(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-01
(54)【発明の名称】海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法、装置、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
G01V1/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577450
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020067864
(87)【国際公開番号】W WO2020260474
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】102019117587.9
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500341779
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デル・アンゲヴァンテン・フォルシュング・アインゲトラーゲネル・フェライン
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【氏名又は名称】井上 正則
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラモス コルドバ,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】プロイ,ベネディクト
(72)【発明者】
【氏名】シュタンゲ,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】カイル,ハノ
(72)【発明者】
【氏名】シュピース,フォルカート
(72)【発明者】
【氏名】ヴェナウ,シュテファン
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB02
2G105CC02
2G105DD02
2G105EE02
2G105GG03
2G105LL02
(57)【要約】
実施例のうちには、海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法、コンピュータプログラム、及び装置に関するものがある。本方法は受振器信号を取得するステップを含む。前記受振器信号は、複数の音波信号の、海底に埋在する前記1つ又は複数の物体での散乱に基づく信号である。また、前記受振器信号は複数の受振器により生成される信号である。本方法は更に、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して検出グリッドのグリッド点に割当てるステップを含む。前記検出グリッドは、該検出グリッドのグリッド点において前記1つ又は複数の物体の位置を特定するように設定されたグリッドである。本方法は更に、前記受振器信号の複数の信号成分に前記検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を施すステップを含む。本方法は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とするステップを含む。本方法は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行う検出ステップを含む。以上によって、前記1つ又は複数の物体の検出が、前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に基づいて行われる。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法において、
受振器信号を取得するステップ(110)を含み、前記受振器信号は、複数の音波信号の、海底に埋在する前記1つ又は複数の物体での散乱に基づく信号であり、また、前記受振器信号は複数の受振器により生成される信号であり、
前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して検出グリッドのグリッド点に割当てるステップ(120)を含み、前記検出グリッドは、該検出グリッドのグリッド点において前記1つ又は複数の物体の位置を特定するように設定されたグリッドであり、
前記受振器信号の複数の信号成分に前記検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を施すステップ(130)を含み、
前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とするステップ(140)を含み、
前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行う検出ステップ(190)を含み、以上によって、前記1つ又は複数の物体の検出が、前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に基づいて行われるようにした、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の振幅に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の前記振幅の包絡線を算出するステップ(150)を更に含み、前記包絡線に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいてコヒーレンス関数値を算出するステップ(160)を更に含み、前記コヒーレンス関数値は、前記受振器信号の、時間的に前後関係にある複数の信号成分どうしの間の類似度に基づくものであり、前記コヒーレンス関数値に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うことを特徴とする請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記包絡線に基づき且つ前記コヒーレンス関数値に基づいて、重み付けした包絡線を算出するステップ(170)を更に含むことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記コヒーレンス関数値は関連度解析に基づくものであることを特徴とする請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記1つ又は複数の物体のうちのより遠隔に位置している物体での散乱に基づく信号成分に信号増強処理を施すために、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号にスケーリングを施すステップ(145)を更に含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の方法。
【請求項8】
前記1つ又は複数の物体で散乱した後に更に反射した音波信号を識別するステップ(180)を更に含み、前記1つ又は複数の物体で散乱した後に更に反射した前記音波信号を前記1つ又は複数の物体の検出を行う前記検出ステップにおいて考慮対象外とすることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の方法。
【請求項9】
地震波の伝播速度が一定であると仮定して前記走時補正を実施することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の方法。
【請求項10】
地震波伝播速度の可能範囲に応じて前記走時補正を実施するようにし、その際に、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の極大値の大きさに基づいて、地震波伝播速度の前記可能範囲の中から前記走時補正に用いる地震波伝播速度を選択することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の方法。
【請求項11】
前記検出グリッドのグリッド点に関する前記走時補正を実施する際に、前記複数の受振器の位置と前記検出グリッドのグリッド点に対応した位置との間に存在する複数の地質層の地質に夫々が適合した複数の地震波伝播速度を用いることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の方法。
【請求項12】
前記検出グリッドのある1つのグリッド点から前記複数の受振器に所属する夫々の受振器までの離隔距離及び前記複数の音波信号の発生源である少なくとも1つの音波信号源までの離隔距離に基づいて前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドの当該グリッド点に割当てることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項記載の方法。
【請求項13】
個々の前記音波信号ごとに個別に前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドのグリッド点に割当てることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記受振器信号の複数の信号成分を、所定の時系列を成す所定回数の時点に亘って重ね合わせてグループ化して前記検出グリッドのグリッド点に割当てることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記検出グリッドのある1つのグリッド点から前記複数の受振器に所属する夫々の受振器までの離隔距離及び前記少なくとも1つの音波信号源までの離隔距離が所定長さの離隔距離であるような前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドの当該グリッド点に割当てることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記受振器信号は前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に起因する信号成分である第1信号成分を含み、前記受振器信号は前記複数の音波信号の反射に起因する信号成分である第2信号成分を含み、前記方法は更に、前記第1信号成分に対して相対的に前記第2信号成分を抑制するステップを含んでおり、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化する前記ステップ、走時補正を施す前記ステップ、走時補正が施された複数の信号成分を重ね合わせて前記重合信号とする前記ステップ、及び/又は、前記1つ又は複数の物体の検出を行う前記ステップは、前記第1信号成分に基づいたステップであることを特徴とする請求項1乃至15の何れか1項記載の方法。
【請求項17】
前記第2信号成分を抑制する前記ステップは、前記受振器信号に走時補正を施したものに特異値分解を適用するステップであることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記受振器信号に対して、前記複数の音波信号の反射に起因する信号成分を抑制する処理を施すステップ(115)を含むことを特徴とする請求項1乃至17の何れか1項記載の方法。
【請求項19】
プログラムコードを備えたプログラムであって、前記プログラムコードがコンピュータ上、プロセッサ上、制御モジュール上、又は、プログラム可能なハードウェアコンポーネント上で実行されることによって請求項1乃至18の何れか1項記載の方法が実施されることを特徴とするプログラム。
【請求項20】
海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための装置(10)において、
受振器信号を取得するためのインターフェース(12)を備え、前記受振器信号は、複数の音波信号の、海底に埋在する前記1つ又は複数の物体での散乱に基づく信号であり、また、前記受振器信号は複数の受振器により生成される信号であり、
データ処理部(14)を備え、
