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特表2022-539275溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法
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  • 特表-溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法 図1
  • 特表-溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-08
(54)【発明の名称】溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/77 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
B29C45/77
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523156
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(85)【翻訳文提出日】2021-04-21
(86)【国際出願番号】 CN2020099115
(87)【国際公開番号】W WO2021243779
(87)【国際公開日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】202010485142.7
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521172723
【氏名又は名称】ハイティエン プラスティクス マシーナリー グループ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】謝鵬程
(72)【発明者】
【氏名】傅南紅
(72)【発明者】
【氏名】王金領
(72)【発明者】
【氏名】許宇軒
(72)【発明者】
【氏名】焦暁龍
(72)【発明者】
【氏名】党開放
(72)【発明者】
【氏名】呉偉
(72)【発明者】
【氏名】応志峰
(72)【発明者】
【氏名】夏旻文
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM19
4F206AM23
4F206AP03
4F206AP05
4F206AP06
4F206AP16
4F206AR03
4F206AR06
4F206AR07
4F206AR17
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
4F206JP12
4F206JP18
(57)【要約】
【課題】溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明により開示された溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法は、機器を初期化するステップと、事前計算段階では、溶融体が一定の速度で金型キャビティに充填され、各サンプリング周期T内の事前計算パラメータを収集し、かつ第1の計算式を用いて事前計算段階の第1の射出仕事を取得するステップと、適応段階では、溶融体が一定の速度で金型キャビティに充填され、各サンプリング周期T内の適応パラメータを収集し、かつ第2の計算式を用いて適応段階の第2の射出仕事を取得するステップと、現在の加工原料のPVT特性を呼び出してPVT関係関数を構築し、かつPVT重量制御モデルを用いて最適化済みのV/P切り替え点を取得するステップと、事前計算段階の射出仕事及び本段階の射出仕事に基づいて、射出仕事調整モデルによって最適化済みの保持圧力を取得する。本発明はPVT特性によって射出成形プロセスでの加工溶融体の粘度の変動に応答し、成形品重量の繰り返し精度と歩留まりを向上させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法であって、
S1:機器を初期化し、初期V/P切り替え点、初期保持圧力、及び初期バレル温度を設定するステップと、
S2:事前計算段階に入り、溶融体が一定の速度で金型キャビティに充填され、各サンプリング周期T内の、射出圧力、スクリュー変位、及び溶融体温度を含む事前計算パラメータを収集するステップと、
S3:事前計算パラメータに基づいて、第1の計算式を用いて事前計算段階の第1の射出仕事を取得するステップと、
