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特表2022-538640電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての立体障害型芳香族アミン又はフェノール化合物の使用
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  • 特表-電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての立体障害型芳香族アミン又はフェノール化合物の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-05
(54)【発明の名称】電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての立体障害型芳香族アミン又はフェノール化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 133/12 20060101AFI20220829BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20220829BHJP
   C10M 135/36 20060101ALI20220829BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20220829BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20220829BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220829BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
C10M133/12 ZHV
C10M129/10 ZAB
C10M135/36
C10N40:02
C10N40:04
C10N30:06
C10N30:12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577617
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020067822
(87)【国際公開番号】W WO2020260460
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】1907146
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514170019
【氏名又は名称】トタル マーケティング セルヴィス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シミン・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ハキム・エル-バヒ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリエン・ゲラン
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB05C
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104BE07C
4H104BG19C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104LA03
4H104LA06
(57)【要約】
本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての、少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する少なくとも1種の化合物の使用であって、前記潤滑剤組成物が、1種又は複数種のアミノ及び/又は硫黄耐摩耗添加剤を含む、使用に関する。本発明はまた、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するため、特に、電気又はハイブリッド車両の電気モーター及びパワーエレクトロニクスを潤滑するための、1種又は複数種の耐食添加剤として少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物を含み、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を更に含む潤滑剤組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気又はハイブリッド車両の推進システム用であり且つ1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての、少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する少なくとも1種の化合物の使用。
【請求項2】
少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物が、芳香族アミン、特にジアリールアミン化合物、より特定するとジフェニルアミン化合物、立体障害型フェノール、特にアルキルフェノール、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
芳香族アミンタイプの前記化合物が、ジアリールアミン、好ましくは、式:
【化1】
(式中、R6及びR7は、互いに独立して、
- 好ましくはアミン官能基に対してパラ位で、炭化水素ベースの基、特に、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含むアルキル又はアルケニル基から選択される炭化水素ベースの基で置換されていてもよい、フェニル基;及び
- 好ましくはアミン官能基に対してパラ位で、炭化水素ベースの基、特に、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含むアルキル又はアルケニル基から選択される炭化水素ベースの基で置換されていてもよい、ナフチル基
から選択される)、
より優先的には式(I):
【化2】
(式中、R1及びR2は、互いに独立して、水素原子;直鎖状又は分枝状のアルキル又はアルケニル基、好ましくは、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含むアルキル基から選択される);
特に式(I'):
【化3】
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、直鎖状又は分枝状のC1~C12、好ましくはC3~C10アルキル基を表し、例えば直鎖状又は分枝状のオクチル及びブチル基から選択される)
のジアリールアミンから選択される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
立体障害型フェノールタイプの前記化合物が、式(II'):
【化4】
(式中、
R1及びR2のうちの少なくとも1つは、C1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、例えば、tert-ブチル;又はヒドロキシル基を表し;
nは、0~3の整数であり;
Rは、互いに独立して、1つ又は複数のC2~C10アルコキシカルボニル基、例えばオクチルオキシカルボニル基で、かつ/あるいはそれ自体1つ若しくは複数のアルキル基で置換されていてもよい1つ又は複数のアリール基で置換されていてもよい、C1~C10アルキル基;及びヒドロキシル基から選択される)
の化合物である、請求項2又は3に記載の使用。
【請求項5】
立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物が、p,p'-ブチルオクチルジフェニルアミン、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、及びそれらの混合物から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤が、単独で又は混合物としての、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、特に以下の式:
【化5】
(式中、R1基は、互いに独立して、水素原子、1~24個、好ましくは2~18個、より優先的には4~16個、更により優先的には8~12個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分枝状のアルキル若しくはアルケニル基、又は芳香族置換基を表し、nは、互いに独立して、1、2、3又は4に等しい整数であり、nは、好ましくは1に等しい)
を有する2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール誘導体から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物が、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%~5質量%、特に0.1質量%~3質量%、より特定すると0.1質量%~1質量%の範囲の含有量で存在し;かつ/あるいは、前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤が、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%~5質量%、特に0.1質量%~3質量%、より特定すると0.1質量%~1質量%の範囲の含有量で存在する、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するため、特に、電気又はハイブリッド車両の電気モーター及びパワーエレクトロニクスを潤滑するための、耐食添加剤としての少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物、並びに1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む、潤滑剤組成物の使用。
【請求項9】
