(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-08
(54)【発明の名称】特発性肺線維症を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20220901BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220901BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P11/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576479
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(85)【翻訳文提出日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 CN2020097881
(87)【国際公開番号】W WO2020259528
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/092675
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519464474
【氏名又は名称】ベイジン タイド ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Beijing Tide Pharmaceutical Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】チャオ, ヤンピン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ホンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ユアンユアン
(72)【発明者】
【氏名】ゾン, ウェイティン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ, ジン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ジン
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ウェイナ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ, リイン
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ヤンアン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA31
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA57
4C086MA58
4C086MA59
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZC20
(57)【要約】
特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療する方法であって、それを必要とする個体に有効量の式(I)によって表される化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグを投与するステップを含む方法。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療する方法であって、有効量の式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグを、それを必要とする対象に投与するステップを含む方法。
【化1】
[式中、A環は、
【化2】
であり、上記の基は、*又は**と標識された2つの位置のいずれかでピリミジン環に結合しており、もう一方の位置でカルボニル基に結合しており、好ましくは、A環は、
【化3】
であり、上記の基は、*と標識された位置でピリミジン環に結合しており、**と標識された位置でカルボニル基に結合しており、R
10は、H及びC
1~6アルキルからなる群から選択され、好ましくはH又はメチルであり、
Rは、H及びC
1~6アルキルからなる群から選択され、
R
1は、
【化4】
であり、
R
2は、H及びC
1~6アルキルからなる群から選択され、
R
3、R
4、R
7及びR
8はそれぞれの存在において、H、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br又はI)、-NR
5R
6、-OH、C
1~6アルキル及び-OR
5からなる群からそれぞれ独立的に選択され、
R
9及びR
10はそれぞれの存在において、H、ハロゲン、C
1~6アルキル(例えば、メチル)、C
2~6アルケニル、C
3~10環式ヒドロカルビル、3~10員ヘテロシクリル、C
6~10アリール、5~14員ヘテロアリール、C
6~12アラルキル、-C(=O)R
5及び-C
1~6アルキレン-O(P=O)(OH)
2からなる群からそれぞれ独立的に選択され、
上記のアルキレン、アルキル、アルケニル、環式ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール及びアラルキルはそれぞれの存在において、ハロゲン、C
1~6アルキル及び-OR
5からなる群から独立的に選択される1つ又は複数の置換基でそれぞれ任意選択で置換されており、
R
5及びR
6はそれぞれの存在において、H、C
1~6アルキル、C
3~10環式ヒドロカルビル、3~10員ヘテロシクリル、C
6~10アリール、5~14員ヘテロアリール及びC
6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立的に選択され、
mはそれぞれの存在において、それぞれ独立的に0、1、2又は3の整数であり、
nはそれぞれの存在において、それぞれ独立的に0、1又は2の整数である。]
【請求項2】
前記化合物が、式(II)の構造を有し、
【化5】
[式中、基のそれぞれは、請求項1に定義されている通りである。]
好ましくは、前記化合物が、式(III)の構造を有する、請求項1に記載の方法。
【化6】
[式中、R
10は、H又はメチルであり、好ましくはメチルである。]
【請求項3】
前記化合物が、以下の構造を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【表1】
【請求項4】
式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグが、約0.005mg/日~約5000mg/日の量、例えば約0.005、0.05、0.5、5、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500又は5000mg/日の量で投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグが、1日当たり約1ng/kg体重~約200mg/kg体重、約1μg/kg体重~約100mg/kg体重又は約1mg/kg体重~約50mg/kg体重の量で投与され、例えば単位用量当たり約1μg/kg体重、約10μg/kg体重、約25μg/kg体重、約50μg/kg体重、約75μg/kg体重、約100μg/kg体重、約125μg/kg体重、約150μg/kg体重、約175μg/kg体重、約200μg/kg体重、約225μg/kg体重、約250μg/kg体重、約275μg/kg体重、約300μg/kg体重、約325μg/kg体重、約350μg/kg体重、約375μg/kg体重、約400μg/kg体重、約425μg/kg体重、約450μg/kg体重、約475μg/kg体重、約500μg/kg体重、約525μg/kg体重、約550μg/kg体重、約575μg/kg体重、約600μg/kg体重、約625μg/kg体重、約650μg/kg体重、約675μg/kg体重、約700μg/kg体重、約725μg/kg体重、約750μg/kg体重、約775μg/kg体重、約800