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特表2022-539102光感受性神経組織の組み合わせた光と電気の刺激
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】光感受性神経組織の組み合わせた光と電気の刺激
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20220831BHJP
   A61N 1/36 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577059
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(85)【翻訳文提出日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 AU2020050653
(87)【国際公開番号】W WO2020257864
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】2019902232
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519044955
【氏名又は名称】ザ・バイオニクス・インスティテュート・オブ・オーストラリア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル・スコット-ヤング
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ファロン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ワイズ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・トンプソン
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ランドル・ストッダート
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ロイド・ハート
(72)【発明者】
【氏名】カリナ・ブレイディ
【テーマコード(参考)】
4C053
4C082
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ03
4C053JJ04
4C053JJ33
4C082PA01
4C082PA02
4C082PA03
4C082PC10
4C082PL10
(57)【要約】
神経組織を刺激するための方法が開示されており、神経組織は、光感受性タンパク質を発現するために遺伝子改変された1つ以上のニューロンを含んでいる。本方法は、神経組織に光刺激及び電気刺激を印加することを含み、それによって、ニューロンの少なくとも1つにおいて膜脱分極をトリガーする。開示された方法を適用するための装置も開示されている。装置は、神経組織に光刺激を選択的に印加するための光刺激デバイスと、電気刺激を選択的に適用するための電気刺激デバイスと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経組織を刺激するための方法であって、前記神経組織が、光感受性タンパク質を発現するように遺伝子改変された少なくとも1つのニューロンを含んでおり、前記方法が、
前記神経組織に光刺激を印加することと、
前記神経組織に電気刺激を印加することと、
を含み、前記ニューロンの少なくとも1つにおいて膜脱分極をトリガーする、前記方法。
【請求項2】
前記膜脱分極が活動電位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光刺激の光パワーレベルが、前記電気刺激がない場合に前記少なくとも1つのニューロンにおいて活動電位をトリガーするための閾値光パワーレベル未満である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気刺激の電気パワーレベルが、前記光刺激がない場合に前記少なくとも1つのニューロンの活動電位をトリガーするための閾値電気パワーレベル未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記電気刺激の前記印加が、前記光刺激の前記印加の開始後の所定の遅延時間で開始する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の遅延時間が、前記光刺激の持続時間よりも長く、前記光刺激の前記印加の停止後に前記電気刺激の前記印加が開始する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の遅延時間が、前記光刺激の持続時間よりも短く、前記電気刺激の前記印加が前記光刺激の前記印加の停止前に開始する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の遅延時間が、約0.1ミリ秒~約30ミリ秒の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記光刺激の持続時間が、約0.1ミリ秒~約20ミリ秒の間である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記光刺激の前記印加の停止と前記電気刺激の前記印加の開始との間に時間のギャップがある、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記電気刺激の前記印加が、前記光刺激の前記印加の停止後、約0.1ミリ秒~約60ミリ秒の間に開始する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電気刺激の前記印加が、前記光刺激の前記印加の停止後、約0.1ミリ秒、0.2ミリ秒、0.5ミリ秒、1ミリ秒、5ミリ秒、10ミリ秒、15ミリ秒、20ミリ秒、25ミリ秒、30ミリ秒、40ミリ秒、50ミリ秒、60ミリ秒、0.1秒、0.2秒、0.3秒、0.4秒、0.5秒、0.6秒、0.8秒、1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、10秒、15秒、20秒、30秒、45秒、1分、2分、5分、10分、15分、20分、25分、30分以上で開始する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記光刺激が、約300nm~約2000nmの間の波長を有する光を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記光刺激が可視光スペクトルの光を含む、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記光刺激が、約450nm~約600nmの間の波長を有する光を含む、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記光刺激が、700nm未満の波長を有する光を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記電気刺激が、一連の電気パルスとして印加される、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記電気刺激がパルス列を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記パルス列が、約5Hz~約5kHzの間のパルス周波数を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか1項に記載の方法を実施するように構成された装置であって、
前記光刺激を選択的に印加するための光刺激デバイスと、
前記電気刺激を選択的に印加するための電気刺激デバイスと、
を含む前記装置。
【請求項21】
神経組織を刺激するように構成された装置であって、前記神経組織が、光感受性タンパク質を発現するように遺伝子改変された1つ以上のニューロンを含み、前記装置が、
前記神経組織に光刺激を選択的に印加するための光刺激デバイスと、
前記神経組織に電気刺激を選択的に印加するための電気刺激デバイスと、を含み、
前記ニューロンの少なくとも1つにおいて膜脱分極をトリガーする、装置。
【請求項22】
前記光刺激及び前記電気刺激の前記印加を制御するためのシステムコントローラを含む、請求項20または21に記載の装置。
【請求項23】
前記システムコントローラが、前記光刺激、及び前記電気刺激の前記印加を選択的にトリガーするように構成されている、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記システムコントローラが、前記光刺激の印加をトリガーした後に所定の遅延時間で前記電気刺激の印加をトリガーするように構成されている、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記システムコントローラが、前記電気刺激及び前記光刺激の持続時間及び/またはパワーレベルを制御するように構成されている、請求項22から24のいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
前記光刺激及び/または前記電気刺激に対する前記神経組織の応答を検出するための記録デバイスをさらに備える、請求項20から25のいずれか1項に記載の装置。
【請求項27】
前記システムコントローラが、前記光刺激及び/または前記電気刺激に対する前記神経組織の前記検出された応答に基づいて、前記電気刺激及び/または前記光刺激の1つ以上のパラメータを調整するように構成されている、請求項26に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年6月26日に出願の豪州仮特許出願第2019902232号に対する優先権を主張し、その内容が参照として本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、一般に神経組織の刺激に関し、特に、光感受性タンパク質を発現するように遺伝子改変されたニューロンを刺激するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
神経変調としても知られる神経組織の刺激は、神経系の動作に介入する手段を提供する。神経変調デバイス(人工内耳やペースメーカなど)は、通常、電気刺激を使用して、標的神経組織内のニューロンの活動電位をトリガーする。しかしながら、空間選択性の改善と侵襲性の低減の必要性により、光遺伝学などの他の神経変調方法への関心が高まっている。
【0004】
光遺伝学は、ニューロンの原形質膜で光感受性イオンチャネルを発現するニューロンの遺伝子工学を含み、光(または特定の波長の光)への曝露が標的ニューロンの膜脱分極を引き起こし得る。
【0005】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、デバイス、物品などの議論は、これらの事項のいずれかまたはすべてが、添付の各請求項の優先日より前に存在していたとして、先行技術の基盤の一部を形成するか、または本開示に関連する分野において共通的な一般的な知識であったと認めるものと見なされるべきではない。
【発明の概要】
【0006】
