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特表2022-538679アルキルメタクリレートおよび任意にメタクリル酸の製造方法
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  • 特表-アルキルメタクリレートおよび任意にメタクリル酸の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-05
(54)【発明の名称】アルキルメタクリレートおよび任意にメタクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/39 20060101AFI20220829BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20220829BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20220829BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20220829BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20220829BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20220829BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220829BHJP
【FI】
C07C67/39
C07C67/08
C07C69/54 Z
C07C51/235
C07C57/055 B
B01J23/89 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500114
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(85)【翻訳文提出日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2020066008
(87)【国際公開番号】W WO2021004719
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】19184618.7
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン クリル
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス リューリング
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン チュンケ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01B
4G169BA02B
4G169BA06B
4G169BB02B
4G169BC33B
4G169BC67B
4G169CB10
4G169DA05
4G169EA01Y
4G169EA04Y
4G169FA01
4G169FB14
4G169FB19
4H006AA02
4H006AC47
4H006AC48
4H006BA05
4H006BA20
4H006BA30
4H006BA55
4H006BA66
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC16
4H006BC31
4H006BD70
4H006BD84
4H006BS10
4H006KA06
4H039CA65
4H039CA66
4H039CC30
4H039CD10
4H039CD30
4H039CD40
4H039CD90
4H039CG10
(57)【要約】
本発明は、メタクリレート、例えばメタクリル酸および/またはアルキルメタクリレート、特にMMAの新規の製造方法に関する。特に本発明は、C4をベースとする製造方法、すなわち、特にイソブチレンまたはtert-ブタノールを原料として出発する方法の収率および効率の向上に関する。さらに、本発明による方法により、活性および選択率を維持またはさらには向上させつつ、かかる方法を支障なくより長期間にわたって運転することが可能となる。それにより、かかる方法を、可能な限り簡便に、経済的に、そして環境に配慮した形で実施することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルメタクリレートおよび任意にメタクリル酸の製造方法であって、反応器1における第1の反応段階において気相でのイソブテンおよび/またはtert-ブチルアルコールの部分酸化によりメタクロレインを製造し、前記メタクロレインを反応器2における第2の反応段階において気相での部分酸化によりメタクリル酸に転化させる方法において、
前記反応器2における前記第2の反応段階で反応しなかったメタクロレインを、前記生成されたメタクリル酸と分離し、反応器4におけるさらなる酸化段階でアルコールの存在下にて液相で酸化的エステル化させ、
前記反応器2で生成された粗メタクリル酸を蒸留および/または抽出により精製し、任意にさらなる段階で反応器3において酸触媒を用いてアルコールと反応させてアルキルメタクリレートを生成する
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
アルキルメタクリレートおよび任意にメタクリル酸の製造方法であって、
A)反応器1において、水蒸気および酸素含有ガスの存在下でイソブテンおよび/またはtert-ブタノールからメタクロレインを製造する段階であって、反応を気相で不均一系触媒Iにて行って、メタクロレインを含むプロセスガス1を得る段階、
B)反応器1からのメタクロレインと水蒸気とを含む前記プロセスガス1に酸素含有ガスおよび任意にさらなる水蒸気を加えて、反応器2に移送する段階であって、反応を不均一系触媒IIにて行って、メタクリル酸およびメタクロレインを含むプロセスガス2を得る段階、
C)段階B)からの前記プロセスガス2を、凝縮または急冷、抽出および/または蒸留により、メタクリル酸を含む相3aと、メタクロレインを含む相3bとに分離する段階、
D1)前記段階C)から得られた相3bのメタクロレインを、反応器4において、酸素含有ガス、ならびに金属および/または金属酸化物を含む貴金属を含有する不均一系酸化触媒の存在下でアルコールにより酸化的エステル化させて、アルキルメタクリレートと、未反応アルコールと、メタクリル酸と、未反応メタクロレインとを含む混合物を液体プロセス流4として得る段階、
D2)前記段階C)から得られ、任意にさらに精製された相3aのメタクリル酸を、反応器3において触媒IIIにてアルコールを用いて酸触媒によりエステル化させる段階、および
D3)前記相3aに含まれるメタクリル酸を単離するために精製する段階であって、少なくとも1回の蒸留を含む段階
を含む、方法。
【請求項3】
