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特表2022-539088抗LAG‐3抗体を含む製剤、その調製方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】抗LAG‐3抗体を含む製剤、その調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220831BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220831BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220831BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220831BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220831BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20220831BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220831BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61P35/00 ZNA
A61P35/04
A61P37/02
A61P43/00 105
A61K39/395 E
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/26
A61K47/18
A61K9/14
A61M5/28
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576991
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(85)【翻訳文提出日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 CN2020098140
(87)【国際公開番号】W WO2020259593
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】201910547168.7
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ ティエンイー
(72)【発明者】
【氏名】マー イートン
(72)【発明者】
【氏名】ワン インチュエ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ カイソン
【テーマコード(参考)】
4C066
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C076AA11
4C076AA29
4C076BB13
4C076BB15
4C076CC26
4C076CC27
4C076DD09F
4C076DD38Q
4C076DD43Z
4C076DD51Q
4C076DD67Q
4C076EE23F
4C076FF16
4C076FF36
4C076FF43
4C076FF61
4C076FF63
4C076GG47
4C085AA13
4C085BB11
4C085CC05
4C085CC21
4C085DD14
4C085DD15
4C085DD62
4C085DD84
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、抗LAG‐3抗体を含む製剤に関し、特にLAG‐3分子と特異的に結合する抗体、緩衝剤、安定剤及び界面活性剤を含む医薬製剤に関する。また、本発明は、疾患を治療又は予防するためのこれらの製剤の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抗LAG‐3抗体と、
(ii)緩衝剤と、
(iii)安定剤と、
(iv)界面活性剤と、
を含み、pH値が約5.5~7.5、例えば、pH値が約6.0である液体抗体製剤であって、
前記抗LAG‐3抗体が、
‐GSIYSESYYWG(配列番号1)の重鎖VH CDR1と、
‐SIVYSGYTYYNPSLKS(配列番号2)の重鎖VH CDR2と、
‐ARVRTWDAAFDI(配列番号3)の重鎖VH CDR3と、
‐QASQDISNYLN(配列番号4)の軽鎖VL CDR1と、
‐DASNLET(配列番号5)の軽鎖VL CDR2と、
‐QQVLELPPWT(配列番号6)の軽鎖VL CDR3と、
を含む、液体抗体製剤。
【請求項2】
前記液体抗体製剤における抗LAG‐3抗体の濃度が、約1~100mg/mlであり、好ましくは約5~50mg/mlであり、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45又は50mg/mlである、請求項1に記載の液体抗体製剤。
【請求項3】
前記液体抗体製剤における緩衝剤が、クエン酸塩、クエン酸塩溶媒和物(例えば、クエン酸塩水和物)又はこれらの組合せ、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物又はこれらの組合せから選ばれ、好ましくは、前記緩衝剤の濃度が、約1~10mg/mlであり、好ましくは約4~8mg/mlであり、例えば、約4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8mg/mlである、請求項1又は2に記載の液体抗体製剤。
【請求項4】
前記安定剤が、ソルビトール、スクロース、トレハロース、アルギニン、塩酸アルギニン又はこれらの任意の組合せ、より好ましくはスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンから選ばれ、好ましくは、前記安定剤の濃度が、約10~150mg/mlであり、より好ましくは約15~100mg/mlであり、例えば、約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100mg/mlである、請求項1~3の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項5】
前記液体抗体製剤が、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンを安定剤として含み、好ましくはアルギニン及び/又は塩酸アルギニンは約10~40mg/ml、好ましくは約15~25mg/mlの量(例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25mg/mlの量)で存在し、及び/又はスクロースを安定剤として含み、好ましくはスクロースが約20~100mg/ml、好ましくは約40~90mg/mlの量(例えば、約40、50、60、70、80、90mg/mlの量)で存在する、請求項1~4の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項6】
前記液体抗体製剤における界面活性剤が、ポリソルベート類界面活性剤から選ばれ、好ましくはポリソルベート80である、請求項1~5の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項7】
前記界面活性剤の濃度が約0.1~1mg/mlであり、好ましくは約0.2~0.8mg/mlであり、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8mg/mlである、請求項1~6の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項8】
前記液体製剤が、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及び/又はメチオニンを含む又は含まないのどちらでもよい、請求項1~7の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項9】
前記抗LAG‐3抗体が、配列番号7の配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域VHと、配列番号8の配列又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域VLと、を含む、請求項1~8に記載の液体抗体製剤。
【請求項10】
前記抗LAG‐3抗体がIgG4型抗体であり、好ましくは、配列番号9又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する重鎖配列と、配列番号10又はそれと少なくとも90%、95%、98%又は99%の同一性を有する軽鎖配列と、含む、請求項1~9の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項11】
前記抗LAG‐3抗体が、293細胞又はCHO細胞において組換え発現される、請求項1~10の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項12】
前記液体製剤が注射剤であり、好ましくは皮下注射もしくは静脈内注射に使用されるものであり、又は輸注剤であり、例えば静脈内輸注に使用されるものである、請求項1~11の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項13】
請求項1に記載の液体抗体製剤であって、
前記液体製剤は、
(i)約1~100mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約1~10mg/mlのクエン酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約10~150mg/mlのスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンと、
(iv)約0.1~1mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
場合により、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及びメチオニンを含まず、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される;又は、
例えば、前記液体抗体製剤は、
(i)約10~30mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約2~8mg/mlのクエン酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約10~40mg/mlのアルギニン及び/又は塩酸アルギニン、及び/又は40~90mg/mlのスクロースと、
(iv)約0.2~0.8mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
場合により、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及びメチオニンを含まず、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される;又は
前記液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約80mg/mlのスクロースと、
(iv)約0.3mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される;又は
前記液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約17.42mg/mlのアルギニンと、
(iv)約0.3mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される;又は
前記液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約21.07mg/mlの塩酸アルギニンと、
(iv)約0.7mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される;又は
前記液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約50mg/mlのスクロース及び約21.07mg/mlの塩酸アルギニンと、
(iv)約0.7mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される;又は
前記液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約50mg/mlのスクロースと、
(iv)約0.7mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される、液体抗体製剤。
【請求項14】
保存後に、例えば2~8℃で少なくとも24ヶ月保存した後に、又は室温で少なくとも3ヶ月保存した後に、又は40℃±2℃で1ヶ月保存した後に、安定的であり、好ましくは、
(i)SEC‐HPLC法により測定した結果、製剤は、90%より大きい純度を有し、好ましくは95%、96%、97%、98%、99%より大きい純度を有する、という特徴と、
(ii)還元型及び非還元型CE‐SDS法により測定した結果、製剤は、90%より大きい純度を有し、好ましくは95%、96%、97%、98%、99%より大きい純度を有する、という特徴と、
(iii)iCIEF法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗LAG‐3抗体の各成分(即ち、主成分、酸性成分及び塩基性成分)の変化値は、≦2%である、という特徴と、
