(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-05
(54)【発明の名称】電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物中の耐食添加剤としてのスクシンイミド化合物の使用
(51)【国際特許分類】
C10M 133/56 20060101AFI20220829BHJP
C10M 133/02 20060101ALI20220829BHJP
C10M 135/20 20060101ALI20220829BHJP
C10M 135/36 20060101ALI20220829BHJP
C10M 137/08 20060101ALI20220829BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20220829BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220829BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220829BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20220829BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
C10M133/56 ZHV
C10M133/02 ZAB
C10M135/20
C10M135/36
C10M137/08
C10M169/04
C10N40:02
C10N40:04
C10N30:12
C10N30:06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577601
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020067820
(87)【国際公開番号】W WO2020260458
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514170019
【氏名又は名称】トタル マーケティング セルヴィス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シミン・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ハキム・エル-バヒ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリエン・ゲラン
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104BE11C
4H104BF03C
4H104BG11C
4H104BG19C
4H104BH05C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104LA03
4H104LA06
4H104PA01
4H104PA02
(57)【要約】
本発明は、1種又は複数のアミン及び/又は硫黄耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての、少なくとも1種のスクシンイミド化合物の使用に関する。また、本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するための潤滑剤組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気又はハイブリッド車両の推進システムを対象とし、且つ1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての、少なくとも1種のスクシンイミド化合物の使用。
【請求項2】
前記スクシンイミド化合物が、ポリイソブテン(PIB)モノ-又はビス-スクシンイミド等のポリアルキレンモノ-又はビス-スクシンイミド;そのボレート誘導体;その無水コハク酸誘導体、例えばポリイソブチレン無水コハク酸(PIBSA);そのような無水コハク酸環を開環することにより得られる化合物、例えばポリイソブチレンペンタエリトリトールエステルスクシンイミド;及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記スクシンイミド化合物が、少なくとも1種の以下の式(ii):
【化1】
(式中、R
1は、炭化水素ベースの基、好ましくは8~400個の炭素原子を含み、特に-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合され、好ましくは140から50000、特に2000から30000の重量平均分子量Mwを有するポリアルケン基、より詳細には-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合され、好ましくは140から30000、特に2000から20000、又はさらには2000から7000、とりわけ3000から5000の重量平均分子量Mwを有するポリイソブチレン基を表す)
の置換スクシンイミド基又は前記基(ii)のボレート誘導体、又は前記基(ii)の無水コハク酸誘導体、又は前記無水コハク酸環の開環により得られる化合物を含む、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記スクシンイミド化合物が、以下の式(II):
【化2】
(式中:
R
1は、請求項3で規定したとおりであり、特に、R
1は、-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリアルキレン基を表し、特に、R
1は、-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリイソブチレン基を表し、
Aは、直鎖又は分岐のC
2からC
24、好ましくはC
2からC
6アルキレン基を表し;好ましくは以下のセグメント:-CH
2-CH
2-、-CH
2-CH
2-CH
2-、-CH
2-CH(CH
3)-のうちの少なくとも1つを表し;
yは、1から6の整数を表し;特に、yは、2、3又は4を表す)
のモノスクシンイミド、又はそのボレート誘導体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記スクシンイミド化合物は、以下の式(III):
【化3】
(式中:
R
1は、同一又は異なっていてもよく、請求項3で規定したとおりであり;特に、R
1は、-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリアルキレン基、特に、-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリイソブチレン基を表し;
zは、0から10、好ましくは2から6の整数を表し;
sは、2から6、好ましくは2から4の整数を表す)
のビススクシンイミド、又はそのボレート誘導体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、単独で又は混合物としての、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、特に以下の式:
【化4】
(式中、基R
1は、互いに独立して、水素原子、1から24個、好ましくは2から18個、より優先的には4から16個、さらにより優先的には8から12個の炭素原子を含む直鎖若しくは分岐のアルキル若しくはアルケニル基、又は芳香族置換基を表し、nは、互いに独立して、1、2、3又は4に等しい整数であり、nは好ましくは1に等しい)
を有する2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール誘導体から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記スクシンイミド化合物は、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%から10質量%、特に0.1質量%から10質量%、より詳細には0.5質量%から8質量%の範囲の含有量で存在し、並びに/又は、前記アミンベース及び/若しくは硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%から10質量%、特に0.1質量%から5質量%、より詳細には0.5質量%から3質量%の範囲の含有量で存在する、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
耐食添加剤としての1種又は複数のスクシンイミド化合物、及び1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するための、特に電気又はハイブリッド車両の電気モーター及びパワーエレクトロニクスを潤滑するための、潤滑剤組成物の使用。
【請求項9】
スクシンイミドタイプの耐食添加剤が、請求項2から5及び7のいずれか一項に規定のとおりであり;並びに/又はアミンベース及び/若しくは硫黄ベースの耐摩耗添加剤が、請求項6又は7に規定のとおりである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
電気又はハイブリッド車両の、電気モーターの回転子と固定子の間に位置する転がり軸受、及び/又は変速機、特に減速機を潤滑するための、請求項8又は9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物の分野に関する。本発明は、より詳細には、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を組み込む潤滑剤組成物の耐食特性を改善するためのスクシンイミド化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CO2排出削減についてだけでなく、エネルギー消費の削減についての国際標準の変化により、自動車両製造業者は、燃焼エンジンの代替解決法を提案する方向に向かっている。