前記メタクロレインを含むプロセスガス1を、段階A)の後に少なくとも1回の蒸留および/または抽出により精製してから、精製された凝縮液として、および蒸発後に前記プロセスガス1の一部としてプロセス段階B)で使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記プロセス段階B)および/またはD1)における酸素含有ガス流は、部分的に再循環されたガス流である、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記段階D1)による酸化的エステル化反応に使用される不均一系酸化触媒は、平均粒径<20nmの1つ以上の超微粒状の金属を含み、前記金属は、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムおよび銀からなる群から選択され、前記段階D1)の反応を、液相で1~100barの圧力で行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記段階D1)による酸化的エステル化反応に使用される不均一系酸化触媒は、1つ以上の貴金属を1つ以上の担体材料上に有し、前記担体材料は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ビスマス、酸化テルル、またはアルカリ金属およびアルカリ土類金属の群からの他の塩基性酸化物をベースとし、得られる担体材料は、10μm~10mmの直径を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記触媒は、前記貴金属成分に加えて、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、ランタノイド、テルル、アンチモンおよびビスマスの群から選択される1つ以上のさらなる元素またはその酸化物を有する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記段階A)~D1)、およびD2)、ならびに任意にD3)を連続法で実施する、請求項2から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記プロセス段階D1)におけるアルコールは、メタノールであり、前記段階D1)による酸化的エステル化反応を、固定反応相におけるメタノールとメタクロレインとのモル比を1:1~50:1の範囲として行う、請求項2から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記段階D1)による転化を、2~50barの範囲の圧力、3~10の範囲のpH値、および10~200℃の範囲の温度で液相にて実施する、請求項2から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記プロセス段階D1)およびD2)におけるアルコールは、それぞれメタノールである、請求項2から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記プロセス段階D1)およびD2)の粗生成物を、前記反応器4および3から直接、またはそれぞれ1つもしくは2つの任意の別個の精製段階の後に合して一緒に精製する、請求項2から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記プロセス段階D1)およびD2)からのそれぞれの有機相を、少なくとも1つの蒸留段階および/または1つの抽出段階で別個に精製した後に、これらを合する、請求項2から12までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、メタクリレート、例えばメタクリル酸および/またはアルキルメタクリレート、特にMMAの新規の製造方法に関する。特に本発明は、C4をベースとする製造方法、すなわち、特にイソブチレンまたはtert-ブタノールを原料として出発する方法の収率および効率の向上に関する。
【0002】
さらに、本発明による方法により、活性および選択率を維持またはさらには向上させつつ、かかる方法を支障なくより長期間にわたって運転することが可能となる。それにより、かかる方法を、可能な限り簡便に、経済的に、そして環境に配慮した形で実施することが可能となる。
【0003】
従来技術
現在、メチルメタクリレート(MMA)は、例えば青酸およびアセトンから出発して、中心中間体としてのアセトンシアノヒドリン(ACH)を経由して製造されている。この方法には、非常に多量の硫酸アンモニウムが生じ、その処理に非常に高いコストがかかるという欠点がある。関連特許文献には、ACH以外の原料ベースを使用する他の方法が記載されており、一方で製造規模でも実現されている。これに関して、近年ではイソブチレンやtert-ブタノールなどのC4系原料も反応物として使用されており、これらが多段プロセスを経て所望のメタクリル酸誘導体へと変換される。
【0004】
この場合、一般には一段目でイソブチレンまたはtert-ブタノールをメタクロレインに酸化し、次いでこれを酸素と反応させてメタクリル酸を生成する。得られたメタクリル酸を、次いでメタノールによりMMAに転化させる。この方法の詳細は、特にUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry 2012, Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim, Methacrylic Acid and Derivatives, DOI: 10.1002/14356007.a16_441.pub2、およびKrill und Ruehling et. al. “Viele Wege fuehren zum Methacrylsaeuremethylester”, WILEY‐VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim, doi.org/10.1002/ciuz.201900869に掲載されている。
【0005】
原則的に、C4原料をベースとするMMAプロセスは、本発明の従来技術として関連するものである。これをもとに、MMAの製造方法は3つに分類される。原料としては、例えば、tert-ブタノールを脱水してイソブテンに変換したもの、あるいはメチルtert-ブチルエーテルからメタノールを脱離してイソブテンに転化させたもの、あるいは例えばクラッカーから原料として入手されるイソブテン自体を使用することができる。まとめると、これにより経路は以下の3つとなる:
【0006】
方法A「タンデム型C直酸」法、メタクロレインの中間単離なし):この場合には、一段目でイソブテンからメタクロレインを製造し、二段目でこれをメタクリル酸に酸化した後、最後に三段目でこれをMMAに酸化する。
【0007】
方法B「分離型C直酸」法:この場合にもおおよそ同様に、一段目でイソブテンからメタクロレインを製造し、二段目でこれをまず単離して中間精製した後、三段目でこれをメタクリル酸に酸化し、最後に四段目でこれをMMAにエステル化させる。
【0008】
