(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-01
(54)【発明の名称】マイコトキシン症に対する防御のためのコンジュゲート化デオキシニバレノール
(51)【国際特許分類】
A61K 47/64 20170101AFI20220825BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20220825BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220825BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220825BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220825BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220825BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220825BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20220825BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220825BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
A61K47/64
A61K31/353
A61P13/12
A61P1/16
A61P1/04
A61P1/00
A61K9/107
A61P31/10
A61K39/39
A61K39/00 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576989
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(85)【翻訳文提出日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2020068599
(87)【国際公開番号】W WO2021001462
(87)【国際公開日】2021-01-07
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】クーイマン,シーツカ
(72)【発明者】
【氏名】セヘルス,ルード・フィリップ・アントーン・マリア
(72)【発明者】
【氏名】ウォルザック,マテウス
(72)【発明者】
【氏名】コッホ,グドルン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィトヴリート,マールテン・ヘンドリック
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA99
4C076CC16
4C076CC31
4C076CC41
4C076EE59
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4C085FF30
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4C086MA22
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZA68
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZB35
4C086ZC61
(57)【要約】
本発明は、デオキシニバレノール(DON)により誘発されるマイコトキシン症に対して動物を防御するための方法における、特に、DONの摂取の結果としての平均1日体重増加の減少、肝臓損傷、胃潰瘍および/または腎臓損傷に対して防御するための方法におけるコンジュゲート化デオキシニバレノールの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシニバレノール(DON)により誘発されるマイコトキシン症に対して動物を防御するための方法における使用のためのコンジュゲート化デオキシニバレノール(DON)。
【請求項2】
前記方法において、コンジュゲート化DONを動物に全身投与する、請求項1記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項3】
前記方法において、コンジュゲート化DONを筋肉内、経口的および/または皮内に投与する、請求項2記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項4】
前記方法において、コンジュゲート化DONを6週齢以下の動物に投与する、請求項1~3のいずれか1項記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項5】