S4:適応段階に入り、溶融体が一定の速度で金型キャビティ内に充填され、各サンプリング周期T内の、射出圧力、スクリュー変位、及び溶融体温度を含む適応パラメータを収集するステップと、
S5:適応パラメータに基づいて、第2の計算式を用いて適応段階の第2の射出仕事を取得するステップと、
S6:現在の加工原料のPVT特性を呼び出してPVT関係関数を構築し、かつPVT重量制御モデルを用いて最適化済みのV/P切り替え点を取得するステップと、
S7:事前計算段階の射出仕事及び本段階の射出仕事に基づいて、射出仕事調整モデルによって最適化済みの保持圧力を取得するステップと、を含む、
ことを特徴とする溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項2】
前記ステップS1の前は、原料の種類に基づいてPVT特性ライブラリを構築するステップS0をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項3】
前記ステップS2において、予め設定された数のサンプリング周期Tの事前計算パラメータを収集する、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項4】
前記事前計算段階と適応段階とはサンプリング周期Tが一致する、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項5】
前記ステップS3において、前記第1の計算式は、
【数1】

であり、
ここで、Wは第1の射出仕事であり、事前計算段階の開始時の圧力値はPstartに設定され、スクリュー変位値はXstartに設定され、事前計算段階の終了時の圧力はPswitchであり、スクリュー変位値はXswitchに設定され、p及びxはそれぞれ第i個のサンプリング周期T内の射出圧力及びスクリュー変位を表し、Kは材料自身に関連する材料補正係数である、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項6】
前記ステップS5において、前記第2の計算式は、
【数2】

であり、
ここで、Wtは第2の射出仕事であり、適応段階の開始時の圧力値はPstartに設定され、スクリュー変位値はXstartに設定され、かつこの変位値は事前計算段階のXstartと一致し、適応段階の終了時の圧力値は
【数3】

に設定され、スクリュー変位値は
【数4】

に設定され、p及びxはそれぞれ第j個のサンプリング周期T内の射出圧力及びスクリュー変位を表し、Kは材料自身に関連する材料補正係数である、
ことを特徴とする請求項5に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項7】
前記ステップS6中、前記PVT重量制御モデルは、
【数5】

であり、
ここで、xは現在の段階の最適化済みのV/P切り替え点の位置であり、xは初期V/P切り替え点の位置であり、V(T,P)は現在の加工材料のPVT関係関数であり、T及びTはそれぞれ事前計算段階及び適応段階での溶融体温度であり、P及びPはそれぞれ事前計算段階及び適応段階の射出圧力曲線における特徴点の圧力値であり、該特徴点はV/P切り替え点から安全距離Xだけ離れた、収集された射出圧力曲線上の一点である、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項8】
前記ステップS7において、前記射出仕事調整モデルは
【数6】

であり、
ここで、PKLは最適化済みの各モデルの保持圧力値であり、PKOは初期保持圧力であり、Kは材料製品に関連する補正係数である、
ことを特徴とする請求項5に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項9】
前記ステップS3の後は、保圧段階に入り、残された溶融体を初期保持圧力で金型キャビティに充填するステップS31をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項10】
前記ステップS7の後は、
S71:保圧段階に入り、残された溶融体を最適化済みの保持圧力で金型キャビティに充填するステップと、
S8:射出成形タスクが完了するようにステップS4に戻るステップと、をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形制御分野に関し、具体的に溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形プロセスの各構成段階では、射出段階と保圧段階でしか溶融体がバレルから金型キャビティ内に入ることはない。ここで、射出段階では、スクリューは一定の速度で移動する状態であり、スクリューが2つの段階の境界点 (以下、V/P切り替え点と略称)に移動するまで、溶融体は一定の速度でスクリューによって金型のキャビティに充填される。保圧段階では、スクリューは定圧で移動する状態であり、残された溶融体は、製品の収縮を補うように、最終的に製品に対する加工を完成させるために、一定の圧力、即ち保持圧力でスクリューによって金型キャビティに充填される。
