(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-05
(54)【発明の名称】マメ科タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 1/14 20060101AFI20220829BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
A23J1/14
A23J3/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577321
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(85)【翻訳文提出日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 FR2020051122
(87)【国際公開番号】W WO2020260841
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】カルモン、ルシル
(72)【発明者】
【氏名】ルコック、アリーン
(57)【要約】
本発明は、植物性タンパク質の分野に属する。本発明は、特に、マメ科の種子を70~130℃の温度で1~6分間乾熱前処理した後、種子を磨砕して粉にし、水溶液中で粉の懸濁液を形成し、懸濁液から可溶性成分を分離し、当該可溶性成分からタンパク質を抽出する工程を含む、マメ科タンパク質組成物、好ましくはエンドウマメタンパク質組成物の製造方法、及びこの方法によって得ることができるタンパク質組成物に関するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マメ科タンパク質組成物の製造方法であって、
i)マメ科植物の種子を、70~130℃、例えば80~125℃、特に100~120℃の温度で、1~6分、例えば1.5~5分、特に2~4分乾熱処理する工程と、
ii)前記種子を粉に粉砕し、前記粉を水溶液に懸濁する工程と、
iii)前記懸濁液の可溶性成分を、好ましくは遠心力で分離する工程と、
iv)前記可溶性成分からタンパク質を抽出する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
工程ii)の前記粉を、前記懸濁液の重量に対して、15~25重量%の固形分、好ましくは20重量%の固形分の濃度で水性懸濁液に投入することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質を抽出する工程iv)が、
前記タンパク質をpH4~6の水溶液中で凝固させ、45℃~65℃、好ましくは55℃で前記溶液を熱処理する工程、を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記凝固したタンパク質好ましくは遠心分離及び水溶液中への前記タンパク質の懸濁によって、回収する工程と、
前記タンパク質水溶液のpHを6~8、好ましくは7に調整する工程と、
前記タンパク質水溶液を130℃~150℃、好ましくは140℃で、5秒~15秒、好ましくは10秒熱処理する工程と、を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質の前記水性懸濁液を乾燥させる工程を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記マメ科植物の種子が、エンドウマメ、ウチワマメ、及びファバマメから選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記マメ科植物の種子が、エンドウマメの種子であることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法により得られる、マメ科植物タンパク質組成物。
【請求項9】
