(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】官能化カーボンブラック、その調製および加硫性ゴム組成物における使用
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20220831BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220831BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20220831BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20220831BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C09C1/48
C08K3/04
C08L21/00
C08K9/04
C09D17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577864
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2020066887
(87)【国際公開番号】W WO2021001156
(87)【国際公開日】2021-01-07
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521399892
【氏名又は名称】オリオン エンジニアード カーボンズ アイピー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェシュテンベルク ハウケ
(72)【発明者】
【氏名】フォーグラー コニー
(72)【発明者】
【氏名】ニーダーマイアー ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】レッヒェンバッハ ディルク
(72)【発明者】
【氏名】シンケル アルント ペーター
【テーマコード(参考)】
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC111
4J002AC121
4J002DA036
4J002FB086
4J002FD016
4J002GJ02
4J002GM01
4J002GN01
4J037AA02
4J037BB28
4J037CB16
4J037CB21
4J037CC06
4J037CC12
4J037CC13
4J037CC15
4J037CC16
4J037CC28
4J037FF18
(57)【要約】
本開示は、酸化カーボンブラックを硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩で処理することによって得られる官能化カーボンブラックを提供する。本開示はまた、そのような官能化カーボンブラックの製造方法に関する。さらに、本開示は、(i)加硫性ゴム成分、ならびに、(ii)酸化カーボンブラックおよび(iii)硫黄含有第一級もしくは第二級アミンもしくはそれらの塩、または、これらの成分から形成される官能化カーボンブラックを含む、加硫性ゴム組成物に関する。本開示はまた、加硫性ゴム組成物から製造される物品に関する。本明細書に開示される官能化カーボンブラックは、低ヒステリシスおよび向上した耐摩耗性を有するゴム化合物を得るために、例えば省エネタイヤの製造のために特に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カーボンブラックを硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩で処理することによって得られる官能化カーボンブラック。
【請求項2】
硫黄含有第一級または第二級アミンの残渣が、アミド結合などの共有結合によって酸化カーボンブラックに結合している、請求項1に記載の官能化カーボンブラック。
【請求項3】
硫黄含有第一級または第二級アミンが、モノマー有機化合物であり、および/または500g/mol未満の分子量を有する、請求項1または2のいずれか1項に記載の官能化カーボンブラック。
【請求項4】
硫黄含有第一級または第二級アミンが、式R
1-S
x-Z-NR
2R
3またはS
x(-Z-NR
2R
3)
2の化合物を含み、式中、Zは1~20個の炭素原子を含む二価の有機基であり、xは少なくとも1の整数であり、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ、水素および1~20個の炭素原子を含む一価の有機基から個々に選択され、ここで、Zは好ましくは1~8個の炭素原子を含むアルキレン基であり、xは好ましくは2~20個の範囲の整数、例えば2~6、好ましくは2であり、および、R
1は好ましくはC
1-C
12アルキル基を表し、ここで、任意に1つ以上の水素原子は、アミン基-NR
4R
5などの官能基によって置換されてもよく、R
4およびR
5はそれぞれ、水素および1~20個の炭素原子を含む一価の有機基から個々に選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の官能化カーボンブラック。
【請求項5】
硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩が、シスタミンまたはその塩、例えばそれぞれのハロゲン化アンモニウム塩を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の官能化カーボンブラック。
【請求項6】
酸化カーボンブラックが、少なくとも50μmol/gの量、例えば100~300μmol/gの範囲のカルボン酸基を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の官能化カーボンブラック。
【請求項7】
下記のものを含む官能化カーボンブラックの製造方法:
(A)酸化カーボンブラックを提供すること、
(B)酸化カーボンブラックを硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と接触させること、
(C)得られた混合物を、酸化カーボンブラックが硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と反応する条件に供すること。
【請求項8】
ステップ(C)が、混合物を少なくとも100℃、例えば100℃~160℃の温度で少なくとも1分間、例えば2~10分間加熱することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
下記のものを含む加硫性ゴム組成物:
(i)加硫性ゴム成分、
(ii)酸化カーボンブラック、および
(iii)硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩、
または、加硫性ゴム成分(i)と、酸化カーボンブラック(ii)および硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩(iii)から形成される官能化カーボンブラックとを含む。
【請求項10】
加硫性ゴム成分が、天然ゴム、エマルジョン-スチレン-ブタジエンゴム、溶液-スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエンゴムEPDM、エチレン-プロピレンゴムEPM、ハロゲン化ブチルゴム、ブチルゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、アクリレートゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、エチレン-アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フルオロカーボンゴム、またはそれらの組み合わせを含む、請求項9に記載の加硫性ゴム組成物。
【請求項11】
酸化カーボンブラックまたはそれから誘導される官能化カーボンブラックが、10~100phrの量で存在し、および/または硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩が0.1~10phr、好ましくは0.3~2phrの量で使用される、請求項9または10に記載の加硫性ゴム組成物。
【請求項12】