【0003】
一般的な生産加工状態では、加工溶融体の粘度はかなり簡単に外部からの干渉を受け、例えば原料自身の含水量の変化も、原料ロットの変化も、原料に含まれる再生材料の比率の変化さえも、加工溶融体の粘度の変化をもたらす。粘度の変化は射出プロセスのパラメータの変化に影響を与え、従って各加工周期の金型キャビティ内に入る溶融体の質量に影響する。しかし、従来の射出成形プロセスでは、キャビティ内に入る溶融体の重量を決定できるプロセスパラメータ、V/P切り替え点と保圧点は、溶融体粘度の変化によって変化することはなく、最終的には、成形品の重量の変動をもたらした。
【0004】
従来技術において、例えば公開番号US7008574の米国特許は、電動射出成形機と、射出速度の基準に準ずるように、成形材料をモータの駆動力で金型に射出する電動射出機構、射出制御ユニット、及び射出モータを制御するためのサーボドライバと、電動射出機構を射出するように制御する際に、射出圧力に対する射出速度の変動特性が射出速度に対する射出速度の変動特性に近づくように、油圧駆動システムの特性に応じて噴射速度リファレンスを補正するためのリファレンス補正ユニットとを開示している。それは射出の変動特性を制御することによって射出成形の成形質量を保証する。
【0005】
例えば公開番号CN101890792Bの中国特許は、射出成形又は押出成形機器を改善するための制御方法を開示し、溶融体質量パラメータの現在値が設定値から外れて1つの予定範囲になると、少なくとも1つのプロセス操作パラメータの設定値が自動的に調整され、加熱源及び機械駆動源からプラスチック溶融体まで伝達されるエネルギー値を制御し、かつ工程プロセスパラメータの設定値を自動的に調整することによってシステムのエネルギー消費と溶融体の質量を最適化する。それは溶融体質量の現在値と予め設定された範囲との比較を判断することによって、射出成形の質量を制御する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、射出成形機は射出成形のプロセスにおいて原料水分の変化、原料ロットの変化、及び再生材料比率の変化による溶融体粘度の変化を十分に考慮することを確保し、成形品質量の変動の安定を確保しながら、成形品の繰り返し精度及び歩留まりを向上させる。本発明は、
S1:機器を初期化し、初期V/P切り替え点、初期保持圧力、及び初期バレル温度を設定するステップと、
S2:事前計算段階に入り、溶融体が一定の速度で金型キャビティに充填され、各サンプリング周期T内の、射出圧力、スクリュー変位、及び溶融体温度を含む事前計算パラメータを収集するステップと、
S3:事前計算パラメータに基づいて、第1の計算式を用いて事前計算段階の第1の射出仕事を取得するステップと、
S4:適応段階に入り、溶融体が一定の速度で金型キャビティ内に充填され、各サンプリング周期T内の、射出圧力、スクリュー変位、及び溶融体温度を含む適応パラメータを収集するステップと、
S5:適応パラメータに基づいて、第2の計算式を用いて適応段階の第2の射出仕事を取得するステップと、
S6:現在の加工原料のPVT特性を呼び出してPVT関係関数を構築し、かつPVT重量制御モデルを用いて最適化済みのV/P切り替え点を取得するステップと、
S7:事前計算段階の射出仕事及び本段階の射出仕事に基づいて、射出仕事調整モデルによって最適化済みの保持圧力を取得するステップと、を含む溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法を提供する。
【0007】
さらに、前記ステップS1の前は、原料の種類に基づいてPVT特性ライブラリを構築するステップS0をさらに含む。
【0008】
さらに、前記ステップS2において、予め設定された数のサンプリング周期Tの事前計算パラメータを収集する。
【0009】
さらに、前記事前計算段階と適応段階とはサンプリング周期Tが一致する。
【0010】
さらに、前記ステップS3において、前記第1の計算式は、下記式(1);
【0011】
【数1】
【0012】
であり、
