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特表2022-539210マルチパラレルバイオリアクター中で接着性細胞を培養するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】マルチパラレルバイオリアクター中で接着性細胞を培養するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20220831BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20220831BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220831BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N7/00
C12N5/10
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021578012
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 US2020040359
(87)【国際公開番号】W WO2021003188
(87)【国際公開日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】62/869,050
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518068006
【氏名又は名称】オロジー バイオサーヴィシズ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ベラ, エリック
(72)【発明者】
【氏名】グリーン, エイプリル
(72)【発明者】
【氏名】ベリー, ダルトン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC03
4B029CC08
4B029CC11
4B029DA01
4B029DB01
4B029DF08
4B029GA01
4B029GA02
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC41
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、接着性細胞の成長および産生パラメーターの最適化のために、PETキャリアストリップを使用して、マルチパラレルバイオリアクター中で接着性細胞を培養する方法に関する。本発明はまた、産生プロセス最適化のために、マルチパラレルバイオリアクター中で接着性細胞からウイルスおよびベクターを増殖させる方法に関する。本発明は、接着性細胞の成長および産生パラメーターの最適化のためにマルチパラレルバイオリアクターにおいて接着性細胞を培養する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスの中で接着性細胞を成長させるプロセスであって、前記プロセスは、
前記接着性細胞を、培養ディッシュ中に保持されたキャリア上に播種する工程;
前記キャリア上の前記接着性細胞を、前記マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスに移す工程;
200rpm~1200rpmの間のインペラー速度において培地を撹拌する間に、格納ボックスの中で前記接着性細胞を成長させる工程、
を包含するプロセス。
【請求項2】
前記キャリアは、PETストリップである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記培養ディッシュは、6ウェルプレートである、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
請求項1または2のマルチパラレルバイオリアクターの格納ボックス中で接着性細胞の細胞成長を最適化するプロセスであって、前記プロセスは、
前記マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスに前記キャリア上の接着性細胞を移して3~10日後に、前記接着性細胞を採取する工程、
をさらに包含するプロセス。
【請求項5】
請求項1または2のマルチパラレルバイオリアクターの格納ボックス中で接着性細胞を成長させるプロセスであって、前記プロセスは、
前記キャリア上の接着性細胞を、少なくとも1個のウイルスまたはウイルス粒子に感染させる工程;
前記キャリア上の接着性細胞を、前記ウイルスとともにインキュベートする工程;および
前記ウイルスを採取する工程、
をさらに包含するプロセス。
【請求項6】
請求項1または2のマルチパラレルバイオリアクターの格納ボックス中で接着性細胞を成長させるプロセスであって、前記プロセスは、
