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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-12
(54)【発明の名称】真空システム用フォトカソード
(51)【国際特許分類】
   H01J 40/06 20060101AFI20220905BHJP
   H01J 1/34 20060101ALI20220905BHJP
   H01J 31/49 20060101ALI20220905BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
H01J40/06
H01J1/34
H01J31/49 Z
G01J1/02 C
G01J1/02 D
G01J1/02 Q
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021576992
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024161
(87)【国際公開番号】W WO2020262239
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】19182534.8
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507018838
【氏名又は名称】テクニカル ユニヴァーシティー オブ デンマーク
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100206966
【弁理士】
【氏名又は名称】崎山 翔一
(72)【発明者】
【氏名】イェプセン ピーター ウドゥ
(72)【発明者】
【氏名】ランゲ サイモン レインコーフ
(72)【発明者】
【氏名】須山 本比呂
(72)【発明者】
【氏名】井口 昌彦
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AA11
2G065AB02
2G065AB09
2G065BA14
2G065BA18
2G065BA21
2G065BA29
2G065BA34
2G065BA37
2G065BA40
(57)【要約】
【課題】
【解決手段】
本発明は、入射波長を有する電磁放射線を受け取り、それに応答して電子を放出するように構成された真空システム用のフォトカソードに関する。フォトカソードは、幾何学的形状を有する導電性構造を備え、幾何学的形状は先端部を備える。先端部分は、導電性構造が電磁放射線で照射されたときにフィールドエンハンスメントβを提供するように構成され、βは約10より大きい。フォトカソードは、基板をさらに備え、基板は、誘電体基板であるか、又は誘電体基板を備え、基板は、導電性構造を支持する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空システムのためのフォトカソードであって、前記フォトカソードは、入射波長を有する電磁放射線を受け取り、それに応答して電子を放出するように構成されており、
幾何学的形状を有する導電性構造であって、前記幾何学的形状が先端部分を含み、前記先端部分が、前記導電性構造が前記電磁放射線で照射されたときにフィールドエンハンスメントβを提供するように構成され、かつ、βが約10よりも大きい、前記導電性構造と、
基板であって、前記基板は、誘電体基板であるか、又は、誘電体基板を含み、前記基板は、前記導電性構造を支持する、前記基板と、を備えているフォトカソード。
【請求項2】
前記先端部分は、閉じ込め体積Vによって表される体積内に電界を集中させることによって前記フィールドエンハンスメントβを提供するように構成され、前記閉じ込め体積は、波長に比べて極小である、請求項1に記載のフォトカソード。
【請求項3】
前記先端部分は、2つの電極を備え、前記2つの電極は、ギャップによって分離され、前記ギャップは、ギャップ幅を有する、請求項1又は2に記載のフォトカソード。
【請求項4】
前記ギャップ幅が、約1nm~1000nm、例えば、約10nm~500nm、又はさらには約20nm~100nmの範囲である、請求項3に記載のフォトカソード。
【請求項5】
前記2つの電極は、第1の電極及び第2の電極として構成され、前記第1の電極の形状は、第1の電界閉じ込めを提供するように選択され、前記第2の電極の形状は、第2の電界閉じ込めを提供するように選択され、前記第1の電界閉じ込めは、前記第2の電界閉じ込めとは異なる、請求項3又は4に記載のフォトカソード。
【請求項6】
前記フォトカソードは、設計波長で前記電磁放射線を受信するように構成され、前記設計波長は、テラヘルツ範囲または赤外線範囲にある、請求項1~5のいずれか一項に記載のフォトカソード。
【請求項7】
前記フォトカソードは、広帯域設計波長範囲内の前記電磁放射線を受け取るように構成され、前記広帯域設計波長範囲は、テラヘルツ範囲又は赤外線範囲内である、請求項1~6のいずれか一項に記載のフォトカソード。
【請求項8】
前記導電性構造は、ダイポールアンテナ形状を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のフォトカソード。
【請求項9】
前記導電性構造は、共通の先端部と共通のギャップとを有する2つの相互接続されたリングを含む二重スプリットリング形状を有する、請求項8に記載のフォトカソード。
【請求項10】
前記導電性構造が、10S/mを超える、例えば5・10S/mを超える、又はさらには10S/mを超える導電率などの、赤外線波長において高い導電率を有する導電性材料を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のフォトカソード。
