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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】仮想現実治療システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/70 20180101AFI20220831BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20220831BHJP
   A61B 5/0533 20210101ALI20220831BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20220831BHJP
   A61B 3/113 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G16H20/70
G06F3/01 510
A61B5/0533
A61B5/16 100
A61B3/113
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575962
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2020065707
(87)【国際公開番号】W WO2020254127
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】1908647.9
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521552888
【氏名又は名称】オックスフォード・ブイ・アール・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD VR LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリーマン,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】フリーマン,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】ロビラ,アイトール
(72)【発明者】
【氏名】ローイ,チュン・イェン
(72)【発明者】
【氏名】ファウシェランド,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】コルデイロ,メアリー・アン
(72)【発明者】
【氏名】パテル,リアーナ
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
4C316
5E555
5L099
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PS00
4C038PS01
4C127AA06
4C127GG15
4C127GG18
4C316AA21
4C316AA30
4C316AB16
4C316FA01
4C316FZ01
5E555AA27
5E555AA47
5E555AA48
5E555BA04
5E555BA22
5E555BB04
5E555BB22
5E555BC08
5E555BE17
5E555CB64
5E555CB65
5E555CB66
5E555CB69
5E555DA08
5E555DA23
5E555DB32
5E555DC57
5E555DD06
5E555EA05
5E555EA07
5E555EA09
5E555EA14
5E555EA19
5E555FA00
5L099AA15
(57)【要約】
心理療法を患者に提供するための仮想現実(VR)治療システム。本システムは、少なくとも、音声生成能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットおよびVR入力装置、ならびに1つ以上のコンピュータを含む。本システムは、仮想環境において、対話タスクを含む治療シナリオのセットを患者に提示するよう構成される。患者キャラクタが、仮想環境内でタスクキャラクタと対話し、そのときの一部に、コーチキャラクタがいる。本システムは、仮想環境において、患者キャラクタとタスクキャラクタとの対話の1つ以上の特性を測定することによって精神的不安状態パラメータを判定し、タスクの遂行を監視し、精神的不安状態パラメータおよび/または遂行に応答して、コーチキャラクタを用いて、仮想環境において言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトの一方または両方を含むVRフィードバックを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムであって、
仮想環境を提供するためのVRシステムを備え、前記VRシステムは、少なくとも、音声生成能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットとVR入力装置とを含み、前記VR治療システムはさらに、
前記VRシステムまたはその一部に結合される1つ以上のコンピュータを備え、前記1つ以上のコンピュータは、
前記VRシステムを用いて前記仮想環境内において前記患者に治療シナリオのセットを提示するよう構成され、各治療シナリオは、前記VRシステムと対話することによって前記仮想環境内において前記患者によって遂行されるべき少なくとも1つのシナリオタスクを含み、
前記患者は、前記仮想環境内において患者キャラクタによって表現され、前記シナリオタスクの少なくとも1つは、少なくとも、前記患者キャラクタが前記仮想環境内でタスクキャラクタと対話する対話タスク、または前記患者キャラクタが前記仮想環境内において1つ以上のオブジェクトに関して非言語活動を遂行する非言語活動タスクを含み、その時の少なくとも一部において、前記仮想環境はコーチキャラクタの表現を含み、前記1つ以上のコンピュータはさらに、
前記仮想環境において、前記患者キャラクタと前記タスクキャラクタまたは前記1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性を測定することによって、前記患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定し、
前記仮想環境において前記シナリオタスクの遂行を監視し、
前記シナリオタスクの非遂行および前記精神的不安状態パラメータによって示される患者の精神的不安の状態の一方または両方に応答して、
前記仮想環境における前記シナリオタスクの完了において、前記コーチキャラクタを用いて、前記仮想環境において言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトの一方または両方を含むVRフィードバックを提供することによって、前記患者を支援するよう構成される、VR治療システム。
【請求項2】
前記精神的不安状態パラメータを判定することは、前記仮想環境において、注視方向、前記患者キャラクタの前記タスクキャラクタに対する近接度、前記タスクキャラクタの言語表現に応答する時間、前記1つ以上のオブジェクトに関連して活動する時間、のうちの1つ以上を測定することを含む、請求項1に記載のVR治療システム。
【請求項3】
前記患者キャラクタと前記タスクキャラクタまたは前記1つ以上のオブジェクトとの前記対話の1つ以上の特性を受信するための1つ以上の入力と、前記患者の前記精神的不安状態を表す前記精神的不安状態パラメータを提供するための出力とを有する、患者状態ニューラルネットワークをさらに含む、請求項1または2に記載のVR治療システム。
【請求項4】
前記コーチキャラクタからの前記フィードバックは発話を含み、前記VRシステムは、前記患者が実世界にあり、前記仮想環境から離れているときに、患者活動度および患者不安の程度の一方または両方を監視し、前記監視に応答して、前記患者がいつストレスの多い実世界の状況にあるかを識別し、前記識別に応答して、前記患者が前記実世界にあり、前記仮想環境から離れているときに、実世界フィードバックを提供するよう構成される患者モバイルデバイスをさらに備え、前記実世界フィードバックは、前記仮想環境における前記コーチキャラクタの声での前記患者への発話音声出力を含む、請求項1、2または3に記載のVR治療システム。
【請求項5】
前記1つ以上のコンピュータは、さらに、前記患者が前記仮想環境において前記治療シナリオにある間に前記患者から患者データを捕捉するよう構成され、前記患者モバイルデバイスは、前記捕捉されたデータを用いて前記実世界フィードバックを提供するよう構成される、請求項4に記載のVR治療システム。
【請求項6】
前記患者モバイルデバイスは、前記患者不安の程度を判定するために、前記実世界にあり前記仮想環境から離れた前記患者の心拍数および/または電流皮膚反応および/またはコルチゾールレベルを監視するためのウェアラブルデバイスを備えるかまたは前記ウェアラブルデバイスからなる、請求項4または5に記載のVR治療システム。
【請求項7】
前記治療シナリオのセットは、異なる治療シナリオのセットを含み、各治療シナリオは、前記患者が困難と感じる実世界シナリオをシミュレートするよう構成され、各治療シナリオは、難易度レベルのセットを有し、前記1つ以上のコンピュータは、さらに、前記コーチキャラクタを含む歓迎室VRシナリオを提供するよう構成され、前記歓迎室内で、前記患者キャラクタは、前記治療シナリオの1つおよび選択された治療シナリオについての難易度レベルを選択することができ、前記難易度レベルは、前記治療シナリオについて以前に完了した難易度レベル以上である、先行する請求項のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項8】
前記1つ以上のコンピュータは、さらに、背景ノイズレベル、選択された治療シナリオにおけるタスクキャラクタの数、前記選択された治療シナリオの持続時間、前記仮想環境における前記タスクの位置、および前記タスクキャラクタの挙動、のうちの1つ以上を修正することによって、前記難易度レベルを変更するように、前記選択された治療シナリオを修正するよう構成される、先行する請求項のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項9】
患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムであって、
仮想環境を提供するためのVRハードウェアを備え、前記VRハードウェアは、少なくとも、音声生成能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットとVR入力装置とを含み、前記VR治療システムはさらに、
前記VRハードウェアまたはその一部に結合されるコンピュータを含み、前記VR治療システムは、
前記VRシステムを用いて前記仮想環境において前記患者に治療空間領域のセットを提示するようVR環境モジュールを実現するよう構成され、各治療空間領域は、前記VRシステムと対話することによって前記仮想環境において前記患者によって遂行されるべき少なくとも1つの患者活動タスクを含み、前記患者は、前記仮想環境内において患者キャラクタによって表現され、前記患者活動タスクの少なくとも1つは、少なくとも、前記患者キャラクタが前記仮想環境内でタスクキャラクタと対話する対話タスク、または前記患者キャラクタが前記仮想環境内において1つ以上のオブジェクトに関して非言語活動を遂行する非言語活動タスクを含み、その時の少なくとも一部において、前記仮想環境はコーチキャラクタの表現を含み、前記VR治療システムはさらに、
前記仮想環境において、前記患者キャラクタと前記タスクキャラクタまたは前記1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性を測定することによって、前記患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定するよう精神的不安測定モジュールと、
前記仮想環境における前記患者活動タスクの遂行を監視するよう遂行監視モジュールと、
前記患者活動タスクの非遂行および前記精神的不安状態パラメータによって示される患者精神不安の状態の一方または両方を検出するよう検出器モジュールと、
前記仮想環境における前記患者活動タスクの完了において、前記コーチキャラクタを用いて、前記患者精神不安の状態の検出に応答して、前記仮想環境において言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトの一方または両方を含むVRフィードバックを提供することによって、前記患者を支援するよう患者フィードバックモジュールとを実現するよう構成される、VR治療システム。
【請求項10】
患者に心理療法を提供するために仮想現実(VR)治療システムを制御する方法であって、前記VR治療システムは、仮想環境を提供するようVRハードウェアを備え、前記VRシステムは、少なくとも、音声生成能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットおよびVR入力装置、ならびに前記VRハードウェアまたはその一部に結合される1つ以上のコンピュータを含み、前記方法は、
前記VRシステムを用いて前記仮想環境内において前記患者に治療シナリオのセットを提示することを含み、各治療シナリオは、前記VRシステムと対話することによって前記仮想環境内において前記患者によって遂行されるべき少なくとも1つのシナリオタスクを含み、
前記患者は、前記仮想環境内において患者キャラクタによって表現され、前記シナリオタスクの少なくとも1つは、少なくとも、前記患者キャラクタが前記仮想環境内でタスクキャラクタと対話する対話タスク、または前記患者キャラクタが前記仮想環境内において1つ以上のオブジェクトに関して非言語活動を遂行する非言語活動タスクを含み、その時の少なくとも一部において、前記仮想環境はコーチキャラクタの表現を含み、前記方法はさらに、
前記仮想環境において、前記患者キャラクタと前記タスクキャラクタまたは前記1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性を測定することによって、前記患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定することと、
前記仮想環境において前記シナリオタスクの遂行を監視することと、
前記シナリオタスクの非遂行および前記精神的不安状態パラメータによって示される患者の精神的不安の状態の一方または両方に応答して、