(iv)ELISA法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗LAG‐3抗体の相対結合活性は、70%~130%であり、例えば、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%である、という特徴と、の1つ又は複数を有する、請求項1~13の何れか1項に記載の液体抗体製剤。
【請求項15】
請求項1~14の何れか1項に記載の液体抗体製剤を硬化させることによって得られる固体抗体製剤であって、例えば、凍結乾燥粉末注射剤の形態である、固体抗体製剤。
【請求項16】
請求項1~14の何れか1項に記載の液体抗体製剤、又は請求項15に記載の固体抗体製剤を含む送達装置。
【請求項17】
静脈内注射又は筋肉内注射において使用するための、請求項1~14の何れか1項に記載の液体抗体製剤、又は請求項15に記載の固体抗体製剤を含む薬剤充填済み注射器。
【請求項18】
LAG‐3を発現させるがん(特に、転移性がん)、免疫関連疾患及びT細胞機能障害疾患を治療、予防又は緩和するための薬物の調製における、請求項1~14の何れか1項に記載の液体抗体製剤又は請求項15に記載の固体抗体製剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体製剤分野に関する。具体的には、本発明は、LAG‐3と特異的に結合する抗体(後述では「抗LAG‐3抗体」とも呼ばれる)を含む医薬製剤、前記医薬製剤の調製方法、並びに治療及び/又は予防における前記医薬製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ球活性化遺伝子3(LAG‐3)は、CD223とも呼ばれ、LAG‐3遺伝子が人体においてコードするI型膜貫通タンパク質である。LAG‐3の分子特性、生物学的機能について、例えば、Sierro et al.,The CD4‐like molecule LAG‐3,biology and therapeutic applications,Expert Opin Ther Targets,2011,15(1):91‐101に記載されるとおり、すでに十分な特性評価と説明が行われている。LAG‐3はCD4様タンパク質であり、T細胞(特に、活性化されたT細胞)、ナチュラルキラー細胞、B細胞、形質細胞様樹状細胞の表面に発現されている。LAG‐3が抑制性受容体であることは既に判明されている。
【0003】
黒色腫、結腸がん、膵臓がん、乳がん、肺がん、白血病、頭頸部がんの患者では、LAG‐3腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が報告されている(Demeure C.E. et al., T Lymphocytes infiltrating various tumour types express the MHC class II ligand lymphocyte activation gene‐3(LAG‐3):role of LAG‐3/MHC class II interactions in cell‐cell contacts, Eur. J. Cancer, 2001, 37(13):1709‐1718)。多数のがんマウスモデルでは、抗LAG‐3抗体によるLAG‐3の遮断により、CD8エフェクターT細胞が回復し、Treg細胞群体が減少した。
【0004】
LAG‐3と特異的に結合する抗LAG‐3抗体は、LAG‐3の遮断剤として、例えば、中国特許出願番号201811561512.Xに記載されている。本分野では、様々ながん、免疫関連疾患及びT細胞機能障害疾患を治療、予防又は緩和するための抗LAG‐3抗体製剤が必要とされる。
【0005】
抗体製剤は抗体が対象に対する投与に適用できる方法で調製するだけでなく、その安定性が保存及びその後の使用期間で維持できる方法で調製する必要がある。例えば、抗体が液体において適切に調製されていない場合、当該抗体は液体溶液において分解、凝集又は予期せぬ化学修飾などが生じる傾向がある。抗体製剤における抗体の安定性は、製剤に使用される緩衝剤、安定剤及び界面活性剤などによって決定される。
【0006】
本分野では、幾つかの抗LAG‐3抗体が知られているにも関わらず、対象に対する投与に適用できる十分に安定的な抗LAG‐3抗体を含む新規医薬製剤について依然として必要とされる。従って、疾患を治療又は予防するために、適切な抗LAG‐3抗体製剤が必要とされる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、LAG‐3と特異的に結合する抗体を含む医薬製剤を提供することで、上記の要件を満たす。
【0008】
一態様において、本発明は、(i)抗LAG‐3抗体と、(ii)緩衝剤と、(iii)安定剤と、(iv)界面活性剤と、を含む液体抗体製剤を提供する。
【0009】
前記抗LAG‐3抗体は、LAG‐3分子(例えば、ヒトLAG‐3分子)と結合すると共にLAG‐3シグナル伝達を遮断する任意の抗体、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又は両者の組合せであってもよい。好ましくは、一実施形態において、前記抗LAG‐3抗体は、モノクローナル抗体である。一実施形態において、前記抗LAG‐3抗体は、中国出願CN201811561512.X(2018年12月19日提出)により開示された組換え完全ヒト化抗リンパ球活性化遺伝子3(LAG‐3)モノクローナル抗体である。本願の目的のために、当該中国出願の全内容がここに参考として本明細書に組み込まれる。一実施形態において、抗LAG‐3抗体は、配列番号7の配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域と、配列番号8の配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域と、を含む
(但し、QLQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSIYSESYYWGWIRQPPGKGLEWIGSIVYSGYTYYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARVRTWDAAFDIWGQGTMVTVSS(配列番号7)、
【0010】
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQVLELPPWTFGGGTKVEIK(配列番号8)である)。
【0011】
一実施形態において、前記抗LAG‐3抗体は、
‐GSIYSESYYWG(配列番号1)の重鎖VH CDR1と、
‐SIVYSGYTYYNPSLKS(配列番号2)の重鎖VH CDR2と、
‐ARVRTWDAAFDI(配列番号3)の重鎖VH CDR3と、
‐QASQDISNYLN(配列番号4)の軽鎖VL CDR1と、
‐DASNLET(配列番号5)の軽鎖VL CDR2と、
‐QQVLELPPWT(配列番号6)の軽鎖VL CDR3と、を含む。
【0012】
一実施形態において、前記抗LAG‐3抗体は、配列番号9の配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含む重鎖と、配列番号10の配列又はそれと少なくとも90%の同一性を有する配列を含む軽鎖と、を含むIgG4抗体である
(但し、QLQLQESGPGLVKPSETLSLTCTVSGGSIYSESYYWGWIRQPPGKGLEWIGSIVYSGYTYYNPSLKSRVTISVDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCARVRTWDAAFDIWGQGTMVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG(配列番号9)、

DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYDASNLETGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQVLELPPWTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号10)である)。
【0013】
好ましくは、前記抗LAG‐3抗体は、中国出願CN201811561512.X(2018年12月19日提出)により開示された、配列番号9の重鎖配列及び配列番号10の軽鎖配列からなる抗LAG‐3モノクローナル抗体ADI‐31853である。
【0014】
一実施形態において、前記抗LAG‐3抗体は、293細胞又はCHO細胞において組換え発現される抗LAG‐3抗体である。
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗LAG‐3抗体の濃度は、約1~100mg/mlである。別の実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗LAG‐3抗体の濃度は、約5~50mg/mlである。他の実施形態において、本発明の液体抗体製剤における抗LAG‐3抗体の濃度は、約5、10、15、20、25、30、35、40、45又は50mg/mlである。
【0015】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約1~10mg/mlである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における緩衝剤の濃度は、約4~8mg/mlであり、例えば、約4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8mg/mlである。
【0016】
一実施形態において、前記緩衝剤は、クエン酸塩、クエン酸塩溶媒和物又はこれらの組合せから選ばれ、より好ましくはクエン酸塩、クエン酸塩水和物であり、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物である。
【0017】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における安定剤の濃度は、約10~150mg/mlである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における安定剤の濃度は、約15~100mg/mlであり、例えば、約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100mg/mlである。
【0018】
一実施形態において、前記安定剤は、ソルビトール、スクロース、トレハロース、アルギニン、塩酸アルギニン又はこれらの任意の組合せから選ばれ、より好ましくはスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンである。別の実施形態において、前記アルギニン及び/又は塩酸アルギニンは、約10~40mg/ml、好ましくは約15~25mg/mlの量(例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25mg/mlの量)で存在する。別の実施形態において、前記スクロースは、約20~100mg/ml、好ましくは約40~90mg/mlの量(例えば、約40、50、60、70、80、90mg/mlの量)で存在する。
【0019】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤の濃度は、約0.1~1mg/mlである。一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤の濃度は、約0.2~0.8mg/mlであり、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8mg/mlである。
【0020】
一実施形態において、前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。一実施形態において、前記界面活性剤は、ポリソルベート類界面活性剤から選ばれる。具体的な一実施形態において、本発明の液体抗体製剤における界面活性剤は、ポリソルベート80である。
【0021】
幾つかの実施形態において、前記液体製剤は、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及び/又はメチオニンを含む又は含まないのどちらでもよい。
【0022】
一実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約5.5~7.5である。幾つかの実施形態において、前記液体製剤のpH値は、約5.5~7.5の任意値、例えば、約5.5、6.0、6.5、7.0、7.5である。
【0023】
一実施形態において、前記液体製剤は、医薬製剤であり、好ましくは注射剤であり、より好ましくは皮下注射剤又は静脈内注射剤である。一実施形態において、前記液体製剤は、静脈輸注剤である。
【0024】
一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約1~100mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約1~10mg/mlのクエン酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約10‐150mg/mlのスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンと、
(iv)約0.1~1mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
