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特表2022-539265哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(54)【発明の名称】哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0793 20100101AFI20220831BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220831BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20220831BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
C12N5/0793 ZNA
C12N5/10
C12N5/0735
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500541
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(85)【翻訳文提出日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2020068905
(87)【国際公開番号】W WO2021004974
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】1907554
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】522004575
【氏名又は名称】アンスティチュ・ドプティーク・テオリック・エ・アップリケ
(71)【出願人】
【識別番号】509017435
【氏名又は名称】ユニベルシテ、ド、ルーアン、ノルマンディー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE ROUEN NORMANDIE
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・フェワイユ
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・アレッサンドリ
(72)【発明者】
【氏名】マガリー・ルクルトワ
(72)【発明者】
【氏名】レティシア・ミゲル
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・ナソワ
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ・ロヴェレ・ルクリュー
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB03
4B065BB12
4B065BC41
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、Tauタンパク質の6つのアイソフォーム(2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R、0N3R)を発現する哺乳動物のニューロンをインビトロで産生する方法であって、有糸分裂後のニューロン及び細胞外マトリクスを囲む中空ハイドロゲルカプセルをそれぞれ含む細胞マイクロコンパートメントを5週間~100週間の期間、培養するニューロン分化工程を含み、前記ニューロン分化工程がバイオリアクター内で実施され、細胞マイクロコンパートメントが、ニューロン分化培地を含むバイオリアクターの筐体中で懸濁状態に維持される、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tauタンパク質の6つのアイソフォーム(2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R、0N3R)を発現する哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法であって、有糸分裂後のニューロン細胞及び細胞外マトリクスを囲む中空ハイドロゲルカプセルをそれぞれ含む細胞マイクロコンパートメントを5週間~100週間の間に含まれる期間、培養する、ニューロン分化工程を含み、前記ニューロン分化工程がバイオリアクター内で実施され、前記細胞マイクロコンパートメントが、ニューロン分化培地を含む前記バイオリアクターの筐体中で懸濁状態に維持される、方法。
【請求項2】
前記ニューロン分化培地が、少なくとも1つの神経活性無機塩、グリシン、L-アラニン、及びL-セリンを含む、請求項1に記載の哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法。
【請求項3】
前記神経活性無機塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸第二鉄、硫酸亜鉛、硫酸第二銅、硫酸第二鉄、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法。
【請求項4】
前記ニューロン分化工程が、5週間~50週間の間、好ましくは10週間~50週間の間、より好ましくは20週間~25週間の間に含まれ、更に好ましくは25週間±1週間の期間、実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法。
【請求項5】
前記神経分化工程が無菌条件下で実施され、バイオリアクターの筐体が好都合には、閉鎖された筐体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法。
【請求項6】
ヒト胚性幹細胞を除く単一の幹細胞塊及び細胞外マトリクスを囲む中空ハイドロゲルカプセルをそれぞれ含む細胞マイクロコンパートメントを、前記細胞マイクロコンパートメント内で細胞分化を誘導することができる培養培地中で培養することによって、有糸分裂後のニューロン細胞のマイクロコンパートメントを得る、前培養工程を含み、前記前培養工程が終了すると、細胞は好都合には、ハイドロゲルカプセル内部でシストの形態で組織化される、請求項1~5のいずれか一項に記載の哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法。
【請求項7】
前記幹細胞が、人工多能性幹細胞(IPS)、ヒト胚性幹細胞を除いた胚性幹細胞(ES)、分化転換細胞、及びそれらの混合物から選択される多能性幹細胞である、請求項6に記載の哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法。
【請求項8】
前記ニューロン分化工程が終了すると、細胞マイクロコンパートメントから、Tauタンパク質の6つのアイソフォームを発現する有糸分裂後のニューロンを回収する、後続工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法。
【請求項9】
前記細胞マイクロコンパートメントが、10μm~1mmの間に含まれ、好ましくは75~750μmの間に含まれ、より好ましくは100μm~500μmの間に含まれ、更に好ましくは150μm~300μmの間±10%である直径を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の哺乳動物ニューロンをインビトロで産生する方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法で得られる、Tauタンパク質の6つのアイソフォームが発現している非天然の有糸分裂後のニューロン細胞。
【請求項11】