μg/kg体重、約825μg/kg体重、約850μg/kg体重、約875μg/kg体重、約900μg/kg体重、約925μg/kg体重、約950μg/kg体重、約975μg/kg体重、約1mg/kg体重、約5mg/kg体重、約10mg/kg体重、約15mg/kg体重、約20mg/kg体重、約25mg/kg体重、約30mg/kg体重、約35mg/kg体重、約40mg/kg体重、約45mg/kg体重、約50mg/kg体重、約60mg/kg体重、約70mg/kg体重、約80mg/kg体重、約90mg/kg体重、約100mg/kg体重、約125mg/kg体重、約150mg/kg体重、約175mg/kg体重、約200mg/kg体重、又は約300mg/kg体重の量で投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグの1日用量が、一度に投与されるか、又は2回、3回若しくは4回の投与で投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグが、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも13日間、少なくとも14日間、少なくとも15日間、少なくとも16日間、少なくとも17日間、少なくとも18日間、少なくとも19日間、少なくとも20日間、少なくとも21日間、少なくとも22日間、少なくとも23日間、少なくとも24日間、少なくとも25日間、少なくとも1か月間、少なくとも2か月間、少なくとも3か月間、少なくとも4か月間、少なくとも5か月間、少なくとも6か月間、少なくとも1年間、又は少なくとも2年間連続投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグが、1又は複数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10)の治療コースで投与され、各治療コースが、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも13日間、少なくとも14日間、少なくとも15日間、少なくとも16日間、少なくとも17日間、少なくとも18日間、少なくとも19日間、少なくとも20日間、少なくとも21日間、少なくとも22日間、少なくとも23日間、少なくとも24日間、少なくとも25日間、少なくとも30日間、少なくとも35日間、少なくとも40日間、少なくとも45日間又は少なくとも50日間続き、2治療コースごとの間の間隔が、0日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、2週、3週、又は4週である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグが、注射(例えば、滴下を含む、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内への注射)により投与されるか、若しくは経皮投与されるか、又は経口、バッカル、経鼻、経粘膜、若しくは局所経路を介して、眼科用製剤として、若しくは吸入を介して投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグが、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、ハードキャンディ、散剤、噴霧剤、クリーム剤、軟膏剤、坐剤、ゲル剤、ペースト剤、ローション剤、オイントメント、水性懸濁剤、注射液剤、エリキシル剤、及びシロップ剤からなる群から選択される剤形で投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本開示は、生物学的医学の分野に入り、詳細には、特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療する方法であって、有効量の本出願の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグを、それを必要とする対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0002】
[発明の背景]
特発性肺線維症(IPF)は、下気道における原因不明の慢性進行性線維性障害であり、発生率が増加している。この疾患は、間質内における細胞外マトリックスの進行性蓄積を特徴とする。線維症の増加によって、肺機能が低下し、患者は、通常、生検で裏付けのある診断から3年以内に呼吸不全又は他の合併症で死亡する。歴史的に、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン)と免疫抑制薬(例えば、アザチオプリン)及び/又はN-アセチルシステインの併用は、IPFのための治療方針として提唱されてきた。日本、欧州、インド及びカナダにおいてIPFの治療用に認可されている別の薬物が、IPFの実験モデルにおいて抗炎症性、抗酸化性及び抗線維性作用を組み合わせたピルフェニドンである。ピルフェニドンは、無増悪生存期間の改善が認められている唯一の薬物である。現時点では、現在の治療方針がIPFにおける線維症を逆転させることができるということを示唆する科学的証拠はなく;大部分の治療の目標は、疾患進行率を低減し、及び/又は疾患発症を予防することである。
【0003】
よりよく、より効果的な、IPFに対する治療がやはり求められていることが明らかである。
【0004】
[発明の概要]
一態様において、本開示は、特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療する方法であって、有効量の式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグを、それを必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供する:
【化1】
[式中、
A環は、
【化2】
であり、上記の基は、*又は**と標識された2つの位置のいずれかでピリミジン環に結合しており、もう一方の位置でカルボニル基に結合しており、
Rは、H及びC
1~6アルキルからなる群から選択され、
R
1は、
【化3】
であり、
R
2は、H及びC
1~6アルキルからなる群から選択され、
R
3、R
4、R
7及びR
8はそれぞれの存在において、H、ハロゲン、-NR
5R
6、-OH、C
1~6アルキル及び-OR
5からなる群からそれぞれ独立的に選択され、
R
9及びR
10はそれぞれの存在において、H、ハロゲン、C
1~6アルキル、C
2~6アルケニル、C
3~10環式ヒドロカルビル、3~10員ヘテロシクリル、C
6~10アリール、5~14員ヘテロアリール、C
6~12アラルキル、-C(=O)R
5及び-C
1~6アルキレン-O(P=O)(OH)
2からなる群からそれぞれ独立的に選択され、
上記のアルキレン、アルキル、アルケニル、環式ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール及びアラルキルはそれぞれの存在において、ハロゲン、C
1~6アルキル及び-OR
5からなる群から独立的に選択される1つ又は複数の置換基でそれぞれ任意選択で置換されており、
R
5及びR
6はそれぞれの存在において、H、C
1~6アルキル、C
3~10環式ヒドロカルビル、3~10員ヘテロシクリル、C
6~10アリール、5~14員ヘテロアリール及びC
6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立的に選択され、
mはそれぞれの存在において、それぞれ独立的に0、1、2又は3の整数であり、
nはそれぞれの存在において、それぞれ独立的に0、1又は2の整数である。]。
【0005】
別の態様において、本開示は、特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療するための医薬の製造における式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグの使用を提供する。
【0006】
