(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(54)【発明の名称】車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/122 20060101AFI20220826BHJP
B60T 11/16 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
B60T13/122 C
B60T11/16 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576327
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(85)【翻訳文提出日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2020066107
(87)【国際公開番号】W WO2021004722
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】102019209969.6
(32)【優先日】2019-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】マーンコプフ,ディルク
【テーマコード(参考)】
3D047
3D048
【Fターム(参考)】
3D047BB01
3D047CC20
3D048BB03
3D048BB35
3D048CC05
3D048CC49
3D048HH13
3D048HH18
3D048HH50
3D048HH53
3D048HH54
3D048HH55
3D048PP03
3D048RR29
(57)【要約】
本発明は、第1のプライマリピストン(12)を備えた第1の増圧機構(10)であって、前記第1のプライマリピストンが、第1の減速室(14)を画成し、ブレーキ液が前記第1の減速室(14)に形成されている第1の液体出口を介して前記第1の減速室(14)から押し出し可能である前記第1の増圧機構(10)と、第1のチャンバー(22)を画成している第2のプライマリピストン(20)を備えた第2の増圧機構(18)と、前記第1の液体出口から前記第1のチャンバー(22)に形成された第1の液体入口まで延びている第1の液圧結合機構(24)とを備える、車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置に関する。前記第2のプライマリピストン(20)は前記第2のプライマリピストン(20)の出発位置にある限りにおいては、前記第1の減速室(14)から押し出されたブレーキ液は前記第1の液体入口を介して前記第1のチャンバー(22)内へ変位可能であり、他方前記第2のプライマリピストン(20)がその出発位置から変位している限りにおいては、前記第1のチャンバー(20)は前記第1の液体入口から液密に密封されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のプライマリピストン(12)を備えた第1の増圧機構(10)であって、前記第1のプライマリピストンが、前記第1の増圧機構(10)内に形成されている第1の減速室(14)を画成し、車両のブレーキ操作要素(16)が、次のように直接にまたは間接に前記第1のプライマリピストン(12)に結合可能および/または結合され、すなわち前記第1のプライマリピストン(12)が前記ブレーキ操作要素(16)に作用するドライバーブレーキ力により変位可能であることによりブレーキ液が前記第1の減速室(14)に形成されている第1の液体出口を介して前記第1の減速室(14)から押し出し可能であるように、直接にまたは間接に前記第1のプライマリピストン(12)に結合可能および/または結合されている、前記第1の増圧機構(10)と、
第2のプライマリピストン(20)を備えた第2の増圧機構(18)であって、前記第2のプライマリピストンが、前記第2の増圧機構(18)内に形成されている第1のチャンバー(22)を画成している前記第2の増圧機構(18)と、
前記第1の液体出口から前記第1のチャンバー(22)に形成された第1の液体入口まで延びている第1の液圧結合機構(24)と、
を備える、車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置において、
前記第2のプライマリピストン(20)が前記第2のプライマリピストン(20)の出発位置にある限りにおいては、前記第1の減速室(14)から押し出されたブレーキ液が前記第1の液体入口を介して前記第1のチャンバー(22)内へ変位可能であり、他方前記第2のプライマリピストン(20)がその出発位置から変位している限りにおいては、前記第1のチャンバー(20)が前記第1の液体入口から液密に密封されていることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記第2のプライマリピストン(20)がその出発位置から変位している限りにおいては、前記第1のチャンバー(22)が、出発位置から変位している前記第2のプライマリピストン(20)、前記第2のプライマリピストン(20)に固定されている少なくとも1つの密封要素(26a)、および/または、前記第2の増圧機構(18)のハウジング内壁に固定されている少なくとも1つの密封要素(26b)を用いて、前記第1の液体入口から液密に密封されている、請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
電気モータ(28)が、次のように直接にまたは間接に前記第2のプライマリピストン(20)に結合され、すなわち前記第2のプライマリピストン(20)が前記電気モータ(28)から提供されるモータ力によりその出発位置から変位可能であるように、直接にまたは間接に前記第2のプライマリピストン(20)に結合されている請求項1または2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記ブレーキ装置が、変位可能なピストン(58)を備えたシミュレータ機構(56)を含み、前記変位可能なピストンが、前記シミュレータ機構(56)内に形成されているばね室(60)を画成して、前記ばね室(60)内に配置される少なくとも1つのばね(62)により支持され、前記第2のプライマリピストン(20)がその出発位置から変位している限りにおいては、前記第1の減速室(14)から押し出されたブレーキ液が前記第1の液体入口を介して且つ前記第1のチャンバー(22)に形成されているシミュレータ口(63)を介して前記シミュレータ機構(56)内へ変位可能であり、他方前記第2のプライマリピストン(20)がその出発位置にある限りにおいては、前記シミュレータ口(63)が前記第1の液体入口から液密に密封されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記第2の増圧機構(18)が、前記第2の増圧機構(18)の前記第1のチャンバー(22)と第2のチャンバー(42)との間に変位可能に配置される第2のセカンダリピストン(40)を含み、前記第2のセカンダリピストン(40)が、少なくとも1つの弾性要素により次のように支持され、すなわち前記第2のプライマリピストン(20)がその出発位置にある限りにおいては、前記第2のセカンダリピストン(40)が前記第2のセカンダリピストン(40)の出発位置にあるように、支持されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のブレーキ装置。
