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特表2022-538430SIRT-1遺伝子ノックアウトを有する哺乳類細胞株
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(54)【発明の名称】SIRT-1遺伝子ノックアウトを有する哺乳類細胞株
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20220826BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20220826BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220826BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220826BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20220826BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220826BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C12P7/56
C12N5/10
C12P21/08
C12N15/55
C12N15/09 100
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576892
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(85)【翻訳文提出日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2020067579
(87)【国際公開番号】W WO2020260327
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】19182558.7
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アオスレンダー ジーモン
(72)【発明者】
【氏名】オスヴァルト ベネディクト
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD33
4B064AG26
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
(57)【要約】
本明細書では、異種ポリペプチドを発現する組換え哺乳動物細胞を生成するための方法、および前記組換え哺乳動物細胞を使用して異種ポリペプチドを生産するための方法であって、ここで、当該組換え細胞において内因性SIRT-1遺伝子の発現が低減している、方法が報告される。例えばCHO細胞のような哺乳動物細胞におけるサーチュイン-1遺伝子(SIRT-1)のノックアウトが、組換え生産性を改善し、細胞による乳酸生産量を低減させることが見出されている。さらに、フェドバッチ発酵の終了時の生存率の低下が低減することが見出されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の遺伝子型を有するが内因性のSIRT-1遺伝子発現を有する同じ条件下で培養された哺乳動物細胞と比較して、SIRT-1発現を低減させることによって、異種ポリペプチドをコードする外因性核酸を含む組換え哺乳動物細胞の異種ポリペプチド力価を増加させ、かつ/または乳酸生産量を低減させるための方法。
【請求項2】
異種ポリペプチドを生産するための方法であって、
a)該異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含む哺乳動物細胞を培養する工程、および
b)該細胞または培養培地から該異種ポリペプチドを回収する工程
を含み、
ここで、内因性SIRT-1遺伝子の発現が低減している、方法。
【請求項3】
改善された組換え生産性および/または低減した乳酸生産量を持つ組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、該方法が、
a)内因性SIRT-1遺伝子の活性を低減させるために、哺乳動物細胞中の内因性SIRT-1遺伝子を標的とするヌクレアーゼ支援および/または核酸を適用する工程、ならびに
b)内因性SIRT-1遺伝子の活性が低減した哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それにより、同一の遺伝子型を有するが内因性のSIRT-1遺伝子発現を有する同じ条件下で培養された哺乳動物細胞と比較して、増加した組換え生産性および/または低減した乳酸生産量を持つ組換え哺乳動物細胞を生産する、方法。
【請求項4】
SIRT-1遺伝子ノックアウトが、ヘテロ接合性ノックアウトまたはホモ接合性ノックアウトである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
SIRT-1改変細胞の生産性が、SIRT-1コンピテント親哺乳動物細胞と比較して少なくとも10%増加する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
SIRT-1遺伝子発現の低減が、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムによって媒介される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムが、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、およびTALENからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
SIRT-1遺伝子発現の低減が、RNAサイレンシングによって媒介される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
RNAサイレンシングが、siRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウン、shRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウン、ならびにmiRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
異種ポリペプチドが抗体である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
SIRT-1ノックアウトが、異種ポリペプチドをコードする外因性核酸の導入前、または異種ポリペプチドをコードする外因性核酸の導入後に行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物細胞が標的指向性組込み宿主細胞である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物細胞がCHO細胞である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用抗体などの治療用ポリペプチドの組換え生産のための細胞株開発の分野にある。より詳細には、本明細書では、SIRT-1遺伝子の機能的ノックアウトを有する哺乳動物細胞が報告されており、これは発現特性の改善をもたらす。
【背景技術】
【0002】
背景
哺乳類の宿主細胞株、特にCHOおよびHEK細胞株は、供給タンパク質(例えば、抗原、受容体など)および治療用分子(例えば、抗体、サイトカインなど)などの分泌タンパク質の組換え生産のために使用される。これらの宿主細胞株は、対応する治療用分子をコードする発現カセットを含むベクターでトランスフェクトされる。続いて、選択圧を加えることにより、安定したトランスフェクタントが選択される。これにより、個々のクローンからなる細胞プールができる。単一の細胞クローニングの工程において、これらのクローンが単離され、続いて様々なアッセイでスクリーニングされ、トッププロデューサー細胞が特定される。
【0003】
遺伝子工学的アプローチが、それらの特性、例えば、(i)タンパク質の折り畳みと分泌を改善するための折り畳まれていないタンパク質応答経路に関与する内因性タンパク質の過剰発現(Gulis,G.,et al.,BMC biotechnology,14(2014)26(非特許文献1))、(ii)細胞生存率を改善し、発酵プロセスを延長するための抗アポトーシスタンパク質の過剰発現(Lee,J.S.,et al.,Biotechnol.Bioeng.110(2013)2195-2207(非特許文献2))、(iii)細胞増殖と生産性を改善するためのmiRNAおよび/またはshRNA分子の過剰発現(Fischer,S.,et al.,J.Biotechnol.212(2015)32-43(非特許文献3))、(iv)治療用分子(Ferrara,C.,et al.,Biotechnol.Bioeng.93(2006)851-861(非特許文献4))および他の多く(Fischer,S.,et al.,Biotechnol.Adv.33(2015)1878-1896(非特許文献5))のグリコシル化パターンを調節するための糖酵素の過剰発現など、を改善するために宿主細胞株に適用されてきた。
【0004】
さらに、内因性タンパク質のノックアウトは、細胞の特性を改善することが示されている。例としては、(i)アポトーシス耐性の増加につながるBAX/BAKタンパク質のノックアウト(Cost,G.J.,et al.,Biotechnol.Bioeng.105(2010)330-340(非特許文献6))、(ii)非フコシル化タンパク質を生成するためのPUTSのノックアウト(Yamane-Ohnuki,N.,et al.,Biotechnol.Bioeng.87(2004)614-622(非特許文献7))、(iii)GS選択システム(Fan,L.,et al.,Biotechnol.Bioeng.109(2012)1007-1015(非特許文献8))および他の多く(Fischer,S.,et al.,Biotechnol.Adv.33(2015)1878-1896(非特許文献5))を使用して選択効率を高めるためのGSのノックアウトがある。ジンクフィンガーまたはTALENタンパク質が過去に主に使用されてきたが、最近ではノックアウトを目的としたゲノム配列の多用途かつシンプルなターゲティングのために、CRISPR/Cas9が確立されている。例えば、miRNA-744は、配列切除を可能にする複数のgRNAを使用することにより、CRISPR/Cas9を使用してCHO細胞において標的とされた(Raab,N.,et al.,Biotechnol.J.(2019)1800477(非特許文献9))。
【0005】
CN109161545(特許文献1)は、ニワトリのSIRT-1の発現を阻害するためのマイクロRNAを開示し、また、組換え過剰発現プラスミドとマイクロRNAの特異的適用、および過剰発現miRNAを利用して安定した低発現SIRT-1を構築するためのLMH細胞株を開示している。
【0006】
米国特許出願公開第2007/160586号(特許文献2)は、細胞の複製寿命を延長するための方法を開示している。
【0007】
米国特許出願公開第2011/015272号(特許文献3)は、サーチュイン1および神経変性疾患の処置を開示している。
【0008】
Younghwan,H.らは、SIRT-1ノックアウトマウスの休止B細胞におけるHspa1aおよびHspa1b遺伝子の増加を開示している(Mol.Biol.Rep.46(2019)4225-4234(非特許文献10))。
【0009】
欧州特許第3308778号(特許文献4)は、アルギニンとそのt細胞モジュレーターとしての使用を開示している。
【0010】
Fischer,S.らは、CHO細胞におけるマイクロRNA-30ファミリーによるタンパク質産生の亢進が、ユビキチン経路の調節によって媒介されることを開示している(J.Biotechnol.212(2015)32-43(非特許文献3))。
【0011】
現在、生産性を高める単一の内因性遺伝子のノックアウトは知られていない。したがって、内因性遺伝子の単一のノックアウトは、宿主細胞株への導入が容易であることから、非常に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】CN109161545
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/160586号
【特許文献3】米国特許出願公開第2011/015272号
【特許文献4】欧州特許第3308778号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Gulis,G.,et al.,BMC biotechnology,14(2014)26
【非特許文献2】Lee,J.S.,et al.,Biotechnol.Bioeng.110(2013)2195-2207
【非特許文献3】Fischer,S.,et al.,J.Biotechnol.212(2015)32-43
【非特許文献4】Ferrara,C.,et al.,Biotechnol.Bioeng.93(2006)851-861
【非特許文献5】Fischer,S.,et al.,Biotechnol.Adv.33(2015)1878-1896
【非特許文献6】Cost,G.J.,et al.,Biotechnol.Bioeng.105(2010)330-340
【非特許文献7】Yamane-Ohnuki,N.,et al.,Biotechnol.Bioeng.87(2004)614-622
【非特許文献8】Fan,L.,et al.,Biotechnol.Bioeng.109(2012)1007-1015
【非特許文献9】Raab,N.,et al.,Biotechnol.J.(2019)1800477
【非特許文献10】Younghwan,H.,et al.,Mol.Biol.Rep.46(2019)4225-4234
【発明の概要】
【0014】
本明細書では、異種ポリペプチドを発現する組換え哺乳動物細胞を生成するための方法、および前記組換え哺乳動物細胞を使用して異種ポリペプチドを生産するための方法であって、ここで、組換え哺乳動物細胞において、内因性SIRT-1遺伝子の活性または機能または発現が低減しているかまたは排除されているかまたは減少しているかまたは(完全に)ノックアウトされている、方法が報告される。
【0015】
本発明は、少なくとも部分的には、例えばCHO細胞のような哺乳動物細胞におけるサーチュイン-1(SIRT-1)遺伝子のノックアウトが、一方では組換え生産性、例えば標準的なIgG型抗体および特に複合体抗体フォーマットの組換え生産性を改善し、他方では培養中の細胞による乳酸生産量を低減させるという知見に基づく。さらに、本発明によれば、フェドバッチ培養の終了時の生存率の低下は、組換え細胞について低減する、すなわち、完全に機能的なSIRT-1遺伝子を有する細胞と比較して、一定の閾値を超える生存率を有する期間が増加することが見出されている。
【0016】
本発明の1つの独立した態様は、内因性SIRT-1遺伝子の活性または/および機能または/および発現が低減しているかまたは排除されているかまたは減少しているかまたは(完全に)ノックアウトされている哺乳動物細胞である。
【0017】
本発明の1つの独立した態様は、内因性SIRT-1遺伝子の発現が低減した哺乳動物細胞であって、前記哺乳動物細胞が、同一の遺伝子型を有するが内因性のSIRT-1遺伝子発現を有する同じ条件下で培養された細胞と比較して、異種ポリペプチドの生産性の増加および/または培養中の乳酸生産量の低減、および/または培養中の高い生存率レベルの延長、および/または培養時間の延長のうちの少なくとも1つを有する哺乳動物細胞である。
【0018】
本発明の1つの独立した態様は、同一の遺伝子型を有するが内因性SIRT-1遺伝子発現を有する同じ条件下で培養された細胞と比較して、前記異種ポリペプチドをコードする外因性核酸を含む(内因性)SIRT-1発現が低減した組換え哺乳動物細胞の、異種ポリペプチド力価を増加させること、および/または乳酸生産量を低減させること、および/または培養中の高い生存率レベルの延長、および/または培養時間の延長のうちの少なくとも1つのための方法である。
【0019】
本発明の1つの独立した態様は、改善された組換え生産性および/または低減した乳酸生産量を持つ組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、該方法は、以下:
a)哺乳動物細胞中の内因性SIRT-1遺伝子を標的とするヌクレアーゼ支援および/または核酸を適用して、内因性SIRT-1遺伝子の活性を低減させる工程、および
b)内因性SIRT-1遺伝子の活性が低減した哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それにより、同一の遺伝子型を有するが内因性のSIRT-1遺伝子発現を有する同じ条件下で培養された細胞と比較して、増加した組換え生産性および/または低減した乳酸生産量を持つ組換え哺乳動物細胞を生産する、方法である。
【0020】
本発明の1つの独立した態様は、
a)異種ポリペプチドをコードする外因性デオキシリボ核酸を含む哺乳動物細胞を、任意に異種ポリペプチドの発現に適した条件下で培養する工程、および
b)細胞または培養培地から異種ポリペプチドを回収する工程
を含む、異種ポリペプチドを生産するための方法であって、
ここで、内因性SIRT-1遺伝子の活性または/および機能または/および発現が低減しているかまたは排除されているかまたは減少しているかまたは(完全に)ノックアウトされている、方法である。
【0021】
本発明の別の独立した態様は、改善されかつ/または増加した組換え生産性、および/または低減した乳酸生産量を有する(having)/持つ(with)組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、該方法は、以下:
a)内因性SIRT-1遺伝子を標的とする核酸または酵素またはヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムを哺乳動物細胞に適用して、内因性SIRT-1遺伝子の活性または/および機能または/および発現を低減させるかまたは排除するかまたは減少させるかまたは(完全に)ノックアウトする工程、ならびに
b)内因性SIRT-1遺伝子の活性または/および機能または/および発現が低減しているかまたは排除されているかまたは減少しているかまたは(完全に)ノックアウトされている哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それにより、改善されかつ/または増加した組換え生産性および/または低減した乳酸生産量を有する(having)/持つ(with)組換え哺乳動物細胞を生産する、方法である。
【0022】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SIRT-1遺伝子ノックアウトは、ヘテロ接合性ノックアウトまたはホモ接合性ノックアウトである。
【0023】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SIRT-1ノックアウト細胞株の生産性は、SIRT-1発現(親)哺乳動物細胞と比較して、少なくとも10%、好ましくは15%以上、最も好ましくは20%以上増加する。
【0024】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、低減または排除または減少またはノックアウトは、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムによって媒介される。一実施形態では、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムは、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼおよびTALENからなる群から選択される。
【0025】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SIRT-1遺伝子発現の低減は、RNAサイレンシングによって媒介される。一実施形態では、RNAサイレンシングは、siRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウン、shRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウン、ならびにmiRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウンからなる群から選択される。
【0026】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SIRT-1ノックアウトは、異種ポリペプチドをコードする外因性核酸の導入前、または異種ポリペプチドをコードする外因性核酸の導入後に行われる。
【0027】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ポリペプチドは抗体である。一実施形態では、抗体は、2つ以上の異なる結合部位および任意選択でドメイン交換を含む抗体である。一実施形態では、抗体は、3つ以上の結合部位またはVH/VLペアまたはFab断片、および任意選択でドメイン交換を含む。一実施形態では、抗体は多重特異性抗体である。一実施形態では、多重特異性抗体は、
i)第1のFab断片と第2のFab断片を含むドメイン交換を伴う完全長抗体であって、
ここで、第1のFab断片において、
a)第1のFab断片の軽鎖はVLおよびCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVHおよびCLドメインを含み;
b)第1のFab断片の軽鎖はVHおよびCLドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVLおよびCH1ドメインを含み;または
c)第1のFab断片の軽鎖はVHおよびCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVLおよびCLドメインを含み;
かつ
