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特表2022-538978アリルイソチオシアネートを含む乳化可能濃縮物及び作物植物における殺線虫剤としてのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】アリルイソチオシアネートを含む乳化可能濃縮物及び作物植物における殺線虫剤としてのその使用
(51)【国際特許分類】
   A01N 47/46 20060101AFI20220831BHJP
   A01P 5/00 20060101ALI20220831BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220831BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220831BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A01N47/46
A01P5/00
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/04 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021574743
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(85)【翻訳文提出日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 IB2020056286
(87)【国際公開番号】W WO2021005473
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】102019000011049
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516135472
【氏名又は名称】イサグロ エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダカッロ、クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】ガリンベルティ、エリーザ
(72)【発明者】
【氏名】ベランディ、パオロ
(72)【発明者】
【氏名】サルジオット、キアーラ
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA02
4H011AC01
4H011BA01
4H011BB11
4H011BC03
4H011BC06
4H011BC07
4H011DA16
(57)【要約】
本発明は、●アリルイソチオシアネート、●少なくとも1種の植物油、●少なくとも1種のノニオン性界面活性剤、●少なくとも1種のアニオン性界面活性剤、を含む農業化学的な乳化可能濃縮物に関する。本発明は、作物植物における殺線虫剤としての前記乳化可能濃縮物の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
●アリルイソチオシアネート
●少なくとも1種の植物油
●少なくとも1種のノニオン性界面活性剤
●少なくとも1種のアニオン性界面活性剤
を含む、農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項2】
前記少なくとも1種の植物油が、C1~C6アルキル基でエステル化された誘導体を含め、ナタネ油、ダイズ油、オリーブ油、ヒマシ油、アマニ油、から選ばれる、前記請求項に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項3】
前記植物油がナタネ油、好ましくはナタネ油のC1~C6エステル、である、請求項1に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項4】
前記アリルイソチオシアネートは、前記乳化可能濃縮物の重量に対して1重量%~70重量%、好ましくは5重量%~45重量%、より好ましくは15重量%から25重量%の範囲内の量で存在する、前記請求項のうちの1つ又は複数に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項5】
前記少なくとも1種の植物油は、前記乳化可能濃縮物の重量に対して1重量%~90重量%、好ましくは40重量%~70重量%の範囲内の量で存在する、前記請求項のうちの1つ又は複数に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項6】