食料品の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載のマメ科植物タンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性タンパク質の分野に属する。本発明は、特に、マメ科植物タンパク質組成物、好ましくはエンドウマメからのタンパク質組成物の製造方法、及びこの方法によって得られるタンパク質組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの1日当たりのタンパク質必要量は、食物摂取量のうちの12~20%である。これらのタンパク質は、動物由来の製品(肉、魚、卵、乳製品)によっても、植物由来の食品(穀物、マメ科植物、海藻)によっても得られる。
【0003】
しかしながら、先進国では、タンパク質摂取は主に動物由来のタンパク質によりなされる。しかし、数多くの研究により、動物由来のタンパク質を過剰摂取し、植物性タンパク質の摂取が不足することは、がん及び心血管疾患を増加させる原因の1つであることが示されている。
【0004】
更に、動物性タンパク質は、特に乳又は卵からのタンパク質に関してアレルゲン性の点、及び集約農業の有害な影響に関連して環境上の点の両方で、多くの欠点を有する。
【0005】
したがって、有益な栄養特性及び機能特性を有するが、動物由来の化合物の欠点は有さない、植物由来の化合物に対し、製造業者からの需要が高まっている。
【0006】
大豆は、動物性タンパク質に代わる主要な植物である。しかしながら、大豆の使用は、特定の欠点を呈する。大豆種子の起源は、大半の場合、遺伝子組み換え農産物(GMO)由来ではなく、そのタンパク質の産生は、溶媒を使用する脱油工程を介して進行する。
【0007】
1970年代以来、特に欧州、主にフランスでは、特にエンドウマメを含む豆類植物は、動物及びヒトの食物摂取のための動物性タンパク質に対する代替的なタンパク質資源として劇的に発展を遂げている。エンドウマメは約27重量%のタンパク質を含有する。用語「エンドウマメ」は、本明細書においてその最も広く許容される使用法により考慮され、特に、その品種の通常の使用目的(ヒトの食品、動物用飼料及び/又は他の用途)に関わらず、「丸エンドウマメ」の全ての野生品種、並びに「丸エンドウマメ」及び「しわのあるエンドウマメ」の全ての変異品種を含む。これらの種子は、非GMOであり、溶媒を使用する脱油工程を必要としない。
【0008】
エンドウマメタンパク質、主にエンドウマメグロブリンは、長年にわたって工業的に抽出及び利用されてきた。エンドウマメタンパク質を抽出するための方法の一例として、欧州特許第1400537号に言及することができる。このプロセスでは、粉を得るために、種子を水の非存在下で粉砕する(「乾式製粉」と呼ばれるプロセス)。次いで、この粉を水に懸濁して、タンパク質を抽出する。
【0009】
エンドウマメから抽出されたタンパク質は、その申し分のない品質にもかかわらず、動物性タンパク質と比較して、「エンドウマメ臭」、「豆様臭(beany)」、又は「植物臭」として知られる匂いをきたす。この匂いは、多くの産業用途、特に食品において、紛れもない障害となっている。
【0010】
特に飲料の分野では、タンパク質の匂いをマスキングすることが特に難しいため、官能プロファイルの改善が不可欠である。すなわち、追加の構成成分を添加することにより、実際に、粘度の調節、溶液中の安定性、及び/又は飲料の嗜好性がもたらされ得る。更に、タンパク質は、低いゲル化力又は更に低粘度を有することにより、飲料がゲル化したり、高粘度になりすぎたりすることなく、タンパク質含有量を増やすことができることが有利である。
【0011】
多くの研究の結果、これらの望ましくない匂いの主な原因の1つは、タンパク質の抽出中に残留する脂質に内部リポキシゲナーゼが作用して、アルデヒド及び/又はケトン(特にヘキサナール)が合成されることに起因することが明らかになった。サポニン及び3-アルキル-2-メトキシピラジンもまた、これらの望ましくない匂いを発生させる化合物の一種である(「Flavor aspects of pulse Ingredients」、Wibke S.U.Roland,2017)。
【0012】