【0003】
自動車両製造業者によって特定された解決法の1つは、燃焼エンジンを電気モーターと置き換えることで構成される。したがって、CO2排出削減を目的とした研究は、一定数の自動車両企業による電気車両の開発をもたらした。
【0004】
本発明の目的で、「電気車両」という用語は、推進の組合せ手段として燃焼エンジン及び電気モーターを備えるハイブリッド車両とは反対に、推進の単独手段として電気モーターを備える車両をいう。
【0005】
本発明の目的で、「推進システム」という用語は、電気車両を推進するために必要な機械部品を含むシステムをいう。したがって、推進システムは、より特定すると、パワーエレクトロニクスの電気モーター又は回転子-固定子アセンブリ(速度制御専用)、変速機及びバッテリーを包含する。
【0006】
一般に、電気又はハイブリッド車両において、主に、車両の推進システムの種々の部品間、特に、走行中のモーター中の金属部品間の摩擦力を低減する目的で、「潤滑剤」としても公知の、潤滑剤組成物を使用する必要がある。これらの潤滑剤組成物はまた、特にその表面の早期摩耗、又は更にはこれらの部品の損傷を防止するのに効果的である。
【0007】
これを行うために、潤滑剤組成物は、一般に、基油の潤滑剤性能を促す、例えば、摩擦調整添加剤だけでなく、追加の性能を得ることを目的としたいくつかの添加剤と組み合わせられる1種又は複数の基油で、従来構成される。
【0008】
特に、「耐摩耗」添加剤は、モーターの機械部品の摩耗を低減し、したがって、モーターの耐久性の低下を防止するために検討される。
【0009】
多種多様な耐摩耗添加剤が存在し、その中でも例えば、ジメルカプトチアジアゾール、ポリスルフィド、特に硫黄ベースのオレフィン、リン酸アミン又はホスホ-硫黄添加剤、例えば、金属アルキルチオホスフェート、特に、亜鉛アルキルチオホスフェート、より具体的には亜鉛ジアルキルジチオホスフェート又はZnDTPを挙げることができる。
【0010】
これらの耐摩耗添加剤の中でも、ジメルカプトチアジアゾール、亜鉛ジチオホスフェート又はポリスルフィド等のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗剤が特に好ましい。
【0011】
残念ながら、ジメルカプトチアジアゾール等のこれらのアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、腐食性であるという欠点を有する。腐食の問題は、電気推進システムで特に致命的である。特に、腐食は、固定子及び回転子巻線、推進システムのセンサー、油圧システムのソレノイドバルブ、さらには、一般に銅ベースであるため特に腐食しやすい電気モーターの回転子と固定子との間の転がり軸受、又は推進システムのシール若しくはワニスの劣化のリスクにつながりうる。
【0012】
更に、電気又はハイブリッド車両の推進システムの冷却を可能にするために、潤滑剤は絶縁されて電気部品の故障を回避することが必要不可欠である。特に、導電性潤滑剤は固定子及び回転子巻線の漏電のリスクにつながることがあり、このため、推進システムの効率が低下し、電気部品の過熱の可能性、更にはシステムの損傷点が生じる。したがって、電気又はハイブリッド車両のパワートレインシステムに潤滑剤を使用する状況で、潤滑剤は、非腐食特性に加えて、良好な「電気」特性を有することが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、具体的には、この欠点を克服することに向けられる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
より正確には、本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システムを対象とし、且つ1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての、少なくとも1種のスクシンイミド化合物の使用に関する。
【0015】
スクシンイミド化合物、例えばポリイソブチレンスクシンイミド(PIBSI)等のポリアルキレンスクシンイミドは、例えば、特許出願WO2014/096328において記載されているように、車両モーター用の潤滑剤中の分散剤として既に提案されている。
【0016】
しかしながら、本発明者らの知る限りでは、アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤の使用によりもたらされる腐食効果を克服するために、電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤を使用する状況下で、耐食添加剤としてスクシンイミド化合物を使用することは提案されたことがない。
【0017】
驚くべきことに、以下の例で例示されるように、本発明者らは、このスクシンイミド添加剤が、アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤により誘導される腐食効果を効果的に低減できることを見出した。
【0018】
したがって、少なくとも1種のスクシンイミド化合物が、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物の耐食特性を有利に改善し得る。
【0019】
本発明の目的で、「耐食添加剤」という用語は、金属部品の腐食を防止又は低減するための添加剤をいう。したがって、組成物中で使用される耐食添加剤は、前述の組成物の「耐食」特性を改善することを可能にする。
【0020】
本発明による1種又は複数のスクシンイミド化合物を1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤と一緒に使用することにより、良好な耐摩耗性能を同時に有しながら、既に言及した腐食の問題を同時に克服する潤滑剤組成物が有利に得られる。したがって、本発明による組成物は、良好な耐摩耗及び耐食特性を同時に有する。
【0021】
化合物の腐食(又は浸食)力は、所定の直径の銅線の電気抵抗値の変動の調査を含む試験によって、非腐食性媒体、例えば1種又は複数の基油中で、前記試験化合物を含む組成物内でのこの銅線の浸漬の持続時間の関数として評価されうる。この電気抵抗値の変動は、試験線の直径の変動と直接相関する。したがって、本発明の文脈において、調査した銅線の直径の損失が、前記化合物を含む組成物内での80時間の浸漬後1.3μm以下、特に40時間の浸漬後0.8μm以下である場合、化合物は「非腐食性」と呼ばれる。
【0022】
潤滑剤の誘電特性は、電気抵抗及び誘電損失(tanδ)によって特に表され、規格IEC 60247に従って測定されうる。
【0023】
電気抵抗は、電流の流れに対抗する材料の能力を表す。電気抵抗はオーム-メートル(Ω.m)で表される。電気伝導を妨げるため、抵抗は低くてはならない。
【0024】
誘電正接(electric dissipation factor)又は損失角正接。損失角δは、印加電圧と交流との間の位相シフトの余角である。この因子はジュール効果エネルギー損失を反映する。したがって、加熱は、δ値に直接関連する。トランスミッションオイルは、典型的には、周囲温度で1のオーダーのtanδ値を有する。良好な絶縁潤滑剤は、低いtanδレベルを維持しなくてはならない。
【0025】
有利なことに、本発明により使用されるスクシンイミド化合物は、ポリイソブテン(PIB)モノ-又はビス-スクシンイミド等のポリアルキレンモノ-又はビス-スクシンイミド;そのボレート誘導体;ポリイソブチレン無水コハク酸(PIBSA)等のその無水コハク酸誘導体;そのような無水コハク酸環を開環することにより得られる化合物、例えばPIBペンタエリトリトールエステルスクシンイミド;及びこれらの混合物から選択される。
【0026】
好ましくは、スクシンイミド化合物は、以下から選択される:
アルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリアルキレンビススクシンイミド基、特にアルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリイソブチレン(PIB)ビススクシンイミド、及びそれらボレート誘導体で、2つのスクシンイミド基が、アルキレン基又はポリアミン基、特にポリアルキレンアミンを介してそれぞれの窒素原子により一緒に結合されるもの;
アルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリアルキレンモノスクシンイミド、特にアルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリイソブチレン(PIB)モノスクシンイミド、及びそれらのボレート誘導体で、窒素原子がポリアミン基、特にポリアルキレンアミンで置換されているもの;並びに
それらの混合物。
【0027】
したがって、電気又はハイブリッド車両の推進システムを対象とする潤滑剤組成物への本発明による1種又は複数のスクシンイミド化合物の導入は、有利には、組成物中での、ジメルカプトチアジアゾール等のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤の使用を可能にし、しかしながら、有害な腐食効果は伴わない。
【0028】
本発明による潤滑剤組成物において使用されるアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、より詳細には、本明細書の以下の本文中で詳述される。それらは、好ましくは、アミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤から選択される。それらは、好ましくは、チア(ジ)アゾール化合物、特にジメルカプトチアジアゾール誘導体でありうる。
【0029】
更に、本発明に使用するのに好適な組成物は、配合が容易であるという利点を有する。良好な耐摩耗及び耐食性能に加えて、それは、特に酸化に関して良好な安定性、及びまた電気絶縁の点で良好な特性を有する。
【0030】