前記少なくとも1種のノニオン性界面活性剤は、エトキシル化ブロック共重合体、エト-プロポキシル化ブロック共重合体、エトキシル化トリスチリルフェノール、エト-プロポキシル化トリスチリルフェノール、エトキシル化トリスチリルフェノールフォスフェート(酸形態)、エトキシル化トリスチリルフェノールサルフェート(酸形態)、ソルビタンモノラウレート、エトキシル化ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、エトキシル化ソルビタンモノオレエート、エトキシル化植物油、エトキシル化脂肪アルコール(ethoxylated fatty alcohol)、オルガノシリコン化合物、及びこれらの混合物からなる群から選択される、前記請求項のうちの1つ又は複数に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項7】
前記少なくとも1種の界面活性剤は、前記乳化可能濃縮物中に、前記乳化可能濃縮物の重量に対して1重量%~20重量%、好ましくは5重量%~15重量%、の範囲内の量で存在する、前記請求項のうちの1つ又は複数に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項8】
前記少なくとも1種のアニオン性界面活性剤は、エトキシル化トリスチリルフェノールフォスフェート(塩形態(salified form))、エトキシル化トリスチリルフェノールサルフェート(塩形態(salified form))、カルシウムドデシルベンゼンスルホネート、及びこれらの混合物から選択される、前記請求項のうちの1つ又は複数に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項9】
前記少なくとも1種のアニオン性界面活性剤は前記乳化可能濃縮物中に、前記乳化可能濃縮物の重量に対して1重量%~20重量%、好ましくは1重量%~10重量%、の範囲内の量で存在する、前記請求項のうちの1つ又は複数に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項10】
(乳化可能濃縮物の重量に対しての重量%として)
●5重量%~45重量%、好ましくは15重量%~25重量%、のアリルイソチオシアネート
●5重量%~15重量%の少なくとも1種のノニオン性界面活性剤
●1重量%~10重量%の少なくとも1種のアニオン性界面活性剤
●前記乳化可能濃縮物の重量を100重量%にするのに必要な残余分に等しい量の少なくとも1種の植物油
を含む、請求項1に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物。
【請求項11】
●少なくとも1種の、請求項1に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物を準備すること、
●前記乳化可能濃縮物を水で希釈して、水中油型乳化物の形態の農学的配合物を得ること、
を含む、水中油型乳化物の形態の農学的配合物を調製するプロセス。
【請求項12】
請求項1に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物の少なくとも1回有効用量を作物植物に施用することを含み、
前記濃縮物は未希釈形態又は水中油型乳化物を形成する水での希釈形態で施用される、
作物植物中の線虫を防除する方法。
【請求項13】
作物植物における殺線虫剤としての、請求項1に記載の農業化学的な乳化可能濃縮物の使用であって、
前記濃縮物は未希釈形態又は水中油型乳化物を形成する水での希釈形態で施用される、
前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアリルイソチオシアネートを含む乳化可能濃縮物及び作物植物における殺線虫剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
農業土壌の害虫駆除又は殺菌は、土壌に棲み農作物に被害を与える動物寄生虫及び植物寄生虫の両方から土壌を清浄化することを可能とする行為である。
この行為を実現するために種々の物理的又は化学的なシステムがあり、太陽光への曝露、土壌への蒸気の注入、又は燻蒸作用を有する化学物質による処理が挙げられ、ここで前記化学物質は燻蒸剤とも呼ばれ、土壌上に適切に分布させられる若しくは土壌中に適切に取り込まれると、抗寄生生物的作用を発揮する。
【0003】
燻蒸剤は、ある特定の温度及び圧力条件において、土壌中の対象とする寄生生物の除去を可能とするのに十分な濃度及び時間、ガス状態で存在することが可能であるという性質を有する製品である。
