(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】精製セルロース繊維組成物
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20220831BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H15/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021573167
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 IB2020056160
(87)【国際公開番号】W WO2021001751
(87)【国際公開日】2021-01-07
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤンソン、ウッラ
(72)【発明者】
【氏名】モベリ、アンデルス
(72)【発明者】
【氏名】バックフォルク、カイ
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AC03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AF46
4L055AH42
4L055BA14
4L055CA19
4L055CB16
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA07
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA13
(57)【要約】
本発明は、紙および板紙用の強度向上剤として有用な精製セルロース繊維組成物であって、該精製セルロース繊維組成物が、標準ISO5267-1によって決定される80~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバーを有し、該精製セルロース繊維組成物が、乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1200万本の長さ>0.2mmを有する繊維の含有量を有する、精製セルロース繊維組成物に関するものである。本発明はさらに、精製セルロース繊維組成物を調製する方法、および精製セルロース繊維組成物を含むパルプ紙および板紙に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製セルロース繊維組成物であって、
精製セルロース繊維組成物が、標準ISO5267-1によって決定された80~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバーを有すること、および
精製セルロース繊維組成物が、乾燥重量に基づいて1グラムあたり少なくとも1200万本の>0.2mmの長さを有する繊維の含有量を有している、前記の精製セルロース繊維組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の精製セルロース繊維組成物であって、前記精製セルロース繊維組成物が、標準ISO5267-1で測定したショッパー・リーグラー(SR)ナンバーが85~98の範囲、好ましくは90~98の範囲であることを特徴とする、精製セルロース繊維組成物。
【請求項3】
前記精製セルロース繊維組成物が、乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1500万本、好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも2000万本の、0.2mmを超える長さを有する繊維の含有量を有する、請求項1~2のいずれか1項に記載の精製セルロース繊維組成物。
【請求項4】
前記精製セルロース繊維組成物が、少なくとも1.7、好ましくは少なくとも1.8、より好ましくは少なくとも1.9のクリル値を有することを特徴とする、前記請求項1~3のいずれか1項に記載の精製セルロース繊維組成物。
【請求項5】
前記精製セルロース繊維組成物が、少なくとも17%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも22%の長さ>0.2mmを有する繊維の平均フィブリル面積を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の精製セルロース繊維組成物。
【請求項6】
前記精製セルロース繊維が精製針葉樹セルロース繊維であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の精製セルロース繊維組成物。
【請求項7】
紙または板紙の強度向上剤として使用するための精製セルロース繊維組成物の製造方法であって、以下を含む、製造方法:
a)セルロースパルプを分画して得られる微細繊維画分を提供すること;
b)前記微細繊維画分を、0.5~30重量%の範囲のコンシステンシーで、標準ISO5267-1で決定される80~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバーになるように精製に供して、精製セルロース繊維組成物を得ること。