本発明はまた、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するため、特に電気又はハイブリッド車両の電気モーター及びパワーエレクトロニクスを潤滑するための、
- 耐食添加剤としての、本発明で定義される通りの1種又は複数のスクシンイミド化合物
- 本発明で定義される通りの1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤
を含む潤滑剤組成物の使用に関する。
【0031】
本発明の主題はまた、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するための方法であって、前記システムの少なくとも1つの機械部品を、耐食添加剤としての本発明で定義される通りの少なくとも1種のスクシンイミド化合物、並びに本発明で定義される通りの少なくとも1種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物と接触して配置する少なくとも1つの工程を含む、方法である。
【0032】
有利には、本発明による潤滑剤組成物は、電気モーター自体、特に、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受、及び/又は電気若しくはハイブリッド車両の変速機、特に、減速機を潤滑するために使用される。
【0033】
本発明による耐食添加剤としてのスクシンイミド化合物の使用の他の特徴、変形例及び利点は、本記載及び本発明の非限定例として示される以下の例を読むことでより明白に現れる。
【0034】
続く文中で、「...と...との間」、「...~...の範囲」及び「...から...に変動する」という表現は、等価であり、別途言及されない限り境界を含むことを意味することが意図される。
【0035】
別途指示されない限り、「含む(including a(n))」という表現は、「少なくとも1つを含む」として理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】電気又はハイブリッド車両の推進システムを表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
スクシンイミドタイプの耐食添加剤
既に述べた通り、電気又はハイブリッド車両のパワートレインシステム用の潤滑剤組成物において、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤と一緒に、本発明による耐食剤として使用される添加剤は、スクシンイミド化合物である。
【0038】
既に述べた通り、多くのスクシンイミド化合物、例えばポリイソブテン(PIB)モノ-又はビス-スクシンイミド等のポリアルキレンモノ-又はビス-スクシンイミド;そのボレート誘導体;その無水コハク酸誘導体、例えばポリイソブチレン無水コハク酸(PIBSA);そのような無水コハク酸環の開環により得られる化合物、例えばポリイソブチレンペンタエリトリトールエステルスクシンイミドが、分散剤としてのそれらの使用のために既に提案されている。
【0039】
しかしながら、既に示した通り、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤の使用により誘導される腐食効果を低減、又はさらには防止の目的のために、電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤において、耐食添加剤としてそのような化合物が提案されたことはない。
【0040】
スクシンイミド化合物は、少なくとも1つのスクシンイミド基、言い換えると以下の式(i):
【化1】
の基;そのボレート誘導体(B-O結合)を含む化合物;又はそのようなスクシンイミド基の無水コハク酸誘導体、又は無水コハク酸環の開環により得られる化合物である。
【0041】
既に述べた通り、スクシンイミド化合物は、多様な性質のものであり得る。それらは、モノスクシンイミド又はビススクシンイミド化合物であり得る。
【0042】
好ましくは、スクシンイミド化合物は、特に以下の式(ii)の少なくとも1種の置換スクシンイミド基:
【化2】
(式中、R
1は、炭化水素ベースの基を表し、好ましくは8~400個の炭素原子を含む)
又はそのような式(ii)の置換スクシンイミド基のボレート誘導体(B-O結合);又はそのような式(ii)の置換スクシンイミド基の無水コハク酸誘導体、又は無水コハク酸環の開環により得られる化合物を含む化合物から選択される。
【0043】
R1は、より詳細には、直鎖又は分岐のC8~C400、特にC50~C200アルキル基、直鎖又は分岐のC8~C400、特にC50~C200アルケニル基、C6~C10アリール基、アリールアルキル基、及びアルキルアリール基から選択されてもよい。
【0044】
好ましくは、R1は、二重結合を1つだけ含み、その2つの炭素原子のうちの1つはスクシンイミド環に直接結合されている、好ましくは分岐している、長C8~C400、特にC50~C200アルキル鎖、又は好ましくは分岐している、長C8~C400、特にC50~C200アルケニル鎖を表す。
【0045】
有利には、R1は、140から50000、特に2000から30000の重量平均分子量Mwを好ましくは有する、ポリアルキレン基を表す。
【0046】
特定の実施形態によると、R1は140から30000、特に2000から20000、又はさらには2000から7000、とりわけ3000から5000の数平均分子量を好ましくは有する、ポリイソブチレン基を表す。
【0047】
別の特定の実施形態によると、R
1は140から30000、特に2000から20000、又はさらには2000から7000、とりわけ3000から5000の数平均分子量を好ましくは有し、-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に結合される、ポリイソブチレン基を表し、以下の式(A):
【化3】
(式中、記号*は、この基のスクシンイミド基への結合点を示し、nは6から500の範囲の整数を表す)
である。
【0048】
したがって、特定の実施形態によると、スクシンイミド化合物は、少なくとも1種の式(ii)の置換スクシンイミド基、又は前記基(ii)のボレート誘導体、又は前記基(ii)の無水コハク酸誘導体、又は無水コハク酸環の開環により得られる化合物を含み、式中、R1は、炭化水素ベースの基、好ましくは8~400個の炭素原子を含み、特に-(C=CH2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合され、好ましくは140から50000、特に2000から30000の重量平均分子量Mwを有するポリアルケン基、より詳細には-(C=CH2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合され、好ましくは140から30000、特に2000から20000、又はさらには2000から7000、とりわけ3000から5000の重量平均分子量Mwを有するポリイソブチレン基を表す。
【0049】
より詳細には、スクシンイミド化合物は、前述の式(ii)の置換スクシンイミド基を含むモノスクシンイミド化合物、及び特に前述の式(ii)の2つの置換スクシンイミド基を含むビススクシンイミド化合物から選択されてもよく、前記スクシンイミド基は、より詳細には窒素原子を有するそれらの先端でポリアミン基と結合している。
【0050】
特定の実施形態によると、本発明により使用されるスクシンイミド化合物は、以下の式(I):
【化4】
又はそのボレート誘導体に相当し、
式中、Aは直鎖又は分岐のC
2~C
24、好ましくはC
2~C
6アルキレン基を表し;
R
1は既に規定したとおりであり、例えば-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリイソブチレン基であり;
xは0又は1から6の範囲の整数を表し;好ましくは、xは2、3又は4と等しく;
R
2及びR
3は、互いに独立して、水素原子、とりわけC
1~C
25の直鎖又は分岐アルキル基、とりわけC
1~C
12のアルコキシ基、特にC
2~C
12のアルケニル基であって、任意選択で1つ又は複数のヒドロキシル及び/又はアミン官能基を有するものであり;
又は、R
2及びR
3は、それらを有する窒素原子と共に、任意選択で置換されたスクシンイミド基、好ましくは上記で規定された基R
1で置換されたスクシンイミド基を形成する。
【0051】
第一の実施形態の変形例によると、本発明により使用されるスクシンイミド化合物は、R2及びR3が、互いに独立して、水素原子、とりわけC1~C25の直鎖又は分岐アルキル基;とりわけC1~C12のアルコキシ基、特にC2~C12のアルケニル基であり、1つ又は複数のヒドロキシル及び/又はアミン官能基を任意選択で有するものから選択される、前述の式(I)のモノスクシンイミド化合物であってもよい。
【0052】
好ましくは、本発明により使用されるスクシンイミド化合物は、R2及びR3が水素原子を表す、前述の式(I)のものである。
【0053】
言い換えると、本発明により使用されるスクシンイミド化合物は、以下の式(II):
【化5】
のもの、又はそのボレート誘導体であってもよく、式中、
R
1は既に規定した通りであり、特に、R
1は-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリアルキレン基、特にR
1は-(C=CH
2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリイソブチレン基を表し、
Aは既に規定した通りであり、好ましくは以下のセグメントのうちの少なくとも1つを表し:-CH
2-CH
2-、-CH
2-CH
2-CH
2-、-CH
2-CH(CH
3)-;
yは、1から6の整数を表し、特に、yは2、3又は4を表す。
【0054】
別の実施形態の変形例によると、本発明により使用されるスクシンイミド化合物は、R2及びR3が、それらを有する窒素原子と共に、任意選択で置換されたスクシンイミド基、好ましくは上記で規定された基R1で置換されたスクシンイミド基を形成する、前述の式(I)のビススクシンイミド化合物であってもよい。