【請求項11】
前記導電性材料が金属を含む、請求項10に記載のフォトカソード。
【請求項12】
前記金属が、銅、金、銀、チタン、アルミニウム、及びタングステンの群から選択される、請求項11に記載のフォトカソード。
【請求項13】
前記基板が、10%以上、例えば30%以上、又はさらには40%以上の入射電磁放射線の透過率を有するように選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載のフォトカソード。
【請求項14】
複数の前記導電性構造がアレイ状に配置されている、請求項1~13のいずれか一項に記載のフォトカソード。
【請求項15】
前記フォトカソードはメタ材料を含み、前記メタ材料は前記導電性構造のアレイを含み、複数の前記導電性構造は共通の基板上に配置される、請求項14に記載のフォトカソード。
【請求項16】
前記真空システムは、光電子増倍管を備える、請求項1~15のいずれか一項に記載のフォトカソード。
【請求項17】
前記真空システムは、マルチチャネルプレートを備える、請求項1~16のいずれか一項に記載のフォトカソード。
【請求項18】
複数の前記導電性構造を有する請求項17に記載のマルチチャネルプレートと、空間分解検出器システムとを備え、前記導電性構造からの放出が、画像を生成するために前記空間分解検出器上に空間的にマッピングされる、イメージングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空システム用フォトカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
光電子増倍管(PMT:photomultiplier tubes)またはマルチチャネルプレートなどの真空システムは、可視および紫外線(ultra-violet)範囲の光の検出器を実現するためによく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/028029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光電子増倍管は、非常に少量の光、さらには単一光子限界までの高感度検出に使用され、それゆえ、低光量の用途に対して魅力的である。しかしながら、それらの魅力的な特性は、赤色光からUVまでのスペクトル範囲においてのみ有用である。
【0005】
特許文献1は、強いTHzパルスが非摂動非線形相互作用を介して金属層の表面から電子の超高速電界放出を生成できるという原理に基づいて、テラヘルツ放射を検出するデバイスを開示する。上記電子は、金属付近において同様に強められたTHz場によって数十eVの運動エネルギーに加速されてもよく、窒素プラズマの形成など、超高速時間スケールでの衝突誘起物理的プロセスを開始するために使用することができる。
【0006】
したがって、改良されたフォトカソードが利点になり、特に、より広い波長範囲に対して感度を有するフォトカソードが利点になり得る。
【0007】
本発明の目的は、従来技術の代替を提供することである。
【0008】
特に、本発明のさらなる目的は、動作の波長範囲が制限された従来技術の上述の問題を解決する真空システム用フォトカソードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、上述の目的および他のいくつかの目的は、本発明の第1の態様において、真空システム用フォトカソードを提供することによって得られると考えられ、フォトカソードは、入射波長を有する電磁放射線を受け取り、それに応答して電子を放出するように構成される。フォトカソードは、幾何学的形状を有する導電性構造を備え、幾何学的形状は先端部を備える。先端部分は、以下のフィールドエンハンスメントβを提供するように構成される。導電性構造が電磁放射線で照射されたときに、βは約10より大きい。フォトカソードは、基板をさらに備え、基板は、誘電体基板であるか又は誘電体基板を備え、基板は、導電性構造を支持する。このようにして形成されたフォトカソードは、THz周波数範囲及び赤外線周波数範囲の光子によって伝えられる電場を用いることによって、効率的な電界放出を可能にする。以下で「アンテナ」とも呼ばれる導電性構造を構築することによって、十分に高いフィールドエンハンスメントβを提供することが、アンテナと真空との界面にエネルギーを密接に集中させることによって電子放出を可能にする。本発明者らの理解によれば、この閉じ込めは、電子に対するアンテナ材料と真空との間の電位エネルギーの差をなくし、アンテナから真空への量子トンネリング(放出)を受けることを可能にする。この電子放出プロセスは、コヒーレントな電磁放射線をアンテナに衝突させることによって非線形的に強化される。したがって、本発明によるフォトカソードは、レーザ信号などのコヒーレント信号の検出に非常に有用である。
【0010】
本発明によるフィールドエンハンスメントは、以下でさらに詳述するように、様々な異なるアンテナ構造又は導電性構造を用いて実現されてもよく、フォトカソードの所望の特性に基づいて選択されてもよい。例えば、いくつかの構造は、入射電磁放射線の広い波長範囲にわたって電子放出を提供し得る。他の構造は、狭帯域幅用途のための共振を提供し、その結果、その狭帯域内で高い感度を有するように設計され得る。
【0011】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、先端部分は、閉じ込め体積Vによって表される体積に電界を集中させることによってフィールドエンハンスメントβを提供するように構成され、
