(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-05
(54)【発明の名称】単為生殖一倍体誘導遺伝子DMPとその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220829BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20220829BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20220829BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20220829BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/82 Z ZNA
A01H5/00 A
C12N15/29
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570301
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(85)【翻訳文提出日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 CN2020099680
(87)【国際公開番号】W WO2020239137
(87)【国際公開日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】201910445082.3
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521212269
【氏名又は名称】中国農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】陳紹江
(72)【発明者】
【氏名】鐘裕
(72)【発明者】
【氏名】劉晨旭
(72)【発明者】
【氏名】祁暁竜
(72)【発明者】
【氏名】李夢然
(72)【発明者】
【氏名】陳宝建
(72)【発明者】
【氏名】焦炎炎
(72)【発明者】
【氏名】劉宗凱
【テーマコード(参考)】
2B030
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AB04
2B030AD20
2B030CA14
2B030CB02
2B030CG05
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AA89X
4B065AA89Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA53
(57)【要約】
本発明は、単為生殖一倍体誘導遺伝子DMPとその使用を提供し、シロイヌナズナから単為生殖一倍体誘導遺伝子AtDMP8およびAtDMP9をクローニングし、双子葉植物を単為生殖方法により一倍体に誘導し産生できるようにする。本発明はさらに、単為生殖一倍体誘導能力も有するトマトS1DMPも提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物一倍体誘導系の調製方法であって:
A1)植物ゲノム中のDMP遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングまたは抑制し、またはDMP遺伝子をノックアウトし、植物一倍体誘導系を得ること;または
A2)植物におけるDMPタンパク質の活性を抑制し、植物一倍体誘導系を得ること;
であり;
前記植物は双子葉植物であり:
前記DMPタンパク質は以下のB1)またはB2)またはB3)またはB4)に示すタンパク質であって:
B1)は、アミノ酸配列は配列2または配列4または配列6で示されるタンパク質であり;
B2)は、配列2または配列4または配列6に示されるタンパク質のN端および/またはC端にタグを連結して得られる融合タンパク質であり;
B3)は、配列2または配列4または配列6に示されるアミノ酸配列を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加を経て得られる同じ機能を有するタンパク質であり;
B4)は、配列2または配列4または配列6で示されるアミノ酸配列と75%または75%以上の同一性を有し、同じ機能を有するタンパク質である、
方法。
【請求項2】
前記双子葉植物がシロイヌナズナである場合、前記DMP遺伝子はAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子であり;前記DMPタンパク質はAtDMP8タンパク質および/またはAtDMP9タンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記双子葉植物がトマトである場合、前記DMP遺伝子はS1DMP遺伝子であり;前記DMPタンパク質はS1DMPタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記DMP遺伝子は以下のC1)またはC2)またはC3)またはC4)に示す遺伝子であって:
C1)は、配列1または配列3または配列5に示されるcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
C2)は、C1)に記載されたヌクレオチド配列と75%または75%以上の同一性を有するcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
C3)は、双子葉植物に由来し、かつC1)で記載されたヌクレオチド配列と75%または75%以上の同一性を有するcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
C4)は、厳しい条件下でC1)またはC2)またはC3)で記載されたヌクレオチド配列とハイブリッドするcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
前記DMP遺伝子は次の機能を有する:双子葉植物におけるDMP遺伝子がサイレンシングまたは阻害またはノックアウトされると、前記双子葉植物は植物一倍体誘導系になる、ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記AtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトする方法、または前記S1DMP遺伝子をノックアウトする方法がCRISPR/Cas9であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記双子葉植物がシロイヌナズナである場合、前記CRISPR/Cas9の標的配列は、配列1の第98-117位、配列3の第290-309位、配列3の第368-387位、および配列1の第509-528位であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記双子葉植物がトマトである場合、前記CRISPR/Cas9の標的配列は配列5の76-95位および配列5の第247-266位であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、DMP遺伝子突然変異体をスクリーニングすることをさらに含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記植物一倍体誘導系はシロイヌナズナ突然変異株系T1-34、シロイヌナズナ突然変異株系T1-6、シロイヌナズナ突然変異株系T1-11、シロイヌナズナ突然変異株系T1-19、シロイヌナズナ突然変異株系T1-24、シロイヌナズナ突然変異株系T1-25、シロイヌナズナ突然変異株系T1-28またはシロイヌナズナ突然変異株系T1-32であり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-34と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置は配列1の第114-115位の間にあり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-6と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第113-114位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、二本の染色体のいずれにも断片の挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は配列13に示され、該断片の挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置し;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-11と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子に一つの塩基Tの挿入が発生していることのみであり、該塩基Tの挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列3の第160-161位の間であり、もう一本の染色体に断片の挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は配列13に示され、該断片の挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置し;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-19と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失された塩基が配列1の第114位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-511位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列3の第161-560位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列3の第161-564位に位置し;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-24と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列3の第161-560位に位置し、他の染色体に断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列3の第159-160位に位置し;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-25と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失された塩基が配列1の第114位に位置し、もう一本の染色体に断片CGTの挿入が発生し、該断片の挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列3の第161-162位に位置し、もう一つの染色体に一つの塩基Aの挿入が発生し、該塩基Aの挿入位置は配列3の第160-161位の間に位置し;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-28と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失の塩基は配列1の第114位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において二本の染色体にいずれも一つの塩基Aの挿入が発生し、該塩基Aの挿入位置は配列3の第160-161位の間に位置し;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-32と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、一本の染色体に断片欠失が発生することであり、該欠失された断片が配列1の第115-511位に位置し、もう一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置は配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において二本の染色体にいずれも塩基Cの欠失が発生し、該欠失された塩基は配列3の第161位に位置することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の植物一倍体誘導系を自家受粉させることを含む、植物一倍体誘導系の製造方法。