前記細胞を、生物学的因子を産生する少なくとも1個のベクターで処理する工程;
前記キャリア上の接着性細胞をベクターとともにインキュベートする工程;
前記生物学的因子を採取する工程、
をさらに包含するプロセス。
【請求項8】
前記ベクターは、改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、レトロウイルス、およびアデノウイルスの群から選択されるウイルスベクターである、請求項6に記載のプロセス。
【請求項9】
前記接着性細胞は、Madin-Darbyイヌ腎臓上皮細胞(MDCK)細胞、Madin-Darbyウシ腎臓上皮(MDBK)細胞、ニワトリ細胞もしくはウズラ細胞、PerC6細胞、3T3細胞、NTCT細胞、CHO細胞、PK15細胞、MDBK細胞、LLC-MK2細胞、MRC-5細胞、HEK293細胞、Hela細胞、またはこれらの組み合わせもしくは改変物からなる群より選択される、請求項1、2、3、4、および5に記載のプロセス。
【請求項10】
前記接着性細胞は、Vero細胞である、請求項1~9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記接着性細胞は、HEK293細胞である、請求項1~9に記載のプロセス。
【請求項12】
前記インペラー速度は、300rpm~1000rpmの範囲に及ぶ、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記インペラー速度は、300rpmである、請求項1または請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記PETストリップの成長面積は、10cm~15cmの範囲に及ぶ、請求項2に記載のプロセス。
【請求項15】
前記PETストリップの成長面積は、13.9cmである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項16】
前記PETストリップは、繊維の交織から作製される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項17】
前記接着性細胞は、クローズドループ製造シスステムの中で成長させられる、請求項1~17に記載のプロセス。
【請求項18】
前記マルチパラレルバイオリアクターは、少なくとも2個の格納ボックスを有する、請求項1~17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記マルチパラレルバイオリアクターは、24個の格納ボックスを有する、請求項1~18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記マルチパラレルバイオリアクターは、AMBR 15、AMBR 250、Solida Biotechパラレルバイオリアクター、およびxCubioバイオリアクターを含む群から選択される、請求項1~16に記載のプロセス。
【請求項21】
前記プロセスは、産生プロセス最適化のために、DOE試験または小規模バイオリアクター作戦を行うために使用される、請求項1~16に記載のプロセス。
【請求項22】
前記最適化される産生プロセスは、細胞増殖、ウイルス産生、抗体産生である、請求項21に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
【化1】
関連出願の相互参照
本願は、2019年7月1日出願の米国仮特許出願第62/869050号(これはその全体において本明細書に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、接着性細胞の成長および産生パラメーターの最適化のためにマルチパラレルバイオリアクターにおいて接着性細胞を培養する方法に関する。本発明はまた、産生プロセス最適化のためにマルチパラレルバイオリアクターにおいて接着性細胞からウイルスおよびベクターを増殖させるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
マルチパラレルバイオリアクター(例えば、AMBRシステム(Sartorius))は、迅速な概算時間での懸濁細胞成長パラメーターおよび条件のプロセス開発およびプロセス最適化のために利用され得る完全自動化1回使い切りのバイオリアクターである。マルチパラレルバイオリアクターは、歴史的に、複数同時の実験計画法(DOE)を行うために使用されてきた。なぜならそれらは、少量の資源および試薬を利用し、数分の1のコストで、旧来のリアクターにおいて行われ得るものより高いスループットで実験を行う能力を有するからである。しかし、これらのシステムは現在のところ、懸濁細胞プラットフォームのために利用され得るに過ぎない。種々の生物学的因子(例えば、ウイルス、ウイルスベクター)が、接着性細胞において増殖されるようによりよく適合され、これらのマルチパラレルバイオリアクターを、DOEならびに接着性バイオリアクターと関連する産生手順およびパラメーター最適化のために接着性細胞に適合性にする手順は、必須である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の簡単な要旨
