(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-06
(54)【発明の名称】マイクログラフェンエアロゲルデバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01L 1/18 20060101AFI20220830BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20220830BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220830BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20220830BHJP
H01L 51/30 20060101ALI20220830BHJP
H01L 51/40 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
G01L1/18 A
G01L5/00 101A
H01M4/13
H01L29/28 100A
H01L29/28 250E
H01L29/28 310E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504221
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 CN2020078909
(87)【国際公開番号】W WO2021179233
(87)【国際公開日】2021-09-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517312490
【氏名又は名称】ヂェァジァン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.866,Yuhangtang Road,Xihu District,Hangzhou, Zhejiang China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】シュ ヂェン
(72)【発明者】
【氏名】リィゥ シァォティン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ チャオ
(72)【発明者】
【氏名】パン カイ
【テーマコード(参考)】
2F051
5H050
【Fターム(参考)】
2F051AB07
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB03
5H050GA10
5H050GA22
(57)【要約】
本発明はグラフェンエアロゲルアレイ式センサの製造方法及びその応用を初めて提案し、インサイチュプリント及び溶液可塑化発泡を結合することにより、マイクロサイズのグラフェンエアロゲルアレイ式デバイスを製造し、かつ優れた柔軟性及び安定性を有し、センシング、エネルギー貯蔵等の多種の用途に用いることができる。本発明により提供されたアレイセンサは非常に高い安定性を有するため、比較的高い精度及び信頼性を有し、深層機械学習と組み合わせて機械にインテリジェント学習識別の機能を与えることができ、次世代人工知能の発展に大きな推進力となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクログラフェンエアロゲルユニットを含むマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法であって、酸化グラフェン溶液をインクとしてデバイスの基板上にプリントし、硬化させた後、発泡剤を含む極性溶液を滴下して酸化グラフェンを可塑化発泡させ、乾燥還元後に、デバイスの基板上にマイクログラフェンエアロゲルユニットを得る、マイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記発泡剤は、自己発泡剤と、反応型発泡剤とを含み、前記反応型発泡剤は、酸化グラフェンの酸素を含む官能基と反応してガスを発生する発泡剤であり、前記自己発泡剤は、分解してガスを発生する発泡剤であることを特徴とする請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記反応型発泡剤は、ヒドラジン水和物、水素化ホウ素塩を含み、前記自己発泡剤は、炭酸水素塩等を含むことを特徴とする請求項2に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記極性溶液は、水、有機溶媒、または水と有機溶媒との混合溶液であることを特徴とする請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