前記方法において、コンジュゲート化DONを4週齢以下の動物に投与する、請求項4記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項6】
前記方法において、コンジュゲート化DONを1~3週齢の動物に投与する、請求項5記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項7】
前記方法において、コンジュゲート化DONを動物に少なくとも2回投与する、前記請求項のいずれか1項記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項8】
前記方法において、コンジュゲート化DONに加えてアジュバントを含む組成物においてコンジュゲート化DONを使用する、前記請求項のいずれか1項記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項9】
前記方法において、アジュバントが水と油とのエマルジョンである、請求項8記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項10】
前記方法において、アジュバントが油中水型エマルジョンまたは水中油型エマルジョンである、請求項9記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項11】
前記方法において、コンジュゲート化DONが、10.000Daを超える分子量を有するタンパク質にコンジュゲート化されたDONを含む、前記請求項のいずれか1項記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項12】
前記方法において、コンジュゲート化DONが、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)またはオボアルブミン(OVA)にコンジュゲート化されたDONを含む、請求項11記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項13】
前記方法において、平均1日体重増加の減少、肝臓損傷、胃潰瘍および/または腎臓損傷に対して動物を防御する、前記請求項のいずれか1項記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【請求項14】
動物がブタまたはニワトリである、前記請求項のいずれか1項記載の方法における使用のためのコンジュゲート化DON。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ボミトキシンとしても公知のマイコトキシンであるデオキシニバレノール(DON)によって誘発されるマイコトキシン症に対する防御に関する。DONはB型トリコテセンであり、主にコムギ、オオムギ、オートムギ、ライムギおよびトウモロコシのような穀物に存在するが、イネ、ソルガムおよびライコムギにも存在する。デオキシニバレノールの存在は主にフザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)(赤かび病(Gibberella zeae))およびフザリウム・クルモラム(Fusarium culmorum)に関連しており、それらは共に、コムギにおける赤かび病およびトウモロコシにおける赤かび病を引き起こす重要な植物病原体である。赤かび病の発生とデオキシニバレノールによるコムギの汚染との間には直接的な関連性が確認されている。赤かび病の発生は開花時の湿気に強く関連しており、降雨の量ではなく降雨の時機が最も重要な要因である。更に、DONの含有量はフザリウム属種(Fusarium species)に対する栽培品種の感受性、以前の作物、耕作慣行および抗真菌剤の使用によって著しい影響を受ける。フザリウム・グラミネアラムは25℃の温度で最適に成長し、一方、フザリウム・クルモラムは21℃で最適に成長する。したがって、フザリウム・グラミネアラムは、温暖な気候で見出される、より一般的な種である。
【0002】
DONはヒトおよび家畜の両方におけるマイコトキシン症の発生に関連づけられている。そのトキシン(毒素)は、タンパク質合成の強力なインヒビターであるトリコテセンのクラスに属する。DONに対する曝露は脳へのアミノ酸トリプトファンの取り込みを減少させ、そしてこれはセロトニンの脳内合成を減少させる。セロトニンのレベルの低下はDONの食欲不振作用の原因であると考えられている。消化管の刺激も飼料摂取の減少において何らかの役割を果たしている可能性があり、飼料拒食中の雌ブタで見られる傍食道胃潰瘍の高い発生率の部分的な原因でもありうる。
【0003】
