(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-01
(54)【発明の名称】低コスト粘性抗力低減クラッド
(51)【国際特許分類】
B63B 1/38 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
B63B1/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577337
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(85)【翻訳文提出日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2020068282
(87)【国際公開番号】W WO2020260705
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521564869
【氏名又は名称】マイケル オーケリー
【氏名又は名称原語表記】O’CEALLAIGH, Micheal
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】マイケル オーケリー
(57)【要約】
【課題】外面が撥水性を有するように適合されたエアバッグを備える船舶の船体用の低コスト粘性抗力低減クラッド。
【解決手段】各エアバッグは、実質的に開放された空間を含むプレナムを備え、これはプレナムを通過する空気流を妨げない。エアバッグを、隣接する静水圧よりも高い圧力まで圧縮空気で膨張させる。エアバッグ材料は、動作中に作用する力に耐えるように適合され、空気に対して実質的に不透過性となるようにシーラントでシールされた補強布を含む。各エアバッグの外側撥水面は、絞り孔によってプレナムに接続されている。空気がプレナムから絞り孔を通って撥水層に流入する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体用クラッドであって、
使用時に空気で加圧される実質的に開放された空間を含むプレナムを備える少なくとも1つのエアバッグを含み、
前記エアバッグは、シーラントで実質的にシールされた補強布を含む材料から形成され、
前記エアバッグが、更に、排水性を有するように適合された外面層を備え、前記外面層は、前記プレナムからの空気が通過し得る前記エアバッグ内の少なくとも1つの絞り孔を介して前記プレナムに接続されることで、隣接する静水圧と実質的に等しいか、またはそれより大きい圧力レベルを有する排水層に加圧空気を供給する、クラッド。
【請求項2】
前記エアバッグは、加硫ゴムでシールされている、請求項1に記載のクラッド。
【請求項3】
前記加硫ゴムが、CSM、CR、EPDM、ポリウレタンまたはシリコーンのうちの少なくとも1つから選択される、請求項2に記載のクラッド。
【請求項4】
前記エアバッグは、熱可塑性ポリマーでシールされている、請求項1に記載のクラッド。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリマーが、熱可塑性CSMまたは熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも一方から選択される、請求項4に記載のクラッド。
【請求項6】
前記補強布に織布を含む、請求項1に記載のクラッド。
【請求項7】
前記エアバッグは、少なくとも2つの層の補強布を含み、かつ前記補強布の前記少なくとも2つの層の間にドロップステッチを含む、請求項6に記載のクラッド。
【請求項8】
前記補強布が、ポリエステル、パラ-アラミド、メタ-アラミド、ガラス繊維、ポリアミド、ポリプロピレン、PEEK、UHMPE、鋼、または炭素繊維のうちの少なくとも1つから選択される繊維を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項9】
前記材料が、少なくとも1つの織物補強層を含む積層体を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項10】
前記少なくとも1つの絞り孔が機械的穿孔によって形成される、請求項1~9のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項11】
前記少なくとも1つの絞り孔がレーザ穴あけ加工によって形成される、請求項1~9のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項12】
前記少なくとも1つの絞り孔は、各中空繊維の一端が前記プレナム内で終端し、各中空繊維の他端が前記排水性外面層内で終端するように、少なくとも1つの中空繊維を、前記エアバッグ材料を介して供給することによって形成される、請求項1~9のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項13】
前記外面層は、前記外面層上に密に充填された空気ポケットを形成するための手段を含み、前記各空気ポケットの半径は、水の毛管長の2倍未満であり、各空気ポケットが、少なくとも1つの絞り孔によって前記プレナムに接続されている、請求項1~12のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項14】
前記外面層は、前記エアバッグ材料の補強布に織り込まれた疎水性繊維のループを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項15】
前記外面層が、接着接合により前記補強布の外側に取り付けられた疎水性ループの層を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項16】