場合により、前記液体製剤は、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及びメチオニンを含まず、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される。
【0025】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約10~30mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約2~8mg/mlのクエン酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約10~40mg/mlのアルギニン及び/又は塩酸アルギニン、及び/又は40~90mg/mlのスクロースと、
(iv)約0.2~0.8mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
場合により、前記液体製剤は、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及びメチオニンを含まず、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される。
【0026】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約80mg/mlのスクロースと、
(iv)約0.3mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される。
【0027】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約17.42mg/mlのアルギニンと、
(iv)約0.3mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される。
【0028】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約21.07mg/mlの塩酸アルギニンと、
(iv)約0.7mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される。
【0029】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG~3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約50mg/mlのスクロース及び約21.07mg/mlの塩酸アルギニンと、
(iv)約0.7mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される。
【0030】
好ましい一実施形態において、本発明の液体抗体製剤は、
(i)約20mg/mlの抗LAG‐3抗体と、
(ii)約5.88mg/mlのクエン酸ナトリウム二水和物と、
(iii)約50mg/mlのスクロースと、
(iv)約0.7mg/mlのポリソルベート80と、を含み、
前記液体製剤のpH値が、約5.5~7.5であり、好ましくは約6.0~7.0であり、より好ましくは6.0±0.3であり、例えば6.0であり、好ましくは、前記pH値が無水クエン酸で調整される。
【0031】
別の態様において、本発明は本発明の液体抗体製剤に対して硬化処理を行うことで得られた固体抗体製剤を提供する。前記硬化処理は、例えば、結晶法、噴霧乾燥法、冷凍乾燥法により実施された。好ましい一実施形態において、前記固体抗体製剤は、例えば、凍結乾燥粉末注射剤の形態である。固体抗体製剤が使用前に適切な溶媒に再構成されることで、本発明の再構成製剤が形成される。前記再構成製剤は本発明の液体抗体製剤でもある。一実施形態において、前記適切な溶媒は、注射用水、注射用有機溶媒(注射用油、エタノール、プロピレングリコールなど、又はこれらの組合せを含むが、これらに限定されない)から選ばれる。
【0032】
本発明の液体製剤は、例えば少なくとも24ヶ月又はそれ以上の期間で長期的且つ安定的に保存することができる。一実施形態において、本発明の液体製剤は、約‐80℃~約45℃、例えば、‐80℃、約‐30℃、約‐20℃、約0℃、約5℃、約25℃、約35℃、約38℃、約40℃、約42℃又は約45℃の条件で、少なくとも10日間、少なくとも20日間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも24ヶ月、少なくとも36ヶ月、又はそれ以上の期間で安定的に保存することができる。
【0033】
一実施形態において、本発明の液体製剤は少なくとも24ヶ月安定的に保存することができる。更に別の一実施形態において、本発明の液体製剤は少なくとも40℃で安定的である。更に別の一実施形態において、本発明の液体製剤は約2℃~8℃で少なくとも12ヶ月、好ましくは少なくとも24ヶ月安定的に保持する。一実施形態において、本発明の液体製剤は室温又は例えば約25℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも6ヶ月安定的に保持する。更に別の一実施形態において、本発明の液体製剤は約40℃で少なくとも1ヶ月安定的に保持する。更に別の一実施形態において、本発明の液体製剤は約5℃~40℃の温度、例えば、25℃の温度で振とうしながら、少なくとも1日間、例えば、3日間又は5日間安定的に保持することができる。
【0034】
一実施形態において、製剤の外観、視認できる異物、タンパク質含有量、純度、及び/又は電荷変異体の変化を測定することで、保存後製剤の安定性を示すことができる。一実施形態において、高温苛酷試験で、例えば、40℃±2℃で少なくとも1週間、2週間又は好ましくは1ヶ月保存した後、或いは25℃±2℃で少なくとも1ヶ月又は2ヶ月保存した後に、本発明の液体製剤の安定性を測定することができる。一実施形態において、振とう試験により本発明の液体製剤の振とう安定性を測定する。
【0035】
一実施形態において、保存後に目視検査により本発明の液体製剤の安定性を確認した結果、本発明の液体製剤は外観上で澄明又は薄い乳白光を呈し、無色又は薄い黄色の液体であり、異物がない。一実施形態において、透明度測定器で目視検査により確認した結果、製剤には視認できる異物がない。一実施形態において、保存後にタンパク質含有量の変化を、例えば、紫外線分光光度(UV)法により測定することで、本発明の液体製剤の安定性を検査した結果、保存0日目の初期値に対するタンパク質含有量の変化率は、20%未満であり、好ましくは10%未満であり、例えば7~8%であり、好ましくは5%未満である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の濁度変化を、例えば、OD350nm法により測定することで、本発明の液体製剤の安定性を検査した結果、保存0日目の初期値に対する変化値は、0.04未満であり、より好ましくは0.03未満であり、より好ましくは0.02未満である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の純度変化を、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC‐HPLC)により測定することで、本発明の液体製剤の安定性を検査した結果、保存0日目の初期値に対する単量体純度の変化値は、10%未満であり、例えば、5%、4%、3%未満であり、例えば、1~2%であり、好ましくは1%未満である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の純度変化を、非還元型及び/又は還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(CE‐SDS)法により測定することで、本発明の液体製剤の安定性を検査した結果、単量体純度の変化値の低下は、10%未満であり、例えば、5%、4%、3%未満であり、好ましくは2%、1%、0.5%又は0.1%未満である。一実施形態において、保存後に本発明の液体製剤の安定性を画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)により測定した結果、保存0日目の初期値に対する抗体の各電荷変異体(主成分、酸性成分又は塩基性成分)の変化値は、2%未満である。
【0036】
一実施形態において、製剤は保存後に、例えば、2~8℃で少なくとも24ヶ月保存した後に、又は室温で少なくとも3ヶ月保存した後に、又は40℃±2℃で1ヶ月保存した後に、安定的であり、好ましくは、
(i)SEC‐HPLC法により測定した結果、製剤抗LAG‐3抗体は、90%より大きい純度を有し、好ましくは95%、96%、97%、98%、99%より大きい純度を有する、という特徴と、
(ii)還元型及び非還元型CE‐SDS法により測定した結果、製剤は、90%より大きい純度を有し、好ましくは95%、96%、97%、98%、99%より大きい純度を有する、という特徴と、
(iii)iCIEF法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗LAG‐3抗体の各成分(即ち、主成分、酸性成分及び塩基性成分)の変化値は、≦2%である、という特徴と、
(iv)ELISA法により測定した結果、保存0日目の初期値に対する製剤における抗LAG‐3抗体の相対結合活性は、70%~130%であり、例えば、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%である、という特徴と、の1つ又は複数を有する。
【0037】
一態様において、本発明は、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を含む送達装置を提供する。一実施形態において、本発明の送達装置は、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を含む薬剤充填済み注射器の形態で提供され、例えば、静脈内、皮下、皮内又は筋肉内注射、静脈内輸注に用いられる。
更に別の態様において、本発明は、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤を対象に投与する工程を含む、抗LAG‐3抗体を例えば哺乳類などの対象に送達する方法を提供する。前記送達は、例えば、薬剤充填済み注射器を利用する送達装置により実施される。
【0038】
更に別の態様において、本発明は、対象におけるLAG‐3を発現させるがん(特に、転移性がん)、免疫関連疾患及びT細胞機能障害疾患を治療、予防又は緩和するための、特にLAG‐3を発現させるがん(特に、転移性がん)、例えば、様々な血液腫瘍、固形腫瘍、例えば、結腸がんを治療、予防又は緩和するための、送達装置(例えば、薬剤充填済み注射器)又は薬物の調製における、本発明の液体抗体製剤又は固体抗体製剤の使用を提供する。
【0039】
本発明の他の実施形態は後述する具体的な説明を参考にすることで明らかになる。
以下の図面を参照して閲覧すれば、次に詳細に説明される本発明の好ましい実施形態をよりよく理解できる。本発明を説明するために、図面に好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は図面に示される実施形態の特定の配置又は手段に制限されていないことは理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】SEC‐HPLC法により測定した、抗LAG‐3抗体タンパク質の純度に対するpH値の影響を示す。
図2】iCIEF法により測定した、抗LAG‐3抗体タンパク質の各電荷変異体に対するpH値の影響を示す。
図3】高温苛酷試験で2週間放置した抗LAG‐3抗体の処方1~7の電荷変異体‐酸性成分(iCIEF法)のトレンド図を示す。
図4】高温苛酷試験で2週間放置した抗LAG‐3抗体の処方1~7の電荷変異体‐主成分(iCIEF法)のトレンド図を示す。
図5】高温苛酷試験で2週間放置した抗LAG‐3抗体の処方1~7の電荷変異体‐塩基性成分(iCIEF法)のトレンド図を示す。
図6】高温苛酷試験における抗LAG‐3抗体の処方8、9、10の濁度(OD350nm法)のトレンド図を示す。
図7】高温苛酷試験における抗LAG‐3抗体の処方8、9、10の純度(SEC‐HPLC法)のトレンド図を示す。
図8】高温苛酷試験における抗LAG‐3抗体の処方8、9、10の純度(還元型CE‐SDS法)のトレンド図を示す。
図9】高温苛酷試験で1ヶ月放置した抗LAG‐3抗体の処方8、9、10の電荷変異体‐酸性成分(iCIEF法)のトレンド図を示す。
図10】高温苛酷試験で1ヶ月放置した抗LAG‐3抗体の処方8、9、10の電荷変異体‐主成分(iCIEF法)のトレンド図を示す。
図11】高温苛酷試験で1ヶ月放置した抗LAG‐3抗体の処方8、9、10の電荷変異体‐塩基性成分(iCIEF法)のトレンド図を示す。
図12】高温苛酷試験が開始した時及び1ヶ月放置した後の抗LAG‐3抗体の処方9の純度(還元型CE‐SDS法)のスペクトルを示す。
図13】高温苛酷試験で1ヶ月放置した抗LAG‐3抗体の処方9のマススペクトル(LC‐MS法)を示す。
図14】高温苛酷試験が開始した時及び1ヶ月放置した後の抗LAG‐3抗体の処方10の純度(SEC‐HPLC法)のスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は本明細書における特定方法及び実験条件が変更可能であるため、これらの方法及び条件に限定されるものではない。本発明の詳細な説明を行う前に、上記のことについて理解すべきである。なお、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定を加えるものではない。
【0042】
定義
別に定義しない限り、本願に用いられる全ての技術と科学用語は何れも、当業者が通常に理解する意味と同じ意味を有する。本発明の目的のために、下記の用語を定義する。