少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物が、請求項2から5及び7のいずれか一項で定義した通りであり;かつ/あるいは、アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤が、請求項6又は7で定義した通りである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
電気又はハイブリッド車両の、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受、及び/又は変速機、特に減速機を潤滑するための、請求項8又は9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物の分野に関する。本発明は、より詳細には、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を組み込む潤滑剤組成物の耐食特性(anticorrosion property)を改善するための、少なくとも1つの立体障害型(sterically hindered)アミン又はフェノール官能基を有する化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CO2排出削減についてだけでなく、エネルギー消費の削減についての国際標準の変化により、自動車両製造業者は、燃焼エンジンの代替解決法を提案する方向に向かっている。
【0003】
自動車両製造業者によって特定された解決法の1つは、燃焼エンジンを電気モーターと交換することで構成される。このためCO2排出削減を目的とした研究により、一定数の自動車両企業は電気車両の開発に至った。
【0004】
本発明の目的で、「電気車両」という用語は、推進の組合せ手段として燃焼エンジン及び電気モーターを備えるハイブリッド車両とは対照的に、推進の単独手段として電気モーターを備える車両を言う。
【0005】
本発明の目的で、「推進システム」という用語は、電気車両を推進するために必要な機械部品を含むシステムを言う。したがって、推進システムは、より特定すると、電気モーター又はパワーエレクトロニクスの回転子-固定子アセンブリ(速度制御専用)、変速機及びバッテリーを包含する。
【0006】
一般に、電気又はハイブリッド車両において、主に車両の推進システムの種々の部品間、特に、走行中のモーター中の金属部品間の摩擦力を低減する目的で、「潤滑剤」としても公知の潤滑剤組成物を使用する必要がある。これらの潤滑剤組成物はまた、特にその表面の早期摩耗又は更にはこれらの部品の損傷を防止するのに効果的である。
【0007】
これを行うために、潤滑剤組成物は、一般に、基油の潤滑剤性能を促進する、例えば、摩擦調整添加剤だけでなく、追加の性能を得ることを目的としたいくつかの添加剤と組み合わせられる1種又は複数種の基油で、従来構成される。
【0008】
特に、「耐摩耗」添加剤は、モーターの機械部品の摩耗を低減し、したがって、モーターの耐久性の低下を防止するために検討される。
【0009】
多種多様な耐摩耗添加剤が存在し、その中でも例えば、ジメルカプトチアジアゾール、ポリスルフィド、特に硫黄ベースのオレフィン、リン酸アミン又はホスホ-硫黄添加剤、例えば、金属アルキルチオホスフェート、特に、亜鉛アルキルチオホスフェート、より具体的には亜鉛ジアルキルジチオホスフェート又はZnDTPを挙げることができる。
【0010】
これらの耐摩耗添加剤の中でも、ジメルカプトチアジアゾール、亜鉛ジチオホスフェート又はポリスルフィド等のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗剤が特に好ましい。
【0011】
残念ながら、ジメルカプトチアジアゾール等のこれらのアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、腐食性であるという欠点を有する。腐食の問題は、電気推進システムで特に致命的である。特に、腐食は、固定子及び回転子巻線、推進システムのセンサー、油圧システムのソレノイドバルブだけでなく、一般に銅ベースであるため、特に腐食しやすい電気モーターの回転子と固定子との間の転がり軸受、又は推進システムのシール若しくはワニスの劣化のリスクにつながりうる。
【0012】
本発明は、具体的には、この欠点を克服することに向けられる。
【0013】
更に、電気又はハイブリッド車両の推進システムの冷却を可能にするために、潤滑剤は絶縁されて電気部品の故障を回避することが必要不可欠である。特に、導電性潤滑剤は固定子及び回転子巻線の漏電のリスクにつながることがあり、このため、推進システムの効率が低下し、電気部品の過熱の可能性、更にはシステムの損傷点が生じる。したがって、電気又はハイブリッド車両のパワートレインシステムに潤滑剤を使用する文脈で、潤滑剤は、非腐食特性に加えて、良好な「電気」特性を有することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2006/064138号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2011/073960号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、具体的には、そのような特性を得ることに向けられる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
より正確には、本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システムを対象とし且つ1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての、少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する少なくとも1種の化合物の使用に関する。
【0017】
少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物、特に、ただ1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物は、本文の残りの部分において、「立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物」と呼ばれる。
【0018】
立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物、例えば、障害型芳香族アミン又はフェノール、特にアルキルフェノールは、例えば特許出願WO 2006/064 138に記載の通り、例えばエンジン潤滑剤における酸化防止剤としてのその機能が既に記載されている。これらの酸化防止剤により、一般に、可用組成物の劣化を遅延させることが可能になる。この劣化は、特に、堆積物の形成、沈殿物の存在、又は組成物の粘度の増加に反映されうる。酸化防止剤は、潤滑剤の使用の間に形成されるフリーラジカルを捕捉することが可能であり、したがって、酸の蓄積につながりやすい連鎖反応を中断することを可能にする。
【0019】
しかしながら、本発明者らの知る限り、電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤を使用して、アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤の使用によってもたらされる腐食効果を克服する文脈で、これらの化合物を耐食添加剤として使用することは提案されたことはなかった。
【0020】
驚くべきことに、以下の例で例示される通り、本発明者らは、例えばジアリールアミンタイプの、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有するそのような添加剤が、アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤によって誘発される腐食効果を効果的に低減しうることを見出した。
【0021】
したがって、特に、芳香族アミン又はアルキルフェノールタイプの、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する少なくとも1種の化合物の添加により、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物の耐食特性が有利に改善されうる。
【0022】
本発明の目的で、「耐食添加剤」という用語は、金属部品の腐食を防止又は低減するための添加剤を言う。したがって、組成物中で使用される耐食添加剤により、前記組成物の「耐食」特性を改善することが可能になる。
【0023】
本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物を1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤と一緒に使用することにより、良好な耐摩耗性能を同時に有する一方、既に言及した腐食の問題を同時に克服する潤滑剤組成物が有利に得られる。したがって、本発明による組成物は、良好な耐摩耗及び耐食特性を同時に有する。
【0024】
化合物の腐食(又は浸食)力は、非腐食性媒体、例えば1種又は複数種の基油中への前記試験化合物を含む組成物への所定の直径の銅線の浸漬の持続時間の関数としての、この線の電気抵抗値の変動を調査する試験によって評価されうる。この電気抵抗値の変動は、試験線の直径の変動と直接相関する。したがって、本発明の文脈において、調査した銅線の直径の損失が、前記化合物を含む組成物への80時間の浸漬後2μm以下、特に20時間の浸漬後0.3μm以下である場合、化合物は「非腐食性」と呼ばれる。
【0025】
潤滑剤の誘電特性は、電気抵抗及び誘電損失(tanδ)によって特に表され、規格IEC 60247に従って測定されうる。
【0026】
電気抵抗は、電流の流れに対抗する材料の能力を表す。電気抵抗はオーム-メートル(Ω.m)で表される。抵抗は、電気伝導を妨げない低さでなくてはならない。
【0027】
誘電正接(electric dissipation factor)又は損失角正接によりまた、潤滑剤の特性を測定することが可能である。損失角δは、印加電圧と交流との間の位相シフトの余角である。この因子はジュール効果エネルギー損失を反映する。したがって、加熱は、δ値に直接関連する。変速機油は、典型的には、室温で1の桁のtanδ値を有する。良好な絶縁潤滑剤は、低tanδレベルを維持しなくてはならない。
【0028】