前記データ処理部は、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して検出グリッドのグリッド点に割当てるように構成されており、前記検出グリッドは、該検出グリッドのグリッド点において前記1つ又は複数の物体の位置を特定するように設定されたグリッドであり、
前記データ処理部は、前記受振器信号の複数の信号成分に前記検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を施すように構成されており、
前記データ処理部は、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とするように構成されており、
前記データ処理部は、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うように構成されており、以上によって、前記1つ又は複数の物体の検出が、前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に基づいて行われるようにした、
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施例のうちには、海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法、コンピュータプログラム、それに装置に関するものがあり、より詳しくは、音波信号の1つ又は複数の物体での散乱に基づいて当該物体を検出するものであるが、ただし、実施例はそれらのみに限定されない。
【背景技術】
【0002】
海洋インフラストラクチャを建設しようとするとき、海底の産業的利用をしようとするとき、またより具体的には、例えば、洋上風力発電用風車の建設、海底パイプラインの敷設、洋上プラットフォームの建設、海底ケーブルの敷設、海底ボーリングの施工、等々を行おうとするときには、多くの場合、その事前準備として海底堆積物の中に埋在する様々な大きさの物体の位置を特定することが必要とされる。そのような物体としては、漂石などの地下構造における不均質要素や、堆積物層の表層部分に埋もれている不発弾などがある。漂石が問題となるのは、例えば北海及びバルト海の第四紀堆積層において、またより一般的には中緯度帯及び高緯度帯の多くの浅深度海域において、オフショア・インフラストラクチャ(海岸から遠隔した海底に設けるインフラストラクチャ)を建設する場合などである。一方、不発弾は、例えば北海及びバルト海などに存在しており、オフショア・インフラストラクチャを建設する際には、その事前準備として多大の費用をかけて不発弾の探査及び処理を行わねばならないことがある。従来の地中探査法としては、2次元及び3次元の反射地震探査法、高解像度音波探査法、それに磁気探査法などがあるが、それら従来の地中探査法には、堆積物の中に埋在する物体の検出に用いる上では、数々の制約があった。
【0003】
海底堆積物の中に埋在する物体の位置を特定することは、オフショア・インフラストラクチャの建設、海底ボーリングの施工、それに、洋上プラットフォームや洋上風力発電用風車の基礎構築などにおける課題の1つであるが、この課題は従来の方法では十分に達成し得なかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は海底に埋在する1つ又は複数の物体の検出に関するものであり、その検出を、受振器信号のデータにデータ処理を施して、複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱(回折)を信号図に表すことによって可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の基礎を成す概念は、1つ又は複数の物体の検出を行うために、複数の音波信号のその1つ又は複数の物体での散乱を利用することにある。その散乱の解析を可能とするために、本開示では、夫々が別々の受振器により生成され、及び/又は、夫々が別々の時刻に生成された、前記受振器信号の複数の信号成分を、検出グリッドのグリッド点に割当てる。また、前記複数の信号成分は、複数の受振器により生成され、及び/又は、複数の時刻に生成されたものであるため、例えば受振器どうしの間での位置の相違や、受振器と音波信号源(震源)との離隔距離の相違などを補償するために、前記複数の信号成分に走時補正を施す。続いて、走時補正が施された前記複数の信号成分を重ね合わせて(重合して)重合信号とする。この重合信号に基づいて、所定の深さ(前記検出グリッドのグリッド点に対応した深さ)に物体が埋在しているか否かが判定され、かくして回折に基づいて物体の検出が行われる。
【0006】
実施例のうちには、海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法がある。本方法は受振器信号を取得するステップを含む。前記受振器信号は、複数の音波信号の、海底に埋在する前記1つ又は複数の物体での散乱に基づく信号である。また、前記受振器信号は複数の受振器により生成される信号である。本方法は更に、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して検出グリッドのグリッド点に割当てるステップを含む。前記検出グリッドは、該検出グリッドのグリッド点において前記1つ又は複数の物体の位置を特定するように設定されたグリッドである。本方法は更に、前記受振器信号の複数の信号成分に前記検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を施すステップを含む。本方法は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とするステップを含む。本方法は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行う検出ステップを含む。以上によって、前記1つ又は複数の物体の検出が、前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に基づいて行われる。
【0007】
前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドのグリッド点に割当て、それら複数の信号成分に走時補正を施した上で、それら複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とすることで、大規模な受振器アレイにより収録される音波信号の散乱に基づいた1つ又は複数の物体の検出が可能となり、ないしは改善される。
【0008】
例えば、前記複数の音波信号の波長は、前記1つ又は複数の物体の想定寸法に適合する長さにするとよい。そうすることで、前記音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱が感知可能となる。また、例えば、前記複数の受振器における隣り合う受振器どうしの間の離隔距離は、前記複数の音波信号の波長の半分以下の距離とするとよい。そうすることで、前記1つ又は複数の物体の検出に際して、エイリアシングを回避することができる。
【0009】
例えば、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の振幅に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うようにすることができる。振幅の大きさは、例えば、評価することや可視化することなどが容易であるため、前記検出グリッドのグリッド点に存在する物体を認識するという目的に適している。
【0010】
幾つかの実施例によれば、本方法は更に、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の前記振幅の包絡線を算出するステップを含む。前記包絡線に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うようにすることができる。そうすることで、物体の検出がより明瞭に信号図に示されるようになり、より明確に判断できるようになる。
【0011】
本方法は更に、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいてコヒーレンス関数値を算出するステップを含むものとすることができる。前記コヒーレンス関数値は、前記受振器信号の、時間的に前後関係にある複数の信号成分どうしの間の類似度に基づくものとすることができる。前記コヒーレンス関数値に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うようにすることができる。また、前記コヒーレンス関数値は、例えば、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号における互いに隣り合う値の近似度を表すものであり、このコヒーレンス関数値を算出するステップに続く次のステップでは、例えば、「外れ値」に相当する値にはより小さな重み付けがされ、そうすることで、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号における「外れ値」に相当する値を、コヒーレンス関数値を用いて抑制することができる。
【0012】
幾つかの実施例では、本方法は、前記包絡線に基づき且つ前記コヒーレンス関数値に基づいて、重み付けした包絡線を算出するステップを含んでいる。前記重み付けした包絡線は、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号と比べて、読取りがより容易であり、情報の表現力においてより優れている。
【0013】
前記コヒーレンス関数値は、例えば、関連度解析に基づくものとすることができる。関連度解析を行うことで、前記受振器信号に背景ノイズが含まれている場合であっても、地震波データの解像度を高解像度とすることができる。
【0014】
本方法は更に、前記1つ又は複数の物体のうちのより遠隔に位置している物体での散乱に基づく信号成分に信号増強処理を施すために、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号にスケーリングを施すステップを含むものとすることができる。そうすることで、前記複数の受振器からより遠く離れた位置で発生した回折に起因する信号成分の振幅に対して均等化処理を施すことができる。
【0015】
幾つかの実施例では、本方法は更に、前記1つ又は複数の物体で散乱した後に更に反射した音波信号を識別するステップを含む。前記1つ又は複数の物体で散乱した後に更に反射した前記音波信号を前記1つ又は複数の物体の検出を行う前記検出ステップにおいて考慮対象外とするとよい。そうすることで、例えば、ある物体で回折した音波信号が別の物体で反射したエコーを排除することができる。
【0016】
幾つかの実施例では、地震波の伝播速度が一定であると仮定して前記走時補正を実施するようにしている。そうすることで、前記走時補正のための計算処理を簡明化することができるが、ただし場合によっては精度が低下することもある。
【0017】
幾つかの実施例では、地震波伝播速度の可能範囲に応じて前記走時補正を実施する(所謂ラドン変換を用いる)ようにしている。またその際に、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の極大値の大きさに基づいて、地震波伝播速度の前記可能範囲の中から前記走時補正に用いる地震波伝播速度を選択するようにしている。これは、前記極大値の大きさを、選択された平均地震波伝播速度が十分な精度を有することを示すインジケータとして利用できるようにしたものである。
【0018】
別法として、前記検出グリッドのグリッド点に関する前記走時補正を実施する際に、前記複数の受振器の位置と前記検出グリッドのグリッド点に対応した位置との間に存在する複数の地質層の地質に夫々が適合した複数の地震波伝播速度を用いるのもよい。そうすることで、走時補正の基礎となる地震波伝播速度を可能な限り良好な精度をもって定めることができる。
【0019】
少なくとも幾つかの実施例では、前記検出グリッドのある1つのグリッド点から前記複数の受振器に所属する夫々の受振器までの離隔距離及び前記複数の音波信号の発生源である少なくとも1つの音波信号源までの離隔距離に基づいて前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドの当該グリッド点に割当てるようにしている。この割当ての仕方は、例えば、前記受振器信号のどの信号成分を前記検出グリッドのどのグリッド点に関して考慮すべきかを示す基礎となるものである。