しかしながら、燻蒸剤は一般に皮膚及び眼を刺激する揮発性化合物であり、また、腐食性でときには可燃性であるため、燻蒸剤は密閉容器から保存タンクに静かに移す(decant)必要があり、その後の農業における施用は適切な個人保護具を装着した専門取扱者(プロフェッショナルユーザー)により行わなければならない。
【0004】
現在用いられている種々の燻蒸剤の中で、からし油に存在する天然由来の化合物であり、それが有する優れた殺真菌、殺細菌及び殺線虫効能が知られているアリルイソチオシアネート(AITC)を挙げることができる。
この物質は、従来、土壌中に存在する植物病原体を効率的に防除するために、例えば70重量%超といった非常に高いAITC濃度を有する配合物で専門人員により施用されている。
【0005】
しかし、この技術の優れた有効性にもかかわらず、燻蒸は現在、管理が複雑なプロセスであり、高コストを伴う。
【発明の概要】
【0006】
以上を考慮して、本出願人は、比較的低濃度のアリルイソチオシアネート、特に公知技術の配合物よりも低いアリルイソチオシアネート濃度を含み、このために農業分野での使用がより容易であり、ただし同時に高い燻蒸効能を示す配合物を特定するという目標を設定した。
【0007】
特に、本発明の課題は、燻蒸剤の使用について適切に訓練されたプロフェッショナルなユーザーに頼る必要無く、農業セクターの全ての操作者によって用いることができる有効な配合物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本出願人は、以下の記載でよりよく説明する上記課題及びその他の課題が、少なくとも1種の植物油に溶解されたアリルイソチオシアネートを含む乳化可能濃縮物を用いることにより少なくとも部分的には解決できることをここに見出した。アリルイソチオシアネートの溶媒として植物油を用いることで、経時的に驚くほど安定な乳化可能濃縮物であって、該乳化可能濃縮物を用いて、水による希釈の後に均一で安定な水中油乳化物を容易に得ることが可能な前記乳化可能濃縮物を得ることが可能となる。前記乳化可能濃縮物は比較的低濃度のAITCを農業化学的活性成分として含みながらも、十分な殺線虫活性を示す。
【0009】
したがって、本発明の第1の対象は、
●アリルイソチオシアネート
●少なくとも1種の植物油
●少なくとも1種のノニオン性界面活性剤
●少なくとも1種のアニオン性界面活性剤
を含む、農業化学的な乳化可能濃縮物である。
【0010】
本発明の第2の対象は、前記農業化学的な乳化可能濃縮物の、作物植物中の線虫の防除のための使用である。
【0011】
好ましくは、アリルイソチオシアネートは前記乳化可能濃縮物中に、前記乳化可能濃縮物の重量に対して1重量%~70重量%、より好ましくは5重量%~45重量%、よりいっそう好ましくは15重量%から25重量%の範囲内の量で存在する。
【0012】
好ましくは、前記植物油は、C1~C6アルキル基でエステル化された誘導体を含め、ナタネ油、ダイズ油、オリーブ油、ヒマシ油、アマニ油、から選ばれる。
【0013】
植物油のエステル化された誘導体は、植物油を短鎖アルコール(C1~C6)、例えばメタノール、エタノール、ブタノール及びペンタノール、でトランスエステル化して、あるいは、植物油の鹸化に由来する脂肪酸分を前記同様のアルコールでエステル化して得られたものであってもよい。
【0014】
好ましくは、前記植物油はナタネ油であり、より好ましくは前記植物油はナタネ油のC1~C6エステルであり、いっそう好ましくは前記植物油はナタネ油のメチルエステルである。
【0015】
前記植物油は前記乳化可能濃縮物の所望の総量(total volume)を得るのに適した量で存在する。一般に、前記植物油は前記乳化可能濃縮物中に、前記乳化可能濃縮物の重量に対して1重量%~90重量%、好ましくは40重量%~70重量%の範囲内の総量で存在する。
【0016】
上記のように、本出願人は、アリルイソチオシアネートの溶媒として植物油を用いることで、この農業化学的に活性な成分を含む乳化可能濃縮物であって、経時的に驚くほど安定で、かつ水による希釈の後に均一で安定な乳化物を形成する高い性向(propensity)を有する前記乳化可能濃縮物を得ることが可能となることを見出した。
【0017】
当業者にはよく知られているように、農業化学的な乳化可能濃縮物とは、特定の種類の農学的液体配合物であって、農業化学的に活性な成分が、乳化剤等の界面活性剤、濡れ剤、消泡剤、不凍剤、及び生物学的活性化剤の存在下で、水に実質的に非混和性な溶媒に溶解している農学的液体配合物であり、それらの剤は前記農学的液体配合物を農業における用途により適したものとする。
【0018】
本発明によれば、前記乳化可能濃縮物は、少なくとも1種のノニオン性界面活性剤及び1種のアニオン性界面活性剤を含む。
【0019】
