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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-12
(54)【発明の名称】尿素プラントのフェライト鋼部品
(51)【国際特許分類】
   C07C 273/04 20060101AFI20220905BHJP
   C07C 275/00 20060101ALI20220905BHJP
   B01J 3/00 20060101ALI20220905BHJP
   F28D 7/16 20060101ALI20220905BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20220905BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220905BHJP
   C22C 38/48 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
C07C273/04
C07C275/00
B01J3/00 B
F28D7/16
F28F21/08 F
C22C38/00 302Z
C22C38/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022500606
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(85)【翻訳文提出日】2022-01-05
(86)【国際出願番号】 NL2020050438
(87)【国際公開番号】W WO2021006729
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】19184798.7
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512061836
【氏名又は名称】スタミカーボン・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カーク・アングア・オフェイ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンデル・アレイダ・アントニウス・シェールデル
【テーマコード(参考)】
3L103
4H006
【Fターム(参考)】
3L103AA12
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC57
4H006BD83
4H006BE14
4H006BE41
(57)【要約】
本出願は、一態様において、反応器を備える高圧合成セクションを含む尿素プラントで尿素を製造する方法を提供し、当該方法は、NH供給物とCO供給物とを反応器内において尿素形成条件下で反応させて、尿素と、水と、カルバメートと、アンモニアとを含む尿素合成溶液を形成することを含み、当該方法は、カルバメート含有液体流を、フェライト鋼合金で作製された上記高圧合成セクションの装置部品と接触させる工ことを更に含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器を備える高圧合成セクションを含む尿素プラントで尿素を製造する方法であって、前記方法が、NH供給物とCO供給物とを前記反応器内において尿素形成条件下で反応させて、尿素と、水と、カルバメートと、アンモニアとを含む尿素合成溶液を形成することを含み、前記方法が、カルバメート含有液体流を前記高圧合成セクションの装置部品と接触させることを更に含み、前記装置部品が、重量%で
C 最大0.005
Si 0.1~0.4
Mn 最大0.4
P 最大0.020
S 最大0.020
Cu 最大0.25
Ni 最大0.50
Cr 20.0~35.0
Mo 0.75~1.50
N 0.0050~0.0125
Nb 0.060~0.375と、
残部のFeと、合計で最大0.50重量%の添加された加工性元素と、不純物とを含むフェライト鋼合金で作製されており、前記Nbの量は、重量%で、式:12×(重量%N)<Nb<30×(重量%N)を満たす、
方法。
【請求項2】
前記フェライト鋼合金が、重量%で、
C 最大0.0030
Si 0.1~0.3
Mn 最大0.2
P 最大0.020
S 最大0.020
Cu 最大0.25
Ni 最大0.20
Cr 25.0~27.5
Mo 0.75~1.50
N 0.0050~0.0125
Nb 0.060~0.375と、
