(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(54)【発明の名称】前立腺特異的膜抗原(PSMA)リガンド及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 257/02 20060101AFI20220826BHJP
A61K 31/395 20060101ALI20220826BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220826BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20220826BHJP
A61K 49/04 20060101ALI20220826BHJP
C07F 5/00 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
C07D257/02 CSP
A61K31/395
A61P35/00
A61P13/08
A61K49/04
C07F5/00 H
C07F5/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021578240
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(85)【翻訳文提出日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2020068386
(87)【国際公開番号】W WO2021001360
(87)【国際公開日】2021-01-07
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522001644
【氏名又は名称】アドバンスド アクセラレーター アプリケーションズ(イタリー)エスアールエル
(71)【出願人】
【識別番号】508280195
【氏名又は名称】ザ ジョンズ ホプキンス ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】マリアニ,マウリツィオ エフ.
(72)【発明者】
【氏名】フガッツァ,ロレンツァ
(72)【発明者】
【氏名】キッコ,ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】ポンパー,マーティン ギルバート
(72)【発明者】
【氏名】レイ,サンギータ
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
4H048
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085KB07
4C085KB09
4C085KB10
4C085KB11
4C085KB12
4C085KB56
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC58
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB28
4H048VA70
4H048VA85
4H048VB10
(57)【要約】
本開示は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)リガンドに関する。特に、本開示は、グルタミン酸-尿素-リジン(GUL)部位と、放射性金属を含み得るキレート剤と、を有するPSMAリガンドに関する。本開示はまた、画像診断における、及び前立腺癌の治療における、これらの化合物の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、Zは、テトラゾール又はCOOQであり、好ましくは、ZはCOOQであり;
Qは、H又は保護基であり、好ましくは、QはHであり;
mは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、mは4であり;
Rは、置換アリール、置換ピリジン、及び未置換イソキノリンからなる群から選択され;
Wは、-NR
2-(C=O)、-NR
2-(C=S)、-(C=O)-NR
2-、及び-(C=S)-NR
2-からなる群から選択され、好ましくは、Wは-(C=O)-NR
2-であり;
R
2は、H又はC
1~C
4アルキルであり、好ましくは、R
2はHであり;
Chは、金属又は放射性金属を任意に含むキレート剤である)
の化合物、及び薬剤として許容されるその塩。
【請求項2】
式(Ia)、(Ib)、(Ic)又は(Id):
【化2】
の化合物である、請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
Rが、1つ又は複数のハロゲンで置換されたアリール、1つ又は複数のハロゲンで置換されたピリジン、及び未置換イソキノリンからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の式(I)の化合物。
【請求項4】
Rが、
【化3】
(式中、Xは独立して、Br又はIである)
からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項5】
Rが、
【化4】
である、請求項1から4のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項6】
Chが、
【化5】
からなる群から選択され、及び金属又は放射性金属を任意に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項7】
Chが、Y、Lu、Tc、Zr、In、Sm、Re、Cu、Pb、Ac、Bi、Al、Ga、Re、Ho及びScから選択される金属を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項8】
前記金属が、
68Ga、
64Cu、
86Y、
90Y、
89Zr、
111In、
99mTc、
177Lu、
153Sm、
186Re、
188Re、
67Cu、
212Pb、
225Ac、
213Bi、
212Bi、
212Pb、
67Ga、
203Pb、
47Sc、及び
166Hoから選択される放射性金属である、請求項7に記載の式(I)の化合物。
【請求項9】
前記化合物の静脈内注入から1時間後に、腫瘍:腎臓比が少なくとも5となるように、腫瘍を有する動物又はヒトの体内に分布される、請求項1から8のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項10】
式(II):
【化6】
の化合物である、請求項1から9のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項11】
式(III):
【化7】
の化合物である、請求項1から10のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項12】
式(IV):
【化8】
の化合物である、請求項1から10のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項13】
請求項1から9のいずれかに記載の式(I)の化合物、請求項10に記載の式(II)の化合物、請求項11に記載の式(III)の化合物、又は請求項12に記載の式(IV)の化合物、及び少なくとも1種類の薬剤として許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
薬物として使用される、請求項1から9のいずれかに記載の式(I)の化合物、請求項10に記載の式(II)の化合物、請求項11に記載の式(III)の化合物、又は請求項12に記載の式(IV)の化合物。
