、ウイルスベクター)が含まれる。外来性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを原核生物または真核生物の細胞に送達するために、様々なベクターが開発されてきた。本明細書に記載の発現ベクターは、ポリヌクレオチド配列、及び、例えば、タンパク質の発現及び/または細胞のゲノムへのこれらのポリヌクレオチド配列の組み込みに使用する追加の配列エレメントを含み得る。本明細書に記載の導入遺伝子の発現に使用することができる特定のベクターには、遺伝子転写を指示するプロモーター及びエンハンサー領域などの調節配列を含むベクターが含まれる。組換え遺伝子の発現に有用な他のベクターは、これらの遺伝子の翻訳速度を高めるか、または遺伝子転写から生じるmRNAの安定性もしくは核外輸送を向上させるポリヌクレオチド配列を含む。これらの配列エレメントには、例えば、発現ベクター上に組み込まれた遺伝子の効率的な転写を指示するために、5’及び3’非翻訳領域ならびにポリアデニル化シグナル部位が含まれる。本明細書に記載の発現ベクターはまた、そのようなベクターを含む細胞を選択するための1つ以上のマーカーをコードするポリヌクレオチドを含み得る。適切なマーカーの非限定的な例として、アンピシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、カナマイシン、ノーセオトリシン、カルベニシリン、テトラサイクリン、ゼオシン、ストレプトマイシン、またはスペクチノマイシンなどの抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。用語「ベクター」とは、シャトルベクターまたは導入ベクターを指し得る。シャトルベクターは、プラスミドなどのベクターの一種であり、2つの異なる宿主種において増殖できるように構築されているため、2つ以上の異なる細胞型での操作が容易になる。シャトルベクターは、第2の宿主細胞型(例えば、昆虫または哺乳動物細胞)で発現させるために、第1の宿主細胞型(例えば、大腸菌細胞)内で異種遺伝子を増幅させるために使用し得る。導入ベクターは、標的細胞に送達するための異種核酸配列を組み込んだプラスミドなどのベクターである。
【0045】
本明細書中で使用する場合、用語「野生型」とは、所与の生物における特定の遺伝子について最も出現頻度が高い遺伝子型を指す。
【0046】
詳細な説明
本明細書において、昆虫細胞及び哺乳動物細胞内での組換えタンパク質の発現を可能にする組成物及び方法を記載する。本発明は、複数の宿主細胞型(例えば、哺乳動物細胞及び昆虫細胞)内でタンパク質を発現させるための単一または複数の遺伝子の挿入に対応する組換え導入ベクター(例えば、プラスミド)に基づく。ベクターは、哺乳動物細胞と昆虫細胞の両方でタンパク質発現を促進することができる組換えウイルス粒子の調製を容易にする。そのようなウイルス粒子を、本発明の方法に従って使用して、細胞をウイルスに感染させ、組換えタンパク質を産生可能にする条件下で宿主細胞を感染させてもよい。さらに、本発明のベクターを使用して、ベクターを侵入させ、その後に組換えタンパク質を発現させることを可能にする条件下で、細胞をベクターと接触させることにより、宿主細胞内でのタンパク質発現を一時的に駆動することができる。
【0047】
本発明は、昆虫細胞コンピテントプロモーター及び哺乳動物細胞コンピテントプロモーター(いずれも目的の導入遺伝子の上流(例えば5’)に配置され、カセット内で同じ方向に配向される)の下流(例えば3’)に目的の導入遺伝子が挿入される発現カセットを含む導入ベクターを提供することにより、昆虫細胞及び哺乳動物細胞の両方において組換えタンパク質の発現を促進する。昆虫細胞コンピテントプロモーターは、昆虫細胞で導入遺伝子の発現を駆動し、哺乳動物細胞では駆動せず、一方、哺乳動物細胞コンピテントプロモーターは、哺乳動物細胞で導入遺伝子の発現を駆動し、昆虫細胞では駆動しない。そのようなベクターは、宿主細胞において2つの異なる誘導性プロモーターによって遺伝子発現を示差的に制御することを可能にする。
【0048】
さらに、本発明のベクターで利用されるプロモーター構成はユニークであり、両方の宿主細胞型内での効率的な遺伝子発現を促進する。具体的には、ベクターデザインは、昆虫細胞コンピテントプロモーターを、非コードエクソン(例えば、非コードミニエクソン)のすぐ下流(例えば、3’)の人工イントロンに配置し、次いでこれを、哺乳動物の細胞コンピテントプロモーターのすぐ下流に配置することを特徴とする。この構成により、昆虫細胞における導入遺伝子の発現を、哺乳動物細胞コンピテントプロモーターからの干渉を受けることなく、昆虫細胞コンピテントプロモーターによって直接調節することができる。哺乳動物細胞内で哺乳動物細胞コンピテントプロモーターから生成される転写産物には、人工イントロンへの挿入の結果として、RNAスプライシング中に除去される昆虫細胞コンピテントプロモーターが含まれる。このベクターデザインにより、昆虫細胞のコンピテントプロモーターが哺乳動物細胞の翻訳に干渉しないことが保証される。
【0049】