さらに別の態様において、本開示は、特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療する使用のための式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】実施例2において、試験期間中の各群の動物の体重変化を示す図である(0日目は、ブレオマイシン導入の1日目である)。
【
図1B】実施例2において、試験の終わりでの各群の動物の体重変化を示す図である。
【
図2】実施例2において、試験中の各群の動物の生存率を示す図である。
【
図3】実施例2において、投与後の各群の動物の肺胞洗浄液における白血球数を示す図である。
【
図4A】実施例2において、投与後の各群の動物の肺組織線維症スコアを示す図である。
【
図4B】実施例2において、各群の代表的なマッソントリクローム染色の病理写真を示す図である。
【
図5A】実施例2において、投与後の各群の動物の肺組織におけるTIMP-1 mRNAの発現を示す図である。
【
図5B】実施例2において、投与後の各群の動物の肺組織におけるCOL1A1 mRNAの発現を示す図である。
【
図6】実施例3において、投与後の各群の動物の肺胞洗浄液における白血球数を示す図である。
【
図7A】実施例3において、各群の代表的なH&E染色の病理染色写真を示す図である。
【
図7B】実施例3において、投与後の各群の動物の肺傷害スコアを示す図である。
【
図8A】実施例3において、各群の代表的なマッソントリクローム染色の病理写真を示す図である。
【
図8B】実施例3において、投与後の各群の動物の肺組織線維症スコアを示す図である。
【0008】
定義
文脈中に別段の定義がない限り、本明細書で使用されている科学技術用語はすべて、当業者によって通常理解されている意味と同じ意味を有することを意図する。本明細書で利用されている技法への言及は、当技術分野において通常理解されている技法を、当業者であれば明らかであるそのような技法の変形又は等価な技法の代替法を含めて指すことを意図する。以下の用語は当業者によって容易に理解されると思われるが、それにもかかわらず、本発明をよりよく説明するために次の定義を提示する。
【0009】
本明細書で使用される用語「含む(contain)」、「含む(include)」、「含む(comprise)」、「有する(have)」、又は「関する(relate to)」、及び他の変形は、包括的又は非限定的であり、列挙されていない追加の要素又は方法ステップを排除しない。
【0010】
本明細書では、用語「アルキレン」は、2価の飽和ヒドロカルビルを指し、好ましくは、1個、2個、3個、4個、5個又は6個の炭素原子を有する2価の飽和ヒドロカルビル、例えばメチレン、エチレン、プロピレン又はブチレンを指す。
【0011】
本明細書では、用語「アルキル」は、直鎖状又は分枝状の飽和脂肪族炭化水素と定義される。いくつかの実施形態において、アルキルは、1~12個、例えば1~6個の炭素原子を有する。例えば、本明細書では、用語「C1~6アルキル」は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の基(メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、又はn-ヘキシルなど)を指し、ハロゲンなどの1つ又は複数(例えば、1~3つ)の好適な置換基で任意選択で置換されている(その場合、基は、「ハロアルキル」と呼ぶことができる)(例えば、CH2F、CHF2、CF3、CCl3、C2F5、C2Cl5、CH2CF3、CH2Cl又は-CH2CH2CF3など)。用語「C1~4アルキル」は、1~4個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の脂肪族炭化水素鎖(すなわち、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル又はtert-ブチル)を指す。
【0012】
本明細書では、用語「アルケニル」は、二重結合及び2~6個の炭素原子を有する1価の直鎖状又は分枝状のヒドロカルビル(「C2~6アルケニル」)を指す。アルケニルは、例えばビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、2-メチル-2-プロペニル及び4-メチル-3-ペンテニルである。本発明の化合物は、アルケニレン基を含むとき、純粋なE(entgegen)形、純粋なZ(zusammen)形、又はそれらのいずれかの混合物として存在することができる。
【0013】
本明細書では、用語「アルキニル」は、1つ又は複数の三重結合を含み、好ましくは2個、3個、4個、5個又は6個の炭素原子を有する1価のヒドロカルビル、例えばエチニル又はプロピニルを指す。
【0014】
本明細書では、用語「シクロアルキル」は、飽和の単環式又は多環式(例えば、二環式)炭化水素環(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、若しくはシクロノニルなどの単環式、又はスピロ、縮合若しくは架橋環式系を含む二環式(例えば、ビシクロ[1.1.1]ペンチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル若しくはビシクロ[5.2.0]ノニル、又はデカヒドロナフタレンなど))を指し、1つ又は複数(例えば、1~3つ)の好適な置換基で任意選択で置換されている。シクロアルキルは、3~15個の炭素原子を有する。例えば、用語「C3~6シクロアルキル」は、3~6個の環形成炭素原子を有する飽和の単環式又は多環式(例えば、二環式)炭化水素環(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、又はシクロヘキシル)を指し、1つ又は複数(例えば、1~3つ)の好適な置換基で任意選択で置換されており、例えばメチル置換シクロプロピルを指す。
【0015】
本明細書では、用語「環式ヒドロカルビレン」、「環式ヒドロカルビル」及び「炭化水素環」は、例えば3~10個(好適には3~8個、より好適には3~6個)の環炭素原子を有する、飽和(すなわち、「シクロアルキレン」及び「シクロアルキル」)又は不飽和(すなわち、環中に1つ又は複数の二重及び/又は三重結合を有する)の単環式又は多環式炭化水素環を指し、シクロプロピル(エン)(環)、シクロブチル(エン)(環)、シクロペンチル(エン)(環)、シクロヘキシル(エン)(環)、シクロヘプチル(エン)(環)、シクロオクチル(エン)(環)、シクロノニル(エン)(環)、シクロヘキセニル(エン)(環)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書では、用語「ヘテロシクリル」、「ヘテロシクリレン」及び「ヘテロ環」は、例えば3~10個(好適には3~8個、より好適には3~6個)の環原子を有する、飽和(すなわち、ヘテロシクロアルキル)又は部分不飽和(すなわち、環中に1つ又は複数の二重及び/又は三重結合を有する)の環式基を指し、少なくとも1個の環原子は、N、O及びSからなる群から選択されるヘテロ原子であり、残りの環原子はCである。例えば、「3~10員ヘテロ環」の「3~10員ヘテロシクリル(エン)」は、2~9個(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個又は9個)の環炭素原子並びにN、O及びSからなる群から独立的に選択される1個又は複数(例えば、1個、2個、3個、又は4個)のヘテロ原子を有する、飽和又は部分不飽和のヘテロシクリル(エン)又はヘテロ環を指す。ヘテロシクリレン、ヘテロシクリル及びヘテロ環の例としては、オキシラニル(エン)、アジリジニル(エン)、アゼチジニル(エン)、オキセタニル(エン)、テトラヒドロフラニル(エン)、ジオキソリニル(エン)、ピロリジニル(エン)、ピロリドニル(エン)、イミダゾリジニル(エン)、ピラゾリジニル(エン)、ピロリニル(エン)、テトラヒドロピラニル(エン)、ピペリジニル(エン)、モルホリニル(エン)、ジチアニル(エン)、チオモルホリニル(エン)、ピペラジニル(エン)又はトリチアニル(エン)が挙げられるが、これらに限定されない。前記基は、スピロ、縮合、又は架橋系を含む二環式系(例えば、8-アザスピロ[4.5]デカン、3,9-ジアザスピロ[5.5]ウンデカン、2-アザビシクロ[2.2.2]オクタンなど)も包含する。ヘテロシクリレン、ヘテロシクリル及びヘテロ環は、1つ又は複数(例えば、1つ、2つ、3つ又は4つ)の好適な置換基で任意選択で置換されていてもよい。
