(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】熱履歴の影響を受けにくい無アルカリガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20220831BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20220831BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20220831BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220831BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C3/085
C03C3/091
H05B33/14 A
H05B33/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577336
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(85)【翻訳文提出日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 US2020036904
(87)【国際公開番号】W WO2020263565
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】グロス ティモシー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル アレクサンドラ レイ チン カオ アンドリューズ
【テーマコード(参考)】
3K107
4G062
【Fターム(参考)】
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4G062MM27
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4G062NN33
4G062NN40
(57)【要約】
65.0モル%以上のSiO
2を含み、モル%のRO/モル%のAl
2O
3が0.7未満(ここで、ROは二価酸化物MgO、CaO、SrO、BaO、又はこれらの組合せを含み得る)であり、ROが14モル%以下であり、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きdE/dT
fの絶対値が|0.022|Gpa/℃以下である、無アルカリガラス。第1の端点は、アニール点温度の仮想温度におけるヤング率であり、第2の端点は、歪点温度の仮想温度におけるヤング率であり、傾きは、仮想温度の変化1℃あたりのヤング率(GPa)の変化である。ROは、アルカリ土類金属酸化物の総量である。ガラス物品も開示される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約65.0モル%以上のSiO
2と、
約14.0モル%以下のROと
を含む、無アルカリガラスであって、
ROは、MgO、CaO、SrO、又はBaOのうちの少なくとも1つを含み、
RO/Al
2O
3は、約0.70以下であり、
第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きdE/dT
fの絶対値は|0.022|Gpa/℃以下であり、
前記第1の端点は、前記無アルカリガラスのアニール点温度の仮想温度におけるヤング率であり、前記第2の端点は、前記無アルカリガラスの歪点温度の仮想温度におけるヤング率である、
無アルカリガラス。
【請求項2】
約5.0モル%以下のB
2O
3を更に含む、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項3】
RO+B
2O
3は、約15.0モル%以下である、請求項2に記載の無アルカリガラス。
【請求項4】
dE/dT
fは、約|0.017|Gpa/℃以下である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項5】
ROは、Sr、Ca又はBaOのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項6】
ROは、約9.0モル%~約12.0モル%の範囲である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項7】
SiO
2は、約70.0モル%以上である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項8】
約65.0モル%以上のSiO
2と、
約5.0モル%以下のB
2O
3と、
約14.0モル%以下のROと
を含む、無アルカリガラスであって、
ROは、MgO、CaO、SrO、又はBaOのうちの少なくとも1つを含み、
RO/Al
2O
3は、約0.70以下であり、
RO+B
2O
3は、約15モル%以下であり、
第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きdE/dT
fの絶対値は|0.022|Gpa/℃以下であり、
前記第1の端点は、前記無アルカリガラスのアニール点温度の仮想温度におけるヤング率であり、前記第2の端点は、前記無アルカリガラスの歪点温度の仮想温度におけるヤング率である、
無アルカリガラス。
【請求項9】
SiO
2は、約70.0モル%以上である、請求項8に記載の無アルカリガラス。
【請求項10】
ROは、Sr又はBaOのうちの少なくとも1つを含む、請求項8に記載の無アルカリガラス。
【請求項11】
前記傾きの前記絶対値は、|0.020|Gpa/℃以下である、請求項8に記載の無アルカリガラス。
【請求項12】
前記傾きの前記絶対値は、|0.017|Gpa/℃以下である、請求項8に記載の無アルカリガラス。
【請求項13】
Al
2O
3を、約15.0モル%~約18.0モル%の量で更に含む、請求項8に記載の無アルカリガラス。
【請求項14】
B
2O
3を、約5.0モル%以下の量で更に含む、請求項8に記載の無アルカリガラス。
【請求項15】
ガラス物品であって、
第1のガラス基板を含み、前記第1のガラス基板は、その上に堆積された電気的機能素子を含み、前記第1のガラス基板は、