有利には、本発明に従って使用される本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物は、芳香族アミン、特にジアリールアミン化合物、より特定するとジフェニルアミン化合物;立体障害型フェノール、特にアルキルフェノール;及びその混合物から選択される。
【0029】
好ましい実施形態によると、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物は、特にアミン官能基に対するパラ位の少なくとも1つで、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含む少なくとも1つのアルキル又はアルケニル基で置換されている、置換ジフェニルアミンから選択される。
【0030】
例として、前記化合物は、p,p'-ブチルオクチルジフェニルアミンでありうる。
【0031】
別の好ましい実施形態によると、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物は、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1個の炭素が、置換されていてもよいC1~C10アルキル基及びヒドロキシル官能基から選択される少なくとも1つの基で置換されているフェノール基を含む化合物から選択される。
【0032】
例として、前記化合物は、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート又は2,6-ジ-tert-ブチルフェノールでありうる。
【0033】
したがって、電気又はハイブリッド車両の推進システムを対象とする潤滑剤組成物への、本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物の導入は、有利には、組成物中での、ジメルカプトチアジアゾール等のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤の使用を可能にし、しかしながら、有害な腐食性効果は伴わない。
【0034】
本発明による潤滑剤組成物において使用されるアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、より詳細には、本明細書の以下の本文中で詳述される。それらは、好ましくは、アミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤から選択される。それらは、好ましくは、チア(ジ)アゾール化合物、特にジメルカプトチアジアゾール誘導体でありうる。
【0035】
更に、本発明に使用するのに好適な組成物は、配合が容易であるという利点を有する。良好な耐摩耗及び耐食性能に加えて、それは、特に酸化に関して良好な安定性、及びまた電気絶縁の点で良好な特性を有する。
【0036】
本発明はまた、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するため、特に電気又はハイブリッド車両の電気モーター及びパワーエレクトロニクスを潤滑するための、
- 耐食添加剤として、本発明で定義される通りの少なくとも1つの立体障害型アミン官能基又はフェノール官能基を含む1種又は複数種の化合物;並びに
- 本発明で定義される通りの1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤
を含む潤滑剤組成物の使用に関する。
【0037】
本発明の主題はまた、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するための方法であって、前記システムの少なくとも1つの機械部品を、耐食添加剤として、本発明で定義される通りの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する少なくとも1種の化合物、並びに本発明で定義される通りの少なくとも1種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物と接触させて配置する少なくとも1つの工程を含む、方法である。
【0038】
有利には、本発明による潤滑剤組成物は、電気モーター自体、特に、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受、及び/又は電気又はハイブリッド車両の変速機、特に、減速機を潤滑するために使用される。
【0039】
本発明による耐食添加剤としての立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物の使用の他の特徴、変形例及び利点は、本記載及び本発明の非限定例として示される以下の例を読むことでより明白に現れる。
【0040】
続く文中で、「...と...との間」、「...~...の範囲」及び「...から...に変動する」という表現は、等価であり、別途言及されない限り境界を含むことを意味することが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】電気又はハイブリッド車両の推進システムを表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する耐食添加剤
既に述べた通り、電気又はハイブリッド車両のパワートレインシステム用の潤滑剤組成物において、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤と一緒に、本発明による耐食剤として使用される添加剤は、少なくとも1つの立体障害型アミン又フェノール官能基を有する化合物である。
【0043】
既に言及した通り、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物、より特定すると、芳香族アミン及び障害型フェノール等は、その酸化防止剤作用が、潤滑剤の分野の当業者に公知である。これらの化合物は、ラジカル阻害剤として作用することが可能である。
【0044】
「立体障害型官能基」という用語は、官能基が、立体効果又は拘束によって障害されていることを意味する。この障害の効果により、アミン又はフェノール官能基は、非障害型アミン又はフェノール官能基よりも大幅に求核性が低くなり、したがって、求核付加反応が妨げられる。
【0045】
そのような化合物は、例えば、特許出願WO 2006/064 138、WO 2011/073 960等に記載されている。
【0046】
しかしながら、既に示した通り、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤の使用によって誘発される腐食効果を低減又は更には阻害する目的で、電気又はハイブリッド車両のパワートレインシステム用の潤滑剤における耐食添加剤としてそのような化合物が提案されたことはなかった。
【0047】
障害型アミン官能基を有する化合物は、より特定すると、特に本明細書の以下の本文中で定義される通りの芳香族アミンから選択されうる。
【0048】
障害型フェノール官能基を有する化合物は、好ましくは、特に本明細書の以下の本文中で定義される通りの、立体障害型フェノール、特にアルキルフェノールから選択される。
【0049】
したがって、特定の実施形態によると、障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物は、芳香族アミン、立体障害型フェノール、及びその混合物から選択される。
【0050】
特に、芳香族アミンタイプの化合物は、式:
【0051】
【化1】
【0052】
(式中、R3及びR4は、互いに独立して、水素原子、C1~20、好ましくは、C4~16脂肪族基、又は芳香族若しくは複素芳香族、単環式若しくは縮合多環式、置換若しくは非置換基を表し;R5は、芳香族又は複素芳香族、単環式又は縮合多環式基であり、これは、非置換である又は少なくとも1つのC1~20アルキル置換基を有するか;又は
R3及びR5は一緒に、芳香族又は複素芳香族、単環式又は縮合多環式基を形成する)
を有しうる。
【0053】
芳香族アミンは、より特定すると、置換又は非置換ジフェニルアミン、置換又は非置換フェニルナフチルアミン、置換又は非置換フェノチアジン、置換又は非置換イミドジベンジル、置換又は非置換N,N'-ジフェニル(フェニレンジアミン)、及びその混合物から選択されうる。
【0054】
特に好ましい実施形態によると、障害型アミン官能基を有する化合物は、窒素原子が少なくとも1つのアリール基、好ましくは少なくとも1つのフェニル基に連結した2級アミンから選択される。
【0055】
好ましくは、障害型アミン官能基を有する化合物は、特にアリール基の少なくとも1つがフェニルであるジアリールアミン化合物、より特定すると、ジフェニルアミン化合物から選択される。
【0056】
したがって、特定の実施形態によると、障害型アミン官能基を有する化合物は、好ましくは式:
【0057】
【化2】
【0058】
(式中、R6及びR7は、互いに独立して、
- 好ましくはアミン官能基に対してパラ位で、炭化水素ベースの基、特に、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含むアルキル又はアルケニル基から選択される炭化水素ベースの基で置換されていてもよい、フェニル基;及び
- 好ましくはアミン官能基に対してパラ位で、炭化水素ベースの基、特に、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含むアルキル又はアルケニル基から選択される炭化水素ベースの基で置換されていてもよい、ナフチル基
から選択される)
に対応する、ジアリールアミンから選択される芳香族アミンタイプの化合物である。
【0059】
有利には、障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物は、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含む少なくとも1つのアルキル又はアルケニル基で好ましくは置換されている、特にアミン官能基に対するパラ位の少なくとも1つで置換されている、ジフェニルアミン化合物から選択される。
【0060】
言い換えると、障害型アミン官能基を有する化合物は、有利には、以下の式(I):
【0061】
【化3】
【0062】
(式中、R1及びR2は、互いに独立して、水素原子;1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝状アルキル又はアルケニル基、好ましくはアルキル基から選択される)
の化合物でありうる。
【0063】