第2のFab断片は、VLおよびCLドメインを含む軽鎖と、VHおよびCH1ドメインを含む重鎖とを含む
完全長抗体;
ii)ドメイン交換および追加の重鎖C末端結合部位を有する完全長抗体であって、
- 完全長抗体軽鎖と完全長抗体重鎖のそれぞれ2つのペアを含む1つの完全長抗体であって、ここで、完全長重鎖および完全長軽鎖のペアのそれぞれによって形成される結合部位は、第1の抗原に特異的に結合する、1つの完全長抗体;および
- 1つの追加のFab断片であって、ここで、追加のFab断片は、完全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されており、追加のFab断片の結合部位は、第2の抗原に特異的に結合する、1つの追加のFab断片
を含み;
ここで、第2の抗原に特異的に結合する追加のFab断片は、i)a)軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)が互いに置き換えられている、またはb)軽鎖定常ドメイン(CL)と重鎖定常ドメイン(CH1)が互いに置き換えられているようなドメインクロスオーバーを含み、またはii)一本鎖Fab断片である
完全長抗体;
iii)第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む一アーム一本鎖抗体であって、
- 可変軽鎖ドメインおよび軽鎖カッパまたはラムダ定常ドメインを含む軽鎖;
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびノブ変異を有するCH3を含む軽鎖/重鎖の組み合わせ;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ホール変異を有するCH3ドメインを含む重鎖
を含む、一アーム一本鎖抗体;
iv)第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位、および第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位を含む、二アーム一本鎖抗体であって、
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびホール変異を有するCH3を含む、軽鎖/重鎖の第1の組み合わせ;
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびノブ変異を有するCH3ドメインを含む、軽鎖/重鎖の第2の組み合わせ
を含む、二アーム一本鎖抗体;
v)第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む、共通軽鎖二重特異性抗体であって、
- 可変軽鎖ドメインおよび軽鎖定常ドメインを含む軽鎖;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ホール変異を有するCH3ドメインを含む第1の重鎖;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ノブ変異を有するCH3ドメインを含む第2の重鎖
を含む、共通軽鎖二重特異性抗体;
vi)ドメイン交換を伴う追加の重鎖N末端結合部位を有する完全長抗体であって、
- 第1および第2のFab断片であって、第1および第2のFab断片の各結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、第1および第2のFab断片;
- 第3のFab断片であって、ここで、第3のFab断片の結合部位は、第2の抗原に特異的に結合し、ここで、第3のFab断片は、可変軽鎖ドメイン(VL)および可変重鎖ドメイン(VH)が互いに置き換えられるようなドメインクロスオーバーを含む、第3のFab断片;および
- 第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドを含むFc領域
を含み;
ここで、第1および第2のFab断片はそれぞれ、重鎖断片および完全長軽鎖を含み、
第1のFab断片の重鎖断片のC末端は、第1のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されており、
第2のFab断片の重鎖断片のC末端は、第3のFab断片の可変軽鎖ドメインのN末端に融合されており、第3のFab断片のCH1ドメインのC末端は、第2のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されている
完全長抗体;
ならびに
vii)完全長抗体と、任意選択でペプチドリンカーを介して互いに結合した非免疫グロブリン部分とを含むイムノコンジュゲート
からなる群から選択される。
【0028】
図示および特許請求された様々な実施形態に加えて、本開示の主題はまた、本明細書に開示され、特許請求された特徴の他の組み合わせを有する他の実施形態も対象とする。したがって、本明細書に提示される特定の特徴は、本開示の主題が本明細書に開示される特徴の任意の適切な組み合わせを含むように、開示される主題の範囲内で他の様式で互いに組み合わせることができる。本開示の主題の特定の実施形態の前述の説明は、例示および説明目的のために提示されている。網羅的であること、または本開示の主題を開示されたそれらの実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態の詳細な説明
本明細書では、異種ポリペプチドを発現する組換え哺乳動物細胞を生成するための方法、および前記組換え哺乳動物細胞を使用して異種ポリペプチドを生産するための方法であって、ここで、組換え細胞において、内因性SIRT-1遺伝子の活性/機能/発現が低減している/排除されている/減少している/(完全に)ノックアウトされている、方法が報告される。
【0030】
本発明は、少なくとも部分的には、例えばCHO細胞のような哺乳動物細胞におけるサーチュイン-1(SIRT-1)遺伝子のノックアウトが、組換え生産性、例えば標準的なIgG型抗体および特に複合体抗体フォーマットの組換え生産性を改善し、細胞による乳酸生産量を低減させるという知見に基づく。さらに、フェドバッチ培養の終了時の生存率の低下が低減することが見出されている。
【0031】
I.一般的な定義
本発明を実施するための有用な方法および技術は、例えば、Ausubel,F.M.(ed.),Current Protocols in Molecular Biology,Volumes I to III(1997);Glover,N.D.,and Hames,B.D.,ed.,DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(1985),Oxford University Press;Freshney,R.I.(ed.),Animal Cell Culture - a practical approach,IRL Press Limited(1986);Watson,J.D.,et al.,Recombinant DNA,Second Edition,CHSL Press(1992);Winnacker,E.L.,From Genes to Clones;N.Y.,VCH Publishers(1987);Celis,J.,ed.,Cell Biology,Second Edition,Academic Press(1998);Freshney,R.I.,Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,second edition,Alan R.Liss,Inc.,N.Y.(1987)に記載されている。
【0032】
組換えDNA技術の使用は、核酸の誘導体生成を可能にする。このような誘導体は、例えば、置換、変更、交換、欠失または挿入によって、個々のまたはいくつかのヌクレオチド位置で修飾することができる。該修飾または誘導体化は、例えば、部位特異的突然変異誘発によって行うことができる。このような修飾は、当業者によって容易に行うことができる(例えば、Sambrook,J.,et al,Molecular Cloning:A laboratory manual(1999)Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,USA、Hames,B.D.,and Higgins,S.G.,Nucleic acid hybridization - a practical approach(1985)IRL Press,Oxford,England)。
【0033】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数形を含む。したがって、例えば、「細胞」への言及は、複数のこのような細胞および当業者に公知のその均等物などを含む。同様に、「a」(または「an」)、「1つまたは複数」および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では相互交換可能に使用することができる。また、「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「有する」という用語は、相互交換可能に使用することができることにも留意されたい。
【0034】
「約」という用語は、その後に続く数値の±20%の範囲を意味する。一実施形態では、約という用語は、その後に続く数値の±10%の範囲を意味する。一実施形態では、約という用語は、その後に続く数値の±5%の範囲を意味する。
【0035】
「含む(comprising)」という用語は、「からなる(consisting of)」という用語も包含する。
【0036】
本明細書で使用される「組換え哺乳動物細胞」という用語は、ポリペプチドを発現することができる外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を意味する。そのような組換え哺乳動物細胞は、そのような細胞の子孫を含む、1つまたは複数の外因性核酸が導入された細胞である。したがって、「異種ポリペプチドをコードする核酸を含む哺乳動物細胞」という用語は、哺乳動物細胞のゲノムに組み込まれ、異種ポリペプチドを発現することができる外因性ヌクレオチド配列を含む細胞を意味する。一実施形態では、外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞は、宿主細胞のゲノムの遺伝子座内の1つの部位に組み込まれる外因性ヌクレオチド配列を含む細胞であり、この外因性ヌクレオチド配列は、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1の組換え認識配列および第2の組換え認識配列、ならびに第1の組換え認識配列と第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ組換え認識配列はすべて異なっている。
【0037】
本明細書で使用される「組換え細胞」という用語は、遺伝子修飾後の細胞、例えば、目的の異種ポリペプチドを発現し、該目的のポリペプチドの任意の規模での生産のために使用できる細胞などを意味する。例えば、「外因性ヌクレオチド配列を含む組換え哺乳動物細胞」は、目的の異種ポリペプチドのコード配列が宿主細胞のゲノムに導入されている細胞を意味する。例えば、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)に供され、それによって目的のポリペプチドのコード配列が宿主細胞のゲノム中に導入された「外因性ヌクレオチド配列を含む組換え哺乳動物細胞」は、「組換え細胞」である。
【0038】
「外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞」および「組換え細胞」はどちらも、「形質転換細胞」である。この用語は、継代の回数に関わらず、初代形質転換細胞も、それに由来する子孫も含む。子孫は、例えば、親細胞と完全に同一の核酸含量でない場合があるが、変異を含んでもよい。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングまたは選択されたのと同じ機能または生物活性を有している変異子孫は、包含される。
【0039】
「単離された」組成物は、自然環境の構成成分から分離されたものである。いくつかの実施形態では、組成物は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動、CE-SDS)またはクロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、またはイオン交換もしくは逆相HPLC)によって、95%または99%超の純度と決定されるまで精製される。抗体の純度を評価するための方法の概説については、例えば、Flatman,S.et al.,J.Chrom.B 848(2007)79-87を参照されたい。
【0040】
「単離された」核酸は、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を指す。単離された核酸には、通常核酸分子を含む細胞内に含まれる核酸分子が含まれるが、前記核酸分子は、染色体外に存在するか、または自然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0041】
「単離された」ポリヌクレオチドまたは抗体は、その自然環境の構成成分から分離された、ポリペプチド分子または抗体分子を指す。
【0042】
「組込み部位」という用語は、外因性ヌクレオチド配列が挿入される、細胞ゲノム内の核酸配列を意味する。特定の実施形態では、組込み部位は、細胞ゲノム中の隣り合う2つのヌクレオチドの間にある。特定の実施形態では、組込み部位は、ヌクレオチド配列のストレッチを含む。特定の実施形態では、組込み部位は、哺乳動物細胞のゲノムの特定の遺伝子座内に位置している。特定の実施形態では、組込み部位は、哺乳動物細胞の内因性遺伝子内にある。
【0043】
相互交換可能に使用することができる「ベクター」または「プラスミド」という用語は、本明細書で使用される場合、連結された別の核酸を伝播することができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製する核酸構造としてのベクターならびに、ベクターが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターも含む。ある種のベクターは、作動可能に連結された核酸の発現を指示することができる。そのようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」と呼ぶ。
【0044】
「結合する」という用語は、その標的への結合部位の結合を意味する。例えば、それぞれの抗原への、抗体重鎖可変ドメインおよび抗体軽鎖可変ドメインを含む抗体結合部位の結合である。この結合は、例えば、BIAcore(登録商標)アッセイ(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)を使用して測定することができる。すなわち、「(抗原への)結合」という用語は、インビトロアッセイにおいて、抗体のその抗原への結合を意味する。一実施形態では、結合は、抗体が表面に結合しており、かつ抗体への抗原の結合が表面プラズモン共鳴(SPR)により測定される結合アッセイにおいて決定される。結合とは、例えば、10-8M以下、いくつかの実施形態では10-13~10-8M、いくつかの実施形態では10-13~10-9Mの結合親和性(K)を意味する。「結合する」という用語は、「特異的に結合する」という用語も含む。
【0045】
例えば、BIAcore(登録商標)アッセイの1つの可能な実施形態では、抗原を表面に結合させ、抗体の結合、すなわちその結合部位が、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される。結合の親和性は、用語k(会合定数:複合体を形成するための会合の速度定数)、k(解離定数、複合体の解離のための速度定数)、およびK(k/k)によって定義される。あるいは、SPRセンサーグラムの結合シグナルを、共鳴シグナルの高さおよび解離挙動に関して、参照の応答シグナルと直接比較することができる。
【0046】
「結合部位」という用語は、標的への結合特異性を示す任意のタンパク質性エンティティを意味する。これは、例えば、受容体、受容体リガンド、アンチカリン、アフィボディ、抗体などであり得る。したがって、本明細書で使用される「結合部位」という用語は、第2のポリペプチドに特異的に結合することができるか、または第2のポリペプチドによって特異的に結合され得るポリペプチドを意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「選択マーカー」という用語は、対応する選択剤の存在下で、ある遺伝子を保持する細胞が特異的に選択されるか、または特異的に排除されることを可能にする該遺伝子を意味する。例えば、限定ではないが、選択マーカーは、選択マーカー遺伝子で形質転換された宿主細胞が、それぞれの選択剤の存在下で積極的に選択されることを可能にすることができ(選択的培養条件)、形質転換されていない宿主細胞は、該選択的培養条件下で増殖または生存することができない。選択マーカーは、ポジティブ、ネガティブ、または二機能性であり得る。ポジティブ選択マーカーは、マーカーを保持する細胞の選択を可能にすることができるのに対し、ネガティブ選択マーカーは、マーカーを保持する細胞を選択的に排除することを可能にし得る。選択マーカーは、薬剤耐性を付与し、または宿主細胞の代謝的もしくは異化的欠陥を補い得る。原核細胞では、とりわけ、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、またはクロラムフェニコールに対する耐性を付与する遺伝子が使用され得る。真核細胞の選択マーカーとして有用な耐性遺伝子としては、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシンおよびG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミンシンテターゼ(GS)、アスパラギンシンテターゼ、トリプトファンシンテターゼ(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD)の遺伝子、ならびにピューロマイシン、ブラストサイジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、およびマイコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。さらなるマーカー遺伝子は、国際公開第92/08796号および国際公開第94/28143号に記載されている。
【0048】
対応する選択剤の存在下での選択を容易にすることを超えて、選択マーカーは、別法として、普通は細胞に存在しない分子、例えば、緑色蛍光性タンパク質(GFP)、高感度GFP(eGFP)、合成GFP、黄色蛍光性タンパク質(YFP)、高感度YFP(eYFP)、シアン蛍光性タンパク質(CFP)、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald、CyPet、mCFPm、Cerulean、およびT-Sapphireであってよい。例えば、コードされるポリペプチドが発する蛍光の検出または不在にそれぞれ基づいて、そのような分子を発現する細胞を、この遺伝子を内部に持たない細胞と区別することができる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結される」という用語は、2つ以上の構成要素の並置を指し、該構成要素は、意図される様式で機能することを可能する関係にある。例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサーがコード配列の転写を調節するように作用する場合、該プロモーターおよび/またはエンハンサーは、コード配列に作動可能に連結されている。特定の実施形態では、「作動可能に連結された」DNA配列は、単一の染色体上で近接し、隣接している。特定の実施形態では、例えば、分泌リーダーおよびポリペプチドなどの2つのタンパク質をコードする領域を結合する必要がある場合、該配列は、連続して隣接し、同じリーディングフレーム内に存在する。特定の実施形態では、作動可能に連結されたプロモーターは、コード配列の上流に位置し、それに隣接し得る。特定の実施形態では、例えば、コード配列の発現を調節するエンハンサー配列に関して、2つの構成要素は隣接していなくても、作動可能に連結され得る。エンハンサーは、コード配列の転写を増加させる場合、該エンハンサーは、コード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結されエンハンサーは、コード配列の上流、その中、または下流に位置し得、またコード配列のプロモーターから相当な距離を置いて位置し得る。作動可能な連結は、当技術分野で公知の組換え法によって、例えば、PCR法を使用して、および/または都合の良い制限部位でのライゲーションによって達成され得る。都合の良い制限部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを、従来の方法に従って使用し得る。内部リボソーム侵入部位(IRES)が、5’末端に非依存的な方法により内部位置でORFの翻訳を開始できる場合、該IRESは、オープン・リーディング・フレーム(ORF)に作動可能に連結されている。
【0050】
本明細書において使用される場合、「外因性」という用語は、あるヌクレオチド配列が特定の細胞に由来せず、DNA送達法、例えば、トランスフェクション法、エレクトロポレーション法、または形質転換法によって該細胞に導入されることを示す。したがって、外因性ヌクレオチド配列は人工配列であり、この人工物は、例えば、起源が異なる部分配列の組み合わせ(例えば、SV40プロモーターを有するリコンビナーゼ認識配列と緑色蛍光性タンパク質のコード配列との組み合わせは、人工核酸である)から、または配列(例えば、膜結合型受容体の細胞外ドメインのみをコードする配列もしくはcDNA)の部分的な欠失もしくは核酸塩基の突然変異から、生じ得る。「内因性」という用語は、細胞に由来するヌクレオチド配列を意味する。「外因性」ヌクレオチド配列は、塩基組成が同一である「内因性」対応物を有し得るが、「外因性」配列は、例えば組換えDNA技術によって細胞に導入されている。
【0051】