前記仮想環境における前記シナリオタスクの完了において、前記コーチキャラクタを用いて、前記仮想環境において言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトの一方または両方を含むVRフィードバックを提供することによって、前記患者を支援することとを含む、方法。
【請求項11】
実行時に、請求項10に記載の方法を実現するソフトウェアを担持する、1つ以上の記憶媒体。
【請求項12】
患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムであって、
コンピュータシステムと、
前記コンピュータシステムに結合されるかまたは前記コンピュータシステムを含む、患者のためのヘッドマウントディスプレイユニットと、
前記患者によって遂行される患者活動を検出するための1つ以上のセンサとを備え、前記センサは、前記コンピュータシステムに接続され、
前記コンピュータシステムは、
前記ディスプレイユニットに、患者キャラクタのために仮想環境を表示させるよう構成され、前記仮想環境は、治療シナリオにおけるタスクキャラクタと、一時的または常設的にコーチキャラクタとを含み、前記コンピュータシステムはさらに、
前記ディスプレイユニットに、前記タスクキャラクタに関連して事前定義された活動を遂行するように前記患者を促すようにさせ、
前記センサを用いて、前記患者が第1の期間内に前記事前定義された活動を遂行したかどうかを判定し、
前記患者が、前記第1の期間内に前記事前定義された活動を遂行していないとの判定に応答して、前記ディスプレイユニットに、前記コーチキャラクタに、前記患者が前記事前定義された活動を遂行するよう追加のプロンプトを提供させるようにさせるように構成される、VR治療システム。
【請求項13】
前記コンピュータシステムは、さらに、
前記追加のプロンプトの後、前記患者が第2の期間内に前記事前定義された活動を遂行したかどうかを判定し、
前記患者が前記事前定義された活動を遂行したと判定することに応答して、前記ディスプレイユニットに、前記仮想環境を、前記仮想環境における異なる治療シナリオに、または前記治療シナリオの次のレベルに進行させ、
前記患者が前記期間内に前記事前定義された活動を遂行していないとの判定に応答して、前記仮想環境から前記患者を退出させる退出シーケンスを開始するよう構成される、請求項12に記載のVR治療システム。
【請求項14】
前記患者の手の動きを追跡するハンドコントローラシステムをさらに備え、前記ハンドコントローラシステムは、前記1つ以上のセンサのうちのあるセンサを備え、前記事前定義された活動は、前記仮想環境内において仮想オブジェクトに触れること、前記仮想オブジェクトを保持すること、または前記仮想オブジェクトを移動させることを含む、請求項12または13に記載のVR治療システム。
【請求項15】
前記1つ以上のセンサはマイクロフォンを含み、前記事前定義された活動は、前記タスクキャラクタに話しかけることを含む、請求項12、13または14に記載のVR治療システム。
【請求項16】
前記コンピュータシステムは、さらに、前記患者の挙動に関する1つ以上の入力パラメータを取得し、前記入力パラメータの1つ以上に基づいて前記第1の期間を調整するよう構成される、請求項12~15のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項17】
前記1つ以上の入力パラメータのうちのある入力パラメータは、前記1つ以上のセンサから前記コンピュータシステムによって受信される入力に依存する、請求項16に記載のVR治療システム。
【請求項18】
前記1つ以上のセンサは、前記ヘッドマウントディスプレイユニットに取り付けられる視線追跡装置を含み、前記入力パラメータは、前記仮想環境の事前定義された領域を見ている前記患者によって費やされる時間に依存する、請求項17に記載のVR治療システム。
【請求項19】
前記1つ以上の入力パラメータのうちのある入力パラメータは、前記コンピュータシステムによって遠隔データストアから取り出される、請求項16、17または18に記載のVR治療システム。
【請求項20】
前記コンピュータシステムは、さらに、前記治療シナリオを表示する前に、前記ディスプレイユニットに、前記コーチキャラクタは含むが前記タスクキャラクタは含まない初期の歓迎仮想環境を表示させるよう構成される、請求項12~19のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項21】
前記コンピュータシステムは、前記患者が前記事前定義された活動を遂行したとの判定に応答して、前記ディスプレイユニットに、前記仮想環境を前記治療シナリオの次のレベルに進行させるよう構成される、請求項12~20のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項22】
前記コーチキャラクタは、前記追加のプロンプトを与えるべく前記患者キャラクタに話しかけることによって、前記仮想環境において前記患者キャラクタと対話し、前記VR治療システムは、患者モバイルデバイスをさらに備え、前記患者モバイルデバイスは、前記患者の不安レベルを感知するための患者センサ入力と、音声出力とを有し、前記モバイルデバイスは、前記患者が実世界にあり、前記仮想環境から離れているときに、前記患者センサ入力からのデータを処理して、前記患者の不安レベルを監視し、前記検出された不安レベルに応答して音声出力を提供するよう構成され、前記音声出力は、前記コーチキャラクタの声での前記患者への指示を含む、請求項12~21のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項23】
前記患者モバイルデバイスは、前記患者の心拍数および電流皮膚反応の一方または両方を監視して前記患者の不安レベルを感知するためのウェアラブルデバイスを備えるかまたは前記ウェアラブルデバイスからなり、前記音声出力は、増大した不安レベルの検出に応答して与えられる、請求項22に記載のVR治療システム。
【請求項24】
患者デバイスおよび遠隔サーバをさらに備え、
前記遠隔サーバは、前記コンピュータシステムから、前記患者が前記仮想環境において前記治療シナリオにある間に収集される患者データを受信するよう構成され、前記患者データは、前記仮想環境治療シナリオにおける前記患者の遂行を表し、
前記患者デバイスは、前記遠隔サーバと通信し、前記仮想環境治療シナリオにおける前記患者の前記遂行に応じて前記患者にデータを出力して、前記仮想環境治療シナリオに対応する実世界シナリオにおける前記患者の遂行を容易にするよう構成される、請求項12~23のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項25】
前記患者デバイスは、前記仮想環境治療シナリオに対応する前記実世界シナリオにおける前記患者の前記遂行に依るさらなる患者データを収集し、前記さらなる患者データを前記遠隔サーバを介して前記コンピュータシステムに送信するよう構成され、
前記遠隔サーバは、さらに、前記仮想環境治療シナリオが前記実世界シナリオにおける前記患者の前記遂行に応じて適合されるように、前記さらなる患者データに依って前記仮想環境治療シナリオを調整するよう構成される、請求項24に記載のVR治療システム。
【請求項26】
前記患者におけるコルチゾールのレベルを感知するためのコルチゾールセンサをさらに備え、前記VR治療システムは、前記患者におけるコルチゾールのレベルに応じて前記シナリオタスクまたは事前定義された活動の遂行の程度を判定するように、または前記患者における前記コルチゾールのレベルに応じて前記仮想環境における提示のためにシナリオタスクまたは事前定義された活動を決定するよう構成される、請求項1~9および12~25のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項27】
前記VR治療システムは、前記患者から患者データを収集するよう構成され、前記患者データは、前記シナリオタスクまたは事前定義された活動における前記患者の遂行を特徴付け、前記VR治療システムは、さらに、前記患者データを処理して、前記仮想環境において前記患者に提示するための治療シナリオもしくは治療シナリオのレベルまたはいくつかの治療シナリオもしくはいくつかの治療シナリオのレベルを決定するよう構成される機械学習サブシステムまたはモジュールを備える、請求項1~9および12~25のいずれか1項に記載のVR治療システム。
【請求項28】
患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムであって、
仮想環境を提供するためのVRシステムを備え、前記VRシステムは、少なくとも、音声生成能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットとVR入力装置とを含み、前記VR治療システムはさらに、
前記VRシステムまたはその一部に結合される1つ以上のコンピュータを備え、前記1つ以上のコンピュータは、
前記VRシステムを用いて前記仮想環境内において前記患者に治療シナリオのセットを提示するよう構成され、各治療シナリオは、前記VRシステムと対話することによって前記仮想環境内において前記患者によって遂行されるべき少なくとも1つのシナリオタスクを含み、
前記患者は、前記仮想環境内において患者キャラクタによって表現され、前記シナリオタスクの少なくとも1つは、少なくとも、前記患者キャラクタが前記仮想環境内でタスクキャラクタと対話する対話タスク、または前記患者キャラクタが前記仮想環境内において1つ以上のオブジェクトに関して非言語活動を遂行する非言語活動タスクを含み、その時の少なくとも一部において、前記仮想環境はコーチキャラクタの表現を含み、前記1つ以上のコンピュータはさらに、
i)前記仮想環境内における前記患者キャラクタと前記タスクキャラクタもしくは前記1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性、またはii)実世界における前記患者の心拍数、電流皮膚反応、およびコルチゾールレベルのうちの1つ以上を感知するセンサデータを受信するようニューラルネットワーク入力を有する患者状態ニューラルネットワークを実現し、前記患者状態ニューラルネットワークを用いて前記ニューラルネットワーク入力を処理して、前記患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定し、
前記仮想環境において前記シナリオタスクの遂行を監視し、
前記シナリオタスクの非遂行および前記精神的不安状態パラメータによって示される患者の精神的不安の状態の一方または両方に応答して、
前記仮想環境における前記シナリオタスクの完了において、i)前記コーチキャラクタを用いて、前記仮想環境において言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトの一方もしくは両方を含むVRフィードバックを提供すること、またはii)前記治療シナリオの難易度を変更するように前記治療シナリオを修正することによって、前記患者を支援するよう構成される、VR治療システム。
【請求項29】
前記患者状態ニューラルネットワークは、前記ニューラルネットワーク入力を受信し、前記ニューラルネットワーク入力の潜在的表現を生成するよう構成される1つ以上の初期入力ニューラルネットワーク層と、前記1つ以上の入力ニューラルネットワーク層に結合される中間層入力と、中間層出力とを有する、少なくとも1つの中間ニューラルネットワーク層と、ニューラルネットワーク出力を生成するよう前記中間層出力に結合される入力を有する1つ以上の出力層とを含み、前記ニューラルネットワーク出力は、可能な患者不安値の離散セットにわたってスコア分布を定義し、前記患者状態ニューラルネットワークは、前記スコア分布から前記精神的不安状態パラメータを生成するよう構成される、請求項28に記載のVR治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本明細書は、患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
本明細書で用いられるように、VRシステムは、仮想現実ヘッドセット、すなわち、シミュレートされた没入型の仮想環境をユーザに提供するヘッドマウントディスプレイユニットを含む。
【0003】
そのような技術の使用に関する背景先行技術は、US6,425,764;US2018/0190376;WO2019/036051、およびLancet Psychiatry 2018, 5: 625-32 Freeman et alにおいて見出すことができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
本明細書は、精神障害の治療のためのVRシステムの使用を記載する。これらは、よくある障害であるが、治療のための資源はしばしば不足している。
【0005】
したがって、第1の局面では、患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムが提供される。実現例では、VR治療システムは、仮想環境を提供するためのVRシステムと、VRシステムまたはその一部に結合される1つ以上のコンピュータとを備える。VRシステムは、少なくとも、例えば、音声生成および/または検出能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットと、1つ以上のVR入力装置、例えば、3Dマウス、手袋、ハンドヘルド制御装置、またはハンドトラッキングセンサ等の、患者の手の動きを追跡するハンドコントローラシステムとを含んでもよい。VRシステム、例えば、ヘッドマウントディスプレイは、頭部運動追跡システムを含んでもよい。VRシステムに結合される1つ以上のコンピュータは、ワークステーションであってもよく、またはスタンドアロンVRシステムでは、それらは、ヘッドマウントディスプレイユニット(ヘッドセット)に組み込まれてもよく、またはそれらは、ヘッドセットから遠隔、例えば、クラウド内にあってもよい。
【0006】
実現例では、1つ以上のコンピュータは、たとえば、患者が困難を見出す実世界のシナリオをシミュレートするために、VRシステムを用いて仮想環境内において患者に治療シナリオのセットを提示するよう構成されてもよい。各治療シナリオは、仮想環境内の空間領域によって定義されてもよい。各治療シナリオは、VRシステムと対話することによって仮想環境において患者によって遂行されるべき少なくとも1つのシナリオタスクを含んでもよく、これは、仮想環境における患者による活動、例えば、話すこと、食べること、または物理的活動を行うことを伴うため、患者活動タスクと呼ばれ得る。したがって、シナリオタスクの少なくとも1つは、少なくとも、患者キャラクタが仮想環境内でタスクキャラクタと対話する対話タスク、または患者キャラクタが仮想環境内において1つ以上のオブジェクトに関して非言語活動を遂行する非言語的、例えば物理的活動タスクを含んでもよい。