【0020】
例えば、個々の前記音波信号ごとに個別に前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドのグリッド点に割当てるようにするのもよい(所謂、実開口処理であり、実開口に基づいてデータ処理を実施するものである)。
【0021】
別法として、前記受振器信号の複数の信号成分を、所定の時系列を成す所定個数の複数の時点に亘って重ね合わせてグループ化して前記検出グリッドのグリッド点に割当てるようにするのもよい(所謂、合成開口処理であり、合成開口を利用してデータ処理を実施するものである)。これによって移動方向における解像度を高めることができる。
【0022】
幾つかの実施例では、前記検出グリッドのある1つのグリッド点から前記複数の受振器に所属する夫々の受振器までの離隔距離及び前記少なくとも1つの音波信号源までの離隔距離が所定長さの離隔距離であるような前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドの当該グリッド点に割当てるようにしている。こうすることで、前記検出グリッドのある1つのグリッド点に関連していると推定される前記受振器信号の信号成分にデータ処理を施すことができる。
【0023】
少なくとも幾つかの実施例では、前記受振器信号は前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に起因する信号成分である第1信号成分を含む。また、前記受振器信号は前記複数の音波信号の反射に起因する信号成分である第2信号成分を含む。そして、本方法は更に、前記第1信号成分に対して相対的に前記第2信号成分を抑制するステップを含むものとすることができる。また、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化する前記ステップ、走時補正を施す前記ステップ、走時補正が施された複数の信号成分を重ね合わせて前記重合信号とする前記ステップ、及び/又は、前記1つ又は複数の物体の検出を行う前記ステップは、前記第1信号成分に基づいた(前記第1信号成分だけに基づいた、或いは、主として前記第1信号成分に基づいた)ステップとすることができる。そして、そうすることで、前記受振器信号に含まれる前記音波信号の反射に起因する信号成分を抑制すること、ないしは、当該信号成分を前記受振器信号から除去することが可能となり、もって、回折に基づいた前記1つ又は複数の物体の検出をより容易に、ないしは、より良好に行えるようになる。換言するならば、本方法は、前記受振器信号に対して、前記複数の音波信号の反射に起因する信号成分を抑制する処理を施すステップを含むものとすることができる。
【0024】
幾つかの実施例では、前記第2信号成分(即ち、前記複数の音波信号の反射に起因する信号成分)を抑制する前記ステップを、前記受振器信号に走時補正を施したものに特異値分解を適用するステップとしている。こうすることで、前記第2信号成分の抑制を効率的に行うことができる。
【0025】
実施例のうちには、前記少なくとも1つの音波信号源と前記複数の受振器とを船舶で曳航して海底よりも上方の海面上を移動させるようにしたものがある。前記検出グリッドは例えば2次元検出グリッドとすることができる。またその場合の2次元検出グリッドは、船舶の進行方向軸と、前記少なくとも1つの信号源及び/又は前記複数の受振器と海底とを結ぶ深度方向軸との、2本の方向軸を持つものとすることができる。また、そうすることで、海底に埋在する物体の検出を予め決められた手順に従って実行することが可能となる。
【0026】
実施例のうちには更に、プログラムコードを備えたプログラムであって、前記プログラムコードがコンピュータ上、プロセッサ上、制御モジュール上、又は、プログラム可能なハードウェアコンポーネント上で実行されることによって本方法が実施されるようにしたプログラムがある。
【0027】
実施例のうちには更に、海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための装置がある。本装置は受振器信号を取得するためのインターフェースを備える。前記受振器信号は、複数の音波信号の、海底に埋在する前記1つ又は複数の物体での散乱に基づく信号である。また、前記受振器信号は複数の受振器により生成される信号である。本装置は更に、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して検出グリッドのグリッド点に割当てるように構成されたデータ処理部を備える。前記検出グリッドは、該検出グリッドのグリッド点において前記1つ又は複数の物体の位置を特定するように設定されたグリッドである。前記データ処理部は更に、前記受振器信号の複数の信号成分に前記検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を施すように構成されている。前記データ処理部は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とするように構成されている。前記データ処理部は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うように構成されている。以上によって、前記1つ又は複数の物体の検出が、前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に基づいて行われる。
【0028】
これより添付図面を参照しつつ、装置及び/又は方法の幾つかの実施例について更に詳細に説明して行くが、ただしそれら実施例の説明は、あくまでも具体例を例示することを目的としたものである。また、添付図面については以下に示す通りである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1a】海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法の実施例のフローチャートである。
【
図1b】海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法の実施例のフローチャートである。
【
図1c】海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための装置10の実施例のブロック図である。
【
図2】コモン・ミッド・ポイント及びコモン・フォールト・ポイントのソート処理の原理を説明するための模式図である。
【
図3】A~Hは、合成して作成した信号データに基づいた、データ処理ステップにおける信号データ図ないし信号図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、幾つかの具体例を示した添付図面を参照しつつ、様々な構成の具体例について更に詳細に説明して行く。尚、添付図面では、図の見やすさを考慮して、線の太さ、層の厚さ、それに領域の広さなどを誇張して描くことがある。
【0031】
以下に提示する具体例の他にも、改変例ないし変更例とでも言うべき様々な具体例が存在するが、ここでは、幾つかの特定の具体例だけを図面に示して以下に詳細に説明する。ただし、以下の詳細な説明は、その他の具体例が以下に説明する特定の形態に限定されることを意味するものではない。その他の具体例は、本開示の範囲に包含され得る全ての改変構成、均等構成、及び代替構成に亘るものである。尚、図面に関連した以下の説明の全体を通して、互いに同一ないし同等の要素、即ち、見比べて互いに同一構成であり得ると認められ、ないしは、改変形態とすることで互いに同一構成と成し得ると認められる要素には、同一ないし同等の参照符号を付すようにしている。
【0032】
また、ある要素と別のある要素とが互いに「結合」又は「連結」されていると記載するとき、それら2つの要素は、直接的に結合又は連結されていることもあれば、それら要素の間に介在する1つまたは複数の中間要素を介して結合又は連結されていることもあり得る。また、要素Aと要素Bとを「又は」という用語で結んだ単語列は、当該単語列が、あり得る全ての組合せ(即ち、Aのみ、Bのみ、それにA及びB)のうちの特定の組合せだけを意味している旨を明示的にせよ暗示的にせよ確定的に記載しているのでない限り、当該単語列は、それらあり得る全ての組合せのいずれをも意味し得るものである。また、この単語列の意味を別の表現形式で表すものとして「A及びBの少なくとも一方」や、「A及び/又はB」という表現形式がある。また、3つ以上の要素についても、それら要素の組合せを表すために、必要に応じて同様の表現を用いる。
【0033】
また、本明細書において、特定の具体例を説明するために用いる言語表現は、その他の具体例までをも規定するものではない。例えば、ある要素が単数的表現で記載されている場合、ないしは、ある要素をただ1つだけ用いる旨が明示的にせよ暗示的にせよ確定的に記載されている場合であっても、その他の具体例のうちには、複数個の要素を用いることで、ただ1つだけの要素により提供される機能と同等の機能が提供されるようにしたものがあり得る。また逆に、以下の説明において、複数個の要素を用いることで、ある機能が提供されると記載されている場合であっても、その他の具体例のうちには、ただ1つだけの要素によって、ないしは、ただ1つだけの機能主体によって、同等の機能が提供されるようにしたものがあり得る。また、本明細書に用いる「~を備える」、「~から成る」などの動詞による表現は、それら動詞の目的語として記載されているところの特徴、数値、ステップ、演算子、プロセス、要素、コンポーネント、及び/又は、それらのものの集合体、等々が存在していることを意味するものであって、それら動詞の目的語として記載されているもの以外の特徴、数値、ステップ、演算子、プロセス、要素、コンポーネント、及び/又は、それらのものの集合体、等々が存在しないことや付加されないことを意味するものではない。
【0034】
本明細書中で使用される全ての用語(技術用語及び学術用語を含む)は、本明細書においてその意味を特に定義する場合を除いて、具体例に関連した分野における標準的な意味で使用されるものである。
【0035】
本開示における少なくとも幾つかの実施例は、点回折発生源に関する収録データにデータ処理を施すことで、物体に関わる地下構造の特性解析を行うものである。また、この地下構造の特性解析には、例えば、互いに分離された音波信号源と複数の受振器とから成るシステムなどが用いられる。また、実施例のうちには、海底堆積物の中に埋在する点回折発生源を検出するために、地震波データ/音波データにデータ処理を施すようにしたものがある。そのデータ処理は、一連のデータ処理ステップから成る。それらデータ処理ステップは、データ収録ジオメトリに関する幾つかの前提条件(それら前提条件は本明細書に記載するデータ処理ステップに従って処理を施す上での前提条件である)を満足する地震波データ/音波データに適合したものである。また、以下に記載するデータ処理は、特定のデータ収録装置を用いて収録したデータに適用するのに適したものであるが、ただし、そのデータ処理ステップは、その他の音波データ/地震波データにも適用可能なものである。このデータ処理を適用することに関しては、地震波データという用語と音波データという用語とは同義語であり、なぜならば、それらデータの周波数成分は、一般的に地震波と音波との境界領域であると認識されている周波数領域(約100Hz~1000Hz)の領域内にあるからである。ただし、以下に説明するデータ処理の原理は、この周波数領域の領域外にある地震波データ/音波データにも適用可能である。
【0036】
ここに提示する概念の少なくとも幾つかの実施例では、音波場(地震波場)の信号データの収録において、その収録データを(前記受振器信号における)時系列データとして扱うこと、データ収録ユニットの位置と音波信号源(震源)の位置とのいずれもが既知であること、それに、音波信号源(震源)の動作とデータ収録の動作とが同期していることを前提条件としている。後に更に詳細に説明する一連のステップは、地下構造モデルの取得にまで至るステップであり、その地下構造モデルは、トレース群の統計的評価によって得られる。また、上述したデータ処理の結果として得られるのは、探査対象領域の地震波信号データ/音波信号データのデータボリュームであり、このデータボリュームによれば、点回折発生源が周囲地下構造中のどの3次元空間位置に存在しているかを、その信号データの振幅によって、即ち、信号強度によって識別することが可能である。また、この後、このデータボリュームに基づいて、探査対象領域に埋在する点回折発生源の位置を示す地下構造図を作成することも可能である。