本明細書において使用される場合、「異種」という用語は、あるポリペプチドが特定の細胞に由来せず、それぞれのコードする核酸が、DNA送達法、例えば、トランスフェクション法、エレクトロポレーション法、または形質転換法によって該細胞に導入されることを示す。したがって、異種ポリペプチドは、それを発現する細胞に対して人工的なポリペプチドであり、そのため、そのポリペプチドが異なる細胞/生物に由来する天然に存在するポリペプチドであるか、または人工ポリペプチドであるかどうかに依存しない。
【0052】
「サーチュイン-1」という用語は、哺乳動物におけるシグナル伝達の一部である酵素、すなわち、NAD依存性デアセチラーゼサーチュイン-1を意味する。サーチュイン-1はSIRT-1遺伝子によってコードされる。ヒトサーチュイン-1は、UniProtKBエントリーQ96EB6を有し、配列番号17に示されている。チャイニーズハムスターサーチュイン-1は、UniProtKBエントリー A0A3L7IF96を有し、配列番号18に示されている。
【0053】
II.抗体
(ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関連する一般的な情報は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に与えられる。
【0054】
本明細書において使用される場合、重鎖および軽鎖のすべての定常領域およびドメインのアミノ酸位置は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)において説明されるKabat番号付けシステムにより番号付けされ、本明細書では「Kabatによる番号付け」と称される。具体的には、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)のKabat番号付けシステム(647~660頁を参照)を、カッパアイソタイプおよびラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用し、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)のKabat EUインデックス番号付けシステム(661~723頁を参照)を、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3、本明細書では、この場合の「KabatのEUインデックスによる番号付け」を参照することでさらに明確になる)に使用する。
【0055】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、完全長抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体-抗体断片融合物、ならびにそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない様々な抗体構造を包含する。
【0056】
「天然抗体」という用語は、様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子を意味する。例えば、天然IgG抗体は、2本の同一の軽鎖と2本の同一の重鎖がジスルフィド結合したものを含む、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に、各重鎖は、重鎖可変領域(VH)とそれに続く3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)を有し、それにより、第1の重鎖定常ドメインと第2の重鎖定常ドメインとの間にヒンジ領域が配置される。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)とそれに続く軽鎖定常ドメイン(CL)を有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。
【0057】
「完全長抗体」という用語は、天然抗体の構造と実質的に類似した構造を有する抗体を意味する。完全長抗体は、それぞれがN末端からC末端の方向に、軽鎖可変領域および軽鎖定常ドメインを含む2つの完全長抗体軽鎖、ならびにそれぞれがN末端からC末端の方向に、重鎖可変領域、第1の重鎖定常ドメイン、ヒンジ領域、第2の重鎖定常ドメイン、および第3の重鎖定常ドメインを含む、2つの完全長抗体重鎖を含む。天然抗体とは対照的に、完全長抗体はさらなる免疫グロブリンドメイン、例えば、完全長抗体の異なる鎖の1つまたは複数の末端に、ただし各末端に対しては単一の断片のみが結合した、1つまたは複数の追加のscFv、または重鎖もしくは軽鎖Fab断片、またはscFabなどを含み得る。これらのコンジュゲートもまた、完全長抗体という用語により包含される。
【0058】
「抗体結合部位」という用語は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインのペアを意味する。抗原への適切な結合を確実にするために、これらの可変ドメインは同族の可変ドメインであり、すなわち一緒に属している。抗体結合部位は、少なくとも3つのHVR(例えば、VHHの場合)または3~6つのHVR(例えば、天然に存在する、すなわち、VH/VLペアを有する従来の抗体の場合)を含む。一般に、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基が、結合部位を形成している。これらの残基は通常、抗体重鎖可変ドメインと対応する抗体軽鎖可変ドメインのペアに含まれる。抗体の抗原結合部位は、「超可変領域」または「HVR」からのアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」または「FR」領域は、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインは、N末端からC末端に向かって領域FR1、HVR1、FR2、HVR2、FR3、HVR3およびFR4を含む。特に、重鎖可変ドメインのHVR3領域は、抗原結合に最も寄与し、抗体の結合特異性を定義する領域である。「機能的結合部位」は、その標的に特異的に結合することができる。「特異的に結合する」という用語は、インビトロアッセイにおいて、一実施形態では結合アッセイにおいて、その標的への結合部位の結合を表す。そのような結合アッセイは、結合イベントが検出され得る限り、任意のアッセイであり得る。例えば、抗体を表面に結合させ、該抗体への抗原の結合が表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される、結合アッセイである。あるいは、ブリッジングELISAを使用することができる。
【0059】
本明細書で用いられる「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列が超可変である、アミノ酸残基ストレッチを含む抗体可変ドメインの領域(「相補性決定領域」すなわち「CDR」)および/または構造的に既定されるループ(「超可変ループ」)を形成する抗体可変ドメインの領域および/または抗原に接触する残基(「抗原接触」を含有する抗体可変ドメインの領域のそれぞれを指す。一般的に、抗体は、6つのHVRを含み、重鎖可変ドメインVHに3つ(H1、H2、H3)、軽鎖可変ドメインVLに3つ(L1、L2、L3)である。
【0060】
HVRには、次のものが含まれる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、および96~101(H3)に生じる超可変ループ(Chothia,C.and Lesk,A.M.,J.Mol.Biol.196(1987)901-917);
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、および95~102(H3)に生じるCDR(Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)、NIH Publication 91-3242);
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、および93~101(H3)に生じる抗原接触(MacCallum,et al.,J.Mol.Biol.262:732-745(1996));ならびに
(d)アミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)、および94~102(H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組み合わせ。
【0061】
別段の指示がない限り、HVR残基および可変ドメイン内の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書において、上記のKabatらに従って番号付けされている。
【0062】
抗体の「クラス」は、定常ドメインまたは定常領域、好ましくは重鎖が持つFc領域の種類を指す。抗体の5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが存在し、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。
【0063】
「重鎖定常領域」という用語は、定常ドメイン、すなわち、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む免疫グロブリン重鎖の領域を意味する。一実施形態では、ヒトIgG定常領域は、重鎖のAla118からそのカルボキシル末端に及ぶ(Kabat EUインデックスによる番号付け)。ただし、定常領域のC末端リジン(Lys447)は、存在していてもよく、または存在していなくてもよい(Kabat EUインデックスによる番号付け)。「定常領域」という用語は、鎖間ジスルフィド結合を形成するヒンジ領域システイン残基を介して互いに共有結合することができる2つの重鎖定常領域を含む二量体を意味する。
【0064】
「重鎖Fc領域」という用語は、少なくともヒンジ領域の一部、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を意味する。一実施形態では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Asp221またはCys226またはPro230から重鎖のカルボキシル末端に及ぶ(Kabat EUインデックスによる番号付け)。したがって、Fc領域は定常領域よりも小さいが、C末端部分はそれと同一である。ただし、重鎖Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在していてもよく、または存在していなくてもよい(Kabat EUインデックスによる番号付け)。「Fc領域」という用語は、鎖間ジスルフィド結合を形成するヒンジ領域システイン残基を介して互いに共有結合することができる2つの重鎖Fc領域を含む二量体を意味する。
【0065】
抗体の定常領域、より正確にはFc領域(同様に定常領域)は、補体活性化、C1q結合、C3活性化、およびFc受容体結合に直接関与している。補体系に対する抗体の影響は、特定の条件に依存するが、C1qへの結合は、Fc領域における規定の結合部位によって引き起こされる。このような結合部位は、先行技術で公知であり、例えば、Lukas,T.J.,et al.,J.Immunol.127(1981)2555-2560;Brunhouse,R.,and Cebra,J.J.,Mol.Immunol.16(1979)907-917;Burton,D.R.,et al.,Nature 288(1980)338-344;Thommesen,J.E.,et al.,Mol.Immunol.37(2000)995-1004;Idusogie,E.E.,et al.,J.Immunol.164(2000)4178-4184;Hezareh,M.,et al.,J.Virol.75(2001)12161-12168;Morgan,A.,et al.,Immunology 86(1995)319-324;およびEP0307434において記載されている。このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329(KabatのEUインデックスによる番号付け)である。サブクラスIgG1、IgG2、およびIgG3の抗体は通常、補体活性化、C1q結合、およびC3活性化を示すのに対し、IgG4は、補体系を活性化せず、C1qと結合せず、C3を活性化しない。「抗体のFc領域」は、当業者に周知の用語であり、抗体のパパイン切断に基づいて規定される。
【0066】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は同一であり、かつ/または同じエピトープに結合するが、例えば、自然発生突然変異を含有するか、またはモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる、起こり得るバリアント抗体は例外であり、かかるバリアントは一般的に少量で存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物のそれぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向する。したがって、修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように解釈すべきではない。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない種々の技術によって作製され得る。
【0067】
「価数」という用語は、本出願で使用される場合、抗体中の特定の数の結合部位の存在を意味する。したがって、「二価」、「四価」および「六価」という用語は、抗体中に、それぞれ2つの結合部位、4つの結合部位、および6つの結合部位の存在を意味する。
【0068】
「単一特異性抗体」は、単一の結合特異性を有する、すなわち、1つの抗原に特異的に結合する抗体を意味する。単一特異性抗体を、完全長抗体もしくは抗体断片(例えば、F(ab’))またはそれらの組み合わせ(例えば、完全長抗体と追加のscFvまたはFab断片)として調製することができる。単一特異性抗体は、一価である必要はない。すなわち、単一特異性抗体は、1つの抗原に特異的に結合する2つ以上の結合部位を含んでもよい。例えば、天然型の抗体は、単一特異性であるが二価である。
【0069】
「多重特異性抗体」は、同じ抗原または2つの異なる抗原上の少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体を意味する。多重特異性抗体を、完全長抗体もしくは抗体断片(例えば、F(ab’)二重特異性抗体)またはそれらの組み合わせ(例えば、完全長抗体と追加のscFvまたはFab断片)として調製することができる。多重特異性抗体は、少なくとも二価である。すなわち、2つの抗原結合部位を含む。また、多重特異性抗体は、少なくとも二重特異性である。したがって、二価の二重特異性抗体は、多重特異性抗体の最も単純な形態である。2つ、3つまたはより多く(例えば、4つ)の機能的な抗原結合部位を有する操作された抗体が報告されている(例えば、米国特許出願公開第2002/0004587号(A1)を参照)。
【0070】
特定の実施形態では、抗体は、多重特異性抗体、例えば少なくとも二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原またはエピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の実施形態では、結合特異性の一方は第1の抗原に対するものであり、他方は異なる第2の抗原に対するものである。特定の実施形態では、多重特異性抗体は、同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合し得る。多重特異性抗体を使用して、抗原を発現する細胞に細胞毒性剤を局在化させることもできる。
【0071】
多重特異性抗体は、完全長抗体または抗体-抗体断片-融合物として調製することができる。
【0072】
多重特異性抗体を作製するための技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein,C.and Cuello,A.C.,Nature 305(1983)537-540,国際公開第93/08829号、およびTraunecker,A.,et al.,EMBO J.10(1991)3655-3659を参照)および「ノブインホール」操作(例えば、米国特許第5731168号を参照)が含まれるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果の改変(国際公開第2009/089004号);2つ以上の抗体もしくは断片の架橋(例えば、米国特許第4676980号、およびBrennan,M.,et al.,Science 229(1985)81-83を参照のこと);ロイシンジッパーを使用した二重特異的抗体の産生(例えば、Kostelny,S.A.,et al.,J.Immunol.148(1992)1547-1553を参照のこと);軽鎖のミスペアリング問題を回避するための、一般的な軽鎖技術の使用(例えば国際公開第98/50431号を参照のこと);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術の使用(例えば、Holliger,P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)6444-6448を参照のこと);および、例えばTutt,A.,et al.,J.Immunol.147(1991)60-69に記載されている三重特異的抗体の調製により作製することができる。
【0073】
例えば、「オクトパス(Octopus)抗体」を含む3つ以上の抗原結合部位を有する操作抗体、またはDVD-Igも本明細書に含まれる(例えば、国際公開第2001/77342号および国際公開第2008/024715号を参照されたい)。3つ以上の抗原結合部位を有する多重特異性抗体の他の例は、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号および国際公開第2013/026831号に見出すことができる。二重特異性抗体またはその抗原結合断片は、「二重作用Fab」または「DAF」もまた含む(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号および国際公開第2015/095539号を参照のこと)。
【0074】
多重特異性抗体はまた、同じ抗原特異性の1つまたは複数の結合アームにドメインクロスオーバーを持つ非対称形態で、すなわちVH/VLドメイン(例えば、国際公開第2009/080252号および国際公開第2015/150447号を参照)、CH1/CLドメイン(国際公開第2009/080253号を参照)または完全なFabアーム(国際公開第2009/080251号、国際公開第2016/016299号を参照、Schaefer et al,PNAS,108(2011)1187-1191、およびKlein at al.,MAbs 8(2016)1010-20も参照)を交換することによっても提供され得る。一実施形態では、多重特異性抗体はクロスFab断片を含む。「クロスFab断片」または「xFab断片」または「クロスオーバーFab断片」という用語は、重鎖および軽鎖の可変領域または定常領域のいずれかが交換されたFab断片を指す。クロスFab断片は、軽鎖可変領域(VL)と重鎖定常領域1(CH1)とで構成されるポリペプチド鎖、および重鎖可変領域(VH)と軽鎖定常領域(CL)とで構成されるポリペプチド鎖を含む。非対称Fabアームは、荷電または非荷電アミノ酸変異をドメインインターフェースに導入して正しいFabペアリングを指示することによって操作することもできる。例えば、国際公開第2016/172485号を参照。
【0075】
抗体または断片はまた、国際公開第2009/080254号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号または国際公開第2010/145793号に記載されている多重特異性抗体であり得る。
【0076】
抗体またはその断片は、国際公開第2012/163520号に開示されている多重特異性抗体でもあり得る。
【0077】
多重特異性抗体の様々なさらなる分子フォーマットが当技術分野で知られており、本明細書に含まれる(例えば、Spiess et al.,Mol.Immunol.67(2015)95-106を参照のこと)。
【0078】
二重特異性抗体は、一般に、同じ抗原上の2つの異なる重複しないエピトープまたは異なる抗原上の2つのエピトープに特異的に結合する抗体分子である。
【0079】
複合体(多重特異性)抗体は、
- ドメイン交換を伴う完全長抗体:
第1のFab断片と第2のFab断片を含む多重特異性IgG抗体であって、ここで、第1のFab断片において、
a)CH1ドメインとCLドメインのみが互いに置き換えられているか(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVLおよびCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVHおよびCLドメインを含む);
b)VHドメインとVLドメインのみが互いに置き換えられているか(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVHおよびCLドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVLおよびCH1ドメインを含む);または
c)CH1ドメインとCLドメインが互いに置き換えられ、VHドメインとVLドメインが互いに置き換えられており(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVHおよびCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVLおよびCLドメインを含む);かつ
前記第2のFab断片が、VLおよびCLドメインを含む軽鎖と、VHおよびCH1ドメインを含む重鎖とを含み、