一態様によれば、本開示は、神経組織を刺激するための方法を提供し、神経組織は、光感受性タンパク質を発現するために遺伝子改変された少なくとも1つのニューロンを含み、本方法は、
神経組織に光刺激を印加することと、
神経組織に電気刺激を印加することと、
それにより、神経組織の1つ以上のニューロンにおいて膜脱分極をトリガーすることと、を含む。
【0007】
光刺激と電気刺激の両方が神経組織に印加されることから、本開示の方法は、神経組織の電気刺激と光刺激の組み合わせ、または、「共刺激」(本明細書では、神経組織のハイブリッド刺激とも説明される)を提供すると考えられる。
【0008】
いくつかの実施形態では、膜脱分極は、活動電位を含む。他の実施形態では、膜脱分極は、閾値下脱分極事象を含む。閾値下脱分極事象は、さらなる刺激に応答して神経組織をより容易に興奮するように「プライム」またはレンダリングし得る。
【0009】
光刺激のパワーレベルは、電気刺激がない場合(つまり、光のみの刺激がある場合)に少なくとも1つのニューロン内で活動電位をトリガーするために、閾値パワーレベルを下回り得る。同様に、電気刺激のパワーレベルは、光刺激がない場合(つまり、電気のみの刺激がある場合)に少なくとも1つのニューロン内で活動電位をトリガーするための閾値パワーレベルよりも低くなり得る。
【0010】
本明細書で使用される場合、インビトロでの組織の刺激に言及するとき、閾値光パワーレベル(本明細書では100%光パワーレベルとも称される)は、他の刺激がない場合に、光刺激に応答して少なくとも1つのニューロン内で活動電位をトリガーする0.5の確率(すなわち、2回に1度)となる光刺激の光パワーレベルとして定義される。同様に、インビトロでの組織の刺激に対して、閾値電気パワーレベル(本明細書では100%電気パワーレベルとも称される)は、他の刺激がない場合に、電気刺激に応答して少なくとも1つのニューロン内で活動電位をトリガーする0.5の確率(すなわち、2回に1度)となる電気刺激の電気パワーレベルとして定義される。
【0011】
本明細書で使用される場合、インビボでの組織の刺激に言及するとき、閾値光パワーレベル(100%光パワーレベル)は、自発発火率と最大発火率との間でのニューロン発火率の30%の増加となる光刺激の光パワーレベルとして定義される。同様に、インビボでの組織の刺激に対して、閾値電気パワーレベル(100%の電気パワーレベル)は、自発発火率と最大発火率との間でのニューロン発火率の30%の増加となる電気刺激の電気パワーレベルとして定義される。
【0012】
上で定義されたように、閾値パワーレベルより下または上のパワーレベルは、それぞれ「閾値下」または「閾値上」と見なされ、光または電気の閾値パワーレベルのパーセンテージとして表すことができる。閾値パワーレベルは、光または電気の刺激の、選択された持続時間に応じて変化し得ることが理解されることになる。いくつかの実施形態では、本方法は、光刺激を印加し、電気刺激を印加する前に、閾値光パワーレベル及び/または閾値パワーレベルを判定することをさらに含み得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、光刺激のパワーレベルは閾値下であり、電気刺激のパワーレベルは閾値上である。いくつかの実施形態では、光刺激のパワーレベルは閾値上であり、電気刺激のパワーレベルは閾値下である。いくつかの実施形態では、光刺激のパワーレベルは閾値下であり、電気刺激のパワーレベルは閾値下である。いくつかの実施形態では、光刺激のパワーレベルは閾値上であり、電気刺激のパワーレベルは閾値上である。
【0014】
いくつかの実施形態では、光刺激のパワーレベルが閾値下であるとき、光刺激のパワーレベルは、光閾値パワーレベルの約5%~95%の間であり得る。例えば、光刺激のパワーレベルは、光閾値パワーレベルの約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれ以外であり得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、電気刺激のパワーレベルが閾値下であるとき、電気刺激のパワーレベルは、電気閾値パワーレベルの約5%~95%の間であり得る。例えば、電気刺激のパワーレベルは、電気閾値パワーレベルの約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれ以外であり得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、光刺激と電気刺激の閾値パワーレベルの合計パーセンテージは、100%未満になり得る。一例として、光刺激は、閾値光パワーレベルの40%であり得、電気刺激は、閾値パワーレベルの40%であり得る(この例では、40%+40%=80%の合計パーセンテージをもたらす)。共刺激(組み合わせた電気及び光の刺激)に応答して膜脱分極をトリガーするために、パーセンテージの様々な組み合わせが使用され得ることが理解されよう。他の実施形態では、光及び電気刺激の閾値パワーレベルの合計パーセンテージは、100%超になり得る。
【0017】
光刺激と電気刺激の両方に閾値下のパワーレベルを利用することにより、開示された方法は、ニューロンの人工刺激に必要なパワーを低減することができ、電気のみまたは光のみの刺激と比較して神経変調のエネルギー効率を向上させることになる。さらに、刺激パワーまたは刺激強度の低減は、電気のみまたは光のみの刺激と比較して、神経組織の光刺激または電気刺激からの望ましくない副作用を低減させることができる。望ましくない副作用には、刺激された細胞への軽度の毒性または電気的損傷が含まれることがある。例えば、光の吸収を通じた、または光源(例えば、埋め込まれたLEDまたはバッテリー)からの温度または熱の蓄積は、セル損傷を引き起こすことがある。さらに、電気刺激の低い(閾値下の)パワーレベルを使用してニューロンを興奮させる能力は、既知の神経変調デバイスへの設計変更を可能にし得る。例えば、より低いパワーレベルを使用して刺激する能力は、電極の電荷密度に関する設計上の制約を改善し、より小さな有効電極面積を有する電極の使用を潜在的に可能にする。
【0018】
電気刺激のパワーレベルが閾値下である実施形態では、本方法は、刺激された神経組織内での電流の広がりを減少させることができ、したがって、印加された刺激の空間分解能の改善を可能にし、標的ニューロンのより正確な活性化を提供し得る。さらに、閾値下パワーの電気刺激は、従来の電気のみの刺激と比較して、低減した刺激アーチファクトを生成し得る。このことが、刺激に対する神経応答の記録品質を向上させ得る。
【0019】
さらに、組み合わせられた光感受性神経組織の電気刺激と光刺激は、向上した時間的精度を提供することができ、光のみの刺激と比較してより速い速度でニューロンが刺激されることを可能にする。このことは、音声情報を表すために高速発火率が使用される人工内耳システムなどの用途で特に有利になり得る。本方法は、光感受性タンパク質をより速い速度論的特性を有するように再構築する必要なしに、光のみの刺激よりも高い周波数での光感受性神経組織の刺激を可能にし得る。したがって、本発明の方法は、より高い空間的及び/または時間的精度をもたらすことになり得る。
【0020】
印加される光刺激の持続時間は、約0.1ミリ秒、0.5ミリ秒、1ミリ秒よりも長くなるか、またはそれ以外であり得る。印加される光刺激の持続時間は、約100ミリ秒未満、約50ミリ秒未満、約20ミリ秒未満、またはそれ以外であり得る。例えば、光刺激の持続時間は、約0.1~100ミリ秒、0.1~50ミリ秒、0.1~20ミリ秒、0.5~100ミリ秒、0.5~50ミリ秒、0.5~20、1~100ミリ秒、1~50ミリ秒、1~20ミリ秒、またはそれ以外の間であり得る。例えば、光刺激の持続時間は、約0.1ミリ秒、0.2ミリ秒、0.5ミリ秒、1ミリ秒、2ミリ秒、4ミリ秒、6ミリ秒、8ミリ秒、10ミリ秒、12ミリ秒、14ミリ秒、16ミリ秒、18ミリ秒、20ミリ秒、30ミリ秒、40ミリ秒、50ミリ秒、100ミリ秒、またはそれ以外であり得る。光刺激の持続時間は、刺激されたニューロンが所望の(またはピーク)レベルの興奮性に到達するのに必要とされる期間に対応するように構成されることができる。所望のレベルの興奮性に到達するために必要とされる光刺激の持続時間は、より高いパワーレベルを有する光刺激に対して短縮され得ることが理解されることになる。ニューロンの興奮性の増強された期間(本明細書では「促進期間」とも称される)は、光刺激の印加停止後も持続し得る。例えば、階段関数オプシン(SFO)または安定化階段関数オプシン(SSFO)などの特定のオプシンを利用する実施形態では、増強された興奮性の期間は、光刺激印加の停止後に数秒間または数分間持続し得る。
【0021】
電気刺激の印加は、光刺激の印加の開始と同時に、または開始後の所定の遅延時間で開始することができる。所定の時間遅延は、約0.1ミリ秒~約60ミリ秒の間、またはそれ以外であり得る。例えば、所定の遅延時間は、約0.1ミリ秒、0.2ミリ秒、0.5ミリ秒、1ミリ秒、5ミリ秒、10ミリ秒、15ミリ秒、20ミリ秒、25ミリ秒、30ミリ秒、40ミリ秒、50ミリ秒、60ミリ秒、またはそれ以上であり得る。いくつかの実施形態では、所定の遅延時間が選択されることができ、電気刺激が、刺激されたニューロンが光刺激から生じる興奮性が増強された状態にある期間内に実質的に開始するようになっている。階段関数オプシンを使用する実施形態などのいくつかの実施形態では、増強された興奮性の状態は、光刺激の印加停止後、数秒または数分の程度で、比較的長期間持続し得る。いくつかの実施形態では、所定の時間遅延は最大30分になり得る。例えば、所定の時間遅延は、約0.1秒、0.2秒、0.3秒、0.4秒、0.5秒、0.6秒、0.8秒、1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、10秒、15秒、20秒、30秒、45秒、1分、2分、5分、10分、15分、20分、25分、30分以上であり得る。いくつかの代替的な実施形態では、電気刺激は、光刺激の前に開始することができる。
【0022】
光刺激から生じるニューロンの興奮性の増強の期間内に複数の電気パルスを送達することが可能であり得る。いくつかの実施形態では、電気刺激は、一連のパルスとして、またはパルス列として印加され得る。そのような実施形態では、1つ以上の電気パルスは、光刺激の印加の開始後または開始前に、所定の時間遅延で発生し得る。いくつかの実施形態では、電気刺激は、実質的に連続的に、例えば、実質的に連続した一連のパルスとして印加され得る。いくつかの実施形態では、電気パルスは、所定のパルス周波数で印加され得る。例えば、所定のパルス周波数は、約5Hz~約5kHz以上の間であり得る。例えば、この周波数は、5Hz、10Hz、20Hz、30Hz、40Hz、50Hz、60Hz、70Hz、80Hz、90Hz、100Hz、150Hz、200Hz、300Hz、400Hz、500Hz、600Hz、700Hz、800Hz、900Hz、1kHz、2kHz、3kHz、4kHz、5kHz以上とほぼ同じか、それより大きくなり得る。本開示に従って実行される組み合わせられた光刺激と電気刺激は、光刺激のみで可能であるよりも高いパルス周波数を使用して、膜脱分極のトリガーとなることを可能にし得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、所定の遅延時間は、光刺激の印加の持続時間よりも長く、その結果、電気刺激の印加は、光刺激の印加の停止後に開始する。他の実施形態では、所定の遅延時間は、光刺激の印加の持続時間よりも短く、電気刺激の印加は、光刺激印加の停止前に開始するようになっている。