【0007】
患者は、仮想環境内において患者キャラクタによって表現されてもよい。典型的には、患者の一部のみ、例えば患者の手および/または腕が表現される。その時の少なくとも一部、例えば、プロンプトが患者に送達されているとき、仮想環境は、コーチキャラクタの表現を含んでもよい。この表現は、仮想環境におけるコーチキャラクタの3D表現であってもよく、またはコーチキャラクタの手もしくは足跡などのコーチキャラクタの態様の表現であってもよい。
【0008】
1つ以上のコンピュータは、さらに、患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定するよう構成されてもよい。これは、仮想環境において、患者キャラクタとタスクキャラクタまたは1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性を測定することによって実行されてもよい。1つ以上のコンピュータは、さらに、仮想環境においてシナリオタスクの遂行を監視するよう構成されてもよい。
【0009】
例えばある経過時間後のシナリオタスクの非遂行、および精神的不安状態パラメータによって示される患者の精神的不安の状態の一方または両方に応答して、システムは、仮想環境におけるシナリオタスクの完了において、コーチキャラクタを用いてVRフィードバックを提供することにより、患者を支援してもよい。VRフィードバックは、例えば患者の精神的不安の状態の検出に応答して、仮想環境において提供される、言語的プロンプト、すなわちコーチキャラクタによる発話と、視覚的プロンプトとの一方または両方を含んでもよい。プロンプトは、タスクを遂行するための指示もしくはガイダンスを含んでもよく、および/または、たとえば患者を落ち着かせるかもしくは励ますための話し言葉を含んでもよい。
【0010】
いくつかの実現例では、1つ以上のコンピュータは、仮想環境において1つ以上の測定を行うことによって、精神的不安状態パラメータを判定してもよい。仮想環境における測定は、仮想環境において患者キャラクタの挙動または特性を判断することを含んでもよい。実現例では、仮想環境における測定は、実世界において患者に対してバイオメトリック測定を行うことを含まない。
【0011】
たとえば、1つ以上のコンピュータは、たとえば、タスクキャラクタおよび患者キャラクタのそれぞれの位置を読み取り、それら位置間の距離メトリックを判断することによって、タスクキャラクタに対する患者キャラクタの近接度を測定してもよく、または、仮想環境内におけるタスク関連オブジェクトに対する近接度を測定してもよい。さらに、または代わりに、VRシステムは、視線追跡モジュールを含んでもよく、1つ以上のコンピュータは、仮想環境において注視方向を測定、すなわち判断してもよい。例えば、タスクキャラクタとの対話の場合、これを用いて、患者(キャラクタ)がいつ、例えばタスクキャラクタの足下を見下ろしているか、またはタスクキャラクタから視線をそらしているかを判断してもよい。同様に、注視方向を利用して、いつ注視が、困難な、または不快なタスクからそらされるかを判断してもよい。
【0012】
別の例では、1つ以上のコンピュータは、患者キャラクタ(すなわち、患者)がタスクキャラクタの言語表現に応答するのにかかる時間、または患者キャラクタ(すなわち、患者)が1つ以上のオブジェクトに関して活動するのにかかる時間を測定してもよい。これは、患者(キャラクタ)がタスクを遂行するのにいつ抵抗があるかまたはいつ応答が遅いかを確立してもよい。これらの測定値のいくつかまたはすべてを用いて、精神的不安状態パラメータの値を判定または調整して、例えば、測定値に応じてパラメータの値を増加(または減少)させてもよい。追加的または代替的に、1つ以上のコンピュータは、仮想環境における患者キャラクタの身体姿勢を測定してもよい。
【0013】
追加的または代替的に、システムは、例えば、タスクを開始してからの経過時間を測定することによって、または患者(キャラクタ)がプロンプト、例えばタスクキャラクタからの音声プロンプトに応答して話すかどうかを判断することによって、シナリオタスクの遂行を監視してもよい。実現例では、システムは、患者の発話の有無を検出してもよいが、音声認識を実行する必要はない。
【0014】
いくつかの実現例では、VR治療システムはさらに、1つ以上の実世界バイオメトリック測定を行ってもよく、さらに、これらを用いて精神的不安状態パラメータを判定してもよい。例えば、実世界で行われるか仮想環境で行われるかにかかわらず、測定値の1つ以上を組み合わせて、例えば、(任意選択でスケーリングまたは正規化された)測定値の重み付けされた組み合わせを用いて、精神的不安状態パラメータを判定してもよい。組み合わせの重みは、日常的な実験によって、または自動的に、例えば機械学習を用いて、決定してもよい。実世界のバイオメトリック不安測定値は、患者に接続するためのVR治療システムのハンドヘルドコントローラを用いて判断されてもよい。そのような実世界のバイオメトリック不安測定は、以下でさらに説明されるように、例えば、電流皮膚反応、心拍数、コルチゾールレベル、または運動/活動度レベルの測定を含んでもよい。不安測定の別の例は、患者の瞳孔サイズ/拡張の測定を含み、これは、視線追跡または同様のデバイスを用いて測定されてもよい。不安測定のさらなる例は、例えばハンドヘルドコントローラを用いて行われる、患者の振戦、急速な手の動き、またはより一般的な身体の動きの測定を含む。そのような測定は、不安測定が後で説明される場合にも用いられてもよい。
【0015】
いくつかの実現例では、患者状態ニューラルネットワーク(または他の機械学習サブシステム)が、精神的不安状態パラメータを判定するために提供される。患者状態ニューラルネットワークへの入力は、仮想環境における1つ以上の測定値および/または1つ以上の実世界のバイオメトリック測定値を含んでもよい。患者状態ニューラルネットワークは、精神的不安状態パラメータを直接出力してもよく、または患者状態ニューラルネットワークは、スコアまたは確率値のセットを、患者の精神的不安の度合いを表してもよい分類カテゴリのセットの各々について1つ、出力してもよい。これらのスコアは、患者を不安もしくは不安でないとして分類するため、および/または患者の不安を3つ以上のカテゴリにグレード付けするために、用いられてもよい。患者状態ニューラルネットワークは、例えば、患者の報告された不安レベルに基づいて、または既存の技法を用いて確立された、より客観的な尺度に基づいて、教師あり学習技法を用いて訓練されてもよい。例えば、類似の関連スコアを有する、以前の患者からの匿名化されたデータ。代替として、患者状態ニューラルネットワークは、教師あり学習技法を用いて訓練されてもよい。実現例では、患者状態ニューラルネットワーク(分類)出力は、コーチキャラクタを制御するために用いられる精神的不安状態パラメータを判定するので、それは、(患者への)閉ループフィードバックシステムの一部を形成し、精神的不安状態パラメータは、例えば、患者の不安が検出されると、発話出力により患者を落ち着かせるために、VR環境における患者の体験を調整または制御するよう用いられてもよい。ニューラルネットワーク出力はまた、例えば、治療または個々のシナリオに対する患者の応答を予測するために、および/または陽性転帰の高い(最も高い)可能性を伴うシナリオもしくはシナリオのセットを選択するために、用いられてもよい。
【0016】
いくつかの実現例では、精神的不安状態パラメータは、精神的不安状態パラメータの値を第1の閾値と比較することによって、患者の精神的不安の状態を判定するために用いられてもよく、第1の閾値は、固定、例えば、所定の値であってもよく、または患者および/もしくはシナリオおよび/もしくは履歴(例えば、移動平均)に応じて可変であってもよい。加えて、または代わりに、精神的不安状態パラメータの値の変化、例えば、前述のようにこれも固定または可変であり得る第2の閾値を上回る変化が検出されてもよい。さらに、または代わりに、精神的不安状態パラメータの値は、患者の精神的不安の状態を判定するために、明示的または暗黙的なパターンマッチングアルゴリズムを用いて処理されてもよい。例えば、精神的不安状態パラメータの値は、例えば、不安な分類出力および不安でない分類出力を提供するように訓練された訓練済みニューラルネットワーク分類器に提供されてもよい。そのような分類器は、他の不安測定、例えば心拍数および/または電流皮膚反応(GSR)および/またはコルチゾールレベルおよび/または運動もしくは活動度レベルの測定がなされた患者を用いる教師あり学習によって訓練されてもよい。他の実現例では、分類器は、教師なし学習を用いて訓練される。代替として、サポートベクターマシン(SVM)またはランダムフォレスト等の別の機械学習ベースの分類器が採用されてもよい。
【0017】
実現例では、コーチキャラクタからのフィードバックは、ヘッドセット音声生成システムを介して患者に提供される発話を含む。VRシステムは、患者が実世界にあり、仮想環境から離れているときに、患者活動度および患者不安の程度の一方または両方を監視するよう構成される患者モバイルデバイスを含んでもよい。例えば、患者モバイルデバイスは、対応するセンサを用いて、例えば心拍数および/または電流皮膚反応(GSR)および/またはコルチゾールレベルおよび/または患者の動きもしくは活動度レベル(患者のある場所から別の場所への移動を含んでもよいが、その必要はない、患者の身体運動の度合いを表す)の不安測定を行うよう構成されたリストバンドなどのウェアラブルデバイスを備えるかまたはそれからなってもよい。患者モバイルデバイスは、不安測定値、例えば心拍数/GSR/コルチゾールレベル/動きまたは活動度レベルデータを処理して、例えば前述のように(閾値との比較もしくは閾値変化によるか、またはパターンマッチングによって)、患者の不安を検出してもよい。コルチゾールレベルは、例えば、"Molecularly selective nanoporous membrane-based wearable organic electrochemical device for noninvasive cortisol sensing", Parlak et al., Science Advances 20 Jul 2018 Vol 4(7), DOI 10.1 126/sciadv.aar2904に記載されるウェアラブルセンサを用いて、患者からの発汗において検出されてもよい。加えて、または代わりに、患者モバイルデバイスは、当該デバイスの位置を検出し、その位置を用いて、患者がいつ仮想環境内の治療シナリオのうちの1つに対応する実世界のシナリオにあるかを識別してもよい。患者モバイルデバイスは、例えば、スマートリストバンドに随意に結合される携帯電話を備えてもよい。
【0018】
したがって、患者モバイルデバイスは、監視された患者活動度/不安を利用して、患者がいつストレスの多い実世界の状況(治療シナリオの1つに対応してもよいが、そうである必要はない状況)にあるかを識別してもよい。これに応答して、患者モバイルデバイスは、実世界フィードバック、すなわち、患者が実世界にあり、仮想環境から離れているときのフィードバックを提供してもよい。実世界フィードバックは、例えばヘッドホン、イヤホンなどを介しての、コーチキャラクタが仮想環境で用いる音声での、患者への発話音声出力を含んでもよい。例えば、発話音声出力は、コーチキャラクタの音声を用いて発話される任意の単語を含んでもよく、落ち着かせる単語および/または発話された指示もしくは励ましを含んでもよい。
【0019】
患者モバイルデバイスは、例えばクラウド内の、患者関連データを例えば暗号化された形態で記憶/処理してもよい遠隔サーバを介して、1つ以上のコンピュータと通信してもよい。任意選択で、1つ以上のコンピュータは、患者が仮想環境において治療シナリオにある間に患者から患者データを捕捉し、このデータを、たとえば処理済みまたは暗号化された形態で、たとえば遠隔サーバを介して、患者モバイルデバイスに提供するよう構成されてもよい。患者モバイルデバイスは、捕捉されたデータを用いて実世界フィードバックを提供するよう構成されてもよい。例えば、捕捉されたデータは、患者の不安レベルに関連するデータ、例えば、精神的不安状態パラメータから導出されるデータを含んでもよく、次いで、このデータは、患者がいつ実世界において上昇した不安レベルを有するかを判定するために用いられてもよい。したがって、実世界の不安尺度は、特定の患者または患者のコホートのデータから、例えば機械学習によって導出されてもよい。さらに、患者が精通している仮想世界のコーチキャラクタは、困難な実世界のシナリオにおいて、典型的にはコーチキャラクタの音声を再生することによって、しかしながら潜在的にはコーチキャラクタの表現を再生することによって、コーチ指導を提供するために、実世界に移送されてもよい。
【0020】
治療シナリオのセットは、同じタイプの治療シナリオ、例えば、品物に対する支払い、人との会合などを含んでもよいが、異なる難易度レベル(後述参照)を含んでもよく、および/またはそれらは異なるタイプの治療シナリオを含んでもよい。しかしながら、一般的には、各治療シナリオは、患者が困難であると見出す実世界のシナリオをシミュレートするよう構成され、各々は、増加する難易度レベルのセットを有する。実現例では、1つ以上のコンピュータは、コーチキャラクタを含む歓迎室VRシナリオ(治療シナリオの1つではない)を提供するよう構成される。歓迎室内では、患者キャラクタは、治療シナリオの1つおよび/または選択された治療シナリオの難易度レベルを選択するよう有効化され、例えばコーチキャラクタによって容易にされてもよい。いくつかの実現例では、難易度レベルは、(同じタイプの)治療シナリオについて以前に完了された難易度レベル以上であり、他の実現例では、患者は、同じまたはより低い難易度のシナリオを再試行することが許可されてもよい。難易度レベルを通じた潜在的な進行はまた、例えば、同様のシナリオにおける、患者の実世界の応答に基づいてもよく、またはそれによって制御されてもよい。
【0021】