ドメイン交換を伴う完全長抗体は、CH3ドメインを含む第1の重鎖と、CH3ドメインを含む第2の重鎖とを含み得、例えば、国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号または国際公開第2013/096291号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるように、第1重鎖および修飾された第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するために、両CH3ドメインは、それぞれのアミノ酸置換によって、相補的な様式で操作されている、
多重特異性IgG抗体;
- ドメイン交換および追加の重鎖C末端結合部位を有する完全長抗体:
多重特異性IgG抗体であって、
a)完全長抗体軽鎖と完全長抗体重鎖のそれぞれ2つのペアを含む1つの完全長抗体であって、ここで、完全長重鎖および完全長軽鎖のペアのそれぞれによって形成される結合部位は、第1の抗原に特異的に結合する、1つの完全長抗体、および
b)1つの追加のFab断片であって、ここで、追加のFab断片は、完全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されており、追加のFab断片の結合部位は、第2の抗原に特異的に結合する、1つの追加のFab断片
を含み、
ここで、第2の抗原に特異的に結合する追加のFab断片は、i)a)軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)が互いに置き換えられている、またはb)軽鎖定常ドメイン(CL)と重鎖定常ドメイン(CH1)が互いに置き換えられているようなドメインクロスオーバーを含み、またはii)一本鎖Fab断片である
多重特異性IgG抗体;
- 一アーム一本鎖フォーマット(=一アーム一本鎖抗体):
第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む抗体であって、個々の鎖は以下:
- 軽鎖(可変軽鎖ドメイン+軽鎖カッパ定常ドメイン)
- 軽鎖/重鎖の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3);
- 重鎖(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3)
の通りである、抗体;
- 二アーム一本鎖フォーマット(=二アーム一本鎖抗体):
第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む抗体であって、個々の鎖は以下:
- 軽鎖/重鎖1の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3)
- 軽鎖/重鎖2の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3)
の通りである、抗体;
- 共通軽鎖二重特異性フォーマット(=共通軽鎖二重特異性抗体):
第1のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第1の結合部位および第2のエピトープまたは抗原に特異的に結合する第2の結合部位を含む抗体であって、個々の鎖は以下:
- 軽鎖(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン)
- 重鎖1(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3);
- 重鎖2(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3)
の通りである、抗体;
- T細胞二重特異性フォーマット:
ドメイン交換を伴う追加の重鎖N末端結合部位を有する完全長抗体であって、
- 第1および第2のFab断片であって、第1および第2のFab断片の各結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、第1および第2のFab断片;
- 第3のFab断片であって、ここで、第3のFab断片の結合部位は、第2の抗原に特異的に結合し、ここで、第3のFab断片は、可変軽鎖ドメイン(VL)および可変重鎖ドメイン(VH)が互いに置き換えられるようなドメインクロスオーバーを含む、第3のFab断片、および
- 第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドを含むFc領域
を含み;
ここで、第1および第2のFab断片はそれぞれ、重鎖断片および完全長軽鎖を含み、
第1のFab断片の重鎖断片のC末端は、第1のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されており、
第2のFab断片の重鎖断片のC末端は、第3のFab断片の可変軽鎖ドメインのN末端に融合されており、第3のFab断片のCH1ドメインのC末端は、第2のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されている
完全長抗体
である。
【0080】
ノブ・イントゥー・ホール二量体化モジュールおよび抗体操作におけるその使用は、Carter P.;Ridgway J.B.B.;Presta L.G.:Immunotechnology,Volume2,Number1,February 1996,pp.73-73(1)に記載されている。
【0081】
抗体の重鎖のCH3ドメインを、「ノブ・イントゥー・ホール」技術によって改変することができる。例えば、国際公開第96/027011号、Ridgway,J.B.,et al.,Protein Eng.9(1996)617-621;およびMerchant,A.M.,et al.,Nat.Biotechnol.16(1998)677-681に、いくつかの例を伴って詳細に記載されている。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用表面を改変して、これら2つのCH3ドメインのヘテロ二量体化を増加させ、それによってそれらを含むポリペプチドのヘテロ二量体化を増加させる。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインのそれぞれは「ノブ」であることができ、他方は「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入はさらに、ヘテロ二量体を安定化させ(Merchant,A.M.,et al.,Nature Biotech.16(1998)677-681;Atwell,S.,et al.,J.Mol.Biol.270(1997)26-35)、収率を増加させる。
【0082】
(抗体重鎖の)CH3ドメインの変異T366Wは、「ノブ変異」または「変異ノブ」として表され、(抗体重鎖の)CH3ドメインにおける変異T366S、L368A、Y407Vは、「ホール変異」または「変異ホール」として表される(Kabat EUインデックスによる番号付け)。CH3ドメイン間の追加の鎖間ジスルフィド架橋(Merchant,A.M.,et al.,Nature Biotech.16(1998)677-681)も、例えば、「ノブ変異」を有する重鎖のCH3ドメインにS354C変異を導入(「ノブ-cys-変異」または「変異ノブ-cys」と表記)すること、および「ホール変異」を有する重鎖のCH3ドメインにY349C変異を導入(「ホール-cys-変異」または「変異ホール-cys」と表記)することにより、使用できる(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0083】
「ドメインクロスオーバー」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体重鎖VH-CH1断片とその対応する同族の抗体軽鎖とのペアにおいて、すなわち抗体Fab(断片抗原結合)において、少なくとも1つの重鎖ドメインが、対応する軽鎖ドメインによって置換されている、もしくはその逆、という点について、ドメイン配列が天然型の抗体の配列から逸脱していることを意味する。ドメインクロスオーバーは、一般的に3種類あり、(i)CH1およびCLドメインのクロスオーバーであって、軽鎖中のドメインクロスオーバーによってVL-CH1ドメイン配列がもたらされ、重鎖断片中のドメインクロスオーバーによってVH-CLドメイン配列(またはVH-CL-ヒンジ-CH2-CH3ドメイン配列を有する完全長抗体重鎖)がもたらされるもの、(ii)VHおよびVLドメインのドメインクロスオーバーであって、軽鎖中のドメインクロスオーバーによってVH-CLドメイン配列がもたらされ、重鎖断片中のドメインクロスオーバーによってVL-CH1ドメイン配列がもたらされるもの、ならびに(iii)完全な軽鎖(VL-CL)および完全なVH-CH1重鎖断片のドメインクロスオーバー(「Fabクロスオーバー」)であって、ドメインクロスオーバーによってVH-CH1ドメイン配列を有する軽鎖がもたらされ、ドメインクロスオーバーによってVL-CLドメイン配列を有する重鎖断片がもたらされるもの(上述のすべてのドメイン配列は、N末端からC末端への方向で示されている)がある。
【0084】
本明細書で使用される場合、対応する重鎖ドメインおよび軽鎖ドメインに関して「互いに置き換えられた」という用語は、上述のドメインクロスオーバーを指す。そのため、CH1およびCLドメインが「互いに置き換えられた」場合、該用語は、項目(i)の下で言及されたドメインクロスオーバー、ならびに結果として生じる重鎖および軽鎖ドメイン配列を指す。したがって、VHおよびVLが「互いに置き換えられた」場合、該用語は、項目(ii)の下で言及されたドメインクロスオーバーを指し、またCH1およびCLドメインが「互いに置き換えられ」、かつVHおよびVLドメインが「互いに置き換えられた」場合、該用語は、項目(iii)の下で言及されたドメインクロスオーバーを指す。ドメインクロスオーバーを含む二重特異性抗体は、例えば、国際公開第2009/080251号、国際公開第2009/080252号、国際公開第2009/080253号、国際公開第2009/080254号、およびSchaefer,W.,et al,Proc.Natl.Acad.Sci USA 108(2011)11187-11192において報告されている。このような抗体は、一般にCrossMabと呼ばれる。
【0085】
多重特異性抗体はまた、一実施形態では、上記の項目(i)で述べたCH1およびCLドメインのドメインクロスオーバー、または上記の項目(ii)で述べたVHおよびVLドメインのドメインクロスオーバー、または上記の項目(iii)で述べたVH-CH1およびVL-VLドメインのドメインクロスオーバーのいずれかを含む、少なくとも1つのFab断片を含む。ドメインクロスオーバーを伴う多重特異性抗体の場合、同じ抗原に特異的に結合するFabは、同じドメイン配列であるように構築される。そのため、ドメインクロスオーバーを伴う2つ以上のFabが多重特異性抗体に含まれる場合、前記Fabは同じ抗原に特異的に結合する。
【0086】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基、およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む抗体を指す。ある特定の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むものであり、それにおいて、HVR(例えば、CDR)のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト抗体のものに相当し、FRのすべてまたは実質的にすべてがヒト抗体のものに相当する。ヒト化抗体は、必要に応じて、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0087】
本明細書で使用される「組換え抗体」という用語は、組換え細胞などの組換え手段によって調製、発現、作成、または単離されるすべての抗体(キメラ、ヒト化およびヒト)を意味する。これには、NS0、HEK、BHK、羊膜細胞、CHO細胞などの組換え細胞から単離された抗体が含まれる。
【0088】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」という用語は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指し、すなわちそれは、機能的な断片である。抗体断片の例としては、以下に限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、二重特異性Fab、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFvまたはscFab)が挙げられる。
【0089】
III.組換え方法および組成物
抗体は、例えば、米国特許第4816567号に記載されているように、組換え方法および組成物を使用して産生することができる。これらの方法のために、抗体をコードする1つ以上の単離された核酸が提供される。
【0090】
一態様では、抗体を作製する方法であって、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体の発現に好適な条件下で培養する工程と、任意に、抗体を宿主細胞(または宿主細胞培養物)から回収する工程とを含む、方法が提供される。
【0091】
抗体の組換え産生に関しては、例えば、上述の抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞内でのさらなるクローニングおよび/または発現のために、1つ以上のベクター中に挿入される。このような核酸は、容易に単離することができ、一般的な手順を用いて(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定することができる。
【0092】
通常、例えば治療用抗体のような目的のポリペプチドの組換え大量生産のためには、該ポリペプチドを安定に発現し分泌する細胞が必要とされる。この細胞は、「組換え細胞」または「組換え生産細胞」と呼ばれ、このような細胞を作製するために使用される方法は「細胞株開発」と呼ばれる。細胞株開発方法の第1の工程において、例えばCHO細胞などの適切な宿主細胞に、前記目的のポリペプチドの発現に適した核酸配列をトランスフェクトする。第2の工程において、目的のポリペプチドを安定に発現する細胞を、目的のポリペプチドをコードする核酸と共にコトランスフェクトしておいた選択マーカーの共発現に基づいて選択する。
【0093】
ポリペプチドをコードする核酸、すなわちコード配列は、構造遺伝子と呼ばれる。このような構造遺伝子は単純な情報であり、その発現には追加の制御エレメントが必要とされる。したがって、通常、構造遺伝子はいわゆる発現カセットに組み込まれる。発現カセットが哺乳動物細胞において機能的となるために必要とされる最小限の制御エレメントは、構造遺伝子の上流、すなわち5’側に位置する、該哺乳動物細胞において機能的なプロモーター、および構造遺伝子の下流、すなわち3’側に位置する、該哺乳動物細胞において機能的なポリアデニル化シグナル配列である。プロモーター配列、構造遺伝子配列、およびポリアデニル化シグナル配列は、作動可能に連結された形態で並べられる。
【0094】
目的のポリペプチドが、異なる(単量体)ポリペプチド、例えば、抗体または複合体抗体フォーマットなどから構成されるヘテロ多量体ポリペプチドである場合、単一の発現カセットが必要であるだけでなく、含まれる構造遺伝子が異なる多数の発現カセット、すなわち、ヘテロ多量体ポリペプチドの異なる(単量体)ポリペプチドのそれぞれに対して少なくとも1つの発現カセットが必要である。例えば、完全長抗体は、軽鎖の2つのコピーおよび重鎖の2つのコピーを含むヘテロ多量体ポリペプチドである。したがって、完全長抗体は、2つの異なるポリペプチドから構成される。したがって、完全長抗体の発現のためには2つの発現カセット、すなわち軽鎖のための1個および重鎖のための1個が必要とされる。例えば、完全長抗体が二重特異性抗体である場合、すなわち、抗体が2つの異なる抗原に特異的に結合する2つの異なる結合部位を含む場合、2つの軽鎖ならびに2つの重鎖もまた互いに異なる。したがって、このような二重特異性完全長抗体は、4つの異なるポリペプチドで構成されているため、4つの発現カセットが必要となる。
【0095】
目的のポリペプチドのための発現カセットは、次に、1つまたは複数のいわゆる「発現ベクター」に組み込まれる。「発現ベクター」は、細菌細胞中で該ベクターを増幅し、かつ含まれる構造遺伝子を哺乳動物細胞中で発現させるのに必要とされるすべてのエレメントを提供する核酸である。典型的には、発現ベクターは、例えば大腸菌(E.coli)の場合、複製開始点および原核生物選択マーカー、さらには真核生物選択マーカー、ならびに目的の構造遺伝子の発現に必要とされる発現カセットを含む、原核生物プラスミド増殖単位を含む。「発現ベクター」は、哺乳動物細胞に発現カセットを導入するための輸送運搬体である。
【0096】
以前のパラグラフで概説したように、発現しようとするポリペプチドが複雑であるほど、必要とされる異なる発現カセットの数もまた多くなる。本質的に、発現カセットの数と共に、宿主細胞のゲノム中に組み込まれる核酸のサイズも大きくなる。同時に、発現ベクターのサイズも大きくなる。しかし、ベクターのサイズの実用的な上限は約15kbpの範囲にあり、それを上回ると、操作および処理の効率が著しく落ちる。この問題は、2つ以上の発現ベクターを用いることによって対処することができる。それにより、発現カセットは、それぞれが発現カセットの一部のみを含む異なる発現ベクター間で分割することができ、その結果サイズの縮小をもたらす。
【0097】
多重特異性抗体などの異種ポリペプチドを発現する組換え細胞を生成するための細胞株開発(CLD)は、目的の異種ポリペプチドの発現および産生に必要なそれぞれの発現カセットを含む核酸のランダム組込み(RI)または標的指向性組込み(TI)のいずれかを使用する。
【0098】
RIを使用すると、一般に、複数のベクターまたはその断片が、同一または異なる遺伝子座で細胞のゲノムに組み込まれる。
【0099】
TIを使用すると、一般に、異なる発現カセットを含む導入遺伝子の単一コピーが、宿主細胞のゲノムの所定の「ホットスポット」に組み込まれる。
【0100】
(グリコシル化された)抗体の発現に適した宿主細胞は、一般に、例えば脊椎動物などの多細胞生物に由来する。
【0101】
IV.宿主細胞
懸濁液中で増殖するように適合された任意の哺乳動物細胞株を、本発明による方法で使用することができる。また、組込み方法とは無関係に、すなわち、RIの場合にもTIの場合にも、任意の哺乳動物宿主細胞を使用することができる。
【0102】
有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、ヒト羊膜細胞(例えば、Woelfel,J.et al.,BMC Proc.5(2011)P133に記載されているCAP-T細胞);SV40(COS-7)で形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(例えば、Graham,F.L.et al.,J.Gen Virol.36(1977)59-74)に記載されたHEK293細胞またはHEK293T細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスのセルトリ細胞(例えば、Mather,J.P.,Biol.Reprod.23(1980)243-252)に記載されるTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頚癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2);マウス乳腺腫瘍(MMT060562);例えばMather,J.P.et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383(1982)44-68に記載のTRI細胞;MRC5細胞;およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR-CHO細胞を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77(1980)4216-4220)、および、骨髄腫細胞株、例えば、Y0、NS0およびSp2/0が挙げられる。抗体産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞の総説としては、例えば、Yazaki,P.and Wu,A.M.,Methods in Molecular Biology,Vol.248,Lo,B.K.C.(ed.),Humana Press,Totowa,NJ(2004),pp.255-268を参照。
【0103】
一実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えば、CHO K1、CHO DG44など)、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞、リンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)、またはヒト羊膜細胞(例えば、CAP-Tなど)である。1つの好ましい実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、CHO細胞である。
【0104】
標的指向性組込みにより、哺乳動物細胞ゲノムのあらかじめ定められた部位に外因性ヌクレオチド配列が組み込まれることが可能になる。特定の実施形態では、標的指向性組込みは、ゲノムおよび組み込まれる外因性ヌクレオチド配列に存在する1つまたは複数の組換え認識配列(RRS)を認識するリコンビナーゼによって媒介される。特定の実施形態では、標的指向性組込みは、相同組換えによって媒介される。
【0105】
「組換え認識配列」(RRS)は、リコンビナーゼによって認識されるヌクレオチド配列であり、リコンビナーゼ媒介性組換え事象に必要かつ十分である。RRSは、組換え事象がヌクレオチド配列内で発生する位置を定義するために使用され得る。
【0106】
