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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-12
(54)【発明の名称】結合樹脂を調製する方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 197/00 20060101AFI20220905BHJP
【FI】
C09J197/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576569
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(85)【翻訳文提出日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 IB2020055857
(87)【国際公開番号】W WO2020261087
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】1950773-0
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザファール、アシャール
(72)【発明者】
【氏名】エクストレーム、イェスペール
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040BA231
4J040NA13
(57)【要約】
本発明は、結合樹脂を調製するプロセスに関し、そこでは、固形または水中分散液の形態のリグニンが、架橋剤と、および任意選択で1種または複数種の添加剤と混合され、次いで塩基性溶液が添加される。例えば、この結合樹脂は、ラミネート、ミネラルウール断熱材、および、合板、配向性ストランドボード(OSB)、単板積層材(LVL)、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)、寄木細工の床材、湾曲した合板、ベニヤのパーティクルボード、ベニヤのMDFもしくはパーティクルボードなどの木材製品、ラミネートまたはミネラルウール断熱材の製造において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合樹脂を調製する方法であって、
固形または水中分散液の形態のリグニンを、
グリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アルコキシル化グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールトリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、イソソルビドジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2~9のエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1~5のプロピレングリコール単位を有するプロピレングリコールジグリシジルエーテル、3~6個の炭素原子の直鎖炭素鎖を有する末端ジオールのヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよび/もしくは当該末端ジオールのジグリシジルエーテル、または、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エーテル、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エステル、サリチル酸、バニリン酸、もしくは4-ヒドロキシ安息香酸のジグリシジルエーテルもしくはジグリシジルエステル、エポキシ化もしくはグリシジル置換の植物系フェノール化合物(タンニン、カルダノール、カルドール、アナカルド酸など)、エポキシ化植物油(菜種油、亜麻仁油、大豆油など)、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、p-(2,3-エポキシプロポキシ-N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、ビス-ヒドロキシメチルフランのジグリシジルエーテル、ならびに、ジグリシジルアミド、トリグリシジルアミド、ポリグリシジルアミド、ジグリシジルエステル、トリグリシジルエステル、ポリグリシジルエステル、ジグリシジルアジド、トリグリシジルアジド、ポリグリシジルアジド、ジグリシジルメタクリラート、トリグリシジルメタクリラート、およびポリグリシジルメタクリラートから選択された官能基を有する架橋剤の1種または複数種と、さらに、任意選択で1種または複数種の添加剤と混合し、
次いで、塩基性溶液を添加することを含む、
上記方法。
【請求項2】
固形のリグニンを、
グリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アルコキシル化グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールトリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、イソソルビドジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2~9のエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1~5のプロピレングリコール単位を有するプロピレングリコールジグリシジルエーテル、3~6個の炭素原子の直鎖炭素鎖を有する末端ジオールのヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよび/もしくは当該末端ジオールのジグリシジルエーテルの1種または複数種と、さらに、任意選択で1種または複数種の添加剤と混合し、