【0037】
回折波には重要な情報が含まれているにも関わらず、これまで物理探査の分野には、音波場(地震波場)のうちの回折波の部分を地下構造の探査に利用し得るようにした確立した技術と言えるものは殆ど存在していなかった(これについてはLanda及びKeydarによる共著、1998年刊、"Seismic monitoring of diffraction images for detection of local heterogenities"、それに、Moser及びHowardによる共著、2008年刊、"Diffraction imaging in depth" を参照されたい)。回折波の発出点となり得るのは、漂石などの地下構造における不均質要素や、堆積物層の表層部分に埋もれている不発弾などである。そのような物体や地下構造における不均質要素は、その物理的特性が周囲の地下構造の物理的特性と異なりしかもその大きさが適宜の大きさであるならば、二次震源となって音波場(地震波場)に球面波状の散乱を発生させる(これについてはWu及びAkiによる共著、1985年刊、"Elastic wave scattering by a random medium and the small-scale inhomogeneities in the lithosphere"、及び、1988年刊、"Scattering and Attenuations of Seismic Waves, Part I" における"Introduction: Seismic Wave Scattering in Three-dimensionally Heterogeneous Earth" を参照されたい)。多くの場合、この点に関する最も重要な物理的特性は、物体の内部での、及び周囲の地下構造の内部での、密度及び地震波伝播速度である。また、地震波が物体を励振して径方向共振を発生させるのは、その物体の大きさが地震波の波長に適合している場合である。即ち、径方向共振が発生するのは、物体の半径寸法が地震波の波長の20%~200%の範囲内にある場合である。ここに説明している本開示によれば、データ収録に関するパラメータの値を地下構造図に表そうする物体に適合した値に設定して音波場(地震波場)のデータを高精度で収録することで、海底に埋在する様々な大きさの物体や不均質要素を地下構造図に表すことができ、またそれらの特性を判別することができる。
【0038】
一般的に述べるならば、海底に埋在する物体の位置を特定するための方法は幾つも存在しており、それら方法は夫々に特有の利点と欠点とを有している。ただし総じて言えば、現在までに確立されている地震波探査法/音波探査法はいずれも、物体(0.5m~5m)を信頼性をもって地下構造図に表すために必要な空間解像度を提供できないか、或いは、堆積物中への音波信号の貫入深さが浅すぎるかのいずれかである。不発弾を検出するために用いられる磁気探査法は信頼性が低く偽検出を生じやすい。説明の重複を避けるべく、以下の説明では、物体を検出するための地震波信号データ/音波信号データのデータ処理の別方法について触れておく。
【0039】
大雑把に言えば、地震波信号データ/音波信号データに基づいて点回折を信号データ図に出現させるための手法には2通りの手法がある。その1つは、信号データにマイグレーション処理を施す際にフィルタを適用するというものであり、もう1つは、生信号データセットから音波場(地震波場)の一部分のデータだけ抽出するというものである(これについてはMoser及びHowardの共著である2008年刊の上掲文献、及び、Sturzuらの共著、2014年刊、"Diffraction imaging using specularity gathers" を参照されたい)。マイグレーション処理アルゴリズムは回折を信号データ図に出現させる手法の1つである。マイグレーション処理は、地震波信号データを解析するためのデータ処理ステップの1つであって、地下構造の中に存在する傾斜した反射面の位置をその真正の位置へシフトさせることで、回折波がその発生点へ逆投影されるようにするものである(これについてはYilmaz著、1991年刊、"Seismic data processing"(物理探査学会)を参照されたい)。このステップは、地震波場図から地下構造図を作成するために実行される。マイグレーション・フィルタを用いて回折を地下構造図に出現させるには、標準的なマイグレーション処理を実行した上で、局部的な反射は平面で近似できるという原理を適用する。この近似によって、反射を抑制し得るフィルタを決定することができる。そしてこのフィルタを適用して再度のマイグレーション処理を施すことで、回折だけを、地下構造図中の回折発生点の位置に出現させることができる(これについてはStuzuらの共著である2014年刊の上掲文献を参照されたい)。尚、以上の処理に関しては、マイグレーションの開き角と、その基礎となる地震波伝播速度モデルとが、しばしば重要なファクタとなる。また、マイグレーション処理アルゴリズムは、通常、リアルタイムでのデータ処理が不可能であり、なぜならば、マイグレーション処理を実施するためには全てのデータを含む完全なデータセットが存在していなければならないからである。更に、マイグレーション処理アルゴリズムは、実際にそのアルゴリズムを利用する処理方法によっては、比較的大きな計算処理負荷を免れないということもある。
【0040】
音波場(地震波場)の信号データの中から回折信号成分(回折波に起因する信号成分)を抽出するには、通常、一連のデータ処理ステップが実施される。回折信号成分は反射信号成分(反射波に起因する信号成分)と比べてはるかに微弱であるため、本手法においては、通常、反射信号成分を処理対象とした信号抑制処理を施すようにし、この信号抑制処理が施された後には、データセットには回折信号成分とノイズ成分(ノイズに該当する信号成分)だけが残留するはずである。ただし、多くの場合、この反射信号成分に対する信号抑制処理は完璧な抑制にまでは至らず、反射信号成分は減衰はするものの部分的にデータセットに残留することになる。
【0041】
回折信号成分を信号データ図に出現させるためのもう1つの重要事項は、信号データのソート処理である。ソート処理の目的は、複数の受振器で収録された、ある1つの回折に対応した回折信号成分を含む、全ての時系列データをグループ化して1つのグループにまとめることにある。音波(地震波)の反射に関しては、音波信号源(震源)と受振器との間の中点が互いに近接している複数のトレースが1つにまとめられる。その中点は近似的に反射発生点であると見なされる。この種のソート処理は、回折信号成分を信号データ図に出現させるためにもしばしば用いられる。しかしながら、統計的な観点からすれば、そうすることには殆ど意味がない。回折の発生は、新たな二次音波信号源(二次震源)の発生であり、そのため、少なくとも幾つかの具体的状況下では、回折発生点から所定距離以内にある収録点で収録された全ての時系列データが1つのグループにまとめられることになる。そして、その所定距離は、例えば、音波信号源(震源)がその回折発生点へ音波信号を照射しているか否か、距離の増大と共に信号が減衰した状況下でもSN比が十分な大きさを有しているか否か、並びに、受振器の収録時間が十分な長さであるか否かに応じて決まるものである。尚、1つのトレースが複数の回折信号成分を含んでいることもあり、従って1つのトレースが複数のグループに関連付けられることもある。
【0042】
本明細書に記載する手法は、地下構造の中に物体が埋在していればその物体は地震波の後方散乱を発生させ、その散乱波は例えば球面波などの形を取るという事実に基づくものである。適切な制御下において地震波の生成とその地震波の収録とを行うならば、走時補正と統計的解析とを行う探査方法によって、その物体が埋在している位置を特定することができる。
【0043】
図1a及び
図1bに示したのは、海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法の実施例のフローチャートである。本方法は受振器信号を取得するステップ110を含む。前記受振器信号は、複数の音波信号の、海底に埋在する前記1つ又は複数の物体での散乱に基づく信号である。また、前記受振器信号は複数の受振器により生成される信号である。本方法は更に、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して検出グリッドのグリッド点に割当てるステップ120を含む。前記検出グリッドは、該検出グリッドのグリッド点において前記1つ又は複数の物体の位置を特定するように設定されたグリッドである。本方法は更に、前記受振器信号の複数の信号成分に前記検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を施すステップ130を含む。本方法は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とするステップ140を含む。本方法は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行う検出ステップ190を含む。以上によって、前記1つ又は複数の物体の検出が、前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に基づいて行われる。
【0044】
図1cに示したのは、本方法に対応した、海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための装置10の実施例のブロック図である。本装置10は受振器信号を取得するためのインターフェース12を備える。本装置10は更に、前記インターフェース12に接続したデータ処理部14を備える。前記データ処理部は
図1a及び/又は
図1bの方法を実施するように構成されている。例えば、前記データ処理部は、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して検出グリッドのグリッド点に割当てるように構成されている。前記データ処理部は更に、前記受振器信号の複数の信号成分に前記検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を施すように構成されている。前記データ処理部は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とするように構成されている。前記データ処理部は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うように構成されている。
【0045】
以下の説明は、
図1a及び/又は
図1bの方法に関する説明であると共に、当該方法に対応した
図1cの装置10に関する説明でもある。
【0046】
本開示にかかる実施例のうちには、海底に埋在する1つ又は複数の物体を検出するための方法、装置、それにコンピュータプログラムに関するものがある。尚、本開示に関して使用する「海底」という用語は、限定的に解釈なされてはならず、数々の実施例は、河川床や湖底なども含めた様々な水底に埋在する物体を検出するために用い得るものである。従って、本件特許出願に関して、「海底」という概念は広く一般的に水底を包含するものであり、それゆえ「河川床」、「湖底」、「湖床」などをも含むものである。
【0047】