、イソプロパノール及びエタノールから選択される請求項4に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記酸化グラフェン溶液の溶媒は、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エタノール、ジメチルスルホキシドであることを特徴とする請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記酸化グラフェンをプリントする前に、回路図を前記デバイスの基板上にプリントすることを特徴とする請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項8】
複数のマイクログラフェンエアロゲルユニットを含み、複数のマイクログラフェンエアロゲルユニットがアレイを構成していることを特徴とするマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【請求項9】
前記デバイスはピエゾ抵抗式センサであり、前記マイクログラフェンエアロゲルユニットによって力学信号、変位データ信号の収集が行われることを特徴とする請求項8に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【請求項10】
前記センサは共振型センサであり、前記マイクログラフェンエアロゲルユニットによって力学信号、変位信号、又は音波振動信号の収集が行われることを特徴とする請求項9に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【請求項11】
前記デバイスは、マイクログラフェンエアロゲルユニットを用いてマイクロキャパシタが構築されたエネルギー貯蔵デバイスであることを特徴とする請求項8に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【請求項12】
前記デバイスは、マイクログラフェンエアロゲルユニットと金属電極とを用いてマイクロ電池が構築されたエネルギー貯蔵デバイスであることを特徴とする請求項8に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能材料の技術分野に属し、具体的にはマイクログラフェンエアロゲルデバイス、その製造方法及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
科学技術の進歩に伴い、装置はいずれもフレキシブル化やマイクロ化が進む傾向にあり、現在マイクロ化装置は主に成熟したシリコンベースのCMOSプロセスに集中して製造されているが、その性能は限られており、多くの複雑な環境に対して性能互換性を与えることは困難であるため、この問題を補う新しい材料やプロセスの発展が急務となっている。グラフェンは単層の炭素原子がsp2ハイブリッド形式で構築されたナノ炭素材料であり、その伝導帯と価電子帯とがディラック点で交差するため、超高速の電子輸送速度を有し、極めて高い導電性、熱伝導性及び機械的性能を有し、マイクロ化デバイスの解決が最も望まれる材料の王様である。しかし、グラフェン間には非常に強いファンデルワールス作用力があるため、マクロ組立材料において単層の性質が維持され、その応用が制限されている。
【0003】
グラフェンエアロゲルは、単層または少数層のグラフェンシート層と空気とが重なるように接続された三次元多孔質ネットワークからなり、空隙を利用して層間の作用力を弱め、その本来の性能を発揮することができ、多くの応用研究が得られている。材料中のナノ厚さのグラフェンが微弱な外部の刺激、例えば力、電気、熱、音などを受けると、材料全体の信号が乱れ、多種の刺激の探査を実現することができる。また、グラフェンエアロゲル中の多孔質構造の存在により、電荷イオンの輸送経路が多くなり、エネルギー貯蔵の分野でも無視できない役割を果たしている。グラフェンエアロゲルは現在、主に冷凍テンプレート法で製造されている。しかし、冷凍凍結過程で氷結晶が欠陥の存在を避けることが困難であるため、性能が大幅に低下し、その後の煩雑なテンプレート除去により小型化、集積化、大規模化が困難である。
【0004】
背景技術の部分に開示された情報は、単に発明の全体的な背景の理解を高めることを意図したものであり、当該情報が当業者に周知の先行技術を構成することを認識し又は如何なる形であれ暗示するものとはみなされない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、マイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法を提供することを目的とする。主にインサイチュ(in situ)発泡を利用してデバイスの基板上にマイクロレベルのグラフェンエアロゲルユニットを得る方法であり、主に酸化グラフェンを溶液としてデバイス表面に滴下した後、デバイス表面でインサイチュ発泡を実現し、エアロゲルデバイスの精密性を向上させる。