【0017】
本明細書では、用語「アリール(エン)」及び「芳香族環」は、共役π電子系を有するすべて炭素の単環式又は縮合環多環式芳香族基を指す。例えば、本明細書では、用語「C6~10アリール(エン)」及び「C6~10芳香族環」は、フェニル(エン)(ベンゼン環)又はナフチル(エン)(ナフタレン環)などの6~10個の炭素原子を含む芳香族基を指す。アリール(エン)又は芳香族環は、1つ又は複数(1~3つなど)の好適な置換基(例えば、ハロゲン、-OH、-CN、-NO2、及びC1~6アルキルなど)で任意選択で置換されている。
【0018】
本明細書では、用語「ヘテロアリール(エン)」及び「ヘテロ芳香族環」は、5個、6個、8個、9個、10個、11個、12個、13個又は14個の環原子、特に1個又は2個又は3個又は4個又は5個又は6個又は9個又は10個の炭素原子を有し、同じでも異なってもよい少なくとも1個のヘテロ原子(O、N、又はSなど)を含む、単環式、二環式又は三環式の芳香族環系を指す。さらに、いずれの場合にも、ベンゾ縮合していてもよい。特に、「ヘテロアリール(エン)」又は「ヘテロ芳香族環」は、チエニル(エン)、フリル(エン)、ピロリル(エン)、オキサゾリル(エン)、チアゾリル(エン)、イミダゾリル(エン)、ピラゾリル(エン)、イソオキサゾリル(エン)、イソチアゾリル(エン)、オキサジアゾリル(エン)、トリアゾリル(エン)、チアジアゾリル(エン)など、及びそれらのベンゾ誘導体;又はピリジニル(エン)、ピリダジニル(エン)、ピリミジニル(エン)、ピラジニル(エン)、トリアジニル(エン)など、及びそれらのベンゾ誘導体からなる群から選択される。
【0019】
本明細書では、用語「アラルキル」は、好ましくはアリール又はヘテロアリール置換アルキルを意味し、アリール、ヘテロアリール及びアルキルは本明細書に定義する通りである。通常は、アリール基は、6~14個の炭素原子を有することができ、ヘテロアリール基は、5~14個の環原子を有することができ、アルキル基は、1~6個の炭素原子を有することができる。例示的なアラルキル基としては、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルブチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書では、用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、F、Cl、Br、又はIを含むように定義される。
【0021】
本明細書では、用語「窒素含有ヘテロ環」は、環中に2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個又は13個の炭素原子及び少なくとも1個の窒素原子を有し、N、O、C=O、S、S=O及びS(=O)2からなる群から選択される1つ又は複数(例えば、1つ、2つ、3つ又は4つ)の環員を任意選択でさらに含むことができる、飽和又は不飽和の単環式又は二環式基を指す。窒素含有ヘテロ環は、前記窒素含有ヘテロ環の窒素原子及び他のいずれかの環原子を通して分子の残りに結合している。窒素含有ヘテロ環は、任意選択でベンゾ縮合しており、好ましくは前記窒素含有ヘテロ環の窒素原子及び縮合ベンゼン環のいずれかの炭素原子を通して分子の残りに結合している。
【0022】
用語「置換された」は、現在の状況下において、指定された原子の正常な原子価を超えていないこと、置換によって、安定な化合物が生じることを条件として、指定された原子上の1個又は複数(例えば、1個、2個、3個、又は4個)の水素が指示された群から選ばれたもので置き換えられていることを意味する。置換基及び/又は変数の組合せは、そのような組合せによって、安定な化合物が生じる場合に限り許容される。
【0023】
置換基が「任意選択で置換されている」と記載されている場合、置換基は、(1)置換されていなくても、(2)置換されていてもよい。置換基の炭素が置換基の一覧のうちの1つ又は複数で任意選択で置換されていると記載されている場合、炭素上の水素のうちの1つ又は複数(水素が存在している程度まで)を、独立的に選択される任意選択の置換基で別々に及び/又は一緒に置き換えることができる。置換基の窒素が置換基の一覧のうちの1つ又は複数で任意選択で置換されていると記載されている場合、窒素上の水素のうちの1つ又は複数(水素が存在している程度まで)をそれぞれ、独立的に選択される任意選択の置換基で置き換えることができる。
【0024】
置換基がある群から「独立的に選択される」と記載されている場合、各置換基は、別の置換基(複数可)に関係なく選択される。したがって、各置換基は、別の置換基(複数可)と同一でも、異なってもよい。
【0025】
本明細書では、用語「1つ又は複数」は、1つ又は1つより多いこと(例えば、2、3、4、5又は10)を合理的として意味する。
【0026】
本明細書では、指定されていない限り、置換基の結合点は、置換基のいずれか好適な位置によることができる。
【0027】
置換基への結合が環の2個の原子を接続する結合を横断することが示されるとき、そのような置換基は、その環の置換可能な環形成原子のうちのいずれかに結合することができる。
【0028】
本発明は、同じ原子番号を有するが、自然界で優勢な原子質量又は質量数と異なる原子質量又は質量数を有する原子によって、1個又は複数の原子が置き換えられているということを除いて、本発明の化合物と同一である、薬学的に許容される同位体標識化合物もすべて含む。本発明の化合物に含めるのに適している同位体の例としては、2H、3Hなどの水素の同位体;11C、13C、及び14Cなどの炭素の同位体;36Clなどの塩素の同位体;18Fなどのフッ素の同位体;123Iや125Iなどのヨウ素の同位体;13Nや15Nなどの窒素の同位体;15O、17O、及び18Oなどの酸素の同位体;32Pなどのリンの同位体;並びに35Sなどの硫黄の同位体が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のいくつかの同位体標識化合物、例えば放射性同位体を取り込んでいる化合物は、薬物及び/又は基質組織分布研究(例えば、アッセイ)において有用である。放射性同位体トリチウム、すなわち3H、及び炭素-14、すなわち14Cは、それらの取り込み易さ及び好都合な検出手段の点から見て、このために特に有用である。11C、18F、15O及び13Nなどの陽電子放出同位体による置換は、基質受容体占有率を調査するための陽電子放射型断層撮影(PET)研究において有用でありうる。本発明の同位体標識化合物は、添付のスキーム並びに/又は実施例及び調製に記載されている方法と類似している方法により、以前に利用された非標識試薬の代わりに適切な同位体標識試薬を使用することによって調製することができる。本発明による薬学的に許容される溶媒和物としては、結晶化の溶媒が同位体置換されているもの、例えばD2O、アセトン-d6、又はDMSO-d6とすることができる溶媒和物が挙げられる。
【0029】
用語「立体異性体」は、少なくとも1つの不斉中心を含む異性体を指す。1つ又は複数(例えば、1つ、2つ、3つ又は4つ)の不斉中心を有する化合物は、ラセミ混合物、単一鏡像異性体、ジアステレオマー混合物及び個々のジアステレオマーを生じることができる。いくつかの個々の分子は、幾何異性体(シス/トランス)として存在することができる。同様に、本発明の化合物は、構造的に異なる2つ以上の形の混合物が急速な平衡で存在することができる(一般に互変異性体と呼ばれる)。互変異性体の典型的例としては、ケト-エノール互変異性体、フェノール-ケト互変異性体、ニトロソ-オキシム互変異性体、イミン-エナミン互変異性体などが挙げられる。そのような異性体及びそれらの混合物すべてを、いずれの割合(60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、及び99%など)でも本発明の範囲内に包含されることを理解すべきである。