3R及び4Rアイソフォームの発現比が1/3~3の間に含まれ、より好ましくは1/2~2の間に含まれ、更に好ましくは3/4~4/3の間に含まれ、理想的には等モル比の10%であり、2N、1N、及び0Nのアイソフォームが、好都合には、それぞれ全アイソフォームの3%超、17%超、及び90%未満を示し、好ましくはそれぞれ5%超、26%超、及び50%未満を示し、更に好ましくはそれぞれ8%超、45%超、及び45%未満を示し、理想的にはそれぞれ9%、54%、及び37%を示す、請求項10に記載の非天然の有糸分裂後のニューロン細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物のニューロンをインビトロで産生する方法に関する。より詳細には、本発明による方法は、Tauタンパク質の6つのアイソフォーム(2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R、0N3R)を発現するニューロンを産生することを可能にする。本発明は、神経変性疾患に関連して、特に診断及び細胞治療の分野で応用され、また、新しい治療的処置の特定及び開発にも応用される。
【背景技術】
【0002】
Tauは多機能なタンパク質であり、本来は微小管関連の細胞質タンパク質として同定された。成人の脳では、MAPT遺伝子の代替的スプライシングにより、6つのTauのアイソフォームが発現している。Tauのスプライシングは発生の間に制御されており、6つのアイソフォームを発現する成体の脳とは異なり、胎児の脳では最も短いTauのアイソフォームのみが発現するようになっている。
【0003】
Tauタンパク質の病理学的な細胞内沈着物の蓄積は、タウオパチーと呼ばれる多くの神経変性疾患のマーカーである(Sergeant等、2008)。重要なのは、Tauの細胞内沈着のタンパク質組成(存在するTauアイソフォームの特定)、形態、及び解剖学的分布によって、種々のタウオパチーを区別することが可能になっているということである。アルツハイマー病(AD)では、6つのTauアイソフォームが異常にリン酸化され、凝集している。ピック病においては、3RのTauアイソフォームが優勢であり、皮質基底膜変性症及び進行性核上性麻痺においては、4RTauの凝集形態が優勢である。更に、17番染色体に関連する前頭側頭型認知症(FTDP-17)に罹患している患者では、MAPT遺伝子内に50超の有害な変異が特定されている。特定された変異により、Tauタンパク質が微小管若しくは他のパートナーと相互作用する能力が低下するか、又は4Rアイソフォームが過剰に産生され、これにより細胞内の3Rアイソフォームと4Rアイソフォームとの比率が変化する。
【0004】
過去10年間、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)技術は、ヒト疾患のモデル化に新たな展望を開いてきた。既にいくつかのグループが、iPSC由来のニューロンがタウオパチーの研究に貴重なツールとなりうることを示している。しかし、iPSC由来のニューロンが比較的未熟であることは、Tauの病理をインビトロで再現する上で大きな課題となっている。多数の研究により、「野生型」iPSC由来の皮質ニューロンは、主に胚性Tauアイソフォーム0N3Rを発現することが示されている(Biswas等、2016、Hallmann等、2017、Imamura等、2016、Iovino等、2015、Sato等、2018、Silva等、2016、Verheyen等、2018、2015)。これらの研究のほとんどが、分化手順中の単一の0N3Rアイソフォームから3R及び4R Tauアイソフォームの混合産生への移行を記述しているにもかかわらず、0N3R Tauアイソフォームは大部分が優勢なままである。培養時間を365日まで延長することにより、iPSC由来のニューロンにおいて0N3R、0N4R、1N3R、及び1N4RのTauタンパク質アイソフォームを検出することができたが(Lovino等、2015、Sposito等、2015)、常に0N3Rが優勢であった。成体Tauアイソフォームの存在は、iPSC由来の皮質ニューロンにおけるRNAレベルにおいても記載されている(Ehrlich等、2015)。しかし、対応するタンパク質アイソフォームを検出することはできていない。これらのiPSC由来の皮質ニューロンには、胎性Tauアイソフォーム0N3Rのみが存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2014/172580
【特許文献2】WO2018/096277
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Alessandri等、2016(「A 3D printed microfluidic device for production of functionalized hydrogel microcapsules for culture and differentiation of human Neuronal Stem Cells (hNSC)」、Lab on a Chip、2016、vol.16、no. 9、1593~1604頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、タウオパチー、特に4R Tauに関連するタウオパチーを研究することを可能にするためには、すなわちTタンパク質の6つのアイソフォームを発現している成体ニューロンのモデルが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、成体におけるニューロンの分化及びTauタンパク質の種々のアイソフォームの発現について研究していたところ、神経分化を可能にする培養培地中で、3次元培養を可能にするアルギン酸塩ベースの中空細胞マイクロコンパートメント内で幹細胞を培養することによって、6つのアイソフォームを発現するニューロンをインビトロで産生できることを見出した。好都合なことに、この工程は、マイクロコンパートメントが前記ニューロン分化培地中で懸濁状態に保たれているバイオリアクター内で実施される。また、本発明者等は、神経活性無機塩である塩化ナトリウム、グリシン、L-アラニン及びL-セリンを含む特定のニューロン分化培地を用いることにより、Tauタンパク質の6つのアイソフォームを含む有糸分裂後のニューロン細胞を、5週間~50週間の間に含まれる比較的短い期間で得ることが可能であることを実証した。本発明者等は、したがって、このようなニューロンをわずか数週間で得るための培養方法を開発した。
【0009】
本発明の対象は、Tauタンパク質の6つのアイソフォーム(2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R、0N3R)を発現する哺乳動物のニューロンをインビトロで産生する方法であって、有糸分裂後のニューロン細胞及び細胞外マトリクスを囲む中空ハイドロゲルカプセルをそれぞれ含む細胞マイクロコンパートメントを培養する、ニューロン分化工程を含み、前記ニューロン分化工程がバイオリアクター内で実施され、前記細胞マイクロコンパートメントが、ニューロン分化培地を含む前記バイオリアクターの筐体中で5週間~100週間の間に含まれる期間の間、懸濁状態に維持される、方法である。
【0010】
本発明の対象はまた、Tauタンパク質の6つのアイソフォーム(2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R、0N3R)を発現する哺乳動物のニューロンをインビトロで産生する方法であって、有糸分裂後のニューロン細胞及び細胞外マトリクスを囲む中空ハイドロゲルカプセルをそれぞれ含む細胞マイクロコンパートメントを、少なくとも1つの神経活性無機塩、グリシン、L-アラニン、及びL-セリンを含むニューロン分化培地中で、5週間~100週間の間、好ましくは5週間~50週間の間、より好ましくは10週間~50週間の間、更に好ましくは25週間~50週間の間、25週間~40週間の間、25週間~35週間の間、25週間~30週間の間、20週間~50週間の間、20週間~40週間の間、20週間~35週間の間、20週間~30週間の間、又は20週間~25週間の間に含まれる期間、培養する、神経分化工程を含む方法である。前記化合物の神経活性無機塩、グリシン、L-アラニン、及びL-セリンはそれぞれ、ニューロン細胞の生存及び神経機能を維持する濃度で存在する。