本開示の手順は、接着性細胞の成長および産生パラメーターを最適化するために、マルチパラレルバイオリアクターにおいて接着性細胞のための固体付着プラットフォームを使用するための新規な方法を提供する。
【0005】
第1の局面において、本発明は、マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスの中で接着性細胞を成長させるプロセスであって、上記プロセスは、上記接着性細胞を、培養ディッシュ中に保持されたPETストリップ上に播種する工程、上記PETキャリアストリップ上の接着性細胞を、上記マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスに移す工程、および200rpm~1200rpmの間のインペラー速度で、格納ボックスにおいて上記接着性細胞を成長させる工程を包含するプロセスを提供する。
【0006】
別の局面において、本発明のプロセスは、上記PETキャリアストリップ上の接着性細胞を上記マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスに移して3~10日後に、上記接着性細胞を採取する工程をさらに包含する。
【0007】
本発明の別の局面において、本発明のプロセスは、上記PETキャリアストリップ上の接着性細胞を、少なくとも1個のウイルスまたはウイルス粒子に感染させる工程、上記PETキャリアストリップ上の接着性細胞を、上記ウイルスとともにインキュベートする工程、および上記ウイルスを採取する工程をさらに包含する。
【0008】
本発明のさらに別の局面において、本発明のプロセスは、上記細胞を、生物学的因子を産生する少なくとも1個のベクターで処理する工程、上記PETキャリアストリップ上の接着性細胞をベクターとともにインキュベートする工程、および上記生物学的因子を採取する工程をさらに包含する。
【0009】
本発明のプロセスの他の特徴、利点、および局面は、以下の詳細な説明、実施例および特許請求の範囲から当業者に明らかになる。しかし、本発明の好ましい実施形態を示す詳細な説明および実施例は、例証目的で記載されるに過ぎない。開示される発明の趣旨および範囲内の種々の変更および改変は、本明細書で提供される説明を読んで理解することによって、当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、細胞の播種のための6ウェルプレート中にあるPETキャリアストリップを図示する。3枚のPETストリップを、6ウェルプレートの1ウェルに配置し、1mLの培地で覆った。次いで、細胞を、上記培地ウェルに添加し、37℃で一晩インキュベートする。
【0011】
図2図2は、接着性細胞を有するPETキャリアストリップを、マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスの中に挿入することを示す。
【0012】
図3図3は、上記マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックス内の、培地中の接着性細胞を有するPETキャリアストリップを図示する。上記格納ボックスは、インペラーを含む。上記インペラーの設置は、可能である最低のインペラー速度に設定される。赤丸は、上記格納ボックスにおけるインペラーを示す。
【0013】
図4図4は、上記バイオリアクター中にある間の、AMBR格納ボックス内の接着性細胞を有するPETキャリアストリップを図示する。約300rpmおよび1000rpmのインペラー速度が、上記PETストリップに接着した細胞の成長に最適であった。
【0014】
図5図5は、24時間以内での、PETキャリアストリップ上での異なる細胞密度の接着および成長を図示するグラフである。
【0015】
図6図6は、PETキャリアストリップに接着し、上記格納ボックスの中で、37℃において72時間、300rpmのインペラー速度でインキュベートしたVero細胞の成長を図示するグラフである。
【0016】
図7図7は、PETキャリアストリップに接着し、格納ボックスの中で、37℃において6日間、300rpm、650rpm、および1000rpmの撹拌レベルでインキュベートしたVero細胞の成長を図示するグラフである。
【0017】
図8図8は、AMBRシステムを使用して、VCD概念実証の応答形状の図示である。データは、細胞を10,000~12,500 細胞/cmの間で播種し、3日目に採取し、AMBR格納ボックス内で、300~350rpmの間で、37℃において撹拌する場合の、最適な細胞成長を示す。
【0018】