前記繊維の疎水性ループの層が、製織、編成または電界紡糸のうちの1つによって形成される、請求項15に記載のクラッド。
【請求項17】
前記外面層が前記上面層にフックを形成し、製織または編成または電界紡糸によって繊維の疎水性ループの層を別々に形成し、それらが連動して互いに機械的結合を形成するようにそれらを共に押し付けることによって、前記疎水性ループを前記フックに取り付けることにより排水性を有するように適合された、請求項1~12のいずれか一項に記載のクラッド。
【請求項18】
前記疎水性ループが、ePTFE、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンまたは他の疎水性ポリマーのうちの1つから選択される材料で製造されている、請求項14、15、16または17に記載のクラッド。
【請求項19】
前記疎水性ループが、その疎水性を高めるようにコーティング処理された親水性または弱疎水性繊維を含む、請求項14、15、16または17に記載のクラッド。
【請求項20】
前記繊維が、ポリエステル、パラ-アラミド、メタ-アラミド、ガラス繊維、ポリアミド、ポリプロピレン、PEEK、UHMPE、鋼、または炭素繊維のうちの少なくとも1つから選択される、請求項19に記載のクラッド。
【請求項21】
前記コーティングが、PTFE、PFA、またはワックスのうちの1つから選択される、請求項19に記載のクラッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性抗力の低減に関し、より詳細には、船舶の船体および他の液体接触面における粘性抗力の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
粘性抗力は、流体力学において、固体/液体の界面での「滑りなし」境界条件として既知の現象に起因する。固体に接している液体分子層は、固体に対して移動しない。その液体分子層と隣接液体層との間には、せん断力が発生する。この条件は、海洋運航型船舶の場合と同様、液体を移動する船舶にも適用されることが既知である。更に、この条件は、パイプを流れる液体、例えばパイプラインを圧送されるオイルや熱交換器を通過する液体等の場合にも適用される。空気の粘度は、水の粘度の約1000分の1である。液体を固体から完全に分離させるために液体と固体との間に空気を介在させれば、液体中の粘性抗力が効果的に排除されることは長年知られている。
【0003】
粘性抗力は、大型船舶の推進に必要な燃料の大部分を消費する。海運業界は温室効果ガスの大規模な世界的生産者であるため、粘性抗力による燃料消費の削減は、環境被害の大幅な低減および大幅な経済的節約に繋がる。
【0004】
ハスの葉等の植物や特定の昆虫は、その表面に空気を閉じ込める特性を示す。この効果は、典型的には、多くの場合、階層構造をなす複雑な表面形状と相まって、疎水性表面により生成される。この特性により、ウェット面積が大幅に減少する。この非ウェット性は、一般に、「ハス効果」として知られている。自然界で見られるこの効果を再現するため、多くの実験材料について試験が行われている。この効果を模倣すべく設計された材料は、水面直下で試験した際には短期的に機能し得るが、現代の船舶の船体に作用する静水圧下において、長期にわたって機能することは示されていない。今日のオイルタンカーは、深さ20mの船体が一般的である。この深さにおいて、船体には、0.2N/mm2に相当する2バールの静水圧が作用する。更に、高さ5mの波浪は一般的であり、10mの波も珍しくない。比較して表面張力は非常に小さい。水は72mN/mの表面張力を有する。深さ20mにおける静浮力は、ほぼ3メートルの長さの、各平方ミリメートルにおいて完全に疎水性の材料の表面張力に相当する。従って、静浮力は、非ウェット性材料の依存する表面張力よりもはるかに大きくなる。それ自体では、この非ウェット挙動は、水面に近い場合にのみ制限される。「ハス効果」の更なる制限は、閉じ込められた空気が時間の経過とともに水中に拡散し、表面が水で飽和した状態となることである。この原理を再現する材料は、航海とドライドックとの間隔が1年以上の船舶に対しては有益ではない。このような材料が船舶の船体の粘性抗力に係る問題点を解決し得るものでないことは明らかである。
【0005】
特許文献1は、船体を通して気泡を吹き込む方法を開示している。しかしながら、孔自体が大きいため、吹き込まれる空気は大きな気泡を形成する。従って、船体表面はウェット状態に維持される。その結果、「気泡流」として既知の物理的現象が発生する。これにより、水の粘性が低下し、粘性抗力が低下する。しかしながら、気泡流は、水の密度低下および浮力の低下も生じさせる。大量の気泡流を生成するために必要となる大きな動力要件は、船体の粘性抗力の低下による動力減少を相殺する傾向がある。それ故、このシステムは工業的に支持されるものではない。
【0006】
特許文献2は、多孔質媒体からなる補充可能なリザーバに、ガス透過性プライによって接続された船体表面上の空気を閉じ込める疎水性層を開示している。ガス透過性プライは、厚さが0.5ミクロン~5ミクロンであり、海洋環境で生き残るのに必要な頑健性を欠いている。補充可能なリザーバの多孔質媒体は、空気流に対して重大な障壁を呈し、空気がそこを通過するときに大きな空気圧勾配が生じる。本発明の目的は、波からの増大された静水圧に曝されたときに、空気保持層内の空気が海に放出されて失われず、その代わりに空気保持層からリザーバ内に送られることである。しかしながら、空気層の崩壊が生じる。空気層を再建するのに十分な復元力を提供する機構はなく、結果的に、空気層が恒久的に失われる。続いて、その後すぐに空気リザーバの冠水が発生する可能性がある。これにより、粘性抗力が増大する結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5456201号明細書