残部のFeと、不可避に発生する不純物とを含み、かつ前記Nbの量が、重量%で、式:12×(重量%N)<Nb<30×(重量%N)を満たし、前記装置部品が、純粋なフェライト微細構造を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Nbの量が、式:15×(重量%)N<Nb<25×(重量%N)を満たす、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記高圧合成セクションが、ストリッパを含み、前記方法が、前記尿素合成溶液を前記ストリッパ内でストリッピングステップに供する工程を含み、前記ストリッパが、チューブを備えるシェルアンドチューブ熱交換器であり、前記ストリッパチューブが、少なくとも部分的に前記フェライト鋼合金で作製されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ストリッパチューブの少なくとも一部における温度が、200℃を超える、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、COとOとを含む第1のガス流からCOを分離することによって前記CO供給物を得る工程を更に含み、前記高圧合成セクション内に存在する酸素の量は、少なくとも90モル%が前記第1のガス流に由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
尿素プラント用の高圧ストリッパであって、前記ストリッパは、チューブと、シェルと、上部チューブシート及び下部チューブシートと、を備えるシェルアンドチューブ熱交換器であり、前記ストリッパが、流下液膜式の縦型シェルアンドチューブ熱交換器であり、前記ストリッパが、カルバメートを更に含む尿素溶液を前記チューブに受け入れるための入口を前記チューブの上方部分に備え、かつ前記ストリッパは、前記シェルと前記チューブとの間及び前記2つのチューブシートの間のシェル空間に蒸気を受け入れるための入口を備え、前記チューブが、少なくとも、フェライト鋼で作製されていて動作中にカルバメートを含む前記尿素溶液と接触する部分を含む、高圧ストリッパ。
【請求項8】
前記チューブが、内管層と外管層とを備えるバイメタルチューブであって、前記内管層が、フェライト鋼合金で作製されていて純粋なフェライト微細構造を有し、前記外管層が、二相ステンレス鋼、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、及びオーステナイトステンレス鋼の群から選択される材料で作製されており、前記ストリッパが、前記外管と前記上部チューブシートの上側との間の溶接を含む、請求項7に記載の高圧ストリッパ。
【請求項9】
前記上部チューブシートが、炭素鋼で作製された耐圧内部部分と、耐食鋼のオーバーレイとを備え、前記溶接が、前記外管と前記オーバーレイとの間にある、請求項7又は8に記載の高圧ストリッパ。
【請求項10】
アンモニウムカルバメート環境におけるフェライト系ステンレス鋼の使用であって、前記使用が、前記鋼を、アンモニウムカルバメートを含む流体に曝露することを含み、前記フェライト鋼が、重量%(wt%)で
C 最大0.005、
Si 0.1~0.4
Mn 最大0.4
P 最大0.020
S 最大0.020
Cu 最大0.25
Ni 最大0.50
Cr 20.0~35.0
Mo 0.75~1.50
N 0.0050~0.0125
Nb 0.060~0.375と、
残部のFeと、合計で最大0.50重量%の添加された加工性元素と、不純物とを含み、前記Nbの量は、重量%で、式:12×(重量%N)<Nb<30×(重量%N)を満たし、
好ましくは、前記フェライト鋼が、請求項1~3のいずれか一項に定義される組成を有する、
使用。
【請求項11】
構成要素を製造する方法であって、前記構成要素は、互いに冶金的結合を有する第1の部品と第2の部品とを含み、前記第1の部品はフェライト系ステンレス鋼で作製されており、前記第2の部品は、例えば、前記第1の部品とは異なる種類の鋼で作製されており、前記方法が、
i)製造しようとする物体の形状を画定する金型を用意することと、
ii)前記金型のうちの前記第1の部品に対応する部分に、フェライト系ステンレス鋼合金粉末である第1のステンレス鋼合金粉末を充填することと、
iii)前記金型のうちの前記第2の部品に対応する部分に、前記第1のステンレス鋼合金粉末とは異なる元素組成を有する第2のステンレス鋼合金粉末を充填することと、
iv)前記第1及び第2のステンレス鋼合金粉末を充填した前記金型に熱間等方圧プレス(HIP)を施し、圧密化された物体を得ることと、を含む
方法。
【請求項12】
前記フェライト系ステンレス鋼が、
C 最大0.005
Si 0.1~0.4