【請求項8】
前記セルロースパルプが針葉樹パルプであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記セルロースパルプが、決して乾燥していないパルプであることを特徴とする、請求項7~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記セルロースパルプが非叩解パルプであることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記セルロースパルプがリグニンを実質的に含まず、好ましくは前記セルロースパルプが、パルプの全乾燥重量を基準にして10重量%以下のリグニン含量を有する、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記セルロースパルプが、パルプの全乾燥重量を基準にして、10~30重量%の範囲のヘミセルロース含有量を有することを特徴とする、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記微細繊維画分が、精製の前に酸化剤で処理されることを特徴とする、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
精製の前に補助的な強度向上剤を微細繊維画分に添加することを特徴とする、請求項7~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ステップa)の微細繊維画分が、標準ISO5267-1で測定したショッパー・リーグラー(SR)ナンバーが70未満、好ましくは50未満である、請求項7~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記微細繊維画分が、1~10重量%の範囲内のコンシステンシーで精製に供されることを特徴とする、請求項7~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記微細繊維画分が、100~1500kW/tの範囲、好ましくは500~1500kW/tの範囲、より好ましくは750~1250kW/tの範囲の総精製エネルギーで精製に供されることを特徴とする、請求項7~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ステップb)の前記精製セルロース繊維組成物が、標準ISO5267-1によって決定される、85~98の範囲、好ましくは90~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバーを有する、請求項7~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記精製セルロース繊維組成物が、乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1200万本、好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1500万本、より好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1700万本、さらに好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも2000万本の、0.2mmを超える長さを有する繊維の含有量を有する、請求項7~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記精製セルロース繊維組成物が、少なくとも1.7、好ましくは少なくとも1.8、より好ましくは少なくとも1.9のクリル値を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記精製セルロース繊維組成物が、少なくとも17%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも22%の長さ>0.2mmの値を有する繊維の平均フィブリル面積を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1~6のいずれか1項に記載の精製セルロース繊維組成物または7~21のいずれか1項に記載の方法で得られた精製セルロース繊維組成物を、乾燥重量に基づいて、少なくとも0.1重量%、好ましくは1~25重量%、より好ましくは1~10重量%、最も好ましくは2~7重量%の範囲で含む、紙または板紙製造用セルロースパルプ。
【請求項23】
セルロースパルプが化学熱機械パルプ(CTMP)であることを特徴とする、請求項22に記載の紙または板紙製造用セルロースパルプ。
【請求項24】
1枚以上のプライを含む紙または板紙であって、少なくとも1枚のプライが、請求項1~6のいずれか1項に記載の精製セルロース繊維組成物または請求項7~21のいずれか1項に記載の方法で得られた精製セルロース繊維組成物を、乾燥重量に基づいて、少なくとも0.1重量%、好ましくは1~25重量%、より好ましくは1~10重量%、最も好ましくは2~7重量%の範囲で含有する、前記の紙または板紙。