【0024】
「印加」は、光または電気の刺激信号またはパルスをそれぞれ神経組織に送達する光刺激要素または電気刺激要素がアクティブまたは「オン」状態にある間に行われると見なすことができる。本明細書で説明するように、印加される電気刺激または光刺激のスタート、始まり、または開始は、関連する刺激信号またはパルスの立ち上がり区間の半値として規定されている。同様に、印加された電気刺激または光刺激の終了または停止は、関連する刺激信号、またはパルスの立ち下がり区間の半値として規定されている。上で概説したように、光刺激の印加の結果としてニューロンの興奮性が増強された期間は、光刺激の印加の停止後も持続することがある。
【0025】
光刺激の印加を停止した後に興奮性の増強期間と一致するように電気刺激を印加すると、活動電位を生成するための神経組織の効果的な刺激のために光刺激を常に適用する必要とし得ないことから、光毒性などの光刺激の望ましくない副作用のリスクをさらに低減することができる。さらに、光刺激及び電気刺激を同時に印加する必要がないことから、そのような実施形態では、エネルギー効率の向上を達成することができ、これにより、瞬間的及び/または全体的な刺激のための電力要件を低減することができる。
【0026】
このことに関連して、一態様によれば、神経組織を刺激するための方法が提供されており、組織は、光感受性タンパク質を発現するように遺伝子改変された1つ以上のニューロンを含み、本方法は、
神経組織に光刺激を印加することと、
神経組織に電気刺激を印加することと、を含み、
それにより、ニューロンの少なくとも1つにおいて膜脱分極をトリガーし、
電気刺激の印加は、光刺激の印加の停止後に開始する。
【0027】
光刺激の印加の停止と電気刺激の印加の開始との間には、時間のギャップがあることがある。電気刺激の印加は、光刺激の印加の停止後、約0.1ミリ秒~約60ミリ秒またはそれ以外の間で開始し得る。例えば、電気刺激の印加は、光刺激の印加を停止後、約0.1ミリ秒、0.2ミリ秒、0.5ミリ秒、1ミリ秒、5ミリ秒、10ミリ秒、15ミリ秒、20ミリ秒、25ミリ秒、30ミリ秒、40ミリ秒、50ミリ秒、60ミリ秒以上で開始し得る。いくつかの実施形態では、停止後の時間は、刺激されたニューロンが光刺激に起因する興奮性が増強された状態にある期間内で、電気刺激が実質的に開始するように選択され得る。階段関数オプシンを使用する実施形態などのいくつかの実施形態では、増強された興奮性の状態は、光刺激の印加停止後、数秒または数分の程度で、比較的長期間持続し得る。いくつかの実施形態では、電気刺激の印加は、光刺激の印加の停止後に最大30分で開始することができ、例えば、光刺激印加の停止後、約0.1秒、0.2秒、0.3秒、0.4秒、0.5秒、0.6秒、0.8秒、1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、10秒、15秒、20秒、30秒、45秒、1分、2分、5分、10分、15分、20分、25分、30分以上で開始することができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、光刺激は、少なくとも1つの標的ニューロンの興奮性を維持するために一連のパルスとして、またはパルス列として印加されることができる。いくつかの実施形態では、光刺激は実質的に連続的であり得る。
【0029】
光刺激は、UV、可視または赤外スペクトルの波長を有する光を含み得る。光刺激は、約300nm~約2000nmの間の波長を有する光を含み得る。それにもかかわらず、いくつかの実施形態では、光刺激が可視光スペクトルの光を含むことが好ましくなり得、したがって、例えば、赤外線光または紫外線光を除外することができる。例えば、光刺激は、約380nm~約740nmの間の波長を有する光を含み得る。いくつかの実施形態では、光刺激は、約450nm~約600nmの間の波長を有する光を含み得る。
【0030】
光の波長は、遺伝子改変されたニューロンの光感受性タンパク質の1つ以上の波長感度に対応するように選択することができる。いくつかの実施形態では、光刺激は、光の複数の離散波長を含み得る。いくつかの実施形態では、光刺激は、所定の帯域にわたる波長の連続範囲を有する光を含み得る。他の実施形態では、光刺激は、単一の離散波長の光を含み得る。
【0031】
光感受性の光遺伝学的に改変された組織に依存することにより、特に可視スペクトル内にあり得る波長を有する光の使用を通じて、本技術は、神経組織の活性化の熱メカニズムに依存する赤外線神経刺激技術とはかなり異なり得、それにより、温度の急激な変化が標的ニューロンの活動電位をトリガーする。
【0032】
一態様によれば、本開示は、前の態様の方法を実行するように構成された装置を提供する。装置は、光刺激を選択的に印加するための光刺激デバイスと、電気刺激を選択的に印加するための電気刺激デバイスと、を備え得る。
【0033】
このことに関連して、一態様によれば、本開示は、神経組織を刺激するように構成された装置を提供し、神経組織は、光感受性タンパク質を発現するように遺伝子改変された1つ以上のニューロンを含み、本装置は、
神経組織に光刺激を選択的に印加するための光刺激デバイスと、
神経組織に電気刺激を選択的に印加するための電気刺激デバイスと、を含み、
それにより、ニューロンの少なくとも1つにおいて膜脱分極をトリガーする。
【0034】
装置は、少なくとも部分的に埋め込み可能であり得る。装置は、光刺激デバイスの少なくとも一部、及び/または電気刺激デバイスの少なくとも一部を支持する埋め込み可能なハウジングまたは基板を含み得る。装置は、診断及び/または治療の目的で、ヒトまたは動物の患者に部分的な埋め込みのため構成されることができる。
【0035】
光刺激デバイスは、光エネルギー源と、光エネルギー源から神経組織に光エネルギーを印加するための少なくとも1つの光刺激要素と、を含み得る。少なくとも光刺激要素は埋め込み可能であり得る。例えば、少なくとも光刺激要素、及び任意選択で光刺激要素及び光エネルギー源の両方が、埋め込み可能なハウジングまたは基板によって支持され得る。
【0036】
同様に、電気刺激デバイスは、電気エネルギーを神経組織に印加するための電気エネルギー源と、少なくとも1つの電気刺激要素と、を含み得る。少なくとも電気刺激要素は埋め込み可能であり得る。例えば、少なくとも電気刺激要素、ならびに任意選択で電気刺激要素及び電気エネルギー源の両方が、埋め込み可能なハウジングまたは基板によって支持され得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、ハウジングまたは基板は、刺激される神経組織に近接して、または直接接触して位置付けられるように構成され得る神経インターフェース部分を含み得る。電気刺激要素及び光刺激要素は、神経インターフェース部分の上に、または神経インターフェース部分の中に位置付けられ得るか、そうでない場合、神経インターフェース部分によって支持され得る。神経インターフェース部分は、刺激される神経組織に面する、及び/または接触する基板またはハウジングの表面であり得る。少なくともハウジングまたは基板の神経インターフェース部分は、柔軟であることができ、及び/またはある形状で予め形成されることができ、刺激される神経組織の形状に実質的に一致することができるようになっている。
【0038】
いくつかの実施形態では、装置は、光刺激及び電気刺激の印加を制御するためのシステムコントローラをさらに含む。例えば、システムコントローラは、光刺激及び電気刺激の印加を選択的にトリガーするように構成され得る。システムコントローラは、光刺激の印加をトリガーした後、所定の遅延時間で電気刺激の印加をトリガーするように構成されることができる。追加的または代替的に、システムコントローラは、光刺激及び電気刺激の持続時間及び/またはパワーレベルを制御するように構成され得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、装置は、神経活動を検出するように構成された記録デバイスをさらに含む。記録デバイスは、オシロスコープ、コントローラ、コンピュータインターフェース、または、例えば、神経応答遠隔測定装置または聴性脳幹応答装置などの他の信号処理装置に接続された記録電極を備え得る。いくつかの実施形態では、記録デバイスの記録電極は、電気刺激デバイスの電気刺激要素を含み得る。そのような実施形態では、電気刺激要素は、刺激電極または記録電極として選択的に動作可能であり得る。あるいは、記録デバイスはカルシウムイメージング装置であり得る。記録デバイスは、光刺激及び電気刺激に対する神経組織の応答を検出、記録、及び/または監視するように構成することができる。例えば、記録デバイスは、電気刺激及び/または光刺激に応答して生成された膜電位及び/または活動電位の変化を検出することができる。追加的または代替的に、記録デバイスは、刺激の持続時間またはパワーレベル、もしくは刺激間の遅延時間を含む、電気刺激及び/または光刺激に関連するパラメータを測定するように構成され得る。いくつかの実施形態では、記録デバイスは、装置の閉ループ制御を可能にし得る。
【0040】
神経組織を刺激して、身体内の選択された神経学的部位(例えば、ヒト患者)のニューロンの活動を変化させるために開示された方法及び装置が使用され得る。本方法及び装置は、患者の神経系の正常な機能を補完または置換するための神経機能代替装置の一部として使用され得る。例えば、本方法及び装置は、聴覚神経の活動電位をトリガーし、聴覚を提供または増強するために人口内耳システムの一部として使用され得る。一般に、本方法及び装置は、様々な神経調節用途において有用であり得、これらは、聴覚神経刺激、聴覚脳幹刺激、脊髄刺激、脳深部刺激、機能的電気刺激、脳-コンピュータインターフェース、末梢神経刺激、網膜刺激、または他の神経刺激用途を含むが、これらに限定されるものでない。このような用途は、例えば、難聴、てんかん、うつ病、運動ニューロン疾患、及び他の治療用途の検出及び/または治療に有用になり得る。
【0041】
明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、「含む(comprise)」という単語、もしくは「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などの変形は、記載された要素、整数またはステップ、もしくは要素、整数またはステップのグループを含むが、他のいずれの要素、整数、ステップ、もしくは要素、整数、またはステップのグループを除外しないことを意味すると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本開示の実施形態による、神経組織を刺激する方法で実行されるステップのフローチャートを示し、組織は、光感受性タンパク質を発現するように遺伝子改変された1つ以上のニューロンを含んでいる。
図2図1の方法の光刺激及び電気刺激のグラフ表示を示す。
図3A図1の方法を実行するように構成された本開示の実施形態による装置のシステム図を示す。
図3B図1の方法を実行するように構成された本開示の別の実施形態による装置のシステム図を示す。
図4】A及びBは、本開示の実施形態による装置の概略図を示す。