1つの特定のベクターデザインでは、昆虫細胞コンピテントプロモーターを含む人工イントロンは、その5’末端にスプライスドナー配列を有する昆虫細胞コンピテントプロモーター、さらに5’から3’方向に向かって、スプライス分岐点、ポリピリミジントラクト、そして、その3’末端にスプライスアクセプター配列を隣接させることによって作成される。哺乳動物細胞及び昆虫細胞内で発現させるために選択した導入遺伝子を、昆虫細胞コンピテントプロモーターの下流に配置し、導入遺伝子には、その5’末端にKozak配列を含む5’非翻訳領域(5’UTR)及び開始コドン(例えば、ATG)、ならびにその3’末端に、5’から3’方向に向かって、終止コドン(例えば、TAG、TAA、またはTGA)、3’非翻訳領域(3’UTR)、及びエンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリAテールなどを含むがこれらに限定されない任意選択の調節配列を隣接させる。本発明のベクターはまた、抗生物質耐性遺伝子、及び転座エレメントなどの1つ以上の選択可能なマーカーをコードする核酸配列、ならびに複製起点配列を含み得る。
【0050】
イントロン配列エレメント
本発明のベクターは、カセット内で同じ方向に向けられた2つのプロモーターを使用して、単一の発現カセットからの単一または複数の導入遺伝子の発現を可能にする。第1のプロモーターは、例えば、哺乳動物細胞においてのみ活性であり得(例えば、哺乳動物細胞コンピテントプロモーター)、一方、第2のプロモーターは、例えば、昆虫細胞においてのみ活性であり得る(例えば、昆虫細胞コンピテントプロモーター)。哺乳動物細胞に導入する場合、このベクターから生成される一次転写産物は、第1のプロモーターによって駆動され、転写産物内に第2のプロモーターを含んでいる。第2のプロモーター内に非生産的開始コドン及び/または未成熟終止コドンが潜在的に存在することに起因する翻訳干渉を回避するために、本発明は、スプライシング事象によって一次転写産物から第2のプロモーターを除去するためのベクター内の人工イントロン配列エレメントを提供する。具体的には、本明細書に記載の組換えベクターには、細胞内でベクターが転写されるとスプライシングされ得る人工イントロンに、第2のプロモーターが組み込まれている。人工イントロンは、その5’末端にスプライスドナー配列、そしてその3’末端に、5’から3’方向に向かって、スプライス分岐点、ポリピリミジントラクト、及びスプライスアクセプター配列が隣接する第2のプロモーターを含む。人工イントロンのすぐ上流かつ第1のプロモーターのすぐ下流に、人工イントロンからのスプライシングを促進する非コードエクソン(例えば、非コードミニエクソン)が配置される。非コードエクソンは、調節エレメントまたはAUG開始コドンを含まない任意の核酸配列を含み得る。非コードエクソン内に含まれ得る配列として、例えば、Kozak配列が挙げられる。非コードエクソンはタンパク質に翻訳されず、本明細書に記載のベクターの発現カセットにおける導入遺伝子のタンパク質翻訳にほとんどまたはまったく影響を及ぼさない。本発明のベクターに関して、RNAスプライシングによるイントロンの除去を容易にするために、非コードエクソンを人工イントロンの上流に配置する。
【0051】
プロモーター
本発明のベクターは、単一の発現カセット内に、目的の単一または複数の導入遺伝子をコードする核酸配列に作動可能に連結された昆虫細胞コンピテントプロモーター配列及び哺乳動物細胞コンピテントプロモーター配列を含む。哺乳動物細胞コンピテントプロモーターは、哺乳動物のRNAポリメラーゼタンパク質に結合し、哺乳動物細胞でのみ遺伝子の転写を駆動することができる。逆に、昆虫細胞コンピテントプロモーターは、昆虫細胞でのみ遺伝子発現を制御することができる。
【0052】
例示的な哺乳動物細胞コンピテントプロモーターとして、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー/プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、CAGプロモーター、伸長因子1(EF1-α)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)プロモーター、β-アクチンプロモーター、初期増殖応答1(EGR1)プロモーター、真核生物翻訳開始因子4A1(eIF4A1)プロモーター、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルスロングターミナルリピート(HIV LTR)プロモーター、アデノウイルスプロモーター、またはラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターなどが挙げられる。
【0053】
昆虫細胞コンピテントプロモーターの非限定的な例として、ポリヘドリン(PH)プロモーター、熱ショックタンパク質(HSP)プロモーター、p6.9プロモーター、p9プロモーター、p10プロモーター、アクチン5c(Ac5)プロモーター、オルジイア・シュードツガタ・マルチキャプシド核多角体病ウイルス最初期-1(OpIE1)プロモーター、オルジイア・シュードツガタ・マルチキャプシド核多角体病ウイルス最初期-2(OpIE2)プロモーター、最初期0(IE0)プロモーターなどが挙げられる。例示的な昆虫細胞コンピテントプロモーターは、Lin et al. J.Biotechnol.165(1):11-17(2013)に記載されており、その開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。当業者であれば、他の哺乳動物細胞コンピテントプロモーター及び昆虫細胞コンピテントプロモーターもまた、本発明での使用に適し得ることを認識するであろう。