【請求項6】
前記第1の増圧機構(10)が、前記第1の増圧機構(10)の前記第1の減速室(14)と第2の減速室(68)との間に変位可能に配置される第1のセカンダリピストン(70)を含み、前記第1のセカンダリピストンは、ブレーキ液が前記第2の減速室(68)に形成されている第2の液体出口を介して前記第2の減速室(68)から押し出し可能であるようにドライバーブレーキ力により変位可能であり、第2の液圧結合機構(72)が、前記第2の液体出口から前記第2のチャンバー(40)に形成されている第2の液体入口まで延びている、請求項5に記載のブレーキ装置。
【請求項7】
前記第2のチャンバー(42)に漏らし孔(44)が次のように形成され、すなわち前記第2のセカンダリピストン(40)がその出発位置にある限りにおいては、ブレーキ液が前記漏らし孔(44)を介して前記第2のチャンバー(42)内へ吸い込み可能であるように、他方前記第2のセカンダリピストン(40)がその出発位置から変位している限りにおいては、前記第2のチャンバー(42)が前記漏らし孔(44)から液密に密封されているように、形成されている、請求項5または6に記載のブレーキ装置。
【請求項8】
前記第1の増圧機構(10)が変位可能なシミュレータピストン(46)を含み、前記変位可能なシミュレータピストンが、前記第1の増圧機構(10)内に形成されているシミュレータチャンバー(48)を画成して、前記シミュレータチャンバー(48)内に配置されている少なくとも1つのシミュレータスプリング(50)により支持され、前記第2のセカンダリピストン(40)がその出発位置から変位している限りにおいては、ブレーキ液が前記シミュレータチャンバー(48)から他の液圧結合機構(76)を介して且つ前記漏らし孔(44)を介して変位可能であり、他方前記第2のセカンダリピストン(40)がその出発位置にある限りにおいては、前記他の液圧結合機構(76)の、前記第2のチャンバー(42)に形成されている開口部(78)が、前記漏らし孔(44)から液密に密封されている、請求項7に記載のブレーキ装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のブレーキ装置と、
前記ブレーキ装置の前記第2の増圧機構(18)の前記第1のチャンバー(22)および/または前記第2のチャンバー(42)に液圧結合され、それぞれ少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダを備えた少なくとも1つのブレーキ回路と、
を備えた車両用液圧式ブレーキシステム。
【請求項10】
車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置を製造する方法であって、
第1のプライマリピストン(12)を備える第1の増圧機構(10)を次のように形成するステップであって、すなわち前記第1のプライマリピストン(12)が前記第1の増圧機構(10)内に形成される第1の減速室(14)を画成し、且つ前記車両のブレーキ操作要素(16)が前記第1のプライマリピストン(12)に次のように直接にまたは間接に結合可能および/または結合されており、すなわち前記第1のプライマリピストン(12)が前記ブレーキ操作要素(16)に作用するドライバーブレーキ力によって変位されることにより、ブレーキ液が前記第1の減速室(14)に形成されている液体出口を介して前記第1の減速室(14)から押し出されるように結合可能および/または結合されているように、前記第1の増圧機構(10)を形成するステップ(S1)と、
第2のプライマリピストン(20)を備える第2の増圧機構(18)を次のように形成するステップであって、すなわち前記第2のプライマリピストン(20)が前記第2の増圧機構(18)内に形成される第1のチャンバー(22)を画成するステップ(S2)と、
前記第1の減速室(14)に形成される液体出口から、前記第1のチャンバー(22)に形成される液体入口まで延びる液圧結合機構(24)を形成するステップ(S3)と、
を含む前記方法において、
前記第2の増圧機構(18)を次のように形成すること、すなわち前記第2のプライマリピストン(20)が前記第2のプライマリピストン(20)の出発位置にある限りにおいては、前記第1の減速室(14)から押し出されたブレーキ液が前記液体入口を介して前記第1のチャンバー(22)内へ変位し、他方前記第2のプライマリピストン(20)がその出発位置から変位する限りにおいては、前記第1のチャンバー(22)が前記第1の液体入口から液密に密封されているように、前記第2の増圧機構(18)を形成すること、
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置に関するものである。また、本発明は車両用液圧式ブレーキシステムに関する。さらに、本発明は車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1の減速室を画成する第1のプライマリピストンを備えた第1の増圧機構と、第1のチャンバーを画成する第2のプライマリピストンを備えた第2の増圧機構とを有する車両用ブレーキシステムが開示されている。ブレーキペダルは第1の増圧機構の第1のプライマリピストンに次のように結合され、すなわち第1のプライマリピストンがブレーキペダルに作用するドライバーブレーキ力により変位可能であることで、ブレーキ液が、第1の減速室に形成された第1の液体出口と、弁を備えた管とを介して、第2の増圧機構の第1のチャンバーに形成された第1の液体入口を通って変位可能であるように、結合されている。弁を閉じることにより、第1のプライマリピストンが第1の増圧機構の第1の減速室内部へ変位するにもかかわらず、第1の増圧機構の第1の減速室から第2の増圧機構の第1のチャンバー内への体積変位が阻止可能であるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第102011002966号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明は、請求項1の構成要件を備えた、車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置と、請求項9の構成要件を備えた車両用液圧式ブレーキシステムと、請求項10の構成要件を備えた、車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置を製造する方法とを提供する。
