(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】電力網の安定性を保証するために電力網の制約とトランザクションするための分散型台帳
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20220831BHJP
H02J 3/14 20060101ALI20220831BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20220831BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20220831BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20220831BHJP
【FI】
H02J13/00 311R
H02J13/00 311T
H02J3/14
H02J3/38 110
H02J3/46
G06Q50/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577647
(86)(22)【出願日】2020-06-27
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020068175
(87)【国際公開番号】W WO2020260676
(87)【国際公開日】2020-12-30
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロッハー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ピニョレ,イボンヌ-アンネ
(72)【発明者】
【氏名】オウダロフ,アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】オベアマイアー,ゼバスティアン
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5L049
【Fターム(参考)】
5G064AC06
5G064AC09
5G064CB08
5G064CB12
5G064CB21
5G064DA02
5G066HA15
5G066HA17
5G066HB02
5G066HB06
5G066KA06
5G066KA12
5L049CC06
(57)【要約】
分散型台帳(10)を使用して電力網の安定性を保証する方法であって、この方法は、複数の分散型エネルギーリソースDERからのメトリックを測定するステップを含み、上記メトリックは電力網の安定性に関連し、この方法はさらに、上記メトリック/測定値を分散型台帳(10)に保存するステップと、上記メトリックを分散型台帳からスマートコントラクト(2)に転送するステップと、上記メトリックと、スマートコントラクト(2)に予め保存された予め定められた値との間の任意の偏差を、スマートコントラクトを実行することによって計算するステップと、上記計算ステップの結果を分散型台帳(10)に転送し保存するステップと、上記結果を分散型台帳(10)から複数のDERのうちの対応するDERに転送するステップとを含み、上記対応するDERは、電力網への寄与の量を調整する正または負の値/トークンを受信する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型台帳(10)を使用して電力網の安定性を保証する方法であって、前記方法は、
複数の分散型エネルギーリソースDERからのメトリックを測定するステップを含み、前記メトリックは電力網の安定性に関連し、前記方法はさらに、
前記メトリック/測定値を前記分散型台帳(10)に保存するステップ(a)と、
前記メトリックを前記分散型台帳からスマートコントラクト(2)に転送するステップと、
前記メトリックと、前記スマートコントラクト(2)に予め保存された予め定められた値との間の任意の偏差を、前記スマートコントラクトを実行することによって計算するステップと、
前記計算するステップの結果を前記分散型台帳(10)に転送し保存するステップと、
前記結果を前記分散型台帳(10)から前記複数のDERのうちの対応するDERに転送するステップとを含み、前記対応するDERは、前記電力網への寄与/前記電力網からの消費の量を調整することにより電力網の安定性を保証する正または負の値/トークンを受信する、方法。
【請求項2】
前記メトリックを測定するステップは、各DER自体によって、または各DERに対応付けられた1つもしくは複数の追加センサによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定するステップは、
i)予め定められたスケジュールに従って、
ii)周期的に、および/または
iii)特定のしきい値と比較された前記測定値に応じて、