【請求項11】
DMP遺伝子突然変異体をスクリーニングすることをさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記植物一倍体誘導系はシロイヌナズナ突然変異株系T2-33、シロイヌナズナ突然変異株系T2-38、トマト突然変異株系sldmp-1または前記トマト突然変異株系sldmp-2であり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-33と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP9タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、二本の染色体にいずれも塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、二本の染色体にいずれも断片挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は配列14に示され、該断片の挿入位置が配列3の第561-562位の間に位置し;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T2-38と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子にのみあり、二本の染色体にいずれも断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列1の第115-127位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、二本の染色体の二つの位置にいずれも塩基Tと塩基Gの挿入が発生し、二つの位置はそれぞれ配列3の第160-161位の間と配列3の第562-563位の間に位置し;
前記トマト変異株sldmp-1と野生型トマトACのゲノムDNAの違いは、S1DMPタンパク質をコードする遺伝子にのみあり、二本の染色体にいずれも一つの塩基Cの挿入が発生し、該挿入された塩基は配列5の第92-93位の間に位置し;
前記トマト変異株sldmp-2と野生型トマトACのゲノムDNAの違いは、S1DMPタンパク質をコードする遺伝子において、二本の染色体にいずれも断片欠失が発生し、該欠失された断片が配列5の第93-249位に位置することを特徴とする請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法で調製された植物一倍体誘導系またはその子孫を自家受粉するか、または雄親として他の植物材料とハイブリッドし、前記植物一倍体として自殖子孫またはハイブリッド子孫、すなわち植物一倍体を得;前記植物は双子葉植物である、植物一倍体の調製方法。
【請求項14】
前記自殖子孫または前記ハイブリッド子孫の単株に対して蛍光標識同定および/または一倍体性状同定および/または葉の倍数性同定および/または分子マーカー同定を行うことも含み、少なくとも一つの上記方法を選択して一倍体と同定された子孫単株は植物一倍体であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法で調製された植物一倍体誘導系。
【請求項16】
前記植物一倍体誘導系は前記植物一倍体誘導系に由来する細胞、組織および器官を含み、前記器官は、種子、葉、果実、花、茎および根を含むことを特徴とする、請求項15に記載する植物一倍体誘導系。
【請求項17】
前記植物一倍体誘導系は前記植物一倍体誘導系に由来する繁殖材料を含み、前記繁殖材料は、花粉、子房、胚珠、胚芽、胚乳、卵細胞、切断、根、根端、胚軸、子葉、茎、葉、花、葯、種子、分裂細胞、プロトプラスト、および細胞組織培養による集団を含むことを特徴とする、請求項15または16に記載する植物一倍体誘導系。
【請求項18】
請求項13または14に記載する方法で調製された植物一倍体。
【請求項19】
前記植物一倍体は前記植物一倍体に由来する細胞、組織および器官を含み、前記器官は、種子、葉、果実、花、茎および根を含むことを特徴とする、請求項18に記載する植物一倍体。
【請求項20】
前記植物一倍体は前記植物一倍体に由来する繁殖材料を含み、前記繁殖材料は花粉、子房、胚珠、胚芽、胚乳、卵細胞、根、根端、胚軸、子葉、茎、葉、花、葯、種子、分生細胞、プロトプラストおよび細胞組織培養による集団を含むことを特徴とする、請求項18または19に記載する植物一倍体。
【請求項21】
請求項1から12のいずれか一項に記載のシロイヌナズナ突然変異株系におけるAtDMP8遺伝子、または請求項1から12のいずれか一項に記載のシロイヌナズナ突然変異株系におけるAtDMP9遺伝子、または請求項1から12のいずれか一項に記載のトマト突然変異株系におけるS1DMP遺伝子。
【請求項22】
以下のD1)-D5)いずれかの使用であって、
D1)請求項1から12のいずれか一項に記載の方法により調製された植物一倍体誘導系が植物一倍体の育成することにおける使用;
D2)植物ゲノムにおけるAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングしまたは抑制し、またはAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトし、またはAtDMP8タンパク質および/またはAtDMP8タンパク質の活性を抑制する物質が植物一倍体誘導系または植物一倍体を育成することにおける使用;
D3)植物ゲノムにおけるS1DMP遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングしまたは抑制し、またはS1DMP遺伝子をノックアウトする物質、またはS1DMPタンパク質活性を抑制する物質が植物一倍体誘導系または植物一倍体の育成することにおける使用;
D4)AtDMP8タンパク質またはその関連生物材料および/またはAtDMP9タンパク質またはその関連生物材料が、植物一倍体誘導系の誘導率をコントロールし、または植物一倍体誘導系の誘導率を増加させるか、または植物一倍体誘導系もしくは植物一倍体を育成することにおける使用;
D5)S1DMPタンパク質またはその関連生物材料が、植物一倍体誘導系の誘導率をコントロールし、または植物一倍体誘導系の誘導率を増加させるか、または植物一倍体誘導系もしくは植物一倍体を育成することにおける使用;であり、
前記AtDMP8タンパク質は以下のa1)またはa2)またはa3)またはa4)に示すタンパク質であって;
a1)は、アミノ酸配列が配列番号2で示されるタンパク質であり;
a2)は、配列2に示されるタンパク質のN端および/またはC端にタグを連結して得られた融合タンパク質であり;
a3)は、配列2に示されるアミノ酸配列を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加により得られた同じ機能を有するタンパク質であり;
a4)は、配列2に示されるアミノ酸配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ同じ機能を有するタンパク質であり;
前記AtDMP9タンパク質は以下のb1)またはb2)またはb3)またはb4)に示すタンパク質であって;
b1)は、アミノ酸配列が配列番号4で示されるタンパク質であり;
b2)は、配列4に示されるタンパク質のN端および/またはC端にタグを連結して得られた融合タンパク質であり;
b3)は、配列4に示されるアミノ酸配列を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加により得られた同じ機能を有するタンパク質であり;
b4)は、配列4に示されるアミノ酸配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ同じ機能を有するタンパク質であり;
前記S1DMPタンパク質は以下のc1)またはc2)またはc3)またはc4)に示すタンパク質であり;
c1)は、アミノ酸配列が配列番号6で示されるタンパク質であり;
c2)は、配列6に示されるタンパク質のN端および/またはC端にタグを連結して得られた融合タンパク質であり;
c3)は、配列6に示されるアミノ酸配列を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加により得られた同じ機能を有するタンパク質であり;
c4)は、配列6に示すアミノ酸配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ同じ機能を有するタンパク質である、
使用。
【請求項23】
前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質またはS1DMPタンパク質関連生物材料は下記d1)からd12)のいずれかであって;
d1)は、前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質または前記S1DMPタンパク質をコードする核酸分子であり;
d2)は、d1)に記載の核酸分子を含む発現カセットであり;
d3)は、d1)に記載の核酸分子を含む組み換えベクターであり;
d4)は、d2)に記載の発現カセットを含む組み換えベクターであり;
d5)は、d1)に記載の核酸分子を含む組み換え微生物であり;
d6)は、d2)に記載の発現カセットを含む組み換え微生物であり;
d7)は、d3)に記載の組み換えベクターを含む組み換え微生物であり;
d8)は、d4)に記載の組み換えベクターを含む組み換え微生物であり;
d9)は、d1)に記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物細胞株であり;
d10)は、d2)に記載の発現カセットを含むトランスジェニック植物細胞株であり;
d11)は、d3)に記載の組み換えベクターを含むトランスジェニック植物細胞株であり;
d12)は、d4)に記載の組み換えベクターを含むトランスジェニック植物細胞株であることを特徴とする、請求項22に記載する使用。
【請求項24】
d1)に記載の核酸分子は以下の1)または2)または3)または4)に示す遺伝子であって:
1)は、そのコード配列は配列1または配列3または配列5に示されるcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
2)は、1)で定義されたヌクレオチド配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質またはS1DMPタンパク質をコードするCDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
3)は、双子葉植物に由来し、かつ1)で定義されたヌクレオチド配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質またはS1DMPタンパク質をコードするCDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
4)は、厳しい条件下で1)または2)または3)で定義されるヌクレオチド配列とハイブリッドし、かつ前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質またはS1DMPタンパク質をコードするCDNA分子またはゲノムDNA分子であることを特徴とする、請求項23に記載する使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム編集技術を主とする農業バイオテクノロジー分野および作物遺伝育種分野に関するものであり、具体的には植物雌親一倍体誘導系の調製方法とその使用に関し。特に、植物の雌親一倍体の生成の誘導における、遺伝子編集技術を用いて得られた単為生殖一倍体誘導遺伝子であるDMPの突然変異体の植物一倍体誘導系としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