【0054】
本発明と組み合わせて使用することに適したプロモーターは、強力なプロモーターであってもよい。プロモーターの強度は、RNAポリメラーゼに対する親和性、転写開始の速度、及び一次転写産物の発現レベルに基づいて分類される。強力なプロモーターの非限定的な例として、CMVプロモーター、EF1-αプロモーター、及びCAGプロモーター、PHプロモーター、Ac5プロモーター、アデノウイルスプロモーター、SV40プロモーター、及びHIV LTRプロモーターが挙げられる。あるいは、本発明は、当技術分野で確立されており、周知である、弱いプロモーターを使用してもよい。
【0055】
導入遺伝子の発現
本明細書に記載のベクターを使用して、目的の1つ以上(例えば、1、2、3、4個、またはそれ以上)の導入遺伝子を宿主細胞(例えば、昆虫細胞及び/または哺乳動物細胞)に送達し、発現させてもよい。いくつかの実施形態では、本発明のベクターは、単一の導入遺伝子を発現させるためのモノシストロン性発現カセットを含む。したがって、本明細書に記載のベクターは、5’に開始コドン及び5’UTRが隣接し、3’末端に終止コドン及び3’UTRが隣接している目的の導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含み得る。本発明の単一のベクターからのポリシストロン性発現カセットにおける2つ以上(例えば、2、3、4個、またはそれ以上)の導入遺伝子の発現を対象とした用途では、2つ以上の導入遺伝子を、2A自己切断ペプチド(例えば、T2A、P2A、E2A、またはF2A自己切断ペプチド)をコードする1つ以上(例えば、1、2、3個、またはそれ以上)の核酸配列によって分離してもよい。ポリシストロン性発現カセットで使用するための2A自己切断ペプチドをコードする核酸配列の例示的な使用方法は、Liu et al,Sci.Rep.7(1):2193(2017)に記載されており、その開示はその全体が参照により援用される。本発明のベクターへの2A自己切断ペプチドコード配列の組み込みは、当業者に周知の方法に従って実施し得る。
【0056】
目的の導入遺伝子は、昆虫細胞及び哺乳動物細胞での発現に適したタンパク質をコードしていてもよい。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、本明細書に記載のベクターに関して異種である。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、宿主細胞に対して異種である。一般的に、限定されないが、導入遺伝子は、キナーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼ、グリコシラーゼ、ヌクレアーゼ、ポリメラーゼ、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、シンターゼ、GTPアーゼ、ATPアーゼ、デアミナーゼ、サイトカイン、ユビキチナーゼ、脱ユビキチナーゼ、膜貫通受容体、転写因子、RNA結合タンパク質、DNA結合タンパク質、E3-リガーゼ、分泌タンパク質、細胞骨格タンパク質、オキシダーゼ、レダクターゼ、及びタンパク質-タンパク質相互作用標的などを含むタンパク質クラスに属するタンパク質をコードし得る。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、膜タンパク質をコードする。いくつかの実施形態では、膜タンパク質は、膜受容体、輸送タンパク質、膜酵素、及び/または細胞接着タンパク質である。いくつかの実施形態では、膜タンパク質は、糖タンパク質、Gタンパク質共役受容体、核内受容体、イオンチャネル、及び/またはATP結合カセット薬物輸送体などである。本発明のベクターと共に使用するのに適した導入遺伝子はまた、クロマチンリモデリングタンパク質、抗菌タンパク質、及び/またはユビキチンリガーゼタンパク質をコードし得る。本発明での使用に適した導入遺伝子はまた、例えば、マルトース結合タンパク質タグ、SNAPタグ、FLAGタグ、6×Hisタグ、HaloTag、及び蛍光タンパク質タグなどのタンパク質タグを含み得る。本発明のベクターと共に使用するための導入遺伝子の他の例として、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ融合タンパク質、キメラ抗体などのキメラタンパク質が挙げられる。
【0057】
本明細書に記載のベクターと共に使用するのに適した導入遺伝子はまた、タンパク質発現を駆動するベクターの有効性の判定に有用なレポーター遺伝子であり得る。いくつかの実施形態では、レポーター遺伝子は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、mCherry、dsRed、ルシフェラーゼ(Luc)、及びβ-ガラクトシダーゼ(lacZ)、クロランフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などである。当業者であれば、他のレポーター遺伝子が本発明と組み合わせて使用するのに適し得ることを理解するであろう。
