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特表2022-538467生体適合性増粘ポリマーおよびキトサン誘導体を含む生体適合性組成物
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  • 特表-生体適合性増粘ポリマーおよびキトサン誘導体を含む生体適合性組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(54)【発明の名称】生体適合性増粘ポリマーおよびキトサン誘導体を含む生体適合性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/34 20060101AFI20220826BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220826BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220826BHJP
   A61L 27/06 20060101ALI20220826BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20220826BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L27/40
A61L27/54
A61L27/06
C08L5/00
C08L101/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021578100
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020068733
(87)【国際公開番号】W WO2021001507
(87)【国際公開日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】102019000010740
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】512073792
【氏名又は名称】メダクタ・インターナショナル・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】トラヴァン・アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ボルゴーニャ・マッシミリアノ・アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】パッラヴィチーニ・マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】デ・ロリス・アンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】シッカルディ・フランチェスコ
【テーマコード(参考)】
4C081
4J002
【Fターム(参考)】
4C081AB01
4C081AB36
4C081BA14
4C081CD092
4C081CE01
4C081CG02
4C081CG03
4C081DA12
4C081DC03
4C081EA06
4J002AB01X
4J002AB05W
4J002AB05X
4J002AD01X
4J002CH023
4J002DA078
4J002DA108
4J002DH047
4J002EC056
4J002EV237
4J002FA118
4J002FD207
4J002FD208
4J002FD313
4J002FD316
4J002FD33X
4J002GB01
4J002GB04
(57)【要約】
【課題】、埋め込み型の医療デバイスの表面をコーティング操作する際の操作性を向上させると共に、コーティングの有効性を向上させる。
【解決手段】粉末状の生体適合性組成物であって、
生体適合性増粘ポリマーと、
下記式(1)で表されるD-グルコサミン単位を含むキトサン誘導体と、
を含む、生体適合性組成物。
【化1】

【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の生体適合性組成物であって、
生体適合性増粘ポリマーと、
下記式(1)で表されるD-グルコサミン単位を含むキトサン誘導体と、
を含み、
【化1】

式中、Xは、下記式(II)で表される糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基であり、
【化2】

式中、-RはCHまたはCOであり、
-R1は水素原子、単糖部位またはオリゴ糖部位であり、
-R2はOHまたはNHCOCHである、
生体適合性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の生体適合性組成物であって、前記生体適合性増粘ポリマーは、非イオン性のセルロース多糖類若しくは非セルロース多糖類、タンパク質またはそれらの混合物の中から選択され、(前記タンパク質は好ましくはコラーゲン、ゼラチン、アルブミンまたはそれらの混合物の中から選択される、)生体適合性組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の生体適合性組成物であって、前記非イオン性のセルロース多糖類は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルセルロース(EC)、およびエチルメチルセルロース(EMC)、またはこれらの混合物の中から選択される、生体適合性組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の生体適合性組成物であって、前記非イオン性の非セルロース多糖類は、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、デンプンおよびその誘導体、グアーガム、アラビアガム、またはこれらの混合物の中から選択される、生体適合性組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、前記キトサン誘導体の誘導体化度が10%~95%、(好ましくは20%~80%、より好ましくは40%~80%)である、生体適合性組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、前記糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xは、ガラクトース、グルコース、マンノース、N-アセチルグルコサミンおよびN-アセチルガラクトサミンの中から選択される単糖の残基である、生体適合性組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、前記糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xは、2から4個のグリコシド単位を含むオリゴ糖の残基である、生体適合性組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の生体適合性組成物であって、前記糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xは、ラクトース、セロビオース、セロトリオ―ス、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、キトビオース、キトトリオース、マンノビオース、メリビオースおよびそれらのアルドン酸の中から選択されるオリゴ糖の残基であり、(好ましくはラクトースの残基である、)生体適合性組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、再懸濁剤をさらに含む、生体適合性組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の生体適合性組成物であって、前記再懸濁剤が、マンニトール、ソルビトール、PEGおよびトレハロースの中から選択され、(好ましくはマンニトールである、)生体適合性組成物。
【請求項11】
請求項9または10に記載の生体適合性組成物であって、この組成物の総重量に対し5重量%以上かつ25重量%以下、(好ましくは10重量%以上かつ22重量%以下)の量の、前記再懸濁剤を含む、生体適合性組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、バッファーをさらに含む、生体適合性組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の生体適合性組成物であって、前記バッファーは、リン酸二ナトリウム(DSP-NaHPO)、クエン酸、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(TRIS)およびリン酸水素二カリウム(KHPO)の中から選択され、(好ましくはDSPである、)生体適合性組成物。
【請求項14】
請求項12または13に記載の生体適合性組成物であって、この組成物の総重量に対し5重量%以上かつ15%重量%以下、好ましくは7重量%以上かつ13重量%以下の量の、前記バッファーを含む、生体適合性組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、前記キトサン誘導体がその上に分散された金属ナノ粒子を含む、生体適合性組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の生体適合性組成物であって、前記金属ナノ粒子は、(好ましくは)Ag、Cu、Zn、Auナノ粒子の中から選択され、(より好ましくはAgナノ粒子である、)生体適合性組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、この組成物の総重量に対し25重量%以上かつ50重量%以下、(好ましくは34重量%以上かつ48重量%以下)の量の、前記生体適合性増粘ポリマーを含む、生体適合性組成物。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、この組成物の総重量に対し10重量%以上かつ40重量%以下、(好ましくは20重量%以上かつ35重量%以下)の量の、前記キトサン誘導体を含む、生体適合性組成物。
【請求項19】
ゲル状の生体適合性組成物を調製する方法であって、以下の工程:
a)請求項1から18のいずれか一項に記載の粉末状の生体適合性組成物を収容する第1の容器を提供する工程;
b)粉末状の前記生体適合性組成物を再構成するための水溶性の溶液を収容する第2の容器を提供する工程;
c)粉末状の前記生体適合性組成物と、この組成物を再構成するための前記水溶性の溶液とを、混合して、ゲル状の生体適合性組成物を得る工程;そして任意で、
d)こうして得られたゲル状の生体適合性組成物を、所定の期間にわたってその状態に保持する工程