優良近交系の選育は作物が雑種優勢を利用し、優良ハイブリッド種を選育する基礎と鍵である。しかし、従来の育種方法では7~8世代で安定した近交系を得ることができることに対し、一倍体育種技術ではでは2世代(WeberDF,2014)しか必要とせず、育種サイクルを大幅に短縮できました。現在、双子葉作物における一倍体の発生は主に花の薬のインビトロ培養に依存し、効率が低くかつ材料に対する遺伝子型依存性が高く、規模化の応用を実現しにくい。遺伝的に修飾されたセントロメア特有のヒストンCENH3(centromere-specific histone 3 variant)をシロイヌナズナcenh3突然変異体に導入すると一倍体の生成を誘導することができるが、この方式は誘導過程で大量の正倍数体(Ravi,M,et al,2010)を産生する。
【0003】
現在、遺伝子編集技術の体系は非常に成熟して安定しているが、遺伝形質転換が材料と遺伝子型への依存の限界から、それ以上の作用を発揮することができない。遺伝子編集ベクターを形質転換しやすい受容体材料に導入し、さらに編集が必要なターゲットとハイブリッドすることによって編集(Li C et al.,2017)が可能であり、バックグラウンドを回復するには長い時間の戻し交配が必要であり、かつ100%にはならない。一倍体誘導と遺伝子編集技術を組み合わせて目標材料である一倍体の遺伝子を編集を実現し、ホモ接合を得る編集系を獲得し、一倍体と遺伝子編集技術の応用範囲を大幅に短縮・拡大した(Kelliher, T et al.,2019; Wang, B et al.,2019; Hu, N et al.,2019)。しかしながら、双子葉植物では、生物誘導による一倍体生成方式の欠如により、遺伝子編集技術と組み合わせることができない。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は植物一倍体誘導系の調製方法を提供することである。
【0005】
本発明が提供する植物一倍体誘導系の調製方法は、以下のA1)またはA2)であって:
A1)は、植物ゲノム中のDMP遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングまたは抑制し、またはDMP遺伝子をノックアウトし、植物一倍体誘導系を得ることであり;
A2)は、植物におけるDMPタンパク質の活性を抑制し、植物一倍体誘導系を得ることであり;
前記植物は双子葉植物であり;
前記DMPタンパク質は以下のB1)またはB2)またはB3)またはB4)に示すタンパク質であって:
B1)は、アミノ酸配列は配列2または配列4または配列6で示されるタンパク質であり;
B2)は、配列2または配列4または配列6に示されるタンパク質のN端および/またはC端にタグを連結して得られる融合タンパク質であり;
B3)は、配列2または配列4または配列6に示されるアミノ酸配列を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加を経て得られる同じ機能を有するタンパク質であり;
B4)は、配列2または配列4または配列6で示されるアミノ酸配列と75%または75%以上の同一性を有し、同じ機能を有するタンパク質であり;
前記DMPタンパク質は以下の機能を有する:双子葉植物におけるDMPタンパク質活性が抑制されると、前記双子葉植物は植物一倍体誘導系になる。前記DMPタンパク質活性は、DMPタンパク質を発現させないまたはDMPタンパク質不活性化するように抑制される。
【0006】
上記B2)において、前記タグは、目的のタンパク質の発現、検出、トレースおよび/または精製を容易にするために、前記タグはDNAのインビトロ組み換え技術を用いて、目的タンパク質と共に融合して発現されたポリペプチドまたはタンパク質を指す。前記タンパク質タグは、Flagタグ、Hisタグ、MBPタグ、HAタグ、mycタグ、GSTタグ、および/またはSUMOタグなどとすることができる。
【0007】
上記B3)において、前記一つまたは複数のアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加が10個以下のアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加である。
【0008】
上記B4)において、前記75%または75%以上の同一性は、80%、85%、90%または95%以上の同一性であることができる。
【0009】
上記植物一倍体誘導系の調製方法において、前記DMP遺伝子は以下のC1)またはC2)またはC3)またはC4)に示す遺伝子であって:
C1)は、配列1または配列3または配列5に示されるcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
C2)は、C1)で限定されたヌクレオチド配列と75%または75%以上の同一性を有するcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
C3)は、双子葉植物に由来し、かつC1)で限定されたヌクレオチド配列と75%または75%以上の同一性を有するcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
C4)は、厳しい条件下でC1)またはC2)またはC3)で限定されたヌクレオチド配列とハイブリッドするcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
前記DMP遺伝子は以下の機能を有する:双子葉植物におけるDMP遺伝子がサイレンシングまたは阻害またはノックアウトされると、前記双子葉植物は植物一倍体誘導系になる。
【0010】
ここで使用する用語「同一性」は、天然の核酸塩酸配列との配列類似性を指す。「同一性」は、本発明のコード配列2または配列4または配列6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質のヌクレオチド配列と75%以上、または85%以上、または90%以上、または95%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。同一性は肉眼またはコンピュータソフトウェアで評価できる。コンピュータソフトウェアを使用して、二つ以上の配列間の同一性をパーセンテージ(%)で表すことができ、これを用いて関連する配列間の同一性を評価することができる。
【0011】
上記植物一倍体誘導系の調製方法において、前記植物ゲノムにおけるDMP遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングしまたは抑制し、またはDMP遺伝子をノックアウトする方法は、植物ゲノムにおけるDMP遺伝子の発現量を低下させるか、または植物ゲノムにおけるDMP遺伝子が欠失突然変異もしくは挿入突然変異もしくは塩基置換を生じさせることである。
【0012】
さらに、前記双子葉植物がシロイヌナズナである場合、前記DMP遺伝子はAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子であり;前記DMPタンパク質はAtDMP8タンパク質および/またはAtDMP9タンパク質である。
【0013】
前記方法はシロイヌナズナゲノムにおけるAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングしまたは抑制し、またはAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトし、またはAtDMP8タンパク質および/またはAtDMP8タンパク質の活性を抑制し、シロイヌナズナ一倍体の誘導系を得る。
【0014】
前記双子葉植物がトマトである場合、前記DMP遺伝子はS1DMP遺伝子である;前記DMPタンパク質はS1DMPタンパク質である;前記方法はトマトゲノムにおけるS1DMP遺伝子をサイレンシングまたは抑制し、またはS1DMP遺伝子をノックアウトし、またはS1DMPタンパク質の活性を抑制し、トマト一倍体の誘導系を得る。
【0015】
さらにまた、前記シロイヌナズナゲノムにおけるAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングまたは抑制し、またはAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトすることは、シロイヌナズナゲノムにおけるAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子の発現量を低下させまたはシロイヌナズナゲノムにおけるAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子の欠失突然変異または挿入突然変異または塩基置換を引き起こす。
【0016】
前記トマトゲノムにおけるS1DMP遺伝子の発現および/また活性化をサイレンシングまたは抑制し、またはS1DMP遺伝子をノックアウトすることは、トマトゲノムにおけるS1DMP遺伝子発現を減少させるまたはトマトゲノムにおけるS1DMP遺伝子の欠失突然変異または挿入突然変異または塩基置換を引き起こす。
【0017】
前記植物ゲノムにおけるDMP遺伝子の発現量を低下させる方法はRNAi干渉であってもよい。前記RNAi干渉は、miRNAのような一本鎖RNA干渉、またはsiRNA、dsRNA、shRNAなどのような二本鎖RNA干渉であってもよい。
【0018】
前記植物ゲノムにおけるDMP遺伝子の欠失突然変異または挿入突然変異または塩基置換を起こさせる方法は、CRISPR/Cas9またはTELLENまたはT-DNA挿入もしくはEMSによる突然変異誘発であってもよい。
【0019】
さらに、前記植物ゲノムにおけるDMP遺伝子の欠失突然変異または挿入突然変異または塩基置換を起こさせる方法はCRISPR/Cas9である。前記植物ゲノムにおけるDMP遺伝子の欠失突然変異または挿入突然変異または塩基置換を起こさせる方法は前記標的配列を含むCRISPR/Cas9ベクターを植物に導入し、植物一倍体誘導系を得るステップを含む。
【0020】
本発明の具体的な実施形態において、前記双子葉植物がシロイヌナズナである場合、前記CRISPR/Cas9の標的配列は、配列1の第98-117位、配列3の第290-309位、配列3の第368-387位、および配列1の第509-528位である。前記する前記標的配列を含むCRISPR/Cas9ベクターは、配列7に示されるDNA分子(sgRNA発現エレメント)、配列9に示されるDNA分子(Cas9発現エレメント)および配列10に示されるDNA分子(蛍光タンパク質発現エレメント)をgolden gateの方法によりpICSL4723ベクターに連結した組み換えベクターである。
【0021】
本発明の一つの具体的な実施例において、前記双子葉植物がトマトである場合、前記CRISPR/Cas9の標的配列は配列5の第76-95位および配列5の第247-266位である。前記する前記標的配列を含むCRISPR/Cas9ベクターは、配列8に示されるDNA分子(sgRNA発現エレメント)、配列11に示されるDNA分子(Cas9発現エレメント)、配列10に示されるDNA分子(蛍光タンパク質発現エレメント)および配列12に示されるDNA分子(NptII発現エレメント)をgolden gateの方法によってpICS4723ベクターに連結した組み換えベクターである。
【0022】
本発明のもう一つの目的は、上記植物一倍体誘導系を近交するステップを含む、植物一倍体誘導系の調製方法を提供することである。
【0023】
前記近交の回数は少なくとも1回であり、具体的に1回とすることが可能である。
【0024】