特定の実施形態では、RRSは、Creリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、RRSは、FLPリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、RRSは、Bxb1インテグラーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、RRSは、φC31インテグラーゼによって認識され得る。
【0107】
RRSがLoxP部位である特定の実施形態では、細胞は、組換えを行うためにCreリコンビナーゼを必要とする。RRSがFRT部位である特定の実施形態では、細胞は、組換えを行うためにFLPリコンビナーゼを必要とする。RRSがBxb1 attP部位またはBxb1 attB部位である特定の実施形態では、細胞は、組換えを行うためにBxb1インテグラーゼを必要とする。RRSがφC31 attP部位またはφC31attB部位である特定の実施形態では、細胞は、組換えを行うためにφC31インテグラーゼを必要とする。これらのリコンビナーゼは、これらの酵素のコード配列を含む発現ベクターを用いて、あるいはタンパク質やmRNAとして細胞中に導入することができる。
【0108】
TIに関して、ゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれた、本明細書に記載のランディング部位を含む、TIに適した任意の既知または将来の哺乳動物宿主細胞を、本発明において使用することができる。このような細胞は、哺乳動物TI宿主細胞と呼ばれる。特定の実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、本明細書に記載されるように、ランディング部位を含むハムスター細胞、ヒト細胞、ラット細胞、またはマウス細胞である。1つの好ましい実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、CHO細胞である。特定の実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、ゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれた、本明細書に記載のランディング部位を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CHO K1細胞、CHO K1SV細胞、CHO DG44細胞、CHO DUKXB-11細胞、CHO K1S細胞、またはCHO K1M細胞である。
【0109】
特定の実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、組み込まれたランディング部位を含み、ランディング部位は、1つまたは複数の組換え認識配列(RRS)を含む。RRSは、リコンビナーゼ、例えば、Creリコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼ、Bxb1インテグラーゼ、またはφC31インテグラーゼによって認識され得る。RRSは、互いに独立して、LoxP配列、LoxP L3配列、LoxP 2L配列、LoxFas配列、Lox511配列、Lox2272配列、Lox2372配列、Lox5171配列、Loxm2配列、Lox71配列、Lox66配列、FRT配列、Bxb1 attP配列、Bxb1 attB配列、φC31 attP配列、およびφC31 attB配列からなる群から選択され得る。複数のRRSが存在しなければならない場合、同一でないRRSが選択される限りにおいて、各配列の選択は他方に依存する。
【0110】
特定の実施形態では、組み込まれた外因性ヌクレオチド配列は、1つまたは複数の組換え認識配列(RRS)を含み、該RRSはリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、少なくとも2つのRRSを含む。特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は3つのRRSを含み、ここで、第3のRRSは第1のRRSと第2のRRSの間に位置する。特定の好ましい実施形態では、3つのRSSはすべて異なる。特定の実施形態では、ランディング部位は、第1のRRS、第2のRRS、および第3のRRS、ならびに第1のRRSと第2のRRSの間に位置する少なくとも1つの選択マーカーを含み、かつ第3のRRSは、第1のRRSおよび/または第2のRRSとは異なる。特定の実施形態では、ランディング部位はさらに第2の選択マーカーを含み、かつ第1および第2の選択マーカーは異なる。特定の実施形態では、ランディング部位は、第3の選択マーカーおよび配列内リボソーム進入部位(IRES)もさらに含み、該IRESは該第3の選択マーカーに作動可能に連結されている。第3の選択マーカーは、第1または第2の選択マーカーとは異なり得る。
【0111】
本発明は、以下CHO細胞で例示されるが、これは本発明を例示するためにのみ提示され、限定として解釈されるべきではない。本発明の真の範囲は、特許請求の範囲に記載されている。
【0112】
本発明による方法における使用に適した例示的な哺乳動物TI宿主細胞は、そのゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれたランディング部位を有するCHO細胞であり、ここで、ランディング部位はCreリコンビナーゼを介したDNA組換えのための3つの異種特異的loxP部位を含む。
【0113】
この例では、異種特異的loxP部位は、L3、LoxFas、および2Lであり(例えば、Lanza et al.,Biotechnol.J.7(2012)898-908;Wong et al.,Nucleic acids Res.33(2005)e147を参照されたい)、その際、L3および2Lはランディング部位の5’末端および3’末端にそれぞれ隣接しており、LoxFasはL3部位と2L部位の間に位置している。ランディング部位は、IRESを介した選択マーカーの発現を蛍光性GFPタンパク質の発現に結び付けて、ポジティブ選択によってランディング部位を安定化することならびにトランスフェクションおよびCre組換え後に該部位が存在しないものを選択すること(ネガティブ選択)を可能にする、バイシストロン性単位をさらに含む。緑色蛍光性タンパク質(GFP)は、RMCE反応をモニターするのに役立つ。
【0114】
先のパラグラフで概説したようにランディング部位がこのように編成されていることによって、2つのベクター、例えば、いわゆる、L3部位およびLoxFas部位を有するフロントベクターならびにLoxFas部位および2L部位を内部に持つバックベクターを同時に組み込むことが可能になる。ランディング部位に存在するものとは異なる、選択マーカー遺伝子の機能的エレメントは、両方のベクター間に分配させることができ:プロモーターおよび開始コドンはフロントベクター上に位置することができるに対し、コード化領域およびポリAシグナルはバックベクター上に位置している。両方のベクターに由来する前記核酸の正しいリコンビナーゼ媒介性組込みのみが、それぞれの選択剤に対する耐性を誘導する。
【0115】
通常、哺乳動物TI宿主細胞は、哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の1つの部位に組み込まれるランディング部位を含む哺乳動物細胞であって、該ランディング部位が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1の組換え認識配列および第2の組換え認識配列、ならびに第1の組換え認識配列と第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ組換え認識配列がすべて異なっている、ランディング部位を含む哺乳動物細胞である。
【0116】
選択マーカーは、アミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシン、およびG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD)、ならびにピューロマイシン、ブラスチシジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、およびミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子からなる群から選択され得る。また、選択マーカーは、緑色蛍光性タンパク質(GFP)、高感度GFP(eGFP)、合成GFP、黄色蛍光性タンパク質(YFP)、高感度YFP(eYFP)、シアン蛍光性タンパク質(CFP)、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald6、CyPet、mCFPm、Cerulean、およびT-Sapphireからなる群から選択される蛍光性タンパク質であってもよい。
【0117】
外因性ヌクレオチド配列は、特定の細胞に由来しないが、DNA送達法、例えば、トランスフェクション法、エレクトロポレーション法、または形質転換法などによって前記細胞に導入することができるヌクレオチド配列である。特定の実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、哺乳動物細胞のゲノム中の1つまたは複数の組込み部位に組み込まれた少なくとも1つのランディング部位を含む。特定の実施形態では、ランディング部位は、哺乳動物細胞のゲノムの特定の遺伝子座内の1つまたは複数の組込み部位に組み込まれる。
【0118】
特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、少なくとも1つの選択マーカーを含む。特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、第1、第2および第3のRRS、ならびに少なくとも1つの選択マーカーを含む。特定の実施形態では、選択マーカーは、第1のRRSと第2のRRSとの間に位置する。特定の実施形態では、2つのRRSは、少なくとも1つの選択マーカーに隣接する。すなわち、第1のRRSが選択マーカーの5’側(上流)に位置し、第2のRRSが選択マーカーの3’側(下流)に位置している。特定の実施形態では、第1のRRSは選択マーカーの5’末端に隣接し、第2のRRSは、選択マーカーの3’末端に隣接する。特定の実施形態では、ランディング部位は、第1のRRS、第2のRRS、および第3のRRS、ならびに第1のRRSと第3のRRSの間に位置する少なくとも1つの選択マーカーを含む。
【0119】
特定の実施形態では、選択マーカーは、第1のRRSと第2のRRSとの間に位置し、2つの隣接するRRSは異なる。特定の好ましい実施形態では、第1の隣接RRSはLoxP L3配列であり、第2の隣接RRSはLoxP 2L配列である。特定の実施形態では、LoxP L3配列は、選択マーカーの5’に位置し、LoxP 2L配列は、選択マーカーの3’に位置する。特定の実施形態では、第1の隣接するRRSは、野生型FRT配列であり、第2の隣接するRRSは、変異型FRT配列である。特定の実施形態では、第1の隣接するRRSは、Bxb1 attP配列であり、第2の隣接するRRSは、Bxb1 attB配列である。特定の実施形態では、第1の隣接するRRSは、φC31 attP配列であり、第2の隣接するRRSは、φC31 attB配列である。特定の実施形態では、2つのRRSは同じ方向に配置される。特定の実施形態では、2つのRRSはいずれもフォワードまたはリバース方向に存在する。特定の実施形態では、2つのRRSは反対方向に配置される。
【0120】
特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、2つのRSSが隣接する、第1の選択マーカーおよび第2の選択マーカーを含み、該第1の選択マーカーは該第2の選択マーカーとは異なる。特定の実施形態では、2つの選択マーカーのどちらも、相互に独立して、グルタミン合成酵素選択マーカー、チミジンキナーゼ選択マーカー、HYG選択マーカー、およびピューロマイシン耐性選択マーカーからなる群から選択される。特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、チミジンキナーゼ選択マーカーおよびHYG選択マーカーを含む。特定の実施形態では、第1の選択マーカーは、アミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシン、およびG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD)、ならびにピューロマイシン、ブラスチシジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、およびミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子からなる群から選択され、第2の選択マーカーは、GFP、eGFP、合成GFP、YFP、eYFP、CFP、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald、CyPet、mCFPm、Cerulean、およびT-Sapphire蛍光性タンパク質からなる群から選択される。特定の実施形態では、第1の選択マーカーはグルタミン合成酵素選択マーカーであり、第2の選択マーカーはGFP蛍光性タンパク質である。特定の実施形態では、両方の選択マーカーに隣接する2つのRRSは異なる。
【0121】
特定の実施形態では、選択マーカーは、プロモーター配列に作動可能に連結されている。特定の実施形態では、選択マーカーは、SV40プロモーターに作動可能に連結されている。特定の実施形態では、選択マーカーは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターに作動可能に連結されている。
【0122】
V.標的指向性組込み
本発明による組換え哺乳動物細胞を生成するための1つの方法は、標的指向性組込み(TI)である。
【0123】
標的指向性組込みでは、哺乳動物TI宿主細胞のゲノムの特定の遺伝子座に外因性核酸を導入するために部位特異的組換えが用いられる。これは、ゲノムに組み込まれた部位の配列が外因性核酸と交換される酵素プロセスである。このような核酸交換を行うために使用される1つのシステムは、Cre-loxシステムである。交換を触媒する酵素はCreリコンビナーゼである。交換される配列は、ゲノム内ならびに外因性核酸内の2つのlox(P)部位の位置によって定義される。これらのlox(P)部位は、Creリコンビナーゼによって認識される。これ以上何も必要としない。つまりATPなどは必要としない。もともとCre-loxシステムはバクテリオファージP1で発見された。
【0124】
Cre-loxシステムは、哺乳動物、植物、細菌、酵母など、様々な種類の細胞で機能する。
【0125】
一実施形態では、異種ポリペプチドをコードする外因性核酸は、単一または二重リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)によって哺乳動物TI宿主細胞に組み込まれている。それにより、組換えCHO細胞などの組換え哺乳動物細胞が得られ、その中で、定義された特異的な発現カセット配列が単一の遺伝子座でゲノムに組み込まれ、それが次に異種ポリペプチドの効率的な発現および産生をもたらす。
【0126】
Cre-LoxP部位特異的組換え系は、多くの生物学的実験系で広く使用されている。Creリコンビナーゼは、34bpのLoxP配列を認識する38kDaの部位特異的DNAリコンビナーゼである。CreリコンビナーゼはバクテリオファージP1に由来し、チロシンファミリーの部位特異的リコンビナーゼに属する。Creリコンビナーゼは、LoxP配列間の分子内および分子間組換えの両方を媒介できる。LoxP配列は、2つの13bpの逆方向反復に挟まれた8bpの非パリンドロームコア領域で構成されている。Creリコンビナーゼは13bpの反復に結合し、それによって8bpのコア領域内の組換えを媒介する。Cre-LoxP媒介性組換えは高効率で起こり、他の宿主因子を必要としない。2つのLoxP配列が同じヌクレオチド配列上で同じ方向に配置されている場合、Creリコンビナーゼ媒介性組換えは、2つのLoxP配列の間に位置するDNA配列が共有結合で閉じた環として切り取るであろう。2つのLoxP配列が同じヌクレオチド配列上で逆方向の位置に配置されている場合、Creリコンビナーゼ媒介性組換えは、2つの配列の間に位置するDNA配列の向きを反転するであろう。2つのLoxP配列が2つの異なるDNA分子上にあり、1つのDNA分子が環状である場合、Creリコンビナーゼ媒介性組換えにより、環状DNA配列の組込みをもたらすであろう。
【0127】
「一致するRRS」という用語は、2つのRRS間で組換えが起こることを示す。特定の実施形態では、2つの一致RRSは同一である。特定の実施形態では、両方のRRSは野生型LoxP配列である。特定の実施形態では、両方のRRSは変異型LoxP配列である。特定の実施形態では、両方のRRSは野生型FRT配列である。特定の実施形態では、両方のRRSは変異型FRT配列である。特定の実施形態では、2つの一致するRRSは異なる配列であるが、同じリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、第1の一致するRRSは、Bxb1 attP配列であり、第2の一致するRRSは、Bxb1 attB配列である。特定の実施形態では、第1の一致するRRSは、φC31 attP配列であり、第2の一致するRRSは、φC31 attB配列である。
【0128】
「2プラスミドRMCE」戦略または「二重RMCE」は、2つのベクターの組み合わせを使用する場合、本発明による方法で用いられる。例えば、限定されるわけではないが、組み込まれたランディング部位は、3つのRRS、例えば、第3のRRS(「RRS3」)が第1のRRS(「RRS1」)と第2のRRS(「RRS2」)の間に存在する並びを含むことができ、第1のベクターは、組み込まれた外因性ヌクレオチド配列上の第1のRRSおよび第3のRRSと一致する2つのRRSを含み、第2のベクターは、組み込まれた外因性ヌクレオチド配列上の第3のRRSおよび第2のRRSと一致する2つのRRSを含む。
【0129】
2プラスミドRMCE戦略では、3つのRRS部位を使用して、2つの独立したRMCEを同時に実行することを含む。したがって、2プラスミドRMCE戦略を用いる哺乳動物TI宿主細胞のランディング部位は、第1のRRS部位(RRS1)に対しても第2のRRS部位(RRS2)に対しても交差活性を有していない第3のRRS部位(RRS3)を含む。標的とされる2つのプラスミドは、効率的な標的指向のために同じ隣接RRS部位を必要とし、一方のプラスミド(フロント)にはRRS1およびRRS3が隣接し、他方(バック)にはRRS3およびRRS2が隣接している。また、2プラスミドRMCEでは、2つの選択マーカーも必要とされる。1つの選択マーカー発現カセットは、2つの部分に分割された。フロントプラスミドは、プロモーターと、それに続く開始コドンおよびRRS3配列を含む。バックプラスミドは、開始コドン(ATG)を欠き、選択マーカーコード化領域のN末端に融合されたRRS3配列を有する。融合タンパク質のインフレーム翻訳、すなわち作動可能な連結を確実にするために、RRS3部位と選択マーカー配列の間に付加的なヌクレオチドを挿入する必要がある場合がある。両方のプラスミドが正確に挿入された場合にのみ、選択マーカーの完全な発現カセットが組み立てられ、したがって、各選択剤に対する耐性が細胞に与えられる。
【0130】
2プラスミドRMCEは、リコンビナーゼによって触媒される、標的ゲノム遺伝子座内の2つの異種特異的RRSとドナーDNA分子の間の二重組換えクロスオーバーイベントを伴う。2プラスミドRMCEは、フロントベクターおよびバックベクターに由来する組み合わせられたDNA配列のコピーを、哺乳動物TI宿主細胞ゲノムのあらかじめ定められた遺伝子座に導入するように設計されている。RMCEは、原核生物ベクターの配列が哺乳動物TI宿主細胞ゲノム中に導入されず、したがって、宿主の免疫または防御機構の望まれない誘発を低減させ、かつ/または防ぐように、実行することができる。RMCE手順は、複数のDNA配列を用いて繰り返すことができる。
【0131】
特定の実施形態では、標的指向性組込みは、2回のRMCEによって実現され、その際、2つの異なるDNA配列が両方とも、哺乳動物TI宿主細胞に一致するRRSのゲノムのあらかじめ定められた部位に組み込まれ、各DNA配列は、ヘテロ多量体ポリペプチドの一部分および/または2つの異種特異的RRSが隣接する少なくとも1つの選択マーカーもしくはその一部分をコードする、少なくとも1つの発現カセットを含む。特定の実施形態では、標的指向性組込みは、複数回のRMCEによって実現され、その際、複数のベクターに由来するDNA配列がすべて、哺乳動物TI宿主細胞のゲノムのあらかじめ定められた部位に組み込まれ、各DNA配列は、ヘテロ多量体ポリペプチドの一部分および/または2つの異種特異的RRSが隣接する少なくとも1つの選択マーカーもしくはその一部分をコードする、少なくとも1つの発現カセットを含む。特定の実施形態では、選択マーカーは、一部が第1のベクターにおいてコードされ、一部が第2のベクターにおいてコードされてよく、その結果、二重RMCEによって両方が正確に組み込まれた場合にのみ、その選択マーカーの発現が可能になる。
【0132】
特定の実施形態では、リコンビナーゼに媒介された組換えによる標的指向性組込みにより、原核生物ベクターに由来する配列を含まずに、宿主細胞ゲノムの1つまたは複数のあらかじめ定められた組込み部位に、選択マーカーおよび/または多量体ポリペプチドの様々な発現カセットが組み込まれる。
【0133】
一実施形態のように、SIRT-1ノックアウトは、異種ポリペプチドをコードする外来性核酸の導入前またはその後のいずれでも実施できることが指摘されなければならない。
【0134】
VI.組成物および方法
本明細書では、異種ポリペプチドを発現する組換え哺乳動物細胞を生成するための方法、および前記組換え哺乳動物細胞を使用して異種ポリペプチドを生産するための方法であって、ここで、組換え哺乳動物細胞において、内因性SIRT-1遺伝子の活性/機能/発現が低減している/排除されている/減少している/(完全に)ノックアウトされている、方法が報告される。
【0135】
本発明は、少なくとも部分的には、例えばCHO細胞のような哺乳動物細胞におけるサーチュイン-1(SIRT-1)遺伝子のノックアウトが、組換え生産性、例えば標準的なIgG型抗体および特に複合体抗体フォーマットの組換え生産性を改善し、培養中の細胞による乳酸生産量を低減させるという知見に基づく。さらに、フェドバッチ培養の終了時での生存率の低下が低減する、すなわち、一定の閾値を超える生存率を有する期間が増加することが見出されている。