【請求項15】
癌の治療に使用される、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
前立腺癌の治療に使用される、請求項14又は15に記載の化合物。
【請求項17】
画像診断において使用される、請求項1から9のいずれかに記載の式(I)の化合物、請求項10に記載の式(II)の化合物、請求項11に記載の式(III)の化合物、又は請求項12に記載の式(IV)の化合物。
【請求項18】
診断において、通常、PSMA発現性癌などの癌疾患の診断において使用される、請求項1から9のいずれかに記載の式(I)の化合物、請求項10に記載の式(II)の化合物、請求項11に記載の式(III)の化合物、又は請求項12に記載の式(IV)の化合物。
【請求項19】
請求項1から9のいずれかに記載の式(I)の化合物、請求項10に記載の式(II)の化合物、請求項11に記載の式(III)の化合物、又は請求項12に記載の式(IV)の化合物を治療有効量で癌細胞と接触させることを含む、癌を治療する方法。
【請求項20】
請求項1から9のいずれかに記載の式(I)の化合物、請求項10に記載の式(II)の化合物、請求項11に記載の式(III)の化合物、又は請求項12に記載の式(IV)の化合物を有効量で前記癌細胞と接触させることを含む、画像診断方法。
【請求項21】
対象において癌細胞又はPSMA発現性腫瘍若しくは細胞を診断し、及び/又は検出する方法であって、前記対象、好ましくはヒトに、請求項1から9のいずれかに記載の式(I)の化合物、請求項10に記載の式(II)の化合物、請求項11に記載の式(III)の化合物、又は請求項12に記載の式(IV)の化合物を治療有効量で投与することと、前記化合物中に存在する放射性金属の崩壊から誘導されるシグナルを検出することと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)リガンドに関する。特に、本開示は、グルタミン酸-尿素-リジン(GUL)部位と、放射性金属を含み得るキレート剤とを有するPSMAリガンドに関する。
【0002】
本開示は、前立腺癌の画像診断及び治療におけるこれらの化合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
前立腺癌は、米国及び欧州において最も一般的な癌の一つである。特に、転移性前立腺癌(mCRPC)は、予後不良及び生活の質の低下を伴う。
【0004】
近年、PSMAは、原発性癌病変及び軟部組織/骨転移性疾患において過剰発現するため、画像診断及び治療法の適切な標的であると考えられることから、前立腺癌を治療するための新たな開発の流れが、PSMAリガンドに基づく内部放射線治療によって示されている。また、PSMA発現は、その疾患の最も高悪性度の去勢抵抗性バリアントにおいてより高いと思われ、それは、高いアンメット・メディカル・ニーズを有する患者母集団を意味する(Marchal et al.,Histol Histopathol,2004,Jul;19(3):715-8;Mease et al.,Curr Top Med Chem,2013,13(8):951-62)。
【0005】
多くの小分子リガンド標的化PSMAの中でも、尿素ベースの低分子量作用薬が最も広範に研究されている作用薬である。これらの作用薬は、前立腺癌の臨床評価、並びにPRRT療法に適していることが示された(Kiess et al.,Q J Nucl Med Mol Imaging,2015;59:241-68)。これらの作用薬の一部は、標的化足場(targeting scaffold)としてグルタミン酸-尿素-リジン(GUL)を有する。あるクラスの分子は、キレート剤とGUL部位との間にリンカーを取り付ける戦略に従って作成された。このアプローチによって、結合部位の外部に金属キレート化部位を保持すると同時に、尿素が結合部位に到達することが可能となる。実証されたその高い取り込み及び保持、並びに速い腎クリアランスのために、この戦略は異種移植片PSMAポジティブ腫瘍において成功した(Banerjee et al.,J Med Chem,2013;56:6108-21)。
【0006】
しかしながら、これらの化合物の一部は依然として、腎臓などの異なる臓器において高い取り込みを示し、ヒト患者において毒性を誘発し得る。したがって、異なる臓器において低い取り込みを有する新規なPSMAリガンドを開発することが望まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、式(I):
【化1】
(式中、Zは、テトラゾール又はCOOQであり、好ましくは、ZはCOOQであり;
Qは、H又は保護基であり、好ましくはQはHであり;
mは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、mは4であり;
Rは、置換アリール、置換ピリジン、及び未置換イソキノリンからなる群から選択され;
Wは、-NR
2-(C=O)、-NR
2-(C=S)、-(C=O)-NR
2-、及び-(C=S)-NR
2-からなる群から選択され、好ましくは、Wは-(C=O)-NR
2-であり;
R
2は、H又はC
1~C
4アルキルであり、好ましくは、R
2はHであり;
Chは、金属又は放射性金属を任意に含むキレート剤である)の化合物、及び薬剤として許容されるその塩に関する。
【0008】
グルタミン酸-尿素-リジン(GUL)部位と、キレート剤Chとの間のリンカーは、良好な腫瘍:腎臓比を有すると同時に、異なる臓器における放射標識分子の低い取り込みを可能にする、C5アルキル鎖を含む。この低い取り込みは、これらのタイプの分子に対するヒト患者における毒性の低減を示す。さらに、高い腫瘍:腎臓比は、画像診断に使用される場合の、腫瘍の良好な可視化を示唆する。
【0009】
第2の態様において、本開示は、式(I)の化合物と、少なくとも1つの薬剤として許容される担体と、を含む医薬組成物に関する。
【0010】
第3の態様において、本開示は、薬物として使用される式(I)の化合物に関する。
【0011】
第4の態様において、本開示は、癌の治療、特に前立腺癌の治療に使用される式(I)の化合物に関する。
【0012】
第5の態様において、本開示は、画像診断において使用される式(I)の化合物に関する。
【0013】
第6の態様において、本開示は、有効量の式(I)の化合物と癌細胞を接触させることを含む、前立腺癌を治療する方法にも関する。
【0014】
第4の態様において、本開示は、有効量の式(I)の化合物と癌細胞を接触させることを含む、画像診断方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1による健康なCD-1マウスにおける
68Ga-PSMA-R2生体内分布(平均値±SD)を示す。
【
図2】実施例1による健康なCD-1マウス(膀胱及び腎臓)における
68Ga-PSMA-R2生体内分布(平均±SD)を示す。
【
図3】実施例2によるPSMAポジティブ腫瘍(PIP)及びネガティブ(Flu)を保持する無胸腺ヌードマウスにおける
68Ga-PSMA-R2生体内分布(平均±SD)を示す。
【
図4】実施例2によるPSMAポジティブ腫瘍(PIP)及びネガティブ(Flu)を保持する無胸腺ヌードマウスにおける
68Ga-PSMA-cpd2生体内分布(平均±SD)を示す。
【
図5】実施例3によるPSMAポジティブ腫瘍(PIP)を保持する無胸腺ヌードマウスにおける
177Lu-PSMA-R2及び
177Lu-PSMA-617の有効性研究を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