上記いずれかの前記植物一倍体誘導系の調製方法はさらにDMP遺伝子突然変異体をスクリーニングするステップを含む。前記DMP遺伝子突然変異体はDMP遺伝子が突然変異した植物であり、前記DMP遺伝子突然変異体はDMP遺伝子ヘテロ接合突然変異体またはDMP遺伝子ホモ接合突然変異体である。
【0025】
上記いずれかの前記植物一倍体誘導系の調製方法において、前記植物一倍体誘導系は具体的にシロイヌナズナ突然変異株系T1-34、シロイヌナズナ突然変異株系T1-6、シロイヌナズナ突然変異株系T1-11、シロイヌナズナ突然変異株系T1-19、シロイヌナズナ突然変異株系T1-24、シロイヌナズナ突然変異株系T1-28、シロイヌナズナ突然変異株系T1-32、シロイヌナズナ突然変異株系T2-33、シロイヌナズナ突然変異株系T2-38、トマト突然変異株系sldmp-1または前記トマト突然変異株系sldmp-2であり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-34と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置は配列1の第114-115位の間にあることであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-6と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第113-114位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子では、二本の染色体にいずれも断片の挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は配列13に示され、該断片の挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置することであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-11と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子に一つの塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列3の第160-161位の間であり、もう一本の染色体に断片の挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は配列13に示され、該断片の挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置することであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-19と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失の塩基が配列1の第114位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-511位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列3の第161-560位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列3の第161-564位に位置することであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-24と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列3の第161-560位に位置することである;他の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列3の第159-160位に位置することであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-25と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失の塩基が配列1の第114位に位置し、もう一本の染色体に断片CGTの挿入が発生し、該断片の挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列3の第161-162位に位置し、もう一つの染色体に一つの塩基Aの挿入が発生し、該塩基Aの挿入位置は配列3の第160-161位の間に位置することであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-28と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失の塩基は配列1の第114位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において二本の染色体にいずれも一つの塩基Aの挿入が発生し、該塩基Aの挿入位置は配列3の第160-161位の間に位置することであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-32と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-511位に位置し、もう一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置は配列1の第114~115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において二本の染色体にいずれも塩基Cの欠失が発生し、該欠失の塩基は配列3の第161位に位置することであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T1-33と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP9タンパク質をコードする遺伝子であり、二本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子における二本の染色体にいずれも断片挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は配列14に示され、該断片の挿入位置が配列3の第561-562位の間に位置することであり;
前記シロイヌナズナ突然変異株系T2-38と野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAの唯一の違いは、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子の2本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-127位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子における二本の染色体の二つの位置にいずれも塩基Tと塩基Gの挿入が発生し、二つの位置はそれぞれ配列3の第160-161位の間と配列3の第562-563位の間に位置することであり;
前記トマト変異株sldmp-1と野生型トマトACのゲノムDNAの唯一の違いは、S1DMPタンパク質をコードする遺伝子であり、その二本の染色体にいずれも一つの塩基Cの挿入が発生し、該挿入された塩基は配列5の第92-93位の間に位置することである。
【0026】
前記トマト変異株sldmp-2と野生型トマトACのゲノムDNAの違いは、S1DMPタンパク質をコードする遺伝子における二本の染色体にいずれも断片欠失が発生し、該欠失断片が配列5の第93-249位に位置することのみである。
【0027】
本発明のもう一つの目的は植物一倍体の調整方法を提供することである。
【0028】
本発明によって提供される植物一倍体の調整方法は以下のステップを含む:上記方法で調製された植物一倍体誘導系またはその後代を近交するか、または雄親として他の植物材料とハイブリッドし、自殖子孫またはハイブリッド子孫、即ち前記植物一倍体を得;前記植物は双子葉植物である。
【0029】
さらに、上記植物一倍体の調製方法はさらに以下のステップを含む:前記自殖子孫または前記ハイブリッド子孫の単株に対して蛍光標識同定および/または一倍体性状同定および/または葉倍性同定および/またはマーカー同定を行い、少なくとも一つの方法を選択して一倍体と同定された後代単株は植物一倍体である。
【0030】
さらに、前記蛍光標識同定方法は以下の方法で行うことができる:蛍光タンパク質発現エレメントを保有する上記植物一倍体誘導系を雄親として雌親とハイブリッドし、ハイブリッド後代を得て、ハイブリッド後代種子が蛍光シグナルを有するか否かを検出することにより、測定対象の種子が一倍体か二倍体かを判断する:測定対象の種子が無蛍光または弱蛍光である場合、該種子は一倍体または候補として一倍体である;測定対象の種子が強い蛍光を示す場合、該種子は二倍体または候補としてである。さらに、蛍光灯により測定対象の種子が蛍光を有するか否かを検出する。さらに、前記父本はプロモーターAtOLEO 1によって駆動されるTagRFP蛍光タンパク質発現エレメントを保有するため、ハイブリッド後代種子が赤色蛍光を有するか否かに基づいてそれが一倍体か二倍体かを判断することができる。
【0031】
前記一倍体性状の同定方法は以下の方法に従って行うことができる:測定対象植物体は植物体が低く、葉の幅が狭くて、しかも上に向く、株型がコンパクトで、雄性が不妊である等の特徴を有すると、該植物体は一倍体または候補として一倍体である;測定対象植物体は植物体が高く、葉の幅が広く、散開し、育性が正常である等の特徴を有すると、該植物体は二倍体または候補として二倍体である。
【0032】
前記葉の倍数性同定方法は以下の方法に従って行うことができる:測定対象植物体の若い葉の細胞核を抽出し、二倍体植物の葉を対照とする;さらにフローサイトメーターを用いてシグナルを検出し、まず二倍体細胞核シグナルを検出し、かつ二倍体細胞核シグナルのピークを50(二倍体細胞内の遺伝物質は一倍体細胞内の遺伝物質の二倍であるため、一倍体細胞核シグナルのピークが25付近に現れる)に設定する。測定対象植物体の細胞核シグナルピークが25付近に現れると、該植物体は一倍体または候補として一倍体である;測定対象植物のシグナルピークが50付近に現れると、それが二倍体細胞核シグナル強度の濃縮位置と同じであれば、該植物は二倍体または候補として二倍体である。
【0033】
前記マーカー同定は以下の方法に従って行うことができる:雄親(目鵜親単倍体誘導系)と雌親との間の多型プライマーを用いてPCRの増幅を行い、PCRの増幅産物に基づいて測定対象植物体が一倍体か二倍体かを判断する;測定対象植物体の増幅産物は雌親のバンド型のみを有し、父本のバンド型が存在しない場合、該植物体は一倍体または候補として一倍体である;測定対象植物体の増幅産物は雄親と雌親のヘテロ接合バンド型を有する場合、該植物体は二倍体または候補として二倍体である。
【0034】
上記方法により調製された植物一倍体誘導系および植物一倍体も本発明の保護範囲に属する。
【0035】
植物一倍体誘導系および植物一倍体は、植物一倍体誘導系および植物一倍体に由来する細胞、組織、器官、例えば、種子、葉、果実、茎、花、根が含むだけでなく、前記植物一倍体誘導系および植物一倍体に由来する繁殖材料、例えば、花粉、子房、胚珠、胚芽、胚乳、卵細胞、切断、根、根端、胚軸、子葉、茎、葉、花、葯、種子、分裂細胞、プロトプラスト、および細胞組織培養による集団も含む。
【0036】
上記方法における前記シロイヌナズナ突然変異株系におけるAtDMP8遺伝子、または前記シロイヌナズナ突然変異株系におけるAtDMP9遺伝子、または前記トマト突然変異株系におけるS1DMP遺伝子も本発明の保護範囲に属する。
【0037】
以下D1)-D5)のいずれの使用も本発明の保護範囲に属する:
D1)は、上記方法で調製された植物一倍体誘導系が植物一倍体の育成することにおける使用であり;
D2)は、植物ゲノムにおけるAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングしまたは抑制し,またはAtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトし、またはAtDMP8タンパク質および/またはAtDMP8タンパク質の活性を抑制する物質が植物一倍体誘導系または植物一倍体を育成することにおける使用であり;