【0011】
本発明の対象はまた、本発明による方法で得ることができる、Tauタンパク質の6つのアイソフォームが発現している非天然の有糸分裂後のニューロン細胞である。
【0012】
非天然の有糸分裂後のニューロン細胞とは、成人対象等のヒト対象から採取して得られた細胞とは異なり、多能性細胞等の、ニューロン細胞に分化可能な細胞を制御された条件下でインビトロで培養することによって得られた細胞を意味する。したがって、本発明の対象は、本発明による方法によって得ることができる、細胞培養由来の有糸分裂後のニューロン細胞であって、Tauタンパク質の6つのアイソフォーム2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R及び0N3Rが発現している細胞である。
【0013】
好都合なことに、このような有糸分裂後のニューロン細胞は、3R及び4Rのアイソフォームの発現比が1/3~3の間に含まれ、より好ましくは1/2~2の間に含まれ、更に好ましくは3/4~4/3の間に含まれ、理想的には等モル比の10%である。2N、1N及び0Nアイソフォームは、好都合なことに、それぞれ、全アイソフォームの3%超、17%超及び90%未満を占め、好ましくは、それぞれ、5%超、26%超及び50%未満を占め、更に好ましくは、それぞれ、8%超、45%超及び45%未満を占め、理想的には、それぞれ、9%、54%及び37%を占める。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】iPSC、NSC、及びiPSC由来のニューロンの分子的特徴を示す。15週間、20週間、及び25週間(15週間、20週間、25週間)における、iPSC(A)、NSC(B)、及び種々の分化点で分化したニューロン(C~F)についての、多能性マーカーのPOU5F1(A)、NSCマーカーのOTX-1(B)、皮質上層のニューロンに特異的な2つのマーカー、CALB1(C)及びRELN(D)、アストロサイトマーカーとしてのGFAP(E)、及びオリゴデンドロサイト特異的マーカーのCLDN11(F)を用いたRT-PCR解析。細胞は、DMEM/F12-Neurobasal(D/N)又はBrainPhys培地中で、15週間、20週間又は25週間(週間)分化させた。
図2】脳抽出物中のMAPT mRNAの6つの成体アイソフォームの検出を示す。(A)分析した種々のMAPTアイソフォームの模式図。各PCR産物の予測サイズは、エキソン1及び11をカバーするプライマーの位置の関数として算出した。(B)各ピークは異なるMAPTアイソフォームに対応する。Y軸は蛍光を任意単位で示し、X軸はサイズをbpで示す。
図3】iPSC由来のニューロンにおける成体MAPTタンパク質及びmRNAアイソフォームの発現を示す。(A)成熟15週間、20週間、及び25週間後にiPSCから誘導されたニューロンにおける6つのMAPTアイソフォームのRT-qPCR解析による相対的発現を表す。細胞は、DMEM/F12 Neurobasal(D/N)又はBrainPhys培地中で、15、20、又は25週間(週間)分化させた。(B)BrainPhys中で維持した25週間のニューロンカプセルから抽出したタンパク質のウェスタンブロット解析。ラムダホスファターゼによる処理によって、1N4R、1N3R、0N4R、及び0N3Rに対応する4つのTauアイソフォームの存在が明らかになっている。2Nのアイソフォームは検出されていない。
図4】MAPT mRNAの6つの成体アイソフォームの相対的発現の定量化を表す。MAPT mRNAのアイソフォームは、個別に(A)、又はエキソン10を含む関数として(B)、若しくはエキソン2及び3を含む関数として(C)まとめて定量化した。(A)データは、少なくとも2回の独立した実験の平均標準偏差(SD)を表す。
図5】MAPT mRNAの成体アイソフォームの検出及び定量を示す。RT-qPCRによる、NSC又はiPSC由来のニューロンにおける0N、1N、及び2Nアイソフォーム(A)、又は3R、及び4Rアイソフォーム(B)の相対的な割合の特異的な分析。ニューロン細胞は、DMEM/F12 - Neurobasal(D/N)又はBrainPhys培地中で、15週間、20週間又は25週間(週間)分化させた。各分析(A、B)について、分析した種々のMAPT mRNAアイソフォームの模式図、プライマーの位置の関数として算出したPCR産物の予測サイズ、及び代表的なエレクトロフェログラムを示している。Y軸は蛍光を任意単位で示し、X軸はサイズをbpで示す。(C)定量的な値を表に示す。データは、少なくとも2回の独立した実験の平均標準偏差(SD)を示す。
図6】0N3R転写物を除外した後のMAPT mRNAの成体アイソフォームの検出及び定量を示す。BrainPhys中で維持した25週間時点の脳抽出物又はニューロンカプセル中の1N3R、1N4R、2N3R、及び2N4Rの転写産物(A)又は4R-Tauのアイソフォーム(B)のRT-qPCRによる特異的な分析。(A)プライマーex2及びex11を使用することによって、1N及び2Nアイソフォームのみを増幅することが可能になった。(B)プライマーex1及びex10を使用することによって、4Rアイソフォームを特異的に増幅することが可能になった。各分析(A、B)について、分析された種々のMAPTアイソフォームの模式図及びプライマーの位置の関数として算出されたPCR産物の予測サイズが示されている。対応する定量値は、左の表(A: ex2/ex11の増幅、B: ex1/ex10)の増幅に示されている。右側の表(A、B: ex1/ex11)には、6つのMAPT mRNAアイソフォームをex1-ex11を用いて同時に増幅したときに得られたデータ(図4A)、及び0Nアイソフォームを含めずに算出した1N3R、1N4R、2N3R、及び2N4Rアイソフォームの相対的発現(A)、又は3Rアイソフォームを含めずに算出した0N4R、1N4R、及び2N4Rアイソフォームの相対的発現(B)が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、Tauタンパク質の6つのアイソフォーム、2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R、0N3Rを発現する有糸分裂後のニューロン細胞を培養及び産生する方法に関する。この発現プロファイルは、成体のニューロンに特徴的なものであり、特に胚レベルでは見られないものである。これまで、ニューロン細胞をインビトロで産生する方法では、これら6つのアイソフォームを発現するニューロン細胞を産生することはできなかった。3次元細胞培養と分化培地を組み合わせることによって、このようなニューロンをインビトロで、ハイスループットで、及び合理的な期間(数十週間程度)で産生できることを発見し、示したことは本発明者等の功績である。
【0016】
細胞及び細胞外マトリクスを封入した外部の中空ハイドロゲルシェルを含む細胞マイクロコンパートメントを使用することは、特に好都合であり、これによって、本発明の文脈において、成体ニューロンに特徴的な有糸分裂後の段階に至るまで、ニューロンの細胞分化及び成熟を促進することが可能となる。
【0017】
細胞マイクロコンパートメント
本発明による方法では、細胞を含む細胞マイクロコンパートメントを使用する。各細胞マイクロコンパートメントは、中空の架橋されたハイドロゲルカプセルを含み、その中に細胞外マトリクスに埋め込まれた細胞が収容されている。
【0018】
一実施形態において、ハイドロゲルカプセルは、細胞の単一のアセンブリを含む。単一とは、カプセルが1つの細胞群のみを含むことを意味し、これらの細胞群は多かれ少なかれ凝集し得る。特に、細胞の単一のアセンブリとは、前記アセンブリの各細胞が前記アセンブリの少なくとも1つの他の細胞と物理的に接触している3次元の細胞構造であると理解される。