【数1】

であり、閉じ込め体積は、波長に比べて極小である。光子エネルギーh・fと、受け取ったN個の光子に対する自由空間電界ETHzとの間の相関は、閉じ込め体積Vに基づいて、
【数2】

と表わされてもよい。ここで、電磁気の寄与は、例えば真空中の光の場合と等しいと仮定される。光子エネルギーを小さい体積に閉じ込めることによって、電界強度が増加する。したがって、電界を閉じ込めることは、光子エネルギーをその波形に閉じ込めることと等価であり、これは、閉じ込め体積内の電位ランドスケープに影響を及ぼす。
【0012】
本発明において、放出の開始電流閾値を制御するのはトンネル障壁幅である。電界閉じ込めが高いほど、一定の光子エネルギーに対しても、バリア幅は小さくなる。したがって、トンネル障壁幅をできるだけ小さくするためには、フィールドエンハンスメントβをできるだけ大きくすることが好ましい。これは、有効閉じ込め体積Vを最小化することによって実現され得る。
【0013】
金属と真空との界面に正確に位置していない電界の部分は、関与しない。
【0014】
ここで、エミッタティップを放出領域Aemとする。表面に近い電界が電位を下げると、厚さwtuのトンネル障壁が生成される。トンネル容積は、Vtun=Aem*wtuとして定義される。この体積の外側に位置する任意の光子エネルギーは、トンネリングに寄与せず、放出された電子の動重量エネルギーの増加に寄与する。
【0015】
ここで、放出された電子が真空に入ることを保証し、かつ、ナノサイズのトンネル障壁厚さを保証しながら、全ての入射エネルギーをトンネル容積Vtunに集中させることは物理的に不可能である。しかしながら、できるだけ多くの光子エネルギーをトンネル容積内にもたらすように、できるだけ多くの光子場を閉じ込めることによって、最適な性能が実現され得る。実際に実現され得る体積が、閉じ込め体積Vと呼ばれる。本文で与えられる式による定義によれば、Vは光子電場がどこでも一定であり、体積内の積分電磁エネルギーがh*fに等しい。これはアンテナのギャップ体積に等しくないが、より最適なアンテナほど、これに近くなる。本発明者らは、十分に小さいギャップに対して、一次導関数dE/dVが本文中の式に従って挙動することを示した。これは、光子エネルギーのかなりの部分(100%ではない)がギャップ容積内に位置することを意味する。
【0016】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、先端部は2つの電極を備え、2つの電極はギャップによって分離され、このギャップはギャップ幅を有する。
【0017】
十分に狭いギャップを有することは、電界を先端部に閉じ込め、それによってVを最小化するのに役立つ。一方、ギャップ値が大きい場合、電界はギャップにあまり閉じ込められず、主に漏れ電界として広がる。基板に対して垂直な平面における先端部分の断面積の平方根の約4倍よりも小さいギャップ幅では、電界閉じ込めは、解析的予測に従い始める。したがって、ギャップ幅は、好ましくは、ほぼこの値以下であるように選択されるべきである。
【0018】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、ギャップ幅は、約1nm~1000nm、例えば約10nm~500nm、又はさらには約20nm~100nmの範囲である。この範囲のギャップ幅は、磁場の良好な閉じ込めを提供することが分かっている。
【0019】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、2つの電極は、第1の電極および第2の電極として構成され、第1の電極の幾何学的形状は、第1の電界閉じ込めを提供するように選択され、第2の電極の幾何学的形状は、第2の電界閉じ込めを提供するように選択され、第1の電界閉じ込めは、第2の電界閉じ込めとは異なる。これによれば、上記構造は、受信された電磁放射線の偏光および絶対場極性に対して敏感にされ得る。
【0020】
本発明の一実施形態では、第1の電極は、真っ直ぐな先端の幾何学的形状を有してもよく、一方、第2の電極は、T字形の幾何学的形状を有してもよい。
【0021】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、フォトカソードは、設計波長で電磁放射線を受け取るように構成され、設計波長は、テラヘルツ範囲又は赤外線範囲にある。これによれば、フォトカソードの性能は、その特定の波長に対して最適化され得る。
【0022】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、フォトカソードは、広帯域設計波長範囲の電磁放射線を受け取るように構成され、広帯域設計波長範囲は、テラヘルツ範囲又は赤外線範囲である。これによれば、フォトカソードは、広帯域使用のために最適化され得る。
【0023】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、導電性構造はダイポールアンテナ形状を有する。このタイプの幾何学系的形状は、アンテナの共振波長で電磁放射線を受信するのに特に適している。
【0024】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、導電性構造は、スプリットリング形状を有する。
【0025】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、スプリットリング形状は、共通の先端部分及び共通のギャップを有する2つの相互接続されたリングを含む二重スプリットリング形状である。このタイプの構造は、より広い範囲の波長を増強し、その結果、広い波長帯域内の電磁放射線を受信するのによく適している。