そこで、当業者は、市販のエンドウマメタンパク質の匂いを改善し、ニュートラルな味を与えるためのいくつかの解決策を開発した。第1の解決策は、この目的のために選択された化合物を加えることで、匂いをマスキングすることに基づく。この解決策では、ユーザーに、必ずしも導入したくない化合物並びに、規制及び/又はアレルゲン問題の原因となり得る化合物を、それらの配合に導入することが必要である。別の解決策は、米国特許第4,022,919号に記載されており、1970年代という早期に、当該エンドウマメタンパク質を蒸気で処理することで、匂いが改善されたタンパク質を得ることができると教示されていた。しかし、この方法は、熱変性によって得られたタンパク質の機能的品質が変化する危険性(例えば、溶解性の損失又はその水和能力の増加など)及び、使用前に必要な精製工程を追加する必要があると批判され得る。したがって、これらの解決策は効果的であるが、タンパク質のエンドユーザーが追加の精製操作を行う必要があり、エンドウマメタンパク質の特徴を変えてしまう可能性がある。そのため、当業者は、明らかに、抽出プロセス中に、匂いがニュートラルなエンドウマメタンパク質を直接かつ単純に入手しようと努めてきた。
【0013】
リポキシゲナーゼの少ないエンドウマメ品種の選択又はタンパク質抽出前のエンドウマメの事前発芽など、ただしこれらに限定されない多くの潜在的に可能な解決策が検討されてきた。最近では、塩の添加による沈殿、複数回の洗浄、及び遠心分離による回収を含む方法を開示した国際公開第2017/120597号を挙げることができる。大量の水(最大でエンドウマメの30倍の量)を使った複雑な方法にもかかわらず、エンドウマメタンパク質には「豆様臭」及び「苦味」の匂いが存在する(国際公開第2017/120597号のグラフ18A、B、C参照)。
【0014】
リポキシゲナーゼ及びサポニンは温度に敏感であるため、国際公開第2019/053387号では、湿潤環境での加熱(ブランチング)からなる抽出工程中に、場合によっては急冷工程と組み合わせた追加の熱処理を加えることが検討された。残念なことに、これらの工程は大量の水を伴い、回収する必要のある可溶性の副生成物が発生する。更に、この方法を用いても、ゲル化力が低下したタンパク質を製造することはできない。
【0015】
関連する大豆分野では、焙煎又は乾熱(トーストとも呼ばれる)が用いられる。エンドウマメ分野の重要な問題は、工業的に使用するために分解してはいけない、エンドウマメデンプンの保存である。大豆にはデンプンが含まれていないため、大豆分野ではデンプンの問題を気にすることなく、非常に高い加熱温度を使用してリポキシゲナーゼを阻害することができる。
【0016】
また、種子を加熱すると、タンパク質の機能的改質(例えば、溶解性や乳化力など)が発生し、特定の使用、特に食品での使用ができなくなることがある。
【0017】
そのため、最適化された抽出方法及び保証された特徴も示すと共に、匂いが改善されたマメ科植物タンパク質、特にマメ科植物タンパク質単離物、更により具体的には、エンドウマメタンパク質単離物を得ることが有利である。
【発明の概要】
【0018】
本発明者らは、70~130℃で1~6分間、有利には100~120℃で2~4分間、種子を熱処理する予備工程を経ることで、デンプンの機能性を維持し、各種成分の抽出収率を保証しながら、内部リポキシゲナーゼの活性を阻害することが可能になることを示した。本発明者らが開発した方法により、機能特性がタンパク質強化飲料用途に特に適している、すなわち、官能特性が改善され、ゲル化力が低減され、かつ乳化力が改善されたマメ科植物タンパク質組成物を得ることが可能になる。
【0019】
本発明の第1の態様によれば、マメ科植物タンパク質組成物を製造するための方法が提案され、該方法は、
i)好ましくはエンドウマメ、ウチワマメ、及びファバマメから選択されるマメ科植物の種子を、70~130℃、例えば80~125℃、特に100℃~120℃の温度で、1~6分、例えば1.5~5分、特に2~4分、乾熱処理する工程と、
ii)種子を粉に粉砕し、粉を水溶液に、好ましくは懸濁液の重量に対して15~25重量%、より好ましくは20重量%の乾燥物濃度で懸濁する工程と、
(iii)当該懸濁液の可溶性成分を遠心力で分離する工程と、