特定の実施形態によると、障害型アミン官能基を有する化合物は、R1及びR2のうちの少なくとも1つが、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝状アルキル又はアルケニル基、好ましくはアルキル基である、上述の式(I)の化合物である。
【0064】
好ましくは、前記化合物は、R1及びR2が、互いに独立して、1~12個の炭素原子、好ましくは3~10個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝状アルキル又はアルケニル基、好ましくはアルキル基から選択される、上述の式(I)の化合物である。
【0065】
好ましくは、R1及びR2は、アミン官能基に対してパラ位にある。
【0066】
言い換えると、障害型アミン官能基を有する化合物は、有利には、式(I'):
【0067】
【化4】
【0068】
(式中、R1及びR2は、既に定義した通りである)
の化合物でありうる。
【0069】
有利には、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、直鎖状又は分枝状C1~C12、好ましくはC3~C10アルキル基を表し、例えば直鎖状又は分枝状オクチル及びブチル基から選択される。
【0070】
障害型アミン官能基を有する化合物は、購入してもよく、又は当業者に公知の合成方法に従って調製してもよい。
【0071】
例として、p,p'-ブチルオクチルジフェニルアミンが言及されうる。
【0072】
障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物はまた、立体障害型フェノールタイプの化合物でありうる。
【0073】
立体障害型フェノールタイプの化合物は、好ましくは、フェノール基であって、そのフェニル基の一部を形成する、ヒドロキシル官能基を有する炭素原子以外の少なくとも1個の炭素原子が、ヒドロキシル基、直鎖状若しくは分枝状C110アルキル、ジアルキルアミノアルキル基又はスチリル基を有するフェノール基を含む化合物である
【0074】
好ましくは、立体障害型フェノールは、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1個の炭素が、C1~C10アルキル基及びヒドロキシル官能基から選択される少なくとも1つの基で置換されているフェノール基を含む化合物から選択される。
【0075】
言い換えると、障害型フェノール官能基を有する化合物は、以下の式(II):
【0076】
【化5】
【0077】
(式中、
R1及びR2のうちの少なくとも1つは、C1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、例えば、tert-ブチル;又はヒドロキシル基を表し;
基R1、R2及びOHを有するもの以外のベンゼン環の炭素原子は、置換されていてもよい)
の立体障害型フェノールでありうる。
【0078】
特に、障害型フェノール官能基を有する化合物は、以下の式(II'):
【0079】
【化6】
【0080】
(式中、
R1及びR2のうちの少なくとも1つは、C1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、例えば、tert-ブチル;又はヒドロキシル基を表し;
nは、0~3の整数であり;
Rは、互いに独立して、オクチルオキシカルボニル基等の1つ又は複数のC2~C10アルコキシカルボニル基及び/又はそれ自体1つ若しくは複数のアルキル基で置換されていてもよい1つ又は複数のアリール基で置換されていてもよい、C1~C10アルキル基;並びにヒドロキシル基から選択される)
の化合物でありうる。
【0081】
立体障害型フェノールタイプの化合物の例としては、単独で又は混合物として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、t-ブチルヒドロキノン(TBHQ)、2,6-及び2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、ピロガロール及びオクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメートが言及されうる。
【0082】
好ましくは、立体障害型フェノールタイプの化合物は、ヒドロキシル官能基に対するオルト位の少なくとも1つ、好ましくは両方のオルト位に、好ましくはC1~C10の立体障害型アルキル基、特にC1~C6、特にC4アルキル基、好ましくはtert-ブチルを有するフェノール基を含む「アルキルフェノール」化合物から選択される。
【0083】
特に、立体障害型フェノールタイプの化合物は、R1及びR2のうちの少なくとも1つ、又は更には両方の基R1及びR2が、C1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、好ましくはtert-ブチルから選択される、上述の式(II)、特に上述の式(II')の化合物でありうる。
【0084】
障害型フェノール官能基を有する化合物は、購入してもよく、又は当業者に公知の合成方法に従って調製してもよい。
【0085】
立体障害型フェノールタイプの好ましい化合物の例としては、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート又は2,6-ジ-tert-ブチルフェノールが言及されうる。言及されうる立体障害型フェノールタイプの更により好ましい化合物の例は、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメートである。
【0086】
好ましい実施形態によると、立体障害型芳香族アミン又はフェノールタイプの化合物は、p,p'-ブチルオクチルジフェニルアミン、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、及びその混合物から選択される。
【0087】
更により好ましい実施形態によると、立体障害型芳香族アミン又はフェノールタイプの化合物は、p,p'-ブチルオクチルジフェニルアミン、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート、及びその混合物から選択される。
【0088】
本発明は、上記の障害型芳香族アミン又はフェノールタイプの化合物に限定されない。特に酸化防止剤として公知の立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する他の化合物が、本発明による耐食添加剤として使用されうる。
【0089】
本発明の文脈において、以下の定義が当てはまる:
- 「アルキル」:直鎖状又は分枝状飽和脂肪族基;例えば、Cx~Cyアルキルは、x~y個の炭素原子の直鎖状又は分枝状炭化水素ベースの鎖を表す;
- 「アルケニル」:直鎖状又は分枝状不飽和脂肪族基;例えば、Cx~Cyアルケニル基は、x~y個の炭素原子の直鎖状又は分枝状不飽和炭素系鎖を表す;
- 「アルコキシ」:ラジカル-O-アルキル、ここで、アルキル基は既に定義した通りである;
- 「アリール」:特に5~10個の炭素原子を含む単環式又は多環式芳香族基。言及されうるアリール基の例としては、フェニル、トリル及びナフチル基が挙げられる。
【0090】
有利には、本発明に従って使用される立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物は、
- 有利にはアミン官能基に対してパラ位で、好ましくは、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されている、特に既に記載した通りの芳香族アミン、特にジアリール芳香族アミン、より特定するとジフェニルアミン;
- 特に既に定義した通りの立体障害型フェノール、好ましくは、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1個の炭素が、少なくとも1つのC1~C10、好ましくはC1~C6、特にC4アルキル基、特にtert-ブチルで置換されているフェノール基を含む化合物;及び
- その混合物
から選択される。
【0091】
本発明の文脈において、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物は、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する少なくとも2種の化合物の混合物、例えば、立体障害型アミン官能基を有する少なくとも1種の化合物と立体障害型フェノール官能基を有する少なくとも1種の化合物との混合物の形態でありうることが理解される。
【0092】
特に既に定義した通りの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物は、本発明による潤滑剤組成物中で、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%~5質量%、特に0.1質量%~3質量%、より特定すると0.1質量%~1質量%の割合で使用されうる。
【0093】
有利には、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物以外の耐食添加剤を含まない。特定の実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、トリアゾールタイプ又はスクシンイミドタイプの耐食添加剤を含まない。
【0094】
潤滑剤組成物
アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤
既に示した通り、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む。
【0095】
「アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤」という用語は、アミンベースの耐摩耗添加剤、硫黄ベースの耐摩耗添加剤、並びにアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤から選択される添加剤を言う。
【0096】
「耐摩耗添加剤」という用語は、潤滑剤組成物、特に電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤組成物に使用される場合、組成物の耐摩耗特性を改善することを可能にする化合物を言う。
【0097】
アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤は、例えば、チア(ジ)アゾールタイプの添加剤、特にジメルカプトチアジアゾール誘導体;ポリスルフィド添加剤、特に硫黄ベースのオレフィン、リン酸アミン、アルキルチオホスフェート等のホスホ-硫黄添加剤、及びその混合物から選択されうる。
【0098】
チア(ジ)アゾール添加剤
特に好ましい実施形態によると、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、少なくとも1種のチア(ジ)アゾール耐摩耗添加剤を含む。
【0099】
チア(ジ)アゾール化合物は、5原子環中に硫黄原子及び少なくとも1個の窒素原子の両方を含む化合物である。ベンゾチアゾールは、特定のタイプのチア(ジ)アゾールである。「チア(ジ)アゾール」というこの用語には、5原子環当たり1個の硫黄原子及び1個の窒素原子を含有する環式化合物に加えて、そのような環中に硫黄及び2個の窒素原子を含有するチアジアゾールも含まれる。
【0100】
特に、チア(ジ)アゾール化合物は、ベンゾチアゾール誘導体、チアゾール誘導体及びチアジアゾール誘導体から選択されうる。
【0101】
好ましくは、耐摩耗添加剤は、チアジアゾール誘導体でありうる。
【0102】
チアジアゾールは、一般式C2N2SH2の、2個の窒素原子、1個の硫黄原子、2個の炭素原子及び2個の二重結合を含む複素環式化合物であり、それぞれ1,2,3-チアジアゾール;1,2,4-チアジアゾール;1,2,5-チアジアゾール;1,3,4-チアジアゾールの以下の形態:
【0103】
【化7】
【0104】
で存在しうる。
【0105】
好ましくは、チアジアゾール誘導体は、ジメルカプトチアジアゾール誘導体である。
【0106】
したがって、特に好ましい実施形態によると、本発明による潤滑剤組成物は、ジメルカプトチアゾール誘導体から選択される少なくとも1種の耐摩耗添加剤を含む。
【0107】
本発明による「ジメルカプトチアジアゾール誘導体」という用語は、単独での又は混合物としての、以下の4種のジメルカプトチアジアゾール分子:4,5-ジメルカプト-1,2,3-チアジアゾール、3,5-ジメルカプト-1,2,4-チアジアゾール、3,4-ジメルカプト-1,2,5-チアジアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール:
【0108】
【化8】
【0109】
に由来する化合物を意味する。
【0110】
ジメルカプトチアジアゾール誘導体は、より特定すると、上に表される通りの4,5-ジメルカプト-1,2,3-チアジアゾール、3,5-ジメルカプト-1,2,4-チアジアゾール、3,4-ジメルカプト-1,2,5-チアジアゾール又は2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールをベースとする分子又は分子の混合物であり、ここで、チアジアゾール環の置換基=Sの少なくとも1つ、又は更には両方の置換基=Sは、置換基:
【0111】
【化9】
【0112】
(式中、*は、5員環の炭素原子との結合を表し;nは、1、2、3又は4に等しい整数を表し;R1は、水素原子、1~24個、好ましくは2~18個、より優先的には4~16個、更により優先的には8~12個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分枝状、飽和若しくは不飽和アルキル基、又は芳香族置換基から選択される)
で置換されている。
【0113】
特に、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールを例に取ると、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール誘導体は、単独で又は混合物として、以下の式:
【0114】
【化10】
【0115】
【化11】
【0116】
(式中、R1基は、互いに独立して、水素原子、1~24個、好ましくは2~18個、より優先的には4~16個、更により優先的には8~12個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分枝状アルキル若しくはアルケニル基、又は芳香族置換基を表し、nは、互いに独立して、1、2、3又は4に等しい整数であり、nは、好ましくは1に等しい)
を有する分子である。
【0117】
好ましくは、R1は、互いに独立して、直鎖状C1~C24、好ましくはC2~C18、特にC4~C16、より特定するとC8~C12、好ましくはC12アルキル基を表す。
【0118】
本発明に使用されるジメルカプトチアジアゾール誘導体は、例えば、供給元であるVanderbilt社、Rhein Chemie社又はAfton社から購入できる。
【0119】
ポリスルフィド添加剤
本発明による潤滑剤組成物に使用されるアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤はまた、ポリスルフィドタイプの硫黄ベースの耐摩耗添加剤、特に硫黄ベースのオレフィンから選択されうる。
【0120】
本発明による潤滑剤組成物に使用される硫黄ベースのオレフィンは、特に、一般式Ra-Sx-Rb(式中、Ra及びRbは、3~15個の炭素原子、優先的には1~5個の炭素原子、優先的には3個の炭素原子を含むアルキル基であり、xは、2~6の間の整数である)によって表されるジアルキルスルフィドでありうる。
【0121】
好ましくは、ポリスルフィド添加剤は、ジアルキルトリスルフィドから選択される。
【0122】
好ましくは、本発明に従って使用される組成物中に存在する耐摩耗添加剤は、アミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤から、有利には、上記の通りのチア(ジ)アゾール化合物から、より優先的にはジメルカプトチアジアゾール誘導体から選択される。
【0123】
本発明による検討下の潤滑剤組成物は、0.01質量%~5質量%、特に0.1質量%~3質量%、より特定すると0.1質量%~1質量%の、好ましくはチア(ジ)アゾールタイプ、より優先的にはジメルカプトチアジアゾール誘導体から選択されるアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含みうる。
【0124】
アミンベース及び/又は硫黄ベースの添加剤以外の、特に推進システム用の潤滑剤に公知の他の耐摩耗添加剤の使用を想定できるが、ただし、それらが、本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物並びに前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤の組合せによって付与される特性に影響しないことが条件である。
【0125】
好ましくは、本発明に従って必要な潤滑剤組成物は、本発明に従って使用される前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤以外の耐摩耗添加剤を含まない。
【0126】
特に好ましい実施形態によると、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、
- 特に、
・ 有利にはアミン官能基に対してパラ位で、好ましくは、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されている、特に既に記載した通りの芳香族アミン、特にジアリール芳香族アミン、より特定するとジフェニルアミン;
・ 特に既に定義した通りの立体障害型フェノール、好ましくは、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1個の炭素が、少なくとも1つのC1~C10、好ましくはC1~C6、特にC4アルキル基、特にtert-ブチルで置換されているフェノール基を含む化合物;
及びその混合物
から選択される、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物;並びに
- 好ましくは、特に上で定義した通りのジメルカプトチアゾール誘導体から選択される1種又は複数種のアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤
を組み合わせる。
【0127】
本発明に従って使用される組成物は、特に既に定義した通りの、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の添加剤並びに1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤に加えて、1種又は複数種の基油及びまた潤滑剤組成物に従来検討される他の添加剤を含みうる。
【0128】
基油
したがって、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、1種又は複数種の基油を含みうる。
【0129】
これらの基油は、潤滑油の分野で従来使用される基油、例えば、鉱油、合成若しくは天然油、動物若しくは植物油、又はその混合物から選択されうる。
【0130】
これはいくつかの基油の混合物、例えば、2、3又は4種の基油の混合物であってもよい。
【0131】
本発明による検討下の潤滑剤組成物の基油は、特に、API分類で定義されるクラスによるI~V群(又はATIEL分類によるその等価物)に属し、以下のTable 1(表1)に提示される鉱物若しくは合成由来の油又はその混合物でありうる。
【0132】
【表1】
【0133】
鉱物基油には、原油の常圧及び減圧蒸留後、溶媒抽出、脱歴、溶媒脱パラフィン、水素化処理、水素化分解、水素化異性化及び水素化仕上げ等の精製操作によって得られる全てのタイプの基油が含まれる。
【0134】
バイオベースでありうる合成及び鉱油の混合物もまた使用できる。
【0135】
一般に、特に粘度、粘度指数又は酸化耐性に関して、電気又はハイブリッド車両の推進システムに使用するのに好適である特性を有しなくてはならないこと以外に、本発明に従って使用される組成物を調製するための様々な基油の使用に関して制限はない。
【0136】
本発明に従って使用される組成物の基油はまた、カルボン酸とアルコールとの特定のエステル、ポリ-α-オレフィン(PAO)、及び2~8個の炭素原子、特に2~4個の炭素原子を含むアルキレンオキシドの重合又は共重合によって得られるポリアルキレングリコール(PAG)等の合成油から選択されうる。
【0137】