次いで、塩基性溶液を添加する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エーテルがポリグリセロールポリグリシジルエーテルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1種の添加剤が溶媒である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
乾燥リグニンに基づいて計算されたリグニンの重量と、グリセロールジグリシジルエーテルおよび/またはエチレングリコールジグリシジルエーテルの総重量との重量比が1:10~10:1である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
1種の添加剤が、尿素、タンニン、界面活性剤、分散剤、充填剤および/または溶媒である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が、グリセロール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ソルビトール、および/または3~6個の炭素原子の直鎖炭素鎖を有する任意の末端ジオールである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リグニンが、グリオキシル化、エーテル化、エステル化または他のいずれかの手段によって変性され、リグニンのヒドロキシル含有量またはカルボキシル含有量またはアミン含有量またはチオール含有量が増大されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
結合樹脂を調製する方法であって、
固形のリグニンを、1種もしくは複数種の架橋剤および/または1種もしくは複数種のグリシジルエーテルと混合し、次いで塩基性溶液を添加することを含み、この架橋剤が4当量/kgを超えるエポキシ当量を有する、
上記方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法によって得られる結合樹脂。
【請求項11】
ラミネート、ミネラルウール断熱材、ならびに、合板、配向性ストランドボード(OSB)、単板積層材(LVL)、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)、寄木細工の床材、湾曲した合板、ベニヤのパーティクルボード、およびベニヤのMDFなどの木材製品、ラミネートまたはミネラルウール断熱材の製造における、請求項10に記載の結合樹脂の使用。
【請求項12】
ラミネート、ミネラルウール断熱材、および、合板、配向性ストランドボード(OSB)、単板積層材(LVL)、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)、寄木細工の床材、湾曲した合板、ベニヤのパーティクルボード、ベニヤのMDFもしくはパーティクルボードなどの木材製品、ラミネートまたはミネラルウール断熱材の製造において、前記結合樹脂が表面に提供され、そして、その表面が圧力および加熱に曝されるときに、接着剤を形成する前記結合樹脂の硬化が起こる、請求項10に記載の結合樹脂の使用。
【請求項13】
請求項12に記載の結合樹脂を使用して製造された、ラミネート、ミネラルウール断熱材、および、合板、配向性ストランドボード(OSB)、単板積層材(LVL)、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)、寄木細工の床材、湾曲した合板、ベニヤのパーティクルボード、ベニヤのMDFもしくはパーティクルボードなどの木材製品、ラミネートまたはミネラルウール断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合樹脂を調製するプロセスに関するものであり、ここで、リグニンは固形または水中分散液の形態で与えられ、このリグニンは、グリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アルコキシル化グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールトリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、イソソルビドジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2~9のエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1~5のプロピレングリコール単位を有するプロピレングリコールジグリシジルエーテル、3~6個の炭素原子の直鎖炭素鎖を有する末端ジオールのヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよび/もしくは当該末端ジオールのジグリシジルエーテル、または、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エーテル、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エステル、サリチル酸、バニリン酸、もしくは4-ヒドロキシ安息香酸のジグリシジルエーテルもしくはジグリシジルエステル、エポキシ化もしくはグリシジル置換の植物系フェノール化合物(タンニン、カルダノール、カルドール、アナカルド酸など)、エポキシ化植物油(菜種油、亜麻仁油、大豆油など)、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、p-(2,3-エポキシプロポキシ-N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、ビス-ヒドロキシメチルフランのジグリシジルエーテル、ならびに、ジグリシジルアミド、トリグリシジルアミド、ポリグリシジルアミド、ジグリシジルエステル、トリグリシジルエステル、ポリグリシジルエステル、ジグリシジルアジド、トリグリシジルアジド、ポリグリシジルアジド、ジグリシジルメタクリラート、トリグリシジルメタクリラート、およびポリグリシジルメタクリラートから選択された官能基を有する架橋剤の1種または複数種と、さらに、任意選択で1種または複数種の添加剤と混合され、次いで塩基性溶液が添加される。