ここで、Wは第1の射出仕事であり、事前計算段階の開始時の圧力値はPstartに設定され、スクリュー変位値はXstartに設定され、事前計算段階の終了時の圧力はPswitchであり、スクリュー変位値はXswitchに設定され、p及びxはそれぞれ第i個のサンプリング周期T内の射出圧力及びスクリュー変位を表し、Kは材料自身に関連する材料補正係数である。
【0013】
さらに、前記ステップS5において、前記第2の計算式は、下記式(2);
【0014】
【数2】
【0015】
であり、
ここで、Wは第2の射出仕事であり、適応段階の開始時の圧力値はPstartに設定され、スクリュー変位値はXstartに設定され、且つこの変位値は事前計算段階のXstartと一致し、適応段階の終了時の圧力値は、
【0016】
【数3】
【0017】
に設定され、スクリュー変位値は、
【0018】
【数4】
【0019】
に設定され、p及びxはそれぞれ第j個のサンプリング周期T内の射出圧力及びスクリュー変位を表し、Kは材料自身に関連する材料補正係数である。
【0020】
さらに、前記ステップS6において、前記PVT重量制御モデルは、下記式(3);
【0021】
【数5】
【0022】
であり、
ここで、xは現在の段階の最適化済みのV/P切り替え点位置であり、xは初期V/P切り替え点位置であり、V(T,P)は現在の加工材料のPVT関係関数であり、T及びTtはそれぞれ事前計算段階及び適応段階での溶融体温度であり、P及びPtはそれぞれ事前計算段階及び適応段階の射出圧力曲線における特徴点圧力値であり、該特徴点はV/P切り替え点から安全距離Xsだけ離れた、収集された射出圧力曲線上の一点である。
【0023】
さらに、前記ステップS7において、前記射出仕事調整モデルは、下記式(4);
【0024】
【数6】
【0025】
であり、
ここで、PKLは最適化済みの各モデルの保持圧力値であり、PKOは初期保持圧力であり、Kは材料製品に関連する補正係数である。
【0026】
さらに、前記ステップS3の後は、
S31:保圧段階に入り、残された溶融体を初期保持圧力で金型キャビティに充填するステップをさらに含む。
【0027】
さらに、前記ステップS7の後は、
S71:保圧段階に入り、残された溶融体を最適化済みの保持圧力で金型キャビティに充填するステップと、
S8:射出成形タスクが完了するようにステップS4に戻るステップと、をさらに含む。
【0028】
従来技術と比べ、本発明は少なくとも以下の有益な効果を有する。
【0029】
(1)本発明に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法は、従来の考え方と比べ、高分子材料のPVT特性関係及びメルトインデックス測定メカニズムを組み合わせることによって、射出成形プロセスにおけるV/P切り替え点及び保持圧力を調整し、従来のV/P切り替え点及び保持圧力の制御方法と比べ、射出成形プロセスでの加工溶融体の粘度の変動に応答し、かつこれらの変動に対して応答を調整および最適化することができ、成形品重量の繰り返し精度と歩留まりを向上させる。
【0030】
(2)金型にセンサを増設する必要はなく、金型自身に対する要件を低減し、適応性と汎用性をある程度向上させる。
【0031】
(3)射出成形機のインテリジェント化の度合いを大幅に向上させ、1つの生産段階だけで自己学習のプロセスを完成させることができ、第2の段階からV/P切り替え点および保持圧力を適応的に調整することができ、手動の介入が必要とされず、プロセス全体にかけて調整が自動的に完成する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法のフローチャートである。
図2】適応的調整前後の重量変動の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下は本発明の具体的な実施例であり、かつ図面と併せて本発明の技術的解決手段をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0034】
上記課題を解決し、射出成形機が射出成形のプロセスにおいて原料水分の変化、原料ロットの変化、及び再生材料比率などの変化(即ち高分子材料自身PVT特性が変化すること)による溶融体粘度の変化を十分に考慮することを確保し、成形品の質量の変動の安定を確保しながら、成形品の繰り返し精度及び歩留まりを向上させるために、図1に示すように、本発明は、
S1:機器を初期化し、初期V/P切り替え点、初期保持圧力、及び初期バレル温度を設定するステップと、
S2:事前計算段階に入り、溶融体が一定の速度で金型キャビティに充填され、各サンプリング周期T内の、射出圧力、スクリュー変位、及び溶融体温度を含む事前計算パラメータを収集するステップと、