【0026】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、導電性構造は、赤外波長で高い導電率、例えば10S/mを超える導電率、例えば5・10S/mを超える導電率、又はさらには10S/mを超える導電率を有する導電性材料を含む。本発明による導電性構造は、関連する波長範囲において十分に大きな導電率を有する限り、多くの異なる材料で製造されてもよい。
【0027】
本発明の一実施形態では、導電性材料は導電性セラミックを含む。
【0028】
本発明の特定の実施形態では、導電性セラミックは窒化チタンである。
【0029】
本発明の別の実施形態では、導電性材料は、グラフェンなどの炭素の同素体を含む。本発明によるフォトカソードの一実施形態では、導電性材料は金属を含む。従来のフォトカソードとは対照的に、金属は、本発明の導電性構造の製造に適している。金属は、赤外およびTHzスペクトル範囲全体にわたって比較的一定の材料パラメータを有する傾向があり、これは異なる波長に対する幾何学的形状の最適化を単純化する。
【0030】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、銅、金、銀、チタン、アルミニウム、およびタングステンの群からの金属。これらの特定の金属は、フォトカソードを製造するのに特によく適していることが分かっている。
【0031】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、基板は、入射電磁放射線の透過率が10%以上、例えば30%以上、又はさらには40%以上となるように選択される。これは、フォトカソードの導電性構造に背面照射が行われることを可能にする、すなわち、導電性構造と相互作用する前に基板を通過する入射電磁放射線である。これによれば、基板は、上記構造から電子放出されることを妨げない。
【0032】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、複数の導電性構造がアレイ状に配置される。これによれば、個々の導電性構造の寸法が維持されながら、フォトカソードの断面積が増加されてもよい。この結果、フォトカソードの感度を高めることができる。本発明によるフォトカソードの一実施形態では、フォトカソードはメタ材料を含み、メタ材料は導電性構造のアレイを含み、複数の導電性構造は共通の基板上に配置される。
【0033】
本発明によるフォトカソードの一実施形態では、真空システムは、光電子増倍管(PMT)を備える。本発明によるフォトカソードの一実施形態では、真空システムは、マルチチャネルプレートを備える。本発明の第2の態様によれば、複数の導電性構造を有するマルチチャネルプレートと、空間分解検出器システムとを備える撮像システムが開示され、導電性構造からの放射は、画像を生成するために空間分解検出器上に空間的にマッピングされる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
以下、本発明によるフォトカソードを添付図面を参照して詳細に説明する。図面は、本発明を実施する1つの手法を示すものであり、添付の特許請求の範囲に含まれる他の可能な実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。
【0035】
図1図1は、本発明によるフォトカソードの実施形態の態様、及びシミュレーション結果を示す。
図2図2は、本発明によるフォトカソードの実施形態の態様、及びシミュレーション結果を示す。
図3図3は、本発明によるフォトカソードの基板の実施形態を示す。
図4図4は、本発明によるフォトカソードの動作原理を示す。
図5図5は、本発明によるフォトカソードの別の実施形態を示す。
図6図6は、本発明によるフォトカソードの例のシミュレーション結果を示す。
図7図7は、本発明によるフォトカソードの別の実施形態のシミュレーション結果を示す。
図8図8は、フォトカソードの導電性構造のための導電性材料の異なる選択についてのシミュレーション結果を示す。
図9図9は、本発明の第2の態様による撮像システムに対応するシミュレーション結果を示す。
図10図10は、本発明の実施形態の動作に関するシミュレーション結果を示す。
図11図11は、本発明の実施形態を示す。
図12図12は、本発明によるフォトカソードの実施形態のスペクトル応答に関するシミュレーション結果を示す。
図13図13は、本発明に関連して有用な光電子増倍管を示す。
図14図14は、本発明に関連して有用なマルチチャネルプレートを示す。
図15図15は、本発明による撮像システムを示す。
図16図16は、本発明による撮像システムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1(a)は、本発明によるフォトカソード100の実施形態の拡大図を示す。フォトカソード100は、導電性構造101及び基板102を含む。導電性構造101(以下では「アンテナ」とも呼ばれる)は、ギャップ103によって分離された2つの電極106を提供するように配置される。アンテナギャップ103を含む先端部分105の拡大図として、入射光子電場104とアンテナ101との間の相互作用プロセスが図示されている。図は、構造を実現するために使用され得る材料の例を示し、材料は、この図に示される推定に用いられている。本明細書の他の箇所で論じるように、材料の他の選択も想定され得るテラヘルツ周波数範囲内の周波数帯域を含む電界時間トレースが、透明基板102を通って伝搬する受信電界104を示すために示されている。