硫黄含有第一級または第二級アミンが、対応するアンモニウム塩の形態で使用され、ならびに/または組成物が塩基性の金属酸化物または水酸化物、例えばCa(OH)
2および/もしくはMgO、をさらに含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の加硫性ゴム組成物。
【請求項13】
酸化カーボンブラックを硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と接触させ、得られた混合物を、酸化カーボンブラックが硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と反応して官能化カーボンブラックを形成する条件に供することを含む、加硫性ゴム組成物を調製するための方法;
ここで、酸化カーボンブラックが硫黄含有アミン成分と反応する条件に混合物を供する前、その最中および/またはその後に、加硫性ゴム成分が、酸化カーボンブラックおよび硫黄含有アミン成分、またはそれらから誘導された官能化カーボンブラックと混合される。
【請求項14】
請求項9~12のいずれか1項に記載の加硫性ゴム組成物から調製される物品。
【請求項15】
タイヤ、タイヤトレッドなどのタイヤ部品、ケーブルシース、チューブ、駆動ベルト、コンベヤベルト、ロールカバー、靴底、シール部材、プロファイルまたは制動素子である、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
酸化カーボンブラックの表面改質のための、および/またはカーボンブラック含有加硫性ゴム組成物中のカップリング剤としての、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩の使用。
【請求項17】
硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらから誘導される官能化カーボンブラックを含有しない対応するカーボンブラック含有加硫性ゴム組成物と比較して、60℃での損失因子tanδを減少させるため、および/または熱蓄積を減少させるため、および/または結合ゴムを増加させるため、および/または耐摩耗性を向上させるための、カーボンブラック含有加硫性ゴム組成物における硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、官能化カーボンブラック、関連する加硫性ゴム組成物およびそれから製造される物品、ならびにそれぞれの調製プロセスに関する。より詳細には、本開示は、酸化カーボンブラックを硫黄含有アミンで処理することによって得ることができる官能化カーボンブラックに関する。官能化カーボンブラックは、例えばタイヤ用途において、低減されたヒステリシスおよび良好な耐摩耗性を有するゴム製品を得るために特に有用である。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは例えば、それらの色、機械的、電気的、および/または加工特性を改変するために、多くのゴムベースの化合物に含まれる。カーボンブラックは例えば、一般に、タイヤまたはその構成要素を製造するために使用されるゴム組成物に添加されて、絶縁マトリックスに電気的散逸性を付与する。同時に、カーボンブラック添加剤は、剛性、耐摩耗性およびヒステリシスのような機械的および弾性特性に影響を及ぼし、これらは、例えば、その転がり抵抗および耐久性に関して、得られるタイヤの性能に大いに影響を及ぼす。ここで、カーボンブラックは、ゴム成分中の主な熱蓄積源である強力な充填剤-充填剤相互作用を介してマトリックス中に網状組織を形成する傾向がある。規制規定および環境負荷の増加のために、低転がり抵抗の省エネタイヤの需要が増加している。同時に、グリップ、トラクションおよび耐久性のような他の性能パラメータは、悪影響を受けてはならない。これは、しばしば競合する要件を表す。
【0003】
より低い値のヒステリシスによって反映される、ゴム材料の変形中に熱の形で失われるエネルギーを低減するための1つの選択肢は、カーボンブラック充填剤とゴムマトリックスとの相互作用を増加させることによって充填剤-充填剤相互作用を低減することにある。ヒステリシスはまた、カーボンブラックの積載量を減少させること、および/またはカーボンブラックの粒径を増加させることによっても減少させることができる。しかしながら、これは、例えば、電気的散逸性および/または耐摩耗性、耐破壊性または耐欠損性などの機械的特性を同時に劣化させ得る。
【0004】
あるいは、充填剤-ゴム相互作用を強化するために、ゴム材料および/またはカーボンブラック充填剤を化学的に改質する開発がなされてきた。
【0005】
例えば、米国特許第5,248,722号は、酸官能性酸化カーボンブラックと組み合わせて末端官能化ポリマーを利用することによって、タイヤトレッド用途における転がり抵抗が低減されたエラストマー組成物を記載している。しかしながら、末端官能化ポリマーは、容易には入手できず、少なくとも1つのジエンモノマーおよび任意に1つ以上のビニル置換芳香族モノマーの重合によって調製されたポリマーと、スズまたは窒素含有の化合物とを反応させることによって、専用の工程で調製する必要がある。
【0006】
国際公開第2011/028337号によれば、鎖に沿ってカルボン酸またはヒドロキシル基などの酸素含有基で官能化された官能化SBRポリマーと組み合わせて表面処理カーボンブラックを使用することにより、カーボンブラック-エラストマー相互作用を増強し、従来のカーボンブラック含有化合物の使用と比較して、ヒステリシスの減少および湿潤トラクションにおける利益が得られる。しかしながら、このアプローチもまた特殊なポリマー材料の使用を必要とする。
【0007】
EP3339364は、酸化カーボンブラックを、ポリエチレンイミンのような第一級アミン官能基を有するポリマーアミンと組み合わせて利用して、低転がり抵抗を有するタイヤのための改善されたヒステリシスを有するゴム化合物を得ることを提案している。しかしながら、耐摩耗性は、得られるゴム化合物においていくらか劣化する。
【0008】
しかし、例えば、低い転がり抵抗および良好な耐久性を有するタイヤの製造のために、改善されたヒステリシスを示し、同時に、向上した耐摩耗性を示すゴム化合物を提供することが望ましい。このようなゴム化合物の残りの機械的特性は、タイヤ用途に適しているべきである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を軽減または回避しながら、ゴム化合物に上記の特性を付与することができる官能化カーボンブラックを提供することである。カーボンブラックの官能化は、容易に入手可能な成分および加工技術を利用して、効率的かつ経済的な方法で達成可能であるべきである。本発明は、タイヤの製造に適した改善されたヒステリシスと向上した耐摩耗性の両方をもたらす加硫性ゴム組成物を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、上記の目的は、酸化カーボンブラックを硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩で処理することによって得られる官能化カーボンブラックによって達成できることが見出された。
【0011】
本発明の官能化カーボンブラックは、以下のものを含む方法によって得ることができる:
(A)酸化カーボンブラックを提供すること、
(B)酸化カーボンブラックと、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩とを接触させること、
(C)得られた混合物を、酸化カーボンブラックが、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と反応する条件にさらすこと。
【0012】
ここで、本発明による官能化カーボンブラックは、例えばそのような官能化カーボンブラック材料を得るために、加硫性ゴム組成物の調製中にその場で、または別々に、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩で処理されてもよい。
【0013】
本発明は、それに応じて、下記のものを含む加硫性ゴム組成物にも関する:
(i)加硫性ゴム成分、
(ii)酸化カーボンブラック、および
(iii)硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩、
または、