を含む方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、混合の工程である前記c)は、以下の工程:
c1)前記組成物を再構成するための前記水溶性の溶液を、前記第2の容器から前記第1の容器へと供給して、粉末状の前記生体適合性組成物を溶解させる工程;
c2)再構成した前記組成物を前記第2の容器に戻し入れる工程;
c3)必要に応じて、c1)の工程とc2)の工程とを繰り返して、ゲル状に再構成された生体適合性組成物の均一性を向上させる工程
を含む、方法。
【請求項21】
請求項19または20に記載の方法であって、前記組成物を再構成するための前記水溶性の溶液は、水を含み、また任意で、生物学的に活性な物質を含む、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記生物学的に活性な物質が、薬物成分、抗微生物ペプチド(AMP)、多血小板血漿(PRP)、ファージ、およびそれらの任意の組み合わせの中から選択される、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、前記生物学的に活性な物質が抗生物質であり、(好ましくはトブラマイシン、バンコマイシン、ダプトマイシン、ゲンタマイシン、シプロフロキサンの中から選択され、より好ましくはバンコマイシンである、)方法。
【請求項24】
医療用品用のゲル状の生体適合性コーティングを調製するために使用される部品キットであって、
請求項1から18のいずれか一項に記載の粉末状の生体適合性組成物を収容する第1の容器と、
粉末状の前記生体適合性組成物を再構成するための水溶性の溶液を収容する第2の容器と、
を備える部品キット。
【請求項25】
請求項24に記載の部品キットであって、前記第2の容器は、前記生体適合性組成物を再構成するための前記水溶性の溶液を収容し、この水溶性の溶液は、水を含むと共に、任意で請求項22または23に記載の前記生物学的に活性な物質を含む、部品キット。
【請求項26】
請求項24または25に記載の部品キットであって、水密性コネクタをさらに備え、当該水密性コネクタは前記第1の容器を前記第2の容器に密閉状態で接続するように構成される、部品キット。
【請求項27】
請求項24から26のいずれか一項に記載の部品キットであって、スパチュラをさらに備え、当該スパチュラは、ゲル状の前記生体適合性組成物を医療用品上に適用するように構成されている、部品キット。
【請求項28】
生体適合性増粘ポリマーと、
下記式(1)で表されるD-グルコサミン単位を含むキトサン誘導体と、
を含む生体適合性組成物であって、
【化3】

式中、Xは、下記式(II)で表される糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基であり、
【化4】

式中、-RはCHまたはCOであり、
-R1は水素原子、単糖部分またはオリゴ糖部分であり、
-R2はOHまたはNHCOCHであり、
ここで、前記生体適合性増粘ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルセルロース(EC)およびエチルメチルセルロース(EMC)、またはそれらの混合物の中から選択される、非イオン性のセルロース多糖類である、生体適合性組成物。
【請求項29】
請求項28に記載の生体適合性組成物であって、前記糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xは、請求項6から8のいずれか一項に定義されたものである、生体適合性組成物。
【請求項30】
請求項28または29に記載の生体適合性組成物であって、前記キトサン誘導体の誘導体化度が10%~95%、(好ましくは20~80%、より好ましくは40%~80%)である、生体適合性組成物。
【請求項31】
請求項28から30のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、再懸濁剤をさらに含む、生体適合性組成物。
【請求項32】
請求項31に記載の生体適合性組成物であって、前記再懸濁剤が、マンニトール、ソルビトール、PEGおよびトレハロースの中から選択され、(より好ましくはマンニトールである、)生体適合性組成物。
【請求項33】
請求項28から32のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、バッファーをさらに含む、生体適合性組成物。
【請求項34】
請求項33に記載の生体適合性組成物であって、前記バッファーは、リン酸二ナトリウム(DSP-NaHPO)、クエン酸、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(TRIS)およびリン酸水素二カリウム(KHPO)の中から選択され、(好ましくはDSPである、)生体適合性組成物。
【請求項35】
請求項28から34のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、前記キトサン誘導体がその上に分散された金属ナノ粒子を含む、生体適合性組成物。
【請求項36】
請求項35に記載の生体適合性組成物であって、前記金属ナノ粒子は、(好ましくは)Ag、Cu、Zn、Auナノ粒子の中から選択され、(より好ましくはAgナノ粒子である、)生体適合性組成物。
【請求項37】
請求項28から36のいずれか一項に記載の生体適合性組成物であって、当該組成物はゲル状である、生体適合性組成物。
【請求項38】
請求項37に記載のゲル状の生体適合性組成物であって、生物学的に活性な物質をさらに含み、(当該生物学的に活性な物質は、好ましくは薬物成分、抗微生物ペプチド(AMP)、多血小板血漿(PRP)、ファージ、およびそれらの任意の組み合わせの中から選択される、)生体適合性組成物。
【請求項39】
請求項38に記載のゲル状の生体適合性組成物であって、前記生物学的に活性な物質が抗生物質であり、(好ましくはトブラマイシン、バンコマイシン、ダプトマイシン、ゲンタマイシン、シプロフロキサンの中から選択され、より好ましくはバンコマイシンである、)生体適合性組成物。
【請求項40】
請求項37から39のいずれか一項に記載のゲル状の生体適合性組成物であって、この組成物の全体的な体積中に含まれる前記キトサン誘導体の質量が、1%(w/V)以上かつ5%(w/V)以下であり、(好ましくは2%(w/V)以上かつ4%(w/V)である、)生体適合性組成物。
【請求項41】
請求項37から40のいずれか一項に記載のゲル状の生体適合性組成物であって、この組成物の全体的な体積中に含まれる前記生体適合性増粘ポリマーの質量が、2%(w/V)以上かつ6%(w/V)以下であり、(好ましくは3%(w/V)以上かつ5.5%(w/V)以下である、)生体適合性組成物。
【請求項42】
請求項31に従属する場合の、請求項37から41のいずれか一項に記載のゲル状の生体適合性組成物であって、この組成物の全体的な体積中に含まれる前記再懸濁剤の質量が、0.5%(w/V)以上かつ3%(w/V)以下であり、(好ましくは1%(w/V)以上かつ2.5%(w/V)以下である、)生体適合性組成物。
【請求項43】
請求項33に従属する場合の、請求項37から42のいずれか一項に記載のゲル状の生体適合性組成物であって、この組成物の全体的な体積中に含まれる前記バッファーの質量が、0.5%(w/V)以上かつ1.5%(w/V)以下であり、(好ましくは0.7%(w/V)以上かつ1.2%(w/V)以下である、)生体適合性組成物。
【請求項44】
請求項37から43のいずれか一項に記載のゲル状の生体適合性組成物であって、前記キトサン誘導体および前記生体適合性増粘ポリマーの合計量が3%を上回りかつ11%(w/V)以下であり、(好ましくは4.5%以上かつ11%以下であり、より好ましくは5%以上かつ11%以下であり、より一層好ましくは5%以上かつ9.5%以下である、)生体適合性組成物。
【請求項45】
請求項37から44のいずれか一項に記載のゲル状の生体適合性組成物であって、前記非イオン性セルロース増粘ポリマーに対する前記キトサン誘導体の重量比は、0.17~2.5、(好ましくは0.6~1.5)となるように構成されている、生体適合性組成物。
【請求項46】
医療用品用の生体適合性コーティングを調製するための、請求項1から18のいずれか一項に記載の粉末状の前記生体適合性組成物の使用。
【請求項47】
医療用品の生体適合性コーティングとしての、請求項37から45のいずれか一項に記載のゲル状の前記生体適合性組成物の使用。
【請求項48】
請求項46または47に記載の使用であって、前記医療用品は埋め込み型の生物医学的物品である、使用。
【請求項49】
請求項48に記載の使用であって、前記埋め込み型の生物医学的物品は、少なくとも部分的に金属合金、(より好ましくはチタン合金)で製造された人工プロテーゼである、使用。
【請求項50】
請求項49に記載の生体適合性組成物の使用であって、前記人工プロテーゼは、臀部プロテーゼまたは膝プロテーゼ、(より好ましくは臀部プロテーゼ)である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性増粘ポリマーおよびキトサン誘導体を含む新規な生体適合性組成物に関する。この組成物は特に、医療用品用の生体適合性の(とりわけ生分解性の)コーティングを調製するのに適しており、特に埋め込み型の生物医学的物品用に用いるのに適しているが、専らそれに限定されるものではない。
【0002】
また、本発明は、開示された組成物の使用に関し、粉末状の組成物を含む部品キットに関し、そしてまたゲル状の生体適合性組成物を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
埋め込み型の生物医学的デバイスは、人工的な装置であり、欠落した生物学的構造の代わりを補うことを意図して、損傷した生物学的構造を支えることを意図して、あるいは既存の生物学的構造を補強することを意図して、用いられるものである。現在では、特に整形外科や循環器系(cardiovascular)の分野において、様々な埋め込み型デバイスが利用可能である。
【0004】
埋め込み型デバイスに関してしばしば生じる深刻な問題には、外科的処置後のインプラント関連感染症の発症がある。これは現在までのところ、抗生物質を用いて治療することが困難であり、しばしばインプラントの失敗を招き、それには高い財産的負担や社会福祉的コストが伴われる。このようなインプラント関連感染症は、現在でも顕著な罹患率を示し、また高い死亡率を示している。ほとんどの場合、感染症を呈したプロテーゼの除去が、感染症を治療する唯一の方法である。
【0005】