【特許文献2】米国特許第9630373号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
世界的に、世界全体の二酸化炭素排出量の最大3%を生成し、世界全体の原油生産の約7%を消費する、約100,000の外航船が存在する。推定400,000人の人が天寿を全うせずして死亡し、海運業に関連する汚染から、毎年、更に14,000,000人の小児喘息の新たなケースが発生している。従って、船や他の船舶の粘性抗力の問題に対する解決策の緊急のニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、使用時に空気で加圧される実質的に開放された空間を含むプレナムを含む、少なくとも1つのエアバッグを備える船体用クラッドが提供され、前記エアバッグは、シーラントで実質的にシールされた補強布を含む材料から形成され、前記エアバッグは、更に、排水性を有するように適合された外面層を備え、隣接する静水圧と実質的に等しいか、またはそれより大きい圧力レベルを有する排水層内に加圧空気を提供するために、外面層は、プレナムからの空気が通過し得るエアバッグ内の少なくとも1つの絞り孔を介してプレナムに接続されている。
【0010】
エアバッグは、加硫ゴムで封止されていてもよい。加硫ゴムは、CSM、CR、EPDM、またはシリコーンのうちの少なくとも1つから選択することができる。あるいは、エアバッグは、熱可塑性ポリマーで封止されていてもよい。熱可塑性ポリマーは、熱可塑性CSMまたは熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも一方から選択することができる。
【0011】
補強布は、織物を含んでもよい。エアバッグは、少なくとも2つの層またはシートの補強布を含むことができ、前記少なくとも2つの層またはシートの前記補強布の間にドロップステッチを含むことができる。補強布は、前記補強布の外層と内層との間にドロップステッチを含んでもよい。補強布は、ポリエステル、パラ-アラミド、メタ-アラミド、ガラス繊維、ポリアミド、ポリプロピレン、PEEK、UHMPE、鋼、炭素繊維のうちの少なくとも1つから選択される糸を含んでもよい。材料は、少なくとも1つの織物補強層を含む積層体を含むことができる。少なくとも1つの絞り孔を機械的穿孔によって形成してもよい。少なくとも1つの絞り孔は、レーザ穴あけ加工によって形成されてもよい。少なくとも1つの絞り孔は、各中空繊維の一端が前記プレナム内で終端し、各中空繊維の他端が排水性外面層内で終端するように、少なくとも1つの中空繊維を、エアバッグ材料を介して供給することによって形成されてもよい。絞り孔は、前記繊維の一端が前記プレナム内で終端し、他端が前記補強布の反対側の排水層内で終端するように、中空繊維を外側布補強面層に確実に取り付けることによって形成することができる。外面層は、前記外面層上に密に充填された空気ポケットを形成するための手段を含むことができ、各空気ポケットの半径は、水の毛管長の2倍未満であり、各空気ポケットは、少なくとも1つの絞り孔によって前記プレナムに接続されている。
【0012】
エアバッグは、前記外層上に密に充填された空気ポケットを形成することによって排水性を有するように適合されてもよく、各空気ポケットの半径は、水の毛管長の2倍未満であってもよく、各空気ポケットは、少なくとも1つの絞り孔によって前記プレナムに接続されてもよい。
【0013】
外面層は、前記エアバッグ材料の補強布に織り込まれた疎水性繊維のループを含んでもよい。外面層は、前記上層の補強布に疎水性繊維のループを織り込むことによって排水性を有するように適合されてもよい。
【0014】
外面層は、接着接合によって、前記補強布の外側に取り付けられた疎水性ループの層を含んでもよい。外面層は、疎水性ループの層を前記補強布の外側に接着接合により取り付けることによって、排水性を有するように適合させてもよい。繊維の疎水性ループ層は、製織、編成または電界紡糸のうちの1つによって形成することができる。表面層は、前記上面層にフックを形成し、製織または編成または電界紡糸によって繊維の疎水性ループの層を別々に形成し、それらが連動して互いに機械的結合を形成するように、それらを共に押し付けることによって前記疎水性ループを前記フックに取り付けることにより、排水性を有するように適合されてもよい。疎水性ループは、ePTFE、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンまたは他の疎水性ポリマーのうちの1つから選択される材料で製造することができる。疎水性ループは、その疎水性を高めるようにコーティング処理された親水性または弱疎水性繊維を含んでもよい。繊維は、ポリエステル、パラ-アラミド、メタ-アラミド、ガラス繊維、ポリアミド、ポリプロピレン、PEEK、UHMPE、鋼、または炭素繊維のうちの少なくとも1つから選択することができる。コーティングは、PTFE、PFA、またはワックスのうちの1つから選択することができる。
【0015】
本発明によれば、排水性を有するように適合された外面層を有する材料を含む少なくとも1つのエアバッグと、空気で加圧された実質的に開放された空間を含むプレナムと、を備え、前記材料に、空気に対して不浸透性となるようにシーラントで実質的にシールされ、前記プレナム内の圧力に耐えるように適合された補強布を含み、前記プレナム内の空気圧がエアバッグに隣接する海中の静水圧よりも高く、排水性外面層が少なくとも1つの絞り孔を介してプレナムに接続され、プレナム内の圧力が排水層内の空気を、隣接する静水圧と実質的に等しいか、またはそれより高いレベルに加圧するように適合されている、船体用クラッド(外装材)が更に提供される。