方法C「直メタ法」または「直酸エステル化法」:この場合にも、一段目でイソブテンからメタクロレインを製造し、二段目でこれをこの場合にもまず単離して中間精製した後、三段目でこれをMMAに直酸エステル化させる。
【0009】
提示された方法はいずれも従来技術において十分に文献に記載されており、特に(i) IHS Chemical Process Economics Program, Review 2015-05, R.J. Chang, Syed Naqvi (ii) Vapor Phase Catalytic Oxidation of Isobutene to Methacrylic Acid, Stud. Surf. Sci. Catal. 1981, 7, 755-767 (iii) に記載されている。
【0010】
方法A「タンデム法」に関して
まずイソブテンと、空気、任意に再循環されたガス状流および水蒸気とを、気相でチューブバンドル式反応器にてビスマス-モリブデン系ソハイオ様触媒で300~400℃の温度で反応させて、メタクロレインを生成する。そのようにして得られたプロセスガスを中間冷却し、これに再び空気および水蒸気を加え、これに二段目から再循環されたメタクロレインを加える。このようにして調整したこの混合ガスを、他の金属酸化物をドープした修飾ヘテロポリ酸である第2の触媒を有する第2のチューブバンドル式反応器で260~360℃の温度でメタクリル酸に直接転化させる。この方法の特徴は、最初の反応をほぼ定量的な転化率で運転する必要があることであり、これはイソブテンでいえば98~99.9%の転化率を意味する。これは必要なことであり、なぜならば、イソブテンは、後続の酸化の活性を阻害するためである。さらに、二段目ではメタクロレインの転化率が60~90%に制限されるため、二段目のプロセスガス中には依然として相当量の未反応メタクロレインが存在している。この二段目のプロセスガスを急冷し、生成したメタクリル酸と未反応メタクロレインとを分離する。未反応メタクロレインを凝縮させ、濃縮はされているが純粋ではない形態で再び蒸発させて、2つの気相反応器間に再び供給する。このように、一段目のプロセスガスからのメタクロレインは後処理せずに、二段目の酸化から再循環されたメタクロレインを後処理することから、タンデム法と命名されている。
【0011】
方法B「分離型C直酸法」に関して
まずイソブテンと、空気、任意に再循環されたガス状流および水蒸気とを、気相でチューブバンドル式反応器にてビスマス-モリブデン系ソハイオ様触媒で300~400℃の温度で反応させて、メタクロレインを生成する。この方法では、反応器1から排出された後のメタクロレインを冷却して凝縮させる。さらに、副生成物として生成するメタクリル酸を分離し、蒸留によりメタクロレインを単離する。この多段操作の後に液状のメタクロレインが得られ、これを再び蒸発させる必要があり、必要に応じて水蒸気および空気を用いて二段目の酸化用の再循環ガスのコンディショニングを行う。この時点で同様に再循環されたメタクロレインも供給する。このようにして調整したこの混合ガスを、他の金属酸化物をドープした修飾ヘテロポリ酸である第2の触媒を有する第2のチューブバンドル式反応器で260~360℃の温度でメタクリル酸に転化させる。この方法の特徴は、最初の反応が、もはや定量的な転化率ではなく少なくとも90~98%のイソブテン転化率で運転できることである。また、この反応を、イソブテンからのMALに関して選択率と収率との組み合わせが最も好ましい転化率となるまで実施できることも有利である。さらにこの場合にも、二段目ではメタクロレインの転化率が60~90%に制限されるため、二段目のプロセスガス中には依然として相当量の未反応メタクロレインが存在している。この二段目のプロセスガスを急冷し、生成したメタクリル酸と未反応メタクロレインとを分離する。未反応メタクロレインを凝縮させ、濃縮はされているが純粋ではない形態で再び蒸発させて、第2の気相反応器の上流側で再び供給する。このように、メタクロレインおよび二段目の酸化からの再循環メタクロレインを一段目のプロセスガスから後処理して中間単離することから、「分離型C直酸法」と命名されている。
【0012】
方法AおよびBは、メタクリル酸が主生成物である点で共通している。任意に、両方法において多少なりとも純粋なメタクリル酸を、メタノールとのエステル化反応によりメチルメタクリレートに転化させることができる。通常、この最後の段階にはブレンステッド活性触媒が使用され、これは、均一系の変形例では、溶解した強酸、例えば硫酸やメタンスルホン酸、または対応するヘテロ酸官能性を有する酸性イオン交換体であってよい。
【0013】
方法Cの「直メタ法」では、最初の2段階は方法Bと同様に進行する。イソブテンまたはtert-ブチルアルコールを気相酸化した後、粗メタクロレインを液状で後処理する。この後に、本変形例に特徴的である、メタクロレインをメタノールおよび例えば空気などの酸素含有ガスで、液相中の不均一な粉末状の貴金属触媒でいわゆる直酸法によりエステル化させるという、明らかに異なる段階が続く。この方法は直接MMAに達するものであり、方法AやBのように気相でメタクリル酸を製造する中間段階を経由するものではない。
【0014】
アサヒ化成工業株式会社が開発したこの方法は、特に米国特許第5,969,178号明細書および米国特許第7,012,039号明細書に記載されている。この方法の欠点は、特に必要なエネルギーが非常に多いことである。
【0015】
米国特許第5,969,178号明細書には、イソブテンまたはtert-ブタノールをメタクロレインに酸化的転化させ、次いで酸化的エステル化によりMMAを生成する方法が記載されている。この二段目では、メタクロレインとメタノールとの水分を低下させた液体混合物を、分子状酸素、および通常はパラジウム-鉛触媒として担体上に存在するパラジウム触媒と反応させる。米国特許第6,040,472号明細書によれば、このようなPd-Pb触媒は、最適な5%のパラジウム割合で、最大91%のMMA選択率、および5.3molMMA/h・kg触媒の空時収率をもたらす。しかし、パラジウム(-鉛)触媒には、連続運転では鉛成分の損失が大きいという欠点がある(いわゆるリーチング)。そのため、これは一方では排水処理にコストがかかり、他方では系に鉛塩を継続的に投入しなければならない。
【0016】
欧州特許出願公開第2177267号明細書および欧州特許出願公開第2210664号明細書には、アルデヒドをエステルに酸化的エステル化させるための、担体材料上に担持された1~80mol%の金の割合を有する酸化ニッケル触媒が記載されている。これらの触媒は、直径が10~200μmのものが使用される。特に、この粒子はシェル構造で存在しており、酸化ニッケルが表面に存在し、金が内層に存在する。これらの触媒は、9.6molMMA/h・kg触媒の空時収率で、せいぜい最大97.1%のMMA選択率を達成するに過ぎない。
【0017】