本発明によるフォトカソードは、テラヘルツ周波数範囲で動作することに限定されず、光波長で動作するように設計されてもよいことに留意されたい。電界は、ギャップ103の周りの体積に集中し、その結果、ここでは電極106として示される導電性構造101の先端部分105にわたって強い電界を設定する。この強い電界は、電子がアンテナの導電性材料から周囲環境へのトンネリングを受けることを可能にする。最後のステップとして、電子は電界(4)内で加速される。図1(b)は、二重スプリットリング共振器(dSRR)アンテナの形態において導電性構造101の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す。破線の円は、電極106およびギャップ103を含む先端部分105を示す。図1(c)は、先端部分105内の電界が最も強い時点におけるアンテナ(101)の平面内の電界の有限要素シミュレーションを示す。
【0037】
図2(c)は、図1(b)および(c)からのフィールドを異なるカラースケールで拡大して示す。図2(d)は、矢印で示されるように、トンネル容積内の時間における電界を示す。フィールドエンハンスメントは400に近い。図2(e)は、図2(d)の時間信号の周波数成分を示す。dSRRアンテナの幾何学的形状は、広帯域の入射電界信号に対して時間的に大きなフィールドエンハンスメントを得るために広範囲の周波数を増強する、ことが明らかである。
【0038】
図3は、基板102に衝突する入射電界Eを示す。基板の主要な働きが示されている。電界の主な損失は、第1の界面201で起こり、フレネル反射による。基板102の目的は、フォトカソードを構築するための物理的プラットフォームを提供することである。基板102は、電界放出プロセス自体のための機能を有していない。基板の1つの選択は、HR-Si(高抵抗率シリコン)であり、これは、THz及びIR放射に対して非吸収性であるが、3.42の屈折率を有する。したがって、第1の界面201における電界のフレネル反射は30%である。第2の界面202では、光は光の波長よりもはるかに薄いアンテナと相互作用するので、反射は重要ではないと考えられる。しかしながら、第2の界面における光は、部分的には基板内に部分的には真空中に、効果的に存在するので、アンテナの共振特性を演算するときに含まれるべき実効屈折率を受ける。
【0039】
図4は、説明のために挿入された関連する数値を有するアンテナ先端からのトンネリングプロセスを示す。空間的に不変の電界は、ここでは金301で示されている導電性表面に向いている。金フェルミ準位と真空準位とのエネルギー差は5eVである。金表面に垂直な方向に電界を積分することによって、印加された電界による電位が金フェルミ準位の電位と等しくなる距離を見出すことができる。この距離は、トンネル障壁幅を示すものである。典型的な値は、電場が入射信号の持続時間(典型的には、テラヘルツ周波数範囲内の広帯域過渡に対して1ps程度)に対してのみ存在することを考慮すると、真空電子システム内の測定可能な放出レベルに対して5nm以下である。
【0040】
実施例:金表面に向かう-10V/mの一定の電界に対して、電位エネルギーは次式で与えられる。
【数3】

したがって、トンネル障壁幅は、
【数4】

である。(1)に示されたこの結果は、ファウラー・ノルドハイム電界放出型として知られている周知の結果である。これは、印加される電界の時間非依存性を仮定している。
【0041】
超高速電界放出方式では、光子によって生じる放出と同様に、時間非依存性はもはや有効ではない。これは、二次ポテンシャル障壁を仮定することによって補正することができる。ここで、Φは、放出面に近い三角形のポテンシャル障壁を仮定したシステム仕事関数である。
【0042】
図5は、導電性構造(101)の異なる可能な構成、すなわち、(a)単一の共振ダイポールと、(b)ギャップ103によって分離された2つのダイポールとを示す。双極子の各極は、先端部分105の一部を形成する電極106として見ることができる。
[入射電界強度の関数としての放出された電子の数の考証:]
【0043】
ファウラー-ノルドハイム放出物理学によれば、電子放出電流は入射電界強度に対して非常に非線形である。さらに、電子を放出する先端の鋭さが放出に影響する。両方の点が図6に示されている。左のパネルは、丸みを帯びた先端(曲率半径1.5μm)の放出電流に対する入射電界強度を示し、右のパネルは、同様の構造からの放出を示し、放出先端は尖っており、より高いフィールドエンハンスメントをもたらす。後者の場合、高放出範囲は、より低い入射電界強度にまで及ぶ。ファウラー-ノルドハイムフィット(各プロットにおける「FNフィット」曲線)は、THz波形の較正された自由空間電気光学サンプリングによって決定される電界強度値と密接に一致して、絶対入射電界強度(曲線のx軸)の決定を可能にする。
[異なる幾何学的形状の構造からの放出の考証]
【0044】
アンテナの幾何学的形状は、フィールドエンハンスメント係数及び電界閉じ込めを決定する。したがって、電子放出は、図6図8の比較で示されるような特定の幾何学的形状に限定されない。図6では、アンテナはI構造の形態であり(図5(a))、図8では、アンテナはdSRRの形態である(図1(b))。よって、本発明者らは、アンテナの多くの幾何学的形状が、所与のフィールドエンハンスメントおよび場の局在化をもたらすことができることに気付いた。特定の幾何学的形状は、小さい点での場の局在化を強調すると共に、隣接する要素間の電磁結合を最小限にするように(dSRRにおいて具現化されるように)、又は、隣接するアンテナ(I構造)間の結合を可能にするように選択され得る。もちろん、複数の他の形状も同様の特徴を示すであろう。
[絶対極性の測定の考証]
【0045】