(iv)可溶性成分からタンパク質を抽出する工程と、を含む。
【0020】
好ましい実施形態では、当該画分からタンパク質を抽出することは、pH4~6の水溶液中でタンパク質を凝固させ、45℃~65℃、好ましくは55℃で、特に3.5分~4.5分、好ましくは4分、溶液を熱処理する工程を含む。好ましくは、凝固したタンパク質を、好ましくは遠心分離によって回収し、水溶液に懸濁する。その後、凝固したタンパク質の水溶液のpHを6~8、好ましくは7に調整することができ、130~150℃、好ましくは140℃で、5~15秒、好ましくは10秒、水性懸濁液を熱処理することができる。本方法は、凝固したタンパク質の水性懸濁液を乾燥させる工程を更に含み得る。
【0021】
別の態様によれば、当該発明の第1の態様に記載の方法によって得られるマメ科植物タンパク質組成物が提案される。
【0022】
本発明の最終的な態様によれば、当該発明の第1の態様に記載された方法によって得られるタンパク質組成物の、特に動物及びヒトの食料品のための、工業的使用がなされることが提案される。
【0023】
本発明は、以下の詳細な説明により、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】種子を100℃で4分、又は120℃で2分熱処理する工程を含む方法で、又は熱処理しない方法で得られたタンパク質組成物の粘度分析プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
したがって、本発明の第1の態様によれば、マメ科植物タンパク質組成物を製造する方法が提案され、該方法は、
i)好ましくはエンドウマメ、ウチワマメ、及びファバマメから選択されるマメ科植物の種子を、70~130℃、例えば80~125℃、特に100~120℃の温度で、1~6分、例えば1.5~5分、特に2~4分加熱する工程と、
(ii)種子を粉に粉砕し、それを水溶液に懸濁する工程と、
iii)当該水性懸濁液から、好ましくは遠心力で可溶性成分を分離する工程と、
(iv)可溶性成分中のタンパク質を抽出する工程と、を含む。
【0026】
用語「タンパク質組成物」は、抽出及び精製によって得られる組成物を意味するものとして本特許出願において理解されるべきであり、この組成物は、ペプチド結合を介して一緒に結合されたアミノ酸残基の配列からなる1つ以上のポリペプチド鎖から形成されるタンパク質巨大分子を意味するものとして理解されるべきである。エンドウマメタンパク質の特定の文脈において、本発明は、より詳細には、グロブリン(エンドウマメタンパク質の約50~60%)に関する。エンドウマメグロブリンは、主にレグミン、ビシリン及びコンビシリンの3種類のサブファミリーに分類される。
【0027】
「マメ科植物」は、本出願において、マメ目の双子葉植物の科を意味することが理解されるであろう。マメ科は、種の数がラン科及びキク科に次いで3番目に多い顕花植物科である。マメ科には約765属、19,500種超が含まれる。大豆、インゲンマメ、エンドウマメ、ヒヨコマメ、ファバマメ、ナンキンマメ、栽培レンズマメ、栽培アルファルファ、各種クローバ、ソラマメ、イナゴマメ、カンゾウ、及びウチワマメなどの、いくつかのマメ科植物は、重要な作物植物である。
【0028】
本発明の好ましい様式によれば、マメ科植物タンパク質は、エンドウマメ、インゲンマメ、ファバマメ及びこれらの混合物、好ましくはエンドウマメからなる群から選択される。
【0029】
用語「エンドウマメ」は、特に「丸エンドウマメ」の全ての野生品種、並びに「丸エンドウマメ」及び「しわのあるエンドウマメ」の全ての変異品種を含む。
【0030】
選択されたマメ科植物がエンドウマメである場合、エンドウマメは、本発明による方法の加熱及び粉砕段階の前に、当業者によく知られている段階、例えば、特に洗浄(石、昆虫の死骸、土壌残土などの望ましくない粒子の除去)することができ、及びまた、70~130℃、例えば80~125℃、特に100℃~120℃の温度で、1~6分、例えば1.5~5分、特に2~4分、外部繊維を剥くこともできる。
【0031】