Mn 最大0.4
P 最大0.020
S 最大0.020
Cu 最大0.25
Ni 最大0.50
Cr 20.0~35.0
Mo 0.75~1.50
N 0.0050~0.0125
Nb 0.060~0.375
残部のFeと、合計で最大0.50重量%の添加された加工性元素と、不純物とを含み、前記Nbの量は、重量%で、式:12×(重量%N)<Nb<30×(重量%N)を満たし、
前記構成要素が、尿素プラント用であり、前記第1の部品が純粋なフェライト微細構造を有し、前記第2の部品が、オーステナイト系又は二相ステンレス鋼で作製されている、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
熱交換器チューブであって、前記熱交換器チューブは、内管層と外管層とを備えるバイメタルチューブであり、前記内管層が、フェライト鋼合金で作製されており、前記外管層が、二相ステンレス鋼、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、及びオーステナイトステンレス鋼の群から選択される材料で作製されており、好ましくは、前記フェライト鋼合金が、請求項1、2又は3に定義されるフェライト鋼合金である、熱交換器チューブ。
【請求項14】
前記外管層が、二相ステンレス鋼合金で作製されており、前記内管層が、純粋なフェライト微細構造を有し、
好ましくは、前記外管層が、25%超のクロム、4~9%のNi、及び1~5%のMoを有する二相ステンレス鋼からなり、かつ/又は好ましくは、前記内管層と前記外管層とは、互いに冶金的結合を有する、請求項13に記載の熱交換器チューブ。
【請求項15】
設備であって、
-少なくとも1つの鋼製チューブと、
-二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造を有する鋼を含む少なくとも1つのホルダー要素であって、前記鋼製チューブが前記ホルダー要素を貫通し、前記チューブの外面上及び前記ホルダー要素上に設けられた溶接接合部によって前記ホルダー要素に取り付けられている、ホルダー要素と、
を備え、
前記設備が、
-前記鋼製チューブが、純粋なフェライト微細構造を有する内管部分と、二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造を有する外管部分とを備える複合管であることを特徴とする、
設備。
【請求項16】
配置構成が、
-前記チューブ内に腐食性媒体を導入するための手段と、
-前記チューブを外側から加熱するための手段と、を備え、
前記腐食性媒体が、前記チューブを外部から加熱するための前記手段によって引き起こされる高温において、前記フェライト鋼が、前記二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造よりも高い耐食性を有する媒体である、
請求項15に記載の設備。
【請求項17】
前記外管部分が、25%超のクロム、4~9%のNi、及び1~5%のMoを有する二相ステンレス鋼からなる、請求項15又は16に記載の設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素を製造するための方法、尿素プラント用の高圧ストリッパ、フェライト系ステンレス鋼の使用、構成要素の製造方法、熱交換器チューブ、及び複合鋼管を含む設備(apparatus)に関する。また、特定の鋼合金を含む装置部品(equipment part)を含む尿素プラントも記載されている。
【背景技術】
【0002】
尿素は、COとNHとの反応によってアンモニウムカルバメートを形成することと、当該カルバメートを脱水して尿素と水とし、尿素合成溶液を得ることによって商業的に製造される。尿素合成溶液は、尿素と、水と、アンモニウムカルバメートと、アンモニアとを含む。中間生成物のアンモニウムカルバメートは、少なくとも尿素プラントの高圧合成セクションで通常適用される温度よりも高温において、非常に腐食性である。この合成溶液の腐食性により、尿素製造業者は、特に高圧装置の寿命が十分に長くなるように、構成材料の品質及び組成に対する非常に厳しい要求を設定することを強いられる。
【0003】
尿素合成に関与するカルバメート含有溶液に曝露されたオーステナイト系ステンレス鋼は、例えば不動態化空気を高圧合成セクションに導入することで、所与の量の酸素によって不動態化(非腐食)状態に保つことができることが公知である(Ullmann’s Encyclopaedia,chapter Urea,2010)。不動態化は、酸化クロム保護層の形成によってもたらされる。しかしながら、この酸化物層は、高温のカルバメート溶液中でゆっくりと溶解し得る。