【0019】
好都合なことに、細胞は、細胞の相互作用及び通信を生じさせ、目的の3次元微細構造を形成するように、互いに特定の方法で配置された細胞のアセンブリに自己組織化される。このようにして、各マイクロコンパートメントは、自己組織化された細胞のアセンブリを含むハイドロゲルの外層、又はハイドロゲルカプセルを含む。細胞は、ハイドロゲルカプセル内で増殖し、組織化され、及び/又は分化することができる。
【0020】
本発明の文脈では、「外部ハイドロゲル層」又は「ハイドロゲルシェル」は、液体、好ましくは水によって膨潤したポリマー鎖のマトリクスから形成された3次元構造を示す。このような外部ハイドロゲル層は、ハイドロゲル溶液を架橋することによって得られる。好都合なことに、ハイドロゲル溶液のポリマーは、温度、pH、イオン等の刺激を受けたときに架橋可能なポリマーである。好都合なことに、使用されるハイドロゲル溶液は、細胞に対して毒性がないという意味で、生体適合性である。好都合なことに、ハイドロゲル層は、溶解したガス(特に酸素及び/又は二酸化炭素)、栄養分、及び代謝廃棄物の拡散を可能にし、細胞の生存、増殖、分化、成熟、及び/又は目的とする分子若しくは分子アセンブリの生成、及び/又は目的の細胞挙動の再現が可能になる。ハイドロゲル溶液のポリマーは、天然由来でも合成由来でもよい。例えば、ハイドロゲル溶液は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリレート系ポリマー、ポリエチレングリコールジアクリレート、ゼラチンメタクリレート化合物、多糖類、特にジェランガム等の細菌由来の多糖類、又はペクチン若しくはアルギン酸塩等の植物由来の多糖類の中から1つ又は複数のポリマーを含む。一実施形態において、ハイドロゲル溶液は、少なくともアルギン酸塩を含む。好ましくは、ハイドロゲル溶液は、アルギン酸塩のみを含む。本発明の文脈において、用語「アルギン酸塩」は、β-D-マンロン酸塩(M)及びα-L-グルロン酸塩(G)、並びにその塩及び誘導体から形成される直鎖状の多糖類を意味することが意図される。好都合には、アルギン酸塩はアルギン酸ナトリウムであり、80%超のGと20%未満のMで構成され、平均分子量が100~400kDaであり(例えば: Pronova(登録商標)SLG100)、総濃度が密度(重量/体積)で0.5%~5%の間に含まれる。
【0021】
好ましくは、細胞マイクロコンパートメントは閉鎖している。細胞マイクロコンパートメントにサイズ及び形状を与えるのは、外部ハイドロゲル層である。マイクロコンパートメントは、細胞の封入に適合する任意の形状を有することができる。
【0022】
好ましくは、細胞外マトリクス層はゲルを形成する。細胞外マトリクス層は、タンパク質と、細胞培養、例えば多能性細胞の培養に必要な細胞外化合物との混合物を含む。好ましくは、細胞外マトリクスは、ラミニン521、511又は421、エンタクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン等の構造タンパク質及びまた、TGF-β及び/又はEGF等の成長因子を含む。一実施形態において、細胞外マトリクス層は、Matrigel(登録商標)及び/又はGeltrex(登録商標)からなるか、又はそれらを含む。
【0023】
本発明によれば、マイクロコンパートメントは、細胞外マトリクスの代わりに、細胞外マトリクス代替物を含むことができる。細胞外マトリクス代替物とは、膜タンパク質及び/又は細胞外シグナル伝達経路と相互作用することにより、細胞の接着及び/又は生存を促進することができる化合物であると理解される。例えば、そのような代替物は、生体ポリマー及びその断片、特にタンパク質(ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、及びコラーゲン)、非硫酸化グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸)、又は硫酸化グリコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸)、及び生体ポリマー由来であるか、又はその特性を再現したモチーフを含む合成ポリマー(RGDモチーフ)、及び基質への付着を模倣した低分子(Y-27632又はチアゾビビン等のRho-Aキナーゼ阻害剤)を含む。
【0024】
ハイドロゲルカプセルの内部に、細胞外マトリクスと細胞とを含む細胞マイクロコンパートメントを産生するための任意の方法は、本発明による調製方法を実施するために使用し得る。特に、Alessandri等、2016(「A 3D printed microfluidic device for production of functionalized hydrogel microcapsules for culture and differentiation of human Neuronal Stem Cells (hNSC)」、Lab on a Chip、2016、vol.16、no. 9、1593~1604頁)に記載されている方法及びマイクロ流体デバイスを適応することで、マイクロコンパートメントを調製することが可能である。
【0025】
好都合なことに、細胞マイクロコンパートメントの寸法が制御される。一実施形態において、本発明による細胞マイクロコンパートメントは、球形の形状を有する。好ましくは、このようなマイクロコンパートメントは、10μm~1mm、より好ましくは75~750μm、より好ましくは100μm~500μm、更に好ましくは150μm~300μm、±10%である直径を有する。他の実施形態において、本発明による細胞マイクロコンパートメントは、細長い形状を有する。特に、マイクロコンパートメントは、卵形又は管状の形状を有していてもよい。好都合なことに、このような卵形又は管状のマイクロコンパートメントの最小寸法は、10μm~1mm、より好ましくは75μm~750μm、より好ましくは100μm~500μm、更に好ましくは150μm~300μm、±10%である。「最小寸法」とは、ハイドロゲル層の外面に位置する点とマイクロコンパートメントの中心との間の最小距離の2倍を意味する。
【0026】
特定の一実施形態において、外部ハイドロゲル層の厚さは、マイクロコンパートメントの半径の5~40%を表す。細胞外マトリクス層の厚さは、マイクロコンパートメントの半径の5~80%を表し、好都合にはハイドロゲルシェルの内面に付着している。このマトリクス層は、細胞とハイドロゲルシェルとの間の空間を埋めてもよい。本発明の文脈では、層の「厚さ」は、マイクロコンパートメントの中心に対して半径方向に延びる前記層の寸法である。
【0027】
ニューロン分化培地
本発明によれば、6つのアイソフォームを発現する有糸分裂後のニューロン細胞が、比較的短い産生期間で、特に100週間未満、より好ましくは50週間未満で得られる。そのために、マイクロコンパートメントをニューロン分化培地中で維持する。
【0028】
このような培地は、当技術分野の当業者に公知である。特に、N2B27と呼ばれる培地(500ml DMEM/F12、500ml Neurobasal、5ml N2培地補充、10ml B27培地補充)を使用することが可能である。好都合には、このような培地は、第1の段階(最初の10日~15日、神経誘導段階)で、BMP2関連のシグナル伝達経路(例えば、LDN-193189又はNogginタンパク質)及びTGF-βシグナル伝達経路(例えば、SB-431542)を遮断する分子を補充し、及び/又は、任意の第2の段階で、EGF-1及びFGF-2関連のシグナル伝達経路を活性化する分子を補充し(神経幹細胞段階増幅)、及び/又は最終分化段階において、神経栄養シグナル伝達経路(例えば、BDNF伝達経路)を活性化する分子及びNotchシグナル伝達経路を遮断する分子(例えば、E化合物又は他のγ-セクレターゼ阻害剤)を補充する。
【0029】