【0006】
上記の滴下は3Dプリントを用いて実現することができ、3Dプリントは極めて高精度であり、得られたエアロゲルアレイは小型化が可能であり、得られたエアロゲルの安定性に優れているため、比較的高解像度のグラフェンエアロゲルアレイ型センサを得ることができる。
【0007】
本発明のもう一つの目的は、マイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法を提供することであり、それは主に溶媒の可塑化とインサイチュ気泡の発生とを結合し、この方法は既存の熱可塑性発泡と区別し、それは溶液環境の下で、可塑化剤が膜材料の中に浸透し、膜材料の内部の分子間の作用力を下げて、発泡抵抗力を下げる。同時に、非熱可塑性材料の発泡の難題を解決し、エアロゲルデバイスの安定性を向上させる。
【0008】
上記のいずれかの目的を達成するために、以下の技術的解決手段を採用する。酸化グラフェン溶液をインクとしてデバイスの基板上にプリントし、硬化させた後、発泡剤を含む極性溶液を滴下して酸化グラフェンを可塑化発泡させ、乾燥還元後に、デバイスの基板上にマイクログラフェンエアロゲルユニットを得る。
【0009】
または、次の同等の技術的解決手段を採用する。
【0010】
発泡剤を添加した酸化グラフェン溶液をインクとしてデバイスの基板上にプリントし、硬化させた後、極性溶液を滴下して酸化グラフェンを可塑化発泡させ、乾燥還元後に、デバイスの基板上にマイクログラフェンエアロゲルユニットを得る。
【0011】
上述の発泡剤は自己発泡剤と反応型発泡剤とを含み、前記反応型発泡剤は酸化グラフェンの酸素含有官能基と反応してガスを発生することができる発泡剤であり、例えばヒドラジン水和物、水素化ホウ素塩である。前記自己発泡剤は、炭酸水素塩などの、分解してガスを生成する発泡剤である。
【0012】
当技術分野における公知の技術常識として、自己発泡剤の発泡を開始する方法には、次のものが含まれるが、これらに限定されない。開始剤を加え、加熱する。ここで、前記開始剤は、前記発泡剤前駆体に、ガスの発生を開始させる。
【0013】
上記の極性溶液は、水、有機溶媒、または水と有機溶媒との混合溶液である。前記有機溶媒は、以下の中から選択される。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、イソプロパノール及びエタノールなどが挙げられる。極性溶液中の極性分子はグラフェンの分子間作用力を低下させることができる。
【0014】
上記の酸化グラフェン溶液の溶媒は、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エタノール、ジメチルスルホキシドであってもよい。
【0015】
上記方法において、前記の乾燥は任意の形式を採用してもよく、例えば、直接乾燥、溶媒置換乾燥などの方式を採用して実現してもよい。
【0016】
ある実施例では、前記酸化グラフェンをプリントする前に、回路図を前記デバイスの基板上にプリントし、回路リード線がプリントされたグラフェン機能ユニットの下に位置し、デバイスの安定性に有利であることを保証する。もちろん、本明細書に記載された方法は、回路をさらにプリントする前に酸化グラフェンインクをプリントすることもできる。
【0017】
本発明のもう一つの目的は、マイクロデバイスの高精度敏感ユニットに用いることができる極めて高精度なマイクログラフェンエアロゲルデバイスを提供することである。
【0018】
本発明のもう一つの目的は、非常に高い安定性を有し、長時間の安定な使用を必要とするマイクロデバイス分野に適したマイクログラフェンエアロゲルデバイスを提供することである。
【0019】
上記のいずれかの目的を達成するために、本出願は以下の技術的解決手段を採用する。マイクログラフェンエアロゲルデバイスは、複数のマイクログラフェンエアロゲルユニットを含み、複数のマイクログラフェンエアロゲルユニットがアレイを構成している。前記マイクログラフェンエアロゲルユニットは、インサイチュ発泡と溶媒可塑化とを組み合わせて製造することができる。
【0020】
上記のデバイス内の回路は、要求に応じて任意に設計加工することができ、当分野の成熟した技術である。
【0021】