【0136】
SIRT-1遺伝子のノックアウトによって得られた結果は驚くべきものであり、同様に生産性に影響を与える可能性のある他の遺伝子をノックアウトしても、プラスの効果は得られなかったのである。また、異なる遺伝子の組み合わせノックアウトは、単一のSIRT-1ノックアウトよりも良好に機能しなかった。これは、例えば、国際公開第2016/075278号で報告されている線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的とする抗原結合ドメインと4-1BBリガンドの三量体(CD137L)からなる分子(FAP-4-1BBLと命名)を産生する細胞株で示された(データは下記の表に示される)。記載されているノックアウトを除いて、すべての細胞は参照細胞と同じ遺伝子型を持っている。
【0137】
図1に示すように、異なる遺伝子をノックアウトしても細胞増殖に影響を与えなかった。
【0138】
サーチュイン1(SIRT-1)は、サーチュインタンパク質のファミリーに属する。SIRTタンパク質は真核生物で高度に保存されており、多くの細胞経路の調節に関与するNAD依存性酵素である(Revollo,J.R.and Li,X.Trends Biochem.Sci.38(2013)160-167)。SIRT-1遺伝子は、細胞質および核に位置する82kDaのタンパク質をコードする。
【0139】
SIRT-1遺伝子の活性/発現のノックアウトは、異種ポリペプチドの産生のために使用される真核細胞において、特に、組換えポリペプチド、特に抗体を産生するために使用されるか、または使用されることが意図されている組換えCHO細胞において、より具体的には、標的指向性組込み組換えCHO細胞において有利である。このノックアウトは、有意な生産性増加ならびに乳酸生産量の低減、ならびに培養時間の延長(生存率低下の低減/減速/遅延)をもたらす。これは、個々のフェドバッチ工程からの生産物の高収率をもたらすことから、いかなる大規模生産工程にとっても経済的に非常に重要である。
【0140】
SIRT-1ノックアウトはCHO細胞に限定されるものではなく、HEK293細胞、CAP細胞、およびBHK細胞のような他の宿主細胞株においても使用することができる。
【0141】
SIRT-1遺伝子の活性/発現をノックアウトするために、CRISPR/Cas9技術が使用されている。同様に、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはTALENSなどの他の技術を使用することができる。さらに、siRNA/shRNA/miRNAなどのRNAサイレンシング種を用いて、SIRT-1 mRNAレベルをノックダウンし、その結果SIRT-1遺伝子の活性/発現をノックダウンすることができる。
【0142】
CRISPR-Cas9を使用して、SIRT-1遺伝子は、多重化リボ核タンパク質送達を使用して、同時に3つの異なるgRNA(図2を参照)を使用して3つの異なる部位を標的としている。SIRT-1標的部位における二本鎖切断は、インデル形成を誘発するか、または多重化gRNAの使用により、エクソン1配列内の欠失も誘発する(図3を参照)。SIRT-1ノックアウト細胞プールのPCR増幅SIRT-1遺伝子座の配列決定により、第1のgRNA部位での配列決定反応の突然の中断が明らかになり、SIRT-1遺伝子のターゲティングが成功したことが示された(図4を参照)。これらの細胞プールは、編集されていないホモ接合性およびヘテロ接合性のSIRT-1遺伝子座を含む細胞の混合物からなる。
【0143】
28日間の培養後、再配列決定が行われ、ノックアウトの安定性を示している(図5を参照)。野生型、すなわちSIRT-1ノックアウトのない細胞の増殖優位性、またはノックアウトプールの増殖低減は、それぞれ観察されていない。
【0144】
14日間のフェッドバッチ培養プロセスにおいて、異なる複合体抗体フォーマットを発現するSIRT-1ノックアウト細胞プールまたはクローンについて、未改変の細胞プールまたはクローンと比較して2~20%の生産性の向上が観察された(以下の表にデータを提示する)。参照細胞とノックアウト細胞は、ノックアウト細胞におけるSIRT-1遺伝子の追加ノックアウトを除いて、同じ遺伝子型を有する。
【0145】
さらに、SIRT-1ノックアウト細胞では、乳酸生産量(図6を参照)および生存率の低下(図7を参照)は同様であるかわずかに低減することがわかっている。
【0146】
キャピラリーイムノブロッティングにより、リボ核粒子(RNP)ヌクレオフェクションの7日後にサーチュイン-1のタンパク質レベルの抑制が確認された(図8)。
【0147】
この理論に束縛されることなく、ホモ接合性ノックアウトは、ヘテロ接合性ノックアウトよりも生産性の増加に有利な効果を有すると仮定される。
【0148】
本発明は以下に要約される:
本発明の1つの独立した態様は、内因性SIRT-1遺伝子の活性/機能/発現が低減している/排除されている/減少している/(完全に)ノックアウトされている哺乳動物細胞である。
【0149】
本発明の1つの独立した態様は、内因性SIRT-1遺伝子の活性/機能/発現を低減させる/排除する/減少させる/(完全に)ノックアウトすることにより、力価を増加させる/乳酸生産量を低減させる/組換え哺乳動物細胞の培養時間を延長するための方法である。
【0150】
本発明の1つの独立した態様は、
a)ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含む哺乳動物細胞を、任意にポリペプチドの発現に適した条件下で培養する工程、および
b)細胞または培養培地からポリペプチドを回収する工程
を含むポリペプチドを生産するための方法であって、
ここで、内因性SIRT-1遺伝子の活性/機能/発現が低減している/排除されている/減少している/(完全に)ノックアウトされている、方法である。
【0151】
本発明の別の独立した態様は、改善された/増加した組換え生産性、および/または低減した乳酸生産量を有する(having)/持つ(with)組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、該方法は、以下:
a)内因性SIRT-1遺伝子を標的とする核酸を哺乳動物細胞に適用して、内因性SIRT-1遺伝子の活性/機能/発現を低減させる/排除する/減少させる/(完全に)ノックアウトする工程、および
b)内因性SIRT-1遺伝子の活性/機能/発現が低減している/排除されている/減少している/(完全に)ノックアウトされている哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それにより、改善された/増加した組換え生産性および/または低減した乳酸生産量を有する(having)/持つ(with)組換え哺乳動物細胞を生産する、方法である。
【0152】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SIRT-1遺伝子ノックアウトは、ヘテロ接合性ノックアウトまたはホモ接合性ノックアウトである。
【0153】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SIRT-1ノックアウト細胞株の生産性は、SIRT-1コンピテント親哺乳動物細胞と比較して、少なくとも10%、好ましくは15%以上、最も好ましくは20%以上増加する。
【0154】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、低減または排除または減少またはノックアウトは、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムによって媒介される。一実施形態では、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムは、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼおよびTALENからなる群から選択される。
【0155】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SIRT-1遺伝子発現の低減は、RNAサイレンシングによって媒介される。一実施形態では、RNAサイレンシングは、siRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウン、shRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウン、ならびにmiRNA遺伝子ターゲティングおよびノックダウンからなる群から選択される。
【0156】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SIRT-1ノックアウトは、異種ポリペプチドをコードする外因性核酸の導入前、または異種ポリペプチドをコードする外因性核酸の導入後に行われる。
【0157】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ポリペプチドは抗体である。一実施形態では、抗体は、2つ以上の異なる結合部位および任意選択でドメイン交換を含む抗体である。一実施形態では、抗体は、3つ以上の結合部位またはVH/VLペアまたはFab断片、および任意選択でドメイン交換を含む。一実施形態では、抗体は多重特異性抗体である。
【0158】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ポリペプチドは抗体である。一実施形態では、抗体は複合体抗体である。
【0159】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、第1の軽鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第1の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第2の重鎖、
- N末端からC末端に、第2の重鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第1の軽鎖、ならびに
- N末端からC末端に、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第2の軽鎖
を含むヘテロ四量体ポリペプチドであって、
ここで、第1の重鎖可変ドメインおよび第2の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、第2の重鎖可変ドメインおよび第1の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する、ヘテロ四量体ポリペプチドである。
【0160】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、第2の重鎖可変ドメイン、CLドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第1の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第2の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の軽鎖可変ドメインおよびCH1ドメインを含む第1の軽鎖、ならびに
- N末端からC末端に、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第2の軽鎖
を含むヘテロ四量体ポリペプチドであって、
ここで、第1の重鎖可変ドメインおよび第2の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、第2の重鎖可変ドメインおよび第1の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する、ヘテロ四量体ポリペプチドである。
【0161】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第1の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の軽鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第2の重鎖、
- N末端からC末端に、第2の重鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第1の軽鎖、ならびに
- N末端からC末端に、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第2の軽鎖
を含むヘテロ四量体ポリペプチドであって、
ここで、第1の重鎖可変ドメインおよび第2の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、第2の重鎖可変ドメインおよび第1の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する、ヘテロ四量体ポリペプチドである。
【0162】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第1の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CLドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第2の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の軽鎖可変ドメインおよびCH1ドメインを含む第1の軽鎖、ならびに
- N末端からC末端に、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第2の軽鎖
を含むヘテロ四量体ポリペプチドであって、
ここで、第1の重鎖可変ドメインおよび第2の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、第2の重鎖可変ドメインおよび第1の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する、ヘテロ四量体ポリペプチドである。
【0163】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメインおよび第1の軽鎖可変ドメインを含む第1の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメインおよび第2の重鎖可変ドメインを含む第2の重鎖、ならびに
- N末端からC末端に、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第1の軽鎖
を含むヘテロ多量体ポリペプチドであって、
ここで、第1の重鎖可変ドメインおよび第2の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、第2の重鎖可変ドメインおよび第1の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する、ヘテロ多量体ポリペプチドである。
【0164】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ペプチドリンカー、第2の重鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第1の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第2の重鎖、
- N末端からC末端に、第1の軽鎖可変ドメインおよびCH1ドメインを含む第1の軽鎖、ならびに
- N末端からC末端に、第2の軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む第2の軽鎖
を含むヘテロ四量体ポリペプチドであって、
ここで、第2の重鎖可変ドメインおよび第1の軽鎖可変ドメインは第1の結合部位を形成し、第1の重鎖可変ドメインおよび第2の軽鎖可変ドメインは第2の結合部位を形成する、ヘテロ四量体ポリペプチドである。
【0165】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、治療用抗体である。好ましい実施形態では、多重特異性抗体は、二重特異性(治療用)抗体である。一態様において、二重特異性(治療用)抗体はTCBである。
【0166】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、二重特異性(治療用)抗体(TCB)であり、
- 第1および第2のFab断片であって、第1および第2のFab断片の各結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、第1および第2のFab断片;
- 第3のFab断片であって、ここで、第3のFab断片の結合部位は、第1の抗原に特異的に結合し、ここで、第3のFab断片は、可変軽鎖ドメイン(VL)および可変重鎖ドメイン(VH)が互いに置き換えられるようなドメインクロスオーバーを含む、第3のFab断片、および
- 第1のFc領域ポリペプチドおよび第2のFc領域ポリペプチドを含むFc領域
を含み;
ここで、第1および第2のFab断片はそれぞれ、重鎖断片および完全長軽鎖を含み、
第1のFab断片の重鎖断片のC末端は、第1のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されており、
第2のFab断片の重鎖断片のC末端は、第3のFab断片の可変軽鎖ドメインのN末端に融合されており、第3のFab断片の重鎖定常ドメイン1のC末端は、第2のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されている、二重特異性(治療用)抗体(TCB)である。
【0167】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、
- N末端からC末端に、重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第1の重鎖、
- N末端からC末端に、重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ペプチドリンカー、および非免疫グロブリンタンパク質性部分を含む第2の重鎖、ならびに
- N末端からC末端に、軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む軽鎖
を含む三量体ポリペプチドであって、
ここで、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインは結合部位を形成する、三量体ポリペプチドである。
【0168】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、(異種)ポリペプチドは、
- N末端からC末端に、重鎖可変ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む第1の重鎖、
- N末端からC末端に、非免疫グロブリンタンパク質性部分、ペプチドリンカー、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む第2の重鎖、ならびに
- N末端からC末端に、軽鎖可変ドメインおよびCLドメインを含む軽鎖
を含む三量体ポリペプチドであって、
ここで、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインは結合部位を形成する、三量体ポリペプチドである。
【0169】
本発明の別の独立した態様は、ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含み、該ポリペプチドを分泌する組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、以下:
a)哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の1つの部位に組み込まれる外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程であって、該外因性ヌクレオチド配列が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1の組換え認識配列および第2の組換え認識配列、ならびに第1の組換え認識配列と第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ組換え認識配列がすべて異なっている、外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程;
b)a)で提供された細胞中に、3つの異なる組換え認識配列および1から8つの発現カセットを含む2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程であって、
第1のデオキシリボ核酸が5’から3’の方向に
- 第1の組換え認識配列、
- 1つまたは複数の発現カセット、
- 1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの5’末端部分、および
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー
を含み、
かつ
第2のデオキシリボ核酸が5’から3’の方向に
- 第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの3’末端部分、
- 1つまたは複数の発現カセット、および
- 第2の組換え認識配列
を含み、
ここで、第1および第2のデオキシリボ核酸の第1から第3の組換え認識配列は、組み込まれた外因性ヌクレオチド配列上の第1から第3の組換え認識配列と一致しており、
前述の1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの5’末端部分および3’末端部分が、まとまると、前述の1つの第2の選択マーカーの機能的発現カセットを形成する、2つのデオキシリボ核酸を含む組成物を細胞に導入する工程;