【0055】
有利には、本発明により使用されるビススクシンイミド化合物は、以下の式(III):
【化6】
のもの、又はそのボレート誘導体であってもよく、式中、
R
1は、同一又は異なっていてもよく、既に規定したとおりであり、
zは、0から10、好ましくは2から6の整数を表し;
sは、2から6、好ましくは2から4の整数を表す。
【0056】
好ましくは、ビススクシンイミド化合物は、R1が、好ましくは150から15000、特に500から2000、とりわけ500から1500の分子量を有するポリアルキレン基、特にポリイソブチレン基を表す、式(III)のものであってもよい。
【0057】
前述の式(I)、(II)又は(III)のスクシンイミド化合物のボレート誘導体は非ボレート化合物を、ボレート、例えばホウ酸と反応させて、特にスクシンイミド化合物中で0.1質量%~3質量%、とりわけ1質量%~2質量%のホウ素の濃度を達成することにより得られてもよい。
【0058】
本発明での使用に好適な無水コハク酸誘導体の中で、300から30000の数平均分子量Mn及び300から30000の重量平均分子量Mwを有する、ポリイソアルキレン無水コハク酸、特に以下の化合物:
【化7】
(式中、Rはポリイソブチレン基である)
等のポリイソブチレン無水コハク酸(PIBSAとして知られる)を挙げることができる。
【0059】
無水コハク酸環の開環により得られる化合物の中で、ポリアルキレンペンタエリトリトールエステルスクシンイミド、例えば、以下の式:
【化8】
(式中、PIBはポリイソブチレンを表す)
【化9】
(式中、PIBはポリイソブチレンを表す)
を有し、300から30000の数平均分子量Mn及び300から30000の重量平均分子量Mwを有する、ポリイソブチレンペンタエリトリトールエステルスクシンイミドを、とりわけ挙げることができる。
【0060】
本発明の文脈において、以下の定義が当てはまる:
「アルキル」:直鎖状又は分岐状の飽和脂肪族基;例えば、Cx~Czアルキルは、x~z個の炭素原子の直鎖状又は分岐状炭化水素ベースの鎖を表し;
「アルキレン」は、二価のアルキル基を表す。例えば、Cx~Czアルキレン基は、x~z個の炭素原子の直鎖状又は分岐状二価の炭化水素ベースの鎖を表し;
「アルケニル」:直鎖状又は分岐状の不飽和脂肪族基;例えば、Cx~Czアルケニル基は、x~z個の炭素原子の直鎖状又は分岐状不飽和炭化水素鎖を表し;
「アルコキシ」:基-O-アルキル、式中、アルキル基は既に定義したとおりであり;
「アリール」:特に5~10個の炭素原子を含む、単環式又は多環式芳香族基。言及されうるアリール基の例としては、フェニル、トリル及びナフチル基が挙げられる。
【0061】
有利には、スクシンイミドタイプ(モノスクシンイミド又はビススクシンイミド)の添加剤は、ポリアルキレンスクシンイミド(すなわち、前述の式(ii)(式中、R1は-(C=CH2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリアルキレン基である)の基を少なくとも1つ含む化合物)、及び、特にポリイソブチレン部分が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミド基に任意選択で結合されるポリイソブチレン(PIB)スクシンイミド、並びにそれらのボレート誘導体から選択される。
【0062】
特定の実施形態によると、スクシンイミドタイプの添加剤は、アルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリアルキレンスクシンイミド、特にアルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリイソブチレン(PIB)スクシンイミド、並びにそのボレート誘導体であって、窒素原子上でポリアミン基、特にポリアルキレンアミン、例えばポリエチレンアミンにより置換されているものから選択される。
【0063】
好ましくは、スクシンイミドタイプの添加剤は、前述の式(I)のモノスクシンイミド又はビススクシンイミド、特に前述の式(II)のモノスクシンイミド、前述の式(III)のビススクシンイミド、及びこれらの混合物から選択される。
【0064】
特に好ましい実施形態によると、スクシンイミドタイプの添加剤は以下から選択される:
2つのスクシンイミド基がアルキレン基又はポリアミン基、特にポリアルキレンアミン、又はさらにはポリエチレンアミンを介してそれぞれの窒素原子により一緒に結合される、アルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリアルキレンビススクシンイミド、特にアルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリイソブチレン(PIB)ビススクシンイミド、及びこれらのボレート誘導体;
窒素原子がポリアミン基、特にポリアルキレンアミン、又はさらにはポリエチレンアミンで置換されている、アルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリアルキレンモノスクシンイミド、特にアルキル鎖が-(C=CH2)-基を介してスクシンイミドに任意選択で結合されるポリイソブチレン(PIB)モノスクシンイミド、及びこれらのボレート誘導体;並びに
それらの混合物
【0065】
さらにより好ましい実施形態によると、スクシンイミドタイプの添加剤は、以下の化合物から選択される:
【化10】
(式中、nは6から500の範囲であり、好ましくは90であり、Rは直鎖又は分岐のC
2からC
24、好ましくはC
2からC
6アルキレン基、又は基-R”-(NH-R’)x-であり、式中、R’及びR”は互いに独立して、直鎖又は分岐のC
2からC
24、好ましくはC
2からC
6アルキレンを表し、xは1から6の範囲の整数であり、好ましくは2、3、4又は5に等しい)。より正確には、平均分子量Mnが3000から4000、好ましくは3410であり;平均分子量Mwが5000から6000、好ましくは5225であり;多分散指数Ipが1.25から2、好ましくは1.5である、ビススクシンイミドである;
【化11】
(式中、nは10から350の範囲であり、好ましくは65であり;Rは直鎖又は分岐のC
1からC
24、好ましくはC
2からC
6アルキル又は基-(R’-(NH)y-Hであり、式中、R’は直鎖又は分岐のC
2からC
24、好ましくはC
2からC
6アルキレンを表し、yは1から6の範囲の整数であり、好ましくはxは2、3又は4に等しい)。より正確には、平均分子量Mnが800から18000、好ましくは3519であり;平均分子量Mwが1000から20000、好ましくは6220であり;多分散指数Ipが1.5から2.3、好ましくは1.6である、PIBスクシンイミドである;並びに
これらの混合物。
【0066】
本発明の文脈において、本発明による検討下のスクシンイミド化合物は、特に前述で定義されたような、少なくとも2つのスクシンイミド化合物の混合物の形態であり得ることが理解される。
【0067】
本発明により使用されるスクシンイミド化合物は、市販されているものであってもよく、又は当業者に知られる合成方法により調製されてもよい。
【0068】
例えば、スクシンイミド化合物は、任意選択で置換された無水コハク酸、例えばポリイソブチレン基で置換された無水コハク酸と、ポリ(アルキレンアミン)との縮合により、合成されてもよい。ポリイソブチレン基(PIB)で置換された無水コハク酸は、例えば無水マレイン酸とメチルビニリデンポリイソブテンの反応により、事前に得ることができる。
【0069】
本発明は、前述で具体的に記載されたスクシンイミド化合物に限定されない。他のスクシンイミド化合物、とりわけ分散剤として知られるスクシンイミド化合物が本発明による耐食添加剤として使用され得る。
【0070】
スクシンイミド化合物、特に前述で規定したスクシンイミド化合物は、本発明による潤滑剤組成物中で、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%から10質量%、特に0.1質量%から10質量%、より詳細には0.5質量%から8質量%の範囲の割合で使用されてもよい。
【0071】
有利には、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、スクシンイミド化合物以外の耐食添加剤を含まない。
【0072】
特定の実施形態によると、本発明により使用される潤滑剤組成物は、トリアゾールタイプの、又はアミン官能基若しくは立体障害型フェノール官能基を有する化合物等のタイプの耐食添加剤を含まない。
【0073】
潤滑剤組成物
アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤
前述で示したように、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む。
【0074】
「アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤」という用語は、アミンベースの耐摩耗添加剤、硫黄ベースの耐摩耗添加剤、並びにアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤から選択される添加剤をいう。
【0075】
「耐摩耗添加剤」という用語は、潤滑剤組成物、特に電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物に使用される場合、組成物の耐摩耗特性を改善することを可能にする化合物をいう。
【0076】
アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、例えば、チア(ジ)アゾールタイプの添加剤、特にジメルカプトチアジアゾール誘導体;ポリスルフィド添加剤、特に硫黄ベースのオレフィン;リン酸アミン;アルキルチオホスフェート等のホスホ-硫黄添加剤;及びその混合物から選択されうる。
【0077】
チア(ジ)アゾール添加剤