実行される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定するステップは、後続の前記保存するステップ(a)をトリガする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記分散型台帳(100)の同一コピーが、ピアツーピアネットワーク上の複数のホスト上に提供される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記分散型台帳はブロックチェーン(100)である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記DERは、100メガワット未満、好ましくは50メガワット未満、およびより好ましくは10メガワット未満およびさらには1メガワット未満の容量を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記DERは、複数の発電/寄与および/または貯蔵/消費構成要素を含み、好ましくは、小水力発電、バイオマス発電、バイオガス発電、太陽光発電、風力発電、および地熱発電からなる群のうちの、少なくとも1つの再生可能エネルギー源を使用する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
各DERは、現在のユーティリティの電力網に寄与する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
新たな要件および測定値を前記分散型台帳および/または前記スマートコントラクトまたは新たなスマートコントラクトに保存することにより、新たなDERが追加される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記電力網全体のメトリックを測定するステップをさらに含み、前記メトリックは電力網の安定性に関連する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
1つのメトリックは前記電力網の電圧であり、および/または1つのメトリックは前記電力網の周波数であり、周波数の増加は消費の増加を示し、周波数の減少は消費の増加を示す、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
分散型台帳(10)を用いて電力網の安定性を保証するためのシステムであって、前記システムは、好ましくは請求項1~12のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように構成され、前記システムは、
複数の分散型エネルギーリソースDERからのメトリックを測定するための手段を備え、前記メトリックは電力網の安定性に関連し、前記システムはさらに、
前記メトリック/測定値を前記分散型台帳(10)に保存する(a)ための手段と、
前記メトリックを前記分散型台帳からスマートコントラクト(2)に転送するための手段と、
前記メトリックと、前記スマートコントラクト(2)に予め保存された予め定められた値との間の任意の偏差を、前記スマートコントラクトを実行することによって計算するための計算手段と、
前記計算ステップの結果を前記分散型台帳(10)に転送し保存するための手段と、
前記結果を前記分散型台帳(10)から前記複数のDERのうちの対応するDERに転送するための手段とを備え、前記対応するDERは、前記電力網への寄与/前記電力網からの消費の量を調整することにより電力網の安定性を保証する正または負の値/トークンを受信する、システム。
【請求項14】
請求項13のシステムに方法の請求項1~12のいずれかのステップを実行させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項14のコンピュータプログラムが格納されたコンピュータ読取可能媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、電力網(grid)の安定性を高めるための方法、装置、およびシステムに関する。特に、本発明は、電力網の安定性を保証するために電力網の制約とトランザクションするための分散型台帳を用いることにより、方法およびシステムを提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
特定のどの瞬間においても発電と電力消費とのバランスを取ることにより、システム周波数をできる限りその基準値(たとえば欧州では50Hz、米国では60Hz)の近くに保って電力網の安定性を保証しなければない。発電が消費を上回るとシステム周波数は上昇し、消費が発電を上回るとシステム周波数は低下する。電圧降下または上昇は、特定の範囲(たとえば±5または10%)の中に留めなければならない、というのも、エンドユーザの電気機器は、規格によって定められた特定の電圧および/または周波数範囲に合わせて設計されているからである。