本発明による方法は、70~130℃、例えば80~125℃、特に100℃~120℃の温度で、1~6分、例えば1.5~5分、特に2~4分の時間、種子を熱処理することからなる工程i)を含む。この熱処理は乾熱処理であり、種子中に存在する水性溶媒に加えての水性溶媒がない状態で行われる。この乾熱処理(トースト)は、熱が対流によって供給されるという点でマイクロ波処理とは異なる。これにより、種子の熱処理(時間及び温度)を正確に制御することができる。この乾熱処理は、例えば相対湿度をモニタリングすることなく、容易に実施できるため、特に有利である。本出願で例示したように、デンプンの機能性を維持し、各種成分の抽出収率を保証すると共に、内部リポキシゲナーゼの活性を阻害できるようにするためには、時間及び温度の間隔に配慮することが重要である。
【0032】
これらの特定の条件の前にこの熱処理工程を遵守すること、並びにこの方法の様々な工程の条件を遵守することにより、機能特性がタンパク質強化飲料用途に特に適している、すなわち、官能特性が改善され、ゲル化力が低減され、かつ乳化力が改善されたタンパク質組成物を得ることも可能になる。
【0033】
更により好ましい実施形態では、温度は110~120℃、例えば120℃である。この選択により、タンパク質組成物の非常に低い粘度を得ることが可能になり、これは、高タンパク質飲料などの特定の食品用途において、更なる利点である。
【0034】
この工程の最後には、「剥く」とも呼ばれる周知の工程で、外側のエンドウマメ繊維(セルロースの外殻)を任意選択で除去する。
【0035】
本発明による方法は、種子を粉砕し、水性懸濁液を生成する工程ii)を含む。
【0036】
粉砕は、ボールミル、コニカルミル、螺旋ミル、ジェットミル、又はロータ/ロータシステムなどの、当業者に既知の任意の種類の好適な技術によって実行される。
【0037】
粉砕中、水は、懸濁液の重量に対して、固形分(SC)が15重量%~25重量%、好ましくはSCが20重量%の粉砕されたエンドウマメの水性懸濁液を生成するように、粉砕開始時、粉砕中、又は粉砕終了時に連続的又は不連続的に添加されてもよい。
【0038】
粉砕終了時に、pHを確認することができる。好ましくは、工程ii)の終了時に粉砕されたエンドウマメの水性懸濁液のpHは、8~10に調整され、好ましくはpHは9に調整される。pHは、酸及び/又は塩基、例えば水酸化ナトリウム又は塩酸を添加することによって調整することができる。アスコルビン酸、クエン酸、水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウムの使用が好ましい。
【0039】
次に、本発明による方法は、水性懸濁液から可溶性成分を、好ましくは遠心力によって分離する工程iii)からなる。この工程により、懸濁液の不溶性画分から可溶性画分を分離することが可能になる。不溶性画分は、主にデンプン及び「内部繊維」と呼ばれる多糖類からなる。タンパク質は可溶性画分(上清)に濃縮されている。
【0040】
また、エンドウマメの内部繊維を除去するための第1のふるい分け工程を設けることで、デンプン及び繊維を分離することができる。この第1の工程が必要なのは、エンドウマメの内部繊維が、エンドウマメのデンプン及びタンパク質と非常に容易に結合するからである。その後、デンプン又は関連するタンパク質を抽出するために、これらの繊維を複数回洗浄する必要がある。このふるい分け段階の後、内部繊維を取り除いた懸濁液を遠心分離して、主にタンパク質を含有する「軽相」と、主にデンプンを含有する「重相」とを生成する。
【0041】
本発明による方法は、可溶性成分からタンパク質を抽出する工程iv)を含む。当該抽出は、特にタンパク質の等電点pH沈殿又は加熱による熱凝固など、任意の種類の好適な方法で行うことができる。
【0042】
好ましくは、タンパク質の抽出は、4~6、好ましくは5のpHの水溶液中でタンパク質を凝固させ、続いて、45~65℃、好ましくは55℃の温度に加熱する工程からなる。
【0043】
接触時間は、1分~30分、例えば1分~10分、好ましくは3分~5分、更により好ましくは5分とすることができる。本明細書の目的は、工程iv)の上清の他の構成成分から目的のエンドウマメタンパク質を分離することである。時間/温度スケールを確認することは非常に重要である。