現在のところ、DON誘発性マイコトキシン症の予防的処置は、作物におけるマイコトキシン産生を低減するための適正農業規範、ならびにマイコトキシンレベルが一定限度未満に維持されること保証するための食品および飼料商品の管理プログラムに限られている。
【背景技術】
【0004】
真菌は、器官および組織の寄生ならびにアレルゲン症状を含む、動物における広範な疾患を引き起こす。しかし、真菌は、非食用キノコの摂取による中毒以外に、マイコトキシン、およびマイコトキシン症と称される種々の毒性作用をもたらす有機化学物質を産生しうる。この疾患は、食品または動物飼料を汚染する糸状菌により産生される薬理学的に活性な化合物であるマイコトキシンへの曝露により引き起こされる。マイコトキシンは、真菌の生理機能に重要ではない二次代謝産物であり、これは、摂取、吸入または皮膚接触の際に、最小濃度で脊椎動物に対して極めて毒性である。現在、約400個のマイコトキシンが認識されており、類似した生物学的および構造的特性を有する化学的に関連する分子のファミリーに細分されている。これらのうち、約12個のグループが動物の健康への脅威としてたびたび注目されている。最も大きな一般的関心が持たれており農業経済的に最も重要なマイコトキシンの例には、アフラトキシン(AF)、オクラトキシン(OT)、トリコテセン(T;DONを含む)、ゼアラレノン(ZEN)、フモニシン(F)、発振戦性毒素および麦角アルカロイドが含まれる。マイコトキシンは急性疾患および慢性疾患に関連づけられており、その生物学的作用は主にその化学構造の多様性に応じて変動するが、生物学的、栄養的および環境的要因によっても変動する。マイコトキシン症の病態生理学はマイコトキシンと動物細胞における機能性分子および細胞小器官との相互作用の結果であり、発がん性、遺伝毒性、タンパク質合成の阻害、免疫抑制、皮膚刺激および他の代謝障害を引き起こしうる。感受性動物種において、マイコトキシンは、複雑で重複する毒性作用を誘発しうる。マイコトキシン症は伝染性ではなく、免疫系の有意な刺激もない。薬物または抗生物質での治療は疾患の経過にほとんどまたは全く効果を示さない。現在のところ、マイコトキシン症に対処するために利用可能なヒト用または動物用ワクチンは存在しない。
【0005】
したがって、特定の真菌疾患の予防において、トキシンではなく真菌症、すなわち真菌感染自体に対処する強力な手段として、広範な真菌クラスに対する有効性を有するワクチンおよび/または免疫療法の開発に、益々多くの研究が注力している。真菌症とは対照的に、マイコトキシン症はトキシン産生真菌の関与を必要とせず、生物が原因ではあるものの非生物的なハザードであるとみなされている。この意味で、マイコトキシン症は天然要因による中毒の例とみなされており、防御戦略は本質的には曝露予防に焦点が合わされている。ヒトおよび動物の曝露は主に植物性食品中のマイコトキシンの摂取から生じる。摂取されたマイコトキシンの代謝は種々の器官または組織における蓄積をもたらしうる。したがって、マイコトキシンは動物の肉、乳または卵を介してフードチェーンに侵入しうる(持ち越し汚染)。トキシン産生真菌は幾つかの種類のヒトおよび動物消費用作物を汚染するため、マイコトキシンはあらゆる種類の農業原料、商品および飲料に存在しうる。国連食糧農業機構(FAO)は、世界の食糧作物の25%がマイコトキシンで著しく汚染されていると推定した。現時点で、マイコトキシン症の予防のための最善の戦略には、作物におけるマイコトキシン産生を低減するための適正農業規範、ならびにマイコトキシンレベルが所定閾値限度未満に維持されること保証するための食品および飼料商品の管理プログラムが含まれる。これらの戦略はマイコトキシンの幾つかのグループによる商品の汚染の問題を軽減しうるが、それは高いコストを要し、有効性は様々である。AFに曝露された個体においては、クロロフィリン、緑茶ポリフェノールおよびジチオールチオン(オルチプラズ)のような防御物質による幾つかの有望な結果が得られているが、マイコトキシン曝露に対する治療法は支持療法(例えば、ダイエット、水分補給)以外にはほとんど存在せず、マイコトキシンに対する抗体は一般に利用可能でない。
【0006】
マイコトキシンの初期吸収または生体内活性化、畜産物(例えば、乳)におけるその毒性および/または分泌を免疫遮断によって特異的に遮断しうる抗体の産生に基づく戦略を用いて、家畜におけるマイコトキシン症および重要な動物由来食品におけるマイコトキシン汚染を防ぐために、特定のマイコトキシンに対するワクチン接種が提示されている。
【0007】