【0030】
本発明の化合物の化学結合は、本明細書に、実線(
【化4】
)、実線のくさび形(
【化5】
)、又は点線のくさび形(
【化6】
)を使用して描くことができる。不斉炭素原子への結合を描くための実線の使用は、その炭素原子において考えうる立体異性体(例えば、特定の鏡像異性体、ラセミ混合物など)すべてが含まれることを示すことになっている。不斉炭素原子への結合を描くための実線又は点線のくさび形の使用は、示された立体異性体が存在することを示すことになっている。実線及び点線のくさび形は、ラセミ化合物に存在するとき、絶対立体化学ではなく相対立体化学を定義するために使用される。別段の記載がない限り、本発明の化合物は、立体異性体として存在できることが意図され、シス及びトランス異性体、光学異性体、例えばR及びS鏡像異性体、ジアステレオマー、幾何異性体、回転異性体、配座異性体、アトロプ異性体、並びにそれらの混合物などを含む。本発明の化合物は、1つより多い異性タイプを示し、それらの混合物(ラセミ体やジアステレオマー対など)からなる。
【0031】
本発明は、本発明の化合物の考えうる結晶形又は多形体すべてを、いずれの比でも単一の多形体として又は1つより多い多形体の混合物として含む。
【0032】
本発明のいくつかの化合物は、遊離の形、又は必要に応じて薬学的に許容される誘導体の形での治療に使用できることも理解されるべきである。本発明において、薬学的に許容される誘導体としては、本発明の化合物又はその代謝物若しくは残基を必要とする患者に投与された後にそれを直接的又は間接的にもたらすことができる、薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物、N-オキシド、代謝物又はプロドラッグが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、本明細書に記載される「本発明の化合物」は、上記の化合物のさまざまな誘導体の形を包含することも意味する。
【0033】
本発明の化合物の薬学的に許容される塩は、その酸付加塩及び塩基付加塩を含む。
【0034】
好適な酸付加塩は、薬学的に許容される塩を形成する酸から形成される。具体例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、炭酸水素塩/炭酸塩、硫酸水素塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクラミン酸塩、エディシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/クロリド、臭化水素酸塩/ブロミド、ヨウ化水素酸塩/ヨージド、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフテン酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩/リン酸二水素塩、ピログルタミン酸塩、サッカリン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩及びキシナホ酸塩が挙げられる。
【0035】
好適な塩基付加塩は、薬学的に許容される塩を形成する塩基から形成される。具体例としては、アルミニウム、アルギニン、ベンザチン、カルシウム、コリン、ジエチルアミン、ジオラミン、グリシン、リシン、マグネシウム、メグルミン、オラミン、カリウム、ナトリウム、トロメタミン及び亜鉛塩が挙げられる。
【0036】
好適な塩に関する概説については、Stahl及びWermuthによる「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」(Wiley-VCH社、2002年)を参照のこと。本発明の化合物の薬学的に許容される塩を調製する方法は、当業者に公知である。
【0037】
本明細書では、用語「エステル」は、本出願におけるさまざまな式の化合物に由来するものを指し、生理的加水分解性エステル(生理的条件下で加水分解して、本発明の化合物を遊離の酸又はアルコールの形で放出することができる)が含まれる。本発明の化合物はそれ自体も、エステルでありうる。
【0038】
本発明の化合物は、溶媒和物(好ましくは水和物)として存在することができ、本発明の化合物が極性溶媒、特に水、メタノール又はエタノールを例えば化合物の結晶格子の構造要素として含む。極性溶媒、特に水の量は、化学量論比又は非化学量論比で存在することができる。
【0039】
当業者が理解することができるように、窒素はオキシドへの酸化のために利用可能な孤立電子対を必要とするので、すべての窒素含有ヘテロ環がN-オキシドを形成することができるとは限らない。当業者は、N-オキシドを形成することができる窒素含有ヘテロ環を認識する。当業者は、第三級アミンがN-オキシドを形成できることも認識する。ヘテロ環及び第三級アミンのN-オキシドの調製の合成法は、当業者に周知であり、過酢酸やm-クロロ過安息香酸(MCPBA)などのペルオキシ酸、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシドなどのアルキルヒドロペルオキシド、過ホウ酸ナトリウム、及びジメチルジオキシランなどのジオキシランを用いたヘテロ環及び第三級アミンの酸化を含む。これらのN-オキシド調製方法は、文献に広範に記載され、概説されてきた。例えば、T. L. Gilchrist、Comprehensive Organic Synthesis、7巻、748~750頁; A. R. Katritzky及びA. J. Boulton編、Academic Press社;並びにG. W. H. Cheeseman及びE. S. G. Werstiuk、Advances in Heterocyclic Chemistry、22巻、390~392頁、A. R. Katritzky及びA. J. Boulton編、Academic Press社を参照のこと。
【0040】
本発明の化合物の代謝物、すなわち本発明の化合物の投与時にインビボで形成される物質も本発明の範囲内に含まれる。そのような産物は、投与された化合物の例えば酸化、還元、加水分解、アミド化、脱アミド化、エステル化、酵素分解などにより生じることができる。上記に鑑み、本発明は、本発明の化合物と哺乳類をその代謝産物を生じるのに十分な時間接触させるステップを含む方法によって産生される化合物を含む、本発明の化合物の代謝物を包含する。
【0041】
それ自体では薬理活性をほとんど又は全く有することがないが、身体中又は身体上に投与されると、例えば加水分解的開裂によって所望の活性を有する本発明の化合物に変換することができる本発明の化合物のある種の誘導体である本発明の化合物のプロドラッグも、本発明の範囲内である。一般に、そのようなプロドラッグは、所望の治療活性を有する化合物にインビボで容易に変換される化合物の官能性誘導体である。プロドラッグの使用に関するさらなる情報は、「Pro-drugs as Novel Delivery Systems」、14巻、ACS Symposium Series (T. Higuchi及びV. Stella)に見出すことができる。本発明によるプロドラッグは、例えば、本発明の化合物に存在する適切な官能基を例えばH. Bundgaardによる「Design of Prodrugs」(Elsevier社、1985年)に記載されている「プロ部分」として当業者に公知のいくつかの部分で置き換えることによって生成することができる。
【0042】
本発明は、保護基を有する本発明の化合物をさらに包含する。本発明の化合物の調製のプロセスのうちのいずれにおいても、当該分子のうちのいずれかにおける感受性又は反応性基を保護し、それによって本発明の化合物の化学的に保護された形を生じることが必要な及び/又は望ましいことがある。これは、通常の保護基、例えば参照により本明細書に組み込まれるT.W. Greene & P.G.M. Wuts、Protective Groups in Organic Synthesis、John Wiley & Sons社、1991年に記載されている保護基によって達成される。保護基は、当技術から公知の方法を使用して好都合な後続の段階で除去することができる。