【0004】
一般に、不動態化金属の腐食系は、分極曲線を使用して分析できる。第1の事例では、陰分極曲線は、金属の陽分極曲線との安定した交差曲線を1つだけを有する。これは、例えば、酸化剤を含有する酸溶液中のステンレス鋼に典型的である。第2の事例では、陽分極曲線と陰分極曲線とは、異なる電位で3つの交点を有し、そのうちの1つは不安定であり、そのうちの1つは活性領域にあり、もう1つは不動態領域にある。酸素カルバメート溶液中のステンレス鋼は、この挙動の典型である。第3の事例では、交点が1つだけ存在し、それは活性領域にあり、高い腐食速度が発生する。この事例は、空気を含まないカルバメート溶液に特徴的である(G.Notten,Corrosion Engineering Guide,KCI Publishing 2008,para.2.4.5)。
【0005】
不動態化空気の使用は、反応器内の所与の絶対圧力(反応器設計によって固定される)に対して、NH及びCOの分圧が反応器内の不活性物質によって低くなり、それによって、反応器の運転温度である液体反応媒体の沸点が低下し、その結果、変換が減少するという欠点を有する。加えて、反応器の有効体積が不活性物質によって減少する。更に、不動態化空気は、最終的に不活性ガス流に入り合成セクションから放出されるため、不活性物質からのアンモニア除去を必要し、不動態化空気が多くなることで中圧又は低圧カルバメート溶液としてのNH及びCO再循環が増加し、これは欠点である。
【0006】
アンモニア排出は、環境上の理由から、及び供給原料の損失として、問題となる。不活性物質を洗浄した後の爆発性混合物の形成を避けるために、合成セクションの上流のCO供給物からの水素除が必要となる場合がある。
【0007】
温度は、尿素合成に用いられる鋼の腐食挙動における重要な要素である。例えば、不動態化酸化物層は、高温において安定性が低くなり得る。分極曲線もまた、温度に依存する。
【0008】
ストリッピング型尿素製造プロセスでは、高圧ストリッパ内の熱交換チューブは、高温と、高いカルバメート含有量と、低い酸素分圧とがチューブ内で組み合わさることから、腐食の危険性に関して最も重要な場所を表すと通常考えられる。
【0009】
ストリッパは高価な装置部品であり、寿命が長いことは非常に重要である。寿命は、典型的には、特に熱交換器チューブにおける腐食によって制限される。更に、チューブの交換、修理、又は閉塞は、プラントのダウンタイムの点でも費用がかかり、動作が不安定になるリスクをもたらす。したがって、ストリッパのメンテナンスは、最小限に抑えることが望ましい。更に、腐食速度が低いことを実証することで、プラント装置の必須検査の頻度を低減することができ、それによってプラントのアップタイムが増加する。腐食速度が低いことは、ストリッパ装置に所望される非常に高い信頼性を達成し、かつ高い操業度(on stream factor)を達成し、不要なシャットダウンの数を削減するためにも重要である。
【0010】
COストリッピング型の尿素プラントでは、オーステナイト鋼UNSS31050(25Cr-22Ni-2Mo)が長年使用されており、典型的には、少なくとも0.6体積%の不動態化酸素が空気として添加されることを必要とする。
【0011】
1990年代に、二相オーステナイト-フェライト鋼合金が、構成材料として尿素プラントに導入された。
【0012】
当該技術分野では、二相ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼粒子とオーステナイト系ステンレス鋼粒子とからなる二相微細構造を有することから、「二相」と呼ばれる。
【0013】
スタミカーボン(Stamicarbon)のCOストリッピング型尿素プラントでは、国際公開第95/00674号に記載されている二相鋼合金を高圧合成セクションで使用することができる。このような鋼は、Safurex(登録商標)の商標で市販されている超二相鋼であり、UNS S32906としても知られる。この超二相鋼合金の使用により、不動態化酸素のレベルを50%低減でき、不動態化空気の添加量がCO供給物に対して0.3体積%の酸素、又は0.1体積%などの更に低いレベルとなる。この合金は、尿素プラントの全ての高圧装置、特に高温のカルバメートに曝露される部分(例えば、ライニング、配管)、すなわちHP合成セクションに使用することができる。全体的な不動態腐食速度は、操業時(すなわち、動作中)に1年あたり0.01mm未満と報告されている。しかしながら、動作中に最も高温に曝露されるストリッパチューブの特定の垂直部分において、蒸気で(on steam)1年あたり最大0.09mmの不動態腐食速度が観察されている。