【請求項25】
紙または板紙のZ強度および/または引張強度を向上させるための、請求項1~6のいずれか1項に記載の精製セルロース繊維組成物または請求項7~21のいずれか1項に記載の方法で得られた精製セルロース繊維組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、紙または板紙の強度特性を向上させるための強度向上剤、特にZ強度および/または引張強度を向上させるための強度向上剤に関するものである。本開示はさらに、そのような強度向上剤の製造、およびそのような強度向上剤を含む紙または板紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景
板紙は、パルプと任意の添加剤からなる複数の層(プライとも呼ばれる)で構成されている。これらの層は、板紙の所望の特性を達成するために選択され、配置される。板紙の本質的な特性は、曲げ剛性である。板紙の曲げ剛性は、通常、高い引張剛性を持つ外側のプライと、その間にある1枚または数枚の嵩高なプライによって構築され、外側のプライが互いに所望の距離に配置されるようになっている。嵩高いプライ/プライ(複数)は、しばしば中間層/中間層(複数)である。
【0003】
板紙の中間層は、サーモメカニカルパルプ(TMP)やケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)などの機械パルプで構成されていることがある。TMPやCTMPは一般的に嵩高であるため、例えば化学パルプと比較して、低いグラム数で所望の高剛性を有する板紙を構成することができる。
【0004】
CTMPプロセスでは、木材チップにリグニンを軟化させる薬剤を含浸させてから加圧精製を行う。これによりリグニンが軟化し、精製中の繊維の破断がリグニンを多く含む中間ラメラに集中することになる。その結果、TMPと比較して、一定のエネルギー投入量で硬い繊維が得られ、ファイン(微細)やシャイブの量が少なくなる。長い繊維が多く含まれていることは、嵩高さが求められるすべての製品にとって重要である。したがって、板紙ではTMPよりもCTMPの方が有利である。
【0005】
紙の強度は、木目方向(X方向)、クロス木目方向(Y方向)、紙の表面に垂直な方向(Z方向)の3次元で測定される。紙のサンプルを引き裂くのに必要な力は、内部結合強度、またはZ方向の引張強度として記録される。板紙の中間層の剥離、ひいては板紙の剥離を避けるためには、中間層のZ強度が高いことが望まれる。しかし、このようなZ強度は、曲げ剛性を悪化させることなく、つまり、紙ウェブの密度を上げることなく達成しなければならない。
【0006】
板紙層のZ強度と密度は、通常、原材料の変更、在庫の準備や板紙製造機での異なる操作条件の選択、製紙用薬品の添加などによって最適化される。他の多くの強度特性と同様に、Z方向の強度は密度の増加とともに増加し、その効果は繊維間の結合面積の増加に起因する。密度と面外強度の関係は、パルプの種類や高密度化の方法によって異なる場合がある。リファイニング(精製)はウェットプレスよりも強度が上がる。リファイニングの主な目的は、繊維の結合性を向上させることである。繊維同士の結合を向上させる変化は、内部および外部のフィブリル化と微粉の生成である。この3つの変化により、パルプの保水力、密度、引張強度や剛性、破裂強度や圧縮強度などの強度特性、さらにはZ方向の強度が向上する。
【0007】
CTMPは嵩高である一方で、Z方向の強度は比較的低いのである。
【0008】
高い耐剥離性や曲げ剛性が求められるのは板紙だけではない。これらの特性は、例えば印刷、加工、そして最終用途において重要である。つまり、Z方向に高い強度を持つ紙や板紙を作ることは、多くの紙製品にとって非常に重要なことなのである。
【0009】
繊維製品や板紙製品の強度を高めるには、表面のフィブリル化、改質繊維の使用、多糖類などの天然または合成の強度向上剤の使用など、繊維と繊維の接触を高める方法がある。最近の開発動向としては、ナノセルロースを強度向上剤として使用することが挙げられる。ナノセルロースは強度向上剤として非常に有用であるが、ナノセルロースの製造コンセプトは通常非常にエネルギーを必要とする。エネルギーコストを削減するために、酵素による前処理や誘導体化などの化学的前処理、あるいは繊維膨潤を利用することが提案されている。しかし、生物学的処理、化学的処理、物理化学的処理は、すべて別の処理ステップを必要とし、パルプ工場の統合/環境に採用する場合は、追加のプロセスソリューションや投資を必要とする。
【0010】
そのため、紙や板紙の引張強度やZ強度を向上させるための改善策が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の内容