式(I)の化合物に関して、本明細書で使用される「保護基」という用語は、その分子における再生官能基又は他の官能基を攻撃しない、容易に入手可能な試薬によって選択的に除去することができる化学的置換基を意味する。適切な保護基は当技術分野で公知であり、開発され続けている。適切な保護基は、例えばWutzら(Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,Fourth Edition,Wiley-Interscience,2007)に記載されている。Wutzら(533~643ページ)によって記載のカルボキシル基の保護のための保護基が、特定の実施形態で使用される。一部の実施形態において、保護基は、酸での処理によって除去可能である。
【0017】
保護基の代表的な例としては、限定されないが、ベンジル、p-メトキシベンジル(PMB)、t-ブチル(t-Bu)、メトキシメチル(MOM)、メトキシエトキシメチル(MEM)、メチルチオメチル(MTM)、テトラヒドロピラニル(THP)、テトラヒドロフラニル(THF)、ベンジルオキシメチル(BOM)、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、及びトリフェニルメチル(トリチル,Tr)が挙げられる。当業者であれば、その保護基が必要とされる適切な状況を認識し、且つ特定の環境において使用される適切な保護基を選択することができるだろう。
【0018】
本明細書で使用される、「アリール」という用語は、環原子6~10個を含有する、共に縮合された単環又は複数の芳香族環を有する多価不飽和、芳香族ヒドロカルビル基を意味し、少なくとも1つの環は芳香族である。芳香族環は任意に、それに縮合された1つないし2つの更なる環(本明細書で定義される、シクロアルキル、ヘテロシクリル又はヘテロアリール)を含み得る。適切なアリール基としては、ベンゾピラニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキサニルなど、ヘテロシクリルに縮合されるフェニル、ナフチル及びフェニル環が挙げられる。
【0019】
本明細書で使用される、「置換アリール」及び「置換ピリジン」という用語は、上記で定義されるアリール、又はハロゲン、-OR’、-NR’R’’、-SR’、-SiR’R’’R’’’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-C(O)NR’R’’、-OC(O)NR’R’’、-NR’’C(O)R’、-NR’-C(O)NR’’R’’’、-NR’’C(O)OR’、-NR-C(NR’R’’R’’’)=NR’’’’、-NR-C(NR’R’’)=NR’’’、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R’’、-NRSO2R’、-CN、-NO2、-R’、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1~C4)アルコキソ、及びフルオロ(C1~C4)アルキルからなる群から選択される1つ又は複数の置換基によって、ゼロから、芳香族環構造上の空き原子価の総数までの範囲の数で置換されるピリジンを意味し、R’、R’’、R’’’及びR’’’’は、水素、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリールから独立して選択され得る。本開示の化合物が複数のR基を含む場合、これらの基の複数が存在する場合の各R’、R’’、R’’’及びR’’’’基と同様に、例えば、R基のそれぞれが独立して選択される。
【0020】
本明細書で使用される、「アルキル」という用語は、それ自体で、又は他の置換基の一部として、炭素原子1~6個を有する直鎖状又は分枝状アルキル官能基を意味する。適切なアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル及びt-ブチル、ペンチル及びその異性体(例えば、n-ペンチル、イソ-ペンチル)、及びヘキシル及びその異性体(例えば、n-ヘキシル、イソ-ヘキシル)が挙げられる。
【0021】
本明細書で使用される、「ヘテロアルキル」という用語は、炭素原子1~6個と、O、N、Si及びSからなる群から選択されるヘテロ原子1~4個と、を有する直鎖状又は分枝状アルキル官能基を意味し、その窒素及び硫黄原子は任意に酸化され得て、窒素ヘテロ原子は任意に四級化され得る。ヘテロ原子O、N及びSは、ヘテロアルキル基のいずれかの内部位置に、又はアルキル基が分子の残りに結合される位置に位置し得る。
【0022】
本明細書で使用される、「シクロアルキル」という用語は、炭素原子3~6個を有する飽和又は不飽和環状基を意味する。適切なシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0023】
本明細書で使用される、「ハロゲン」という用語は、フルオロ(-F)、クロロ(-Cl)、ブロモ(-Br)、又はヨード(-I)基を意味する。
【0024】
本明細書で使用される、「アルコキシ」という用語は、-O-アルキル基を意味し、そのアルキル基は、本明細書で定義されるC1~C6アルキルである。適切なアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシが挙げられる。
【0025】
本明細書で使用される、「ヘテロアリール」という用語は、原子5~10個を含有する共に縮合された、又は共有結合された単環若しくは複数の芳香族環を有する多価不飽和、芳香族環構造を意味し、少なくとも1つの環が芳香族であり、且つ少なくとも1つの環原子が、N、O及びSから選択されるヘテロ原子である。窒素及び硫黄ヘテロ原子は任意に酸化され得て、その窒素ヘテロ原子は任意に四級化され得る。かかる環は、アリール、シクロアルキル又はヘテロシクリル環に縮合され得る。かかるヘテロアリールの非制限的な例としては:フラニル、チオフェニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、テトラゾリル、オキサトリアゾリル、チアトリアゾリル、ピリジニル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、オキサジニル、ジオキシニル、チアジニル、トリアジニル、インドリル、イソインドリル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、イソベンゾチオフェニル、インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズオキサゾリル、プリニル、ベンゾチアジアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キナゾリニル及びキノキサリニルが挙げられる。
【0026】
本明細書で使用される、「ヘテロシクリル」又は「ヘテロシクロアルキル」という用語は、環原子5~10個を有する飽和又は不飽和環状基を意味し、少なくとも1つの環原子は、N、O及びSから選択されるヘテロ原子である。窒素及び硫黄ヘテロ原子は任意に酸化され得て、窒素ヘテロ原子は任意に四級化され得る。複素環の例としては、限定されないが、テトラヒドロピリジル、ピペリジニル、モルホリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、ピペラジニル、1-アゼパニル、イミダゾリニル、1,4-ジオキサニル等が挙げられる。
【0027】
本開示の種々の実施形態が、本明細書において記述される。それぞれの実施形態に指定の特徴を他の指定の特徴と組み合わせて、更なる実施形態が提供され得ることは認識されよう。
【0028】