【0043】
用語「約」は数値と共に使用される時、下限として記載数値より5%小さく上限として記載数値より5%大きい範囲における数値を含むことを意味する。
用語「及び/又は」が2つ又は複数の選択可能オプションを接続するために用いられる時、選択可能オプションの何れか1項又は選択可能オプションの何れか2項又は複数項を指すと理解すべきである。
【0044】
本願に使用される場合、用語「包含する」又は「含む」とは、前記要素、整数又は工程を含むが、他の要素、整数又は工程を排除しないことを意味する。本願において、用語「包含する」又は「含む」を用いる場合、特記しない限り、述べられた要素、整数又は工程からなる場合を含む必要がある。例えば、ある具体的な配列の抗体可変領域を「包含する」ことを言及する場合、当該配列からなる抗体可変領域を含むことを指す。
【0045】
本明細書において、用語「抗体」は、軽鎖及び重鎖免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを指し、前記免疫グロブリン可変領域は、抗原を特異的に識別して結合する。好ましくは、本発明の抗体は全長抗体であり、2本の重鎖及び2本の軽鎖からなり、各重鎖が重鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)及び重鎖定常領域からなり、各軽鎖が軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)及び軽鎖定常領域からなる。幾つかの実施形態において、本発明の抗体は抗体の抗原結合断片でもある。
【0046】
用語「抗体製剤」は、活性成分として使える抗体の生物学的活性が効果的に発揮できる形態であると共に、当該製剤の投与を受ける対象にとって許容されない毒性を有するその他の成分を含まない調製物を指す。これらの抗体製剤は一般的に無菌のものである。抗体製剤は一般的に薬用賦形剤を含む。「薬用」賦形剤は、製剤に使用される活性成分が有効投与量で対象に送達されるように、対象哺乳類に適切に投与できる試薬である。賦形剤の濃度は投与方式に適用できるものであり、例えば、注射に許容されるものである。
【0047】
用語「抗LAG‐3抗体製剤」は、本明細書で「本発明の抗体製剤」とも略称され、活性成分とする抗LAG‐3抗体と薬用賦形剤とを含む調製物を指す。抗LAG‐3抗体と薬用賦形剤を上記のように組合せることで、活性成分とする抗LAG‐3抗体はヒト又は非ヒト動物に対する治療用或いは予防用投与に適する。本発明の抗体製剤は、例えば即席タイプ薬剤充填済み注射器などの水性形態の液体製剤として調製してもよく、或いは使用直前に生理的に許容される溶液に溶解及び/又は懸濁させることで再構成(即ち、再溶解)された凍結乾燥製剤として調製してもよい。幾つかの実施形態において、抗LAG‐3抗体製剤は液体製剤形態である。
【0048】
「安定的な」抗体製剤は、製剤における抗体が一定条件で保存した後に許容される程度の物理的安定性及び/又は化学的安定性を保持する抗体製剤を指す。一定時間で保存した後に抗体製剤に含まれる抗体の化学構造が100%維持できなくても、一般的に一定時間で保存した後に抗体構造又は機能が約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%維持できれば、抗体製剤が「安定的」であると考えられる。幾つかの具体的な実施形態において、本発明の抗LAG‐3抗体製剤は製造、調製、輸送及び長期保存の段階で測定できないほどの低い抗体の凝集、分解又は化学修飾を示し、抗LAG‐3抗体の生物学的活性の損失が僅か又はないほどの高度安定性を示している。幾つかの実施形態において、本発明の抗LAG‐3抗体製剤は、保存後にその物理的及び化学的安定性を実質的に保持している。好ましくは、本発明の液体製剤は室温又は40℃で少なくとも1ヶ月、及び/又は2~8℃で少なくとも24ヶ月安定的に保持することができる。
【0049】
本分野では複数の解析技術がタンパク質安定性の測定に利用できることが知られている。例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247‐301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs (1991) and Jones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29‐90 (1993)を参照する。選定された温度及び選定された保存時間で安定性を測定できる。例えば、予期する製剤棚期間によって保存時間を選択できる。或いは加速安定性試験を採用できる。幾つかの実施形態において、抗体製剤に対して様々な苛酷試験を実施することで安定性を測定する。これらの試験は、調製された抗体製剤の製造、保存又は輸送期間で遭遇可能な苛酷条件、或いは製造、保存又は輸送以外の期間で抗体製剤における抗体の不安定性を加速させる条件を示している。例えば、調製された抗LAG‐3抗体製剤を適切な容量のガラス瓶に充填して、振とう苛酷条件における抗体の振とう/せん断安定性を測定することができ、或いは調製された抗LAG‐3抗体製剤をガラスバイアルに充填して、高温苛酷条件における抗体安定性を測定することができる。
【0050】
一定時間保存した後に、製剤が凝集、沈殿、混濁及び/又は変性を示さず、或いは非常に少ない凝集、沈殿、混濁及び/又は変性を示すのであれば、製剤における抗体が「その物理的安定性を保持している」と考えられる。製剤における抗体の凝集によって患者の免疫反応を潜在的に増加させるため、安全性の問題が引き起こされる。従って、製剤における抗体の凝集を最小化にする、又は凝集を防止する必要がある。光散乱法は製剤における視認できる凝集物の測定に使用できる。SECは製剤における可溶性凝集物の測定に使用できる。また、目視検査により製剤の外観、色及び/又は清澄度を確認、OD350nm法により製剤の濁度を測定、或いは非還元型CE‐SDS法により製剤の純度を測定することで、製剤の安定性を示すことができる。一実施形態において、一定温度で一定時間保存した後に製剤における抗体単量体のパーセンテージを測定することで、製剤の安定性を測定し、製剤における抗体単量体のパーセンテージが大きくなれば、製剤の安定性が高くなる。
【0051】
「許容される程度の」物理的安定性は、一定温度で一定時間保存した後に少なくとも約92%の製剤における抗LAG‐3抗体単量体が測定できることを示す。幾つかの実施形態において、一定温度で少なくとも2週間、少なくとも28日間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも24ヶ月又はそれ以上の期間保存した後に、許容される程度の物理的安定性は、少なくとも約92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗LAG‐3抗体単量体として示される。物理的安定性を評価する際に、医薬製剤を保存するための一定温度は約‐80℃~約45℃の任意温度であってもよく、例えば、約‐80℃、約‐30℃、約‐20℃、約0℃、約4℃‐8℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃、約40℃、約42℃又は約45℃で保存する。例えば、約40℃±2℃で1ヶ月又は4週間保存した後に、少なくとも約92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗LAG‐3抗体単量体が測定できれば、医薬製剤が安定的であると考えられる。約25℃で2ヶ月保存した後に、少なくとも約92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗LAG‐3抗体単量体が測定できれば、医薬製剤が安定的であると考えられる。約5℃で9ヶ月保存した後に、少なくとも約92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の抗LAG‐3抗体単量体が測定できれば、医薬製剤が安定的であると考えられる。
一定時間保存した後に、製剤における抗体が明らかな化学的変化を示さないのであれば、製剤における抗体が「その化学的安定性を保持している」と考えられる。ほとんどの化学的不安定性は抗体が形成された共有結合修飾形態(例えば、抗体の電荷変異体)に由来する。例えば、アスパラギン酸異性化、N及びC末端修飾により塩基性変異体が形成され、脱アミド化、シアル酸化及び糖化により酸性変異体が形成される。化学的安定性は抗体の化学的変化形態を測定及び/又は定量的にすることで評価される。例えば、カチオン交換クロマトグラフィー(CEX)又は画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)により製剤における抗体の電荷変異体を測定することができる。一実施形態において、一定温度で一定時間保存した後に製剤における抗体の電荷変異体パーセンテージ変化値を測定することで、製剤の安定性を測定し、当該変化値が小さくなれば、製剤の安定性が高くなる。
「許容される程度」の化学的安定性は、一定温度で一定時間保存した後に製剤における電荷変異体(例えば、主成分、酸性成分又は塩基性成分)のパーセンテージ変化値が30%未満であり、例えば20%であることを示す。幾つかの実施形態において、一定温度で少なくとも2週間、少なくとも28日間、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、少なくとも12ヶ月、少なくとも18ヶ月、少なくとも24ヶ月又はそれ以上の期間保存した後に、許容される程度の化学的安定性は、酸性成分電荷変異体のパーセンテージ変化値が約25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満であることとして示される。化学的安定性を評価する際に、医薬製剤を保存するための温度は約‐80℃~約45℃の任意温度であってもよく、例えば、約‐80℃、約‐30℃、約‐20℃、約0℃、約4℃~8℃、約5℃、約25℃又は約45℃で保存する。例えば、5℃で24ヶ月保存した後に、酸性成分電荷変異体のパーセンテージ変化値が約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%より少なければ、医薬製剤が安定的であると考えられる。25℃で2ヶ月保存した後に、酸性成分電荷変異体のパーセンテージ変化値が約20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%より少なければ、医薬製剤が安定的であるとも考えられる。40℃で1ヶ月保存した後に、酸性成分電荷変異体のパーセンテージ変化値が約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%より少なければ、医薬製剤が安定的であるとも考えられる。
【0052】
用語「凍結乾燥製剤」は、液体製剤の冷凍乾燥処理により得られた又は得られる可能性のある組成物を指す。好ましくは、水含有量が5%より少ない、好適的には3%より少ない固体組成物である。
【0053】
用語「再構成製剤」は、固体製剤(例えば、凍結乾燥製剤)を生理的に許容される溶液に溶解及び/又は懸濁させることで得られた液体製剤を指す。
【0054】
明細書で使用される用語「室温」は15℃~30℃の温度を指し、好ましくは20℃~27℃の温度であり、より好ましくは25℃の温度である。
【0055】
「苛酷条件」は化学的及び/又は物理的に抗体タンパク質にとって不利な環境を指し、前記環境により許容されない抗体タンパク質の安定喪失が発生される。「高温苛酷」は抗体製剤を室温又は更に高い温度(例えば40℃±2℃)で一定時間保存することを指す。高温苛酷加速試験により抗体製剤の安定性を測定することができる。
【0056】
本明細書で使用される用「非経口投与」は経腸投与及び局所投与以外の投与方式を指し、一般的に注射又は輸注による方式であり、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心筋内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下(subcuticular)、関節内、嚢下、クモ膜下、脊椎内、硬膜外、胸骨内の注射及び輸注を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、本発明の安定的な抗LAG‐3抗体製剤が対象に非経口投与される。一実施形態において、本発明の抗LAG‐3抗体製剤が皮下、皮内、筋肉内又は静脈内注射方式により対象に投与される。
【0057】
I.抗体製剤
本発明は、(i)組換え完全ヒト化抗LAG‐3モノクローナル抗体と、(ii)緩衝剤と、(iii)安定剤と、(iv)界面活性剤と、を含む安定的な液体抗体製剤を提供し、前記抗体製剤のpH値が約5.5~7.5である。好ましい一形態において、本発明の液体抗体製剤は注射製剤形態である。
【0058】
(i)抗LAG‐3抗体
「抗LAG‐3抗体」は、LAG‐3分子をターゲットにする治療剤及び/又は予防剤として使用できるように、十分な親和力でLAG‐3分子と結合する抗体を指す。