【0058】
本明細書に記載のベクターを介した発現に適した導入遺伝子は、タンパク質鎖の残りの部分とは独立して機能することができるタンパク質ドメインをコードし得る。そのようなタンパク質ドメインは、分子シャペロンの助けを借りて、または助けを借りずに、安定した三次元構造に組織化し得る。タンパク質ドメインは、50~250アミノ酸の範囲を含むがこれらに限定されない様々な長さを有し得る。タンパク質ドメインの鎖長の詳細な説明については、例えば、その開示が参照により本明細書に援用されるXu et al. Folding and Design 3(1):11-7(1998)を参照されたい。タンパク質ドメインの非限定的な例として、リガンド結合ドメイン、DNA結合ドメイン、RNA結合ドメイン、結合パートナー結合ドメイン、デアミナーゼドメイン、イオン結合ドメイン(例えば、Ca2+結合ドメイン、Mg2+結合ドメインなど)、ヌクレオチド結合ドメイン、調節ドメイン、局在化ドメイン、キナーゼドメイン、ホスファターゼドメイン、プロテアーゼドメイン、トランスフェラーゼドメイン、トランスポータードメイン、阻害剤ドメイン、アクチベータードメイン、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメイン、薬物結合ドメイン、抗体断片結晶化可能ドメイン、抗体可変ドメイン、免疫グロブリンドメイン、抗体様ドメイン、リンカードメイン、触媒ドメイン、塩基性ロイシンジッパードメイン、カドヘリンリピートドメイン、NLRP3ドメイン(例えば、NACHTドメイン、LRRドメイン、及び/またはPYDドメイン)、フィブロネクチンドメイン、MHCクラスIタンパク質ドメイン、MHCクラスIIタンパク質ドメイン、デスエフェクタードメイン、EFハンドドメイン、亜鉛フィンガーDNA結合ドメイン、ホスホチロシン結合ドメイン、プレクストリン相同ドメイン、Src相同2ドメイン、及びADAR1もしくはADAR2 Z-DNA結合ドメインまたはデアミナーゼドメインなどが挙げられる。当業者であれば、タンパク質ドメインがそれらのタンパク質鎖の残りの部分とは独立して機能することができる限り、タンパク質ドメインをコードする他の導入遺伝子もまた、本発明と組み合わせて使用し得ることを理解するであろう。
【0059】
本明細書に記載のベクターを使用する発現に適した導入遺伝子は、野生型タンパク質及び/またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み得る。あるいは、導入遺伝子は、1つ以上のアミノ酸置換、例えば、野生型ポリペプチドと比較して、1つ以上の保存的アミノ酸置換(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9個、または10個以上のアミノ酸置換、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9個、または10個以上の保存的アミノ酸置換)を含むタンパク質及び/またはポリペプチドをコードするポリペプチドを含み得る。
【0060】
本明細書に記載のベクターを介した発現に適した導入遺伝子はまた、目的のアミノ酸配列を含む合成ポリペプチドをコードし得る。
【0061】
本明細書に記載のベクターを介した発現に適した導入遺伝子はまた、新規治療薬の同定及び開発、細胞ベースの機能アッセイのための組換えタンパク質発現、ならびに結晶学用途のためのタンパク質生産を含むがこれらに限定されない様々な用途において有用なタンパク質、タンパク質ドメイン、またはポリペプチドをコードし得る。
【0062】
調節エレメント
調節エレメントは、宿主細胞内での核酸分子の侵入、複製、及び/または発現を促進するために使用する送達ビヒクルの成分である。調節エレメントは、ウイルス調節エレメントであってもよく、任意選択で、バキュロウイルス調節エレメントであってもよい。例えば、ウイルス調節エレメントは、バキュロウイルス相同領域(hr1)転写エンハンサーであり得る。調節エレメントの他の非限定的な例として、Tn7Lプロモーター及びターミネーター、Tn7Rプロモーター及びターミネーター、39Kプロモーター、IE1ターミネーター、T7ターミネーターなどが挙げられる。バキュロウイルス調節エレメントは、バキュロウイルス由来であってもよく、他のゲノム領域から同定された異種配列であってもよい。当業者はまた、他のウイルス調節エレメントが同定された場合、これらを本明細書に記載の核酸分子と共に使用し得ることを理解するであろう。
【0063】
本発明のベクターは、宿主細胞(例えば、細菌細胞、無脊椎動物細胞、または哺乳動物細胞)内でベクターの複製を可能にする複製起点(ori)配列を含み得る。例示的な細菌ori配列として、ColE1、pMB1、pSC101、R6K、pUC、pBR322及びp15A ori配列が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のベクターは、当技術分野で周知の技術を使用して複製してもよい。
【0064】