加硫性ゴム成分(i)、ならびに、酸化カーボンブラック(ii)および硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩(iii)から形成された本発明による官能化カーボンブラック。
【0014】
本発明の加硫性ゴム組成物から製造される物品もまた、本発明の範囲内である。
【0015】
さらに、本発明は一般に、酸化カーボンブラックの表面改質のための、および/またはカーボンブラック含有加硫性ゴム組成物中のカップリング剤としての、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩の使用に関する。
【0016】
本発明による官能化カーボンブラックは、市販の成分から、一般的な加工技術を使用して、効率的な方法により低コストで得ることができる。それらは、それらが添加されるかまたはそれらが形成されるゴム化合物に、好ましい特性の組み合わせを付与し、特に有意に減少したヒステリシスおよび向上した耐摩耗性をもたらし、特にそれらを省エネタイヤの製造に興味深くすることが見出された。
【0017】
いかなる理論にも拘束する意図はないが、硫黄含有第一級または第二級アミンを使用することで、その二官能性、すなわち、硫黄官能性および一つ以上のN-H部位を有するアミン官能性により、一方では、その表面に一般的に極性酸素含有基を有する酸化カーボンブラックに対し、他方では、硫黄含有部位に親和性を有するエチレン性不飽和基のような加硫性部位を一般的に含有する加硫性ゴム成分に対し、例えば共有結合および/または水素結合で強力な相互作用を形成することができると考えられる。したがって、官能化カーボンブラックのゴム成分への効果的なカップリングを達成することができ、充填剤-充填剤相互作用を効率的に減少させて、低いヒステリシスならびに高い耐久性および機械的剛性を有するゴム化合物を得ることができる。
【0018】
したがって、本発明はまた、カーボンブラック含有加硫性ゴム組成物中における硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩の使用にも関連し、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらから誘導される官能化カーボンブラックを含有しない対応するカーボンブラック含有加硫性ゴム組成物と比較して、損失因子tanδ(例えば60℃で測定)を減少させるため、および/または熱蓄積を減少させるため、および/または結合ゴム含有量を増加させるため、および/または耐摩耗性を向上させるためのものである。
【0019】
本発明のこれらおよび他の任意の特徴および利点は、以下の説明においてより詳細に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「含む」は、無制限(open-ended)であり、追加の記載されていないまたは列挙されていない要素、材料、成分または方法ステップの存在を排除しないものと理解される。用語「包含する」、「含有する」および同様の用語は、「含む」と同義であると理解される。本明細書中で使用される場合、用語「からなる」は、任意の特定されていない要素、成分または方法ステップの存在を除外するものと理解される。
【0021】
本明細書で使用されるように、「a」、「an」および「the」の単数形は、文脈が明らかにそわないことを示さない限り、複数の指示対象を包含する。
【0022】
特に断りのない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータおよび範囲は概算値である。本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは概算値であるが、具体的な実施例で示された数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、任意の数値は、それらのそれぞれの測定における標準偏差から必然的に生じる誤差を含む。
【0023】
また、本明細書に列挙される任意の数値範囲は、その中に属するすべてのサブ範囲を包含することが意図されていることを理解されたい。例えば、「1~10」の範囲は、列挙された最小値1と列挙された最大値10との間およびそれらを包含する任意のすべてのサブ範囲、すなわち、1以上の最小値で始まり10以下の最大値で終わるすべてのサブ範囲、および、例えば、1~6.3、または5.5~10、または2.7~6.1の間のすべてのサブ範囲を包含することが意図される。
【0024】
上記のように、本発明は、酸化カーボンブラックを硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩で処理することによって得られる官能化カーボンブラックに関する。
【0025】
本明細書で言及される「カーボンブラック」は、1種以上の炭化水素前駆体から制御された部分熱分解によって製造される、実質的に、例えばその全重量を基準にして90重量%以上または95重量%以上の炭素からなる材料である。ファーネスプロセス、ガスブラックプロセス、アセチレンブラックプロセス、サーマルブラックプロセスまたはランプブラックプロセスのようなカーボンブラック材料を製造するための種々の工業的方法が知られている。カーボンブラックの製造はそれ自体当技術分野で周知であり、例えばJ.-B.Donnetら、「カーボンブラック:サイエンス アンド テクノロジー」、第2版、に概説されており、したがって、ここではこれ以上詳細には説明しない。本発明の実施に使用されるカーボンブラックはまた、2種以上の異なるカーボンブラックグレードの混合物を含むことができる。
【0026】
用語「酸化カーボンブラック」は、本明細書中で使用される場合、酸化処理に供され、したがって酸素含有官能基を含むカーボンブラックを指す。酸素含有官能基は、特にカーボンブラック粒子の表面に存在することができる。酸素含有官能基は、キノン基、カルボキシル基、フェノール基、ラクトール基、ラクトン基、無水物基およびケトン基を例示することができるが、これらに限定されない。本明細書では、カーボンブラック粒子の表面上のカルボン酸基または無水物基は、例えば塩形成、水素結合の形成または例えば共有アミド結合を形成する反応によって比較的強い結合を形成するこれらの極性基の能力に起因して、硫黄含有アミン成分との強い相互作用を形成するのに特に好ましいと考えられる。
【0027】
本発明の実施において好適な酸化カーボンブラックは、カーボンブラック酸化の技術分野において従来公知であり、例えば米国特許第6,120,594号および米国特許第6,471,933号に開示されているような任意の方法によって製造することができる。適切な方法は、例えば、過酸化水素のような過酸化物、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸カリウムのような過硫酸塩、次亜塩素酸ナトリウムのような次亜ハロゲン酸塩、オゾンガスもしくは酸素ガス、過マンガン酸塩、四酸化オスミウム、酸化クロム、硝酸アンモニウムセリウムのような遷移金属含有酸化剤、もしくは硝酸および過塩素酸のような酸化酸ならびにそれらの混合物もしくは組合せの酸化剤を用いたカーボンブラック材料の酸化、または、酸化後の塩基による処理もしくは塩素化後の塩基による処理を包含する。
【0028】
酸化カーボンブラックは、酸化されていないカーボンブラックとは異なり、顕著な酸素含有量を有する。本発明の実施において使用される酸化カーボンブラックの酸化の程度は変化し得る。例えば、酸化カーボンブラックは、酸化カーボンブラック材料の総重量に基づいて、0.5重量%以上、例えば1重量%以上、または2重量%以上の酸素含有量を有することができる。典型的には、酸素含有量は、酸化カーボンブラック材料の総重量に基づいて20重量%を超えない。例えば、酸化カーボンブラックは、酸化カーボンブラック材料の総重量に基づいて、0.5重量%~20重量%、または1重量%~15重量%、または2重量%~10重量%、または2重量%~5重量%の酸素を含有することができる。
【0029】
上述のように、本発明により使用される酸化カーボンブラックは、カルボン酸官能基を含有することができる。例えば、酸化カーボンブラックは、カーボンブラックgあたり少なくとも50μmolのカルボン酸基、例えばカーボンブラックgあたり50~500μmolまたは100~300μmolの範囲のカルボン酸基を含むことができる。カルボン酸基の量は、以下の実験の項に記載の滴定によって決定することができる。
【0030】
実施例に記載したように950℃で測定した酸化カーボンブラックの揮発分は、少なくとも1重量%、例えば1~15重量%または2~8重量%の範囲とすることができる。