本発明の抗体は組換え完全ヒト化抗体である。用語「完全ヒト化抗体」又は「ヒト抗体」は本明細書において切り替えて使用することができ、そのうちのフレームワーク領域とCDR領域の両者が何れもヒト生殖系の免疫グロブリン配列に由来する可変領域を含むと共に、定常領域を含む場合、定常領域もヒト生殖系免疫グロブリン配列に由来する抗体を指す。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系の免疫グロブリン配列によってコードされるもの以外のアミノ酸(例えば、インビトロでランダム、スポットにおける特異的な変異誘発又はインビボの体細胞の変異による変異)を含んでもよい。しかし、本願に用いられるように、用語「ヒト抗体」は、そのうちのCDR配列がその他の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系に由来してヒトフレームワーク配列に移植される抗体を含むことを意図しない。本明細書で使用される用語「組換えヒト抗体」は組換え方式によって調製、発現、発生又は分離される全てのヒト抗体を含む。これらの組換えヒト抗体は、フレームワーク領域とCDR領域のヒト生殖系の免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する。しかし、一部の実施形態において、組換えヒト抗体をインビトロで変異誘発することができ(又はヒトIg配列遺伝子組換え動物を利用する場合、インビボの体細胞の変異誘発である)、それによって組換え抗体のVHとVL領域のアミノ酸配列を得られるが、前記組換え抗体のVHとVL領域のアミノ酸配列がヒト生殖系のVHとVL配列に由来してそれに関連するにも関わらず、インビボのヒト抗体生殖系のライブラリーに天然に存在しない。
【0059】
幾つかの実施形態において、例えば光干渉による生体測定法により測定した結果、前記抗LAG‐3抗体が高い親和力で、例えば、10‐7M以下、好ましくは10‐9M~10‐10MのKでヒトLAG‐3と特異的に結合することができ、これによりLAG‐3及びそのリガンド結合に対する高効率的な遮断作用が仲介される。
幾つかの実施形態において、本発明の抗体LAG‐3抗体は、配列番号7又はそれと少なくとも90%の同一性を有する重鎖可変領域(VH)と、配列番号8又はそれと少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変領域(VL)と、を含む。「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖における抗体とその抗原との結合に参与するドメインである。一般的に、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)は、さらに超可変領域(HVR、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる)、その間に挿入されるより保存的領域(即ち、フレームワーク領域(FR))に分けられる。VH及びVLのそれぞれは、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシル末端までは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配列される。
【0060】
幾つかの実施形態において、本発明の抗LAG‐3抗体は、配列番号7の重鎖可変領域のVH CDR1、2及び3配列、並びに配列番号8の軽鎖可変領域のVL CDR1、2及び3配列を含む。「相補性決定領域」又は「CDR領域」又は「CDR」(本明細書において超可変領域「HVR」と切り替えて使用する)は、抗体可変領域において主に抗原エピトープと結合することを担当するアミノ酸領域である。重鎖と軽鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2とCDR3と呼ばれ、N‐末端から順に番号付ける。抗体重鎖可変ドメイン内のCDRは、VH CDR1、VH CDR2及びVH CDR3と呼ばれ、一方、抗体軽鎖可変ドメイン内のCDRは、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3と呼ばれる。既定のVH又はVLアミノ酸配列にそのCDR配列を定めるための複数の方案が本分野において周知される。例えば、Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列変異性に基づいて定められるものであると共に、最もよく用いられるものである(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。Chothiaは構造リングの位置を指す(ChothiaとLesk、J.Mol.Biol.196:901‐917(1987))。AbM HVRは、Kabat HVRとChothia構造リングとの間の折衷であり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用される。「接触性」(Contact)HVRが、取得可能な複雑な結晶構造の分析に基づいたものである。HVRは、参照CDR配列(例えば、本明細書により開示された例示的なCDR)と同じKabat番号付け位置を有することに基づいて定めることができる。一実施形態において、本発明の抗LAG‐3抗体は、配列番号1のVH CDR1と、配列番号2のVH CDR2と、配列番号3のVH CDR3と、並びに配列番号4のVL CDR1と、配列番号5のVL CDR2と、配列番号6のVL CDR3とを有する。
【0061】
幾つかの実施形態において、本発明の抗LAG‐3抗体は、配列番号7と少なくとも90%、95%、98%、99%又はそれ以上の同一性を有する重鎖可変領域(VH)、及び/又は配列番号8と少なくとも90%、95%、98%、99%又はそれ以上の同一性を有する軽鎖可変領域(VL)を含んでもよい。本明細書において、「配列同一性」は、比較ウィンドウでヌクレオチド又はアミノ酸を1つずつ比較してその配列が同じであることの割合を指す。以下の方式によって「配列同一性パーセント」を計算することができ、2本の最適に照合する配列を比較ウィンドウで比較して、マーチング位置の数を得るように2本の配列における同じ核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)又は同じアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysとMet)の存在する位置の数を確定して、マーチング位置の数を比較ウィンドウにおける総位置数(即ち、ウィンドウの大きさ)で割り、その結果を100に乗じて、配列同一性パーセントを生成する。配列同一性パーセントを確定するための最適な照合は、例えば、BLAST、BLAST‐2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公開されているパソコンソフトウェアを使用するように本分野に既知の様々な方式に従って実現することができる。当業者は、比較している全長配列範囲内又は目標配列領域内の最大の照合に必要とする如何なるアルゴリズムを含む配列を照合するための適切なパラメータを確定することができる。
【0062】
幾つかの実施形態において、本発明の抗体のVH配列は配列番号7と比較すれば、10個未満、好ましくは5個、4個又は3個未満の異なる残基を有し、好ましくは前記異なる残基が保守的なアミノ酸で置換される。幾つかの実施形態において、本発明の抗体のVL配列は配列番号8と比較すれば、10個未満、好ましくは5個、4個又は3個未満の異なる残基を有し、好ましくは前記異なる残基が保守的なアミノ酸で置換される。「保存的な置換」は、あるアミノ酸を化学的に類似なアミノ酸に置換することを引き起こすアミノ酸変化を指す。機能的に類似するアミノ酸の保存的置換表は、本分野で公知の内容として提供される。本発明の何れか1つの実施形態において、好ましい一態様において、保守的な置換残基は、以下の保守的な置換表Aに由来し、好ましくは表Aに示される好ましい置換残基である。
【0063】
【表1】
【0064】
幾つかの実施形態において、本発明の抗体はIgG4形態の抗体である。「IgG形態の抗体」とは、抗体の重鎖定常領域がIgG形態を有することを指す。全ての同一のアイソタイプの抗体はその重鎖定常領域が同じであり、異なるアイソタイプの抗体において、その重鎖定常領域が異なる。例えば、IgG4形態の抗体とは、その重鎖定常領域のIgドメインがIgG4のIgドメインであることを指す。
【0065】
好ましい一実施形態において、本発明の抗LAG‐3抗体は、中国出願CN201811561512.X(2018年12月19日)により開示された、配列番号9の重鎖及び配列番号10の軽鎖を有する抗LAG‐3モノクローナル抗体ADI‐31853である。一実施形態において、当該抗LAG‐3抗体は、293細胞又はCHO細胞の組換え発現により産生されて、更に精製により得られたIgG4型抗体である。好ましくは、本発明の液体製剤における前記抗体は明らかな抗腫瘍活性を示している。例えば、マウス結腸がん細胞CT26(ATCC# CRL‐2638)又はヒトの皮膚がん細胞A375(ATCC# CRL‐1619)が接種されたマウス腫瘍モデルにおいて、本発明の抗体製剤を投与した場合、腫瘍成長阻害率が約50%又はそれ以上、例えば100%であり、及び/又は腫瘍消去比率が60%以上である。
【0066】
本発明の抗体製剤に含まれる抗体又はその抗原結合断片の量は製剤の特定目的特性、特定環境、及び使用製剤の特定目的によって変更する。幾つかの実施形態において、抗体製剤は液体製剤であり、約1~100mg/ml、好ましくは約5~50mg/ml、例えば約5、10、15、20、25、30、35、40、45又は50mg/mlの抗LAG‐3抗体を含んでもよい。
【0067】
(ii)緩衝剤
緩衝剤は溶液のpH値を許容される範囲に維持することができる試薬である。幾つかの実施形態において、本発明の製剤に使用される緩衝剤は、本発明の製剤のpH値を約5.5~7.5のpH値範囲、例えば、約6.0~7.0のpH値、好ましくは6.0±0.3のpH値に制御することができる。具体的な一実施形態において、本発明の抗体製剤は、約5.5、6.0、6.5、7.0又は7.5のpH値であり、好ましくは約6.0のpH値である。
【0068】
幾つかの実施形態において、本発明の製剤に使用される緩衝剤は、クエン酸塩、クエン酸塩溶媒和物(例えば、クエン酸塩水和物)及びこれらの組合せ、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物及びこれらの組合せから選ばれ、好ましくは、前記緩衝剤の濃度は、約1~10mg/mlであり、好ましくは約4~8mg/mlであり、例えば、約4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8mg/mlである。
【0069】
一実施形態において、本発明の製剤に使用される緩衝剤は、約1~10mg/mlのクエン酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウム二水和物であり、例えば、約2~8mg/mlのクエン酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウム二水和物である。
【0070】
(iii)安定剤
本発明に使用される適切な安定剤は糖、ポリオール、アミノ酸及びこれらの組合せから選ばれてもよい。安定剤とする糖はスクロース及びトレハロースを含むが、これらに限定されない。安定剤とするポリオールはソルビトールを含むが、これらに限定されない。安定剤とするアミノ酸はアルギニン、塩酸アルギニンを含むが、これらに制限されない。幾つかの実施形態において、前記安定剤は本発明の液体製剤において約10~150mg/ml、より好ましくは約15~100mg/ml、例えば、約15、20、30、40、50、60、70、80、90、100mg/mlの濃度で存在する。
【0071】
一実施形態において、本発明の液体製剤は安定剤としてスクロースを含む。本発明の液体製剤におけるスクロースの量は約20~100mg/mlであってもよく、好ましくは約40~90mg/ml(例えば、約40、50、60、70、80、90mg/ml)である。
【0072】
一実施形態において、本発明の液体製剤は安定剤としてアルギニン及び/又は塩酸アルギニンを含む。本発明の液体製剤におけるアルギニン及び/又は塩酸アルギニンの量は約10~40mg/mlであってもよく、好ましくは約15~25mg/ml(例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25mg/ml)である。
【0073】
一実施形態において、本発明の液体製剤は安定剤としてスクロース、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンの組合せを含む。当該組合せにおいて、スクロースは約20~100mg/ml、好ましくは約40~90mg/ml(例えば、約40、50、60、70、80、90mg/ml)の量で存在してもよい。当該組合せにおいて、アルギニン及び/又は塩酸アルギニンは約10~40mg/ml、好ましくは約15~25mg/ml(例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25mg/ml)の量で存在してもよい。
【0074】
(iv)界面活性剤
本明細書で使用される用語「界面活性剤」は、両親媒性構造を有する有機物質を指し、即ち、これらが反対の溶解性傾向を持つ原子団からなり、一般的に油溶性の炭化水素鎖及び水溶性のイオン原子団である。
【0075】
一実施形態において、本発明の液体製剤における界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、例えば、アルキルポリ(オキシレン)である。本発明の製剤における特定の非イオン性界面活性剤は、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40などのポリソルベート、及びプルロニックなどを含む。好ましい一実施形態において、本発明の液体製剤は界面活性剤としてポリソルベート80を含む。
【0076】
本発明の抗体製剤に含まれる界面活性剤の量は製剤の特定目的特性、特定環境、及び使用製剤の特定目的によって変更する。幾つかの好ましい実施形態において、製剤は、約0.1~1mg/ml、好ましくは約0.2~0.8mg/ml、例えば、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8mg/mlのポリソルベート類界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)を含んでもよい。