約65.0モル%以上のSiO
2と、
約14.0モル%以下のROと
を含む、無アルカリガラスを更に含み、
ROは、MgO、CaO、SrO、又はBaOのうちの少なくとも1つを含み、
RO/Al
2O
3は、約0.70以下であり、
第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きdE/dT
fの絶対値は、|0.022|Gpa/℃以下であり、
前記第1の端点は、前記無アルカリガラスのアニール点温度の仮想温度におけるヤング率であり、前記第2の端点は、前記無アルカリガラスの歪点温度の仮想温度におけるヤング率である、
ガラス物品。
【請求項16】
前記電気的機能素子は、エレクトロルミネセント素子を含む、請求項15に記載のガラス物品。
【請求項17】
前記エレクトロルミネセント素子は、発光ダイオードを含む、請求項15に記載のガラス物品。
【請求項18】
前記エレクトロルミネセント素子は、有機発光ダイオードを含む、請求項15に記載のガラス物品。
【請求項19】
前記電気的機能素子は、光電素子を含む、請求項15に記載のガラス物品。
【請求項20】
前記無アルカリガラスは、約5.0モル%以下のB
2O
3を更に含む、請求項15に記載のガラス物品。
【請求項21】
RO+B
2O
3は、約15モル%以下である、請求項20に記載のガラス物品。
【請求項22】
ROは、Sr、Ca又はBaOのうちの少なくとも1つを含む、請求項15に記載のガラス物品。
【請求項23】
SiO
2は、約70.0モル%以上である、請求項15に記載のガラス物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年6月26日に出願された米国仮特許出願第62/866,962号による優先権を主張するものであり、その内容に依拠すると共に、その全体が本明細書に記載されているかのように参照により援用される。
【0002】
本明細書は、概して、電子ディスプレイデバイスへの使用に適したガラス組成物に関する。より具体的には、本明細書は、熱履歴の影響を受けにくく、かつ電子デバイス用ガラス基板(例えば、ディスプレイ基板として)に成形可能な無アルカリガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
ポータブル電子デバイス、例えば、スマートフォン、タブレット、及びウェアラブルデバイス(例えば、時計及びフィットネストラッカー)は、小型化及び複雑化を続けている。従って、ディスプレイパネル製造用基板の形成に使用されるガラスに対する要求は、より厳しくなりつつある。例えば、消費者の需要を満たすべくポータブル電子デバイスがより小型化及び薄型化すると、これらのポータブル電子デバイスに使用されるガラス基板も、より小型化及び薄型化し、その結果、ガラス基板の寸法のばらつきに対する許容誤差が小さくなる。同様に、例えば、強度、密度、及び弾性等のディスプレイガラス基板の特性のばらつきに対する許容誤差も減少する。残念ながら、ガラス基板として使用されるガラスの寸法及び特性は、ガラスが冷却されたとき及び後続の熱処理の間に変化することがあり、これにより、冷却又は仕上げ前のポータブル電子デバイスの仕様は満たすものの、冷却又は後続処理後のポータブル電子デバイスの仕様は満たさないガラスが生じ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、ガラスの熱履歴にかかわらず、その寸法及び特性を維持するガラスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の実施形態によると、約65.0モル%以上のSiO2と、約14.0モル%以下のROとを含む無アルカリガラスであって、ROがMgO、CaO、SrO、又はBaOのうちの少なくとも1つを含み、RO/Al2O3が約0.70以下であり、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きdE/dTfの絶対値が|0.022|Gpa/℃以下であり、ここで第1の端点は、無アルカリガラスのアニール点温度の仮想温度におけるヤング率であり、第2の端点は、無アルカリガラスの歪点温度の仮想温度におけるヤング率である、無アルカリガラスが開示される。
無アルカリガラスは、約5.0モル%以下のB2O3を更に含んでもよい。
いくつかの実施形態において、RO+B2O3は、約15.0モル%以下である。
種々の実施形態において、無アルカリガラスのdE/dTfは、約|0.017|Gpa/℃以下であり得る。
いくつかの実施形態において、ROは、SrO、CaO又はBaOのうちの少なくとも1つを含み得る。
いくつかの実施形態において、ROは、約9.0モル%~約12.0モル%の範囲であり得る。
いくつかの実施形態において、SiO2は、約70.0モル%以上であり得る。
他の実施形態において、約65.0モル%以上のSiO2と、約5.0モル%以下のB2O3と、約14.0モル%以下のROとを含む、無アルカリガラスであって、ROが、MgO、CaO、SrO、BaO、又はZnOのうちの少なくとも1つを含む、無アルカリガラスが記載される。比RO/Al2O3は、約0.70以下であり得る。RO+B2O3の合計は、約15モル%以下であり得る。様々な実施形態において、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きdE/dTfの絶対値は|0.022|Gpa/℃以下であり、ここで第1の端点は無アルカリガラスのアニール点温度の仮想温度におけるヤング率であり、第2の端点は無アルカリガラスの歪点温度の仮想温度におけるヤング率である。
無アルカリガラスのいくつかの実施形態において、SiO2は、約70.0モル%以上であり得る。
いくつかの実施形態において、ROは、SrO又はBaOのうちの少なくとも1つを含み得る。
いくつかの実施形態において、傾きdE/dTfの絶対値は|0.020|Gpa/℃以下であり得る。
傾きdE/dTfの絶対値が、|0.017|Gpa/℃以下であり得る、請求項8に記載の無アルカリガラス。
無アルカリガラスは、Al2O3を約15.0モル%~約18.0モル%の量で含み得る。
いくつかの実施形態において、無アルカリガラスは、B2O3を約5.0モル%以下の量で含み得る。