【0031】
本発明に従って使用される酸化カーボンブラックは特に、10~300m2/gの範囲、典型的には50~300m2/gの範囲、例えば75~250m2/g、90~200m2/g、100~175m2/gまたは125~150m2/gのBET表面積を有することができる。BET表面積は、ASTM D6556-17に従って決定することができる。
【0032】
本発明に従って使用される酸化カーボンブラックは特に、10~200m2/g、例えば50~200m2/g、75~175m2/g、100~140m2/gまたは125~140m2/gの比表面積(STSA)を有することができる。統計的厚さ表面積(STSA)は、ASTM D6556-17に従って決定することができる。
【0033】
本発明に従って使用される酸化カーボンブラックは、ASTM D2414-18に従って測定した吸油量(OAN)であって、50~250mL/100g、例えば75~225mL/100g、90~200mL/100g、100~175mL/100g、または110~160mL/100gの吸油量を有することができる。本発明による酸化カーボンブラックはさらに、50~150mL/100g、例えば75~125mL/100g、90~120mL/100g、または100~120mL/100gの圧縮吸油量(COAN)を有することができる。COANは、ASTM D3493-18に従って決定することができる。
【0034】
本発明による酸化カーボンブラックはこれに限定されないが、酸化ファーネスブラック、酸化ランプブラック、酸化ガスブラック、またはこれらの組み合わせを含むことができる。好ましくは、酸化カーボンブラックは酸化ファーネスブラックを含む。本発明による酸化カーボンブラックは例えば、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社によって、例えばECORAX(登録商標)、CORAX(登録商標)またはPRINTEX(登録商標)の商品名で市販されているカーボンブラックグレードを含むことができ、これらは、上記のような酸化処理に供された。
【0035】
上述のように、酸化カーボンブラックは、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩で処理されて、官能化カーボンブラックが得られる。したがって、この処理により、硫黄含有アミンが、硫黄含有部分および/またはアミン基などの処理剤由来の官能基を酸化カーボンブラックに付与し、酸化カーボンブラックの化学的変化がもたらされる。官能化は、酸化カーボンブラックと硫黄含有アミンとの間の種々のタイプの相互作用、例えば、カーボンブラックの表面もしくはバルクにおけるアミンの吸着もしくは吸収、水素結合もしくは塩形成のような分子間結合、またはアミド結合のような共有結合の形成に基づくことができる。
【0036】
本発明による官能化カーボンブラックの粒子の表面上に存在しかつ本明細書において理解されるような官能基の化学的性質は、特に限定されず、酸化カーボンブラックに関して上述したもの、および、硫黄含有アミンによって、例えば、酸化カーボンブラックへの硫黄含有アミンの結合、または硫黄含有アミンの官能基と酸化カーボンブラックの官能基との反応によって導入され得るものを含むことができる。例えば、酸化カーボンブラックのカルボン酸基は、アミド結合の形成下で、硫黄含有第一級または第二級アミンのアミン基と高温で反応することができる。したがって、酸化カーボンブラックの酸化された表面の酸素含有基と、硫黄含有アミン成分のアミン官能基との間に共有アミド結合が形成され得る。例えば、アミン成分のアミン基は、酸化カーボンブラック粒子の表面に存在するカルボン酸基、カルボン酸塩基、または無水物基と反応し得る。本発明による官能化カーボンブラックの官能化の程度、すなわちカーボンブラックの単位質量当たりの化学官能基の数は、変えることができる。したがって、硫黄含有第一級または第二級アミンの残渣は、官能化カーボンブラック中のアミド結合などの共有結合によって酸化カーボンブラックに結合されることが好ましい。
【0037】
上述のように、酸化カーボンブラック材料を、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩で処理して、本発明による官能化カーボンブラックを得る。用語「硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩」、「硫黄含有アミン」などは、特に断らない限り、本明細書全体を通して互換的に使用することができる。本発明に従って使用することができる硫黄含有アミン成分は、硫黄(結合形態で)および1つ以上の第一級または第二級アミン基の両方を含有する任意の化合物を含むことができる。第一級アミン基は一般構造「-NH2」の基を指し、第二級アミン基は構造「-NHR」の基を指し、ここで、Rは、アルキル基、アリール基またはアリールアルキル基などの有機置換基である。硫黄含有アミンの塩も同様に使用することができる。換言すれば、第一級および/または第二級アミン基は、アンモニウム基として対応するプロトン化形態で存在することもできる。
【0038】
本発明に従って使用される硫黄含有アミンは、モノマーまたはポリマー有機化合物およびそれらの混合物または組み合わせを含むことができる。典型的には、それはモノマーの硫黄含有アミンである。その分子量は例えば、500g/mol以下、例えば、400g/mol以下、200g/mol以下または175g/mol以下であり得る。硫黄含有アミンは例えば、少なくとも1つのスルフィド、オリゴスルフィド、および/またはポリスルフィド部分を含み得る。さらに、硫黄含有アミンは、第一級アミン基および第二級アミン基からそれぞれ個別に選択される少なくとも1個、例えば少なくとも2個または少なくとも3個のアミン基を含む。第一級および/または第二級アミン基は、ブロックされていなくてもブロックされていてもよい。ブロッキングは例えば、カルバメートの形態のような、当該技術分野で慣用的に知られている任意の保護基によって達成することができる。硫黄含有アミン成分は、硫黄官能基およびアミン官能基の他に、例えば酸素含有基などのさらなる化学官能基を含むことができる。しかしながら、このような追加の官能基を含まなくてもよい。
【0039】
好ましくは本発明による硫黄含有第一級または第二級アミンは、化学式R1-Sx-Z-NR2R3の化合物を含み、ここで、Zは1~20個の炭素原子を含む二価の有機基であり、xは少なくとも1の整数であり、R1、R2およびR3はそれぞれ、水素およびアルキル基、アリール基またはアリールアルキル基などの1~20個の炭素原子を含む一価の有機基から個々に選択される。より好ましくは、Zは1~8個の炭素原子を含むアルキレン基である。さらに、R1はC1-C12アルキル基を表すことができ、ここで、任意に1つ以上の水素原子は、化学式-NR4R5によるアミン基などの官能基によって置換されてもよく、ここで、R4およびR5はそれぞれ個別に、水素およびアルキル基、アリール基またはアリールアルキル基などの1~20個の炭素原子を含む一価の有機基から選択される。整数xは好ましくは2~20の範囲の整数であり、例えば2~6、さらにより好ましくは、整数xは2に等しい。
【0040】
本発明による好ましい硫黄含有第一級または第二級アミンは、化学式Sx(-Z-NR2R3)2の化合物を含む。本発明において使用することができる特定の適切な硫黄含有第一級または第二級アミンは、シスタミンまたはその塩、例えば、それぞれのハロゲン化水素塩によって例示することができるが、これらに限定されない。上記のような本発明において使用するための適切な硫黄含有第一級または第二級アミンは、商業的に入手可能である。
【0041】
硫黄含有アミン成分で処理することによって酸化カーボンブラックに付与される硫黄官能基を利用して、加硫性ゴム成分に対するカーボンブラック粒子の強い化学的相互作用を確立することができる。例えば、硫黄部分は、適切な反応条件下で、エチレン性不飽和部分などの加硫性ゴム成分の反応部位に対し、硫黄架橋などの共有結合を形成することができる。
【0042】