本発明のベクターは、転写及び/または翻訳を指示し、調節することができる5’及び3’UTR配列をさらに含み得る。5’UTRは、転写及び/または翻訳の制御に重要な調節核酸配列を含み得る。そのような配列は、ポリアデニル化、翻訳効率、ならびにmRNAの局在及び安定性を調節し得る。3’UTR調節配列の非限定的な例として、エンハンサー、ターミネーター(例えば、IE1ターミネーター、rrnBターミネーター)、サイレンサー、AUリッチエレメント、マイクロRNA認識エレメントが挙げられる。3’UTRエンハンサーの非限定的な例として、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)エンハンサーが挙げられる。3’UTRターミネーター配列の非限定的な例として、ウシ成長ホルモン(bGH)及びシミアンウイルス40(SV40)ターミネーターが挙げられる。本発明のベクターは、単一のプロモーターからの複数のポリペプチドの発現を促進する2A自己切断ペプチドをコードする配列をさらに含み得る。
【0065】
選択可能なマーカー
本発明での使用に適したベクターはまた、そのようなベクターを含む細胞を選択するための抗生物質耐性遺伝子などの1つ以上の選択可能なマーカーをコードする核酸配列を含み得る。本明細書に記載のベクターと共に使用するのに適したマーカーの例は、アンピシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、カルベニシリン、カナマイシン、ノーセオトリシン、テトラサイクリン、ゼオシン、ストレプトマイシン、及びスペクチノマイシンなどの抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子である。当業者であれば、他の選択可能なマーカーもまた本発明と組み合わせて使用し得ることを認識するであろう。
【0066】
転座配列
本明細書に記載の組成物及び方法での使用に適した組換えベクターはまた、導入遺伝子及び関連する配列のベクターへの挿入に重要な転座配列(例えば、転座部位)を含み得る。転座部位の非限定的な例として、トランスポゾン7(Tn7)Tn7R及びTn7L配列が挙げられる。当業者であれば、本発明の範囲内で他の転座配列を使用し得ることを理解するであろう。
【0067】
バキュロウイルス
本発明の組換えベクターは、哺乳動物細胞及び昆虫細胞の両方で組換えタンパク質を発現することができるウイルス粒子の産生を促進するように、またはウイルスの産生を必要とせずにベクター(例えば、プラスミド)から直接一過性のタンパク質発現を可能にするような方法で使用することができる。
【0068】
本発明で使用するための組換えベクターは、カイコ(Bombyx mori)核多角体病ウイルス、オルジイア・シュードツガタ単核多角体病ウイルス、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)単核多角体病ウイルス、ヘリオスチス・ゼア(Helioththis zea)バキュロウイルス、マイマイガ(Lymantria dispar)バキュロウイルス、クリプトフレビア・ロイコトレタ(Cryptophlebia leucotreta)顆粒病ウイルス、ウシエビ(Penaeusmonodon)型バキュロウイルス、ノシメマダラメイガ(Plodia interpunctella)顆粒病ウイルス、マメストラ・ブラシカエ(Mamestra brassicae)核多角体病ウイルス、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa Californica)核多角体病ウイルス、またはブズラ・スプレッサリア(Buzura suppressaria)核多角体病ウイルスを含むがこれらに限定されない様々なウイルスゲノムに基づき得る。異種遺伝子エレメントで修飾されたバキュロウイルスの産生手順は当技術分野で周知であり、例えば、Pfeifer et al.,Gene 188:183-90(1997),Clem et al.,J Virol 68:6759-62,(1994)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0069】
宿主細胞
本明細書に記載の組成物及び方法と組み合わせて使用し得る細胞として、本発明の組換えベクターから導入遺伝子を発現することができる細胞が挙げられる。例えば、本明細書に記載の組成物及び方法と組み合わせて使用することができる1つのタイプの細胞は、哺乳動物細胞である。哺乳動物細胞の非限定的な例として、初代細胞(例えば、ヒト、マウス、ラット、またはブタの初代細胞など)またはヒト、マウス、ラット、ブタ、もしくは他の哺乳動物に由来する細胞株が挙げられる。本発明と共に使用するための哺乳動物細胞は、肝臓、腎臓、心臓、骨格筋、平滑筋、膵臓、腸、骨、神経系、血液、結合組織、脂肪、皮膚、子宮頸部、免疫細胞、腫瘍細胞、及び未分化組織などを含むがこれらに限定されない任意のタイプの組織から取得または誘導し得る。
【0070】