【0005】
本発明は、第1の増圧機構の第1の減速室から第2の増圧機構の第1のチャンバー内への体積変位を、すでに第2の増圧機構の第2のプライマリピストンがその出発位置から変位することにより阻止可能であるような、車両/自動車の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置、或いは、これを備えた車両/自動車の液圧式ブレーキシステムを提供する。これにより、従来のように第1の減速室の第1の液体出口から第1のチャンバーの第1の液体入口まで延びる第1の液圧結合機構に弁を、特に電気式で切換え可能な弁を備えさせる必要がなくなる。このようにして省略された弁は、従来技術に比べて、製造コストの低減および本発明によるブレーキ装置またはこれを備えた液圧式ブレーキシステムの小型化の容易性に寄与する。さらに、本発明によるブレーキ装置またはこれを備えた液圧式ブレーキシステムは、従来技術ではまだ必要としていた弁の弁切換え音を作動中に発生させないので、技術水準よりも静穏に作動可能である。それ故、本発明によるブレーキ装置またはこれを備えたブレーキシステムは、改善されたNVH(Noise Vibration Hatshness 騒音・振動・ハーシュネス)値を有している。
【0006】
本発明の更なる利点は、本発明によるブレーキ装置またはこれを備える液圧式ブレーキシステムでは、第1の増圧機構の第1の減速室から第2の増圧機構の第1のチャンバー内への体積変位は、第2の液圧増圧機構の第2のプライマリピストンがその出発位置へ変位している場合には常に阻止されていることにあり、それ故第2のプライマリピストンを変位させるために使用するアクチュエータの機能性を起点とすることができる。したがって、本発明によるブレーキ装置を備えた液圧式ブレーキシステムは、第2のプライマリピストンを変位させるために使用するアクチュエータの機能性において非人力ブレーキシステムとして利用でき、他方たとえば電圧損失のためにアクチュエータが故障した場合には、自動的に機械的/液圧式フォールバックレベルへ移行し、機械的/液圧式フォールバックレベルにおいて車両のドライバーは、そのドライバーブレーキ力により、第1の増圧機構の第1の減速室から第2の増圧機構の第1のチャンバー内への体積変位を、よって第2の増圧機構に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内でのブレーキ圧増圧を生じさせることが問題なくできる。したがって本発明は、利用者に使いやすく、それにもかかわらず比較的高い安全基準を有する液圧式ブレーキシステムを提供する。
【0007】
ブレーキ装置の有利な実施態様では、第2のプライマリピストンがその出発位置から変位している限りにおいては、第1のチャンバーは、出発位置から変位している第2のプライマリピストン、第2のプライマリピストンに固定されている少なくとも1つの密封要素、および/または、第2の増圧機構のハウジング内壁に固定されている少なくとも1つの密封要素を用いて、第1のブレーキ液入口から液密に密封されている。したがって、ここで説明しているブレーキ装置の実施態様において第2のプライマリピストンがその出発位置から変位している場合に、第1のチャンバーを第1の液体入口から液密に密封するためにコスト上好ましく形成され得る技術を利用することができる。
【0008】
好ましくは、電気モータは、次のように直接にまたは間接に第2のプライマリピストンに結合され、すなわち第2のプライマリピストンが電気モータから提供されるモータ力によりその出発位置から変位可能であるように、直接にまたは間接に第2のプライマリピストンに結合されている。この事例では、電気モータを、非人力ブレーキングを実施するための「動力源」として利用でき、その際同時に、ここで説明しているブレーキ装置の実施態様が、または、これを備えている液圧式ブレーキシステムが、電気モータの故障の場合にその機械的/液圧式フォールバックレベルへ移行していることが保証されている。
【0009】
更なる有利な実施態様では、ブレーキ装置は、変位可能なピストンを備えたシミュレータ機構を含み、変位可能なピストンは、シミュレータ機構内に形成されているばね室を画成して、ばね室内に配置される少なくとも1つのばねにより支持され、この場合第2のプライマリピストンがその出発位置から変位している限りにおいては、第1の減速室から押し出されたブレーキ液は第1の液体入口を介して且つ第1のチャンバーに形成されているシミュレータ口を介してシミュレータ機構内へ変位可能であり、他方第2のプライマリピストンがその出発位置にある限りにおいては、シミュレータ口は第1の液体入口から液密に密封されている。したがって、第1の増圧機構の第1の減速室から第2の増圧機構の第1のチャンバー内への体積変位が阻止されている場合には常に、ブレーキ操作要素を操作するドライバーはシミュレータ機構内で減速を行い、それ故体積変位が阻止されているにもかかわらず、標準的なブレーキ操作感覚/ペダル感覚を持つように保証されている。同時に、機械的/液圧式フォールバックレベルにおいて、シミュレータ機構内でのドライバーの減速操作によってドライバーブレーキ力が不必要に失われないよう確保されている。
【0010】
更なる有利な構成として、第2の増圧機構は、当該第2の増圧機構の第1のチャンバーと第2のチャンバーとの間に変位可能に配置される第2のセカンダリピストンを含んでいてよく、この場合第2のセカンダリピストンは、少なくとも1つの弾性要素により次のように支持され、すなわち第2のプライマリピストンがその出発位置にある限りにおいては、第2のセカンダリピストンが当該第2のセカンダリピストンの出発位置にあるように、支持されている。したがって、第2の増圧機構はタンデム型ブレーキマスタシリンダを持っていてよい。
【0011】
この事例では、第1の増圧機構は、好ましくは当該第1の増圧機構の第1の減速室と第2の減速室との間に変位可能に配置される第1のセカンダリピストンを含み、第1のセカンダリピストンは、ブレーキ液が第2の減速室に形成されている第2の液体出口を介して第2の減速室から押し出し可能であるようにドライバーブレーキ力によって変位可能であり、この場合第2の液圧結合機構は、第2の液体出口から第2のチャンバーに形成されている第2の液体入口まで延びている。したがって、第2の液体出口と第2の液圧結合機構とを介して第2の液体入口を通って変位するブレーキ液を、第2のチャンバーに結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内でのブレーキ圧増圧のために利用することができる。
【0012】
有利な態様によれば、第2のチャンバーに漏らし孔が次のように形成され、すなわち第2のセカンダリピストンがその出発位置にある限りにおいては、ブレーキ液が漏らし孔を介して第2のチャンバー内へ吸い込み可能であるように、他方第2のセカンダリピストンがその出発位置から変位している限りにおいては、第2のチャンバーが漏らし孔から液密に密封されているように、形成されている。したがって漏らし孔、または、漏らし孔に結合されているブレーキ液リザーバーは、ブレーキ液を順次漏らすために利用できる。