図5A】光と電気のパワーがそれぞれ閾値下レベルである、電気のみ(E)、光のみ(O)、及び光と電気の共刺激(O+E)に対する遺伝子改変ニューロン応答の典型的なトレースを示す。
図5B】ニューロンの共刺激中に活動電位を誘発した刺激レベルのいくつかの組み合わせをマッピングする図を示す。
図5C】2つの刺激の間の遅延、及びパワーレベルにおける光と電気の共刺激から得られたトレースを示す。
図5D】2つの刺激の間の遅延、及びパワーレベルにおける光と電気の共刺激から得られたトレースを示す。
図5E】2つの刺激の間の遅延、及びパワーレベルにおける光と電気の共刺激から得られたトレースを示す。
図6A】電気のみ(E)、光のみ(O)、光と電気の共刺激(O+E)、及び全電気の共刺激(E+E、光刺激の期間が電気ランプで置き換えられている)の刺激モードの比較を示す。
図6B】電気(E)、光(O)及び光と電気の共刺激(O+E)に応答して生成された活動電位の比較を示す。
図6C】光及び電気の刺激の開始間の遅延時間を変化させた、光及び電気の共刺激によって生成された一連の重ね合わされた活動電位トレースを示す。
図6D】膜電位の平均変化を重ね合わせた、光刺激と電気刺激との間の遅延時間に基づいて活動電位を誘発するための光と電気の共刺激の確率を示す。
図6E】閾値下及び閾値上の光と電気の刺激の時定数を比較する。
図7A】電気ランプと電気トリガーパルスとの間の遅延時間を変化させた全電気(E+E)刺激によって生成された一連の重ね合わされた活動電位トレースを示す。
図7B】膜電位での平均変化を重ね合わせた全電気(E+E)刺激の遅延時間の関数としての発火確率を示す。
図7C】最大膜電位に対してプロットされた膜脱分極の速度を示す。
図7D】電気パルスの前に光パルスがある場合とない場合の、電気調整パルスに続く電気テストパルスに対する、最大誘発電流とテスト電位との関係を示す。
図7E】様々な刺激モードに対する活動電位スパイクのアップストローク中の平均dV/dtを示す。
図8A】10Hzでの組み合わされた光及び電気パルス列に対する細胞応答に典型的な電圧トレースを示す。
図8B】20Hzでの組み合わされた光及び電気パルス列に対する細胞応答に典型的な電圧トレースを示す。
図8C】様々な周波数でのパルス列の適応率とベクトル強度を示している。
図8D】様々な刺激モードのための、様々なパルス周波数での0.5の発火率を達成するために必要とされる電気刺激パワーレベルのグラフを示す。
図8E】パルス周波数によってグループ化された、電気パワーを増加させるための平均発火確率の比較を示す。
図9】個別に印加された閾値下光及び閾値下電気のパルスに対するインビトロでの単一細胞膜の応答(パネルA)、及び閾値下光及び閾値下電気のパルスが、ハイブリッド刺激として印加されたときの膜の発火確率(パネルB)を示す。
図10A】トランスジェニックマウスで使用されるインビボ実験プロトコルを示す。
図10B】ネオマイシン曝露の前後のトランスジェニックマウスのABR閾値の比較を示す。
図11】様々な時間遅延での閾値下の光、閾値下の電気、及び組み合わせられた光と電気(ハイブリッド)刺激の後に神経応答がいつ検出されたかを示すラスタープロットを示す。
図12】光パルスの開始と電気パルスの開始との間の様々な遅延での9つの蝸牛のハイブリッド刺激に対して神経応答が誘発された電気刺激閾値のパーセンテージを示す。
図13】異なる刺激速度に対して光刺激のみとハイブリッド刺激によって達成されたエントレインメントを比較するラスタープロットを示す。
図14】閾値上の光刺激のみ、及びハイブリッド刺激のパーセントの追従の例を示している。
図15】光刺激のみを使用した場合と比較した、ハイブリッド刺激を使用した場合の追従率の平均増加を示す。
図16】音響刺激に応答して生成された正常な聴覚のChR2-H134マウスの下丘(IC)の応答(パネルA)と、電気刺激、ハイブリッド刺激及び光刺激に対する急性聴覚障害のChR2-H134Rトランスジェニックマウスの下丘(IC)の応答(パネルB、C、D)の画像を示す。
図17】閾値を上回る様々な識別指数レベル(d’)の強度で評価された興奮の幅を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本開示の実施形態による神経組織を刺激するための方法が、ここで説明されている。
【0044】
図1のフローチャート100を参照すると、本開示の一実施形態による神経組織を刺激するための方法が開示されており、組織は、光感受性タンパク質を発現するために遺伝子改変された1つ以上のニューロンを含んでいる。本方法は、神経組織に光刺激110を印加することと、神経組織に電気刺激120を印加することと、を含み、それにより、少なくとも1つのニューロンにおいて膜脱分極をトリガーする。フローチャート100に示されるような方法ステップの相対的な位置は、それらのステップを特定の順序で実行されるように制限するものとして解釈されるべきではない。
【0045】
図2では、光刺激110の印加及び電気刺激120の印加は、それぞれグラフで表されており、X軸は時間を表し、Y軸は刺激力を表している。光刺激110は、持続時間112及び光パワーレベル114を有する。同様に、電気刺激120は、持続時間122及び電気パワーレベル124を有する。光刺激110を印加し、電気刺激120を印加した結果として神経組織に送達されるエネルギーの量は、それぞれの刺激の選択された持続時間及びパワーレベルに応じて変化し得ることが理解されよう。
【0046】
光刺激110の印加の開始111、及び電気刺激120の印加の開始121は、所定の遅延時間130によって分離されており、電気刺激120の印加が、光刺激110の印加の開始後に開始するようになっている。図示した実施形態では、所定の遅延時間130は、光刺激110の持続時間112よりも大きくなっている。その結果、電気刺激120の印加の開始121は、光刺激110の印加の停止113の後に生じ、光刺激110の印加の停止113と電気刺激の印加120の開始との間には時間ギャップがある。しかしながら、所定の遅延時間130は、光刺激110の持続時間112よりも短くてもよく、それにより、電気刺激120の印加の開始121は、光刺激110の印加の停止113の前に生じるようになっている(すなわち、電気刺激の印加が、光刺激110の印加と少なくとも部分的に重なるようになっている)ことが理解されよう。いくつかの実施形態では、所定の遅延時間130は、電気刺激120の印加の開始121が、光刺激110の印加の終了113と一致するように構成され得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、所定の時間遅延130は、刺激された遺伝子改変ニューロンが、光刺激110に応答して興奮性のピークレベルに到達するのに要する期間に対応するように構成され得る。図6Dの例に示し、以下でより詳細に説明するように、ニューロンの発火確率、AP/パルス(すなわち、ニューロンにおいて電気刺激の印加に応答して活動電位を達成する確率)は、光刺激110の印加の結果としてのニューロンの膜電位の変化、ΔVに強く相関され得、電気刺激120の印加に応答してニューロンに活動電位を生成する機会が、電気刺激120の印加が、終了113に向けて、または光刺激110の印加の停止後に開始されるときに最大化されるようになっている。
【0048】
いくつかの実施形態では、電気刺激は、一連の電気パルスとして印加され得る。いくつかの実施形態では、電気パルスは、所定のパルス周波数で、例えば、約5Hz~約5kHz以上の間で印加され得る。例えば、図8A図8Eは、様々な所定のパルス周波数でのパルス列を含む電気刺激を使用した刺激からの実験データを示している。パルス周波数は、手元の神経刺激アプリケーションにより選択され得る。例えば、約130Hzなどの比較的低いパルス周波数は、脳深部刺激などの用途に使用できるが、一方で、最大で5kHz以上になる比較的高いパルス周波数は、聴覚を生成するための聴覚神経刺激などの用途に使用できる。本開示に従って実行される組み合わせた光刺激と電気刺激は、光刺激のみで可能であるよりも高いパルス周波数を使用して、膜脱分極のトリガーを可能にし得る。
【0049】
本明細書に記載の方法での使用に適した装置200は、図3のシステム図に示されている。装置200は、神経組織を刺激するように構成されており、組織は、光感受性タンパク質を発現するように遺伝子改変された1つ以上のニューロンを含んでいる。装置200は、神経組織に光刺激を選択的に印加するための光刺激デバイス210と、神経組織に電気刺激を選択的に印加するための電気刺激デバイス220と、を含み、それによって、ニューロンの少なくとも1つにおいて膜脱分極をトリガーする。
【0050】
任意選択で、装置200は、光刺激及び電気刺激の印加を制御するためのシステムコントローラ230を含む。システムコントローラ230は、光刺激110の印加を選択的にトリガーし、かつ、電気刺激120の印加を選択的にトリガーすることができる。システムコントローラ230は、光刺激及び電気刺激の印加を順番にトリガーするように構成され得、電気刺激の印加が、光刺激の印加後の所定の遅延時間130でトリガーされるようになっている。システムコントローラ230は、電気刺激及び光刺激またはその他の持続時間112、122及びパワーレベル114、124を含む、光刺激110及び電気刺激120の様々なパラメータを制御するように構成され得る。
【0051】
装置200は、任意選択で記録デバイス240を含み、これは、例えば、オシロスコープ、コンピュータインターフェース、神経応答遠隔測定システム、または他の信号処理デバイスに接続された記録電極を含み得る。記録デバイス240は、印加された電気刺激及び/または光刺激に対する刺激された神経組織の応答を監視するように構成され得る。追加的または代替的に、記録デバイス240は、持続時間、パワーレベル、及び時間遅延を含む、印加された光刺激及び/または電気刺激のパラメータを監視するように構成され得る。図3Aの破線で示されているように、記録デバイス240は、システムコントローラ230に関連付けられ得る。あるいは、記録デバイス240は、図3Bに示されるように、電気刺激デバイス220と一体であり得る。例えば、システムコントローラ240は、記録デバイス240から受信したデータに基づいて電気刺激及び光刺激のパラメータ110、120を自動的に調整するように構成することができ、それによって装置200の閉ループ制御を提供する。
【0052】
図4Aを参照すると、装置は、光刺激デバイス210及び電気刺激デバイス220を部分的に支持する埋め込み可能な基板250を含み得る。基板250は、刺激される神経組織に近接して(または直接接触して)位置付けられるように構成された神経インターフェース部分252を含む。例えば、図4Aに示すように、神経インターフェース部分252は、刺激される神経組織に面する、及び/または接触する基板250の表面であり得る。神経インターフェース部分252は、柔軟であることができ、及び/またはある形状で予め形成されることができ、刺激される神経組織の形状に実質的に一致することができるようになっている。
【0053】
この実施形態では、光刺激デバイス210は、複数の光刺激要素212に接続された少なくとも1つの光エネルギー源214を含む。光エネルギー源214は、レーザ、発光ダイオード(LED)及びレーザダイオードまたは他の適切な光エネルギー源を含む群から選択され得る。
【0054】