電子放出は、金属から周囲の媒体へのトンネリングチャネルが開いている場合にのみ有効である。これは、先端に向かう駆動電界の極性によって保証される。したがって、一定の電界強度で電界方向を反転は、電子放出効率を大幅に低下させる。これは、非対称のdSRR設計が駆動THz場の絶対極性を検出することができることを意味する。図7に示すように、この容量は、非対称駆動場の絶対極性の検出を可能にする。図に示されるように、入射THz場は、非対称単一サイクル(左上角)の形態であってもよく、非対称の程度は、1-|E/E|として定義され得る。この入力場の極性が、dSRRアンテナの配向に対して回転される場合(右下パネル)、放射電流は、図の左部分に示されるように入射角とともに変化する。放出電流の非常に明確な異方性が観察され、電界の絶対極性が決定され得る。
【0046】
図8は、入射電界強度の関数としての単純なダイポールアンテナ(図5(a)に示すI構造)からの電子放出を示す。金701からなるアンテナ、及び、グラフェン702からなるアンテナからの放射が示されている。ファウラー-ノルドハイムプロット(下のパネル)は、各材料の有効仕事関数を決定する。金については、多くの以前の研究で観察されたように、バルク金よりも低い仕事関数が見られる。グラフェンについては、抽出された仕事関数はアームチェア構成の仕事関数に非常に近い。
[アレイにおける配置およびTHzビームのイメージングのための使用の考証]
【0047】
個々のアンテナがアレイに配置され、メタマテリアル(すなわちアンテナの集合)が個々のアンテナから読み取られる場合、画像が形成され得る。これは図9に示されている。この例では、アンテナアレイを有するメタサーフェスはアルゴン雰囲気中に置かれ、放出された電子はアルゴン原子と衝突し得る。この衝突はアルゴン原子にエネルギーを供給し、アルゴン原子はより高い電子状態に励起される。その後の基底状態への緩和は、グロー放電に類似した可視光の放出をもたらす。上述したような画像を形成するため、アンテナ間の電界結合を回避するのに閉じたアンテナ設計が好ましいが、これは、単一のアンテナからの放出を、正確な点のみでピーク電界の描写として判断することを困難にする。dSRRは、フィールドカプセル化の問題を十分に解決する設計である(図9(b))。画像形成は、ガスの代わりに、例えばマルチチャネルプレートを用いて真空中で行うこともできる。これは、検出閾値を低下させ、画像形成感度を向上する。画像形成は、すべてのアンテナタイプに対して共通に行うことができる。
【0048】
アンテナアレイの設計された周期性により、図9(b)に示すように、2D FFTフィルタリングを用いて、任意の画素化画像が効果的に再構成され得る。
[避雷針効果(中赤外線による放出)の考証]
【0049】
共振フィールドエンハンスメントに加えて、別の物理的効果、いわゆる避雷針効果が放出プロセスに影響を及ぼす。この効果は、aを先端半径とすると、先端における電界閉じ込めをaとして強化する。
【0050】
一例として、3.2μmの光で照明された、それぞれ1500nmの半径と150nmの半径との2つの先端を考える。照明されたアンテナは、この周波数に対して共振エンハンスメントを有さず、エンハンスメントは避雷針効果のみに依存する。aの10倍の減少(10倍の先端半径の減少につながる)に対する避雷針の増強は、理論的にはa=100であるべきである。
【0051】
結果として生じる電界依存性放出電流は、二次ポテンシャルと100の相対フィールドエンハンスメント率とによるファウラー-ノルドハイムエミッションモデルに適合される。図10に示されるように、この取り決めは良好である。
【0052】
したがって、すべての用途に対して、アンテナの主要な特徴は、電界閉じ込めを最大にするために、先端部の形状をできるだけシャープにする又は尖らせることである。これは、共振的に生じる電子放出及び避雷針効果による放出の両方を高める。これに関連して、シャープな電極は、アンテナライン幅1001で始まり、好ましくは可能な限り小さい、基板表面に平行な平面内の著しく小さい寸法1002で終わるテーパ(図11参照)を含むものである。テーパは、先端が例えば間隙に向かうテーパの狭い端部で非テーパ部分1003を備えてもよいという点で、連続的である必要はないことに留意されたい。実際には、得られる最小寸法は製造技術によって制限される。典型的なアンテナ線幅は、数100ナノメートル、さらには数マイクロメートルまでである。典型的なチップ寸法は20nm又は10nmである。基板表面に垂直な方向、すなわち「アンテナ厚さ」において、最適な厚さは、アンテナにおける低い電気抵抗をサポートする、すなわち、導電性の最適な使用をサポートする、大きい厚さと、可能な限り小さい先端断面積をサポートする小さい厚さとの間のトレードオフとして見出され得る。
【0053】
避雷針効果の実際の使用が図12に示されており、中赤外波長(2.5-5.5μm波長)によって生じる放出が例示されている。フェムト秒中赤外光源の平均パワーは、プロットの上部に実質的に一定の曲線として示されている。「0.5THz PMT」と「5.0THz PMT」とラベル付けされた曲線は、それぞれa=1500nmとa=150nmのアンテナ構造で検出された電子放出信号である。中赤外光源は、アンテナに到達する前に溶融シリカ窓を通過する。溶融シリカは、3.9μmより長い波長で強い吸収帯を有することが知られている。したがって、150nmの先端半径(1桁小さい)で観察された、4.0μmの励起波長における2桁の大きさで増加した電子放出は、aに比例する電界閉じ込めの増加と一致しており、避雷針効果が中赤外光源によって生じる効率的な電子放出に有益であることの証拠である。
【0054】