【0016】
従って、エアバッグを備えた船舶用クラッドが提供される。一実施形態によれば、エアバッグは、外層/上層(船体の遠位側)と下層/内層(船体の近位側)とを含む織物で構成され、これらはドロップステッチを用いて互いに接続されている。ドロップステッチの繊維は、エアバッグに構造的強度を提供するために、上層および下層の両方と織り合わされていてもよい。布は、加硫ゴムでシールされていてもよい。外面は、排水性を有するように適合されてもよい。これは、外層の外側表面(本明細書では「外面」と称する)上に多数の密に充填された空気ポケットを形成することによって達成することができ、空気ポケットのスケール長は、水の毛管長の2倍未満であることができる。各空気ポケットの入口には絞りを介して加圧空気を供給することができ、これは、理想的には空気ポケットをエアバッグプレナムに接続するようにする。絞りの断面積は、好ましくは、ポケットの出口の断面積の100分の1未満、最も好ましくは1000分の1未満である。各絞りの入口は、エアバッグプレナムに接続されてもよい。プレナムは、空気圧がプレナム全体にわたって実質的に均一になるように、そこを通過する空気流を妨げない空間を含むことができる。プレナムは、少なくとも1つの加圧空気源に接続されてもよい。あるいは、外面に疎水性を有する繊維のループを含む繊維層を形成することによって、外面が排水性を有するように適合されてもよく、この繊維層は、絞り孔を介してエアバッグプレナムに接続されてもよい。空気分配システムは、空気の代わりにシステムを介して防汚性ガスを時々通過させることによって、クラッドの生物汚染を防止するために使用することができる。好適な防汚性ガスには、空気と適切な濃度で混合されたオゾンが含まれる。
【0017】
本発明の他の目的および利点は、以下の説明および添付図面から明らかになるであろう。本発明の粘性抗力低減特性は、限定されるものではないが、船舶および潜水艦の船体、魚雷、石油および化学パイプライン等の様々な用途に有益に使用することができる。
【0018】
本開示に組み込まれ、その一部を形成する添付図面は、本発明の実施形態を示しており、説明と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による、船体の表面上のクラッドとして使用するのに適した、粘性抗力低減エアバッグの一実施形態の破断断面を有する分解等角図である。
【
図2】ドロップステッチを用いた補強織物の一実施形態を示す図である。
【
図3】本発明のエアバッグの外層の外面に配置するのに適した、密に充填された加圧空気ポケットの一実施形態を示す図である。
【
図4】中空繊維の両端を露出させることによって形成した絞りの一実施形態を示す図である。
【
図5】本発明のエアバッグの外面に使用するのに適した疎水性ループの一実施形態を示す図である。
【
図6】船舶の空気分配ネットワークの好適な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による船体用クラッドの一実施形態が
図1に示されている。本明細書で使用される用語の一部を最初に説明することが有用である。本発明の実施形態が、水中を走行する船舶の船体の粘性抗力低減に関して以下に説明されている。しかしながら、本発明のクラッドはまた、淡水または海水の中を走行する潜水艦およびミサイルのような船舶および物体と共に使用するのにも適している。それはまた、パイプラインに沿ってポンピングされるオイル、水、または他の液体の分野にも適用される。本明細書中で使用されるように、船舶という用語は、液体に対する相対的な移動により、表面が通常、粘性抗力を受けるあらゆる船舶、潜水艦、魚雷、パイプライン、または任意の他の固体物体を説明するために使用される。本明細書で使用されるように、海および水という用語は、粘性抗力が発生する水、オイルまたは任意の他の液体を指すものとする。船体という用語は、船舶、潜水艦、魚雷、パイプラインまたは水に隣接する任意の他の固体物体の表面を指すものとする。本発明が液体を通って移動する船舶に関して記載されている場合、それはまた、パイプラインのような固定構造を通過する液体にも適用されることが理解されるべきである。水に隣接するクラッド表面を外面と呼ぶ。船体に隣接する反対側のクラッド面を内面と呼ぶ。海の静水圧への言及は、クラッドに隣接する淡水、オイルまたは他の液体の静水圧に等しく適用される。
【0021】
従って、本発明は、船舶の船体の粘性抗力の低減に限定されるものではない。本発明はまた、船舶の船体および潜水艦や魚雷のような水上を走行する、または水没する物体上の粘性抗力の低減にも向けられている。本発明はまた、オイルのような液体がパイプラインに沿ってポンピングされる化学工業におけるような、液体がパイプまたはダクトを通過するパイプまたはダクトの内面上の粘性抗力の減少にも向けられている。
【0022】
船体は過酷な環境で動作するが、本発明はこの環境でうまく動作するのに適するように設計されている。船体は、高レベルの紫外線(UV)およびオゾンに曝され、大きな温度変動に耐えるように設計されなければならない。船体の一部は、満載時には冷たい塩水に浸され、空荷時には強い太陽光に曝される。特に船舶の船首におけるクラッドは、砕波のスラミングから膨大な衝撃力を受ける場合がある。船舶の底部は、沈泥または砂を含む水の摩耗作用を受ける場合がある。船舶のウェット領域は微生物の成長に曝され、これが未処理のまま放置されると、軟体動物のようなより大きな生物の成長に繋がり得る。
【0023】