【0003】
従来、エネルギー生産は、ユーティリティによって中央集中化され、厳重に管理されてきた。公共ユーティリティ(通常単にユーティリティ)は、公共サービスのためのインフラストラクチャを管理する(往々にしてそのインフラストラクチャを使用してサービスも提供する)組織である。
【0004】
ユーティリティの伝送システムオペレータは、リアルタイムでシステム周波数を調整する責任者である。そのために、オペレータは、補助サービス市場で一定量のバランス予備力(reserve)を取得する。今日、これらの予備力は、典型的には大型および中型サイズの発電ユニットおよび負荷によって提供される。
【0005】
より一層分散された断続的なエネルギーリソースが取引され電力網に供給されるようになると、電力網の安定性を保証することが主な懸念事項となる。これらの追加のリソースは、典型的にはサイズがはるかに小さいので、システム周波数またはその他の任意の電力網サポートサービスに対するこれらのリソースの実際の寄与を監視することは難しい。監視がなければ、ユーティリティからはわからないが電力網の安定性が危険に晒されているポイントまでユーティリティの動作に影響を及ぼす大きな「シャドウ負荷」が生まれる。ユーティリティは、特定の発電者および/または消費者にその活動を停止するように要求することを、より頻繁に強いられる可能性がある。
【0006】
加えて、現在の集中管理方式は、一段と増している多数のフレキシブルリソースを扱うことができない。たとえば、一方では電動車両(電気自動車、イーバイク(e-bike)、イースクーター(e-scooter))が普及し、他方ではエネルギーを生成する装置(たとえばソーラーPVパネル)および貯蔵する装置(たとえばリチウムイオン電池)が普及していることは、電力網のオペレータが、関与するすべての当事者を効果的にコントロールすることを、不可能ではないにしても困難にする可能性がある。
【0007】
現在、この問題は、小さなユニットに、アグリゲータを介して市場にアクセスさせることによって対処され、これは、通常、分散型エネルギーリソースのプールの規模を過大化することにより、契約済の予備力を供給できないという特定のリスクを低減する。この中間層は、上述の問題のうちのいくつかを軽減することができるが、分散型リソースの数が継続的に増加すると、電力網の安定性の保証は確実ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
概要
本発明の目的は、上述の問題を軽減する方法およびシステムを提供することである。本発明の他の目的は、好ましくは新規のシステムにおいて実現可能な新たな方法を提供することにより、分散型リソースの数が継続して増加する場合でも電力網の安定性を保証することである。特に、当事者がデータをアップロードすることを可能にし、他の当事者がこのデータに対する解決策を提供することを可能にする、新たな方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、独立請求項の特徴によって達成される。本発明のさらに他の好ましい実施形態は、従属請求項において規定される。
【0010】
本発明に従い、現在のユーティリティの周知の中央集中型協調に勝る特定の利点を提供する、非中央集中型協調を提供する。好ましくは、新規の非中央集中型方式は、分散型台帳をスマートコントラクトと組み合わせて使用することにより、多数の分散型リソースが寄与および/または消費のために電力網に接続されている場合でも、電力網の安定性を保証する。本発明の方法は、好ましくは、リソース数の継続的な増加において複雑な適応なしで使用することができる。より具体的には、好ましい実施形態に従うと、分散型台帳は、電力網の安定性を向上させるためのブロックチェーンベースのメカニズムとして実現される。このようなブロックチェーンベースの方式の具体例としての利点を、以下で簡単に要約する。
【0011】
ブロックチェーンは、信頼を分散させ、直接的かつ透明な対話を可能にし、好ましくは、制御フローをサポートし、自動化する。具体的には、電力網の制約が、ブロックチェーン上で実行されるコードの一部であるいわゆるスマートコントラクトにおいて実現されるとき、電力網の安定性を、分散され好ましくは自動化された態様で保証することができる。本発明に従うと、以下の局面が好ましい。
【0012】
第1の局面に従うと、スマートコントラクトは、たとえば、入札および/または双務契約の結果に基づいて設定され、好ましくは、現在のシステムおよび構成要素の状態で電力網の安定性を保証するパラメータで、自動的に更新される。
【0013】
