(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(54)【発明の名称】医療と診断におけるHLA-H
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20220826BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220826BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220826BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220826BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220826BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220826BHJP
C07K 14/74 20060101ALI20220826BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220826BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220826BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220826BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220826BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220826BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20220826BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220826BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220826BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220826BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220826BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220826BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220826BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220826BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20220826BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220826BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220826BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
A61K38/17
C12N15/12 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K14/74
C12N15/113 Z
C12Q1/68
A61P37/06
A61P37/04
A61P35/00
A61P15/08
A61K48/00
A61K35/12
A61K39/00 H
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61K38/46
G01N33/53 M
G01N33/68
G01N33/574 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500497
(86)(22)【出願日】2020-07-06
(85)【翻訳文提出日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2020068989
(87)【国際公開番号】W WO2021005001
(87)【国際公開日】2021-01-14
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520414376
【氏名又は名称】インテレクソン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴュルフェル ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルツ ラルフ マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンターハルター クリシュトフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴュルフェル フランツィスカ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA12
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR72
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC20
4B065CA45
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA18
4C084CA53
4C084CA56
4C084DC22
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA03
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB08
4C086ZB09
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
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4C087ZB08
4C087ZB09
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA50
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、免疫抑制剤として、腫瘍ワクチンとして、または妊娠促進剤として使用するための、核酸分子、ベクター、宿主細胞、またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せに関し、(I)核酸分子が、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドをコードする核酸分子、または(b)配列番号2のヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(c)配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも70%同一であり、好ましくは少なくとも80%同一であり、より好ましくは少なくとも90%同一であり、最も好ましくは少なくとも95%同一であるポリペプチドをコードする核酸分子;または(d)配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%同一であり、好ましくは少なくとも80%同一であり、より好ましくは少なくとも90%同一であり、最も好ましくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(e)(d)の核酸分子に対して縮重したヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(f)(a)~(e)のいずれか1つの核酸分子の断片であって、前記断片が、少なくとも150ヌクレオチド、好ましくは少なくとも300ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも450ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも600ヌクレオチドを含む核酸分子;または(g)TがUで置換されている、(a)~(f)のいずれか1つの核酸分子に対応する核酸分子であり;(II)ベクターが(I)の核酸分子を含み、(III)宿主細胞が(II)のベクターで形質転換、形質導入またはトランスフェクトされ、および(IV)タンパク質またはペプチドが(I)の核酸分子によってコードされている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫抑制剤として、腫瘍ワクチンとして、または妊娠促進剤として使用するための核酸分子、ベクター、宿主細胞、またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せであって、
(I) 核酸分子が
(a) 配列番号1または54のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるポリペプチドをコードするか、または
(b) 配列番号2のヌクレオチド配列からなるか、または
(c) 配列番号1または54のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるポリペプチドをコードするか、または
(d) 配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列からなるか、または
(e) (d)の核酸分子に対して縮重したヌクレオチド配列からなるか、または
(f) (a)~(e)のいずれか1つに記載の核酸分子の断片であって、前記断片は、少なくとも250ヌクレオチド、好ましくは少なくとも300ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも450ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも600ヌクレオチドを含むか、または
(g)TがUで置換されている、(a)~(f)のいずれかに記載の核酸分子に対応し;
(II) ベクターが、(I)の核酸分子を含み;
(III) 宿主細胞が(II)のベクターで形質転換、形質導入またはトランスフェクトされ、および
(IV) (I)の核酸分子によってコードされるタンパク質またはペプチドである、
核酸分子、ベクター、宿主細胞、またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せ。
【請求項2】
免疫活性化剤として使用するための、好ましくは腫瘍の治療に使用するための、請求項1に記載の核酸分子の阻害剤および/または請求項1に記載のタンパク質の結合分子、好ましくは請求項1に記載のタンパク質の阻害剤。
【請求項3】
請求項2に記載の結合分子、好ましくは阻害剤であって、
(i) 核酸分子の阻害剤が、低分子、アプタマー、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイム、アンチセンス核酸分子、CRISPR-Cas9ベースの構築物、CRISPR-Cpf1ベースの構築物、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、および転写アクチベーター様(TAL)エフェクター(TALE)ヌクレアーゼから選択されるか、および/または
(ii) タンパク質の結合分子、好ましくはタンパク質の阻害剤が、低分子、抗体または抗体模倣物、アプタマーから選択され、ここで、抗体模倣物は好ましくはアフィボディ、アドネクチン、アンチカリン、DARPin、アビマー、ナノフィチン、アフィリン、クニッツドメインペプチド、Fynomer(登録商標)、三重特異性結合分子およびプロボディから選択される、
結合分子、好ましくは阻害剤。
【請求項4】
請求項1(I)(g)に記載の核酸分子の使用または請求項1に記載のタンパク質もしくはペプチドの使用であって、対象から得られた試料における、腫瘍を診断するための、および/または腫瘍を悪性度判定するための、腫瘍を予後診断するための、および/または腫瘍をHLA-H低発現腫瘍もしくはHLA-H高発現腫瘍として分類するための、および/または移植不全を診断するための使用。
【請求項5】
請求項1(I)(g)に記載の核酸分子および/または請求項1に記載のタンパク質またはペプチドの存在を、対象から得られた試料中で検出することを含む、腫瘍を診断するための方法であって、請求項1(I)(g)に記載の核酸分子および/または請求項1に記載のタンパク質の存在が、対象中の腫瘍を示す、方法。
【請求項6】
対象から得られた試料中の、請求項1(I)(g)に記載の核酸分子のレベルおよび/または請求項1に記載のタンパク質またはペプチドのレベルを決定することを含む、腫瘍を悪性度判定するためのおよび/または腫瘍を予後診断するための方法であって、請求項1(I)(g)に記載の核酸分子のレベルおよび/または請求項1に記載のタンパク質またはペプチドのレベルの、対照と比較した増加が、腫瘍のより高い悪性度判定および/または有害な腫瘍予後と相関する、方法。
【請求項7】
腫瘍を診断するための、および/または腫瘍を悪性度判定するための、および/または腫瘍を予後診断するためのキットであって、
(a) 対象から得られた試料における、請求項1(I)(g)に記載の核酸分子および/または請求項1に記載のタンパク質またはペプチドの検出および/または定量のための手段、および
(b) キットの使用のための説明書
を含む、キット。
【請求項8】
腫瘍を有する対象において腫瘍治療の非有効性をモニターするための方法であって、
(a)治療の開始前に対象から得られた試料中の請求項1(I)(g)に記載の核酸分子の量および/または請求項1に記載のタンパク質またはペプチドの量を決定すること;および
(b)治療の開始後1回以上、対象から得られた試料中の請求項1(I)(g)に記載の核酸分子の量および/または請求項1に記載のタンパク質またはペプチドの量を決定することを含み、
a)と比較してb)における量の増加は、腫瘍治療の非有効性を示し、および/またはa)と比較してb)における量の減少は、腫瘍治療の有効性を示す、方法。
【請求項9】
免疫抑制療法の非有効性を、該治療を必要とする対象においてモニターするための方法であって、
(a)治療開始前に対象から得られた試料中の請求項1(I)(g)に記載の核酸分子の量および/または請求項1に記載のタンパク質もしくはペプチドの量を決定すること;および
(b)治療開始後の1回以上において、対象から得られた試料中の請求項1(I)(g)に記載の核酸分子の量および/または請求項1に記載のタンパク質もしくはペプチドの量を決定することを含み、
a)と比較してb)における量の減少は、免疫抑制療法の非有効性を示し、および/またはa)と比較してb)における量の増加は、免疫抑制療法の有効性を示す、方法。
【請求項10】
前記腫瘍ががんである、請求項1に記載の核酸分子、ベクター、宿主細胞、および/またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せ、請求項2または3に記載の結合分子、好ましくは阻害剤、請求項4に記載の使用、請求項5、6または8に記載の方法、または請求項7に記載のキット。
【請求項11】
前記がんが、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、膣がん、外陰部がん、膀胱がん、唾液腺がん、膵臓がん、甲状腺がん、腎臓がん、肺がん、上部消化管のがん、結腸がん、直腸結腸がん、前立腺がん、頭頸部の扁平上皮がん、子宮頸がん、神経膠芽腫、悪性腹水、リンパ腫および白血病からなる群から選択される、請求項10に記載の核酸分子、ベクター、宿主細胞、および/またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せ、結合分子、好ましくは阻害剤、使用、方法、またはキット。
【請求項12】
前記がんが膀胱がんまたは婦人科系がんである、請求項10に記載の核酸分子、ベクター、宿主細胞、および/またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せ、結合分子、好ましくは阻害剤、使用、方法、またはキット。
【請求項13】
前記がんが乳がんまたは卵巣がんである、請求項10に記載の核酸分子、ベクター、宿主細胞、および/またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せ、結合分子、好ましくは阻害剤、使用、方法、またはキット。
【請求項14】
前記試料が体液または臓器由来の組織試料である、上記請求項に記載の核酸分子、ベクター、宿主細胞、および/またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せ、結合分子、好ましくは阻害剤、使用、方法、またはキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫抑制剤として、腫瘍ワクチンとして、または妊娠促進剤として使用するための、核酸分子、ベクター、宿主細胞、またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せに関し、(I)核酸分子が、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドをコードする核酸分子、または(b)配列番号2のヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(c)配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも70%同一であり、好ましくは少なくとも80%同一であり、より好ましくは少なくとも90%同一であり、最も好ましくは少なくとも95%同一であるポリペプチドをコードする核酸分子;または(d)配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%同一であり、好ましくは少なくとも80%同一であり、より好ましくは少なくとも90%同一であり、最も好ましくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(e)(d)の核酸分子に対して縮重したヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(f)(a)~(e)のいずれか1つの核酸分子の断片であって、前記断片が、少なくとも150ヌクレオチド、好ましくは少なくとも300ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも450ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも600ヌクレオチドを含む核酸分子;または(g)TがUで置換されている、(a)~(f)のいずれか1つの核酸分子に対応する核酸分子であり;(II)ベクターが(I)の核酸分子を含み、(III)宿主細胞が(II)のベクターで形質転換、形質導入またはトランスフェクトされ、および(IV)タンパク質またはペプチドが(I)の核酸分子によってコードされている。
【背景技術】
【0002】
本明細書では、特許出願及び製造業者のマニュアルを含む多くの文献が引用されている。これらの文書の開示は、本発明の特許性に関連するとは考えられないが、その全体は本明細書に参照により援用される。より具体的には、全ての参照文書は、各個々の文書が参照により援用されることが具体的かつ個別に示された場合と同程度に、参照により援用される。
【0003】
ヒト白血球抗原(HLA)系または複合体は、ヒトの主要組織適合性複合体(MHC)タンパク質をコードする遺伝子複合体である。これらの細胞表面タンパク質は、ヒトの免疫系の調節を担っている。HLA遺伝子複合体は、染色体6p21内の3Mbpの領域に存在する。この複合体中の遺伝子は、3つの基本的なグループ:クラスI、クラスII、およびクラスIIIに分類される。
【0004】
ヒトには、HLA-A、HLA-B、HLA-Cとして知られる3つの主要なMHCクラスI遺伝子がある。これらの遺伝子から産生されるタンパク質は、ほとんど全ての細胞の表面に存在する。細胞表面では、これらのタンパク質が細胞内からエキスポートされたタンパク質断片(ペプチド)に結合する。MHCクラスIタンパク質は、これらのペプチドを免疫系に提示する。免疫系が外来ペプチド(ウイルスや細菌のペプチドなど)を認識すると、感染細胞を自己破壊の引き金にして応答する。
【0005】
ヒトにはHLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA、HLA-DRB1の6つの主要なMHCクラスII遺伝子が存在する。MHCクラスII遺伝子は、ほとんど独占的に特定の免疫系細胞の表面だけに存在するタンパク質をつくるための指示を提供している。MHCクラスIタンパク質と同様に、これらのタンパク質は免疫系にペプチドを提示する。
【0006】
MHCクラスIII遺伝子から産生されるタンパク質は多少異なった機能をもっており、炎症や他の免疫系活性に関与している。一部のMHC遺伝子の機能は不明である。
【0007】
HLA遺伝子には多くの可能な変異があり、各人の免疫系が広範囲の外来侵入物に反応できるようになっている。HLA遺伝子の中には、数百の同定されたバージョン(対立遺伝子)をもつものがあり、その各々には特定番号(HLA-B27など)が与えられている。密接に関連した対立遺伝子は一緒に分類される。例えば、少なくとも40の非常によく似た対立遺伝子はHLA-B27のサブタイプである。これらのサブタイプはHLA-B*2701~HLA-B*2743と命名されている。
【0008】
100以上の疾患が、HLA遺伝子の異なる対立遺伝子と関連している。例えば、HLA-B27対立遺伝子は、強直性脊椎炎と呼ばれる炎症性関節疾患を発症するリスクを増大させる。免疫機能の異常およびある種のがんを含む他の多くの疾患もまた、特異的HLA対立遺伝子と関連している。しかし、これらの疾患の発症リスクにHLA遺伝子がどのような役割を果たしているかは不明なことが多い。
【0009】
3つの主要なMHCクラスI遺伝子であるに続いて、非古典的MHCクラスI分子HLA-E、HLA-FおよびHLA-GはHLAクラスI領域によってコードされている。HLA-G、-E、および-Fの過剰発現は様々な悪性腫瘍にわたる一般的な所見である(Kochan et al., Oncoimmunology. 2013 Nov 1; 2(11): e26491.)。HLA-GおよびHLA-Eはがんのバイオマーカーであり、がんの不良な臨床転帰と正の相関があると報告された。
【0010】
HLAクラスI領域はさらに、クラスI偽遺伝子ならびに遺伝子断片を含むことが報告された(Hughes, Mol Biol Evol.1995 Mar; 12(2):247-58)。例えば、HLA-H、J、KおよびLはクラスI偽遺伝子として分類され、HLA-N、SおよびXは遺伝子断片として分類される。
【0011】
したがって、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子は、生物医学科学および治療における重要な標的として長い研究歴を有する。しかしながら、HLAシステムの臨床的重要性を考慮すると、HLA遺伝子に焦点を当て、特に、HLAシステムに基づく生物医学および治療のさらなる標的を同定するための研究に焦点を合わせる必要がある。この必要性は、本発明によって対処される。本発明に関連して、驚くべきことに、HLA-Hは、特にHLA-Hの活性を活性化または阻害することによる、疾患の治療および検出のための標的であることが見出された。
【発明の概要】
【0012】