【0044】
好ましくは、加熱は、例えば二重ジャケット式撹拌槽内での間接的な蒸気注入によって行われる。
【0045】
凝固したタンパク質(凝固タンパク質フロックとしても知られる)は、その後、遠心分離によって回収することができる。これによって、濃縮タンパク質を有する固体画分は、濃縮糖及び塩を有する液体画分から分離される。その後、フロックを水溶液に懸濁し、好ましくは水で希釈する。その後、固形分含有量は、懸濁液の重量に対して、10重量%~20重量%、好ましくは15重量%の固形分に調整される。
【0046】
その後、タンパク質フロックのpHを6~8、好ましくは7の値に調整することができる。pHは、任意の酸性及び塩基性試薬を使用して調整される。アスコルビン酸、クエン酸、水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウムの使用が好ましい。
【0047】
その後、130℃~150℃、好ましくは140℃で、5秒~15秒、好ましくは10秒間、熱処理を行うことができる。
【0048】
タンパク質の抽出は、好ましくは、当業者に知られている任意の技術を用いて乾燥させることで終了させることができる。好ましい方法では、固形分の重量に対して、80重量%超、好ましくは90重量%超のタンパク質の固形分含有量に達するように、凝固したタンパク質フロックを乾燥させる。この目的のために、当業者に周知の任意の技術、例えば、凍結乾燥又は霧化を使用することができる。霧化は、好ましい技術、特に多重効果霧化である。
【0049】
固形分含有量は、当業者に公知の任意の方法によって測定される。好ましくは、「脱水」方法が使用される。それは、既知の重量の試料の既知の量を加熱することによって蒸発した水の量を測定することで構成される。試料を最初に秤量し、質量m1をg単位で測定し、試料塊が安定化するまで試料を加熱チャンバ内に配置することによって水を蒸発させ、水を完全に蒸発させ(好ましくは、温度は大気圧下105℃である)、最終試料を秤量し、質量m2をg単位で測定する。以下の計算で固形分含有量を求める:(m2/m1)*100。
【0050】
したがって、本発明の第2の態様によれば、マメ科植物タンパク質組成物が提案されており、該組成物中において、マメ科植物は、特にエンドウマメ、ウチワマメ、及びファバマメから選択され、組成物は、当該発明の第1の態様に記載された方法によって得ることができる。
【0051】
好ましくは、本発明によるマメ科植物タンパク質組成物は、固形分の総重量に対して、80重量%超、好ましくは85重量%超、更により好ましくは90重量%超のタンパク質の、タンパク質含有量を有する。
【0052】
タンパク質含有量は、当業者に周知の任意の技術によって測定される。好ましくは、全窒素を(組成物の総乾燥重量に対する窒素の重量百分率として)アッセイし、結果に6.25の係数を掛ける。植物性タンパク質の分野におけるこの周知の方法論は、タンパク質が平均で16%窒素を含有するという観察に基づく。当業者に周知の任意の乾燥物アッセイ法も使用することができる。
【0053】
以下に例示するように、本発明によるタンパク質組成物は、その官能プロファイル、特に「植物臭」又は「豆様臭」の成分が改善されているため、技術革新的である。この成分は、感覚器官による食味検査パネルにより、慣行に従って評価される。この違いは、質量分析計を備えたガスクロマトグラフィーを用いて揮発性化合物を分析することによっても特定することができる。
【0054】
また、この組成物は、マメ科植物の種子を熱処理する工程を含まない製造方法で得られたマメ科植物タンパク質組成物と比較して、ゲル化力が約2分の1に低減されている点で、ゲル化力が最適化されていることも特徴とし得る。
【0055】
用語「ゲル化力」は、ゲル又はネットワークを形成するためのタンパク質組成物の能力からなり、粘度を増加させ、液体状態と固体状態との間の物質の状態を生成する機能特性を意味する。用語「ゲル強度」も使用されてもよい。ゲル化力を定量化するために、そこでこのネットワークを生成し、その強度を評価する必要がある。この定量を行うために、本発明では、試験Aを使用し、以下それについて説明する。