本発明の具体的な目的は、紙や板紙に優れた強度特性、特に優れた引張り強度と優れたZ強度を与える新しいタイプの強度向上剤を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、これまでのセルロース系強度向上剤の製造よりも少ないエネルギーで製造できるセルロース系強度向上剤を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、従来のセルロース系の強度向上剤の製造に比べて、より少ないエネルギーで紙または板紙の強度向上剤を製造する方法を提供することである。
【0014】
さらに、本発明のさらなる目的は、流動機やホモジナイザーなどの特別な装置への投資を必要とせず、パルプ工場に組み込むことができる紙・板紙用の強度向上剤の製造方法を提供することである。
【0015】
上述の目的だけでなく、本開示に照らして当業者が実現するであろう他の目的も、本開示の様々な側面によって達成される。
【0016】
本明細書で例示する第1の側面によれば、下記の精製セルロース繊維組成物が提供される:精製セルロース繊維組成物が、標準ISO5267-1によって決定された80~98の範囲のショッパー・リーグラーナンバー(SR値)を有すること、および、精製セルロース繊維組成物が、乾燥重量に基づいて1グラムあたり少なくとも1200万本の長さ>0.2mmを有する繊維の含有量を有すること。長さ>0.2mmを有する繊維の含有量は、例えば、L&W Fiber tester Plus instrument(L&W/ABB)を用いて測定することができる。
【0017】
高いSR値と長さ>0.2mmの繊維を多く含む本発明の精製セルロース繊維組成物は、CTMPシートに配合した場合、強度向上剤として非常に有効であることがわかっており、紙・板紙製造の原料削減剤として持続可能な代替品となる可能性がある。
【0018】
本発明組成物は、精製セルロース繊維組成物である。本明細書で使用される用語「セルロース繊維」は、天然セルロース繊維、すなわちリヨセル繊維やビスコース繊維のような再生または製造された繊維ではないものを指す。天然のセルロース繊維は、使用するために繊維をきれいにするのに必要なだけ加工されているので、元の植物の一部からのものであることがまだ認識できる。セルロースパルプの精製又は叩解とは、セルロース繊維に所望の特性を持たせるために機械的に処理することである。
【0019】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、標準ISO5267-1によって決定される、85~98の範囲、好ましくは90~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバー(SR値)を有する。いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、標準ISO5267-1によって決定されるように、92~98の範囲、好ましくは94~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバーを有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1500万本、好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1700万本、より好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも2000万本の、0.2mmを超える長さを有する繊維の含有量を有する。
【0021】
精製セルロース繊維組成物は、典型的には、長さ>0.2mmを有する繊維の含有量が、乾燥重量を基準にして1gあたり5,000万本以下、好ましくは乾燥重量を基準にして1gあたり4,000万本以下、より好ましくは乾燥重量を基準にして1gあたり3,000万本以下である。
【0022】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、乾燥重量を基準とした1グラム当たり1500~5000万本の範囲の長さ>0.2mmを有する繊維の含有量を有し、好ましくは乾燥重量を基準とした1グラム当たり1700~4000万本の範囲、より好ましくは乾燥重量を基準とした1グラム当たり2000~3000万本の範囲の長さを有する繊維の含有量を有する。長さ>0.2mmを持つ繊維の含有量が特定の範囲にあると、性能とプロセス経済性のバランスが有利になることがわかっている。
【0023】
長さ0.2mm以上の繊維の含有量は、Fiber Tester Plusを用いて測定することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、少なくとも1.7、好ましくは少なくとも1.8、より好ましくは少なくとも1.9のクリル値を有する。精製セルロース繊維組成物のクリル値は、典型的には2.5未満となる。クリル値はFiber Tester Plusを用いて測定する。