D3)は、植物ゲノムにおけるS1DMP遺伝子の発現および/または活性をサイレンシングしまたは抑制し、またはS1DMP遺伝子をノックアウトする物質、またはS1DMPタンパク質活性を抑制する物質が植物一倍体誘導系または植物一倍体の育成することにおける使用であり;
D4)は、AtDMP8タンパク質またはその関連生物材料および/またはAtDMP9タンパク質またはその関連生物材料が、植物一倍体誘導系の誘導率をコントロールし、または植物一倍体誘導系の誘導率を増加するか、または植物一倍体誘導系もしくは植物一倍体を育成することにおける使用であり;
D5)は、S1DMPタンパク質またはその関連生物材料が、植物一倍体誘導系の誘導率をコントロールし、または植物一倍体誘導系の誘導率を増加するか、または植物一倍体誘導系もしくは植物一倍体を育成することにおける使用である。
【0038】
上記いずれかの前記使用または方法において、前記AtDMP8タンパク質は以下のa1)またはa2)またはa3)またはa4)に示すタンパク質であって:
a1)は、アミノ酸配列が配列番号2で示されるタンパク質であり;
a2)は、配列2に示されるタンパク質のN端および/またはC端にタグを連結して得られた融合タンパク質であり;
a3)は、配列2に示されるアミノ酸配列を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加により得られた同じ機能を有するタンパク質であり;
a4)は、配列2に示されるアミノ酸配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ同じ機能を有するタンパク質である。
【0039】
前記AtDMP9タンパク質は以下のb1)またはb2)またはb3)またはb4)に示すタンパク質であって:
b1)は、アミノ酸配列が配列番号4で示されるタンパク質であり;
b2)は、配列4に示されるタンパク質のN端および/またはC端にタグを連結して得られた融合タンパク質であり;
b3)は、配列4に示されるアミノ酸配列を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加により得られた同じ機能を有するタンパク質であり;
b4)は、配列4に示すアミノ酸配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ同じ機能を有するタンパク質である。
【0040】
前記S1DMPタンパク質は以下のc1)またはc2)またはc3)またはc4)に示すタンパク質であって:
c1)は、アミノ酸配列が配列番号6で示されるタンパク質であり;
c2)は、配列6に示されるタンパク質のN端および/またはC端にタグを連結して得られた融合タンパク質であり;
c3)は、配列6に示されるアミノ酸配列を一つまたはいくつかのアミノ酸残基の置換および/または欠失および/または添加により得られた同じ機能を有するタンパク質であり;
c4)は、配列6に示すアミノ酸配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ同じ機能を有するタンパク質である。
【0041】
前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質またはS1DMPタンパク質の関連生物材料は下記d1)からd12)のいずれかであって:
d1)は、前記AtDMP8タンパク質または前記AtDMP9タンパク質または前記S1DMPタンパク質をコードする核酸分子であり;
d2)は、d1)で定義される核酸分子を含む発現カセットであり;
d3)は、d1)で定義される核酸分子を含む組み換えベクターであり;
d4)は、d2)で定義される発現カセットを含む組み換えベクターであり;
d5)は、d1)で定義される核酸分子を含む組み換え微生物であり;
d6)は、d2)で定義される発現カセットを含む組み換え微生物であり;
d7)は、d3)で定義される組み換えベクターを含む組み換え微生物であり;
d8)は、d4)で定義される組み換えベクターを含む組み換え微生物であり;
d9)は、d1)で定義される核酸分子を含むトランスジェニック植物細胞株であり;
d10)は、d2)で定義される発現カセットを含むトランスジェニック植物細胞株であり;
d11)は、d3)で定義される組み換えベクターを含むトランスジェニック植物細胞株であり;
d12)は、d4)で定義される組み換えベクターを含むトランスジェニック植物細胞株である。
【0042】
さらに、d1)に記載する核酸分子は以下の1)または2)または3)または4)に示す遺伝子であって:
1)は、そのコード配列は配列1または配列3または配列5に示されるcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
2)は、1)で定義されたヌクレオチド配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質またはS1DMPタンパク質をコードするcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
3)は、双子葉植物に由来し、かつ1)で定義されたヌクレオチド配列と75%または75%以上の同一性を有し、かつ前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質またはS1DMPタンパク質をコードするcDNA分子またはゲノムDNA分子であり;
4)は、厳しい条件下で1)または2)または3)で定義されるヌクレオチド配列とハイブリッドし、かつ前記AtDMP8タンパク質またはAtDMP9タンパク質またはS1DMPタンパク質をコードするcDNA分子またはゲノムDNA分子である。
【0043】
そのうち、配列1はAtDMP8タンパク質をコードする核酸分子であり、配列3はAtDMP9タンパク質をコードする核酸分子であり、配列5はS1DMPタンパク質をコードする核酸分子である。
【0044】
さらに、前記AtDMP8遺伝子および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトする物質または前記S1DMP遺伝子をノックアウトする物質は上記する前記標的配列を含むCRISPR/Cas9ベクターである。
【0045】
上記いずれかに記載された使用または方法または植物において、前記植物は双子葉植物であって;前記双子葉植物は具体的にシロイヌナズナまたはトマトであってもよく;前記シロイヌナズナは具体的に野生型シロイヌナズナ(Col-0)またはms1であってもよく;前記トマトは具体的に野生型トマトACまたはMicro-TomまたはトマトACおよびMicro-Tomのハイブリッドから得られるF1世代材料であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】シロイヌナズナ一倍体および二倍体の比較図である。矢印で指す植物体は一倍体である。
【
図2】シロイヌナズナ一倍体および二倍体の薹立ち後の比較図である。
【
図3】シロイヌナズナ一倍体および二倍体のフローサイトメトリー結果の比較図である。
【
図4】シロイヌナズナ一倍体の蛍光識別図である。
図4のaは、シロイヌナズナ種子の白色光での表現型であり、bは、シロイヌナズナ種子の蛍光での表現型であり、矢印が指す種子は一倍体である。
【
図5】シロイヌナズナ一倍体および二倍体のマーカーによる検証ゲル図である。Mは2Kマーカーであり、Iは雌親材料バンド型であり、IIは父本材料バンド型であり、IIIは一倍体バンド型であり、IVは二倍体バンド型である。
【
図6】野生型トマトおよびsldmp突然変異体の植物体と果実の比較図である。
図6のa、bはそれぞれ野生型トマトおよびsldmp突然変異体植物体であり、c、dはそれぞれ野生型トマトおよびsldmp突然変異体の自家受粉果実である。
【
図7】トマト種子の蛍光表現図である。
図7のa、bはそれぞれ明るい場所でトマト種子の未発芽および発芽を撮影する表現であり、c、dはそれぞれ蛍光でトマト種子の未発芽および発芽を撮影する表現である。
【
図8】トマト一倍体および二倍体フローサイトメトリー結果の比較図である。
【
図9】組み換えベクターにおける主要なエレメントの構造概略図である。
図9のa、bはそれぞれシロイヌナズナおよびトマトのベクター構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下の実施例は、本発明のより良い理解を容易にするものであり、本発明を限定するものではない。下記の実施例における実験方法は、特に説明しない限り、いずれも従来の方法である。下記の実施例で使用した試験材料は、特に明記しない限り、いずれも通常の生化学試薬店から購入したものである。下記の実施例における定量試験は、いずれも三回の繰り返し実験を設け、結果は平均値を取る。
【0048】
下記実施例におけるpICSL4723、ベクターは、文献「Castel, B. and L. Tomlinson, et al. (2019). Optimization of T-DNA architecture for Cas9-mediated mutagenesis in Arabidopsis. PloS one, 14(1).」に記載されており、公衆は、中国農務大学から入手することができ、該試験材料は本発明の関連実験を繰り返すためだけに使用され、他の用途として使用することはできない。
【0049】
下記実施例における野生型シロイヌナズナCol-0およびms1はいずれも文献「Rosso, M. G. and Y. Li, et al. (2003). An Arabidopsis thaliana T-DNA mutagenized population (GABI-Kat) for flanking sequence tag-based reverse genetics. Plant Mol Biol 53 (1-2): 247-59.」に記載されており、公衆は中国農学大学から入手することができ、該生体材料は本発明の関連実験を繰り返すためだけに使用され、他の用途として使用することはできない。
【0050】
下記実施例における野生型トマトACは、文献「Yuan, G. and C. Jia, et al. (2010). Effect of brassinosteroids on drought resistance and abscisic acid concentration in tomato under water stress. Scientia Horticulturae 126 (2): 103-108.」に記載されており、公衆は中国農学大学から入手することができ、該生体材料は本発明の関連実験を繰り返すためだけに使用され、他の用途として使用することはできない。
【0051】
下記実施例中の野生型トマトMicro-Tomは文献「Sun, H. and S. Uchii, et al. (2006). A highly efficient transformation protocol for Micro-Tom, a model cultivar for tomato functional genomics. Plant and Cell Physiology 47 (3): 426-431.」に記載されており、公衆は中国農学大学から入手することができ、該生体材料は本発明の関連実験を繰り返すためだけに使用され、他の用途として使用することはできない。
【0052】
本発明におけるAtDMP8遺伝子のCDS配列は配列表における配列1の第95-826位に示すように、AtDMP8遺伝子にコードされるタンパク質のアミノ酸配列は配列2に示すようである。
【0053】
本発明におけるAtDMP9遺伝子のCDS配列は配列表における配列3の第141-875位に示され、AtDMP9遺伝子にコードされたタンパク質のアミノ酸配列は配列4に示される。
【0054】
本発明におけるS1DMP遺伝子のCDS配列は配列表における配列5の第1-678位に示され、S1DMP遺伝子にコードされたタンパク質のアミノ酸配列は配列6に示される。
【実施例】
【0055】