S3:事前計算パラメータに基づいて、第1の計算式を用いて事前計算段階の第1の射出仕事を取得するステップと、
S4:適応段階に入り、溶融体が一定の速度で金型キャビティ内に充填され、各サンプリング周期T内の、射出圧力、スクリュー変位、及び溶融体温度を含む適応パラメータを収集するステップと、
S5:適応パラメータに基づいて、第2の計算式を用いて適応段階の第2の射出仕事を取得するステップと、
S6:現在の加工原料のPVT特性を呼び出してPVT関係関数を構築し、かつPVT重量制御モデルを用いて最適化済みのV/P切り替え点を取得するステップと、
S7:根据事前計算段階的射出仕事和本段階的射出仕事、射出仕事調整モデルによって最適化済みの保持圧力を取得するステップと、を含む溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法を提供する。
【0035】
ここで、前記ステップS1の前は、原料の種類に基づいてPVT特性ライブラリを構築するステップS0をさらに含む。
【0036】
さらに、前記ステップS2において、予め設定された数のサンプリング周期Tの事前計算パラメータを収集し、かつ前記事前計算段階と適応段階とはサンプリング周期Tが一致する。
【0037】
本発明において、前記ステップS2~S3は本発明におけるデータ事前計算段階であり、収集された事前計算パラメータを整理して、以下の第1の計算式によって該段階での変位に対する圧力の積分値を取得して、射出仕事Wとして定義することによって該段階内の溶融体粘度を特徴付ける。
【0038】
【数7】
【0039】
ここで、Wは第1の射出仕事であり、事前計算段階の開始時の圧力値はPstartに設定され、スクリュー変位値はXstartに設定され、事前計算段階の終了時の圧力はPswitchであり、スクリュー変位値はXswitchに設定され、Kは材料自身に関連する材料補正係数である。Pstartの位置から、一定周期Tごとに第i(i=1~n)の周期の射出圧力及びスクリュー変位をサンプリングし、サンプリングポイントをそれぞれp及びxとする。
【0040】
さらに、前記ステップS3は、
S31:保圧段階に入り、残された溶融体を初期保持圧力で金型キャビティに充填するステップをさらに含む。
【0041】
本発明のステップS4~S7は本発明での適応段階であり、該段階において、収集された適応パラメータを整理して、以下の第2の計算式によって該段階での変位に対する圧力の積分値を取得し、射出仕事Wとして定義することによって現在の段階内の溶融体粘度を特徴づける。
【0042】
【数8】
【0043】
ここで、Wは第2の射出仕事であり、適応段階の開始時の圧力値はPstartに設定され、スクリュー変位値はXstartに設定され、かつこの変位値は事前計算段階のXstartと一致し、適応段階の終了時の圧力値は
【0044】
【数9】
【0045】
に設定され、スクリュー変位値は
【0046】
【数10】
【0047】
に設定され、Kは材料自身に関連する材料補正係数である。Pstartの位置から、一定周期Tごとに第j(j=1~n)の周期の射出圧力及びスクリュー変位をサンプリングし、サンプリングポイントをそれぞれp及びxとする。
【0048】
第1の射出仕事と第2の射出仕事との比較により、かつ以下の射出仕事調整モデルに基づいて、計算することで最適化済みの保持圧力値を得ることができ、
【0049】
【数11】
【0050】
ここで、PKLは最適化済みの各モデルの保持圧力値であり、PKOは初期保持圧力であり、Kは材料製品に関連する補正係数である。
【0051】
圧力、比容、及び温度という三者はプラスチック成形プロセスにおいて極めて重要な3つのパラメータであり、材料の各側面の性能にも極めて大きな影響を及ぼし、最終的に射出成形の製品の品質にも決定的な約割を果たしている。これに基づいて、本発明は射出成形を制御する要素にPVT特性を加えた。溶融体のデュアルドメインTait方程式から分かるように、高分子材料が溶融状態である場合、その比容は以下のように表すことができる。
【0052】
【数12】
【0053】
ここで、V(T,P)は、温度T及び圧力Pの条件下の比容であり、Cは普遍定数であり、b、b、b、b、及びbはそれぞれ高分子材料の溶融状態下での状態定数である。
【0054】
そのため、PVT特性の変化による溶融体粘度の変化がもたらした射出成形質量の偏差を解決するために、本発明は以下に基づくPVT重量制御モデルを提供することによって、改めて計算して最適化済みのV/P切り替え点を取得する。
【0055】
【数13】
【0056】