基油として使用されるPAOは、例えば、4~32個の炭素原子を含むモノマー、例えば、オクテン又はデセンから得られる。PAOの質量平均分子質量は、実に幅広く様々でありうる。好ましくは、PAOの質量平均分子質量は、600Da未満である。PAOの質量平均分子質量はまた、100~600Da、150~600Da又は200~600Daの範囲であってもよい。
【0138】
有利には、本発明に従って使用される組成物の基油は、ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)及びカルボン酸とアルコールとのエステルから選択される。
【0139】
代替的な実施形態によると、本発明に従って使用される組成物の基油は、II又はIII群の基油から選択されうる。
【0140】
本発明に使用するのに好適な組成物に使用される基油の含有量を調節することは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内である。
【0141】
本発明による検討下の潤滑剤組成物は、その総質量に対して、少なくとも50質量%の基油、特に、その総質量に対して、60質量%~99質量%の基油を含みうる。
【0142】
追加の添加剤
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物はまた、本発明の文脈で定義される立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する添加剤並びにアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤とは異なる、電気又はハイブリッド車両の推進システム用の潤滑剤に使用するのに好適な任意のタイプの添加剤を含みうる。
【0143】
使用される添加剤の性質及び量は、本発明に従って使用される立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物並びに前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの添加剤の組合せによって付与される耐摩耗及び耐食性能の点で特性に影響しないように選択されることが理解される。
【0144】
電気又はハイブリッド車両の推進システムの潤滑及び/又は冷却の分野の当業者に公知のそのような添加剤は、摩擦調整剤、洗浄剤、極圧添加剤、消泡剤、流動点降下剤添加剤、分散剤、本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物以外の酸化防止剤、流動点降下剤、消泡剤及びその混合物から選択されうる。
【0145】
有利には、本発明に使用するのに好適な組成物は、摩擦調整剤、洗浄剤、極圧添加剤、消泡剤、流動点降下剤添加剤、分散剤、本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物以外の酸化防止剤及びその混合物から選択される少なくとも1種の追加の添加剤を含む。
【0146】
これらの添加剤は、個々に並びに/又は当業者に周知のACEA(欧州自動車工業会)及び/若しくはAPI(米国石油協会)によって定義される通りの性能レベルを有する車両エンジン用の既に市販利用可能な潤滑剤配合物等の混合物の形態で導入されうる。
【0147】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物は、少なくとも1種の摩擦調整添加剤を含みうる。摩擦調整添加剤は、金属元素を提供する化合物及び無灰化合物から選択されうる。金属元素を提供する化合物の中でも、そのリガンドが、酸素、窒素、硫黄又はリン原子を含む炭化水素ベースの化合物でありうる、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu又はZn等の遷移金属錯体を挙げることができる。無灰摩擦調整添加剤は、一般に、有機由来のものであり、ポリオールの脂肪酸モノエステル、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪アミン、脂肪エポキシド、ホウ酸脂肪エポキシド、脂肪アミン又はグリセロールの脂肪酸エステルから選択されうる。本発明によると、脂肪化合物は、10~24個の炭素原子を含む少なくとも1つの炭化水素ベースの基を含む。
【0148】
本発明による使用に好適な潤滑剤組成物は、組成物の総質量に対して0.01質量%~2質量%、又は0.01質量%~5質量%、優先的には0.1質量%~1.5質量%、又は0.1質量%~2質量%の摩擦調整添加剤を含みうる。
【0149】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、本発明に従って定義される通りの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物とは異なる少なくとも1種の酸化防止剤添加剤を含みうる。
【0150】
酸化防止剤添加剤により、一般に、可用組成物の劣化を遅延させることが可能になる。この劣化は、特に、堆積物の形成、沈殿物の存在、又は組成物の粘度の増加に反映されうる。
【0151】
酸化防止剤添加剤は、特にフリーラジカル阻害剤又はヒドロペルオキシド分解剤として作用する。
【0152】
立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物とは異なる酸化防止剤添加剤は、例えば、銅化合物、例えば、銅チオ-又はジチオ-ホスフェート、カルボン酸の銅塩、並びに銅ジチオカルバメート、スルホネート、フェネート及びアセチルアセトネートでありうる。銅I及びII塩、並びにコハク酸又は無水物塩もまた使用されうる。
【0153】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、当業者に公知の任意のタイプの酸化防止剤添加剤を含有していてもよい。
【0154】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、組成物の総質量に対して、0.5質量%~2質量%の少なくとも1種の酸化防止剤添加剤を含みうる。
【0155】
有利には、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、本発明に従って定義される通りの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物とは異なる酸化防止剤添加剤を含まない。
【0156】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物はまた、少なくとも1種の洗浄剤添加剤を含みうる。
【0157】
洗浄剤添加剤により、一般に、酸化及び燃焼副生成物を溶解することによって金属部品の表面への堆積物の形成を低減することが可能になる。
【0158】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物に使用されうる洗浄剤添加剤は、一般に、当業者に公知である。洗浄剤添加剤は、長い親油性炭化水素系の鎖及び親水性ヘッドを含むアニオン性化合物でありうる。会合したカチオンは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属カチオンでありうる。
【0159】
洗浄剤添加剤は、優先的には、カルボン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩及びナフテン酸塩、並びにまたフェネート塩から選択される。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、優先的には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はバリウムである。
【0160】
これらの金属塩は、一般に、化学量論量又は過剰量、したがって化学量論量よりも多い量の金属を含む。その場合、それらは、過塩基化洗浄剤添加剤であり;その場合、洗浄剤添加剤に過塩基性をもたらす過剰な金属は、一般に、油に不溶性である金属塩の形態、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩又はグルタミン酸塩、優先的には炭酸塩である。
【0161】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物は、例えば、組成物の総質量に対して2質量%~4質量%の洗浄剤添加剤を含みうる。
【0162】
また、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、少なくとも1種の分散剤を含みうる。
【0163】
分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミド及びその誘導体から選択されうる。
【0164】
本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、組成物の総質量に対して、例えば、0.2質量%~10質量%の分散剤を含みうる。
【0165】
特定の実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、スクシンイミドタイプの分散剤添加剤を含まない。
【0166】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物はまた、少なくとも1種の消泡剤を含みうる。
【0167】
消泡剤は、シリコーンから選択されうる。
【0168】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~2質量%、又は0.01質量%~5質量%、優先的には0.1質量%~1.5質量%、又は0.1質量%~2質量%の消泡剤を含みうる。
【0169】
本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物はまた、少なくとも1種の流動点降下剤(PPD)を含みうる。
【0170】
パラフィン結晶の形成を遅くすることによって、流動点降下剤添加剤は、一般に、組成物の低温挙動を改善する。言及されうる流動点降下剤添加剤の例には、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン及びポリアルキルスチレンが含まれる。
【0171】
特に、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、トリアゾールタイプの耐食添加剤及びスクシンイミドタイプの分散剤添加剤を含まないことがある。