図9図9は、細胞増殖の成功の最大のパーセント変化を示すために使用される設計領域失敗確率モデルを図示する。上記モデルは、播種密度およびインペラー速度を説明する場合の、細胞増殖の最大の失敗確率および成功確率を示す。緑は、最低の失敗確率%を示し、赤は、最高の失敗確率%を示す。
【0019】
図10A図10A~Cは、異なる細胞播種密度からの種々の代謝産物パラメーターの評価を図示する。グルタミン、NH、O、CO、グルコース、およびラクテートを、細胞を種々の細胞密度で播種した場合に評価した。これらの代謝産物パラメーターは、上記細胞の全体的な健康状態を示し、上記パラメーターにおける差異は、播種密度に基づいて観察されなかった。
図10B図10A~Cは、異なる細胞播種密度からの種々の代謝産物パラメーターの評価を図示する。グルタミン、NH、O、CO、グルコース、およびラクテートを、細胞を種々の細胞密度で播種した場合に評価した。これらの代謝産物パラメーターは、上記細胞の全体的な健康状態を示し、上記パラメーターにおける差異は、播種密度に基づいて観察されなかった。
図10C図10A~Cは、異なる細胞播種密度からの種々の代謝産物パラメーターの評価を図示する。グルタミン、NH、O、CO、グルコース、およびラクテートを、細胞を種々の細胞密度で播種した場合に評価した。これらの代謝産物パラメーターは、上記細胞の全体的な健康状態を示し、上記パラメーターにおける差異は、播種密度に基づいて観察されなかった。
【0020】
図11図11は、マルチパラレル容器において、PETストリップ上に播種した接着性細胞のウイルス産生を図示する。溶存酸素85%、40%、20%、および10%でのウイルス産生を示し、ウイルス産生は、溶存酸素の減少に伴って増大する。
【0021】
図12A図12Aは、AMBRシステム中の上記PETキャリアストリップ上の接着性細胞が、組換え水疱性口内炎ウイルス(rVSV)に感染した後の代謝産物変化のグラフを図示する。
【0022】
図12B図12Bは、rVSV感染後のグルタミンアップレギュレーションを示すグラフを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、マルチパラレルバイオリアクターにおいて接着性細胞を使用するための方法を提供する。
【0024】
以下は、本願の詳細な説明の節に該当する。
【0025】
不定冠詞または定冠詞が、単数形の名詞に言及する時に使用される場合(例えば、「1つの、ある(a)」および「1つの、ある(an)」、または「その、この、上記(the)」)、これは、何か他のことが具体的に述べられなければ、その名詞の複数形を含む。本発明の文脈において、用語「約(about)」または「およそ(approximate)」は、当業者が、問題の特徴の技術的効果をなお確実にするために理解する正確度の幅(interval of accuracy)を示す。その用語は、代表的には、その示された数値から、±10%の、および好ましくは±5%の偏差を示す。
【0026】
本発明は、マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスの中で接着性細胞を成長させるためのプロセスであって、上記接着性細胞を、培養ディッシュ中に保持されたPETキャリアストリップ上に播種する工程;上記PETキャリアストリップ上の接着性細胞を、上記マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスに移す工程;および200rpm~1200rpmの間のインペラー速度で、上記格納ボックスの中で上記接着性細胞を成長させる工程を包含するプロセスを含む。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「バイオリアクター(bioreactor)」は、制御された条件下でのウイルスおよびベクターの増殖のような生物学的プロセスが行われ得る生物学的に活性な環境を支持するデバイスである。バイオリアクターは、小規模培養(例えば、研究所において使用されるもの)、およびパイロットプラントまたは商業規模で生物学的高分子(例えば、ワクチンウイルス、抗原、およびベクター)を産生および採取するために、容器または大容器(vat)を含む大規模バイオリアクターのために設計され得る。バイオリアクターは、懸濁細胞および接着性細胞の両方を増殖させるために使用され得る。上記バイオリアクターは、酸素、窒素、二酸化炭素、およびpHレベルが調節され得る制御された環境である。酸素、pH、温度、およびバイオマスのようなパラメーターは、周期的間隔で測定される。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「マルチパラレルバイオリアクター(multiparallel bioreactor)」とは、少なくとも2個のバイオリアクター容器が並行して実行されるデバイスである。