上記デバイスはセンサを構成することができ、前記マイクログラフェンエアロゲルユニットはデータ収集を行い、インサイチュ発泡と溶媒可塑化とを結合する方式により作製したマイクログラフェンエアロゲルユニットは力学信号、変位信号、音波振動信号に対して高度な応答性を有し、マイクログラフェンエアロゲルユニットをアレイ構成した後、深層機械学習と組み合わせることで、高感度、高精度のセンシング制御システムを得ることができる。上述の深層機械学習は、データ処理、演算、提出、識別を実現できる現在のすべてのプログラムを採用することができる。
【0022】
上記のデバイスは、平面型エネルギー貯蔵デバイスを構成することができ、インサイチュ発泡と溶媒可塑化とを組み合わせて作製したマイクログラフェンエアロゲルユニットは、層の配向構造を有するため、このマイクログラフェンエアロゲルユニットを用いてマイクロキャパシタを構築することは、より速いイオン輸送能力を有するため、得られるエネルギー貯蔵デバイスのレート性能(rate capability)に優れている。
【0023】
上記デバイスはエネルギー貯蔵デバイスを構成することができ、インサイチュ発泡と溶媒可塑化とを組み合わせて作製したマイクログラフェンエアロゲルユニットが多孔質の構造を有するため、このマイクログラフェンエアロゲルユニットを用いてマイクロ電池を構築することができ、サイクル安定性が高い。
【0024】
上記のセンサ及びエネルギー貯蔵デバイスにおいて、回路設計は当分野の成熟した技術手段である。
【0025】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。本発明は、インサイチュプリントと溶液可塑化発泡とを組み合わせることにより、マイクロサイズのマイクログラフェンエアロゲルユニットを製造することができ、柔軟性及び安定性に優れており、センシング、エネルギー貯蔵等の多種の用途に用いることができる。
【0026】
本願にいうマイクロとは、サイズを限定することではなく、本発明によってデバイスのサイズをより小さくし、デバイスの精度をより高くすることができることを意味する。本発明は、大型デバイスの製造にも適用可能であるが、大型デバイスの製造は本発明の主要な目的ではない。
【0027】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。本発明により提供されたアレイセンサは非常に高い安定性を有するため、比較的高い精度及び信頼性を有し、深層機械学習と組み合わせて機械にインテリジェント学習識別の機能を与えることができ、次世代人工知能の発展に大きな推進力となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施例3で製造された8アレイ化センサの概略図である。
【
図2】
図2は、実施例3で製造された8アレイ化センサが収集したデータの概略図である。
【
図3】
図3は、実施例4で製造された8アレイ化グラフェンエアロゲルセンサの概略図である。
【
図4】
図4は、実施例4における異なる変位ステップでのデータ変化曲線である。
【
図5】
図5は、実施例5で製造された10×10アレイ化グラフェンエアロゲルセンサの概略図である。
【
図6】
図6は、実施例6で製造されたセンサの変位補正フィッティング曲線である。
【
図7】
図7は、実施例7に用いられる窒化アルミニウム圧電共振型センサの概略図である。
【
図8】
図8は、実施例9で製造されたインターデジタル式マイクログラフェンエアロゲルキャパシタの概略図である。
【
図9】
図9は、実施例9で製造されたキャパシタが連続走査速度でのサイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)曲線である。
【
図10】
図10は、実施例9で製造されたキャパシタの容量サイクル性能曲線である。
【
図11】
図11は、実施例10で製造されたリチウムイオン?グラフェンエアロゲルマイクロ電池の概略図である。
【
図12】
図12は、実施例10で製造された電池の長時間サイクルにおける容量およびクーロン効率維持率の曲線である。
【
図13】
図13は、応用例の10×10電極による手のひらの形状の識別図である。
【
図14】
図14は、高集積化8×8フィンガーアレイ化グラフェンエアロゲルセンサの概略図である。
【
図15】
図15は、8×8センサのチャネルごとのデータ収集曲線である。
【
図16】
図16は、ロボットハンドに集積され、ロボットアームを用いて制御される8×8アレイセンサの概略図である。
【
図17】
図17は、深層機械学習とグラフェンエアロゲルアレイセンサとを用いたアルファベット識別を行う回路及び原理の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、実施例ともに本発明についてさらに説明する。しかしながら、本発明の保護範囲は、これに限定されない。
【0030】
実施例1