他の局面に従うと、スマートコントラクトは、偏差についてのトークンをスマートコントラクトに直接組み込むことにより、スマートコントラクトにおいて定義されている発電および/または消費を奨励することができる。たとえば、デジタルトークンを、複数の分散型エネルギーリソースのうちの個々のまたは各々に追加/から差し引くことができる。好ましい実施形態に従うと、より多くの数のトークンは、より少ない数のトークンを有するエネルギーリソースよりも優先された取り扱いを提供することができる。
【0014】
本発明のこの方式は、従来技術で行われたいずれのものとも大きく異なる。特に、本発明は、従来技術の中央集中型安定性制御モデルとは明確に異なる、完全に自動化された非中央集中型電力網安定性メカニズムに対するブロックチェーン技術の使用の新たな組み合わせを提供する。そのような非中央集中型メカニズムは、中央集中型モデルによる取り扱いが困難な分散型リソースの予測される成長に対して特に有利である。本発明はまた、以下のさらに他の好ましい利点または利益を提供する。
【0015】
新たな方式を、周知の製品または新たな製品のうちのいくつかにおいて実現することにより、電力網の安定性を保証することができる。実行されるすべてのトランザクションの台帳は、好ましくは公的に入手可能であり、これは、透明性、機会均等および/または説明責任という点で好都合である。好ましくは、分散型台帳(共有台帳または分散型台帳技術またはDLTとも呼ばれる)が使用され、これは、典型的には、複数のサイト、国、または機関に地理的に行き渡る、複製され、共有され、同期されたデジタルデータの合意として知られている。中央アドミニストレータも中央集中型データストレージもない。これは特に、必要な通信ネットワークインフラストラクチャが最小であるという好ましい利点を提供する。たとえば、台帳の記録の署名および暗号化が可能なので、データは、安全でないものを含む任意のネットワークを介して送信することができる。
【0016】
台帳は、好ましくは、インフラストラクチャのいくつかの装置上で利用可能であり、これは信頼性を向上させる、というのも、インフラストラクチャは障害および通信エラーをシームレスにサポートすることができるからである。電力網の安定性は、いずれのオペレータの追加の作業も低減される、または最小限に抑えられる、または不要になるように、自動化された様式で維持される。各トランザクションの履歴は、ユーティリティまたはサービスプロバイダが容易に収集することができ、これがトレーサビリティおよびセキュリティをさらに高める。この方式は、高速実行および自動応答をさらにサポートし、これが電力網の安定性をさらに高める。
【0017】
特に、本発明は、分散型台帳を使用して電力網の安定性を保証する方法に関し、この方法は、以下のステップを含む。複数の分散型エネルギーリソースDERからのメトリックを測定し、上記メトリックは、電力網の安定性に関連する、電圧および/または周波数等である。上記メトリックまたは測定値またはその一部を、分散型台帳に保存する。加えて、上記メトリックを、分散型台帳からコントラクトまたはスマートコントラクトに転送する。次に、上記メトリックと、スマートコントラクトに予め保存された予め定められた値との偏差を、スマートコントラクトを実行することによって計算し、計算ステップの結果を分散型台帳に転送し、好ましくはそこに保存する。さらに、上記結果を、好ましくは、分散型台帳から複数のDERのうちの対応するDERに転送し、上記対応するDERは、電力網への寄与/電力網からの消費の量を調整することにより電力網の安定性を保証する正および/または負の値(以下ではトークンとも呼ぶ)を受信する。
【0018】
言い換えると、測定された(実際の)メトリックと予め定められた値との間の計算した偏差、たとえば、実際の発電値または実際の消費値と対応する契約発電値および/または契約消費値との比較に基づいて、トークンを計算することができる。これらのトークンは、実際の発電をどのように増強、維持または低減すべきかを定量的に示す信号である。同じことが消費についても言える、すなわち、トークンは、実際の消費をどのように増強、維持または低減すべきかを示す一種の定量的信号である。個々のDERの実際の消費および/または発電を適合させるまたは調整することにより、電力網の安定性を高めることができる。したがって、電力網の周波数の安定性、電力網のインライン負荷、および/または電力網の電圧の上限および下限を向上させることができる。
【0019】
たとえば、基準からの電力偏差を計算することができ、これは、後続の方法ステップのベースを形成することができる。好ましくは、本発明の方法は、そのような電力偏差を、安定性レベルに関する指標(たとえば電圧、周波数)に変換または変更する。そのような変換/変更は、複数の異なる方法およびモデルによって推定することができ、本発明は、いかなる特定の方法またはモデルにも限定されない。単なる例として、線形モデルを使用してもよく、いくつかの線形係数は、予め定められてもよく、固定されてもよく、または動的に調整されてもよい。本発明の方法ステップのうちの複数、大部分またはすべてが自動的に実施されるので、トークンの調整およびDERの個々のエネルギーリソースの消費/発電のその後の調整は、迅速に行われ、電力網の安定性を高める従来のエネルギー取引方法と比較してはるかに迅速に行われる。