よって、本発明は、免疫抑制剤として、腫瘍ワクチンとして、または妊娠促進剤として使用するための、核酸分子、ベクター、宿主細胞、またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せに関し、(I)核酸分子が、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドをコードする核酸分子、または(b)配列番号2のヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(c)配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも70%同一であり、好ましくは少なくとも80%同一であり、より好ましくは少なくとも90%同一であり、最も好ましくは少なくとも95%同一であるポリペプチドをコードする核酸分子;または(d)配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%同一であり、好ましくは少なくとも80%同一であり、より好ましくは少なくとも90%同一であり、最も好ましくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(e)(d)の核酸分子に対して縮重したヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(f)(a)~(e)のいずれか1つの核酸分子の断片であって、前記断片が、少なくとも150ヌクレオチド、好ましくは少なくとも300ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも450ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも600ヌクレオチドを含む核酸分子;または(g)TがUで置換されている、(a)~(f)のいずれか1つの核酸分子に対応する核酸分子であり;(II)ベクターが(I)の核酸分子を含み、(III)宿主細胞が(II)のベクターで形質転換、形質導入またはトランスフェクトされ、および(IV)タンパク質またはペプチドが(I)の核酸分子によってコードされている。
【0013】
本発明の第1の態様は同様に、免疫抑制剤として、腫瘍ワクチンとして、または妊娠促進剤として使用するための、核酸分子、ベクター、宿主細胞、またはタンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せに関し、(I)核酸分子が、(a)配列番号1もしくは54のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなるポリペプチドをコードする核酸分子;または(b)配列番号2のヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(c)配列番号1もしくは54のアミノ酸配列と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%同一、最も好ましくは少なくとも95%同一であるポリペプチドをコードする核酸分子;または(d)配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも90%同一、最も好ましくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(e)(d)の核酸分子に対して縮重したヌクレオチド配列からなる核酸分子;または(f)(a)~(e)のいずれか1つの核酸分子の断片であって、前記断片が、前記断片が、少なくとも250ヌクレオチド、好ましくは少なくとも300ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも450ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも600ヌクレオチドを含む核酸分子;または(g)TがUで置換されている、(a)~(f)のいずれか1つの核酸分子に対応する核酸分子であり;(II)ベクターが(I)の核酸分子を含み、(III)宿主細胞が(II)のベクターで形質転換、形質導入またはトランスフェクトされ、および(IV)タンパク質またはペプチドが(I)の核酸分子によってコードされている。
【0014】
本発明による用語「核酸分子」は、cDNAなどのDNA、または二本鎖もしくは一本鎖ゲノムDNAおよびRNAを含む。この点に関して、「DNA」(デオキシリボ核酸)は、ヌクレオチド塩基と呼ばれる、デオキシリボース糖骨格上で一緒に連結された、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)およびチミン(T)の化学構築ブロックの任意の鎖または配列を意味する。DNAは、ヌクレオチド塩基の一本鎖、または二重らせん構造を形成することができる2本の相補鎖を有することができる。「RNA」(リボ核酸)は、リボース糖骨格上で一緒に連結されたヌクレオチド塩基と呼ばれる、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)およびウラシル(U)を構成する化学構築ブロックの任意の鎖または配列を意味する。RNAは、典型的にはmRNAのようなヌクレオチド塩基の一本鎖を有する。また、一本鎖および二本鎖ハイブリッド分子、すなわち、DNAーDNA、DNA-RNAおよびRNA-RNAも含まれる。核酸分子はまた、当該分野で公知の多くの手段によって改変され得る。このような修飾の非限定的な例としては、メチル化、「キャップ(caps)」、1つ以上の天然に存在するヌクレオチドのアナログでの置換、およびヌクレオチド間修飾、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメートなど)および荷電結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を有するものなどが挙げられる。核酸分子(以下においてポリヌクレオチドとも呼ばれる)には、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジン等)、インターカレーター(例えば、アクリジン、プソラレン等)、キレーター(例えば、金属、放射性金属、鉄、酸化的金属等)、及びアルキレーターのような、1つ以上の追加的な共有結合部分を含んでもよい。ポリヌクレオチドはメチルまたはエチルホスホトリエステルあるいはアルキルホスホルアミデート結合の形成によって誘導体化することができる。さらに、DNAまたはRNAの合成または半合成誘導体および混合ポリマーなどの、当技術分野で公知の核酸模倣分子が含まれる。このような核酸模倣分子または核酸誘導体としては、ホスホロチオエート核酸、ホスホラミデート核酸、2´-O-メトキシエチルリボ核酸、モルホリノ核酸、ヘキシトール核酸(HNA)、ペプチド核酸(PNA)およびロックド核酸(LNA)が挙げられる(BraaschおよびCorey, Chem Biol 2001,8: 1を参照のこと)。LNAは、リボース環が2´-酸素と4´-炭素の間のメチレン結合によって拘束されているRNA誘導体である。また、修飾塩基を含む核酸、例えばチオウラシル、チオグアニンおよびフルオロウラシルが含まれる。核酸分子は、典型的にはタンパク質および/またはポリペプチドを作製するために細胞機構によって使用される情報を含む遺伝情報を保有する。本発明による核酸分子はさらに、プロモーター、エンハンサー、応答エレメント、シグナル配列、ポリアデニル化配列、イントロン、5´および3´非コード領域などを含み得る。
【0015】
本発明による核酸分子は、配列番号1または54のHLA-Hタンパク質に由来するポリペプチドまたはその断片をコードし、そのタンパク質は配列番号2によってコードされている。したがって、本発明の核酸分子は、ゲノムDNAまたはmRNAであることが好ましい。mRNAの場合、核酸分子はさらに、ポリAテールを含み得る。
【0016】
用語「タンパク質」は、本明細書中で用語「ポリペプチド」と互換的に使用される場合、少なくとも50個のアミノ酸を含む、一本鎖タンパク質またはそれらの断片を含む、アミノ酸の線状分子鎖を表す。本明細書中で使用される用語「ペプチド」は49個までのアミノ酸からなる分子の群を記載し、一方、本明細書中で使用される用語「ポリペプチド」(「タンパク質」とも呼ばれる)は、少なくとも50個のアミノ酸からなる分子の群を記載する。本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、好ましくは、少なくとも15アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも25アミノ酸、および少なくとも40アミノ酸の分子群を表す。ペプチドおよびポリペプチドの群は、「(ポリ)ペプチド」という用語を用いて一緒に言及される。(ポリ)ペプチドはさらに、少なくとも2つの同一または異なる分子からなるオリゴマーを形成し得る。そのような多量体の対応する高次構造は、対応して、ホモ-またはヘテロ二量体、ホモ-またはヘテロ三量体などと呼ばれる。配列番号1のHLA-Hタンパク質は位置93、127、229および285にシステインを含み、したがって潜在的な二量体化部位を含む。同様に、配列番号54のHLA-Hタンパク質は位置89、124、225および281にシステインを含み、したがって潜在的な二量体化部位を含む。さらに、アミノ酸および/またはペプチド結合が機能的アナログによって置換されている、このようなタンパク質/(ポリ)ペプチドのペプチド模倣物もまた、本発明に包含される。このような機能的類似体には、セレノシステインのような20個の遺伝子コードアミノ酸以外の全ての公知のアミノ酸が含まれる。用語「(ポリ)ペプチド」および「タンパク質」はまた、天然に修飾された(ポリ)ペプチドおよびタンパク質をいい、ここで、修飾は例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化および当該分野で周知の類似の修飾によって達成される。
【0017】
本発明によれば、「配列同一性パーセント(%)」という用語は、鋳型核酸またはアミノ酸配列の全長を構成するヌクレオチドまたはアミノ酸残基の数と比較した、2つ以上の整列した核酸またはアミノ酸配列の同一ヌクレオチド/アミノ酸の一致(「ヒット」)の数を表す。他の用語では、アラインメントを使用して、2つ以上の配列またはサブ配列について、同じ(例えば、70%、75%、80%、85%、90%または95%同一)であるアミノ酸残基またはヌクレオチドのパーセンテージが比較の窓にわたって、または当技術分野で公知の配列比較アルゴリズムを使用して測定されるような指定された領域にわたって、または手動でアラインメントされ、視覚的に検査される場合に、(サブ)配列が比較され、そして最大対応についてアラインメントされる場合に決定され得る。この定義はまた、整列される任意の配列の相補体にも適用される。
【0018】
本発明に関連するヌクレオチドおよびアミノ酸配列の分析およびアラインメントは、好ましくはNCBI BLASTアルゴリズム(Stephen F. Altschul, Thomas L. Madden, Alejandro A. Schaffer, Jinghui Zhang, Zheng Zhang, Webb Miller,および David J. Lipman(1997), Nucleic Acids Res.25:3389-3402)を用いて行われる。BLASTは、ヌクレオチド配列(ヌクレオチドBLAST)およびアミノ酸配列(タンパク質BLAST)に使用することができる。当業者は、核酸配列を整列させるためのさらなる適切なプログラムを知っている。
【0019】
本明細書で定義されるように、少なくとも70%の同一、好ましくは少なくとも80%の同一、より好ましくは少なくとも90%の同一、および最も好ましくは少なくとも95%の配列同一が本発明によって想定される。しかし、本発明はまた、好ましくは、少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、および少なくとも99.8%の配列同一性を想定する。
【0020】
MHCクラスI分子は一般に、MHCアルファ鎖(重鎖)とベータ2ミクログロブリン鎖(軽鎖)の2つの鎖からなる。アルファ鎖のみが膜にまたがっている。アルファ鎖には3つの細胞外ドメインがある(アルファ1、2、3と命名され、アルファ1はN末端にある)。
HLA-Hのアルファ鎖ドメインアルファ1およびアルファ3は、HLA-Hの免疫抑制能力を主に決定し、ドメインアルファ3が最も重要であると考えられる。HLA-Hは、他のHLAクラスのアルファ3ドメインが約93アミノ酸であるのに対し、わずか13アミノ酸のトランケートされたアルファ3ドメインから構成されていることが注目される。配列番号3および4のヌクレオチド配列は、それぞれHLA-Hのドメインアルファ1およびアルファ3をコードする。配列番号5および6のアミノ酸配列は、それぞれHLA-Hのドメインアルファ1およびアルファ3のアミノ酸配列である。
【0021】
したがって、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一または、配列番号4と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である、好ましさが増加したヌクレオチド配列を含む、好ましいより高い同一性のいずれか1つを有するヌクレオチド配列が好ましい。配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性または、配列番号6と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である、好ましさが増加したヌクレオチド配列を含む、好ましいより高い同一性のいずれか1つを有するヌクレオチド配列が好ましい。配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性または、配列番号4と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である、好ましさが増加したヌクレオチド配列を含む、および/または配列番号3と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である、好ましさが増加したヌクレオチド配列を含む、好ましいより高い同一性のいずれか1つを有するヌクレオチド配列が好ましい。また、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性または、配列番号6と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である、好ましさが増加したヌクレオチド配列を含む、および/または配列番号5と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である、好ましさが増加したヌクレオチド配列を含む、好ましいより高い同一性のいずれか1つを有するヌクレオチド配列が好ましい。
【0022】
配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性を有するかまたは好適により高い同一性のいずれか1つを有するヌクレオチド配列は、(i)配列番号4と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である、好ましさが増加したヌクレオチド配列であり、および(ii)配列番号3と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である、好ましさが増加したヌクレオチド配列を含むことが最も好ましい。
【0023】
少なくとも95%の同一性を配列番号1と共有するアミノ酸配列の特に好ましい例示は、配列番号54のアミノ酸配列である。配列番号54は配列番号1の最初の4アミノ酸を欠くが、他の点では配列番号1と同一である。配列番号1の最初の4つのアミノ酸は、HLA-Hタンパク質の機能にとって重要ではないことが見出された。従って、配列番号54はまた、本明細書中に記載されるような実施形態のいずれかにおけるHLA-Hポリペプチドの代替配列として、配列番号1を置換または補充し得る。
【0024】
本発明による「縮重」という用語は、遺伝暗号の縮重を指す。トリプレットコードは20個のアミノ酸と終止コドンを指定し、遺伝情報をコードするのに利用される4個の塩基が存在するので、トリプレットコドンは少なくとも21個の異なるコードをつくるのに必要である。トリプレット中の塩基の可能な43の可能性は64個の可能なコドンを与える。つまり、いくつかの縮重が存在しなければならないことを意味する。結果として、いくつかのアミノ酸は2つ以上のトリプレット、すなわち、6つまでによってコードされる。縮重は主に、トリプレットにおける第3の位置の変化から生じる。これは上記で特定されたものとは異なるヌクレオチド配列を有するが、依然として同じポリペプチドをコードする核酸分子が本発明の範囲内にあることを意味する。したがって、本発明の第1の態様に関して、当業者は、事項(I)(e)に列挙される「(d)の核酸分子に対して縮重したヌクレオチド配列からなる」が事項(I)(d)の核酸分子と同じアミノ酸配列をコードする核酸分子を示すことを理解する。このアミノ酸配列は配列番号1または54のアミノ酸配列またはそれに由来するアミノ酸配列のいずれかであり、前記後者のアミノ酸配列は、主な実施形態の項目(I)(d)に列挙される配列同一性値によって必要とされ、暗示される程度まで、配列番号1または54と同一である。
【0025】
本発明の第1の態様の(I)(a)~(f)の核酸分子の断片は、少なくとも150個のヌクレオチドを含む。この点に関して、本発明による断片は、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300、少なくとも350、少なくとも400、少なくとも450、少なくとも500、少なくとも550、少なくとも600、または少なくとも650ヌクレオチドのポリヌクレオチドであることが好ましく、断片が5´ATP開始コドンおよび/または3´-TAG終止コドンのみを欠く断片であることが最も好ましい。さらに、断片が、配列番号4と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である好ましさが増加したヌクレオチド配列を含むか、または配列番号6と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である好ましさが増加したアミノ酸配列をコードすることが好ましい。断片が、配列番号4と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である好ましさが増加したヌクレオチド配列、および/または配列番号3と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である好ましさが増加したヌクレオチド配列を含むことがより好ましい。同様に、本断片は配列番号6と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である好ましさが増加したアミノ酸配列をコードし、および/または配列番号5と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一である好ましさが増加したアミノ酸配列をコードすることがより好ましい。断片は(i)配列番号4と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一であるヌクレオチド配列であり、(ii)配列番号3と少なくとも97.5%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、および100%同一であるヌクレオチド配列が最も好ましい。
【0026】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、核酸分子は異種性ヌクレオチド配列に融合され、好ましくは異種性プロモーターに作動可能に連結される。
【0027】
異種ヌクレオチド配列は、本発明の核酸分子に直接的または間接的に融合され得る。間接融合の場合、好ましくは、ペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列がGS-リンカー(例えば、Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)n(配列番号7)(式中、nは1~3)が使用される。
【0028】
本明細書中で使用される場合、異種ヌクレオチド配列は、配列番号2のヌクレオチド配列に融合された天然には見出され得ない配列である。配列番号2がヒト由来であることに注目すると、異種ヌクレオチド配列もヒト由来であることが好ましい。
【0029】
従って、異種プロモーターは、配列番号2のヌクレオチド配列に作動可能に連結された天然には見出され得ないプロモーターである。異種プロモーターは、好ましくはヒト由来である。
【0030】
プロモーターは特定の遺伝子の転写を開始する核酸配列であり、前記遺伝子は、配列番号2のHLA-H遺伝子に由来するか、または配列番号2である本発明による。これに関連して、「作動可能に連結された」とは、異種プロモーターが本発明の核酸分子に融合され、その結果、プロモーターを介して、本発明の核酸分子の転写が例えば、原核生物または真核生物細胞において開始され得ることを意味する。異種プロモーターは、構成的に活性なプロモーター、組織特異的または発生段階特異的なプロモーター、誘導性プロモーター、または合成プロモーターであり得る。構成的プロモーター事実上すべての組織で発現を指令し、完全ではないにしても、大部分は環境因子と発生因子とは無関係である。それらの発現は通常内因性因子によって条件づけられないので、構成的プロモーターは通常種を越えて、さらには界を越えて活性化されている。組織特異的または発生段階特異的プロモーター、特定の組織または発生のある段階における遺伝子の発現を指示する。誘導性プロモーターの活性は生物的または非生物的因子の有無により誘導される。誘導性プロモーターは、それらに機能的に連結された遺伝子の発現が必要に応じてオンになったりオフになったりできるので、遺伝子工学において非常に強力な道具である。合成プロモーターは、多様な起源由来のプロモーター領域の一次要素を一緒にすることによって構築される。
【0031】
遺伝子を異種に発現させるために当技術分野で使用される異種プロモーターの非限定的な例は(哺乳動物系用)SV40、CMV、HSV、UBC、EF1A、PGK、Vlambda1、RSVおよびCAGG;(ショウジョウバエ系用)COPIAおよびACT5C;ならびに(酵母系用)GAL1、GAL10、GAL7、GAL2であり、そしてまた本発明と関連して使用され得る。
【0032】
代替的または付加的に、異種核酸配列は本発明の核酸配列が融合タンパク質を生じるようなコード配列であってもよい。このような融合タンパク質は、本明細書中で以下により詳細に議論される。
【0033】
核酸分子が異種プロモーターに融合されない場合、発現の目的のために、核酸分子はそれ自体のプロモーターに融合される。
【0034】
本発明による「ベクター」という用語は好ましくはプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、または、例えば、本発明の核酸分子を有する遺伝子工学において慣用的に使用される別のベクターを意味する。本発明の核酸分子は例えば、いくつかの市販のベクターに挿入され得る。非限定的な例としては、pUCシリーズ、pBluescript(Stratagene)、pETシリーズの発現ベクター(Novagen)またはpCRTOPO(Invitrogen)、ならびにpREP(Invitrogen),pcDNA3(Invitrogen),pCEP4(Invitrogen),pMC1neo(Stratagene),pXT1(Stratagene),pSG5(Stratagene),EBO-pSV2neo,pBPV-1,pdBPVMMTneo,pRSVgpt,pRSVneo,pSV2-dhfr,pIZD35,pLXIN,pSIR(Clontech),pIRES-EGFP(Clontech),pEAK-10(Edge Biosystems)pTriEx-Hygro(Novagen)およびpCINeo(Promega)などの哺乳動物細胞における発現に適合するベクターが挙げられる。ピキア・パトリス(Pichia pastoris)に適したプラスミドベクターの例は例えば、プラスミドpAO815、pPIC9KおよびpPIC3.5K(すべてInvitrogen)を含む。
【0035】