【0013】
補完的に、第1の増圧機構はさらに変位可能なシミュレータピストンを含んでいてよく、変位可能なシミュレータピストンは、第1の増圧機構内に形成されているシミュレータチャンバーを画成して、シミュレータチャンバー内に配置されている少なくとも1つのシミュレータスプリングにより支持され、この場合第2のセカンダリピストンがその出発位置から変位している限りにおいては、ブレーキ液はシミュレータチャンバーから他の液圧結合機構を介して且つ漏らし孔を介して変位可能であり、他方第2のセカンダリピストンがその出発位置にある限りにおいては、前記他の液圧結合機構の、第2のチャンバーに形成されている開口部は、漏らし孔から液密に密封されている。ここで説明しているブレーキ装置の実施態様でも、第1の増圧機構の第1の減速室から第2の増圧機構の第1のチャンバー内への体積変位が阻止されている場合には常に、ドライバーは、シミュレータピストンとシミュレータチャンバーと少なくとも1つのシミュレータスプリングとにより実現されているシミュレータ内で減速させることができ、その結果ドライバーは、体積変位が阻止されているにもかかわらず、標準的なブレーキ操作感覚/ペダル感覚を持つ。また、ここで説明しているブレーキ装置の実施態様でも、機械的/液圧式フォールバックレベルにおいて、このような状況でのシミュレータ内でのドライバーの望ましくない減速操作のためにドライバーのドライバーブレーキ力が失われないよう保証されている。
【0014】
上述した利点は、この種のブレーキ装置と、ブレーキ装置の第2の増圧機構の第1のチャンバーおよび/または第2のチャンバーに液圧結合され、それぞれ少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダを備えた少なくとも1つのブレーキ回路とを備えた車両用液圧式ブレーキシステムにおいても保証されている。
【0015】
さらに、この種の車両の液圧式ブレーキシステム用ブレーキ装置を製造するための対応する方法を実施しても、上述の利点を提供する。なお、ブレーキ装置を製造する方法は、ブレーキ装置の上述した実施態様にしたがって更なる構成を行うことができることを指摘しておく。
【図面の簡単な説明】
【0016】
次に、本発明の更なる構成要件および利点を、図を用いて説明する。
【
図1】ブレーキ装置の実施形態の概略部分図である。
【
図2】ブレーキ装置の実施形態の概略部分図である。
【
図3】ブレーキ装置の実施形態の概略部分図である。
【
図4a】ブレーキ装置の実施形態の概略部分図である。
【
図4b】ブレーキ装置の実施形態の概略部分図である。
【
図5】ブレーキ装置の実施形態の概略部分図である。
【
図13】車両の液圧式ブレーキシステムのためのブレーキ装置を製造する方法の実施形態を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、ブレーキ装置の第1実施形態の概略図である。
【0018】
図1に概略を図示したブレーキ装置は、第1のプライマリピストン12を備えた第1の増圧機構10を含み、第1のプライマリピストンは、第1の増圧機構10内に形成された第1の減速室14を画成している。ブレーキ操作要素16は、次のように直接にまたは間接に第1のプライマリピストン12に結合可能/結合されており、すなわち第1のプライマリピストン12が変位可能であることにより、ブレーキ液が第1の減速室14に形成されている第1の液体出口を介して第1の減速室14から押し出し可能/押し出されるように、直接にまたは間接に第1のプライマリピストン12に結合可能/結合されている。
【0019】
図1のブレーキ装置は、第2のプライマリピストン20を備えた第2の増圧機構18をも有しており、第2のプライマリピストンは、第2の増圧機構18内に形成された第1のチャンバー22を画成している。さらに、ブレーキ装置は、第1の液体出口から第1のチャンバー22に形成された第1の液体入口まで延びている第1の液圧結合機構24を有している。
【0020】
第2のプライマリピストン20が当該第2のプライマリピストン20のいわゆる出発位置にある限りにおいては、第1の減速室14から押し出されたブレーキ液は第1の液体入口を介して第1のチェンバー22内へ変位可能であり/変位する。これに対し、第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位している限りにおいては、第1のチェンバー22は第1の液体入口から液密に密封されている。第2のプライマリピストン20の出発位置とは、特に、直接にまたは間接に結合されているアクチュエータのアクチュエータパワーが第2のプライマリピストン20に対し作用しない限りにおいて第2のプライマリピストン20が占めているような位置であると理解してよい。
【0021】
したがって、
図1のブレーキシステムの場合、ブレーキ操作要素16に作用するドライバーブレーキ力によるドライバーの減速操作のために第1の増圧機構10を利用でき、他方第2の増圧機構18を用いて非人力ブレーキングを生じさせることができる。
図1のブレーキシステムの格別な利点は、第2の増圧機構18を用いて非人力ブレーキングを実施している間に第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位し、それ故ドライバーブレーキ力によって誘導される、第1の増圧機構10の第1の減速室14から第2の増圧機構18の第1のチャンバー22内への体積変位が、「自動的に」阻止されていることにある。それ故、第2の増圧機構18により生じる非人力ブレーキングは、ブレーキ操作要素16の操作とは独立して/切り離して実施することができる。さらに、
図1のブレーキシステムは、第1の液圧結合機構14内に取り付けられる、第1の増圧機構10の第1の減速室14から第2の増圧機構18の第1のチャンバー22内への体積変位を阻止するための弁を必要としない。これはブレーキ装置の製造コストを節減させ、その小型化を容易にし、ブレーキ装置のより静穏な作動を保証する。
【0022】
図1で認められるように、第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位している限りにおいては、第1のチャンバー22は、出発位置から変位した第2のプライマリピストン20により、および/または、少なくとも1つの密封要素26aおよび26bにより、第1の液体入口から液密に密封されていてよい。少なくとも1つの密封要素26aおよび26bは、選択的に、第2のプライマリピストン20に固定されている少なくとも1つの密封要素26a、および/または、第2の増圧機構18のハウジング内壁に固定されている少なくとも1つの密封要素26bであってよい。したがって、第2の増圧機構18は、たとえば標準的なタンデム型ブレーキマスタシリンダのような標準的なブレーキマスタシリンダに、場合によってはわずかな修正を施せば、十分に対応することができる。