本明細書で使用される場合、「格納ボックス(containment box)」とは、マルチパラレルバイオリアクターの容器である。マルチパラレルバイオリアクターは、6~100個の格納ボックスを有し得る。好ましくは、上記マルチパラレルバイオリアクターは、12~24個の格納ボックスを有する。マルチパラレルバイオリアクターは、各格納ボックスが、培地充填、接種、サンプリング、および供給に関して制御され得るように、完全に自動化されていてもよい。格納ボックスは、1回使用の使い捨て容器であり得る。各格納ボックスは、温度、pH、およびインペラー速度に関して個々に制御され得る。各格納ボックスは、pHおよび溶存酸素(DO)の連続モニタリングのためのセンサーポート、撹拌/かき混ぜるためのインペラー、培地/試薬添加のための供給チューブ、N、O、および空気の送達のためのガス送達チューブ、ならびにサンプル取り出しのためのサンプルポートが挙げられるが、これらに限定されない部品を含み得る。
【0029】
本発明のプロセスに使用され得る市販のマルチパラレルバイオリアクターの例としては、AMBR 15、AMBR 250、Solida Biotechパラレルバイオリアクター、およびxCubioバイオリアクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
上記バイオリアクターの収容能力は、上記バイオリアクター中に保持され得る培地の容積である。マルチパラレルバイオリアクター収容能力は、各格納ボックスの収容能力である。上記マルチパラレルバイオリアクター収容能力または「収容能力(capacity)」は、本明細書で使用される場合、5mL~約5Lの範囲に及び得る。上記収容能力は、約2mL~約10mL、約5mL~約50mL、約25mL~約100ML、約75mL~約500mL、約250mL~約750mL、約600mL~約1000mLであり得る。好ましくは、上記収容能力は、15mLまたは250mLであり得る。より好ましくは、上記格納ボックス容積は、15mLである。
【0031】
上記マルチパラレルバイオリアクターは、クローズドループであり得る。本明細書で使用される場合、「クローズドループ(closed-Loop)」とは、生成物が室内環境に曝されず、材料が上記クローズドループシステムから導入または除去され得るが、室内環境への上記生成物の曝露を回避する方法で行われるように設計および操作される装置を有するプロセスシステムを意味する。「マルチパラレルバイオリアクター代謝産物(multiparallel bioreactor metabolite)」または「代謝産物(metabolite)」とは、上記細胞の成長相およびウイルスもしくはベクターの増殖相の間に上記接着性細胞によって産生される代謝産物を意味し、それは、上記マルチパラレルバイオリアクター上でモニターされ得、NH、二酸化炭素、グルタミン、グルコース、ラクテートが挙げられるが、これらに限定されない。「マルチパラレルバイオリアクター条件(multiparallel bioreactor condition)」または「条件(condition)」とは、上記接着性細胞の成長またはウイルスもしくはベクターの増殖の間にモニターまたは調節され得る上記マルチパラレルバイオリアクターの条件を意味する。条件の例としては、pH、温度、DO、および細胞密度が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書で使用される場合、「キャリア(carrier)」とは、上記接着性細胞が付着し得る任意の固体支持体マトリクスである。キャリアは、ストリップ、シート、繊維、フィラメント、スフェア、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない任意の形状のものであり得る。好ましくは、上記キャリアは、ストリップの形状にあり得る。上記キャリアは、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ガラス、セラミック、金属、アクリルアミド、シリカ、シリコーン、セルロース、デキストラン、コラーゲン、グリコサミノグリカンが挙げられるが、これらに限定されない任意の材料から作製され得る。本発明はまた、未だ公知でないかまたは当業者に将来公知になり得る支持体マトリクスのための材料を想定する。上記材料は、それ自体で、または他の材料とともに使用され得る。好ましくは、上記キャリアは、PETから作製される。
【0033】
上記キャリアは、1cm~約50cmの範囲に及ぶ異なる平均成長面積を提供し得る。上記キャリアは、約1cm~約10cm、約5cm~約50cm、約25cm~約100cm、約50cm~約500cm、約250cm~約750cm、約600cm~約1000cmの平均成長面積を提供し得る。好ましくは、上記キャリアは、約5cm~20cmの面積を提供し得る。より好ましくは、上記キャリアは、約13.9cmの面積を提供し得る。最も好ましくは、上記キャリアは、高い表面積を含むPETストリップであり、これは、約13.9cmの成長面積を提供して、接着性細胞成長の高密度成長を促進する環境を生じる。上記成長面積は、三次元面積であり、これは、上記ストリップ内の織られたPET繊維に起因して増大される。