ベクターに挿入された核酸分子は例えば、標準的な方法によって合成され得るか、または天然資源から単離され得る。コード配列の転写調節エレメントおよび/または他のアミノ酸コード配列へのライゲーションはまた、確立された方法を使用して実施され得る。原核細胞または真核細胞における発現を確実にする転写調節エレメント(発現カセットの一部)は、当業者に周知である。これらの元素は転写の開始を確実にする調節配列(例えば、翻訳開始コドン、天然関連または異種プロモーターおよび/またはインシュレーターなどのプロモーター;上記を参照のこと)、内部リボソーム侵入部位(IRES)(Owens, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98(2001), 1471-1476)、および任意に転写の終結および転写物の安定化を確実にするポリAシグナルを含む。さらなる調節エレメントには、転写ならびに翻訳エンハンサーが含まれ得る。好ましくは、本発明のポリペプチド/タンパク質または融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが原核生物または真核生物細胞における発現を可能にするこのような発現制御配列に作動可能に連結される。ベクターは、さらなる調節エレメントとして分泌シグナルをコードする核酸配列をさらに含み得る。このような配列は、当業者に周知である。さらに、使用される発現系に依存して、発現されたポリペプチドを細胞内区画に指向し得るリーダー配列が、本発明のポリヌクレオチドのコード配列に付加され得る。そのようなリーダー配列は当技術分野でよく知られる。
【0036】
さらに、ベクターは選択マーカーを含むことが好ましい。選択可能なマーカーの実施例としては、ネオマイシン、アンピシリン、ハイグロマイシン、およびカナマイシンに対する耐性をコードする遺伝子が挙げられる。具体的に設計されたベクターは細菌-真菌細胞または細菌-動物細胞(例えば、Invitrogenで入手可能なGatewayシステム)のような異なる宿主間でのDNAのシャトリングを可能にする。本発明による発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドおよびコードされたペプチドまたは融合タンパク質の複製および発現を指示することができる。ファージベクターまたはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)のようなベクターを介する導入とは別に、上記の核酸分子は直接導入のために、またはリポソームを介する細胞への導入のために設計され得る。さらに、バキュロウイルス系またはワクシニアウイルスまたはセムリキフォレストウイルスに基づく系を、本発明の核酸分子のための真核生物発現系として使用することができる。
【0037】
「宿主細胞」という語は細胞による本発明のタンパク質またはペプチドまたは融合タンパク質の産生のために、任意の方法で選択され、改変され、形質転換され、増殖され、または使用され、または操作される任意の生物の任意の細胞を意味する。
【0038】
本発明の宿主細胞は典型的には本発明の核酸分子またはベクター(単数または複数)を宿主細胞に導入することによって産生され、その宿主細胞/その存在により、本発明のタンパク質またはペプチドまたは融合タンパク質をコードする本発明の核酸分子の発現が媒介される。宿主細胞が由来するかまたは単離される宿主は任意の原核細胞または真核細胞または生物であってよく、好ましくはヒト胚の破壊によって直接誘導されたヒト胚性幹細胞を除く。
【0039】
本発明の宿主として有用な適切な原核生物(バクテリア)は例えば、大腸菌(例えば、大腸菌株BL21、HB101、DH5a、XL1ブルー、Y1090およびJM101)、ネズミチフス菌(salmonella typhimurium)、セラチア・マルセッセンス、ブルクホルデリア・グルマエ、シュードモナス・プチダ、シュードモナス・フルオレセス、シュードモナス・スタツェリ、ストレプトマイセス・リビダンス、ラクトコッカス・ラクチス、マイコバクテリウム・スメグマティス、ストレプトマイセス・コエリコールまたは枯草菌のようなクローニングおよび/または発現に一般的に使用されるものである。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は、当該分野で周知である。
【0040】
適当な真核宿主細胞は、脊椎動物細胞、昆虫細胞、真菌/酵母細胞、線虫細胞または植物細胞であり得る。真菌/酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ細胞、ピキア・パストリス細胞またはアスペルギルス細胞であり得る。本発明の核酸分子またはベクターを用いて遺伝子操作される宿主細胞の好ましい例は酵母、大腸菌および/またはバチルス属の種(例えば、枯草菌)の細胞である。1つの好ましい実施形態において、宿主細胞は酵母細胞(例えば、S.cerevisiae)である。
【0041】
異なる好ましい実施形態では、宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウス骨髄腫リンパ芽球様細胞、ヒト胚腎細胞(HEK-293)、ヒト胚網膜細胞(Crucell´s Per.C6)、またはヒト羊水細胞(GlycotopeおよびCEVEC)などの哺乳動物宿主細胞である。細胞は、組換えタンパク質を産生するために当技術分野で頻繁に使用される。CHO細胞は、ヒトのための組換えタンパク質治療薬の工業用産生のために最も一般的に使用される哺乳動物宿主細胞である。
【0042】
用語「タンパク質」および「ペプチド」ならびにそれらの好ましい実施形態は、本明細書の第1の態様に関連して上に定義されている。これらの定義および好ましい実施形態は、第2の態様に準用する。本発明のペプチドは、配列番号1または54の部分配列と好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%同一である。
【0043】
本発明のタンパク質またはペプチドは、当該分野で周知の分子クローニング技術によって生成され得る。組換え発現は例えば、本明細書中上記のようなベクターおよび宿主細胞を使用することによって達成され得る。
【0044】
好ましい実施形態によれば、タンパク質またはペプチドは融合タンパク質である。
【0045】
本発明による「融合タンパク質」は、少なくとも1つのさらなる異種性アミノ酸配列を含む。しばしば、しかし必ずしも必要ではないが、これらのさらなる配列は(ポリ)ペプチドのN末端またはC末端に位置する。例えば、融合タンパク質を特異的にトリミングし、本発明の(ポリ)ペプチドを放出することができるプロテイナーゼによって、追加のアミノ酸残基を除去することができる融合タンパク質としてポリペプチドを最初に発現させることが好都合であり得る。アミノ酸配列化合物は、本発明の核酸分子に直接的または間接的に融合され得る。間接融合の場合、一般に、GS-リンカー(例えば、Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)n(配列番号7)(式中、nは1~3)が使用され得る。
【0046】
前記融合タンパク質の少なくとも1つのさらなる異種アミノ酸配列は、修飾/増強された安定性、修飾/増強された溶解性および/または1つ以上の特異的細胞型を標的とする能力などの所望の特性を付与するアミノ酸配列を含む。例えば、抗体との融合タンパク質。「抗体」という語は、以下にさらに定義され、とりわけ、抗体断片および誘導体を含む。抗体は例えば、細胞表面マーカーに特異的であってもよく、または前記抗体の抗原認識断片であってもよい。本発明のタンパク質またはペプチドは、抗体の軽鎖および/または重鎖のN末端またはC末端に融合され得る。本発明のタンパク質またはペプチドは好ましくは抗体のFc部分がFc受容体に自由に結合するように、抗体の軽鎖および/または重鎖のN末端に融合される。
【0047】
融合タンパク質はまた、シグナル伝達において機能することが知られている、および/またはタンパク質タンパク質相互作用に関与することが知られているタンパク質ドメインを含んでもよい。このようなドメインの実施例は、アンキリンリピート;アーム、Bcl-ホモロジー、Bromo、CARD、CH、Chr、C1、C2、DD、DED、DH、EFh、ENTH、F-box、FHA、FYVE、GEL、GYF、hect、LIM、MH2、PDZ、PB1、PH、PTB、PX、RGS、RING、SAM、SC、SH2、SH3、SOCS、START、TIR、TPR、TRAF、tsnare、Tubby、UBA、VHS、W、WWおよび14-3-3ドメインである。これらおよび他のタンパク質ドメインについてのさらなる情報はデータベースInterPro (http://www.ebi.ac.uk/interpro/, Mulder et al., 2003, Nucl. Acids. Res. 31: 315-318), Pfam (http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/, Bateman et al., 2002, Nucleic Acids Research 30(1): 276-280) および SMART (http://smart.embl-heidelberg.de/, Letunic et al., 2002, Nucleic Acids Res. 30(1), 242-244)から入手可能である。
【0048】
本発明による融合タンパク質の少なくとも1つのさらなる異種アミノ酸配列は、(a)サイトカイン、(b)ケモカイン、(c)凝固促進因子、(d)タンパク質性の毒性化合物、および/または(e)プロドラッグ活性化のための酵素を含み得るか、またはそれらからなり得る。
【0049】
サイトカインは、好ましくはIL-2、IL-12、TNF-アルファ、IFNアルファ、IFNベータ、IFNガンマ、IL-10、IL-15、IL-24、GM-CSF、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-9、IL-11、IL-13、LIF、CD80、B70、TNFベータ、LT-ベータ、CD-40リガンド、Fas-リガンド、TGF-ベータ、IL-1アルファおよびIL-1ベータからなる群から選択される。当技術分野で周知のように、サイトカインは、免疫系の炎症誘発性応答または抗炎症応答に有利であり得る。したがって、処置される疾患に応じて、炎症誘発性または抗炎症性サイトカインとの融合タンパク質のいずれかが有利であり得る。例えば、一般に炎症性疾患の治療のためには抗炎症性サイトカインを含む融合構築物が好ましく、がんの治療のためには一般に炎症誘発性サイトカインを含む融合構築物が好ましい。
【0050】
ケモカインは、好ましくはIL-8、GROα、GROβ、GROγ、ENA-78、LDGF-PBP、GCP-2、PF4、Mig、IP-10、SDF-1α/β、BUNZO/STRC33、I-TAC、BLC/BCA-1、MIP-1α、MIP-1β、MDC、TECK、TARC、RANTES、HCC-1、HCC-4、DC-CK1、MIP-3α、MIP-3β、MCP-1-5、エオタキシン、Eotaxin-2、I-309、MPIF-1、6Ckine、CTACK、MEC、リンホタクチンおよびフラクタルキンからなる群より選択される。ケモカインの主要な役割は、細胞の遊走を誘導する化学誘引物質として作用することである。ケモカインによって誘引される細胞は、ケモカイン源に向かってケモカイン濃度が増加するシグナルに従う。その結果、融合タンパク質内で、ケモカインを使用して、例えば特異的な細胞型または身体部位への本発明のタンパク質またはペプチドの移動を誘導することができる。
【0051】
凝固促進因子は、好ましくは組織因子である。凝固促進因子は血液が液体からゲルに変化して血餅を形成するプロセスを促進する。前凝固因子は例えば、創傷治癒を補助し得る。
【0052】
タンパク質性毒性化合物は、好ましくはRicin-A鎖、モデクシン、切断型シュードモナス外毒素A、ジフテリア毒素および組換えゲロニンである。毒性化合物は、生物全体、ならびに特定の細胞型などの生物の下部構造に対して毒性効果を有することができる。毒性化合物は、腫瘍の治療にしばしば使用される。腫瘍細胞は一般に、正常の体細胞よりも速く増殖し、その結果、それらは、優先的に、毒性化合物を蓄積し、そしてより高い量で蓄積する。
【0053】
プロドラッグ活性化のための酵素は、好ましくはカルボキシペプチダーゼ、グルクロニダーゼおよびグルコシダーゼからなる群より選択される酵素である。腫瘍治療について評価されている広範な遺伝子の中で、プロドラッグ活性化酵素をコードする遺伝子は、進行中の臨床化学療法レジメンを直接補完するため、特に魅力的である。これらの酵素は、細菌および酵母酵素の両方を使用して、低い固有毒性を有するプロドラッグを活性化し得るか、または哺乳動物酵素によるプロドラッグ活性化を増強し得る。
【0054】
好ましい実施形態によれば、タンパク質またはペプチドは、異種非タンパク質性化合物に融合される。
【0055】
本明細書中で使用される場合、異種性化合物は、配列番号1または54のアミノ酸配列に融合した天然に見出され得ない化合物である。
【0056】
異種非タンパク質性化合物は、本発明の核酸分子に直接的または間接的に融合され得る。例えば、化学リンカーを使用することができる。化学リンカーは、第一級アミン、スルフヒドリル、酸、アルコールおよびブロマイドのような多様な官能基を含み得る。我々の架橋剤の多くは、アミンと反応するマレイミド(スルフヒドラル反応性)およびスクシンイミジルエステル(NHS)またはイソチオシアネート(ITC)基で官能化されている。
【0057】
異種非タンパク質性化合物は、好ましくは薬学的に活性な化合物または診断的に活性な化合物である。医薬活性化合物または診断活性化合物は、好ましくは(a)蛍光色素、(b)光増感剤、(c)放射性核種、(d)医療造影剤、(e)毒性化合物、または(f)ACE阻害剤、レニン阻害剤、ADH阻害剤、アルドステロン阻害剤、アンギオテンシン受容体遮断薬、TSH受容体、LH-/HCG受容体、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、アンドロゲン受容体、GnRH受容体、GH(成長ホルモン)受容体、またはIGF-IまたはIGF-IIの受容体からなる群より選択される。
【0058】
蛍光色素は、好ましくはAlexa FluorまたはCy色素から選択される成分である。
【0059】
光増感剤は、好ましくは光毒性赤色蛍光タンパク質KillerRedまたはヘマトポルフィリンである。
【0060】
放射性核種は、好ましくはガンマ線放出同位体群、より好ましくは99mTc、123I、111In、および/またはポジトロンエミッタ群、より好ましくは18F、64Cu、68Ga、86Y、124I、および/またはベータエミッタ群、より好ましくは131I、90Y、177Lu、67Cu、90Sr、またはアルファエミッタ群、好ましくは213Bi、211Atのいずれかから選択される。
【0061】
本明細書で使用される造影剤は、医用画像化において体内の構造または流体のコントラストを高めるために使用される物質である。一般的な造影剤は、X線減衰および磁気共鳴シグナル増強に基づいて作用する。
【0062】
毒性化合物は好ましくは小有機化合物であり、より好ましくは、カリケアミシン、メイタンシノイド、ネオカルジノスタチン、エスペラマイシン、ダイネマイシン、ケダルシジン、マデュロペプチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、およびアウリスタチンからなる群より選択される毒性化合物である。本明細書において上記したタンパク質性毒性化合物とは対照的に、これらの毒性化合物は非タンパク質性である。
【0063】
本発明に係る核酸分子、ベクター、宿主細胞、またはタンパク質もしくはペプチド、またはその組み合わせは、医薬組成物として製剤化することができる。本発明によれば、用語「医薬組成物」は、患者、好ましくはヒト患者に投与するための組成物に関する。本発明の医薬組成物は、上記の化合物を含む。それは、任意に、本発明の化合物の特性を変化させることができ、それによって、例えば、それらの機能を安定化、調節および/または活性化することができるさらなる分子を含んでもよい。該組成物は、固体、液体または気体状であってよく、とりわけ、(単数又は複数の)粉末、(単数又は複数の)錠剤、(単数又は複数の)溶液または(単数又は複数の)エアロゾルの形成であってよい。本発明の医薬組成物は任意におよび追加的に、薬学的に許容される担体を含むことができる。適切な薬学的担体の実施例は当技術分野で周知であり、リン酸緩衝生理食塩水溶液、水、エマルジョン(実施例えば、油/水エマルジョン)、種々のタイプの湿潤剤、滅菌溶液、DMSOを含む有機溶媒などを含む。このような担体を含む組成物は、よく知られた従来の方法によって処方することができる。これらの医薬組成物は、適当な投与量で対象に投与することができる。用量の投与方法は、主治医および臨床的要因により決定する。医学分野でよく知られているように、任意の1人の患者に対する投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間および投与経路、全身の健康、ならびに同時に投与される他の薬物を含む多くの要因に依存する。所定の状況に対する治療有効量は、日常的な実験によって容易に決定され、通常の臨床医または医師の技能および判断の範囲内である。一般に、医薬組成物の規則的な投与としてのレジメンは、1日当たり1μg~5g単位の範囲であるべきである。しかし、より好ましい用量は、0.01mg~100mg、さらにより好ましくは0.01mg~50mg、最も好ましくは0.01mg~10mg/日であり得る。さらに、例えば、前記化合物がsiRNAなどのiRNA剤である場合、投与される医薬組成物の全薬学的有効量は、典型的には体重1kgあたり約75mg未満、例えば体重1kgあたり約70、60、50、40、30、20、10、5、2、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001、または0.0005mg未満である。より好ましくは、量は体重kg当たりiRNA剤1500、750、300、150、75、15、7.5、1.5、0.75、0.15、0.075、0.015、0.0075、0.0015、0.00075または0.00015nmol未満など、体重kg当たり2000nmol未満のiRNA剤(例えば、約4.4×1016コピー)であろう。変化を観察するために必要とされる治療の長さおよび奏効が生じる処置後の間隔は、所望の効果に依存して変化する。特定の量は、当業者に周知の従来の試験によって決定することができる。
【0064】
免疫抑制剤は、免疫応答を抑制することができる薬物である。これらは、例えば、(i)移植された臓器および組織(例えば、骨髄、心臓、腎臓、肝臓)の拒絶を防止するため、(ii)自己免疫起源である可能性が最も高い疾患または疾患(例えば、リウマチ関節炎、多発性硬化症、重症筋無力症、乾癬、白斑、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、巣状分節性糸球体硬化症、クローン病、ベーチェット病、天疱瘡、強皮症および潰瘍性大腸炎)を治療するため、および/または(iii)非自己免疫炎症性疾患(例えば、長期アレルギー性喘息制御および強直性脊椎炎)を治療するために、免疫抑制療法において使用することができる。
【0065】
腫瘍ワクチンは既存の腫瘍を処置するために、または腫瘍の発生を予防するために使用され得る。既存がんを治療するワクチンは、治療用がんワクチンとしても知られている。ワクチンは「自家(autologous)」であってもよく、すなわち、患者から採取された試料から調製され、その患者に特異的である。がんワクチン接種のアプローチは一般に、がん細胞からタンパク質を分離し、そのタンパク質を抗原として患者に免疫することであり、免疫系を刺激してがん細胞を死滅させることを目的とする。抗原は、HLA-Hタンパク質/ペプチドに由来する本発明によるものである。
【0066】
したがって、本発明はまた、核酸分子、ベクター、宿主細胞、タンパク質またはペプチド、結合分子、好ましくは本発明の阻害剤またはその組合せを、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、担体および/または希釈剤と混合することを含む、腫瘍ワクチンの調製方法に関する。
【0067】
妊娠促進剤は、妊娠する可能性、特に胚着床の可能性を増加させる化合物である。着床とは、すでに受精した卵子が子宮の壁に付着する妊娠の段階のことである。この接着により、胚は成長できるように母親から酸素と栄養分を受け取る。ヒトでは、受精卵の着床は排卵後5~6日前後に起こる可能性が最も高い。着床不全は、症例の2/3では子宮の受容能が不十分であること、もう1/3では胚自体に問題があることが原因と考えられている。これは母親の年齢にも依存する。不十分な子宮受容は若い母親に多く、胚そのもの問題(例えば、染色体異常)は高齢の母親(特に35歳以上)に多い。不十分な子宮受容性は、異常なサイトカインおよびホルモンシグナル伝達ならびにエピジェネティックな変化によって引き起こされる可能性がある。再発性着床不全は女性不妊症の原因である。したがって、移植のための子宮内膜受容性を最適化することによって、妊娠率を改善することができる。
【0068】
核酸分子、ベクター、宿主細胞、タンパク質またはペプチド、結合分子、好ましくは本発明の阻害剤またはその組合せは例えば、in vitro受精において使用され得、ここで、卵母細胞は核酸分子、ベクター、宿主細胞、タンパク質またはペプチド、好ましくは本発明の阻害剤またはその組合せの存在下で培養された後、受精され、母体に移植される。
【0069】
がん患者からの組織試料におけるHLA-H発現の検出は、添付の実施例に示されている。より詳しくは、実施例1および2では膀胱がん患者における、実施例3では化学療法前後の膀胱がん患者における、実施例4では化学療法前後の卵巣がん患者における、HLA-H発現を示す。実施例2~4は、高レベルのHLA-H発現が有害な結果、例えばチェックポイント療法または化学療法耐性における低生存率と関連することを示す。さらに、実施例4には、HLA-H発現の増大がより高い腫瘍病期と正に関連することが示される。したがって、HLA-H発現は腫瘍が免疫系から逃れるのを助けると問題なく想定できる。これは次に、HLA-Hが免疫抑制剤として作用することを示す。
【0070】
この一連のエビデンスは、HLA-Hが偽遺伝子ではなく、実際にはタンパク質をコードする機能性遺伝子であることを示している。この点に関しては、データベースGeneCards(GC06P032554)の偽遺伝子HLA-H遺伝子エントリーに言及する。データベースエントリーはアミノ酸配列UniPortKB: P01893に言及し、タンパク質が偽遺伝子の産物であり得ることを警告し、タンパク質を「推定」として特徴付ける。本明細書の実験データにより、HLA‐Hは偽遺伝子ではなく、実際に機能性タンパク質をコードしていることが明らかになった。さらに予想外にも、この機能性タンパク質は、アミノ酸配列UniPortKB: P01893ではなく、配列番号1のアミノ酸配列である。
【0071】
アミノ酸配列UniPortKB: P01893は、間違って仮定されたオープンリーディングフレームに基づく。この理由のために、本明細書中に提供される配列番号1および54は、UniPortKB: P01893のサブパートと約90%の配列同一性のみを共有する。さらに、UniPortKB: P01893はHLA膜貫通ドメインを含み、本明細書に開示される正しいHLA-Hは含まない。推定上のHLA-H UniPortKB: P01893-はHLA-Gと同様に膜結合型であるが、HLA-Hが実際には可溶性のHLAであることが予想外に判明した。公開の遺伝子およびタンパク質データベースに含まれるHLA-H偽遺伝子および推定HLA-Hタンパク質の利用可能な配列が間違っていることは、ましてや配列番号1および2が正しい配列であることは、先行技術から明らかではなかった。
【0072】
実施例の上記のデーターはまた、HLA-Hによる腫瘍患者のワクチン接種が、HLA-H発現を介して免疫系からの腫瘍の逃避を抑制または阻止するのに役立つことを少なくとも妥当なものにする。従って、本発明の核酸分子、ベクター、宿主細胞、タンパク質もしくはペプチドまたは組合せは、免疫抑制剤として、または腫瘍ワクチンとして使用され得る。核酸分子は、好ましくは第1の態様の項目(g)の核酸分子である。国際公開第2018/140525号パンフレットはがんの治療のためのHLA-H抗体の使用を想定しているが、国際公開第2018/140525号パンフレットはいかなるHLA-Hも、ましてや本明細書で提供される配列番号1および2の正しいHLA-H配列は開示していない。同様に、国際公開第 2018/183921号パンフレットは潜在的な新規免疫療法標的の長いリストに言及し、ここで、HLA-Hは、このリストの中にある。繰り返しになるが、HLA-H配列は開示されていない。
【0073】