20mg/mlの酸化グラフェン水懸濁液をインクとして、3Dプリント法によりポリイミド基板上にプリントした。液滴径は約20μmであった。硬化後、濃度50%のヒドラジン水和物を含む水溶液0.1mlを滴下して酸化グラフェンを可塑化発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元によるマイクログラフェンエアロゲルユニットを得た。
【0031】
このポリイミド基板を断面走査すると、
図18に示すように、ポリイミド基板上にグラフェンエアロゲルが構成されており、グラフェンシート同士が重なるように接続されて孔構造が形成されていた。その気孔率は従来の発泡グラフェンエアロゲルとほとんど変わらないことが分かった。このグラフェンエアロゲルは、従来の方法で製造されたマクロエアロゲルの力学的性能、電気的性能、力電気的性能などを備えていることが予想される。
【0032】
また、グラフェンエアロゲルはポリイミド基板と良好に結合しており、デバイスの安定性を効果的に確保することができる。
【0033】
実施例2
酸化グラフェンのDMF懸濁液10mg/mlに等質量の炭酸水素ナトリウムを添加して均一に混合(酸化グラフェン溶液と炭酸水素ナトリウムとの質量比は1:1)して3Dプリント用の酸化グラフェンインクを得た。
【0034】
3Dプリントの方法を利用して透明PET基板上にプリントを行った。液滴の直径は約20μmであった。乾燥固化後、水中に置き、40℃で加熱して気泡を発生させ、1分後に乾燥し、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元によるマイクログラフェンエアロゲルユニットを得た。
【0035】
このPET基板を断面走査すると、
図19に示すように、PET基板上にグラフェンエアロゲルが構成されており、グラフェンシート同士が重なるように接続されて孔構造が形成されていた。その気孔率は従来の発泡グラフェンエアロゲルとほとんど変わらないことが分かった。このグラフェンエアロゲルは、従来の方法で製造されたマクロエアロゲルの力学的性能、電気的性能、力電気的性能などを備えていることが予想される。
【0036】
また、グラフェンエアロゲルはPET基板と良好に結合しており、デバイスの安定性を効果的に確保することができる。
【0037】
実施例3
ポリイミド基板上(0.8×1.0mm
2)に、
図1に示すように、単一の電極サイズが50×100μm
2であり、各対の電極が1つの試験ユニットを構成する8対の電極のセンサ回路図をシルク印刷法によりプリントした。また、底部には8つの引き出し電極と1つの総電極とを配置した。その後、回路図中の試験ユニット上に酸化グラフェンインクの3Dプリントを行った。酸化グラフェン溶液は20mg/mlの水性懸濁液であり、乾燥固化後、濃度50%のヒドラジン水和物水溶液0.1mlを滴下(同様に3Dプリント手段で滴下し、以下同じ)し、酸化グラフェンをインサイチュ発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元により、安定したアレイセンサが得られた。その中の単一のマイクログラフェンエアロゲルユニットのサイズは150×150μm
2以内であり、対応する一対の電極上に被覆されてた。
【0038】
8電極センサの回路をデータ収集カードに引き出し、且つ回路に接続し、総電極によって各テストユニットに2Vのテストバイアス電圧を入力した。0.2Paの圧力で8つのテストユニットを同時に加圧した。8回の繰り返しテスト(CH1~CH8)を行った。その結果、電流信号が安定し、その応答時間は、
図2に示すように、100msであった。
【0039】
圧力を0.4Pa、0.6Pa、0.8Pa、1.0Paと段階的に増加させてシミュレーション曲線が得られた。このシミュレーション曲線に基づいて力の測定を行うことができる。
【0040】
実施例4
透明PET基板(0.8×1.0mm
2)上に、単一の電極サイズが50×100μm
2である8対の電極のセンサ回路図を3Dプリント法を用いてプリントした。底部に8つの引き出し電極と1つの総電極とを配置した。その後、回路図中の各対の電極で酸化グラフェンインクの3Dプリントを行った。酸化グラフェン溶液は10mg/mlのジメチルホルムアミド懸濁液であり、乾燥固化後、濃度0.5%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液0.1mlを滴下して酸化グラフェンをインサイチュ発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元によりグラフェンエアロゲルセンサが得られた。各マイクログラフェンエアロゲルユニットのサイズは150×150μm
2以内であり、
図3に示すように一対の電極上に被覆されていた。
【0041】