本開示は、式(I)、(II)、(III)及び(IV)の化合物、その立体異性体、互変異性体、鏡像異性体、ジアステレオマー、ラセミ化合物又はその混合物、並びにその含水化合物、溶媒和化合物又は薬剤として許容される塩を包含する。
【0029】
「薬剤として許容される塩」という用語は、本開示の化合物の生物学的有効性及び特性を保持する塩を意味し、それは通常、生物学的に、又は他の点で望ましくなくない。
【0030】
「薬学的に」又は「薬剤として許容される」とは、哺乳動物、特にヒトに適宜投与される場合に、不利な反応、アレルギー反応又は他の有害な反応を引き起こさない分子的実体及び組成物を意味する。薬剤として許容される担体又は賦形剤とは、非毒性固体、半固体又は液体充填剤、希釈剤、封入材料又はいずれかの種類の配合助剤を意味する。
【0031】
本明細書で使用される、「対象」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを意味する。
【0032】
式(I)の化合物
第1の態様において、本開示は、式(I):
【化2】
(式中、Zは、テトラゾール又はCOOQであり、好ましくは、はCOOQであり;
Qは、H又は保護基であり、好ましくは、QはHであり;
mは、1、2、3、4、及び5からなる群から選択される整数であり、好ましくは、mは4であり;
Rは、置換アリール、置換ピリジン、及び未置換イソキノリンからなる群から選択され;
Wは、-NR
2-(C=O)、-NR
2-(C=S)、-(C=O)-NR
2-、及び-(C=S)-NR
2-からなる群から選択され、好ましくは、Wは-(C=O)-NR
2-であり;
R
2は、H又はC
1~C
4アルキルであり、好ましくは、R
2はHであり;
Chは、金属又は放射性金属を任意に含むキレート剤である)
の化合物、及び薬剤として許容されるその塩に関する。
【0033】
式(I)の化合物としては、式(Ia)、(Ib)、(Ic)及び(Id):
【化3】
の立体異性体が挙げられる。
【0034】
一実施形態に従って、Rは、1つ又は複数のハロゲンで置換されたアリール、1つ又は複数のハロゲンで置換されたピリジン、及び未置換イソキノリンからなる群から選択される。
【0035】
具体的な一実施形態に従って、Rは、
【化4】
(式中、Xは独立して、Br又はIである)
からなる群から選択される。
【0036】
【0037】
Chは、
【化6】
からなる群から選択することができ、任意に金属又は放射性金属を含む。
【0038】
具体的な一実施形態に従って、Chは、
【化7】
であり、任意に金属又は放射性金属を含む。
【0039】
その金属又は放射性金属は好ましくは、画像診断法又は治療法での使用に適している金属及び放射性金属から選択される。
【0040】
一実施形態に従って、Chは、Y、Lu、Tc、Zr、In、Sm、Re、Cu、Pb、Ac、Bi、Al、Ga、Re、Ho及びScから選択される金属を含む。その金属は、68Ga、64Cu、86Y、90Y、89Zr、111In、99mTc、177Lu、153Sm、186Re、188Re、67Cu、212Pb、225Ac、213Bi、212Bi、212Pb、67Ga、203Pb、47Sc、及び166Hoから選択される放射性金属であり得る。
【0041】
有利なことには、Chは、放射性金属68Ga又は177Lu又は225Acを含む。
【0042】
式(I)の化合物は、化合物の静脈内注入から1時間後に、腫瘍:腎臓比が少なくとも5(少なくともN=4の平均値)となるように、腫瘍を有する動物又はヒトの体内に分布され得る。
【0043】
一実施形態に従って、Wは-(C=O)-NR
2-であり、Chは、
【化8】
であり、任意に金属又は放射性金属を含む。
【0044】
一実施形態に従って、mは4であり、ZはCOOQであり、及びQはHである。
【0045】
具体的な実施形態に従って、式(I)の化合物は、式(II):
【化9】
の化合物である。
【0046】
式(II)の化合物は、PSMA-R2と呼ばれ得る。式(II)の化合物は、金属又は放射性金属、好ましくは68Ga又は177Luを含み得る。
【0047】
一実施形態に従って、式(I)の化合物は、式(III):
【化10】
の化合物である。
【0048】
式(III)の化合物は、
177Lu-PSMA-R2と呼ばれ得る。式(III)の化合物は、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)及び(IIId):
【化11】
の立体異性体を含む。
【0049】
他の実施形態に従って、式(I)の化合物は、式(IV):
【化12】
の化合物である。
【0050】
式(IV)の化合物は、
68Ga-PSMA-R2と呼ばれ得る。式(IV)の化合物は、式(IVa)、(IVb)、(IVc)及び(IVd):
【化13】
の立体異性体を含む。
【0051】
医薬組成物
本開示は、式(I)~(IV)の化合物と、少なくとも1つの薬剤として許容される担体と、を含む医薬組成物にも関する。
【0052】
医薬組成物の形態、投与経路、投薬量及び投与計画は当然のことながら、患者の治療される状態、疾患の重症度、患者の年齢、体重及び性別等に応じて異なる。
【0053】
本開示の医薬組成物は、静脈内、筋肉内又は皮下投与用に製剤化することができる。
【0054】
医薬組成物は、本開示に従って少なくとも1つの化合物を含む、水溶液の形態、例えば注射可能な剤形を取ることができる。
【0055】
好ましくは、医薬組成物は、注入することができる製剤に対して薬剤として許容される賦形剤を含有する。これらは、特に等張性、滅菌、生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウム又はリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウム又は塩化マグネシウム等、又はかかる塩の混合物)、或いは滅菌水又は生理食塩水を添加すると、その事例に応じて、注射可能な溶液が構成される、乾燥、特に凍結乾燥組成物であり得る。
【0056】
注射可能な滅菌溶液は、必要とされる上記に列挙される他の成分のいくつかと共に、適切な溶媒中に活性化合物を必要量で組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製される。一般に、基本分散媒及び上記で列挙される成分からの他の必要とされる成分を含有する滅菌賦形剤中に種々の滅菌活性成分を組み込むことによって、分散液が調製される。注射可能な滅菌溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、好ましい調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、活性成分の粉末+予め滅菌濾過されたその溶液からの所望の追加の成分が得られる。製剤化されると、溶液は、投与製剤と適合する手法で、且つ治療上有効であるような量で投与される。製剤は、上述の注射可能な溶液のタイプなど、様々な剤形で容易に投与される。
【0057】
水溶液での非経口投与については、例えば、その溶液は、十分な生理食塩水又はグルコースで最初に等張性が付与された、適切に緩衝された、液体の希釈剤であり得る。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。これに関して、用いることができる滅菌水性媒体は、本開示を考慮に入れて、当業者には公知であるだろう。例えば、ある投薬量は、等張性NaCl溶液1mLに溶解することができ、皮下注入液1000mLに添加するか、又は注入提示部位で注入することができる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 15th Edition、pages1035-1038及び1570-1580を参照されたい)。治療される対象の状態に応じて、投薬量のある程度の変動が必然的に生じる。いずれにしても、投与の担当者によって、個々の対象に適した用量が決定される。