【0006】
更に他の実施形態において、第1のガラス基板を含むガラス物品が開示され、当該第1のガラス基板は、その上に堆積された電気的機能素子を備え、第1のガラス基板は更に、約65.0モル%以上のSiO2と、約14.0モル%以下のROとを含む無アルカリガラスであって、ROは、MgO、CaO、SrO、BaO、又はZnOのうちの少なくとも1つを含み、RO/Al2O3は約0.70以下であり、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きdE/dTfの絶対値は|0.022|Gpa/℃以下であり、ここで第1の端点は、無アルカリガラスのアニール点温度の仮想温度におけるヤング率であり、第2の端点は、無アルカリガラスの歪点温度の仮想温度におけるヤング率である、無アルカリガラスを含む。
いくつかの実施形態において、電気的機能素子は、エレクトロルミネセント素子を含み得る。エレクトロルミネセント素子は、例えば、有機発光ダイオード等の発光ダイオードを含み得る。
他の実施形態において、電気的機能素子は、光電素子を含み得る。
無アルカリガラスは、約5.0モル%以下のB2O3を更に含んでもよい。
いくつかの実施形態において、RO+B2O3は約15モル%以下であり得る。
いくつかの実施形態において、ROは、Sr、Ca又はBaOのうちの少なくとも1つを含み得る。
【0007】
いくつかの実施形態において、SiO2は、約70.0モル%以上であり得る。
更なる特徴及び利点は、以下の詳細な説明に記載され、その一部は、明細書から当業者に自明であり、又は以下の詳細な説明、特許請求の範囲、及び添付の図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することにより認識されるであろう。
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明のどちらも、様々な実施形態について説明しており、特許請求される対象の性質及び特徴を理解するための概要又は枠組みを提供することを意図していると理解されたい。添付の図面は、様々な実施形態の更なる理解をもたらすために含まれており、本明細書に組み込まれて本明細書の一部を構成する。図面は、本明細書に記載の様々な実施形態を図示しており、その説明とともに、特許請求される対象の原理及び動作を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】様々な量のシリカを有するガラスの仮想温度に応じたヤング率(ギガパスカル(GPa))の変化を示したプロットである。
【
図2】CaO、SrO及びBaOの3種の二価酸化物を含むガラスの仮想温度に応じたヤング率(ギガパスカル)の変化を示し、更にそれぞれのヤング率の変化の傾きを示したプロットである。
【
図3】それぞれCaO、SrO及びBaOを含み、ROの量がAl
2O
3の量よりも多い、3種のガラスのアニール点及び歪点の仮想温度に応じたヤング率の変化を示したプロットである。
【
図4】それぞれCaO、SrO及びBaOを含み、ROの量がAl
2O
3の量よりも少ない、3種のガラスのアニール点及び歪点の仮想温度に応じたヤング率の変化を示したプロットである。
【
図5】本開示による無アルカリガラスを含む例示的な電子(ディスプレイ)デバイスの側面断面図である。
【
図6】ソーダ石灰ガラス(SLS)、Eagle XGガラス、及び本開示の無アルカリガラス(実施例1)の3種のガラスについて、ヤング率の傾きを比較したプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
これより、本開示の実施形態を詳細に参照し、その例を添付図面に示す。可能な場合は常に、同じ部品又は同様の部品を指すために、図面全体にわたって同じ参照番号が使用される。しかし、本開示は、多くの様々な形態で実施されてもよく、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。
本明細書で、範囲は、「約」(おおよそ)1つの特定の値から、及び/又は「約」(おおよそ)別の特定の値まで、として表記され得る。このような範囲が表記されている場合、別の実施形態は、その1つの特定の値から他の特定の値までを含む。同様に、値が概数として表記されている場合、前に「約」を使用することで、その特定の値が別の実施形態を形成することが理解されるであろう。範囲のそれぞれの端点は、他の端点との関係において、及び他の端点とは無関係に、のいずれでも重要であり、かつ表示された範囲は特記のない限り端点を含むことは、更に理解されるであろう。
本明細書で使用されるとき、単数形「1つの」、「ある」、「その」(「a」、「an」及び「the」)は、別段の明確な指示がない限り、複数の言及を包含する。従って、例えば、「1つの」成分への言及は、別段の明確な指示がない限り、2つ以上のそのような成分を有する態様を含む。
「例示的」、「例」という語、又はこれらの様々な形態は、本明細書で、例、事例、又は実例として機能することを意味するものとして用いられている。「例示的」として、又は「例」として本明細書に記載されるいずれの態様又は設計も、他の態様又は設計よりも好ましい又は有利なものと解釈されるべきではない。更に、例は、単に明瞭さ及び理解を目的として提供されており、いかなる形でも本開示の対象物又は関連部分を限定又は制限することを意味するものではない。様々な範囲の無数の追加例又は代替例を示すことができたが、簡略のため省略されていることは理解され得る。
本明細書で使用されるとき、「含む/備える」(comprising)、及び「含む」(including)、並びにこれらの変形は、特記のない限り、同義語であり、非限定的(open-ended)であると解釈されるべきである。
【0010】
物理特性及び化学的耐久性が良好な非アルカリ含有アルミノケイ酸塩ガラスは、ディスプレイ用の電子基板ガラスとしての使用に関して注目されてきた。しかしながら、ガラスの様々な特性は、ガラス製造に使用される製造法に応じて変化し得る。例えば、研究開発の間に少量で作製されたガラスの特性は、生産規模で作製された同じガラスの特性とは大きく異なる可能性がある。同様に、生産規模で使用される製造法も大きく変動する可能性があり、これにより、類似の組成を有するガラスの特性が、ガラスの製造に使用される製造法に応じて変動する可能性がある。理論に縛られるものではないが、ガラスが経験する冷却速度(これはガラスの最終的な特性及び構造に影響を与え得る)は、るつぼ溶融物から、研究規模の溶融装置、生産規模のタンクまで、製造方法に応じて変化し得ると考えられる。従って、生産規模のガラスの特性を理論的に決定するために小規模生産中にガラスが受ける熱履歴を再現するには、かなりの努力が必要となり得る。