しかし、マイコトキシン症に対する防御のためのワクチンの製造は非常に困難である。これは、主として、マイコトキシンに関連した構造体、化学的特性および毒性が広範であることに関連している。マイコトキシンは低分子量の、通常は非タンパク質性の分子であり、これらは、通常、免疫原性(ハプテン)ではないが、タンパク質のような大きな担体分子に結合した場合には潜在的に免疫応答を誘導しうる。動物およびヒトの消費用の製品におけるマイコトキシンをスクリーニングするためのイムノアッセイにおいて使用される種々の特異性を有するモノクローナルまたはポリクローナル抗体を製造する目的で、タンパク質またはポリペプチド担体へのマイコトキシンのコンジュゲート化(結合)および動物の免疫化のための条件の最適化のための方法が広範に研究されている。これらの研究において使用される共役タンパク質には、とりわけ、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、サイログロブリン(TG)およびポリリジンが含まれていた。過去数十年間に、天然トキシンを産生抗体が認識するように元の構造を十分に維持している一方でタンパク質に結合されうるマイコトキシン誘導体を開発するために、多大な努力がなされてきた。これらの方法により、多数のマイコトキシンに対する抗体が利用可能となっており、このことは、タンパク質へのコンジュゲート化が免疫化のための有効な手段でありうることを実証している。ヒトおよび動物のワクチン接種のためにこの戦略を適用して、被接種者の安全性を確保しつつ防御を達成することは、インビボで遊離されうる分子の毒性ゆえに、現在のところ成功していない。例えば、タンパク質担体へのT-2のようなトキシンのコンジュゲート化は、その活性形態の遊離トキシンの潜在的放出を伴う不安定な複合体を生成することが示されている(Chanhら,Monoclonal anti-idiotype induces protection against the cytotoxicity of the trichothecene mycotoxin T-2,in J Immunol.1990,144:4721-4728)。細菌トキシンの病的作用に対する防御状態をもたらしうるトキソイドワクチンから類推して、マイコトキシンに対するワクチンの開発への合理的なアプローチは、抗原性を維持しているが毒性を欠くマイコトキシンの修飾形態と定義されるコンジュゲート化「マイコトキソイド(mycotoxoid)」に基づくものでありうる(Giovati Lら,Anaflatoxin B1 as the paradigm of a new class of vaccines based on “Mycotoxoids”,in Ann Vaccines Immunization 2(1):1010,2015)。マイコトキシンの非タンパク性の性質を考慮すると、マイコトキソイドへの変換のためのアプローチは化学的誘導体化に基づくべきである。関連する親マイコトキシンの戦略的位置における特定の基の導入は、異なる物理化学的特性を有する分子の形成をもたらしうるが、天然トキシンと十分に交差反応する抗体を尚も誘導しうる。したがって、マイコトキシンワクチン接種の一般的な理論的根拠は、細胞標的と比較して天然マイコトキシンへの結合能が増強したマイコトキソイドに対する抗体の生成、トキシンの中和、および曝露の際の疾患発生の予防に基づくであろう。この戦略の可能な適用は、AFグループに属するマイコトキシンの場合には実証されているが(Giovatiら,2015)、その他のマイコトキシンのいずれに関しても実証されていない。更に、乳またはそれから製造された製品を消費する人々をマイコトキシン症から防御するための、乳牛における乳への持ち越し汚染のみに対するもの以外には、ワクチン接種された動物自体のマイコトキシン症に対する防御効果は実証されていない。
【発明の概要】
【0008】
発明の目的
動物飼料において最も広範に拡散しているマイコトキシンの1つであるデオキシニバレノールにより誘発されるマイコトキシン症に対して動物を防御するための方法を提供することが本発明の目的である。
【0009】
発明の概要
本発明の目的の達成において、コンジュゲート化デオキシニバレノール(DON)が、DON誘発性マイコトキシン症に対して動物を防御するための方法における使用に適していることが判明した。DONをトキソイドに変換する必要はなく、コンジュゲート化トキシンは、処置された宿主動物に対して安全であるらしいことが判明した。また、誘導された免疫応答が、処置後のDON摂取後にマイコトキシン症に対して動物自体を防御するのに十分な程度に強力であることを見出したことは驚くべきことであった。マイコトキシン自体に対する免疫応答を誘導することによるそのような実際の防御はいずれのマイコトキシンに関しても当技術分野で示されておらず、ましてや、非常に豊富な高毒性化合物であるデオキシニバレノールに関して当技術分野で示されていないのは言うまでもない。
【0010】
定義
マイコトキシン症は、マイコトキシンへの曝露から生じる疾患である。臨床徴候、標的器官および転帰は、マイコトキシンの固有の毒性特性、曝露の量および長さ、ならびに曝露動物の健康状態に左右される。
【0011】
マイコトキシンに対して防御する、は、動物におけるマイコトキシンの負の生理学的作用(例えば、平均1日体重増加の減少)の1以上を予防または低減することを意味する。