さらに、核酸分子、ベクター、宿主細胞、タンパク質もしくはペプチド、またはそれらの組合せは、移植のための子宮内膜受容性を最適化し、それによって妊娠を促進するために使用され得ることが想定される。核酸分子は、好ましくは第1の態様の項目(g)の核酸分子である。なぜなら、HLA-Gは栄養膜細胞の浸潤を制御し、局所的な免疫寛容を維持するためにサイトカイン分泌を調節することにより、着床に重要な役割を果たすと考えられているからである(Roussev and Coulam and J Assist Reprod Genet 2007 Jul; 24(7): 288-295参照)。さらに、移植前胚は可溶性HLA‐Gと可溶性HLA‐Fを発現することが知られている。可溶性HLA‐Gと可溶性HLA‐Fの発現濃度が高いほど胚の着床率が高かった。従って、高レベルのHLA-H発現は着床の成功と一致するが、低レベルのHLA-H発現は着床の失敗と一致することも予想される。
【0074】
本発明は第2の態様において、本発明の第1の態様に関連して定義される核酸分子および/または本発明の第1の態様に関連して定義されるタンパク質の結合分子の阻害剤、好ましくは免疫活性化因子として使用するための、好ましくは腫瘍の治療に使用するための、本発明の第1の態様に関連して定義されるタンパク質の阻害剤に関する。
【0075】
本発明によるタンパク質の結合分子は、本発明によるタンパク質に結合することができる化合物である。結合分子は、好ましくは本発明によるタンパク質に特異的に結合する。特異的結合は、結合分子が本質的に、本タンパク質以外の他のタンパク質またはペプチドに結合しないか、または本質的に結合しないことを示す。特に、結合分子は、HLA-H以外の他のHLAタンパク質に結合することができないことが好ましい。本発明によるタンパク質の結合分子は例えば、研究目的に適している。例えば、ELISAまたはウェスタンブロットのような免疫測定法において、本発明のタンパク質に結合する抗体を使用することができる。本発明によるタンパク質の結合分子は、好ましくは本発明によるタンパク質を阻害することができる。このケースでは、結合分子は阻害剤と呼ばれる。
【0076】
本発明の核酸分子および/またはタンパク質の発現を阻害する化合物は、(i)本発明の核酸分子および/または本発明のタンパク質をコードする遺伝子の転写を低下または防止する化合物、または(ii)本発明のタンパク質をコードするmRNAの翻訳を低下または防止する化合物である。(i)の化合物には、転写機構および/または該遺伝子のプロモーターおよび/またはエンハンサーのようなプロモーターから離れた発現制御エレメントとのその相互作用を妨害する化合物が含まれる。(ii)の化合物には、翻訳機構を妨害する化合物が含まれる。本発明の核酸分子および/またはタンパク質の発現を阻害する化合物は例えば、発現を制御するプロモーター領域を特異的に妨害することによって、本発明の核酸分子および/またはタンパク質の発現を特異的に阻害する。好ましくは、核酸分子および/または本発明のタンパク質の転写、または本発明のタンパク質の翻訳は、(例えば、化合物の非存在下での同じ実験設定と比較して)少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、例えば少なくとも90%または95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは約100%減少する。
【0077】
本発明による核酸分子および/または本発明のタンパク質の活性を阻害する化合物は前記核酸分子および/またはタンパク質に、その/それらの機能を低い効率で実行させる。
核酸分子の活性を阻害する化合物および/またはタンパク質は、前記核酸分子および/またはタンパク質の活性を特異的に阻害する。以下でさらに詳述するように、核酸分子の活性を阻害する化合物および/または本発明のタンパク質は核酸分子および/またはタンパク質自身と相互作用することによって、または前記核酸分子を産生し、および/または前記タンパク質を産生し、および/または前記タンパク質に結合する細胞を特異的に阻害する(好ましくは殺す)ことによって、前記核酸分子および/またはタンパク質の活性を特異的に阻害することができる。好ましくは、本発明の核酸分子および/またはタンパク質の活性が、(例えば、化合物の非存在下での同じ実験設定と比較して)少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、例えば少なくとも90%または95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは約100%減少する。
【0078】
本発明の核酸分子および/またはタンパク質の活性は本発明によるものであり、好ましくは、がん患者における化学療法に対する耐性を誘導し、および/またはがん患者における無増悪ならびに全生存率を減少させるその能力である(添付の実施例も参照のこと)。本明細書中で言及される化学療法は、アジュバント化学療法またはネオアジュバント化学療法であり得、そして好ましくはネオアジュバント化学療法である。化学療法はがん細胞を破壊したり、増殖を止めたり、症状を改善したりするために薬を使用する。ネオアジュバント化学療法(術前または初回化学療法とも呼ばれる)では、腫瘍の外科的摘出の前に薬物治療が行われる。これは、手術後の薬物治療であるアジュバント化学療法とは対照的である。この活性を決定するための手段および方法は当技術分野で確立されており、以下の実施例で説明される。したがって、本発明の医療態様によれば、本発明の核酸分子および/またはタンパク質のこれらの活性は阻害されるべきである。
【0079】
阻害剤の抑制の有効性は、阻害剤の存在下での活性の濃度を阻害剤の非存在下での濃度と比較する方法によって定量することができる。例えば、形成される核酸分子の量および/またはタンパク質の変化を測定に用いることができる。いくつかの阻害剤の有効性は、ハイスループットフォーマットにおいて同時に決定され得る。ハイスループットアッセイは生化学的アッセイ、細胞アッセイ、または他のアッセイとは独立して、一般に、マイクロタイタープレートのウェル中で実施され得、ここで、各プレートは、96、384、または1536ウェルを含み得る。周囲温度以外の温度でのインキュベーション、および試験化合物とアッセイ混合物との接触を含むプレートの取り扱いは、好ましくはピペット装置を含む1つ以上のコンピュータ制御ロボットシステムによって行われる。試験化合物の大きなライブラリーをスクリーニングし、および/またはスクリーニングを短時間で行う場合、例えば10、20、30、40、50または100個の試験化合物の混合物を各ウェルに添加することができる。ウェルが予想される活性を示すケースでは、試験化合物の前記混合物が前記活性を生じる前記混合物中の1つ以上の試験化合物を同定するためにデコンボリューションされてもよい。
【0080】
核酸分子および/またはタンパク質の発現および/または活性を阻害する化合物は小胞(例えば、リポソームまたはエキソソーム)として処方され得る。リポソームは薬物送達の観点からそれらが提供する特異性および作用期間のために、大きな関心を集めている。リポソーム細胞型送達システムは核酸、例えば、siRNAを細胞に効果的にin vivo送達するために使用されている(Zimmermann et al. (2006) Nature, 441:111-114)。リポソームは、親油性材料および水性内部から形成された膜を有する単層または多層小胞である。水性部分は、送達される組成物を含有する。カチオン性リポソームは、細胞壁に融合することができるという利点を有する。非カチオン性リポソームは細胞壁と効率的に融合することはできないが、in vivoでマクロファージおよび他の細胞によって食作用を受ける。エキソソームは、RNAを含む種々の異なる分子を保有することができる脂質パッケージである (Alexander et al. (2015), Nat Commun; 6:7321)。その中に含まれる分子を含むエキソソームは、レシピエント細胞によって取り込まれ得る。したがって、エキソソームは細胞間情報伝達の重要なメディエーターであり、細胞ニッチのレギュレーターである。エキソソームは、送達ビヒクルとして、例えば造影剤または薬物として使用することができるので、診断および治療目的に有効である。
【0081】
本発明の核酸分子および/またはタンパク質の発現および/または活性を阻害する化合物は、適当な投与量および/または治療有効量で対象に投与することができる。これは、本発明の医薬組成物に関連して、本明細書中で以下にさらに議論される。
【0082】
変化を観察するために必要とされる治療の長さおよび奏効が生じる処置後の間隔は、所望の効果に依存して変化する。特定の量は、当業者に周知の従来の試験によって決定することができる。適切なテストは例えば、Tamhane and Logan(2002), “Multiple Test Procedures for Identifying the Minimum Effective and Maximum Safe Doses of a Drug”, Journal of the American statistical association, 97(457):1-9に記載されている。
【0083】
本発明の核酸分子および/またはタンパク質の発現および/または活性を阻害する化合物は、好ましくは薬学的に許容される担体または賦形剤と混合されて、医薬組成物を形成する。適切な薬学的に許容される担体または賦形剤ならびに医薬組成物の製剤は、本明細書において上に議論されている。
【0084】
免疫活性化剤とは、免疫応答を促進することができる薬物である。免疫活性化剤は免疫活性化治療において、例えば、疾患細胞に対する免疫応答を促進および/または開始するために使用され得る。免疫応答は、好ましくは疾患細胞に対する細胞傷害性免疫応答および/またはT細胞応答である。
【0085】
言及したように、免疫活性化剤は、好ましくは腫瘍の治療の状況において使用される。添付の実施例から明らかなように、HLA-Hは腫瘍において発現される。HLA-Hは分泌型タンパク質であり、以下の実施例のデータは、HLA-Hが腫瘍細胞によって分泌され、それによってHLA-Hタンパク質の「雲」が腫瘍細胞の周囲に形成され、この雲は腫瘍細胞が免疫系によって認識され除去されるのを防ぐことを示す。結合分子、好ましくは阻害剤はこの保護雲を腫瘍細胞から取り除き、それによって腫瘍細胞に対する免疫応答を促進および/または開始する。この免疫活性化機構は、腫瘍細胞以外の疾患細胞についても準用される。
【0086】
腫瘍は、生理学的機能を有さず、制御されない通常急速な細胞増殖から生じる、組織の異常な良性または悪性の新しい増殖である。固形腫瘍は、非固形(または液体)腫瘍とは対照的に、通常、嚢胞や液体部分を含まない異常な組織の塊である。
【0087】
本明細書中上記で議論されるように、本明細書中以下の実施例におけるデーターに基づいて、HLA-H発現は腫瘍によって使用されて、免疫系を逃れ、そして確立された抗腫瘍療法(例えば、化学療法および免疫チェックポイント療法)に対して抵抗性になることが問題なく想定され得る。HLA-Hは免疫抑制剤として作用することで腫瘍を助けると考えられている。したがって、HLA-Hの阻害剤が、特に腫瘍の治療のための免疫活性化剤として使用するのに適していることも問題なく想定することができる。
【0088】
HLA-Hの阻害剤は、確立された抗腫瘍療法、好ましくは化学療法または免疫チェックポイント療法、より好ましくは免疫チェックポイント療法、最も好ましくは抗-PD-L1療法と組合せて使用されることが好ましい。実施例1ではHLA-H発現と免疫チェックポイントPD-L1との正の相関が示され、実施例2では高レベルのHLA-Hを発現する腫瘍患者が抗-PD-L1抗体で処理された場合、生存率が低下することがさらに示される。このことは、PD-L1およびHLA-Hの両方を発現する患者が抗-PD-L1療法が失敗しないようにするために、抗-PD-L1療法ならびにHLA-H阻害剤によって治療されなければならないことを示す。
【0089】
本発明の第2の態様の好ましい実施形態によれば、(I)核酸分子の阻害剤は低分子、アプタマー、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイム、アンチセンス核酸分子、CRISPR-Cas9ベースの構築物、CRISPR-Cpf1ベースの構築物、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、および転写アクチベーター様(TAL)エフェクター(TALE)ヌクレアーゼから選択され、および/または(II)本タンパク質の結合分子、好ましくは本タンパク質の阻害剤は、低分子、抗体または抗体ミメティック、アプタマーから選択され、抗体ミメティックは好ましくはアフィボディ、アドネクチン、アンチカリン、DARPin、アビマー、ナノフィチン、アフィリン、Kunitzドメインペプチド、Fynomers(登録商標)、三重特異性結合分子およびプロボディから選択される。
【0090】
本明細書で使用される「低分子」は、好ましくは有機分子である。有機分子は炭素基礎を有する化合物のクラスに関連するか、または属し、炭素原子は、炭素-炭素結合によって一緒に連結される。化学化合物の供給源に関連する用語「有機」の本来の定義であり、有機化合物は植物または動物または微生物の供給源から得られる炭素含有化合物であり、一方、無機化合物は、鉱物源から得られたものである。有機化合物は、天然であっても合成であってもよい。有機分子は好ましくは芳香族分子であり、より好ましくはヘテロ芳香族分子である。有機化学では、芳香族性という用語が同じ原子セットを有する他の幾何学的または結合配列よりも安定性が高い共鳴結合の環を有する環状(環形状)、平面(平坦)分子を表すために使用される。芳香族分子は非常に安定であり、他の物質と反応するために容易に分解しない。複素芳香族分子において、芳香環中の原子の少なくとも1つは、炭素以外の原子、例えば、N、S、またはOである。上記の全ての有機分子について、分子量は好ましくは200Da~1500Daの範囲であり、より好ましくは300Da~1000Daの範囲である。
【0091】
あるいは、本発明に係る「低分子」が無機化合物であってもよい。無機化合物は鉱物源に由来し、炭素原子を持たないすべての化合物(二酸化炭素、一酸化炭素および炭酸塩を除く)を含む。好ましくは、低分子が約2000Da未満、または約500Da未満などの約1000Da未満、さらにより好ましくは約Da amu未満の分子量を有する。低分子の大きさは、当技術分野でよく知られている方法、例えば質量分析によって決定することができる。低分子は、例えば、標的分子のクリスタル構造に基づいて設計することができ、ここでは、生物学的活性の原因と考えられる部位を同定し、in vivoハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイのようなin vivoアッセイで検証することができる。
【0092】
用語「抗体」は例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含み、さらに、標的、例えば、配列番号1または54のHLA-Hタンパク質に対する結合特異性をなお保持する誘導体またはその断片もまた、用語「抗体」に含まれる。抗体断片または誘導体はとりわけ、FabまたはFab´断片、Fd、F(ab´)2、FvまたはscFv断片、VhHまたはV-NARドメインなどの単一ドメインVHまたはV-様ドメイン、ならびにミニボディ、ダイアボディ、トリボディまたはトリプレボディ(triplebodies)、テトラボディまたは化学的に結合したFab´-マルチマーなどの多量体フォーマットを含む(例えば, Harlow and Lane “Antibodies, A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 198; Harlow and Lane “Using Antibodies: A Laboratory Manual” Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999; Altshuler EP, Serebryanaya DV, Katrukha AG. 2010, Biochemistry (Mosc)., vol.75(13), 1584; Holliger P, Hudson PJ.2005, Nat Biotechnol., vol.23(9), 1126を参照)。多量体フォーマットは特に、2つの異なったタイプの抗原に同時に結合することができる二重特異的抗体を含む。第1の抗原は、本発明のタンパク質上に見出すことができる。第2の抗原は例えば、がん細胞または特定の型のがん細胞上で特異的に発現される腫瘍マーカーであり得る。二重特異的抗体フォーマットの非限定的な例は、Biclonics(二重特異的、全長ヒトIgG抗体)、DART(Dual-affinity Re-targeting Antibody)およびBiTE(種々の抗体の2つの一本鎖可変断片(scFvs)からなる)分子である(Kontermann and Brinkmann (2015), Drug Discovery Today, 20(7):838-847)。
【0093】
用語「抗体」はまた、キメラ(ヒト定常ドメイン、非ヒト可変ドメイン)、一本鎖およびヒト化(非ヒトCDRを除くヒト抗体)抗体などの実施形態を含む。
【0094】
抗体の産生のための様々な技術は当該分野で周知であり、そして例えば、Harlow and Lane(1988)および(1999)ならびにAltshuler et al. 2010(上掲)に記載される。従って、ポリクローナル抗体は添加剤およびアジュバントとの混合物中の抗原での免疫化の後に動物の血液から得られ得、そしてモノクローナル抗体は連続的な細胞株培養によって産生される抗体を提供する任意の技術によって産生され得る。このような技術の例は,例えば、 Harlow E and Lane D, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988; Harlow E and Lane D, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999に記載され、そしてヒトモノクローナル抗体を製造するための、最初にKohler and Milstein, 1975によって記載されたハイブリドーマ技術、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(例えばKozbor D, 1983, Immunology Today, vol.4, 7; Li J, et al. 2006, PNAS, vol. 103(10), 3557を参照)およびEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al., 1985, Alan R. Liss, Inc, 77-96)を含む。さらに、組換え抗体はモノクローナル抗体から得ることができ、またはファージ、リボソーム、mRNA、もしくは細胞ディスプレイなどの様々なディスプレイ方法を用いてde novoで調製することができる。組換え(ヒト化)抗体の発現に適したシステムは例えば、細菌、イースト、昆虫、哺乳動物細胞株、またはトランスジェニック動物もしくは植物から選択することができる(例えば、米国特許第6,080,560号; Holliger P, Hudson PJ.2005, Nat Biotechnol., vol.23(9), 11265を参照されたい)。さらに、一本鎖抗体の産生のために記載された技術(特に、米国特許第4,946,778号参照)は、HLA-Hのエピトープに特異的な一本鎖抗体を産生するように適合され得る。BIAcoreシステムで使用されるような表面プラズモン共鳴は、ファージ抗体の効率を増加させるために使用され得る。
【0095】
本明細書中で使用される場合、「抗体模倣体」という語は抗体のように、抗原に特異的に結合することができる化合物、例えば、本願における配列番号1または54のHLA-Hタンパク質を指すが、抗体に構造的に関連しない。抗体模倣物は通常、約3~20kDaのモル質量を有する人工ペプチドまたはタンパク質である。例えば、抗体模倣体は、アフィボディ、アドネクチン、アンチカリン、DARPin、アビマー、ナノフィチン、アフィリン、クニッツドメインペプチド、Fynomer(登録商標)、三重特異性結合分子およびプロドディー(prododies)からなる群より選択され得る。これらのポリペプチドは当該分野で周知であり、そして以下にさらに詳細に記載される。
【0096】
本明細書で使用される「アフィボディ」という語は、ブドウ球菌タンパク質AのZドメインに由来する抗体模倣物のファミリーを指す。構造的には、アフィボディ分子は融合タンパク質に組み込むこともできる3ヘリックスバンドル領域に基づいている。アフィボディはそれ自身、約6kDaの分子量を有し、高温および酸性またはアルカリ性条件下で安定である。標的特異性は、親タンパク質領域の結合活性に関与する2つのαヘリックスに位置する13のアミノ酸のランダム化によって得られる(Feldwisch J, Tolmachev V.; (2012) Methods:Mol Biol.899:103-26)。
【0097】
用語「アドネクチン」(「モノボディ」とも呼ばれる)は、本明細書中で使用される場合、ヒトフィブロネクチンIII(10Fn3)の10番目の細胞外ドメインに基づく分子に関し、2~3の露出したループを有する94残基のIg様βサンドイッチフォールドを採用するが、中央のジスルフィド架橋を欠く(Gebauer and Skerra (2009) Curr Opinion in Chemical Biology 13:245-255)。所望の標的特異性、すなわちHLA-Hに対するアドネクチンは、タンパク質の特異的ループに修飾を導入することによって遺伝子操作することができる。
【0098】
本明細書中で使用される用語「アンチカリン」は、リポカリンに由来する改変タンパク質を指す(Beste G, Schmidt FS, Stibora T, Skerra A. (1999) Proc Natl Acad Sci U S A. 96(5):1898-903; Gebauer and Skerra (2009) Curr Opinion in Chemical Biology 13:245-255)。アンチカリンは8本鎖βバレルを有し、リポカリンの中で高度に保存されたコアユニットを形成し、開いた末端に4つの構造的に可変なループを介してリガンドに対する結合部位を天然に形成する。アンチカリンは、IgGスーパーファミリーとは相同ではないが、これまで抗体の結合部位に典型的と考えられてきた特徴を示す:(i)配列変異の結果としての高い構造可塑性、(ii)立体配座柔軟性の上昇で、形状の異なる標的への誘導適合を可能にする。
【0099】
本明細書中で使用される用語「DARPin」は、設計されたアンキリンリピートドメイン(166残基)を指し、これは、典型的には3回の反復β-ターンから生じる硬い界面を提供する。DARPinは通常、人工的なコンセンサス配列に対応する3つの反復配列をもっており、反復ごとに6つの位置がランダム化されている。そのため、DARPinは構造的柔軟性を欠いている(Gebauer and Skerra, 2009)。
【0100】
本明細書中で使用される用語「アビマー」は、種々の膜受容体のA-ドメインに由来し、リンカーペプチドによって連結される、各々30~35アミノ酸の2つ以上のペプチド配列からなる抗体模倣物のクラスを指す。標的分子の結合はAドメインを介して起こり、所望の結合特異性、すなわちHLA-Hに対するドメインは、例えばファージディスプレイ技術によって選択することができる。アビマーに含まれる異なるAドメインの結合特異性は同一であってもよいが、同一である必要はない(Weidle UH, et al., (2013), Cancer Genomics Proteomics; 10(4): 155-68)。
【0101】
「ナノフィチン」(別名アフィチン)は、スルホロブス・アシドカルダリウスのDNA結合タンパク質Sac7dに由来する抗体模倣タンパク質である。ナノフィチンは通常、約7kDaの分子量を有し、そして結合表面上のアミノ酸をランダム化することによって、標的分子(例えば、HLA-H)に特異的に結合するように設計される(Mouratou B, Behar G, Paillard-Laurance L, Colinet S, Pecorari F., (2012) Methods: Mol Biol.; 805:315-31)。
【0102】