本発明による官能化カーボンブラックまたはその前駆体は、硫黄含有アミン成分による処理前、処理中または処理後に、1つ以上の他の化学成分で処理することができる。この手段により、官能化カーボンブラックの粒子の一部または全部は、それらの表面上に他のまたは追加の化学官能基を含むことができる。例えば、官能化カーボンブラックを調製するために利用される酸化カーボンブラックは、カーボンブラック粒子の表面上の酸素含有官能基を活性化する、すなわちその反応性を増大させる化学物質で処理されることができる。このような追加の処理は、硫黄含有アミン化合物による処理のような後続の化学処理工程の収率または反応速度を増加させることができる。より詳細には、酸化カーボンブラック粒子の表面上のカルボキシル基は、(活性化)エステルまたは無水物が得られるように、当業者によって公知の任意の化学成分で処理されることができる。適切な(活性化)エステルまたは無水物は、対応するカルボン酸よりもアミンに対して反応性が高いことが知られており、したがって、硫黄含有アミン成分で処理する際のアミド官能基の収率を高めることができる。1つ以上のさらなる化学成分はまた、硫黄含有アミン成分と一緒に適用されることができ、活性化複合体または反応性中間体を形成することによって触媒またはカップリング剤として作用し得、それによって、例えば、反応生成物の収率の増加がもたらされる。硫黄含有アミンとの反応のような化学反応を遅延または減速させるために、官能化カーボンブラックまたはその前駆体に他の化学成分を適用してもよい。
【0043】
1つ以上の他の化学成分での処理によって官能化カーボンブラックに導入される任意の1つ以上の追加のまたは他の化学官能基を利用して、アミン以外の化学基に対する官能化カーボンブラックの追加の化学反応性を導入することもできる。この手段により、官能化カーボンブラックは例えば、ゴム材料またはそれぞれのカーボンブラック含有化合物に含まれる他の成分と、より強く相互作用することができ、またはさらなる化学結合によって結合することができる。
【0044】
本発明による官能化カーボンブラックは例えば、(A)酸化カーボンブラックを提供すること、(B)酸化カーボンブラックを、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と接触させること、および(C)得られた混合物を、酸化カーボンブラックが、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と反応する条件に供することを含む方法によって得ることができる。上記方法において、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩および/または酸化カーボンブラック材料は、上記の通りであり得る。
【0045】
酸化カーボンブラックに対する硫黄含有アミン成分の相対量は、変えることができる。硫黄含有アミン成分は、適用されたカーボンブラックの反応に利用可能な化学官能基の数に基づいて、超過してまたは不足して適用することができる。硫黄含有アミン成分は、段階的にまたは一度に全て添加することができる。
【0046】
酸化カーボンブラックと硫黄含有アミン成分との接触は、2つの成分を接触させるための当技術分野で公知の任意の手段によって行うことができる。典型的にはこれは、酸化カーボンブラックと硫黄含有アミン成分とを混合することを含み、この目的のために従来適用されている任意の機器を使用して行うことができる。好ましくは、酸化カーボンブラックと硫黄含有アミンとを接触させる際に、少なくとも巨視的に均質な混合物が形成される。硫黄含有アミン成分が混合温度で固体である場合、ただし例えば、比較的少量の硫黄含有アミン成分のみが提供される場合、酸化カーボンブラックに接触させる前に、または接触させながら、油などの溶媒または加工助剤を添加することができる。溶媒は、硫黄含有アミン成分を溶解するように選択することができる。硫黄含有アミン成分が混合温度で液体である場合、溶媒または加工助剤の使用を省略することができる。ステップ(B)における混合の間、混合物の温度は、典型的には80℃未満または60℃未満などの、酸化カーボンブラックと硫黄含有アミン成分との間の反応が起こるレベル未満のままである。混合は例えば、室温またはわずかに高い温度(例えば40℃まで)で行うことができる。しかしながら、より高い温度を、例えば以下にさらに記載されるその場調製のように使用することができる。
【0047】
混合物は、必要に応じて、酸化カーボンブラックおよび硫黄含有アミン成分に加えて、さらなる補助成分を含むことができる。例えば、混合物は、カップリング反応のためのおよび/または存在する場合には保護基を除去するためのカップリング剤または触媒として作用する物質を含むことができる。上記でさらに述べたように、官能化カーボンブラックに追加の化学官能基が提供される場合、対応する反応物質を、硫黄含有アミン成分と接触させる前または後に添加することができる。
【0048】
上記方法のステップ(C)における反応条件は、酸化カーボンブラックと硫黄含有アミン成分との間のアミド結合の形成を可能にするように選択することができる。ステップ(C)は例えば、混合物を少なくとも100℃の温度(例えば、100℃~160℃の範囲)に、少なくとも1分間(例えば、2~10分間)加熱することを含み得る。加熱は、加熱棒、加熱板などによる、または高ロータ速度かつそれぞれ高せん断力での撹拌によるような、任意の従来の手段によって適用することができる。撹拌による加熱の適用は、加硫性ゴム成分の存在下で反応がその場で誘導される場合に特に有利である。
【0049】
前述のように、酸化カーボンブラックと硫黄含有アミン成分との反応はその場、すなわち、加硫性ゴム成分の存在下で行うことができ、または、本発明の官能化カーボンブラックを別々に形成し、次いで、加硫性ゴム成分および適切な加硫剤と配合して、本発明による加硫性ゴム組成物を形成することができる。上記のその場ルート(in-situ route)は、本発明による加硫性ゴム組成物の調製の文脈において、以下により詳細に記載される。
【0050】
したがって、本発明はまた、(i)加硫性ゴム成分、(ii)酸化カーボンブラック、および(iii)硫黄含有第一級または第二級アミンまたはそれらの塩、を含む加硫性ゴム組成物に関する。したがって、酸化カーボンブラックおよび硫黄含有アミンから、本発明の官能化カーボンブラックは、その場で形成され得る。あるいは、官能化カーボンブラックを別々に形成し、次いで加硫性ゴム成分と組み合わせてもよい。いずれにせよ、本発明はまた、加硫性ゴム成分(i)と、酸化カーボンブラック(ii)および硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩(iii)から形成される官能化カーボンブラックとを含む加硫性ゴム組成物に関する。
【0051】
用語「加硫性ゴム組成物」は、加硫物の形成下で加硫によって硬化することができる、ゴム配合の技術分野で従来使用されている種々のさらなる成分を任意に含むゴム成分の組成物を指す。「硬化性」および「加硫性」という用語は特に明記しない限り、本明細書全体にわたって互換的に使用され、架橋剤または加硫剤の手段によってポリマー鎖を互いに連結する化学反応を指す。
【0052】
加硫性ゴム組成物における使用に適した加硫性ゴム成分は、オレフィン性不飽和を含有する1種以上のゴムまたはエラストマー、すなわちジエン系ゴムまたはエラストマーを含む。「ゴム」および「エラストマー」という用語は特に断らない限り、本明細書全体にわたって互換的に使用することができる。ゴム成分はまた、オレフィン性不飽和を含有するゴムと、例えば熱可塑性または熱硬化性ポリマーなどのような不飽和を含有しない他のポリマー材料との混合物を含んでもよい。しかしながら、好ましくは、ゴム成分は、オレフィン性不飽和を含有する1種以上のゴムのみを含む。「オレフィン系不飽和を含有するゴム」および「ジエン系ゴム」という語句は、互換的に使用され、天然ゴムおよび合成ゴムの両方またはそれらの混合物を包含することが意図される。天然ゴムは、その未加工形態で、およびゴム加工の技術分野で従来から知られている様々な加工形態で使用することができる。これに限定されるものではないが、合成ジエン系ゴムは、単独でまたは他のモノマーと共にゴムを構成する少なくとも1つのジエン系モノマーを含有する任意のゴムであってよい。本発明の実施において好適な例示的なジエン系ゴム材料には、天然ゴム、エマルジョン-スチレン-ブタジエンゴム、溶液-スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、ならびにそれらの任意の組み合わせが包含されるが、これらに限定されない。本発明によるゴム組成物は、1種以上の非ジエン系ゴム材料を含むこともできる。