1)固形分15%±2%及びpH7で、水中で試験したタンパク質組成物の60℃±2℃での可溶化
2)60℃+/-2℃で5分間撹拌
3)20℃+/-2℃までの冷却、及び350rpmで24時間撹拌
4)同心円筒を備える制御された応力レオメータを用いた懸濁を実施
5)以下の温度プロファイルを実施:
a.フェーズ1:20℃±2℃の温度から80℃±2℃の温度まで10分間で加熱、
b.フェーズ2:80℃±2℃の温度で120分間安定化、
c.フェーズ3:80℃±2℃から20℃±2℃の温度まで30分間で冷却。
6)ゲル化力をPa単位で表して測定。
【0056】
好ましくは、課せられた応力レオメータは、Duvetジオメトリ及びPeltier温度制御システムを備えたTA Instruments AR2000モデルである。高温での蒸発の問題を回避するために、液体パラフィンを試料の上に添加する。
【0057】
本発明の目的のために、「レオメータ」は、流体又はゲルのレオロジーに関する測定値を得るための試験用機械である。レオメータは、試料に力を加える。概して、特徴的な小さな寸法(ロータの非常に小さい機械的慣性)に関して、レオメータは、加えた力に応答する、液体、ゲル、懸濁液、ペーストなどの機械的特性の基本調査を可能にする。
【0058】
いわゆる「制御応力」モデルは、正弦波応力(振動モード)の適用によって、特に時間(又は角速度ω)及び温度に依存する物質の固有粘弾性値を測定することができる。具体的には、このタイプのレオメータは、複素弾性率G*へのアクセスを提供し、それ自体が弾性部の弾性率G’又は粘性部の弾性率G”へのアクセスを提供する。
【0059】
また、この組成物は、マメ科植物の種子を熱処理する工程を含まない製造方法で得られたマメ科植物タンパク質組成物と比較して、乳化力が約2倍に向上している点で、乳化力が最適化されていることを特徴とし得る。
【0060】
「乳化力」又は更に「乳化能力」とは、エマルジョンが相を分解又は逆相になる前に、定義された量の乳化剤を含む水溶液中で分散できる油の最大量を指す(Sherman,1995)。それを定量化するために、本出願人は、容易に、素早く、かつ再現性よく定量化するための試験を開発した:
製品試料の0.2gを20mLの水に分散させる、
溶液をUltraturax IKA T25を用いて9,500rpmの速度で30秒間均質化する、
コーン油20mLを、上記の工程2と同じ条件で均質化下、加える、
3,100gで5分間の遠心分離を行う、
良好なエマルジョンが得られた場合、水及びコーンの量を50%増加させポイント1で試験を繰り返す、
不良のエマルジョンが得られた場合(位相シフト)、水及びコーンの量を50%減少させポイント1で試験を繰り返す、
このようにして、乳化できる油の最大量(Qmax(mL))を繰り返して求めることができる、
したがって、乳化能力とは、製品1g当たりの乳化できるコーン油の最大量のことである、
乳化能力=(Qmax/0.2)*100
【0061】
本発明の最後の態様によれば、本発明によるマメ科植物タンパク質組成物、好ましくはエンドウマメ、ウチワマメ、及びファバマメから選択されるマメ科植物タンパク質単離物、更により好ましくはエンドウマメタンパク質単離物の工業的使用、特に、動物及びヒトの食品における使用が提案される。
【0062】
以下に例示するように、本発明による方法を実施して得られたタンパク質組成物は、マメ科植物の種子を熱処理しないで得られたマメ科植物タンパク質組成物と比較して、官能プロファイルが改善され、ゲル強度が少なくとも2分の1、乳化力が少なくとも2倍になったことを特徴とすることができる。これらの特徴は、RTD(「レディ・トゥ・ドリンク」)、植物性代替乳、又は粉末混合飲料などのタンパク質強化飲料に特に適している。
【0063】
最終消費者にとって重要なのは、官能プロファイルの改善であるが、ゲル化力が低下することで、過度に高粘度の飲料にならずにタンパク質含有量を増やすこともできる。最後に、乳化力は、例えば、必須脂肪酸を安定させるためにも注目される。
【0064】
本発明は、以下の非限定的実施例によって更に良好に理解されるであろう。