【0012】
デオキシニバレノール(ボミトキシンまたはVOMとしても公知である)は、真菌フザリウム・グラミネアラムにより産生されるマイコトキシンであり、これは小穀物の赤かび病(FHB)または痂皮を引き起こす。DONは飼料拒食および嘔吐を引き起こしうる。基本化合物の分子式はC15H20O6である。
【0013】
コンジュゲート化分子は、免疫原性化合物が共有結合により結合している分子である。典型的には、免疫原性化合物は、KLH、BSAまたはOVAのような大きなタンパク質である。
【0014】
アジュバントは非特異的免疫刺激物質である。原則として、免疫学的事象のカスケードにおける特定のプロセスを支持または増幅して、最終的に、より良好な免疫応答(すなわち、抗原に対する統合された身体的応答、特に、リンパ球により媒介され、典型的には特定の抗体または前感作リンパ球による抗原の認識を含むもの)を招きうる各物質がアジュバントとして定義されうる。アジュバントは、一般に、前記の特定のプロセスが生じるのに必要ではなく、前記プロセスを支持または増幅するに過ぎない。
【0015】
発明の更に詳細な実施形態
本発明のもう1つの実施形態においては、コンジュゲート化DONを動物に全身投与する。例えば胃腸管(口腔または肛門腔)または眼(例えば、ニワトリに免疫化する場合)における粘膜組織を介した局所投与は、種々の動物において免疫応答を誘導するための有効な経路であることが公知であるが、全身投与は、DON誘発性マイコトキシン症に対して動物を防御するための適切な免疫応答をもたらすことが判明した。特に、筋肉内、経口および/または皮内投与に際して有効な免疫化が得られうることが判明した。
【0016】
相当な量のDONで汚染された飼料を動物が摂取しうる前に投与を行うことが好ましいが、投与の齢は重要ではない。したがって、投与時の好ましい年齢は6週齢以下である。更に好ましいのは4週齢以下、例えば1~3週齢である。
【0017】
本発明の更にもう1つの実施形態においては、コンジュゲート化DONを動物に少なくとも2回投与する。多数の動物(特にブタ、ニワトリ、反芻動物)は、一般に、免疫原性組成物の1回の注射のみによる免疫化に感受性であるが、DONに対する経済的な実施可能な防御のためには2回の注射が好ましいと考えられる。これは、実際には、動物の免疫系が、DONに対する自然曝露により抗DON抗体を産生するように起動されないからである。これは単に、天然に存在するDONが免疫原性でないからである。したがって、動物の免疫系はコンジュゲート化DONの投与に完全に依存している。コンジュゲート化DONの2回の注射の間の時間は1週間から1~2年の間である。若い動物の場合には、例えば1~3週齢での初回免疫化、およびそれに続く、1~4週間後、典型的には1~3週間後、例えば2週間後のブースター投与(追加免疫化)のレジメンで十分であると考えられる。より高齢の動物は、他の商業的に適用される動物用免疫化レジメンで公知のとおり、数ヶ月ごと(例えば、最後の投与の4、5、6ヶ月後)または毎年もしくは半年ごとにブースター投与を要しうる。
【0018】
更にもう1つの実施形態においては、コンジュゲート化DONに加えてアジュバントを含む組成物においてコンジュゲート化DONを使用する。コンジュゲートが単独では、所定レベルの防御を得るための免疫応答を誘導できない場合には、アジュバントが使用されうる。追加的なアジュバントを使用することなく免疫系を十分に刺激しうるコンジュゲート分子、例えばKLHまたはBSAが公知であるが、追加的なアジュバントを使用することが有利でありうる。これはブースター投与の必要性をなくし、またはその投与のための間隔を延長させることが可能である。全ては、特定の状況において必要な防御レベルに左右される。免疫原としてコンジュゲート化DONを使用した場合にDONに対する良好な免疫応答を誘導しうることが示されたアジュバントのタイプとしては、水と油とのエマルジョン、例えば油中水型エマルジョンまたは水中油型エマルジョンが挙げられる。前者は典型的には家禽において使用され、後者は、典型的には、ブタおよび反芻動物のようなアジュバント誘発性部位反応をより受けやすい動物において使用される。
【0019】
更にもう1つの実施形態においては、コンジュゲート化DONは、10.000Daを超える分子量を有するタンパク質にコンジュゲート化されたDONを含む。そのようなタンパク質、特にキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびオボアルブミン(OVA)は、動物、特にブタおよびニワトリにおいて適切な免疫応答を誘導しうることが判明している。該タンパク質に関する実用的な上限は100MDaでありうる。
【0020】
マイコトキシン症に対する防御に関しては、本発明を使用して、平均1日体重増加の減少、肝臓損傷、胃潰瘍および/または腎臓損傷に対して、したがって、マイコトキシン症のこれらの徴候の1以上に対して動物が防御されることが特に見出された。