【0077】
(v)その他の賦形剤
本発明の抗体液体製剤はその他の賦形剤を含む又は含まないのどちらでもよい。
幾つかの実施形態において、本発明の抗体の液体製剤は、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及び/又はメチオニンを含む又は含まないのどちらでもよい。
【0078】
一実施形態において、本発明の抗体の液体製剤は、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)を含む又は含まないのどちらでもよい。
【0079】
一実施形態において、本発明の抗体の液体製剤は、メチオニンを含む又は含まないのどちらでもよい。
【0080】
一実施形態において、本発明の抗体の液体製剤は、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及び/又はメチオニンを含まないが、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及び/又はメチオニンが添加された相応の製剤と比較すれば、似たような安定性を有する。
【0081】
その他の目的のために、本発明の製剤にその他の賦形剤を使用してもよい。前記賦形剤は、例えば、調味剤、抗微生物剤、甘味剤、静電気防止剤、酸化防止剤、ゼラチンなどを含む。これらの賦形剤、その他の既知の薬物賦形剤、及び/又は本発明の製剤に適用される添加剤は本分野で周知されるものであり、例えば、「The Handbook of Pharmaceutical Excipients,4th edition,edited by Rowe et al.,American Pharmaceuticals Association (2003)」、及び「Remington: the Science and Practice of Pharmacy,21th edition,edited by Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins (2005)」に挙げられたものである。
【0082】
II.製剤の調製
本発明は抗体が含まれる安定的な製剤を提供する。本発明の製剤に使用される抗体は、本分野における既知の抗体生産用技術により調製してもよい。例えば、抗体を組換えにより調製してもよい。好ましい一実施形態において、本発明の抗体は293細胞又はCHO細胞において組換えにより調製される。
【0083】
現在、抗体は薬物の活性成分として幅広く適用されている。治療性抗体を薬用レベルまで精製するための技術は本分野で周知されるものである。例えば、Tugcu et al.,(Maximizing productivity of chromatography steps for purification of monoclonal antibodies,Biotechnology and Bioengineering 99 (2008) 599‐613.)により、タンパク質A捕獲工程後にイオン交換クロマトグラフィー(アニオンIEX及び/又はカチオンCEXクロマトグラフィー)を利用するモノクローナル抗体3カラム精製法が記載されている。Kelley et al.,(Weak partitioning chromatography for anion exchange purification of monoclonal antibodies,Biotechnology and Bioengineering 101 (2008) 553‐566)により、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーの後に弱分配性アニオンで樹脂を交換する2カラム精製法が記載されている。
【0084】
一般的に、抗体製剤調製用として十分な繰返し性及び適切な純度を有する薬物物質を提供するために、組換えにより産生されるモノクローナル抗体は通常の精製法により精製されてもよい。例えば、抗体が組換え発現細胞から培地に分泌された後に、例えばAmiconの限外濾過装置などのタンパク質濃縮濾過機の市販品により、当該発現系に由来する上清を濃縮させる。その後、例えば、クロマトグラフィー、透析、アフィニティー精製などの方法により抗体を精製してもよい。タンパク質AはアフィニティーリガンドとしてIgG1、IgG2及びIgG4型抗体の精製に適される。例えば、イオン交換クロマトグラフィーなどのその他の抗体精製法を使用してもよい。十分な純度の抗体を得た後に、本分野における既知の方法により抗体が含まれる製剤を調製してもよい。
【0085】
例えば、(1)発酵完了後に発酵液を清澄となるまで遠心分離し、細胞などの異物を除去して、上清を得る工程と、(2)アフィニティークロマトグラフィー(例えば、IgG1、IgG2及びIgG4型抗体に対して特異的な親和力を有するタンパク質Aカラム)により抗体を捕獲する工程と、(3)ウィルス不活性化を行う工程と、(4)(一般的にCEXカチオン交換クロマトグラフィーにより)精製して、タンパク質から異物を除去する工程と、(5)ウィルスを濾過する(ウイルス力価を例えば4log10以上低下させる)工程と、(6)(タンパク質をその安定性に繋がる製剤緩衝液に置換して注射用として適切な濃度に濃縮させるために)限外濾過/浸透濾過する工程と、により調製してもよい。例えば、B. Minow,P. Rogge,K. Thompson,BioProcess International,Vol. 10,No. 6,2012,pp. 48‐57を参照する。
【0086】
III.製剤の解析方法
抗体製剤の保存段階において、抗体の凝集、分解又は化学修飾が発生することにより、抗体不均一性(サイズ不均一性及び電荷不均一性を含む)、凝集物及び断片などが発生するため、抗体製剤の品質に影響を与える。従って、抗体製剤の安定性を監視する必要がある。
【0087】
本分野では、抗体製剤の安定性を測定するための方法として複数あることが知られている。例えば、非還元型CE‐SDS及びSEC‐HPLCなどの方法により、抗体製剤の純度解析及び抗体の凝集レベル評価を行うことができると共に、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)、画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)などにより、抗体製剤における電荷変異体を解析することができる。また、目視検査により製剤の外観を確認することで、製剤の安定性を迅速に判断することができる。OD350nm法により製剤の濁度変化を測定することもできるが、当該方法は可溶性及び不溶性凝集物の量に関する情報を示すことができる。また、紫外線分光光度法(UV法)により製剤におけるタンパク質の含有量変化を測定することができる。
【0088】
非還元型CE‐SDS法はキャピラリーを分離通路とするモノクローナル抗体純度の測定法である。CE‐SDSにおいて、タンパク質の移行がSDS結合による表面電荷により駆動されるが、当該表面電荷とタンパク質の分子量とが正比例をなす。全てのSDS‐タンパク質複合物が似たような質量電荷比を有するため、キャピラリーのモレキュラーシーブゲルマトリックスにおいて、分子大きさ又は流体動力学半径に基づいて電気泳動分離が実現される。当該方法は変性された完全抗体の純度の監視に幅広く適用されている。一般的に、非還元型CE‐SDS法において、供試品とSDS試料緩衝液及びヨードアセトアミドとを混合させる。その後、混合物を68~72℃で約10~15分間インキュベートして室温まで冷却した後に、遠心分離して得られた上清を解析する。紫外線検出器によりタンパク質の移行を測定して、電気泳動図を得た。抗体製剤の純度は、全てのピーク面積の合計に占めるIgGメインピークのピーク面積のパーセンテージで算出できる。CE‐SDS法に関する具体的な記載は、例えば、Richard R. et al.,Application of CE SDS gel in development of biopharmaceutical antibody‐based products,Electrophoresis,2008, 29, 3612‐3620を参照できる。
【0089】
サイズ排除高速液体クロマトグラフィー、即ち、SEC‐HPLC法は、モノクローナル抗体基準及び品質制御に使用される別の重要方法である。当該方法は主に分子大きさ又は流体動力学半径差異に基づいて分子を分離する。抗体は、SEC‐HPLCにより、高分子量形態(HMMS)、メインピーク(主に抗体単量体)、及び低分子量形態(LMMS)の3種の主要形態に分離されることができる。抗体の純度は、クロマトグラフィーにおける全てのピーク面積の合計に占めるメインピーク面積のパーセンテージで算出できる。SEC‐HPLC法により、製剤製品における抗体単量体のパーセンテージを測定して、可溶性凝集物及びせん断物の含有量情報を示している。SEC‐HPLC法に関する具体的な記載は、例えば、J. Pharm. Scien., 83:1645‐1650,(1994);Pharm. Res., 11:485(1994);J. Pharm. Bio. Anal., 15:1928(1997);J. Pharm. Bio. Anal., 14:1133‐1140(1986)を参照できる。また、例えば、R. Yang et al., High resolution separation of recombinant monoclonal antibodies by size exclusion ultra‐high performance liquid chromatography(SE‐UHPLC),Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis(2015),http://dx.doi.org/10.1016/j.jpba.2015.02.032、及びAlexandre Goyon et al.,Protocols for the analytical characterization of therapeutic monoclonal antibodies. I‐Non‐denaturing chromatographic techniques,Journal of Chromatography,http://dx.doi.org/10.1016/j.jchromb.2017.05.010も参照できる。
【0090】
画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)はモノクローナル抗体の電荷不均一性の解析に使用されることができる。当該方法は電荷変異体の定量的な分布状況を提供できる。iCIEFはpH値勾配における分子の電荷差異(観察されたpI値)に基づいて分子分離の目的が実現される。iCIEFにおいて、通常、分離カラムが短いキャピラリー(例えば、長さ5cm、内径100μmのシリカキャピラリー)であり、タンパク質が高電圧でキャピラリーカラムでフォーカシングするが、280nMで操作される全カラムイメージング検出システムによりフォーカシングをオンラインでリアルタイム監視する。当該技術の利点として、当該全カラムイメージング検出システムにより抗体試料の各電荷変異体を同時に記録することができる。一般的に、iCIEFにおいて、試料と尿素及びiCIEF緩衝液とを混合させるが、前記緩衝液にメチルセルロース、pI分子量基準及びampholytesが含まれる。次に、iCIEFアナライザー、例えばiCE280アナライザー(Protein Simple, Santa Clara, Ca)において、iCIEFカラム、例えばProtionSimpleによって組立てられたiCIEFカラムにより、試料フォーカシングの一定時間後に、280nmの吸光度を測定して、mAb電荷変異体にフォーカシングするクロマトグラフィーを得た。iCEIFクロマトグラフィーにおいて、メインピーク(即ち、主成分)の前で溶出されたタンパク質関連ピークは酸性成分に分類されるに対して、メインピークの後で溶出されたタンパク質関連ピークは塩基性成分に分類される。主成分、酸性成分及び塩基性成分の相対的な量はピーク総面積に占めるパーセンテージで示す。iCIEFに関する具体的な記載は、例えば、Salas‐Solano O et al.,Robustness of iCIEF methodology for the analysis of monoclonal antibodies: an interlaboratory study, J Sep Sci. 2012 Nov;35(22):3124‐9. doi: 10.1002/jssc.201200633. Epub 2012 Oct 15、及びDada OO et al.,Characterization of acidic and basic variants of IgG1 therapeutic monoclonal antibodies based on non‐denaturing IEF fractionation, Electrophoresis. 2015 Nov;36(21‐22):2695‐2702. doi: 10.1002/elps.201500219. Epub 2015 Sep 18を参照できる。
【0091】
カチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX‐HPLC)により抗体製剤における抗体の電荷変異体を測定することができる。当該測定法において、CEX‐HPLCカラムによりメインピークの保持時間よりも早く溶出されたピークは「酸性ピーク」と標識され、CEX‐HPLCカラムによりメインピークの保持時間よりも遅く溶出されたピークは「塩基性ピーク」と標識される。
【0092】