本発明の実施において好適な例示的な非ジエン系ゴム材料には、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリレートゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、エチレン-アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フルオロカーボンゴム、およびそれらの任意の組み合わせが包含されるが、これらに限定されない。好適なゴムには、官能化ゴム、およびケイ素またはスズに結合したゴムも包含される。例えば、ゴムは、アミン、アルコキシ、シリル、チオール、チオエステル、チオエーテル、スルファニル、メルカプト、スルフィド、またはそれらの組み合わせのような官能基で官能化され得る。1つ以上の官能基は、一次、二次または三次であり得、そして1つまたは両方の鎖末端(例えば、α、ω-官能化)に位置することができ、ポリマー主鎖から吊り下がることができ、および/またはポリマー主鎖の鎖内に提供されることができる。本発明によるゴムは、部分的に架橋することもできる。従って、加硫性ゴム組成物に使用する前に、ゴム物質のポリマー鎖の一部を、カップリング剤の手段によって、またはカップリング剤なしで架橋することができる。ポリマー材料はさらに、任意の形態で、しかし典型的にはベール(bales)またはチップ(chips)として供給することができる。
【0053】
好ましくは、ゴム成分は、天然ジエン系ゴムおよび合成ジエン系ゴムの混合物を含む。本発明の実施に用いることができる非限定的な特定のゴム材料は例えば、トリンセオ・ドイツ社から市販されているスプリンタン(Sprintan)SLR4630である。
【0054】
加硫性ゴム組成物は、酸化カーボンブラックまたはそれから誘導される官能化カーボンブラックを、10~100phr、例えば40~80phrの量で含むことができる。本明細書で使用される「phr」という用語は、ゴムまたはエラストマー100重量部当たりの列挙された個々の材料の重量部を指す。本発明による加硫性ゴム組成物は、0.1~10phr、例えば0.2~5phrまたは0.3~3phr、好ましくは0.3~2phr、例えば0.5~1.5phrの量で、硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩をさらに含むことができる。それによって、硫黄含有第一級または第二級アミンは、アンモニウムまたはハロゲン化水素塩の形態などの塩の形態で使用することができる。
【0055】
本発明に係る加硫性ゴム組成物は、必要に応じて、ゴムの硬化を誘発することができる少なくとも1種の加硫剤をさらに含んでいてもよい。可能な加硫剤には、硫黄および硫黄供与体のような当技術分野で知られている任意の加硫剤が包含される。本発明の実施に適した硫黄供与体には、例えば、ジチオアルカン、ジカプロラクタムスルフィド、ポリスルフィドポリマー、硫黄オレフィン付加体、チウラム、および硫黄架橋に少なくとも2個の硫黄原子を有するスルホンアミドが包含される。好ましくは、元素状硫黄を使用することができる。加硫剤は、加硫性ゴム組成物中に0.5~8phr、例えば1~4phrの範囲の量で存在することができる。
【0056】
さらに、加硫性ゴム組成物は、塩基性金属酸化物および/または金属水酸化物などの塩基を含むことが好ましい。好適な塩基性金属酸化物は、Na2O、K2O、CaOまたはMgOなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物によって例示することができる。好適な金属水酸化物は、例えばNaOH、Mg(OH)2またはCa(OH)2などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物によって例示することができる。これらの成分は、酸性副生成物を中和し、水を吸着し、および/または硬化活性化剤として作用し得るので、酸化カーボンブラックの硫黄含有アミンによるその場官能化を補助するために包含されてもよい。塩基性の金属酸化物および金属水酸化物は、それぞれ独立して、0.1phr~5phr、例えば1phr~3phrの範囲の量で含まれ得る。
【0057】
加硫性ゴム組成物は、例えば、他のカーボンブラック、シリカ、有機シリカ、カーボンナノチューブ、カーボン繊維、グラファイト、金属繊維などの1種以上のさらなる充填材料をさらに含んでもよい。この点で有用なカーボンブラックは、ASTM D1765に従って分類されるような100er~900erシリーズから選択されるASTMグレードのカーボンブラックによって例示することができる。
【0058】
本発明による加硫性ゴム組成物は、他の一般的に知られた添加剤をさらに含んでもよい。このような添加剤には、例えば、硬化助剤(一次および二次加硫促進剤、活性化剤、予備加硫阻害剤など)、加工添加剤(油、粘着付与樹脂の形態の樹脂および可塑剤など)、軟化剤、顔料、ワックス、素練り促進剤(peptizing agents)、ならびに老化防止剤(酸化防止剤およびオゾン劣化防止剤など)が包含される。一次および二次加硫促進剤として有用なものは、例えば、グアニジン、ジカルバメート、ジチオカルバメート、チウラム、チオウレア、2-メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾチアゾールスルホンアミド、アルデヒドアミン、アミン、ジスルフィド、チアゾール、キサンテート、およびスルフェンアミドである。具体例としては、例えば、ライン・ケミー・アディティブス社からレノグラン(Rhenogran)TBBS-80の商品名で市販されているN-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、およびライン・ケミー・アディティブス社からレノグランDPG-80として市販されているジフェニルグアニジンを参照することができる。好適な活性化剤には、酸化亜鉛等と、ステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸またはナフテン酸のような脂肪酸との組み合わせが包含される。一次促進剤は、0.05~4phrの範囲の総量で組成物中に存在することができる。二次促進剤は、典型的には一次促進剤よりも少量で使用され、0.05~3phrの範囲の量で組成物中に存在することができる。
【0059】
理解されるように、本発明による加硫性ゴム組成物は、損失ヒステリシスが低減され、フィラー-ゴム結合が強化されおよび/または耐摩耗性が増大されたゴムベースの材料を必要とする様々な技術的用途に利用することができる。従って、本発明はまた、上記の加硫性ゴム組成物から製造されるか、またはそれを含む物品に関する。そのような物品の非限定的な例は例えば、タイヤ、タイヤトレッドもしくはサイドウォールのようなタイヤ部品、ケーブルシース、チューブ、駆動ベルト、コンベヤベルト、ロールカバー、靴底、シール部材、プロファイルまたは制動素子(damping elements)である。低ヒステリシスと高耐摩耗性との並外れた組合せにより、本発明による加硫性ゴム組成物は、耐摩耗性かつ省燃費性タイヤまたは転がり抵抗および熱蓄積を低減したタイヤ部品を製造するのに特に興味深い。このようなタイヤには例えば、これに限定されないが、トラック用タイヤ、乗用車用タイヤ、オフロード用タイヤ、航空機用タイヤ、農業用タイヤ、およびアースムーブ用タイヤが包含される。
【0060】
本発明による加硫性ゴム組成物は、官能化カーボンブラックがエクスサイチュ(ex-situ)またはインサイチュ(in-situ)で、すなわち、加硫性ゴム成分の不存在・存在それぞれの状態で製造される方法によって得ることができる。したがって、本発明はまた、酸化カーボンブラックを硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と接触させること、および、酸化カーボンブラックが硫黄含有第一級もしくは第二級アミンまたはそれらの塩と反応して官能化カーボンブラックを形成する条件に、得られた混合物を供することを含む、加硫性ゴム組成物の調製方法に関し、ここで、加硫性ゴム成分は、酸化カーボンブラックが硫黄含有アミン成分と反応する条件に、上記混合物を供する前、供する間および/または供した後に、酸化カーボンブラックおよび硫黄含有アミン成分またはそれから誘導される官能化カーボンブラックと混合される。
【0061】
本発明の好ましい実施において、官能化カーボンブラックは、加硫性ゴム組成物の存在下で形成される。したがって、加硫性ゴム成分は好ましくは、酸化カーボンブラックが硫黄含有アミン化合物と反応する条件に上記混合物を供する前または供する間に、酸化カーボンブラックおよび硫黄含有アミン化合物と混合される。