【0020】
好ましくは、上記メトリックを測定するステップは、各DER自体によって、または各DERに対応付けられた1つもしくは複数の追加センサによって実行される。たとえば、この測定は、予め定められたスケジュールに従って、周期的に、および/または特定のしきい値と比較された上記測定値に応じて、実行されてもよい。さらに他の好ましい実施形態に従うと、測定するステップは、後続の保存するステップをトリガしてもよい。
【0021】
さらに好ましくは、分散型台帳の同一コピーが、ピアツーピアネットワーク上の複数のホスト上に提供され、分散型台帳は、好ましくはブロックチェーンである。
【0022】
本発明は、たとえば、100メガワット未満、好ましくは50メガワット未満、およびより好ましくは10メガワット未満およびさらには1メガワット未満の容量を有し本発明の方法に容易に組み込むことができる、小さなDERに対し、中央集中型の方法に勝る、特定の利点を提供する。
【0023】
本発明のDERは、複数の発電/寄与および/または貯蔵/消費構成要素を含み得るものであり、好ましくは、小水力発電、バイオマス発電、バイオガス発電、太陽光発電、風力発電、および地熱発電からなる群のうちの、少なくとも1つの再生可能エネルギー源を使用する。好ましくは、各DERは、現在のユーティリティの電力網に寄与する。
【0024】
本発明に従うと、新たな要件および/または測定値を分散型台帳および/またはスマートコントラクトまたは新たなスマートコントラクトに保存することにより、新たなDERを追加することが好ましい。特に、スマートコントラクトは、好ましくは、コントラクトまたは契約の条項に従って法的に関連するイベントおよびアクションを自動的に実行、制御、および/または文書化することを意図した、コンピュータプログラムまたはトランザクションプロトコルである。スマートコントラクトの目的は、たとえば、信頼できる仲介者の必要性、調停および施行コスト、不正損失を低減すること、ならびに悪意のある例外および偶発的な例外を低減することである。本発明に従うと、スマートコントラクトを利用することにより、たとえば、分散された複数のエネルギーリソースに対するアクションが自動的に処理または実行されるという利点がある。たとえば、上記予め定められた値と実測値との間の偏差の計算は自動的に行われ、その後のステップもスマートコントラクトの制御下で自動的に実行することができる。
【0025】
偏差に関する情報は、好ましくは、すべての当事者が入手可能であり、したがって、自動反応をトリガすることができる。たとえば、充分に発電/消費していない(発電中/消費中の)ユニット/当事者は、分散型台帳内のステータスに積極的に問い合わせる(ポーリング)ことによって、および/またはスマートコントラクトから送信されるメッセージを通して(イベントベースの検出)、偏差に関する情報を得て、発電/消費を自動的に増加させることができる。当然ながら、これは過剰発電/消費にも当てはまる。
【0026】
加えて、発電/需要における偏差は、たとえば、いくつかの線形ドループ(droop)を通して、周波数および/または電圧偏差に直接関連付けることができる。反応は、好ましくは外乱の直後にレスポンスが必要とされるので、好ましくは自動的に行われる。これは、ローカルアクション(ポーリング)に基づいていてもよく、または、偏差としてもしくは直接発電/消費設定点として、受けることができる。
【0027】
また、電力網全体のメトリックを測定することが好ましく、上記メトリックは、好ましくは電力網の安定性に関連する。たとえば、1つのメトリックは電力網の電圧であり、1つのメトリックは電力網の周波数であり、周波数の増加は消費の増加を示し、周波数の減少は消費の増加を示す。
【0028】
本発明はまた、それぞれの方法ステップを実行するように構成された適切な手段によって上述の方法ステップを実行するように構成されたシステムに関する。加えて、本発明はまた、本発明のシステムに本発明の上述の方法ステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラムに関する。
【0029】
本発明の主題を、添付の図面に示される好ましい具体例としての実施形態を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施形態の個々のステップを概略的に示す図である。
【
図2】DERとブロックチェーンとの間の、本発明の本質的なステップを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