電気刺激デバイスは、同様に、導体226によって複数の電気刺激要素に接続された少なくとも1つの電気エネルギー源224を備える。電気エネルギー源224は、電気信号発生器または他の適切な電気エネルギー源を含み得る。電気刺激要素222は、電気エネルギーを神経組織に印加するための電極222の形態であり得る。
【0055】
この実施形態では、複数の光刺激要素212及び複数の電気刺激要素222は、光刺激110及び電気刺激120を神経組織に印加するために、神経インターフェース部分252に沿ってそれぞれ間隔を開けたアレイに位置付けられている。
【0056】
いくつかの実施形態では、光エネルギーは、光伝送器216によって、光エネルギー源214から光刺激要素212に伝送されている。光伝送器は、光ファイバ、導波路(または他の適切な光伝送手段)であり得る。いくつかの実施形態では、光刺激要素212は、光エネルギーを神経組織により多く向けるための屈折器及び/または反射器をさらに含む。
【0057】
代替的な実施形態では、光エネルギーは、神経組織を直接照射するために神経インターフェース部分252に局所的に生成され得る(例えば、光エネルギー源214は、光刺激要素212と一体であることができ、これにより、光伝送器が必要でなくなる)。例えば、光刺激デバイス210は、埋め込み可能基板250上に支持された1つ以上のレーザ、マイクロLED、または他の適切な光エネルギー源を含み得る。
【0058】
図4Aに示される実施形態では、光刺激要素212及び電気刺激要素222は、離散的に配置されている。しかしながら、代替的な実施形態では、光構成要素及び電気構成要素は、少なくとも部分的に組み合わされ得る。例えば、電気刺激要素222と全体的または部分的に一体化された光刺激デバイス210が提供され得る。例えば、図4Bに示される実施形態を参照すると、神経インターフェース部分252は、埋め込まれたマイクロLEDの形態の一体型光刺激デバイス210を有する電極222の形態である複数の電気刺激要素を含む。別の例として、図示されていないが、光刺激要素は、光ファイバ(または光ファイバ束)の端部によって提供されることができ、電気刺激要素は、光ファイバまたは光ファイバ束の導電性外部コーティングによって提供されることができる。
【0059】
図示した実施形態は、電気刺激要素及び光刺激要素の1次元の線形アレイを示しているが、上述の実施形態のいずれにおいても、アレイ(複数可)は2次元または3次元であることができる。
【0060】
本開示の文脈において「遺伝子改変された」という用語は、新しい核酸(すなわち、細胞に対して外因性の核酸)の細胞への導入後に細胞に誘導される永続的または一過性の遺伝子変化を指す。遺伝子変化(「改変」)は、宿主細胞のゲノムに新しい核酸を組み込むことによって、もしくは染色体外要素としての新しい核酸の一時的または安定した維持によって達成することができる。細胞が真核細胞である場合、細胞のゲノムに核酸を導入することにより、永続的な遺伝的変化を達成することができる。本開示の文脈において、導入された核酸は、光感受性タンパク質をコードする。
【0061】
遺伝子改変の様々な適切な方法(複数可)が当技術分野で知られている。例えば、本明細書に開示される光感受性タンパク質をコードする発現ベクターは、定位的注入(例えば、Davidsonetal.,Nat.Genet.,1993,3:219-223;及びAlisky&Davidson、Hum,GeneTher.,2000,11:2315-2329を参照のこと)または蛍光透視法などの当技術分野で知られている脳神経外科技術を使用して、針、カテーテル、または関連デバイスを用いて中枢または末梢神経系のニューロンに直接送達されることができる。遺伝子改変の他の適切な方法には、ウイルス感染、トランスフェクション、抱合、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、パーティクルガン法、及びリン酸カルシウム沈殿が含まれる。一例では、遺伝子改変されたニューロンは、レポータ遺伝子または選択可能なマーカを使用して同定されることができる。別の例では、遺伝子改変されたニューロンは、本明細書に開示される光感受性タンパク質のそれらの発現に基づいて同定されることができる。例えば、光感受性タンパク質をコードする核酸のレベルは、PCRなどのルーチンの増幅ベースの検出方法を使用して測定することができる。他の例では、光感受性タンパク質レベルは、免疫組織化学またはELISAベースのアッセイを介して評価することができる。
【0062】
本明細書に開示されるニューロンを遺伝子改変するために、様々な発現ベクターを使用することができる。「発現ベクター」という用語は、本開示の文脈において、宿主細胞における核酸の発現を促進することができる遺伝子構築物を指すために使用される。発現ベクターは、単離されたポリヌクレオチド、例えば「裸のDNA」の形態で存在することができるか、またはウイルスキャプシド及び/またはエンベロープ、脂質、またはポリマーなどの宿主細胞への送達を促す1つ以上の薬剤を含むことができる。したがって、本開示によって含有される発現ベクターの例には、裸のDNA、ファージ、ウイルス、脂質ベースのナノ粒子などのナノ粒子、プラスミド、線状DNA、コスミド、エピソーム、(例えば、US2004/0214329記載されているような)ミニサークルDNA、及びバクテリアが含まれるが、これらに限定されない。一般に、発現ベクターは、ニューロン宿主細胞を形質転換し、光感受性タンパク質をコードする核酸の発現をもたらすことができる。発現ベクターの選択は、例えば、宿主、ベクターの免疫原性、光感受性タンパク質産生の所望の持続時間などのような様々な要因に依存することになる。一例では、発現ベクターはウイルスベクターである。いくつかの例では、発現ベクターは、特定の神経細胞型における光感受性タンパク質の発現を指示する。したがって、いくつかの例では、発現ベクターは、細胞型特異的プロモータを含む。例えば、発現ベクターは、らせん神経節ニューロン細胞特異的プロモータを含むことができる。
【0063】
神経組織はニューロンを含み、神経組織を構成する1つ以上のニューロンは、光感受性タンパク質を発現するように遺伝子改変され得る。したがって、ニューロンの個体または集団(複数可)は、本開示の方法を介して刺激され得る。本明細書に開示される方法を介して刺激されるニューロンは、それらが光感受性タンパク質を発現する限り、特に限定されない。例示的なニューロンには、中枢神経系または末梢神経系のニューロンが含まれる。例えば、本明細書に開示される方法を介して刺激することができるニューロンには、感覚ニューロン、運動ニューロン、介在ニューロン、及び脳内のニューロンが含まれる。一例では、本明細書に開示される方法を介して刺激されるニューロンは、感覚ニューロンである。別の例では、ニューロンは運動ニューロンである。別の例では、ニューロンは介在ニューロンである。別の例では、ニューロンは脳内のニューロンである。別の例では、ニューロンはらせん神経節ニューロンである。別の例では、ニューロンは網膜ニューロンである。
【0064】
本開示に含まれる光感受性タンパク質は、それらが本明細書に開示される方法を使用して刺激され得る限り、特に限定されない。一例では、適切なタンパク質は、遺伝子改変された神経細胞の原形質膜に配置された光応答性チャネルまたはポンプタンパク質である。例えば、光感受性タンパク質(例えば、オプシン)は、少なくとも1つの遺伝子改変ニューロンにおいて光活性化イオン輸送チャネルとして作用し得る。一例では、光感受性タンパク質は、光感受性オプシンであり得る。光感受性オプシンの例には、光によってニューロンに過分極を誘発するオプシン、及び光によってニューロンに脱分極を誘発するオプシンが含まれる。オプシンの例を以下の表1に示す。
【表1】
【0065】
一例では、光感受性タンパク質は、感光性塩化物ポンプである。例えば、タンパク質は、光感受性塩化物ポンプのハロロドプシンファミリーの1つ以上のメンバーであり得る。一例では、光感受性塩化物ポンプタンパク質は、Natronomonaspharaonisに由来する。別の例では、光感受性塩化物ポンプタンパク質は、Halobacteriumsalinarumに由来する。別の例では、光感受性タンパク質は、光感受性プロトンポンプである。一例では、光感受性プロトンポンプタンパク質はGuillardiathetaに由来する。別の例では、光感受性タンパク質は、光感受性カチオンチャネルである。一例では、光感受性カチオンチャネルタンパク質は、Chlamydomonasreinhardtiiに由来する。一例では、陽イオンチャネルタンパク質は、ニューロンが本明細書に開示される方法を介して刺激されるときに、遺伝子改変されたニューロンにおいて脱分極電流を媒介することができる。一例では、光感受性タンパク質はチャネルロドプシン-2(ChR2)である。別の例では、光感受性タンパク質はChR2/H134である(ChR2(H134R)は位置H134において単一の点突然変異を実行する)。NCBIアクセッション番号AF461397を参照されたい。別の例では、光感受性タンパク質はドナリエラサリナに由来する。例えば、光感受性タンパク質はDChRであり得る。
【0066】
実施例1
解離したらせん神経節ニューロン(SGN)の培養物が、SGNでChR2*H134Rを発現する生後3~5日目のトランスジェニックマウスのオスとメスから調製された。
【0067】
各ニューロンに対して、発火閾値(活動電位(AP)が提示された刺激の少なくとも半分に対して誘発されたパワーレベル)は、3ミリ秒の電気パルス(176±13pA)と10ミリ秒の光刺激(空気中の光ファイバの先端で測定された10.3±3.4mW)に対して別々に決定された。APは、瞬間的な変化率が変化率の閾値を超えた膜電圧の急激なスパイクとして規定された。閾値パワーは100%の刺激レベルとして規定され、下回るか、または上回るパワーレベルはそれぞれ「閾値下」及び「閾値上」と表記された。
【0068】
3つの連続するパルスから構成される刺激プロトコルが印加され、つまり、個々のパワーレベルが閾値下レベルに設定された組み合わせられた光と電気(O+E)、電気のみ(E)及び光のみ(O)が印加された。図5Aは、刺激プロトコルに対する典型的な細胞応答を示しており、O+EパルスはAPを誘発するが、その一方で別個のEパルス及びOパルスは、誘発しなかった。
【0069】
図5Bは、共刺激中にAPを誘発した刺激レベルのいくつかの組み合わせを示しており、共刺激APが、主要な刺激として電気または光の刺激のいずれかで誘発され得ることを示している。いくつかの組み合わせについて、2つの刺激の合計は、例えば、40%が電気で40%が光であるような、100%未満であった。
【0070】
図5C図5D及び図5Eは、2つの刺激間の様々な遅延時間での、及び異なるパワーレベルでのO+E共刺激を示している。表示されたパワーレベルは、図5Cでは、40%が光、40%が電気、図5Dでは45%が光、80%が電気、図5Eでは、65%が光、70%が電気になっている。影付き領域は、光刺激の持続時間を示している。光刺激の開始に対する電気刺激の開始のタイミングは変化し、電気が光に5ミリ秒先行している一番上のラインで開始している。後続の各トレースでは、電気刺激の印加の開始は、光刺激の印加の開始に比べてさらに遅れている。電気刺激が光刺激に先行する場合、脱分極の2つの段階が明らかであり(鋭い電気の脱分極とより緩やかな光の脱分極)、APは誘発されていない。電気「トリガー」パルスが発生する場合、膜が光ベースによって十分に脱分極されると、APが誘発されている。これらの図は、共刺激効果の時間依存性を示しており、ほとんどのAPが、光刺激期間の後半に、または光刺激の完了後に発生するようになっている。