8電極センサの回路を8チャネルのデータ収集カードに引き出し、回路をゼブラ紙(Heat Seal Connector)で接続し、2Vの直流電圧を印加し、ステッピングモータの出力プローブを用いてグラフェンエアロゲルを圧縮した。初期電流曲線を正規化し、 その後、異なる圧縮量の信号を収集してデータフィッティングを行って、圧縮量と電流応答値のフィッティング曲線を得ることができた。プログラムがワンチップマイコンにフィッティングされたデータを入力した後、各センサが異なる電気信号の変化を感知すると、それをリアルタイムに圧縮変位信号に変換することができるため、各センサの変位変化を検出することができた。
図4に示すように、20μm、40μm、60μm及び80μmの連続した変位でいずれも顕著な信号変化を観察することができた。
【0042】
実施例5
透明PET基板上に、単一の電極サイズが1×1mmである10×10電極のセンサ回路図を3Dプリント法を用いてプリントした後、回路図中のセンシング部に酸化グラフェンインクの3Dプリントを行った。酸化グラフェンインクは濃度10mg/mlの酸化グラフェンのジメチルアセトアミド懸濁液であり、乾燥固化後、3Dプリント法を用いて濃度2%の水素化ホウ素ナトリウムのエタノール溶液0.2mlを滴下し、酸化グラフェンをインサイチュ発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元により、
図5のように、その中の単一のグラフェンエアロゲルセンサのサイズが1.5×2mmである安定したアレイセンサが得られた。
【0043】
10×10電極センサの回路を8チャネルのデータ収集カードに引き出し、回路をゼブラ紙(Heat Seal Connector)で接続し、2Vの直流電圧を印加し、異なる圧力で圧縮すると、各センサが明らかな応答信号を有することが分かった。作製したセンサが不要な圧力信号を正確に収集できることが確認された。その最小応答圧力は0.32Pa、応答時間は120msであった。
【0044】
実施例6
酸化グラフェンのDMF懸濁液10mg/mlに等質量の炭酸水素ナトリウムを添加して均一に混合(酸化グラフェン溶液と炭酸水素ナトリウムとの質量比は1:1)して3Dプリント用の酸化グラフェンインクを得た。
【0045】
透明PET基板上に、単一の電極サイズが1×2mmである8電極のセンサ回路図を3Dプリント法を用いてプリントした後、回路図中のセンシング部に酸化グラフェンインクの3Dプリントを行った。乾燥固化後、水中に置き、40℃で加熱して気泡を発生させ、1分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元により、安定したアレイセンサを得ることができた。その中の単一のグラフェンエアロゲルセンサのサイズは2×4mm2であった。
【0046】
8電極センサの回路をデータ収集カードに引き出し、回路をゼブラ紙(Heat Seal Connector)で接続し、2Vの直流電圧を印加し、グラフェンエアロゲルを物体で圧縮した。初期電流曲線を正規化した後、異なる変位で信号を収集し、データフィッティングを行って、
図6のように、物体の変位と電流応答値とのフィッティング曲線を得ることができた。その歪み感度(GF)は最高2に達することができた。プログラムがフィッティングされたデータをワンチップマイコンに入力した後、各センサが異なる電気信号の変化を感知すると、それをリアルタイムに変位信号に変換することができるため、各物体の変位変化を検出することができた。
【0047】
実施例7
商用化された窒化アルミニウム圧電共振式センサを用いて、
図7のように200×200μmの振動部に酸化グラフェンインクの3Dプリントを行った。酸化グラフェンインクは濃度100mg/mlの酸化グラフェンのエタノール懸濁液であり、乾燥固化後、3Dプリント法を用いて濃度20%のヒドラジン水和物のジメチルホルムアミド溶液0.3mlを滴下し、酸化グラフェンをインサイチュ発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元により、安定したアレイセンサを得ることができた。その中の単一のグラフェンエアロゲルセンサのサイズは300×300μm
2であった。
【0048】
これらのセンサを用いて受動的な音波検出システムを作製することができる。ある周波数の音波が現れると(圧電共振器帯域幅内、一般的に1MHz以下)、圧電薄膜は周期的な振動(100nm級の振幅)を発生し、正圧電効果により周期的な歪みが対応する周波数の誘導電流(マイクロアンペア級)を発生し、共振器上のグラフェンエアロゲルの電気特性変化は電気信号(10マイクロアンペア級)を増幅する。誘導電流は、上下の電極にそれぞれ集約され、ワイヤボンディングにより回路基板に接続される。この信号は、電力増幅回路およびフィルタ回路を介して検出(ミリアンペア級まで増幅)することができる。この信号の周波数や振幅情報から、音波の周波数や強度などの情報を抽出することができる。