船体の「ウェット領域」という用語は、通常、喫水線の下に位置する船体表面の領域を説明するために使用される。水没した領域の全てが湿潤している場合には、「ウェット領域」と「水没領域」とを区別する必要はない。本明細書で使用されるように、「水没領域」という用語は、喫水線の下に位置する船体表面の領域を指すものとする。「ウェット領域」という用語は、「水没領域」のうち、水で濡れた部分のみを指す。「非ウェット領域」は、喫水線よりも下の船体表面の領域のうち、濡れていない領域を意味する。図面を参照して後述するように、ポケット内部面積は、この計算に含まれていない。「非ウェット領域百分率」は、「水没領域」に対する「非ウェット領域」の比率である。「非ウェット領域百分率」は、本発明の効率の有用な尺度であり、粘性抗力の減少割合と相関する。クラッドについて言及している場合、クラッドは、船舶の船体の水没領域全体を覆うことができ、またはその一部だけに適用することができることが理解されよう。本発明は、クラッドに関して記載しているが、リジッドインフレータブルボート(RIB)等の場合のように、船舶の構造的一体性の一部を有用に形成することができる。
【0024】
水滴が、定常状態において、材料の表面において90°より大きい接触角をなすとき、材料は疎水性であると言われる。液滴が油からなる場合、材料は疎油性であると言われる。一般に、任意の液体の液滴が材料の表面上で90°より大きい接触角をなすとき、材料はその液体に対して非ウェット性であると言われる。本明細書で使用されるように、疎水性の材料特性とは、液体が何を含むかにかかわらず、液体による材料の非ウェット特性を指すものとする。材料上の水の接触角が90°未満である場合、材料は親水性であると言われる。最新の船舶の船体の表面は、鋼、アルミニウム、ガラス繊維、銅、および銅系塗料からなり、これらは親水性であることが知られている。
【0025】
本発明において、外面は疎水性であることが好ましい。これは、後述するように、表面張力が加圧空気ポケットを濡らす水に抵抗するように作用することを確実にする。好ましい疎水性表面は、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、ポリクロロプレン(CR)、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、パーフルオロアルコキシ共重合体樹脂(PFA)、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。他の多くのフルオロポリマーも好適である。シリコーンゴム、フルオロエラストマー、ePTFE、およびワックス等の材料も同様である。PTFEおよびPFAは両方とも、耐汚損性であるという付加的な利点を有しており、これも本発明において望ましい特性である。CSM、TPUおよびEPDMは、それらが認可され、海洋環境で広く使用されているという利点を有する。これらの疎水性シーラントを互いに組み合わせて使用してもよい。例えば、良好な気密性を提供するために外層の内面にCRを使用してもよく、またUVやオゾンに抵抗するために外層の外面により高価なCSMを使用してもよい。EPDMおよびCSMは両方とも機械的に強靭であり、紫外線およびオゾンの両方に対して高い耐性を有し、海洋用途に最も好ましいシーラントである。
【0026】
空気に対する任意の言及は、任意の適切なガスとして解釈されるべきであり、空気に限定されるものではない。ガスはまた、船体に防汚処理を施す際に、空気と適切な濃度で混合されたオゾンのような殺菌性ガスも含んでもよい。このような処理は、汚染防止プログラムの一部として、時々実施され得る。空気を使用する場合、エアポンプシステムのどの部分にも結露が生じないように、乾燥させる必要がある。ウェット空気は、当業者に知られているように、任意の適当な手段によって乾燥させるべきである。絞りを塞ぎ得る微粒子が圧縮空気システムを通過しないことを確実にするために、空気はまた濾過もしなければならない。加圧空気は、圧縮機または貯槽から供給されてもよい。魚雷の場合、圧縮空気は化学反応の生成物であってもよい。
【0027】
流体力学において、「毛管長」という用語は、液体の表面張力が重力よりもはるかに大きくなる長さ尺度を定義するために使用される。これは、液体の表面張力の平方根を、その密度に重力を掛けたもので除した値として定義される。水の場合、この値は2.7mmである。これは、空気から落下する水滴が、半径が2.7mm未満である場合には略球形になることを示している。単一の自由落下液滴の寸法が2倍を超えると、これは小さな液滴に分割される傾向があることが観察されている。この効果は、水中の気泡にも当てはまる。油の毛管長は2mm未満であり、水の毛管長より短いことに留意されたい。これは主に、水の表面張力が油の表面張力よりも相当高いためである。本発明は、加圧空気ポケット内に実質的に完全な空気相を確立することができ、ポケットの直径が毛管長よりも著しく大きい場合に生じるような、空気が別々の気泡に分解することを防止することを目的とする。最も効果的にするため、空気ポケットの半径は、毛管長の2倍未満でなければならない。空気ポケットの表面形状が円形でない場合、半径は同じ面積の同等の円の半径を意味するものとする。
【0028】
図示の図面は縮尺通りではないことに留意されたい。船舶の規模は、典型的には約100mである。好ましいエアバッグの寸法は、長さ10m、幅1m、厚さ0.1mの範囲である。ゴムコーティング厚さは1mm程度であり、繊維は直径0.1mm程度のものである。絞りは、直径が0.01mm程度のものである。このような特徴を一定の尺度で維持した場合、7桁だけ大きさが異なるこれらの特徴を同一図面上に表現する方法はない。図面は、説明のみを目的としている。
【0029】