【実施例】
【0065】
実施例1:タンパク質製造方法におけるマメ科植物の種子の加熱パラメータの影響。
【0066】
この実施例では、小石などの異物を取り除いてきれいにした黄色エンドウマメの種子(Pisum Savitum)を使用する。
【0067】
いくつかの熱処理技術が比較のために適用される:
換気オーブン、2~10分、80°~120℃
マイクロ波オーブン、30秒~3分、1000W
オートクレーブ、5~15分、100℃~120℃
次に、以下のタンパク質及びデンプンの抽出方法を適用する:
外側の繊維とエンドウマメの子葉とを分離する
石臼を用いてエンドウマメの子葉を磨砕する
粉を固形分含有量(SC)17%、20℃±2℃、pH7±1で、水に懸濁する
30分間振盪する
遠心分離1,000Gで5分間、不溶物(デンプン及び内部繊維)を分離する
pH5で上清を調整する
二重ジャケットを備えた容器内にて55℃で20分間加熱し、撹拌する、
5,000Gで5分間の遠心分離によってタンパク質組成物を回収する
1NのNaOHでpHを7に調整する
140℃で10秒間、直接注入で熱処理する
噴霧乾燥を行う
異なった方法を検証し、比較するためにいくつかの測定を行う:
DSC及びエンタルピー測定によるデンプンの変性状態
タンパク質回収率(抽出されたタンパク質の量/総タンパク質の量)の計算。
食味検査による匂い。この成分は、感覚器官による食味検査パネルを使用して評価される。
【0068】
【0069】
乾熱による前処理を行うことで、デンプンの機能性を維持し、各種成分の抽出収率を保証すると共に、得られるタンパク質の匂いを改善することができる。
【0070】
実施例2:得られたタンパク質組成物の品質に対する乾熱処理の効果を実証するための実施例。
【0071】
この実施例の目的は、得られたタンパク質組成物の品質に対する乾熱処理の効果を実証することである。
3つの種子前処理を検討する:
a.前処理なし
b.換気オーブン、4分、100℃
b.換気オーブン、2分、120℃
外側の繊維とエンドウマメの子葉とを分離する
石臼を用いてエンドウマメの子葉を磨砕する
SC17%、20℃±2℃、pH7±1で、水に粉を懸濁する
30分間振盪する
1,000Gで5分間、遠心分離により不溶物(デンプン及び内部繊維)を分離する
pH5で上清を調整する
二重ジャケットを備えた容器内にて55℃で20分間加熱し撹拌する
5,000Gで5分間の遠心分離によってタンパク質組成物を回収する
1NのNaOHでpHを7に調整する
140℃で10秒間、直接注入で熱処理する
噴霧乾燥を行う。
【0072】
異なる試験を検証し、比較するためにいくつかの測定を行う:
乾燥によって測定された固形分含有量。
全窒素を測定し、その結果に係数6.25を乗じて算出したタンパク質含有量
タンパク質回収率(抽出されたタンパク質量/総タンパク質量)
上記の本出願人が開発した試験によって測定された乳化活性。
上記の試験Aで測定したゲル強度。
【0073】
【0074】
本発明によるタンパク質組成物は、乳化能力がほぼ2倍になり、ゲル強度が低下している。
【0075】
タンパク質組成物の粘度は、Duvetジオメトリ及びPeltier温度制御システムを備えたTA Instrument AR2000レオメータを用いて測定される。測定は、温度20℃、剪断速度0.006で600s-1にて3分間行われる。
【0076】
また、120℃の温度で作製された本発明によるタンパク質組成物は、粘度が低下している(
図1)。
【0077】
更に、石臼を用いたエンドウマメの子葉の磨砕を、国際公開第2019/053387号の実施例1に記載されているようなエンドウマメの子葉の湿式粉砕に置き換えることで、タンパク質組成物a.(前処理なしで得られたもの)を製造するための方法と同様の方法を実施する。この磨砕は、エンドウマメの子葉を80℃の水溶液に投入し、当該溶液の温度を維持しながら3分間熱処理し、回収してから、7℃に調整した水に浸して10℃まで冷却した後、溶液中で磨砕することから構成される。この方法の最後に、タンパク質組成物aと比較してゲル強度が低下していない比較用のタンパク質組成物が得られる。
【国際調査報告】