実施例1、AtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトしたシロイヌナズナ突然変異体の調製およびその使用
一.CRISPR/Cas9システムを利用してAtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトする。
【0056】
CRISPR/Cas9システムを利用してAtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子をノックアウトし、AtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子がノックアウトされたシロイヌナズナ突然変異体を得る。具体的なステップは以下のとおりである:
【0057】
1.sgRNA配列の選択
AtDMP8およびAtDMP9遺伝子にそれぞれ長さは20bpである標的部位配列を設けた。
【0058】
標的部位1は、配列1の第98-11位、配列3の第144-163位に位置しており、sgRNAの標的部位1配列はGAGAAAACAGAGGAAAGCGTである。
【0059】
標的部位2は、配列3の第290-309位に位置し、sgRNA標的部位2配列はAAGAGGTCGAAAACGTCGCAである。
【0060】
標的部位3は、配列3の第368-387位に位置し、sgRNA標的部位3配列はTCAAGAGTGTTCCTGTCGGAである。
【0061】
標的部位4は、配列1の第509-528位、配列3の第558-577位に位置し、sgRNA標的部位4配列はATGAACACCGCGAGTCCACGである。
【0062】
2.CRISPR/Cas9ベクターの構築
CRISPR/Cas9ベクターは配列7に示されるDNA分子(sgRNA発現エレメント)、配列9に示されるDNA分子(Cas9発現エレメント)および配列10に示されるDNA分子(蛍光タンパク質発現エレメント)をgolden gate方法によってpICSL4723ベクターに連結した後に得られた組み換えベクター(ベクター構造図は
図9aに示す)である。配列7に示されるDNA分子は、標的部位1を標的とするsgRNAのコード配列、標的部位2を標的とするsgRNAのコード配列、標的部位2を標的とするsgRNAのコード配列、標的部位4を標的とするsgRNAのコード配列の順次に含み、各sgRNAのコード配列の前には、sgRNAのコード配列の発現を開始するためのAtU 6-26プロモーターが含まれる。
【0063】
3.トランスジェニック植物体の獲得
ステップ2で得られたCRISPR/Cas9ベクターをヒートショックによる形質転換によってアグロバクテリウムコンピテント細胞GV3101(アグロバクテリウムGV3101コンピテント細胞は北京奥森鼎信生物技術有限公司から購入され、公衆は購入することによって得ることができる)に転換し、組み換え菌GV3101/CRISPR/Cas9を得た。
【0064】
さらに、組み換え菌GV3101/CRISPR/Cas9をアグロバクテリウムがシロイヌナズナ花序を感染する形質転換方法(組み換えアグロバクテリウムは28°Cで増殖し、増殖後の菌液はシロイヌナズナ花序感染に用いた)を用いて野生型シロイヌナズナCol-0の花序に感染し、赤色蛍光スクリーニングを経た後、T1世代のトランスジェニックシロイヌナズナ植物体を得た。
【0065】
4.AtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子に突然変異が発生するトランスジェニック植物体の同定。
【0066】
ステップ3で得られたT1世代のトランスジェニックシロイヌナズナ植物体の葉を採取し、かつゲノムDNAをテンプレートとして抽出し、以下の二対のプライマーを用いてそれぞれPCR増幅を行い、異なる株系のPCR増幅産物を得た。
【0067】
AtDMP8突然変異配列検出プライマーの配列は以下のとおりである:
DMP8F1:TGCGAAATGAGATTGGTTTTGGG;
DMP8R1:AAACACCCTGTGACTCTCCG。
【0068】
AtDMP9突然変異配列検出プライマーの配列は以下のとおりである:
DMP9F1:ATAACCGTCAATAACCGCCG;
DMP9R2:CCAGTCATGCAACCAACACC。
【0069】
異なる株系のPCR増幅産物をSangerシーケンシングし、かつシーケンシング結果を野生型シロイヌナズナCol-0のAtDMP8およびAtDMP9とそれぞれアライメントした。以下の原理に従ってAtDMP8およびAtDMP9のそれぞれの遺伝子型に対して同定した。
【0070】
標的部位配列から二重ピーク性特徴を有する配列であれば、該株系の遺伝子型はヘテロ接合遺伝子型(2本の相同染色体における1本の染色体上のAtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子が突然変異し、かつもう1本の染色体上のAtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子が突然変異しない)であり、該株系はT1世代トランスジェニックシロイヌナズナのヘテロ接合突然変異体株系であり;
標的部位配列から特異的なシングルピーク特徴を有する配列は、野生型シロイヌナズナCol-0のAtDMP8およびAtDMP9の遺伝子配列と同じ場合、該株系の遺伝子型は野生型であり、即ちAtDMP8およびAtDMP9遺伝子配列に突然変異が発生しない;野生型シロイヌナズナCol-0のAtDMP8およびAtDMP9の遺伝子配列と異なる場合、該株系の遺伝子型はホモ接合遺伝子型(2本の相同染色体上のAtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子はいずれも突然変異する)であり、該株系はT1世代トランスジェニックシロイヌナズナホモ接合突然変異型株系である。
【0071】
同定する結果を表1および2に示す(表1、2はそれぞれT1世代トランスジェニックシロイヌナズナのAtDMP8およびAtDMP9遺伝子突然変異状況である):41株のT1世代のトランスジェニックシロイヌナズナ植物体において、33株のT1世代のトランスジェニック植物体のAtDMP8遺伝子に突然変異が発生し、そのうち2株のAtDMP8遺伝子にホモ接合突然変異が発生し、17株のAtDMP8遺伝子に両対立遺伝子突然変異が発生した。28株のT1世代トランスジェニック植物のAtDMP9遺伝子に突然変異が発生し、そのうち5株のAtDMP9遺伝子にホモ接合突然変異が発生し、7株のAtDMP9遺伝子に両対立遺伝子突然変異が発生した。AtDMP8およびAtDMP9はいずれもホモ接合突然変異/両対立遺伝子突然変異が起きたのは12株があった。表現型同定のために、フレームシフト突然変異(欠失は3の倍数ではない)を引き起こすホモ接合突然変異/両対立遺伝子突然変異の単株をさらに選択した。全部でAtDMP8ホモ接合突然変異/両対立遺伝子突然変異、AtDMP9ホモ接合突然変異/両対立遺伝子突然変異、AtDMP8およびAtDMP9ホモ接合突然変異/両対立遺伝子突然変異の両方の3種類である。
【0072】
得られたT1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8遺伝子突然変異株はT1-34を有し、具体的な突然変異は以下のとおりであって:
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8遺伝子突然変異株T1-34は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置した;もう一方の染色体には、配列番号1の第114-115位の間に位置する塩基Tの挿入が発生したことである。
【0073】
得られたT1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子二重突然変異株はT1-6、T1-11、T1-19、T1-24、T1-25、T1-28、T1-32を有し、具体的な突然変異は以下のとおりであって:
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子二重突然変異株系T1-6は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体が断片欠失を発生した、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生した、該欠失の断片が配列1の第113-114位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子で断片の挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は、GTTTACACGGCGACTC(配列13)であり、該断片の挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置することである。
【0074】
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T1世代のトランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子の二重突然変異株系T1-11は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子に一つの塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列3の第160-161位の間であり、もう一本の染色体に断片の挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は、GTTTACACGGCGACTC(配列13)であり、該断片の挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置することである。
【0075】
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子二重変異株系T1-19は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失の塩基が配列1の第114位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生した、該欠失の断片が配列1の第115-511位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列3の第161-560位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生した、該欠失の断片が配列3の第161-564位に位置することである。
【0076】
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子の二重変異株系T1-24は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体が断片欠失を発生し、該欠失の断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に塩基Tの挿入が発生した、該塩基Tの挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生した、該欠失の断片が配列3の第161-560位に位置し、もう一本の染色体に断片欠失が発生した、該欠失の断片が配列3の第159-160位に位置することである。
【0077】
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子二重変異株系T1-25は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失の塩基が配列1の第114位に位置し、もう一本の染色体に断片CGTの挿入が発生した、該断片の挿入位置が配列1の第114-115位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片欠失が発生し、該欠失の断片が配列3の第161-162位に位置し、もう一本の染色体に一つの塩基Aの挿入が発生し、該塩基Aの挿入位置は配列3の第160-161位の間に位置することである。