前記ノニオン性界面活性剤は主に乳化剤の機能を果たす-つまり、前記乳化可能濃縮物中にノニオン性界面活性剤が存在することで、乳化可能濃縮物の希釈に用いられる水に対する油相の乳化が促進され、最終的な、そのまま使用可能な(ready-to-use)配合物が均質となる。
【0020】
好ましくは、前記少なくとも1種のノニオン性乳化界面活性剤は、エトキシル化ブロック共重合体、エト-プロポキシル化ブロック共重合体(etho-propoxylated block copolymers)、エトキシル化トリスチリルフェノール、エト-プロポキシル化トリスチリルフェノール(etho-propoxylated tristyrylphenols)、エトキシル化トリスチリルフェノールフォスフェート(酸形態)、エトキシル化トリスチリルフェノールサルフェート(酸形態)、ソルビタンモノラウレート、エトキシル化ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、エトキシル化ソルビタンモノオレエート、エトキシル化植物油、エトキシル化脂肪アルコール(ethoxylated fatty alcohol)、オルガノシリコン化合物、及びこれらの混合物から選択される。より好ましくは、前記少なくとも1種のノニオン性界面活性剤はエト-プロポキシル化トリスチリルフェノールである。
【0021】
好ましくは、前記少なくとも1種のノニオン性界面活性乳化剤は、前記乳化可能濃縮物中に、前記乳化可能濃縮物の重量に対して1重量%~20重量%、より好ましくは5重量%~15重量%、の範囲内の総量で存在する。
【0022】
好ましくは、前記少なくとも1種のアニオン性界面活性剤は、エトキシル化トリスチリルフェノールフォスフェート(塩形態(salified form))、エトキシル化トリスチリルフェノールサルフェート(塩形態(salified form))、カルシウムドデシルベンゼンスルホネート、及びこれらの混合物から選択される。より好ましくは、前記少なくとも1種のアニオン性界面活性剤は、カルシウムドデシルベンゼンスルホネート及びエトキシル化トリスチリルフェノールフォスフェート(塩形態(salified form))から選択される。
【0023】
前記少なくとも1種のアニオン性界面活性剤は前記乳化可能濃縮物中に、前記乳化可能濃縮物の重量に対して1重量%~20重量%、より好ましくは1重量%~10重量%、の範囲内の総量で含まれている。
【0024】
所望によっては(optionally)、本発明に係る乳化可能濃縮物は、上に記載した共配合成分以外の共配合成分をさらに含んでいてもよい。その例としては、例えば、乳化可能濃縮物の生物学的活性を向上させるための化合物、ドリフト防止剤、浸透剤、濡れ剤、消泡剤、安定化剤、封鎖剤(sequestering agents)、防食剤、粘着付与剤、等々が挙げられる。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明に係る農業化学的な乳化可能濃縮物は、(乳化可能濃縮物の重量に対する重量%で)
●5重量%~45重量%、好ましくは15重量%~25重量%、のアリルイソチオシアネート
●5重量%~15重量%の少なくとも1種のノニオン性界面活性剤
●1重量%~10重量%の少なくとも1種のアニオン性界面活性剤
●前記乳化可能濃縮物の重量を100重量%にするのに必要な残余分に等しい量の少なくとも1種の植物油
を含む。
【0026】
本発明の乳化可能濃縮物の調製は、成分の混合順に特に制限を設けることなく所望の比で成分を混合することで、当業者に知られた方法により行うことができる。
【0027】
例えば、第1のステップでは活性成分であるアリルイソチオシアネートを植物油に溶解することができ;第2のステップでは第1のステップで得られた混合物に少なくとも1種のノニオン性界面活性剤及び少なくとも1種のアニオン性界面活性剤が添加される。
【0028】
ある代替的なプロセスによれば、アリルイソチオシアネートは、植物油、ノニオン性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤を含む混合物に添加される。
【0029】
本発明に係る乳化可能濃縮物は高レベルの殺線虫活性を示すが、該乳化可能濃縮物が施用される作物に対しては植物毒性を示すことがない。
【0030】
さらに、本発明の乳化可能濃縮物が有するアリルイソチオシアネート濃度は、技術水準の燻蒸剤で一般的に用いられているアリルイソチオシアネート濃度よりも低いが、本発明の乳化可能濃縮物の生物学的有効性は、技術水準の燻蒸剤の生物学的有効性に完全に比肩するものである。加えて、本発明に係る乳化可能濃縮物は施用の簡易性がより大きいという利点を有している。なぜなら、前記乳化可能濃縮物は、作物植物の処理のためにノンプロのユーザーに安全に用いることもできるからである。
【0031】