いくつかの実現例では、異なる難易度レベルの治療シナリオが、手順的に構築されてもよく、それは、システムのメモリ要件を低減させてもよい。例えば、選択された治療シナリオの難易度レベルは、背景ノイズレベル、選択された治療シナリオにおける(タスク)キャラクタの数、治療シナリオ/タスクの持続時間、仮想環境におけるタスクの位置、およびタスクキャラクタの挙動のうちの1つ以上を修正することによって変更されてもよい。
【0022】
例えば、難易度を上げるために、タスクキャラクタは、患者キャラクタと直接アイコンタクトするよう構成されてもよく、逆に、難易度を下げるために、タスクキャラクタは、患者キャラクタと直接アイコンタクトしないよう構成されてもよい。代替的に、タスクキャラクタと患者キャラクタとのアイコンタクトの頻度を変更してもよい。アイコンタクトは、タスクキャラクタの注視が患者キャラクタの眼に向けられているか否か(すなわち、患者キャラクタが観察されているか否か)に従って判断されてもよく、それは、患者キャラクタがタスクキャラクタを見ることを要してもよいが、そうである必要はない。したがって、いくつかの実現例では、タスクキャラクタの挙動は、患者キャラクタを観察するタスクキャラクタの数を変更することによって、たとえば、タスクキャラクタが患者キャラクタを観察するよう構成されるかどうかを定義する、各タスクキャラクタに関連付けられたパラメータを変更することによって、変更される。別の例では、タスクキャラクタの挙動は、タスクキャラクタの身体姿勢によって変更される。さらなる例では、仮想環境におけるタスクの位置は、たとえばタスクの位置を定義するパラメータを変更することによって変更されてもよい。壁または他の境界から離れた、仮想環境の中央領域におけるタスクは、壁または他の境界(観察される可能性がより低い)に隣接して遂行されるタスクよりも困難であり得る。そのような技法は、各タスク/構成を別々に記憶するよりも少ないメモリを用いることができ、ならびにタスク定義を容易にでき、および実現に必要とされる処理を削減できる。
【0023】
関連する局面において、例えば、患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムが提供される。VR治療システムは、例えば前述のように、仮想環境を提供するVRハードウェアを備えてもよい。したがって、VRハードウェアは、少なくとも、音声生成能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットとVR入力装置とを含んでもよい。VR治療システムは、さらに、VRハードウェアまたはその一部に結合されるコンピュータ、例えばワークステーションを含んでもよい。
【0024】
VR治療システムは、VR環境モジュールを実現して、VRシステムを用いて仮想環境内において患者に治療空間領域(シナリオ)のセットを提示するよう構成されてもよい。各治療空間領域は、VRシステムと対話することによって仮想環境において患者によって遂行されるべき少なくとも1つの患者活動(シナリオ)タスクを含んでもよい。患者は、仮想環境内において患者キャラクタによって表現されてもよく、その少なくとも一部は、その時の少なくとも一部において可視であってもよい。患者活動タスクの少なくとも1つは、少なくとも、患者キャラクタが仮想環境内でタスクキャラクタと対話する対話タスク、または患者キャラクタが仮想環境内で1つ以上のオブジェクトに関して非言語活動を遂行する非言語活動タスクを含んでもよい。その時の少なくとも一部において、仮想環境はコーチキャラクタの表現を含んでもよい。
【0025】
VR治療システムはさらに、精神不安測定モジュールを実現して、仮想環境内で、患者キャラクタとタスクキャラクタまたは1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性を測定することによって、患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定するよう構成されてもよい。
【0026】
VR治療システムは、さらに、遂行監視モジュールを実現して、仮想環境において患者活動タスクの遂行を監視するよう構成されてもよい。
【0027】
VR治療システムはさらに、検出器モジュールを実現して、患者活動タスクの非遂行および精神的不安状態パラメータによって示される患者精神不安の状態の一方または両方を検出するよう構成されてもよい。
【0028】
VR治療システムはさらに、患者フィードバックモジュールを実現して、仮想環境における患者活動タスクの完了において、コーチキャラクタを用いて、患者精神不安の状態の検出に応答して、仮想環境において言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトの一方または両方を含むVRフィードバックを提供することによって、患者を支援するよう構成されてもよい。
【0029】
VR治療システムのさらなる特徴は、前述の通りであってもよい。例えば、VRハードウェアは、視線追跡装置を含んでもよく、精神不安測定モジュールは、患者の注視方向から精神的不安状態パラメータを判定するよう、視線追跡装置に結合されてもよい。同様に、システムは、患者キャラクタとタスクキャラクタまたは1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性を受信するための1つ以上の入力と、患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを提供するための出力とを有する患者状態ニューラルネットワークモジュールを含んでもよい。例示的な患者状態ニューラルネットワークモジュールのさらなる詳細は、後述される。
【0030】
VR治療システムは、部分的にソフトウェアを用いて実現されてもよい。たとえば、上記で説明したモジュールは、ソフトウェア、すなわちコンピュータのための命令、もしくはハードウェア、たとえばASIC(特定用途向け集積回路)、またはソフトウェアとハードウェアとの組合せで実現されてもよい。
【0031】
さらなる関連する局面では、患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムを制御する方法が提供される。VR治療システムは、仮想環境を提供するようVRハードウェアを備えてもよく、VRシステムは、たとえば音声生成能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットおよびVR入力装置と、VRハードウェアまたはその一部に結合される1つ以上のコンピュータとを備える。本方法は、VRシステムを用いて仮想環境内において患者に治療シナリオのセットを提示することを含んでもよく、各治療シナリオは、VRシステムと対話することによって仮想環境内において患者によって遂行されるべき少なくとも1つのシナリオタスクを含む。患者は、仮想環境内において患者キャラクタの少なくとも一部によって表現されてもよい。シナリオタスクの少なくとも1つは、少なくとも、患者キャラクタが仮想環境内でタスクキャラクタと対話する対話タスク、または患者キャラクタが仮想環境内で1つ以上のオブジェクトに関して非言語活動を遂行する非言語活動タスクを含んでもよい。その時の少なくとも一部において、仮想環境はコーチキャラクタの表現を含んでもよい。
【0032】
本方法はさらに、仮想環境において、患者キャラクタとタスクキャラクタまたは1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性を測定することによって、患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定することを含んでもよい。本方法はさらに、仮想環境においてシナリオタスクの遂行を監視することを含んでもよい。本方法はさらに、シナリオタスクの非遂行および精神的不安状態パラメータによって示される患者の精神的不安の状態の一方または両方に応答して、仮想環境におけるシナリオタスクの完了において、コーチキャラクタを用いて、たとえば、患者精神不安の状態の検出に応答して、仮想環境において言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトの一方または両方を含むVRフィードバックを提供することによって、患者を支援することを含んでもよい。
【0033】
さらに、上記で説明したシステムおよび方法を(実行時に)実現するよう、ソフトウェア、すなわちコンピュータ命令を担持する1つ以上の記憶媒体が提供される。
【0034】
命令は、1つ以上のコンピュータ上で、たとえば汎用コンピュータシステム上で、および/またはモバイルデバイス上で、および/またはデジタル信号プロセッサ(DSP)上で、および/または設定可能もしくは専用ハードウェア上で、システムおよび方法を実現するよう構成されてもよい。記憶媒体は、ディスクまたはプログラムされたメモリ、例えばフラッシュドライブまたは他のメモリなどの担体を備えてもよい。ソフトウェア、すなわち、システムおよび方法を実現するためのコードならびに/またはデータは、C、またはアセンブリコード、またはハードウェア記述言語のためのコード等の(解釈またはコンパイルされた)従来のプログラミング言語におけるソース、オブジェクト、または実行可能コードを備えてもよい。そのようなコードおよび/またはデータは、互いに通信している複数の結合された構成要素の間で分散されてもよい。
【0035】
さらなる局面では、心理療法を患者に提供するための仮想現実(VR)治療システムが提供され、VR治療システムは、コンピュータシステム(例えば、前述の1つ以上のコンピュータ)と、コンピュータシステムに接続されるかまたはコンピュータシステムを備える患者用のヘッドマウントディスプレイユニットと、コンピュータシステムに接続され、患者によって遂行される患者活動を検出するための1つ以上のセンサとを備える。コンピュータシステムは、ディスプレイユニットに、患者キャラクタのために仮想環境を表示させるよう構成されてもよく、仮想環境は、治療シナリオにおけるタスクキャラクタと、一時的または常設的にコーチキャラクタとを含む。コンピュータシステムは、さらに、ディスプレイユニットに、タスクキャラクタに関連して事前定義された活動を遂行するように患者を促すようにさせるよう構成されてもよい。コンピュータシステムはさらに、センサを用いて、患者が、第1の期間内に、事前定義された活動を遂行したかどうかを判定するよう構成されてもよい。コンピュータシステムは、さらに、患者が、第1の期間内に事前定義された活動を遂行していないとの判定に応答して、ディスプレイユニットに、コーチキャラクタに、患者が事前定義された活動を遂行するよう追加のプロンプトを提供させるようにさせるよう構成されてもよい。
【0036】
コンピュータシステムは、さらに、追加のプロンプトの後、患者が第2の期間内に事前定義された活動を遂行したかどうかを判定するよう構成されてもよい。患者が事前定義された活動を遂行したと判定することに応答して、コンピュータシステムは、ディスプレイユニットに、仮想環境を、仮想環境内の異なる治療シナリオに、または治療シナリオの次のレベルに進行させてもよい。患者が期間内に事前定義された活動を遂行していないとの判定に応答して、コンピュータシステムは、仮想環境から患者を退出させる退出シーケンスを開始してもよい。
【0037】
仮想現実(VR)治療システムはさらに、患者の手の動きを追跡するハンドコントローラシステム、例えば、1つもしくは対のハンドヘルドコントローラおよび/またはハード/コントローラの位置を感知する1つ以上のローカルもしくは遠隔センサを備えてもよい。事前定義された活動は、仮想環境内で仮想オブジェクトに触れること、仮想オブジェクトを保持すること、および仮想オブジェクトを移動させることのうちの1つ以上を含んでもよい。センサはマイクロフォンを含んでもよく、事前定義された活動はタスクキャラクタに話しかけることを含んでもよく、コンピュータシステムは、患者がいつマイクロフォンに話しかけているかを検出して、患者が事前定義された活動を遂行したかどうかを判定してもよい。
【0038】
コンピュータシステムはさらに、患者の挙動に関する1つ以上の入力パラメータ、例えば、感知された入力パラメータを取得し、次いで、入力パラメータのうちの1つ以上に基づいて、第1の期間を調整するよう構成されてもよい。例えば、コンピュータシステムは、いつおよび/もしくはどのくらい速くおよび/もしくはどのくらい大きな音量で患者が話しているかを検出してもよく、ならびに/または、コンピュータシステムは、仮想環境における患者キャラクタのタスクキャラクタからの距離を検出してもよい。これに応答して、例えば、患者の挙動に関する入力パラメータが、患者が不安であるかまたはタスクを遂行するのが困難であることを示す場合、コーチキャラクタがより早く介入するように、第1の期間を短縮してもよい。同様に、VRシステムは、ディスプレイユニットに取り付けられる視線追跡装置を含んでもよく、入力パラメータは、仮想環境の事前定義された領域を見ている、例えば仮想環境内で下を見ている患者によって費やされる時間に依存してもよい。加えて、または代わりに、入力パラメータの1つ以上、例えば、患者のベースライン不安に関連するパラメータ、または患者の心因性の問題の深刻度の度合いに関連するパラメータ、または患者が困難と感じるシナリオのタイプに関連するパラメータが、コンピュータシステムによって遠隔データストアから検索されてもよい。
【0039】
実現例では、コンピュータシステムは、治療シナリオ仮想環境を表示する前に、コーチキャラクタは含むがタスクキャラクタは含まない初期の歓迎仮想環境をディスプレイユニットに表示させるよう構成される。実現例では、コンピュータシステムは、患者が事前定義された活動を遂行したという判定に応答して、ディスプレイユニットに、仮想環境を治療シナリオの次のレベルに進行させるよう構成される。
【0040】
いくつかの実現例では、コーチキャラクタは、追加のプロンプトを与えるべく患者キャラクタに話しかけることによって、仮想環境内で患者キャラクタと対話する。VR治療システムは、患者の不安レベルを感知するための患者センサ入力と音声出力とを有する患者モバイルデバイスをさらに備えてもよい。モバイルデバイスは、患者が実世界にあり、仮想環境から離れているときに、患者センサ入力からのデータを処理して、患者の不安レベルを監視し、検出された不安レベルに応答して、音声出力、例えば、コーチキャラクタの音声で、患者に指示を与えるよう構成される。患者モバイルデバイスは、患者の心拍数および/または電流皮膚反応を監視して患者の不安レベルを感知するためのウェアラブル(または携行可能な)デバイスを備えるかまたはそれからなってもよい。音声出力は、例えば閾値を上回る、および/または閾値を超えて増加する、および/または患者不安を示すパターンを有する、増大した不安レベルの検出に応答して与えられてもよい。