現在の知識によれば、インプラント関連感染症の発症において最も重大な病原的要因となるのは恐らくバイオフィルムの形成である。インプラントに細菌が付着した直後にバイオフィルムの形成が始まり、またバイオフィルムが形成されることにより、細菌(microorganisms)が、免疫系や抗生物質の全身投与から保護されてしまう。バイオフィルムは、微生物細胞の集合体として説明することができ、これらは細胞外高分子物質(extracellular polymeric substances: EPS)の自己生成マトリックスに埋め込まれ、各細胞が互いに付着し、および/または表面に付着する(Flemming et al., “Biofilms: an emergent form of bacterial life”, Nature Reviews, Microbiology, Vol. 14, September 2016, 563-575)。
【0006】
これに関連して、インプラントと生体組織との間に好適な生体材料を配置することにより、インプラントデバイス上でのバイオフィルムの形成を阻害するための、複数の方策が、近年研究されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2010/086421号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0255142号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/135116号
【特許文献4】国際公開第2010/010123号
【特許文献5】国際公開第2007/135114号
【0008】
国際公開第2010/086421号では、Novagenit S.r.l.が、水、ヒアルロン酸誘導体および抗微生物剤を含む、抗菌性ヒドロゲルを開示している。この抗菌性ヒドロゲルは、整形外科分野において、ヒトまたは動物の体内のプロテーゼまたはインプラントのコーティングとして用いるのに適しており、あるいは、損傷した組織の充填材として用いるのに適している。この文献はまた、整形外科手術において前記ヒドロゲルを使用する方法を開示し、また前記方法で使用されるキットを開示している。前記ヒドロゲルを形成するために用いられるヒアルロン酸誘導体は、生分解性ポリエステルをヒアルロン酸にグラフトすることによって(by grafting)合成される。
【0009】
この文献によれば、抗菌性ヒドロゲルは、使用の直前に、ヒドロゲルに選択された抗微生物剤を所望の割合で混合することによって形成され、その直後に、損傷した組織中に充填材として注入され、あるいは移植されるプロテーゼの表面に適用される。損傷した組織中への注入は、針と注射器を用いて実現することができる。抗菌性ヒドロゲルのプロテーゼへの適用は種々の方法により実現できるが、例えばプロテーゼをヒドロゲルに浸漬したり、噴霧したり、塗り広げたり(spreading)、ブラッシングしたりすることによっても実現できる。
【0010】
キットは2つの組成物で構成される。1つ目の組成物は、ヒアルロン酸誘導体と水とで形成されるヒドロゲルである。2つ目の組成物は、抗微生物剤、または、抗微生物剤と好適な溶媒とで構成される溶液若しくは懸濁液である。
【0011】
米国特許出願公開第2005/0255142号明細書では、Chudzikらが、ステントやカテーテルなどの埋込型医療デバイスの表面をコーティングするのに特に適した、生分解性コーティングを調製するための方法およびその組成物を開示している。この生分解性コーティングによれば、デバイス表面から薬物を放出することができる。
【0012】
この文献のコーティング組成物は、埋め込み型医療物品の表面に架橋を形成可能な成分として、天然の生分解性の多糖を含んでいる。この成分は、例えば架橋を形成することによりマトリックスをなし、このマトリックスより薬物(この文献では「生物活性剤」と称される。)を放出することができる。生分解性マトリックスのいくつかの実施形態では、生物活性剤がマトリックス内に存在し、このマトリックスから生物活性剤を放出可能である。他の実施形態では、生物活性剤が生分解性マイクロ粒子中に存在し、このマイクロ粒子がマトリックス内に固定化されている。
【0013】
コーティングを調製する際に、複数の天然の生分解性の多糖は、カップリング基を介して互いに化学的に架橋する。カップリング基は天然の生分解性の多糖からぶら下がり(pendent from)(すなわち、多糖には1つまたはそれ以上のカップリング基が化学的に結合しており)、例えばフリーラジカル重合反応によってこれらのカップリング基同士が架橋を形成することにより、天然の生分解性の多糖マトリックスが形成される。
【0014】
国際公開第2007/135116号は、キトサンのオリゴ糖誘導体からなるポリアニオン性多糖とポリカチオン性多糖との混合物を含む組成物を記載している。記載されている組成物では、酸性多糖とキトサン誘導体との間にイオン性複合体が形成されるにも関わらず、上記混合物は水性環境において可溶性を示す。この文献には、用いられた多糖の平均分子量が比較的小さいにも関わらず、この組成物は、粘度および粘弾性が予想外に増大した顕著なレオロジー的挙動を示したことが、記載されている。当該組成物は、その溶解性およびレオロジー的挙動を有するが故に、特に粘液補充に用いるのに適しており、とりわけ関節病変および眼科手術の分野において好適に用いられる。
【0015】
国際公開第2010/010123号には、中性のまたはアニオン性の多糖類と、分岐カチオン性の多糖類と、を含む多糖組成からなる高分子マトリックスによって形成された、3次元構造のナノコンポジット材料が記載されている。当該ナノコンポジット材料では、金属ナノ粒子が均一に分散され、安定化されている。ナノコンポジット材料は、適宜のゲル化技術を用いることにより、または適宜の脱水を行うことにより、ヒドロゲルとしての水和物形態または非水和物形態において異なる形状を有する3次元マトリックスをなしている。この文献のナノコンポジット材料は、広いスペクトル範囲で強力な殺菌活性を有するが、細胞毒性は示していない。この文献においては、上記ナノコンポジット材料が、ナノスケールの金属粒子に関連して抗菌特性を有し、また、細胞毒性が欠如している状況下でポリマー鎖上に生物学的シグナルが存在していることから、これを、抗菌特性を備えた次世代の生物材料の開発に利用することができ、また生物医学分野や製薬分野や食品分野などにおけるその他の多くの用途に利用することができると、述べている。
【0016】
国際公開第2007/135114号には、酸性多糖と、例えばキトサンのオリゴ糖誘導体のような塩基性多糖誘導体と、を混合した水溶液から得られるヒドロゲルまたは3次元(3D)マトリックスを調製することが記載されている。この文献に記載されている溶液は、化学的ゲル化剤または物理的ゲル化剤のいずれかを用いて適宜にゲル化される。ゲル化は、単離された細胞または多細胞群をカプセル化することを狙って、または溶液中若しくは懸濁液中の薬理学的に活性な分子をカプセル化することを狙って行われる。これにより、上記溶液を生物医学分野や製薬分野で利用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
出願人は、上述した文献はいずれも、埋め込み型の医療デバイスの表面への、開示されたコーティングの接着の問題については解決することができないことを発見した。出願人は、埋め込み型の医療デバイスの表面をコーティング操作する際の操作性を向上させる上でも、バイオフィルムの形成を阻害することに対する当該コーティングの有効性を向上させる上でも、上記観点が極めて重要であると考えている。
【0018】
出願人はまた、国際公開第2010/086421号に記載のコーティングを形成するのに用いられるヒアルロン酸誘導体を合成すると、それに伴っていくつかの化学反応(例えば、官能化反応、末端基活性化反応、アンモニウム塩の形成など)が生じることを発見し、また残留化学物質がコーティングされた埋め込みデバイスから放出される虞があることを見出し、さらにそれ故に患者に潜在的に悪影響を与えかねないことを見出した。
【0019】
米国特許出願公開第2005/0255142号明細書に開示されたヒドロゲルにおいても、同様の問題が生じ得ることを見出した。これはすなわち、架橋反応が生じるために、架橋反応で使用される網状剤などの残留化学剤が残存する虞があるためである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本明細書に開示されるのは、生体適合性の組成物であり、特に医療物品(特に埋め込み型の生物医学的物品)に用いられる生体適合性の(好ましくは、なおかつ生分解性の)コーティングを調製するのに使用される、生体適合性の組成物である。この組成物によれば、以下の利点がもたらされる。すなわち、当該組成物により調製された生体適合性コーティングを用いることによって、当該コーティングが医療物品の表面に良好にかつ長期にわたって接着することとなり、さらに、埋め込み型の医療物品の表面をコーティングする際の操作性が向上されると共に、バイオフィルムの形成を阻害することに対する当該コーティングの有効性が向上される。
【0021】
特に、本発明者らは、長期安定性を示すと共に、生体適合性増粘ポリマーとキトサン誘導体とを相乗的に組み合わせたことに基づいてなる、好適な組成物を開発したため、医療物品の表面に良好にかつ長期にわたって接着する医療物品のコーティングを調製することが可能となる。
【0022】
したがって、第1の態様では、本発明は、粉末状の生体適合性組成物であって、
生体適合性増粘ポリマーと、
下記式(1)で表されるD-グルコサミン単位を含むキトサン誘導体と、
を含み、
【化1】

式中、Xは、下記式(II)で表される糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基であり、
【化2】

式中、-RはCHまたはCOであり、
-R1は水素原子、単糖部位またはオリゴ糖部位であり、
-R2はOHまたはNHCOCHである。
【0023】
有利には、本発明に係る粉末状の生体適合性組成物は、比較的に長期にわたる場合でも、適宜の容器の中に容易に保管することができ、また、組成物を再構成するための好適な水溶性の溶液と共に容易に処理(すなわち、再構成)することができ、それにより、必要な時に限り、生体適合性のコーティング組成物をゲルの態様で得ることができる。
【0024】
より詳細には、本発明に係る粉末状の生体適合性組成物は、生物医学的用途で必要とされる中性pHおよび実質的なイオン強度の条件下において、水系(aqueous systems)に可溶であり得る。
【0025】
最も有利には、本発明に係る粉末状の生体適合性組成物を再構成することで、室温で加熱する過程を経ることなく、ゲル状の生体適合性コーティング組成物を得ることができる。
【0026】
出願人は、驚くべきことに、本発明に係る粉末状の組成物を再構成することで得られるゲル状の生体適合性コーティング組成物が、医療物品の表面などの基材上に、顕著にかつ長期にわたって接着することを、実験により発見した。
【0027】
より具体的には、出願人は、上記の生体適合性増粘ポリマーおよびキトサンが相乗効果的に相互作用することにより、ゲル状の生体適合性コーティング組成物の基材への接着が強化されることを、実験により見出した。
【0028】