【0071】
ChR2を発現していない野生型細胞では、最大出力の光パルスは膜の脱分極を誘発せず、90%もの電気刺激とともに提示された場合もAPを誘発できなかった(n=4の細胞、データは示さず)。これらの結果は、膜内のChR2/H134の存在が共刺激APを誘発するための要件であり、光遺伝学的及び電圧感受性イオンチャネルの同時活性化が、組み合わせた閾値下刺激によってAPを誘発するために必要であることを示している。
【0072】
4つの刺激モードの特性を図6Aで比較する。4つのモードは、O、E、O+E、及びE+Eである(光刺激周期は電気ランプに置き換えられている)。図6Aは、これらの刺激モードのそれぞれの重要特性を示しており、APの振幅及び持続時間、ならびにAPがピーク振幅値の36.8%に減衰する時間として与えられる時間オフ定数τoffを含んでいる。光の場合、n=21の細胞、電気の場合、n=11の細胞、全電気の場合、n=7の細胞、及び共刺激の場合、n=7の細胞となっている。
【0073】
APの平均振幅は、すべての刺激方法(一元配置分散分析(one-way ANOVA)、p<0.01)に対して有意に異なっており、最大振幅を有する共刺激スパイク(105.6±0.6mV、n=7の細胞)、次に電気刺激(100.2±1.4mV、n=11の細胞)、そして光刺激(87.1±1.5mV、n=21の細胞)がそれに続いている。0mVでの平均スパイク持続時間も有意に異なっている(一元配置分散分析、p<0.01)。共刺激AP(0.87±0.01ミリ秒、n=7の細胞)は、電気的に誘発されたAP(1.29±0.02ミリ秒、n=11の細胞、TukeyHSDp=0.001)及び光学的に誘発されたAP(1.19±0.04ミリ秒、n=21の細胞、TukeyHSD、p=0.001)よりも著しく短い持続時間であった。
【0074】
「オフ」時定数τoffは、共刺激と電気的に誘発されたAPに対して(共刺激1.22±0.06ミリ秒、電気刺激1.36±0.03ミリ秒、TukeyHSD、p=0.16)で有意な差はなかったが、一方で、光学的に誘発されたAPのダイナミクスは大幅に遅くなった(1.63±0.03ミリ秒、TukeyHSD、p=0.001)。この類似する共刺激及び電気だけの刺激のオフ時定数は、共刺激APが主に電気トリガーパルスによって駆動されることを示唆している。
【0075】
図6Bでは、電気(E)、光(O)、及び光+電気(O+E)のAPの活動電位を比較した。明るい影の領域は光刺激を示し、一方で暗い影の領域は電気刺激を示している。見て分かるように、O及びO+EのAPについて、膜は光刺激の停止後に数十ミリ秒の間わずかに脱分極したままであり、APに続いて約40ミリ秒のゆっくりとした再分極が明らかである。この動的な挙動は、閾値下光学応答に続く典型的な再分極に対応する。
【0076】
共刺激APを誘発するために必要とされる刺激の最適なタイミングを判定するために、電気刺激の開始を光刺激に対して変化させた。初めに、電気刺激の開始は、光刺激の開始に3ミリ秒先行した。電気刺激は、次いで光刺激の開始より最大30ミリ秒遅れるまで、後続の各プレゼンテーションで2ミリ秒移動した。一連の遅延刺激が共刺激効果の時間依存性を示すために図6Cに重ね合わされて示されている。光パルスは、APトレースの上のバーで示されている。APは、光刺激の開始後に電気刺激が発生したときに発火する可能性が高くなっている。
【0077】
図6Dは、光パルスに対する電気パルスの遅延に基づいてAPを誘発するための共刺激の確率を示している。ここで考慮されるすべてのパワーレベルは、電気刺激が光刺激の開始より遅れるすべての遅延にわたって共刺激閾値を超過している。光刺激の持続時間は、影付きの領域で示されている。共刺激APを生成することが示されている刺激レベルの場合、電気刺激が光刺激の開始から3ミリ秒後に提示されると、パルスあたり0.5スパイクの閾値発火確率が達成される。電気刺激の開始が光の開始より10ミリ秒遅れると、発火確率は1に近づき、これは、光刺激が停止するポイントでもあるが、最大電圧変化の前である。この例では、発火確率は、光刺激の停止後、ゆっくりと減衰する前に、一定期間、例えば、約15ミリ秒間、比較的高いままであることが観察された。閾値下の光刺激に起因する膜電位の平均変化は灰色で重ね合わされて示されており、発火確率との強い正の相関性(ピアソン相関係数ρ=0.85、p<0.001)を有している。膜電位の変化率は、遅延の全範囲にわたって発火確率とは、ほとんど相関していない(ピアソン相関係数ρ=0.11、p=0.66)が、光刺激の期間中、膜電位の瞬間的な変化率は、発火確率に強く正に相関している(ピアソン相関係数ρ=0.94、p<0.01)。このことは発火確率が、光学的に媒介された膜脱分極とその変化率の両方に関連していることを示している。従属変数としてV及び
【数1】
を使用した多重線形重回帰は、遅延の全範囲にわたって強い相関をもたらした。
【数2】
【0078】
閾値下の光刺激及び電気刺激の時定数が、図6Eで確認でき、閾値上刺激と比較されている。予想通り、細胞は閾値上刺激と比較すると、閾値下刺激に対して有意に異なって応答した。ダイナミクス開始は、閾値下及び閾値上の応答で同様の大きさの程度であるが、再分極は、閾値下の脱分極に比較するとAP後の方が大幅に速い。光刺激の場合、APのダイナミクスは、閾値下の応答と閾値上の応答との間では有意差はなかった(閾値下の場合はτon=11.7±1.6ミリ秒、閾値上の場合はτon=10.6±0.4ミリ秒、両側t検定、p=0.44)。これらの比較的長い時定数は、10ミリ秒の光パルスによって誘発される遅い脱分極に関連している可能性が高い。オフダイナミクスは、APが発生する点で著しく高速になる(閾値下の場合はτoff=24.0±0.8ミリ秒、閾値上の場合はτoff=1.63±0.03ミリ秒、p<0.001)。
【0079】
電気刺激の場合、τonは、閾値上の応答(3.9±0.1ミリ秒、両側t検定、p<0.001)と比較して、閾値下の応答(2.0±0.2ミリ秒)で有意に短かった。この意外な結果は、選択されたパルスパラメータに関連している可能性が高く、電圧閾値が3ミリ秒の電気パルスの終わり近くでのみ到達することを確実にしている。細胞の再分極は、閾値下(1.0±0.3ミリ秒、両側t検定、p<0.001)と比較して、閾値上(1.36±0.03ミリ秒)の方が有意に速かった。
【0080】
光脱分極と発火確率の間の強い相関関係、及びEのAPとO+EのAPとの間の特性の類似性は、光遺伝学的共刺激の間に、電圧感受性イオンチャネルとオプシンが「相加的」に組み合わされて共刺激APを誘発することを示唆している。この同じ関係性が単に膜の脱分極によって存在するかどうかを調べるために、2つの別々の電気刺激の組み合わせが提示された(「全電気」共刺激、またはE+Eとして示される)。このテストでは、10ミリ秒の光パルスを、閾値下の光刺激による平均的膜変化に近い振幅と時間経過を有する20ミリ秒の電気ランプに置き換えた。
【0081】
3ミリ秒の電気トリガーパルスと電気ランプとの間の時間遅延の増加を伴う全電気(E+E)刺激からの典型的な細胞応答を示す電圧トレースを図7Aに示す。影付き領域は、電気ランプの持続時間を示している。いくつかの特性は、図6Cの共刺激APと共有されており、2つのピーク(1つはランプのもの、もう1つは3ミリ秒トリガーパルスのもの)及び、細胞膜が十分に脱分極した後に誘発されたAPの存在が含まれている。O+E刺激によるものと同様に、APは電気ランプの後半にある可能性が高くなる。
【0082】
図7Bは、全電気共刺激の刺激に対する時間遅延の関数としての発火確率(刺激パルスあたりのAP)を示す。これには、20ミリ秒の電気ランプのために膜電位変化が重ね合わせられている。電気ランプの持続時間は、影付き領域で示されている。光刺激と同様に、ピーク発火確率は10ミリ秒後に達成され、ランプの持続時間中は高いままになっている。光刺激とは異なり、電気ランプ刺激が停止すると、発火確率は、閾値下の電気刺激に対する比較的遅いτoff=10.0±0.3ミリ秒と整合しない方法で急速に低下する。全電気共刺激の発火確率は、膜電圧と弱い正の相関性(ピアソン相関係数ρ=0.44、p=0.051)を有するが、しかしながら、膜電位の瞬間的な一次導関数との相関性は、ランプの間により正の結果(ρ=0.55、p=0.01)をもたらす。刺激中の期間のみを考慮した場合、dV/dt>0(ρ=0.66、p=0.02)に対応する相関性がより強い。
【0083】
共刺激APは、電気のみのAPと比較してNaの不活性化を低減した
多くの細胞の発火確率は、刺激の直前の膜電位の変化率に依存することが知られている。図7Cを参照すると、この例で調査されたSGNについて、AP生成における膜脱分極の変化率の影響を変化する勾配電流ランプ(n=6セル)の印加を通じて調査した。初めに、ランプはAPが生成されるまで調整されていたが、その後ランプの勾配が(同じピーク電流で)減少したため、APは最終的になくなった。この効果は通常、より遅い脱分極の間に増加したNa不活性化の効果に起因している。
【0084】
光刺激は、Naイオンチャネルを直接活性化しないことから、Naの不活性化を抑えて膜脱分極を可能にすることができる。このことをテストするために、300ミリ秒のコンディショニングパルス(-20mVまたは-80mVのいずれか)の後に200ミリ秒のテストパルス(-80mV~+10mVの範囲)が続いた。最大誘発電流と電圧の関係を、テストパルスの直前に50ミリ秒の光パルスがある場合とない場合で評価した。図7Dを参照すると、-80mVの調整パルスについて、INaに類似した内向きの過渡電流が-50mVを超えるテストパルスに対して誘発された。-20mVのコンディショニングパルスの場合、過渡電流は、初めは内向きであったが、-20mV以上のテストパルスの後に大部分が外向きになった。コンディショニングパルス中に光刺激を含めても、-80mVまたは-20mVのコンディショニングパルスの過渡電流の振幅を有意に変化させず、このことは、光パルスがNaの不活性化を増加させなかったことを示唆している(両面コルモゴロフ-スミルノフ;-80mVにおいて、スコア=0.22、p=0.96であり、-20mVにおいて、スコア=0.11、p=1.0である)。
【0085】
Naの不活性化の程度を調査する別の方法は、スパイクのアップストローク中の平均dV/dtを測定することであり、これは、dV/dtが微分閾値を超えたときからピークVまで測定される。図7Eに示すように、O+EとE+Eの共刺激の平均dV/dtの間には有意差があった(O+E=75.3±1.8mV/ミリ秒、E+E=46.9±0.8mV/ミリ秒、両側t検定p<0.001、図7E)。この結果は、O+E共刺激中の光脱分極と比較すると、電気ランプ中のNaチャネルのより高い不活性化と一致している。O+E共刺激からの平均導関数は、電気のみの刺激(両側t検定、p=0.33)と有意差はなかったが、光のみの刺激(87.16±1.38mV/ミリ秒、p<0.001)よりも有意に低く、光学的に誘発されたAP中のNaチャネルへの依存度の低下と一致している。これらの結果は、過度なNa不活性化を伴わずに、長期間にわたって膜脱分極を介して細胞の興奮性を高めるために、光遺伝学的共刺激が使用され得ることを示している。
【0086】