【0023】
好ましくは、電気モータ28は(アクチュエータとして)直接にまたは間接に第2のプライマリピストン20に次のように結合され、すなわち第2のプライマリピストン20が電気モータ28から出力されるモータ力によりその出発位置から変位可能であるように/変位するように、結合されている。このようにして、電気モータ28から出力されるモータ力により、第2の増圧機構18に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内でのブレーキ圧上昇を生じさせることができる。ブレーキ操作要素16を操作するドライバーは、電気モータ28により発生する非人力ブレーキングの間、出発位置から変位した第2のプライマリピストン20によってドライバーが少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内でのブレーキ圧上昇の反作用を感じないように「切り離されている」。
【0024】
電気モータ28は、非人力ブレーキングを実施するための(オプションの)制御装置32の少なくとも1つの制御信号30を用いて支障なく起動させることができる。電気モータ28への少なくとも1つの制御信号30の出力は、少なくとも1つのセンサ34aおよび34bから制御装置32へ提供される少なくとも1つのセンサ信号36を考慮して行うことができる。少なくとも1つのセンサ34aおよび34bは、たとえばブレーキ操作要素16の操作を検知するための少なくとも1つのセンサ34aとして形成されていてよい。少なくとも1つのセンサ34aは、特にペダルストロークセンサ、ロッドストロークセンサ、および/または、ディファレンスストロークセンサであってよい。択一的にまたは補完的に、少なくとも1つのセンサ34aおよび34bは予圧センサ34bでもよい(
図6を参照)。したがって、これが望まれる限りにおいては、第2の増圧機構18と電気モータ28とを用いて実施される非人力ブレーキングは、ドライバーによるブレーキ操作要素16の操作により表示されるブレーキ所望デフォルトに対応して適合することができる。選択的に、センサ装置32は、少なくとも1つの制御信号30による電気モータ28の起動時に、車両固有の自動速度制御装置または車両外部の自動交通制御装置のブレーキデフォルト信号38を考慮するように構成されていてもよい。
【0025】
電気モータ28により実施される非人力ブレーキングの間、ブレーキ操作要素16に作用するドライバーブレーキ力が、第2の増圧機構18に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内でのブレーキ圧増圧を阻害しないので、非人力ブレーキングの間、ジェネレータとして使用される(図示していない)駆動モータにより発生するジェネレータブレーキトルクを支障なく隠覆すさせることができる。さらに、ブレーキ操作要素16を操作するドライバーは、非人力ブレーキングの間、次のように「切り離されており」、すなわちドライバーが少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内にあるブレーキ圧の反作用を感じず、よって隠覆過程にも決して気づかないように、「切り離されている」。
【0026】
たとえば電圧損失による或いは、制御装置32の故障による電気モータ28の故障の場合、第2のプライマリピストン20は通例その出発位置にあり、その結果ドライバーは、ブレーキ操作要素16に作用するドライバーブレーキ力により、第1の増圧機構10と第2の増圧機構18とを介して、第2の増圧機構18に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内で減速させることができる。したがって、
図1のブレーキシステムでは、電気モータ28の故障の際に、ドライバーブレーキ力により、第2の増圧機構18に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内でのブレーキ圧増圧を生じさせることをドライバーに可能にさせ、このようにして車両を確実に減速し、特に停止させるような機械的/液圧式フォールバックレベルが形成されている。
【0027】
オプションの更なる構成として、
図1のブレーキ装置の第2の増圧機構18は、第2の増圧機構18の第1のチャンバー22と第2のチャンバー42との間に変位可能に配置されている第2のセカンダリピストン40を含んでいる。第2のセカンダリピストン40は、少なくとも1つの(図示していない)弾性要素を用いて次のように支持されており、すなわち第2のプライマリピストン20がその出発位置にある限りにおいては、第2のセカンダリピストン40が当該第2のセカンダリピストン40の出発位置にあるように、支持されている。それ故、第2のチャンバー42には、漏らし孔44が次のように形成されていてよく、すなわち第2のセカンダリピストン40がその出発位置にある限りにおいては、ブレーキ液が漏らし孔44を介して第2のチャンバー42内へ吸い込み可能であり、他方第2のセカンダリピストン40がその出発位置から変位している限りにおいては、第2のチャンバー42が漏らし孔44から液密に密封されているように、形成されていてよい。したがって、第2のチャンバー42に設けた漏らし孔44は、順次漏らしを行うために利用することができ、他方同時に、電気モータ28により生じさせる非人力ブレーキングの場合も、第1のブレーキ圧増圧機構10を介してのドライバーブレーキ力による減速の場合も、第2のブレーキ圧増圧機構18の両チャンバー22と42内での圧力上昇が可能である。
【0028】
図1のブレーキ装置の場合、第2の増圧機構18の両チャンバー22と42にそれぞれ1つのブレーキ回路が結合されていてよい。したがって、ブレーキ装置に形成されている機械的/液圧式フォールバックレベルは2回路型フォールバックレベルであり、このことは、利用者にとって優れた使いやすさと、フォールバックレベルの比較的高度な安全規格とを保証する。
【0029】
図1に図示したように、第1の増圧機構10は、オプション態様で、変位可能なシミュレータピストン46を含んでいてよく、シミュレータピストンは、第1の増圧機構10内に形成されているシミュレータチャンバー48を画成し、シミュレータチャンバー48内に配置されている少なくとも1つのシミュレータスプリング50を用いて支持されている。特に第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位している限りにおいては、それ故第1の増圧機構10の第1の減速室14から第2の増圧機構18の第1のチャンバー22内への体積変位が阻止されている限りにおいては、ブレーキ操作要素16に作用するドライバーブレーキ力を少なくとも1つのシミュレータスプリング50へ伝達させることができる。したがって、ブレーキ操作要素16を操作するドライバーは、体積変位が阻止されているにもかかわらず、通常のブレーキ操作感覚/ペダル感覚を持つ。たとえば、