【0062】
この方法は、酸化カーボンブラックおよび硫黄含有アミン化合物をゴム成分と混合する間、混合する前または混合した後に、塩基性の金属酸化物および/または金属水酸化物、例えば上記のものを追加することをさらに含むことができる。好ましくは、金属酸化物および金属水酸化物は、ゴム成分と共にカーボンブラックおよび硫黄含有アミン化合物に添加される。
【0063】
混合は、酸化カーボンブラック材料、硫黄含有アミン成分、加硫性ゴム成分、および存在する場合には金属酸化物および/または金属水酸化物、ならびに、使用される場合には任意のさらなる選択的成分が、少なくとも部分的に一緒に混合されるように実施することができる。好ましくは、全ての成分は、少なくとも巨視的に均質な混合物が得られるように、完全に一緒に混合される。
【0064】
この方法は、加硫性ゴム成分を酸化カーボンブラックおよびアミン化合物と混合する前に、加硫性ゴム成分を例えば撹拌手段によって可塑化する工程を含むことができる。この目的のために、加硫性ゴム成分は、内部ミキサーのような適格な器具中に提供され得、そして2分間以下、例えば1分間以下、例えば45秒間、撹拌され得る。続いて、可塑化された加硫性ゴム成分に、酸化カーボンブラック、硫黄含有アミン成分および潜在的なさらなる任意成分を添加することができ、上記に開示されるように一緒に混合することができる。
【0065】
混合は、ゴム加工の技術分野で従来から知られている技術および器具を用いて行うことができる。混合は例えば、ミキサー、撹拌機、ミル、混練機、超音波を使用する機械、溶解機、振とう機ミキサー、ロータ-ステーター分散アセンブリー、または高圧ホモジナイザー、またはそれらの組み合わせによって達成され得る。好ましくは、かみ合い型または接線型のロータ形状を有するミキサーが利用される。
【0066】
混合は、必要であれば、混合物の成分を室温より高い温度に加熱することを包含することができる。しかしながら、好ましくは、混合は、撹拌プロセス自体によって生成され得る熱の他に、混合物に余分な熱を提供することなく実施される。撹拌方法から生成された温度を利用して、酸化カーボンブラックが硫黄含有アミン成分と反応して官能化カーボンブラックを形成する条件に混合物を供することができる。混合中の条件は、例えば酸化カーボンブラックのカルボキシル基と硫黄含有アミン成分のアミン基との間のアミド結合が形成されるように選択することができる。それによって、混合物の温度は、必要に応じてロータ速度を徐々にまたは段階的に変更することによって、典型的には200℃未満、好ましくは約150℃に維持される。
【0067】
混合は、ゴム成分とのおよび任意のさらなる成分との均質化の間に、官能化カーボンブラックの形成下で、酸化カーボンブラックが硫黄含有アミン成分と反応するように、すなわち、均質化および反応が単一の混合ステップで起こるように、実施され得る。しかしながら、本発明の好ましい実施において、酸化カーボンブラック、硫黄含有アミン成分、ゴム成分および任意のさらなる成分は、第1の混合ステップにおいて少なくとも肉眼的に均質化され、こうして得られた混合物は、混合物の成分を第2の混合ステップに供する前に、室温まで冷却される。2つの混合ステップ中の具体的な混合条件に応じて、酸化カーボンブラックと硫黄含有アミン成分との間の反応は、第1および/または第2の混合ステップで起こり得る。
【0068】
第1の混合ステップの所要期間は、変化させることができる。しかしながら、成分の化学的性質に依存して、混合時間は重要であり得る。例えば、成分のいくつかは粘着性であり得、この場合、オープンミル上での広範な混合は避けるべきである。典型的には、第1のステップにおける混合時間は、10分未満、例えば5分未満、2分未満、例えば90秒である。第1の混合ステップにおける組成物の放出温度は、典型的には190℃未満、好ましくは130℃~150℃に維持される。
【0069】
第1の混合ステップの後、得られた混合物は、直ちに第2の混合ステップに供され得るか、または2つのステップの間に貯蔵され得る。混合物は、例えば数分~数ヶ月、例えば少なくとも60分間、または少なくとも12時間放置することができる。第2の混合ステップの前に、混合物は、別の混合室および/または別の場所、例えば顧客に移送することができる。
【0070】
第2の混合ステップにおいて、混合物は典型的には例えば、かみ合い型ロータ形状を有する内部ミキサーを使用して撹拌される。ロータ速度は10~150rpm、好ましくは80~120rpmの範囲とすることができ、これにより、追加の加熱源を適用する必要がないように混合物を加熱することができる。第2の混合ステップの所要期間は、数秒~数時間の範囲、例えば1分または5分から2時間または30分までであり得る。ロータ速度は、混合物の温度を特定のレベル、例えば120℃~200℃または140℃~180℃の範囲、例えば約150℃に維持するために、その間に調節することができる。
【0071】
第1の混合ステップの後、または存在する場合には第2の混合ステップの後、加硫性ゴム組成物の調製方法は、好ましくは硫黄または硫黄ドナーまたは他の加硫剤、および必要に応じて、1つ以上の活性剤、1つ以上の促進剤、および上記のようなゴム配合の技術分野で従来使用されているさらなる成分を混合物に添加するステップをさらに含む。続いて、組成物の少なくとも部分的または好ましくは完全な混合を達成するために、組成物を機械的に撹拌することが好ましい。混合は、典型的には10℃~140℃、より典型的には80℃~120℃の温度で、5分未満、例えば3分未満の一定の撹拌下で行われる。条件、特にロータ速度は、硬化剤を含有する混合物の温度が110℃未満になるように選択することができる。
【0072】
このようにして得られた混合物を硬化、すなわち加硫することができる。この手段によって、ゴム材料のポリマー鎖の架橋に加えて、官能化カーボンブラック粒子のゴムマトリックスへの連結も、硫黄含有アミンによってカーボンブラック粒子の表面に導入された硫黄官能基を介して達成することができる。この結合は、カーボンブラック-エラストマー相互作用を増加させると考えられる。
【0073】
硬化は、ゴム加工の分野で知られているような従来の硬化手段および条件を用いて行うことができる。例えば、本発明による加硫性ゴム組成物の硬化は、混合物を熱硬化条件、例えば120~200℃の温度に5分~3時間かけることによって行うことができる。硬化は例えば、硬化プレス中、例えば160℃の温度で60分間、120~150バールの圧力で行うことができる。
【0074】
本発明を以下の実施例によりさらに説明する。実施例は、例示のために含まれており、本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことが理解されるべきである。特に、求められる保護範囲は、以下に開示される特定の実施例によって限定されるものではなく、むしろ、その任意の等価物を包含する添付の特許請求の範囲の全範囲が与えられるべきである。
【実施例】
【0075】
本明細書中で言及される全ての部および割合は、別段の指示がない限り、重量に基づく。
適用されるカーボンブラック材料
【0076】
酸化カーボンブラック(CB)として、表1に要約した特性を有し、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されているEB287を使用した。
【0077】
参照として、オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている非酸化カーボンブラックグレードのプリンテクス(PRINTEX)(登録商標)60を用いた。その特性は、同様に表1に含まれる。
【表1】
カーボンブラックのキャラクタリゼーションのための適用された方法
【0078】
BET表面積は、ASTM D6556-17に従って窒素吸着によって測定した。
【0079】
統計的厚さ表面積(STSA)は、ASTM D6556-17に従って決定した。
【0080】
吸油量(OAN)は、ASTM D2414-18に従って測定した。
【0081】
圧縮試料の吸油量(COAN)は、ASTM D3493-18に従って測定した。
【0082】
pHは、D1512-15b、試験方法B-ソニックスラリー(Test Method B-Sonic Slurry)に従って測定した。
【0083】