【0043】
用語「約」は、指定の値の±10%以内、好ましくは±5%以内、より好ましくは±2%以内の範囲を指す。
【0044】
用語「有効量」は、投与の条件下で所望の治療効果を達成するのに十分な量を指し、前述の障害に伴う病理症状、疾患進行、生理的状態における改善をもたらし、又は前述の障害に屈することに対する抵抗力を誘導する。
【0045】
別段の指示がない限り、本明細書では、用語「治療する」、「治療している」又は「治療」は、そのような用語が適用される障害若しくは病態又はそのような障害若しくは病態の1つ若しくは複数の症状の進行を逆転させるか、軽減するか、阻害するか、或いはそのような障害若しくは病態又はその1つ若しくは複数の症状を予防することを意味する。
【0046】
本明細書では、用語「対象」は、ヒト及び非ヒト哺乳類を包含する。例示的なヒト対象としては、疾患(本明細書に記載される疾患など)を有するヒト対象(患者と呼ぶ)、又は健常な対象が挙げられる。本明細書では用語「非ヒト動物」は、非哺乳類(例えば、鳥類、両生類、爬虫類)などのすべての脊椎動物、並びに非ヒト霊長類、家畜及び/又は飼いならされた動物(ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタなど)などの哺乳類を含む。
【発明を実施するための形態】
【0047】
いくつかの実施形態において、本開示は、特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療する方法であって、有効量の式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグを、それを必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供する:
【化7】
[式中、
A環は、
【化8】
であり、上記の基は、*又は**と標識された2つの位置のいずれかでピリミジン環に結合しており、もう一方の位置でカルボニル基に結合しており、
Rは、H及びC
1~6アルキルからなる群から選択され、
R
1は、
【化9】
であり、
R
2は、H及びC
1~6アルキルからなる群から選択され、
R
3、R
4、R
7及びR
8はそれぞれの存在において、H、ハロゲン、-NR
5R
6、-OH、C
1~6アルキル及び-OR
5からなる群からそれぞれ独立的に選択され、
R
9及びR
10はそれぞれの存在において、H、ハロゲン、C
1~6アルキル、C
2~6アルケニル、C
3~10環式ヒドロカルビル、3~10員ヘテロシクリル、C
6~10アリール、5~14員ヘテロアリール、C
6~12アラルキル、-C(=O)R
5及び-C
1~6アルキレン-O(P=O)(OH)
2からなる群からそれぞれ独立的に選択され、
上記のアルキレン、アルキル、アルケニル、環式ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール及びアラルキルはそれぞれの存在において、ハロゲン、C
1~6アルキル及び-OR
5からなる群から独立的に選択される1つ又は複数の置換基でそれぞれ任意選択で置換されており、
R
5及びR
6はそれぞれの存在において、H、C
1~6アルキル、C
3~10環式ヒドロカルビル、3~10員ヘテロシクリル、C
6~10アリール、5~14員ヘテロアリール及びC
6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立的に選択され、
mはそれぞれの存在において、それぞれ独立的に0、1、2又は3の整数であり、
nはそれぞれの存在において、それぞれ独立的に0、1又は2の整数である。]。
【0048】
好ましい実施形態において、A環は、
【化10】
であり、上記の基は、*と標識された位置でピリミジン環に結合しており、**と標識された位置でカルボニル基に結合しており、R
10は、H及びC
1~6アルキルからなる群から選択され、好ましくはH又はメチルである。
【0049】
好ましい実施形態において、A環は、好ましくは
【化11】
であり、上記の基は、*と標識された位置でピリミジン環に結合しており、**と標識された位置でカルボニル基に結合している。
【0050】
好ましい実施形態において、RはHである。
【0051】
好ましい実施形態において、R2はHである。
【0052】
好ましい実施形態において、R5及びR6はそれぞれの存在において、H、メチル及びエチルからなる群からそれぞれ独立的に選択される。
【0053】
好ましい実施形態において、R3、R4、R7及びR8はそれぞれの存在において、H、F、Cl、Br、I、-NH2、-OH、メチル、トリフルオロメチル、-CH2-Ph、メトキシ、エトキシ及び-CH2OCH3からなる群からそれぞれ独立的に選択される。
【0054】
好ましい実施形態において、R3はHである。
【0055】
好ましい実施形態において、R4は、H及びハロゲン(例えば、F、Cl、Br又はI)からなる群から選択され、好ましくはH又はFである。
【0056】
好ましい実施形態において、R7は、H及びハロゲン(例えば、F、Cl、Br又はI)からなる群から選択され、好ましくはH又はFである。
【0057】
好ましい実施形態において、R8はHである。
【0058】
好ましい実施形態において、R
9及びR
10はそれぞれの存在において、H、F、Cl、Br、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ビニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、オキセタニル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、アセチル、-CH
2CHF
2、-CH
2OH、-CH
2OCH
3、-CH
2CH
2OCH
3、-CH
2-O(P=O)(OH)
2、
【化12】
からなる群からそれぞれ独立的に選択される。
【0059】
好ましい実施形態において、R9はそれぞれの存在において、H、C1~6アルキル、C3~10環式ヒドロカルビル、3~10員ヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員ヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立的に選択され、好ましくはHである。
【0060】
好ましい実施形態において、R10はそれぞれの存在において、H及びC1~6アルキルからなる群からそれぞれ独立的に選択され、好ましくはH、メチル、エチル、n-プロピル又はイソプロピルであり、最も好ましくはH又はメチルである。
【0061】
好ましい実施形態において、本開示は、特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療する方法であって、有効量の式(II)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグを、それを必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供する:
【化13】
[式中、基のそれぞれは上記に定義した通りである。]。
【0062】
好ましい実施形態において、本開示は、特発性肺線維症を予防するか、軽減するか、及び/又は治療する方法であって、有効量の式(III)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグを、それを必要とする対象に投与するステップを含む方法を提供する:
【化14】
[式中、R
10は、H又はメチルであり、好ましくはメチルである。]。
【0063】
好ましい実施形態において、化合物は、以下の構造を有する。
【表1】
いくつかの実施形態において、化合物は、(参照により本明細書に組み込まれる)国際公開第2019/001572号(A1)に開示された方法に従って調製される。
【0064】