【0058】
特定の実施形態において、医薬組成物は、放射線分解に対する安定剤、金属イオン封鎖剤及びその混合物から選択される1つ又は複数の賦形剤を含む。
【0059】
本明細書で使用される、「放射線分解に対する安定剤」とは、放射線分解に対して有機分子を保護する安定剤を意味し、例えば、放射性核種から放出されたガンマ線が有機分子の原子間の結合を切断し、ラジカルが形成した場合に、次いでそれらのラジカルが安定剤によって除去され、それによって、望ましくない、無効な可能性があり、若しくは毒性でさえある分子を生じ得る他の化学反応をラジカルが受けるのを防ぐ。したがって、これらの安定剤は、「フリーラジカル捕捉剤」又は手短に言えば「ラジカル捕捉剤」とも呼ばれる。これらの安定剤の他の代替の用語は、「放射線安定性エンハンサー」、「放射線分解安定剤」、又は単に「失活剤」である。
【0060】
本明細書で使用される、「金属イオン封鎖剤」とは、製剤中の遊離放射性核種金属イオンを錯化するのに適したキレート剤を意味する(放射標識ペプチドと複合体形成されない)。
【0061】
投与に使用される用量は、関連する病態の、種々のパラメーターの関数として、特に、用いられる投与形式の関数として、代わりに目的の治療期間の関数として適応することができる。化合物、及び化合物を含む組成物の適切な投薬量は患者ごとに異なり得ることは理解されよう。最適な投薬量の決定には一般に、本明細書に記載の治療のリスク又は有害な副作用に対する治療上の利点のレベルのバランスを要する。
【0062】
薬物として使用される式(I)~(IV)の化合物
本開示は、薬物として使用される式(I)~(IV)の化合物にも関する。式(I)~(IV)の化合物は、実施例で提供される試験で示される有用な薬剤特性を示し、したがって治療法に対して示される。
【0063】
本開示は、特に標的α療法による、及びβ線による癌の治療で使用される式(I)~(IV)の化合物にも関する。
【0064】
式(III)の化合物は、好ましくは癌治療に使用される、薬物として使用するのに特に適している。
【0065】
本明細書で使用される、「癌」という用語は、当技術分野でその一般的な意味を有し、且つ急速に増殖する細胞増殖を特徴とする異常な状態又は症状を含む。その用語は、侵襲性の病理組織学的タイプ又はステージに関わらず、すべてのタイプの癌の増殖又は発癌プロセス、転移性組織若しくは悪性癌化細胞、組織又は臓器を含むことを意味する。癌という用語は、様々な臓器システムの悪性疾患、例えば皮膚、肺、胸、甲状腺、リンパ系、胃腸管、及び尿生殖器を冒す疾患、並びに大部分の結腸癌、腎細胞癌、前立腺癌及び/又は精巣腫瘍、肺の非小細胞癌、小腸癌及び食道癌などの悪性疾患を含む腺癌を含む。
【0066】
癌の例としては、限定されないが、血液悪性腫瘍、例えばB細胞リンパ系新生物、T細胞リンパ系新生物、非ホジキンリンパ腫(NHL)、B-NHL、T-NHL、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、NK細胞リンパ系新生物、及び骨髄細胞系新生物が挙げられる。非血液癌の例としては、限定されないが、皮膚癌、結腸癌、乳癌、肺癌、脳腫瘍、前立腺癌、頭頚部癌、膵臓癌、膀胱癌、結腸直腸癌、骨癌、子宮頚癌、肝癌、口腔癌、食道癌、甲状腺癌、腎臓癌、胃癌及び精巣癌が挙げられる。
【0067】
具体的な実施形態において、その癌は、PSMA発現性腫瘍又は細胞を有する癌である。
【0068】
具体的な実施形態において、本開示は、前立腺癌の治療に使用される式(I)~(IV)の化合物にも関する。
【0069】
具体的な実施形態において、前立腺癌は転移性前立腺癌である。
【0070】
本開示は、PSMA発現性腫瘍又は細胞の治療に使用される式(I)~(IV)の化合物にも関する。
【0071】
PSMA発現性腫瘍又は細胞は、前立腺腫瘍又は細胞、転移した前立腺腫瘍又は細胞、肺腫瘍又は細胞、腎臓腫瘍又は細胞、膠芽腫、膵臓腫瘍又は細胞、膀胱腫瘍又は細胞、肉腫、黒色腫、乳房腫瘍又は細胞、結腸腫瘍又は細胞、生殖細胞、褐色細胞腫、食道腫瘍又は細胞、胃の腫瘍又は細胞、及びその組み合わせからなる群から選択することができる。一部の他の実施形態において、PSMA発現性腫瘍又は細胞は、前立腺腫瘍又は細胞である。
【0072】
したがって、本開示は、治療上有効な量の式(I)~(IV)の化合物と癌細胞を接触させることを含む、癌を治療する方法にも関する。
【0073】
本明細書で使用される、「接触」という用語は、本発明に開示の主題の治療薬を含む少なくとも1種類の化合物を、少なくとも1種類の癌細胞と物理的に接触させる、いずれかの操作を意味する。接触させることは、少なくとも1種類の細胞又は腫瘍と少なくとも1種類の化合物が接触するのに十分な量の化合物に、細胞又は腫瘍を曝露することを含み得る。この方法は、培養皿又はチューブなどの制御環境において化合物と細胞又は腫瘍を導入する、好ましくは混合することによって、生体内(in vitro)又は生体外(ex vivo)で実施することができる。この方法は生体内で実施することができ、その場合には、接触とは、本発明に開示の主題の少なくとも1種類の化合物に、対象における少なくとも1種類の細胞又は腫瘍を曝露すること、例えばいずれかの適切な経路を介して、対象に化合物を投与することを意味する。
【0074】
特定の実施形態において、治療される癌は、PSMA発現性腫瘍又は細胞を有する癌である。例えば、治療される癌は、転移性前立腺癌を含む前立腺癌であり得る。
【0075】
本開示は、癌、一般に前立腺癌を治療する方法であって、その必要がある対象、好ましくはヒトに、式(I)~(IV)の化合物を治療有効量で投与することを含む方法にも関する。
【0076】
本明細書で使用される、「治療(すること)」という用語は、その疾患、障害若しくはかかる用語が適用される病状の進行を後退、軽減、阻害すること、又はその可能性を予防若しくは低減すること、又はかかる疾患、障害若しくは病状の1つ若しくは複数の症状若しくは発現を後退、軽減、阻害することを含む。予防とは、疾患、障害、病状の、若しくはかかる疾患、障害、病状の症状若しくは発現が起こらないようにすること、又はかかる疾患、障害、病状の重症度が悪化しないようにすることを意味する。したがって、本開示の化合物は、疾患、障害、又は病状の罹患又は再発を予防的に防ぐか、又は低減するために投与され得る。
【0077】
本明細書で使用される、化合物の「治療有効量」という用語は、対象の生物学的若しくは医学的応答を誘発する、例えば症状を緩和する、病状を軽減する、増悪を遅く、又は遅らせる、或いは疾患を防ぐ、化合物の量を意味する。
【0078】
本開示は、PSMA発現性腫瘍又は細胞を治療する方法であって、治療有効量の式(I)~(IV)の化合物とPSMA発現性腫瘍又は細胞を接触させることを含む方法に関する。
【0079】
本開示は、薬物を製造するための、式(I)~(IV)の化合物の使用にも関する。
【0080】
本開示は、前立腺癌などの癌の治療用の薬物を製造するための、式(I)~(IV)の化合物の使用にも関する。
【0081】
本開示は、PSMA発現性腫瘍又は細胞の治療用の薬物を製造するための、式(I)~(IV)の化合物の使用にも関する。
【0082】
画像診断及びその方法において使用される式(I)~(IV)の化合物
本開示は、画像診断、好ましくは生体内画像診断において使用される式(I)~(IV)の化合物にも関する。
【0083】
本開示は、PSMA発現性腫瘍又は細胞の画像診断において使用される式(I)~(IV)の化合物にも関する。