欧州特許出願公開第2210664号明細書には、直径10~200μmの担体粒子上にナノメートル範囲の触媒粒子を担持させた特定の変形例が開示されている。ある変形例では、この担体粒子は、3mmのサイズを有する。触媒を、固定床式反応器内で円筒状またはハニカム状で装入することもできる。さらに、このような反応器の変形例におけるプロセス制御については、説明されていない。
【0018】
欧州特許出願公開第1393800号明細書では、担体材料、特に金属酸化物上の直径6nm未満の金粒子または金含有粒子が、触媒として記載されている。触媒粒子の金含有量が4.5mol%の場合、最大93%のMMA選択率、および最大50.7molMMA/h・kg触媒の空時収率が得られた。さらに、開示内容は、欧州特許出願公開第2210664号明細書のものと類似している。
【0019】
MAL合成時に副生成物としてメタクリル酸が生成し、それに伴い反応混合物のpH値が低下する。これは、さらなる問題を招く。例えば、pHが低下すると、メタクロレインおよびメタノールからアセタールとして副生成物である1,1-ジメトキシイソブテン(DMI)が生成する量が増加する。これにより、ジメチルアセタールの形態のメタクロレインの一部を、MMAへのさらなる反応に利用することができなくなり、それに応じてMMA合成の空時収率が低下する。さらにジメチルアセタールは、その後の蒸留によるMMAの後処理の際に問題となる。また、pH値が低すぎる混合物は、使用する触媒の安定性や寿命に悪影響を及ぼす(リーチング、触媒の細孔構造の変化など)。したがって、pH=5の下限に関して、特開2003-048863号公報には、塩基性溶液を添加してpH値を均衡させることができることが教示されている。例えばNaOH溶液の形態のこの塩基性溶液自体は、通常は10より大きいpH値を有する。
【0020】
これらの方法はいずれも、C4原料(イソブテンまたはtert-ブチルアルコール)を出発点とした合成経路に関するものである。
【0021】
これらの変形例(方法A、BおよびC)に関しては、総括すると、従来技術により技術的および商業的な多くの欠陥や不足があるといえる。例えば、二重気相酸化では、1プロセス段階あたりに達成される収率は約75~85%である。したがって、達成されるメタクリル酸の総収率は、わずか65%弱(±5%)である。このことは、例えば日本化薬株式会社や三井化学株式会社が工業的規模で説明しているようないわゆるタンデム法や、三菱レイヨン株式会社が説明しているようなメタクロレインの中間単離を伴う実施形態など、すべての実施形態に全体的に当てはまる。
【0022】
またこれらの方法には、安全技術的な実施に関して大きな技術的問題がある。いわゆる再循環メタクロレイン、すなわち二段目の酸化で反応しなかったメタクロレインを蒸発させ、これを2つの酸化反応器間に注入する場合には、混合物の爆発限界に非常に近い、いわゆる「リン」領域で作業することになる。この臨界的混合物が、例えば通常は300℃を超える温度で一段目の酸化のプロセスガスと一緒に供給されると、第2の酸化反応器の上流側のフィードガスにタール状の付着物や問題のある組成物が生じることになる。この問題は、多くの特許文献や解決策の提案に記載されているが、これは、複雑でかつコストの高い措置によってしか解消することができない。さらに、特に連続運転では、この問題を十分に解消することができない。
【0023】
総括すると、C4原料をベースとする方法であって、通常はヘテロポリ酸を触媒とする第2の転化のプロセスガス中の未反応メタクロレインを分離して反応させるというクリティカルな段階から、この再循環可能なメタクロレインをヘテロポリ酸触媒による第2の酸化に再び供給することへと進行しない方法は、これまでのところ記載されていないといえる。したがって、従来技術からは、この再循環可能なメタクロレインを、収率や、二段目の上流側への返送の安全に関連する転化に関して記載されたすべての欠点や技術的問題を伴った状態でメタクリル酸に転化させる方法しか知られていない。そのため、この再循環メタクロレインを、メタクリル酸経由の迂回をせずにメチルメタクリレートに転化させることのできる高効率な技術の開発が特に望まれていた。
【0024】
したがって特に、C4をベースとするこれらの方法における再循環メタクロレインの酸化的転化に関して、かなりの改善の必要性がある。
【0025】
C4出発材料をベースとするこれらすべての方法に共通しているのは、MAL製造後のメタクリル酸への酸化段階が比較的非効率であり、いずれの実施形態も最終収率が70%を超えることはないという点にある。そのため、大幅な効率向上を可能にする代替的なプロセス制御のニーズが高い。また、C4法の副生成物の中にはプラント内の付着を招くものがいくつかある。副生成物によっては、これらの付着が直接発生する場合と、比較的反応性の高い副生成物の重合によって発生する場合とがある。ここでも、特に問題となる付着物を形成し得る副生成物の生成総量を低下させることが求められている。
【0026】
課題
本発明の課題は、C4成分から出発して特に高い総収率を有する、アルキルメタクリレート、特にMMAの新規の製造方法を提供することであった。
【0027】
本発明のさらなる課題は、反応物の全体的な非常に高い総転化率を実現するとともに、廃棄物の生成量を可能な限りわずかにすることであった。
【0028】
さらに本発明の課題は、特定の副生成物の濃度がごくわずかであるアルキルメタクリレート、特にMMAを製造することであった。
【0029】
さらに本発明の課題は、様々なアルキルメタクリレートおよび/またはメタクリル酸を連続的かつ工業的規模で非常にフレキシブルに、そして所望であればさらには同時に、製造できる方法を実現することであった。
【0030】
明示的に言及されていないさらなる課題は、ここで明示的に列挙されなくとも、特許請求の範囲および本発明の以下の説明から明らかとなり得る。
【0031】
説明
この課題は、特にメタクロレインを中間体とする方法での、C4原料からのアルキルメタクリレートおよび任意にメタクリル酸、特にメチルメタクリレート(MMA)の新規の製造方法により解決される。
【0032】
本発明による方法は、反応器1における第1の反応段階において気相での部分酸化によりメタクロレインを製造し、これを反応器2における第2の反応段階において気相での部分酸化によりメタクリル酸に転化させる方法に基づく。ここで、本発明によるこの発展形態は、反応器2における第2の反応段階で反応しなかったメタクロレインを、生成されたメタクリル酸と分離し、反応器4におけるさらなる酸化段階でアルコールの存在下にて液相で酸化的エステル化させることを特徴とする。
【0033】
さらに、反応器2で生成された粗メタクリル酸を蒸留および/または抽出により精製し、かつ/またはさらなる段階で反応器3において酸触媒を用いてアルコールと反応させてアルキルメタクリレートを生成する。
【0034】
好ましいのは、以下のプロセス段階を実施する、本発明による方法の変形例である:
A)反応器1において、水蒸気および酸素の存在下でイソブテンおよび/またはtert-ブタノールからメタクロレインを製造するプロセス段階であって、この反応を気相で不均一系触媒Iにて行って、メタクロレインを含むプロセスガス1を得る、プロセス段階、