本明細書に記載の組成物及び方法と組み合わせて使用することができる別のタイプの細胞は、昆虫細胞である。昆虫細胞発現系の一般的で非限定的な例として、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda) SF9細胞、mimic SF9細胞、SF21細胞、イラクサギンウワバBTI-TN-5B1-4細胞(High Five細胞としても知られる)、及びキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)S2細胞などが挙げられる。昆虫細胞は野生型昆虫細胞であってもよく、組換えタンパク質の発現のために遺伝子工学によって最適化されていてもよい。そのような最適化戦略は、特定の用途に望ましい特性を有する組換えタンパク質を生成するように調整してもよく、昆虫細胞のグリコシル化特性の改変、タンパク質発現レベルの最適化、形質移入及び/または形質導入戦略、投薬、ならびにタンパク質精製及び濃縮などを含み得る。昆虫宿主細胞の最適化戦略は、参照により本明細書に援用されるGowder,S.J.T.(2017,New Insights into Cell Culture Technology,Chapter 2.IntechOpenに詳細に記載されている。本発明のベクターを使用する組換えタンパク質発現はまた、昆虫の幼虫で発現させるために調整してもよい。
【0071】
宿主細胞へのベクター送達の方法
本発明のベクターを宿主細胞に導入するために使用することができる技術は、当技術分野で周知である。例えば、電気穿孔法は、目的の細胞に静電ポテンシャルを印加することにより、標的細胞を透過性にするために使用することができる。このようにして外部電場にさらされた哺乳動物細胞または昆虫細胞などの標的細胞は、その後、外来性核酸を取り込みやすくなる。哺乳動物細胞の電気穿孔法は、例えば、Chu et al.,Nucleic Acids Research 15:1311(1987)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。同様の技術であるNucleofection(商標)は、真核細胞の核への外来性ポリヌクレオチドの取り込みを刺激するために印加する電場を利用する。Nucleofection(商標)及びこの技術を実施するのに有用なプロトコルは、例えば、Distler et al.,Experimental Dermatology 14:315(2005)、及びUS2010/0317114に詳細に記載されており、それぞれの開示は、参照により本明細書に援用される。
【0072】
標的細胞の形質移入に有用なさらなる技術は、スクイーズポレーション法である。この技術は、加えられたストレスに応答して形成される膜状の細孔を介した外来性DNAの取り込みを刺激するために、細胞の急速な機械的変形を誘発する。この技術は、ヒト標的細胞などの細胞への核酸の送達にベクターを必要としないという点で有利である。スクイーズポレーションは、例えば、Sharei et al.,Journal of Visualized Experiments 81:e50980 (2013)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0073】
リポフェクションは、標的細胞の形質移入に有用な別の技術である。この方法は、リポソームへの核酸のローディングを含み、この方法は、多くの場合、第四級アミンまたはプロトン化アミンなどの陽イオン性官能基をリポソームの外部に向かって提示する。これにより、細胞膜の陰イオン性によってリポソームと細胞との間の静電相互作用が促進され、最終的に、例えば、リポソームと細胞膜との直接融合または複合体のエンドサイトーシスによって外来性核酸が取り込まれる。リポフェクションは、例えば、US7,442,386に詳細に記載されており、その開示は、参照により本明細書に援用される。細胞膜とのイオン相互作用を利用して外来性核酸の取り込みを誘発する同様の技術は、細胞を陽イオン性ポリマー-核酸複合体と接触させることである。細胞膜との相互作用に有利な正電荷を与えるようにポリヌクレオチドと会合させる例示的な陽イオン性分子は、活性化デンドリマー(例えば、Dennig,Topics in Current Chemistry 228:227(2003)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される)ポリエチレンイミン、及びジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストランであり、形質移入剤としてのこれらの使用は、例えば、Gulick et al.,Current Protocols in Molecular Biology 40:I:9.2:9.2.1(1997)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。磁気ビーズは、穏やかで効率的な方法で標的細胞を形質移入するために使用することができる別のツールであり、なぜなら、この方法論は、核酸の取り込みを指示するために磁場の印加を利用するためである。この技術は、例えば、US2010/0227406に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0074】
標的細胞による外来性核酸の取り込みを誘発するための別の有用なツールは、レーザーフェクションであり、これは光学形質移入法とも呼ばれ、細胞を穏やかに透過性にし、ポリヌクレオチドが細胞膜に浸透できるようにするために、細胞を特定の波長の電磁放射に曝露することを含む技術である。この技術の生物活性は、電気穿孔法に類似しており、いくつかの場合では電気穿孔法よりも優れていることがわかる。