図1のブレーキ装置の場合、シミュレータピストン46と、シミュレータチャンバー48と、少なくとも1つのシミュレータスプリング50とは、第1の減速室14の、第1のプライマリピストン12から離間する方向の側に、配置されている。
【0030】
図2は、ブレーキ装置の第2実施形態の概略部分図である。
【0031】
図2に一部のみを図示したブレーキ装置が前述の実施形態と異なるのは、シミュレータピストン46と、シミュレータチャンバー48と、少なくとも1つのシミュレータスプリング50とが、第1のプライマリピストン16および第1の減速室14の、ブレーキ操作要素16のほうに向けられた側に配置されている点だけである。
図2のブレーキ装置の他の特性に関しては、上記の説明を参照されたい。特に、
図2のブレーキ装置も上述の構成要素28,32,34a,34bを備えるように形成されていてよい。
【0032】
図3は、ブレーキ装置の第3実施形態の概略部分図である。
【0033】
図3のブレーキ装置が前述の実施形態と異なるのは、ブレーキ装置が第1の増圧機構10に組み込まれていた構成要素46ないし50の代わりに第1の増圧機構10に対し平行に配置される機械的なシミュレータ機構52を有している点だけである。
図3のブレーキ装置の他の特性に関しては、
図1の実施形態を参照されたい。特に、
図3のブレーキ装置も上述の構成要素28,32,34a,34bを備えるように形成されていてよい。
【0034】
図4aおよび
図4bは、ブレーキ装置の第4実施形態の概略部分図である。
【0035】
図4aおよび
図4bのブレーキ装置では、漏らし孔44が第2の増圧機構18の第1のチャンバー22に形成されており、その結果この漏らし孔44またはこれに結合されているブレーキ液リザーバーを介しても順次漏らすことができる。
図4aは、第2のプライマリピストン20をその出発位置で示している。第2のプライマリピストン20がその出発位置にあれば、漏らし孔44は、第2のプライマリピストン20に固定されている密封要素26aと、第2の増圧機構18のハウジング内壁に固定されている密封要素26bとにより、第1のチャンバー22から液密に密封されていることが認められる。これに対して、第2のプライマリピストン20がその出発位置にあれば、第2のプライマリピストン20を通って延びている孔54を介して、ブレーキ液が第1の液体入口と第1のチャンバー22との間で変位することができる。第2のプライマリピストン20がその出発位置にあるとき、孔54は、漏らし孔44を液密に密封しているパッキン26aおよび26bを「貫通して」次のように延在しており、すなわち第1の液体入口と第1のチャンバー22との間で変位するブレーキ液が漏らし孔44を通って「漏出する」不具合を阻止するように、延在している。
【0036】
図4bに示したように、第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位している限りにおいては、第1の液体入口は密封要素26aと26bにより第1のチャンバー22から液密に密封されている。漏らし孔44も引き続き第1のチャンバー22から液密に密封されている。しかしながら、第2のプライマリピストン20は次のように移動でき、すなわち第1の液体入口が引き続き第1のチャンバー22から液密に密封されたままである一方、ブレーキ液が漏らし孔44を介して第1のチャンバー22内へ漏出できる。
【0037】
図4aおよび
図4bのブレーキ装置の他の特性に関しては、前述の実施形態を参照されたい。特に、
図4aおよび
図4bのブレーキ装置も前述の構成要素28,32,34a,34bを備えるように形成されていてよい。
【0038】
図5は、ブレーキ装置の第5実施形態の概略部分図である。
【0039】
図5のブレーキ装置では、漏らし孔44は第2の増圧機構18の第1のチャンバー22に次のように形成されており、すなわち第2のプライマリピストン20がその出発位置にあるときに漏らし孔44が第1のチャンバー22から液密に密封されているように形成されている。しかしながら、第2のプライマリピストン20は次のように移動でき、すなわち第1の液体入口が第1のチャンバー22から液密に密封されている一方、ブレーキ液が漏らし孔44と第2のプライマリピストン20を通って延びている孔54とを介して第1のチャンバー22内へ漏出できる。
【0040】
図5のブレーキ装置の他の特性に関しては、前述の実施形態を参照されたい。特に、
図5のブレーキ装置も前述の構成要素28,32,34a,34bを備えるように形成されていてよい。
【0041】
図6は、ブレーキ装置の第6実施形態の概略図である。
【0042】
図6に概略を図示したブレーキ装置は、有利な更なる構成として、変位可能なピストン58を備えたシミュレータ機構56を有している。変位可能なピストン58は、シミュレータ機構56内に形成されたばね室60を画成しており、ばね室60内に配置されている少なくとも1つのばね62により支持されている。さらに、シミュレータ機構56は第2の増圧機構18の第1のチャンバー22に形成されているシミュレータ口63を介して第2の増圧機構18の第1のチャンバー22と次のように結合され、すなわち第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位している限りにおいては、第1の増圧機構10の第1の減速室14から押し出されたブレーキ液が第1の液体入口を介して且つシミュレータ口63を介してシミュレータ機構56内へ変位可能であるように結合され、これによってシミュレータ機構56のピストン58は少なくとも1つのばね62のばね力に抗して変位する。しかしながら、第2のプライマリピストン20がその出発位置にある限りにおいては、シミュレータ口63は第1の液体入口から液密に密封されている。
【0043】
したがって、ブレーキ操作要素16を操作するドライバーは、電気モータ28により発生する非人力ブレーキングの際に、これによって第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位され、シミュレータ機構56内で支障なく減速でき、したがって通常のブレーキ操作感覚/ペダル感覚を持つが、電気モータ28が故障した場合、すなわち第2のプライマリピストン20が出発位置にある場合には、ドライバーブレーキ力により第1の増圧機構10の第1の減速室14から変位したブレーキ液全部が、第2の増圧機構18の少なくとも1つのチャンバー22および42内でブレーキ圧を上昇させるために、および、第2の増圧機構18に結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内でブレーキ圧を増圧させるために利用される。したがって、シミュレータ機構56は機械的/液圧式フォールバックレベル内で完全に第2の増圧機構18から「切り離され/分離され」、その結果体積もドライバーブレーキ力も「浪費」されない。
【0044】
図6のブレーキ装置の他の特性に関しては、前述の実施形態を参照されたい。特に、
図6のブレーキ装置も(オプションの)制御装置32を備えるように形成されていてよい。