B)反応器1からのメタクロレインと水蒸気とを含むプロセス段階A)からのプロセスガス1に酸素含有ガスおよび任意にさらなる水蒸気を加えて、反応器2に移送するプロセス段階であって、反応を不均一系触媒IIにて行って、メタクリル酸を含み、特にメタクリル酸に富み、かつメタクロレインを含むプロセスガス2を得る、プロセス段階、
C)プロセス段階B)からのプロセスガス2を、凝縮または急冷、抽出および/または蒸留により、メタクリル酸を含む相3aと、メタクロレインを含む液相3bとに分離する、プロセス段階、
D1)プロセス段階C)から得られた相3bのメタクロレインを、反応器4において、酸素含有ガス、ならびに金属および/または金属酸化物を含む貴金属を含有する不均一系酸化触媒の存在下でアルコールにより酸化的エステル化させて、アルキルメタクリレートと、未反応アルコールと、メタクリル酸と、未反応メタクロレインとを含む混合物を液体プロセス流4として得る、プロセス段階、
D2)プロセス段階C)から得られ、任意にさらに精製された相3aのメタクリル酸を、反応器3において触媒IIIにてアルコールを用いて酸触媒によりエステル化させる、プロセス段階、
および
D3)相3aに含まれるメタクリル酸を単離するために精製するプロセス段階であって、少なくとも1回の蒸留を含む、プロセス段階。
【0035】
さらに好ましくは、メタクロレインを含むプロセスガス1を、段階A)の後に少なくとも1回の蒸留および/または抽出により精製してから、精製された凝縮液として、および蒸発後にプロセスガス1の一部としてプロセス段階B)で使用する。
【0036】
本発明の特別な変形例では、プロセス段階B)またはD1)における酸素含有ガス流は、部分的に再循環されたガス流である。また本方法において、前記の2つのガス流も部分的に再循環されたガス流であってよい。
【0037】
好ましくは、段階D1)による酸化的エステル化反応において、不均一系酸化触媒が使用される。特に好ましくは、この触媒は、1つ以上の、好ましくは平均粒径<20nmの超微粒状の金属を含むことを特徴とする。これは特に、触媒が酸化触媒の活性成分として金を含む場合に該当する。パラジウムまたは白金を活性成分として含む微粒子触媒を使用する場合、これらの成分は必ずしもナノスケールや20μm未満の小さなものではなく、より大きな凝集体としても存在する。しかし通常は、パラジウムおよび白金を含む触媒は、例えば金ベースの触媒の場合よりも貴金属の含有量が多い。この金属がパラジウムなどの貴金属であれば特に有利であることが判明した。特に好ましいのは、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムおよび銀からなる群から選択される金属である。通常は、これらの金属のうち1つのみが使用されるが、必ずしもそうとは限らない。段階D1)の反応は、液相で1~100barの圧力で行うことが同様に好ましい。
【0038】
同様に好ましくは、特に前述のものと組み合わせて、段階D1)による酸化的エステル化反応に使用される不均一系酸化触媒は、1つ以上の、好ましくは超微粒状の金属、特に貴金属を1つ以上の担体材料上に有し、この担体材料は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ビスマス、酸化テルル、またはアルカリ金属およびアルカリ土類金属の群からの他の塩基性酸化物をベースとし、その際、得られる担体材料は、10μm~10mmの直径を有する。
【0039】
これらの触媒のうち特に活性の高い変形例は、貴金属成分に加えて、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、ランタノイド(原子番号57~71)、テルル、アンチモンおよびビスマスの群から選択される1つ以上のさらなる元素またはその酸化物を有するものである。
【0040】
既知の触媒は、例えば、パラジウム-鉛、金-ニッケル、金-コバルト、またはパラジウムならびにテルル、アンチモンおよびビスマスの混合物を有する酸化物担体をベースとする。
【0041】
段階A)~D1)、およびD2)を連続法で実施することが非常に好ましい。これは、任意に段階D3)に関しても行うことができ、その際、これを、本来であれば連続的な方法において回分式で実現することも可能である。あるいはD3)に関して、相3aの部分流を取り出し、この部分流からメタクリル酸を、好ましくはフレキシブルに調整可能な方法でD3)により連続式でまたは回分式で単離することも考えられるであろう。
【0042】
本発明による方法は、プロセス段階D1)におけるアルコールがメタノールである場合、工業的規模で特に適切に使用することができる。好ましくは、本実施形態において、段階D1)による酸化的エステル化反応は、固定反応相におけるメタノールとメタクロレインとのモル比を1:1~50:1の範囲として行われる。
【0043】
これとは無関係に、しかし好ましくはこれと組み合わせて、段階D1)による転化は、2~50barの範囲の圧力、3~10の範囲のpH値、および10~200℃の範囲の温度で液相にて実施される。
【0044】
段階D1)におけるアルコールと段階D2)におけるアルコールとは、異なるものであってもよい。このような実施形態では、それに応じて2つの異なるメタクリル酸エステルが得られ、これらは互いに別個に単離および精製することが可能である。しかし、プロセス段階D1)およびD2)におけるアルコールは、それぞれ同一のアルコールであることが好ましく、特に好ましくはメタノールである。このような実施形態は特に、D1)およびD2)からの2つの生成物流を合して一緒に後処理することができるという利点を有する。
【0045】
特に好ましくは、プロセス段階D1)およびD2)の粗生成物を、反応器4および3から直接、またはそれぞれ1つもしくは2つの任意の別個の精製段階の後に合して一緒に精製する。
【0046】
特に本方法の連続運転の場合、プロセス段階D1)およびD2)からのそれぞれの有機相を、少なくとも1つの蒸留段階および/または1つの抽出段階で別個に精製した後に、これらを合すると有利であることが判明した。副生成物の性質は非常に様々であることから、最初は別個に後処理する方がより効率的であり得る。例えば、最初に段階D1)の生成物から低沸点副生成物および反応物、特にメタクロレインおよびメタノールを分離し、これらを例えば反応器4に返送することが有利である場合があり、これにより最終的に総収率が向上する。一方で、プロセス段階D2)からの副生成物あるいは反応物、特にメタクリル酸は、プロセス段階D1)において連続的に非常に支障となる場合があり、例えば長期的には触媒を損傷するおそれがある。
【0047】
一方で、D2)の反応器流出物については、別個に後処理することの利点はごくわずかである。しかし、この場合には副生成物および反応物がより多く存在するため、通常は、段階D1)の生成物に比べて精製により多くの段階が必要となる。したがってこの場合には、2つの生成物流を合する前に、段階D2)の粗生成物からまず高沸点物質を、次いで低沸点物質を前後して除去し、その後、両生成物流を合してさらに後処理することが有利である場合がある。
【0048】