実施形態の詳細な説明
本発明の具体例としての実施形態を
図1を参照しながら説明する。
図1において、同一または同様の参照符号は同一または同様の要素を示す。
【0032】
(安定性の全体的な尺度としての)局所電圧および/またはシステム周波数が確実に許容範囲に含まれるようにするために、ユーティリティは、典型的に、大型発電機、タップチェンジャー、および/または静的および動的な無効電力制御装置に依拠する。本発明は、多数の小型エネルギー源/リソースが存在する場合にこのタスクを自動的に実行できる方法およびシステムを提供する。たとえば、本発明は、1000を超える(小型)エネルギー源に使用されるのが好ましい。しかしながら、本発明は、エネルギー源のいずれの数にもいずれの大きさにも限定されない。言い換えると、本発明は、どの大きさおよびどの数のエネルギー源でも実現できる。本発明の分散方法の利点は、集中化すると扱うのがより難しくなる大量のエネルギー源についてより明確に現れる。
【0033】
本発明の1つの好ましい設定は、以下のように説明することができる。ユーティリティ装置の製造業者および/またはそれらのユーティリティ顧客、および場合によってはさらに他の当事者は、共有ブロックチェーン(分散型台帳)のノードをホストおよび実行するための専用ハードウェアを提供する。多数の当事者がこのステップに関与するが、その理由は、そうすることで、多数のエンティティに「信頼を分散」できるからである。この具体例としての設定では、単一の当事者または少数の共同当事者によるいかなるシステム操作の試みも妨げられる、すなわち、ブロックチェーンの分散型実行が、正確さおよび一貫性を保証する。
【0034】
石炭火力発電所、ガス発電所、および原子力発電所、ならびに水力発電ダムおよび大規模太陽光発電所等の従来の発電所は、中央集中型であり、多くの場合、長距離にわたって電気エネルギーを送る必要がある。
【0035】
これに対し、「分散型エネルギーリソース(distributed energy resource)」(DER)システムは、非中央集中型で、モジュール式で、より柔軟な技術であり、10メガワット(MW)以下の容量しかないことが多いものの、供給対象の負荷のより近くに位置する。これらのシステムは、複数の発電および蓄電要素を含むことができ、そのような場合はハイブリッド電力システムと呼ばれることが多い。
【0036】
本発明のシナリオに主に関与する当事者は、好ましくは、以下の装置の所有者、すなわち、消費者装置、発電者装置、エネルギー貯蔵装置、アクティブ電力網装置(たとえばタップチェンジャー、キャパシタバンク、FACTS装置(フレキシブル交流伝送システム)など)、認定された測定装置(たとえばメータ、電力網センサおよび計器)の所有者であるが、これらの具体例としての装置のリストに限定されない。
【0037】
最初の3つの種類である、消費者装置、発電者装置、およびエネルギー貯蔵装置は、「分散型エネルギーリソース」(DER)の例である。本発明のために新たなDERが設定される場合、ユーティリティ1とDERのオペレータとの間に、スマートコントラクト2が作成される。このコントラクト2において、電力網の安定性に関する条項、たとえば、生成および消費されるエネルギーの体積、タイミング、ならびに好ましくは偏差に対するペナルティも、好ましくは正確に捕捉される。このコントラクト1は、ブロックチェーン10上で転送されホストされる(
図1のステップ1を参照)。したがって、第1のステップにおいて、基本的なスマートコントラクトがブロックチェーンに追加される。加えて、DERは、好ましくは、電力網の安定性を判断するために使用することができるメトリックを確実に測定する認証されたセンサおよび/またはカウンタを備える。
【0038】
動作中、DER3のこれらのセンサおよび/またはカウンタは、それらの測定値4をブロックチェーン10に周期的に送信し、測定値はブロックチェーンにおいて好ましくは不変的に保存される。加えて、ユーティリティ1がブロックチェーン10上で現在の状態および電力網の制約を公開することが、さらに好ましい(
図1のステップ2)。たとえば、各DERごとの周期的状態測定値ならびに電力網の状態および/または制約が保存されてもよい。さらに、「マイルストーン」を導入することによってブロックチェーンデータの増大を緩和することも可能であり、この場合、古いデータは削除され場合によってはアーカイブされる。好ましくは、合意されたマイルストーンで始まるデータのみがブロックチェーンに保存される。これに代えてまたはこれに加えて、特定のデータを、オフチェーンで保存してもよい、すなわち、ブロックチェーンは、ハッシュおよび/またはデータアイテムへのポインタのみを保存してもよい。しかしながら、このような解決策の場合、オフチェーンデータの利用可能性を保証する必要がある。
【0039】