【0021】
次に、以下の実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明することとする。
【0022】
本発明の実施例
実施例1:コンジュゲート化DONを使用した免疫チャレンジ実験
目的
本研究の目的は、DON摂取によるマイコトキシン症に対して動物を防御するコンジュゲート化デオキシニバレノールの有効性を評価することであった。これを調べるために、ブタをDON-KLHで2回免疫化した後、毒性DONでチャレンジした。免疫化の種々の経路を用いて、投与経路の影響を試験した。
【0023】
研究設計
研究において、8頭の雌ブタに由来する40頭の1週齢のブタを、5つの群に分けて使用した。群1~3の24頭の子ブタを1週齢および3週齢で2回免疫化した。群1は、両方の齢で筋肉内(IM)に免疫化した。群2は1週齢で筋肉内注射を受け、3週齢で経口ブースター投与を受けた。群3は、皮内(ID)に2回免疫化した。5.5週齢から、群1~3を液体中の経口投与用DONで4週間チャレンジした。群4は免疫化しなかったが、群1~3に関して記載されているとおりにDONでのチャレンジのみを行った。群5は対照として用い、5.5週齢から4週間にわたって対照流体のみの投与を受けた。
【0024】
液体製剤中のDON濃度は5.4mg/kg飼料の量に相当した。これは1日当たり平均2.5mgのDONの量に相当する。4週間のチャレンジの後、肝臓、腎臓および胃に特別な注意を払いながら、全ての動物を死後調査した。また、群5を除き、研究の第0日、第34日、第41日、第49日、第55日、第64日(安楽死後)に採血を行った。群5の血液サンプルは第0日、第34日、第49日および安楽死の直後に採取した。
【0025】
試験物品
以下の3つの異なる免疫原性組成物を製剤化した:IM免疫化に使用した注射用水中油型エマルジョン中の50μg/mlのDON-KLH(X-solve 50,MSD AH,Boxmeer)を含む試験物品1;経口免疫化に使用した油中水型エマルジョン中の50μg/mlのDON-KLH(GNE,MSD AH,Boxmeer)を含む試験物品2;およびID免疫化用の注射用の水中油型エマルジョン中の500μg/mlのDON-KLH(X-solve 50)を含む試験物品3。
【0026】
チャレンジ用のデオキシニバレノール(Fermentek,Israelから入手)を、100mg/mlの最終濃度となるように100% メタノール中で希釈し、-15℃未満で保存した。使用前に、DONを更に希釈し、投与用の飼料中に供給した。
【0027】
包含基準
健康な動物のみを使用した。不健康な動物を除外するために、研究開始前に、全身の身体的外観および臨床的な異常または疾患の非存在に関して、全ての動物を検査した。群ごとに、異なる雌ブタからの子ブタを使用した。日常的な実施において、DON汚染飼料の摂取によりDONに予め曝露された場合であっても、全ての動物を免疫化する。DON自体は免疫応答を引き起こさないため、DONに予め曝露された動物とDONに関してナイーブな動物との間に原理的差異はないと考えられる。
【0028】
結果
いずれの動物も、DON-KLHによる免疫化に関連した悪影響を示さなかった。したがって、該組成物は安全であるようであった。
【0029】
実験開始時、全てのブタはDONに対する力価に関して血清学的に陰性であった。チャレンジ中に、筋肉内免疫化群(群1)および皮内免疫化群(群3)は、コーティング抗原として天然DON-BSAを使用したELISAによる測定で、DONに対する抗体応答を示した。表1は研究中の4つの時点における平均IgG値およびそれらのSD値を示す。筋肉内免疫化と皮内免疫化との両方がDONに対して有意な力価を誘導した。
【表1】
【0030】
表2に示されているとおり、有意な抗DON IgG力価の増加を示さなかった群2の動物を含む全ての免疫化動物が、チャレンジ動物と比較して最初の15日間で有意に高い体重増加を示した。チャレンジされた動物に関しては、全ての動物が、研究の経過の全体にわたって、より多くの体重増加を示した。
【表2】
【0031】
小腸の状態(空腸における絨毛/陰窩比により判定されたもの)もモニターした。表3に絨毛/陰窩比を示す。認められうるとおり、群3の動物は、健康な対照(群5)に匹敵する平均絨毛陰窩/陰窩比を有していたが、免疫化されていないチャレンジされた群(群4)は遥かに低い(統計的に有意)絨毛陰窩比を有していた。また、群1および群2は、免疫化されていないチャレンジ対照群と比較して有意に良好な(すなわち、高い)絨毛/陰窩比を有していた。これは、免疫化が、DONにより開始される腸の損傷に対して防御することを示している。
【表3】
【0032】