図13は、電子管の一例を示す断面図である。電子管1は、電磁波の入射に応じて電気信号を出力する光電子増倍管である。電磁波が入射すると、電子管1は内部で電子を放出し、放出した電子を増倍する。本明細書において、電子管に入射する「電磁波」とは、いわゆるミリ波から赤外光までの周波数帯域に含まれる電磁波である。図13に示すように、電子管1は、ハウジング10と、電子放出ユニット(光電面)20と、電子増倍部30と、電子収集部40とを備える。
【0055】
ハウジング10は、バルブ11及びステム12を含む。ハウジング10の内部は、バルブ11及びステム12によって気密に封止され、真空に保持されている。真空とは、絶対的な真空だけでなく、大気圧よりも低い圧力の気体がハウジング内に充填されている状態も含む。例えば、ハウジング10の内部は、1×10-4~1×10-7Paに保たれる。バルブ11は、電磁波を透過する窓11aを有する。ハウジング10は、例えば円筒形状を有する。本実施形態では、ハウジング10は、円筒形状を有する。ステム12は、ハウジング10の底面を構成する。バルブ11は、ハウジング10の側面と、ステム12に対向する底面とを構成する。
【0056】
窓11aは、ステム12bに対向する底面を構成する。窓11aは、例えば、平面視で円形状である。窓11aは、石英、シリコン、ゲルマニウム、サファイア、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、酸化マグネシウム、及び炭酸カルシウムから選択される少なくとも1つを含む。本実施形態では、窓11aは石英で形成されている。電磁波の透過率の周波数特性は、材料によって異なる。したがって、窓11aを通過する電磁波の周波数帯域に応じて、窓11aの材料が選択されてもよい。例えば、0.1~5THzの周波数帯域の電磁波を透過する部材の材料として石英を選択し、0.04~11THz及び46THz以上の周波数帯域の電磁波を透過する部材の材料としてケイ素を選択し、40THz以上の周波数帯域の電磁波を透過する部材の材料としてフッ化マグネシウムを選択し、13THz以上の周波数帯域の電磁波を透過する部材の材料としてゲルマニウムを選択し、14THz以上の周波数帯域の電磁波を透過する部材の材料としてセレン化亜鉛を選択してもよい。
【0057】
電子管1は、ハウジング10の外部と内部とを電気的な接続を可能とする複数の配線13を含む。複数の配線13は、例えば、リード線又はピンである。本実施形態では、複数の配線13は、ステム12を貫通してハウジング10の内部から外部に延びるピンである。複数の配線13のうち少なくとも1つは、ハウジング10の内部に設けられた各種部材に接続されている。
【0058】
電子放出ユニット20は、ハウジング10の内部に配置され、ハウジング10への電磁波の入射に応じて電子を放出する。電子放出ユニット20は、メタサーフェス50と、メタサーフェス50が設けられた基板21とを含む。基板21は、窓11aを通過する電磁波に対して透過性を有する。本明細書において、「透過性」とは、入射した電磁波の少なくとも一部の周波数帯域を透過する性質を意味する。すなわち、基板21は、窓11aを通過した電磁波の少なくとも一部の周波数帯域を透過する。基板21は、例えば、シリコンからなる。基板21は、平面視で矩形状である。基板21は、窓11a及び電子増倍部30から離間している。
【0059】
図14は、マイクロチャネルプレート(マルチチャネルプレート)の一例の断面斜視図である。本変形例において、マイクロチャネルプレート70は、図示するように、基体73と、複数の流路74と、隔壁部75と、枠部材76と、を備える。基体73は、入力面73aと、入力面73aに対向する出力面73bとを有する。基体73は、円板状に形成されている。入力面73aは、基板21に面する。出力面73bは、アノード41に対向している。入力面73a及び出力面73bは、窓11a、基板21、及びメタサーフェス50と平行に配置される。アノード41は、平板状であり、マイクロチャネルプレート70の出力面73bと平行に配置されている。
【0060】
複数の流路74は、入力面73aから出力面73bまで基体73に形成される。具体的には、各流路74は、入力面73aおよび出力面73bに直交する方向に、入力面73aから出力面73bまで延在する。複数の流路74は、平面視でマトリクス状に配置されている。各流路74は、円形の断面形状を有する。複数の流路74の間には、隔壁部75が設けられている。マイクロチャネルプレート70は、電子増倍部として機能するために、流路74内の隔壁部75の表面に、図示しない抵抗層および電子放出層を備える。枠部材76は、基体73の入力面73a及び出力面73bの周縁部に設けられている。
【0061】
電子管1Eでは、複数の配線13のうちの1つが、取付部材71,72のそれぞれに接続されている。マイクロチャネルプレート70では、配線13と取付部材71,72とを介して、入力面73aと出力面73bとの間に電圧が印加される。メタサーフェス50から放出された電子が入力面73aに入射すると、流路74で増倍されて出力面73bから放出される。マイクロチャネルプレート70で増倍された電子は、アノード41で収集され、配線13を介してアノード41から出力信号として出力される。
【0062】
次に、図15及び図16を参照して、本実施形態の変形例に係る電子管について説明する。図15は、電子管の一例を示す部分断面図である。図16は、図15に示す電子管の一部を示す断面図である。図15及び図16に示す変形例は、上述した実施形態とほぼ同様である。ただし、電子管がいわゆるイメージインテンシファイアである点で上記実施形態と異なる。以下、実施形態と変形例との相違点を中心に説明する。
【0063】