出願人はいかなる理論にも拘束されることを望まないが、医療物品の表面への接着が強化されるという効果は、キトサン誘導体と生体適合性増粘ポリマーとの相乗効果的な相互作用に起因し、この相互作用によって、キトサン誘導体の柔軟な側鎖により運ばれるヒドロキル基を、医療物品(特に少なくとも一部が金属合金で製造された医療物品)の表面に露出したヒドロキシル基と非共有結合的に(例えば静電気的に)効果的に相互作用させることができる。
【0029】
有利には、本明細書に開示される生体適合性組成物およびコーティングは、埋め込み型の生物医学的デバイスの用途で要求されるように、好ましくは生分解性である。
【0030】
有利には、本発明に係る粉末状の生体適合性組成物は、コーティングの調製のために過酷な化学的、物理的、および/または生化学的処理を要しない、市販の製品を使用する。
【0031】
さらに、非常に有利なことに、本発明に係る生体適合性組成物は、様々な具体的な用途における要件に、容易に適合させることができる。したがって、抗微生物剤または抗生物質などの放出され得る成分は、ゲル状に再構成される際に生体適合性組成物に組み込むことができ、これらの放出され得る成分は、コーティングされた医療物品(例えば埋め込み型の生物医学的デバイス)が患者に移植された後に、支配下におかれた状態(controlled profile)でインビボで放出されることとなる。
【0032】
第2の態様によれば、本発明はさらに、ゲル状の生体適合性組成物を調製する方法に関し、とりわけ医療物品の生体適合性コーティングを調製するのに適した方法に関し、以下の工程:
a)本明細書に開示される粉末状の組成物を収容する第1の容器を提供する工程;
b)粉末状の組成物を再構成するための水溶性の溶液を収容する第2の容器を提供する工程;
c)粉末状の組成物と、この組成物を再構成するための水溶性の溶液とを、混合して、ゲル状の組成物を得る工程;そして任意で、
d)こうして得られたゲル状の組成物を、所定の期間にわたってその状態に保つ工程
を含む。
【0033】
有利なことに、この方法は、複雑で時間を浪費する化学反応を伴わず、開始物質である粉末状の生体適合性組成物を適切な水溶液に溶解させ、こうして得られたゲルが、コーティングされる生物医学的デバイスなどの医療物品上に広げられる状態となる程度に、十分に均質になるまで混合するだけでよく、簡潔であり経時的にも有利である。
【0034】
また、医療スタッフは、患者の特定のニーズに基づいて、それに適合した水溶液を調製することを決定できる。
【0035】
さらに、この方法によれば、ヒドロゲルはそれが使用される直前に製造され、調製された後の短期間の間に、医療物品の表面をコーティングするために当該表面に適用することができる。これにより、例えば、医療スタッフは、コーティングされた物品を人体に埋め込む直前に、コーティングをその場で準備することができる。
【0036】
第3の態様によれば、本発明はさらに、医療物品用のゲル状の生体適合性コーティングを調製するために用いられる部品キットであって、
本明細書に開示される粉末状の生体適合性組成物を収容する第1の容器と、
粉末状の前記組成物を再構成するための水溶性の溶液を収容する第2の容器と、
を備える部品キットに関する。
【0037】
有利なことに、開始物質としての粉末状の組成物は、標準的な量で提供され、その場で使用されるまでの間、すなわちコーティングが調製されその直後に埋め込み型の医療物品に適用されるまでの間、長期間にわたって無菌状態に保ち得る。
【0038】
有利には、そして以下により詳しく示されるように、第2の容器は、再構成用の溶液を入れる入れ物を提供するだけではなく、粉末状の生体適合性組成物と再構成用の溶液との混合操作を支援するための入れ物をも提供し、それにより、ゲル状のコーティング組成物を容易に調製することを可能としている。
【0039】
第4の態様によれば、本発明は、生体適合性増粘ポリマーと、以下の式(I)のD-グルコサミン単位を含むキトサン誘導体と、を含む生体適合性組成物に関し、
【化3】

式中、Xは、下記式(II)で表される糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基であり、
【化4】

式中、-RはCHまたはCOであり、
-R1は水素原子、単糖部位またはオリゴ糖部位であり、
-R2はOHまたはNHCOCHであり、
ここで、生体適合性増粘ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルセルロース(EC)、およびエチルメチルセルロース(EMC)、またはこれらの混合物の中から選択される非イオン性のセルロース多糖類である。
【0040】
本発明のこの態様による生体適合性組成物は、特に生体適合性組成物から得られる生体適合性コーティングによって発揮される基材への有意かつ長期にわたる接着性について、第1の態様に係る粉末状の生体適合性組成物に関して上記で概説したのと同様の利点を奏する。
【0041】
出願人はまた、特に著しい接着性が、本明細書で定義される非イオン性セルロース増粘ポリマーとキトサン誘導体との相乗効果的な相互作用によってもたらされることを、実験により見出した。
【0042】
第5の態様によれば、本発明は、医療物品の生体適合性コーティングを調製する目的での、本明細書に開示される粉末状の生体適合性組成物の使用に関する。
【0043】
上述したように、開始物質である粉末状の生体適合性組成物を用いて、ゲル状(特に塗布性のヒドロゲル状)のコーティング組成物を調製して、特に有利な方法に従って医療物品に適用することは、容易に実現できることである。
【0044】
第6の態様によれば、本発明はまた、医療物品をコーティングする目的での、本明細書に開示されるゲル状の組成物の使用に関する。
【0045】
本発明は、その1つまたは複数の態様において、以下に記載される1つまたは複数の好適な特徴を有していてもよく、これらの特徴は、用途の要件に応じて、適宜に互いに組み合わせることができる。
【0046】
本明細書の枠組み内および以下の特許請求の範囲において、量、パラメータ、パーセンテージ等を示す全ての数値は、特に明記しない限り、常に「約」という用語が前に付くものとして理解されるべきである。さらに、全ての数値範囲は、最大値と最小値の全てのあり得る組合せを含むとともに、全てのあり得る中間範囲を含み、また以下に具体的に示される範囲を含む。
【0047】
本明細書の枠組み内および以下の特許請求の範囲において、「ゲル状の組成物」、「ヒドロゲル」、「ゲル」、「ゲル組成物」、およびこれらと同様の表現は全て、半固体状の、ゼラチン状のコロイド系を指すことを意図している。このコロイド系は、液相と固体分散体とからなる。これらの表現は、以下において入れ替え可能に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
[生体適合性増粘ポリマー]
本発明のために、生体適合性増粘ポリマーは、生体組織と適合性があり、ゲル化剤(gellant)として作用し、ゲルを形成し、弱い力で凝集した内部構造を構成するコロイド混合物として液相に溶解し得る、天然、半合成、合成のあらゆるポリマーを意味する。
【0049】
本発明の目的に適した生体適合性増粘ポリマーは、デンプン、植物性ガム、およびペクチン、タンパク質、またはそれらの混合物などの多糖類から選択することができる。
【0050】
特に好ましい実施形態では、生体適合性増粘ポリマーは非イオン性である。
【0051】
出願人は、実際のところ、基材(例えば、医療物品(特に、少なくとも部分的に金属合金で製造される医療物品)の表面)への、ゲル状のコーティング組成物の接着性は、前記ポリマーとして非イオン性の増粘ポリマーを用いた場合に最大となることを観察により見出した。
【0052】
如何なる理論によっても拘束されることを望まないが、出願人は、増粘ポリマーの非イオン性の性質が、キトサン誘導体と増粘ポリマーとの間に望ましくないイオン的相互作用が生じてしまう虞を実質的に排除するのだと信じている。すなわち、キトサン誘導体と増粘ポリマーとの相互作用によりコアセルベートが生成し、キトサン誘導体によりもたらされるヒドロキシル基の利用性(availability)が妨害されてしまう虞を無くすことができる。
【0053】
このようにして、キトサン誘導体によってもたらされるヒドロキシル基は、医療物品(特に少なくとも部分的に金属合金で製造される医療物品)の表面に露出しているヒドロキシル基と非共有結合的に(例えば静電気的に)相互作用するのに効果的に利用されると考えられる。
【0054】
本発明の好適な実施形態においては、生体適合性増粘ポリマーは非イオン性の、セルロースまたは非セルロース多糖類である。
【0055】
多糖類は、公知の生体適合性、高い汎用性、および大規模な商業的利用可能性を有利に示し、特有のレオロジー特性と組み合わされて、生物医学的用途に特に有用となる。
【0056】
これに関して、出願人は、非イオン性、セルロースまたは非セルロース多糖が有する生体適合性増粘ポリマーとしての制限(3次元材料、ヒドロゲル、およびスキャホールドにおける制限された機械的特性であって、それにより、機械的強度の点で厳格な要件が要求される埋め込み型デバイスの材料としての骨関節手術分野での利用の制限)は、非イオン性、セルロースまたは非セルロース多糖を本明細書に開示される特定のキトサン誘導体と組み合わせることによって克服できることを見出した。
【0057】
特に、以下においてより詳細に開示されるように、出願人は、本発明に係る組成物により調製された生体適合性コーティングが、改善された機械的特性を有し、埋め込み型医療デバイスの表面への改善された接着性を有し、また、医療デバイスが移植されたときに当該デバイスと生体組織との相互作用を適したものとする生体適合性特性を有することを、見出した。
【0058】
好ましくは、生体適合性増粘ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルセルロース(EC)、およびエチルメチルセルロース(EMC)、またはこれらの混合物の中から選択される、非イオン性のセルロース多糖類である。
【0059】
最も好ましくは、生体適合性増粘ポリマーはHPMCである。
【0060】
本発明の別の好ましい実施形態においては、生体適合性増粘ポリマーは、寒天、ローカストビーンガム(locust bean gum)、キサンタンガム、デンプンおよびそれらの誘導体、グアーガム、アラビアガム、またはこれらの混合物の中から選択される、非イオン性の非セルロース多糖類であってもよい。
【0061】
本発明の好適な実施形態においては、生体適合性増粘ポリマーは、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、またはそれらの混合物から選択されるタンパク質であってもよい。
【0062】
有利なことに、これらのタンパク質は増粘作用を発揮し、生物医学分野においてそれ自体に有用な用途を付与する可能性がある。
【0063】
[キトサン誘導体]
キトサンは、甲殻類の外骨格の主成分であるキチンを化学的脱アセチル化して得られるカチオン性多糖類である。これは、β1→4結合によって結合されたD-グルコサミン(GlcNH)残基の直鎖で構成され、不完全なキチン脱アセチル化による残留N-アセチル-グルコサミンユニットが散在しており、分子量が50~1,500kDaである。