【0011】
ガラスの構造及び特性は、ガラスの冷却速度に応じて変化しやすいだけでなく、ガラス基材上への薄膜トランジスタ堆積等の高温後処理ステップによる影響を受ける可能性もある。高温処理を受けるガラスの圧縮(収縮)は、後熱処理ステップの結果に影響し得る。ディスプレイ用途のガラス基材として使用されるガラスの場合、電子回路パターンとガラス基材が不一致になることがあり、プロセスの調整及び修正が必要となり得るが、これは困難で時間がかかる可能性があり、問題を完全には解決しない場合がある。よって、初期ガラス形成中に特性を維持することであるか、又は後処理ステップ中に特性の変化をなくすことであるかにかかわらず、熱履歴の影響を受けにくい構造及び特性を有するガラスに対する必要性が実証されている。本明細書に開示されている熱履歴の影響を受けにくい無アルカリガラスは、そのような安定な構造及び特性を提供できる。本明細書で使用するとき、無アルカリは、アルカリ金属、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、及びフランシウム(Fr)を合計で約0.07モル%以下含むガラスを指す。
【0012】
かかる無アルカリガラスの物理的特性をここで論じる。これらの物理特性は、実施例を参照してより詳細に論じられるように、ガラス組成物の構成要素量を変更することによって達成できる。
仮想温度Tfは、ガラスの構造及び特性の特徴付けに有効なパラメータである。溶融物からの冷却速度は、仮想温度に影響を与える。「正常な」ガラスの場合、冷却速度が速いほど、仮想温度が高い。本明細書では正常なガラスのみを開示するが、異常なガラスでは、反対の傾向が観察される。「正常」として特徴付けされるガラスの場合、ヤング率、せん断弾性係数、屈折率、及び密度等の特性は、仮想温度の上昇とともに低下する。仮想温度に伴うこれらの特性の変化率は、ガラス組成によって異なる。ガラスの仮想温度は、ガラス転移範囲内の所定の温度にガラスを保持することによって設定できる。仮想温度を再設定するのに必要な最短時間は、30×((熱処理温度でのガラスの粘度)/せん断弾性係数)で概算できる。新しい仮想温度への完全な緩和を確実にするために、ガラスを、30×((熱処理温度でのガラスの粘度)/せん断弾性係数)をはるかに超える時間で保持してもよい。
仮想温度が低下すると、特定のガラス(例えば、ソーダ石灰ケイ酸塩)は、密度、硬度、弾性率、及び屈折率の増加を示す。これらのガラスでは、ガラスの構造は、高速冷却(高い仮想温度)した際は、溶融物の開放構造に類似しているが、低速冷却(低い仮想温度)した際は、ガラスが圧縮されて、固体に近い、より稠密な構造になる。他のガラス(例えば、SiO2のガラス)は、反対の特性傾向を示し、密度、硬度、弾性率、及び屈折率は、仮想温度の低下に伴って低下する。これらの様々なガラスによって示される相反する傾向を使用して、熱履歴の影響を受けにくい(本明細書では「仮想温度に依存しない」とも称される)特性を有するガラス組成物を定義できる。
仮想温度に依存しないガラスは、従来の技術を使用して溶融させることが可能であり、熱履歴に応じて変化しない(又は、ほとんど変化しない)特性を有する。熱的に安定した特性を有するガラスは、高温に曝されても収縮しないため、高温の後処理を必要とする製品にとって価値がある。
【0013】
ガラスのその熱履歴に対する感度は、アニール点温度(本明細書で「第1の端点」と称される)に設定された仮想温度のガラスのヤング率と、歪点温度(本明細書で「第2の端点」と称される)に設定された仮想温度のガラスのヤング率とを比較することによって測定され得る。熱履歴に対する感度が低いガラスは、第1の端点でのヤング率が、第2の端点でのヤング率に近い。なぜなら、これは、ヤング率がガラスの熱履歴によって著しい影響を受けないことを示すからである。従って、ガラス組成物のその熱履歴に対する感度は、第1の端点と第2の端点との間の線の傾きによって決定され得る。そのような実施形態において、傾きは、仮想温度の変化1℃あたりのヤング率E(ギガパスカル、GPa)の変化として定義される。特に、そのような線の傾きdE/dTfが0.0に近づくほど、ガラスは、その熱履歴に対して感度が低くなる。傾きの値は絶対値として表すことができる。第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きが正であるか負であるかは関係ない。例えば、ガラスのヤング率が、第1の端点及び第2の端点で測定され、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きが0.02である場合、ガラスのその熱履歴に対する感度は、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きdE/dTfが-0.02であるガラスの感度と概ね同じとなる。従って、仮想温度に応じたヤング率の傾きdE/dTfを、絶対値として表してもよく、縦線括弧をつけて、例えば、|0.02|と表記してもよい。例えば、傾きdE/dTfが「|0.020|以下」と表示された場合、この表現は傾きの絶対値を指し、-0.020~0.020の範囲の傾きが含まれる。縦線括弧が存在しない場合、与えられた値は絶対値ではない。