【0045】
図7は、ブレーキ装置の第7実施形態の概略図である。
【0046】
図7のブレーキ装置では、第2のプライマリピストン20がその出発位置にあるとき、ブレーキ液は第2のプライマリピストン20を通って延びている孔54を介して第1の液体入口と第1のチャンバー22との間で搬送可能であり、この場合同時に、シミュレータ口63は、第2のプライマリピストン20に固定されている少なくとも1つの密封要素26aにより第1の液体入口から液密に密封されている。第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位していれば、第1の液体入口は、第2のプライマリピストン20に固定されている少なくとも1つの密封要素26aにより第1のチャンバー22から液密に密封されている。しかし、第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位している限りにおいては、ブレーキ液は第1の液体入口とシミュレータ口63との間で搬送可能である。
【0047】
付加的な構成要件として、
図7のブレーキ装置はさらに第2のセカンダリピストン40を有し、第2のセカンダリピストンは、当該第2のセカンダリピストン40を通って延びる孔66を備えるように形成され、この場合第2のセカンダリピストン40がその出発位置にあるとき、ブレーキ液は、漏らし孔44と、第2のセカンダリピストン40を通って延びている孔66とを介して、第2のチャンバー42内へ漏出することができる。しかしながら、第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位していれば、漏らし孔44は第2のセカンダリピストン40に固定されている少なくとも1つの密封要素26aにより孔66および第2のチャンバー42から液密に密封されている。
【0048】
図7のブレーキ装置の他の特性および構成要件に関しては、前述した実施形態を参照されたい。特に、
図7のブレーキ装置も(オプションの)制御装置32と少なくとも1つのセンサ34aおよび34bとを備えるように形成されていてよい。
【0049】
図8は、ブレーキ装置の第8実施形態の概略図である。
【0050】
図8のブレーキ装置の特性および構成要件に関しては、前述の実施形態を参照されたい。特に、
図8のブレーキ装置も(オプションの)制御装置32と少なくとも1つのセンサ34aおよび34bとを備えるように形成されていてよい。
【0051】
図9は、ブレーキ装置の第9実施形態の概略図である。
【0052】
図9に概略を図示したブレーキ装置の場合、第1の増圧機構10は、さらに付加的に、第1の減速室14と第2の減速室68との間で変位可能に配置されている第1のセカンダリピストン70を含んでいる。第1のセカンダリピストン70は、(ブレーキ操作要素16に)作用するドライバーブレーキ力により次のように変位可能であり、すなわちブレーキ液が第2の減速室68に形成されている第2の液体出口を介して第2の減速室68から押し出し可能であるように、変位可能である。第2の液圧結合機構72は、第2の液体出口から、第2のチャンバー42に形成されている第2の液体入口まで延びている。したがってドライバーは、ブレーキ操作要素16に作用するそのドライバーブレーキ力により、ブレーキ液を第1の増圧機構10の第2の減速室68から第2の増圧機構18の第2のチャンバー42内へ移動させることもできる。
【0053】
図9のブレーキ装置の場合、有利には、第2のセカンダリピストン40は次のように配置され、すなわち第2のセカンダリピストン40がその出発位置にある限りにおいては、ブレーキ液が第2の減速室68から第2の液圧結合機構72と第2の液体入口とを介して第2のチャンバー42内へ移動可能であるように、他方第2のセカンダリピストン40がその出発位置から変位している限りにおいては、第2の液体出口が第2の増圧機構18の第2のチャンバー42から液密に密封されているように、配置されている。それ故、
図9のブレーキ装置の場合も、非人力ブレーキングの間、ドライバーブレーキ力によって誘発される、第1の増圧機構10の第2の減速室68から第2の増圧機構18の第2のチャンバー42内への体積変位が、「自動的に」阻止されており、その結果非人力ブレーキングを、ブレーキ操作要素16の操作とは独立に/切り離して実施することができる。さらに、
図9のブレーキ装置は、第2の液圧結合機構72内に取り付けられる、第1の増圧機構10の第2の減速室68から第2の増圧機構18の第2のチャンバー42内への体積変位を阻止するための弁を必要としない。これはブレーキ装置の製造コストを低減させ、その小型化を容易にし、ブレーキ装置のより静穏な作動を保証する。
【0054】
図9のブレーキ装置の他の特性および構成要件に関しては、前述の実施形態を参照されたい。特に、
図9のブレーキ装置も(オプションの)制御装置32と少なくとも1つのセンサ34aおよび34bとを備えるように形成されていてよい。
【0055】
前述したすべてのブレーキ装置で、ドライバーがブレーキ操作要素16を異常に大きなドライバーブレーキ力でおよび/または著しく高速な速度で操作する限りにおいては、第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位することを伴って電気モータ28が反応する前にすでにブレーキ液が第1のチャンバー22内へ変位していることが起こりうる。この事例では、すでに第1のチャンバー22内へ体積が変位しているために、第2の増圧機構18内に、そして対応的にこれに結合されている少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内に、いくぶん高い圧力が頻繁に設定される。しかし、このことが欠点になることはまれである。というのは、ドライバーによるブレーキ操作要素16の強い高速な操作は「パニックブレーキング」を示していることが多く、このような事例において少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内の圧力がいくぶん高くなることはむしろ望ましいことが多いからである。さらに、「パニックブレーキング」の際のドライバーは、たとえばブレーキ操作感覚/ペダル感覚がわずかに異なること、および/または、ドライバーが表明した制動願望に対する液圧式ブレーキシステムの反応がより強いことのようなブレーキシステムの挙動が変化したことに気づかない/ほとんど気づかないのが通常である。
【0056】
図10は、ブレーキ装置の第10実施形態の概略図である。
【0057】
図10のブレーキ装置は、
図8の実施形態に対するオプションの更なる構成として、第1の液圧結合機構24内に取り付けられる絞り74をさらに有している。標準力範囲内にあるドライバーブレーキ力と、標準速度範囲内にある速度とでブレーキ操作要素16を操作すると、絞り74は、第1の液圧結合機構24を通じての体積変位の絞りを生じさせない/ほとんど生じさせない。しかしながら、ドライバーがブレーキ操作要素16を異常に大きなドライバーブレーキ力および/または著しく高速な速度で操作する限りにおいて、絞り74は第1の液圧結合機構24を通じての体積変位を次のような強さで絞ることができ、すなわち第2の増圧機構18の第1のチャンバー22内への著しい体積変化が生じるよりも前に電気モータ28が反応できるほどの強さで絞ることができる。