図1のクラッドは、少なくとも1つのエアバッグを含む。加圧空気は、空気分配システムによって供給される入口106を介して各エアバッグの入口に供給される。エアバッグは、実質的に空のプレナムを備え、ここで、空気圧は、作動中において実質的に均一である。プレナムは、本明細書で絞りと呼ばれる多数の小孔によって外層に接続されている。プレナムは、空気流に対して僅かな障害にしかならない。これは、エアバッグの適切な機能のために必要な条件である。エアバッグプレナムにわたる小さな圧力変動は、絞りにわたる圧力降下よりも実質的に小さい。そうではなかった場合、プレナムの空気入口に隣接する絞りにわたる圧力降下は、空気入口から最も遠いポイントで、これらの絞りにわたる圧力降下よりも高くなるだろう。このような状況では、空気流は、空気入口に隣接する絞りを通ってのみ排出される。空気が、空気入口から最も離れた絞りを通過しない。空気流を伴わない絞りは遮断され、外面の排水性が失われ、その領域の粘性抗力低減効果が失われる。多孔質媒体を通るような入り組んだ空気路は、動作時に大きな圧力降下を引き起こし、本発明には適していない。
【0030】
空気流の場合、絞りは、空気が流れるチャネルの断面積が減少する特徴を記述するために使用される用語である。制限された流れと比較して制限されていない流れの圧力降下の関数としてプロットされたチャネルを通る空気流量を比較することは有益である。出口が閉塞されている場合、出口圧力は、制限されていない流れと制限された流れとの両方の場合に、十分な供給圧力に遭遇する。出口が閉塞されていない場合、入口から出口までの圧力降下は同じであるが、制限された流れの流量は減少する。この減少は、制限されていないチャネルに対する制限されたチャネルの断面積の比に大きく比例している。本発明においては、多数の絞り孔を形成することによって、エアバッグの出口の結合された断面積を減少させることができる。これらの絞り孔を結合した面積は、エアバッグ自体の断面積に対して必然的に小さくなければならない。本発明のエアバッグの設計においては、ANSYS CFXあるいはANSYS Fluent等のソフトウェアプログラム、または同様のソフトウェアパッケージを用いて、気流のシミュレーションを行うことが有用である。そうすることで、消費された圧縮空気を供給するために必要な動力を計算することができ、船舶上の粘性抗力の低減によって節約された動力と有効に比較することができる。
【0031】
図1を参照すると、図示したエアバッグは、上層101と、下層102と、上層および下層を連結するドロップステッチ103とを含む3次元織物で形成されている。布層は、それぞれ上面および下面にて、少なくとも1層のゴム104および105でシールされている。端縁はゴム層107でシールされている。エアバッグには、好ましくは逆止弁を内蔵している入口106を介して、加圧空気が供給される。エアバッグは、感圧シリコーン粘着層107により、船体に取り付けられてもよい。ドロップステッチを上層および下層に織り込んで、エアバッグを加圧したときに構造的荷重を支える。ドロップステッチ並びに上面および下面の繊維材料は、用途に適合するように選択される。エアバッグがより低い圧力に曝されるように設計されている場合、上方および下方の糸と共に、ドロップステッチは、典型的にはポリエステル繊維を含む。より高い圧力に曝される場合、外面は、多層織物を有効に含むことができ、ここで、層のうちの1つ以上は、アラミドまたはポリアミド繊維を含む。機械的荷重が全ての糸にわたって分布している故に、織り込み構造が好ましいが、積層構造もまた有効に使用することができる。アラミド繊維の少なくとも1つの層は、エアバッグが切断および爆発、並びに静水圧に抵抗するように設計されている場合、軍事用途に好適である。2以上の繊維材料を含むハイブリッド糸もまた好適である。
【0032】
高いエアバッグ圧力に曝されるより大型の船舶については、ドロップステッチを組み込んだエアバッグ設計が好ましい。これには、このようなエアバッグで被覆された船舶の外面が船体自体の外面と同じであるが、単にエアバッグの厚さ分だけオフセットされているという望ましい機能がある。このような好ましい設計では、
図2に示すように、上面層201および下面層202が上層と下層との両方に織り込まれたドロップステッチ203および204によって接続されている。2つの面は、典型的には平行であるが、既存の3D製織技術により、上面および下面の両方の設計において大きな自由度がある。1平方メートル当たりのドロップステッチの数は、設計荷重を支えるように適合されており、典型的には、1平方メートル当たり数万である。使用される繊維の直径および材料は同様に選択される。
図2を参照すると、ドロップステッチ204が内層および外層の両方に実質的に垂直である場合、それらは、横断面、即ち外面に沿った平面において外層に僅かな剛性を提供する。外層の付加的な剛性が要求される場合、ドロップステッチ203によって示されるように、ドロップステッチが外層に対してある角度で製織される。これにより、織物補強材の構造に必要とされる剛性を与えるように適合される。
【0033】
このように、図示された3次元織物構造は、大きな構造的荷重を支えるための構造的強度を有する本発明のエアバッグを提供する一方で、空気流に対して実質的に抵抗を与えないプレナムも提供する。
【0034】
より小さい船舶においては、船舶の動作のために、実質的に円筒状の表面を含むエアバッグを使用することが許容され得る。この場合、外面層は、何らかの曲げ応力に曝されることはなく、フープ応力にのみ曝される。このような場合、エアバッグは、補強された表面層のみを含んでもよく、補強ドロップステッチを必要としない。円筒状エアバッグの補強布は、1枚のシートを筒状に編組みまたは形成し、その2つの端縁を接合することにより、安価に作製される。より小さい船舶の場合には、織物補強層は、船体上に、有用に当木で固定しシールすることができる。これは、底面が船舶の船体を含むエアバッグとして理解することができるだろう。