【0034】
上記格納ボックスの内部で培養培地をかき混ぜるまたは動かすことに関する撹拌は、上記格納ボックスの中で上記細胞に栄養素を供給し、上記格納ボックスの中で培養培地中のDO濃度を増大させるように行われ得る。上記撹拌は、プロペラまたはインペラーのような機器によって行われ得る。好ましい撹拌は、上記格納ボックスの中でインペラーを使用することによって行われる。「インペラー(impeller)」とは、流体の流れの圧力を増大させるためのローターである。上記マルチパラレル容器の各容器は、少なくとも1個のインペラーを有し得る。上記インペラー速度または撹拌速度は、制御され得る。インペラー速度または撹拌速度は、200rpm~2000rpmの範囲に及び得る。好ましくは、上記細胞の成長相および増殖相の間に使用されるインペラー速度または撹拌速度は、200rpm~1000rpmであり得る。より具体的には、上記インペラー速度または撹拌速度は、300rpmである。
【0035】
本明細書で使用される場合、「培養培地(culture media)」または「培地(media)」とは、上記格納ボックスの中で接着性細胞を培養するために使用される液体をいう。本開示の手順において使用される培地は、接着性細胞の成長を支持する種々の成分(アミノ酸、ビタミン、有機塩および無機塩、炭水化物が挙げられるが、これらに限定されない)を含み得る。上記培地は、無血清培地であってもよく、これは、いかなる動物血清をもなしで配合された培地である。使用される場合の無血清培地は、DMEM、DMEM/F12、Medium 199、MEM,RPMI、OptiPRO SFM、VP-SFM、VP-SFM AGT、HyQ PF-Vero、MP-Veroから選択されるが、これらに限定されない。培養培地はまた、動物由来物質がない(animal-free)培地であり得る。すなわち、それは、動物起源のいかなる生成物をも有しない。培養培地はまた、タンパク質なしの培地であり得る。すなわち、上記培地は、タンパク質が配合されていない。
【0036】
接着性細胞は、培養条件において表面に接着する細胞であり、定着が、それらの成長のために要求され得、それらは、定着依存性細胞(anchorage-dependent cell)ともいわれ得る。本開示の手順に適した接着性細胞としては、Madin-Darbyイヌ腎臓上皮細胞(MDCK)、Madin-Darbyウシ腎臓上皮細胞(MDBK)細胞、ニワトリ細胞もしくはウズラ細胞、PerC6細胞、3T3細胞、NTCT細胞、CHO細胞、PK15細胞、MDBK細胞、LLC-MK2細胞、MRC-5細胞、293細胞、Hela細胞、HEK293細胞、またはこれらの組み合わせもしくは改変物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい接着性細胞は、PETストリップのようなキャリアで成長させられ得る定着依存性細胞であるが、接着性細胞として成長するように適合され得る懸濁細胞がまた、使用され得る。より好ましくは、本開示の定着依存性細胞は、Vero細胞である。接着性宿主細胞を選択して、本開示のプロセスを使用することは、当業者の知識の範囲内である。
【0037】
上記接着性細胞は、それらが上記マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックスへと移される前に、キャリア(例えば、PETストリップ)上に予め播種され得るかまたは播種され得る。上記接着性細胞は、培養ディッシュ(例えば、ペトリ皿、6ウェル培養プレート、または12ウェルプレートが挙げられるが、これらに限定されない)中に保持されたキャリアに播種され得る。好ましくは、上記接着性細胞は、1mLの培養物を含む6ウェル培養プレート中に保持されたキャリアに播種され得る。上記接着性細胞は、37℃において8~48時間、上記ストリップとともにインキュベートされ得る。好ましくは、上記接着性細胞は、37℃において8時間、上記ストリップとともにインキュベートされ得る。
【0038】
本開示の手順を行うためにキャリア上に播種される接着性細胞の数は、約10,000個の生細胞/cm~約50,000 生細胞/cmの範囲に及び得る。上記PETキャリアストリップは、媒体として作用して、細胞付着を可能にする。上記ストリップは、接着性細胞成長の高密度成長を促進する環境を生じる、高い表面積を含む。上記マルチパラレルバイオリアクターの格納ボックス中でのこれらのストリップの使用は、このマイクロシステムを利用して、細胞およびウイルス両方の成長または接着性バイオリアクターのプロセス最適化を行うための新規なプラットフォームを提供する。
【0039】