【0064】
このポリマーは、免疫原性、病理学的、または感染性の反応が低いため、医療分野において利用できる(Suh Francis J.K., Matthew H.W.T. Biomaterials, 2000, 21, 2589-2598; Miyazaki S et al. Chem. Pharm. Bull., 1981, 29, 3067-3069; Muxika, A.; International Journal of Biological Macromolecules; 2017; 105; 1358-1358)。
【0065】
キトサンは、酸性溶液中における高いカチオン電荷密度などの物理化学的特性、高い加工性、および例えば細胞が移植される場所に多孔質構造を生じさせる能力を有しているので、生体材料として使用される上で望ましい特徴を有していると言える。一方で、キトサンは、生物医学的用途において厳密に必要とされる中性または塩基性水溶液に対して通常溶解しないという欠点を有する。
【0066】
これに関して、出願人は、上記で概説したように、D-グルコサミン単位に下記式(II)に示される糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xを結合させることを伴う、キトサン主鎖の具体的な誘導体化を実施することで、上述の欠点を克服できることを見出した。
【化5】

式中、
-RはCHまたはCOであり、
-R1は水素原子、または本明細書で開示される単糖部位若しくはオリゴ糖部位であり、
-R2はOHまたはNHCOCHである。
【0067】
有利には、そのようなキトサン誘導体は、還元的アミノ化反応を介して、第2級アミノ基によってポリマー骨格に連結された側枝の挿入をもたらす単糖またはオリゴ糖構造を含むシンプルなプロセスによって得ることができる。これにより、キトサンの全体的な多糖類の正電荷が実質的に変化することはない。
【0068】
キトサンの選択的な還元的アミノ化の例示的なプロセスは、米国特許第4,424,346号に開示されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
あるいは、キトサンは、例えば以下の文献のいずれかに記載されたプロセスの1つを介して、アミド結合を形成することにより、アルドン酸基で誘導体化することができる:Chung TW et al., Preparation of alginate/galactosylated chitosan scaffold for hepatocyte attachment, Biomaterials, Volume 23, Issue 14, 2002, 2827-2834頁, ISSN 0142-9612, https://doi.org/10.1016/S0142-9612(01)00399-4.; Liang M et al., 2014, The liver-targeting study of the N-galactosylated chitosan in vivo and in vitro, Artificial Cells, Nanomedicine, and Biotechnology, 42:6, 423-428, DOI: 10.3109/21691401.2013.841173
【0070】
有利なことに、キトサンポリマー骨格に以下の式(II)の糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基を導入すると、キトサン誘導体は、生物医学用途において厳密に要求される中性pHおよび実質的なイオン強度の条件においても、水系に完全に溶解するようになる。
【0071】
また、すでに上で概説したように、出願人は、上述のキトサン誘導体が増粘ポリマーと相乗効果的に相互作用することにより、組成物から調製された生体適合性コーティングが基材に対してより一層強固に接着することを実験により発見した。
【0072】
本発明の好ましい実施形態においては、キトサン誘導体の誘導体化度は、10%~95%、好ましくは20%~80%、より好ましくは40%~80%である。
【0073】
最も好ましくは、キトサン誘導体の誘導体化度は、60%に等しい。
【0074】
本明細書および添付の特許請求の範囲の枠組み内において、「誘導体化度」は、キトサンの(置換されたまたは非置換の)アミン基の総数に対するキトサン誘導体の置換アミン基の比率を示すことを意味する。別の言い方をすれば、キトサンのユニットの総数に対する、糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基をもたらすD-グルコサミンユニットの比率を指す。
【0075】
出願人は、誘導化度の上述の好ましい値を観察することにより、本発明に係る組成物により調製される生体適合性コーティングが、医療物品(特に、本明細書に開示される埋め込み型の医療デバイス)の表面に対し、最も好ましい接着特性を示すことを見出した。
【0076】
本発明の目的のために、キトサン誘導体の置換度は、Donati l. et al.によって開示される手順に従って1H-NMRによって決定することができる:Donati l. et al., Biomaterials, 2005, 26, 987; D’Amelio N. et al, J. Phys. Chem. B, 2013, 177, 13578。
【0077】
本発明の好ましい実施形態において、上記糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xは、ガラクトース、グルコース、マンノース、N-アセチルグルコサミン、およびN-アセチルガラクトサミンの中から選択される単糖の残基である。
【0078】
本発明の好ましい実施形態において、上記糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xは、2~4個のグリコシド単位を含むオリゴ糖の残基である。
【0079】
有利なことに、グリコシド単位の数がこの範囲の場合、立体障害が制限され、また、糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xが良好に溶解することになる。
【0080】
好ましい実施形態において、上記糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xは、ラクトース、セロビオース、セロトリオ―ス、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、キトビオース、キトトリオース、マンノビオース、メリビオース、およびそれらのアルドン酸の中から選択されるオリゴ糖の残基である。
【0081】
有利には、これらの全ての好ましい実施形態において、ポリオール残基Xは、グルコサミングリカンの一部である単糖部位または多糖部位によって構成される。グルコサミングリカンは、人体において通常見られる多糖類である。
【0082】
したがって、本発明に係るゲル状の生体適合性コーティング組成物がインビボで分解しても、そのような生体分子の放出は患者にとって有害ではない。
【0083】
最も好ましくは、上記糖アルコール類またはアルドン酸類のポリオール残基Xは、ラクトースの残基である。
【0084】
実際に、ラクトースはキトサンに対し、特有の物理化学的特性および生物学的特性を付与することが実証されている(Travan A et al., Non-cytotoxic Silver Nanoparticle-Polysaccharide Nanocomposites with Antimicrobial Activity, Biomacromolecules 2009 10 (6), 1429-1435, DOI: 10.1021/bm900039x; Donati l et al., Polysaccharide-Based Polyanion-Polycation-Polyanion Ternary Systems. A Preliminary Analysis of Interpolyelectrolyte Interactions in Dilute Solutions, Biomacromolecules 2011 12 (11), 4044-4056, DOI: 10.1021/bm201046p; Travan A. et al., Polysaccharide-coated thermosets for orthopedic applications: From material characterization to in vivo tests, Biomacromolecules. 2012; 13: 1564-1572. DOI: 10.1021/bm3002683; Cok M et al., Mimicking mechanical response of natural tissues. Strain hardening induced by transient reticulation in lactose-modified chitosan (chitlac), International Journal of Biological Macromolecules 2017 106, International Journal of Biological Macromolecules 2017 106, 10.1016/j.ijbiomac.2017.08.059)。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明に係る組成物は再懸濁剤をさらに含む。
【0086】
有利には、組成物が粉末状であり、水溶性の溶液によって再構成されてゲル状のコーティング組成物を形成する場合に、再懸濁剤は、組成物の溶解速度を増加させるように働く。
【0087】
好ましくは、再懸濁剤は、マンニトール、ソルビトール、PEG、トレハロースの中から選択される。
【0088】
最も好ましくは、再懸濁剤はマンニトールである。
【0089】
粉末状の組成物の好適な実施形態において、再懸濁剤の量は、組成物の全体的な重量に対し、5重量%以上かつ25重量%以下、より好ましくは10重量%以上かつ22重量%以下である。
【0090】
好ましい実施形態において、本発明に係る組成物はバッファーをさらに含む。
【0091】
有利なことに、バッファーを添加することにより、一旦水溶性の溶液により再構成された組成物のpHを調整して生物医学的用途に適合したpHを有するように調製されたゲル状のコーティング組成物を得ることが可能である。
【0092】
好ましくは、バッファーは、リン酸二ナトリウム(DSP-NaHPO)、クエン酸、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(TRIS)およびリン酸水素二カリウム(KHPO)の中から選択される。
【0093】
最も好ましくは、緩衝塩はDSPである。