【0014】
更に好適な二相ステンレス鋼合金は、国際公開第2017/013180号及び国際公開第2017/014632号に記載され、米国特許出願公開第2018/195158号も公開されており、いずれも、より高い温度、例えば200℃より高温のカルバメート環境において低不動態腐食速度を有する二相ステンレス鋼合金を記載している。この合金は、ストリッパチューブに特に好適である。
【0015】
アンモニアストリッピング又はセルフストリッピング(Snamprogettiプロセス)を用いる尿素プラントにおいて、ストリッパチューブは長い間チタン製であった。後に、バイメタルチューブが使用された。バイメタルチューブは、2つの同軸管からなり、外管はオーステナイト系ステンレス鋼製であり、内管はZr製である。より最近では、全Zr管、及びチタン(外側)及びジルコニウム(内側)ビレットの押出によって得られた管が使用されている。
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明は、第1の態様において、反応器を備える高圧合成セクションを含む尿素プラントで尿素を製造する方法に関し、当該方法は、NH供給物とCO供給物とを反応器内において尿素形成条件下で反応させて、尿素と、水と、カルバメートと、アンモニアとを含む尿素合成溶液を形成することを含み、当該方法は、カルバメート含有液体流を、フェライト鋼合金で作製された当該高圧合成セクションの装置部品と接触させることを更に含む。フェライト鋼合金は、好ましくは、重量%で、
C 最大0.005
Si 0.1~0.4
Mn 最大0.4
P 最大0.020
S 最大0.020
Cu 最大0.25
Ni 最大0.50
Cr 20.0~35.0
Mo 0.75~1.50
N 0.0050~0.0125
Nb 0.060~0.375と、
残部のFeと、合計で最大0.50重量%の添加された加工性元素(processability element)と、不純物とを含み、好ましくは、Nbの量は、重量%で、式:12×(重量%N)<Nb<30×(重量%N)を満たす(好ましい合金組成1)。
【0017】
好ましくは、フェライト鋼合金は、重量%で、
C 最大0.0030
Si 0.1~0.3
Mn 最大0.2
P 最大0.020
S 最大0.020
Cu 最大0.25
Ni 最大0.20
Cr 25.0~27.5
Mo 0.75~1.50
N 0.0050~0.0125
Nb 0.060~0.375と、
残部のFeと、不可避に発生する不純物とを含み、Nbの量が、重量%で、式:12×(重量%N)<Nb<30×(重量%N)を満たす(好ましい合金組成2)。
【0018】
好ましくは、Nbの量は、式:15×(重量%)N<Nb<25×(重量%N)を満たす(好ましい合金組成3)。
【0019】
一般に、装置部品は純粋なフェライト微細構造を有する。したがって、装置部品は、一相フェライト微細構造を有する。これは、本明細書で使用される全てのフェライト鋼合金が該当し、二相ステンレス鋼合金との違いをもたらす。
【0020】
本発明は更に、尿素プラント用の高圧ストリッパに関し、当該ストリッパは、チューブと、シェルと、上部チューブシート及び下部チューブシートとを備えるシェルアンドチューブ熱交換器であり、当該ストリッパは、流下液膜式の縦型シェルアンドチューブ熱交換器であり、当該ストリッパは、カルバメートを更に含む尿素溶液をチューブに受け入れるための入口をチューブの上方部分に備え、かつ当該ストリッパは、シェルとチューブとの間及び2つのチューブシートの間のシェル空間に蒸気を受け入れるための入口を備え、チューブは、少なくとも、フェライト鋼製であって動作中にカルバメートを含む上記尿素溶液と接触する部分を含む。好ましくは、チューブ部分は純粋なフェライト微細構造を有する。
【0021】
本発明はまた、アンモニウムカルバメート環境におけるフェライト系ステンレス鋼の使用に関し、当該使用は、上記鋼をアンモニウムカルバメートを含む流体に曝露することを含む。
【0022】
本発明はまた、構成要素を製造する方法にも関し、当該構成要素は、互いに冶金的結合を有する第1の部品と第2の部品とを含み、第1の部品はフェライト系ステンレス鋼で作製されており、第2の部品は、例えば、第1の部品は異なる種類の鋼で作製されており、当該方法は、
i)製造しようとする物体の形状を画定する金型を用意することと、
ii)金型のうちの上記第1の部品に対応する部分に、フェライト系ステンレス鋼合金粉末である第1のステンレス鋼合金粉末を充填することと、
iii)金型のうちの上記第2の部品に対応する部分に、上記第1のステンレス鋼合金粉末とは異なる元素組成を有する第2のステンレス鋼合金粉末を充填することと、