ここで、xは現在の段階の最適化済みのV/P切り替え点位置であり、xは初期V/P切り替え点位置であり、V(T,P)は現在の加工材料のPVT関係関数であり、T及びTはそれぞれ事前計算段階及び適応段階での溶融体温度であり、P及びPはそれぞれ事前計算段階及び適応段階の射出圧力曲線における特徴点圧力値であり、該特徴点はV/P切り替え点から安全距離Xだけ離れた、収集された射出圧力曲線上の一点である(該特徴点が可能な限りV/P切り替え点に近づくが、自己最適化されたV/P切り替え点の出力と実行に影響しないように確保する)。
【0057】
該PVT重量制御モデルによって最適化済みのV/P切り替え点を得るのは、従来の考え方と比べ、高分子材料のPVT特性関係及びメルトインデックス測定メカニズムを組み合わせることによって、射出成形プロセスにおけるV/P切り替え点及び保持圧力を調整し、従来のV/P切り替え点及び保持圧力の制御方法と比べ、射出成形プロセスでの加工溶融体の粘度の変動に応答し、かつこれらの変動に対して応答を調整および最適化することができ、成形品重量の繰り返し精度と歩留まりを向上させる。
【0058】
最適化済みのV/P切り替え点及び保持圧力を得た後に、適応段階において、スクリューは射出成形溶融体を最適化済みのV/P切り替え点まで押し出した後に停止し、同時に保圧段階、即ちS71に入り、残された溶融体を最適化済みの保持圧で金型キャビティに充填する。
【0059】
上記ステップを完成させた後、該段階の射出成形タスクがすでに完成しており、この時にステップS4に戻り、次の段階の射出成形タスクに入り、ステップS4~S71を繰り返し、現在の段階の射出成形仕事を第1の射出成形仕事と比較し続け、すべての射出成形タスクが完成するまで、新しいPVT特性に基づいて新しいV/P切り替え点を取得する。
【0060】
現在の段階及び事前計算段階の射出仕事及びPVT特性を比較し続け、かつ射出仕事調整モデル及びPVT重量制御モデルに代入することにより、最適化済みの保持圧力及びV/P切り替え点を取得し、射出成形機のインテリジェント化の度合いを大幅に向上させ、1つの生産段階だけで自己学習のプロセスを完成させることができ、第2の段階からV/P切り替え点および保持圧力を適応的に調整することができ、手動の介入が必要とされず、プロセス全体にかけて調整が自動的に完成する。
【0061】
同時に、該方法によって溶融体粘度変動に基づく射出成形を適応的に補償し、金型にセンサを増設する必要はなく、金型自身に対する要件を低減し、適応性と汎用性をある程度向上させる。
【実施例2】
【0062】
本発明をよりよく説明し、技術の要点をより明確に体現できるために、本実施例では、1つの具体的な実施例で本発明の動的調整を説明する。
【0063】
本実施例では、異なる粘度のポリスチレンを加工原料とし、標準の反り試験片を実験の製品とする。かつパラメータの収集準備を行い、射出成形機の射出圧力及びスクリュー変位がリアルタイムに収集され得ることを確保するとともに、10msのサンプリング周期Tを設定する。同時に、表1に示すような一部の予め設定されたプロセスパラメータを設定する。
【0064】
【表1】
【0065】
適応段階に入る前、まず事前計算段階で1周期加工して、該加工周期内の事前計算パラメータ(射出仕事の計算の正確さを確保するために、本実施例では、該加工周期は360個のサンプリング周期Tを含む)を収集し、一連のサンプリングポイントを取得する。スクリュー変位に対する射出圧力の積分値を計算し始め、かつ対応する射出仕事を得る。具体的なサンプリングポイントは表2に示すとおりである。
【0066】
【表2】
【0067】
以上により、本発明により提供される第1の計算式に基づいて現在の周期(即ち事前計算段階)の第1の射出仕事を計算し、該値によって現在の周期の溶融体粘度を特徴付ける。
【0068】
【数14】
【0069】
ここで、Xstartは80.9999mmであり、Pstartは3.9633mpaであり、Xswitchは13.1328mmであり、Pswitchは42.3566mpaである。この式で計算して得られた現在の周期の射出仕事Wは141181.84pa・mmである。
【0070】
スクリューが予め設定されたV/P切り替え点(即ち第359個のサンプリング周期に入ること)に達すると、スクリューは溶融体の押し出しを停止し、射出成形機は保圧段階に入り、製品の収縮を補うように、残された溶融体を予め設定された保持圧力で金型キャビティに充填する。事前計算段階が終了する。
【0071】