【0094】
粉末状の組成物の好適な実施形態において、バッファーの量は、5重量%以上かつ15重量%以下、より好ましくは7重量%以上かつ13重量%以下である。
【0095】
好適な実施形態において、キトサン誘導体は、その上に分散された金属ナノ粒子を含む。
【0096】
有利なことに、金属ナノ粒子を添加することにより、組成物に対し、抗微生物性特性またはその他の所望の特性を付与することができる。
【0097】
分散された金属ナノ粒子を含むキトサン誘導体の調製は、任意の既知の方法で実施することができ、例えば米国特許出願公開第2011/0129536号明細書および米国特許出願公開第2011/01235889号明細書(上記で簡単に触れた国際公開第2010/010123号に対応する。)の開示に従って実施することができる。当該公報の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0098】
好ましい実施形態では、金属ナノ粒子はAg、Cu、Zn、Auの中から選択される。
【0099】
このような金属ナノ粒子の抗微生物特性は、例えば次のようないくつかの研究によって実証されている:Travan A et al., Non-cytotoxic Silver Nanoparticle-Polysaccharide Nanocomposites with Antimicrobial Activity, Biomacromolecules 2009 10(6), 1429-1435, DOI: 10.1021/bm900039x; Tarvan A et al., Silver-polysaccharide nanocomposite antimicrobial coatings for methacrylic thermosets, Acta Biomater. 2011 Jan; 7(1) 337-346. DOI: 10.1016/j.actbio.2010.07.024; Marsich E et al., Biological responses of silver-coated thermosets: An in vitro and in vivo study, Acta Biomater. 2013 2月; 9(2) 5088-5099. DOI: 10. 1016/j.actbio.2012.10.002; Marsich E et al., Biological response of hydrogels embedding gold nanoparticles, Colloids Surf B Biointerfaces 2011 4月;83(2) 331-339. DOI: 10.1016/j.colsurfb.2010.12.002; Porrelli D et al., Antibacterial-nanocomposite bone filler based on silver nanoparticles and polysaccharides, J Tissue Eng Regen Med. 2018 2月; 12(2):e747-e759, DOI: 10.1002/term.2365。
【0100】
最も好ましくは、金属ナノ粒子は、効果的な抗微生物活性を有利に達成するために、Agナノ粒子である。
【0101】
粉末状の組成物の好ましい実施形態では、組成物の総重量に対し、25重量%以上かつ50重量%以下、好ましくは34重量%以上かつ48重量%以下の量の、生体適合性増粘ポリマーを含む。
【0102】
粉末状の組成物の好ましい実施形態では、組成物の総重量に対し、10重量%以上かつ40重量%以下、好ましくは20重量%以上かつ35重量%以下の量の、キトサン誘導体を含む。
【0103】
本発明の付加的な好ましい実施形態では、組成物はゲル状である。
【0104】
有利には、そのような組成物は、すぐに使用できる態様であり、医療物品(好ましくは、埋め込み型の医療デバイス)上に生体適合性コーティングを形成するのに直接的に使用することができる。
【0105】
上述したように、ゲル状の組成物は、粉末状の組成物を現地で(使用時に)再構成することにより、または製造工程で調製することにより、その場で用意することができる。
【0106】
ゲル状の組成物の好ましい実施形態では、組成物は、生物学的に活性な物質をさらに含んでいてもよい。
【0107】
好ましくは、上記生物学的に活性な物質は薬物成分である。
【0108】
より好ましくは、上記薬物成分は抗生物質である。
【0109】
好ましい実施形態において、抗生物質は、好ましくは、トブラマイシン、バンコマイシン、ダプトマイシン、ゲンタマイシン、シプロフロキサシンの中から選択される。
【0110】
最も好ましくは、抗生物質はバンコマイシンである。
【0111】
代替的な実施形態において、上記生物学的に活性な物質は、抗微生物ペプチド(AMP)、多血小板血漿(PRP)、ファージ、およびそれらの任意の組み合わせの中から選択される。
【0112】
ゲル状の組成物の好ましい実施形態において、全体的な組成に対するキトサン誘導体の量は、1%(w/V)以上かつ5%(w/V)以下であり、より好ましくは2%(w/V)以上かつ4%(w/V)以下である。
【0113】
ゲル状の組成物の好ましい実施形態において、全体的な組成に対する生体適合性増粘ポリマーの量は、2%(w/V)以上かつ6%(w/V)以下であり、より好ましくは3%(w/V)以上かつ5.5%(w/V)以下である。
【0114】
ゲル状の組成物の特に好ましい実施形態において、キトサン誘導体と生体適合性増粘ポリマーとの総量は、3%よりも多く、かつ11%(w/V)以下である。
【0115】
有利なことに、出願人は、組成物中にこの量の多糖性ポリマーが存在することにより、ゲル状のコーティング組成物の基材(例えば、医療物品の表面)への接着性を向上させる所望の効果を最大化することができることを、実験により見出した。
【0116】
出願人は如何なる理論によっても拘束されることを望まないが、ゲル状の組成物が十分な「構造」を備えることにより、キトサン誘導体の柔軟な側鎖によって運ばれるヒドロキシル基と、医療物品(特に、少なくとも部分的に金属合金によって製造される医療物品)の表面に露出するヒドロキシル基と、の間に生じる静電的相互作用が効率的に利用されることに起因して、上記の効果の最大化が起こると考えられる。
【0117】
より好ましくは、ゲル状の組成物中におけるキトサン誘導体と生体適合性増粘ポリマーとの総量は、4.5%以上かつ11%以下である。
【0118】
より一層好ましくは、ゲル状の組成物中におけるキトサン誘導体と生体適合性増粘ポリマーとの総量は、5%以上かつ11%以下である。
【0119】
最も好ましくは、ゲル状の組成物中におけるキトサン誘導体と生体適合性増粘ポリマーとの総量は、5%以上かつ9.5%以下である。
【0120】
さらに、向上された接着性の所望の効果が最もよく観察されるゲル状の組成物の好ましい実施形態では、非イオン性のセルロース増粘ポリマーに対するキトサン誘導体の重量比は、0.17~2.5となるように構成される。
【0121】
より好ましくは、非イオン性のセルロース増粘ポリマーに対するキトサン誘導体の重量比は、0.6~1.5となるように構成される。ゲル状の組成物の好適な実施形態では、組成物全体に対する再懸濁剤の量は、0.5%(w/V)以上かつ3%(w/V)以下であり、より好ましくは1%(w/V)以上かつ2.5%(w/V)以下である。
【0122】
ゲル状の組成物の好ましい実施形態では、全体的な組成に対するバッファーの量は、0.5%(w/V)以上かつ1.5%(w/V)以下であり、より好ましくは0.7%(w/V)以上かつ1.2%(w/V)である。
【0123】
本発明に係るゲル状の生体適合性組成物を調製する方法における、好適な実施形態では、工程b)の粉末状の組成物を再構成するための溶液を収容する第2の混合容器を提供する工程は、
-前記第2の混合容器を提供する工程と;そして
-前記第2の容器を上記再構成するための溶液で満たす工程と、
を含む。
【0124】
上述したように、医療スタッフは、患者の特定のニーズに基づいて、それに適合した水溶性の溶液を準備することを決定できる。
【0125】
したがって、本発明に係るゲル状の生体適合性組成物を調製する方法における、好適な実施形態では、組成物を再構成するための水溶性の溶液は、水と、任意で、例えば本明細書で記載されるような生物学的に活性な物質(好ましくは抗生物質)等の、生理活性物質を含む。
【0126】
本発明に係るゲル状の生体適合性組成物を調製する方法における、好適な実施形態では、c)の混合工程は、以下の工程:
c1)前記組成物を再構成するための前記水溶性の溶液を、前記第2の容器から前記第1の容器へと供給して、粉末状の前記生体適合性組成物を溶解させる工程;
c2)再構成した前記組成物を前記第2の容器に戻し入れる工程;
c3)必要に応じて、c1)の工程とc2)の工程とを繰り返して、ゲル状に再構成された生体適合性組成物の均一性を向上させる工程
を含む。
【0127】
このようにして、ゲル状の生体適合性組成物は、注射器間混合(inter-syringe mixing)という用語で当該技術分野において示されているものなどの周知の手順を用いることによって、医療スタッフによって現地で容易に調製することができる。
【0128】
本発明に係るゲル状の生体適合性組成物を調製する方法における、好適な実施形態では、工程d)によって、再構成されたゲル状の組成物を、少なくとも5分に相当する時間の間保持することが可能となる。
【0129】
より好ましくは、工程d)は、再構成されたゲル状の組成物を、5分以上かつ4時間以下にわたって、好ましくは7分以上かつ1時間以下にわたって保持することを可能とする。
【0130】
有利なことに、この保持時間を経ることによって、組成物が、最適なレベルの再水和(rehydration)および膨潤(swelling)を有することとなる。
【0131】
本発明に係る好適な実施形態の枠組み内で、医療物品は、埋め込み型の(implantable)生物医学的物品である。
【0132】
好ましくは、埋め込み型の生物医学的物品は、少なくとも部分的に金属合金で製造された関節プロテーゼ(articular prosthesis)であってもよい。
【0133】
より好ましくは、前記金属合金はチタン合金である。
【0134】
本発明の好ましい実施形態では、関節プロテーゼは、股関節プロテーゼまたは膝プロテーゼであってもよい。
【0135】
より好ましくは、関節プロテーゼは、股関節プロテーゼである。
【0136】
医療物品用のゲル状の生体適合性コーティングを調製するのに使用するための部品キットの好適な実施形態では、前述の第2の混合容器は、本明細書に記載される組成物を再構成するための溶液を収容する。
【0137】
有利なことに、部品キットのこの好ましい実施形態によれば、外科手術の前に医療スタッフが組成物を再構成するための溶液を事前に準備する必要性を無くすことを可能にする。組成物を再構成するための好適な滅菌された水溶液が第2の溶液の中に既に存在することとなるので、医療物品上にコーティングを形成するために使用するゲル状の生体適合性組成物を得るためには、単に混合工程を行う(任意で保持工程も行う)だけでよい。