特に好ましい実施形態によると、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、少なくとも1種のチア(ジ)アゾール耐摩耗添加剤を含む。
【0078】
チア(ジ)アゾール化合物は、5原子環中に硫黄原子及び少なくとも1個の窒素原子の両方を含む化合物である。ベンゾチアゾールは、特定のタイプのチア(ジ)アゾールである。「チア(ジ)アゾール」というこの用語には、5原子環当たり1個の硫黄原子及び1個の窒素原子を含有する環式化合物に加えて、そのような環中に硫黄及び2個の窒素原子を含有するチアジアゾールも含まれる。
【0079】
特に、チア(ジ)アゾール化合物は、ベンゾチアゾール誘導体、チアゾール誘導体及びチアジアゾール誘導体から選択されうる。
【0080】
好ましくは、耐摩耗添加剤は、チアジアゾール誘導体でありうる。
【0081】
チアジアゾールは、一般式C
2N
2SH
2の、2個の窒素原子、1個の硫黄原子、2個の炭素原子及び2個の二重結合を含む複素環式化合物であり、それぞれ1,2,3-チアジアゾール;1,2,4-チアジアゾール;1,2,5-チアジアゾール;1,3,4-チアジアゾールの以下の形態:
【化12】
で存在し得る。
【0082】
好ましくは、チアジアゾール誘導体は、ジメルカプトチアジアゾール誘導体である。
【0083】
したがって、特に好ましい実施形態によると、本発明による潤滑剤組成物は、ジメルカプトチアゾール誘導体から選択される少なくとも1種の耐摩耗添加剤を含む。
【0084】
本発明による「ジメルカプトチアジアゾール誘導体」という用語は、単独での又は混合物としての、以下の4種のジメルカプトチアジアゾール分子:4,5-ジメルカプト-1,2,3-チアジアゾール、3,5-ジメルカプト-1,2,4-チアジアゾール、3,4-ジメルカプト-1,2,5-チアジアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール:
【化13】
に由来する化合物を意味する。
【0085】
ジメルカプトチアジアゾール誘導体は、より特定すると、上に表される通りの4,5-ジメルカプト-1,2,3-チアジアゾール、3,5-ジメルカプト-1,2,4-チアジアゾール、3,4-ジメルカプト-1,2,5-チアジアゾール又は2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールをベースとする分子又は分子の混合物であり、ここで、チアジアゾール環の置換基=Sの少なくとも1つ、又は更には両方の置換基=Sは、置換基:
【化14】
(式中、*は、5員環の炭素原子との結合を表し;nは、1、2、3又は4に等しい整数を表し;R
1は、水素原子、1~24個、好ましくは2~18個、より優先的には4~16個、更により優先的には8~12個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分枝状、飽和若しくは不飽和アルキル基、又は芳香族置換基から選択される)
で置換されている。
【0086】
特に、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールを例に取ると、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール誘導体は、単独で又は混合物として、以下の式:
【化15】
【化16】
(式中、R
1基は、互いに独立して、水素原子、1~24個、好ましくは2~18個、より優先的には4~16個、更により優先的には8~12個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分枝状アルキル若しくはアルケニル基、又は芳香族置換基を表し、nは、互いに独立して、1、2、3又は4に等しい整数であり、nは、好ましくは1に等しい)
を有する分子である。
【0087】
好ましくは、R1は、互いに独立して、直鎖状C1~C24、好ましくはC2~C18、特にC4~C16、より特定するとC8~C12、好ましくはC12アルキル基を表す。
【0088】
本発明において使用されるジメルカプトチアジアゾール誘導体は、例えば、供給元であるVanderbilt社、Rhein Chemie社又はAfton社から購入できる。
【0089】
ポリスルフィド添加剤
本発明による潤滑剤組成物に使用されるアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤はまた、ポリスルフィドタイプの硫黄ベースの耐摩耗添加剤、特に硫黄ベースのオレフィンから選択されうる。
【0090】
本発明による潤滑剤組成物に使用される硫黄ベースのオレフィンは、特に、一般式Ra-Sx-Rb(式中、Ra及びRbは、3~15個の炭素原子、優先的には1~5個の炭素原子、優先的には3個の炭素原子を含むアルキル基であり、xは、2~6の整数である)によって表されるジアルキルスルフィドでありうる。
【0091】
好ましくは、ポリスルフィド添加剤は、ジアルキルトリスルフィドから選択される。
【0092】
好ましくは、本発明に従って使用される組成物中に存在する耐摩耗添加剤は、アミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤から、有利には、上記の通りのチア(ジ)アゾール化合物から、より優先的にはジメルカプトチアジアゾール誘導体から選択される。
【0093】
本発明による検討下の潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%~10質量%、特に0.1質量%~5質量%、より特定すると0.5質量%~3質量%の、好ましくはチア(ジ)アゾールタイプ、より優先的にはジメルカプトチアジアゾール誘導体から選択されるアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含みうる。
【0094】
アミンベース及び/又は硫黄ベースの添加剤以外の、特に推進システム用の潤滑剤として知られる他の耐摩耗添加剤の使用を想定できるが、ただし、それらが、本発明による前記スクシンイミド化合物並びに前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤の組合せによって付与される特性に影響しないことが条件である。
【0095】
本発明による検討下の潤滑剤組成物は、0.01質量%~15質量%、特に0.1質量%~10質量%、より詳細には0.5質量%~5質量%の、前述で記載したような、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの添加剤を含む耐摩耗添加剤を含んでもよい。
【0096】
好ましくは、本発明に従って必要な潤滑剤組成物は、本発明に従って使用される前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤以外の耐摩耗添加剤を含まない。
【0097】
特に好ましい実施形態によると、本発明による検討下の潤滑剤組成物は:
特にポリアルキレンモノスクシンイミド又はビススクシンイミド及びそのボレート誘導体、例えばポリイソブテンモノスクシンイミド又はビススクシンイミド及びそのボレート誘導体から選択され、特に前述の式(I)の化合物、好ましくは上で定義した通りの式(II)及び(III)の化合物から選択される、1種又は複数のスクシンイミド化合物;並びに
好ましくは、特に上で定義した通りのジメルカプトチアゾール誘導体から選択される1種又は複数のアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤
を組み合わせる。
【0098】
本発明により使用される組成物は、特に上で定義した通りの、1種又は複数のスクシンイミドタイプの添加剤並びに1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤に加えて、1種又は複数の基油及びまた潤滑剤組成物に従来検討される他の添加剤を含みうる。
【0099】
基油
したがって、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、1種又は複数の基油を含みうる。
【0100】
これらの基油は、潤滑油の分野で従来使用される基油、例えば、鉱油、合成若しくは天然油、動物若しくは植物油、又はその混合物から選択されうる。
【0101】
これはいくつかの基油の混合物、例えば、2、3又は4種の基油の混合物であってもよい。
【0102】
本発明による検討下の潤滑剤組成物の基油は、特に、API分類で定義されるクラスによるI~V群(又はATIEL分類によるその等価物)に属し、以下の表1に提示される鉱物若しくは合成由来の油又はその混合物でありうる。
【0103】
【0104】
鉱物基油には、原油の常圧及び減圧蒸留後、溶媒抽出、脱歴、溶媒脱パラフィン、水素化処理、水素化分解、水素化異性化及び水素化仕上げ等の精製操作によって得られる全てのタイプの基油が含まれる。
【0105】
バイオベースでありうる合成及び鉱油の混合物もまた使用できる。
【0106】
一般に、特に粘度、粘度指数又は酸化耐性に関して、電気又はハイブリッド車両の推進システムに使用するのに好適である特性を有しなくてはならないこと以外に、本発明に従って使用される組成物を調製するための様々な基油の使用に関して制限はない。
【0107】
本発明に従って使用される組成物の基油はまた、カルボン酸とアルコールとの特定のエステル、ポリ-α-オレフィン(PAO)、及び2~8個の炭素原子、特に2~4個の炭素原子を含むアルキレンオキシドの重合又は共重合によって得られるポリアルキレングリコール(PAG)等の合成油から選択されうる。
【0108】
基油として使用されるPAOは、例えば、4~32個の炭素原子を含むモノマー、例えば、オクテン又はデセンから得られる。PAOの質量平均分子質量は、実に幅広く様々でありうる。好ましくは、PAOの質量平均分子質量は、600Da未満である。PAOの質量平均分子質量はまた、100~600Da、150~600Da又は200~600Daの範囲であってもよい。
【0109】
有利には、本発明に従って使用される組成物の基油は、ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)及びカルボン酸とアルコールとのエステルから選択される。