【0075】
インパレフェクションは、遺伝物質を標的細胞に送達するために使用することができる別の技術である。この技術は、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、及びナノワイヤーなどのナノ材料の使用に依存する。針状のナノ構造を、基板の表面に対して垂直に合成する。細胞内送達を目的とした遺伝子を含むDNAを、ナノ構造の表面に付着させる。次いで、これらの針の配列を備えたチップを細胞または組織に押し付ける。ナノ構造を刺入された細胞は、送達された遺伝子(複数可)を発現することができる。この技術の実施例は、Shalek et al.,PNAS 107:1870(2010)に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0076】
マグネトフェクションを使用して標的細胞に核酸を送達することもできる。マグネトフェクションの原理は、核酸を陽イオン性磁性ナノ粒子と会合させることである。磁性ナノ粒子は、完全に生分解性の酸化鉄でできており、用途に応じて異なる特定の独自の陽イオン性分子でコーティングされている。遺伝子ベクター(DNA、siRNA、ウイルスベクターなど)とのそれらの会合は、塩によって誘発されるコロイド凝集及び静電相互作用によって達成される。次いで、磁石によって生成された外部磁場の影響により、磁性粒子が標的細胞上に濃縮される。この技術は、Scherer et al.,Gene Therapy 9:102(2002)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0077】
標的細胞による外来性核酸の取り込みを誘発するための別の有用なツールは、ソノポレーションであり、これは細胞膜の透過性を改変するために音波(通常は超音波周波数)を使用することを含む技術であり、細胞を透過性にし、ポリヌクレオチドが細胞膜に浸透することを可能にする。この技術は、例えば、Rhodes et al.,Methods in Cell Biology 82:309(2007)に詳細に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。
【0078】
本発明の方法及び組成によれば、培養中の宿主細胞を、本明細書に記載の組換えベクターを保有するウイルスに接触させることによって、組換えウイルス粒子を宿主細胞に直接導入することができる。宿主細胞と接触すると、ウイルスは、ウイルスキャプシドタンパク質と宿主細胞上の細胞表面受容体との間の特定の相互作用によって宿主細胞表面に付着し、ウイルス粒子のエンドサイトーシス及び細胞侵入を生じさせる。細胞質内で、ウイルス粒子はそのキャプシドを脱落させ、ウイルスゲノムを宿主細胞に放出する。ウイルスゲノムが露出されると、その配列はタンパク質発現のためにmRNAに転写され得るか、または宿主細胞がウイルス複製を許容する場合はウイルスゲノムが複製され得る。
【実施例】
【0079】
以下の実施例は、本明細書に記載の組成物及び方法をどのように使用し、製造し、評価し得るかについての説明を当業者に提供するために提示し、純粋に本発明を例示することを意図するものであり、発明者らが自身の発明と見なすものの範囲を限定することを意図しない。
【0080】
実施例1:昆虫細胞及び哺乳動物細胞内でのタンパク質発現のための組換えベクターの構築
昆虫細胞及び哺乳動物細胞内での組換えタンパク質の発現を可能にするために、発現ベクターを構築した。哺乳動物細胞コンピテントプロモーターと昆虫細胞コンピテントプロモーターをユニークな設計に統合することにより、両方の細胞型で導入遺伝子の発現が促進されるベクター設計を選択した。
図1Aに示すように、1つの例示的なベクターは、5’から3’方向に向かって、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー/プロモーター、非コードミニエクソン、5’末端にスプライスドナー配列、3’末端にスプライス分岐点、ポリミリミジントラクト、及び3’スプライスアクセプター配列が隣接するポリヘドリン(PH)プロモーターを含む人工イントロン、続いてKozak配列を含む5’非翻訳領域(5’UTR)、開始コドン(AUG)、導入遺伝子(例えば、エメラルドGFP(emGFP))をコードする配列、終止コドン(例えば、TAA)、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、ならびにウシ成長ホルモン(bGH)及びシミアンウイルス40(SV40)ターミネーター配列を含む3’非翻訳領域(3’UTR)を含んでいた。さらに、ベクターは、アンピシリン(AMP/CARB)及びゲンタマイシン(Gent)抗生物質耐性遺伝子、大腸菌の複製起点(ori)、ならびに2つの転座部位Tn7L及びTn7Rをコードする核酸配列を含んでいた。上記の例示的なベクター内に含まれる核酸配列は、CMVエンハンサー/プロモーター、非コードミニエクソン、PHプロモーターを含む人工イントロン、emGFP導入遺伝子、及びWPRE配列を含み、以下に記載される。
【0081】