【0084】
式(IV)の化合物は、画像診断での使用に、好ましくはPSMA発現性腫瘍又は細胞の画像診断に特に適している。
【0085】
具体的な実施形態において、式(I)~(IV)の化合物が使用される画像診断方法は、PET(陽電子断層撮影法)又はSPECT(単一光子放射形コンピュータ断層撮影)である。
【0086】
したがって、本開示は、癌細胞を有効量の式(I)~(IV)の化合物と接触させることを含む、画像診断方法にも関する。
【0087】
本開示は、PSMA発現性腫瘍又は細胞を有効量の式(I)~(IV)の化合物と接触させることを含む、PSMA発現性腫瘍又は細胞を画像診断する方法にも関する。この方法はさらに、前記化合物中に存在する放射性金属の崩壊から誘導されるシグナルを検出する工程を含み得る。
【0088】
本開示は、対象におけるPSMA発現性腫瘍又は細胞を画像診断する方法であって、前記対象、好ましくはヒトに、治療有効量の式(I)~(IV)の化合物を投与する工程と、前記化合物中に存在する放射性金属の崩壊から誘導されるシグナルを検出する工程と、を含む方法にも関する。
【0089】
具体的な実施形態において、本開示は、対象におけるPSMA発現性腫瘍の有無を検出する方法であって:
(i)前記対象において式(I)~(IV)の化合物を、例えば静脈内注入で投与する工程;
(ii)通常PET又はSPECT画像診断によって、画像を取得する工程;及び
(iii)前記対象におけるPSMA発現性腫瘍の有無を検出する工程;
を含む方法を提供する。
【0090】
本開示は、診断に使用される、PSMA発現性癌などの癌疾患の診断に通常使用される、式(I)~(IV)の化合物にも関する。
【0091】
本開示は、対象における癌細胞又はPSMA発現性腫瘍若しくは細胞、例えば前立腺腫瘍若しくは細胞胞を診断し、及び/又は検出する方法であって、前記対象、好ましくはヒトに、式(I)~(IV)の化合物を治療有効量で投与する工程と、前記化合物中に存在する放射性金属の崩壊から誘導されるシグナルを検出する工程と、を含む方法にも関する。
【0092】
式(I)~(IV)の化合物の合成
式(I)及び(II)の化合物は、国際公開第2017/165473号パンフレットに開示の方法を用いて合成することができる。
【0093】
特に、式(II)の化合物は、スキーム1に開示されるように合成することができる。Glu-Lys尿素2の修飾されたp-ブロモベンジル基は、メタノール中でのシアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下にて、p-ブロモベンズアルデヒドでGlu-Lys尿素1を還元アルキル化することによって調製することができる。この手順は、文献(Tykvartetal.(2015)Journal of medicinal chemistry 58,4357-63)に記載されている。次いで、脂肪族リンカー、Boc-6-アミノヘキサン酸は、例えば、塩基(N,N-ジイソプロピルエチルアミンなど)及びカップリング剤(N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロボレート又は1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート)を用いて、2の同じε-Lysアミン上でカップリングし、化合物3が得られ得る。次いで、例えばトリフルオロ酢酸などの酸を使用して、化合物3を脱保護して化合物4が得られ得る。最後に、市販のDOTA-NHSエステルとの抱合が行われ、化合物(II)が得られ得る。
【0094】
式(I)及び(II)の化合物は、放射標識の分野で通常使用される方法を用いて、放射標識することができる。特に、国際公開第2017/165473号パンフレットに記載の方法を用いて、式(II)の化合物を177Luで放射標識して、式(III)の化合物も形成することができる。国際公開第024013号パンフレットに記載の方法を用いて、式(II)の化合物を68Gaで放射標識して、式(IV)の化合物も形成することができる。
【0095】
【実施例】
【0096】
実施例1:健康な動物における生体内分布(
68Ga-PSMA-R2で実施された研究)
線量120~150μCi(4.44~5.55MBq)にて静脈内投与されたGa標識PSMA-R2を使用して、CD-1健康なマウスにおいて生体内分布研究を実施した。静脈内注入後の特定の時点で、動物(3又は4/群)を屠殺し、臓器を回収し、計量し、ガンマカウンターで評価した。計算値ID%/gを
図1及び
図2に報告する。
【0097】
腎臓及び膀胱における
68Ga-PSMA-R2取り込みから、放射性トレーサーが腎臓系を通じて排出されたことが示された(
図2)。報告された肝臓取り込みは非常に低く(30分で0.74%が4時間で0.21%に減少)、肝胆道系を通じて最小排出が示される(
図1)。最も初期の時点(30分)にて、わずかに高い放射性トレーサーの取り込みが血液及び副腎、肺、甲状腺などの他の臓器において記録されたが、後の時点でID%値が急速に減少した(
図1)。すべての時点(最も初期の時点、30分を含む)で、残りの臓器(腸、膵臓、筋肉、骨)において低い放射性トレーサー取り込みが検出された。
【0098】
実施例2:腫瘍モデルにおける生体内分布(
68Ga-PSMA-R2で実施された研究)
PC-3 PSMAポジティブ及びPSMAネガティブ腫瘍異種移植片を保有するオスの無胸腺ヌードマウスにおよそ4.5MBqの
68Ga-PSMA-R2を注入し、続いて生体内分布及び画像診断研究について評価した。注入(p.i.)後の4つの時点(30分、1時間、2時間及び4時間)にて、ガンマカウンターを使用して、腫瘍及び臓器の取り込みを決定した。受容体特異性を評価するために、動物の更なる群に過剰な未標識PSMA-R2(40nmol)を同時注入した。その結果を
図3に示す。
【0099】
同じ研究を、
68Ga-PSMA-cpd2、以下の式:
【化15】
の比較化合物で実施した。その結果を
図4に示す。
【0100】
68Ga-PSMA-R2及び68Ga-PSMA-cpd2について、腫瘍取り込み、腎臓取り込み、唾液腺取り込み、及び腫瘍:腎臓比を表1にまとめる。
【0101】
【0102】
これらの結果から、1時間後、腎臓取り込み及び唾液腺取り込みは、比較化合物68Ga-PSMA-cpd2と比べて、68Ga-PSMA-R2では低いことが分かる。さらに、腫瘍:腎臓比は、68Ga-PSMA-R2の場合に高い。
【0103】
このことから、68Ga-PSMA-cpd2と比べて68Ga-PSMA-R2の毒性が低い可能性があることが示される。さらに、1時間後の高い腫瘍:腎臓比から、最適な画像診断時点が45分ないし1時間であるため、68Ga-PSMA-R2の場合に腫瘍の可視化がより優れていることが示唆される。
【0104】
実施例3:PC3-PIP PSMAポジティブモデルにおけるマウスに対する生体内有効性
Lu標識PSMA-R2を用いて、前立腺癌モデルにおいて有効性の研究を行った。
【0105】
PC3-PIP(PSMAポジティブ)腫瘍を有するマウスに、参照化合物として含まれる177Lu-PSMA-R2、177Lu-PSMA-617 111MBqを、又は生理食塩水(コントロール)を1回注入した。
【0106】
腫瘍体積は、絶対値(mm3)として、又は最初の注入の時点で測定された体積に対して相対的に表される。
【0107】
腫瘍体積絶対値の結果から、コントロール群と比較して、
177Lu-PSMA-R2及び
177Lu-PSMA-617群において腫瘍体積が有意に低減されることが分かる(p<0.001)(
図5Aを参照されたい)。
【0108】
同様に、データを相対体積として表す場合、
177LuPSMA-R2群と