特定の一実施形態において、任意に既に有糸分裂後のニューロン細胞に分化した幹細胞を含む細胞マイクロコンパートメントを、少なくとも1つの神経活性無機塩、グリシン、L-アラニン及びL-セリンを含む特定のニューロン分化培地中で培養し、前記化合物はそれぞれ、ニューロン細胞の生存及び神経機能を維持する濃度で存在する。当技術分野の当業者は、前記細胞の生存及び機能を維持するように、濃度を調整することができる。
【0030】
本発明の文脈において、用語「神経活性」化合物は、細胞の神経活性(例えば電気生理学的活性)に有意に影響を与える無機塩等の化合物を意味することを意図している。このような神経活性は、自然環境下(インビボ)における野生型のニューロン細胞の神経活性と実質的に同一であり得る。
【0031】
一実施形態において、少なくとも1つの神経活性無機塩は、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硝酸第二鉄(FeNO3)、硫酸亜鉛(ZnSO4)、硫酸第二銅(CuSO4)、硫酸第二鉄(FeSO4)、及びこれらの組合せからなる群から選択される。一実施形態において、ニューロン分化培地は、塩化ナトリウム及び少なくとも1つの他の神経活性無機塩を含む。
【0032】
特定の実施形態において、塩化ナトリウムの濃度は、20~200mMの間、好ましくは70~150mMの間に含まれ、特に120mM±10%である。
【0033】
他の神経活性無機塩の濃度は、0.000001~10mM、0.000005~8mM、0.00001~6mM、0.00005~4mM、0.00005~2mM、0.0001~1mM、0.0005~0.5mM、0.001~0.05mM、0.01~0.05mMの間に含まれるのが好ましい。
【0034】
L-アラニン濃度と同様に、グリシン濃度は、好都合には0.0001~0.05mMの間に含まれる。L-セリン濃度は、好都合には0.001~0.03mMの間に含まれる。
【0035】
一実施形態において、培養培地はまた、
好ましくは0.00001~0.003mMの間に含まれる濃度のL-アスパラギン酸、及び/又は
好ましくは0.00001~0.02mMの間に含まれる濃度のL-グルタミン酸、及び/又は
無機塩等のpH調整剤、を含む。
【0036】
例えば、調整剤は、二塩基性リン酸ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、及びその組合せから選択される無機塩であり、前記調整剤は、0.001~1mMの間に含まれる濃度であることが好都合である。或いは、調整剤は重炭酸水素ナトリウムであり、濃度は1~35mMの間に含まれることが好都合である。
【0037】
代替的又は追加的に、培養培地は以下の化合物: 各アミノ酸は0.001~1mMの間に含まれる濃度であることが好都合である、1つ又は複数のアミノ酸、各ビタミンは0.00001~1mMの間に含まれる濃度であることが好都合である、1つ又は複数のビタミン、タンパク質、神経栄養因子、ステロイド、ホルモン、脂肪酸、脂質、ビタミン、ミネラル硫酸塩、有機化合物、単糖類、ヌクレオチド、及びその組合せからなる群から選択される補助剤、好ましくは0.1~5mMの間に含まれる濃度である、糖、ピルビン酸ナトリウム、及びその組合せ等のエネルギー基質、及び0.0001~0.0006mMの間に含まれる濃度の感光剤、特にリボフラビン(B2)、及び/又は1~10mMの間に含まれる濃度のHEPESの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0038】
例えば、アミノ酸は、L-アラニル-L-グルタミン、L-アルギニン塩酸塩、L-アスパラギン-H2O、システイン-H2O塩酸塩、L-シスチン2HCl、L-ヒスチジン-H2O塩酸塩、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン塩酸塩、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物、L-バリン、及びその組合せから選択されるのが好都合である。
【0039】
例えば、ビタミン類は、塩化コリン、D-パントテン酸カルシウム(B5)、葉酸(B9)、i-イノシトール、ナイアシンアミド(B3)、塩酸ピリドキシン、塩酸チアミン、ビタミンB12(シアノコバラミン)、リボフラビン(B2)、及びその組合せからなる群から選択される。
【0040】
一実施形態において、培養培地は血清を含まない。代替的又は追加的に、培地の浸透圧モル濃度は280~330Osm/mlの間に含まれる。
【0041】
本発明による方法を実施するために使用することができるニューロン分化培地の組成の例は、WO2014/172580に記載されている。STEMCELL Technologies社から販売されているBrainPhys(商標)Neuronal Mediumは、本発明の方法におけるニューロン分化培地として使用するのに特に適している。
【0042】
培養工程
本発明の方法によれば、マイクロコンパートメントは、細胞分化培地中で5週間~100週間の間に含まれる期間、培養される。分化培地中での培養工程は、5週間~50週間の間、好ましくは10週間~50週間の間、20週間~50週間の間、25週間~50週間の間、20週間~40週間の間、25週間~40週間の間、20週間~30週間の間、25週間~30週間の間、より好ましくは20週間~25週間の間に含まれ、更に好ましくは約24週間、25週間、26週間、27週間、28週間、29週間、30週間、特に25週間±1週間の期間、実施されるのが好都合である。これは、本発明者らが、この期間の後、マイクロコンパートメントの全て又は一部が、Tauタンパク質の6つのアイソフォーム(2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R、0N3R)を発現するニューロンを含むことを見出したためである。
【0043】
本発明によれば、有糸分裂後のニューロン細胞を含むマイクロコンパートメントは、幹細胞の単一塊及び細胞外マトリクスを囲む中空のハイドロゲルカプセルをそれぞれ含む細胞マイクロコンパートメントを、前記細胞マイクロコンパートメント内で細胞分化を誘導することができる培養培地中で前培養する工程の間に得ることができ、前記前培養工程が完了すると、細胞は好都合には、ハイドロゲルカプセル内部でシストの形態で組織化される。
【0044】
本発明の文脈では、シストという用語は、中心内腔の周りに組織化された多能性細胞の少なくとも1つの層を示す。本発明によれば、このようなマイクロコンパートメントは、中心内腔の周りに、前記多能性細胞の層、細胞外マトリクス又は細胞外マトリクス代替物の層、及び外部ハイドロゲル層を連続して含む。内腔は、シストの形成時に、細胞外マトリクス層上の層で増殖及び発達する細胞によって生成される。内腔には液体、より具体的には培養培地を含むのが好都合である。
【0045】
マイクロコンパートメントを調製するために用いられる幹細胞は、哺乳動物の多能性幹細胞であるのが好都合であり、ヒトであっても非ヒトであってもよい。多能性幹細胞又は多能性細胞とは、元の生物全体に存在する全ての組織を形成する能力を有するが、それ自体で生物全体を形成することができない細胞であると理解される。特に、幹細胞は、人工多能性幹細胞(IPS)、胚性幹細胞(ES)、分化転換細胞、及びその混合物から選択される。分化転換細胞とは、多能性工程を経ることなく目的の細胞への分化が得られる細胞と理解される。この細胞は、多能性表現型を遷移することなく、終末状態の一連の遺伝子を強制的に発現させることにより、初期状態(例えば、線維芽細胞又は末梢血単核細胞)から成熟ニューロンの終末状態へと移行する。
【0046】
シストを調製するための方法は、マイクロコンパートメント内のシストの形での細胞の組織化を導く培養培地と同様に、WO2018/096277に記載されている。
【0047】
他の実施形態において、神経前駆体がハイドロゲルシェルに封入されており、前記前駆体は、シストの形態で組織化することができるのが好都合である。
【0048】