ヤング率は、ガラスのその熱履歴に対する感度を決定するために、第1の端点及び第2の端点として使用される。なぜなら、ヤング率は、例えば以下に記載される方法を使用することにより、良好な精度で測定できるからである。実施形態において、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きの絶対値は、|0.022|Gpa/℃以下、例えば、|0.019|Gpa/℃以下、|0.018|Gpa/℃以下、|0.017|Gpa/℃以下、|0.016|Gpa/℃以下、|0.015|Gpa/℃以下、|0.014|Gpa/℃以下、|0.013|Gpa/℃以下、|0.012|Gpa/℃以下、|0.011|Gpa/℃以下、|0.010|Gpa/℃以下、|0.009|Gpa/℃以下、|0.008|Gpa/℃以下、|0.007|Gpa/℃以下、|0.006|Gpa/℃以下、|0.005|Gpa/℃以下、|0.004|Gpa/℃以下、|0.003|Gpa/℃以下、|0.002|Gpa/℃以下、又は|0.001|Gpa/℃以下である。いくつかの実施形態において、dE/dTfは、約|0.005|Gpa/℃~約|0.022|Gpa/℃の範囲、例えば約|0.008|Gpa/℃~約|0.022|Gpa/℃の範囲、例えば約|0.008|Gpa/℃~約|0.017|Gpa/℃の範囲、又は約|0.008|Gpa/℃~約|0.015|Gpa/℃の範囲であり得る。上記の値それぞれについて、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きの絶対値は、|0.000|以上である。
【0014】
特定の理論に束縛されるものではないが、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きの絶対値が|0.022|Gpa/℃以下のガラスは特に有用であると考えられ、それは、このようなガラスの体積は、ガラスの製造方法及び製造に用いた条件に関係なく、変化しないか、ごくわずかしか変化しないからである。これも特定の理論に縛られるものではないが、多量のシリカと、場合によっては他の四面体単位とを含むガラスは、その熱履歴の影響を受けにくい可能性が高く、第1の端点と第2の端点との間に延びる線の傾きの絶対値が|0.022|Gpa/℃以下になりやすいと考えられる。
【0015】
更に、アルミナと、1つ以上の本明細書でROとして表される二価酸化物(例えば、MgO、CaO、SrO、及び/又はBaO)とを含有する無アルカリガラスについて、Al2O3の量がROの量を超えたときにdE/dTfの低下が得られることが見出された。実際には、低電界強度の二価酸化物の存在も、ヤング率の傾きの低下と相関関係があること、更には、低電界強度の二価酸化物は、高電界強度の二価酸化物よりも低いヤング率の傾きをもたらし得ることが見出された。これらの要件を満たすガラス組成物を以下に記載する。
様々な実施形態による無アルカリガラスは、仮想温度に関係なく、約2.40g/cm3~約2.80g/cm3の範囲、例えば約2.25g/cm3~約2.80g/cm3の範囲、約2.50g/cm3~約2.80g/cm3の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)の密度を有し得る。本開示で挙げられる密度の値は、ASTM C693-93(2013)の浮力法により測定される値を指す。
実施形態による無アルカリガラスは、仮想温度に関係なく、約74.0GPa~約92.0GPaの範囲、例えば約75.0GPa~約91.0GPaの範囲、約76.0GPa~約90.0GPaの範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)のヤング率を有し得る。本開示に挙げられるヤング率の値は、「Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-metallic Parts」という表題のASTM E2001-13に記載の一般的なタイプの共鳴超音波分光法により測定される値を指す。
【0016】
1つ以上の実施形態によると、本明細書に開示される無アルカリガラスは、仮想温度に関係なく、約0.215~約0.233以下の範囲、例えば約0.217~約0.231の範囲、約0.219~約0.230の範囲、又は約0.220~約0.229の範囲(範囲の端点を含む)(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)のポアソン比を有し得る。本開示に挙げられるポアソン比の値は、「Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-metallic Parts」という表題のASTM E2001-13に記載の一般的なタイプの共鳴超音波分光法により測定される値を指す。
【0017】
無アルカリガラスは、1つ以上の実施形態において、仮想温度に関係なく、約718℃~約837℃の範囲、例えば約720℃~約825℃の範囲、約740℃~約810℃の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)の歪温度(歪点)を有し得る。歪点はASTM C598-93(2013)のビーム曲げ粘度法(BBV)を使用して決定した。
実施形態において、無アルカリガラスは、仮想温度に関係なく、約765℃~約894℃の範囲、及び約775℃~約880℃の範囲、約780℃~約875℃の範囲、又は約785℃~約860℃の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)のアニール温度(アニール点)を有し得る。アニール点は、ASTM C598-93(2013)のビーム曲げ粘度法を使用して決定した。
無アルカリガラスは、実施形態によると、仮想温度に関係なく、約1015℃~約1155℃の範囲、例えば約1015℃~約1151℃の範囲、約1015℃~約1136℃の範囲、又は約1015℃~約1130℃の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)の軟化温度(軟化点)を有し得る。軟化点は、ASTM C1351M-96(2012)の平行板粘度法(PPV)を使用して決定した。
【0018】
本明細書に記載のガラスの実施形態において、構成要素(例えば、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、SrO等)の濃度は、特記のない限り、酸化物ベースのモルパーセント(モル%)で与えられる。実施形態による熱履歴の影響を受けにくい無アルカリガラスの構成要素については、以下に個別に論じる。様々に記載された範囲の1つの構成要素のいずれかを、様々に記載された範囲の他の成分のいずれかと個別に組み合わせてもよい。
本明細書に開示される熱履歴の影響を受けにくい無アルカリガラスの実施形態において、SiO
2は、最大の構成要素であり、従って、SiO