本開示のプロセスのウイルスは、ウイルス、ウイルス抗原、もしくはウイルスベクターまたはこれらの組み合わせもしくは改変物であり得る。上記ウイルスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、チクングニアウイルス、ロスリバーウイルス、A型肝炎ウイルス、ワクシニアウイルスおよび組換えワクシニアウイルス、日本脳炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、狂犬病ウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、およびこれらのキメラ、ならびにライノウイルスおよびレオウイルスの群から選択されるが、これらに限定されない、ウイルス全体、またはウイルス抗原であり得る。好ましくは、上記ウイルスは、VSVであり得る。
【0040】
上記接着性細胞は、ベクターが接種されて、生物学的因子を産生し得る。本明細書で使用される場合、「ベクター(vector)」とは、宿主細胞(例えば、上記接着性細胞)において核酸分子を送達および発現することができる任意の因子に言及し得る。ベクターは、上記細胞に導入され得るかまたは上記接着性細胞の細胞ゲノムの中に組み込まれ得る任意の適切な核酸分子であり得る。ベクターのタイプとしては、裸のDNAを含め、プラスミド、ウイルス、コスミド、またはエピソームが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のベクターは、ウイルスベクターであり得、改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA)、rVSV、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスであり得る。上記ウイルスベクターによって発現される組換えタンパク質は、ウイルスタンパク質、細菌タンパク質、または任意の治療用組換えタンパク質であり得る。より好ましくは、上記ウイルスベクターによって産生される組換えタンパク質は、ウイルスタンパク質である。本発明のベクターは、発現ベクターであり得、これは、プロモーターおよび所望の遺伝子またはDNA配列の発現を駆動するために必要な他の配列を含む核酸分子であり得る。
【0041】
特定の代謝産物は、AMBR格納ボックス中の細胞含有PETキャリアストリップにおいて評価され得る。例えば、代謝産物(例えば、グルタミン、NH、O、CO、グルコース、およびラクテートが挙げられるが、これらに限定されない)は、上記接着性細胞を含む各格納ボックスの中で評価され得る。代謝産物消費および産生の特異的パターンが、AMBRシステムの中で細胞含有PETキャリアストリップを評価するために使用され得る。
【0042】
本発明の手順は、産生最適化のためにDOE試験または小規模バイオリアクター作戦において使用され得る。本発明の手順の適用の非限定的な例としては、培地開発、プロセスを規模に応じて調節可能にするプロセス最適化、株選択、およびベクタースクリーニングが挙げられる。
【実施例
【0043】
実施例
実施例1 6ウェルプレート中でのPETストリップ播種
Vero細胞を、PETキャリアストリップ上で成長させた(各々、およそ2.5cm×0.7cmの寸法であるが、上記ストリップ内で織られたPET繊維に起因して、三次元面積は増大することから、ストリップ1枚あたり約13.9cmの面積を提供する)。3枚のPETストリップを、6ウェルプレートの各ウェルに配置し、1mLの培地で覆った(図1)。Vero細胞を、上記PETストリップの1cmあたり1×10、1.5×10、および2×10 生細胞の異なる播種密度で添加した。1mLの培地を、上記ウェルに添加し、上記細胞を、37℃において一晩、上記ストリップとともにインキュベートした。
【0044】
実施例2 格納ボックス中のPETキャリアストリップ上での細胞の成長
実験1に従って調製した上記3枚のストリップの各々を、AMBR格納ボックスの中に入れ(格納ボックス1個につき、Vero細胞が接着した1枚のPETキャリアストリップ)、琥珀色のインペラーの設置を、最低のインペラー速度に設定した。AMBR格納ボックス中のインペラーを図3に示し、AMBRバイオリアクター内の格納ボックスを図4に示す。実験1に記載されるように、6ウェルプレートの中で、PETストリップに対して1×10、1.5×10、および2×10 生細胞/cmでの細胞の播種は、AMBR格納ボックスの中で細胞接着および成長を生じた(図5)。
【0045】
AMBRシステムをプログラムした後、細胞成長は、穏やかに撹拌(300rpm~1,000rpmの間)しながら、上記PETキャリアストリップ上で促進されることが見出された(図8および図9)。DOE試験のためにこの新規なシステムを利用する概念実証として、上記PETストリップを、種々の細胞密度で播種し、種々の撹拌速度で接種後3日間から10日間の間で採取した。4D応答形状からのデータは、細胞を10,000 細胞/cmにおいて播種し、接種後3日間で採取し、AMBR格納ボックス内部で37℃において300~350rpmの間で撹拌する場合に、最適細胞成長が起こることを示す(図8)。確認として、設計領域失敗確率モデルは、10,000~12,500 細胞/cmの間での細胞の播種、および300~487rpmの間での細胞の撹拌が、細胞増殖成功の最高確率を促進することを示した(図9)。