【0138】
本発明に係る部品キットの好適な実施形態では、部品キットは、第1の容器と第2の容器とを密封された状態で接続するように構成された水密性コネクタ(watertight connector)をさらに含んでいてもよい。
【0139】
このようにして、2つの容器中の内容物は、互いの容器の間を、無菌状態で、容易に前後に循環することができ(上述の方法の好適な実施形態の工程c1)と工程c2))、また材料の漏れもない。
【0140】
本発明に係る部品キットの好適な実施形態では、部品キットは、ゲル状の生体適合性コーティングを医療物品に適用するためのスパチュラをさらに含んでいてもよい。
【0141】
有利には、スパチュラは、ゲル組成物を適用するために用いられ、また、医療技術のベストプラクティスに従ってそれを生物医学的デバイスの表面に均一に広げるのに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
本発明の更なる特徴および利点は、以下に記載されるいくつかの好ましい実施形態の以下の説明からより明らかとなるであろう。以下の説明においては、本発明を制限する目的ではなく、本発明を示唆する目的で、添付の図面を参照する。
【0143】
図1図1は、実施例9Aに従って調製された生分解性コーティングについて、実施例11に従って実施されたレオロジー試験の結果を示す。
図2図2は、実施例10Aに従って調製された生分解性コーティングについて、実施例12に従って評価された抗菌薬(バンコマイシン)の拡散を示す。
図3図3は、実施例8に従って得られた銀ナノ粒子を含む組成物を、水溶性の溶液中に再懸濁することによって、実施例9Gに従って調製されたゲル状の組成物について、実施例13に従って評価された銀ナノ粒子の拡散を示す。
図4図4は、実施例9Aに従って調製された本発明に係るゲル状の組成物と、実施例14及び15に従って調製された比較対象となるゲル状の組成物とを、実施例16に従って評価したときの残留組成物量(%)を示しており、標準状態で水流に晒された後の、基材の表面被覆率と組成質量の点で評価したものである。
図5図5は、実施例9Aに従って調製された組成物の存在下、並びに、実施例1および8に従って調製された銀ナノ粒子を含む組成物の存在下で、それぞれ培養されたMG-63骨芽細胞について、実施例17に従ってその細胞生存率を評価した結果を示す。
図6図6は、実施例8に従って粉末状の組成物を再構成することによって調製された、銀ナノ粒子を含む組成物について、実施例17に従って評価した、黄色ブドウ球菌に対する抗微生物効果を示す。
【実施例
【0144】
本発明に係る生体適合性組成物の性能を評価するために、様々な実験が行われ、そのいくつかは以下に報告される。これらは、本発明の例示的かつ非限定的な目的を意図したものである。
【0145】
実施例1-粉末状の組成物の調製
キトサンとラクトース(CTL)との反応により得られたキトサン誘導体であって、誘導体化度が60%であり、国際公開第2018/116224号に記載された手順に従って得られた、150mgのキトサン誘導体と、250mgのHPMCと、100mgのマンニトールと、45mgのNaHPOとを、スパチュラを用いて混合し、5mlの注射器に入れ、これにより、粉末状の組成物を得た。
【0146】
実施例2-粉末状の組成物の調製
実施例1に記載されたキトサンとラクトース(CTL)との反応により得られた、誘導体化度が60%の、150mgのキトサン誘導体と、200mgのHPMCと、100mgのマンニトールと、45mgのNaHPOとを、スパチュラを用いて混合し、5mlの注射器に入れ、粉末状の組成物を得た。
【0147】
実施例3-粉末状の組成物の調製
実施例1に記載されたキトサンとラクトース(CTL)との反応により得られた、誘導体化度が60%の、200mgのキトサン誘導体と、150mgのHPMCと、100mgのマンニトールと、45mgのNaHPOとを、スパチュラを用いて混合し、5mlの注射器に入れ、粉末状の組成物を得た。
【0148】
実施例4-粉末状の組成物の調製
実施例1に記載されたキトサンとラクトース(CTL)との反応により得られた、誘導体化度が47%の、150mgのキトサン誘導体と、100mgのHPMCと、150mgのマンニトールとを、スパチュラを用いて混合し、5mlの注射器に入れ、粉末状の組成物を得た。
【0149】
実施例5-粉末状の組成物の調製
実施例1に記載されたキトサンとラクトース(CTL)との反応により得られた、誘導体化度が60%の、150mgのキトサン誘導体と、100mgのHPMCと、150mgのマンニトールとを、スパチュラを用いて混合し、5mlの注射器に入れ、粉末状の組成物を得た。
【0150】
実施例6-粉末状の組成物の調製
実施例1に記載されたキトサンとラクトース(CTL)との反応により得られた、誘導体化度が77%の、150mgのキトサン誘導体と、100mgのHPMCと、150mgのマンニトールとを、スパチュラを用いて混合し、5mlの注射器に入れ、粉末状の組成物を得た。
【0151】
実施例7-粉末状の組成物の例示的なスケールアップ:実施例1の組成物の100個の容器群への分注
実施例1に記載されたキトサンとラクトース(CTL)との反応により得られた、誘導体化度が60%の、15gのキトサン誘導体と、25gのHPMCと、10gのマンニトールと、4.5gのNaHPOとを、V型ブレンダー(Multigel Junior)を用いて機械的に混合し、手動で秤量し、各注射器に545mgの混合粉末が入れられるように、100本の注射器に分注した。これにより、粉末状の組成物を得た。
【0152】
本発明による組成物の大規模化した製造は、各成分の混合工程を固体状態で行う点で、製薬/生物医学的分野において採用される同様の工程と調和しているので、現実に実行可能であると考えられ、そのため、医療デバイスの製造を産業現場へと移行させることが可能であると考えられる。
【0153】
このアプローチにより、組成物の調製と注射器への分注を迅速に行うことが可能となり、産業現場への移行も容易となる。
【0154】
実施例8-銀ナノ粒子を含む粉末状の組成物の調製
実施例1に記載されたqキトサンとラクトース(CTL)との反応により得られた、誘導体化度が60%の、123mgのキトサン誘導体と、同様のキトサン誘導体であって金属ナノ粒子を有する、27mgのキトサン誘導体(CTL-nAg、ここで銀の量は0.2%w/w。)と、250mgのHPMCと、100mgのマンニトールと、45mgのNaHPOとを、スパチュラを用いて混合し、5mlの注射器に入れ、粉末状の組成物を得た。
【0155】
銀ナノ粒子を有するキトサン誘導体(CTL-nAg)は、以下のTravan A et. Al.による文献に記載される方法により調製された:Travan A et. Al., Non-cytotoxic Silver Nanoparticle-Polysaccharide Nanocomposites with Antimicrobial Activity, Biomacromolecules 2009 10 (6), 1429-1435, DOI: 10.1021/bm900039x。
【0156】
実施例9A~9G-ゲル状の組成物の調製
水溶液に、実施例1~6及び8に従って調製した粉末状の組成物を、上に開示した2つの容器を用いた注射器間混合(inter-syringe mixing)によって再懸濁することによって、ゲル状の7つの組成物が得られた。
【0157】
それぞれが上記の粉末状の組成物の1つを含んでいる7つの注射器(第1の容器)が、それぞれに5mlの水を含んでいる他の7つの注射器(第2の容器)に接続され、次いで、粉末状の組成物は、当該分野で知られていように、注射器間混合によって、結合された注射器間で材料が前後で循環するように供給し、徐々に再水和した。材料の前後での循環は、粉末状の組成物の完全な再水和が生じ、目視において実質的に均質なゲルが得られたと認められるまで、繰り返された。
【0158】
このようにして得られたゲル状の組成物は、約10分の間その状態で保持(静置)され、それによりヒドロゲルを安定させる(settle)ことができた。
【0159】
次の表1では、調製されたゲル状の組成物中におけるキトサン誘導体の量および増粘ポリマーの量が記載されている。
【表1】
【0160】
実施例10A~10F-抗微生物活性を有するゲル状の組成物の調製
抗微生物性分子を含むゲル状の6つの組成物は、バンコマイシン(20mg/ml)を含む水溶液に、実施例1~6に従って調製された粉末状の組成物を、注射器間混合によって再懸濁することによって得られた。
【0161】
それぞれが上記の粉末状の組成物の1つを含んでいる6つの注射器(第1の容器)が、それぞれに5mlのバンコマイシン水溶液(20mg/ml)を含んでいる他の6つの注射器(第2の容器)に接続され、次いで、粉末状の組成物は、当該分野で知られていように、注射器間混合によって、結合された注射器間で材料が前後で循環するように供給し、徐々に再水和した。材料の前後での循環は、粉末状の組成物の完全な再水和が生じ、目視において実質的に均質なゲルが得られたと認められるまで、繰り返された。
【0162】
再構成されたゲル状の組成物は、約10分の間保持され、それによりヒドロゲルを安定させることができた。
【0163】
実施例11-ゲル状の組成物のレオロジー挙動の決定
実施例9Aによって調製された(そしてベータ照射によって滅菌された)ゲル状の組成物について、機械的分光法による測定が実施され、このゲル状の組成物の弾性率(G’)、粘性率(G’’)、および複素粘度(η)が決定された。
【0164】
ヒドロゲルのレオロジー特性は、制御された応力レオメータ(Haake Mars III)を用いて測定され、貯蔵率(弾性、G’)および損失率(粘性、G’’)の値は2.5Hzの条件下で測定された。一方で、複素粘度(η)は1Hzの条件下で評価された。全ての測定は、25℃の下で、コーンプレート形状(φ=60mm、1°)を使用して行われた。
【0165】
得られた結果を図1に示している。弾性率G’、粘性率G’’、および複素粘度ηは周波数に依存していた。特に、広範囲に及ぶ周波数において、弾性率G’は粘性率G’’よりも高く、ヒドロゲルの緊密性が良好であることが示唆された。
【0166】
実施例12-抗微生物性分子を含むゲル状の組成物からの、抗微生物性薬物の拡散
抗微生物薬放出試験は、実施例10Aに従って用意されたゲル状の組成物を用いて行われ、このゲル状の組成物は実施例1に従い(そしてベータ照射によって滅菌することにより得られた)粉末状の組成物を、バンコマイシン(20mg/ml)を含む水溶液を用いて再構成することにより得られた。この抗微生物薬放出試験は、バンコマイシンの放出を経時的に測定することにより、行われた。
【0167】
ゲル状の組成物(1サンプルあたり500mg)をチタン製シリンダ上に広げ、37℃でPBS(7ml)に浸漬させた。適宜設定された時点で(1、4、8および24時間後)、上澄み溶液を採取して分析し、放出量を測定した。それぞれの適宜設定された時点で、3つのサンプルから上澄み溶液を採取し、得られた結果の平均をとった。