本明細書で使用される「アフィリン」という語は、ガンマ-Bクリスタリン性またはユビキチンのいずれかを足場として使用し、ランダム突然変異誘発によってこれらのタンパク質の表面上のアミノ酸を修飾することによって開発される抗体模倣物を指す。所望の標的特異性、すなわちHLA-Hに対するアフィリンの選択は例えば、ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイ技術によって行われる。足場にもよるが、アフィリンの分子量はおよそ10または20kDaである。本明細書で使用される場合、用語アフィリンはまた、アフィリンの二量体型または多量体型を指す(Weidle UH, et al., (2013), Cancer Genomics Proteomics; 10(4):155-68)。
【0103】
「クニッツドメインペプチド」は、ウシ膵臓トリプシン阻害剤(BPTI)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)または組織因子経路阻害剤(TFPI)のようなクニッツ型プロテアーゼ阻害剤のクニッツドメインに由来する。クニッツドメインは約6kDAの分子量を有し、必要な標的特異性、すなわちHLA-Hに対するドメインはファージディスプレイなどのディスプレイ技術によって選択することができる(Weidle et al., (2013), Cancer Genomics Proteomics; 10(4):155-68)。
【0104】
本明細書中で使用される「Fynomer(登録商標)」という用語は、ヒトFyn SH3ドメインに由来する非免疫グロブリン由来結合ポリペプチドを指す。Fyn SH3由来ポリペプチドは当該分野で周知であり、そして例えば、 Grabulovski et al. (2007) JBC, 282, p. 3196-3204, WO 2008/022759, Bertschinger et al (2007) Protein Eng Des Sel 20(2):57-68, Gebauer and Skerra (2009) Curr Opinion in Chemical Biology 13:245-255, またはSchlatter et al. (2012), MAbs 4:4, 1-12に記載されている。
【0105】
本明細書で用いられる用語「三重特異性結合分子」は、ポリペプチド分子が三つの結合ドメインを有し、よって三つの異なったエピトープに対して結合、好ましくは特異的に結合することができることを意味する。これら3つのエピトープのうちの少なくとも1つは、本発明の第4の態様のタンパク質のエピトープである。2つの他のエピトープはまた、本発明のタンパク質のエピトープであり得るか、または1つもしくは2つの異なった抗原のエピトープであり得る。三重特異性結合分子は、好ましくはTriTacである。TriTacは、3つの結合ドメインから構成され、血清半減期が延長され、モノクローナル抗体の約3分の1の大きさである固形腫瘍のためのT細胞誘導(T-cell engager)である。
【0106】
本明細書で使用される「プロボディ」という語は、プロテアーゼ活性化可能な抗体プロドラッグを指す。プロボディは、真正のIgG重鎖および修飾された軽鎖からなる。
マスキングペプチドは、腫瘍特異的プロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーを介して軽鎖に融合される。マスキングペプチドは健康な組織へのプローブ様結合を防止し、それによって毒性の副作用を最小限にする。
【0107】
アプタマーは、特定の標的分子に結合する核酸分子またはペプチド分子である。アプタマーは通常、大きなランダムな配列プールからこれらを選択することにより作製されるが、天然のアプタマーも、リボスイッチに存在する。アプタマーは、基本研究および臨床目的の両方において、高分子薬物として用いることができる。アプタマーはリボザイムと組み合わせることができ、それらの標的分子の存在下で自己切断する。これらの化合物分子は、さらなる研究的、工業的および臨床用途を有する (Osborne et. al. (1997), Current Opinion in Chemical Biology, 1:5-9; Stull & Szoka (1995), Pharmaceutical Research, 12, 4:465-483)。
【0108】
核酸アプタマーは、通常オリゴヌクレオチドの(通常は短い)鎖からなる核酸種である。典型的には、低分子、タンパク質、核酸、さらには細胞、組織および生物などの種々の分子標的に結合するために、in vitro選択の反復ラウンドまたは同等にSELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの体系的進化)を介して改変されている。
【0109】
ペプチドアプタマーは、通常、細胞内の他のタンパク質相互作用を妨害するように設計されたペプチドまたはタンパク質である。それらは、両端でタンパク質足場に結合した可変ペプチドループからなる。この二重構造束縛は、ペプチドアプタマーの結合親和性を、抗体に匹敵するレベルまで大きく増加させる(ナノモル範囲)。可変ペプチドループは典型的には10~20個のアミノ酸を含み、足場は、良好な溶解特性を有する任意のタンパク質であり得る。現在、細菌タンパク質チオレドキシン-Aは最も一般的に使用される足場タンパク質であり、可変ペプチドループは酸化還元活性部位内に挿入され、それは野生タンパク質中の-Cys-Gly-Pro-Cys-ループ(配列番号8)であり、2つのシステイン側鎖はジスルフィド架橋を形成することができる。ペプチドアプタマーの選択は異なるシステムを用いて行うことができるが、現在最も広く用いられているのは酵母ツーハイブリッドシステムである。
【0110】
アプタマーは、一般的に使用される生体分子、特に抗体のそれらに匹敵する分子認識特性を提供するので、バイオテクノロジーおよび治療用途のための有用性を提供する。アプタマーは、その識別認識に加えて、試験管内で完全に改変することができ、化学合成により容易に生産され、望ましい貯蔵特性を有し、治療用途においてほとんどまたは全く免疫原性を誘発しないので、抗体よりも有利である。非修飾アプタマーは血流から速やかに除去され、半減期は数分から数時間である。これは主に、アプタマーが本来低分子量である結果、ヌクレアーゼの分解と腎臓による身体からのクリアランスのためである。非修飾アプタマーの応用は、現在、血液凝固のような一過性の状態の治療、または局所送達が可能な眼のような器官の治療に焦点を当てている。この迅速なクリアランスは、in vivo画像診断などの応用において利点となりうる。2´-フッ素置換ピリミジン、ポリエチレングリコール(PEG)結合、アルブミンへの融合または他の半減期延長タンパク質などのいくつかの修飾が科学者に利用可能であり、アプタマーの半減期を数日間または数週間にわたって増加させることができる。
【0111】
議論したように、上記の低分子、抗体または抗体模倣体およびアプタマーは、本発明のタンパク質に特異的に結合し得る。この結合は本発明のタンパク質の免疫抑制特性を遮断し得、そして好ましくは、がん患者において化学療法に対する耐性を誘導し、そして/またはがん患者において無増悪ならびに全生存率を減少させるその能力を遮断し得る。このケースでは低分子、抗体または抗体模倣物およびアプタマーは遮断低分子、抗体または抗体模倣物およびアプタマーとも呼ばれる。遮断低分子、抗体または抗体模倣物およびアプタマーは、本発明のタンパク質と通常相互作用するリガンドおよびレセプターのような他の細胞成分との本発明のタンパク質の相互作用を遮断する。
【0112】
低分子、抗体または抗体模倣物およびアプタマーはまた、薬物-コンジュゲートのフォーマットで生成され得る。このケースでは低分子、抗体または抗体模倣物およびアプタマーはそれ自身、阻害効果を有さないかもしれないが、阻害効果は薬物によってのみ付与される。
低分子、抗体または抗体模倣物およびアプタマーは、本発明のタンパク質を産生および/または結合する細胞への薬物の部位特異性結合を付与する。薬物は、好ましくはタンパク質を産生および/または結合する細胞を殺すことができる。従って、本発明のタンパク質に結合する分子の標的化能力を薬物の細胞殺傷能力と組み合わせることによって、薬物複合体は、健常組織と疾患組織および細胞との間の識別を可能にする阻害剤となる。薬剤コンジュゲートをデザインするための開裂可能および非開裂可能リンカーは、当技術分野で公知である。細胞を殺傷することができる薬物の非限定的な例は、がん細胞に放射線を直接送達する細胞増殖抑制剤および放射性同位体である。
【0113】
さらに、低分子、抗体または抗体模倣物およびアプタマーの結合および/または阻害活性を、特定の組織または細胞型、特に罹患組織または細胞型に限定することができる。例えば、プロボディを設計することができる。プロボディでは低分子、抗体または抗体模倣物またはアプタマーは本発明のタンパク質への結合を制限または防止するマスキングペプチドに結合され、このマスキングペプチドはプロテアーゼによって切断され得る。プロテアーゼは、基質として知られる特異的アミノ酸配列を切断することによってタンパク質をより小さな断片に消化する酵素である。正常の健康な組織では、プロテアーゼ活性は厳密に制御される。がん細胞では、プロテアーゼ活性はアップレギュレートされる。プロテアーゼ活性が調節され、最小限である健康な組織または細胞において、プロボディの標的結合部位はマスクされたままであり、したがって結合することができない。一方、プロテアーゼ活性がアップレギュレートされる疾患組織または細胞では、プロボディの標的結合部位はマスクされず、したがって結合および/または阻害することができる。
【0114】
本発明によれば、短鎖干渉RNAまたはサイレンシングRNAとしても知られる「低分子干渉RNA(siRNA)」という用語は、生物学において様々な役割を果たす18~30、好ましくは19~25、最も好ましい21~23またはさらに好ましい21ヌクレオチド長二本鎖RNA分子を指す。最も顕著なことは、siRNAが特定の遺伝子の発現を妨害するRNA干渉(RNAi)経路に関与することである。siRNAは、RNAi経路における役割に加えて、RNAi関連経路においても、例えば、抗ウイルス機構として、またはゲノムのクロマチン構造を形成する際に、作用する。
【0115】
天然に存在するsiRNAは、明確な構造をもっている。すなわち、両端に2ntの3´突出部をもつ短い二本鎖のRNA(dsRNA)である。各鎖は5´ホスフェート基と3´ヒドロキシル(-OH)基をもつ。この構造は、長いdsRNAか小さなヘアピンRNAのどちらかをsiRNAに変換する酵素であるダイサーによるプロセシングの結果である。siRNAを細胞内に外因的に(人工的に)導入して、目的の遺伝子の特異的なノックダウンをもたらすこともできる。このようにして、配列が既知である本質的に任意の遺伝子を、適切に調整されたsiRNAとの配列相補性に基づいて標的化することができる。二本鎖RNA分子またはその代謝プロセシング産物は、標的特異的核酸修飾、特にRNA干渉および/またはDNAメチル化を媒介することができる。外因的に導入されたsiRNAは、その3´末端および5´末端に突出部を欠くことがあるが、しかしながら、少なくとも1つのRNA鎖が5´および/または3´-突出部を有することが好ましい。好適には、二本鎖の一方の末端は、1~5ヌクレオチド、より好適には1~3ヌクレオチド、最も好適には2ヌクレオチドの3´-突出部を有する。もう一方の末端は平滑末端であってもよいし、最大6ヌクレオチドの3´-突出部を有していてもよい。一般に、siRNAとして作用するのに適した任意のRNA分子が、本発明において想定される。これまで最も効率的なサイレンシングは、2-nt 3´突出部を有するように対になった21-ntセンスおよび21-ntアンチセンス鎖から構成されるsiRNA二重鎖で得られた。2-ntの3´突出部の配列は、第1の塩基対に隣接する対になっていないヌクレオチドに限定された標的認識の特異性に少し寄与する(Elbashir et al. 2001)。3´突出部の2´-デオキシヌクレオチドはリボヌクレオチドと同程度に効率的であるが、合成がより安価で、おそらくヌクレアーゼ抵抗性がより高い。siRNAの送達は当該分野で公知の任意の方法を使用して、例えば、siRNAを生理食塩水と組み合わせ、組合せを静脈内または鼻腔内に投与することによって、またはsiRNAをグルコース中に処方することによって(例えば、5%グルコースなど)、またはカチオン性脂質を使用して、siRNA送達in vivoのために、静脈内(IV)または腹腔内(IP)のいずれかで使用することができる(De Fougerolles et al. (2008), Current Opinion in Pharmacology, 8:280-285; Lu et al. (2008), Methods in Molecular Biology, vol. 437: Drug Delivery Systems ー Chapter 3: Delivering Small Interfering RNA for Novel Therapeutics)。
【0116】
短いヘアピンRNA(shRNA)は、RNA干渉を介して遺伝子発現をサイレンシングするために使用できる、緊密なヘアピンターンを作るRNAの配列である。shRNAは、細胞に導入されたベクターを使用し、U6プロモーターを利用して、常にshRNAが発現されるようにする。このベクターは通常娘細胞に受け継がれ、遺伝子サイレンシングを受け継ぐことができる。shRNAヘアピン構造は細胞機構によってsiRNAに切断され、次にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合する。この複合体は結合しているsiRNAに一致するmRNAに結合して切断する。本発明で使用されるsi/shRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイトおよび従来のDNA/RNA合成装置を用いて化学的に合成されることが望ましい。RNA合成試薬の供給業者は、Proligo (Hamburg、ドイツ)、Dharmacon Research (Lafayette, CO, USA)、Pierce Chemical(Perbio Scienceの一部、Rockford, IL, USA)、Glen Research (Sterling, VA, USA)、ChemGenes (Ashland, MA, USA)およびCruachem (Glasgow, UK)である。最も好都合なことに、siRNAまたはshRNAは、異なる品質およびコストのRNA合成生成物を販売する、市販のRNAオリゴ合成供給業者から得られる。一般に、本発明で適用可能なRNAは、従来技術で合成され、RNAiに適した品質で容易に提供される。
【0117】
RNAiに影響を及ぼすさらなる分子には、例えば、マイクロRNA(miRNA)が含まれる。前記RNA種は一本鎖RNA分子である。内因的に存在するmiRNA分子は、相補的なmRNA転写産物に結合し、RNA干渉と同様のプロセスを通して、前記mRNA転写産物の分解の引き金を引くことによって、遺伝子発現を調節する。したがって、外因的miRNAはそれぞれの細胞に導入した後に、HLA-Hの阻害剤として使用され得る。
【0118】
リボザイム(リボ核酸酵素由来、RNA酵素または触媒RNAとも呼ばれる)は、化学反応を触媒するRNA分子である。多くの天然リボザイムは、自身の切断または他のRNAの切断のいずれかを触媒するが、リボソームのアミノトランスフェラーゼ活性を触媒することもわかっている。よく特徴づけられた小さな自己切断RNAの非限定的な例は、ハンマーヘッド、ヘアピン、肝炎デルタウイルス、およびin vitroで選択された鉛依存性リボザイムであるが、グループIイントロンはより大きなリボザイムの例である。触媒による自己切断の原理は近年よく確立されるようになった。ハンマーヘッド型リボザイムは、リボザイム活性をもつRNA分子の中で最もよく特徴づけられている。ハンマーヘッド型構造が異種RNA配列に組み込まれ、リボザイム活性がそれによってこれらの分子に移入され得ることが示されたので、標的配列が潜在的に一致する切断部位を含むならば、ほぼあらゆる標的配列に対する触媒的アンチセンス配列を作製することができるようである。ハンマーヘッド型リボザイムを構築する基本原理は以下の通りである:GUC(またはCUC)トリプレットを含むRNAの関心領域が選択される。通常6~8ヌクレオチドの2本のオリゴヌクレオチド鎖が取られ、触媒ハンマーヘッド配列がそれらの間に挿入される。最良の結果は通常、短いリボザイムと標的配列で得られる。
【0119】
また、最近の発展は、ハンマーヘッド型リボザイムを有する小さな化合物を認識するアプタマーの組合せである。標的分子と結合したときにアプタマーに誘導される立体配座変化はリボザイムの触媒機能を調節することができる。
【0120】
用語「アンチセンス核酸分子」は、本明細書中で使用される場合、標的核酸に相補的である核酸を指す。本発明によるアンチセンス分子は、標的核酸と相互作用することができ、より具体的には、標的核酸とハイブリダイズすることができる。ハイブリッドの形成により、標的遺伝子の転写および/または標的mRNAの翻訳が減少または遮断される。アンチセンス技術に関する標準的な方法が記載されている(例えば、Melaniら、Cancer Res.(1991)51:2897-2901を参照)。
【0121】
CRISPR/Cas9はCRISPR‐Cpf1と同様に、ほぼ全ての細胞/モデル生物に適用可能であり、ノックアウト突然変異、染色体欠失、DNA配列の編集および遺伝子発現の調節に用いることができる。遺伝子発現の調節は、転写抑制因子と結合した触媒的に死んだCas9酵素(dCas9)を用いて、特定遺伝子、ここではHLA-H遺伝子の転写を抑制することによって操作することができる。同様に、触媒的に不活性な「死んだ」Cpf1ヌクレアーゼ(PrevotellaおよびFrancisella-1由来のCRISPR)を、合成転写リプレッサーまたはアクチベーターに融合させて、内因性プロモーター(例えば、HLA-H発現を制御するプロモーター)をダウンレギュレートし得る。あるいは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)または転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)のDNA結合ドメインがHLA-H遺伝子またはそのプロモーター領域またはその5’-UTRを特異的に認識し、それによってHLA-H遺伝子の発現を阻害するように設計することができる。
【0122】
HLA-H遺伝子またはHLA-H発現に関与する調節分子を標的とする核酸分子を阻害するものとして提供される阻害剤も、本明細書において想定される。HLA-Hまたは調節分子の発現を減少または消失させるこのような分子には限定されるものではないが、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼおよび転写アクチベーター様(TAL)ヌクレアーゼが含まれる。このような方法は Silva et al., Curr Gene Ther.2011;11(1):11-27; Miller et al., Nature biotechnology.2011;29(2):143-148, and Klug, Annual review of biochemistry.2010; 79:213-231に記載されている。
【0123】
第2の態様に関連して、第1の態様に関連して定義されるような本タンパク質の結合分子、好ましくは第1の態様に関連して定義されるようなタンパク質の阻害剤はまた、T細胞のような細胞であってもよく、ここでT細胞は好ましくはCAR-T細胞である。
【0124】
細胞は一般に、その表面上に、結合分子、好ましくは、第1の態様に関連して定義されるタンパク質の阻害剤を担持する。T細胞のケースでは、結合分子、好ましくは阻害剤が第1の態様に関連して定義されるように、タンパク質を特異的に標的化する天然に存在するT細胞受容体か、またはキメラT細胞受容体である。キメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞としても知られる)は、免疫療法に用いる人工T細胞受容体を産生するよう遺伝子操作されたT細胞である。
【0125】
キメラ抗原受容体(CAR、キメラ免疫受容体としても知られる、キメラT細胞受容体または人工T細胞受容体)は、したがって、第一の態様に関連して定義されるようにタンパク質を特異的に標的化する新しい機能をT細胞に与えるように操作された受容体タンパク質である。受容体は、抗原結合機能とT細胞活性化機能の両方を組み合わせて1つの受容体にするので、キメラである。
【0126】
本発明は、第3の態様において、本発明の第1の態様の項目(I)(g)に定義される核酸分子または本発明の第1の態様に関連して定義されるタンパク質もしくはペプチドの、対象から得られる試料における、腫瘍を診断するための、および/または腫瘍を等級付けするための、および/または腫瘍予後を診断するための、および/または腫瘍をHLA-H低発現腫瘍もしくはHLA-H高発現腫瘍として分類するための、および/または移植不全を診断するための使用に関する。
【0127】
試料は、対象の体液または対象の臓器由来の組織試料であってもよい。体液の非限定的な例は、全血、血漿、血清、尿、腹膜液、および胸膜液、脳脊髄液、涙液、または溶液中のそれらからの細胞である。組織の非限定的な例は、結腸、肝臓、乳房、卵巣、および精巣である。組織試料は、吸引もしくは穿刺、切除によって、または生検もしくは切除された細胞材料につながる任意の他の外科的方法によって採取され得る。試料は処理された試料、例えば、凍結、固定、包埋等された試料であってもよい。好ましいタイプの試料は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)試料である。FFPE試料の調製は標準的な医療行為であり、これらの試料は長期間保存することができる。
【0128】
本明細書中で使用される「診断する」という言葉は、疾患の症候を患っている対象における疾患の同定に向けられる。本発明によれば、疾患は腫瘍または移植不全である。本明細書で使用される「悪性度判定する」という語は、腫瘍を有すると診断された対象における腫瘍細胞の細胞退形成の程度の同定を意味する。がんの悪性度分類に最もよく用いられるシステムは、the American Joint Commission on Cancerのガイドラインに従ったシステムである。これらのガイドラインに従って、以下の悪性度分類カテゴリーが区別される: GX(悪性度は評価できない)、G1(高分化;低悪性度)、G2(中分化;中悪性度)、G3(低分化、高悪性度);G4(未分化、高悪性度)。本明細書で使用される「予後診断」という用語は、腫瘍などの疾患からの回復の見通しまたは機会に向けられ、および/または腫瘍などの疾患の生存の見通しまたは機会である。腫瘍の場合、予後は、標的病変の腫瘍サイズ変化、疾患特異的生存(DSS)、無再発生存(RFS)、無増悪生存(PFS)および無遠隔再発生存の1つ以上を含み得、ここでDSSが好ましい。
【0129】
本発明に関して用語「対象」は、哺乳動物、好ましくは家畜またはペット動物、例えばウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌまたはネコ、最も好ましくはヒトを指す。
【0130】
上述したように、腫瘍患者におけるHLA-H発現レベルの上昇は、腫瘍患者の無増悪生存期間および全生存期間の有意な短縮と関連している。したがって、HLA-H発現のレベルは、より高い悪性度とも一致する。さらに、HLA‐H発現が全ての腫瘍試料に認められたことから、HLA‐H発現は予後マーカーとしてだけでなく、腫瘍の診断マーカーとしても役立つことを実証した。
【0131】
上記の使用において、陽性および/または陰性試料ならびに所定の基準が組み込まれ得る。
対照は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも600、少なくとも700、少なくとも800、少なくとも900、少なくとも1000、少なくとも1500、または少なくとも2000対象などの1つまたは複数の対象の試料から得ることができる。所定の基準は、陽性および/または陰性試料から以前に得られた値を示す。
【0132】