また、本システムで検出しようとする物体は、例えば、海底の底面下ないし河川床の床面下に埋在する物体などであり、また、例えば、海底の堆積物の中に埋在する物体などである。本システムは、例えば、海底の底面下10m以内(或いは15m以内、或いは20m以内)に埋在する1つ又は複数の物体を検出するように構成することができる。また、本システムの検出深度は、例えば、海底の底面下10m以上(或いは15m以上、或いは20m以上)の深度とすることができる。前記1つ又は複数の物体としては、例えば、海底に埋在する漂石などの(大寸法の、ないしは礫状の)岩石が想定されることもある。また、別の具体的状況例として、前記1つ又は複数の物体としては、例えば、不発弾などが想定されることもある。それら物体は、例えば、海底の地中に貫入した構造の基礎を構築して、その基礎の上に風力発電用風車や掘削プラットフォームなどの構造物を建設しようとする場合などに、危険要因となり得るものである。実施例は、他の方式とは異なり、そのような物体を検出するために、音波信号源から送出した音波信号の個々の物体での反射を利用するのではなく、音波信号の個々の物体での散乱を利用するものである。散乱現象を利用して検出を行うには、検出に用いる音波信号の波長を、検出しようとする物体の大きさに適合した長さにするとよい。また、検出に利用し易い広角の散乱を得るには、その音波信号の波長を、検出しようとする物体の大きさと同程度の長さにするとよい。
【0048】
本方法は受振器信号を取得するステップ110を含む。実施例によれば、前記受振器信号は複数の受振器により生成される信号である。前記複数の受振器に所属する個々の受振器は、例えばハイドロホンなどであり、ハイドロホンとは水中音の録音や聴取などを行うために水中で使用可能としたマイクロホンである。また、前記複数の受振器は、例えば、前記複数の音波信号の、前記1つ又は複数の物体での(場合によってはそれに加えて更に海底での)散乱によって(場合によってはそれに加えて更に反射によって)形成された波面を感知し、その感知した波面に基づいて前記受振器信号を生成するように構成されたものであればよい。従って前記複数の受振器は、少なくとも前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に基づいて、前記受振器信号を生成するように構成されたものである。
【0049】
通常、前記複数の受振器は、前記音波信号の散乱だけでなく反射もまた信号として感知する。その場合に、散乱に起因する信号成分と反射に起因する信号成分とは、前記データ処理部において分離することができる。換言するならば、前記受振器信号は前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱に起因する信号成分である第1信号成分を含み得る。また、前記受振器信号は前記複数の音波信号の反射に起因する信号成分である第2信号成分を含み得る。そして、本方法は、前記第1信号成分に対して相対的に前記第2信号成分を抑制するステップ115を含むものとすることができる。ステップ115に続く一連のステップのうちには、例えば、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化するステップ、走時補正を施すステップ、走時補正が施された複数の信号成分を重ね合わせて重合信号とするステップ、及び/又は、前記1つ又は複数の物体の検出を行うステップなどがあり、それらステップは、例えば、前記第1信号成分に基づいた(前記第1信号成分のみに基づいた、又は、主として前記第1信号成分に基づいた)ステップとすることが可能である。換言するならば、本方法は、前記受振器信号に含まれる、前記複数の音波信号の(例えば海底などでの)反射に起因する信号成分を(例えばその受信電力が少なくとも50%減衰するまでに)抑制するステップ115を含むものとすることができる。反射に起因する信号成分(反射信号成分)の抑制は、反射信号成分に関する走時補正の後に特異値分解(SVD)を適用する手法(これについては Bansal及びImhofによる共著、2016年刊、"Diffraction enhancement in prestack seismic data"を参照されたい)を用いることで良好な結果が得られる。特異値分解によって走時補正の補正量を逆算することで、反射を含まない本来のトレースを復元することができる。反射信号成分を抑制するための手法としてはその他の手法も考えられるが、その他の手法を用いて抑制した場合でも、それ以後の処理手順には変わりはない。以上を換言するならば、前記第2信号成分(即ち反射信号成分)を抑制する前記ステップは、例えば、前記受振器信号に走時補正を施したものに特異値分解を適用するステップとすることができる。
【0050】
幾つかの実施例によれば、ここに具体例として記載する課題解決の手順は、後方散乱が発生している音波場(地震波場)のサンプリングを十分に高いサンプリング密度で行うことで大きな利点が得られるものとなっている。それゆえ以下に説明する具体的事例では、高いサンプリング密度が得られるように、人工的に地震波を発生させる3次元空間内位置(ショット位置)と、その地震波のデータ収録をする3次元空間内位置(受振器位置)とが、いずれも非常に高精度で既知であるものとする。また更に、地震波を発生させる時刻と、個々のデータ収録を開始する時刻とを、同期させることができるものとする。尚、音波場(地震波場)のサンプリングを十分に高いサンプリング密度で行うというのは、例えば、空間エイリアシングと時間エイリアシングとのいずれも発生しないようにサンプリングすることをいい、より具体的には、例えば、空間サンプリングと時間サンプリングとのいずれにおいても1波長を少なくとも2箇所でサンプリングすることなどをいう。
【0051】
少なくとも幾つかの実施例では、前記音波信号の波長を、前記1つ又は複数の物体の想定寸法に適合する長さにしている。前記1つ又は複数の物体の想定寸法は、例えば、検出の目的に応じて予め与えられるものである。例えば、漂石を検出しようとする場合には、砲弾を検出しようとする場合や、沈没船を検出しようとする場合とは異なる波長が用いられる。例えば、前記複数の音波信号(即ち、地震波信号)の波長は、前記1つ又は複数の物体の想定寸法と同程度の長さにするのもよい。また、その場合に、前記複数の音波信号の波長は、前記1つ又は複数の物体の想定寸法の10%以上(或いは20%以上、或いは30%以上、或いは50%以上)の長さとするのもよい。また、前記複数の音波信号の波長は、例えば、前記1つ又は複数の物体の想定寸法の1000%以下(或いは800%以下、或いは500%以下)とするのもよい。本システム及び本方法は、多くの場合、例えば漂石や不発弾のような比較的大きな物体の検出に用いられることがある。例えば、前記複数の音波信号の波長は、50cm以上(或いは80cm以上、或いは100cm以上、或いは150cm以上)の長さとすることもある。また、前記複数の音波信号の夫々の波長を互いに略々同じ長さとし、それら波長どうしの長さの差を例えば5%以下とするのもよい。また、前記複数の受振器における隣り合う受振器どうしの間の離隔距離を前記複数の音波信号の波長に応じた長さにすることで、エイリアシングの発生を回避することができる。それには、例えば、前記複数の受振器における隣り合う受振器どうしの間の離隔距離を前記複数の音波信号の波長の半分以下の距離とするのもよい。
【0052】
探査作業を実施するときには、人工的に発生させた地震波が到達するすべての位置において、上述した特性を備えた物体が当該位置に存在しているか否かのチェックを行う。それを行う上で制約要因となるのは、走時の延伸を伴う地震波信号の減衰と、物体の音波放出特性である。また、探査対象領域内の点回折発生源が存在している可能性のある全ての位置をチェックするために、グリッド(前記検出グリッド)を設定して、このグリッドの中で音波信号データに施すデータ処理の計算を行う。尚、以下の説明では、慣用に従って個々のグリッド点(前記検出グリッドのグリッド点)をCFPと称する。
【0053】
図2に示したのは、コモン・ミッド・ポイント(CMP、共通中点)及びコモン・フォールト・ポイント(CFP、共通散乱発生点)のソート処理の原理を説明するための模式図である。各々のCMPにおいて、前記複数の受振器212の夫々の時系列信号データのうち、音波信号源(震源)214と受振器212との間の中点215が互いに同一の点に位置する複数の時系列信号データが重ね合わされ、これによって、各々のCFP220において、点回折発生源222から伝播する二次球面波を含む全ての時系列データが重ね合わされる。(尚、参照番号224は音波信号源(震源)を示し、参照番号226は受振器を示す)。
【0054】
続く次のステップでは、複数のCFPを次々と所定の手順に従ってチェックして行く。複数のCFPは前記検出グリッドの複数のグリッド点に夫々対応している。以下に説明するステップは、前記検出グリッドの複数のグリッド点の各々について実行するステップである。例えば、以下に説明する一連のステップのうちの少なくとも一部のステップについては、
図3A~Hに示して以下に詳述するように、各々のCFPごとに同じステップが実行されるために反復して実行される。即ち、下記のステップ120~ステップ190が前記検出グリッドの複数のグリッド点の各々について実行される。より詳しくは、例えば、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化するステップ120、走時補正を施すステップ、走時補正が施された複数の信号成分を重ね合わせるステップ、それに、前記1つ又は複数の物体の検出を行う検出ステップが(また場合によっては更に、後述する任意に実行可能な幾つかのステップが)前記検出グリッドの複数のグリッド点の各々について(個別に)実行される。以上のプロシージャは課題解決の手段を探査方法とするものである。こうしてチェックされる位置に物体が存在していれば、音波信号の収録データに走時補正を施すことでコヒーレントな信号が生成される。走時補正により生成されるこのコヒーレントな信号によって、前記1つ又は複数の物体が検出されたことが示される。もしチェックされる位置に物体が存在していなければ、走時補正が施されてもコヒーレントな信号が生成されることはなく、そのことによって物体が検出されなかったことが示される。
【0055】
以下に模式図を参照しつつ、以上に概説した個々のデータ処理ステップについて更に詳細に説明する。
図3A~Hに示したのは、合成して作成した信号データに基づいた、夫々のデータ処理ステップにおける信号データ図である。図中にソース・レシーバ・オフセット(音波信号源受振器間距離)とあるのは、音波信号源(震源)と受振器との間の離隔距離であり、CFPまでの距離とあるのは、受振器からコモン・フォールト・ポイント(共通散乱点)までの離隔距離である。コモン・フォールト・ポイント(前記検出グリッドのグリッド点)は、散乱発生源(物体)が存在している可能性のある位置である。
【0056】
一連の信号データ図のうちの最初の図である
図3Aの信号データ図は、回折信号成分だけでなく反射信号成分も含んでいる受振器信号を示している。尚、
図3Aに受振器信号の具体例として示した信号データ図は、合成して作成した、生信号データ(生ショットギャザー)の受振器信号である。この生信号データの信号データ図には、反射信号成分が双曲線的な形で出現している。
図3Aの信号データ図には更に、モデルアーチファクト302と、海底での反射信号成分304と、その他の様々な反射信号成分及び回折信号成分から成る信号成分群306とが出現している。海上地震探査によって得られる信号データセットでは、通常、例えばこの信号データ図に「海底」と記して示した海底での反射をはじめとする、様々な反射の信号成分が最も顕著な形で出現する。また、1回のショットに対して収録された全ての音波信号を表す生信号データ図には、反射信号成分は双曲線的な形で出現する。生信号データには言うまでもなく回折信号成分が含まれているが、ただし、回折信号成分は振幅が小さい上に反射信号成分とは伝播経路が異なるため、生信号データの信号データ図には認識困難な形でしか出現せず、場合によっては全く認識不可能なことすらある。尚、
図3A及び
図3Bのx軸はソース・レシーバ・オフセットの値(単位m)を示している。また、
図3A~Hのy軸はTWT(往復走時)の値(単位ms)を示している。
【0057】
図3Bは、音波信号の収録データ(ショットギャザー)に含まれる回折信号成分を相対的に増強する処理を説明するための図である。この相対的信号増強処理は、例えば、前記受振器信号に含まれる反射信号成分を抑制するステップ115を実行することで達成される。ステップ115の目的は、反射信号成分と比べて微弱な回折信号成分が、反射信号成分に対して相対的に増強されるようにすることにある。それには例えば、反射信号成分の方を減衰させればよい。そのようなデータ処理が可能であるのは、回折信号成分と反射信号成分とでは走時曲線が異なるからである。