本発明の農業化学的な乳化可能濃縮物を用いて防除することが可能な線虫の例としては、プラティレンクス属の各種(Pratylenchus spp.)、グロボデラ属の各種(Globodera spp.)、ヘテロデラ属の各種(Heterodera spp.)、メロイドジネ属の各種(Meloidogyne spp.)、アフェレンコイデス属の各種(Aphelenchoides spp.)、ラドフォルス・シミリス(Radopholus similis)、ジチレンクス・ジプサシ(Ditylenchus dipsaci)、チレンクス・セミペネトランス(Tylenchulus semipenetrans)、ロンジドラス属の各種(Longidorus spp.)、ジフィネマ属の各種(Xiphinema spp.)、トリコドルス属の各種(Trichodorus spp.)、ブルサフェレンクス(Bursaphelenchus spp.)、ベロノライムス属の各種(Belonolaimus spp.)、等々が挙げられる。
【0032】
本発明の農業化学的な乳化可能濃縮物を線虫の防除に用いることができる作物植物の例としては、果樹、コーヒー、ココア、野菜、芝土(turf)、並びに、コメ、小麦、及びダイズ等の広範な作物が挙げられる。
【0033】
本発明の別の対象は、本開示の農業化学的な乳化可能濃縮物の少なくとも1回有効用量を作物植物に施用することを含む、作物植物中の線虫を防除する方法である。
【0034】
本発明に係る乳化可能濃縮物は、そのまま又は希釈形態で、植物の任意の部分に施用することができ、例えば葉に、幹に、枝に、及び根に、又は播種の前の種子そのものに、又は植物がそこで成長する予定の土壌に、施用することができる。
【0035】
本発明に係る乳化可能濃縮物は好ましくは、水中油型乳化物を形成する、水での希釈形態で作物植物に施用される。
【0036】
本発明に係る乳化可能濃縮物は、該濃縮物を水と組み合わせ、この際に、所望によっては(optionally)他の成分、例えば濡れ剤、乳化剤、等々、を存在させることで、水中油型乳化物を調製するのに用いることができる。これら追加的な成分も存在してよく、あるいはこれら追加的成分は前記乳化可能濃縮物を希釈するのに用いられる水の中にだけ存在してもよい。
【0037】
このため、本発明のさらなる対象は、
●少なくとも1種の、本発明に係る乳化可能濃縮物を準備すること、
●前記乳化可能濃縮物を水で希釈して、水中油型乳化物の形態の農学的配合物を得ること、
を含む、水中油型乳化物の形態の農学的配合物を調製するプロセスである。
【0038】
水は、必要な水中油型乳化物量(volume)を達成するのに必要な量、添加される。
【0039】
所望の農業化学的効果を得るために作物植物に施用される前記乳化可能濃縮物の量又は対応する(relative)乳化物の量は、種々の因子、例えば、当該作物、気候条件、土壌特性、施用方法、等々、に応じて変動しうる。
【0040】
本発明をよりよく例示するために、以下の実施形態例を与えるが、これらは例示的なものであって非限定的であると理解されるべきである。
【実施例
【0041】
実施例1:アリルイソチオシアネートを含む乳化可能濃縮物
表1に示す組成を有する乳化可能濃縮物IRF265-2を本発明に従って調製した。
前記油分散物の調製に用いられる市販品は以下のとおりである:
●Amesolv CME、これはナタネ油脂肪酸(複数形)のメチルエステル(複数形)の混合物である
●Soprophor 796/P、これはエト-プロポキシル化トリスチリルフェノールである。
●Rhodacal 60/BE、これはベンゼンスルホン酸のカルシウム塩である。
【0042】
【表1】
【0043】
乳化可能濃縮物IRF265-2をCipac MT46.1に準拠した加速安定性試験に供した。この試験は加熱により製品のエージングを加速させることを狙ったものである。この試験により、室温で2年の保存をした後の配合物の安定性をシミュレーションすることが可能である。
【0044】
以下の手順を用いた。ある量(例えば500mL)の配合物を密閉容器中に置き、14日間、54℃のヒーター中に放置した。この後に、前記容器をヒーターから取り出し、室温に戻るに任せた。それにより、配合物がフロキュレーション、凝集(aggregation)、又は結晶成長等の、相分離あるいはその他の物理的不安定性の現象を示さなかったことが視覚的に実証された。活性農業化学的成分の化学的安定性も実証され、また、水による希釈後に加速安定性試験にかけられた分散物の品質も実証される。
前記IRF265-2サンプルは熱処理の最後においても均一な状態のままで、加速エージング試験に合格した。
【0045】
実施例2:植物寄生性線虫に対する殺線虫活性の判定