【0035】
各エアバッグの外面は、排水性を有するように適合されている。
【0036】
排水性の外面の一実施形態が
図3に示されている。外面は、多数の密に充填された空気ポケット301を含む。外面層は、ポケット層302と基層303との積層体として示されているが、加硫工程中に単層として簡便に形成してもよい。絞り孔304は、基層に形成され、各ポケットをエアバッグプレナムに接続する。加圧空気は、各絞り孔を介してプレナムから各空気ポケットの内部に流入する。空気圧は、水をポケットに流入させないように動作し、ポケットに入るべき水を排出するように動作する。ポケットの外面が水によって閉塞されると、ポケット内の圧力はプレナムの圧力まで急速に上昇する。この圧力は、局所的な静水圧よりも大きく、詰まりを取り除き、ポケットが浸水するのを防止する。ポケットが詰まりを取り除かれた場合、絞りの小径により空気の総流量を制限する。ポケットの直径が水の毛管長よりも小さいので、大口径のパイプの場合に起こり得るように、ポケットは部分的に水で充満することができない。各ポケットが水で満たされるか、または空気で満たされることを確実とするように毛管力が作用する。プレナム圧力が静水圧よりも高い場合、ポケットは空気で充填された状態を維持する。これは、ポケット面が疎水性を失った場合であっても当てはまる。従って、この表面は撥水性であることが示されている。
【0037】
空気の粘度は水の粘度よりも約1000倍小さいので、空気を充填された加圧空気ポケット上の粘性抗力が効果的に排除される。複数の加圧空気ポケットが船体の水没表面上にある場合、各ポケット上の粘性抗力は効果的に排除される。複数の空気ポケットが密集している場合、粘性抗力は、それらがカバーする領域にわたって大幅に低減される。加圧空気ポケット内の船体の実質的に全ての水没領域を被覆することによって、船体上の全体的な粘性抗力を大幅に低減することができる。
【0038】
圧縮空気の生産は、高レベルのエネルギー消費を必要とする。絞りの直径は、経済的な粘性抗力低減システムの重要な決定因子である。これらを製造する好適な2つの方法として、レーザ穴あけ加工の公知の方法および機械的穿孔の公知の方法がある。機械的穿孔により熱可塑性ポリマーに絞りを製造する場合、熱針を使用することが有用である。
図4に、代替的な方法で作成された絞りの一実施形態が示されている。絞りは、中空繊維401をエアバッグの上層402内に確実に縫合した後、一端がプレナムにて自由とされ、他端が空気排出層に確実に配置されるように切断することによって製造される。
図4に示した繊維は、まず、上層402と下層403との間で縫合され、上層に繊維のループ404が形成される。次に、接着層を上層に適用して、繊維を定位置に接合し、ゴム補強布のパンク穴をシールすることが好ましい。上面の繊維ループ404を切断し、内側中空コアを露出させる。続いて、下面の繊維ループ405を切断する。次いで、上層および下層を引き離すことにより分離し、切断された繊維の端部を下側エアバッグ面を介して引っ張り、エアバッグプレナム内で自由にぶら下げた状態にする。このようにして、中空繊維は、一端がエアバッグプレナム内に露出した位置に確実に保持され、他端は、動作時に排水層となる外面に保持される。絞り繊維は、好ましくは疎水性であるか、または疎水性となるように処理されるようにする。中空繊維は、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンまたは他の適切なポリマーのような材料であることが好ましい。被覆ガラス繊維も好適である。あるいは、この工程は、繊維を被覆された織物に縫合するのではなく、製織工程中に繊維を織物内に製織することによって達成することができる。それに応じて、コーティング工程を適応させることができる。
【0039】
図5aには、排水層の更なる実施形態が示されている。外面は、疎水性ループ502のネットワークを含む。これらは、エアバッグの上面層に織り込まれている。絞り503は、エアバッグプレナムを排水層内のボイドに接続する。排水層は、水との界面で大きく平滑な表面を形成するよう対応するよう適合されている。ループの剛性および1平方ミリメートル当たりのループ数は、基層501上のループの高さが、排水層内の空気圧と周囲の静水圧との間の差圧における僅かな変化に適合するように適合されている。ループは、繊維の単一のストランドを形成するために有用に切断されてもよい。あるいは、繊維を布地の上面およびその露出したエンドカットに縫合してもよい。このような行程は、繊維産業において公知の方法である。本明細書で使用されるように、「ループ」という用語は、閉ループ、カットループおよびカットステッチを含むものとする。次いで、ループ502は、その疎水性を増大させるために、発泡コーティングのような既知の手段によってコーティングされる。絞り孔503は、上述した方法により基層に形成される。
【0040】
フックおよびループの既知の機械的結合システムも好適であり、
図5bに図示されている。マッシュルームヘッドフック層510は、多数のマッシュルーム状突起511および多数の絞り512を含む。マッシュルームヘッドフック層510は、上面層の基層に接着接合されている。代替的な実施形態では、ループ層は、最初に上層の織物に織られている。次いで、ループを切断してフックおよびステムを形成する。
【0041】