この結合樹脂は、例えば、ラミネート、ミネラルウール断熱材、ならびに、合板、配向性ストランドボード(OSB)、単板積層材(LVL)、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)、寄木細工の床材、湾曲した合板、ベニヤ(板)のパーティクルボードおよびベニヤ(板)のMDFなどの木材製品、ラミネートまたはミネラルウール断熱材の製造に有用である。この結合樹脂は、また、例えば、複合材料、成形コンパウンド、鋳造用途、および、紙、木材または金属の基材のコーティングにも有用である。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリマーであるリグニンは、例えば、木材中の主要な構成成分であり、セルロースに次いで地球上で最も豊富な炭素源である。近年、パルプ製造工程から高度に精製された固形の特定形態でリグニンを抽出する技術の開発と商業化により、現在石油化学産業から供給されている主に芳香族化学物質の前駆体の再生可能な代替品として大きな注目を集めている。
【0003】
芳香族ポリマーネットワークであるリグニンは、フェノール-ホルムアルデヒド接着剤の製造の間におけるフェノールの適切な代替品として広く研究されてきた。これらは、合板、配向性ストランドボード、ファイバーボードなどの構造用木材製品およびラミネートの製造に使用される。このような接着剤の合成中、リグニンで部分的に置換されていてよいフェノールは、塩基性または酸性触媒の存在下でホルムアルデヒドと反応して、ノボラック(酸性触媒を利用する場合)またはレゾール(塩基性触媒を利用する場合)と称される高度に架橋された芳香族樹脂を形成する。現在、リグニンの反応性が低いため、限られた量のフェノールのみがリグニンによって置換され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リグニンを含む樹脂を調製する際の1つの問題は、リグニンが、リグニン-フェノール-ホルムアルデヒド樹脂などのホルムアルデヒド含有樹脂に使用される場合のホルムアルデヒドの使用である。ホルムアルデヒドをベースとする樹脂は、有毒な揮発性有機化合物であるホルムアルデヒドを放出する。ホルムアルデヒド排出量の削減または排除を目的とした現在のまたは提案されている法案は、木材接着剤用途のホルムアルデヒドを含まない樹脂の開発につながっている。
【0005】
Jingxian Li R.et.al(Green Chemistry,2018,20,1459-1466)は、グリセロールジグリシジルエーテルおよびリグニンを含む樹脂の調製について記載しており、ここでリグニンは固形で提供される。この論文に記載された技術の1つの問題は、プレス時間が長く、プレス温度が高いことである。3層合板サンプルを150℃の温度で15分間プレスし、樹脂を完全に硬化させた(ことが記載されている)。
【0006】
Engelmann G.およびGanster J.(Holzforschung,2014,68,435-446)は、低分子量のクラフトリグニンおよびピロガロールを使用したバイオベースのエポキシ樹脂の調製について記載しており、ここでリグニン成分はクラフトリグニンからのアセトン抽出物からなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、リグニンがグリシジルエーテルなどの好適な架橋剤に分散されているときに、塩基性溶液によって架橋反応が触媒作用を受け得ることが今や見出された。これにより、反応性、接着強度、および耐水性に優れた速硬化性樹脂が得られる。
【0008】
グリシジルエーテルに分散したリグニンを水やアルカリと混合すると、リグニンは塩基性溶液に溶解する。さらに、リグニン構造中のフェノール性ヒドロキシル基は脱プロトン化され、グリシジルエーテルのエポキシド基と自由に反応する。これは反応に触媒作用を及ぼし、結合剤(バインダー)の反応性および性能を改善する。したがって、結合樹脂を容易に調製することが可能であり、ホルムアルデヒドの使用を回避することができる。本発明による結合樹脂は、反応を著しく加速し、したがって、例えば、ラミネート、ミネラルウール断熱材、ならびに、合板、配向性ストランドボード(OSB)、単板積層材(LVL)、中密度繊維板(MDF)、寄木細工の床材、湾曲した合板、ベニヤのパーティクルボード、ベニヤのMDF、またはパーティクルボードなどの木材製品、ラミネートまたはミネラルウール断熱材を製造する際に、プレス時間を短縮し、結合樹脂を硬化させるためにより低いプレス温度の使用を可能にする。当該結合樹脂は、例えば、複合材料、成形コンパウンド、鋳造用途、および、紙、木材または金属基板のコーティングにも有用である。
【0009】
従って、本発明は以下の事項に関する:
結合樹脂を調製する方法であって、
固形または水中分散液の形態のリグニンを、
グリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アルコキシル化グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールトリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、イソソルビドジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2~9のエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1~5のプロピレングリコール単位を有するプロピレングリコールジグリシジルエーテル、3~6個の炭素原子の直鎖炭素鎖を有する末端ジオールのヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよび/もしくは当該末端ジオールのジグリシジルエーテル、または、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エーテル、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エステル、サリチル酸、バニリン酸、もしくは4-ヒドロキシ安息香酸のジグリシジルエーテルもしくはジグリシジルエステル、エポキシ化もしくはグリシジル置換の植物系フェノール化合物(タンニン、カルダノール、カルドール、アナカルド酸など)、エポキシ化植物油(菜種油、亜麻仁油、大豆油など)、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、p-(2,3-エポキシプロポキシ-N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、ビス-ヒドロキシメチルフランのジグリシジルエーテル、ならびに、ジグリシジルアミド、トリグリシジルアミド、ポリグリシジルアミド、ジグリシジルエステル、トリグリシジルエステル、ポリグリシジルエステル、ジグリシジルアジド、トリグリシジルアジド、ポリグリシジルアジド、ジグリシジルメタクリラート、トリグリシジルメタクリラート、およびポリグリシジルメタクリラートから選択された官能基を有する架橋剤の1種または複数種と混合し、
次いで、塩基性溶液を添加することを含む、
上記方法。
【0010】
本発明の一態様は、結合樹脂を調製する方法であって、固形のリグニンを1種もしくは複数種の架橋剤および/または1種もしくは複数種のグリシジルエーテルと混合し(この架橋剤は4当量/kgを超えるエポキシ当量を有しており)、次いで塩基性溶液を添加する方法である。エポキシ当量(エポキシ価)は、ISO3001に従って測定され得る。好ましくは、架橋剤は、5当量/kgを超えるエポキシ当量を有する。架橋剤は、脂肪族または好ましくは芳香族のグリシジルエーテルである。好ましくは、架橋剤は脂肪族である。
【0011】
グリシジルエーテルは、多官能性エポキシドであってよい。本発明による方法は、例えば、単官能性、二官能性、三官能性および/または四官能性のようなエポキシドの混合物を使用し得る。
【0012】
従って、本発明はまた、上記の方法を使用して得られる結合樹脂に関する。さらに本発明は、ラミネート、ミネラルウール断熱材、ならびに、合板、配向性ストランドボード(OSB)、単板積層材(LVL)、中密度繊維板(MDF)、およびパーティクルボードなどの木材製品の製造における、当該結合樹脂の使用に関する。本発明による結合樹脂はまた、例えば、金属表面または木材もしくは他の基材上に適用されるコーティングなどのコーティング中において、またはそのようなコーティングのために使用され得る。本発明はまた、当該結合樹脂を用いて製造された、そのようなラミネート、ミネラルウール断熱材、および、合板、配向性ストランドボード(OSB)、単板積層材(LVL)、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)、寄木細工の床材、湾曲した合板、ベニヤのパーティクルボード、ベニヤのMDFなどの木材製品、ラミネートまたはミネラルウール断熱材にも関する。本発明による結合樹脂はまた、複合材料、成形コンパウンド、鋳造用途、および、紙、木材または金属基板用のコーティングの製造に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書の全体を通して、「リグニン」という表現は、あらゆる種類のリグニン、例えば、硬材(広葉樹)、軟材(針葉樹)または環状植物(annular plants)に由来するリグニンを包含することが意図されている。好ましくは、リグニンは、例えばクラフトプロセスにおいて生成されるアルカリ性リグニンである。好ましくは、リグニンは、本発明によるプロセスで使用される前に精製または単離されている。リグニンは、黒液(ブラックリカー)から単離されていてよく、任意選択で、本発明によるプロセスで使用する前にさらに精製されてよい。精製は、典型的には、リグニンの純度が少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%になるように行われる。したがって、好ましくは、本発明の方法によって使用されるリグニンは、含まれる不純物が10%未満、好ましくは5%未満である。次に、リグニンは、WO2006/031175に開示されているプロセスを使用することによって黒液から分離することができる。次いで、リグニンは、リグノブースト(LignoBoost)プロセスと称されるプロセスを使用して黒液から分離されてよい。
【0014】
リグニンの粒子サイズ(粒子径)は、好ましくは、粒子の50重量%が100マイクロメートルより大きい粒子サイズを有するようなものである。好ましくは、粒子の少なくとも20重量%は、300マイクロメートルより大きい粒子サイズを有する。好ましくは、粒子の少なくとも80重量%は、1000マイクロメートルよりも小さい粒子サイズを有する。好ましくは、粒子の水分含有量は40重量%未満である。