【0078】
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子の二重変異株系T1-28は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体が断片欠失を発生し、該欠失断片が配列1の第115-512位に位置し、もう一本の染色体に一つの塩基Tの欠失が発生し、該欠失の塩基は配列1の第114位に位置し、かつコードAtDMP9タンパク質に一つの塩基Aの挿入が発生し、該塩基Aの挿入位置は配列3の第160-161位の間に位置することである。
【0079】
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子二重変異株系T1-32は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、一本の染色体に断片の欠失が発生し、該欠失の断片が配列1の第115-511位に位置し、もう一本の染色体に一つの塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列1の第114-115位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子に塩基Cの欠失が発生し、該欠失の塩基が配列3の第161位に位置することである。
【0080】
5.T2世代トランスジェニックシロイヌナズナの遺伝子型同定
ステップ4で得られたT1世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子突然変異型株系T1-19、T1-33とT1-38を近交し、種子を収穫してから種まき、T2世代トランスジェニックシロイヌナズナを得た。T2世代トランスジェニックシロイヌナズナのAtDMP8およびAtDMP9遺伝子の遺伝子型を同定し、具体的な方法は以下のとおりである:T2世代のトランスジェニックシロイヌナズナのゲノムDNAをテンプレートとし、それぞれAtDMP8(DMP8F1とDMP8R1)およびAtDMP9(DMP9F1とDMP9R2)の突然変異配列を利用してプライマーを検出してステップ4における方法に従ってT2世代のトランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子の遺伝子型を同定した。
【0081】
得られたT2世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8遺伝子突然変異ホモ接合型株系はT2-33-1、T2-33-2およびT2-33-3を有し、この3つの株系の突然変異配列は同様であり、具体的な突然変異は以下のとおりであって:
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T2世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8遺伝子突然変異ホモ接合株系T2-33-1、T2-33-2およびT2-33-3は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子において、断片置換が発生し、該断片置換が配列1の第115-511位に示した断片を、202bpの大きさの断片に置き換えることである。202bpの大きさの断片のヌクレオチド配列は具体的に以下のとおりである:GAAATTGACGAGCATTGATGTCTTCGAAACCGTTTTTTGAACTCCTTTCGCCACCATGCGACGTTTTCTACCTTTTCCTCCTCCCGCGGCGGCTCCTGCCGGAAGCATAGGCAGTGAAGAGAGAGGGACAGGTTTGGGCGACCGAGACGATGTTGGTGACGGATTTTGCGTCGTTGTCGTCGTGTAAACTCTGATTCCGACG。
【0082】
得られたT2世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP9遺伝子突然変異ホモ接合型株系はT2-33-4、T2-33-5およびT2-33-6を有し、この3つの株系の突然変異配列は同様であり、具体的な突然変異は以下のとおりであって:
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T2世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP9遺伝子突然変異ホモ接合型株T2-33-4、T2-33-5およびT2-33-6は、AtDMP9タンパク質をコードする遺伝子に一つの塩基Tの挿入が発生し、該塩基Tの挿入位置が配列3の第160-161位の間に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子に断片挿入が発生し、該挿入された断片のヌクレオチド配列は具体的に以下のとおりであって:CGTCGGAATCAGAGTTTACACGGCGACTCCGCCGCAAAAACCATCACCATCACCACCTTCTCGTTCACCAAAACCCGTCTTAATCTCTTCATTGCCTTCCCTCCCGTCAGGAGCCGCCGCTGGAGGAGGAAGAGGTCGAAAACGTCGCATGGTGGCGCAAGGAGTTCAAAAAACGGTTTCGAAGACATCAATGCTCGTCAACTTCCTTCCGACAGGAACACTCTTGATGTTCGAAATGGTTCTTCCATCAATATACCGTGACGGAGACTGTAACGGAATCAACACACTCATGATTCATCTCCTCTTGCTTCTTTGCGCAATGTCTTGTTTCTTCTTCCATTTTACCGACAGTTTCAAAGCATCCGATGGGAAGATCTACTACGGTTTCGTGACGCCACGTG(配列14)、該断片の挿入位置は、配列3の第561-562の間である。
【0083】
得られたT2世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子突然変異ホモ接合型株系はT2-19、T2-38-1およびT2-38-2を有し、かつ各株系の突然変異タイプは以下のとおりであって:
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T2世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子突然変異ホモ接合型株系T2-19は、AtDMP9タンパク質をコードする遺伝子に断片の欠失が発生し、該断片の欠失が配列1の第115-511位に位置し、かつAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子では断片の欠失が発生し、該断片の欠失が配列3の第161-564位に位置することである。
【0084】
シークエンシング同定により以下を示した:野生型シロイヌナズナCol-0のゲノムDNAと比較し、T2世代トランスジェニックシロイヌナズナAtDMP8およびAtDMP9遺伝子突然変異ホモ接合型株系T2-38-1およびT2-38-2は、AtDMP8タンパク質をコードする遺伝子に断片の欠失が発生し、該断片の欠失が配列1の第115-127位に位置し、かつ塩基Tおよび塩基GがAtDMP9タンパク質をコードする遺伝子の2つの位置に挿入され、それぞれ配列3の第160-161位の間および配列3の562-563位の間に位置したことである。
【0085】
以上のT1およびT2世代トランスジェニックシロイヌナズナ突然変異株系を選択して下記一倍体誘導能力の分析実験に用いる。
【0086】
二.AtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子がノックアウトされたシロイヌナズナ突然変異体が一倍体の誘導産生における使用。
(一)AtDMP8および/またはAtDMP9遺伝子がノックアウトされたシロイヌナズナ突然変異体の一倍体近交誘導能力の同定。
AtDMP8およびAtDMP9遺伝子から得た3種類の突然変異体をそれぞれ近交して近交後代を獲得し、以下の方法により近交後代に対して一倍体の同定を行った(野生シロイヌナズナColがホモ接合の近交系であるため、この背景でAtDMP8およびAtDMP9遺伝子をノックアウトして得られた突然変異体の近交後代が分子マーカーにより一倍体の同定ができない):
【0087】
1.植物体表現型同定
近交種子を栽培した後、単株の表現型を観察し、一倍体は植物体が低く、葉の幅が狭くて、しかも上沖、株型がコンパクトで、雄性が不妊である等の特徴を有し、二倍体の表現型は植物体が高く、葉の幅が広く、散開し、育性が正常である(
図1、
図2)。
【0088】
2.フローサイトメトリー検出による葉の同定
上記ステップ1で得られた一倍体性状を表現する植物体に対してフローサイトメトリー検出を行い、具体的な方法は以下のとおりである:測定対象植物体の若い葉の細胞核を抽出し、二倍体シロイヌナズナ葉を対照とした;さらにフローサイトメーターを用いてシグナルを検出し、まず二倍体細胞核シグナルを検出し、かつ二倍体細胞核シグナルのピークを50(二倍体細胞内の遺伝物質は一倍体細胞内の遺伝物質の二倍であるため、一倍体細胞核シグナルのピークが25付近に現れる)に設定した。測定対象植物体の細胞核シグナルピークが25付近に現れる場合、該測定対象植物体は一倍体植物体と考えられる。測定対象植物体のシグナルピークが50付近に現れる場合、それが二倍体細胞核シグナル強度の濃縮位置と同じであると考えられ、該測定対象植物体は二倍体(
図3)である。
【0089】
記同定結果を統計しかつ以下の公式に従って誘導率を計算する:誘導率(%)=(一倍体株数/総株数)×100。AtDMP8およびAtDMP9遺伝子が同時に突然変異した後、近交子孫において一倍体が得られることがわかる。
【0090】
(二)AtDMP8およびAtDMP9遺伝子がノックアウトされたシロイヌナズナ突然変異体の一倍体ハイブリッド誘導能力の同定
AtDMP8およびAtDMP9遺伝子から得られた3種類の突然変異体をそれぞれシロイヌナズナms1材料とハイブリッドしてハイブリッド後代を獲得し、以下の方法によりハイブリッド後代における一倍体を同定した:
【0091】
1.蛍光標識による同定
CRISPR/Cas9ベクターは、プロモーターAtOLEO1がTagRFP (Entacmaea quadricolor)を駆動する発現エレメントを保有している。プロモーターAtOLEO1は、成熟した種子胚において特異的に発現するため、TagRFPの蛍光シグナルを蛍光灯で観察することができる。そのため、該発現エレメントを保有する突然変異体を父本として他の蛍光を保有しない雌親材料とハイブリッドし、得られた種子において、二倍体種子の胚は父本のゲノムを有するため強い赤色蛍光を示したが、一倍体種子の胚は雌親由来のため無蛍光または弱蛍光を示した(
図4)。
【0092】
2.分子マーカーによる同定
上記ステップ1で同定された無蛍光および弱蛍光の種子をさらに植え、そのゲノムDNAを抽出し、シロイヌナズナms1とAtDMP8およびAtDMP9遺伝子がノックアウトされたシロイヌナズナ突然変異体間多型プライマー092B02-F(092B02-F:CAGCTGAGATGAACGAGTTGTCTT)、092B02-R(092B02-R:TCTTTTGAGTCACTCCGTATGTCC)とLB-o8474(LB-o8474:ATAATAACGCTGCGGACATCTACATTTT)を用いて、PCR増幅を行い、そして、増幅産物に対してアガロースのバンド型検出を行い、測定対象単株の増幅産物の大きさが500bpで、1バンドとして現れた場合、該単株のバンドはシロイヌナズナms1バンド型でありと考え、父本材料のバンド型が存在しない場合、該単株は雌親一倍体である。測定対象単株の増幅産物の大きさは500bpおよび1094bpで、2バンドとして現れた場合、該単株のバンドはシロイヌナズナms1およびトランスジェニックシロイヌナズナ突然変異株系ヘテロ接合バンド型であると考えられ、該単株は正常にハイブリッドした後代であり、二倍体である(
図5)。
【0093】
3.成熟植物体表現型の同定