iv)上記第1及び第2のステンレス鋼合金粉末を充填した上記金型に熱間等方圧プレス(HIP)を施し、圧密化された物体を得ることと、を含む。
【0023】
本発明はまた、熱交換器チューブに関し、当該熱交換器チューブは、内管層と外管層とを備えるバイメタルチューブであって、内管層は、フェライト鋼合金で作製されており、外管層は、二相ステンレス鋼、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、及びオーステナイトステンレス鋼の群から選択される材料で作製されている。
【0024】
本発明はまた、
-少なくとも1つの鋼製チューブと、
-二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造を有する鋼を含む少なくとも1つのホルダー要素であって、上記鋼製チューブが、ホルダー要素を貫通し、チューブの外面上及びホルダー要素上に設けられた溶接接合部によってホルダー要素に取り付けられている、少なくとも1つのホルダー要素と、
を備える設備にも関し、
上記設備は、
-鋼製チューブが、純粋なフェライト微細構造を有する内管部分と、二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造を有する外管部分とを備える複合管であることを特徴とする。
【0025】
例えば、本発明で使用されるフェライト鋼合金は、純粋なフェライト微細構造を有する。したがって、鋼は、例えば一相フェライト微細構造を有する。特に、本明細書で使用されるフェライト鋼合金は、二相フェライト-オーステナイト系ステンレス鋼ではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明によるストリッパの例の概略図である。
図2】本発明による尿素プラントの例の概略図である。
図3】本発明によるストリッパの別の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1の態様では、本発明は、広義に、本願に記載の元素組成特にNbを含む好ましい合金組成1~3を有するフェライト鋼合金が、尿素合成プラントの高圧セクションにおいて、動作中に尿素合成溶液などのカルバメート含有溶液と接触しながら、カルバメートによって引き起こされるような腐食に対して非常に高い耐性を提供する装置部品に使用できるという適切な洞察に基づく。これらの元素組成を有する装置部品は、純粋なフェライト微細構造を有する。
【0028】
そのようなフェライト鋼自体は、米国特許第3807991号(Gregory)に記載されている。ここで、耐食性結果は、ASTMA262-70に従って硫酸第二鉄-50%硫酸への曝露によって測定されるものとして与えられる。しかしながら、米国特許出願公開第2018/195158号(A1)段落[0027]に記載されているように、127℃で実施される硫酸第二鉄-硫酸試験溶液を用いたStreicher試験などの、従来使用されている腐食試験からの結果は、尿素プラントの特定の装置(ストリッパチューブ)において実際に観察される腐食と相関しない。特に、腐食速度は環境特異的である。更に、酸化剤を含む酸性溶液の陰分極曲線は、カルバメート溶液中の鋼合金の陰分極曲線とは異なる。
【0029】
本発明者らは、上記の種類のフェライト鋼合金が、アンモニウムカルバメートを有し、それによって不動態化空気を加えないプロセス条件をシミュレートする高圧オートクレーブ内で、優れた耐食性をもたらすことを見出した。結果を以下の実施例1に示し、特に非常に低い不動態腐食速度を実証する。
【0030】
これにより、本発明は、上記のフェライト鋼を尿素プラントの高圧合成セクション、特にストリッパチューブに利用することを可能にする。
【0031】
本発明は、第1の態様において、カルバメート含有液体流を、フェライト鋼合金製の装置部品と接触させる工程を更に含む尿素製造方法に関し、上記合金は、好ましくは、重量%で、
C 最大0.005;好ましくは最大0.0030
Si 0.1~0.4;好ましくは0.1~0.3
Mn 最大0.4;好ましくは最大0.2
P 最大0.020
S 最大0.020
Cu 最大0.25
Ni 最大0.50;好ましくは最大0.20
Cr 20.0~35.0;好ましくは25.0~27.5
Mo 0.75~1.50
N 0.0050~0.0125
Nb 0.060~0.375と、
残部のFeと、不可避に発生する不純物とを含み、Nbの量が、重量%で式:12×(重量%N)<Nb<30×(重量%N)を満たす。
【0032】
したがって、Nbの量は、重量基準で、窒素の量の12~30倍である。