加速安定性の研究は、製品の安定性性質を測定するために利用され、安定的な医薬製剤形態の選別に繋がる。例えば、製剤試料を上昇された温度、例えば、約40℃±2℃、25℃±2℃の条件に置いて、加速安定性の研究を行うことができる。測定指標は、外観、視認できる異物、タンパク質含有量、濁度、純度(SEC‐HPLC法、非還元型CE‐SDS法)及び電荷変異体(iCIEF法)を含む。
【0093】
振とう試験を実施して、製剤の振とう/せん断安定性を考察することができる。例えば、製剤試料をバイアル瓶に分注し、プラグで蓋をしてから静置して、振とう試験を実施する。例えば、650r/minで3~5日間振とうさせてから、製剤の外観、タンパク質含有量、濁度及び純度を測定する。
【0094】
また、抗体の効能又は生物学的活性を測定してもよい。例えば、製剤における抗体とその抗原との結合能力を測定してもよい。当業者は、例えば、免疫測定試験、ELISAなど、抗体と抗原との特異的結合を定量的にする複数の方法を知っている。
【0095】
本発明の抗LAG‐3抗体製剤は安定的である。一実施形態において、約25℃、37℃、40℃、又は45℃で少なくとも1ヶ月又は2ヶ月保存した後に、例えば、40℃±2℃で1ヶ月保存した後に、サイズ排除クロマトグラフィー又は非還元型CE‐SDSにより測定した結果、本発明の抗体製剤における抗LAG‐3抗体純度は、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上である。一実施形態において、約25℃、37℃、40℃、又は45℃で少なくとも1ヶ月又は2ヶ月保存した後に、例えば、40℃±2℃で1ヶ月保存した後に、画像キャピラリーフォーカシング電気泳動法により測定した結果、本発明の抗体製剤における抗LAG‐3抗体の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%は、非塩基性及び非酸性形態(即ち、メインピーク又は主な電荷形態)である。
【0096】
IV.製剤の用途
抗LAG‐3抗体を含む本発明の抗体製剤は、様々なLAG‐3関連疾患又は病的状態を治療、改善又は予防するために使用される。本明細書では「LAG‐3関連疾患又は病的状態」は、本発明の抗LAG‐3抗体製剤により治療(例えば、改善)又は予防することができる疾患又は病的状態を指す。本発明の抗体製剤による治療から利益を得た任意の疾患又は病的状態は本発明に適する。
【0097】
一態様において、抗LAG‐3抗体を含む本発明の製剤は、対象における免疫応答を調節するために使用され、特に対象における免疫応答を回復、増強、刺激又は増加させるために使用される。幾つかの実施形態において、抗LAG‐3抗体を含む本発明の製剤は、対象における抗原特異性T細胞反応、例えば、抗原特異性T細胞反応におけるインターロイキン‐2(IL‐2)又はインターフェロン‐γ(IFN‐γ)の生成を回復、増強又は刺激させるために使用される。
別の態様において、抗LAG‐3抗体を含む本発明の製剤は、対象における腫瘍、例えば、がんを予防又は治療するために使用され、前記腫瘍は、固形腫瘍、血液系がん(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫)及びその転移性病巣を含むがこれらに限定されない。一実施形態において、前記がんは固形腫瘍である。固形腫瘍の例は、悪性腫瘍を含み、例えば、肺、乳腺、リンパ、消化器系又は結腸・直腸、生殖器系と泌尿器系(例えば、腎細胞、膀胱細胞、膀胱細胞)、咽頭、中枢神経系(例えば、脳細胞、神経細胞又は神経膠細胞)、皮膚(例えば、黒色腫)、頭部と頸部(例えば、頭頸部扁平上皮がん(HNCC))と膵臓を侵襲する複数の器官系における肉腫とがん(例えば、腺がん)を含む。例えば、黒色腫、結腸がん、胃がん、直腸がん、腎細胞がん、乳がん(例えば、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体又はHer2/neuの1種、2種又は全てが発現されない乳がん、例えば、トリプルネガティブ乳がん)、肝がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(NSCLC)(例えば、扁平上皮NSCLC及び/又は非扁平上皮NSCLC)又は小細胞性肝がん)、前立腺がん、頭頸部がん(例えば、HPV+扁平上皮がん)、小腸がんと食道がんが挙げられる。血液系がんの非限定的な例は、白血病(例えば、骨髄性白血病、リンパ性白血病又は慢性リンパ性白血病(CLL))、リンパ腫(例えば、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、T細胞リンパ腫又はマントル細胞リンパ腫(MCL))、多発性骨髄腫などの骨髄腫を含む。がんは、早期、中期又は末期にあるがん又は転移性がんであってもよい。一実施形態において、腫瘍は、消化器がん、例えば、結腸がんなどである。
【0098】
別の態様において、抗LAG‐3抗体を含む本発明の製剤は、対象の感染性疾患を予防又は治療するために使用される。幾つかの実施形態において、感染性疾患は慢性感染であり、例えば、前記慢性感染は、細菌、ウイルス、真菌及び原生動物から選ばれる病原体により生じる。
【0099】
別の態様において、抗LAG‐3抗体を含む本発明の製剤は、対象において抗体依存性細胞により介在される細胞傷害に使用される。
【0100】
本発明は、薬物を調製するための、本発明の製剤の使用を提供する。前記薬物は、哺乳類に抗LAG‐3抗体を投与するために使用され、或いは上記疾患及び病的状態の1種以上を治療、予防又は改善するために使用される。好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0101】
本発明の抗体製剤を複数の経路で対象又は患者に投与してもよい。例えば、投与は輸注又は注射器により行ってもよい。従って、一態様において、本発明は、本発明の抗体製剤(例えば、薬剤充填済み注射器)を含む送達装置(例えば、注射器)を提供する。患者は、主な活性成分として抗LAG‐3抗体を、有効量、即ち疾患又は病的状態を治療、改善又は予防するのに十分な量で受ける。
【0102】
治療効果は生理的な症状の軽減を含む。任意の特定対象に使用される抗体の最適な有効量及び濃度は、患者の年齢、体重、健康状態及び/又は性別、疾患の性質及び程度、特定抗体の活性、抗体に対する体のクリアランス、並びに、前記抗体製剤と組合せて投与するその他の任意の治療などの、複数の要素によって決定される。具体的な状況について、投与される有効量は、臨床医の判断範囲内で決定される。有効投与量は、治療対象の適応症によるが、約0.005mg/kg体重~約50mg/kg体重、又は約0.1mg/kg体重~約20mg/kg体重であってもよい。この点に関して、既知の抗体に基づく薬物の適用はある程度で参考できる。投与量は単一投与量案又は複数投与量案であってもよい。
【0103】
以下の実施例を本発明の理解を補助するように説明する。如何なる形式で実施例を、本発明の保護範囲を制限するものと解釈すべきではない。
【0104】
略語
CE‐SDS:ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリーゲル電気泳動
ELISA:酵素結合免疫吸着測定法
FLD:蛍光検出器
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
iCIEF:画像キャピラリー等電点電気泳動
SEC‐HPLC:サイズ排除高速液体クロマトグラフィー
【実施例
【0105】
本願の発明者は、組換え完全ヒト化抗リンパ球活性化遺伝子3(LAG‐3)モノクローナル抗体の注射液を長期的且つ安定的に保存する製剤処方を開発して、有効期間内(少なくとも24ヶ月)で製品品質を制御可能にするために、処方選別試験を設置して、異なる添加物のLAG‐3抗体製剤安定性に対する影響を考察した。試験に使用される材料及び方法は下記の通りである。
【0106】
材料及び方法
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
1.3.製剤安定性の測定項及び測定法
抗体製剤に対して、(1)外観及び視認できる異物の有無を測定し、(2)紫外線法(UV法)により製剤におけるタンパク質含有量を測定し、(3)OD350nm法により製剤の濁度を測定し、(4)サイズ排除クロマトグラフィー、例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(size‐exclusion chromatography‐HPLC;SEC‐HPLC)により抗体製剤の純度を測定し、全てのピーク面積の合計に占める単量体面積のパーセンテージで示し、(5)還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(還元型CE‐SDS)及び/又は非還元型ラウリル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(非還元型CE‐SDS)により抗体製剤の純度を測定し、全てのピーク面積の合計に占める単量体面積のパーセンテージで示し、(6)画像キャピラリー等電点電気泳動法(iCIEF法)により抗体製剤における電荷変異体を測定し、主成分、酸性成分及び塩基性成分のパーセンテージで示し、(7)免疫測定法、例えば、直接ELISA法により、抗体製剤における抗LAG‐3抗体の相対結合活性を測定する。
【0110】
視認できる異物の測定
国家薬典委員会、中華人民共和国薬典(2015年版、四部通則0904「視認できる異物の測定法」)、北京中国医薬科技出版社、2015に記載されている方法に基づき、透明度測定器(天津天大天発製、型番YB‐2)により試料における視認できる異物を測定した。
【0111】
タンパク質含有量の測定
紫外線分光光度計(日本島津製、型番UV‐1800)により試料におけるタンパク質含有量を測定した。
【0112】
濁度の測定
紫外線分光光度計(日本島津製、型番UV‐1800)により試料の350nmにおける吸光度を測定して、試料の濁度を確認した。
【0113】
純度(SEC‐HPLC法)
体積排除カラムにより分離するが、流動相がリン酸塩緩衝液(3.12gリン酸二水素ナトリウム二水和物、8.77g塩化ナトリウム、34.84gアルギニンを秤量して、超純水で溶解させてから、塩酸でpH値が6.8になるまで調節し、1000mlまで定容する)であり、カラム保護液が0.05%(w/v)NaNであり、試料注入量が50μlであり、流速が0.5ml/分間であり、サンプリング時間が30分間であり、カラム温度が25℃であり、測定波長が280nmである。被検試料を取り、超純水で2mg/mlまで希釈させて、供試品溶液とする。製剤緩衝液を取り、上記同様の処理法で希釈させて、ブランク溶液とする。ブランク溶液、供試品溶液をそれぞれ50μl取り、液体クロマトグラフ装置に注入して、測定を開始する。
【0114】
純度(還元型CE‐SDS法)
キャピラリーゲル電気泳動法により測定した。キャピラリーはコーティング無しキャピラリーであり、内径50μm、全長30.2cm、有効長さ20.2cmである。電気泳動を実施する前に、それぞれ0.1mol/L水酸化ナトリウム、0.1mol/L塩酸、超純水、電気泳動ゲルにより70psiでキャピラリーカラムを洗浄した。被検試料を適量の超純水で2.0mg/mlまで希釈させ、上記希釈された試料を50μl取り1.5ml遠心分離管に入れ、当該遠心分離管にそれぞれ45μlのpH値6.5試料緩衝液(クエン酸一水和物0.32g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.45gを秤量して、45ml超純水に溶解させてから、50mlまで定容して、クエン酸‐リン酸塩緩衝液を得て、当該緩衝液200μlを精確に秤量して、10%(w/v)ラウリル硫酸ナトリウム溶液80μlを入れ、1mlまで水を入れ、均一に混合させて得る)、1μl内部標準液(10kDaタンパク質、5mg/mL)(Beckman Coulter、製品番号:390953)、5μlのβ‐メルカプトエタノールを入れて、十分均一に混合させた後に、70±2℃で10±2分間加熱し、室温まで冷却し、試料瓶に移して、供試品溶液とする。供試品と同じ体積の製剤緩衝液を取り、上記同様の操作方法でブランク溶液を得た。試料注入条件:-5kV 20秒;分離電圧:-15kV 35分間。キャピラリーカラム温度を25℃に制御し、測定波長が220nmである。
【0115】
純度(非還元型CE‐SDS法)
キャピラリーゲル電気泳動法により測定した。キャピラリーはコーティング無しキャピラリーであり、内径50μm、全長30.2cm、有効長さ20.2cmである。電気泳動を実施する前に、それぞれ0.1mol/L水酸化ナトリウム、0.1mol/L塩酸、超純水、電気泳動ゲルにより70psiでキャピラリーカラムを洗浄した。被検試料を適量の超純水で2.0mg/mlまで希釈させ、上記希釈された試料を50μl取り1.5ml遠心分離管に入れ、当該遠心分離管にそれぞれ45μlのpH値6.5試料緩衝液(クエン酸一水和物0.32g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.45gを秤量して、45ml超純水に溶解させてから、50mlまで定容して、クエン酸‐リン酸塩緩衝液を得て、当該緩衝液200μlを精確に秤量して、10%(w/v)ラウリル硫酸ナトリウム溶液80μlを入れ、1mlまで水を入れ、均一に混合させて得る)、1μl内部標準液(10kDaタンパク質、5mg/mL)(Beckman Coulter、製品番号:390953)、5μlの250mmol/LNEM溶液(N‐エチルマレイミド62mgを秤量して、2ml超純水に溶解させる)を入れて、十分均一に混合させた後に、70±2℃で10±2分間加熱し、室温まで冷却し、試料瓶に移して、供試品溶液とする。供試品と同じ体積の製剤緩衝液を取り、上記同様の操作方法でブランク溶液を得た。試料注入条件:-5kV 20秒;分離電圧:-15kV 35分間。キャピラリーカラム温度を25℃に制御し、測定波長が220nmである。