【0172】
そのような潤滑剤組成物の配合の点では、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物が、基油又は基油の混合物に添加されてもよく、アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む他の追加の添加剤が、次いで添加される。
【0173】
或いは、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物は、特に、1種又は複数種の基油、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤、並びに場合により追加の添加剤を含む、既存の従来の潤滑剤配合物に添加されてもよい。
【0174】
或いは、本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記添加剤は、1種又は複数種の追加の添加剤と組み合わせられてもよく、こうして形成された添加剤「パック」が、基油又は基油の混合物に添加される。
【0175】
有利には、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、規格ASTM D445に従って100℃で測定した、1~15mm2/秒の範囲の、特に3~10mm2/秒の範囲の動粘度を有する。
【0176】
有利には、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、規格ASTM D445に従って40℃で測定した、3~80mm2/秒の範囲の、特に15~70mm2/秒の動粘度を有する。
【0177】
本発明の有利な実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物の90℃で測定した電気抵抗値は、5~10000Mohm.mの間、より好ましくは6~5000Mohm.mの間である。
【0178】
本発明の有利な実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物の90℃で測定した誘電損失値は、0.01~30の間、より好ましくは0.02~25の間、より優先的には0.02~10の間である。
【0179】
有利には、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、式(X)W(Y)(式中、Xは、0又は5を表し、Yは、4~20の範囲、特に4~16又は4~12の範囲の整数を表す)によって定義されるSAEJ300分類に従うグレードのものでありうる。
【0180】
特定の実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、
- 好ましくは、ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)及びカルボン酸とアルコールとのエステルから選択される基油又は基油の混合物;
- 特に、
・ 有利にはアミン官能基に対してパラ位で、好ましくは、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されている、特に既に記載した通りの芳香族アミン、特にジアリール芳香族アミン、より特定するとジフェニルアミン;
・ 特に既に定義した通りの立体障害型フェノール、好ましくは、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1個の炭素が、少なくとも1つのC1~C10、好ましくはC1~C6、特にC4アルキル基、特にtert-ブチルで置換されているフェノール基を含む化合物;
及びその混合物
から選択される立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物;
- より優先的には、チア(ジ)アゾールタイプの化合物、特に上で定義した通りのジメルカプトチアゾール誘導体から選択される、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤、好ましくは1種又は複数種のアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤;
- 場合により、摩擦調整剤、洗浄剤、極圧添加剤、消泡剤、流動点降下剤添加剤、分散剤、本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物以外の酸化防止剤及びその混合物から選択される1種又は複数種の追加の添加剤
を含むか、又は更にはこれらからなる。
【0181】
特定の実施形態によると、本発明に従って使用される潤滑剤組成物は、
- 0.01質量%~5質量%、特に0.1質量%~3質量%、より特定すると0.1質量%~1質量%の、特に、
・有利にはアミン官能基に対してパラ位で、好ましくは、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されている、特に既に記載した通りの芳香族アミン、特にジアリール芳香族アミン、より特定するとジフェニルアミン;
・ 特に既に定義した通りの立体障害型フェノール、好ましくは、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1個の炭素が、少なくとも1つのC1~C10、好ましくはC1~C6、特にC4アルキル基、特にtert-ブチルで置換されているフェノール基を含む化合物;
及びその混合物
から選択される立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物;並びに
- 0.01質量%~5質量%、特に0.1質量%~3質量%、より特定すると0.1質量%~1質量%の、より優先的にはチア(ジ)アゾールタイプの化合物、特にジメルカプトチアゾール誘導体から選択される、1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤、好ましくは1種又は複数種のアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤;
- 60質量%~99.9質量%の、好ましくは、ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)及びカルボン酸とアルコールとのエステルから選択される基油及びその混合物;
- 場合により、0.01質量%~5質量%の、摩擦調整剤、洗浄剤、極圧添加剤、消泡剤、流動点降下剤添加剤、分散剤、本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物以外の酸化防止剤及びその混合物から選択される1種又は複数種の追加の添加剤
を含むか、又は更にはこれらからなり;
含有量は、前記潤滑剤組成物の総質量に対して表される。
【0182】
適用
既に示した通り、既に記載の通りの本発明に使用するのに好適な潤滑剤組成物は、電気又はハイブリッド車両の推進システム用、より特定すると、モーター及びパワーエレクトロニクス用の潤滑剤として使用される。
【0183】
したがって、本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するため、特に、電気又はハイブリッド車両の電気モーター及びパワーエレクトロニクスを潤滑するための、特に既に定義した通りの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物、並びに1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤、好ましくはジメルカプトチアゾール誘導体と組み合わせた、既に定義した通りの潤滑剤組成物の使用に関する。
【0184】
図1に模式的に提示される通り、電気又はハイブリッド車両の推進システムは、特に、電気モーター部(1)、電気バッテリー(2)及び変速機、特に減速機(3)を備える。
【0185】
電気モーターは、典型的には、固定子(13)及び回転子(14)に接続されたパワーエレクトロニクス(11)を備える。固定子は、コイル、特に銅コイルを備え、これは、交流によって電力供給される。これにより、回転磁界を発生させることが可能になる。その一部として、回転子は、コイル、永久磁石又は他の磁性材料を備え、回転磁界によって回転して配置される。
【0186】
転がり軸受(12)は、一般に、固定子(13)と回転子(14)との間に組み込まれる。変速機、特に減速機(3)により、電気モーターの出口側での回転速度を低減し、ホイールに伝わる速度を適合させることが可能になり、同時に、車両の速度を制御することが可能になる。
【0187】
転がり軸受(12)は、特に、高い機械的応力にかけられ、疲労による摩耗の問題が起こる。したがって、その耐用年数を増加させるためには、転がり軸受を潤滑する必要がある。また、減速機は、高い摩擦応力にかけられるため、あまりに早く損傷することを防ぐために、適切に潤滑する必要がある。
【0188】
したがって、本発明は、特に、電気又はハイブリッド車両の電気モーターを潤滑するため、特に電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受を潤滑するための、既に記載の通りの組成物の使用に関する。
【0189】
本発明はまた、電気又はハイブリッド車両の変速機、特に減速機を潤滑するための、既に記載の通りの組成物の使用に関する。
【0190】
有利には、本発明による組成物はしたがって、電気又はハイブリッド車両の推進システムの種々の部品、特に、電気又はハイブリッド車両の電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受、及び/又は変速機、特に、減速機を潤滑するために使用されうる。
【0191】
有利には、既に言及した通り、本発明による潤滑剤組成物は、優れた耐摩耗及び耐食性能を有する。
【0192】
その別の態様によると、本発明はまた、電気又はハイブリッド車両の推進システムの少なくとも1つの部品、特に、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受;及び/又は変速機、特に減速機を潤滑するための方法であって、少なくとも前記部品を、既に記載の通りの組成物と接触させて配置する少なくとも1つの工程を含む、方法に関する。
【0193】