【0168】
上澄み溶液中のバンコマイシンの定量化は、UV-Vis分光法によって実施され、検量線を得た後に定量化された。
【0169】
図2は、実施例10A(黒い四角)により得られたゲル状の組成物からのバンコマイシンの放出プロファイル(profile)を示している。
【0170】
グラフより、バンコマイシンが最初の浸漬時間を経る間にヒドロゲルから徐々に放出され得ることが伺えるが、バンコマイシンの全量放出は24時間後に達成されるようである。
【0171】
実施例13-銀ナノ粒子を含むゲル状の組成物からの銀の拡散
銀放出試験は、実施例8(中程度でベータ滅菌)に従い粉末状の組成物を水溶性の溶液で再水和することによって、実施例9Gに従い調製されたゲル状の組成物を用いて実施され、そして銀の放出を経時的に測定することにより行われた。ゲル状の最終的な組成物における銀濃度は0.1mMであった。
【0172】
再水和したゲル状の組成物(1サンプルあたり500mg)をチタン製シリンダ上に広げ、37℃でPBS(7ml)に浸漬させた。適宜設定された時点で(1、4、8および24時間後)、上澄み溶液を採取して分析し、放出量を測定した。それぞれの適宜設定された時点で、3つのサンプルから上澄み溶液を採取し、得られた結果の平均をとった。
【0173】
上澄み溶液中の銀の定量化は、原子発光分光法(AES)によって実施された。
【0174】
図3は、ヒドロゲル(黒い四角)からの銀の放出特性(profile)を示している。
【0175】
グラフより、銀が最初の浸漬時間を経る間にヒドロゲルから徐々に放出され得ることが伺えるが、銀の全量放出は24時間後に達成されるようである。
【0176】
実施例14(比較例)-キトサン誘導体を含まないゲル状の組成物の調製
150mgのマンニトールと100mgのHPMCとを、スパチュラを用いて混合し、5mlの注射器に入れた。このようにして、粉末状の比較組成物を得た。
【0177】
粉末状の比較組成物を使用して、実施例9A~9Fのいずれか1つに開示された手順による注射器間混合を行うことにより、ゲル状の比較組成物を得た。
【0178】
実施例15(比較例)-生体適合性増粘ポリマーを含まないゲル状の組成物の調製
実施例1に記載のようにキトサンとラクトース(CTL)との反応により得られたキトサン誘導体であって、誘導体化度が60%の、150mgのキトサン誘導体と、150mgのマンニトールとが、スパチュラを用いて混合され、5mlの注射器に入れられた。これにより、粉末状の組成物を得た。
【0179】
上記の粉末状の組成物を使用して、実施例9A~9Fのいずれか1つに開示された手順による注射器間混合を行うことにより、ゲル状の比較組成物を得た。
【0180】
実施例16-本発明に係るゲル状の組成物と、比較組成物との、接着特性の定量化
本発明に係るゲル状の組成物(実施例9A)並びに実施例14及び15に係る比較組成物の、接着特性の定量化が、以下の方法により実施された。
【0181】
各々のゲル状の組成物は、以下のおおよその寸法を有するチタン製のプレート上に広げられた:
-長さ:80mm
-幅:20mm
-厚み:1mm。
【0182】
各試験で使用されたヒドロゲルの体積は1.5mlであり、約1mmの厚みの均一なコーティング層を金属表面上に形成するために、材料(ヒドロゲル)をスパチュラで金属表面に擦り付けた。
【0183】
チタン製のプレートは水流に対して30°傾けて配置され、このプレート上に広げられたヒドロゲルの高い方の先端に対して10cm上方の位置に水ノズルが配置された。水流は、1.5リットル/分の流速で30秒間、コーティング層の上端に向けて当てられた。
【0184】
各コーティング層の定量化は、表面被覆率(コーティングしたプレートを上方から撮像したデジタル写真を、ソフトウェア(Image J)を用いてコンピュータ画像分析することによって得られる。)および重量の観点を鑑みて、水でリンス(water rinsing)した前後に行われた。
【0185】
残存したコーティングの重量を凍結乾燥後に測定することで、ゲル状の組成物を粉末状の組成物に換算(convert)した。
【0186】
図4は、実施例9A(本発明)並びに実施例14及び15(比較例)に係る組成物に対して実施された比較試験の結果を示している。
【0187】
本明細書に開示されるキトサン誘導体と生体適合性増粘ポリマーとを両方含む本発明に係るゲル状の組成物は、リンス工程の後に基材(プレート)上に残存したコーティング組成物の量がより多かったという点で、比較例に係るゲル組成物よりも、接着特性がはるかに優れていたことが、図4から明らかである。比較例に係るゲル状の組成物には、キトサン誘導体または生体適合性増粘ポリマーのいずれかが含まれていなかった。
【0188】
また、図4で示す比較試験の結果は、本明細書で開示されるキトサン誘導体と生体適合性増粘ポリマーとの組み合わせにより、予想外の相乗効果が得られることを示している。
【0189】
それ故に、本発明に係る組成物によれば、当該組成物により調製される生体適合性コーティングに対し、本明細書に開示されるような埋め込み型の医療物品の表面への良好かつ長期的な接着性を付与することができる。
【0190】
このような改善された接着性によれば、無菌手術室内でその場で行われるコーティング組成物の塗布操作が容易となるだけではなく、患者の組織(例えば、骨組織)に医療物品が移植された後においても、当該埋め込み型の医療物品の表面にコーティングが相当な量だけ残るという、非常に重要な利点が実現される。
【0191】
この技術的効果は、移植された医療物品上へのバイオフィルムの形成を防止することができるので、コーティング組成物が身体に完全に吸収されるまでの間、(すなわち、移植に関連する感染症が生じる可能性が相当低くなるまでの間、)移植に関連する感染症が広がってしまうのを効果的に抑制することができ、特に注目に値する。
【0192】
本発明によれば、この技術的効果は、本明細書に開示される組成物と共に抗微生物性物質(例えば、銀および/または抗生物質)を用いると特に促進される。その場合、抗微生物性物質はその場で放出されることとなり、それにより移植に関連する感染症の拡がりを防止しまたは実質的に遅らせる付加的な手段となり得る。
【0193】
本発明によれば、本明細書に開示されるように、抗微生物ペプチド(AMP)、多血小板血漿(PRP)、ファージ、およびそれらの任意の組み合わせなどの、他の生物学的に活性な物質が、本明細書に開示される生体適合性組成物や、当該組成物から得られるコーティング組成物に含まれていてもよい。それにより、抗生物質耐性(AMPやファージ)が出来てしまうことを回避したり、組織再生(PRP)を促進したりといった、所望の治療的効果を実現することができる。
【0194】
実施例17-細胞適合性
実施例9A~9Fのいずれか1つに開示されるように実施例8の粉末状の組成物を再構成して、実施例9Aおよび9Gにそれぞれ従って調製された2つのゲル状の組成物によって処理した後の細胞生存率を、比色アッセイMTS(CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay; Promega)によって評価した。
【0195】
この試験では、骨芽細胞(MG-63)の細胞系が24ウェルプレートに、1ウェル当たり25.000細胞の密度となるように播種した。播種の翌日、実施例1及び8の粉末状の組成物を含む注射器を、上述のように注射器混合することによって、再水和させ、再構成されたゲル状の組成物を用いて、細胞の処理を行った。ゲル状の組成物を濾紙で秤量(各濾紙につき60mg)し、濾紙をウェルに加えた。細胞を製剤(formulations)と共にインキュベートすることを37℃で24時間および72時間行った。
【0196】
ネガティブコントロールとして、ゲル状の組成物を含まない濾紙の存在下で培養した細胞を用いた(considered)。0.01%w/Vの濃度のTritonX-100(細胞溶解を誘発する化合物)で処理した細胞を、細胞死のポジティブコントロールとして用いた。通常の(plain)培地で培養した細胞を、成長コントロールとみなした。
【0197】
各時点において、以下のMTSアッセイを実施した。すなわち、細胞培地を除去し、MTSを各ウェルに添加した。MTSと細胞のインキュベーションを、暗所で、37℃で4時間行い、生存細胞の量と相関するサンプルの吸光度値を、分光光度計で波長を485nmに設定して読み取った。成長コントロールの細胞生存率を100%とみなし、全てのサンプルについて相対的な生存率を算出した。各シリーズについて、4つの複製(replicates)について実験がされた。
【0198】
得られた結果を図5に示している。これによれば、本発明に係るゲル状の組成物と接触している骨芽細胞の生存率は、24時間後の時点においても、72時間後の時点においても、ポジティブコントロールにおける細胞生存率と同等であった。また、予想された通り、Tritonで処理した細胞においては、時間に依存して細胞生存率が減少していた。
【0199】
これらの結果より、本発明に係る組成物は、採用された実験条件下において、MG-63骨芽細胞に対する細胞毒性活性を(測定可能な活性の範囲においては)示さないことが分かる。これらの定量的データは、培養細胞の光学的調査によって定性的に裏付けられ、それによれば、本発明に係る組成物により処理した細胞は、細胞にかかるストレス(cell suffering)の可視的なサイン(visible sign)なしで、それらの伸長した形態を保持することができる。
【0200】
実施例18-銀を含む組成物の、黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果
実施例9Aおよび9Gに開示されるように実施例1及び8の粉末状の組成物を再構成することにより調製したヒドロゲル製剤は、当該製剤(材料)の黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果を評価するために用いられた。当該ヒドロゲル製剤はファルコンチューブの中に移され、最終濃度が1mLあたり110細菌となるように細胞懸濁液(0.5mL)が添加された。Luria-Bertani培地(LB培地)およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)からなる培地(LB:PBS=10:90)で培養した未処理の細菌を用いて、成長コントロールをとった。コロニーカウントユニット用のLB寒天プレートにプレーティングする前に、サンプルを振盪しながら37℃で24時間インキュベートした。
【0201】
得られた結果を図6に示している。これによれば、銀ナノ粒子を含む組成物では、銀ナノ粒子を含まない組成物と比べて、黄色ブドウ球菌のコロニー形成単位の数が有意に少なかったため、測定可能な範囲の抗菌活性が効果的に発現していることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】