図3Bは反射信号成分を減衰させた結果を示している。反射信号成分が減衰したことによってノイズ部分も顕著になっているが、何よりも回折信号成分312が顕著となっており、ただし、この回折信号成分312は、ソース・レシーバ・オフセットに対してプロットした信号データ図である
図3Bには、かなり錯綜した印象を与える形で出現している。同図に示したように、反射信号成分を抑制した後でも、1回のショットに関して収録された全ての音波信号を表した信号データ図には、回折信号成分は明確には認識し難い形でしか出現していない。もし回折信号成分の強度が大きければ、このステップ115は実行せずにとばして構わない。モデルアーチファクト314は、
図3Bにも認識可能な形で出現している。
【0058】
続いて、前記受振器信号の複数の信号成分を前記検出グリッドのグリッド点に割当てる処理を実行する。尚、以下の説明では、前記検出グリッドのグリッド点をCFP(共通散乱点)と称することがある。
図3Cは、取得した地震波データを(即ち、前記受振器信号の複数の信号成分を)、コモン・フォールト・ポイントへ割当てる処理(即ち、前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して(1つのグループにして)前記検出グリッドのグリッド点に割当てる処理)である、ソート処理を説明するための図であり、このソート処理は、例えば、Kanasewich及びPhadkeによる共著、1988年刊、"Imaging discontinuities on seismic sections" に記載されているようにして実施することができる。
図3Cの信号データ図は、信号を、受振器とCFPとの間の離隔距離(この離隔距離は
図3Cではx軸で示されており、
図3Dでも同様である)に対してプロットしたものであり、回折信号成分322は双曲線的な形で出現しているのが見て取れる。モデルアーチファクト324は、この
図3Cの信号データ図でも出現しているのが見て取れる。
図3Cの信号データ図は、CFP収録データ(CFPギャザー)の中の回折信号成分を示すものである。
【0059】
統計的解析を可能にするためには、また、良好な信号データ図が得られるようにするためには、例えば、ある位置に存在している物体での回折に起因する回折信号成分を含んでいる全てのショット及び全ての受振器に関するデータを重ね合わせて、当該位置に対応するCFPに割当てるようにする。換言するならば、前記受振器信号には、前記複数の受振器で得られた信号成分が含まれ、また、複数回のショットで(複数の音波信号で)得られた信号成分が含まれており、それら信号成分を前記検出グリッドのグリッド点に割当てるようにするのである。
【0060】
音波信号を収録した収録データの信号成分をCFPに割当てる処理の手法としては、少なくとも3通りの手法が採用可能である。この割当て処理はソート処理と呼ばれるものであり、収録データをCFP重合信号の形で信号データ図に表すための処理であって、その割当てはCFPとデータ収録に関与した受振器との間の離隔距離に基づいて行われる。換言するならば、前記検出グリッドのある1つのグリッド点から前記複数の受振器に所属する夫々の受振器までの離隔距離及び前記複数の音波信号の発生源である少なくとも1つの音波信号源までの離隔距離に基づいて前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドの当該グリッド点に割当てるものである。
【0061】
採用可能な第1の手法は、いわゆる実開口処理(実開口に基づいた処理)である。この手法では個々のショットごとに個別にデータ処理を行う。即ち、個々の前記音波信号ごとに個別に前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドのグリッド点に割当てる。そのためには、受振器と音波信号源の位置に応じて、複数のCFPから成る前記検出グリッド(このグリッドは例えば直交格子状などに設定される)を、CFPから音波信号源までの離隔距離が使用する音波信号源の特性(例えば開き角)に応じて定まる最大到達距離に収まる範囲内で延展するグリッドとなるように設定する。そうすることで、データ処理を施すべき複数回のショットのうちの1回のショットで得られた、全ての受振器でのトレースが(即ち収録データが)前記検出グリッドのCFP(グリッド点)に割当てられる。
【0062】
採用可能な別の手法として、例えば、合成開口処理を採用することもでき、この手法は、合成開口を利用してデータ処理を実施するものである。合成開口を利用するには、音波信号を複数回に亘って送出し、合成処理によって移動方向における受振器の個数を増大させるようにする。従ってこの手法では、所定回数に亘って順次実行する複数回のショットで得られる前記受振器信号の信号成分を重ね合わせる。換言するならば、前記受振器信号の複数の信号成分を、所定の時系列を成す所定回数の時点に亘ってグループ化して前記検出グリッドのグリッド点に割当てるのである。また、受振器の位置とショット注入点の位置とに応じて、CFPグリッド(前記検出グリッド)の延展領域を設定する。そして、複数回のショットの収録データの複数の信号成分を重ね合わせて生成したトレースを夫々のCFPに個々に割当てる。
【0063】
採用可能な更に別の手法として、前記受振器信号の複数の信号成分を、前記検出グリッドの夫々のグリッド点までの距離だけに基づいて割当てるという手法がある。この方法では、ある1つのCFPまでの離隔距離が所定距離以内であるような全てのトレースを、当該CFPに割当てる。換言するならば、前記検出グリッドのある1つのグリッド点から前記複数の受振器に所属する夫々の受振器までの離隔距離及び前記少なくとも1つの音波信号源までの離隔距離が所定長さの離隔距離であるような前記受振器信号の複数の信号成分をグループ化して前記検出グリッドの当該グリッド点に割当てるものである。尚、この離隔距離の所定長さは、予想される回折双曲面の大部分を包含し得るだけの長さとすべきである。ただしこの離隔距離の所定長さが長すぎると信号品質が低下する。この離隔距離の所定長さは、生データに基づいて、或いは、生データに信号増強処理を施して得られたデータに基づいて、回折双曲面の大きさを算出することにより、有用な長さに定めることができる。
【0064】
続いて、前記検出グリッドのグリッド点に割当てられた前記受振器信号の複数の信号成分に、前記検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を施す。即ち、互いに重ね合わされて1つの重合信号とされることになる前記受振器信号の複数の信号成分に対して、それら信号成分どうしの間に存在する、夫々の信号成分を生成した受振器から割当てられたグリッド点までの離隔距離の差違の影響を補償するべく、前記検出グリッドの当該グリッド点に対する夫々の受振器及び音波信号源の位置付けを定める。
図3Dは、前記受振器信号の走時補正を説明するための図である。
図3Dに示したように、適切な走時補正が施されることで、前記受振器信号の複数の回折信号成分が互いにコヒーレントな地震波事象となる。この走時補正の目的は、ある1つのCFPの位置に存在している物体での回折に起因する信号に対して、全てのトレースにおいて当該信号が同時に発生しているようにするための補正を施すことにある。
【0065】
図3Dにおいて、参照番号332は走時補正が施された回折信号成分、参照番号334は多重回折信号成分(多重回折に起因する信号成分)、そして参照番号336はモデルアーチファクトである。
図3Dは、CFP収録データ(即ち、CFPギャザー、回折ムーブアウト(DiffMO))に含まれている回折信号成分に、走時補正が施されたものを示している。
【0066】
採用可能な走時補正の手法には様々な手法がある。例えば、伝播速度一定とした走時補正の手法もあり、これは、地震波伝播速度が一定であるとの仮定に立って走時補正を施すものである。この手法では、地震波伝播速度が一定であると仮定するため、二次式で表される走時補正式が簡明化される。
【0067】
以下に説明する伝播速度一定とする走時補正は、点回折の走時補正の値を算出するための走時補正式を二次式とするものである(これについては、例えば、Yilmaz著、1991年刊、"Seismic data processing"、Sheriff及びGeldartによる共著の1995年刊の文献、それに、Clearboutによる2010年刊の文献を参照されたい)。その走時補正は、回折発生源の三次元空間内での位置D=(xd, yd, zd)と、受振器の三次元空間内での位置R=(xr, yr, zr)と、音波信号源(震源)の三次元空間内での位置S=(xs, ys, zs)と、地震波伝播速度の二乗平均平方根vrmsとに基づいて、下記の式5に従って走時補正の値を算出することで行われる。
【数5】
上記の式5は、音波信号源(震源)及び受振器が海面上に位置するという条件を組込むことで、簡略化することができる。この条件によってzrとzsの両方が「0」になる。更にこの条件によって、音波信号源(震源)及び受振器の位置が下記の式6に示すようにそれら音波信号源(震源)及び受振器からCFPまでの距離で表されるようになる。
【数6】
かくして簡略化された走時補正式は下記の式7で表される。
【数7】
上記の式7によれば、垂直走時の値は下記の式8で表される。
【数8】
この垂直走時の値は、ある1つのCFPに存在している1つの点回折発生源に関して一定であり、それゆえ上記の式7から、下記の式9で表される回折ムーブアウト補正のための走時補正式が得られる。
【数9】
図3Dに示したように、ある1つのCFPで発生した回折の複数の信号成分は、この走時補正による走時補正が施されることで、互いに同格の事象に、即ち、互いにコヒーレントな事象になる。
【0068】
走時補正のための別の手法として、例えば、地震波伝播速度の値を未知数としてラドン変換を利用する手法も採用可能である。上述した走時補正の手法では、平均地震波伝播速度の値として仮定する値が極めて重要な変数となる。もし、その値を如何なる値に仮定したらよいのか分からなければ、別法として、伝播速度の可能範囲に応じて前記走時補正を実施すればよい。換言するならば、地震波伝播速度の可能範囲に応じて前記走時補正を実施することが可能である。
【0069】
考察対象のCFPの信号データに回折信号成分が含まれているときには、平均伝播速度の値として最適値を想定して走時補正を実施したときに、当該CFPの位置における重合信号の強度は最大となる。従って、例えば、地震波伝播速度の可能範囲に応じて前記走時補正を実施するようにし、その際に、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の極大値の大きさに基づいて、地震波伝播速度の前記可能範囲の中から前記走時補正に用いる地震波伝播速度を選択するとよい。この方法を採用することで、回折発生源である物体の位置と平均地震波伝播速度とを判定することができる。この走時補正の方法は、ラドン変換を用いて実行されるものであり、なぜならば、この走時補正の方法では、信号データ空間から伝播速度データ空間への変換が行われるからである。
【0070】
更に別の方法として、既知の地震波伝播速度の値を用いて走時補正を施すことも可能である。殆どの場合、走時の値が大きくても地震波伝播速度vrmsは一定であるとの仮定は成り立たず、地震波伝播速度が一定でないのは、例えば、圧縮された堆積物では地震波伝播速度が高まっていることなどによる。従って、地震波伝播速度は走時の値の関数と見なすのがよく、その関数はvrms(TWT)で表される。上で示した記法に従って数式で表すならば、Guigneらの2014年刊の文献などに記されているように、回折に関する走時曲線は下記の式で表される。
【数10】
上記の式において、TWT
2 (d
s
2)の項は音波信号源(震源)から処理対象のCFPまでの走時の値を、またTWT
2 (d
r
2)の項は受振器から処理対象のCFPまでの走時の値を、夫々、個別に表している。また、走時の値を表すこの式はvrms(TWT)という関数の形で表すことができる(例えばYilmazの1991年刊の文献などを参照されたい)。従って、検出グリッドのグリッド点に関する走時補正を実施する際に、複数の受振器の位置と検出グリッドのグリッド点に対応した位置との間に存在する複数の地質層の地質に夫々が適合した複数の地震波伝播速度を用いることができる。
【0071】