c)
i)b)の第1および第2のデオキシリボ核酸と同時に;または
ii)その後に逐次的に、
1つまたは複数のリコンビナーゼを導入する工程であって、
1つまたは複数のリコンビナーゼが、第1および第2のデオキシリボ核酸の組換え認識配列を認識し;(かつ、場合によっては、1つまたは複数のリコンビナーゼが、2リコンビナーゼ媒介カセット交換を行う)、1つまたは複数のリコンビナーゼを導入する工程;
ならびに
d)第2の選択マーカーを発現し、ポリペプチドを分泌する細胞を選択する工程
を含み、
それによって、ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含み、該ポリペプチドを分泌する組換え哺乳動物細胞を生産する、方法である。
【0170】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、リコンビナーゼはCreリコンビナーゼである。
【0171】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、デオキシリボ核酸は、哺乳動物細胞のゲノムの単一の部位または遺伝子座に安定に組み込まれる。
【0172】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸は、1から8つの発現カセットを含む。
【0173】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸は、少なくとも4つの発現カセットを含み、ここで、
- 第1の組換え認識配列は、最も5’側の(すなわち、第1の)発現カセットの5’側に位置し、
- 第2の組換え認識配列は、最も3’側の発現カセットの3’側に位置し、かつ
- 第3の組換え認識配列は、
- 第1の組換え認識配列と第2の組換え認識配列の間、および
- 2つの発現カセットの間
に位置し、
かつ
すべての組換え認識配列は異なっている。
【0174】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、第3の組換え認識配列は、第4の発現カセットと第5の発現カセットとの間に位置する。
【0175】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸は、選択マーカーをコードするさらなる発現カセットを含む。
【0176】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸は、選択マーカーをコードするさらなる発現カセットを含み、選択マーカーをコードする該発現カセットは、第3の組換え認識配列の5’側に一部が、3’側に一部が位置しており、前記発現カセットの5’側に位置する部分は、プロモーターおよび開始コドンを含み、前記発現カセットの3’側に位置する部分は、開始コドンのないコード配列およびポリAシグナルを含み、該開始コドンは該コード配列に作動可能に連結されている。
【0177】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列に対して、
i) 5’側、または
ii)3’側、または
iii)一部が5’側および一部が3’側
に位置する。
【0178】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列の5’側に一部が、3’側に一部が位置しており、前記発現カセットの5’側に位置する部分は、プロモーターおよび開始コドンを含み、前記発現カセットの3’側に位置する部分は、開始コドンのないコード配列およびポリAシグナルを含む。
【0179】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、選択マーカーをコードする発現カセットの5’側に位置する部分は、開始コドンに作動可能に連結されたプロモーター配列を含み、該プロモーター配列は、上流にそれぞれ第2、第3または第4の発現カセットが隣接し(すなわち、第2、第3または第4の発現カセットに対して下流の位置にあり)、開始コドンは、下流に第3の組換え認識配列が隣接し(すなわち、第3の組換え認識配列に対して上流の位置にあり);かつ、選択マーカーをコードする発現カセットの3’側に位置する部分は開始コドンを欠く、選択マーカーをコードする核酸を含み、上流には第3の組換え認識配列が隣接し、下流にはそれぞれ第3、第4または第5の発現カセットが隣接している。
【0180】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、開始コドンは翻訳開始コドンである。一実施形態では、開始コドンはATGである。
【0181】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、第1のデオキシリボ核酸は第1のベクターに組み込まれ、第2のデオキシリボ核酸は第2のベクターに組み込まれる。
【0182】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、各発現カセットは、5’から3’の方向に、プロモーター、コード配列、およびポリアデニル化シグナル配列、場合によっては、それに続くターミネーター配列を含む。
【0183】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、プロモーターは、イントロンAの有無に関わらずヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列はbGH polyA部位であり、ターミネーターはhGTターミネーターである。
【0184】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、プロモーターがSV40プロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列がSV40ポリアデニル化シグナル配列であり、ターミネーターが存在しない、選択マーカーの発現カセットを除いて、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列はbGHポリアデニル化シグナル配列であり、ターミネーターはhGTターミネーターである。
【0185】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、哺乳類細胞はCHO細胞である。一実施形態では、CHO細胞はCHO-K1細胞である。
【0186】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ポリペプチドは、二価の単一特異性抗体、少なくとも1つのドメイン交換を含む二価の二重特異性抗体、および少なくとも1つのドメイン交換を含む三価の二重特異性抗体からなるポリペプチドの群から選択される。
【0187】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、リコンビナーゼ認識配列は、L3、2L、およびLoxFasである。一実施形態では、L3は配列番号01の配列を有し、2Lは配列番号02の配列を有し、LoxFasは配列番号03の配列を有する。一実施形態では、第1のリコンビナーゼ認識配列はL3であり、第2のリコンビナーゼ認識配列は2Lであり、第3のリコンビナーゼ認識配列はLoxFasである。
【0188】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列は、bGHポリA部位であり、ターミネーター配列は、hGTターミネーターである。
【0189】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、プロモーターがSV40プロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列部位がSV40ポリA部位であり、ターミネーター配列が存在しない、選択マーカーの発現カセットを除いて、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列は、bGHポリA部位であり、ターミネーター配列は、hGTターミネーターである。
【0190】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、ヒトCMVプロモーターは、配列番号04の配列を有する。一実施形態では、ヒトCMVプロモーターは、配列番号06の配列を有する。
【0191】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、bGHポリアデニル化シグナル配列は、配列番号08である。
【0192】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、hGTターミネーターは、配列番号09の配列を有する。
【0193】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SV40プロモーターは、配列番号10の配列を有する。
【0194】
本発明のすべての態様および実施形態の一実施形態では、SV40ポリアデニル化シグナル配列は、配列番号07である。
【0195】
以下の実施例、配列および図面は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の思想から逸脱することなく、定められた手順に変更を加えることができると理解される。
【0196】
配列の説明
配列番号01:L3リコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号02:2Lリコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号03:LoxFasリコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号04-06:ヒトCMVプロモーターの例示的バリアント
配列番号07:例示的なSV40ポリアデニル化シグナル配列
配列番号08:例示的なbGHポリアデニル化シグナル配列
配列番号09:例示的なhGTターミネーター配列
配列番号10:例示的なSV40プロモーター配列
配列番号11:例示的なGFP核酸配列
配列番号12:gRNA_SIRT1_1:TATCATCCAACTCAGGTGGA
配列番号13:gRNA_SIRT1_2:GCAGCATCTCATGATTGGCA
配列番号14:gRNA_SIRT1_3:GCATTCTTGAAGTAACTTCA
配列番号15:oSA060_SIRT1_for:GCTGCCCTTCAAGTTATGGC
配列番号16:oSA061_SIRT1_rev:GCTGGCCTTTTGACTCACAG
配列番号17:ヒトサーチュイン-1のアミノ酸配列
配列番号18:チャイニーズハムスターサーチュイン-1のアミノ酸配列
【図面の簡単な説明】
【0197】
図1】標的遺伝子のCRISPR/Cas9ベースのノックアウト(KO)後の増殖と生存率。示されているのは、異なるCRISPR RNPベースの標的遺伝子ノックアウトを有する、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的とする抗原結合ドメインと、4-1BBリガンド(CD137L)の三量体を含む抗体を発現する細胞の操作されたクローンの生細胞数である。NTC:非ターゲティングコントロールgRNA、線=生存率、棒グラフ=生存細胞濃度。
図2】公共のCHOゲノムに由来するSIRT-1遺伝子。(A)SIRT-1アンプリコン調製用のエクソンおよびイントロン、gRNA標的部位(青)およびプライマー配列(oSA060およびoSA061)を示すSIRT-1遺伝子。(B)SIRT-1遺伝子のエクソン1を拡大。
図3】SIRT-1遺伝子座のPCR増幅のアガロースゲル電気泳動。インデルが検出されている。レーン1=CD40およびFAPに特異的に結合できる二重特異性抗原結合分子;レーン2=レーン1のレプリカ;レーン3=線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的とする抗原結合ドメインと4-1BBリガンドの三量体(CD137L)を含む分子(1);レーン4=レーン3のレプリカ;レーン5=線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的とする抗原結合ドメインと4-1BBリガンドの三量体(CD137L)を含む分子(2);レーン6=レーン5のレプリカ;レーン7=T細胞二重特異性フォーマット抗体-1;レーン8=レーン7のレプリカ;レーン9=ドメイン交換を伴う完全長抗体;レーン10=レーン9のレプリカ;レーン11=変異型インターロイキン-2ポリペプチドとPD-1に結合する抗体を含むイムノコンジュゲート(プール);レーン12=レーン11のレプリカ;レーン13=変異型インターロイキン-2ポリペプチドとPD-1に結合する抗体を含むイムノコンジュゲート(クローン);レーン14=レーン13のレプリカ;レーン15=T細胞二重特異性フォーマット抗体-2;レーン16=レーン15のレプリカ;レーン17=標的指向性組込みCHO宿主細胞;レーン18=レーン17のレプリカ;MW=分子量マーカー。
図4-1】多重化CRISPR/Cas9改変細胞プールにおけるSIRT-1ノックアウトの配列決定検証。6つの異なる複合体抗体フォーマットについての未改変プール/クローンとSIRT-1ノックアウトプール/クローン(未改変/ヘテロ接合性/ホモ接合性SIRT-1ノックアウト遺伝子座の混合物を含む)とのSIRT-1遺伝子アンプリコンの配列決定結果の比較。
図4-2】図4-1の説明を参照。
図5-1】SIRT-1遺伝子座のサンガー再配列決定SIRT-1は、ノックアウト(Cas9-gRNA RNPトランスフェクション)の28日後にすべての細胞株においてプールレベルで安定して破壊されたままである。
図5-2】図5-1の説明を参照。
図6】フェドバッチ乳酸データ[mg/l].6つの異なる複合体抗体フォーマットについての未改変プール/クローンとSIRT-1ノックアウトプール/クローン(未改変/ヘテロ接合性/ホモ接合性SIRT-1ノックアウト遺伝子座の混合物を含む)との比較。細胞は以下を発現している:1=T細胞二重特異性フォーマット抗体-2;2=T細胞二重特異性フォーマット抗体-1;3=ドメイン交換を伴う完全長抗体;4=FAPを標的とする抗原結合ドメインと4-1BBリガンドの三量体(CD137L)を含む分子;5=変異型インターロイキン-2ポリペプチドとPD-1に結合する抗体を含むイムノコンジュゲート(プール);6=CD40およびFAPに特異的に結合できる二重特異性抗原結合分子;7=変異型インターロイキン-2ポリペプチドとPD-1に結合する抗体を含むイムノコンジュゲート(クローン)。
図7】フェドバッチ生存率データ[%].6つの異なる複合体抗体フォーマットについての未改変プール/クローンとSIRT-1ノックアウトプール/クローン(未改変/ヘテロ接合性/ホモ接合性SIRT-1ノックアウト遺伝子座の混合物を含む)との比較。細胞は以下を発現している:1=T細胞二重特異性フォーマット抗体-2;2=T細胞二重特異性フォーマット抗体-1;3=ドメイン交換を伴う完全長抗体;4=FAPを標的とする抗原結合ドメインと4-1BBリガンドの三量体(CD137L)を含む分子;5=変異型インターロイキン-2ポリペプチドとPD-1に結合する抗体を含むイムノコンジュゲート(プール);6=CD40およびFAPに特異的に結合できる二重特異性抗原結合分子;7=変異型インターロイキン-2ポリペプチドとPD-1に結合する抗体を含むイムノコンジュゲート(クローン)。
図8】キャピラリーイムノブロッティングにより、RNPヌクレオフェクションの7日後にタンパク質レベルの抑制が確認される。1=宿主細胞株を5pmolのCas9タンパク質と5pmolのSIRT-1ゲノム遺伝子座を標的とする3gRNAでヌクレオフェクトした;2=宿主細胞株を5pmolのCas9タンパク質でヌクレオフェクトした。
【実施例
【0198】
実施例1
一般的技術
1)組換えDNA技術
Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y,(1989)で説明されているように、標準的な方法を使用してDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造業者の説明書に従って使用した。
【0199】
2)DNA配列決定
DNA配列決定は、SequiServe GmbH(Vaterstetten,Germany)で実施した。
【0200】
3)DNAおよびタンパク質配列解析および配列データ管理
EMBOSS(European Molecular Biology Open Software Suite)ソフトウェアパッケージおよびInvitrogenのVector NTIバージョン11.5を、配列の作成、マッピング、解析、注釈付け、および図解に使用した。
【0201】
4)遺伝子およびオリゴヌクレオチド合成
所望の遺伝子セグメントを、Geneart GmbH(Regensburg,Germany)において化学合成により調製した。合成された遺伝子断片を、増殖/増幅のために大腸菌プラスミド中にクローニングした。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。代替的に、短い合成DNA断片を、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドをアニーリングすることにより、またはPCRを介して構築した。それぞれのオリゴヌクレオチドは、metabion GmbH(Planegg-Martinsried,Germany)によって調製された。
【0202】
5)試薬
特に明記されていない限り、すべての市販の化学物質、抗体、およびキットは、製造業者のプロトコルに従って提供されたとおりに使用された。
【0203】
6)TI宿主細胞株の培養
TI CHO宿主細胞は、湿度85%、5%のCO加湿インキュベーター内で37℃で培養された。それらは、300μg/mlのハイグロマイシンBおよび4μg/mlの第2の選択マーカーを含む独自のDMEM/F12ベースの培地で培養された。細胞を3日または4日ごとに0.3x10E6細胞/mlの濃度で総容量30mlに分割した。培養には、125mlのバッフルのない三角フラスコを使用した。細胞を振盪振幅5cmで150rpmで振盪した。細胞数はCedex HiRes Cell Counter(Roche)で測定した。細胞は、60日齢に達するまで培養を続けた。
【0204】
7)クローニング
一般
R部位によるクローニングは、目的の遺伝子(GOI)に隣接するDNA配列が、後続の断片に存在する配列と等しいかどうかに依存する。このように、断片の組み立ては、等しい配列が重なり合い、それに続くDNAリガーゼによる組み立てられたDNAのニックの封鎖によって可能になる。したがって、適切なR部位を含む特定の予備ベクターに単一遺伝子をクローニングすることが必要である。これらの予備ベクターのクローニングに成功した後、R部位に隣接する目的の遺伝子は、R部位の隣を直接切断する酵素による制限消化を介して切り出される。最後の工程は、すべてのDNA断片を1つの工程で組み立てることである。より詳細には、5’-エキソヌクレアーゼが重複領域(R部位)の5’末端を除去する。その後、R部位のアニーリングを行うことができ、DNAポリメラーゼが3’末端を伸長して配列のギャップを埋める。最後に、DNAリガーゼはヌクレオチド間のニックを封鎖する。エキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼおよびリガーゼのような異なる酵素を含むアセンブリマスターミックスを添加し、その後反応ミックスを50℃でインキュベートすると、単一の断片の1つのプラスミドへの組み立てをもたらす。その後、コンピテント大腸菌細胞をプラスミドで形質転換する。
【0205】
いくつかのベクターについては、制限酵素を介したクローニング戦略が用いられた。適当な制限酵素を選択することによって、目的の遺伝子を切り出し、その後ライゲーションによって別のベクターに挿入することができる。したがって、多重クローニング部位(MCS)で切断する酵素を使用し、正しい配列の断片のライゲーションを行うことができるよう、賢く選択することが望ましい。ベクターと断片があらかじめ同じ制限酵素で切断されている場合、断片とベクターの粘着末端は完璧に組み合わされ、その後DNAリガーゼでライゲーションすることができる。ライゲーション後、コンピテント大腸菌細胞を新たに生成されたプラスミドで形質転換する。
【0206】
制限消化によるクローニング
制限酵素によるプラスミドの消化のために、以下の成分を氷上で一緒にピペットで移した。
【0207】
(表)制限消化反応ミックス
【0208】
1回の消化でより多くの酵素を使用した場合は、各酵素1μlを使用し、PCRグレードの水を多かれ少なかれ加えることで容積を調整した。すべての酵素は、新しいEngland Biolabs社製CutSmart緩衝液(100%活性)との使用に適格であり、同じインキュベーション温度(すべて37℃)であるという前提条件で選択された。
【0209】
サーモミキサーまたはサーマルサイクラーを使用してインキュベーションを行い、試料を一定温度(37℃)でインキュベートできるようにした。インキュベーション中、試料を撹拌しなかった。インキュベーション時間は60分とした。その後、試料をローディング色素と直接混合し、アガロース電気泳動ゲルにロードするか、さらに使用するために4℃/氷上で保存した。
【0210】
ゲル電気泳動用に1%アガロースゲルを調製した。そのため、1.5gの多目的アガロースを125三角フラスコに量り取り、150mlのTAE緩衝液で満たした。混合物は、アガロースが完全に溶解するまでマイクロ波オーブン中で加熱した。0.5μg/mlの臭化エチジウムをアガロース溶液に加えた。その後、ゲルを型に流し込んだ。アガロースをセットした後、型を電気泳動チャンバーに入れ、チャンバーをTAE緩衝液で満たした。その後試料をロードした。(左から)最初のポケットに、適切なDNA分子量マーカーをロードし、続いて試料をロードした。ゲルを<130Vで約60分間泳動した。電気泳動後、ゲルをチャンバーから取り出し、UV-Imagerで分析した。
【0211】
標的バンドを切断し、1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。ゲルの精製のために、QiagenからのQIAquick Gel Extractionキットを製造業者の指示に従って使用した。DNA断片を、さらに使用するために-20℃で保存した。