【0049】
実施例8
商用化された窒化アルミニウム圧電共振式センサを用いて、その振動部に酸化グラフェンインクの3Dプリントを行った。酸化グラフェンインクは濃度10mg/mlの酸化グラフェンのジメチルアセトアミド懸濁液であり、乾燥固化後、3Dプリント法を用いて濃度20mg/mlのジメチルアセトアミド/水(1:1wt/wt)溶液0.3mlを滴下し、酸化グラフェンをインサイチュ発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元により、安定したアレイセンサを得ることができた。その中の単一のグラフェンエアロゲルユニットのサイズは500×500μm2であった。
【0050】
これらのセンサを用いて力学及び変位検出システムを作製することができる。圧電デバイスは周期的な振動(100nm級の振幅)を有し、極めて小さな力学信号又は歪み信号が発生した場合、エアロゲルの電気的信号が変化するため、振動デバイスの信号増幅により10~100倍に増幅することができ、極めて高い検出精度を有する。最小検出圧力は0.001Pa、最小検出変位は0.01%である。
【0051】
実施例9
3D プリント法を用いて透明PET基板上に10×10電極のインターデジタル式銀回路図をプリントして集電体とした。
図8に示すように、そのうち単一電極のサイズは20×1mmであった。その後、回路図中の電極部に酸化グラフェンインクの3Dプリントを行った。酸化グラフェン溶液は濃度15mg/mlの酸化グラフェンのDMF懸濁液であり、乾燥固化後、3Dプリント法を用いて濃度4%の水素化ホウ素ナトリウムのイソジメチルアセトアミドプロパノール溶液0.2mlを滴下し、酸化グラフェンをインサイチュ発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元により、安定したアレイマイクロキャパシタが得られた。その中の単一のグラフェンエアロゲルユニットのサイズは20×1mm
2であった。
【0052】
10個のインターデジタル式キャパシタをプリント後に直列に接続し、両端の電極を電気化学ステーションに引き出し、異なる走査速度でサイクリックボルタンメトリー試験を行うと、容量貯蔵能力が顕著であった。
図9のように、瞬時出力電圧が10Vと大きく、10000回サイクル安定化が可能であり、容量の顕著な低下がないことが分かった。
図10のように、このようなマイクロアレイスーパーキャパシタは、将来のマイクロエレクトロニクス分野において極めて大きな潜在的応用価値があることが実証された。
【0053】
実施例10
3Dプリント法を用いて透明PET基板上に二対の3×3電極のインターデジタル式銀回路図をプリントして並列な集電体とした。商業化された炭素被覆のLi
4Ti
5O
12粒子を用いてインターデジタル電極の一端にプリントし、陽極材料とし、酸化グラフェンのジメチルスルホキシド懸濁液を陰極に60mg/mlプリントし、乾燥後、3Dプリント法を用いて25%のヒドラジン水和物のイソプロパノール溶液0.1mlを滴下し、インサイチュ発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元により、安定したアレイリチウムイオン電池が得られた。
図11のように、59.8mWh・cm
-3と非常に高いエネルギー密度を有し、多孔質エアロゲル構造は電解質の電子輸送速度を大幅に増加させ、充放電速度を速めることができ、5000回の充放電を経ても容量とクーロン効率とはほとんど変化せず、
図12のように、作製されたマイクロ電池のレート性能は比較的良好であった。
【0054】
応用例1
電極は、実施例5に示すように10×10エアロゲルアレイを作製し、これを64チャネルの2つのデータ収集カードに接続して同時に100チャネルの信号を収集し、エアロゲルアレイに手のひらを押し当てると、
図13のようにデータ処理後に明らかな手の形状が観察された。
【0055】
応用例2
FCTプロセスを用いてポリイミド基板上に8×8電極のセンサ回路図をプリントした。単一のエアロゲル電極のサイズは300×400μmであった。その後、回路図中のセンシング部に酸化グラフェンインクの3Dプリントを行った。酸化グラフェン溶液は20mg/mlの水懸濁液であり、乾燥固化後、濃度50%のヒドラジン水和物の水溶液0.1mlを滴下して酸化グラフェンをインサイチュ発泡させ、5分後に乾燥させ、ヨウ化水素酸のインサイチュ還元により、
図14のように安定したアレイセンサが得られた。
【0056】