ここで図8A図8Eを参照すると、スパイク率を増加させるための光遺伝学的共刺激の有効性を調べるために、パルス列が10Hz、20Hz、33Hz、及び50Hzで提示された。(単一パルス閾値パワーの0%~140%の間で変化する)閾値下及び閾値上の光と電気刺激の組み合わせがテストされた。一貫性を保つために、単一パルスプロトコル(10ミリ秒の光及び3ミリ秒の電気)と同一パルス長を使用し、電気刺激は、光刺激の開始後3ミリ秒の遅延(図6Dの0.5の発火確率に対応)に固定された。
【0087】
10Hzと20Hzでの組み合わせた光と電気の列に対する典型的な細胞応答を図8A及び図8Bにそれぞれ示す。これらの例では、光パワーは、電気パワーが左から右へのパネルに示されているように増加する間、一定に保たれた。電気パワーが増加するにつれて、発火したAPの数は増加した。共刺激応答は、刺激に位相ロックされた(すべての実験ケースで1に近いベクトル強度)。図8Cに示すように、パルス列の後続のパルスに適合の証拠があった。適合率(列の最後のスパイクから最初のスパイクまでの振幅として規定される)は、10Hz(0.94±0.00、n=10の細胞)での1近くから50Hz(n=10の細胞)での0.69±0.01へ低下した。50Hzでの共刺激(0.73±0.02、n=5の細胞)について、電気のみの刺激(0.77±0.01、n=5の細胞)と比較して、適合はわずかに高かったが、有意差はなかった(両側t検定、p=0.49)。
【0088】
様々な刺激モードで発火率0.5を達成するために必要とされる電気刺激レベルを図8Dに示す。所与の光刺激レベルに対して、APを誘発するために必要とされる電気刺激は周波数とともに増加した。意外にも、閾値下及び閾値上の光共刺激に対して電気刺激は類似しており、両方の場合において、電気のみの刺激と比較して減少した(n=12の細胞)。これは、10ミリ秒の程度であるτonよりも短い3ミリ秒の遅延時間に関連している可能性が高い(図6Eを参照)。すべての周波数において、共刺激発火確率は電気のみ及び光のみの発火確率を超過している。
【0089】
図8Eは、パルス周波数(n=12の細胞)によってグループ化された、電気パワーを増加させるための平均発火確率を比較している。黒点は閾値上の光パワーを示し、灰色の点は閾値下の光パワーを示し、白点は光刺激がないことを示す。所与の光パワーレベルで生成されたAPの数は、電気パワーの増加とともに増加した。すべての周波数で、共刺激(閾値下及び閾値上の光刺激のいずれかを伴う)は、電気のみの刺激(p<0.05、二標本コルモゴロフ-スミルノフ検定)と比較してより高い発火確率となるが、一方でモダリティの発火確率は、この細胞型のインビトロ刺激限界に近い周波数で収束したが、閾値下及び閾値上の光刺激は有意な差はなかった(p>0.05)。
【0090】
それ自体での光刺激の場合、10Hzのパルス列は0.5に近い発火確率を達成した。共刺激技法を使用することで、全電気刺激と比較してより低い電流を維持する一方で、光刺激のみを使用する場合よりも少なくとも3倍高速で、最大33Hzで0.5の発火確率でパルス列を駆動することが可能であった。
【0091】
論考
光遺伝学に基づいた埋め込みは、補綴デバイスの性能を改善するための有望な手段である。それらは、組織内の電気的活性化の広がりのためにチャネル間のクロストークの影響を受けやすい人工内耳にとって興味深いものである。光刺激は、電気刺激よりも大きなパワー要件を有しており、バッテリー駆動デバイスでの用途が制限される。さらに、ほとんどのチャネルロドプシン変異体は、人工内耳の電極あたり1秒あたり250~4,000パルス以上の範囲となり得るデバイスで通常使用されるパルスレートと比較して、より遅い時間的ダイナミクスを有している。高速スパイクチャネルロドプシン変異体を生成するために重要な作業が行われているが、これらの高速オプシンを補完する他の手法が有益となり得る。
【0092】
この例は、閾値下の光遺伝学的刺激を閾値下の電気刺激と組み合わせることで、蝸牛神経節ニューロン内で共刺激APを誘発し、スタンドアロンの光刺激と比較してパルス列発火確率を高めることができることを実証している。この手法は、オプシン自体の大幅な再操作を必要とせずに、既存の操作されたオプシン及び光学ベースのプローブの性能と用途を向上させるために使用できる可能性がある。
【0093】
本発明の例で検討されているChR2/H134オプシンは、野生型ChR2と比較して反応速度が遅い高光電流バリアントである。インビトロで光だけの刺激でトリガーされたパルス列は、以前は様々なパワーレベルで、5Hzから最大100Hzまでの周波数で駆動されており、一方で、最大70Hzのインビボでの発火率が報告されている。一般に、光学的に誘発されたAPの発火確率は、オプシンのオフ時定数によって制限されており、これは、ChR2/H134の場合は約18ミリ秒である。光刺激のみの場合、10Hzのパルス列では発火確率は0.5近くであることが分かった。これは以前の結果で報告された範囲の低い側にあるが、選択された刺激パラメータによって制約されている可能性が高く、より短く、より高いパワーパルスは、光遺伝学的共刺激にさらなる恩恵をもたらす可能性がある。実際、以前は、インビトロで電気のみの刺激によって誘発されたAPでより高い周波数が達成されており、SGNは、0.3ミリ秒、1.5nAパルスを使用して最大66Hzで0.5を上回る発火確率を維持している。最大1kHzの発火率は、以前にインビボで報告されているが、これらはインビトロの調製では再現されていない。
【0094】
共刺激発火確率とNa不活性化の関係
本発明の例では、共刺激の刺激の発火確率は、膜電位の変化と、光刺激中の膜電位の瞬間的な変化率の両方に関連していることが実証された。この二重の依存関係は、ダイナミック電圧閾値の以前のインビボでの観察と一致している。つまり、AP生成の閾値電圧は、膜電位の変化率が低下するにつれて増加し、このことは、発火確率とdV/dtの間に正の相関関係があることを意味する。この応答は、Naチャネルの同期された活性化と非活性化の結果である。通常、Naの不活性化は活性化よりもゆっくりと発生するが、脱分極が十分に遅い場合、同じ時間スケール内で不活性化が発生することがある。この同期の結果として、ゆっくりとした脱分極に続いて、APを生成するために利用可能なNaチャネルのプールは、速い脱分極の後と比較して低くなり、したがって細胞の興奮性が低下する。チャネルが最初に開状態になっていない場合でも、Naの不活性化が発生する可能性があることも十分に確立されている。この閉状態の不活性化は、適度に脱分極した膜電位で発生し、開状態の不活性化とともに、ゆっくりとした脱分極後の興奮性の低下にさらに寄与し得る。
【0095】
遅い脱分極中のナトリウムチャネルダイナミクスは、閾値下の光学的脱分極が長いため、本発明の例で説明するO+E共刺激にとって興味深い。興味深いことに、O+E共刺激中の発火確率のロングテール(図6Dの光刺激の開始後30ミリ秒までに生成されたAP)は、同期された活性化と非活性化の観点と矛盾するように見える。電気のみと比較してE+E共刺激で明らかな有意に低いdV/dtとは対照的に(図7E)、O+EのAP中の膜電位誘導体は高いままであり、Na不活性化が光学的脱分極の長期間にわたって有意に増加しなかったことを示唆している。この意外な結果は、開状態と閉状態の不活性化プロセスを分離することで説明できる。E+Eの共刺激中、Naチャネルは細胞を脱分極させるために使用され(開状態の不活性化をもたらす)、脱分極が遅いため、かなりの数のイオンチャネルがこの状態になる。O+Eの共刺激の場合、脱分極は主にチャネルロドプシンイオンチャネルを介して行われ、このことが、発生する開状態の不活性化の量を低減し、細胞がより興奮しやすい状態にする。
【0096】
赤外線神経刺激との比較
電気刺激は、2ミリ秒の光及び電気刺激を使用した研究で1875nmの光による赤外線神経刺激(INS)と組み合わせて以前に印加されており、光パルスと電気パルスの間には0~2.5ミリ秒の遅延がある。INSは、熱駆動プロセスであることが知られており、主に組織内の温度変化率に依存する。以前のモデリングでは、放射強度と組織内の温度上昇との対数関係を示しており、このことは、INS共刺激に必要な光エネルギーと電気エネルギーとの対数関係を裏付けている。この対数応答の結果は、INSの光パワーが70%を下回ると、共刺激閾値に到達するために指数関数的に増加する電気パワーが必要になることである。
【0097】
INSは、温度の急激な変化を使用して神経活動を調節し、対照的に、光遺伝学的刺激は、オプシンが光子を吸収すると、イオン伝導度の直接変化によって駆動される。これは、INSとは明らかに異なるメカニズムである。光遺伝学的共刺激手法は、光遺伝学の空間的利点を維持するのに役立ち得ると同時に、高電力消費やニューロンの速い制御などの、光だけに基づいた埋め込み可能デバイスの実際的な問題の一部を軽減する。
【0098】
比較的低い光パワー及び電気パワーでAPを誘発する能力は、光遺伝学的共刺激を使用した光刺激レベルに対する感度が低いことを示唆しているため、この技法は赤外線共刺激と比較してエネルギー効率が良い可能性が高い。両方の場合の光刺激の効果は、興奮性を高める期間を形成するためのものであった。INSは熱を介したプロセスであるため、興奮可能な期間の持続時間は、光パワーレベルを上げてより大きな温度上昇を生成することによって制御できた。しかしながら、過剰な熱は、細胞損傷やINSを介した阻害につながる可能性があることが認識されている。光遺伝学的共刺激の場合、脱分極の形状は、放射強度とパルスの持続時間に起因する。この例では、以前のINS研究と比較して、遅延が増加した、より長いパルスを利用している。さらに、オプシンのチャネル動態により、光源がオフになった後にピーク電流が発生することがよくあるが、イオンチャネルの閉鎖ダイナミクスが遅いということは、刺激の停止後も向上した興奮性がかなりの期間持続することを意味している。さらに、より短く、より高いパワーの光パルスは、細胞がピークの興奮性に到達するのにかかる時間を、ここで報告されている10ミリ秒の期間から低減することがある。向上した興奮性の程度と開始を制御する能力は、埋め込み可能なデバイスの適応制御スキームのための追加のツールを提供することができる。
【0099】
光放射照度と電力消費
光遺伝学的刺激のみ(2μJ/mm)を使用して蝸牛でAPを達成するための典型的なエネルギー要件は、電気刺激(0.2μJ/mm)の場合よりも10倍高いことが以前に示されている。さらに、10~30%の程度の光効率を有する外部光源を備えた多くの光デバイスは、光ニューラルインターフェイスは電気デバイスよりも数桁多くの電力を必要とし得ることを示唆している。現在開示の方法のように、活性化の負担を光の興奮から電気の興奮にシフトすることは、APを誘発するために必要とされるパワーを低減することができる。正確な省電力は、選択されたパルスパラメータ及び刺激インターフェースの特性に依存することが理解されることになる。
【0100】
電力要件を低減することに加えて、現在開示されている方法の共刺激技法はまた、組織の青色光曝露も低減し得る。光刺激における青色光の毒性は、新たな懸念事項である一方で、いくつかの研究では、光遺伝学的イオンチャネルのウイルス送達が数か月にわたって安全であることが示されているが、他の研究では、網膜における青色光曝露とインビトロでの神経細胞死との関連性が示されている。網膜では、過剰な青色光がオールトランスレチナール(ATR)(哺乳類で自然に発現し、チャネルロドプシンの操作メカニズムの主要な部分)を改変し、その後の細胞シグナル伝達の中断を引き起こすことがあることが知られている。青色光の毒性の増加は、より高いパワーレベルに関連しており、それによって、放射曝露を減らすか、赤方偏移オプシンのより迅速な制御を可能にすることで、損傷の可能性を低減することができる。