【0110】
代替的な実施形態によると、本発明に従って使用される組成物の基油は、II又はIII群の基油から選択され得る。
【0111】
本発明に使用するのに好適な組成物に使用される基油の含有量を調節することは、当業者の範囲内である。
【0112】
本発明による検討下の潤滑剤組成物は、その総質量に対して、少なくとも50質量%の基油、特にその総質量に対して、60質量%~99質量%の基油を含みうる。
【0113】
追加の添加剤
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物はまた、本発明の文脈で定義されるスクシンイミドタイプの添加剤並びにアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤とは異なる、電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤に使用するのに好適な任意のタイプの添加剤を含みうる。
【0114】
使用される添加剤の性質及び量は、本発明に従って使用される前記スクシンイミド化合物並びに前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの添加剤の組合せによって付与される耐摩耗及び耐食性能の点で特性に影響しないように選択されることが理解される。
【0115】
電気又はハイブリッド車両の推進システムの潤滑及び/又は冷却の分野の当業者に公知のそのような添加剤は、摩擦調整剤、洗浄剤、極圧添加剤、本発明によるスクシンイミド化合物以外の分散剤、酸化防止剤、流動点降下剤、消泡剤及びその混合物から選択されうる。
【0116】
有利には、本発明に使用するのに好適な組成物は、摩擦調整剤、粘度指数調整剤、洗浄剤、極圧添加剤、分散剤、酸化防止剤、流動点降下剤、消泡剤及びその混合物から選択される少なくとも1種の追加の添加剤を含む。
【0117】
これらの添加剤は、個々に並びに/又は当業者に周知のACEA(欧州自動車工業会)及び/若しくはAPI(米国石油協会)によって定義される通りの性能レベルを有する車両エンジン用の既に市販利用可能な潤滑剤配合物等の混合物の形態で導入されうる。
【0118】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物は、少なくとも1種の摩擦調整添加剤を含みうる。摩擦調整添加剤は、金属元素を提供する化合物及び無灰化合物から選択されうる。金属元素を提供する化合物の中でも、そのリガンドが、酸素、窒素、硫黄又はリン原子を含む炭化水素ベースの化合物でありうる、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu又はZn等の遷移金属錯体を挙げることができる。無灰摩擦調整添加剤は、一般に、有機由来のものであり、ポリオールの脂肪酸モノエステル、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪アミン、脂肪エポキシド、ホウ酸脂肪エポキシド、脂肪アミン又はグリセロールの脂肪酸エステルから選択されうる。本発明によると、脂肪化合物は、10~24個の炭素原子を含む少なくとも1つの炭化水素ベースの基を含む。
【0119】
本発明による使用に好適な潤滑剤組成物は、組成物の総質量に対して0.01質量%~2質量%、又は0.01質量%~5質量%、優先的には0.1質量%~1.5質量%、又は0.1質量%~2質量%の摩擦調整添加剤を含みうる。
【0120】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、少なくとも1種の酸化防止添加剤を含みうる。
【0121】
酸化防止添加剤により、一般に、使用中の組成物の劣化を遅延させることが可能になる。この劣化は、特に、堆積物の形成、沈殿物の存在、又は組成物の粘度の増加に反映されうる。
【0122】
酸化防止添加剤は、特にフリーラジカル阻害剤又はヒドロペルオキシド分解剤として作用する。一般に使用される酸化防止添加剤の中でも、フェノールタイプの酸化防止添加剤、アミンタイプの酸化防止添加剤及びホスホ-硫黄ベースの酸化防止添加剤を挙げることができる。これらの酸化防止添加剤のいくつか、例えば、ホスホ-硫黄ベースの酸化防止添加剤は、灰生成剤でありうる。フェノール系酸化防止添加剤は、無灰でありうるか、又は中性若しくは塩基性金属塩の形態でありうる。酸化防止添加剤は、特に、立体障害型フェノール、立体障害型フェノールエステル及びチオエーテル架橋、ジフェニルアミン、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されているジフェニルアミン、N,N’-ジアルキル-アリール-ジアミン及びその混合物を含む立体障害型フェノールから選択されうる。
【0123】
本発明によると好ましくは、立体障害型フェノールは、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1個の炭素が、少なくとも1つのC1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、好ましくはtert-ブチル基で置換されている、フェノール基を含む化合物から選択される。
【0124】
アミン化合物は、場合によりフェノール系酸化防止添加剤と組み合わせて使用されうる別のクラスの酸化防止添加剤である。アミン化合物の例は、芳香族アミン、例えば、式NR4R5R6(式中、R4は、場合により置換されている脂肪族又は芳香族基を表し、R5は、場合により置換されている芳香族基を表し、R6は、水素原子、アルキル基、アリール基又は式R7S(O)zR8の基を表し、R7は、アルキレン基又はアルケニレン基を表し、R8は、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を表し、zは、0、1又は2を表す)の芳香族アミンである。
【0125】
硫化アルキルフェノール又はそのアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩もまた、酸化防止添加剤として使用されうる。
【0126】
別のクラスの酸化防止添加剤は、銅化合物のもの、例えば、銅チオ-又はジチオ-ホスフェート、カルボン酸の銅塩、並びに銅ジチオカルバメート、スルホネート、フェネート及びアセチルアセトネートである。銅I及びII塩、並びにコハク酸又は無水物塩もまた使用されうる。
【0127】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、当業者に公知の任意のタイプの酸化防止添加剤を含有していてもよい。
【0128】
有利には、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、少なくとも1種の無灰酸化防止添加剤を含む。
【0129】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、組成物の総質量に対して、0.5質量%~2質量%の少なくとも1種の酸化防止添加剤を含みうる。
【0130】
特定の実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、芳香族アミンタイプ又は立体障害型フェノールタイプの酸化防止添加剤を含まない。
【0131】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物はまた、少なくとも1種の洗浄添加剤を含みうる。
【0132】
洗浄添加剤により、一般に、酸化及び燃焼副生成物を溶解することによって金属部品の表面への堆積物の形成を低減することが可能になる。
【0133】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物に使用されうる洗浄添加剤は、一般に、当業者に公知である。洗浄添加剤は、長い親油性炭化水素系の鎖及び親水性ヘッドを含むアニオン性化合物でありうる。会合したカチオンは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属カチオンでありうる。
【0134】
洗浄添加剤は、優先的には、カルボン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩及びナフテン酸塩、並びにまたフェネート塩から選択される。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、優先的には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はバリウムである。
【0135】
これらの金属塩は、一般に、化学量論量又は過剰量、したがって化学量論量よりも多い量の金属を含む。その場合、それらは、過塩基化洗浄添加剤(overbased detergent additives)であり;その場合、洗浄添加剤に過塩基性をもたらす過剰な金属は、一般に、油に不溶性である金属塩の形態、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩又はグルタミン酸塩、優先的には炭酸塩である。
【0136】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物は、例えば、組成物の総質量に対して2質量%~4質量%の洗浄添加剤を含みうる。
【0137】
また、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、少なくとも1種の、本発明により定義されるスクシンイミド化合物とは異なる分散剤を含みうる。
【0138】
分散剤は、マンニッヒ塩基から選択されうる。
【0139】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、組成物の総質量に対して、例えば、0.2質量%~10質量%の本発明により定義されるスクシンイミド化合物とは異なる分散剤を含みうる。
【0140】
有利には、本発明により使用される潤滑剤組成物は、本発明により定義されるスクシンイミド化合物と異なる分散剤を含まない。