昆虫細胞では、導入遺伝子のmRNA(例えば、emGFP)は強力なバキュロウイルスPHプロモーターから転写され、バキュロウイルスRNAポリメラーゼによって達成される。昆虫細胞内ではCMVプロモーターからの転写はなく;すべての転写はPHプロモーターに由来し、PHプロモーターは
図1Bに示すmRNA転写産物を生成する。哺乳動物細胞では、mRNAは哺乳動物RNAポリメラーゼIIによってCMVプロモーターから転写される。相反的に、CMVプロモーターは昆虫細胞では不活性であり、一方、PHプロモーターは哺乳動物細胞では不活性である。したがって、生成される転写産物は、
図1Cに示すエレメントを含む。PHプロモーター及びイントロンは、哺乳動物細胞における連続的なリーディングフレームの翻訳を阻害する1つ以上の開始コドン及び終止コドンを含む。しかしながら、イントロンは、哺乳動物細胞でのmRNA成熟中にスプライシングを受け、PHプロモーターを含むイントロンが、すべての関連するオープンリーディングフレーム及び終止コドンとともに除去される。したがって、CMVプロモーターから転写されたすべてのmRNAの5’UTRは、成熟mRNAのすべての同じエレメントに加えて、タンパク質の翻訳にほとんどまたはまったく影響を与えない短い5’非コードミニエクソンを含む。
【0082】
実施例2:昆虫細胞及び哺乳動物細胞内での組換えタンパク質の発現
昆虫細胞と哺乳動物細胞の両方で導入遺伝子の発現を促進する組換えベクターの有効性を示すために、emGFP遺伝子をコードする組換えベクターを含む様々な用量のウイルス粒子の存在下で、昆虫SF9細胞と哺乳動物HEK293F細胞で別々の細胞培養アッセイを実施した。最初に、実施例1に記載したように、GFP導入遺伝子を有する発現カセットを含むドナープラスミドを調製することによって組換えプラスミドを生成した。続いて、Tn7トランスポザーゼ酵素を産生するヘルパープラスミド、及びβ-ガラクトシダーゼ遺伝子のオープンリーディングフレーム内にミニattTn7部位を有し、バキュロウイルスDNAを含むプラスミド(例えば、バクミド)を含むDH10Bac大腸菌細胞株にドナープラスミドを形質転換した。ドナープラスミドからバクミドへの発現カセットの転位を介した組み込みに続いて、この新しく形成された組換えプラスミドを、その大きな分子サイズ(約130kb)に基づいて、LacZ陰性大腸菌細胞から人工的に選択し、増幅し、精製した。続いて、ウイルスを増幅させるために、単離された組換えプラスミドをSF9細胞培養物に形質移入した。2~3世代のウイルス産生に続いて、培養SF9細胞(
図2A)及びHEK293F細胞(
図2B)を200μLまたは400μLの組換えウイルス粒子に感染させ、16時間インキュベートした。別の対照群には、ウイルス投与を行わなかった。
図2A~2Bに認められるように、強力なGFP発現が昆虫細胞及び哺乳動物細胞の培養の両方で観察された。これらの結果は、本明細書に記載の組換えベクターから産生されたウイルスが、昆虫細胞及び哺乳動物細胞内でのタンパク質発現を駆動することができることを示している。
【0083】
実施例3:哺乳動物細胞内で組換えベクターによってコードされる人工イントロンのスプライシング
哺乳動物細胞内で、PHプロモーターを含む人工イントロンが、スプライシング事象を介してmRNA転写産物から除去されることを確認するために、RT-PCR実験を行った。続いて、実施例2に記載したように、GFP導入遺伝子を含む組換えベクターにHEK293細胞を感染させ、16時間インキュベートした。Qiagen RNeasyキットを使用して、約200万個の細胞から全RNAを抽出した。Superscript IV(Invitrogen)と遺伝子特異的プライマー、またはオリゴdT/ランダムヘキサマーミックスを使用して逆転写を実施し、続いてネステッドプライマーを使用して30サイクルのPCR増幅を実施した。対照として、ベクターのみからのPCR増幅を行った。スプライシング産物の予想される長さは186bpであり、一方、スプライシングされていない前駆体(プラスミド内と同様に)は357bpの長さであった。
図3に示すように、遺伝子特異的(レーン2)及びオリゴdT/N6(レーン3)の両方のRT-PCR反応物がスプライシングされ、それらの長さは、イントロンが除去された場合の予想と同様に、ゲル上で約180~190bpであった。イントロンが存在する場合に予想されるように、プラスミドの増幅により350bpの産物が生成された(レーン4)。PCR産物をサンガーシーケンシング(Genewiz)に供し、スプライシングの正確性を確認した(
図4A~4B)。したがって、これらの発見は、CMVプロモーター及び非コードミニエクソンの下流の人工イントロンにPHプロモーターを組み込むベクター設計戦略により、スプライシング事象を通じて哺乳動物細胞内でPHプロモーターを成功裏に除去することができることを示した。
【0084】
他の実施形態
記載される本開示の様々な改変及び変形が、本開示の範囲及び精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本開示を特定の実施形態に関連して記載したが、請求される本開示は、そのような特定の実施形態に必要以上に限定されるべきではないことを理解すべきである。実際に、当業者には明らかである本開示を実施するために記載する様式の様々な改変は、本開示の範囲内であることが意図される。他の実施形態は、特許請求の範囲に見出される。
【配列表】
【国際調査報告】