2は、ガラス組成物から形成されるガラスネットワークの主要構成要素である。更に、
図1に示すように、SiO
2の量が多いほど、アニール点と歪点との間のヤング率の傾き(dE/dT
f)が低くなり得る。
図1は、上から下の順に、以下を含む3種のガラスのデータを示す:60モル%のSiO
2と、20モル%のAl
2O
3と、20モル%のCaO;70モル%のSiO
2と、15モル%のAl
2O
3と、15モル%のCaO;80モル%のSiO
2と、10モル%のAl
2O
3と、10モル%のCaO。
純粋なSiO
2は低いCTEを示し、アルカリを含まない。しかし、純粋なSiO
2は、高い融点を有する。よって、ガラス組成物中のSiO
2の濃度が高過ぎる場合、高濃度のSiO
2によってガラスの溶融がより難しくなり、これが次にガラスの成形性に悪影響を与えることから、ガラスの成形性が低下することがある。実施形態において、ガラスは、概して、SiO
2を、約65.0モル%以上、例えば、約66.0モル%以上、約67.0モル%以上、約68.0モル%以上、約69.0モル%以上、約70.0モル%以上、約71.0モル%以上、又は約72.0モル%以上(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)の量で含む。様々な実施形態において、ガラスは、SiO
2を、約65.0モル%~約76.0モル%、例えば約66.0モル%~約75モル%の範囲、約67.0モル%~約75モル%の範囲、又は約68モル%~約74モル%の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)の量で含み得る。
無アルカリガラスは、Al
2O
3を更に含み得る。SiO
2と同様に、Al
2O
3は、ガラスネットワーク形成剤として機能し得る。Al
2O
3は、ガラス組成物から形成されるガラス溶融物において、その四面体配位により、ガラス組成物の粘度を増加させることができ、そのためAl
2O
3の量が多すぎる場合には、ガラス組成物の成形性を低下し得る。しかしながら、Al
2O
3の濃度が、ガラス組成物におけるSiO
2の濃度に対してバランスが取れている場合、Al
2O
3は、ガラス溶融物の液相温度を低下させることができ、それにより、液相粘度が向上し、ガラス組成物と、特定の成形法、例えばフュージョン成形法との適合性が改善される。実施形態において、ガラスは、Al
2O
3を、約14.0モル%以上、例えば約15.0モル%以上、例えば約14モル%~約18モル%の範囲、例えば約15モル%~約17モル%の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)の量で含み得る。
【0019】
ガラス中の二価酸化物(例えば、MgO、CaO、SrO、及び/又はBaO、アルカリ土類金属を含む)は、まとめて「RO」と呼ばれ、モル%で表される。更に、ROの成分のうち、電界強度が最も低いもの、例えば、CaO、SrO、及びBaOは、電界強度が大きいRO成分、例えば、MgOよりも、ヤング率の傾きdE/dT
fが低くなることが見出された。本明細書で使用するとき、電界強度(F)は、電荷(Z)を二価酸化物カチオンの半径(Rc)+酸素アニオンの半径(Ro)の量の二乗で除算したものとして定義される:
F=Z/(Rc+Ro)
2
ROカチオンについては、Zは+2で固定されており、例えば、周期表の第II族のMgからCa、Sr、Baへと下がる場合のように、Rcが増加すると電界強度は減少する。
図2はこの効果を視覚的に描き、Srをアルカリ土類金属構成要素として含む無アルカリガラスと、Caをアルカリ土類金属構成要素として含む無アルカリガラスとの間のヤング率の変化を、B
2O
3なしの場合とB
2O
3ありの場合の両方について、例証している。データは、CaからSrへ移動した際、B
2O
3なしのガラスとB
2O
3ありのガラスの両方について、半径Rcが増加すると電界強度が減少し、傾きdE/dT
fの絶対値が減少することを示す。しかしながら、このデータは、B
2O
3の存在は傾きに不利益となり得ることから最小限に抑えるべきであるが、ガラスの融解及び精製を低コストにするための粘度管理には、いくらかの量のB
2O
3が必要となり得ることも示す。従って、B
2O
3は約5モル%以下に維持されるべきである。
【0020】
4種のRO構成要素Mg、Ca、Sr及びBaのうち、Baは半径Rcが最も大きく、最も低い電界強度を示す。いくつかの実施形態において、ガラスは、CaO、SrO、BaOのうちの少なくとも1つ、又はこれらの組み合わせを含み得る。実施形態において、ROは、約10モル%以下であり得る。例えば、1つ以上の実施形態において、ガラスは、ROを、約14.0モル%以下、例えば約13.0モル%以下、約12.0モル%以下、11モル%以下の量で含み得る。様々な実施形態において、ROは、約9モル%~約12モル%の範囲、例えば約10モル%~約11モル%の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)であり得る。
更に、Al
2O
3の量がROの量を超えるとdE/dT
fの低下が得られることも見出された。
図3は、異なる3種のガラスについて、アニール点と歪点との間の仮想温度に応じたヤング率の変化を示すプロットであり、各ガラスはCaO、SrO、及びBaOから選択される異なるROを含み、Al
2O
3の量はROの量よりも少ない。より具体的には、
図3のガラスは、65モル%のSiO
2と、15モル%のAl
2O
3と、20モル%のROとを含む。傾斜線が図示され、線の傾きが示されている。RO=CaOの場合、dE/dT
fは|0.031|Gpa/℃であり、RO=SrOの場合、dE/dT
fは|0.029|Gpa/℃であり、RO=BaOの場合、dE/dT
fは|0.033|Gpa/℃である。
図3によると、各事例においてROはAl
2O
3を超え、最大の傾きは、RO=BaOのときの|0.033|であり、実際に最も小さい傾きは|0.029|であった。これと比較して、
図4は、類似の3種のガラスについて、アニール点と歪点との間のdE/dT
fを示すプロットであり、各ガラスは、異なるRO(CaO、SrO、及びBaO)を含み、Al
2O
3の量はROの量よりも多い。より具体的には、ガラスは、65モル%のSiO