【0025】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、少なくとも17%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも22%の長さ>0.2mmを有する繊維の平均フィブリル面積を有する。精製セルロース繊維組成物は、典型的には、50%未満、例えば40%未満または30%未満の長さ>0.2mmを有する繊維の平均フィブリル面積を有する。本明細書で使用する「平均フィブリル面積」という用語は、長さ加重平均フィブリル面積を意味する。平均フィブリル面積は、Fiber Tester Plus装置を用いて決定される。
【0026】
本発明による精製セルロース繊維組成物は、例えば針葉樹パルプや広葉樹パルプなどの異なる原料から製造することができる。本明細書で使用される用語「セルロース繊維」は、天然のセルロース繊維、すなわちリヨセルやビスコースのような再生または製造された繊維ではない。
【0027】
針葉樹クラフトパルプの画分を選択することで、エネルギー需要の低減というメリットが発揮される。したがって、いくつかの実施形態では、セルロースパルプは針葉樹パルプである。
【0028】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、リグニンを実質的に含まず、好ましくは、前記セルロースパルプは、パルプの総乾燥重量を基準にして、10重量%以下のリグニン含量を有する。
【0029】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、セルロースパルプを分画して得られた微細繊維画分を、100~1500kW/tの範囲、好ましくは500~1500kW/tの範囲、より好ましくは750~1250kW/tの範囲の総精製エネルギーで精製に供することによって得られる。
【0030】
本発明はさらに、第1の側面に記載の精製セルロース繊維組成物を、エネルギー量を低減して製造する方法に関するものである。
【0031】
したがって、本明細書に例示される第2の態様によれば、紙または板紙の強度向上剤として使用するための精製セルロース繊維組成物を製造する方法であって、以下を含む方法が提供される:
a)セルロースパルプを分画して得られる微細繊維画分を提供すること:
b)前記微細繊維画分を、0.5~30重量%の範囲のコンシステンシーで、標準ISO5267-1で決定される80~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバーになるように精製に供して、精製セルロース繊維組成物を得ること。
【0032】
微細繊維画分は、セルロースパルプを微細繊維画分と粗繊維画分に分級することで得られる。
【0033】
非分画パルプを精製する際に問題となるのは、エネルギー消費量が高くなることである。エネルギー消費量を削減するための1つの方法は、パルプを誘導体化すること、または国際特許出願WO2007091942A1に記載されているように、フィブリル化を促進するために酵素を使用することである。しかし、化学物質や添加物の使用には、特に統合パルプ化プロセスにおいては限界がある。化学物質はコストを増加させ、また他の化学物質と干渉する可能性がある。
【0034】
精製プロセスはエネルギーを大量に消費するプロセスであり、多くの紙製品の特性に大きな影響を与えるため、このプロセスを制御することは非常に重要である。現在、精製プロセスの制御には、原料の排水抵抗(ショッパー・リーグラー値など)のオンライン測定や、時には繊維の幾何学的な寸法が主に使用されている。非常に重要な変数として残されているのが、繊維が互いに結合する可能性である。繊維から部分的または完全にほぐされたフィブリルをクリルと呼ぶ。精製過程で発生するクリルは、繊維同士の結合力を大幅に向上させる。
【0035】
本発明者らが行った実験によると、未分別パルプは、精製エネルギーを増加させることにより、実際に高いSRまで精製できることが示されており、これは予想通りであり、先行技術に沿ったものである。しかし、この結果は、長さ>0.2mmを有する繊維の含有量とクリル値が比較的低い値に留まっていることも示している。CTMPシートに5重量%の精製未解繊パルプを使用した場合、Z強度と引張指数の両方が増加するが、その増加は低いか中程度である。
【0036】
一方、パルプを微細繊維画分と粗繊維画分に分別し、微細繊維画分で精製を行った場合、実験によると、針葉樹の混合物に関わらず、高いSR値に達することができるが、長さが0.2mmを超える繊維の含有率が高く、クリル値が高い。これは、精製が低いコンシステンシーで行われたにもかかわらず、である。
【0037】
高いSR値と長さ>0.2mmの繊維を多く含む本発明の精製セルロース繊維組成物は、CTMPシートに配合した場合、強度向上剤として非常に有効であることがわかっており、紙・板紙製造の原料削減剤として持続可能な代替品となる可能性がある。
【0038】
本発明方法で出発原料として用いる微細繊維画分は、セルロースパルプの出発原料を微細繊維画分と粗繊維画分にサイズ分画して得られる。微細繊維画分は、出発原料と比較して、短くて細い繊維が多く含まれている。微細繊維画分は、例えば、セルロースパルプ出発原料を圧力スクリーンで分離して、より短く、より薄い繊維を有する画分を得ることができる。微細繊維画分の乾燥重量は、例えば、未分画のセルロースパルプ出発材料の全乾燥重量の75重量%未満、50重量%未満、25重量%未満で構成されていてもよい。