【0058】
図10のブレーキ装置の他の特性および構成要件に関しては、前述の実施形態を参照されたい。特に、
図10のブレーキ装置も(オプションの)制御装置32と少なくとも1つのセンサ34aおよび34bとを備えるように形成されていてよい。
【0059】
図11は、ブレーキ装置の第11実施形態の概略図である。
【0060】
図11のブレーキ装置では、有利な更なる構成として、第1の増圧機構10のシミュレータチャンバー48は、他の液圧結合機構76を介して第2の増圧機構18に次のように結合され、すなわち第2のセカンダリピストン40がその出発位置から変位している限りにおいては、ブレーキ液がシミュレータチャンバー48から前記他の液圧結合機構76を介して且つ第2の増圧機構18の第2のチャンバー42に形成されている漏れ孔44を介して(場合によってはこれに結合されているブレーキ液リザーバー内へ)変位可能であるように、他方第2のセカンダリピストン40がその出発位置にある限りにおいては、前記他の液圧結合機構76の、第2のチャンバーに形成されている開口部78が、漏れ孔44から液密に密封されているように、結合されている。したがって、第1の増圧機構10の第1の減速室14から第2の増圧機構18の第1のチャンバー22内への体積変位が阻止されていれば、ドライバーは非人力ブレーキングの場合に、シミュレータピストン46とシミュレータチャンバー48と少なくとも1つのシミュレータスプリング50とにより実現されているシミュレータで減速することができる。それ故ドライバーは、非人力ブレーキングの場合に、体積変位が阻止されているにもかかわらず、標準的なブレーキ操作感覚/ペダル感覚を持つ。加えて、
図11のブレーキ装置では、機械的/液圧式フォールバックレベルにおいて、このような状況でのシミュレータ内でのドライバーの望ましくない減速操作のためにドライバーのドライバーブレーキ力が失われないよう保証されている。
【0061】
図11のブレーキ装置の他の特性および構成要件に関しては、前述の実施形態を参照されたい。特に、
図11のブレーキ装置も(オプションの)制御装置32と少なくとも1つのセンサ34aおよび34bとを備えるように形成されていてよい。
【0062】
図12は、ブレーキ装置の第12実施形態の概略図である。
【0063】
図12のブレーキ装置が前述の実施形態と異なっているのは、第1の増圧機構10のシミュレータチャンバー48が前記他の液圧結合機構76を介して第2の増圧機構18の第1のチャンバー22に次のように結合されている点のみであり、すなわち第2のプライマリピストン20がその出発位置から変位している限りにおいては、ブレーキ液がシミュレータチャンバー48から前記他の液圧結合機構76を介して且つ第2の増圧機構18の第1のチャンバー22に形成されている漏らし孔44を介して(場合によってはこれに結合されているブレーキ液リザーバー内へ)変位可能であるように、他方第2のプライマリピストン20がその出発位置にある限りにおいては、前記他の液圧結合機構76の、第2のチャンバーに形成されている開口部80が、漏らし孔44から液密に密封されているように、結合されている点のみである。したがって
図12のブレーキ装置は、第2のプライマリピストン20が第2のセカンダリピストン40に比べて通常はかなり長い距離を移動することを活用している。
【0064】
図11のブレーキ装置の他の特性および構成要件に関しては、前述の実施形態を参照されたい。特に、
図11のブレーキ装置も(オプションの)制御装置32と少なくとも1つのセンサ34aおよび34bとを備えるように形成されていてよい。
【0065】
上述した複数のブレーキ装置の利点は、この種のブレーキ装置と、第2の増圧機構18の第1のチャンバー22および/または第2のチャンバー42に液圧的に結合され、それぞれ少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダを備えた少なくとも1つのブレーキ回路とを有する車両用液圧式ブレーキシステムにおいても保証されている。
【0066】
図13は、車両の液圧式ブレーキシステムのためのブレーキ装置を製造する方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
【0067】
方法ステップS1で、第1のプライマリピストンを備えた第1の増圧機構を次のように形成し、すなわち第1のプライマリピストンが第1の増圧機構内に形成される第1の減速室を画成し、車両のブレーキ操作要素が次のように直接にまたは間接に第1のプライマリピストンに結合可能および/または結合されているように形成する。後のブレーキ装置の作動では、第1のプライマリピストンは、ブレーキ操作要素に作用するドライバーブレーキ力により次のように変位し、すなわちブレーキ液が第1の減速室に形成された液体出口を介して第1の減速室から押し出されるように変位する。
【0068】
方法ステップS2では、第2のプライマリピストンを備えた第2の増圧機構を次のように形成し、すなわち第2のプライマリピストンが第2の増圧機構内に形成される第1のチャンバーを画成するように形成する。さらに、方法ステップS3で、第1の減速室に形成された液体出口から、第1のチャンバーに形成された液体入口まで延びている液圧結合機構を形成する。方法ステップS2で、第2の増圧機構を次のように形成し、すなわち第2のプライマリピストンが当該第2のプライマリピストンの出発位置にある限りにおいては、第1の減速室から押し出されたブレーキ液が液体入口を介して第1のチャンバー内へ変位し、他方第2のプライマリピストンがその出発位置から変位している限りにおいては、第1のチャンバーが第1の液体入口から液密に密封されているように、形成する。
【0069】
これにより、方法ステップS1ないしS3により製造されたブレーキ装置は、すでに上述した利点を有する。方法ステップS1ないしS3は任意の順番で、時間的に重なり合ってまたは同時に実施してよい。
【符号の説明】
【0070】
10 第1の増圧機構
12 第1のプライマリピストン
14 第1の減速室
16 ブレーキ操作要素
18 第2の増圧機構
20 第2のプライマリピストン
22 第1のチャンバー
24 第1の液圧結合機構
26a,26b 密封要素
28 電気モータ
40 第2のセカンダリピストン
42 第2のチャンバー
44 漏らし孔
46 シミュレータピストン
48 シミュレータチャンバー
50 シミュレータスプリング
56 シミュレータ機構
58 ピストン
60 ばね室
62 ばね
63 シミュレータ口
68 第2の減速室
70 第1のセカンダリピストン
72 第2の液圧結合機構
76 他の液圧結合機構
78 開口部
【国際調査報告】