8×8電極センサの回路をワンチップマイコンに引き出し、回路をワイヤで接続し、ホイールリード(wheel read)方式でデータを収集することによって、
図15のようにすべてのセンサが明らかな応答信号を有することが証明された。作製されたセンサをロボットハンドの指に固定し、ロボットアームを用いて駆動し、
図16のように、それぞれ26個のアルファベットを押圧し、得られたデータをコンピュータコンボリューションニューラルネットワーク(Convolutional Neural Networks)に入力し、ディープラーニング(deep learning)を行い、訓練されたニューラルネットワークが得られた。その後でランダムに異なるアルファベットを選択し、ロボットハンドで押圧することで、1s以内に未知のアルファベットの識別を迅速に実現することができた。識別の正確率は人間の指の識別率(~30%)よりはるかに高く、100%に達することができた。具体的な機械学習の概略図を
図17に示す。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクログラフェンエアロゲルユニットを含むマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法であって、酸化グラフェン溶液をインクとしてデバイスの基板上にプリントし、硬化させた後、発泡剤を含む極性溶液を滴下して酸化グラフェンを可塑化発泡させ、乾燥還元後に、デバイスの基板上にマイクログラフェンエアロゲルユニットを得る、マイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記発泡剤は、自己発泡剤と、反応型発泡剤とを含み、前記反応型発泡剤は、酸化グラフェンの酸素を含む官能基と反応してガスを発生する発泡剤であり、前記自己発泡剤は、分解してガスを発生する発泡剤であることを特徴とする請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記反応型発泡剤は、ヒドラジン水和物
または水素化ホウ素塩を含み、前記自己発泡剤は、炭酸水素
塩を含むことを特徴とする請求項2に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記発泡剤を含む前記極性溶液は、
前記発泡剤を含む水、有機溶媒、または水と有機溶媒との混合溶液であることを特徴とする請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、イソプロパノール及びエタノールから選択される
一種又は複数種である請求項4に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記酸化グラフェン溶液の溶媒は、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エタノール
及びジメチルスルホキシド
から選択される一種又は複数種であることを特徴とする請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記酸化グラフェンをプリントする前に、回路図を前記デバイスの基板上にプリントすることを特徴とする請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のマイクログラフェンエアロゲルユニットを
複数含み、複数のマイクログラフェンエアロゲルユニットがアレイを構成していることを特徴とするマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【請求項9】
前記デバイスはピエゾ抵抗式センサであり、前記マイクログラフェンエアロゲルユニットによって力学信号
または変位データ信号の収集が行われることを特徴とする請求項8に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【請求項10】
前記
デバイスは共振型センサであり、前記マイクログラフェンエアロゲルユニットによって力学信号、変位信号、又は音波振動信号の収集が行われることを特徴とする請求項
8に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【請求項11】
前記デバイスは、マイクログラフェンエアロゲルユニットを用いてマイクロキャパシタが構築されたエネルギー貯蔵デバイスであることを特徴とする請求項8に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【請求項12】
前記デバイスは、マイクログラフェンエアロゲルユニットと金属電極とを用いてマイクロ電池が構築されたエネルギー貯蔵デバイスであることを特徴とする請求項8に記載のマイクログラフェンエアロゲルデバイス。
【国際調査報告】