検証対象の製品の殺線虫活性を試験することを目的とした試験を、植物寄生性線虫の種(species)が自然にまん延している土壌中で、保護された栽培条件又はオープンフィールドで行った。実験の開始前に、寄生生物の存在の質-量的評価を、土壌サンプルを取得して分析することで行った。
【0046】
試験された製品は全てファーティゲーションにより施用したが、これは、直径16mmで、供給孔(dispensing holes)同士の間の距離が10cmであるホースを、処理領域の全長に沿って地表に広げられたレイフラットに接続して行った。レイフラットは、水を灌水システムから引き込んでベンチュリーシステムによりその水に製品を直接混合するポンプに接続されていた。レイフラットの始点及び終点のところで接続した圧力計により、処理システム内部の水圧をチェックすることが可能であった。レイフラットに直交して広がったホースは、燻蒸剤製品を施用するのに適したプラスチックシートで覆われた。処理の前に、土壌を適切に灌水して、土壌中における活性成分の分散を促進した。
【0047】
以下の製品を試験した。
●実施例1の乳化可能濃縮物IRF265-2
●Dominus(商標)、これは96.3重量%のAITCを含む市販燻蒸剤である
●Vapam(商標)、これはメタムナトリウム(Metam-sodium)を38.8重量%含む市販の燻蒸剤である。
試験された製品を水で希釈した後に裸地土壌(bare soil)に施用した:ここで、IRF265-2及びDominus(商標)は播種又は移植の14日前に、Vapam(商標)はそのラベルに従って、施用した。
【0048】
製品の性能評価は、
植物毒性的影響の検出(0~10のスケールを使用:0=症状無し、10=死滅されられた植物(destroyed plant))、
植物の成長の判定(1~5のスケールにより、又はNDVI「正規化植生指標」により測定)、及び
線虫に対する有効性(土壌中に存在するJ2幼虫の数を分析することによる、又はBridge&Pageスケールを用いて根系の根こぶ線虫まん延指標を評価することによる)
を含んでいた。
【0049】
以下の表(複数)は異なる作物及び線虫種に対して行われた試験から収集されたデータを示す(1 USガロン/エーカー=9.35L/ヘクタール)。
表2はある種の根こぶ線虫(Meloidogyne spp.)がまん延したタマネギについての試験の結果を示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表3はコロンビアネコブセンチュウ(Meloidogyne chitwoodi)がまん延したジャガイモについての試験の結果を示す。
【表3】
【0052】
表4はミナミネグサレセンチュウ(Pratylenchus coffeae)がまん延したジャガイモについての試験の結果を示す。
【表4】
【0053】
表5はサツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)がまん延したキュウリについての試験の結果を示す。
【表5】
【0054】
種々の線虫に対して種々の作物上で行われた実験で得られた結果から、配合物を同じ用量で施用した場合、本発明に係る製品IRF265-2は、農業化学的活性成分であるアリルイソチオシアネートを20%しか含んでいないにも関わらず、市販品Dominus(商標)と完全に比肩しうる効能及び選択性を示すと結論づけることができる。
【0055】
実施例3:安定性試験
乳化可能濃縮物IRF265-2をさらなる安定性試験(Cipac MT 36による)に供して、製品の水中油型乳化物の24時間後における安定性を評価した。比較のため、植物油以外の溶媒を含む乳化可能濃縮物もいくつか調製し(参考1~参考3)、続いて同じ安定性試験に供した。調製され試験された乳化可能濃縮物の組成を表6に示す。
【0056】
【表6】
【0057】
安定性試験のため、試験MT36に従って、標準D Cipac水(硬度342ppm)に乳化可能濃縮物配合物を5%v/vの濃度で注いだ。以下の手順を用いた:100mL目盛り付きガラスシリンダーに95mLの標準Cipac D水を満たし、5mLの乳化可能濃縮物を添加して、ガラスシリンダーをガラス栓で栓をする。シリンダーを30回ひっくり返し、30℃に静置し、形成された乳化物の安定性を30分後、2時間後、及び24時間後に観察する。30分後、2時間後、及び24時間後におけるこれらの乳化可能濃縮物の安定性に関する観察を表7に報告する。
【0058】
【表7】
【0059】
「安定」の語は、乳化物中に油の分離も不均一性も検出されないことを意味する。「n.d.」の語は、未決定を表す。
表7から分かるように、本発明に係る乳化可能濃縮物IRF265-2は24時間後でも安定であった一方、比較のものは2時間後ですでに不安定であった。
【国際調査報告】