【0015】
グリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アルコキシル化グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールトリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、イソソルビドジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2~9のエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(好ましくは2~5のエチレングリコール単位を有し、例えば、2~3のエチレングリコール単位を有し、もしくは4~5のエチレングリコール単位を有する)、1~3のプロピレングリコール単位を有し、もしくは4~5のプロピレングリコール単位を有するプロピレングリコールジグリシジルエーテル、3~6個の炭素原子の直鎖炭素鎖を有する末端ジオールのヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよび/もしくは当該末端ジオールのジグリシジルエーテルが、本発明によって使用され、架橋剤として機能する。グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、およびソルビトールポリグリシジルエーテルなどの複数のエポキシド官能基を有するグリシジルエーテルを使用することができる。2~9個(例えば2~4個または2~6個)のアルキレングリコール基を有する他のグリシジルエーテル、例えば、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、およびトリプロピレンジグリシジルエーテルなどを使用することができる。2つのグリシジルエーテル基の間の鎖長が長いほど、その樹脂はより柔軟性が高くなり、それによって樹脂の性能に負の影響が生じ得る。これは結果的に硬化の間に接着剤(粘着剤)になる。炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エーテル、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エステル、サリチル酸、バニリン酸、もしくは4-ヒドロキシ安息香酸のジグリシジルエーテルもしくはジグリシジルエステル、エポキシ化もしくはグリシジル置換された植物ベースのフェノール化合物(タンニン、カルダノール、カルドール、アナカルド酸など)、エポキシ化された植物油(菜種油、亜麻仁油、大豆油など)、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、p-(2,3-エポキシプロポキシ-N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、ビス-ヒドロキシメチルフランのジグリシジルエーテルから選択された架橋剤、ならびに、ジグリシジルアミド、トリグリシジルアミド、ポリグリシジルアミド、ジグリシジルエステル、トリグリシジルエステル、ポリグリシジルエステル、ジグリシジルアジド、トリグリシジルアジド、ポリグリシジルアジド、ジグリシジルメタクリラート、トリグリシジルメタクリラート、およびポリグリシジルメタクリラートから選択された官能基を有する架橋剤が、本発明によって使用され得る。これは結果的に硬化の間に接着剤になる。典型的には、本発明による結合樹脂は、合板の製造などにおいて、例えばベニヤの表面に適用される。複数のベニヤを加熱しながら一緒にプレスすると、結合着樹脂中の架橋が起こり、接着剤が生成される。
【0016】
塩基性溶液のpHは、好ましくは10~14の範囲である。適切な塩基の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアまたは他の有機塩基、およびそれらの混合物が含まれる。一実施形態では、塩基性溶液中のアルカリの量は、好ましくは溶液の0.1重量%~15重量%であり、例えば溶液の0.1重量%~10重量%である。一実施形態では、塩基性溶液は水溶液である。塩基性溶液は、尿素、タンニン、溶媒、界面活性剤、分散剤および充填剤などの添加剤を含み得る。
【0017】
リグニン(乾燥重量)と、グリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アルコキシル化グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールトリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、イソソルビドジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2~9のエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1~5のプロピレングリコール単位を有するプロピレングリコールジグリシジルエーテル、3~6個の炭素原子の直鎖炭素鎖を有する末端ジオールのヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよび/もしくは当該末端ジオールのジグリシジルエーテル、または、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エーテル、炭水化物のジグリシジル-、トリグリシジル-もしくはポリグリシジル-エステル、サリチル酸、バニリン酸、もしくは4-ヒドロキシ安息香酸のジグリシジルエーテルもしくはジグリシジルエステル、エポキシ化もしくはグリシジル置換の植物系フェノール化合物(タンニン、カルダノール、カルドール、アナカルド酸など)、エポキシ化植物油(菜種油、亜麻仁油、大豆油など)、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、p-(2,3-エポキシプロポキシ-N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン、ビス-ヒドロキシメチルフランのジグリシジルエーテル、ならびに、ジグリシジルアミド、トリグリシジルアミド、ポリグリシジルアミド、ジグリシジルエステル、トリグリシジルエステル、ポリグリシジルエステル、ジグリシジルアジド、トリグリシジルアジド、ポリグリシジルアジド、ジグリシジルメタクリラート、トリグリシジルメタクリラート、およびポリグリシジルメタクリラートから選択された官能基を有する架橋剤の総重量との重量比は、好ましくは1:10~10:1の範囲である。