【0141】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物はまた、少なくとも1種の消泡剤を含みうる。
【0142】
消泡剤は、シリコーンから選択されうる。
【0143】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~2質量%、又は0.01質量%~5質量%、優先的には0.1質量%~1.5質量%、又は0.1質量%~2質量%の消泡剤を含みうる。
【0144】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物はまた、少なくとも1種の流動点降下剤(PPD)を含みうる。
【0145】
パラフィン結晶の形成を遅くすることによって、流動点降下添加剤は、一般に、組成物の低温挙動を改善する。言及されうる流動点降下添加剤の例には、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン及びポリアルキルスチレンが含まれる。
【0146】
特に、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、トリアゾールタイプの耐食添加剤、及び芳香族アミンタイプ又は立体障害型フェノールタイプの酸化防止添加剤を含まないことがある。
【0147】
そのような潤滑剤組成物の配合の点では、前記スクシンイミド化合物が、基油又は基油の混合物に添加されてもよく、アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む他の追加の添加剤が、次いで添加される。
【0148】
或いは、前記スクシンイミド化合物は、特に、1種又は複数の基油、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤、並びに場合により追加の添加剤を含む、既存の従来の潤滑剤配合物に添加されてもよい。
【0149】
或いは、本発明によるスクシンイミドタイプの前記耐食添加剤は、1種又は複数の追加の添加剤と組み合わされてもよく、このようにして形成された添加剤「パック」(additive “pack”)は基油又は基油の混合物に添加される。
【0150】
有利には、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、規格ASTM D445に従って100℃で測定した、1~15mm2/秒の範囲、特に3~10mm2/秒の範囲の動粘度を有する。
【0151】
有利には、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、規格ASTM D445に従って40℃で測定した、3~80mm2/秒の範囲、特に15~70mm2/秒の範囲の動粘度を有する。
【0152】
本発明の有利な実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物の90℃で測定した電気抵抗値は、5~10000Mohm.mの間、より好ましくは6~5000Mohm.mの間である。
【0153】
本発明の有利な実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物の90℃で測定した誘電損失値は、0.01~30の間、より好ましくは0.02~25の間、より優先的には0.02~10の間である。
【0154】
有利には、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、式(X)W(Y)(式中、Xは、0又は5を表し、Yは、4~20の範囲、特に4~16又は4~12の範囲の整数を表す)によって定義されるSAEJ300分類に従うグレードのものでありうる。
【0155】
特定の実施形態によると、本発明により使用される潤滑剤組成物は、
好ましくは、ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)及びカルボン酸とアルコールとのエステルから選択される基油又は基油の混合物;
好ましくは、ポリアルキレンモノスクシンイミド及びビススクシンイミド、例えばポリイソブテンモノスクシンイミド及びビススクシンイミド並びにこれらのボレート誘導体から選択される、特に前述の式(I)の化合物から、好ましくは上で定義した通りの式(II)及び(III)の化合物から選択される、1種又は複数のスクシンイミドタイプの添加剤;
より優先的には、チア(ジ)アゾールタイプの化合物、特に上で定義した通りのジメルカプトチアゾール誘導体から選択される、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤、好ましくは1種又は複数のアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤;
場合により、摩擦調整剤、粘度指数調整剤、洗浄剤、極圧添加剤、分散剤、酸化防止剤、洗浄剤、流動点降下添加剤、消泡剤及びその混合物から選択される1種又は複数の追加の添加剤
を含むか、又はさらにはこれらからなる。
【0156】
特定の実施形態によると、本発明により使用される潤滑剤組成物は、
0.01質量%~10質量%、特に0.1質量%~10質量%、より特定すると0.5質量%~8質量%の、好ましくはポリアルキレンモノスクシンイミド及びビススクシンイミド、例えばポリイソブテンモノスクシンイミド及びビススクシンイミド並びにこれらのボレート誘導体から選択される、特に前述の式(I)の化合物から、好ましくは上で定義した通りの式(II)及び(III)の化合物から選択される、1種又は複数のスクシンイミドタイプの添加剤;
0.01質量%~10質量%、特に0.1質量%~5質量%、より特定すると0.5質量%~3質量%の、より優先的にはチア(ジ)アゾールタイプの化合物、特に上で定義した通りのジメルカプトチアゾール誘導体から選択される、1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤、好ましくは1種又は複数のアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤;
60質量%~99.9質量%の、好ましくは、ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)及びカルボン酸とアルコールとのエステルから選択される基油及びその混合物;
場合により、0.1質量%~5質量%の、摩擦調整剤、粘度指数調整剤、洗浄剤、極圧添加剤、分散剤、酸化防止剤、洗浄剤、流動点降下添加剤、消泡剤及びその混合物から選択される1種又は複数の添加剤;
を含むか、又はさらにはこれらからなり;
含有量は、前記潤滑剤組成物の総質量に対して表される。
【0157】
用途
既に示した通り、既に記載の通りの本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物は、電気又はハイブリッド車両の推進システム用、より特定すると、モーター及びパワーエレクトロニクス用の潤滑剤として使用される。
【0158】
したがって、本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するため、特に、電気又はハイブリッド車両の電気モーター及びパワーエレクトロニクスを潤滑するための、特に既に定義した通りの1種又は複数のスクシンイミド化合物、並びに1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤、好ましくはジメルカプトチアゾール誘導体と組み合わせた、既に定義した通りの潤滑剤組成物の使用に関する。
【0159】
図1に模式的に提示される通り、電気又はハイブリッド車両の推進システムは、特に、電気モーター部(1)、電気バッテリー(2)及び変速機、特に減速機(3)を備える。
【0160】
電気モーターは、典型的には、固定子(13)及び回転子(14)に接続されたパワーエレクトロニクス(11)を備える。固定子は、コイル、特に銅コイルを備え、これは、交流によって電力供給される。これにより、回転磁界を発生させることが可能になる。その一部として、回転子は、コイル、永久磁石又は他の磁性材料を備え、回転磁界によって回転して配置される。
【0161】
転がり軸受(12)は、一般に、固定子(13)と回転子(14)との間に組み込まれる。変速機、特に減速機(3)により、電気モーターの出口側での回転速度を低減し、ホイールに伝わる速度を適合させることが可能になり、同時に、車両の速度を制御することが可能になる。
【0162】
転がり軸受(12)は、特に、高い機械的応力にかけられ、疲労による摩耗の問題が起こる。したがって、その耐用年数を増加させるためには、転がり軸受を潤滑する必要がある。また、減速機は、高い摩擦応力にかけられるため、あまりに早く損傷することを防ぐために、適切に潤滑する必要がある。
【0163】
したがって、本発明は、特に、電気又はハイブリッド車両の電気モーターを潤滑するため、特に電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受を潤滑するための、既に記載の通りの組成物の使用に関する。
【0164】
本発明はまた、電気又はハイブリッド車両の変速機、特に減速機を潤滑するための、既に記載の通りの組成物の使用に関する。
【0165】
したがって、有利には、本発明による組成物は、電気又はハイブリッド車両の推進システムの種々の部品、特に、電気又はハイブリッド車両の電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受、及び/又は変速機、特に、減速機を潤滑するために使用されうる。
【0166】
有利には、既に言及した通り、本発明による潤滑剤組成物は、優れた耐摩耗及び耐食性能を有する。
【0167】
その別の態様によると、本発明はまた、電気又はハイブリッド車両の推進システムの少なくとも1つの部品、特に、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受;及び/又は変速機、特に減速機を潤滑するための方法であって、少なくとも前記部品を、既に記載の通りの組成物と接触して配置する少なくとも1つの工程を含む、方法に関する。