【0041】
VR治療システムのいくつかの実現例は、患者が仮想環境内で治療シナリオにある間に患者データを収集する。このデータは、患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータおよび/またはこれが導出される1つ以上の測定値もしくは特性を含んでもよい。例えば、患者データは、近接度測定値、注視方向測定値、患者言語表現応答時間測定値、タスク遂行/非遂行測定値、タスク持続時間(経過時間)測定値、および実世界のバイオメトリック測定値のうちの1つ以上などの前述の測定値を含んでもよい。加えて、または代わりに、患者データは、そのようなデータの処理されたもの、例えば、シナリオの開始時と終了時との間のコルチゾールレベル、心拍数またはGSRなどのバイオメトリック不安測定値の差を含んでもよい。患者データは、1つ以上のコンピュータ(コンピュータシステム)にローカルに記憶されてもよく、および/または遠隔で、例えば遠隔サーバに記憶されてもよい。概して、VR治療システムの構成要素間の接続は、有線接続および/または無線接続を備えてもよく、データは、VRセッションもしくはVRセッションにおける特定のシナリオタスクの間または完了後に記憶されてもよい。
【0042】
前述のように、VR治療システムのいくつかの実現例は、患者(モバイル)デバイスを含み、そのような実現例も、遠隔サーバを含んでもよい。遠隔サーバは、コンピュータシステムから、患者が仮想環境において治療シナリオにある間に収集された患者データを受信するよう構成されてもよく、患者データは、例えば、仮想環境治療シナリオにおける患者の遂行を表す。患者デバイスは、遠隔サーバと通信し、仮想環境治療シナリオにおける患者の遂行に依って患者にデータを出力して、例えば、仮想環境治療シナリオに対応する実世界シナリオにおける患者の遂行を容易にするよう構成されてもよい。
【0043】
患者デバイスは、仮想環境治療シナリオに対応する実世界シナリオにおける患者の遂行に依って、例えば上述のものに対応するさらなる患者データを収集し、これを遠隔サーバを介してコンピュータシステムに送信するよう構成されてもよい。遠隔サーバは、仮想環境治療シナリオが実世界シナリオにおける患者の遂行に応じて適合されるように、さらなる患者データに応じて仮想環境治療シナリオを調整するよう構成されてもよい。
【0044】
VR治療システムのいくつかの実現例は、複数の異なる治療シナリオのための複数の異なる仮想環境を表示するためのデータを記憶するメモリを備える。このメモリまたは他のメモリは、患者に関連付けられる患者モデルを記憶してもよく、患者モデルは1つまたは複数のモデルパラメータを含む。コンピュータシステムは、患者に治療シナリオのサブグループを提示するために、モデルパラメータに基づいて、患者に関連付けられる患者モデルを治療シナリオのサブグループにマッピングするよう構成されてもよい。例えば、患者モデルは、コルチゾールレベル等の前述の患者データに依存してもよく、これは、患者のために治療シナリオ/タスクのうちの1つ以上を選択するために用いられてもよい。
【0045】
コンピュータシステムはまた、患者が治療シナリオを選択することを可能にするために、ヘッドマウントディスプレイユニットに、治療シナリオのサブグループを患者に対して提示させるよう構成されてもよい。治療シナリオのサブグループの各々は、複数の難易度レベルを有してもよく、コンピュータシステムはさらに、患者モデルを、モデルパラメータに依存する難易度レベルにマッピングするよう構成されてもよい。コンピュータシステムはさらに、1つ以上のセンサから、入力として、仮想環境内の患者活動を識別する情報を受信し、その入力に基づいて、患者モデルのモデルパラメータを更新するよう構成されてもよい。
【0046】
VR治療システムのいくつかの実現例は、収集された(および記憶された)患者データを用いて、患者に対する治療シナリオおよび/または難易度レベルを予測するよう構成される。これは、患者データが収集された患者であってもよく、または別の患者であってもよい。
【0047】
例えば、一実現例では、治療シナリオに関連する患者データは、例えば、治療シナリオの前後のコルチゾール、心拍数等の測定値間の差異から、患者についての進捗または転帰尺度を判定するように処理される。次いで、進捗または転帰尺度を用いて、患者に提示するための別の治療シナリオまたは同じ治療シナリオの別の難易度レベルを選択してもよい。代替として、患者が次のシナリオ/レベルを選択できるように、そのような治療シナリオまたは難易度のサブグループが選択され、患者に提示されてもよい。
【0048】
したがって、いくつかの実現例では、VR治療システム(および対応する方法)は、患者におけるコルチゾールのレベルを感知するようコルチゾールセンサを含んでもよい。次いで、本システム/方法は、患者におけるコルチゾールのレベルに応じて、シナリオタスクまたは事前定義された活動の遂行の程度、例えば、転帰尺度を決定してもよい。加えて、または代わりに、本システム/方法は、患者における感知されたコルチゾールのレベルに依る、仮想環境における提示のために、シナリオタスク(例えば、治療シナリオのタイプおよび/もしくはレベル)または事前定義された活動を決定してもよい。
【0049】
同じまたは別の実現例では、フィードフォワードまたは再帰型ニューラルネットワーク分類器などの機械学習分類器を用いて、患者についての患者データを処理して、クラスのセットのうちの1つを識別するデータを含む分類出力を決定してもよい。各クラスは、例えば、患者にとって最も有益である可能性が高い、患者に対する治療シナリオおよび/または難易度レベルに対応してもよい。付加的または代替的に、分類出力は、患者に対する治療シナリオおよび/または難易度レベルのセットを決定するために用いられてもよい。加えて、または代わりに、分類出力は、進捗または転帰尺度の特定の値が達成されるまで、例えば、成功した最終転帰を表すまで、患者によって必要とされるいくつかの治療シナリオを予測するために、用いられてもよい。予測は、新たな患者に対して、例えばその患者に試験シナリオを提示することによって、行われてもよい。いくつかの実現例では、分類出力は、確率値またはスコアのセットを、各クラス、例えば、治療シナリオまたは治療シナリオのセットに対して1つ、含んでもよい。いくつかの実現例では、機械学習分類器は、ディープニューラルネットワーク、たとえば多層パーセプトロン(時間依存患者データは、経時的に集約されてもよい)、またはリカレントニューラルネットワーク、すなわち1つ以上のリカレントニューラルネットワーク層を有するニューラルネットワークなどのフィードフォワード分類器を備えてもよい。機械学習分類器、例えばニューラルネットワークは、履歴患者データおよび/または既存の技法を用いて確立された履歴患者転帰の心理学的尺度に基づいて、教師あり学習技法を用いて訓練されてもよい。
【0050】
したがって、いくつかの実現例では、VR治療システム(および対応する方法)は、シナリオタスクまたは事前定義された活動における患者の遂行を特徴付ける患者データを収集するよう構成されてもよい。次いで、本システム/方法は、患者データを処理して、治療シナリオ(もしくはこれらのセット)のタイプまたはレベル、仮想環境において患者に提示するための治療シナリオの数または治療シナリオのレベル、例えば、成功裏な最終結果に必要とされると推定される数を決定するよう構成される機械学習サブシステムを用いてもよい。
【0051】
したがって、さらなる局面では、患者に心理療法を提供するための仮想現実(VR)治療システムが提供される。VR治療システムは、仮想環境を提供するようVRシステムを備えてもよく、VRシステムは、少なくとも、音声生成能力を有するヘッドマウントディスプレイユニットと、VR入力装置とを含んでもよい。VR治療システムはさらに、VRシステムまたはVRシステムの一部に結合される1つ以上のコンピュータを備えてもよい。コンピュータは、VRシステムを用いて仮想環境内において患者に治療シナリオのセットを提示するよう構成されてもよく、各治療シナリオは、VRシステムと対話することによって仮想環境内において患者によって遂行されるべき少なくとも1つのシナリオタスクを含む。患者は、仮想環境内において患者キャラクタによって表現されてもよい。シナリオタスクの少なくとも1つは、少なくとも、患者キャラクタが仮想環境内でタスクキャラクタと対話する対話タスク、または患者キャラクタが仮想環境内で1つ以上のオブジェクトに関して非言語活動を遂行する非言語活動タスクを含んでもよい。その時の少なくとも一部において、仮想環境はコーチキャラクタの表現を含んでもよい。
【0052】
コンピュータはさらに、i)仮想環境内における患者キャラクタとタスクキャラクタまたは1つ以上のオブジェクトとの対話の1つ以上の特性、またはii)たとえば、実世界における患者の心拍数、電流皮膚反応、およびコルチゾールレベルのうちの1つ以上を感知する、不安測定値をなすセンサデータを受信するようニューラルネットワーク入力を有する患者状態ニューラルネットワークを実現するよう構成されてもよい。患者状態ニューラルネットワークは、ニューラルネットワーク入力を処理して、患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定してもよい。
【0053】
コンピュータはさらに、仮想環境においてシナリオタスクの遂行を監視するよう構成されてもよい。
【0054】
コンピュータはさらに、シナリオタスクの非遂行および精神的不安状態パラメータによって示される患者の精神的不安の状態の一方または両方に応答して、仮想環境におけるシナリオタスクの完了において患者を支援するよう構成されてもよい。例えば、VRシステムは、例えば前述のように、シナリオタスクの完了において、コーチキャラクタを用いて、仮想環境において言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトの一方または両方を含むVRフィードバックを提供することによって、患者を支援してもよい。加えて、または代わりに、VRシステムは、シナリオタスクの完了において、例えば、オンラインで(すなわち、選択されたシナリオ中に)、治療シナリオを修正して治療シナリオの難易度レベルを変更することによって、またはシナリオを停止して新たなシナリオ/タスクを開始することによって、患者を支援してもよい。治療シナリオは、例えば、背景ノイズのレベル、またはシナリオ内のタスクキャラクタの数等を低減することによって、前述のようにシナリオ難易度を低減させるよう、オンラインで修正されてもよい。
【0055】
実現例では、患者状態ニューラルネットワーク(たとえば分類)出力が、コーチキャラクタおよび/またはシナリオ難易度を制御するために用いられる精神的不安状態パラメータを決定するので、患者状態ニューラルネットワークは、(患者への)閉ループフィードバックシステムの一部を形成する。したがって、精神的不安状態パラメータは、VR環境における患者の体験を調整または制御するために、例えば、患者の不安が検出されたときに、例えば、発話出力によって患者を落ち着かせるために、用いられてもよい。
【0056】
実現例では、患者状態ニューラルネットワークは、前述のようなものであってもよい。たとえば、患者状態ニューラルネットワークは、ニューラルネットワーク入力を受信し、ニューラルネットワーク入力の潜在的表現を生成するよう構成される1つ以上の初期入力ニューラルネットワーク層を備えてもよい。患者状態ニューラルネットワークはさらに、1つ以上の入力ニューラルネットワーク層に結合された中間層入力を有し、中間層出力を有する、少なくとも1つの中間ニューラルネットワーク層を備えてもよい。患者状態ニューラルネットワークはさらに、例えば、ニューラルネットワーク出力を生成するよう中間層出力に結合される入力を有する、1つ以上の出力層を備えてもよい。ニューラルネットワーク出力は、可能な患者不安値の離散セットにわたるスコア分布を定義してもよい。患者状態ニューラルネットワークは、スコア分布から精神的不安状態パラメータを生成するよう構成されてもよい。精神的不安状態パラメータは、例えば、不安状態および非不安状態を定義する2つ以上の不安値を有する(またはより多くの不安段階を有する)カテゴリ変数であってもよい。次いで、患者状態ニューラルネットワークは、スコア分布に従って、値、例えば最も可能性の高い不安値を選択してもよい。
【0057】
さらなる局面では、治療VRシステムは、仮想環境内にある間の患者の挙動および/または生体応答に基づいて、患者の治療の過程を適応させるよう構成される、適応型生体挙動システムと称され得る、サブシステムを備えてもよい。
【0058】
ある仮想シナリオでは、シナリオは、決定木とも呼ばれるシナリオ固有のアルゴリズムに基づいて進行する。仮想シナリオは、仮想環境における患者の活動に基づいて、決定木の、異なる分岐を進む。例えば、あるシナリオタスクを完了することによって、仮想シナリオは決定木の第1の分岐に沿って進行するが、前記タスクの未完了は、仮想シナリオを決定木の第2の分岐に沿って進行させる。
【0059】
適応型生体挙動システムは、特定の仮想シナリオを通して患者を先に進めるために用いられる決定木/アルゴリズムを変更するよう構成されてもよい。すなわち、そのような測定値のみを用いて、限定された数の選択肢を有する事前設定された決定木に正しく従うだけである代わりに、適応型生体挙動システムは、(例えば、さらなるオプションを含めることによって、または新たなエンドポイントを導入することによって)決定木自体を適応させることができる。次いで、適応された木は、後続の治療セッションにおいて特定の仮想シナリオにおける事前設定された木として用いられてもよい。適応された決定木/アルゴリズムは、将来のVR治療システムおよびコーチの機能のために用いられてもよい。
【0060】
特定の仮想シナリオは、(例えば、仮想キャラクタの数、仮想キャラクタとの対話の数、および対話のタイプによって、)異なる刺激強度を提供するように構成することができる。適応型生体挙動システムは、刺激強度に基づいて決定木を適応させるよう構成されてもよい。
【0061】
一実現例では、適応型生体挙動システムは、VR環境内および/またはVR環境外において治療VRシステムによって患者に提供される治療プログラムの過程を適応させるために、患者が仮想環境内にある間に測定される暗黙のメトリック(例えば、反応時間および/または刺激に対する予想される応答への適合性の尺度)を用いる。
【0062】
ウェブおよび/またはモバイルデータソース(例えば、VRセッション間のスマートフォン上のユーザ入力)は、治療シナリオまたは刺激強度のレベルを適合させるために治療VRシステムと統合するよう用いられる。
【0063】