本発明の好ましい実施形態に従うと、以下の情報のうちの少なくとも1つがブロックチェーン10に保存される。
i)システム起動時
スマートコントラクト2は、好ましくはタイムトリガ方式でまたは新たなプロファイルのセットがブロックチェーン10に追加されたときに、関与する装置3に対する次のコマンド(これはプロシューマに対するスケジュール、タップ位置、電圧および電流の境界を含み得る)を計算し、それらを関与する装置3に送信する。
【0040】
スマートコントラクト10は、装置3が上記スケジュールおよびコマンドに従っているか否かを検証し、それに応じて、新たな測定値がブロックチェーン10に追加されたときに自動的に実行される、ペナルティ/報酬評価をトリガする。
ii)新たな装置がシステムに入ったときまたはそれらのプロファイルが変更されるときには常時
装置3のプロファイルは、好ましくは、予備力の容量(たとえば予備力の容量の10%)、時間間隔(たとえば次の2時間または次の10分)の推定電力(たとえば消費および発電)プロファイル、柔軟性(たとえば湯沸かし器はもう少し早くもしくは遅く始動させることができる、またはより迅速にまたはゆっくりと水を加熱することができる)および/または装置3が有効な測定値を生成することを立証し認定されたメータを正しい装置に関連付けるための、認定された測定セットアップを、記述する。
iii) 新たな測定値が利用可能なときには常時
認定された測定装置は、その測定値をブロックチェーンに保存する(
図1のステップ4参照)。
【0041】
結果として、電力網の安定性のスケジューリング部分を改善し自動化することができる。したがって、プロトコル駆動型分散型台帳(ブロックチェーン10)は、a)発電および消費のための現在の条件を自動的に指定し、b)スマートコントラクト3を使用して偏差の大きさに応じて自動利益またはペナルティを組み込んで、これらの条件の順守を奨励することにより、多数のエネルギー生産者、貯蔵者、および消費者が存在する場合の電力網の安定性を保証する、自動化されたメカニズムを提供する。
【0042】
図1のステップ6に示されるように、トークン6を、スマートコントラクト実行の結果としてDER3に内部転送することができる。
【0043】
図2は、本発明に係る好ましい方法の基本的なステップを示す。
ステップa)において、好ましくはDERにおける追加の測定装置によって得られる測定値が、DERから転送されブロックチェーン10に保存される。本発明の好ましい実施形態に従うと、このような保存するステップは、予め定められたスケジュールに基づいておよび/または周期的に実行される。好ましくは、上記ステップにより、条件がDERからスマートコントラクトに転送される(
図2のa)参照)。たとえば、スマートコントラクトは、新たな値によってトリガされ、対応するDERの条件/測定値をブロックチェーンからロードする(
図2のステップb)参照)。
【0044】
次に、スマートコントラクトを、最初のスマートコントラクトに保存された条件からの何らかの偏差を評価および/または計算するために使用する(
図2のステップc)参照)。これに加えてまたはこれに代えて、本発明の方法は、電力網の条件が変化するときの状況に対処することもできる。たとえば、個々のDERの発電および/または消費を、それに応じて適合させてもよい。DERのエネルギーを生成/消費するときの周期的/動的に変化する計画を、「スケジュール」と呼ぶ。したがって、電力網の条件が変化する場合には新たなスケジュールを生成することができる。
【0045】
次に、ステップd)において、上記計算ステップの結果をブロックチェーン10に保存する。上記結果は、その後、ステップe)においてDERに転送される。たとえば、この結果を、DER5)が取り出す、またはブロックチェーンからDERにプッシュすることができる。このステップe)は、サービス品質の評価に使用することができる、トランザクション評価、たとえばボーナスまたはペナルティトークンの自動実行を含み得る。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型台帳(10)を使用して電力網の安定性を保証する方法であって、前記方法は、
複数の分散型エネルギーリソースDERからのメトリックを測定するステップを含み、前記メトリックは電力網の安定性に関連し、前記方法はさらに、
前記メトリック/測定値を前記分散型台帳(10)に保存するステップ(a)と、
前記メトリックを前記分散型台帳からスマートコントラクト(2)に転送するステップと、
前記メトリックと、前記スマートコントラクト(2)に予め保存された予め定められた値との間の任意の偏差を、前記スマートコントラクトを実行することによって計算するステップと、
前記計算するステップの結果を前記分散型台帳(10)に転送し保存するステップと、