他の器官、より詳細には肝臓、腎臓および胃の一般的な状態もモニターした。3つの試験群(群1~3)の全ては、免疫化されていないチャレンジ対照群(群4)より良好な健康状態であることが観察された。表4に一般的な健康データの要約を示す。胃潰瘍の程度は-(潰瘍形成の証拠無し)から++(複数の潰瘍)までとして示されている。胃炎の程度は-(炎症の証拠無し)から++/-(胃炎の開始)までとして示されている。
【表4】
【0033】
実施例2:DONレベルに対する免疫化の効果
目的
本研究の目的は、DON摂取の毒物動態学に対するDONコンジュゲートでの免疫化の効果を評価することであった。これを調べるために、ブタをDON-KLHで2回免疫化した後、ブタに毒性DONを与えた。
【0034】
研究設計
研究において10頭の3週齢のブタを使用し、各群5頭のブタの2つの群に分けた。群1のブタをDON-KLH(試験物品1;実施例1)で3週齢および6週齢で2回、IM免疫化した。群2は対照として用い、対照流体のみの投与を受けた。11週齢で、動物のそれぞれに0.05mg/kgの用量のボーラスによりDON(Fermentek,Israel)を投与した。該用量は(1日飼料摂取量に基づけば)1mg/kg飼料の汚染レベルに類似していた。ブタの血液サンプルを、DONの投与前、ならびにDONの投与の0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、3、4、6、8および12時間後に採取した。
【0035】
包含基準
健康な動物のみを使用した。
【0036】
血漿中のDONの分析
Xevo(登録商標)TQ-SMS装置(Waters,Zellik,Belgium)に接続されたAcquity(登録商標)UPLCシステムを使用する検証済みのLC-MS/MS法を用いて、非結合DONの血漿分析を行った。この方法を用いた場合のブタ血漿中のDONの定量下限は0.1ng/mlである。
【0037】
毒物動態学的分析
DONの血漿中濃度-時間プロファイルの毒物動態モデリングを非コンパートメント分析(Phoenix,Pharsight Corporation,USA)により行った。以下のパラメータを計算した:時間ゼロから無限大までの曲線下面積(AUC0→∞)、最大血漿濃度(Cmax)および最大血漿濃度における時間(tmax)。
【0038】
結果
毒物動態学的結果を以下の表5に示す。認められうるとおり、DON-KLHでの免疫化は全ての毒物動態学的パラメーターを減少させる。毒性作用の発現をもたらすのは非結合DONであるため、DON-KLHでの免疫化は、動物の血液中の非結合DONの量を減少させることにより、DONにより引き起こされる毒性作用を低減すると結論付けられうる。
【表5】
【0039】
実施例3:種々のDONコンジュゲートに対する血清学的応答
目的
本研究の目的は、種々のコンジュゲート化デオキシニバレノール産物の有効性を評価することであった。
【0040】
研究設計
研究において18頭の3週齢のブタを使用し、各群6頭のブタの3つの群に分けた。群1のブタをDON-KLH(実施例1の試験物品1を使用)で3週齢および5週齢で2回、筋肉内免疫化した。群2を、相応して、DON-OVAで免疫化した。群3は陰性対照として用いた。全ての動物を、3週齢、5週齢および8週齢で、抗DON IgG応答に関して検査した。
【0041】
結果
血清学的結果をlog2抗体価として以下の表に示す。
【表6】
【0042】
どちらのコンジュゲートも、抗DON IgG応答を惹起するのに適しているようである。また、応答は1回のみの注射によって誘導されるようである。
【0043】
実施例4:ニワトリにおける血清学的応答
目的
本研究の目的は、ニワトリにおけるDON-KLHの血清学的応答を評価することであった。
【0044】
研究設計
この研究には、30羽の4週齢のニワトリを使用し、各群10羽のニワトリの3つの群に分けた。ニワトリをDON-KLHで筋肉内免疫化した。群1は対照として使用し、PBSのみの投与を受けた。群2は、アジュバントを伴わないDON-KLHの投与を受け、群3は、GNEアジュバント(MSD Animal Health,Boxmeerから入手可能)中で製剤化されたDON-KLHの投与を受けた。0.5mlのワクチンを使用して、第0日に右脚に初回免疫化を行った。第14日に、ニワトリは同等のブースター免疫化を左脚に受けた。
【0045】
第0日および第14日ならびに第35日、第56日、第70日および第84日に採血を行った。DONに対するIgYの測定のために血清を単離した。第0日および第14日には、免疫化の直前に血液サンプルを単離した。
【0046】
結果
血清学的結果をlog2抗体価として表7に示す。PBSバックグラウンドはデータから差し引かれている。
【表7】
【0047】
認められうるとおり、コンジュゲート化DONはニワトリにおいても抗DON力価を誘導する。GNEアジュバントは応答を大幅に増強するが、正味の応答自体を得るには必須でないようである。
【国際調査報告】