いくつかの実施形態において、式(I)、(II)又は(III)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグは、約0.005mg/日~約5000mg/日の量、例えば約0.005、0.05、0.5、5、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500又は5000mg/日の量で投与される。
【0065】
いくつかの実施形態において、式(I)、(II)又は(III)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグは、1日当たり約1ng/kg体重~約200mg/kg体重、約1μg/kg体重~約100mg/kg体重又は約1mg/kg体重~約50mg/kg体重の量で投与され、例えば単位用量当たり約1μg/kg体重、約10μg/kg体重、約25μg/kg体重、約50μg/kg体重、約75μg/kg体重、約100μg/kg体重、約125μg/kg体重、約150μg/kg体重、約175μg/kg体重、約200μg/kg体重、約225μg/kg体重、約250μg/kg体重、約275μg/kg体重、約300μg/kg体重、約325μg/kg体重、約350μg/kg体重、約375μg/kg体重、約400μg/kg体重、約425μg/kg体重、約450μg/kg体重、約475μg/kg体重、約500μg/kg体重、約525μg/kg体重、約550μg/kg体重、約575μg/kg体重、約600μg/kg体重、約625μg/kg体重、約650μg/kg体重、約675μg/kg体重、約700μg/kg体重、約725μg/kg体重、約750μg/kg体重、約775μg/kg体重、約800μg/kg体重、約825μg/kg体重、約850μg/kg体重、約875μg/kg体重、約900μg/kg体重、約925μg/kg体重、約950μg/kg体重、約975μg/kg体重、約1mg/kg体重、約5mg/kg体重、約10mg/kg体重、約15mg/kg体重、約20mg/kg体重、約25mg/kg体重、約30mg/kg体重、約35mg/kg体重、約40mg/kg体重、約45mg/kg体重、約50mg/kg体重、約60mg/kg体重、約70mg/kg体重、約80mg/kg体重、約90mg/kg体重、約100mg/kg体重、約125mg/kg体重、約150mg/kg体重、約175mg/kg体重、約200mg/kg体重、又は約300mg/kg体重の量で投与される。
【0066】
いくつかの実施形態において、式(I)、(II)又は(III)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグの1日用量が、一度に投与されるか、又は2回、3回若しくは4回の投与で投与される。
【0067】
いくつかの実施形態において、式(I)、(II)又は(III)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグは、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも13日間、少なくとも14日間、少なくとも15日間、少なくとも16日間、少なくとも17日間、少なくとも18日間、少なくとも19日間、少なくとも20日間、少なくとも21日間、少なくとも22日間、少なくとも23日間、少なくとも24日間、少なくとも25日間、少なくとも1か月間、少なくとも2か月間、少なくとも3か月間、少なくとも4か月間、少なくとも5か月間、少なくとも6か月間、少なくとも1年間、又は少なくとも2年間連続投与される。
【0068】
いくつかの実施形態において、式(I)、(II)又は(III)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグは、1つ又は複数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10)の治療コースで投与され、各治療コースが、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも13日間、少なくとも14日間、少なくとも15日間、少なくとも16日間、少なくとも17日間、少なくとも18日間、少なくとも19日間、少なくとも20日間、少なくとも21日間、少なくとも22日間、少なくとも23日間、少なくとも24日間、少なくとも25日間、少なくとも30日間、少なくとも35日間、少なくとも40日間、少なくとも45日間又は少なくとも50日間続き、2治療コースごとの間隔が、0日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、2週、3週、又は4週である。
【0069】
いくつかの実施形態において、式(I)、(II)又は(III)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグは、注射(例えば、滴下を含む、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内への注射)により投与されるか、若しくは経皮投与されるか、又は経口、バッカル、経鼻、経粘膜、若しくは局所経路を介して、眼科用製剤として、若しくは吸入を介して投与される。
【0070】
いくつかの実施形態において、式(I)、(II)又は(III)の化合物又はその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形体、溶媒和物、N-オキシド、同位体標識化合物、代謝物若しくはプロドラッグは、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、ハードキャンディ、散剤、噴霧剤、クリーム剤、軟膏剤、坐剤、ゲル剤、ペースト剤、ローション剤、オイントメント、水性懸濁剤、注射液剤、エリキシル剤、及びシロップ剤からなる群から選択される剤形で投与される。
【0071】
本開示は、上記の実施形態の任意の組合せを包含する。
【実施例】
【0072】
本発明の目的及び技術的解決策をより明らかにするために、具体例を参照して、本発明を以下でさらに説明する。以下の実施例は、本発明を例示するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものと理解してはいけないことを理解すべきである。さらに、以下の実施例に記載されていない具体的実験方法は、通常の実験方法に従って実施される。
【0073】
実施例において使用される化合物128は、以下の構造を有するものであり、国際公開第2019/001572号(A1)に開示された方法に従って調製した。
【化15】
【0074】
実施例1.ROCK2キナーゼ活性アッセイ
キナーゼIC50は、市販のCISBIOキナーゼ検出キットHTRF KinEASE-STK S2キット(62ST2PEC)により決定した。反応において使用したROCK2(01-119)は、Carna Biosciences社から購入した。
【0075】
アッセイの前に、キナーゼ検出キットの指示書に従って対応する試薬を用いて、必要に応じた以下の標準溶液を配合した:1×キナーゼバッファー、5×STK-S2基質標準溶液(1.5μM)及び5×ATP標準溶液(1.5μM)、5×ROCK2キナーゼ標準溶液、4×ストレプトアビジン-XL665標準溶液、並びに4×STK-Ab-クリプテート2検出溶液。次いで、以下の手順に従ってアッセイを行った。
【0076】
2.5%DMSOを含む1×キナーゼバッファーを用いて、10000nMの濃度で化合物溶液を調製した。異なる9つの濃度で試験化合物溶液が得られるように、DMSOを含むキナーゼバッファーを用いて、化合物溶液の勾配希釈を行った。試験化合物のウェルに加えて、陽性ウェル(化合物を除くすべての試薬を含む)及び陰性ウェル(試験化合物及びキナーゼを除くすべての試薬を含む)を準備した。対照ウェル(陽性及び陰性ウェル)を除いて、試験化合物溶液(4μL)を反応ウェルのそれぞれに添加し、2.5%DMSO溶液を対照ウェルに添加した。次いで、基質(2μM、すなわち、5×STK-S2基質標準溶液2μL)を反応ウェルのそれぞれに添加した。5×ROCK2キナーゼ標準溶液(2μL、1.4ngのROCK2キナーゼを含む)を、陰性ウェルを除く反応ウェルのそれぞれに添加し、その容積を1×キナーゼバッファー(2μL)で補った。5×ATP標準溶液(2μL)を反応ウェルのそれぞれに添加し、混合物を室温で2時間インキュベートした。キナーゼ反応が完了した後、4×ストレプトアビジン-XL665標準溶液を反応ウェルのそれぞれに添加し、溶液を混合し、次に4×STK-Ab-クリプテート2検出溶液(5μL)を直ちに添加し、混合物を室温で1時間インキュベートした。蛍光シグナルをENVISION(Perkinelmer社)で読み取った(励起波長:320nm、発光波長:665nm及び615nm)。各ウェルの阻害率を蛍光強度値に基づいて計算した:ER(発光比)=(665nmにおける蛍光強度/615nmにおける蛍光強度);阻害率=(ER