【0212】
ライゲーション用の断片は、挿入断片とベクター断片の長さ、および互いの相関関係に応じて、ベクターと挿入断片のモル比が1:2、1:3、1:5で一緒にピペットで移した。ベクターに挿入すべき断片が短い場合は、1:5の比率を使用した。挿入断片が長い場合は、ベクターとの相関でより少量の挿入断片を使用した。50ngの量のベクターを各ライゲーションで使用し、特定量の挿入断片をNEBioCalculatorで計算した。ライゲーションには、NEBのT4DNAライゲーションキットを使用した。ライゲーション混合物の例を次の表に示す。
【0213】
(表)ライゲーション反応ミックス
【0214】
DNAと水の混合から始まり、緩衝液の添加、最後に酵素の添加まで、すべての成分を氷上で一緒にピペットで移した。反応物を上下にピペッティングすることにより穏やかに混合し、短時間マイクロフュージし、次に室温で10分間インキュベートした。インキュベーション後、T4リガーゼを65℃で10分間熱失活させた。試料を氷上で冷却した。最後の工程で、10ベータコンピテント大腸菌細胞を2μlのライゲーションプラスミドで形質転換した(以下を参照)。
【0215】
R部位アセンブリによるクローニング
組立てのために、両端にR部位をもつすべてのDNA断片を氷上で一緒にピペットで移した。4つを超える断片を組み立てる場合は、製造業者の推奨どおり、すべての断片の等モル比(0.05ng)を使用した。反応ミックスの半分はNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mixにより具現化された。全反応容積は40μlで、PCR清浄水による充填により到達した。以下の表では、例示的なピペッティングスキームを示す。
【0216】
(表)アセンブリ反応ミックス
【0217】
反応混合物の設定後、チューブを恒常的に50℃で60分間サーモサイクラー中でインキュベートした。組み立てが成功した後、10ベータコンピテント大腸菌を2μlの組み立てたプラスミドDNAで形質転換した(以下を参照)。
【0218】
形質転換10ベータコンピテント大腸菌細胞
形質転換のために、10ベータコンピテント大腸菌細胞を氷上で解凍した。その後、2μlのプラスミドDNAを細胞懸濁液に直接ピペットで移した。チューブをはじき、氷上に30分間置いた。その後、細胞を42℃の温熱ブロックに入れ、正確に30秒間熱ショックを与えた。直後、細胞を氷上で2分間冷却した。950μlのNEB 10ベータ増殖培地を細胞懸濁液に加えた。細胞を37℃で1時間振盪しながらインキュベートした。次に、50~100μlをあらかじめ加温した(37℃)LB-Amp寒天プレート上にピペットで移し、使い捨てのスパチュラで広げた。このプレートを37℃で一晩インキュベートした。このプレート上で増殖できるのは、アンピシリンに対する耐性遺伝子をもつプラスミドをうまく取り込んだ細菌だけである。翌日に単一コロニーを拾い、その後のプラスミド調製のためにLB‐Amp培地で培養した。
【0219】
細菌培養
大腸菌の培養は、LB培地(Luria Bertaniの略である)中で行い、1ml/L 100mg/mlのアンピシリンを添加して、0.1mg/mlのアンピシリン濃度とした。異なるプラスミド調製量について、以下の量を単一の細菌コロニーに播種した。
【0220】
(表)大腸菌培養量
【0221】
Mini-Prepのために、96ウェル2mlディープウェルプレートにウェルあたり1.5mlのLB-Amp培地を充填した。コロニーを採取し、つまようじを培地に押し込んだ。すべてのコロニーを採取したら、プレートを粘着性の空気多孔質膜で閉じた。プレートを37℃のインキュベーター中で200rpmの振盪速度で23時間インキュベートした。
【0222】
Mini-Prepのために、15mlチューブ(換気蓋付き)に3.6mlのLB-Amp培地を充填し、細菌コロニーを均等に播種した。つまようじは取り除かず、インキュベーションの間チューブ内に残した。96ウェルプレートと同様に、チューブを37℃、200rpmで23時間インキュベートした。
【0223】
Maxi-Prepでは、200mlのLB-Amp培地をオートクレーブ処理したガラス製の1L三角フラスコに充填し、約5時間経過した1mlの細菌の培養液を播種した。三角フラスコを紙栓で閉じ、37℃、200rpmで16時間インキュベートした。
【0224】
プラスミド調製
Mini-Prepのために、50μlの細菌懸濁液を1mlのディープウェルプレートに移した。その後、細菌細胞をプレート内で3000rpm、4℃で5分間遠心分離した。上清を取り除き、細菌ペレットを含むプレートをEpMotionに入れた。約90分後に実行が完了し、溶出したプラスミド-DNAをさらなる使用のためにEpMotionから取り除くことができた。
【0225】
Mini-Prepのために、15mlのチューブをインキュベーターから取り出し、3.6mlの細菌培養物を2mlのエッペンドルフチューブに分けた。チューブを卓上マイクロ遠心機で6,800xgで室温で3分間遠心分離した。その後、Qiagen QIAprep Spin Miniprepキットを用いて、製造業者の指示に従ってMini-Prepを実施した。プラスミドDNA濃度はNanodropで測定した。
【0226】
Macherey-Nagel NucleoBond(登録商標)Xtra Maxi EFキットを用いて、製造業者の指示に従ってMaxi-Prepを実施した。DNA濃度はNanodropで測定した。
【0227】
エタノール沈殿
DNA溶液の容量を2.5倍容量のエタノール100%と混合した。この混合物を-20℃で10分間インキュベートした。次に、DNAを14,000rpm、4℃で30分間遠心分離した。上清を注意深く除去し、ペレットを70%エタノールで洗浄した。再度、試験管を14,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。上清をピペッティングにより注意深く除去し、ペレットを乾燥させた。エタノールを蒸発させたら、適量のエンドトキシンフリー水を加えた。DNAは4℃で一晩水に再溶解させる時間を置いた。少量のアリコートを取り、Nanodrop装置でDNA濃度を測定した。
【0228】
実施例2
プラスミド生成
発現カセット組成
抗体鎖の発現のために、以下の機能的エレメントを含む転写単位を使用した:
- イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
- ヒト重鎖免疫グロブリン5’非翻訳領域(5’UTR)、
- マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
- それぞれの抗体鎖をコードする核酸、
- ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)、および
- 任意でヒトガストリンターミネーター(hGT)。
【0229】
発現される所望の遺伝子を含む発現ユニット/カセットの他に、基本的/標準的な哺乳動物発現プラスミドは、
- 大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製起点、および
- 大腸菌にアンピシリン耐性を付与するベータラクタマーゼ遺伝子
を含む。
【0230】
フロントベクターとバックベクターのクローニング
2プラスミド抗体構築物を構築するために、抗体HCおよびLC断片を、L3およびLoxFAS配列を含むフロントベクター骨格、ならびにLoxFASおよび2L配列ならびにpac選択マーカーを含むバックベクターにクローニングした。CreリコンビナーゼプラスミドpOG231(Wong,E.T.,et al.,Nuc.Acids Res.33(2005)e147;O’Gorman,S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94(1997)14602-14607)は、すべてのRMCEプロセスに使用された。
【0231】
それぞれの抗体鎖をコードするcDNAは、遺伝子合成(Geneart,Life Technologies Inc.)によって生成された。37℃で1時間、遺伝子合成物およびバックボーンベクターをHindIII-HFおよびEcoRI-HF(NEB)で消化し、アガロースゲル電気泳動によって分離した。挿入断片およびバックボーンのDNA断片をアガロースゲルから切り取り、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いて抽出した。製造業者のプロトコルに従って迅速ライゲーションキット(Roche)を用いて、3:1の挿入断片/バックボーン比で、精製した挿入断片およびバックボーン断片をライゲーションした。次いで、42℃で30秒間の熱ショックによってライゲーションアプローチをコンピテント大腸菌DH5αに形質転換し、37℃で1時間インキュベートした後、選択用のアンピシリンを含む寒天プレートに播種した。プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0232】
翌日、クローンを採取し、MiniまたはMaxi-Preparationのために振盪しながら37℃で一晩インキュベートした。これは、EpMotion(登録商標)5075(Eppendorf)を用いて、またはそれぞれQIAprepスピンミニプレップキット(Qiagen)/NucleoBond Xtra Maxi EFキット(Macherey&Nagel)を用いて、実施した。すべてのコンストラクトを配列決定して、いかなる不適切な突然変異も存在しないように徹底した(SequiServe GmbH)。
【0233】
第2のクローニング工程において、第1のクローニングの場合と同じ条件を用いて、あらかじめクローニングしたベクターをKpnI-HF/SalI-HFおよびSalI-HF/MfeI-HFで消化した。TIバックボーンベクターをKpnI-HFおよびMfeI-HFで消化した。分離および抽出を、前述したようにして実施した。製造業者のプロトコルに従ってT4 DNAリガーゼ(NEB)を用いて、1:1:1の挿入断片/挿入断片/バックボーン比で、精製した挿入断片およびバックボーンのライゲーションを4℃で一晩実施し、65℃で10分間、不活性化した。前述したようにして、下記のクローニング工程を実施した。
【0234】
クローニングされたプラスミドを、TIトランスフェクションおよびプール作製のために使用した。
【0235】
実施例3
培養、トランスフェクション、選択および単一細胞クローニング
TI宿主細胞を、独自のDMEM/F12ベースの培地中で、150rpmの一定の撹拌速度で、標準的な加湿条件下(95%rH、37℃、および5%CO)で、使い捨て125mlベント・シェイク・フラスコ内にて増殖させた。3~4日ごとに、細胞を、選択マーカー1および選択マーカー2を有効濃度で含む既知組成培地に、3x10E5細胞/mlの濃度で播種した。培養物の密度と生存率を、Cedex HiRes細胞カウンタ(F.Hoffmann-La Roche Ltd,Basel,Switzerland)で測定した。
【0236】
安定したトランスフェクションのために、等モル量のフロントベクターとバックベクターを混合した。混合物5μgあたり1μgのCre発現プラスミドを添加した。つまり、5μgのCre発現プラスミドまたはCremRNAを25μgのフロントおよびバックベクター混合物に添加した。
【0237】
トランスフェクションの2日前に、TI宿主細胞を、4x10E5細胞/mlの密度で、新鮮な培地に播種した。トランスフェクションは、NucleofectorキットV(Lonza,Switzerland)を使用して、製造業者のプロトコルに従ってNucleofector装置で実施した。3x10E7細胞を、合計30μgの核酸、すなわち、30μgのプラスミド(5μgのCreプラスミドおよび25μgのフロントおよびバックベクター混合物)、または5μgのCre mRNAおよび25μgのフロントおよびバックベクター混合物のいずれかでトランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞を、選択剤を含まない30mlの培地に播種した。
【0238】
播種後5日目に、細胞を遠心分離し、組換え細胞の選択のために、ピューロマイシン(選択剤1)および1-(2’-デオキシ-2’-フルオロ-1-ベータ-D-アラビノフラノシル-5-ヨード)ウラシル(FIAU;選択剤2)を有効濃度で含む80mLの既知組成培地に、6x10E5細胞/mlの濃度で移した。細胞は、37℃、150rpm、5%CO2、および85%湿度でこの日から分割せずに培養された。培養物の細胞密度および生存率を定期的にモニターした。培養物の生存率が再び増加し始めたとき、選択剤1および2の濃度を、以前に使用した量の約半分に減少させた。より詳細には、細胞の回収を促進するために、生存率が40%より高く、かつ生細胞濃度(VCD)が0.5×10E6細胞/mLより高い場合は選択圧を下げた。したがって、4×10E5細胞/mlを遠心分離し、選択培地II(既知組成培地、1/2選択マーカー1および2)40mlに再懸濁した。これらの細胞を以前と同じ条件で、かつこの場合も分割せずに、インキュベートした。
【0239】
選択を開始してから10日後、細胞内GFPおよび細胞表面に結合した細胞外異種ポリペプチドの発現を測定するフローサイトメトリによって、Cre媒介性カセット交換の成功を確認した。FACS染色のために、ヒト抗体の軽鎖および重鎖に対するAPC抗体(アロフィコシアニン標識F(ab’)2断片ヤギ抗ヒトIgG)を使用した。フローサイトメトリは、BD FACS Canto IIフローサイトメータ(BD,Heidelberg,Germany)を使用して実施した。試料あたり1万イベントを測定した。生細胞を、側方散乱(SSC)に対する前方散乱(FSC)のプロットでゲートした。生細胞ゲートは、トランスフェクトされていないTI宿主細胞で定義され、FlowJo 7.6.5 ENソフトウェア(TreeStar,Olten,Switzerland)を用いて、すべての試料に適用された。GFPの蛍光を、FITCチャネル(488nmでの励起、530nmでの検出)で定量化した。異種ポリペプチドを、APCチャネル(645nmでの励起、660nmでの検出)で測定した。CHO親細胞、すなわちTI宿主細胞の作製に使用された細胞を、GFPおよび[[X]]発現に対するネガティブコントロールとして使用した。選択開始から14日後、生存率は90%を超え、選択は完了したと見なされた。
【0240】
選択後、安定的にトランスフェクトされた細胞のプールを、限界希釈による単一細胞クローニングに供した。この目的のために、細胞をCell Tracker Green(商標)(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)で染色し、384ウェルプレートに0.6細胞/ウェルで播種した。単一細胞クローニングおよびその後のすべての培養工程では、選択剤2を培地から除外した。1つの細胞のみを含むウェルを、明視野および蛍光ベースのプレートイメージングによって同定した。1つの細胞を含むウェルのみを、さらに検討した。プレーティング後約3週間で、コンフルエントなウェルからコロニーを採取し、96ウェルプレートでさらに培養した。
【0241】
96ウェルプレートで4日後、培養培地中の抗体力価を、抗ヒトIgGサンドイッチELISAで測定した。簡単に説明すると、抗体を、MaxiSorpマイクロタイタープレート(Nunc(商標)、Sigma-Aldrich)に結合した抗ヒトFc抗体で細胞培養液から捕捉し、捕捉抗体とは異なるエピトープに結合する抗ヒトFc抗体-PODコンジュゲートで検出した。二次抗体を、BM化学発光ELISA基質(POD)(Sigma-Aldrich)を用いた化学発光によって定量した。
【0242】
実施例4
FACSスクリーニング
FACS解析を実施して、トランスフェクション効率およびトランスフェクションのRMCE効率を調べた。トランスフェクトされたアプローチの4×10E5細胞を遠心分離し(1200rpm、4分)、1mL PBSで2回洗浄した。PBSを用いる洗浄工程の後、沈殿物を400μLのPBSに再懸濁し、FACSチューブ(セルストレーナーキャップ付きのFalcon(登録商標)丸底チューブ、Corning)に移した。FACS CantoIIを用いて測定を実施し、ソフトウェアFlowJoを用いてデータを解析した。
【0243】
実施例5
フェドバッチ培養
フェドバッチ生産培養は、独自の既知組成培地を含む振盪フラスコまたはAmbr15容器(Sartorius Stedim)で実施した。細胞を0日目に1×10E6細胞/mLで播種し、3日目に温度を変化させた。3、7、および10日目に、培養物に独自のフィード培地を加えた。Cedex HiRes装置(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を使用して、0、3、7、10、および14日目に、培養物中の細胞の生存細胞数(VCC)および生存率割合を測定した。グルコース、乳酸および生成物力価の濃度を、3、5、7、10、12および14日目にCobasアナライザー(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を使用して測定した。フェドバッチ開始後14日目に、遠心分離(10分、1000rpmおよび10分、4000rpm)によって上清を採取し、濾過(0.22μm)によって清澄化した。UV検出を伴うプロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して、14日目の力価を測定した。生成物品質は、CaliperのLabChip(Caliper Life Sciences)によって決定された。
【0244】
実施例6
CHO細胞におけるRNPベースのCRISPR-Cas9遺伝子ノックアウト
材料/リソース:
・ ガイドおよびプライマー設計用のGeneious 11.1.5
・ CHO TI宿主細胞株;培養状態:30~60日目
・ TrueCut(商標)Cas9 Protein v2(Invitrogen(商標))
・ TrueGuide Synthetic gRNA(標的遺伝子に対して特注設計、3nm未修飾gRNA、Thermo Fisher)
・ TrueGuide(商標)sgRNAネガティブコントロール、非ターゲティング1(Thermo Fisher)
・ 培地(200μg/mlのハイグロマイシンB、4μg/mlの選択剤2)
・ DPBS-ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(CaおよびMgを含まず)(ThermoFisher)
・ マイクロプレート24ディープウェルプレート(Agilent Technologies,Porvoir science)、カバー(自作)付き
・ OC-100カセット装着用の細長いRNase、DNase、パイロジェンフリーのフィルターチップ。(Biozyme)
・ ヘラセーフフード(Thermo Fisher)
・ Cedex HiResアナライザー(Innovatis)
・ Liconic Incubator Storex IC
・ HyCloneエレクトロポレーション緩衝液
・ MaxCyte OC-100カセット
・ MaxCyte STXエレクトロポレーションシステム
【0245】
CRISPR-Cas9 RNP送達
RNPは、10μLのPBS中で5μgのCas9を1μgのgRNAミックス(各gRNAの比率が等しい)と混合することによりあらかじめ組み立てられ、RTで20分間インキュベートされる。2-4x10E6細胞/mLの間の濃度の細胞を遠心分離(3分間、300g)し、500μLのPBSで洗浄する。洗浄工程の後、細胞を再度遠心分離し(3分間、300g)、90μLのHycloneエレクトロポレーション緩衝液に再懸濁する。あらかじめインキュベートしたRNPミックスを細胞に加え、5分間インキュベートする。次に、この細胞/RNP溶液をOC-100キュベットに移し、MaxCyteエレクトロポレーションシステムを使用してプログラム「CHO2」でエレクトロポレーションする。エレクトロポレーション直後、細胞懸濁液を24ウェル(dwell)に移し、37℃で30分間インキュベートする。新鮮なあらかじめ加熱した培地を最終細胞濃度が1x10E6になるように添加し、細胞増殖のために37℃および350rpmでインキュベートする。ゲノムDNA調製(6日目または8日目)のために、QuickExtractキット(Lucigen)を細胞に添加し、PCR鋳型として利用した。特異的SIRT-1アンプリコンは、標準的なQ5 Hot Start Polymeraseプロトコル(NEB)とプライマーoSA060およびoSA061(配列番号15および16)を使用してPCR増幅された。アンプリコンは、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製され、Eurofins Genomics GmbHによるサンガー配列決定により解析された。
【0246】
フェドバッチ培養
フェドバッチ生産培養は、独自の既知組成培地を含む振盪フラスコまたはAmbr15容器(Sartorius Stedim)で実施した。1x10E6細胞/mlで細胞を播種した。3、7、および10日目に、培養物に独自のフィード培地を加えた。Cedex HiRes(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を使用して、0、3、7、10、および14日目に、培養物中の細胞の生存細胞数(VCC)および生存率割合を測定した。グルコース、乳酸および生成物力価の濃度を、3、5、7、10、12および14日目にCobasアナライザー(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を使用して測定した。フェドバッチ開始後14日目に、遠心分離(10分、1000rpmおよび10分、4000rpm)によって上清を採取し、濾過(0.22μm)によって清澄化した。UV検出を伴うプロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して、14日目の力価を測定した。生成物品質は、CaliperのLabChip(Caliper Life Sciences)によって決定された。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
【配列表】
2022538430000001.app
【国際調査報告】