図15に示す電子管1Fでは、電子放出ユニット20、電子増倍部30、及び、電子収集部40は、ハウジング80内に配置されている。電子増倍部30は、集束電極31及びダイノード32a~32jに代えて、マイクロチャネルプレート70を備える。電子管1Fにおいて、電子収集部40は、アノード41の代わりに蛍光体81を備える。電子管1Fでは、ハウジング80内において、メタサーフェス50とマイクロチャネルプレート70と蛍光体81とが互いに近接している。
【0064】
ハウジング80は、側壁82と、入射窓83(窓11a)と、出射窓84とを含む。側壁82は、中空の円筒形状を有する。入射窓83および出射窓84は、いずれも円盤状である。側壁82の両端を入射窓83及び出射窓84で気密に封止することにより、ハウジング80の内部が真空に保持される。例えば、ハウジング80の内部を1×10-5~1×10-7Paに保持する。
【0065】
側壁82は、例えば、側管85と、側管85の側部を覆うモールド部材86と、モールド部材86の側部および底部を覆うケース部材87とを含む。側管85、モールド部材86、及び、ケース部材87は、それぞれ中空の円筒形状を有する。側管85は、例えばセラミック製である。モールド部材86は、例えばシリコーンゴムからなる。ケース部材87は、例えばセラミック製である。
【0066】
モールド部材86の両端には貫通孔が形成されている。ケース部材87の一端は開口されている。ケース部材87の他端には貫通孔が設けられている。ケース部材87の貫通孔は、モールド部材86の1つの貫通孔の縁位置と一致するように位置する縁を含む。入射窓83は、モールド部材86の一端において、モールド部材86の貫通孔の周囲の面に接合されている。入射窓83は、電子管1の窓11aと同様に、電磁波を透過する。入射窓83は、電子管1の窓1aと同様に、石英、シリコン、ゲルマニウム、サファイア、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、酸化マグネシウム、及び炭酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含む。
【0067】
電子管1Fでは、ハウジング80の入射窓83の直上にメタサーフェス50が設けられている。メタサーフェス50は、マイクロチャネルプレート70に面する。マイクロチャネルプレート70は、メタサーフェス50と蛍光体81との間に配置される。マイクロチャネルプレート70は、メタサーフェス50および蛍光体81から分離されている。
【0068】
モールド部材86の他端側において、出射窓84は、モールド部材86の他方の貫通孔に嵌め込まれている。出射窓84は、例えば、多数の光ファイバを板状に集合させたファイバプレートである。ファイバプレートの各光ファイバは、ハウジング80の内側の端面80aが各光ファイバと面一になるように構成されている。端面84aは、メタサーフェス50と平行に配置されている。
【0069】
蛍光体81は、端面84aに配置されている。蛍光体81は、例えば、端面84aに蛍光体を塗布することにより形成される。蛍光体は、例えば、(ZnCd)S:Ag(銀をドープした硫化亜鉛カドミウム)である。蛍光体81の表面には、メタルバック層、低電子反射率層が順次積層されている。例えば、メタルバック層は、Alの蒸着により形成され、マイクロチャネルプレート70を透過した光に対しては比較的高い反射率を有し、マイクロチャネルプレート70から放出された電子に対しては比較的高い透過率を有する。 低電子反射率層は、例えばC(炭素)、Be(ベリリウム)等を蒸着して形成され、マイクロチャネルプレート70から放出された電子に対して比較的低い反射率を有する。
【0070】
電子管1Fでは、電子管1Eと同様に、マイクロチャネルプレート70を保持する取付部材71,72のそれぞれに、ハウジング80の外部に延びる複数の配線13のうちの1つが接続されている。マイクロチャネルプレート70には、取付部材71,72を介して、入力面73a側と出力面73b側との間に電圧が印加される。
【0071】
メタサーフェス50から放出された電子が入力面73aに入射すると、流路74で増倍されて出力面73bから放出される。電子管1Fでは、マイクロチャネルプレート70で増倍された電子が蛍光体81に収集される。蛍光体81は、マイクロチャネルプレート70で増倍された電子を受けて放出する。蛍光体81から出射された光は、ファイバープレートを透過して出射窓84からハウジング80の外部に出射される。
【0072】
本発明を特定の実施形態に関連して説明してきたが、本発明は、提示された例に限定されるものと決して解釈されるべきではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲において、「備える(comprising)」又は「備える(comprises)」という用語は、他の可能な要素、又は、ステップを除外しない。また、「a」又は「an」などの参照の言及は、複数を除外すると解釈されるべきではない。図面に示される要素に関する請求項における参照符号の使用も、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。さらに、異なる請求項に記載された個々の特徴は、場合によっては有利に組み合わせることができ、異なる請求項におけるこれらの特徴の言及は、特徴の組み合わせが可能でないこと及び有利でないことを除外しない。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図14
図15
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【国際調査報告】