【0033】
C、Si、Mn、Ni及びCrの好ましい範囲は、独立して、及び組み合わせて使用することができる。好ましくは、Nbの量は、式:15×(重量%)N<Nb<25×(重量%N)を満たす。好ましい実施形態では、C、Si、Mn、Ni及びCrは全て、上記の好ましい範囲を有し、より好ましくは、Nbは、式:15×(重量%)N<Nb<25×(重量%N)を更に満たす。低レベルのC及びNは、例えば、真空精製で達成することができる。低レベルのCは、例えば、アルゴン酸素脱炭を使用して得ることができる。更に、例えば、真空中での融解物の電子ビーム精製を使用することができる。N含有量は、できるだけ低いことが望ましい。例えば、50ppm(重量で)のレベルのNが使用される。いくつかの実施形態では、Nは、より低くてもよく、いくつかの実施形態では、鋼合金は、重量で最大125ppmのNを含む。理論に束縛されるものではないが、Nbの存在は、任意のC又はNがCr窒化物又はCr炭化物として沈殿するのを防止するのに役立ち得る。このようにして、粒界での不動態化に利用可能な低いCrを有するゾーンの形成が回避され、粒間腐食が防止される。これは、アンモニウムカルバメート溶液と接触したときに非常に低レベルの不動態腐食速度をもたらす。
【0034】
用語「最大」を使用するとき、当業者は、別の数値が具体的に記載されていない限り範囲の下限は0重量%であることを理解している。そのため、C、Mn、Cu、P、S、及びNiについて、これらが任意選択的な成分であることから、下限は0重量%である。これらの元素は、明確に添加されて、又は最大レベルが規定により制御された汚染物質として、フェライト鋼合金中に存在し得る。
【0035】
列挙された組成を有するフェライト鋼グレードは、米国特許第3807991号(Gregory)に記載されている。
【0036】
本発明によるフェライト鋼において、Crは、耐食性を提供するために20.0~35.0重量%、好ましくは25.0~27.5重量%で使用される。Crは、鋼においてフェライトフォーマーとして作用し得る。
【0037】
Moを0.75~1.50重量%、好ましくは0.75~1.50重量%で使用して、更に改善された耐食性が得られる。Moは、フェライト安定化元素でもある。
【0038】
Siは、製造中の脱酸素添加剤として使用することができる。Siは、フェライト安定化元素でもある。
【0039】
Mnは、最大0.4重量%、好ましくは最大0.2重量%の量の任意選択の元素である。
【0040】
硫黄(S)は、耐食性に悪影響を及ぼし得る。したがって、S含有量は最大でも0.020重量%に制限され、例えば、最大0.010重量%に制限される。
【0041】
リン(P)は一般的な不純物元素である。Pは、約0.020重量%超の量で存在した場合、例えば機械的特性に、悪影響が生じ得る。合金中のPの量は、最大0.020重量%、例えば、最大0.010重量%に制限する必要がある。
【0042】
Cu含有量は低く維持すべきである。したがって、Cuは最大0.25重量%である。
【0043】
鋼合金は、フェライト鋼合金であり、したがって、Niは最大0.50重量%、好ましくは最大0.20重量%である。Niは、オーステナイト形成元素とみなされる。
【0044】
フェライト鋼の残部は、Fe、合計0.50重量%の加工性元素、及び(不可避に発生する)不純物である。不可避の不純物の例は、意図的には添加されていないが、通常、例えばフェライト鋼の製造に使用される材料中に不純物として存在しているために完全に排除することのできない、元素及び化合物である。例えば、スクラップ金属が、鋼のFeの供給源として使用され得る。任意選択的に使用される合計で最大0.50重量%の加工性元素は、加工性のために添加される金属元素である。
【0045】
上記のようなフェライト鋼合金組成に対する選好は、本発明の全ての態様のフェライト鋼に適用される。
【0046】
上記組成を有するフェライト鋼合金がアンモニウムカルバメートに対して高レベルの耐食性を示すことは、フェライト鋼は一般に不適切であると考えられていることから、実に驚くべきことである。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、非常に低いレベルのC及びNiを非常に低レベルのNと組み合わせ、残部をNb及びMoの添加とすることで、オーステナイト形成並びにクロム窒化物及びクロム炭化物を防止する作用があると考える。フェライト/オーステナイト二相鋼において、ニッケルは、アンモニウムカルバメート環境での耐食性を確保する上で重要な役割を果たすことが知られている。
【0047】