2と、20モル%のAl
2O
3と、15モル%のROとを含む。傾斜線が図示され、線の傾きが示されている。RO=CaOの場合、dE/dT
fは|0.029|Gpa/℃であり、RO=SrOの場合、dE/dT
fは|0.023|Gpa/℃であり、RO=BaOの場合、dE/dT
fは|0.015|Gpa/℃である。3つの事例(CaO、SrO、BaO)全てにおいて、Al
2O
3の量がROの量よりも多いガラスは、
図3のガラスと比較してヤング率の傾きが低下し、最も小さい傾きは、BaOを含むガラスの|0.015|であった。様々な実施形態において、RO/Al
2O
3の比(モル%のRO及びAl
2O
3)は、約0.50~約0.7の範囲、例えば約0.6~約0.70の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)であり得る。
様々な実施形態において、RO+B
2O
3(モル%のRO及びB
2O
3)は、約15モル%以下、例えば約9モル%~約15モル%の範囲、約10モル%~約15モル%の範囲、約10モル%~約14モル%の範囲、又は約10モル%~約13モル%の範囲、例えば約10モル%~約12モル%の範囲が可能であり、上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む。
【0021】
実施形態において、無アルカリガラスは、任意で、1種以上の清澄剤を含み得る。いくつかの実施形態において、清澄剤は、例えばSnO2を含み得る。そのような実施形態において、SnO2は、ガラス組成物中に、0.2モル%以下、例えば0.0モル%以上~0.1モル%以下、並びに上記値の間の全範囲及び部分範囲の量で存在し得る。他の実施形態において、SnO2は、無アルカリガラス中に、0.0モル%以上~約0.2モル%、又は約0.1モル%~約0.2モル%の範囲(上記値の間の全ての範囲及び部分範囲を含む)の量で存在し得る。しかし、他の実施形態では、ガラスはSnO2を全く含まない。
実施形態において、ガラスは、ヒ素及び/又はアンチモンのうちの一方又は両方を実質的に含まなくてもよい。他の実施形態において、ガラスは、ヒ素及び/又はアンチモンの一方又は両方を完全に含んでいなくてもよい。ヒ素及びアンチモンは、効率的な清澄剤であり、ガラス中の気泡の除去を補佐することで、ガラス溶融物の精製に歴史的に使用されてきた。しかし、ヒ素及びアンチモンは有毒であり、様々なガラスからヒ素及びアンチモンを排除することは、環境面で有益となり得る。ヒ素及び/又はアンチモンを含まないとは、ヒ素及び/又はアンチモンの量が、約0.05モル%以下であることを意味する。
上記から、本明細書に開示される実施形態による無アルカリガラスは、任意の適切な方法、例えば、スロット成形、フロート成形、圧延プロセス、フュージョン成形法等によって成形されてもよい。
【0022】
ガラス物品は、それが成形される方法によって特徴付けられていてもよい。例えば、ガラス物品が、フロート成形可能であること(すなわち、フロート法により成形される)、ダウンドロー可能であること、及びフュージョン成形可能又はスロットドロー可能であること(すなわち、ダウンドロー法、例えば、フュージョンドロー法又はスロットドロー法により成形される)を特徴とする場合がある。
本明細書に記載のガラス物品のいくつかの実施形態は、ダウンドロー法により成形され得る。ダウンドロー法は、成形中にガラス物品の表面に接触する他の方法と比べて、きれいな状態の表面を有する、均一な厚さの板ガラス物品を製造できる。ガラス物品の平均曲げ強度は、表面の傷の量及びサイズによって制御されることから、成形装置との物理接触が極めて少なかったきれいな状態の表面は、より高い初期強度を有する。更に、ダウンドローガラス物品は、コストのかかる研削及び研磨なしでその最終用途に使用することが可能な、非常に平らで平滑な表面を有すことができる。
ガラス物品のいくつかの実施形態は、フュージョン成形可能(すなわち、フュージョンドロー法を使用して成形可能)として記載されてもよい。フュージョン法では、溶融材料を受け入れるための流路を備える成形体(forming body)が使用される。この流路は、流路の両側に流路の長さに沿って上部に堰を有する。流路が溶融材料で満たされると、溶融した材料が堰からあふれ出る。重力により、溶融材料は、溶融材料の2つの流れとして、成形体の外面を流れ落ちる。成形体のこれらの外面は、下方及び内側に延びて、成形体を覆って底のエッジで合わさる。2つの流動する流れは、この底のエッジ部で合わさって融着し、単一の流動リボンを形成し、これは、十分に冷却すると、所望に応じて個別のガラスシートに切断でき、又はスプールに巻き取ることもできる。フュージョンドロー法は、成形体上を流れる2つの溶融流が一緒に融着することから、得られるガラス物品の外面のどちらも、装置のどの部分にも接触しないという利点がある。従って、フュージョンドローされたガラス物品の表面特性は、接触による影響を受けない。
本明細書に記載のガラス物品のいくつかの実施形態は、スロットドロー法により成形され得る。スロットドロー法は、フュージョンドロー法とは異なる。スロットドロー法では、溶融した原材料が、延伸タンクに供給される。延伸タンクの底部は、スロットの長さを伸ばすノズルを有する開口したスロットを備える。溶融材料は、ノズルを通って流れ、スロットから下向きに連続的なリボンとしてアニーリング領域へと延伸される。スロットドロー法では、リボンの外面は、ノズルの表面と接触する。
【0023】
本明細書に開示されているガラス物品は、別の物品、例えば、ディスプレイを有する物品(又はディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステム等の消費者用電子機器)、建築物、輸送物品(例えば、自動車、電車、航空機、船舶等)、電化製品に組み込むことが可能である。例えば、
図5は、例示的ディスプレイデバイス10の断面図である。当該デバイスは、この場合、第1のガラス基板14と、第1のガラス基板14から間隔を空けた反対側の第2のガラス基板16とを備えるディスプレイパネル12を含むLCDディスプレイデバイスである。第1及び第2のガラス基板14及び16は、各基板の周縁部分を封止材料によって封止されていてもよい。ディスプレイパネル12は、第1のガラス基板14上に堆積された1つ以上のフィルム20(例えば偏光フィルム)を、更に含み得る。液晶材料を、第1のガラス基板14と第2のガラス基板16との間の間隙22に充填してもよい。更に、電気的機能材料が、間隙20内の第2のガラス基板16上に堆積されてもよい。かかる電気的機能材料24は、例えば、液晶材料の偏光状態を制御するように構成された薄膜トランジスタであり得る。