177Lu-PSMA-617群の両方からの腫瘍体積が、コントロール群と比較して有意に低減されることが判明した(p<0.001)(
図5Bを参照されたい)。
【0109】
体積絶対値又は相対体積として表される場合に、2つの処置群腫瘍の腫瘍体積の間に差は認められなかった。
図5C~Fにおいて、2日間隔で処置された2つのサブグループの腫瘍体積絶対値及び腫瘍体積相対値を示す。
【0110】
これらの結果から、177Lu-PSMA-R2は、マウスにおけるPSMAポジティブ腫瘍の腫瘍サイズの低減に有効であることが分かる。したがって、177Lu-PSMA-R2は有用な薬剤特性を示し、したがって治療法に適応することができる。
【0111】
実施例4:安全性薬理
ラットにおける単回静脈内投与に続く、Irwin行動観察試験及び体温への作用
この研究の目的は、表2の研究デザインに従って静脈内投与後のラットにおける一般行動パラメーターに対する、用量0.2、0.6及び2.0mg/kgでの175Lu-PSMA-R2の可能性のある作用を評価することであった。
【0112】
【0113】
以下のパラメーター:死亡率、体重、臨床的徴候及びIrwin試験を評価した。
【0114】
投与後に以下の間隔:5、15、30分、並びに1、2及び24時間でIrwin試験を実施した。
【0115】
0.2、0.6及び2.0mg/kgの用量での175Lu-PSMA-R2の単回静脈内投与は、投与後24時間までのラットにおけるIrwin研究における行動、神経又は自律神経パラメーターに対していずれの作用も誘発しなかった。研究中に死亡は起こらず、6日間の観察期間中に臨床的徴候は確認されなかった。
【0116】
研究の結果を表10にまとめる。
【0117】
単回投与後の無拘束意識下のラットにおける呼吸に対する作用
この研究の目的は、表3に詳述される研究デザインに従って、静脈内投与した後の全身の体積変動記録法によって、意識下のラットの呼吸機能に対する175LuPSMA-R2 0.2、0.6及び2.0mg/kgの可能性のある作用を評価することであった。
【0118】
【0119】
吸気時間、呼気時間、ピーク吸気フロー、最大呼気流量、1回換気量、休止時間、分時換気量、呼吸数及び向上した休止が、投与前約1時間から、投与後4時間まで継続的に記録された。ラットの呼吸数及び性別パラメーターが、投与前、並びに投与から5、15及び30分後と、1、1.5、2、3及び4時間後に報告された。投与日に臨床的徴候を記録した。
【0120】
この研究の結果を表10にまとめる。
【0121】
静脈内投与後の、意識下のミニブタの心血管系機能に対する作用
この研究の目的は、用量0.058、0.175及び0.583mg/kgにて静脈内投与後に、遠隔測定された意識下のオスのミニブタの心血管系機能に対する175Lu-PSMA-R2の潜在的な作用を調べることであった。実験デザインを表4に示す。
【0122】
固定注入速度4mL/分にて、外部耳介静脈内に試験アイテム又は賦形剤を静脈内投与した。1mL/kg体重の投与体積にて、その用量を各動物に投与した。
【0123】
表4に記載のクロスオーバーデザインに続いて、7日間隔にて、賦形剤又は試験アイテムの3通りの用量のうちの1つを各動物に投与した。
【0124】
【0125】
投与前1時間から投与後24時間まで、収縮期血圧、拡張期血圧及び平均血圧(SBP、DBP及びMBP)、心拍数(HR)、体温及び誘導II心電図を継続的に記録した。血行動態及び心電図データは、投与前に、及び投与後5、15、30分、並びに1、2、4、8及び24時間にて報告した。
【0126】
この研究結果を表10にまとめる。
【0127】
単回及び反復投与毒性研究
単回及び反復投与毒性研究が、Lu-PSMA-R2溶液で実施された。177Lu-PSMA-R2の代用薬として、175Lu-PSMA-R2について前臨床毒性研究を行った。
【0128】
試験アイテム175Lu-PSMA-R2は、酢酸緩衝液中に175Lu-PSMA-R2及び未標識PSMA-R2を含有する溶液であり、PSMA-R2は公称濃度1mg/mLであり、それは一部、遊離型(PSMA-R2)で存在し、Lu-175と一部複合体を形成し、2つの比は約1:1である。その用量は、遊離型と175Lu標識型の合計として表される。
【0129】
ラット及びミニブタにおける単回投与毒性研究、並びにラットにおける2週間の反復投与毒性研究が行われた。
【0130】
ラットにおける単回投与性研究
この研究の目的は、スプラーグドーリーラット(Sprague Dawley)(SD)ラットにおいて、2又は4mg/kgの急性静脈内注入直後に175Lu-PSMA-R2の毒性を評価することであった。
【0131】
動物30匹(オス:メス比1:1)の2グループに、2及び4mg/kgをそれぞれ投与した。等しい特性のコントロール群を賦形剤で処置した(表5)。
【0132】
【0133】
すべての用量での処置に対する反応の徴候を30、120及び240分(p.i.)、並びに24時間後に評価した。2日目に、ラット10匹/性別及び10匹/群を屠殺した。残りの5匹/性別/群を14日間にわたって毎日観察した。
【0134】
処置群の割り当て、1日目(注入日)、8日目及び15日目に体重を記録した。摂食量を2日目に、その後は毎週測定した。処置の最後に、尿検査のために尿試料を採取した。2日目及び15日目に、屠殺で採取された血液試料を臨床病状についてスクリーニングした。解剖後に、臓器を計量し、組織を顕微鏡分析のために処置した(50を超える異なる組織を分析した)。
【0135】
研究の結果を表10にまとめる。その結果から、用量レベル2及び4mg/kg(ヒトの体重を60kgとみなすと、mg/kgに基づく尺度で、意図するヒト用量の約480及び960倍である)での試験アイテム175Lu-PSMA-R2の単回静脈内投与によって、毒性の徴候は誘発されず、したがってラットにおいて忍容性がよいことが示唆される。
【0136】
ミニブタにおける単回投与毒性研究
表6に詳述する実験デザインに従って、単回ボーラス静脈内投与後に、175Lu-PSMA-R2の毒性及び毒物動態プロファイルをGottingenミニブタにおいて調べた。
【0137】
投与後に、2週間の無治療期間が与えされた。
【0138】
すべての動物に静脈内投与した。毒物動態分析のために、血漿試料を1日目に採取した。
【0139】
【0140】
死亡率、臨床的徴候、体重、摂食量、臨床的病態の調査、検眼鏡検査、ECG評価、及び肉眼的観察を剖検にて指数で示した。次いで、選択された臓器を計量し、組織を収集した。
【0141】
さらに、毒物動態分析のために血漿試料を1日目に採取した。
【0142】
研究の結果を表10にまとめる。その結果から、用量レベル0.175、0.583及び1.754mg/kg(ヒトの体重を60kgとみなすと、mg/kgに基づく尺度で、意図するヒト用量の約42,140及び420倍である)での試験アイテム175Lu-PSMA-R2の単回静脈内投与によって、ミニブタに対する毒性の徴候は誘発されなかったことが示唆される。したがって、その試験アイテムは、これらの量でミニブタによる忍容性がよいと結論付けられる。
【0143】
ラットにおける反復投与毒性研究
この研究の目的は、毎日の静脈内投与後、及び2週間の回復期間中の処置に関連する作用からの回復後に、ラットにおける175Lu-PSMA-R2の毒性を調べることであった(主要グループ)。
【0144】
試験用量は0.13、0.39及び1.29mg/kg/日であったが、これはPSMA-R2予測ヒト用量の約31、93及び310倍である。
【0145】