前記結果を前記分散型台帳(10)から前記複数のDERのうちの対応するDERに転送するステップとを含み、前記対応するDERは、前記電力網への寄与/前記電力網からの消費の量を調整することにより電力網の安定性を保証する正または負の値/トークンを受信する、方法。
【請求項2】
前記メトリックを測定するステップは、各DER自体によって、または各DERに対応付けられた1つもしくは複数の追加センサによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定するステップは、
i)予め定められたスケジュールに従って、
ii)周期的に、および/または
iii)特定のしきい値と比較された前記測定値に応じて、
実行される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定するステップは、後続の前記保存するステップ(a)をトリガする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記分散型台帳(100)の同一コピーが、ピアツーピアネットワーク上の複数のホスト上に提供される
、請求項
1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記分散型台帳はブロックチェーン(100)である
、請求項
1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記DERは、100メガワット未満、好ましくは50メガワット未満、およびより好ましくは10メガワット未満およびさらには1メガワット未満の容量を有する
、請求項
1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記DERは、複数の発電/寄与および/または貯蔵/消費構成要素を含み、好ましくは、小水力発電、バイオマス発電、バイオガス発電、太陽光発電、風力発電、および地熱発電からなる群のうちの、少なくとも1つの再生可能エネルギー源を使用する
、請求項
1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
各DERは、現在のユーティリティの電力網に寄与する
、請求項
1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
新たな要件および測定値を前記分散型台帳および/または前記スマートコントラクトまたは新たなスマートコントラクトに保存することにより、新たなDERが追加される
、請求項
1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記電力網全体のメトリックを測定するステップをさらに含み、前記メトリックは電力網の安定性に関連する
、請求項
1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
1つのメトリックは前記電力網の電圧であり、および/または1つのメトリックは前記電力網の周波数であ
る、請求項
1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
周波数の増加は消費の
減少を示し、周波数の減少は消費の増加を示す、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
分散型台帳(10)を用いて電力網の安定性を保証するためのシステムであって、前記システムは、好ましくは請求項1~
13のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように構成され、前記システムは、
複数の分散型エネルギーリソースDERからのメトリックを測定するための手段を備え、前記メトリックは電力網の安定性に関連し、前記システムはさらに、
前記メトリック/測定値を前記分散型台帳(10)に保存する(a)ための手段と、
前記メトリックを前記分散型台帳からスマートコントラクト(2)に転送するための手段と、
前記メトリックと、前記スマートコントラクト(2)に予め保存された予め定められた値との間の任意の偏差を、前記スマートコントラクトを実行することによって計算するための計算手段と、
前記計算ステップの結果を前記分散型台帳(10)に転送し保存するための手段と、
前記結果を前記分散型台帳(10)から前記複数のDERのうちの対応するDERに転送するための手段とを備え、前記対応するDERは、前記電力網への寄与/前記電力網からの消費の量を調整することにより電力網の安定性を保証する正または負の値/トークンを受信する、システム。
【請求項15】
請求項
14のシステムに方法の請求項1~
13のいずれかのステップを実行させる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項16】
請求項
15のコンピュータプログラムが格納されたコンピュータ読取可能媒体。
【国際調査報告】