ディスプレイデバイス10は、ディスプレイパネル12の後方(観察者を基準にして)に位置するバックライトユニット26を更に含んでもよく、ここで、光源28からの光は導光板30の端面に入射し、導光板26の主面からディスプレイパネル12に向かう方向に抽出される。反射板32は導光板30の後方に位置し、導光板30の背面側の主面を通って逃げた光を反射して、導光板30の方向に戻し得る。本明細書に開示されるガラスは、例えば、第1又は第2のガラス基板14又は16の一方又は両方を形成するために使用できる。
【0024】
他の実施形態において、ディスプレイデバイスは、エレクトロルミネセント素子を含んでもよく、その場合、発光ダイオード(例えば有機発光ダイオード)等の発光素子が基板(例えば本明細書に開示されるガラスを含むガラス基板)上に堆積され、当該基板がディスプレイパネルの少なくとも一部分を形成する。
更に他の実施形態では、本明細書に開示されるガラスを光起電デバイスの製造に使用でき、その際、電気的機能材料は、銅インジウムガリウムジセレン化物、テルル化カドミウム等の光起電効果を示す半導体材料とすることができる。
【実施例】
【0025】
熱履歴の影響を受けにくい無アルカリガラスの実施形態は、以下の実施例によって更に明白になるであろう。これらの実施例は、上記の実施形態に限定されない。
以下の表1A及び1Bに示した構成要素を含む無アルカリガラスを、従来のガラス成形法により製造した。表1A及び1Bでは、すべての成分はモル%であり、ガラスの様々な特性は、本明細書に開示されている方法によって測定された。表1A及び1Bの各試料により、第1の端点から第2の端点に延びる線の傾き(上に定義され、表1A及び1Bに「傾きdE/dT(GPa/℃)」として記載されている)が|0.022|以下であるガラスが得られた。
【表1A】
【表1B】
【0026】
以下の表2A及び2Bに示した成分を有するガラス組成物を、従来のガラス成形法により製造した。表2A及び2Bでは、すべての成分がモル%であり、ガラス組成物の様々な特性は、本明細書に開示されている方法により測定された。液相温度におけるガラスの粘度は、「Standard Practice for Measuring Viscosity of Glass Above the Softening Point」という表題のASTM C965-96(2012)に準拠して測定される。表2A及び2Bの各試料は、第1の端点から第2の端点に延びる線の傾き(上に定義され、表2A及び2Bに「傾きdE/dT
f(GPa/℃)として記載されている)が|0.022|Gpa/℃超であるガラスが得られた比較例である。
【表2A】
【表2B】
【0027】
表1A、B及び表2A、Bは、アニール点及び歪点での仮想温度に応じた、注型直後のガラス及び熱処理ガラスの組成及び特性の分析結果を示す。アニール点及び歪点は、ASTM C598-93(2013)のビーム曲げ粘度法により測定した。仮想温度を、アニール点及び歪点の温度で最初の注型及びアニールの後にガラスを熱処理することにより固定した。熱処理は、ガラスの構造緩和を起こすのに必要な時間よりもかなり長く行った。最短熱処理時間は、30×熱処理温度でのガラスの粘度/せん断弾性係数であった。
【0028】
表3は、RO-Al
2O
3-SiO
2及びB
2O
3-RO-Al
2O
3-SiO
2ガラスについて、ヤング率対仮想温度の傾きのパーセントでの改善率を示し、イオン半径がより大きいネットワーク改質剤(例えば、Caの代わりにSr)を有するガラスは、ヤング率の傾き対仮想温度がより低いことを実証する。
【表3】
【0029】
表3に示されるように、混合したアルカリ金属酸化物をガラス組成物に使用することによって、dE/dTfの傾きを0.000に近づけることができ、より大きなアルカリ金属酸化物、例えばCaOと比べてSr又はBa、をガラスに含むことによっても、傾きdE/dTfを0.000に近づけることができる。実際には、比較用ガラスである実施例8のガラスは、傾きdE/dTfが|0.022|Gpa/℃を超えるのに対し、実施例1のガラスは、|0.008|Gpa/℃の傾きを有する。
【0030】
表4は、混合アルカリR
2O-Al
2O
3-SiO
2ガラス(実施例1)の、ソーダ石灰(SLS)及びCorning Eagle XG(登録商標)(EXG)ガラスに対する、ヤング率の傾き対仮想温度の改善率を示す。EXGは、約10モル%のRO(8.7モル%のCaO、2.2モル%のMgO、及び0.51モル%のSrO)を含有し、無アルカリガラスである。表4のデータは、3種類のガラスについて、仮想温度に応じたヤング率の変化を描いた
図6のプロットにグラフ表示されている。
図6では、ヤング率の傾きの信頼性を更に高めるため、実施例1及びEagle XGの両方が、アニール点及び歪点からの追加のデータ点を含む。表4に記載のように、データは、本開示による無アルカリガラスでは、アニール点と歪点との間のヤング率の傾きがアルカリ(例えば、SLSの場合はNa)含有及び無アルカリ(Eagle XG)の両方で、他の市販のガラスよりも有意に低くなり得ることを示す。
【表4】
【0031】
本開示に記載の組成成分、関係及び比はすべて、特記のない限り、モル%で記載されている。本開示に開示されている範囲はすべて、範囲が開示される前又は後に明示的に述べられているか否かにかかわらず、幅広く開示されている範囲に包含される全ての範囲及び部分範囲を含む。
特許請求される対象の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の実施形態に様々な修正及び変更を加えることができることは当業者には明らかであろう。従って、本明細書は、そのような修正及び変更が添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内にある限り、本明細書に記載の様々な実施形態の修正及び変更を包含することが意図される。
【国際調査報告】