結合樹脂中のリグニンの量は、結合樹脂の総重量に基づいたリグニンの乾燥重量として計算して、好ましくは5重量%~50重量%である。
【0018】
結合樹脂はまた、尿素、タンニン、溶剤および充填剤などの添加剤を含み得る。
【0019】
結合樹脂中の尿素の量は、結合樹脂の総重量に基づいた尿素の乾燥重量として計算して、0~40%、好ましくは5~20%であり得る。
【0020】
充填剤および/または硬化剤を結合樹脂に添加することもできる。そのような充填剤および/または硬化剤の例には、石灰石、セルロース、炭酸ナトリウム、およびデンプンが含まれる。
【0021】
リグニンとグリシジルエーテルとの反応性は、グリオキシル化、エーテル化、エステル化、または、リグニンのヒドロキシル含有量もしくはカルボキシル含有量もしくはアミン含有量もしくはチオール含有量が増加する他のいずれかの方法でリグニンを変性することによって増大させることができる。
【0022】
本発明による結合樹脂に使用され得る他の溶媒は、グリセロール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ソルビトール、および/または3~6個の炭素原子の直鎖状炭素鎖を有する任意の末端ジオールであってよい。
【0023】
固形または水中分散体の形態のリグニンは、好ましくは、15℃~30℃の温度などの室温でグリシジルエーテルと混合される。混合は、好ましくは、約5分~2時間実施される。好ましくは、混合物の粘度は、連続的に、またはサンプルを採取してその粘度を測定することによって、混合中にモニタリングされる。塩基性溶液を添加した後、混合は、好ましくは少なくとも1分間、例えば1分~約2時間実施される。好ましくは、混合物の粘度は、連続的に、またはサンプルを採取してその粘度を測定することによって、塩基性溶液の添加後の混合中にもモニタリングされる。混合はまた、グリシジルエーテルをリグニン粒子上に与えることによって、例えばグリシジルエーテルをリグニン粒子上に噴霧し、任意選択でこれに続いて乾燥させることによって、実施することができる。
【実施例
【0024】
実施例
40gのリグニンを60gのポリグリセロールポリグリシジルエーテルおよび30gのグリセロールに分散させることによって第1の成分を調製した。17.4gの50%水酸化ナトリウム溶液と49.8gの水とを混合することによって第2の成分を調製した。両方の成分を混合し、室温でオーバーヘッドスターラーを使用して20分間撹拌した。
【0025】
結合剤(バインダー)を、自動結合評価システム(Automated Bonding Evaluation System:ABES)引張試験機を用いたラップ・ジョイント試験(重ね継手試験)に供した。
【0026】
この目的のために、厚み0.6mmの比較的薄いブナベニヤを使用し、105×20mmの小片にカットした。樹脂を2つの小片の一方の端部の片面上の5mm×20mmの領域に適用した。一連の試験片の樹脂コーティングされた重なり合った端部を、150℃のプレス温度にて90秒のプレス時間を使用して、5kg/mの圧力でホットプレスにより一緒にプレスした。
【0027】
評価の前に、すべてのサンプルを室温で24時間水に浸した。状態調整(コンディショニング)を行う場合と行わない場合の5つの試験片からの平均データを表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
例2
40gのリグニンを60gのポリエチレングリコールジグリシジルエーテルに分散させることによって第1の成分を調製した。22.6gの50%水酸化ナトリウム溶液と80gの水とを混合することによって第2の成分を調製した。第1の成分および第2の成分を混合し、室温でオーバーヘッドスターラーを使用して20分間撹拌した。
【0030】
結合剤(バインダー)を、自動結合評価システム(Automated Bonding Evaluation System:ABES)引張試験機を用いたラップ・ジョイント試験(重ね継手試験)に供した。
【0031】
この目的のために、厚み0.6mmの比較的薄いブナベニヤを使用し、105×20mmの小片にカットした。樹脂を2つの小片の一方の端部の片面上の5mm×20mmの領域に適用した。一連の試験片の樹脂コーティングされた重なり合った端部を、150℃のプレス温度にて90秒のプレス時間を使用して、5kg/mの圧力でホットプレスにより一緒にプレスした。
【0032】
評価の前に、すべてのサンプルを室温で24時間水に浸した。状態調整(コンディショニング)を行う場合と行わない場合の5つの試験片からの平均データを表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
本発明の上記の詳細な説明を考慮して、他の修正および変形が当業者に明らかになるであろう。しかしながら、そのような他の修正および変形は、本発明の本質および範囲から逸脱することなく実施され得ることは明らかであるはずである。
【国際調査報告】