走時補正処理に続いて、CFPの中で複数のトレースを加え合わせる(重ね合わせる)処理を行う(即ち、前記検出グリッドの複数のグリッド点の各々ごとに個別に、当該グリッド点に関する複数のトレースを加え合わせる)。またその際には例えばトレースの区分けなども行われる。複数のトレースが重ね合わされて生成される単一の重合トレースは、前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた重合信号に対応したトレースであり、この重合信号は、その振幅が走時の値に対してプロットされた信号図で表される。
図3Eから明らかなように、走時補正が施された複数のトレースが重ね合わされたならば、そのコヒーレントな事象(即ち、重ね合わされた複数の回折信号成分342)の発生時刻に、明確に認識可能な信号増強部分が出現する。従って、前記受振器信号の複数の信号成分の重ね合わせ(重合)が行われた時点で既に(即ち、それ以上のデータ処理を実施するまでもなく)、前記1つ又は複数の物体の検出を行うことができ、換言するならば、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の振幅に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うことができる。
図3E~
図3Hにおいて、走時の値(TWT)としているのは垂直走時の値であるため、もし速度モデルが存在しているのであれば、その速度モデルを用いてこの走時の値を深度の値に変換することができる。この変換ステップは、統計的解析のための最初のステップであり、例えばノイズを抑制して信号を増強するなどの目的で実行されることもある。その場合には、回折信号成分以外のその他全ての信号成分はノイズとして扱われる。更に、音波信号が三次元空間の中へ広がって行くことに伴うエネルギ低下を補償する(球面発散補正)ために、個々のトレースにスケーリングを施す処理を実施するのもよい。換言するならば、本方法は、
図1bに示したように、前記1つ又は複数の物体のうちのより遠隔に位置している物体での散乱に起因する信号成分に信号増強処理を施すために、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に(例えば球面発散補正などを用いて)スケーリングを施すステップ145を含むものとすることができる。尚、参照番号344で示したのは、音波が回折した後に更に反射するなどして発生した多重回折に起因する信号成分(多重回折信号成分)である。
図3Eはx軸が重合信号の振幅を示すようにプロットしたグラフであり、その振幅の範囲は-4x10
-9~+4x10
-9である。
【0072】
走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号をより認識しやすくするために、前記重合信号のいわゆる包絡線を算出するようにするのもよい。換言するならば、本方法は、任意に実行するステップとして、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の振幅の包絡線を算出するステップ150を含むものとすることができる。この包絡線に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うようにするとよい。
図3Fは任意に実行するステップである前記重合信号の包絡線を算出するステップを説明するための図である。
図3Fに示したように、任意に実行するステップである包絡線を算出するステップを実行することで、前記重合信号の振幅を示す信号図が単純化されて、単一の極大値352を有する信号図が得られる。尚、信号解析には位相情報を含めることも可能であり、信号図に示された点回折発生源に関する更なる情報を含むものとするのもよい。多重回折信号成分354は
図3Fの信号図にも出現している。
図3FはX軸が包絡線の値を示すようにプロットしたグラフであり、その目盛りは0~約4.5x10
-9の範囲を示している。
【0073】
更に、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に関するコヒーレンス関数値を算出するステップ160を実行するのも任意であり、コヒーレンス関数値とは、いわゆる関連度を表す値である。
図3Gは、任意に実行可能なステップであるコヒーレンス性の尺度としての関連度/コヒーレンスを(即ち、類似度値/コヒーレンス値を)
図3Dから(即ち、走時補正が施された信号から)算出するステップを説明するための図である。所定の時間ウィンドウにおける、同一のCFPにおける複数のトレースどうしの関連度、即ち類似度は、走時補正が施された複数の信号成分どうしのコヒーレンスの程度を表す尺度となる値に他ならない。換言するならば、前記コヒーレンス関数値は、前記受振器信号の、時間的に前後関係にある複数の信号成分どうしの間の類似度に基づくものとすることができる。より具体的には例えば、前記コヒーレンス関数値は、関連度解析に基づくものとすることができる。また、前記コヒーレンス関数値に替えて、例えば相関係数などの他の係数を使用することも考えられ、そうした場合にも、課題を解決する手段の手順は一般的に変わることはない。前記コヒーレンス関数値に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うようにすることができる。参照番号362は回折に起因する音波信号の信号成分である回折信号成分を示しており、参照番号364は多重回折信号成分を示している。
図3GはX軸が関連度の値(0~0.4)を示すようにプロットしたグラフである。
【0074】
また、前記重合信号の包絡線に、選択したコヒーレンス関数値(例えば関連度値)を乗じる(即ち重み付けする)ステップを実行するのも任意であり、そうすることで、
図3Hに示したようにアーチファクトが減衰して解像度が高まるため、回折信号成分(参照番号372)が認識容易となると共に、その回折信号成分と多重回折信号成分374との判別も容易となる。換言するならば、本方法は、前記包絡線に基づき且つ前記コヒーレンス関数値に基づいて、重み付けした包絡線を算出するステップ170を含むものとすることができ、その算出のためには例えば、前記包絡線に前記コヒーレンス関数値を乗じるようにすればよい。こうして前記包絡線に重み付けを施すことで、信号データ図の解像度及び表現力を改善することができる。例えば、こうして重み付けした包絡線に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行うことができる。ただしこの重み付けのステップは、発明の課題を解決するための手段にとって必須不可欠のステップではない。
【0075】
幾つかの実施例によれば、本方法は更に、前記1つ又は複数の物体で散乱した後に更に反射した音波信号を識別するステップ180を含むものとすることができ、この識別を行う過程では、例えば、複数の極大値のうちの、最大の極大値以外のその他全ての極大値を排除することなどが行われる。前記1つ又は複数の物体で散乱した後に更に反射した音波信号は、これを前記検出ステップにおいて考慮対象外とするのもよく、また、これを走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号にスケーリングを施すステップにおいて考慮対象外とするのもよい。
【0076】
本方法は更に、前記検出グリッドのグリッド点において、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号に基づいて前記1つ又は複数の物体の検出を行う検出ステップ190を含む。ここで、前記1つ又は複数の物体のうちのある1つの物体が検出されるのは、例えば、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の振幅の値が、又は、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の振幅の包絡線の値が、又は、当該包絡線に重み付けした重み付け包絡線の値が、閾値を超えた場合であり、或いはまた、例えば、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の振幅の極大値の位置が、又は、走時補正が施された前記受振器信号の複数の信号成分が重ね合わされた前記重合信号の振幅の包絡線の極大値の位置が、又は、当該包絡線に重み付けした重み付け包絡線の極大値の位置が、前記検出グリッドの1つのグリッド点と一致した場合、及び/又は、コヒーレントな信号の存在を示唆した場合である。また、本方法は、検出された前記1つ又は複数の物体に基づいて地下構造モデルを決定するステップを含むものとすることができる。
【0077】
前記1つ又は複数の物体の検出を行う前記検出ステップでは、前記複数の音波信号の前記1つ又は複数の物体での散乱(のみ)に基づいて検出を行えるため、例えば、前記複数の音波信号の反射を前記1つ又は複数の物体の検出を行う前記検出ステップにおいて考慮対象外とすることもでき、無視することもできる。
【0078】
以上に説明したデータ処理のプロシージャの大きな利点は、このプロシージャを実行することで、かなり高い解像度をもって、点回折だけを抽出して信号データ図に示すことができ、しかもそうするためのデータ処理をリアルタイムで実行可能なことにある。
【0079】
幾つかの実施例では、音波場(地震波場)のうちの、点回折波の部分以外の残り全ての部分をノイズと見なして可能な限り抑制するようにしている。上述した回折信号成分を相対的に強調する相対的信号強調処理においては、何よりも先ず、音波場(地震波場)のうちの圧倒的大部分を成している反射信号成分を強力に抑制するようにしている。幾つかの実施例では、それに続いて実施する走時補正処理において、点回折信号成分(のみ)に走時補正を施して、複数の点回折信号成分を互いにコヒーレントな事象にしている。こうすることで、それに続いて実行する重ね合わせ処理(重合処理)において、点回折信号成分(のみ)が強調されるという結果が得られる。任意に実施する処理である、重ね合わせにより生成した重号信号に関連度値で重み付けする処理は、これを実施することでノイズが更に抑制されるため、その処理結果はより解釈の容易なものとなる。そして、探査対象領域に対応したグリッドを構成している複数のCFPのうち、点回折が発生している位置及び深さに対応したCFP(のみ)に極大値が出現することになる。これによって、点回折の発生源となっている物体が複数存在している場合でも、それら物体の空間位置を特定することが可能となっている。また、CFPの各々に関して信号データから多数のトレースが得られ、それら多数のトレースに基づいて解析を行えるため、統計的手法により有意な結果を得ることができる。
【0080】
少なくとも幾つかの実施例では、極めて精細な解像度が得られ、これは、多数のCFPを包含する広範な領域から収録した信号データにソート処理を施して複数のトレースを抽出するようにしていることによるものである。更に加えて、例えば、利用可能な収録データは、探査対象領域をできる限り良好に把握することを保証し得ると共に、収録データの空間エイリアシングを小さく抑え得るものとなっている。データ収録を実施する際の音波信号源(震源)と受振器との間の離隔距離は、達成可能な空間分解能の精細度を左右する要因である。この離隔距離を大きくするほど、互いに近接した2つの点回折が別々のものであることを認識し得る点回折の発生点の間隔を短縮することができる。
【0081】
少なくとも幾つかの実施例では、リアルタイムの信号データ処理が可能となっており、これは、個々のショットごとに信号データの反射信号成分の抑制処理を施し、そして次々と得られるショットの信号データに合成開口処理を施すようにしていることによるものである。従ってそのような状況において、かかる処理手順を採用するならば、データ収録を実行しつつ、解析に用い得るデータ処理結果を供給することが可能である。
【0082】
本開示に記載の技法によれば、マイグレーション処理を実施する技法と異なり、速度場に関する想定値に誤差が含まれていてもその誤差から受ける影響は極めて小さい。反射信号成分の抑制に関しては、反射音波の往路伝播と復路伝播との両方に走時補正が施されるため、想定した速度場に誤差があってもトレースが歪むことはない。また、回折信号成分の走時補正は、速度場の誤差からは殆ど影響を受けないことが、試験により確認されている。想定した速度場に誤差が含まれている場合には、物体の位置特定の精度にその影響が現れるものの、本方法による点回折の検出能力には大きく影響しない。また、マイグレーション処理のアルゴリズムは、計算処理負荷が比較的大きいということがある。