総括すると、本発明による方法は、従来技術の方法に対して様々な利点をもたらす。
【0049】
C4成分から出発するMMAなどのアルキルメタクリレートの既知の製造方法と比較して、本発明による方法は、驚くほど高い総収率をもたらす。これは特に、段階B)からの部分的にのみ反応したメタクロレインを段階C)で単離し、これを段階D1)で非常に効率的に転化させるためである。段階D1)では、通常は比較的高価な貴金属系触媒が使用されるため、段階C)およびD2)よりも原則として運転コストが高くなる。
【0050】
それによりさらに、反応物の総転化率が全体的に非常に高くなり、ひいては廃棄物の量が比較的少なくなる。
【0051】
また、驚くべきことに、2つの別個のMMA製造経路を組み合わせることで、最終生成物中に特定の副生成物が全体的にごくわずかな濃度しか存在しないことが判明した。副生成物の総量が同程度であっても、個々の物質の濃度は、例えば最終生成物あるいはそれから製造されるポリマーの着色、貯蔵安定性、または重合時の抑制効果に関して非常に重要である。
【0052】
さらに、本発明による方法により、驚くべきことに、2つの異なるアルキルメタクリレートと、さらに -部分流を経て-メタクリル酸とを同時に、連続的かつ工業的規模の運転で非常にフレキシブルに製造することが可能である。
【0053】
方法の特定の態様
本方法によれば、再循環MALの生成およびそのコンディショニングは、メタクロレイン自体の重要でクリティカルなあるいは適切な濃度を調整し、かつプロセス固有の副生成物を回避するための前提条件である。以下に、再循環MALの合成について、従来技術に即して簡単に説明する。
【0054】
第1のチューブバンドル式反応器において、イソブテンあるいはtert-ブタノールが、空中酸素および水蒸気ならびに再循環ガスの存在下で、わずかな過圧で320~400℃の温度でメタクロレインに酸化される。転化率は、タンデム法では98%超であり、「分離型C直酸」法ではより低い傾向にある。通常、最新型のドープされたモリブデン酸ビスマス触媒を使用した反応器内の滞留時間は、1~4秒である。これは、例えば米国特許第5,929275号明細書に記載されている。GHSV値は、1000~2000s-1に達する。生成されたプロセスガス相は、冷却された再循環MALガス相、ならびに空中酸素および水蒸気と一緒に混合される。これにより、二段目のフィードガスが生成される。一段目と同様に、二段目の酸化も0.1~2barの中程度の過圧で260~360℃の温度で運転される。このために、モリブデンおよびリンをベースとするヘテロポリ酸触媒、ならびに他のいくつかのドーパントが使用されている(これに関しては、例えば米国特許出願公開第2007/0010394号明細書参照)。修飾ヘテロポリ酸は、依然として選択率と転化率との間に大きな相関関係を有する。このことは、高転化率になると選択率が著しく低下する傾向があるという点で該当する。このため、転化率およびそれに伴う触媒担持量は、65~85%に設定されている。この事実により、すべての方法およびその変更形態について、プロセスガス中の未反応メタクロレインを目的生成物のメタクリル酸と分離して、最終的にいわゆる再循環MALとして第2の酸化反応器の上流側に返送する必要性が生じている。
【0055】
第2の反応段階の後にメタクリル酸から分離されたメタクロレインを含む混合物には、触媒品質および方法制御パラメータに応じて、メタクロレインの他に特にアルデヒドなどのさらなる副生成物が含まれ、これらを酸化的エステル化(DOE)で転化させることができる。以下、メタクロレインを含む混合物を再循環MALと表記する。
【0056】
従来技術として、再循環MALについて以下の副生成物範囲に限定することができる:
0.5~4重量% アセトアルデヒド
1~8重量% アセトン
1~5重量% アクロレイン
0.05~0.4重量% ブタン-2,3-ジオン
0.2~1.5重量% MMA
1~5重量% 水
1~5重量% メタクリル酸
0.1~3重量% 酢酸
70~95重量% メタクロレイン
【0057】
方法(MALのタンデム型または中間単離)に応じて、メタクロレイン含有量が70重量%超であり、かつアセトン、アクロレインおよびアセトアルデヒドなどの低沸点成分と、MMA、水およびメタクリル酸などの高沸点成分との双方を含むことが、再循環MALの特徴である。
【0058】
ここで、段階D1)の酸化的エステル化で利用可能なアルデヒドとしては、アクロレインおよびアセトアルデヒドが挙げられる。さらに、反応器4のフィードにメタクリル酸および場合により酢酸のような他の酸が存在することで、酸化的エステル化で所望のpH値を調整するための塩基の必要量が多くなる。そのため、メタクリル酸を再循環メタクロレインと分離する際には、再循環メタクロレイン中のメタクリル酸濃度が可能な限り低くなるよう調整してから蒸発させることが望ましい。
【0059】
本発明による方法では、再循環メタクロレインを直酸エステル化でMMAに転化させることに加えて、再循環メタクロレインを第2の気相反応のプロセスガスからのメタクリル酸と分離することも非常に好ましい。段階Bからの高温のプロセスガス2は、通常は250~360℃で反応器から排出されるため、まず冷却する必要がある。通常は、まず復水式ガス冷却装置で150~250℃の温度まで冷却する。復水式ガス冷却装置は、その熱を利用して蒸気を発生させるため、好ましい。その後、温度を低下させた気相を、通常は50~100℃の温度で循環する凝縮急冷段階へと導く。この急冷段階は、急冷塔の底部であってよく、ポンプ循環して温度調節を行う。この急冷塔の頂部でメタクロレインの大部分をプロセスガスとともにガス状で排出させ、一方で、生成されたメタクリル酸の大部分を底部で凝縮および急冷する。次のプロセス段階では、メタクロレインを凝縮させるか、あるいは水と一緒に吸収させる。この段階では、再循環メタクロレインが、例えば低沸点物質などのすべての凝縮可能な副成分とともに液状で生じる。しかし、この塔の頂部で抜けるプロセスガスの効果的な分離が達成される。最終段階では、今度はメタクロレインを吸収相から脱離させて、純度70重量%超の再循環メタクロレインが得られる。例えば、このようにして粗再循環メタクロレインが生成され、これを今度は直酸エステル化に供給することができる。驚くべきことに、再循環メタクロレイン中の副生成物、特にアクロレインやアセトアルデヒドなどの反応性低沸点物質やその他の成分も、主反応の選択率や触媒性能に総じて大きな影響を与えることなく転化され、それにより反応の副生成物を所望のMMAと効率的に分離できることが判明した。
【0060】
例えば、アクロレインを反応させて、メチルアクリレート、アクリル酸、アクロレインジメチルアセタール、メチル-3-メトキシプロピオネート、メチル-3-ヒドロキシプロピオネート、メチル-2-ヒドロキシプロピオネート、または遊離酸もしくはメチルエステルとして存在し得る2つのアクロレインのヘテロディールス・アルダー生成物を生成することができる。
【0061】
アセトアルデヒドは、さらに反応して酢酸または酢酸メチルを生成することができる。
【0062】