続いて、ループ513の別の層が、編成、製織、または電界紡糸のような既知の手段によって製造される。次いで、ループ層をフック層に押圧することにより、ループ層をフック層に機械的に付着させて、排水層を形成する。ループ層を別々に製造する利点は、ループ層の任意の部分で汚損が生じた場合に、最小限の費用で容易にドライドック内にて交換することができる点である。
【0042】
ループ材料のための好ましい繊維は、ePTFE、およびポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドおよびアラミドである。ePTFEの場合を除き、PFAまたはPTFEの疎水性コーティングを適用することが好ましい。
【0043】
波頂が静水圧を増加させると、排水層が圧縮され、ボイド内の空気圧が増加する。圧縮空気は、繊維層に沿って高圧領域から低圧領域まで、船体表面に沿って流れる。この空気流は、波頂と波底との両方を介して連続している。船舶が遭遇する静水圧は、
図6の領域606として示される船体の最深部で最大となり、出港時、
図6の領域607として示される表面に向けて、かつ船舶の船尾部分に向かって降下する。それに応じて、排水層内の空気流が流れる。静水圧が低下すると、対応する排水層が膨張し、それを通る空気流が増加する。エアバッグプレナム内の空気圧は、このサイクルを通じて周囲の静水圧よりも高くなるように適合されている。
【0044】
既存の船舶を改装する場合、船舶の水没部分全体にわたって内的にパイプネットワークを適応させることは不可能または不所望である場合がある。
図6に示されるように、船舶601の外面に付加的なフレームワークが取り付けられる。フレームワークは、接続部604で加圧空気源に接続される。フレームワークは、多数のメインチャネル602と、それぞれに接続された、いくつかのサブチャネル603とからなる。
【0045】
本発明の補強布およびゴムシーラントは公知の材料であり、上述した3次元製織および疎水性被覆処理は公知の工程である。これらは、高圧リフティングバッグ、およびスタンドアップパドルボードのような消費者アイテム、およびリジッドインフレータブルボート(RIB)の部品、膨張式救命いかだ等の産業アイテムの製造に使用される。補強布およびゴムシーラントは、ホバークラフト用スカートのような頑丈なアイテムにおいて使用され、パイロットボート用の膨張可能な防舷材は、長年に亘って海洋環境に耐えることが証明されている。これは、市場での迅速な採用を可能にする本発明の重要な利点である。
【0046】
編地はより安価であり、耐えるべき機械的な力があまり厳しくない用途において、織布の代わりに上手く使用することができる。経編地は、より可撓性を有し、織布よりも開いている。緯編地は、更に開いており、かつ可撓性を有する傾向がある。布地が遭遇する機械的力が低くかつ安定しているか、またはフープ応力として単純に支えられる用途においては、布補強を何ら有しないゴムシートを使用することができる。より高い力に遭遇する用途、およびより高い剛性および寸法安定性が要求される用途には、織布が好ましい。インターレース繊維は、織物により高い強度と剛性を付与する。強度および剛性の更なる向上のために、複数層のインターレース繊維が使用される。
【0047】
本発明のエアバッグは、金属船にとって多大な費用となる陽極腐食を大幅に低減するために、電気的に絶縁されていることが好ましい。更なる利点は、エアバッグクラッドが、エンジンとプロペラの両方から、および船体から海中への騒音の伝達を低減する点が挙げられる。ここで、運送業からの騒音は、海の生き物を破壊し、魚の再生を妨げることが理解されている。エアバッグクラッドは、エンジンおよびプロペラからの電力要求を低減し、船体からの騒音を減衰させる。当業者は、このクラッドが、爆発的な攻撃に対して保護を提供すると共に、浅い水域での接地による損傷からの保護を提供することを認識するであろう。
【0048】
海の状態に起因して圧力の変動が生じる。波が通過すると、船体のウェット領域上の任意の所与のポイントにおける海圧が増加する。例えば、10mの波は、1バールの圧力増加を引き起こす。エアバッグ内の空気圧は、通過している波の増加する負荷に曝されている場合であっても、常に海圧よりも高くなるように設計されている。圧力センサまたは逆止弁の使用により、空気供給圧力および流量、並びにエアバッグの弾性は、これを達成するように容易に適合される。機器の故障時における損傷の危険性を最小化するために、安全な圧力開放弁および排水弁も使用される。上に開示された空気分配ネットワークは、船舶の船体の水没領域にわたって、低プロファイルクラッドシステムに制御可能な圧力および流量を供給する。これにより、船舶用クラッドシステムとして非常に好適なものとなる。
【0049】
本発明は、チャネル、チャンバおよびオリフィスの最適設計による受動的な制御を可能にするが、圧力センサおよび流量センサ並びにレギュレータ、制御弁等の既知の計測装置を、特に大型の設備において、本発明の動作を最適化するために使用することができると考えられる。
【0050】
粘性抗力は、ほとんどの現行の船舶を推進するのに必要な動力の大部分を占める。粘性抗力を低減させることにより、残りの動力要件を提供するために、他の環境に優しい推進技術の採用を容易にする程度まで、船舶に必要な動力を減少させる。本発明は、輸送産業におけるCO2や他の汚染ガスの排出をなくすために、電力、帆の力および太陽光の採用を容易にする。
【0051】
このように、本発明は、船体のウェット面積を減少させる手段を提供し、それによって、遭遇する粘性抗力を低減することが示された。本発明の特定の実施形態が図示されているが、これらは限定することを意図するものではない。当業者にとって、修正および変更が明白になるであろうし、本発明は、特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図している。
【国際調査報告】