次に、射出成形機を起動して適応段階に入り、粘度の下がったポリスチレン原料を加え、加工生産を続け、射出圧力、スクリュー変位などを含むプロセス曲線をリアルタイムに取得し、かつ射出圧力及びスクリュー曲線に対して、サンプリング周期が同じく10msであるサンプリング操作を行う。取得された対応するリアルタイム情報は表3に示すとおりである。
【0072】
【表3】
【0073】
同様に、本発明の第2の計算式で第2の射出仕事Wを計算し、現在の周期(即ち適応段階)の射出仕事Wは以下のように表すことができる。
【0074】
【数15】
【0075】
ここで、Xstartは81.0001mmであり、Pstartは4.4474mpaであり、
【0076】
【数16】
【0077】
は13.8604mmであり、
【0078】
【数17】
【0079】
は38.0907mpaである。この式で計算して得られた現在の周期の射出仕事は133950.4pa・mmである。
【0080】
事前計算段階及び現在の段階の射出仕事を計算した後、表4に示すような、PVT特性ライブラリ内における該種類のポリスチレンのPVT特性関数の重要な値を呼び出す。
【0081】
【表4】
【0082】
即ち該ポリスチレンのPVT特性関数は以下のとおりである。
【0083】
【数18】
【0084】
上記表2及び表3から分かるように、適応段階に入った後、射出圧力は42.3566mpaから38.0907mpaに低下し、バレル温度は一定の210℃であり、それによって、表4に示すPVTの重要パラメータ表に基づいて計算して、溶融体比容が10.05×10-4/kgから10.12×10-4/kgに変化するという結果を得ることができる。バレル温度が変化しなかったにもかかわらず、加工溶融体の粘度が低下したため、以下のPVT重量制御モデルに基づいて、
【0085】
【数19】
【0086】
ここで、xは13mmであり、Pは42.0238mpaであり、Pは36.8503であり、従って、最適化済みのxが13.1mmであることを得る。
【0087】
同時に、求められた射出仕事の変化率(即ち粘度)を利用して、射出仕事調整モデルに合わせて、最適化済みの現在の段階の保持圧力値を出力する:
【0088】
【数20】
【0089】
K0、W、及びWを代入して、最適化済みの保持圧力PKLが35.10mpaであることを得る。
【0090】
ステップにしたがって加工を続け、現在の加工段階及び事前計算段階の射出仕事及びPVT特性を順次計算しかつ比較し、成形された試験片を称量し、最終的な結果をプロットし、図2に示すような適応的調整前後の重量変動の比較図を得る。図2から明確に分かるように、自由化機能が有効になった後、製品の重量の変動は明らかに最適化された。
【0091】
以上により、本発明に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法は、従来の考え方と比べ、高分子材料のPVT特性関係及びメルトインデックス測定メカニズムを組み合わせることによって、射出成形プロセスにおけるV/P切り替え点及び保持圧力を調整し、従来のV/P切り替え点及び保持圧力の制御方法と比べ、射出成形プロセスでの加工溶融体の粘度の変動に応答し、かつこれらの変動に対して応答を調整および最適化することができ、成形品重量の繰り返し精度と歩留まりを向上させる。
【0092】
同時に、設定された事前計算段階及び適応段階により、射出成形機のインテリジェント化の度合いを大幅に向上させ、1つの生産段階だけで自己学習のプロセスを完成させることができ、第2の段階からV/P切り替え点および保持圧力を適応的に調整することができ、手動の介入が必要とされず、プロセス全体にかけて調整が自動的に完成する。かつ、本方法は金型にセンサを増設する必要はなく、金型自身に対する要件をさらに低減し、本方法の適応性と汎用性をある程度向上させる。
【0093】
本明細書で説明された具体的な実施例は本発明の趣旨を説明する例に過ぎない。当業者は、本発明の趣旨、又は添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することなく、説明された具体的な実施例に対して様々な修正や追加を行うか、又は類似する方式で置き換えることができる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-04-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法であって、
S1:機器を初期化し、初期V/P切り替え点、初期保持圧力、及び初期バレル温度を設定するステップと、
S2:事前計算段階に入り、溶融体が一定の速度で金型キャビティに充填され、各サンプリング周期T内の、射出圧力、スクリュー変位、及び溶融体温度を含む事前計算パラメータを収集するステップと、