したがって、本発明は、電気又はハイブリッド車両の推進システムの少なくとも1つの部品、特に、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受;及び/又は変速機、特に減速機の摩耗及び腐食を同時に低減するための方法であって、少なくとも前記部品を、既に記載の通りの組成物と接触させて配置する少なくとも1つの工程を含む、方法を提案する。
【0194】
本発明に従って使用される組成物及びその使用について記載される全ての特徴及び選好は、この方法にも当てはまる。
【0195】
特定の実施形態によると、本発明による組成物は、潤滑特性に加えて、良好な電気絶縁特性を有しうる。
【0196】
この実施形態によると、本発明による組成物は、電気若しくはハイブリッド車両の推進システムの1つ若しくは複数の部品を潤滑するため、特に、モーターのセンサー及びソレノイドバルブ、転がり軸受だけでなく、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する巻線も潤滑するため、又は電気若しくはハイブリッド車両に見られる変速機、特にギア、センサー、ソレノイドバルブ若しくは減速機を潤滑するため、並びに前記推進システムの少なくとも1つの部品、特にバッテリーを電気的に絶縁するために同時に使用されうる。
【0197】
そのような実施変形例の文脈で、本発明による検討下の潤滑剤組成物は、有利には、規格ASTM D445に従って100℃で測定した、2~8mm2/秒の間、好ましくは3~7mm2/秒の間の動粘度を有する。
【0198】
上記の使用は組み合わされうること、既に記載した組成物は、潤滑剤及び電気絶縁体の両方としてだけでなく、電気又はハイブリッド車両のモーター、バッテリー及び変速機の冷却液としても使用される可能性があることが理解される。
【0199】
本発明によると、本発明による組成物の特定の、有利な又は好ましい特徴により、やはり特定の、有利な又は好ましいものである、本発明による使用を定義することが可能になる。
【0200】
本発明をここで、以下の実施例を用いて説明するが、これらは言うまでもなく本発明の非限定的な例示として示すものである。
【実施例
【0201】
種々の組成物を評価した:
- ジメルカプトチアジアゾールタイプのアミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含み、立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する添加剤を含まない組成物C1;
- ジメルカプトチアジアゾールタイプの前記耐摩耗添加剤及び立体障害型アミン官能基を有する添加剤(p,p'-ブチルオクチルジフェニルアミン)を含む組成物C2;
- ジメルカプトチアジアゾールタイプの前記耐摩耗添加剤及び立体障害型フェノール官能基を有する添加剤(オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)を含む組成物C3。
【0202】
組成物C1~C3は、上述の化合物に加えて、V群の基油を含む。
【0203】
組成物及び量(質量百分率として表す)は、以下のTable 2(表2)に示される。
【0204】
【表2】
【0205】
耐食特性の評価
評価方法
組成物の腐食(又は浸食)力は、組成物への所定の直径の銅線の浸漬の持続時間の関数としての、この線の電気抵抗値の変動の調査を含む試験によって評価されうる。この電気抵抗値の変動は、試験線の直径の変動と直接相関する。本発明の文脈において、選択した線の直径は、70μmである。
【0206】
本発明の場合、銅線を、20mLの試験組成物(組成物C2及びC3は本発明による組成物であり、組成物C1は比較として役立つ組成物である)を含有する試験管に浸漬する。
【0207】
線の抵抗は、オーム計を使用して測定する。
【0208】
測定電流は、1mAである。
【0209】
試験組成物の温度は150℃にする。
【0210】
銅線の抵抗は、この式(1):
【0211】
【数1】
【0212】
(式中、Rは抵抗であり、ρは銅の抵抗率であり、Lは線の長さであり、Sは断面積である)
によって計算する。
【0213】
この式(1)中、ρ及びLは、一定である。したがって、抵抗Rは、浸漬される線の断面積に反比例する。
【0214】
線の直径は、断面積から計算する(式(2))。
【0215】
【数2】
【0216】
(式中、Dは線の直径である)。
【0217】
式(2)を式(1)に挿入して、抵抗と直径との関係を得る(式(3))。
【0218】
【数3】
【0219】
したがって、線が試験組成物によって腐食した場合、線の直径は減少し、したがって、抵抗値が増加する。
【0220】
抵抗をモニタリングすることによって、浸漬された線の受けた腐食状態を反映する線の直径の変化をモニタリングすることが可能になる。
【0221】
したがって、線の直径の損失は、測定された抵抗から直接計算される。
【0222】
測定された抵抗が無限である場合、これは開回路である。したがって線は断線しており、これは、非常に重度の腐食を定義する。
【0223】
結果
結果を以下の表に要約し、μm(直径の損失)で表す。得られた値が低いほど、評価した組成物の耐食特性が良好である。
【0224】
調査した銅線の直径の損失が、組成物への80時間の浸漬後2μm以下、特に20時間の浸漬後0.3μm以下である場合、組成物は「非腐食性」であると考えられる。
【0225】
【表3】
【0226】
これらの結果から、本発明による立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物の添加により、アミンベース及び硫黄ベースの耐摩耗添加剤によって誘発される腐食効果を低減することが可能になることが明らかである。
【符号の説明】
【0227】
1 電気モーター部
2 電気バッテリー
3 減速機
11 パワーエレクトロニクス
12 転がり軸受
13 固定子
14 回転子
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気又はハイブリッド車両の推進システム用であり且つ1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物中の耐食添加剤としての、少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する少なくとも1種の化合物の使用。
【請求項2】
少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物が、芳香族アミン、立体障害型フェノール、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
芳香族アミンタイプの前記化合物が、式:
【化1】
(式中、R6及びR7は、互いに独立して、
- 炭化水素ベースの基で置換されていてもよい、フェニル基;及び
- 炭化水素ベースの基で置換されていてもよい、ナフチル基
から選択される)
のジアリールアミンから選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
芳香族アミンタイプの前記化合物が、式(I):
【化2】
(式中、R 1 及びR 2 は、互いに独立して、水素原子;1~12個の炭素原子を含む直鎖状又は分枝状のアルキル又はアルケニル基から選択される)
のジアリールアミンから選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
立体障害型フェノールタイプの前記化合物が、式(II'):
【化4】
(式中、
R1及びR2のうちの少なくとも1つは、C1~C10アルキル基又はヒドロキシル基を表し;
nは、0~3の整数であり;
Rは、互いに独立して、1つ又は複数のC2~C10アルコキシカルボニル基で、かつ/あるいはそれ自体1つ若しくは複数のアルキル基で置換されていてもよい1つ又は複数のアリール基で置換されていてもよい、C1~C10アルキル基;及びヒドロキシル基から選択される)
の化合物である、請求項2から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物が、p,p'-ブチルオクチルジフェニルアミン、オクチル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、及びそれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤が、単独で又は混合物としての、以下の式:
【化5】
(式中、R1基は、互いに独立して、水素原子、1~24個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分枝状のアルキル若しくはアルケニル基、又は芳香族置換基を表し、nは、互いに独立して、1、2、3又は4に等しい整数であ)
を有する2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール誘導体から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する前記化合物が、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%~5質量%の範囲の含有量で存在し;かつ/あるいは、前記アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤が、潤滑剤組成物の総質量に対して、0.01質量%~5質量%の範囲の含有量で存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
電気又はハイブリッド車両の推進システムを潤滑するための、耐食添加剤としての少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する1種又は複数種の化合物、並びに1種又は複数種のアミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤を含む、潤滑剤組成物の使用。
【請求項10】
少なくとも1つの立体障害型アミン又はフェノール官能基を有する化合物が、請求項2から6及び8のいずれか一項で定義した通りであり;かつ/あるいは、アミンベース及び/又は硫黄ベースの耐摩耗添加剤が、請求項7又は8で定義した通りである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
電気又はハイブリッド車両の、電気モーターの回転子と固定子との間に位置する転がり軸受、及び/又は変速機を潤滑するための、請求項9又は10に記載の使用。
【国際調査報告】