【0083】
実施例のうちには、点回折発生源の位置を特定するために、CFPソート処理と合成開口処理とを組合せて実施するものがあり、これは従来知られていなかった手法である。海底堆積物の中に埋在する点回折発生源となり得るのは、様々な種類の物体であり、その具体例を挙げるならば、例えば、氷河の漂石のような地質的に不均質な要素や、不発弾などである。
【0084】
本技法は、地球科学の分野の研究にとっても有意義なものである。本明細書に記載の手法を用いて、例えば、地下水の湧出点、地中の断層面、それに凝塊などを、地質図に表して解析することが可能である。
【0085】
実施例を活用するためには、例えば、音波信号源(震源)と複数の受振器とを備えたシステムを用いればよい。前記複数の受振器は、例えば、それらが所定のエリア内に分布するようにして配置される。その場合に、当該エリアが前記複数の受振器の開口となり、従って当該エリアが広いほど前記複数の受振器の開口も大きなものとなる。また、前記複数の受振器は、規則的な配列を成すように配置してもよく、不規則な配列を成すように配置してもよく、その配列が前記複数の受振器の開口を形成することになる。本方法は(ないしは、前記データ処理部は)音波信号の1つ又は複数の物体での散乱に基づいてその1つ又は複数の物体の検出を行うものであるため、前記配列の(ないしは、前記エリアの、前記開口の)直下に存在している1つ又は複数の物体のみならず、直下から外れた斜め下方に存在している1つ又は複数の物体も検出可能であり、例えば、少なくとも10度(又は少なくとも20度、又は少なくとも30度、又は少なくとも45度)の角度をもって直下から外れた斜め下方に存在している1つ又は複数の物体も検出可能である。また、開口が大きければ、その角度は45度以上にもなり得る。
【0086】
前記音波信号は、例えば、少なくとも1つの信号源によって生成することができる。その場合に、その少なくとも1つの信号源は様々な位置に配置することができ、例えば、前記複数の受振器が配置される前記エリアの、そのエリア内とエリア外のいずれに配置することも可能である。また、その少なくとも1つの信号源としては、音波信号源、及び/又は、地震信号源(震源)を用いることができ、その具体例を挙げるならば、例えば、GIガン(ジェネレータ・インジェクタ・ガン)、スパーカー(放電により音波を発生する音波発生源)、ブーマー(コンデンサに蓄えた電力を平板状スパイラルコイルに流すことでエネルギを放出し、スパイラルコイルに隣接した銅板が水を押圧する音波発生源)などが挙げられる。尚、音波という用語と地震波という用語は、本開示に関しては同義語として用いられており、なぜならば、本技法に利用される波長は、音波信号の波長と言うこともでき、地震波信号の波長と言うこともできるものだからである。
【0087】
前記少なくとも1つの信号源と前記複数の受振器とは、例えば、それらを船舶で曳航して、海底よりも上方にある海面上を移動させるようにしてもよい。前記検出グリッドは、例えば、船舶の進行方向軸と、前記少なくとも1つの信号源及び/又は前記複数の受振器と海底とを結ぶ深度方向軸との、2本の方向軸を持つ、2次元検出グリッドとすることができる。或いはまた、前記検出グリッドは、船舶の進行方向軸と、船舶の進行方向に対して直交する横方向軸と前記少なくとも1つの信号源及び/又は前記複数の受振器と海底とを結ぶ深度方向軸との3本の方向軸を持つ、3次元検出グリッドとすることもできる。
【0088】
前記インターフェース12は、例えば、個々の機能部(モジュール)の内部で、又は、ある機能部と別の機能部との間で、又は、あるシステムの機能部と別のシステムの機能部との間で、情報の1つまたは複数の受信、及び/又は、情報の1つまたは複数の送信を実行し得るものとすることができ、また、所定のコードに従って動作するものとすることができる。
【0089】
実施例によれば、データ処理部14は、任意のコントローラ、任意のプロセッサ、それに、任意のプログラム可能なハードウェアコンポーネントなどとすることができる。例えば、データ処理部14は、対応するハードウェアコンポーネントに適合するようプログラムされたソフトウェアにより実現することも可能である。そうした場合には、データ処理部14の実装形態は、プログラム可能なハードウェアに、当該ハードウェアに適合したソフトウェアがインストールされたものとなる。また、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)などの任意のプロセッサを用いることも可能である。尚、実施例は、特定のタイプのプロセッサを用いるものに限定されない。データ処理部14は、任意のタイプのプロセッサにより実装することが考えられ、また、複数のプロセッサにより実装することも考えられる。
【0090】
上で詳述した数々の具体例ないし図面との関連において以下に説明する数々の局面ないし特徴は、その他の数々の具体例のうちの1つ又は幾つかと組み合わせることで、その他の具体例の同等の特徴の代替となり得るものでもあり、また、その他の具体例に当該特徴を付加し得るものでもある。
【0091】
更に、具体例としては、プログラムコードを備えたコンピュータプログラムであって、当該プログラムがコンピュータ上、又はプロセッサ上で実行されることによって上述した数々の方法のうちの1つ又は幾つかが実施されるようにしたもの、ないしは、かかるコンピュータプログラムに関連したものがある。上述した数々の方法における、ステップ、演算処理、それにプロセスなどが、プログラムがインストールされたコンピュータ又はプロセッサにより実行される。更に、具体例のうちには、例えばデジタルデータ格納媒体などのプログラム格納手段なども含まれ、ここで言うデジタルデータ格納媒体とは、マシンで読出可能、プロセッサで読出可能、又はコンピュータで読出可能な媒体であって、コマンドを、マシンで実行可能、プロセッサで実行可能、又はコンピュータで実行可能なプログラムの形にコーディングして格納した媒体である。また、ここで言うコマンドとは、上述した数々の方法におけるステップのうちの幾つか又は全てを実行するためのコマンド、ないしはその実行を起こさせるためのコマンドである。また、ここで言うプログラム格納手段としては、例えば、デジタルメモリ、磁気ディスクや磁気テープなどの磁気格納媒体、ハードディスクドライブ、それに、光読取可能なデジタルデータ記録媒体などがある。また、更なる具体例として、上述した方法における数々のステップを実行するようにプログラムされたコンピュータ、プロセッサ、それに制御ユニットなどがあり、また更に、上述した方法における数々のステップを実行するようにプログラムされた(フィールド)プログラマブル・ロジック・アレイ((F)PLA)や、(フィールド)プログラマブル・ゲート・アレイ((F)PGA)などがある。
【0092】
本明細書及び添付図面は本開示の基本事項を示したものである。また、ここに提示した数々の具体例はいずれも、基本的に且つ明確に説明することを目的としたものであり、もって、本開示を読む者が、本開示の基本事項を理解する上での、また、本発明者の寄与にかかる当業界の技術の更なる発展のための概念を理解する上での、一助とならんとするものである。本開示の基本事項、数々の局面、数々の具体例、また更に、それらの詳細例についての限局的記載はいずれも、それら事項、局面、具体例、詳細例の均等物をも包含するものである。
【0093】
添付図面中の機能ブロックに示された機能を「実行するための手段」とは、当該機能を実行するべく設計された回路などであり得る。従って、「これこれのための手段」とは、「これこれのために構成された手段、又は、これこれに適した手段」として実装されるものであり、具体的には、例えば、その目的のために構成された、或いは、その目的に適した、構成要素や回路などであり得る。
【0094】
添付図面中に示された、「~手段」、「~信号提供手段」、「~信号発生手段」、等々の種々の名称が記された機能ブロックを含めた数々の構成要素の夫々の機能のうちには、例えば、「信号発生器」、「信号処理ユニット」、「プロセッサ」、「コントローラ」、等々の専用ハードウェアによって実現し得るものもあれば、ソフトウェアを実行可能なハードウェアと所要のソフトウェアとの組合せによって実現し得るものもある。プロセッサを用いて所要の機能を実現するのであれば、単一の専用プロセッサで実現するのも、単一の共用プロセッサで実現するのも、或いはまた、複数のプロセッサで実現するのも夫々に一法であり、複数のプロセッサで実現する場合には、それらプロセッサのうちの幾つか又は全てを共用プロセッサとすることもできる。尚、「プロセッサ」や「コントローラ」などの用語が意味するものは、ソフトウェアを実行可能なハードウェアに限定されず、例えば、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)などのハードウェア、ネットワーク・プロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、ソフトウェアを格納するリード・オンリ・メモリ(ROM)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、不揮発性記憶装置なども含まれる。また、更にその他の、通常型ハードウェア、及び/又は、特定カスタマー向けハードウェアなども含まれる。
【0095】
ブロック図は、例えば、本開示の重要事項を備えた回路を大づかみで表した回路図などを示すものである。同様に、フローチャート、プロセスチャート、状態遷移図、擬似コード、等々は、様々なプロセス、演算処理、ステップなどを図示するものであって、それらプロセス、演算処理、ステップなどは、例えば、コンピュータ読出可能な媒体などによって実装され、それゆえコンピュータや、プロセッサによって実行されるものであり、ただし、それらを実行するコンピュータないしプロセッサが明示的に示されているか否かは問題とするところではない。また、明細書ないし特許請求の範囲に開示した様々な方法は、それら方法に含まれる様々なステップを実行するための手段を備えた構成要素により実施されるものである。
【0096】
明細書ないし特許請求の範囲に開示した数々のステップ、プロセス、演算処理、又は機能の実行順序は、開示した通りの特定の実行順序とすべきことが明示されている場合、又は、例えば技術的な理由などによってその特定の実行順序が必然である場合を除き、その特定の実行順序でのみ実行すべきであると解釈されてはならない。従って、複数のステップや機能を実行する際には、それらステップや機能の実行順序を交代させることが技術的な理由によって不可能である場合を除き、それらの実行順序は、開示した通りの特定の順序に限定されない。更に、幾つかの具体例では、1つのステップ、1つの機能、1つのプロセス、又は1つの演算処理を、複数のサブステップ、複数のサブ機能、複数のサブプロセス、又は複数のサブ演算処理から成るもの、ないしは、それらに分解し得るものとしている。そのような場合に、例えばある1つのステップが、複数のサブステップから成るもの、ないしは、複数のサブステップに分解し得るものではないことが明記されているのでない限り、それら複数のサブステップもまた、本開示に含まれ、本開示の一部を成すものである。
【0097】
更に、本明細書の記載のみならず、本願の特許請求の範囲の記載もまた、詳細な説明の一部を成すものであり、個々の請求項の記載は、独立した1つの具体例の記載たり得るものである。ただし、個々の請求項の記載が独立した1つの具体例の記載たり得るものであると雖も、特許請求の範囲における従属請求項は、当該従属請求項が1つ又は複数の他の請求項と組合わされるものである旨が記載されている以上、当該従属請求項の主題と他の従属請求項又は独立請求項の主題との組合せもまた、具体例の記載たり得るものである。そのような数々の主題の組合せは、それらが意図しない組合せであることが明記されている場合を除き、いずれも本開示において明確に示唆されている組合せであると言うべきものである。更に、ある従属請求項がある独立請求項に従属している場合には、その従属関係が直接的従属ではなく間接的従属であっても、当該従属請求項の特徴は当該独立請求項に付加され得るものである。
【国際調査報告】