S3:事前計算パラメータに基づいて、第1の計算式を用いて事前計算段階の第1の射出仕事を取得するステップと、
S4:適応段階に入り、溶融体が一定の速度で金型キャビティ内に充填され、各サンプリング周期T内の、射出圧力、スクリュー変位、及び溶融体温度を含む適応パラメータを収集するステップと、
S5:適応パラメータに基づいて、第2の計算式を用いて適応段階の第2の射出仕事を取得するステップと、
S6:現在の加工原料のPVT特性を呼び出してPVT関係関数を構築し、かつPVT重量制御モデルを用いて最適化済みのV/P切り替え点を取得するステップと、
S7:事前計算段階の第1の射出仕事及び適応段階の第2の射出仕事に基づいて、射出仕事調整モデルによって最適化済みの保持圧力を取得するステップと、を含む、
ことを特徴とする溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項2】
前記ステップS1の前は、原料の種類に基づいてPVT特性ライブラリを構築するステップS0をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項3】
前記ステップS2において、予め設定された数のサンプリング周期Tの事前計算パラメータを収集する、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項4】
前記事前計算段階と適応段階とはサンプリング周期Tが一致する、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項5】
前記ステップS3において、前記第1の計算式は、
【数1】

であり、
ここで、Wは第1の射出仕事であり、事前計算段階の開始時の圧力値はPstartに設定され、スクリュー変位値はXstartに設定され、事前計算段階の終了時の圧力はPswitchであり、スクリュー変位値はXswitchに設定され、p及びxはそれぞれ第i個のサンプリング周期T内の射出圧力及びスクリュー変位を表し、Kは材料自身に関連する材料補正係数である、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項6】
前記ステップS5において、前記第2の計算式は、
【数2】

であり、
ここで、Wtは第2の射出仕事であり、適応段階の開始時の圧力値はPstartに設定され、スクリュー変位値はXstartに設定され、かつこの変位値は事前計算段階のXstartと一致し、適応段階の終了時の圧力値は
【数3】

に設定され、スクリュー変位値は
【数4】

に設定され、p及びxはそれぞれ第j個のサンプリング周期T内の射出圧力及びスクリュー変位を表し、Kは材料自身に関連する材料補正係数である、
ことを特徴とする請求項5に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項7】
前記ステップS6中、前記PVT重量制御モデルは、
【数5】

であり、
ここで、xは現在の段階の最適化済みのV/P切り替え点の位置であり、xは初期V/P切り替え点の位置であり、V(T,P)は現在の加工材料のPVT関係関数であり、T及びTはそれぞれ事前計算段階及び適応段階での溶融体温度であり、P及びPはそれぞれ事前計算段階及び適応段階の射出圧力曲線における特徴点の圧力値であり、該特徴点はV/P切り替え点から安全距離Xだけ離れた、収集された射出圧力曲線上の一点である、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項8】
前記ステップS7において、前記射出仕事調整モデルは
【数6】

であり、
ここで、PKLは最適化済みの各モデルの保持圧力値であり、PKOは初期保持圧力であり、Kは材料製品に関連する補正係数である、
ことを特徴とする請求項5に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項9】
前記ステップS3の後は、保圧段階に入り、残された溶融体を初期保持圧力で金型キャビティに充填するステップS31をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【請求項10】
前記ステップS7の後は、
S71:保圧段階に入り、残された溶融体を最適化済みの保持圧力で金型キャビティに充填するステップと、
S8:射出成形タスクが完了するようにステップS4に戻るステップと、をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融体粘度変動に基づく射出成形適応補償法。
【国際調査報告】