各主要処置群は、オスのラット10匹及びメスのラット10匹からなった。グループ1及び4において回復して2週間後に、屠殺されるべきオス5匹とメス5匹がさらに含まれた。薬物動態のための2つのサテライト群(低及び中用量)はオスの動物9匹とメスの動物9匹を有し、1つのグループ(高用量)はオスの動物12匹とメスの動物12匹を含んだ。1つの更なるグループ(コントロール)は、オスの動物3匹とメスの動物3匹を含んだ。
【0146】
実験デザインを表7及び表8に図式化する。
【0147】
【0148】
【0149】
この研究において、投薬量0.13、0.39及び1.29mg/kg/日で2週間毎日、静脈内投与した後に、175Lu-PSMA-R2の毒性及び毒物動態プロファイルをSDラットにおいて調べた。コントロール及び高用量グループに2週間の無治療期間が与えられ、2週間の投与フェーズ中に確認される、処置に関連する作用から回復するか、又は有害作用が持続する。
【0150】
毒物学的有意性の兆候は毎日の臨床的観察で記録されなかった。体重及び摂食量は処置によって影響を受けなかった。検眼鏡検査にて処置に関連する異常は認められなかった。臨床的病態検査で毒物学的関連性の所見は見出されなかった。剖検、臓器重量又は病理組織学的検査にて、処置関連作用の証拠は見出されなかった。
【0151】
毒物動態評価によって、3通りの用量レベルで処置されたすべての動物が試験アイテムに曝露されたことが示された。一般に、その曝露はおよそ用量比例的であった。曝露は、オスとメスにおいて同様であった。薬物は、両方の性別及びすべての用量レベルを考慮すれば、およそ0.4~0.8時間の半減期で消失した。クリアランスは用量非依存的であり、線形速度論挙動が示唆される。1日目から14日目まで、毎日の投与後に蓄積は確認されなかった。
【0152】
この研究において得られた結果に基づいて、コントロールと比較した場合に、処置された混合グループにおいて毒性作用は見られなかった。したがって、1.29mg/kg/日は、NOAEL(有害作用レベルが確認されない)とみなすことができ、それは予測されるヒト用量よりも310倍高い。
【0153】
研究の結果を表10にまとめる。
【0154】
ミニブタにおける反復投与毒性研究
この研究の目的は、毎日の静脈内投与後、及び2週間の回復期間中の処置に関連する作用からの回復後に、ミニブタにおけるLuPSMA-R2の毒性及び毒物動態を調べることであった。
【0155】
試験用量は0.058、0.175及び0.583mg/kg/日であり、これはPSMA-R2予測ヒト用量の約14、42及び140倍である。
【0156】
各グループは、オスのミニブタ3匹及びメスのミニブタ3匹を含んだ。グループ1及び4は、回復して2週間後に、屠殺されるべき更なる動物2匹/性別を含んだ。実験デザインを表9にまとめる。
【0157】
すべての動物に1日1回、14日間連続して静脈内投与した。
【0158】
【0159】
体重及び食物摂取は処置の影響を受けなかった。実施された身体検査によって、どの動物にもはっきりとした変化は示されなかった。処置関連生化学的異常は、検眼鏡検査及び心電図検査で検出されなかった。臨床的病態(つまり:血液学、凝集、血液化学及び尿分析)、並びに肉眼的病態、末期の体重及び絶対的及び相対的臓器重量から、組織病理学処置に関連する変更なく、いずれの用量でも著しい変化、又は処置に関連する変化は明らかにならなかった。
【0160】
毒物動態評価から、3通りの用量レベルで処置されたすべての動物が試験アイテムに曝露されたことが示された。1日目に、推定175Lu-PSMA-R2半減期は、性別ごとの平均値を考慮すれば、オス及びメスのミニブタにおいてそれぞれ、0.71及び0.63時間であった。これらの値は14日目に確認された。血漿クリアランスは用量非依存的であり、線形速度論挙動が示唆される。全身的曝露の増加(Cmax及びAUC0-tlastの点から)はおよそ用量比例的であった。1日目から14日目まで、毎日の投与後の関連する蓄積は確認されなかった。
【0161】
この研究の結果から、0.583mg/kg/日は、この研究に対してNOAELとみなすことができることが示される。
【0162】
安全性薬理及び毒性研究の結果を表10にまとめる。
【0163】
【0164】
【0165】
遺伝毒性研究:細菌変異アッセイ
原栄養性系統への栄養要求性系統の復帰突然変異によって測定された、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)及び大腸菌(Escherichia coli)の検定系統において遺伝子突然変異を誘導する能力について、試験アイテム175Lu標識PSMA-R2溶液を調べた。5つの検定系統TA1535、TA1537、TA98、TA100及びWP2uvrAが使用された。フェノバルビタール及び5,6-ベンゾフラボンで予め処理されたラットからの肝臓S9画分を用いて、代謝活性化の非存在下及び存在下の両方で実験を行った。
【0166】
酢酸ナトリウム緩衝液中の溶液として試験アイテムを使用し、このレポートにおけるすべての濃度は活性成分によって表される。試験アイテム175Lu標識PSMA-R2溶液を毒性試験において、実行可能な最大濃度1000μg/プレートにて、及びおよそ半対数間隔での低い4つの濃度:316、100、31.6及び10.0μg/プレートでアッセイした。インキュベーション期間の最後に、いずれの濃度でも試験アイテムの沈殿は確認されなかった。毒性も、復帰変異株数の関連する増加も、S9代謝の非存在下又は存在下にて、いずれの用量レベルでも検定系統で確認されなかった。
【0167】
予備毒性試験で得られた結果に基づいて、主要なアッセイにおいてプレート取り込み法を用いて、以下の用量レベル:1000、500、250、125及び62.5μg/プレートにて、すべての検定系統で試験アイテムをアッセイした。インキュベーション期間の最後に、いずれの濃度でも試験アイテムの沈殿は確認されなかった。毒性も、復帰変異株数の関連する増加も、S9代謝の非存在下又は存在下にて、いずれの用量レベルでも検定系統で確認されなかった。ネガティブな明確な結果が得られたため、更なる実験には着手しなかった。
【0168】
試験アイテム175Lu標識PSMA-R2溶液は、報告される実験条件でS9代謝の存在下又は非存在下にて、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)又は大腸菌(Escherichia coli)における復帰変異を誘導しないと結論付けられる。
【0169】
血漿中の生体外(In vitro)安定性
4種の異なる種(マウス、ラット、ミニブタ及びヒト)からの血漿と共にインキュベートした後に、PSMA-R2リガンドの安定性を生体外で評価した。PSMA-R2を異なるマトリックス中で37℃にて、最終濃度10μg/mLにて30、60及び120分間インキュベートした。試料をLC-MS/MS法によって分析した。
【0170】
PSMA-R2は、2時間後の回復85%と共に、ヒト血漿における良好な安定性を示した。
【0171】
血漿タンパク質結合性研究
2通りの異なる濃度:1及び5μg/mLにてヒト、マウス、ラット及び血漿中の化合物をインキュベートした後に、PSMA-R2及び175Lu-PSMA-R2の血漿タンパク質結合性が、限外濾過法によって決定された。その結果(未結合画分のパーセンテージ)を表11に報告する。
【0172】
【0173】
この結果から、175Lu-PSMA-R2は、非高度(non-highly)結合化合物であることが裏付けられ、ヒト血漿中の175Lu-標識若しくは未標識PSMA-R2の未結合画分は約25%~45%の範囲である。タンパク質結合性ラット血漿及びミニブタ血漿の結果は同じ範囲にある。マウスは、他の種と比較して低いタンパク質結合性を示し、未結合画分は70~86%の範囲である。一般に、すべての種において、試験された2通りの異なる濃度での結果は、かなり類似している。
【国際調査報告】