陽性-ER
試験化合物)/(ER
陽性-ER
陰性)×100%。PRISM 5.0ソフトウェアを用いて、曲線をプロットし、適合して、各試験化合物の中央値の阻害濃度(IC
50)を得た。化合物のIC
50値は、以下の表に示す通りである。
【表2】
【0077】
実施例2.BLM誘発マウスIPFモデルにおいて検出された、化合物の特発性肺線維症(IPF)に対する治療効果
60匹のC57BL/6マウス(SLAC社、上海から購入)に1週間適応給餌し、50匹の動物をランダムに選択した。3mg/kgのブレオマイシン(BLM、SIGMA社から購入、#SIGMA-P9564)を気管内(IT)注射によりマウスに投与して、IPF動物モデルを確立した。残りの10匹の動物には、注射したBLMと同じ容積で生理食塩水を注射し、正常群(N=10)の働きをした。ブレオマイシンの注射日を0日目(D0)とし、6日目に、動物を体重に応じて、溶媒群(N=14)、化合物007投与群(N=12)、化合物128投与群(N=12)、及び陽性対照ピルフェニドン(SIGMA社から購入、#SIGMA-P2116)投与群(N=12)の4群にランダムに分けた。動物群を表2に示す。
【表3】
【0078】
各群の動物に8~21日目に投与した:正常群及び溶媒群の動物に、溶媒1(溶媒1:20%PEG400+5%Tween80+75%ddH2O)を胃内投与し、化合物007投与群の動物に、化合物007(溶媒1を用いて配合)を胃内投与し、化合物128投与群の動物に、化合物128(溶媒1を用いて配合)を胃内投与し、ピルフェニドン投与群の動物に、ピルフェニドン(溶媒2:0.2%メチルセルロース+0.5%Tween80+99.3%ddH2O)を胃内投与した。
【0079】
体重及び体重変化を毎日記録し(21日目の体重変化の計算式:21日目の体重変化=21日目の体重-0日目の体重)、結果を
図1A及び
図1Bに示す。
【0080】
動物の生存率を記録し、結果を
図2に示す。
図2の結果によれば、試験の終わりに、化合物007投与群の動物の生存率は有意に高く、化合物007は忍容性がよりよいことを示している。
【0081】
21日目の投与2時間後に、動物を安楽死させ、肺胞洗浄液を回収し、白血球(WBC)を計数した。結果を
図3に示す。
図3によれば、各投与群の動物の肺胞洗浄液における総白血球数における有意差はなかった。
【0082】
動物の左肺を病理組織学的試験のために固定し、肺傷害のアッシュクロフトスコアをマッソントリクローム染色によって実施した。スコア付けの基準は、Ashcroft Tら、Journal of clinical pathology、1988に報告されている通りである。100倍の拡大後、各連続領域を(0(正常肺))~8(領域内において全体が線維性閉塞)にスコア付けした。5つの領域の平均スコアを取り、結果を
図4A及び
図4Bに示す。
図4A及び
図4Bの結果によれば、投与後、化合物007は、マウスにおいて、肺におけるコラーゲン蓄積及び肺線維症の程度を有意に低減した。治療効果は、ピルフェニドン及び化合物128の治療効果より有意によい。
【0083】
投与後の肺組織における肺組織線維症関連タンパク質コラーゲン1A1(COL1A1)及び金属マトリックスタンパク質1の組織阻害物質(TIMP-1)のmRNAレベルをリアルタイム蛍光定量的PCR法により検出した。具体的には、肺組織断片を、1mLのTRIzol試薬(Invitrogen社、カタログ番号15596018)を含む遠心管に移した。肺組織を低温で組織粉砕機により粉砕した。細胞中の全RNAを抽出した。qPCR用のTransScript All-in-One First-Strand cDNA Synthesis SuperMix(One-Step gDNA Removal)(TransGen社、カタログ番号AT341-02)キットをcDNAの逆転写合成に使用した。肺組織におけるCOL1A1及びTIMP-1のmRNA発現変化を蛍光定量的PCR法により検出した。
【0084】
リアルタイム蛍光定量的PCR法では、β-アクチン遺伝子を内部基準遺伝子として使用して、データを正規化した。すべてのプライマー配列は、PrimerBankウェブサイトからのID No.:34328108a1(COL1A1プライマー)、6755795a1(TIMP-1プライマー)及び6671509a1(β-アクチンプライマー)であった。3つのプライマーのすべては、Invitrogen社によって合成されたものであった。
【0085】
結果を
図5A及び
図5Bに示す。結果によれば、ブレオマイシンによって誘発された肺組織におけるTIMP-1発現の増加は、化合物007によって有意に阻害された(P<0.05)。ピルフェニドンは、統計学的な差がなく中等度の阻害効果を達成した。ブレオマイシンによって誘発されたCOL1A1発現の増加は、化合物007及びピルフェニドンによって有意に阻害された。
【0086】
実施例3.BLM誘発マウスIPFモデルにおいて検出された、さまざまな用量での化合物の特発性肺線維症(IPF)に対する治療効果
適応給餌後、C57BL/6Jマウスを体重に応じて2群にランダムに分けた:1群では、15匹の動物に50μLの生理食塩水を気管内注射により投与し、もう1群では、90匹の動物に50μLのブレオマイシン(2.5mg/kg)を気管内注射により投与して、IPFモデルを確立した。動物モデルの確立後7日目に、動物を体重変化(モデルの確立後7日目とモデルが確立された日との体重差)に応じてランダムに群分けした。動物モデルの確立後8日目から、薬物を連続14日間投与した。動物群及び投与情報を表3に示す。
【表4】
【0087】
最後の投与2時間後に下大静脈からの出血によって、動物を屠殺した。気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収し、白血球数を計数した。結果を
図6に示す。
【0088】
動物の左肺を、病理組織スライドを調製するために固定した。H&E及びマッソントリクローム染色を行って、肺傷害及び線維症の程度にスコアを付けた。肺線維症スコア付けの基準は、「組織学的試料における肺線維症の標準定量化」に従った;肺組織傷害のグレードスコアは0~16であり、炎症性細胞浸潤(0~4)、出血(0~4)、間質浮腫及び肺胞水腫(0~4)並びに肺胞中隔厚さ(0~4)を含めて4つの側面から主に評価した。スコアが高くなれば、肺組織傷害の程度が高くなることを示す。
【0089】
モデル群と比較して、化合物007は、肺における白血球の浸潤を有意に低減することができ(
図6)、肺傷害(
図7A及び
図7B)及び線維症の程度(
図8A及び
図8B)も有意に改善された。それらのうち、化合物007-30mpk及び100mpkの治療効果が、ピルフェニドン及びニンテダニブの治療効果と等しかった。化合物007-300mpkは、肺傷害及び線維症の程度の改善に関してピルフェニドン及びニンテダニブよりも優れていた。化合物007は、肺における白血球の浸潤を低減すること、肺傷害及び肺線維症を改善することなどによって、IPFに対する化合物007の治療効果を達成することを示す。
【0090】
本明細書に記載される改変形態に加えて、本発明に対するさまざまな改変形態は、上述の説明から当業者に明らかになる。そのような改変形態は、添付の特許請求の範囲内に入るように意図される。すべての特許、出願、学術論文、書籍及び他のいずれの開示も含めて、本明細書に引用される各参考文献は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】