上記ステップ1および2で同定された植物体に対してさらにその表現型を観察し、一倍体は植物体が低く、葉の幅が狭くて、しかも上に向く、株型がコンパクトで、雄性が不妊である等の特徴を有し、二倍体の表現型は植物体が高く、葉の幅が広く、散開し、育性が正常である。
【0094】
4.フローサイトメトリー検出による葉の同定
上記ステップ3で得られた一倍体性状を表現する植物体に対してフローサイトメトリー検出を行い、具体的な方法は以下のとおりである:測定対象植物体の若い葉の細胞核を抽出し、二倍体シロイヌナズナ葉を対照とした;さらにフローサイトメーターを用いてシグナルを検出し、まず二倍体細胞核シグナルを検出し、そして二倍体細胞核シグナルのピークを50(二倍体細胞内の遺伝物質は一倍体細胞内の遺伝物質の二倍であるため、一倍体細胞核シグナルのピークが25付近に現れる)に設定した。測定対象植物体の細胞核シグナルピークが25付近に現れる場合、該測定対象植物体は一倍体植物体であると考えられる。測定対象植物体のシグナルピークが50付近に現れる場合、それが二倍体細胞核シグナル強度の濃縮位置と同じである場合、該測定対象植物体は二倍体であると考えられる。
【0095】
上記同定結果を統計しかつ以下の公式に従って誘導率を計算した:誘導率(%)=(雌親一倍体株数/総株数)×100。AtDMP8遺伝子突然変異、AtDMP9遺伝子突然変異、およびAtDMP8とAtDMP9遺伝子の同時突然変異後に他の材料とハイブリッドすると、後代において雌親一倍体が得られることがわかる。
【0096】
実施例2、S1DMP遺伝子ノックアウトのトマト突然変異体の調製およびその使用
一.CRISPR/Cas9システムによるS1DMP遺伝子のノックアウト
CRISPR/Cas9システムを用いてトマトのS1DMP遺伝子をノックアウトし、S1DMP遺伝子がノックアウトされたトマト突然変異体を得た。具体的なステップは以下のとおりであって:
1.sgRNA配列の選択
S1DMP遺伝子に長さが20bpの標的部位配列を設計した。
【0097】
標的部位1は配列5の第76-9595位に位置し、sgRNA標的部位1配列は、TATCCTACTAATTTACCACAである。
【0098】
標的部位2は配列5の第247-266位に位置し、sgRNA標的部位2配列は、TCTCCTTTACCAAATACTGAである。
【0099】
2.CRISPR/Cas9ベクターの構築
CRISPR/Cas9ベクターは配列8に示されるDNA分子(sgRNA発現エレメント)、配列11に示されるDNA分子(Cas9発現エレメント)、配列10に示されるDNA分子(蛍光タンパク質発現エレメント)および配列12に示されるDNA分子(NptII発現エレメント)をgolden gateの方法によってpICSL4723ベクターに連結した後に得られた組み換えベクター(ベクター構造図は
図9bに示す)である。配列8に示されるDNA分子は、標的部位1を標的とするsgRNAのコード配列、標的部位2を標的とするsgRNAのコード配列の順次に含み、各sgRNAのコード配列の前には、sgRNAのコード配列の発現を開始するためのAtU 6-26プロモーターが含まれる。
【0100】
3.トランスジェニック植物体の獲得
ステップ2で得られたCRISPR/Cas9ベクターをヒートショックによる形質転換によってアグロバクテリウムコンピテント細胞GV3101(アグロバクテリウムGV3101コンピテント細胞は北京奥森鼎信生物技術有限公司から購入され、公衆は購入することによって得ることができる)に転換し、組み換え菌GV3101/CRISPR/Cas9を得た。
【0101】
さらに組み換え菌GV3101/CRISPR/Cas9をアグロバクテリウムでトマト子葉外植体を感染する方法(組み換えアグロバクテリウムを28℃で増殖され、増殖された後の細菌溶液はトマト子葉外植体に用いられた)を用いて野生型トマトACの子葉外植体を感染し、カナ耐性スクリーニングを経た後にT0世代トランスジェニックトマト植物体を得た。
【0102】
4.S1DMP遺伝子に突然変異が発生したトランスジェニック植物体の同定
ステップ3で得られたT0世代トランスジェニックトマト植物体の葉を採取し、そしてゲノムDNAをテンプレートとして抽出し、以下のプライマーを用いてPCR増幅を行い、異なる株系のPCR増幅産物を得た。
【0103】
S1DMP遺伝子突然変異配列検出プライマーの配列は以下のとおりであって:
S1DMPF2:ACTGCTTAGGATATTAACTGACCC;
S1DMPR1:TTTTGGCACATCGACACCAAG。
【0104】
異なる株系のPCR増幅産物をSangerシーケンシングし、シークエンシング結果と野生型トマトACのS1DMP遺伝子と比較した。S1DMPの遺伝子型を以下の原理に従って同定した。
【0105】
標的部位配列から二重ピーク性特徴を有する配列であれば、該株系の遺伝子型はハイブリッド遺伝子型(2本の相同染色体における1本の染色体上のS1DMP遺伝子が突然変異しており、かつもう1本の染色体上のS1DMP遺伝子が突然変異していない)であり、該株系はT0世代トランスジェニックトマトヘテロ接合突然変異型株系であり;
標的部位配列から特異的なシングルピーク特徴を有する配列は、野生型トマトACのS1DMP遺伝子配列と同じ場合、該株の遺伝子型は野生型であり、即ちS1DMP遺伝子配列に突然変異が発生しない;野生型トマトACのS1DMP遺伝子配列と異なる場合、該株系の遺伝子型はホモ接合型遺伝子型(2本の相同染色体上のS1DMP遺伝子は突然変異した)であり、該株系はT0世代トランスジェニックトマトホモ接合突然変異型株系である。
【0106】
5.T1世代トランスジェニックトマトの遺伝子型同定
ステップ4で得られたT0世代トランスジェニックトマトS1DMP遺伝子突然変異株T0-12とT0-34を近交させ、種子を収穫してから種まき、T1世代トランスジェニックトマトを得た。T1世代トランスジェニックトマトのS1DMP遺伝子の遺伝子型を同定し、具体的な方法は以下のとおりである:T1世代のトランスジェニックトマトのゲノムDNAをテンプレートとし、S1DMP(S1DMPF2およびS1DMPR1)突然変異配列検出プライマーを使用して、ステップ4の方法に従ってT1世代のトランスジェニックトマトS1DMP遺伝子の遺伝子型を同定した。
【0107】
最終的に得られたT1世代トランスジェニックトマトS1DMP遺伝子突然変異ホモ接合型株はsldmp-1およびsldmp-2を有し、各株の突然変異タイプは以下のとおりであって:
シークエンシング同定により以下を示した:野生型トマトACのゲノムDNAと比較し、T1世代トランスジェニックトマトS1DMP遺伝子突然変異ホモ接合型株系sldmp-1は、S1DMPタンパク質をコードする遺伝子に一つの塩基Cの挿入が発生し、該挿入した塩基は配列5の第92-93の間位置する。
【0108】
シークエンシング同定により以下を示した:野生型トマトACのゲノムDNAと比較して、T1世代トランスジェニックトマトS1DMP遺伝子突然変異ホモ接合型株系sldmp-2は、S1DMPタンパク質をコードする遺伝子に断片の欠失が発生し、該断片の欠失が配列5の第93-249位に位置する。
【0109】
二.S1DMP遺伝子がノックアウトされたトマト突然変異体が一倍体の誘導産生における使用
(一)S1DMP遺伝子がノックアウトされたトマト突然変異体の植物体表現および結実率の分析
野生型トマトACおよびAC背景でS1DMP遺伝子をノックアウトしたトマト突然変異体植物体の表現に比較し、S1DMP遺伝子がノックアウトされた後に植物体の成長に影響を与えないことがわかる(
図6)。各トマトの近交果実当たりの種子数を統計すると、野生型の各近交果実では1個当たり平均で約79.5個の種子が産生したが、一方、sldmp突然変異体では17個しか産生せず、野生型より大幅に低い(表6)。S1DMP遺伝子突然変異後に結実率の低下を引き起こすことを示し、sldmp突然変異体が一倍体誘導の能力を有することを示唆した。
【0110】
(二)S1DMP遺伝子がノックアウトされたトマト突然変異体の一倍体ハイブリッド誘導能力の同定
sldmp突然変異体をトマトACおよびMicro-Tomとハイブリッドし、得られたF1世代材料をハイブリッドしてハイブリッド後代を獲得し、以下の方法によりハイブリッド後代における一倍体を同定した:
【0111】
1.蛍光標識による同定
CRISPR/Cas9ベクターは、プロモーターAtOLEO1がTagRFP(Entacmaea quadricolor)を駆動する発現エレメントを保有している。プロモーターAtOLEO1は、成熟した種子胚において特異的に発現したため、TagRFPの蛍光シグナルを蛍光灯で観察することができる。そのため、該発現エレメントを保有した突然変異体を父本として他の蛍光を保有しない雌親材料とハイブリッドし、得られた種子において、二倍体種子の胚は父本のゲノムを有するため赤色蛍光を示したが、一倍体種子の胚は雌親由来のため無蛍光または弱蛍光を示した(
図7)。
【0112】
2.分子マーカーによる同定
上記ステップ1で同定された無蛍光の種子をさらに植え、そのゲノムDNAを抽出し、トマトACとMicro-Tomをハイブリッドして得られたF1世代およびS1DMP遺伝子がノックアウトされたトマト突然変異体間多型プライマーS1DMPF2+S1DMPR1を用いて、PCR増幅を行い、そして増幅産物に対してアガロースのバンド型検出またはシークエンシングを行い、測定対象の単株の増幅産物が1バンドまたはシークエンシング結果が単一ピーク図である場合、該単株のバンドは雌親バンド型であり、父本材料のバンド型が存在しない場合、該単株は雌親一倍体であると考えられる。測定対象単株の増幅産物が2バンドを示す場合、またはシークエンシングした結果がヘテロ接合体ピーク図である場合、該単株のバンドはトマトACとMicro-Tomがハイブリッドして得られたF1世代およびS1DMP遺伝子をノックアウトしたトマト突然変異体のハイブリッドバンド型であると考えられ、該単株は正常なハイブリッドの後代であり、二倍体である。
【0113】
3.成熟植物体表現型の同定
上記ステップ1および2で同定された植物体に対してさらにその表現型を観察し、一倍体は植物体が低く、葉の幅が狭くて、しかも上に向く、株型がコンパクトで、雄性が不妊である等の特徴を有し、二倍体の表現型は植物体が高く、葉の幅が広く、散開し、育性が正常である。
【0114】
4.フローサイトメトリー検出葉の同定
上記ステップ3で得られた一倍体性状を表現している植物体に対してフローサイトメトリー検出を行い、具体的な方法は以下のとおりである:測定対象植物体の若い葉の細胞核を抽出し、二倍体トマト葉を対照とした;さらにフローサイトメーターを用いてシグナルを検出し、まず二倍体細胞核シグナルを検出し、かつ二倍体細胞核シグナルのピークを100(二倍体細胞内の遺伝物質は一倍体細胞内の遺伝物質の二倍であるため、一倍体細胞核シグナルのピークが50付近に現れる)に設定した。測定対象植物体の細胞核シグナルピークが50付近に現れる場合、該測定対象植物体は一倍体植物体と考えられる。測定対象植物体のシグナルピークが100付近に現れる場合、それが二倍体細胞核シグナル強度の濃縮位置と同じであると考えられ、該測定対象植物体は二倍体(
図8)である。
【0115】
上記同定結果を統計しかつ以下の公式に従って誘導率を計算する:誘導率(%)=(雌親一倍体株数/総株数)×100。S1DMP遺伝子の突然変異後に他の材料とハイブリッドし、ハイブリッドハイブリッド子孫において母系一倍体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明はシロイヌナズナから単為生殖一倍体誘導遺伝子AtDMP8およびAtDMP9をクローニングする。実験は、AtDMP8およびAtDMP9の突然変異が単為生殖一倍体誘導能力を生むことができることを示し、それは単為生殖方法による一倍体の誘導産生の適用を双子葉作物に拡張できるようになった。本発明はさらにトマトにおいて検証を行い、トマトにおいて同様にS1DMPの突然変異が単為生殖一倍体誘導能力を産生できること発見する。本発明は双子葉植物への一倍体育種技術の使用を広げることおよび単為生殖一倍体の生物学的メカニズムをあきらかにすることにとって重要な基礎を築く。現在育種業界における一倍体育種技術の幅広い適用を考慮して、本発明は非常に広い範囲の適用空間および市場の見通しを有する。
【配列表】
【国際調査報告】