一般的には、細胞マイクロコンパートメントが一度有糸分裂後のニューロン細胞を優勢的に含むようになると、前記コンパートメントをニューロン分化培地に入れる。ここで「優勢的」とは、マイクロコンパートメントが50%超、好ましくは60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%超の数の有糸分裂後のニューロン細胞を含むことを意味する。
【0049】
ニューロンの分化工程はバイオリアクター内で実施される、細胞マイクロコンパートメントが、分化培地を含む前記バイオリアクターの筐体中で懸濁状態に保たれるのが好都合である。
【0050】
細胞はハイドロゲルシェルによって、リアクター内に存在するストレスから保護されているため、バイオリアクター内の流れはハイドロゲルシェルが耐えられる程度の強さになり得る。更に、細胞マイクロコンパートメントのハイドロゲルシェルは、衝突に伴う機械的ストレスから細胞を保護し、多細胞要素(凝集体、マイクロキャリア)の融合を防ぐ。マイクロコンパートメントはバイオリアクター内で懸濁しているため、培養培地へのアクセス及び均質なマイクロコンパートメント内での拡散及び、良好な対流が可能になる。
【0051】
細胞マイクロコンパートメントを使用することで、密閉筐体を備えた任意の種類のバイオリアクター、特にバッチフィードモード、フィードバッチフィードモード又は連続フィードモード(灌流)のバイオリアクターで細胞を培養することが可能になる。これらのマイクロコンパートメントを使用することは、連続フィードモードでの培養の場合に特に好都合である。これは、細胞がハイドロゲルシェルによって保護されているため、細胞を弱らせる危険性が全くなく、連続的なフローに供することができるためである。
【0052】
一実施形態において、バイオリアクターは、密閉可能な筐体を含む。これにより、バイオリアクター内の雰囲気を制御することが可能になり、例えば、不活性雰囲気下でマイクロコンパートメントを培養することが可能になる。
【0053】
バイオリアクターは、1ml~10,000lの間、好ましくは5ml~10,000lの間、10ml~10,000lの間、100ml~10,000lの間、200ml~10,000lの間、500ml~10,000lの間に含まれる体積を有する筐体を含み得る。一実施形態において、筐体は、少なくとも1mlの体積を有する。一実施形態において、筐体は、少なくとも10mlの体積を有する。一実施形態において、筐体は、少なくとも100mlの体積を有する。一実施形態において、筐体は、少なくとも500mlの体積を有する。一実施形態において、筐体は、少なくとも1lの体積を有する。一実施形態において、筐体は、少なくとも10lの体積を有する。一実施形態において、筐体は、100l以上の体積を有する。
【0054】
当技術分野の当業者であれば、必要に応じてマイクロコンパートメントの数、及びバイオリアクターの体積を調整する方法を知るであろう。
【0055】
好ましくは、神経分化工程は、微生物による汚染を回避するために、無菌状態で実施される。例えば、バイオリアクターの筐体は、汚染を防ぐために閉鎖されているが、外部とのガス交換は可能である。
【0056】
一般的に、密閉された筐体を使用することによって、外部環境からの妨害のリスクがなく、培養環境を細かく制御することが可能になっている。無菌状態の産物を得ることが更に容易である。また、これにより、体積効率の向上が可能になる。
【0057】
ニューロン分化工程が終了すると、細胞マイクロコンパートメントの全て又は一部を回収して、前記マイクロコンパートメントに含まれる、Tauタンパク質の6つのアイソフォームを発現する有糸分裂後のニューロンを回収することが可能である。細胞は、外部のハイドロゲル層を単に加水分解及び/又は溶解することによって容易に回収することができる。
【0058】
ニューロン細胞及びその応用
本発明による方法によって、Tauタンパク質の6つのアイソフォーム2N4R、1N4R、0N4R、2N3R、1N3R、0N3Rが発現している有糸分裂後のニューロン細胞を得ることが可能である。
【0059】
6つのアイソフォームは、野生型の成体ニューロン細胞に存在する割合と実質的に同じ割合であるのが好都合である。
【0060】
一実施形態において、分化工程の完了時に細胞マイクロコンパートメントから回収された有糸分裂後のニューロン細胞は、3R及び4Rアイソフォームの発現比率が、1/3~3の間に含まれ、より好ましくは1/2~2の間に含まれ、更に好ましくは3/4~4/3の間に含まれ、理想的には等モル比の10%である。2N、1N及び0Nアイソフォームは、それぞれ、好都合には、全アイソフォームの3%超、17%超、及び90%未満を示し、好ましくは、それぞれ、5%超、26%超、及び50%未満を示し、更に好ましくは、それぞれ、8%超、45%超、及び45%未満を示し、理想的には、それぞれ、9%、54%及び37%を示す。
【0061】
一実施形態において、分化工程の完了時に細胞マイクロコンパートメントから回収された有糸分裂後のニューロン細胞は、6つのアイソフォームの総数に対して、以下の割合で6つのアイソフォームを含む: 0.1~0.9%、特に0.16%又は0.9%の2N4Rアイソフォーム、0.5~1%、特に0.69%又は1%の2N3Rアイソフォーム、2~18%、特に2.19%又は17.6%の1N4Rアイソフォーム、8~23%、特に9.4%又は22.4%の0N4Rアイソフォーム、8~23%、特に9.4%又は27.5%の1N3Rアイソフォーム、並びに30~80%、特に78.16%又は30.6%の0N3Rアイソフォーム。
【0062】
このような有糸分裂後のニューロン細胞は、研究目的、及び診断又は治療の両方に使用することができる。これらの細胞は、野生型の成体ニューロン細胞と実質的に同一のTauタンパク質発現プロファイルを示すため、特にヒトにおいて、神経変性疾患を標的とする、及び/又はニューロンの生理病理を改変する治療分子のスクリーニングに適している。
【実施例
【0063】
材料及び方法
1. iPSC株及び封入
BC-1株(WT XY、継代数15-25、MTI-Globalstem社、Gaithersburg、MD)を、フィーダー細胞の非存在下で維持した。培養プレートは、Matrigelマトリクスを用いて37℃で2時間覆った(Corning社、NY、DMEM培地で1/100希釈)。BC-1コロニーをReLeSR(Stemcell Technologies社、Vancouver、Canada)を用いて解離させた後、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen社、Carlsbad、CA)を補充したmTESR1(STEMCELL Technologies社)中で培養した。培養培地は毎日与え、5~7日ごとに継代した。
【0064】
使用した封入手順は、Alessandri等、2016に記載されている。
【0065】
2. 成熟皮質ニューロンの産生
神経誘導は、B27及びN2(Thermo Fischer Scientific社、Waltham、MA)、1μM LDN-193189(Sigma Aldrich社、St.Louis、MO)及び10μM SB431542(Tocris Bioscience社、Bristol、UK)を補充した、DMEM/F12及びNeurobasalの1:1混合物中で実施した。培地は8日間、1日ごとに交換した。その後、B27及びN2を補充したDMEM/F12: Neurobasal(1:1)混合物、又はN2-A及びSM1を補充したBrainPhys(商標)培地(Stemcell Technologies社)を用いて神経幹細胞の分化を実施した。この2つの培地に、10ng/mlのBDNF及びGDNF(Cell Guidance Systems社、Cambridge、United Kingdom)、10nMの化合物E(Abcam社、Cambridge、United Kingdom)及び10nMのトリコスタチンA(Abcam社)を補充した。培地の半分は、所定の成熟期間まで毎日交換した。