【0039】
微細繊維画分は、典型的には、1.7mm以下の長さ>0.2mmを有する繊維の平均繊維長(ISO16065-2に従って決定)、および乾燥重量に基づいて1グラムあたり少なくとも500万本の長さ>0.2mmを有する繊維の含有量を有する。微細繊維画分の長さ>0.2mmを有する繊維の含有量は、典型的には乾燥重量を基準にして1gあたり1,000万本未満の繊維である。
【0040】
このようにして得られた粗い繊維画分は、微粉末や微細な繊維の量が減少しているため、例えば組織の製造に使用することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、ステップa)のセルロースパルプは、針葉樹パルプである。
いくつかの実施形態では、ステップa)のセルロースパルプは、決して乾燥していないパルプである。
いくつかの実施形態では、ステップa)のセルロースパルプは、非叩解パルプである。
【0042】
いくつかの実施形態では、前記セルロースパルプは、リグニンを実質的に含まず、好ましくは、前記セルロースパルプは、パルプの総乾燥重量を基準にして、10重量%以下のリグニン含有量を有する。
【0043】
いくつかの実施形態では、セルロースパルプは、パルプの総乾燥重量を基準にして、10~30重量%の範囲のヘミセルロース含有量を有する。
【0044】
微細繊維画分は、場合により、ステップb)の精製の前に、酸化によってまたは補助的な強度向上剤の添加によって処理されてもよい。いくつかの実施形態では、微細繊維画分は、精製の前に酸化剤で処理される。
【0045】
いくつかの実施形態では、精製の前に補助的な強度向上剤を微細繊維画分に添加する。
【0046】
いくつかの実施形態では、ステップa)の微細繊維画分は、標準ISO5267-1で測定したショッパー・リーグラー(SR)ナンバーが70未満、好ましくは50未満である。
【0047】
いくつかの実施形態では、ステップa)の微細繊維画分は、0.2mmを超える長さを有する繊維の含有量が、1~1000万本/グラムの範囲、好ましくは500~1000万本/グラムの範囲である。
【0048】
いくつかの実施形態では、ステップa)の微細繊維画分は、1~2の範囲、好ましくは1~1.7の範囲の平均繊維長を有する。
【0049】
いくつかの実施形態では、微細繊維画分は、1~10重量%の範囲内のコンシステンシーで精製に供される。
【0050】
いくつかの実施形態では、微細繊維画分は、100~1500kW/tの範囲、好ましくは500~1500kW/tの範囲、より好ましくは750~1250kW/tの範囲の総精製エネルギーで精製に供される。
【0051】
いくつかの実施形態では、ステップb)の精製セルロース繊維組成物は、標準ISO5267-1によって決定される、85~98の範囲、好ましくは90~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバーを有する。いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、標準ISO5267-1によって決定されるように、92~98の範囲、好ましくは94~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)ナンバーを有する。
【0052】
微細繊維画分を精製することで、高いクリル値を有してフィブリル化が進んだ長さ0.2mm超の繊維を多く含む精製セルロース繊維組成物が得られる。
【0053】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1200万本、好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1500万本、より好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも1700万本、さらに好ましくは乾燥重量に基づいて1グラム当たり少なくとも2000万本の、0.2mmを超える長さを有する繊維の含有量を有する。
【0054】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、少なくとも1.7、好ましくは少なくとも1.8、より好ましくは少なくとも1.9のクリル値を有する。精製セルロース繊維組成物のクリル値は、典型的には2.5以下となる。クリル値はFiber Tester Plusを用いて測定する。
【0055】
いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、少なくとも17%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも22%の長さ>0.2mmを有する繊維の平均フィブリル面積を有する。精製セルロース繊維組成物は、典型的には、50%未満、例えば40%未満または30%未満の長さ>0.2mmを有する繊維の平均フィブリル面積を有する。本明細書で使用する「平均フィブリル面積」という用語は、長さ加重平均フィブリル面積を意味する。平均フィブリル面積は、Fiber Tester Plus装置を用いて決定される。