950℃の揮発分は、LECOインスツルメンツ社の熱重量測定装置(TGA-701)を用いて、以下のプロトコールにしたがって測定した。試料皿を650℃で30分間乾燥させた。カーボンブラック材料を測定前に、乾燥剤を備えたデシケータ中に保存した。焼き出した試料皿を装置に装填し、皿の重量を量り、0.5g~10gのカーボンブラック材料で満たした。次いで、試料充填皿を装填したTGA機器のオーブンを、自動ソフトウェア制御によって105℃まで徐々に加熱し、一定の質量が達成されるまで試料を乾燥させた。続いて、皿を蓋で閉じ、オーブンを窒素(99.9体積%グレード)でパージし、950℃まで加熱した。オーブン温度を950℃で7分間維持した。950℃における揮発分の含有量は、下記式を用いて計算した。
【数1】
【0084】
単位質量カーボンブラック当たりのカルボン酸基を、以下のプロトコールに従って決定した。カーボンブラックを、125℃の温度で設定した箱型乾燥機中で一晩乾燥した。熱いカーボンブラック材料を乾燥機から取り出し、乾燥剤を含むデシケータ中で冷却させた。十分に洗浄・乾燥した3本の三角フラスコに、m
CB=1.5±0.1gのカーボンブラック材料をそれぞれ秤量し、25mlの0.05モーラー水酸化ナトリウム水溶液(二重蒸留水(bi-distilled water)で希釈したチトリゾル(Titrisol)グレード)をそれぞれ加えた。フラスコ内の空気を窒素ガスで置き換え、フラスコをプラグで密封し、さらにパラフィルムでテープ止めすることによって担保した。フラスコを240rpmで一晩振とう機に入れた。その後、得られた懸濁液を、窒素ガスを用いて5バールの圧力で加圧濾過した。各濾液10mLをビーカーに移した。10mLの0.025モーラー硫酸(二重蒸留水で希釈したチトリゾルグレード)を各ビーカーに添加し、短時間沸騰させることによって炭酸塩を除去した。続いて、試料を、0.05モーラーの水酸化ナトリウム溶液(二重蒸留水で希釈したチトリゾルグレード)を用いてpH6.5に滴定して戻した。水酸化ナトリウム溶液の必要量V
NaOHを、カンマの3桁後ろの精度のmL単位で測定した。2つのブランクを測定し、必要量の水酸化ナトリウム溶液を平均した(Vフ゛ランク
,平均)。μmol/gでのカルボキシル基の濃度を、下記式を用いて3つの試料すべてについて計算し、得られた値を平均した。
【数2】
加硫性ゴム組成物の調製
【0085】
硫黄含有アミンとして異なる量のシスタミンと一緒に、前述の酸化カーボンブラックおよび参照カーボンブラックを使用し、以下の手順に従って、表2に示す製剤のゴム組成物を調製した。
【0086】
調製は、3ステップ混合手順を用いて行った。各混合ステップは、かみ合い型ロータ形状(GK1.5E)を有する内部ミキサーで実施した。これに続いて、冷却し、オープンミルでさらに混合した。
【0087】
最初に、ゴム成分を内部ミキサーの混合室に添加し、45秒間可塑化した。その後、カーボンブラック充填剤、Ca(OH)2、MgOおよびシスタミン*2HClを添加し、90秒間混合した。ラム(ram)を持ち上げ、洗浄した後、さらに135秒間混合した。このステップの間、最高温度が160℃を超えないことを確保した。
【0088】
少なくとも12時間貯蔵した後、混合物を、第2の混合ステップにおいて、最大ロータ速度(104rpm)を適用することによって、内部ミキサー中で150℃まで加熱した。ロータ速度を調節することによって、温度をおおよそ2.5分間維持した。
【0089】
次に、この混合物にZnO、ステアリン酸、硫黄、TBBS-80、DPG-80を加え、2分間撹拌して加硫性ゴム組成物を得た。このステップの間、最高温度が110℃を超えないことを確保した。
【表2】
加硫性ゴム組成物の硬化
【0090】
加硫性ゴム組成物を、160℃で60分間、硬化プレス中で硬化に供した。印加圧力は120~150バールであった。
硬化ゴム組成物の特性評価
【0091】
ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)は、ISO289-1:2015に従って測定した。
【0092】
硬度は、DIN 53 505に従って測定した。
【0093】
引張強度、破断伸びおよび弾性率200は、DIN 53 504に従って測定した。
【0094】
ボールリバウンドは、ASTM 3574およびDIN ISO 8307に基づく試験方法に従って、以下のように実施して測定した。直径35mmおよび高さ19mmの円筒形試験サンプルを60±0.2℃まで加熱した。試験サンプルの円形領域は滑らかであり、互いに平行であることが保証された。直径19mmの鋼球を、試験サンプルの円形領域の1つに落下チューブを通して落下高さ500mmから落下させた。高さは、鋼球の最下点と試験試料への衝撃点との距離に相当する。試験試料への鋼球の第一と第二の衝撃の間の時間的間隔を、試験試料への衝撃点の上近くに位置するライトバリア(light barrier)によって測定した。ライトバリアの時間分解能は10-4sであった。試験サンプル当たり5回の実験で測定した時間的間隔を平均し、反発高さを計算するために適用した。次いで、リバウンド高さを再び利用して、落下高さに対するリバウンド高さのパーセンテージ比に対応するボールリバウンドを計算した。
【0095】
DIN摩耗量は、DIN ISO 4649:2014-03に従って試験した。
【0096】
熱蓄積は、1MPaの予備張力と4.45mmのストロークを適用したDIN 53 533に従って試験された。チャンバ温度は55℃である。
【0097】
損失係数tanδおよび複素弾性率E*は、DIN 53 513に従って、60℃、16Hzの周波数で、円筒形試験片(高さ10mm、直径10mm)上で、歪み制御モード(1±0.5mm)で測定した。
【0098】
結合ゴムを以下の手順に従って測定した。約0.2gのゴム試料を小片に切断し、分析用天秤を用いて秤量し、試料がワイヤバスケットと接触しないように、ガラスウールを充填したワイヤバスケット(320メッシュ、ステンレス、直径22mm、高さ40mm)に入れた。試料含有バスケットをスクリューキャップ付き100mLフラスコに入れ、50~60mLのトルエン(分析グレード)を加えて、フラスコの底部の上方20mmの最小充填レベルを得た。フラスコを23±2℃の温度で7日間放置し、それによってフラスコを毎朝および毎晩旋回させた。1~3日後にトルエンを交換した。7日後、結合したゴムゲルを中に有するバスケットをフラスコから取り出し、ヒュームフード中で一晩溶媒を放出させた。続いて、試料を、質量が一定になるまで、箱型乾燥機中で一晩乾燥させた。デシケータ中で室温まで冷却した後、試料を秤量した(m(乾燥ゲル))。元の試料の質量に対する結合ゴムの重量%での割合を、下記式を用いて計算した。
【数3】
ゲル中のカーボンブラック充填剤の質量は、元のサンプル中のカーボンブラック充填剤の質量(m(充填剤,元の試料))と同じであると仮定した。
【0099】
【0100】
表3の結果は、ゴム組成物中に酸化カーボンブラックを使用することによって、酸化的に処理されていない対応する参照カーボンブラックと比較して、減少した損失係数tanδ、減少した熱蓄積、増加したボールリバウンドおよび/または増加した結合ゴムによって証明されるように有意に改善されたヒステリシス特性を有するゴム物品が得られることを示している(例3および例1の対比を参照)。この効力は、例5~9によって証明されるように、酸化カーボンブラックを硫黄含有アミンで処理した場合に、例3と比較してさらに増強することができる。表3に示されるように、官能化硫黄含有アミンの使用は、耐久性および強化のための指標をさらに改善する。これは、DIN摩耗試験において摩耗した材料の量が少ないことに反映される。さらに、酸化カーボンブラックと硫黄含有アミンとの組み合わせは、得られるゴム化合物の静的および動的剛性の両方を改善し、これはそれぞれ、増加した弾性率200およびE*値によって反映される。これらの効果は、ゴム組成物が酸化的に処理されていない参照カーボンブラックを含む場合(例2参照)、観察されないか、またはるかに少ない程度である。さらに、ゴム組成物の調製において、硫黄含有アミン成分を含まないMgOおよびCa(OH)2の添加は反対に、いくらかの弾性率の低下および引張強度の増大をもたらし、ヒステリシス関連特性に影響を及ぼさない(例4および例3の対比を参照)。これは、硫黄含有アミンおよびそれと反応する酸化カーボンブラックの両方の存在が上述の有益な特性の組み合わせを達成するために重要であることを示す。特に好ましい特性は、カーボンブラックの量に関して比較的少ない量の官能化剤が使用される場合に得られる(例4および例5の対比を参照)。
【国際調査報告】