【0046】
実験3 細胞成長の間の代謝産物の測定
概念実証として、特異的代謝産物を、AMBR格納ボックスの中で細胞含有PETキャリアストリップにおいて評価した。グルタミン、NH、O、CO、グルコース、およびラクテートを評価した(図10)。データは、このシステムにおいて代謝産物消費および産生の特異的パターンを示し、上記システムが、AMBRシステムにおいて細胞含有PETキャリアストリップを評価するために使用され得ることをさらに証明する。類似のデータが、撹拌速度を評価する場合に観察された(データは示さず)。
【0047】
まとめると、これらのデータは、PETキャリアストリップおよびAMBRシステム(これは、懸濁細胞培養最適化のために設計されている)を使用して、接着性細胞のプロセス最適化を行うための新規な機構を示唆する。上記システムは、細胞成長および種々の代謝産物の測定を可能にする。これは、接着性細胞培養バイオリアクターシステムのプロセス最適化のための種々の条件を評価するために重要である(図10)。このシステムは、以前に記載されていないが、細胞増殖、ウイルス産生、抗体産生などに必要とされる最適化パラメーターを決定する場合に有用である。
【0048】
実験4 マルチパラレルバイオリアクター中のPETストリップ上の接着性細胞からのウイルス産生
上記接着性細胞を、ウイルスに感染させ、上記ストリップ上で成長している接着性細胞からのウイルス増殖を、測定した。実験1~3に記載されるとおりの上記ストリップ上の接着性細胞を、VSVウイルスに感染させた。上記ウイルスを、接着性細胞を300rpm、および480rpm(データは示さず)のインペラー速度で、ならびに異なるDOレベルにおいて成長させた後の増殖を含む異なる条件で増殖させた。VSVは、マルチパラレルバイオリアクターの中で上記PETキャリアストリップ上の接着性細胞において試験した全ての条件で成功裡に増殖した。ウイルスの増殖における増大は、アッセイによって観察されるように、DOを、85%から10%へと減少させた場合に観察された(図11)。
【0049】
実験5 ウイルス増殖の間の代謝産物および条件の測定
実験1~4に記載されるように、Vero細胞を増殖させ、VSVに感染させた。代謝産物および条件(例えば、グルタミン、NH、O、CO、グルコース、ラクテート、およびpH)を、感染後およびVero細胞でのVSVの増殖中に測定した(図12A)。グルタミンは、いかなる培地の添加なしでも感染後にアップレギュレートされた。グルタミンのアップレギュレーションを、Vero細胞における陽性ウイルス感染を示すために代謝パラメーターとして使用し得る(図12B)。
【0050】
実験1~5の結論。 全体として、これらのデータは、PETストリップに結合した細胞を、マルチパラレルバイオリアクター(例えば、AMBR懸濁プラットフォーム)において使用して、産生プロセス最適化のためにDOE試験または小規模バイオリアクター作戦を行い得ることを示す。これは、以前に記載されていないシステムの新規な使用、ならびに細胞成長条件の最適化から、ウイルス/ベクター感染またはトランスフェクション手順まで、PETストリップ上で成長している接着性細胞からのウイルス、タンパク質および/もしくは抗体産生パラメーターの最適化までの適用範囲を示す。得られたプロセス最適化データは、接着性バイオリアクターシステム(すなわち、iCELLisまたはUnivercellsリアクターシステム)において使用されるパラメーターを確立するために利用され得る。上記PET-AMBR接着性ストラテジーは、24個または48個の小規模バイオリアクターを並行して使用して、ハイスループットかつ費用効果的な様式において豊富な量のデータを獲得する手段を提供し、並行して行われる多数の接着性バイオリアクター実行(これは、多量の資源および時間を利用する)を置き換えるために使用され得る。このシステムは、融通性の増大および意思決定プロセスの強化を可能にし、これは、複雑な生物学的治療剤、ワクチン、および予防的な開発および産生を扱うに当たって助けになる。さらに、プロセス最適化のために並行して行われる多数の接着性バイオリアクター実行は、より高い生産コストをもたらす;従って、新規なPET-AMBR接着性最適化ストラテジーの使用を組み込むと、医薬品市場において極めて重要な2つの因子である、より迅速な生産タイムラインおよびより低い全体的な生産コストがもたらされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
【国際調査報告】