【0056】
長さ>0.2mmを持つ繊維の平均長さ、長さ>0.2mmを持つ繊維のフィブリル面積、およびクリル値は、L&W Fiber Tester Plus(L&W/ABB)機器(本明細書では「Fiber Tester Plus」または「FT+」とも呼ばれる)を用いて、ISO16065-2規格に従って、0.2mmより長い繊維状の粒子として繊維を定義して測定した。
【0057】
各サンプルには既知のサンプル重量0.100gを使用し、長さ>0.2mmを持つ繊維の含有量(1gあたりの百万本の繊維)を以下の式で算出した。百万繊維/グラム=(試料中の繊維数)/(試料重量)/1 000 000=(特性ID3141)/特性ID3136)/1 000 000
【0058】
クリル測定法は、粒子がその直径に応じて異なる波長の光を吸収・発散する能力を利用している。パルプ懸濁液を紫外光と赤外光の光源に通し、反対側に検出器を設置することで、溶液中に小さな粒子が存在するかどうかを検出することができる。粒子が多いほど、光はより多く発散または吸収される。クリルのような小さな粒子は、紫外線光源からの光を拡散・吸収し、繊維は赤外線光源からの光に影響を与える。クリルの含有量は、UV/IRを検出したときのクォータとして得られる。
【0059】
本発明の精製セルロース繊維組成物は、セルロースパルプ(例えばCTMP)中の強度増強添加剤として、そのパルプから製造される紙または板紙の強度を高めるために好ましく用いることができる。精製セルロース繊維組成物は、典型的には、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも1重量%の濃度で、強化すべきパルプに添加される。いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、乾燥重量を基準にして、1~25重量%の範囲、好ましくは1~15重量%の範囲、より好ましくは1~10重量%の範囲、最も好ましくは2~7重量%の範囲の濃度で強化すべきパルプに添加される。いくつかの実施形態では、精製セルロース繊維組成物は、乾燥重量に基づいて、2~5重量%の範囲の濃度で強化すべきパルプに添加される。
【0060】
本明細書に例示されている第3の態様によれば、紙または板紙を製造するためのセルロースパルプであって、前の態様を参照して本明細書に記載されている精製セルロース繊維組成物を、乾燥重量に基づいて、少なくとも0.1重量%、好ましくは1~25重量%の範囲、より好ましくは1~10重量%の範囲、最も好ましくは2~7重量%の範囲で含んでいるセルロースパルプが提供される。
【0061】
いくつかの実施形態では、セルロースパルプは、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)である。
【0062】
本発明の精製セルロース繊維組成物を含む紙・板紙は、本発明の精製セルロース繊維組成物を含まない対応する紙・板紙と比較して、引張強度が著しく向上し、Z強度も改善されている。
【0063】
本明細書に示される第4の側面によれば、1つ以上のプライを含む紙または板紙が提供され、少なくとも1つのプライが、乾燥重量に基づいて、前の側面を参照して本明細書に記載された精製セルロース繊維組成物を少なくとも0.1重量%、好ましくは1~25重量%の範囲、より好ましくは1~10重量%の範囲、最も好ましくは2~7重量%の範囲で構成される。
【0064】
紙とは一般的に、木材のパルプやセルロース繊維を含む繊維状の物質から薄いシート状に製造され、文字や絵、印刷に使用されたり、包装材として使用されたりする素材のことである。
【0065】
板紙とは、箱などの包装に使われるセルロース繊維でできた丈夫で厚い紙や段ボールのことである。板紙には、漂白・未漂白、コーティング・非コーティングがあり、最終用途に応じてさまざまな厚さのものが作られている。
【0066】
本明細書に例示される第5の態様によれば、紙または板紙のZ強度および/または引張強度を改善するための、これまでの態様を参照して本明細書に記載された精製セルロース繊維組成物の使用が提供される。
【0067】
第3、第4および第5の態様における強度向上剤は、第1および第2の態様を参照して上述したようにさらに定義することができる。
【0068】
本明細書で使用されている「乾燥重量に基づく%」という用語は、(例えば、パルプ組成物またはパルプフラクションに関連して)組成物の総乾燥重量に基づく重量%を意味する。
【0069】
本発明を様々な例示的な実施形態を参照して説明してきたが、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を加えたり、その要素に同等のものを代用したりすることができることは、当業者であれば理解できるであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適応させるために、多くの変更を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために考えられる最良の態様として開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の請求項の範囲内に入るすべての実施形態を含むことを意図している。