このシステムは、他のプログラム、(例えば挙動的および/または薬理学的)介入、ならびに他のデジタル治療技術と組み合わせて用いられてもよい。
【0064】
VR環境内のタスクの患者による遂行(または非遂行)はまた、治療材料(例えば、心理教育)に対する患者の理解を評価するためにも用いられてもよく、それは、判定された理解のレベルに基づいてさらなるVRコンテンツをトリガするために用いられ得る。
【0065】
一実現例では、シナリオタスクの間および事象固有刺激の間の位置ならびに/または身体追跡が、適応型生体挙動システムへの入力として用いられる。この入力は、アルゴリズムにおいて、タスクまたは刺激中の患者の関与および遂行のレベルに適合するよう用いることができる。
【0066】
システムのこれらおよび他の局面は、以下の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】一実施形態によるVR治療システムの概略図を示す。
図2】一実施形態によるVRシステムによって実行される方法の流れ図である。
図3】別の実施形態によるVR治療システムの概略図を示す。
図4a】一実施形態によるVRシステムによって実行される方法の流れ図を示す。
図4b】一実施形態による、精神的不安状態パラメータを判定するためにVRシステムによって実行される方法の流れ図を示す。
図5】一実施形態による、VRシステムおよびモバイルデバイスを用いて治療処置を提供するためのシステムの概略図を示す。
図6】シナリオにバスを提供する一実施形態によるVR治療システムによって実行される方法の流れ図を示す。
図7】カフェにおけるシナリオを提供する一実施形態によるVR治療システムによって実行される方法の流れ図を示す。
図8】店舗におけるシナリオを提供する一実施形態によるVR治療システムによって実行される方法の流れ図を示す。
図9】シナリオまたはレベルを変更する前に患者を正しく位置決めするために、一実施形態によるVR治療システムによって実行される方法の流れ図を示す。
図10】仮想歓迎室を提供する一実施形態によるVR治療システムによって実行される方法の流れ図を示す。
図11】患者の不安評価が判定される、一実施形態によるVR治療システムによって実行される方法の流れ図を示す。
図12】患者の不安評価が判定される、別の実施形態によるVR治療システムによって実行される方法の流れ図を示す。
図13】複数の精神健康状態を治療するためのVRプラットフォームを含む臨床プラットフォームの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図面において、同様の要素は同様の参照番号によって示される。
詳細な説明
図1は、コンピュータシステム2と、患者用のウェアラブルディスプレイユニット4および入力装置5を含むVRハードウェア3とを備える仮想現実(VR)治療システム1(本明細書では単に「VRシステム」と呼ぶ)の一例の概略図を示す。
【0069】
コンピュータシステムは、ウェアラブルディスプレイユニットに接続され、ディスプレイユニットに患者キャラクタのための仮想環境を表示させるよう構成される。コンピュータシステムは、スタンドアロンワークステーション、コンピュータネットワークであってもよく、またはウェアラブルディスプレイユニットに統合されるかもしくは別様に患者によって担持される小型コンピュータであってもよい。
【0070】
図2は、コンピュータを備えるVRシステムを用いて治療セッションを提供する方法のステップを示す流れ図である。コンピュータは、患者キャラクタのために仮想環境を表示し(ステップS1)、患者に事前定義された活動を遂行するように促し(ステップS2)、患者が事前定義された活動を遂行したかどうかを判定し(ステップS3)、患者が事前定義された活動を遂行していないと判定することに応答して、患者が事前定義された活動を遂行するよう追加のプロンプトを与える(ステップS4)よう構成される。任意選択で、コンピュータは、さらに、追加のプロンプトを提供した後、患者が事前定義された活動を遂行したかどうかを判定し(ステップS5)、患者が事前定義された活動を遂行したと判定することに応答して、仮想環境を進行させる(ステップS6a)か、または患者が事前定義された活動を遂行していないと判定することに応答して、退出シーケンスを開始する(S6b)よう構成される。
【0071】
VRシステム1を用いてVR治療セッションを実現するために、このシステムは、3D環境および対話のプログラミングを用いる。VRセッションを開発するために用いられるソフトウェアは、a)3Dモデリングおよびアニメーションソフトウェア、ならびにb)開発エンジン、の2つの主要なカテゴリに分類することができる。カテゴリa)(3Dモデリングおよびアニメーションソフトウェア)内では、3次元オブジェクトが、CADソフトウェアの技法、ならびにサーフェスの視覚的態様、周囲の照明、自然の影響、動的影響(力、重力等)、およびすべての種類のアニメーションを用いることによって、生成される。このタイプのソフトウェアは、映画、ビデオゲーム、およびプロジェクトの生産にも用いられる。用いられ得る3Dモデリングソフトウェアは、Blender(商標出願済み)、Autodesk 3DStudio Max(商標出願済み)、およびAutodesk Maya(商標出願済み)を含む。第2のカテゴリb)に関して、開発エンジン、ビデオゲームエンジン、およびグラフィックエンジン(それらは、ビデオゲームまたはVRアプリケーションで用いられる対話画像を生成する)を含む、異なる名前が、それを説明するために用いられる。「エンジン」という語は、ある種のタスクを実行するプログラムまたはその一部分を指す。開発エンジンは、a)2Dおよび3Dグラフィックスを生成するレンダリングエンジン;b)衝突検出エンジン;c)環境との可能な対話;d)音声および音楽;e)アニメーション;f)人工知能;g)ネットワークとの通信;h)メモリ管理など、すべてのVRアプリケーションにおいて共通である基本的なプログラムされた機能のセットを提供する。用いられ得るグラフィックエンジンの例は、Uinty3D(商標出願済み)およびUnreal Engine(商標出願済み)を含む。
【0072】
VRセッションの開発は、a)環境、b)キャラクタ、およびc)スクリプティングの3つのカテゴリに分割することもできる。
【0073】
a)環境。これは、シナリオの受動的要素を包含し、表示されるすべては静的なままであることになる。
【0074】
b1)キャラクタ作成。キャラクタ、およびそれらを操り人形化するための下のすべてのロジックを作成する。
【0075】
b2)キャラクタアニメーション。これは、(b1)で作成されたキャラクタをアニメーション化して動かすプロセスである。キャラクタアニメータは、Autodesk Maya および Autodesk MotionBuilderを用いることができる。アニメーションは、Optittrackなどのモーションキャプチャシステムを用いて作成することができる。
【0076】
c)スクリプティング。ゲームエンジン(例えば、Unity)を用いて、すべての要素をまとめて、位置を設定し、ロジックおよび挙動をプログラムする。
【0077】
各シナリオは同じ環境モデルを有することになる。カフェは、すべてのレベル1~5について同じカフェである。各レベルのキャラクタは変化してもよく、いくつかのキャラクタは、あるレベルにあり、他のレベルにはない。
【0078】
図3は、ワークステーション6と、音声機能を有するディスプレイユニット4、1つ以上の入力装置5、ならびに複数のセンサ7および8を含むVRハードウェア3とを備えるVR治療システム1の例の概略図を示す。ディスプレイユニットにおけるセンサ7の1つは、仮想環境における患者キャラクタの注視方向を測定するための視線追跡センサである。ディスプレイユニット内の別のセンサ7は、患者の位置を追跡するための位置追跡センサである。ディスプレイユニットの外部の他のセンサ8は、仮想環境における患者の手の動きを追跡するためのハンドヘルドコントローラ(入力装置5のうちの1つ)に取り付けられる追跡および入力センサを含む。ハンドヘルドコントローラ上のバイオセンサを用いて発汗/コルチゾールレベルを測定することができ、これを用いて治療セッション中の患者の不安レベルを評価することができる。センサ7および8は、音声検出用のマイクロフォンも含む。VRシステム1は、さらに、VR環境モジュール9と、測定モジュール10と、監視モジュール11と、検出器モジュール12と、フィードバックモジュール13と、予測器モジュール14と、患者状態ニューラルネットワークモジュール15とを含む複数のモジュールを備える。VRシステムは、VR環境モジュール9を実現して、VRシステム1を用いて仮想環境内において患者に治療空間領域のセットを提示するよう構成される。これらの空間領域は、異なる治療シナリオに対応する。VRシステム1は、さらに、測定モジュール10を実現して、(ニューラルネットワークモジュール15とともに)患者の精神的不安状態を表す精神的不安状態パラメータを判定し、監視モジュール11を実現して、患者活動タスクの遂行を監視し、検出器モジュール12を実現して、タスクの非遂行および/または患者の精神的不安の状態を検出し、フィードバックモジュール13を実現して、タスクの完了において患者を支援するよう構成される。VRシステム1はさらに、患者および仮想環境に関するデータを記憶するためのデータストレージ16を備え、これは、仮想環境をレンダリングするためにVR環境モジュール9およびワークステーション6によってアクセス可能である。VRシステム1は、予測器モジュール14を実現して、患者が追求することを推奨されるセッションの数または空間領域(シナリオ)および難易度を予測するよう構成される。予測器モジュール14は、好ましくは、機械学習を用いて予測を提供する。ワークステーション6、モジュール(9~15)、およびデータストレージ16は、図1のVRシステムのコンピュータシステム2を形成してもよい。
【0079】
図4aは、図1または図3に示すVRシステムなどのVRシステムを介して治療セッションを提供する方法のステップを示す流れ図である。本方法は、シナリオタスクを含む治療シナリオを提示するステップ(ステップS7)と、精神的不安状態パラメータの判定を呼び出すステップ(ステップS8)と、シナリオタスクの遂行を監視するステップ(ステップS9)と、コーチキャラクタを用いてシナリオタスクの完了において患者を支援するステップ(ステップS10)とを含む。精神的不安状態パラメータは、患者キャラクタの仮想環境との対話に関連する異なるパラメータの範囲から判定することができる。
【0080】
図4bは、精神的不安状態パラメータの判定を呼び出すVRシステムの例を示す流れ図である(ステップS8)。VRシステムは、測定モジュール10を呼び出して、患者キャラクタの注視方向(ステップS8a)、仮想環境内のオブジェクトまたは他のキャラクタに対する患者キャラクタの近接度(ステップS8b)、患者キャラクタが言語的プロンプトに応答する時間(ステップS8c)、患者キャラクタが仮想環境内のオブジェクトに関連して応答する時間(ステップS8d)、および任意選択で患者の身体的/生体応答(例えば、コルチゾールレベル)(ステップS8e)を測定することができる。これらの測定値の1つ以上は、患者の精神的不安状態パラメータを判定または調整するために用いられ(ステップS8f)、これは次いで、患者キャラクタに提供される支援を調整するためにフィードバックモジュール13によって用いられる。一般に、状態パラメータが高いレベルの不安を示す場合、フィードバックモジュールは、コーチキャラクタからのプロンプトまたは励ましを、より迅速に提供するよう実現される。測定値の任意の1つを、シナリオにおけるイベント(例えば、環境内の他のキャラクタまたはオブジェクトの移動)に応答して、または所与の時間間隔(例えば毎秒)で、呼び出すことができる。近接度測定は、患者キャラクタの移動によって、または仮想環境内のオブジェクトもしくは他のキャラクタの移動によってトリガされてもよい。視線追跡は、患者キャラクタがシナリオにおいてタスクキャラクタの前を移動することによってトリガされてもよく、これを用いて、患者キャラクタがタスクキャラクタとアイコンタクトを維持するかどうかを判定することができる。
【0081】
ある例では、ニューラルネットワークモジュール15は、精神的不安状態パラメータを判定するために用いられる。ニューラルネットワークモジュール15への入力は、測定モジュール10からの仮想環境における1つ以上の測定値(ステップS8a~ステップS8d)および/またはセンサ8からの物理的測定値(ステップS8e)を含む。ニューラルネットワーク15は、患者の精神的不安の度合いを表してもよい分類カテゴリのセットの各々に対して1つずつ、精神的不安状態パラメータ、またはスコアもしくは確率値のセットを直接出力してもよい。次いで、これらのスコアを用いて、患者を不安もしくは非不安として分類し、および/または患者の不安を2つを超えるカテゴリにグレード付けすることができる。
【0082】
VRシステム1は、いくつかの精神的健康状態に対する証拠に基づく治療である認知行動療法(CBT)からの技術を利用する。これは、患者が、患者の自動的応答に対する患者の反応を変更するために、仮想環境における患者の自動的な信念および感情を試験することを可能にする対話式療法である。
【0083】
ある例では、VRシステム1は、それが仮想環境において患者に提示することができる複数の異なる治療シナリオへのアクセスを有する。VRシステムは、難易度において慎重にグレード付けされたいくつかのレベルを患者に提供し、患者の応答および挙動を試験するよう構成される。予測器モジュール14は、特定の患者に提供するシナリオのサブグループを選択するために用いることができる。例えば、社会的回避を治療するために、システムは、カフェ、店舗、パブ、医師待合室、バス、および街路を含む、異なるシナリオを用いることができる。各シナリオは、患者の仮想キャラクタによって完了されるべきタスク/活動と、シナリオの特定の態様を決定する難易度レベルとに関連付けられる。
【0084】