【0168】
したがって、本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システムの少なくとも1つの部品、特に、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受;及び/又は変速機、特に減速機の摩耗及び腐食を同時に低減するための方法であって、少なくとも前記部品を、既に記載の通りの組成物と接触して配置する少なくとも1つの工程を含む、方法を提案する。
【0169】
本発明に従って使用される組成物及びその使用について記載される全ての特徴及び選好は、この方法にも当てはまる。
【0170】
特定の実施形態によると、本発明による組成物は、潤滑特性に加えて、良好な電気絶縁特性を有しうる。
【0171】
この実施形態によると、本発明による組成物は、電気若しくはハイブリッド車両の推進システムの1つ若しくは複数の部品を潤滑するため、特に、モーターのセンサー及びソレノイドバルブ、転がり軸受だけでなく、電気モーターの回転子と固定子に位置する巻線も潤滑するため、又は電気若しくはハイブリッド車両に見られる変速機、特にギア、センサー、ソレノイドバルブ若しくは減速機を潤滑するため、並びに前記推進システムの少なくとも1つの部品、特にバッテリーを電気的に絶縁するために同時に使用されうる。
【0172】
そのような実施変形例の状況で、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、有利には、規格ASTM D445に従って100℃で測定した、2~8mm2/秒の間、好ましくは3~7mm2/秒の間の動粘度を有する。
【0173】
上記の使用は組み合わされうること、既に記載した組成物は、潤滑剤及び電気絶縁体の両方としてだけでなく、電気又はハイブリッド車両のモーター、バッテリー及び変速機の冷却液としても使用される可能性があることが理解される。
【0174】
本発明によると、本発明による組成物の特定の、有利な又は好ましい特徴により、やはり特定の、有利な又は好ましいものである、本発明による使用を定義することが可能になる。
【0175】
本発明をここで、以下の実施例によって説明するが、これらは言うまでもなく本発明の非限定的な例示として示すものである。
【実施例】
【0176】
様々な組成物の評価をした:
ジメルカプトチアジアゾールタイプのアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含み、スクシンイミドタイプの添加剤を含まない組成物C1;
ジメルカプトチアジアゾールタイプの前記耐摩耗添加剤、及び本発明に従った、スクシンイミドタイプの、より正確には、既に定義した通りの以下の式:
【化17】
を有するビススクシンイミドの分散剤を含む組成物C2;
ジメルカプトチアジアゾールタイプの前記耐摩耗添加剤、及び本発明に従った、スクシンイミドタイプの、より正確には、高分子量のPIBスクシンイミドの分散剤を含む組成物C3;
ジメルカプトチアジアゾールタイプの前記耐摩耗添加剤及び本発明に従った、スクシンイミドタイプの、より正確には、既に定義した通りの以下の式:
【化18】
を有するPIBスクシンイミドの分散剤を含む組成物C4。
【0177】
組成物C1~C4は、上述の化合物に加えて、V群の基油を含む。
【0178】
組成及び量(質量百分率として表す)は、以下の表2に示される。
【0179】
【0180】
耐食特性の評価
評価方法
組成物の腐食(又は浸食)力は、組成物への所定の直径の銅線の浸漬の持続時間の関数としての、この線の電気抵抗値の変動の調査を含む試験によって評価されうる。この電気抵抗値の変動は、試験線の直径の変動と直接相関する。本発明の状況において、選択した線の直径は、70μmである。
【0181】
この場合、銅線を、20mLの試験組成物(組成物C2からC4は本発明による組成物であり、組成物C1は比較として役立つ組成物である)を含有する試験管に浸漬する。
【0182】
線の抵抗は、オーム計を使用して測定する。
【0183】
測定電流は、1mAである。
【0184】
試験組成物の温度は150℃にする。
【0185】
銅線の抵抗は、この式(1):
【数1】
(式中、Rは抵抗であり、ρは銅の抵抗率であり、Lは線の長さであり、Sは断面積である)
によって計算する。
【0186】
この式(1)中、ρ及びLは、一定である。したがって、抵抗Rは、浸漬される線の断面積に反比例する。
【0187】
線の直径は、断面積から計算する(式(2)):
【数2】
(式中、Dは線の直径である)。
【0188】
式(2)を式(1)に挿入して、抵抗と直径との関係を得る(式(3)):
【数3】
【0189】
したがって、線が試験組成物によって腐食した場合、線の直径は減少し、したがって、抵抗値が増加する。
【0190】
抵抗をモニタリングすることによって、浸漬された線の受けた腐食状態を反映する線の直径の変化をモニタリングすることが可能になる。
【0191】
したがって、線の直径の損失は、測定された抵抗から直接計算される。
【0192】
測定された抵抗が無限である場合、これは開回路である。したがって線は断線しており、これは、非常に重度の腐食を定義する。
【0193】
結果
結果を以下の表に要約し、μm(直径の損失)で表す。得られた値が低いほど、評価した組成物の耐食特性が良好である。
【0194】
調査した銅線の直径の損失が、前記化合物を含む組成物への80時間の浸漬後1.3μm以下、特に40時間の浸漬後0.8μm以下である場合、組成物は「非腐食性」であると考えられる。
【0195】
【0196】
これらの結果から、本発明によるスクシンイミド化合物の添加により、アミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤により誘導される腐食効果を低減することが可能になることが明らかである。
【符号の説明】
【0197】
1 電気モーター部
2 電気バッテリー
3 減速機
11 パワーエレクトロニクス
12 転がり軸受
13 固定子
14 回転子
【手続補正書】
【提出日】2022-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気又はハイブリッド車両の推進システムを対象とし、且つ1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての、少なくとも1種のスクシンイミド化合物の使用。
【請求項2】
前記スクシンイミド化合物が
、ポリアルキレンモノ-又はビス-スクシンイミド;そのボレート誘導体;その無水コハク酸誘導
体;そのような無水コハク酸環を開環することにより得られる化合
物;及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記スクシンイミド化合物が、少なくとも1種の以下の式(ii):
【化1】
(式中、R
1は、炭化水素ベースの
基を表す)
の置換スクシンイミド基又は前記基(ii)のボレート誘導体、又は前記基(ii)の無水コハク酸誘導体、又は前記無水コハク酸環の開環により得られる化合物を含む、請求項
1に記載の使用。
【請求項4】
前記スクシンイミド化合物が、以下の式(II):
【化2】
(式中:
R
1は、
炭化水素ベースの基を表し、
Aは、直鎖又は分岐のC
2からC
24
アルキレン基を表
し;
yは、1から6の整数を
表す)
のモノスクシンイミド、又はそのボレート誘導体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記スクシンイミド化合物は、以下の式(III):
【化3】
(式中:
R
1は、同一又は異なっていてもよく、
炭化水素ベースの基を表し;
zは、0から1
0の整数を表し;
sは、2から
6の整数を表す)
のビススクシンイミド、又はそのボレート誘導体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、チア(ジ)アゾールタイプの添加剤;ポリスルフィド添加剤、リン酸アミン、及びこれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、単独で又は混合物としての
、以下の式:
【化4】
(式中、基R
1は、互いに独立して、水素原子、1から24
個の炭素原子を含む直鎖若しくは分岐のアルキル若しくはアルケニル基、又は芳香族置換基を表し、nは、互いに独立して、1、2、3又は4に等しい整数であ
る)
を有する2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール誘導体から選択される、請求項1から
6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記スクシンイミド化合物は、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%から10質量
%の範囲の含有量で存在し、並びに/又は、前記アミンベース及び/若しくは硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%から10質量
%の範囲の含有量で存在する、請求項1から
7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
耐食添加剤としての1種又は複数のスクシンイミド化合物、及び1種又は複数のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するための
、潤滑剤組成物の使用。
【請求項10】
スクシンイミドタイプの耐食添加剤が、請求項2
、3、4、5又は8に規定のとおりであり;並びに/又はアミンベース及び/若しくは硫黄ベースの耐摩耗添加剤が、請求項6
、7又は8に規定のとおりである、請求項
9に記載の使用。
【請求項11】
電気又はハイブリッド車両の、電気モーターの回転子と固定子の間に位置する転がり軸受、及び/又は変速
機を潤滑するための、請求項
9又は
10に記載の使用。
【国際調査報告】