【0070】
例
分析
長さ>0.2mmを持つ繊維の平均長さ、長さ>0.2mmを持つ繊維のフィブリル面積、およびクリル値は、L&W Fiber Tester Plus(L&W/ABB)社の装置(FT+)を用いて、ISO 16065-2規格に従って、0.2mmより長い繊維状の粒子を繊維と定義して測定した。
【0071】
各サンプルには既知のサンプル重量0.100gを使用し、長さ>0.2mmを持つ繊維の含有量(1gあたりの百万本の繊維)を以下の式で算出した。百万繊維/グラム=(試料中の繊維数)/(試料重量)/1 000 000=(特性ID3141)/特性ID3136)/1 000 000
【0072】
排水抵抗(水道水)は、Schopper-Riegler法ISO 5267-1に基づいて測定した。
【0073】
シートの特性は、以下の基準で測定した:
引張試験 ISO 1924-3:2005
Z-strength試験 ISO 15754:2009
【0074】
出発物質
針葉樹パルプ1(SW1)は、ISO 16065-2による平均繊維長(>0.2mm)が2.1mmで、FT+に基づく長さ>0.2mmを有する繊維の含有量が420万本/グラムの針葉樹クラフトパルプ(トウヒ/松混合物)である。
【0075】
針葉樹パルプ2(SW2)は、ISO 16065-2による平均繊維長(>0.2mm)が2.1mmで、FT+に基づく長さ0.2mm以上の繊維の含有量が1gあたり360万本の針葉樹クラフトパルプ(松)である。
【0076】
針葉樹パルプ3(SW3)は、針葉樹クラフトパルプ(スプルース)であり、ISO 16065-2による平均繊維長(>0.2mm)が2.6mm、FT+に基づく長さ>0.2mmの繊維の含有量が1gあたり310万本である。
【0077】
針葉樹パルプ4(SW4)は、針葉樹クラフトパルプ(トウヒ/松混合物)で、平均繊維長(>0.2mm)は2.4mmである。
【0078】
画分化
短い繊維を多く含む画分を得ることを目的にパルプを圧力スクリーン(孔径1.2mmのスクリーンバスケットを装備)で分離することで、微細繊維画分が実現された。2段階の手順により、4~7%のパルプがフィードパルプの流れから分離された。この2段階の手順により、繊維長が減少し、1グラムあたりの繊維数が増加した。FT+による平均長さの測定に加えて、Valmet社のファイバーイメージアナライザーFS5を使用して、ISO 16065-2規格に従って0.2mmよりも長い繊維状粒子を繊維と定義して平均長さを測定した。
【0079】
【0080】
精製
未分画および微細繊維画分サンプルの精製は、Voith Sulzer LR1リファイナー(2mmディスクリファイナー付き)を用いて、~4%のコンシステンシー、100リットル/分の流量で以下のように行った。
【0081】
実施例1(未分画)。
SW1のパルプは、3mmのバーを持つ円錐形のリファイナーフィリングを用いて、切断角60度、エッジロード1.0Ws/mで精製し、精製エネルギー466kWh/tを得た。
【0082】
実施例2(未分画)。
SW1のパルプは、3mmのバーを持つ円錐形のリファイナーフィリングを用いて、切断角60度、エッジロード1.0Ws/mで精製し、精製エネルギー1032kWh/tを得た。
【0083】
実施例3(未分画)。
SW3のパルプを、2mmのバーを充填したディスクリファイナーで、カット角40度、エッジロード0.25Ws/mで精製し、750kWh/tの精製エネルギーを得た。
【0084】
実施例4(未分画)。
SW2パルプは、3mmのバーを持つ円錐形のリファイナーフィリングを用いて、切断角60度、エッジロード1.0Ws/mで精製し、精製エネルギー950kWh/tとした。
【0085】
例5-9 微細な繊維の画分(フラクショナル)。
微細繊維画分は、2mmのバーを充填したディスクリファイナーを用いて、切断角40度、エッジロード0.25Ws/mで精製し、精製エネルギー1039~1550kWh/tとした。
【0086】
シートの調製
精製されたサンプルの5重量%をCTMP(スプルースCTMP、カナダ標準フリーネス600ml CSF)に加え、強度試験用のシートをFormetteダイナミックシートフォーマーで作成した。パルプ濃度は3g/リットルで、1000rpmで1分間混合した後、ノズル2514、圧力2.5バール、回転速度1050rpm、坪量100g/m2、脱水時間2分、ブロッター紙によるカウティング、フェルト間で1バールの第1ロールプレス、ブロッターを交換してフェルト間で5バールの第2ロールプレス、ブロッターを交換してフェルトなしで5バールの第3ロールプレス、95℃の弓型乾燥機での乾燥、23℃50%RHでのコンディショニングを行った。パルプ原料の効率的な混合のために、Formetteダイナミックシートフォーマーには、Britt Dynamic Drainage Jarを改良したようなバッフル付き混合チェストが装備されている。その後、シートのZ強度と引張指数の分析を行った。
【0087】
【国際調査報告】