図5は、VR治療システム1と、さらなる治療を提供し、VRセッション間で患者データを収集するためのモバイルアプリケーションを有するモバイルデバイス17とを備えるシステムの概略図を示す。モバイルデバイス17は、リストバンド18に接続され、リストバンド18は、患者によって装着されることができ、モバイルアプリケーションに送信することができる患者データ(例えば、心拍数、GSR、コルチゾール/発汗レベル)を収集するためのセンサを備える。モバイルデバイス17およびVRシステム1は、データを共有するために、ネットワーク19を介して直接またはサーバ20(たとえば、クラウドベースのサーバ)を介して通信することができる。モバイルアプリケーションは、リストバンド18からの患者データを用いて、患者の不安評価を判定し、不安評価に基づいてフィードバックを提供することができる。例えば、モバイルアプリケーションが、患者は高い不安レベルを有すると判定する場合、モバイルアプリケーションは、モバイルデバイスからの言葉による励ましを与えてもよい。好ましくは、言葉による励ましを与える音声は、仮想環境におけるコーチキャラクタと同じ音声である。モバイルデバイス17またはリストバンド18は、GPS追跡を用いて患者の位置を追跡し、その位置をアプリケーションに提供することができる。アプリケーションは、その位置を用いて、患者にターゲットとされるフィードバックを提供することができる。例えば、モバイルアプリケーションは、その位置を用いて、患者がいつ仮想環境における治療シナリオのうちの1つに対応する実世界のシナリオにいるかを識別し、その状況に対する適切なフィードバックを提供してもよい。
【0085】
したがって、患者モバイルデバイスは、監視される患者活動度/不安を用いて、患者がいつストレスの多い実世界の状況にあるかを識別してもよい。それに応答して、モバイルデバイス17は、次いで、実世界フィードバック、たとえば、ヘッドホンを介して、コーチキャラクタが仮想環境内で患者を支援するよう用いる音声で、発話された音声出力を、患者に提供してもよい。音声は、穏やかな言葉および/または発話された指示もしくは励ましを、モバイルデバイス17から患者に提供してもよい。
【0086】
ある例では、モバイルアプリケーションは、患者によって提供される情報およびフィードバックを収集し、患者データをVRシステム1に送信する。VRシステム1は、モバイルアプリケーションによって提供される患者データを用いて、その患者に対するVR治療セッションを修正する。同様に、VRセッション中にコンピュータシステムによって収集された患者データ(例えば、患者の進歩、達成されたレベル、および学習)は、VRシステムからモバイルアプリケーションに送信され得る。VRセッション間で、モバイルアプリケーションは、VRシステム1によって提供される情報を用いて、学習ポイントを強化し、VRセッションにおいて学習された技能および挙動を実践するように患者を励ますことができる。
【0087】
ある例では、自動化されたCBTプログラムがVRシステム1から患者に提供される。シナリオにおいて費やされた時間、質問への回答、達成されたレベル、および目標が、ユーザがVR治療を受けている間に収集される。患者データは、VRシステム1のコンピュータシステムにローカルに記憶されてもよく、および/または遠隔サーバ20において遠隔に記憶されてもよい。データは、サーバ20に渡されるか、または処理のためにモバイルデバイス17に直接渡される。概して、VR治療システムの構成要素間の接続は、有線接続および/または無線接続を備えてもよく、データは、シナリオタスク中またはその完了後に記憶されてもよい。
【0088】
セッション間で、モバイルアプリケーションは、このデータを用いて、学習ポイントを強化し、ユーザが実世界で学習を適用するよう促す。モバイルアプリケーションは、患者がフィードバックを与えるためのインターフェースを提供し、患者が現実の状況で学習ポイントを適用しようとしたかどうかを記録し、評価を提供する。このフィードバックは、サーバ20に戻されるかまたはVRシステム1に直接送ることができる。次のVRセッションでは、自動化された治療は、ユーザの必要性に合わせて治療を調整するよう、処理されたフィードバックを用いて調整される。
【0089】
各シナリオは、5つの難易度レベルを有してもよく、その中で、VRシステムは、以下のよう構成される:
カフェシナリオ
1.待ち行列を与え、患者に飲料を注文するよう促す。
2.背景キャラクタをより多くする(より混雑しているカフェ)。待ち行列を与え、患者に飲料を注文するよう促す。
3.待ち行列を与え、患者に飲料を注文するよう促す。患者キャラクタに注文を繰り返すように依頼するバリスタキャラクタを与える。
4.テーブル上に財布を置き去りにする顧客キャラクタを与え、顧客キャラクタに警告するよう患者を促す。
5.空中にシャボン玉を吹く子供のキャラクタを与え、患者にシャボン玉をはじくよう促す。患者キャラクタがタスクを遂行するときに患者キャラクタを見る、さらなる背景キャラクタを与える。
【0090】
バスシナリオ
1.患者は、バス停留所で待つように促され、次いで、料金を支払い、バスに乗るよう促される。
2.背景キャラクタをより多くする(より混雑している)。患者は、バス停留所で待つように促され、次いで、料金を支払い、バスに乗るよう促される。
3.背景キャラクタをより多くする(より混雑している)。患者は、バス停留所で待つように促され、次いで、料金を支払い、バスに乗るよう促される。
4.他の乗客キャラクタが患者キャラクタを見ている状態で、ベルを鳴らすように患者キャラクタに依頼する乗客キャラクタを与える。
5.さらなる背景キャラクタを与える(非常に混雑している)。患者は、バス停留所で待つように促され、次いで、料金を支払い、バスに乗るよう促される。
【0091】
街路シナリオ
1.患者は、玄関を離れ、街路でタクシーを待つよう促される。
2.背景キャラクタをより多くする(より混雑している)。患者は、玄関を離れ、街路でタクシーを待つよう促される。
3.背景キャラクタをより多くする(より混雑している)。患者は、玄関を離れ、街路でタクシーを待つよう促される。
4.患者は、玄関を離れ、背中を街路に向けた状態で壁から落書きを洗い流すよう促される。
5.背景キャラクタをより多くする(非常に混雑している)。患者に、玄関を離れ、街路でタクシーを待つよう促す。
【0092】
医師待合室(GP)シナリオ
1.患者に待ち行列で待機するよう促す。
2.患者に、待機し、受付係に個人情報を与えるよう促す。
3.空気中に仮想チラシを吹き込み、他のキャラクタが患者キャラクタを見ている状態で、それらを掴むよう患者を促す。
4.患者キャラクタにペン立てを渡すよう求める、わずかに怒った人物キャラクタを与える。
5.患者は、医師によって呼び出されるのを待ち、受付係に自分の順番がいつ来るかを尋ねるよう促される。
【0093】
パブシナリオ
1.患者は、パブで友人キャラクタが到着するのを待つよう促される。
2.背景キャラクタをより多くする(より混雑している)。患者は、パブで友人キャラクタが到着するのを待つよう促される。
3.大声のスポーツファンを含む、より多くの背景キャラクタを与える(より混雑している)。患者は、パブで友人キャラクタが到着するのを待つよう促される。
4.トイレがどこにあるかを患者キャラクタに尋ねるスポーツファンキャラクタを与える。
5.他のキャラクタが患者キャラクタを見ている状態で、患者キャラクタにラストオーダーのベルを鳴らすよう求めるバーマンキャラクタを与える。
【0094】
店舗シナリオ
1.店主キャラクタが患者キャラクタを見ている状態で、患者に店内を冷やかすよう促す。
2.店内に他の顧客キャラクタを与える。
3.患者に、店内に背を向けて棚から3つの品物を手にするよう促す。
4.背景キャラクタをより多くする(より混雑している)。患者に、店内に背を向けて棚から3つの品物を手にするよう促す。
5.さらなる背景キャラクタを与える(非常に混雑している)。店主キャラクタが患者キャラクタの品目をレジに打ち込んでいる間、レジで患者に待つよう促す。
【0095】
難易度は、シナリオの所与のレベルでユーザに与えられる時間の長さを調整することによって、さらに調整されてもよい。難易度はまた、背景キャラクタの挙動を変更することによって、例えば、背景キャラクタが患者キャラクタを見る頻度および/または持続時間を調整することによって、調整されてもよい。
【0096】
活動が患者によって必要とされる度に、VRシステムは、患者が所与の期間内に活動を首尾よく完了したかどうかを判定し、それに応じて応答する。プロンプトは、シナリオの文脈で発生し、状況内のキャラクタのうちの1つによって、および/またはコーチキャラクタによって、言葉で送達されてもよい。プロンプトはまた、レベルを完了するよう必要とされる特定のオブジェクトに患者の注意を引くことも含んでもよい。システムは、患者がタスクを完了しないであろうとシステムが判断する前に、固定数のプロンプト(典型的には、少なくとも2つ)を設定し、その判断に応答して、シナリオを終了させる。患者がレベルを首尾よく完了しない場合、システムは自動的に(最後のプロンプトからのある期間の後)患者をそのシナリオから退出させ、したがって、患者はそのレベルに無期限にとどまらない。患者キャラクタをシナリオから退出させるために、システムは「アウトロ」シーケンスをトリガし、患者は先に進む機会を与えられず、進歩するためにそのレベルを繰り返さなければならない。これは、学習を最大化し、治療上の利益を保証するよう、プログラムにおける慎重な難易度の段階化によるものである。この対話は、VR環境における「存在」の鍵となる概念にとって重要であり、これは、患者が「実際にそこにい」て、あたかも表現された仮想世界の一部であるかのように信じ、振る舞うという感覚に関係する。プログラムのキャラクタ、環境、および構造が信用できるように挙動しないとき、患者は存在の中断を有する場合があり、これはVR治療の有効性を制限する。
【0097】
困難な状況が指導され、進歩がなされると、患者は先に進むことができる。治療のペース設定は、治療の有効性にとって鍵であり、プロンプトは、レベルを首尾よく完了することによって先に進む準備ができている患者のみが先に進むことを確実にする。対話は、その場のキャラクタおよびコーチによって行われるので、患者が実際にいることになる状況に患者を置くことによって現実性を反映し、したがって、治療上の利益が特に関連性があることを保証し、したがってより良好な結果をもたらす。対話はまた、患者と、存在するときはいつでもプロンプトについて依存されるコーチキャラクタとの間にある度合いの疎通性も形成する。このことは有用であり、なぜならば、患者が、VR内の特に困難な状況において自分の信念を試験する際に励ましを得ることを期待でき、患者が活動を直ちに完了しない場合には患者が促されることを知ることができるからである。
【0098】
公知のVR CBT製品は、仮想世界において対話を有さない。これは、存在が制限されることを意味する。なぜならば、患者とともに部屋にいる開業医または臨床医は、患者が仮想環境内にいるときに、話している場合が多いためである。多くのプログラムは、いかなる活動度も特徴とせず、単に脅えさせるような状況への曝露を伴う。自動的な思考および感情に対する新たな応答を試験する能力はない。
【0099】
VRシステムは、患者が、選択を行い、タスクを完了するために、ハンドコントローラ入力装置またはマイクロフォンを用いて対話することができる、仮想環境内の異なるオブジェクトを提供することができる。
・球体セレクタ。患者キャラクタは、自分の選択に関連する球体に到達し、それを掴むことができる(シナリオを選択するために、球体は、シナリオを表す浮遊する2D画像の下に表示される)。球体は、掴まれると、破裂するか、またはそうでなければ選択を確認する指示を与える。球体セレクタは、患者が、どのシナリオを行いたいか、どのレベルで開始するか、より安全であると感じるか(はい/いいえ)、または単一の選択で準備ができているかどうかを選択することを可能にすることができる。
・球体スライダ。コーチは、患者が異なる状況に入るのにどのくらい自信があるかを患者に尋ねることができる。患者は、自分の前の球体に到達してそれを掴み、それを(例えば、1~10とマークされた)数字線上で移動させて、自分の自信レベルを示すことができる。そのような指示は、セッションの過程全体を通して記録される。
・ペン立てを滑らせる。患者キャラクタは、医師の待合室において、レベル4で、ペン立てに到達し、それを別のキャラクタに向かって滑らせることできる。
・発光する足跡。患者は、正しい場所に移動するよう促される際、発光する足跡を見てもよい。
・発光するオブジェクトプロンプト。あるオブジェクトは、患者がそれと対話する必要がある場合に発光し得る。
・担持可能オブジェクト。担持可能なオブジェクトは、患者の手がオブジェクトの近くにあるときにコントローラ上のトリガを握ることによって拾い上げられ、トリガを解放することによって落とされる。ホースのような特定のオブジェクト(街路レベル4)は、トリガが解放されたときに落下せず、依然として手から手に渡すことができる。(バスシナリオおよび店舗シナリオにおける)支払カードのような特定のオブジェクトは、レベルの開始で患者の手に取り付けられる。オブジェクトが(ホース水流のような)トリガ活動を有する場合、それは、患者がトリガをどれだけ圧迫しているかによって制御される。
・音声検出。患者は発話することを必要とされることになる-音声認識を実現する必要はなくてもよく、代わりに、患者が発話したか否かを検出するだけでもよい。
【0100】
身体的、非言語的対話の例は、バスシナリオにおいて与えられ、患者は、バスに乗るときに毎回支払いを行わなければならない。そうしない場合、コーチは(存在する場合には)、患者に支払いを促す。支払い機も、視覚的に発光して患者の注意を引き、必要な支払いの活動を示す。
【0101】
図6は、バスシナリオを含む治療セッションにおいてVRシステムによって実行されるステップのいくつかを示すフロー図である。患者キャラクタは、自分の手にある仮想支払カードをバス運転手の前にロードする。VRシステムは、仮想支払カードを保持する手の動きを追跡するハンドコントローラからの入力に基づいて、患者が運転手に支払いを行うかどうかを判断する。患者キャラクタが支払いを行ったとシステムが判断した場合、コーチは患者キャラクタに肯定的なフィードバック(励まし)を与え、一歩進むよう促す。15秒の期間内に支払いが行われていないとシステムが判断した場合、システムは、視覚的プロンプトと、それに続く、患者キャラクタにどのように支払いを行うかを伝えることによるコーチキャラクタを通じた言語的プロンプトを与える。システムは、患者キャラクタが10秒の期間内に必要なタスクを遂行するかどうかを判定し、遂行しない場合には、シナリオから退出する。
【0102】