腫瘍の診断には、健康な対象がHLA‐Hを発現しないことが期待されるため、全く基準を必要としないと考えられる。また、検討した全腫瘍患者例でHLA‐H発現が検出されたことを示した。それにもかかわらず、陽性および/または陰性試料ならびに所定の基準を、本発明の診断腫瘍用途に組み込むことができる。診断のために、陽性試料は、腫瘍、好ましくは診断されるべきものと同じ身体部位の腫瘍を有することが知られている1つ以上の対象に由来する。同様に、陰性試料は、腫瘍を有さないことが知られている1つ以上の対象に由来する。試料中の本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの発現濃度が、陰性対照またはそれに由来する所定の基準と比較して、好ましくは少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍増加する場合、対象は腫瘍を有すると診断される。試料中の本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの発現濃度が陽性対照またはそれに由来する所定の基準とは、好ましくは、50%未満、25%未満、および10%未満異なる場合、対象は腫瘍を有すると診断される。例えば、陽性対照が100%に設定される場合、150%~50%、好ましくは125%または75%の値を示す患者は、腫瘍を有すると診断される。また、移植不良の診断のために、陽性および/または陰性試料ならびに所定の基準を使用してもよい。
【0133】
診断のために、陽性試料は、少なくとも1つの移植不全、好ましくは少なくとも2つの移植不全、最も好ましくは少なくとも3つの移植不全を有する1つ以上の雌対象からのものである。2つ以上の移植不全は、反復または反復移植不全とも呼ばれる。同様に、陰性試料は、少なくとも1つの成功した妊娠、好ましくは少なくとも2つの成功した妊娠、最も好ましくは少なくとも3つの成功した妊娠を有した1つ以上の雌対象からのものである。試料中の本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの発現濃度が、陰性対照またはそれに由来する所定の基準と比較して、好ましくは少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍減少する場合、雌対象は移植不全であると診断される。試料中の第1の態様の核酸分子または第4の態様のタンパク質もしくはペプチドの発現濃度が陽性対照またはそれに由来する所定の基準とは、好ましくは、50%未満、25%未満、および10%未満異なっている(すなわち、より高いまたはより低い)場合、対象は移植不全であると診断される。例えば、陽性対照が100%に設定される場合、125%または75%の値を表示する患者は、移植不全を有すると診断される。
【0134】
腫瘍をHLA-H低発現腫瘍またはHLA-H高発現腫瘍として分類することに関しては、各々の腫瘍および全ての腫瘍が実質的な量のHLA-Hを発現または発現すると予想されるわけではないことが注目される。したがって、腫瘍結合分子を有する対象において、好ましくは本発明の阻害剤が治療選択肢となり得るかどうかを明らかにするために、腫瘍は、後の場合にのみ結合分子または阻害剤が選択肢でHLA-H低発現腫瘍またはHLA-H高発現として分類され得る。分類のために、制御はHLA-Hを発現する腫瘍を有することが知られており、好ましくは結合分子、好ましくは本発明の阻害剤によって治療可能であった腫瘍を有することが知られている1つ以上の対象からであってもよい。分類されるべき腫瘍のHLA-H発現が対照と比較して、好ましくは、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍および少なくとも5倍減少している症例において、腫瘍は、HLA-H低発現腫瘍である。一方、分類すべき腫瘍のHLA-H発現は、対照と比較して、好ましくは、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍および少なくとも5倍増加している症例において、腫瘍はHLA-H高発現腫瘍である。
【0135】
予後診断については、陽性対照は、腫瘍(好ましくは、予後診断と同じ身体部位の腫瘍)で死亡した1人または複数の対象からのものであり得、陰性サンプルは、腫瘍(好ましくは、予後診断と同じ身体部位の腫瘍)の進行がないかなりの時間、腫瘍を生き延びた1人または複数の対象からのものであり得る。実質的な量は、好ましくは少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年および少なくとも5年を示す。試料中の本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの発現濃度が、陽性対照またはそれに由来する所定の基準と比較して、好ましくは少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍減少することが好ましい場合、対象は好ましい予後診断を有する。また、対象は、試料中の本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの発現濃度が陰性対照またはそれに由来する所定の基準とは異なり、50%未満、25%未満、および10%未満である場合に、対象は好ましい予後診断を有する。試料中の本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの発現濃度が、陰性対照またはそれに由来する所定の基準と比較して、好ましくは、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍増加する場合、対象は好ましくない予後診断を有する。また、試料中の本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの発現濃度が陽性対照またはそれに由来する所定の基準とは好ましくは、50%未満、25%未満、および10%未満異なる場合、対象は好ましくない予後診断を有する。従って、予後診断は好ましくは腫瘍治療の予想される治療の成功の予後診断であり、ここで、抗腫瘍治療は好ましくは化学療法であり、そして/または診断されるべき患者は、好ましくは乳がんを有する。
【0136】
悪性度判定するために、陽性試料は、G1~G4のカテゴリーの1つに悪性度判定される1つ以上の対象からであってもよい。2つ以上の陽性試料を悪性度判定するために使用することができ、ここで、陽性試料は、2つ、好ましくは3つ、最も好ましくは4つのカテゴリーG1~G4の全てである。試料中の本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの発現レベルが陽性G1対照またはそれに由来する所定の基準との差が、好ましくは50%未満、25%未満、および10%未満である場合、対象は、G1腫瘍を有すると悪性度判定される。これは、段階G2~G4に準用される。
【0137】
本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドのレベルを得るための手段は当技術分野で確立されている。
【0138】
例えば、本発明の核酸分子のレベルは、リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)、電気泳動技術またはDNAマイクロアレイ(Roth (2002), Curr.Issues Mol.Biol., 4: 93-100)によって得ることができ、RT-qPCRが好ましい。これらの方法において、発現レベルは、試料中の1つ以上の基準遺伝子の(平均)発現レベルに対して正規化され得る。本明細書中で使用される「基準遺伝子」という言葉は、検査されている系、すなわちがん、におけるRNA転写産物/mRNAレベル上で比較的不変なレベルの発現を有する遺伝子、を意味する。このような遺伝子はハウスキーピング遺伝子と呼ばれることがある。基準遺伝子の非限定的な例は、CALM2、B2M、RPL37A、GUSB、HPRT1およびGAPDH、好ましくはCALM2および/またはB2Mである。他の適切な参照遺伝子は、当業者に公知である。
【0139】
RT-qPCRは、実施例によって示される。RT-qPCRはサーマルサイクラーにおいて、各試料を少なくとも1つの特定波長の光線で照射し、励起された蛍光体によって発せられる蛍光を検出する能力を有して実施される。サーマルサイクラーはまた、試料を急速に加熱および冷却することができ、それによって、核酸およびDNAポリメラーゼの物理化学的特性を利用する。リアルタイムqPCRにおけるPCR産物の検出のための2つの一般的な方法は(1)任意の二本鎖DNAとインターカレートする非特異的蛍光色素、および(2)プローブとその相補的配列(例えば、TaqManプローブ)とのハイブリダイゼーション後にのみ検出を可能にする蛍光レポーターで標識されたオリゴヌクレオチドからなる配列特異的DNAプローブである。後者の検出方法は、以下の実施例において使用される。プローブは一般に、蛍光標識プローブである。好ましくは、蛍光標識プローブが蛍光レポーター色素およびクエンチャー色素(=二重標識プローブ)の両方で標識されたオリゴヌクレオチドからなる。適切な蛍光レポーターおよびクエンチャー色素/部分は当業者に公知であり、レポーター色素/部分6-FAMTM、JOETM、Cy5(登録商標)、Cy3(登録商標)およびクエンチャー色素/部分ダブシル、TAMRATM、BHQTM-1、-2または-3を含むが、これらに限定されない。好ましくは、本発明に従って使用するためのプライマーが15~30ヌクレオチドの長さを有し、特にデオキシリボヌクレオチドである。一実施形態では、プライマーが(1)HLA-Hの標的mRNA配列に特異的であるか、またはそれに由来する、(2)120bp未満(好ましくは100bp未満)のアンプリコンサイズを提供する、(3)mRNA特異的である(エクソン/イントロンの考察;好ましくはゲノムDNAの増幅なし)、(4)二量体化する傾向がない、および/または(5)58℃~62℃(好ましくはTmは約60℃)の融点Tmを有するように設計される。
【0140】
qPCRの代替として、電気泳動技術またはDNAマイクロアレイを使用して、本発明の核酸分子のレベルを得ることもできる。mRNAの同定と定量のための従来の手法は、大きさと配列特異的プロービングに関する情報を提供するゲル電気泳動の組合せによるものである。ノーザンブロットは、このクラスにおいて最も一般的に適用される技術である。リボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)はより感度が高く、ノーザンブロットに比して労働集約的でない代替法として開発された。ハイブリダイゼーションは、溶液中の標識リボヌクレオチドプローブを用いて行われ、その後、非ハイブリダイズ試料およびプローブは一本鎖RNAを選択的に分解するリボヌクレアーゼ(例えば、RNase AおよびRNase T1)の混合物で消化される。その後の変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動は定量のための手段を提供し、そしてまた、プローブによってハイブリダイズされた領域のサイズを与える。ノーザンブロットおよびRPAの両方について、定量の正確さおよび精度は、検出方法および利用される記載または標準の関数である。最も一般的にはプローブが32Pまたは33Pで放射標識され、この場合、最終ゲルはX線フィルムまたは蛍光スクリーンに暴露され、各バンドの強度はそれぞれ、濃度計または蛍光イメージャーで定量化される。両方の場合において、露光時間は必要とされる感度に適合するように調整され得るが、蛍光体ベースの技術は一般に、より感度が高く、より大きなダイナミックレンジを有する。放射能を使用する代わりに、プローブを抗原またはハプテンで標識し、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ結合抗体によって結合させ、基板を添加した後、フィルムまたは蛍光イメージャー上の化学発光によって定量することができる。これらの画像化用途の全てにおいて、プローブなしのゲルの隣接領域からの背景の差し引きが行われるべきである。ゲルフォーマットの大きな長所は、任意の基準標準を試料と同時に画像化することができることである。同様に、ハウスキーピング遺伝子の検出は、全てのサンプルについて同じ条件下で行われる。DNAマイクロアレイの構築には、2つの技術が登場している。一般に、アレイの設計のための各場合における出発点は、プローブされるべき遺伝子または推定遺伝子に対応する配列のセットである。
【0141】
第1のアプローチでは、オリゴヌクレオチドプローブがガラス基板から化学的に合成される。cDNAプローブに対するオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションの可変効率のために、複数のオリゴヌクレオチドプローブが、目的の各遺伝子に相補的に合成される。さらに、アレイ上の各完全に相補的なオリゴヌクレオチドについて、単一のヌクレオチド位置にミスマッチを有するオリゴヌクレオチドが構築され、そして正規化のために使用される。オリゴヌクレオチドアレイは、約104-106プローブ/cm2の密度で日常的に作成される。DNAマイクロアレイ構築のための第2の主要な技術は、スライドガラスまたは他の適切な基材上へのcDNAプローブの直接的なロボットシステム印刷法である。DNAクローンを、目的の各遺伝子について得、精製し、そしてユニバーサルプライマーを使用するPCRによって共通のベクターから増幅する。プローブは、大きさが50~200μmのオーダーのスポットにロボットにより被着される。この間隔で、例えば、約103プローブ/cm2の密度を達成することができる。
【0142】
本発明のタンパク質またはペプチドのレベルは例えば、「タンパク質またはペプチドに結合する分子」、および好ましくは「タンパク質またはペプチドに特異的に結合する分子」を使用することによって決定され得る。タンパク質またはペプチドに結合する分子は、既知の条件下で主にタンパク質またはペプチドに結合して生じる分子を示す。抗体、アプタマーなどのような、本明細書中上記の結合分子の1つ、好ましくは本発明のタンパク質またはペプチドの阻害剤の「タンパク質またはペプチドに結合する分子」が使用され得る。本発明のタンパク質またはペプチドのレベルはまた、ウエスタンブロット分析、質量分析、FACS分析、ELISAおよび免疫組織化学を使用することによって得られ得る。これらの技術は、タンパク質またはペプチドを定性的、半定量的および/または定量的に検出するために使用され得る手段の非限定的な例である。
【0143】
ウエスタンブロット分析は所与の試料、例えば、組織ホモジネートまたは身体抽出物中の特異的タンパク質またはペプチドを検出するために使用される、普及している周知の分析技術である。それは、(ポリ)ペプチドの長さ(変性条件)によって、またはタンパク質の3-D構造(天然/非変性条件)によって、天然または変性タンパク質またはペプチドを分離するためにゲル電気泳動を使用する。次いで、タンパク質またはペプチドを膜(典型的にはニトロセルロースまたはPVDF)に移し、そこで標的タンパク質に特異的な抗体を用いてプローブ(検出)する。
【0144】
また、質量分析(MS)分析は、荷電粒子の質量電荷比が測定される、普及している周知の分析技術である。質量分析は、粒子の質量を決定するため、試料または分子の元素構成を決定するため、およびタンパク質、ペプチドおよび他の化合物などの分子の化学構造を解明するために使用される。MS原則は化学化合物をイオン化して荷電分子または分子断片を生成し、それらの質量電荷比を測定することからなる。
【0145】
蛍光活性化細胞選別(FACS)分析は普及している周知の分析技術であり、ここで、生物学的細胞は、各細胞の蛍光特性の特定の光散乱に基づいて選別される。細胞を4%ホルムアルデヒド中で固定し、0.2% Triton-X-100で透過性にし、フルオロフォア標識抗体(例えば、モノクローナルまたはポリクローナル抗HLA-H抗体)と共にインキュベートすることができる。
【0146】
酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)は普及している周知の高感度分析技術であり、ここでは、特異的タンパク質またはペプチドの検知のためのマーカーとして、酵素が抗体または抗原に結合される。
【0147】
免疫組織化学(IHC)は、免疫染色の一般的な適用である。それは、生物学的組織中の抗原に特異的に結合する抗体の原則を利用することによって、組織切片の細胞中の抗原(タンパク質)を選択的に同定する方法を含む。特定のデバイスと組合せして、IHCは、タンパク質発現の定量的なin situ評価のために使用され得る(総説として、クレガーら(2006)Arch Pathol Lab Med,130:1026-1030)。定量的IHCは、染色強度が絶対タンパク質レベルと相関することを利用する。
【0148】
本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドの次に、対象から得られた試料中の1つ以上のさらなる化合物を、腫瘍の診断および/または腫瘍の悪性度判定および/または腫瘍の予後診断のために使用することができる。腫瘍を診断するための、および/または腫瘍を悪性度判定するための、および/または腫瘍予後のための、膨大な数のマーカーが当技術分野で公知であり、本発明の核酸分子または本発明のタンパク質もしくはペプチドと組み合わせて使用され得る。いくつかの腫瘍マーカーは、乳がんまたは結腸がんなどの特定の腫瘍を示す。腫瘍マーカーは例えば、the National Cancer Institute(https://www.cancer.gov/about-cancer/diagnosis-staging/diagnosis/tumor-markers-fact-sheet) またはthe integrated database of cancer genes and markers CGMD (http://cgmd.in/ )に列挙されている。1つ以上のさらなるマーカーの使用は一般的に、診断、悪性度判定または予後診断の信頼性を増加させる。
【0149】
本発明は、第4の態様において、対象から得られた試料中の、本発明の第1の態様の項目(I)(g)として定義した核酸分子および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質もしくはペプチドの存在を検出することを含む、腫瘍を診断するための方法に関し、ここで、本発明の第1の態様の項目(I)(g)の核酸分子および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質もしくはペプチドの存在は、対象中の腫瘍を示す。
【0150】
本発明は、第5の態様において、対象から得られた試料中の、本発明の第1の態様の項目(I)(g)として定義した核酸分子、および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質またはペプチドのレベルを決定することを含む、腫瘍を悪性度判定するための、および/または腫瘍予後のための方法に関し、ここで、対照と比較して、本発明の第1の態様の項目(I)(g)として定義した核酸分子、および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質またはペプチドのレベルの増加は、腫瘍のより高い悪性度判定および/または有害な腫瘍予後診断と相関する。
【0151】
本発明の第4および第5の態様の方法は、方法のフォーマットにおいて本発明の第3の態様の使用を実施する。したがって、本発明の第3の態様に関連して本明細書において上記で提供された定義および好ましい実施形態は、本発明の第4および第5の態様に等しく適用可能である。
【0152】
本発明は、第6の態様において、(a)対象から得られた試料中の、本発明の第1の態様の項目(I)(g)として定義した核酸分子および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質もしくはペプチドの検出および/または定量のための方法、ならびに(b)キットの使用説明書を含む、腫瘍を診断するための、および/または腫瘍を悪性度判定するための、および/または腫瘍の予後診断のためのキットに関する。
【0153】
本発明の第6の態様のキットは、キットのフォーマットにおいて、本発明の第3の態様の使用を実施するために必要とされる手段を実施する。この理由のために、本発明の第3の態様に関連して本明細書中で上記に提供される定義および好ましい実施形態は、本発明の第6の態様のキットに等しく適用可能である。
【0154】
第1の態様の核酸分子の検出および/または定量のための手段は好ましくは実施例の表1に示すようなHLA-H用のプライマーおよびプローブのうちの1つまたは複数であり、RT-qPCRにおいて使用され、より好ましくは、それぞれのプローブに関連して任意に使用することができるHLA-H用の特異的プライマー対のうちの1つである。本発明のタンパク質またはペプチドの検知のための方法は、好ましくは本明細書中上記のような抗体および/または抗体模倣体である。検出および/または定量のために、抗体および/または抗体模倣物は、例えば蛍光色素または放射性標識によって標識され得る。蛍光色素および放射性標識の実施例もまた、本明細書中上記に記載される。
【0155】
キットの様々な構成要素は、1つ以上のバイアルなどの1つ以上の容器に包装されてもよい。バイアルは、上記構成要素に加えて、保存用の防腐剤または緩衝液を含んでもよい。キットは、好ましくは腫瘍を診断するため、および/または腫瘍を悪性度判定するため、および/または腫瘍を予後診断するためにキットの構成要素をどのように使用するかを知らせる、キットをどのように使用するかの説明書を含んでもよい。
【0156】
また、本明細書中上記で議論されるように、実施例は、HLA-Hが様々な病期で腫瘍中で発現され、そして免疫システムを脱出するために腫瘍によって使用されることを示す。高発現レベルのHLA‐Hは予後不良と関連する。実施例4ではさらに、HLA-H発現の上昇が進行した腫瘍病期と正に関連することが示される。したがって、本発明の第1の態様の項目(I)(g)に定義される核酸分子および/または本発明の第1の態様に関連して定義されるタンパク質もしくはペプチドの、対象から得られた試料中での、本明細書中上記の方法およびキットによる検出および/または定量は、腫瘍を診断するための、および/または腫瘍を等級付けするための、および/または腫瘍予後のための方法である。
【0157】
本発明の、第7の態様において、腫瘍を有する対象における腫瘍治療の非有効性をモニターするための方法であって、(a)治療の開始前に対象から得られた試料中の本発明の第1の態様の項目(I)(g)として定義した核酸分子の量および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質もしくはペプチドの量を決定すること;および(b)治療の開始後1回以上において、対象から得られた試料中の本発明の第1の態様の項目(I)(g)として定義した核酸分子の量および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質もしくはペプチドの量を決定することを含み、a)と比較してb)における量の増加は、腫瘍治療の非有効性を示し、および/またはa)と比較してb)における量の減少は、腫瘍治療の有効性を示す。
【0158】
同様に、第9の態様において、本発明は(a)治療の開始前に対象から得られた試料中の発明の第1の態様の項目(I)(g)として定義した核酸分子の量および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質もしくはペプチドの量を決定すること;および(b)治療の開始後の1回以上において、対象から得られた試料中の発明の第1の態様の項目(I)(g)として定義した核酸分子の量および/または本発明の第1の態様に関連して定義したタンパク質もしくはペプチドの量を決定することを含む、このような治療を必要とする態様における免疫抑制療法の非有効性をモニターするための方法に関し、ここで、a)と比較してb)における量の減少は、免疫抑制療法の非有効性を示し、および/またはa)と比較してb)における量の増加は、免疫抑制療法の有効性を示す。
【0159】
本発明の他の態様に関連して本明細書で上記に提供された定義および好ましい実施形態は、本発明の第8および第9の態様に等しく適用可能である。例えば、本発明の核酸分子の量および/または本発明のタンパク質もしくはペプチドの量を決定するための手段および方法は、本明細書において、本発明の第3の態様に関連して上記に記載されている。これらの手段および方法は、本発明の第8および第9の態様に関連して同様に使用することができる。
【0160】