【0116】
電荷変異体(iCIEF法)
画像キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF法)により測定した。キャピラリー内径100μm、全長5cmである。試料に対して電気泳動を実施する前に、それぞれ0.5%メチルセルロース溶液(後述ではMC溶液とも略す)、超純水でキャピラリーカラムを洗浄した。真空注入法により試料を55秒注入するが、プレフォーカシング電圧及び時間が1.5kV及び1分間であり、フォーカシング電圧及び時間が3kV及び8分間であり、試料注入時間が55秒であり、試料盤の温度が10℃であり、キャピラリーカラム温度が室温であり、測定波長が280nmである。陰極安定剤(Cathodic Stabilizer)が500mmol/Lアルギニン溶液であり、陽極安定剤(Anodic Stabilizer)が200mmol/Lイミノ二酢酸であり、3mol/L尿素でタンパク質溶解性を向上させ、0.5%MC溶液でタンパク質とキャピラリーとの粘着を低下させる。供試品を水で0.5mg/mlまで希釈させ、上記希釈された供試品溶液を20μl取り、その中に83μl予混合液を入れて、十分均一に混合させて、被検試料溶液を得た。製剤緩衝液同様の操作方法でブランク溶液を得た。
【0117】
相対結合活性(直接ELISA法)
1×PBSでストレプトアビジン(Thermo、製品番号:21125)を1μg/mlまで希釈させ、100μl/ウェル、37℃、2hで96ウェルマイクロプレートにコーティングした。プレートを洗浄した後に、密閉液(5% FBS、300μl/ウェル)を37℃で2h密閉した。1×PBSでビオチン化したLAG‐3(Sino biological、製品番号:16498‐HNAH‐B)を0.5μg/mlまで希釈させ、100μl/ウェル、37℃、0.5hで96ウェルマイクロプレートにコーティングした。2%FBSで抗LAG‐3抗体を100μl/ウェルで40μg/mlまで希釈させ、4倍の濃度勾配で12番目の濃度(0.01~10000ng/ml)まで希釈させる。勾配希釈された供試品を洗浄されたマイクロプレートに100μl/ウェルで入れて、37℃の恒温インキュベーターで30minインキュベートした。プレートを洗浄した後に、2% FBSで希釈されたHRP複合ヤギ抗ヒトIgG‐Fc断片(アメリカ BETHYL、製品番号A80‐104P)を二次抗体(30000倍希釈、100μl/ウェル)として入れ、37℃で20min反応させた。プレートを洗浄した後に、100μlのTMB顕色液を入れ、10min発色させてから、1ウェル当たり100μlの1mol/L HSOを入れて反応を終了させた。620nmを参照波長として、450nmにおけるOD値を測定した。各濃度勾配試料の濃度値を横軸とし、各濃度勾配試料のOD450nm~OD620nm値を縦軸として、Prismの4つのパラメータからEC50反応抗LAG‐3抗体とLAG‐3との結合活性をフィッティングにより算出した。
【0118】
実施例1. 抗LAG‐3抗体の調製及び精製
CN201811561512.Xに記載されるように、LAG‐3と特異的に結合する新型抗LAG‐3抗体ADI‐31853が調製及び精製されたが、当該抗体は配列番号9の重鎖配列及び配列番号10の軽鎖配列からなり、IgG4型抗体である。簡単に説明すると、抗LAG‐3抗体ADI‐31853は293細胞又はCHO細胞において組換え発現及び精製された。処方選別試験に使用される試料に対してCEX(カチオン交換クロマトグラフィー)により精製した結果、試料のタンパク質含有量が約11.5mg/ml~約25.0mg/mlである。
【0119】
実施例2. 製剤の安定性に対するpH値影響試験
本実施例は、抗LAG‐3抗体を含む製剤の、pH値5.0~8.0における安定性を考察した。
【0120】
2.1 pH値影響試験工程:
7つのpH値が設計されたが、具体的な情報は表1を参照する。各処方の緩衝液を調製し、抗LAG‐3抗体タンパク質を各処方溶液に限外濾過置換した。置換後、各処方のタンパク質含有量を約20mg/mlに調製して、ポリソルベート80を入れた。濾過した後にバイアル瓶に分注し、プラグで蓋をしてから、高温苛酷における安定性を考察し、SEC‐HPLC法により抗LAG‐3抗体タンパク質の純度を測定し、iCIEF法により電荷変異体を測定した。
【0121】
【表4】
【0122】
具体的な試験条件及びサンプリング計画は表2を参照する。
【0123】
【表5】
【0124】
2.2 判定基準
試料変化の有無を判断するために、製品に対する理解ならびに機器と方法の精密度に応じて、試料測定指標値と初期値との比較による品質変化無しの判定基準が設定されるが、具体的に表3を参照する。
【0125】
【表6】
【0126】
2.3 pH値影響試験の結果
製剤の安定性に対するpH値影響試験の結果は表4に、SEC‐HPLC法により測定した抗LAG‐3抗体タンパク質の純度のトレンド図は図1に、iCIEF法により測定した抗LAG‐3抗体タンパク質の各電荷変異体のトレンド図は図2に示す。表4、図1及び図2によれば、40℃±2℃の条件で各処方を1ヶ月放置した後に、pH5.5、pH6.0、pH6.5、pH7.0、pH7.5の液体において抗LAG‐3抗体が比較的に安定的であり、即ち当該製剤がpH5.5‐7.5範囲内で投与されてもよい。従って、後続の実験では、pH6.0においてLAG‐3抗体製剤の処方を設計した。
【0127】
【表7】
【0128】
実施例3. 処方選別試験その1
3.1 処方選別試験その1の工程
7つの処方が設計されたが、具体的な処方情報は表5を参照する。表5により各処方の緩衝液を調製した。抗体タンパク質を各処方溶液に限外濾過置換した。置換完了後、各処方のタンパク質濃度を約20mg/mlまで希釈させて、ポリソルベート80を入れた。濾過した後にバイアル瓶に分注し、プラグで蓋をしてから、安定性を考察した。高温苛酷試験、振とう試験、凍結融解試験及び照射試験を含む試験法により安定性を考察した。測定指標は、外観、視認できる異物、タンパク質含有量(UV法)、濁度(OD350nm法)、純度(SEC‐HPLC法及び非還元型CE‐SDS法)、電荷変異体(iCIEF法)、相対結合活性(直接ELISA法)である。
【0129】
【表8】
【0130】
具体的な試験条件及びサンプリング計画は表6を参照する。
【0131】
【表9】
【0132】
3.2 判定基準
上記2.2節、表3を参照する。
3.3 処方選別試験その1の結果
(1) 高温苛酷試験
高温苛酷試験により処方を選別した結果は表7、図3図5を参照する。
40℃±2℃の条件で2週間放置した後に、処方3だけは外観について白い沈殿物が現れた。処方1、2、4、5、6、7は、外観、視認できる異物について合格し、タンパク質含有量(UV法)及び純度(SEC‐HPLC法及び非還元型CE‐SDS法)について変化がなく、電荷変異体‐酸性成分(iCIEF法)について増加し、電荷変異体‐塩基性成分(iCIEF法)について減少した。また、処方5、処方6及び処方7は処方1、処方2、処方4と比較すれば、電荷変異体‐酸性成分の増加傾向が小さく、処方5及び処方7は上記表3の判定基準によれば、電荷変異体‐主成分(iCIEF法)について変化がない。
【0133】
【表10】
【0134】
(2) 振とう試験
振とう試験により処方を選別した結果は表8を参照する。結果によれば、650回転/分の条件で5日間振とうした後に、処方1、処方2及び処方4は、外観、視認できる異物について合格し、タンパク質含有量(UV法)、濁度(OD350nm法)、純度(SEC‐HPLC法及び非還元型CE‐SDS法)、電荷変異体(iCIEF法)、相対結合活性(直接ELISA法)について変化がない。
【0135】
【表11】
【0136】
(3) 凍結融解試験
凍結融解試験により処方を選別した結果は表9を参照する。凍結融解を6回繰り返した後に、処方1、処方2及び処方4は、外観、視認できる異物について合格し、タンパク質含有量(UV法)、濁度(OD350nm法)、純度(SEC‐HPLC法及び非還元型CE‐SDS法)、電荷変異体(iCIEF法)、相対結合活性(直接ELISA法)について変化がない。
【0137】
【表12】
【0138】
(4) 照射試験
照射試験により処方を選別した結果は表10を参照する。600Lux±50Lux照度で5日間照射した後に、処方1、処方2及び処方4は、外観、視認できる異物について合格し、タンパク質含有量(UV法)、濁度(OD350nm法)、純度(SEC‐HPLC法及び非還元型CE‐SDS法)、電荷変異体(iCIEF法)、相対結合活性(直接ELISA法)について変化がない。
【0139】
【表13】
【0140】
結論
処方1~処方7に対して高温苛酷試験を実施した結果によれば、添加物のスクロース、アルギニン、トレハロース及びソルビトールは抗LAG‐3抗体の安定剤として使用できる。また、添加物のスクロース及びアルギニンはトレハロース及びソルビトールと比較すれば良好であり、タンパク質の電荷変異体‐酸性成分の増加及び主成分の減少を有効的に抑制することができる。
【0141】
処方1、処方2及び処方4で振とう試験、凍結融解試験及び照射試験を実施した結果によれば、この3つの処方は良好な安定性を有し、処方同士で差異がないため、製品の安定性に対する、エデト酸二ナトリウム又はメチオニンの添加による影響が大きくない。処方の簡単化及び安全性から、処方にエデト酸二ナトリウム又はメチオニンを添加しない。
【0142】
実施例4. 処方選別試験その2
4.1 処方選別試験その2の工程
3つの処方が設計されたが、具体的な処方情報は表11を参照する。各処方の緩衝液を調製し、抗LAG‐3抗体ADI‐31853タンパク質を各処方溶液に限外濾過置換した。置換完了後、各処方のタンパク質濃度を約20mg/mlまで希釈させて、ポリソルベート80を入れた。濾過した後にバイアル瓶に分注し、プラグで蓋をしてから、高温苛酷試験、振とう試験及び凍結融解試験により安定性を考察した。測定指標は、外観、視認できる異物、タンパク質含有量(UV法)、濁度(OD350nm法)、純度(SEC‐HPLC法、非還元型CE‐SDS法及び還元型CE‐SDS法)、電荷変異体(iCIEF法)、相対結合活性(直接ELISA法)である。
【0143】
【表14】
【0144】
具体的な試験条件及びサンプリング計画は表12を参照する。
【0145】
【表15】
【0146】
4.2 判定基準
上記2.2節、表3を参照する。
【0147】
4.3 処方選別試験その2結果
(1) 高温苛酷試験
高温苛酷試験の結果は表13、図6図14を参照する。40℃±2℃の条件で1週間放置した後に、処方8、処方9、処方10は電荷変異体‐酸性成分(iCIEF法)が増加し、塩基性成分が減少した。40℃±2℃の条件で2週間放置した後に、処方9及び処方10は純度(還元型CE‐SDS法)が低下し、更にマススペクトル測定結果によれば、主に糖化反応が発生されたが、処方10は電荷変異体‐主成分が減少した。40℃±2℃の条件で1ヶ月放置した後に、各処方は外観、視認できる異物について合格し、タンパク質含有量(UV法)、純度(非還元型CE‐SDS法)、相対結合活性(直接ELISA法)についても合格したが、処方8の純度(還元型CE‐SDS法及びSEC‐HPLC法)及び処方9の純度(SEC‐HPLC法)は変化がなく、処方8、処方9、処方10は濁度が上昇し、処方8、処方9、処方10は電荷変異体‐主成分が減少したが、処方8の減少傾向が比較的に小さく、処方10は純度(SEC‐HPLC法)が減少したが、主にポリマーの増加である。
【0148】
【表16】
【0149】
(2) 振とう試験
処方選別その2の振とう試験結果は表14を参照する。650回転/分の条件で3日間振とうした後に、処方8、処方9、処方10は外観、視認できる異物について合格し、タンパク質含有量(UV法)、濁度(OD350nm法)、純度(非還元型CE‐SDS法、還元型CE‐SDS法及びSEC‐HPLC法)、電荷変異体(iCIEF法)、相対結合活性(直接ELISA法)について変化がない。
【0150】
【表17】
【0151】
(3) 凍結融解試験
処方選別その2の凍結融解試験結果は表15を参照する。凍結融解を6回繰り返した後に、処方8、処方9、処方10は外観、視認できる異物について合格し、タンパク質含有量(UV法)、濁度(OD350nm法)、純度(非還元型CE‐SDS法、還元型CE‐SDS法及びSEC‐HPLC法)、電荷変異体(iCIEF法)、相対結合活性(直接ELISA法)について変化がない。
【0152】
【表18】
【0153】
結論
高温苛酷試験の結果によれば、処方8は、電荷変異体(iCIEF法)の測定結果から、電荷変異体‐酸性成分の増加傾向及び主成分の減少傾向が比較的に小さく、処方8及び処方9は、純度(SEC‐HPLC法)の測定結果から、更に優位性を有し、40℃の高温におけるタンパク質のポリマー増加をより効果的に抑制することができ、処方8は、純度(還元型CE‐SDS法)の測定結果から、更に優位性を有し、40℃の高温において糖化反応が発生されていない。これにより、最も好ましい製剤案は、約20mg/ml組換え完全ヒト化抗リンパ球活性化遺伝子3(LAG‐3)モノクローナル抗体、約5.88mg/mlクエン酸ナトリウム(二水和物)、約21.07mg/ml塩酸アルギニン、約0.70mg/mlポリソルベート80、pH6.0と決定される。
【0154】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、これらの開示は例示に過ぎず、本発明の範囲内で様々な他の代替、適応、及び修正が可能であることは当業者に理解されたい。従って、本発明は、本明細書に列挙した特定の実施形態に限定されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
2022539088000001.app
【国際調査報告】