【0101】
「f-クリムゾン」や「クロノス」などの操作されたオプシンに関する最近の研究努力は、ニューロンがより高いスパイク周波数で光学的に駆動されることを可能にするためにτonとτoffを低減することに焦点を合わせている。光遺伝学的共刺激手法が特定のオプシンにリンクされる可能性は低いことから、光遺伝学的共刺激でより速いスパイクを駆動する能力により、研究者が将来のオプシン変異体を設計する際に純粋な開閉ダイナミクスよりも生体適合性に焦点を当てることを可能にし得る。
【0102】
実施例2
電気生理学的記録は、単一細胞におけるスパイク形状と刺激後の促進期間を考察するためにChR2-H134Rトランスジェニックマウスからの培養スパイラル神経節ニューロンで行われた。図9を参照すると、1ミリ秒の光パルス910及び300マイクロ秒の単相電気パルス920を細胞に当てた。閾値刺激は、活動電位が提示された刺激の少なくとも半分で誘発されたパワーレベルとして規定された。図9のパネルAに示すように、個別に提示された単一パルスの場合、閾値下の刺激に対する細胞膜の応答に非常に大きな差があった。平均すると、閾値下の電気刺激に対する膜の応答921は、膜電位の急激な増加と、それに続く電気刺激の停止直後の急速な減衰であった。対照的に、閾値下の光刺激に対する膜の応答911は、膜電位の緩やかな上昇であり、光刺激の停止後も継続し、30~50ミリ秒にわたる膜電位の減衰がそれに続いた。
【0103】
図9のパネルBを参照すると、ハイブリッド刺激(電気刺激を閾値の30~80%、かつ、光刺激を単一パルス閾値の80~100%)が、その後可変遅延で提示された。電気パルスが光パルスに先行する場合(t<0)、発火確率は10%未満から概ね40%に増加した。電気パルスが光パルスの1ミリ秒前に提示された場合(t=-1ミリ秒)、発火確率の概ね40%の増加が観察された。電気パルスが光パルスより遅れた場合(t>0)、電気パルスが光刺激の開始から9~13ミリ秒後に印加されたときに、発火確率は最大(83%)に増加した。光刺激の開始から30ミリ秒以上後に電気パルスが印加された場合、発火確率は50%を下回った。しかしながら、活動電位の促進(この例では30~40%の発火確率として規定)は、光刺激の開始後60ミリ秒まで持続した。
【0104】
実施例3
図10Aを参照すると、パルブアルブミンプロモータを介してらせん神経節ニューロン(SGN)でChR2-H134Rを発現するトランスジェニックマウスは、有毛細胞を介した聴覚応答の可能性を排除するために、蝸牛正円窓から10%のネオマイシン溶液300を注入することによって急性聴覚障害を発症した。白金線320、330が取り付けられた光ファイバを蝸牛400の正円窓410に1~2mm挿入した。光、電気、またはハイブリッドの刺激は、光ファイバ320及び白金線330を使用して送達された。刺激の間、32チャネル記録アレイ340を使用して、聴覚中脳500の下丘510から神経記録が行われた。
【0105】
ChR2-H134Rの発現は、ChR2抗体を介して、らせん神経節ニューロン細胞体、末梢線維、及び中枢線維におけるEYFP(強化黄色蛍光タンパク質)の局在を反映して組織学的に確認された。最も強い蛍光は、らせん神経節ニューロンの膜に局在していた。さらに、ChR2-H134Rは、成体トランスジェニックマウスの内有毛細胞に存在し、外有毛細胞にはより弱く存在していた。この発現パターンは、基底回転から頂端回転まで、蝸牛全体で明確であった。
【0106】
マウスは、ネオマイシンで急性聴覚障害を発症し、有毛細胞を介した聴覚応答の可能性を低減した。ネオマイシンへの急性曝露後、8、16kHz、及び32kHzのトーンピップ閾値が、聴覚障害前の閾値と比較して有意に上昇した中高周波の聴覚障害があった(p<0.05二元配置反復測定分散分析(ANOVA))。急性ネオマイシン聴覚障害処置の有効性は、内有毛細胞と外有毛細胞の完全またはほぼ完全な喪失を示したマウスのサブセットで組織学的に検証された(n=2)。
【0107】
図10Bは、ネオマイシン曝露前後のトランスジェニックマウストーンピップABR閾値を示している。ネオマイシンへの急性曝露は、8、16kHz、及び32kHzのトーンピップ閾値が、聴覚障害前の閾値と比較して有意に上昇した中高周波の聴覚障害になった(p<0.05二元配置反復測定分散分析(ANOVA))。急性ネオマイシン聴覚障害処置の有効性は、内有毛細胞と外有毛細胞の完全またはほぼ完全な喪失を示したマウスのサブセットで組織学的に検証された(n=2)。
【0108】
閾値
閾値パワーレベルは、少なくとも0.3の正規化されたスパイクレート(つまり、自発発火率と最大発火率との間で30%の増加)を誘発するために必要とされる最低刺激パワーレベルとして、それぞれ光パルスと電気パルスに対して規定された。
【0109】
ハイブリッドの電気(250マイクロ秒)と光(1ミリ秒)のパルスが、次いで閾値の上下で様々なレベルで(電気パルスが光パルスに対して遅延して)提示された。電気パルスの開始は、t=750マイクロ秒の場合、光パルスと電気パルスの両方が同時に終了するように、光パルスの開始に対して遅延tだけ遅らせた。テストされた遅延は、0マイクロ秒(つまり、遅延なし)、750マイクロ秒、1750マイクロ秒、2750マイクロ秒、及び3750マイクロ秒であった。
【0110】
図11は、神経応答がいつ検出されたかを示すラスタープロットである。パルスタイミングは、プロットの左側にバー(光刺激)と四角い点(電気刺激)において灰色で示されている。個別に印加された閾値下の光刺激及び閾値下の電気刺激は、神経反応を引き起こさなかったことが分かる。対照的に、これらの刺激を組み合わせて印加すると、下丘で活動が誘発された。この例では、ハイブリッドパルスが光パルスの開始と電気パルスの開始の間に遅延を伴って提示された場合に、神経応答が観察可能であった。この例では、電気刺激は閾値の64%であり、光刺激は閾値の70%であった。
【0111】
図12は、光パルスの開始と電気パルスの開始との間の様々な遅延での9つの蝸牛のハイブリッド刺激に対して神経応答が誘発された電気刺激閾値のパーセンテージを示す。この例では、電気パルスの開始が光パルスの開始と一致した場合(遅延なし)、電気閾値への影響は最小限であった。光パルスの開始後に電気パルスの開始が遅れた場合、光パワーと電気パワーの両方の閾値下レベルで神経応答が検出された。この効果は、電気パルスの開始が、光パルスの停止後に発生する最大3.75ミリ秒の遅延で観察された。
【0112】
エントレインメント率
蝸牛に提示されたハイブリッド刺激または光刺激のバーストに対する下丘の応答を調査して、光刺激のみと比較したハイブリッド刺激の時間的性能を評価した。刺激のバーストは、それぞれ300ミリ秒の持続時間で、様々なパルスレートで提示されました。
【0113】
図13は、光刺激のみとハイブリッド刺激によって達成されたエントレインメントを比較するラスタープロットを示している。40ppsでは、両方の刺激に強いエントレインメントがあるが、80ppsでは、ハイブリッド刺激のみがエントレインメントを示した。テストされた最大速度(240pps)では、光のみの刺激の最初の開始後に記録された応答はほとんどなかった。対照的に、240ppsでは、ハイブリッド刺激は、300ミリ秒の刺激期間全体にわたって応答を誘発することができた。
【0114】
刺激をより正確に定量化するために、最大追従率(MFR)が見出された(つまり、トリガーの80%で応答に少なくとも1つのスパイクがあった(80%の「追従率」))。高パルスレートでウィンドウが重なることを回避するために、刺激後6~10ミリ秒の固定ウィンドウを使用してスパイクをカウントした。図14は、閾値上光刺激のみ、及びハイブリッド刺激(閾値の40%から閾値への電気レベルの増加を伴った閾値上光刺激)の追従率の例を示している。この例では、電流が増加すると、追従率が増加し、最大追従速度が51Hzから122Hzにシフトした。
【0115】
図15は、光刺激のみを使用した場合と比較した、ハイブリッド刺激を使用した場合の追従率の平均増加を示している(n=4)。ハイブリッド刺激では、111Hzの最大追従速度が達成されたのに対して、光のみの場合わずか46Hzであった。
【0116】
活性化の広がり
図16を参照すると、正常な聴覚のChR2-H134マウスの下丘(IC)の応答の画像が、音響刺激に応答して生成された。電気、光及びハイブリッドの刺激に対する急性聴覚障害のChR2-H134Rトランスジェニックマウスでの下丘応答の同様の画像が生成された。光刺激パルスは1ミリ秒であり、電気パルスは250マイクロ秒であり、ハイブリッド刺激はt=750マイクロ秒を使用したことから、光パルスと電気パルスは共に終了した。ハイブリッド刺激の場合、光刺激は閾値下のものであり、電気刺激は閾値下から閾値上までの範囲のものであった。
【0117】
図16Aは、正常な聴覚のChR2-H134Rトランスジェニックマウスでの12kHzの純音音響刺激に対するIC応答画像及び空間調整曲線(STC)を示している。図16B~Dは、急性聴覚障害マウスにおける基底回転の電気刺激、ハイブリッド刺激、または光刺激のIC応答画像とSTCを示しており、ここでは、光ファイバと白金線が正円窓膜を通って2mm挿入されている。各画像では、発火率は色調で示され、黒は自発的な神経発火率を示し、白は最大神経発火率を示している。すべての場合において、STCの幅は、刺激強度が閾値を超えると増加した。ChR2-H134Rを発現しなかったマウスでは光学応答は検出されなかった。
【0118】
活性化の広がりは、蝸牛の基部において、音響、光、電気、及びハイブリッドの刺激について比較された。すべてのモダリティは、より腹側の記録電極で蝸牛の基部の活性化を示す最低の刺激閾値をもたらした。電気及び光の応答は、音響の応答よりも空間的に広かった。
【0119】
興奮の幅は、刺激の線形性の違いを制御するために、閾値を上回る様々な識別指数レベル(d’:信号検出理論から導出された感度または識別可能性の尺度)の強度で評価された。STCの幅は、閾値を上回るd’=1及びd’=2のレベルで取得された。図17は、ハイブリッド刺激と比較して、光及び電気の刺激のSTC幅が有意に広いことを示している。光刺激と電気刺激との間には有意差はなかった。
【0120】
当業者は、本開示の広い一般的な範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に対して多数の変形及び/または修正を行うことができることを理解されたい。したがって、本実施形態は、すべての点において例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【符号の説明】
【0121】
200 装置
210 光刺激デバイス
212 光刺激要素
214 光エネルギー源
216 光伝送器
220 電気刺激デバイス
222 電気刺激要素
224 電気エネルギー源
226 導体
230 システムコントローラ
240 記録デバイス
250 基板
252 神経インターフェース部分
300 ネオマイシン溶液
320 光ファイバ
330 白金線
340 チャネル記録アレイ
400 蝸牛
410 正円窓
500 聴覚中脳
510 下丘
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】