腫瘍治療は任意の腫瘍治療、例えば、手術、放射線療法または化学療法であり得る。腫瘍治療は、好ましくは化学療法である。化学療法は、化学療法剤の投与を含む。本発明に従って使用することができる化学療法剤には、細胞増殖抑制化合物および細胞傷害性化合物が含まれる。伝統的な化学療法剤は急速に分裂する細胞を殺すことによって作用し、急速に分裂する細胞はほとんどの腫瘍細胞の主要な特性の1つである。化学療法剤にはタキサン、ヌクレオシドアナログ、カンプトテシン類似体、アントラサイクリンおよびアントラサイクリン類似体、エトポシド、ブレオマイシン、ビノレルビン、シクロホスファミド、代謝拮抗剤、抗有糸分裂剤、およびアルキル化剤が含まれるが、これらに限定されない。化学療法はまた、白金ベースであり得、すなわち、白金ベースの化合物(例えば、シスプラチン)の投与を包含する。化学療法剤はしばしば組合せで、通常3~6ヵ月間投与される。最も一般的な治療の1つは、ACとして知られるシクロホスファミド+ドキソルビシン(アドリアマイシン;アントラサイクリンおよびアントラサイクリン類似体のグループに属する)の投与を含む。ときには、ドセタキセルなどのタキサン系薬剤を追加し、そのレジメンをCATと呼ぶこともある。タキサンはがん細胞の微小管を攻撃する。同等の結果を生じる別の一般的な治療は、シクロホスファミド、代謝拮抗剤であるメトトレキサート、およびヌクレオシド類似体(CMF)であるフルオロウラシルの投与を含む。別の標準的な化学療法処置はフルオロウラシル、エピルビシンおよびシクロホスファミド(FEC)の投与を含み、これらは、タキサン(例えば、ドセタキセル)またはビノレルビンを補充され得る。
【0161】
腫瘍は第8の態様によるものであり、好ましくは非管腔腫瘍である。非管腔腫瘍とは、ホルモン受容体(エストロゲン受容体および/またはプロゲステロン受容体)陰性の腫瘍または低レベルのホルモン受容体(エストロゲン受容体および/またはプロゲステロン受容体)を発現する腫瘍である。乳房腫瘍の場合、ルミナル A腫瘍はホルモン受容体陽性、Her2陰性、Ki-67低発現であり、ルミナル B腫瘍は(i)ホルモン受容体陽性、Her2陰性、Ki-67高発現であるか、または(ii)エストロゲン受容体陽性、プロゲステロン受容体陰性、Her2陰性、Ki-67低発現である。非管腔乳房腫瘍はHER2陽性腫瘍およびTNBC(トリプルネガティブ乳がん)に分けることができ、HER2陰性およびホルモン受容体(エストロゲン受容体および/またはプロゲステロン受容体)陰性である。
【0162】
同様に、免疫抑制療法もあらゆる免疫抑制療法となりうる。例えば、免疫抑制療法は例えば、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤および抗体から選択される、1つ以上の免疫抑制剤の投与を含んでもよい。第15の態様に従って、対象は移植された臓器または組織(例えば、骨髄、心臓、腎臓、肝臓)を受けたか、または自己免疫疾患もしくは自己免疫由来である可能性が最も高い疾患(例えば、リウマチ関節炎、多発性硬化症、重症筋無力症、乾癬、白斑、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、巣状分節性糸球体硬化症、クローン病、ベーチェット病、天疱瘡、強直性脊椎炎、および潰瘍性大腸炎)、または別の非自己免疫性炎症性疾患(例えば、長期アレルギー性喘息制御、または強直性脊椎炎)を有する可能性がある。
【0163】
実施例4に示すように、HLA-H発現の増大は、より高い腫瘍病期と正に関連する。このことは、臨床的により侵攻性の高い腫瘍がHLA-H発現を増加させることによって化学療法に抵抗性になることを示している。したがって、本発明の第1の態様の項目(I)(g)に定義される核酸分子および/または本発明の第1の態様に関連して定義されるタンパク質またはペプチドの量を決定することは、対象における腫瘍治療 の非有効性を決定するために使用され得る。HLA-Hは、腫瘍がその免疫抑制機能によって抗腫瘍治療から逃れるのを助けるので、本発明の第1の態様の項目(I)(g)に定義される核酸分子および/または本発明の第1の態様に関連して定義されるタンパク質もしくはペプチドは同様に、免疫抑制療法の非有効性をモニターするために使用され得る。
【0164】
本明細書中上記の腫瘍に関する全ての態様の好ましい実施形態によれば、腫瘍はがんである。
【0165】
がんは生理学的機能を持たない組織の異常な悪性新生であり、制御されない通常急速な細胞増殖から生じる。
【0166】
明細書中の上述の腫瘍に関する本発明の全ての態様のより好ましい実施形態によれば、乳がん,卵巣がん,子宮内膜がん、膣がん、外陰がん、膀胱がん、唾液腺がん、膵臓がん、甲状腺がん、腎臓がん、肺がん、上部消化管に関するがん、結腸がん、結腸直腸がん、前立腺がん、頭部および頸部の扁平上皮がん、子宮頸がん、膠芽腫、悪性腹水、リンパ腫および白血病からなる群より選択される。
【0167】
本明細書中上記に記載されるような腫瘍に関する本発明の全ての態様のより好ましい実施形態によれば、がんは、膀胱がんまたは婦人科系がんである。
【0168】
本明細書中上記に記載されるような腫瘍に関する全ての態様のさらなるより好ましい実施形態によれば、がんは、乳がんまたは卵巣がんである。
【0169】
実施例4で審査しているため卵巣がんが好ましい。
本明細書において上記されたような本発明の全ての態様の好ましい実施形態によれば、試料は、器官からの体液または組織試料である。
【0170】
本明細書で特徴付けられる実施形態に関して、特に請求項では、従属請求項で言及される各実施形態が、各請求項の各実施形態(独立または従属)と組み合わせられることが意図されている。本明細書で特徴付けられる実施形態に関して、特に請求項では、従属請求項で言及される各実施形態が、各請求項の各実施形態(独立または従属)と組み合わせられることが意図されている。例えば、独立請求項1が3つの代替案A、B及びCを記載し、従属請求項2が3つの選択肢D、E及びFを記載し、請求項3が請求項1および2に従属し、且つ3つ代替案G、H及びIを記載する場合には、本明細書が、特に言及しない限り、組み合わせA, D, G; A, D, H; A, D, I; A, E, G; A, E, H; A, E, I; A, F, G; A, F, H; A, F, I; B, D, G; B, D, H; B, D, I; B, E, G; B, E, H; B, E, I; B, F, G; B, F, H; B, F, I; C, D, G; C, D, H; C, D, I; C, E, G; C, E, H; C, E, I; C, F, G; C, F, H; C, F, Iに対応する実施形態を明確に開示していることを理解されたい。
【0171】
同様に、また、独立請求項及び/又は従属請求項が選択肢を記載していない場合においても、従属請求項が複数の先行する請求項に遡って参照している場合、それによってカバーされる対象事項の組合せは、明示的に開示されているとみなされることが理解される。例えば、独立請求項1、請求項1をさかのぼって参照する従属請求項2、および請求項2および1の両方をさかのぼって参照する従属請求項3の場合、請求項3及び1の対象事項の組合せは、請求項3、2及び1の対象事項の組合せと同様に明確かつ明白に開示されることになる。請求項1~3のいずれか1項を参照するさらなる従属請求項4が存在する場合、請求項4及び1、請求項4、2及び1、請求項4、3及び1並びに請求項4、3、2及び1の対象事項の組合せは、明確かつ明白に開示されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【
図1】筋層浸潤膀胱がん試料(n=407)におけるRNAseqで測定したFGF受容体を含む膀胱がんにおけるHLA‐H遺伝子発現とサブタイピング候補遺伝子のデータ分布。
【0173】
【
図2】筋層浸潤膀胱がん試料(n=407)におけるHLA‐H発現とRNAseqで測定した管腔マーカー、基底マーカーおよびEMTマーカーとのスピアマン相関。
【0174】
【
図3】筋層浸潤膀胱がん試料(n=407)におけるHLA‐H発現と、性別、組織学的亜型、年齢、リンパ節状態などの臨床的変数とのスピアマン相関。
【0175】
【
図4】進行性または転移性尿路上皮がんコホートのコンソートダイアグラム。不十分なおよび/またはリンパ節組織を有するFFPEブロックを除外した後、55人の患者の組織を分析のために入手した。
【0176】
【
図5】エクソン2/エクソン3境界で測定したHLA-H発現と標準IHCパネルで測定したサブタイピングマーカーとのスピアマン相関(n=55)。
【0177】
【
図6】エクソン2/エクソン3境界で測定したHLA-H発現とRT-qPCR法で測定したサブタイピングマーカーとのスピアマン相関(n=55)。
【0178】
【
図7】RT-qPCR法により測定したFGFR標的遺伝子発現とエクソン2/エクソン3で測定したHLA-H発現のスピアマン相関(n=55)。
【0179】
【
図8】RT-qPCR法により定量化したHLA-H Ex2/3発現による層別化に基づく筋層浸潤膀胱がん患者の疾患特異的生存率(DSS)確率を示すカプランマイヤープロット。CALM2を基準遺伝子とした40-DCT法により、相対的mRNA発現を決定する。
【0180】
【
図9】RT‐qPCRアッセイで定量化したHLA‐Hエクソン2/3発現による層別化に基づく、肺と肝臓に転移を有する筋層浸潤膀胱がん患者の疾患特異的生存率(DSS)確率を示すカプランマイヤープロット(n=17)。CALM2を基準遺伝子とした40-DCT法により、相対的mRNA発現を決定する。
【0181】
【
図10】RT-qPCR法により定量化したHLA-Hエクソン2/3およびFGFR2発現による層別化に基づく、肺、骨または肝臓に転移を有する筋層浸潤膀胱がん患者の疾患特異的生存率(DSS)確率を示すカプランマイヤープロット(n=17)。CALM2を基準遺伝子とした40-DCT法により、相対的mRNA発現を決定する。
【0182】
【
図11】RT-qPCR法により定量化したHLA-Hエクソン2/3による層別化に基づく、PD-L1特異的チェックポイント阻害剤(n=18)で治療されていた、化学療法抵抗性、筋層浸潤膀胱がん患者の疾患特異的生存率(DSS)確率を示すカプランマイヤープロット。CALM2を基準遺伝子とした40-DCT法により、相対的mRNA発現を決定する。
【0183】
【
図12】腫瘍浸潤免疫細胞上のPD-L1染色に基づくIHC、および示されているようにRT-qPCR法により定量化されたHLA-Hエクソン2/3による層別化に基づく、化学療法抵抗性、筋層浸潤膀胱がん患者の疾患特異的生存率(DSS)確率を示すカプランマイヤープロット。CALM2を基準遺伝子とした40-DCT法により、相対的mRNA発現を決定する。
【0184】
【
図13】腫瘍細胞のPD-L1染色に基づくIHC、およびRT-qPCR法により定量化されたHLA-Hエクソン2/3による層別化に基づく、化学療法抵抗性、筋層浸潤膀胱がん患者の疾患特異的生存率(DSS)確率を示すカプランマイヤープロット。CALM2を基準遺伝子とした40-DCT法により相対的mRNA発現を決定する。
【0185】
【
図14】進行性または転移性尿路上皮がんコホートのコンソートダイアグラム。術前補助化学療法の前後の組織が不十分な適合FFPEブロックペアを除外した後、52人の患者が分析に利用可能であった。
【0186】
【
図15】筋層浸潤膀胱がん試料(n=52)のナイーブTUR生検におけるRT‐qPCRで測定した膀胱がんにおけるHLA‐H遺伝子発現およびサブタイピングマーカーならびに薬物標的のデータ分布。
【0187】
【
図16】エクソン2/エクソン3境界で測定したHLA-H発現とRT-qPCR法で測定したサブタイピングマーカーとのスピアマン相関(n=52)。
【0188】
【
図17】RT-qPCR法によるTUR(経尿道的切除)生検試料で判定したHLA-Hエクソン2/エクソン3 mRNA発現に基づく術前補助化学療法(Gem/Cis)3クール施行後の病理学的完全奏効(pCR)のパーティションテスト(n=52)。それぞれの群の患者数とそれぞれの化学療法の奏効の割合を示す。
【0189】
【
図18】RT-qPCRによる化学療法後の膀胱切除試料(n=52)で判定したHLA-Hエクソン2/エクソン3 mRNA発現に基づく術前補助化学療法(Gem/Cis)3クール施行後の病理学的完全奏効(pCR)のパーティションテスト。それぞれの群の患者数とそれぞれの化学療法の奏効の割合を示す。
【0190】
【
図19】RT-qPCRアッセイにより定量化した術前補助化学療法前後のHLA-Hエクソン2 /エクソン3 mRNA発現およびHLA-Gエクソン2 /エクソン3 mRNA発現。CALM2を基準遺伝子とした40-DCT法により、相対的mRNA発現を決定する。40‐DCT値が高いほど遺伝子発現が高かった。PCR法は指数関数的な性質のため、それぞれが1だけ増えると遺伝子発現の倍増を意味する。3 DCT値の上昇はHLA-H mRNA発現の8倍の上昇を意味する。
【0191】
【
図20】化学療法前後の標本におけるRT-qPCR法で測定したHLA-Hエクソン2/エクソン3 mRNAの変化と臨床病理学的変数および奏効パラメータとのスピアマン相関(n=27)。
【0192】
実施例により本発明を説明する
実施例1:HLA-H発現と膀胱がん候補遺伝子とのスピアマン相関
最初のコホートは、19 施設のCancer Genome Atlas(TCGA)Research Network(Network CGAR. Comprehensive molecular characterization of urothelial bladder carcinoma. Nature. 2014;507(7492):315-22. doi: 10.1038/nature12965PubMed PMID: 24476821; PubMed Central PMCID: PMCPMC3962515)により集積した407症例を含む。RNA-Seq(HiSeq)を、以前に記載されたように、腫瘍試料における全ゲノム解析のために使用した。このようにして、4つの分子サブタイプがmRNA発現型(すなわち、TCGAサブタイプ)に基づいて定義されている:サブタイプIおよびIIは管腔(ルミナル)様であり、サブタイプIはFGFR3変化およびFGFR3発現の上昇によって定義され、一方サブタイプIIはERBB2変異およびエストロジェン受容体β(ESR2)濃縮によって特徴付けられる。サブタイプIIIおよびIVは、上皮系列遺伝子および幹/前駆細胞サイトケラチンの発現増加によって定義される基底様と記述される。臨床データおよび分子データは、cBioPortal for Cancer Genomicsウェブサイト(http://www.cbioportal.org/study?id=blca_tcga#clinical))で公的に入手可能である。データセットをダウンロードし、検証した。TCGAコホートのほとんどの患者は筋層浸潤膀胱がん(MIBC)であったため、T0期およびT1期の患者は分析から除外した。放射線療法を受けた患者10例を除き、正確な治療法は文書化されていなかった。したがって、著者らは、文書化されたpN状態を手術療法の代用として用いた。pNXの全患者を、ネオアジュバント療法、根治的放射線療法を受けたか、転移が確認された患者と同様に、分析から除外した。分子サブタイプ(例えば、KRT5、KRT20)、ホルモン軸(例えば、ESR1、ESR2)、接着モチーフ(例えば、CDH1、CDH2、CDH11)、細胞周期遺伝子(例えば、CCND1、CCNE2)、サブタイプ特異的標的遺伝子(例えば、ERBBおよびFGFR)などのエレバント (elevant)腫瘍生物学的モチーフのための選択された候補マーカーとHLA遺伝子発現の間の関連を分析した。
【0193】
図1に示すように、HLA-H「偽遺伝子」mRNAの実質的な量は、ERBB2、CDH1およびFGFR2およびFGFR3のような十分に規定された遺伝子と同様の量に達するRNA seqによって決定することができた。
【0194】
次に、HLA‐H発現がサブタイピングと薬物ターゲティングのための他の膀胱がん候補遺伝子と関連するかどうかを解析した。
図2に示すように、HLA-HのmRNA発現は、管腔サブタイプマーカーであるESR2、ERBB2、ERBB3、CDH1およびKRT 20と負の相関を示したが(p<0.0001)、基底サブタイプマーカーであるKRT5(Spearman rho 0.2953; p<0.0001)および上皮間葉転換(EMT)マーカーであるSNAI1-3と正の相関を示した。さらに、mRNA発現はFGFR2、FGFR3およびFGFR4と負に関連し、Spearman rho -0.1813から-0.2404の間の中等度の相関係数を示した(それぞれp=0.0002, p<0.0001およびp<0.0001)。
【0195】
次に、MIBCにおけるHLA‐H mRNA発現と腫瘍病期、リンパ節状態による腫瘍悪性度、年齢、性別および組織学的サブタイプ(乳頭状対非乳頭状)との関連を分析した。
図3に示すように、HLA-H mRNA発現は、非乳頭組織学的サブタイプと有意に関連していた(p= 0.0029)。性別、年齢、リンパ節の状態などの他の臨床的変数に関しては、有意な関連性は認められなかった。
【0196】
実施例2:膀胱切除後に化学療法が無効となった後、進行した際にチェックポイント阻害剤薬物で治療した筋層浸潤膀胱がん患者コホートにおける逆転写(RT)定量PCR(RT-qPCR)法によるHLA mRNA発現レベルの測定
【0197】
根治的膀胱摘除術および対応する経尿道的切除術からのパラフィン包埋腫瘍組織試料手術標本を、主としてMIBC(pT2-T4)が確認された進行性尿路上皮がんに罹患している患者78人から得た。患者は、免疫調節チェックポイント標的PD-1またはPD-L1を標的とする治療抗体で治療された。倫理的な承認を全参加施設から得、全患者からインフォームドコンセントを得た。FFPE組織からのRNA抽出のために、市販のビーズベースの抽出方法(XTRAKTキット; STRATIFYER Molecular Pathology GmbH, Cologne, Germany)に従って、単一の10μmカール(curl)を処理した。簡単に述べると、溶解緩衝液を使用してFFPE組織切片を液化し、一方、パラフィンの溶融をサーモミキサー中で行った。組織溶解は、プロテイナーゼK溶液を用いて達成した。その後、溶解物を、核酸の結合を促進する特殊な緩衝液の存在下でゲルマニウム被覆磁性粒子と混合した。精製は、混合、磁化、遠心分離および汚染物質の除去の連続サイクルによって行った。RNAを、100μlの溶出緩衝液で溶出し、次いで、RNA溶出液を、使用するまで-80℃で保存した。すべての抽出物を、安定な参照/ハウスキーパー遺伝子として知られる構成的に発現された遺伝子カルモジュリン2遺伝子(CALM2)のリアルタイムPCR(RT-qPCR)による定量化によって、十分な高品質RNA含量について試験した。低CALM2発現を有する標本は除外した。
【0198】
RT-qPCR法による遺伝子発現の詳細な解析のために、目的の部位に隣接するプライマーおよび中間でハイブリダイズする蛍光標識プローブを利用した。標的特異的プライマーおよびプローブを、NCBIプライマー設計ツール(www.ncbi.nlm.nih.go)を使用して選択した。RNA特異的プライマー/プローブ配列を使用して、プライマー/プローブ配列をエクソン/エクソン境界を横切って位置させることによってRNA具体的な測定可能にした。さらに、既知の多型(SNP)を有する配列領域に結合しないようにプライマー/プローブを選択した。同じ遺伝子の複数のアイソフォームが存在する場合、プライマーを選択して、全ての関連するまたは選択されたスプライス変異体を適切に増幅した。全てのプライマー対を、従来のPCR反応によって特異性についてチェックした。プライマー/プローブをさらに最適化した後、表1に列挙したプライマーおよびプローブが最良の結果を与えた。これらのプライマー/プローブは例えば、特異性および増幅効率の点で、先行技術から公知のプライマー/プローブよりも優れている。TaqMan(登録商標)検証実験が行われ、ターゲットとコントロールの増幅の効率がほぼ等しいことが示され、これは比較ΔCT法による遺伝子発現の相対的定量化の前提条件である。
【0199】
【0200】
最終的なコホートは、一次腫瘍組織からの55の膀胱切除標本で構成された。転移病巣または利用可能な限り同時上部尿路腫瘍(UTUC)からのTUR生検とFFPE試料を用いて比較解析を行った。
【0201】
HLA-HのmRNA発現の評価のための遺伝子特異的TaqManに基づくプライマー/プローブセットを設計し、感受性および特異性について試験した。CK5, CK20, GATA3, FOXA1, CD44の免疫組織染色を行い、HLA-H発現が国際的な分類コンセンサスで定義された膀胱がんのサブタイプと関連するか否かを検討した。少なくとも50%以上の腫瘍含有(最小腫瘍径5x5mm)、明瞭な区切りを有する浸潤境界を有し、壊死領域または肉芽腫性炎のない 代表的なFFPEブロックを選択した。全てのIHC染色を実施し、以下のように全スライド切片について読み取った。自動Ventana Benchmark Ultra自動染色機(Ventana, Tucson, Arizona, USA)を用いて、4μm組織切片で免疫組織化学染色を行った。
【0202】
簡単に述べると、組織切片を脱パラフィン化し、Tris/ホウ酸塩/EDTA溶液pH 8.4(Ventana)中での熱処理によって抗原を戻し、内因性ペルオキシダーゼを1% H2O2でブロックした。PDL1免疫染色を、Ventanaプラットフォーム(DAKO 28-8、DAKO、USA)に適合させ、検証したDAKOから市販のアッセイキットを用いて行った。CK5(クローン胚XM26、モノクローナルマウス、DiagnosticBioSystems(登録商標)、希釈1:50)、CK20(クローン胚K20.8、マウスモノクローナル、DAKO(登録商標)、希釈1:50)、GATA3(クローン胚L50-823、マウス、モノクローナル、DCS(登録商標)、希釈1:100)、CD44(クローン胚DF1485、マウス、モノクローナル、Dako(登録商標)、希釈1:50)およびFOXA1(クローン胚AB55178、マウス、モノクローナル、Abcam、希釈1:2000)を、標準化された染色プロトコールに従って、Benchmark Ultra autostainer(米国、Ventana)を用いて免疫染色した。除去は、ultraVIEW TM DABシステム(Ventana)を用いて行った。全ての組織切片をヘマトキシリンII/マイヤーヘマトキシリン(Ventana)で対比染色した。
【0203】
図5に示すように、IHCにより、進行した化学療法抵抗性腫瘍のこのコホートで膀胱がんサブタイプを決定した場合、KRT5陽性の基底膀胱がんで頻度が高い幹細胞マーカーCD44(スピアマンrho 0.3349; p=0.0125)とHLA-HのmRNA発現が特に関連していた。
【0204】
膀胱がんの分子サブタイピングは、筋層浸潤膀胱がんの非IO治療条件 /における生存率に影響を及ぼす、より少ない免疫細胞浸潤を伴うホルモン依存性管腔腫瘍およびより高い頻度の腫瘍浸潤を有する基底または炎症性サブタイプへの腫瘍の層別化を探すための1つの主要な手段となっている。(Pfannstiel C, Strissel PL, Chiappinelli KB, Sikic D, Wach S, Wirtz RM, Wullweber A, Taubert H, Breyer J, Otto W, Worst T, Burger M, Wullich B, Bolenz C, Fuhrich N, Geppert CI, Weyerer V, Stoehr R, Bertz S, Keck B, Erlmeier F, Erben P, Hartmann A, Strick R, Eckstein M; BRIDGE Consortium, Germany; BRIDGE Consortium, Germany; BRIDGE Consortium, Germany; BRIDGE Consortium, Germany. The Tumor Immune Microenvironment Drives a Prognostic Relevance That Correlates with Bladder Cancer Subtypes.Cancer Immunol Res.2019 Jun;7(6):923-938. doi: 10.1158/2326-6066.CIR-18-0758.Epub 2019 Apr 15.).