メタクロレインは、さらに反応して、所望の生成物であるMMAに加えて、例えば、MMAとの混合物では望ましくないメタクリル酸を生成することができる。その他の二次生成物としては、アセタールジメトキシイソブテン、メチル-3-メトキシイソブチレート、メチル-3-ヒドロキシイソブチレート、メチル-2-ヒドロキシイソブチレート、またはここでは対応するヘテロディールス・アルダー生成物が挙げられ、これは、ここでは単にジMAL酸あるいはジMALエステルと称することとする。
【0063】
さらに、MMAからPMMAへの重合において、ブタン-2,3-ジオン(いわゆるジアセチル)は、通常であれば透明なPMMA生成物の黄変を引き起こすため、ジアセチルをDOE後に除去することが必要である。ジアセチルは2つの気相酸化反応に由来し、原料の再循環メタクロレインとともにDOEに導入される。ジアセチルは、1重量%よりかなり低い痕跡量であっても、後のポリマーの変色を招きかねない。DOE自体では、大抵はジアセチルが追加で生成されることはない。
【0064】
再循環MALのDOEは、異なるアルコールを用いて実施することができ、使用するアルコールと同様に再循環MAL中のアルデヒドから対応するカルボン酸エステルを得ることができる。アルコールとして、好ましくはメタノールが使用される。あるいは、二官能性、三官能性または四官能性のアルコールを使用することもできる。得られた多官能性カルボン酸エステルは、架橋剤として知られている。二官能性アルコールの特に好ましい例は、エチレングリコールである。
【0065】
ここで、DOEは、回分式および連続式で実施することができ、特に連続式での実施が好ましい。ここで、反応操作は、当業者に知られている様々なタイプの反応器を用いて実施することができる。例としては、撹拌槽式反応器、気泡塔式反応器、流動床式反応器、チューブ式反応器、チューブバンドル式反応器、固定床式反応器、トリクルベッド式反応器、およびそれらのすべての組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。非常に特に好ましくは、触媒は、DOEの間に撹拌式反応器中に懸濁液の形態で(スラリーとして)施与される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】本発明による方法を実施するための装置構成要素を模式的に示す図。
【0067】
以下の実施例は、DOEにおける再循環MALの転化の方法を示すものである。
【0068】
実施例
実施例1 - 触媒担体の製造 - シリカ-酸化アルミニウム-酸化マグネシウム
250mLのガラスビーカーに、21.36gのMg(NO・6HO、31.21gのAl(NO・9HOを一緒に装入し、マグネチックスターラーで撹拌しながら脱塩水41.85gに溶解させる。その後、1.57gの60%HNOを撹拌しながら添加する。166.67gのシリカゾル(Bad Koestritz社製 Koestrosol 1530AS、30重量%SiO、平均粒径:15nm)を500mLの三ツ口フラスコにはかり入れ、撹拌しながら15℃に冷却する。このゾルに、2.57gの60%HNOを撹拌しながらゆっくりと添加する。このゾルに、15℃で硝酸塩溶液を撹拌しながら45分以内に添加する。添加後、この混合物を30分以内に50℃に加熱し、この温度でさらに24時間撹拌する。この時間の経過後、この混合物を初期温度130℃で噴霧乾燥する。乾燥した粉末(球状、平均粒径60μm)を、薄い層状でナーバーオーブンにて2時間以内に300℃に加熱し、300℃で3時間保持し、2時間以内に600℃に加熱し、最後に600℃で3時間保持する。
【0069】
実施例2 - 触媒の製造 - AuCoO@シリカ-酸化アルミニウム-酸化マグネシウム
実施例1で得られた担体である10gのSiO-Al-MgOの33.3gの脱塩水中での懸濁液を90℃に加熱し、この温度で15分間撹拌する。この懸濁液に、あらかじめ90℃に加熱した水8.3g中のCo(NO・6HO(569mg、1.95mmol)の溶液を撹拌しながら添加する。添加後、この混合物を90℃でさらに30分間撹拌した。この懸濁液に、あらかじめ90℃に加熱した0.52mLの1M NaOH溶液を撹拌しながら混合する。その直後に、90℃に加熱した水4.3g中のHAuCl・3HO(205mg)の溶液を添加する。添加後、この懸濁液をさらに30分間撹拌し、室温まで冷却して濾過する。フィルターケーキを、導電率が100μS/cm未満に低下するまで脱塩水で洗浄する。この材料を105℃で10時間乾燥させ、凝集体をわずかに破砕した後、1時間以内に450℃に加熱し、この温度で5時間か焼し、室温に冷却する。
【0070】
以下のすべての実施例において、再循環MALの組成は以下の通りであった:
2.0重量% アセトアルデヒド
5.5重量% アセトン
3.5重量% アクロレイン
0.2重量% ジアセチル
1.2重量% MMA
4.0重量% 水
2.9重量% メタクリル酸
0.2重量% 酢酸
80重量% メタクロレイン
他の有機成分は、それぞれ0.1重量%未満であり、合計で2.5重量%である。
【0071】
実施例3 - 回分試験:
実施例2で得られた触媒(384mg)、再循環MAL(1.20g、80重量%MAL)およびメタノール(9.48g)を、140mLのスチール製オートクレーブ内でマグネチックスターラーにより懸濁させた。再循環MALのpH値は4.8であり、これを100ppmのTempolで安定化させた。オートクレーブで、N中に7%のOを含む混合ガスで30barの過圧を加えた。この混合物の爆発限界は、酸素8体積%である。オートクレーブを2時間かけて60℃に加熱し、冷却、脱気し、懸濁液を濾過した。濾液をGCで分析した。MAL転化率は17.9%であり、MMA選択率は73.3%であり、空時収率は毎時2.78molMMA/kg触媒であった。
【0072】
パラメータ制御は最適でなく、また反応中にpH値を調節していないにもかかわらず、再循環MALの転化に対するDOEの基本的な適合性を認めることができる。
【0073】
実施例4 - 回分試験:
実施例2で得られた触媒(384mg)、再循環MAL(1.20g、80重量%MAL)およびメタノール(9.48g)を、140mLのスチール製オートクレーブ内でマグネチックスターラーにより懸濁させた。再循環MALのpH値を、MeOH中の1%NaOHでまず7.0に調整し、100ppmのTempolで安定化させた。オートクレーブで、N中に7体積%のOを含む混合ガスで30barの過圧まで加圧した。この混合物の爆発限界は、酸素8体積%である。オートクレーブを2時間かけて60℃に加熱し、冷却、脱気し、懸濁液を濾過した。濾液をGCで分析した。MAL転化率は28.9%であり、MMA選択率は75.6%であり、空時収率は毎時4.29molMMA/kg触媒であった。
【0074】
実施例5 - 回分試験:
実施例2で得られた触媒(384mg)、再循環MAL(1.20g、80重量%MAL)およびメタノール(9.48g)を、140mLのスチール製オートクレーブ内でマグネチックスターラーにより懸濁させた。再循環MALのpH値を、MeOH中の1%NaOHでまず7.0に調整し、100ppmのTempolで安定化させた。オートクレーブで、N中に7体積%のOを含む混合ガスで30barの過圧まで加圧した。この混合物の爆発限界は、酸素8体積%である。オートクレーブを2時間かけて80℃に加熱し、冷却、脱気し、懸濁液を濾過した。濾液をGCで分析した。MAL転化率は67.0%であり、MMA選択率は89.5%であり、空時収率は毎時11.1molMMA/kg触媒であった。
【0075】
実施例6 - 回分試験:
実施例2で得られた触媒(384mg)、再循環MAL(1.20g、80重量%MAL)およびメタノール(9.48g)を、140mLのスチール製オートクレーブ内でマグネチックスターラーにより懸濁させた。再循環MALのpH値を、MeOH中の1%NaOHでまず7.0に調整し、100ppmのTempolで安定化させた。オートクレーブで、N中に7体積%のOを含む混合ガスで30barの過圧まで加圧した。この混合物の爆発限界は、酸素8体積%である。オートクレーブを4時間かけて60℃に加熱し、冷却、脱気し、懸濁液を濾過した。濾液をGCで分析した。MAL転化率は47.3%であり、MMA選択率は83.9%であり、空時収率は毎時8.1molMMA/kg触媒であった。
【0076】
実施例7 - 連続式での実施
再循環MAL(80重量%MAL)とメタノールとを、モル比が1:4(MAL:MeOH)となるように混合する。この溶液を撹拌および冷却しながらpH=7.0に調整し、100ppmのTempolで安定化させる。実施例の触媒(20g、7重量%)およびメタノールを、スチール製オートクレーブ(400mL)に充填する。オートクレーブには、2つの連続フィルター、ガス取り込みスターラー、およびエアバブリングが装備されている。反応器を密閉し、空気で4barまで加圧し、80℃まで加熱する。再循環MALの連続搬送を、毎時11molMAL/kg触媒の負荷が得られるように調整した。メタノールに1重量%NaOHを加えてpH値を7.0に一定に保持した。反応を500時間行い、連続的に採取した生成物サンプルを24時間ごとにGCで分析した。MAL転化率は69%であり、MMA選択率は93.5%であり、空時収率は毎時7.1molMMA/kg触媒であった。500時間後、触媒の失活は観察されず、反応器にはポリマーの汚染物や付着物は見られなかった。MMAの他に混合物中に認められた主な副生成物は、選択率3.1%のメタクリル酸、および2.4%の3-メトキシイソ酪酸メチルエステルであった。また、副生成物としてメチルアクリレートおよびメチルアセテートを同定することができた。再循環MALとともにすでにフィード中に存在するアセトンおよびジアセチルは、この条件では、測定可能な範囲では未反応であった。
【0077】
これらの実施例、特に実施例7は、本発明による方法が、収率およびコストの点で、再循環MALの利用に関する従来技術に対して大幅な利点をもたらすとともに、より環境に配慮したものであることを示している。
【0078】
参照符号一覧
図1は、本発明による方法を実施するための装置構成要素を模式的に示したものである。本発明の範囲内で、個々の実施形態は、この例示的な図示から大きく逸脱することもあり得る。
【0079】
(A)メタクロレインの合成および単離
((1)-(5))
(1)C4酸化(プロセス段階A)用反応器1
(2)水蒸気の流入
(3)酸素あるいは空気の供給管
(4)イソブテンおよび/またはtert-ブタノールの注入部
(5)反応器2へのプロセスガス1の移送
(B)メタクロレインからメタクリル酸への酸化、および(C)MASとMALとの分離
((6)-(20))
(6)C4酸化(プロセス段階A)用反応器2
(7)酸素あるいは空気の供給管
(8)任意に、まとめて行われる(5)あるいは(7)の再循環ガスの圧縮および精製
(9)任意の水蒸気の流入
(10)反応器2からの反応器流出物=プロセスガス2
(11)プロセスガス2の急冷および/または凝縮。プロセスガス2の、メタクリル酸を含む液相3((13)へ)およびメタクロレインを含む気相4((20)へ)への分離
(12)メタクリル酸を含む液相3
(13)有機抽出剤による抽出
(14)有機抽出剤の供給管(通常は、ヘプタンの注入部)
(15)抽出液の水相
(16)排水処理
(17)粗メタクリル酸を含む抽出の有機相
(18)有機抽出剤の返送
(19)メタクロレインを含む気相4
(20)吸収/脱着によるメタクロレインの精製
(D1)メタクロレインからアルキルメタクリレートへの酸化的エステル化、およびメタクロレインの再循環
((21)-(27))
(21)アルコールの供給管(通常は、メタノールの注入部)
(22)メタクロレインの提供、任意に、さらなる蒸留による低沸点物質の除去を伴う
(23)酸素あるいは空気の供給管
(24)塩基の注入部
(25)メタクロレインの酸化的エステル化用反応器4
(26)反応器4に返送するためのメタクロレインとアルコールとの混合相
(27)反応器4(23)の反応器流出物
(28)粗アルキメタクリレートからメタクロレインおよび部分アルコールを分離するための蒸留塔
(D2)メタクリル酸からアルキルメタクリレートへのエステル化
((29)-(33))
(29)任意の、相3のさらなる精製による低沸点物質の除去
(30)アルコールの供給管(通常は、メタノールの注入部)
(31)メタクリル酸からアルキルメタクリレートへのエステル化用反応器3
(32)任意の、反応器3(24)からの反応器流出物の蒸留による高沸点物質の除去
(33)任意の、反応器3(24)からの反応器流出物の蒸留による低沸点物質の除去
(D3)メタクリル酸の単離
((34)-(35))
(34)粗メタクリル酸の蒸留
(35)任意の、メタクリル酸のさらなる後処理
(E)粗アルキルメタクリレート(例えば粗MMA)の例示的な後処理
((36)-(47))
(36)プロセス段階D1からの粗アルキルメタクリレートの注入部
(37)プロセス段階D2からの粗アルキルメタクリレートの注入部
(38)相分離装置(任意に上流側にミキサーを装備)
(39)酸および水の注入部(任意に別個)
(40)抽出
(41)アルコール(およびメタクロレイン)の蒸留による回収および任意の再循環
(42)廃棄またはさらなる後処理用の底部
(43)任意の、(41)からのメタクリル酸を含む水性側流フラクションの(25)への再循環
(44)高沸点物質(メタクリル酸を含む流れ)を分離し、任意に(32)、(27)または(29)にさらに送るための蒸留塔
(45)低沸点物質を分離するための蒸留塔
(46)アルキルメタクリレートを最終精製するための蒸留塔
(47)アルキルメタクリレート生成物流
【0080】
図面に関して、本発明による方法を実施するために用いられる方法には、当業者に知られている他の構成要素が追加的に含まれ得ることに留意されたい。例えば通常は、記載されている各塔は冷却部を備えている。
【0081】
また図面では、好ましいすべての実施形態が考慮されているわけではないことにも留意されたい。
【0082】
供給管の位置は実際の位置を示すものではなく、供給管がいずれの装置につながっているかを示しているに過ぎない。
図1
【国際調査報告】