【0066】
3. RNA抽出
沈降したマイクロコンパートメント(球体)を1X PBS(Thermo Fischer Scientific社)で1回洗浄した後、アルギン酸塩カプセルを破壊するためにGentle Cell Dissociation Reagent(Stemcell Technologies社)と5分間インキュベートした。2回の1X PBS洗浄後、Nucleospin RNA XSキット(Macherey-Nagel社、Duren、Germany)を用いて、細胞の総RNAを抽出した。検証実験は、正常な成人のヒト大脳皮質から抽出した総RNAについて実施した(BioChain社、Newark、CA)。
【0067】
4. RT-PCRによるニューロンの成熟度分析
RETROscript逆転写キット(Thermo Fischer Scientific社)を用いて、オリゴ(dT)プライマーを用いて、2工程のRT-PCR手順についての製造者の指示に従い、全部で250ngのRNAを逆転写した。PCR反応は、1μlのcDNA及び適切なプライマーを用いて実施した(図7)。PCR産物は、1.5%アガロースゲルにおける電気泳動により分離した。
【0068】
5. 蛍光RT-PCRによる成体MAPTアイソフォームの分析
70 ngのRNAに対して、Verso cDNAキット(Thermo Fischer Scientific社)及びオリゴ(dT)プライマーを用いて逆転写を行った。本研究で使用したプライマーを以下のTable1(表1)に示す。次に、MAPTアイソフォームの相対的な割合を、非標識のフォワードプライマー及び6-FAM標識のリバースプライマーを用いて、蛍光PCRにより分析した。PCR産物はGenetic Analyzer 3500自動シーケンサー(Applied Biosystems社)で分析し、エレクトロフェログラムはGeneMapper Software 5を用いて分析した。
【0069】
【表1】
【0070】
6. タンパク質の抽出及び脱リン酸化
球体を1X PBS(Thermo Fischer Scientific社)で洗浄した後、アルギン酸塩カプセルを破壊するためにGentle Cell Dissociation Reagent(Stemcell Technologies社)と5分間インキュベートした。1XPBSで2回洗浄した後、TissueLyserLT(Qiagen社、Hilden、Germany)を用いて、プロテアーゼインヒビター(Sigma-Aldrich社)のカクテルを補充したPierce(登録商標)RIPAバッファー(Thermo Fisher Scientific社)中で球体をホモジナイズした(急速攪拌(50Hz、2分間)、2mmのステンレスボールを2個含む1.5mlマイクロチューブ)。その後、サンプルを遠心分離し、溶出物を回収した。氷上で30分置き、遠心分離(11 300×g、20分間、4℃)した後、可溶性タンパク質を含む上清を回収した。次に、30μgの総タンパク質を、80ユニットのラムダプロテインホスファターゼ(New England Biolabs社、Ipswich、MA)を用いて、50μlの最終体積で、37℃で3時間処理した。
【0071】
7. ウェスタンブロッティング
ウェスタンブロッティング技術によって以前に報告されているようにタンパク質を分析した(Pons等、2017)。簡潔には、脱リン酸化されたサンプルのタンパク質を、インビトロで産生された6つのTauタンパク質アイソフォームを含む1μlの参照サンプル(Sigma Aldrich社)と並行して、10%SDS-PAGEゲル上で電気泳動により分離し、次いでニトロセルロース膜に転写した。この膜を一次抗体: ポリクローナル抗-ヒトTau(Dako Denmark社、Glostrup、Denmark)(1:50,000)とインキュベートした後、化学発光試薬(ECL Clarity、Bio-Rad Laboratories社)を用いて明らかにした。
【0072】
結果
1. アルギン酸塩カプセル内のiPSCから出発したMatrigel上での皮質ニューロン及びグリア系細胞の発生
本研究では、健常ドナーか得られたiPSCを使用した。解離後、iPSC細胞は、Alessandri等、2016に神経幹細胞(NSC)について以前に報告されているように、Matrigelで裏打ちされたアルギン酸塩カプセル内に封入した。カプセルの内部にコロニーを出現させるために、まずmTESR培地中でカプセルを維持した。その後、NSCがカプセル内で100%コンフルエントに達するまで、SMADを二重に阻害することによって、iPSCの神経誘導を行った(Feyeux等、2012)。神経誘導効率は、RT-PCRによるPOU5F1及びOTX-1のmRNA発現の評価によって確認した。予測通り、多能性遺伝子POU5F1はiPSCで強く発現しており、NSCではほとんど検出されなかった(図1A)。更に、NSCマーカーであるOTX-1は、非誘導iPSCと比較してNSCで特異的に過剰発現していた(図1B)。NSCがコンフルエントに達した後、NSCを皮質ニューロンに分化させた。一般的に使用されている培地(DMEM/F12-Neurobasal 1:1、D/N)と、iPSC由来のニューロンの成熟及びシナプス機能を促進するように設計されたBrainPhys(商標)培地の2つの細胞培養培地を試験した(Bardy等、2015)。先行研究では、iPSCからの皮質神経発生は、哺乳動物の皮質発生と同じ時間経過をインビトロでたどり、少なくとも培養90日目まで延長することが示されているため(Espuny-Camacho等、2013、Kirwan等、2015、Shi等、2012)、培養後15週間、20週間、又は25週間に実験手順におけるiPSC由来のヒト皮質ニューロンの同一性を特徴づけることを任意に決定した。上層の皮質ニューロンに特異的な2つのマーカーであるCALB1(カルビンディン1)及びRELN(リーリン)の発現を評価した。上層の皮質ニューロンは、皮質神経発生の最終段階で生成される。CALB1は、ヒト大脳皮質の皮質層II及びIIIに発現し、RELNは、皮質層Iに発現する。図1C及び図1Dに示すように、15週間培養したiPSC由来のニューロンでは、使用した培地にかかわらず、CALB1及びRELNのmRNAの発現が検出された。この2つの遺伝子の発現は、25週間まで維持されていた。予測通り、CALB1及びRELNは、iPSC及びNSCでは有意なレベルで検出されなかった。
【0073】
また、培養物中のアストロサイト及び髄鞘オリゴデンドロサイトの存在を、それぞれGFAP(グリア細胞繊維性酸性タンパク質)及びCLDN11(クローディン11)のmRNAの発現を評価することによって調べた。GFAPの発現は、2つの実験条件で培養15週間目から検出された(図1E)。一方、CLDN11の発現は、BrainPhys(商標)培地で培養したカプセルでは培養15週間目から容易に検出されたが、標準培地で培養した細胞では、分化25週間目においても発現が見られないままであった(図1F)。また、予測される通り、iPSC及びNSCの段階では、これらの遺伝子はいずれも発現していない。これらの結果を総合すると、Matrigelで裏打ちされたアルギン酸塩カプセル内のiPSC由来のニューロンは、皮質神経発生の最終段階で生成される上層の皮質ニューロンを含む、皮質のニューロンに分化することが可能であったということが示されている。BrainPhys(商標)で維持された培養物にはオリゴデンドロサイトが特異的に存在しており、これにより、BrainPhys(商標)ニューロン培地が一般的に使用されているD/N培地と比較してニューロンの成熟を促進していることが明らかになったことは重要である。
【0074】
2. 6つの成体MAPT mRNAアイソフォームの定量的測定法の開発: ヒト大脳皮質での検証