【0205】
そのため、分子サブタイピングと免疫チェックポイント標的の標的に基づいてHLA‐H mRNA発現の相関を決定することは非常に興味深かった。さらに、この以前に予想された「偽遺伝子」に関して生じるスプライシング事象の潜在的な効果をさらに解明するために、異なるプライマープローブセットを異なるエクソン/エクソン境界で設計した。
【0206】
図6に示すように、化学療法抵抗性筋層浸潤膀胱がんコホート内の分子サブタイピングのための標準マーカーのmRNA発現では、基底部のKRT5陽性サブタイプにPD1陽性免疫細胞浸潤が優勢であることが明らかになった。しかしながら、この選択された治療抵抗性腫瘍集団が不均一であることを示すKRT5とKRT20の負の相関は認められなかった。興味深いことに、エクソン2/エクソン3境界を含むHLA‐Hの細胞外部分をコードするエクソン2/3のエクソン/エクソン境界を定量すると、HLA‐H mRNAの多様性が高PD‐L1発現(スピアマンrho 0.5053; p=0.0044)と強く関連したが、PD1発現とは関連せず、膀胱がんのKRT5 & KRT20ネガティブ亜集団で関連していた。
【0207】
HLA-HスプライスバリアントとFGFR1、FGFR2、FGFR3およびFGFR4のmRNA発現との相関から、FGFR mRNA発現と関連しないエクソン2/エクソン3を含むアイソフォームが明らかになった(
図7参照)。さらに、FGFRファミリー発現は進行性または転移性膀胱がんの生存を予測し、FGFR2は良好な結果と関連し、一方、FGFR3の変異、融合または過剰発現はチェックポイント阻害薬物を用いた免疫腫瘍学的治療にもかかわらず、有害な結果と関連することが、他に出願されている(EP19168923.1;出願人STRATIFYER Molecular Pathology GmbH))。
【0208】
このことから、PD-L1 mRNA発現と関連するHLA-Hエクソン2/エクソン3 mRNA発現の相互作用が、抗-PD-L1およびPD-1治療にもかかわらずがん特異的生存率のリスクが高いFGFR2陰性腫瘍の生存率に影響を及ぼすかどうかを検討することとなった。
図8に示すように、進行性または転移性尿路上皮がん患者はアテゾリズマブ、ペムブロリズマブまたはニボルマブのような免疫調節性チェックポイント阻害剤による一次治療、二次治療または三次治療の開始から決定されるように、一次FGFR2陰性腫瘍がRNA特異的RT-qPCRによって決定されるようにHLA-Hを発現する場合、有意に悪い疾患特異的生存率を示した。HLA‐H Ex2/3を高レベルで発現するFGFR2陰性腫瘍の患者の生存確率は2年後に10%であったが、HLA‐H Ex2/3を発現しないFGFR2陰性腫瘍の患者は2年後の生存確率が65%であった(p=0.0013)。
【0209】
HLA‐H発現が術後生存率に及ぼす影響を明らかにするために、一次転移部位を考慮に入れて分析を行った。これは転移部位によってIO治療が差別効果を有し、例えば肝臓への内臓転移を伴う効果が低いという最初の知見に基づいている。これはおそらく、転移性尿路上皮がん患者において、古典的チェックポイント機構とは無関係にPD1陽性T細胞が肝臓から除外されていることによる(Eckstein M, Sikic D, Strissel PL, Erlmeier F. Evolution of PD-1 and PD-L1 Gene and Protein Expression in Primary Tumors and Corresponding Liver Metastases of Metastatic Bladder Cancer., Eur Urology 2018.)。したがって、患者は局所進行を伴う転移の最初の症状によって分類され、局所領域リンパ節または領域外後腹膜リンパ節はそれぞれ0または0,5に分類され、一方、骨、肝臓、肺、肺および骨または肺と肝臓への播種は指標の増加に伴って分類された(それぞれ、1,2,3,4,5)。この分析のために、充分な臨床データおよび原発性腫瘍組織物質を有する原発性腫瘍組織からの55のデータセットが利用可能であり、20の患者は局所進行またはリンパ節転移を有し、一方、18の患者は最初に骨または肝臓に転移し、17の患者は単独部位として、または骨または肝臓病変と組合せて肺病変を有する転移を有し、一方、それらの全ては、IO薬物および主に一次療法よりさらに(74%)処置されていた。
【0210】
興味深いことに、HLA-H発現に対する有害な結果は、転移した状況において特に顕著であった。
図9に示すように、HLA-Hエクソン2/3 mRNA発現が高値(>= 29.95)ではHLA-Hエクソン2/3陽性患者6例の1年後の生存率がわずか30%である疾患特異的生存率不良と関連していたが、HLA-Hエクソン2/3陰性患者11例では1年後の生存率が80%であり、これはログランク検定を乱す、曲線の早期交差により、有意な傾向のみであった。
【0211】
FGFR2発現を考慮に入れると、予測値を増加させることができた。
図10に示すように、HLA-Hエクソン2/3 mRNA発現高値(>=29.95)がFGFR陰性患者では1年後の生存確率がわずか0%であるHLA-Hエクソン2/3陽性患者の疾患特異的生存率不良と関連していたが、HLA-Hエクソン2/3 & FGFR2陰性患者では1年後の生存確率が70%であった。高FGFR2発現を有する転移性膀胱がん患者は、1年後に100%の疾患特異的生存率を有した(p=0.0012)。
【0212】
以上のように、PD-L1 mRNA発現にはHLA-Hエクソン2/エクソン3境界のmRNA発現が関連していることがわかった(スピアマンrho 0.5053; p=0.0044)。従って、適用された免疫調節チェックポイント治療の基礎的原則(すんわち、PD‐1またはPD‐L1治療のどちらが適用されたか)によって、全患者コホート(進行性および転移性; n=55)を層別化することは妥当であると思われた。ペムブロリズマブおよびニボルマブはPD-1陽性T細胞に結合することによってチェックポイントに特異的に影響を及ぼすが、アテゾリズマブは腫瘍細胞またはマクロファージおよびさらなる細胞源に存在するPD-L1に結合し、それによって、より多面的な作用を有する可能性がある。重要なことに、アテゾリズマブ治療患者を見ると、HLA‐Hエクソン2/エクソン3境界発現の重要性が特に明らかとなった。
図11に示すように、HLA-Hエクソン2/3 mRNA発現高値(>=29.89)は1年後の生存確率がわずか10%であるHLA-Hエクソン2/3陽性患者の疾患特異的生存率不良と関連していたが、HLA-Hエクソン2/3陰性患者は1年後の生存確率が80%であった(p=0.0240)。
【0213】
PD-L1発現とHLA-H機能との相互作用をさらに解明するために、また多面的作用を考慮して、免疫調節チェックポイント阻害剤で治療されている進行性および転移性膀胱がん患者のコホートを、PD-L1決定のための体外診断検査に基づく免疫細胞(おそらくマクロファージ)上のPD-L1タンパク質発現に基づいて層別化した。ここでは、5%陽性免疫細胞の陽性に対するカットオフ値を選択し、IHC検出システムに関係しない基底ペルオキシダーゼ活性に基づくマクロファージに対する非特異的染色作用を除外した。
【0214】
興味深いことに、免疫細胞に浸潤しているPD-L1陽性腫瘍の頻度が低い患者はより良好な生存率を示したが、一方で免疫細胞に浸潤しているPD-L1陽性腫瘍の頻度が高い患者は特にHLA-Hエクソン2/エクソン3アイソフォームを発現している場合、生存率が劣っていた。
図12に示すように、HLA-Hエクソン2/3 mRNA発現高値(>=29.95)はPD-L1陽性免疫細胞が5%を超え、1年後の生存確率がわずか10%であるHLA-Hエクソン2/3陽性患者を有する患者の疾患特異的生存率不良と関連していたが、HLA-Hエクソン2/3陰性患者およびPD-L1陽性免疫細胞の頻度がないか低い患者は1年後の生存確率が60%であった(p=0.0156)。
【0215】
しかし、PD-L1陽性免疫細胞対PD-L1陽性腫瘍細胞を有する腫瘍組織に重複があることを知り、PD-L1陽性腫瘍細胞の標準カットオフ値を10%とした腫瘍細胞について、HLA-H発現とPD-L1発現との相互作用も検討した。
【0216】
ここでもPD-L1陽性患者でHLA-Hエクソンが2/エクソン3の発現が高かった場合は、HLA-Hエクソンが2/エクソン3の発現が低かった場合と比べて生存率が劣っていた。
図13に示すように、高HLA-Hエクソン2/3 mRNA発現(>=33.19)は患者がPD-L1陽性腫瘍細胞が10%以上で、1年後の生存確率がわずか0%であるHLA-Hエクソン2/3陽性患者を有する患者の疾患特異的生存率不良と関連していたが、PD-L1陽性腫瘍細胞が10%以下の場合、1年後の生存確率が40%であったのはHLA-Hエクソン2/3陰性患者であったのは65%であった(p=0.0022)。
【0217】
実施例3:3クールのゲムシタビン/Cisplatinum化学療法で術前補助療法を行った筋層浸潤膀胱がん患者コホートにおける逆転写(RT)定量PCR(RT-qPCR)法によるHLA-H mRNA発現レベルの測定
化学療法前の経尿道的切除術およびそれに対応する根治的膀胱摘除術からのパラフィン包埋腫瘍組織試料手術標本を、組織学的に確認されたMIBC、UICC病期IIおよびIII(cT2-3およびcN0またはcN+M0)を有する進行性尿路上皮がん患者55人から得た。患者はゲムシタビン1250mg/m2(d1; d8)とシスプラチン70mg/m2(d1)の3クールの術前補助療法を受けた後、根治的膀胱摘除術を受けた。主な選択基準は、治療前及び治療後のFFPE組織の利用可能性とされた。主な除外基準は、解析のための均質な膀胱がんコホートを得るためのバリアント組織型であった。参加施設から倫理的な承認を得、全患者からインフォームドコンセントを得た。FFPE組織からのRNA抽出のために、市販のビーズベースの抽出方法(XTRAKTキット; STRATIFYER Molecular Pathology GmbH, Cologne, Germany)に従って、単一の10μmカールを処理した。簡単に述べると、溶解緩衝液を使用してFFPE組織切片を液化し、一方、パラフィンの溶融をサーモミキサー中で行った。組織溶解は、プロテイナーゼK溶液を用いて達成した。その後、溶解物を、核酸の結合を促進する特殊な緩衝液の存在下でゲルマニウム被覆磁性粒子と混合した。精製は、混合、磁化、遠心分離および汚染物質の除去の連続サイクルによって行った。RNAを、100μlの溶出緩衝液で溶出し、次いで、RNA溶出液を、使用するまで-80℃で保存した。すべての抽出物を、安定な参照/ハウスキーパー遺伝子として知られる構成的に発現される遺伝子カルモジュリン2遺伝子(CALM2)の定量化によって、十分な高品質RNA含量について試験した。低CALM2発現を有する標本は除外した。最終的なコホートは、不十分な腫瘍材料のために6人の試料を排除した後の原発性腫瘍組織からの52の膀胱切除標本から構成された。膀胱切除組織からのTUR生検およびFFPE試料を用いて比較解析を行った。
【0218】
IO治療以外の膀胱がんにおけるHLA-H発現の重要性を検証するために、HLA-Hは全身療法による治療がまだ行われていない、同じ大きさの筋層浸潤膀胱がんコホートにおいて定量化されている。
図15に示すように、エクソン2/エクソン3の境界におけるHLA-H「偽遺伝子」mRNAのかなりの量は、RT-qPCRによって決定することができた。さらに、膀胱がんサブタイピングマーカー(KRT5、KRT20)および標的(PD‐1、PD‐L1、ESR1、ERBB2、FGFR1‐4)を測定した。
【0219】
HLA-Hと膀胱がんサブタイピングマーカーおよび標的との関連性は、最初に術前MIBCコホートのTUR生検で評価した。
図16に示すように、Exon2/エクソン3境界のRT-qPCRによって測定されるHLA-H発現はKRT5およびFGR1発現と正の相関を示し、いずれも基底表現型と関連している。さらに、KRT20とESR1には負の関連性が認められ、KRT20は古典的な管腔マーカーであった。したがって、この関連性は、試料の大きさが限られているため、統計的有意性には達していないものの、T1腫瘍およびバリアントの組織型も含む、ほとんどが膀胱切除の試料が400 MIBCであった最初の所見を反映していた。
【0220】
次に、HLA-Hエクソン2 /エクソン3 mRNA発現の発現は上記の3クールの術前補助化学療法(Gem/Cis)に対する奏効と相関しており、化学療法後の手術標本(膀胱摘除術)にバイタルな腫瘍細胞がないことを病理学的完全奏効と定義した。計42%の患者で病理学的完全奏効が得られた。患者を相対HLA-Hエクソン2/エクソン3 mRNA発現に基づくパーティションテストにより層別化すると、全腫瘍の60%を占める高レベルのHLA-Hを発現する腫瘍では術前補助化学療法に対する応答性が2倍低下し、症例の29%でHLA-H陽性腫瘍が奏効し、症例の62%でHLA-H陰性腫瘍が奏効した。このことは、HLA‐H発現が化学療法前の膀胱がん生検材料で測定されたことを示している。高HLA-H発現を有する腫瘍の計70%では、術前補助化学療法に応答しなかった。
【0221】
次に、3クールの術前補助化学療法(Gem/Cis)後の膀胱切除標本で、HLA‐Hエクソン2/エクソン3 mRNA発現を測定した。
図18に示すように、HLA-H発現は、非応答腫瘍において等しく高く、抵抗性の腫瘍および応答した腫瘍にほとんど同一の分離である。高HLA-H発現を有する腫瘍の計70%では、術前補助化学療法に応答しなかった。
【0222】
実施例4:6クールのパクリタキセル/シスプラチンによる化学療法レジメンで術前補助療法を受けた進行卵巣がん患者コホートにおける逆転写(RT)定量PCR(RT-qPCR)法によるHLA-H mRNA発現レベルの測定
【0223】
組織学的に確認されたFIGO病期III~IVの上皮性卵巣がん腫または腹膜がん腫で、最善の先行手術に不適で、術前化学療法の候補となっている患者(以下、前記がん腫を卵巣がんと表記する場合もある)45例を2004年9月~2007年12月に本試験に登録した。その他の試験参加基準は、年齢>18歳、白金製剤をベースとした化学療法に十分な血液学的、腎臓、肝臓および心臓の機能であった。除外基準は、Karnofsky performance status(KPS)が70%未満、他の悪性腫瘍の既往歴、手術禁忌とした。ベースライン時にオープン腹腔鏡検査により至適減量手術の可能性は除外された。生検試料がマイクロアレイ解析に不十分であった9人の患者および組織学的修正後に腹膜中皮腫と診断されたため不適格であることが判明した1人の患者を除外した後、45人の患者の最初の研究集団は35人に限定された。カルボプラチンAUC5およびパクリタキセル175mg/m2 Q3を3時間かけて3週間ごとに投与する標準レジメンが、術前補助療法として6サイクル実施された。75歳を超える患者3人および全身状態が不良な患者1人(KPS70%)では、組合せ化学療法よりもカルボプラチン単剤の方が好ましかった。
【0224】
手術後に、手術試料分析を行い、組織病理学的奏効を評価した。現在までのところ、卵巣がんにおける術前補助化学療法後の治療応答を記述するための組織病理学的基準は確立されていない。卵巣における初回化学療法の奏効性に関する文献(Le et al.2007, Sassen et al.2007)および乳がん(Ogston et al.2003)によると、病理学的完全奏効としては手術標本にがん細胞が認められないこと、非常に良好な部分寛解としては、小さな集塊(<1cm)または個々のがん細胞の残存のみで、術後に肉眼的残存が認められないことが考えられた。部分病理学的寛解は初回診断的腹腔鏡検査と比較して、手術時の腫瘍量が30%~90%減少した場合と定義されたが、安定疾患は手術時の腫瘍量の減少または30%未満の減少が認められない場合と定義された。完全かつ非常に良好な部分寛解が得られた患者のみが病理学的奏効例とみなされたが、他の症例はすべて病理学的非奏効例とみなされた。
【0225】
mRNA分析のために、収集した組織を急速凍結し、分析まで液体窒素中に保存した。凍結卵巣腫瘍組織約20~100mgを液体窒素中で粉砕した。RNAは市販キット(Qiagen)を用いて抽出し、RNA完全性はAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies, Palo Alto, CA, USA)を用いて、cDNAはInvitrogenキット(Invitrogen Corp.)を用いて、1mgのトータルRNAから合成し、RNA特異的プライマープローブセットを用いたRT-qPCRにより、HLA-Hとサブタイピングマーカーおよび標的遺伝子について、上記のように調べた。解析は、治療前と治療後の組織サンプルが入手可能な症例に限定され、合計29人の患者についてマッチドペア解析が可能であった。
【0226】
上記の膀胱がんにおける状況と同様に、実質的な量のHLA-H mRNAが卵巣がん患者の治療前生検および治療後切除からのRNA抽出物において検出でき、これは、同じ組織においてHLA-Gと同等のレベルに達した。しかし、HLA-Hエクソン2/エクソン3のmRNA発現の中央値は、HLA-Gエクソン2/エクソン3(40-DCT 35.00)よりも低かった(40-DCT 31.22)。HLA‐HとHLA‐G発現には相関がなかった。
【0227】
化学療法前後のHLA‐Hエクソン2/エクソン3 mRNA発現の差と病理学的奏効とを関連させると、化学療法後のHLA‐H発現の上昇と病理学的奏効との間には、ピアソン相関(r=-0.2290)とスピアマン相関(r=-0.1922)の両者による逆相関が認められた。
図20に示すように、病理学的病期との相関から、HLA-H発現の上昇は高いFigo病期と正の相関を示し(スピアマンr =0.4219; p=0.0226)、臨床的により侵攻性の高い腫瘍がHLA-H発現を上昇させることによって化学療法に応答することが示された。興味深いことに、この能力は、より低い悪性度の腫瘍で優位である傾向があった(スピアマンr =-0.3274; p=0.095)。
【配列表】
【国際調査報告】