図7は、カフェシナリオを実行するときにVRシステムによって実行されるステップのいくつかを示す流れ図である。患者キャラクタが待ち行列内で自分の順番を待った後、コーチは、患者に言葉による励ましを与え、患者が何を飲みたいか分かるかどうかを尋ねる。バリスタキャラクタは、患者キャラクタに飲料を注文するよう求める。これにより、患者キャラクタは、前進して待ち行列の外に出て、バリスタキャラクタから飲み物を注文するよう促される。患者がタスクを完了するかどうかを判定するために、位置追跡および音声認識が用いられる。タスクの完了に応答して、バリスタキャラクタは患者キャラクタに応答し、患者は次のレベルに進むことができる。患者キャラクタが前進せず、15秒の期間内に発話が検出されない場合、VRシステムは、患者がタスクを遂行していないと判定する。非遂行の判定に応答して、コーチは患者キャラクタに励ましを与え、バリスタは注文するよう追加のプロンプトを与える。再び、患者がタスクを遂行したと判断したことに応答して、VRシステムは先に進み、バリスタは患者キャラクタに応答し、患者は先に進むことができる。患者がバリスタからの第2のプロンプトから15秒以内に注文しない場合、システムは、患者がタスクを遂行していないと判断し、シナリオを終了する。
【0103】
図8は、店舗シナリオを含む治療セッションにおいてVRシステムによって実行されるステップのいくつかを示す流れ図であり、患者が遂行するよう促される事前定義された活動は、リストから3つの品物を選択すること、およびそれらを店舗内においてバスケットに入れることとを含む。コーチは、患者に指示を与え、浮遊するリスト上の第1の品物が現れる。VRシステムは、患者キャラクタがその品物を手に取るかどうかを、ハンドコントローラからの入力を通じて判断する。患者キャラクタが品物を手に取ったことに応答して、VRシステムはリスト上の第2の品物を提供し、そのプロセスが繰り返される。患者が30秒の期間内にタスクを遂行していないとVRシステムが判定したことに応答して、システムは、品物に関連する視覚的プロンプトを提供し、さらに10秒後に、コーチを通してプロンプトを与える。患者がこれらのプロンプトに応答してタスクを遂行する場合、VRシステムはシナリオを次の品物に進める。VRシステムが、追加のプロンプトを提供した後にタスクが完了していないと判断した場合、シナリオは終了される。
【0104】
シナリオ間またはシナリオの異なるレベル間を移動するとき、患者は、以前の開始点とは異なり得る開始点に自身を再配置しなければならないことになる。VRシステムは、患者に正しい位置に移動するように促し、患者キャラクタがいつ正しい位置にあるかを判断するよう構成される。
【0105】
図9は、新たなシナリオまたは新たなレベルを開始する前に患者を再配置するようVRシステムによって実行されるステップを示す流れ図である。VRシステムは、正しい位置を示すために仮想環境の床/地面上に足跡を提供する。システムは、仮想環境に対する患者の位置を追跡することによって、患者キャラクタが足跡上に立っているかどうかを判定する。10秒の期間後に患者が正しい位置にない場合、コーチは、正しい位置に移動するよう言語的プロンプトを与える。患者キャラクタが足跡上に立っていると判定することに応答して、足跡は除去され、VRシステムは次のレベルまたはシナリオの表示に進む。
【0106】
特定のシナリオ(バス、カフェ、店舗など)を開始する前に、VRシステムは、「歓迎室」を含む仮想環境を提供することができ、そこでは、コーチを患者に紹介することができ、いくつかの例では、患者は治療セッションのためにシナリオを選択することができる。図10は、VRシステムによって実行される歓迎室に関連付けられるステップを示す流れ図である。患者キャラクタは、歓迎室に入る。コーチは、患者キャラクタが仮想環境とどのように対話できるかを説明する。患者キャラクタが対話することができる仮想オブジェクト(例えば、球体セレクタ)が提供される。コーチは、治療セッションのためにシナリオを選択する前に自信レベルを示すよう患者に求める。
【0107】
仮想環境内のコーチの対話は、患者が活動を首尾よく完了したかどうかをシステムが判断したことに応答して提供される。この判断は、指定された期間内に必要とされる特定の活動(言語的、身体的、またはその両方)に関連付けられる患者入力を測定することを含むことができる。所与のタスクのための特定の期間は、所与の活動のために何が適切でありかつ期待されるかの慎重な研究に基づくことができ、それは、患者が所与のタスクを完了し、次のレベル/シナリオに移ることを可能にすることに失敗した場合の言語的プロンプトおよび視覚的プロンプトにつながる。
【0108】
この期間は、好ましくは、その場で決定または調整することができる。例えば、表示装置が視線追跡能力を備えるVRシステムの一例では、この期間は、仮想環境に対する患者キャラクタの注視に基づいて決定することができる。患者キャラクタが、コーヒーを注文するよう求められるときに床を見下ろす場合、コンピュータシステムは、より短い期間を設定して、別のプロンプトをより迅速に提供することができる。逆に、患者キャラクタがタスクキャラクタ(例えば、カフェシナリオにおけるバリスタ)とのアイコンタクトを維持する場合、この期間は延長されてもよい。
【0109】
別の例では、近接度センサを用いて、シナリオにおけるオブジェクトまたは仮想キャラクタまでの患者キャラクタの距離を判断し、この距離に基づいてこの期間を決定または調整する。例えば、患者キャラクタがタスクキャラクタに近づく(例えば、バリスタに向かって前進する)場合、この期間を延長して、プロンプトを与える前にタスクを首尾よく完了するよう、より多くの時間を患者に与えるようにしてもよい。患者キャラクタが遠すぎる、またはさらに遠くに移動していると判定される場合、この期間は、より迅速にプロンプトを与えるように短縮されることができる。
【0110】
この期間は、概して、患者の精神的不安状態パラメータに基づいてもよく、それは、次いで、注視方向および/または近接度ならびに他の測定値に基づくことができる。
【0111】
図11は、VRシステムまたは患者モバイルデバイスが、患者の生体応答から判定された不安評価に基づいて、シナリオまたは実世界の状況において患者にさらなるプロンプトを与えるかどうかをどのように決定することができるかを示す流れ図である。患者に関連付けられる不安評価が記憶される。不安評価は、患者の測定された心拍数および皮膚伝導度(GSR)および/またはコルチゾールレベルに基づき、正規化された不安率として設定される。このシナリオまたは状況は、患者または患者キャラクタが完了させるべき関連付けられたタスク活動、例えばコーヒーの注文を有する。コーチは、タスク活動を遂行するよう患者に求める。x秒後、新たな不安評価を計算する。新たな不安評価は、アクションを決定するために、正規化された不安評価と比較される。不安評価が閾値を超えて増加した場合、さらなるプロンプト/励ましが患者に与えられる。状態パラメータが不安評価の有意な増加を示さない場合、いかなるアクションも取られない。新たな不安評価を決定した後、この値を新たな正規化された不安評価として設定することができる。このプロセスは、必要なタスク活動が遂行されるまで、または予め設定された数のプロンプトが提供されるまで、繰り返されることができる。特定の例では、不安評価は、患者がより不安になりつつあるかどうかを迅速に判断するために、毎秒(すなわち、x=1)更新される。それにより、不安評価は、患者の不安の関数として提供されるプロンプト間の期間を動的に設定するために用いられる。
【0112】
他の例では、VRセッションにあるとき、心拍数および皮膚伝導度に基づいて不安評価を計算する代わりに、またはそれに加えて、不安評価は、仮想環境における患者キャラクタの活動に基づくこともできる。例えば、不安評価は、視線追跡を用いる患者キャラクタの注視に基づくことができる。
【0113】
図12は、精神的不安状態パラメータに基づいて患者キャラクタにいつプロンプトを与えるかを決定する、より高度な方法を示す流れ図である。現在の不安評価を正規化された不安評価と単に比較する代わりに、正規化された不安評価履歴を事前定義されたパターンと比較する。このパターンは、患者との以前のセッションからのデータに基づいてもよい。不安履歴が事前定義されたパターンと一致するかどうかに応じて、コーチを用いて適切なフィードバック(例えば、タスク活動を完了するためのさらなるプロンプト)を提供することができる。
【0114】
コルチゾール/発汗レベルは、ウェアラブル発汗バイオセンサを含むことによって測定することができる。不安を有するユーザは、VRハンドコントローラ上で発汗する傾向があり、バイオセンサは、ハンドコントローラに貼り付けられるステッカーとして含めることができる。コルチゾール/発汗レベルは、(例えば、適切なシナリオ/レベルを決定するために)治療の必要性の予測因子として用いることもできる。それは、治療セッションの完了前後のコルチゾール/発汗のレベルを比較することによって治療の客観的転帰尺度を提供するように用いることもできる。
【0115】
セッション中、以下の情報を記録してもよい。
・一般情報:参加者ID、セッション番号、日時、アプリケーションビルド。
・追跡データ:頭部の位置および向き、手の位置および向き、コントローラボタンの押下、コントローラボタンの解放。
・シナリオイベント:シナリオ開始/終了、およびシナリオ一時停止/再開。
・ユーザ入力/活動/球体および他の同様のプロップとの対話、ならびに適用可能である場合には音声:初期較正(カウントダウン)、自信、不安レベル、および参加者からの入力を必要とする同様の質問、セッションオプション開始/継続/終了、位置リセット、足跡への歩行。
【0116】
VRシステムが検出することができるVR環境内の患者キャラクタの活動は、以下を含む:
・カフェレベル5-シャボン玉をはじく。
・店舗レベル3、4-オブジェクトを手にし、オブジェクトを落とす。
・バスレベル1~5-カード支払い。
・バスレベル4-バス停止ボタンを押す。
・GPレベル3-チラシを掴み、チラシを落とす。
・GPレベル4-ペンを手にして渡す。
・GPレベル5-受付係にしばらく待ったことを告げる?
・パブレベル4-トイレの方向を指す?
・パブレベル5-ラストオーダーのベルを鳴らす。
・街路レベル4-トリガを押して水を撒き、トリガを放す。
【0117】
対話は、治療上関連する変化を生じさせるために、自動応答に関する考えを用いる実験への学習の重要な取り込みを可能にするよう設計される。プロンプトは、困難および不安が予想される治療の重要な点で設計され、学習成功の機会を増やすために様々な方法で(コーチによって、他の仮想キャラクタによって、言語で、および視覚的に)送達されるので、特に有効である。
【0118】
生データは、VRセッション中に収集することができ、それをコンピュータシステムによって処理して、以下のような、より有用なデータ構造を決定することができる:
-患者キャラクタが質問に答えるのにどれくらい時間がかかったか?
-患者キャラクタが活動を遂行するのにどのくらい時間がかかったか?
-活動を遂行する際、上肢の動きのモデルに基づいて、患者はどのくらい自信があったか?
-患者キャラクタが床を見下ろすのにどのくらいの時間を費やしたか?
-患者キャラクタは他のキャラクタの目を直接見たか?どのくらいの頻度で?
-患者キャラクタは仮想コーチからどれくらい離れていたか?その距離はセッション中に変化したか?
-患者キャラクタは正しいボタンを押したか?(ハンドコントローラーに慣れていないという理由だけで遅延が発生する可能性がある)。
【0119】
コンピュータシステムは、そのようなデータ構造を入力として使用し、患者データに基づいて、例えばニューラルネットワークおよび予測器モジュールを用いて、その患者に治療を提供するために正しい治療シナリオおよび難易度レベルを決定することができる。より多くのデータが経時的に収集されるにつれて、VRシステムを用いて、参加者がどれくらいの数のセッションまたはどのシナリオ/難易度レベルを追求することが推奨されるかを予測することができる。これは、サービスが患者の治療、治療のリソース(より多くの患者を取り込むための割り当て)を管理するのを支援するのに有用であり得、いくつのヘッドセットが必要とされるか、コストなどを推定するのに有用であり得る。機械学習をデータとともに用いて、これらの予測を改善することができる。
【0120】
患者および健康サービスは、典型的には、特定かつ固有の精神障害:うつ病、例えば、または全般性不安障害の点で考える。しかしながら、1つの障害を有する人々は、他の障害の基準、場合によっては3つ以上も満たす可能性が高い。心因性の問題が次元的であることも明らかである。すなわち、それらはある重症度のスペクトル上に存在する。例えば、うつ病は、気分の落ち込みのスペクトルにおける比較的重度の事例よりも離散的な経験のカテゴリではない。ほとんどの人々は、生涯にわたって、このスペクトル上の異なる点で自分を見つけるであろう。さらに、多くの専門家は、精神障害は別個の障害ではなく、それら自体が次元的である心因性の問題の複雑な組み合わせであると考える。
【0121】
上記の因子は、障害に特有の介入を補完するための横断診断的治療技術の有意な範囲があることを意味する。本明細書に記載のVRシステムの例は、そのような治療を利用可能にすることができる。例えば、VRシステムは、ユーザがより活動的になるのを助けるため、心配を克服するため、思考が感情に及ぼし得る影響を理解するため、および日常活動に従事するために、異なるシナリオを実現することができる。これらのシナリオは、証拠に基づく認知および活動治療技術を提示する。したがって、それらは、最も一般的な障害であるうつ病および不安を含む広範囲の心因性の問題を有する人々にとって大きな価値がある可能性が高い。本発明者らは、治療提供に対するモジュール式アプローチを追求している。VRシステムはVRプラットフォームを提供し、VRプラットフォームは広範囲のVRシナリオを含み、それらの各々は特定の治療技術に焦点を当てており、それはモバイルアプリケーションおよび第三者治療ツールによってサポートされてもよい。これらのVRシナリオまたはモジュールの多くは、横断診断的となる。他は、特定の障害(例えば、OCD)に焦点を当てることになる。モジュールの特定の組み合わせを試験して、特定の診断に対する有効性を確立することができる。VRプラットフォームは、臨床医および患者が彼らにとって最も効果的であると考えるモジュールを選択することができるダッシュボードを提供することができる。
【0122】
図13は、VRプラットフォームが、複数の精神的健康状態を治療するための一般的な臨床プラットフォームの一部としてどのようであり得るかの概略図を示す。VRプラットフォームは、1つ以上の障害を治療するために用いることができる、異なるシナリオ(シナリオA~E)へのアクセスを提供する。
【0123】
当業者には多くの代替案が思い浮かぶであろう。本発明は、記載された実施形態に限定されず、特許請求の範囲の精神および範囲内にある、当業者に明らかな修正を包含する。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】