現在、成体MAPT mRNAアイソフォームの発現解析は、主に3R/4R比を決定するための、エキソン10の含有か、又は0N、1N若しくは2Nアイソフォームの割合を評価するためのエキソン2及び3の含有の定量化のみに基づいている。本研究では、6つの成体MAPT mRNAアイソフォームを単一のPCR反応で個別に同時分析し、ニューロンの成熟過程における相対的な割合を調べる方法を開発した。この目的のために、蛍光標識されたプライマーを使用したMAPT転写物の増幅に基づく新しい試験が開発された。6つのMAPTアイソフォームの増幅を可能にするはずである、エキソン1及び11をカバーするプライマーセット(図2A)が特定された。この試験を検証するために、成人のヒト大脳皮質から抽出したmRNAにおいてRT-PCR実験を行った。PCRによって増幅された産物に対応するエレクトロフェログラムを分析したところ、6つの成体MAPT mRNAアイソフォームの予測されるサイズに対応する6つのピークの形のプロファイルが明らかになった(図2B)。次いで、このピークの高さから、種々のアイソフォームの相対的な割合を算出した。その結果、0N3R及び1N3Rアイソフォームが最も多く発現しており(30.6%及び27.5%)、0N4R及び1N4Rアイソフォームが続き(22.4%及び17.6%)、2N3R及び2N4Rアイソフォームは全アイソフォームの1%及び0.9%に過ぎなかった。
【0075】
また、これらのデータにより、0N(53%)、1N(45.1%)、及び2N(1.9%)のアイソフォーム、並びに3R(59.1%)、及び4R(40.9%)のアイソフォームの相対的な割合を決定することができた。エキソン2/3の含有、及びエキソン10の含有の独立した解析においても、同様の定量的データが得られたことは重要であり(図5A図5B)、0N及び1Nのアイソフォームが最も発現していることが示され(それぞれ52.9%及び45%)、その一方で2Nのアイソフォームはわずか2%であった。エキソン10のスプライシングに関しては、ピークの相対的な定量化によって、4R-Tauの40.1%に対して3R-Tauは59.9%であり、わずかに3R-アイソフォームが好ましい比率であることが示されている。これらのデータは、これまでに発表された研究と完全に一致しており、この新しい試験の妥当性を示している。
【0076】
3. BrainPhys(商標)は、Matrigelで裏打ちされたアルギン酸塩カプセル内で培養されたiPSC由来のニューロンにおいて6つの成体MAPT mRNAアイソフォームの発現を促進する
成体脳抽出物を用いた試験を検証した後、この方法を用いて、25週間の成熟期間にわたってD/N又はBrainPhys(商標)培地中で維持したiPSC由来のニューロン培養物における成体MAPTアイソフォームの発現を評価した。先行研究に従って、NSC解析によって、MAPTの0N3Rアイソフォームの予測サイズに対応する単一のピークが明らかになった(図3A及び図4A)。エキソン2を含むアイソフォーム(1N3R及び1N4Rアイソフォーム)及びエキソン10を含むアイソフォーム(0N4R及び1N4Rアイソフォーム)は、成熟15週間目から検出された。興味深いことに、BrainPhys(商標)中で維持された培養物は、D/N培養物よりも1N3R、0N4R、及び1N4Rのアイソフォームの発現レベルが高かった。20週間の成熟後、これらの種の量の著しい増加が観察され、2つの実験条件下で2N3Rアイソフォームの低いレベルの発現が見られた。研究の最終地点(25週間)では、これらの成体MAPT mRNAアイソフォームの発現レベルは増加し続けた。更に重要なことに、BrainPhys(商標)中で維持した培養物では、2N4Rアイソフォームがここで検出可能であった。BrainPhys(商標)を用いて25週間維持した培養物中のMAPT mRNAアイソフォームの相対的な割合を定量的に分析したところ、0N4R及び1N3Rアイソフォームはそれぞれ存在する全アイソフォームの9.4%を示し、1N4Rアイソフォームは2.19%を示すことが明らかになった。2N3R及び2N4Rアイソフォームはそれぞれ0.69%及び0.16%に対応した。したがって、4R-TauアイソフォームはMAPT転写産物の11.75%を構成し(図4B)、1N及び2Nアイソフォームはそれぞれ11.63%及び0.85%を示した(図4C)。脳の抽出物と同様に、これらの結果は、エキソン10又はエキソン2/3のスプライシングを独立して評価することによって検証された(図5C)。
【0077】
この実験方法によって、6つの成体MAPT mRNA転写物を発現するニューロンを発生させることが可能になったが、0N3Rアイソフォームは成熟25週間後でも主に発現しているままであった(約78%)。0N3Rアイソフォームがプライマーを「トラップ」して、発現量の少ない転写産物に比べてPCRの効率を低下させる可能性を排除するために、MAPTアイソフォームの発現を0N3R転写産物とは独立して解析した。これを行うために、2つのプライマーセット(図6)を作成し、第1のセットは、1N3R、1N4R、2N3R及び2N4Rの転写を正確に解析するためにエキソン2及び11をカバーしており、第2のセットは、4R-Tauアイソフォームを特異的に増幅するためにエキソン1及び10をカバーしていた。脳の抽出物及びBrainPhys(商標)で25週間維持した培養物を分析することにより、種々のMAPTアイソフォームの相対的な割合が確認され、試験の妥当性が確認された。
【0078】
これらの結果を総合すると、BrainPhys(商標)中で維持されたニューロンは、25週間の成熟後に、2N3R及び2N4Rアイソフォームを含む6つの成体MAPT転写物を発現していることが示された。iPSC由来の培養物をD/N培地で保存した場合、5つのアイソフォームのみが発現したことは重要である。2N4Rアイソフォームは検出されなかった。更に、各試験点において、各アイソフォームのmRNAレベルは、BrainPhys(商標)培地で観察されたものよりも全身的に低かった。これらのデータは、BrainPhys(商標)培地がニューロンの成熟状態に果たしている有益な役割と完全に一致している。ヒトの脳の発生中に実証されていることに従って(Hefti等、2018)、エキソン2及びエキソン10の発現の変化が最初に検出されたことは興味深い。エキソン3の含有は後に生じる。
【0079】
実験モデルにおける成体MAPT転写物の翻訳効率を検証するために、次に、BrainPhys(商標)中で25週間維持した球体において、Tauタンパク質アイソフォームの産生をウェスタンブロッティングによって評価した。タンパク質は、任意にラムダホスファターゼを用いて脱リン酸化し、6つのアイソフォームを含むリコンビナントTauタンパク質ラダーの隣で電気泳動によって分離した。図3Bに示すように、Tauタンパク質は40~60kDaの複数のバンドの形態で移動しており、これは(i)複数のアイソフォームの存在、及び(ii)タンパク質のリン酸化状態の結果である。ホスファターゼ処理により、Tauタンパク質は低分子量側にシフトした。mRNAの解析結果に従って、25週間目のカプセルでは0N3R-タウのアイソフォームが優勢的に検出されたことが明らかになった。しかし、0N4R、1N3R、及び1N4Rのアイソフォームも有意な量で検出された。一方、2NTauアイソフォームは観察することができなかった。これらのアイソフォームは、mRNAとして存在する全タウ種の1%未満であることから、その濃度が分析における検出限界よりも低い可能性がある。
【0080】
結論
これらの結果は、Matrigelで裏打ちされたアルギン酸塩カプセル内で培養されたiPSC由来のニューロンが、成熟した皮質細胞の培養仕様を示すことを示している。更に重要なことは、全ての成体MAPT mRNAアイソフォームを個別に定性及び定量分析できる新しい試験により、BrainPhys(商標)中で維持されたニューロンは25週間の成熟後に6つの成体MAPT mRNA転写物を発現していることが実証され、このことから、このモデルはTau病態のモデル化、及び治療目的に非常に適切である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】