本出願において、「フェライト鋼合金」という用語は、フェライト鋼合金は純粋なフェライト微細構造を有するのに対し、二相ステンレス鋼は純粋なフェライト微細構造を有しないという点で、「フェライト-オーステナイト二相ステンレス鋼」とは区別して使用される。
【0048】
本発明はまた、尿素プラントにおいて尿素を製造するための方法、及びそのような尿素プラントにも関する。尿素プラントは、反応器を備える高圧合成セクションを含む。本方法は、NH供給物とCO供給物とを反応器内において尿素形成条件下で反応させて、尿素と、水と、カルバメートと、アンモニアとを含む尿素合成溶液を形成する工程を含み、当該方法は、カルバメート含有液体流を、上記組成のフェライト鋼合金で作製された上記高圧合成セクションの装置部品と接触させる工程を(更に)含む。いくつかの実施形態では、上記接触させる工程と上記反応させる工程とは、1つの同じステップであり、反応器は、上記装置部品を含む。したがって、尿素製造方法は、NH供給物とCO供給物とを反応器内において尿素形成条件下で反応させて、尿素合成溶液を形成する工程を含み、カルバメート含有液体流を装置部品と接触させる工程を伴い、上記装置部品は上記高圧合成セクションに含まれ、上記装置部品は、フェライト鋼合金、好ましくは上記組成を有するフェライト鋼合金、より好ましくは本明細書に記載の好ましい合金組成1~3を有するフェライト鋼合金で作製されている。装置部品は、特に、純粋なフェライト微細構造を有する。上記液体流のカルバメート成分は、上記反応器内の上記尿素形成反応から発生する。
【0049】
カルバメート含有液体流は、例えば、カルバメート又はカルバメート再循環流も含有する尿素合成溶液である。カルバメート含有液体流は、例えば、15重量%~95重量%のカルバメート、例えば45重量%~95重量%のカルバメートを含み、例えば10重量%以上、及び/又は50重量%未満の尿素と、例えば1重量%超、及び/又は20重量%未満の量の水とを更に含み得る。カルバメート含有液体流は、例えば180℃、例えば200℃超である。カルバメート含有液体流は、例えば、カルバメートの溶液であり、例えば、水が溶媒である。
【0050】
本方法は、例えば、尿素合成溶液からカルバメートを分解して、NHとCOとを含むガス流を得る工程、及び上記ガス流を凝縮して、カルバメートと、典型的には水とを含む液体流を得る工程を含み、上記液体流は尿素合成セクションへ再循環される。分解は、例えば、中圧及び/又は低圧で実施され、例えば合成セクションの一部である高圧ストリッパにおいても実施される。
【0051】
好ましい実施形態では、高圧合成セクションは、ストリッパを含み、プロセスは、尿素合成溶液を当該ストリッパ内でストリッピングステップに供することを含む。好ましくは、ストリッパの設計とは無関係に、ストリッピングステップは、尿素合成溶液を高圧で加熱することと、同時に当該溶液をガス流と向流接触させることを含み、上記ガス流はNH及び/又はCOについて、より低い分圧を有する。ガス流は、例えばNH供給物、CO供給物であるか、又は尿素合成溶液の下流蒸発によって得られる。ストリッピングステップは、液相におけるアンモニウムカルバメートのNHとCOへの分解、並びにNH及びCOの液相から気相への移動の促進に関与する。溶液は、通常、ストリッピング中に壁面上に供給される(この壁は熱伝達に使用され、例えば管壁である)。好ましくは、少なくともこの壁部分は、上記のフェライト鋼で作製される。好ましくは、溶液は、ストリッピング中に、より好ましくはストリッパチューブ内に、流下液膜として提供される。原則として、任意の種類の加熱を使用でき、例えば蒸気などの加熱媒体を用いることができる。
【0052】
好ましくは、ストリッパは、チューブを備えるシェルアンドチューブ熱交換器である。好ましくは、ストリッパチューブは、上記のフェライト鋼合金で作製されている。より好ましくは、チューブのうち、少なくともチューブの内面を形成する部分は、上記のフェライト鋼合金で作製されている。好ましくは、本方法は、カルバメートを含む尿素溶液をストリッパチューブに通し、それによって当該溶液を上記フェライト鋼合金で作製されたストリッパチューブの部品と接触させる工程、及び好ましくは蒸気などの加熱媒体を供給することによってチューブを加熱する工程を含む。いくつかの実施形態では、チューブは全体がフェライト鋼合金で作製されている。いくつかの実施形態では、動作中にカルバメートと接触する内面を提供する部分は、上記のフェライト鋼で作製されている。
【0053】
好ましくは、プロセスは、縦型の流下液膜式シェルアンドチューブ熱交換器としてストリッパを動作することを含み、チューブ内に尿素溶液(カルバメートも含む)の流下液膜を維持することを伴う。好ましくは、本方法は、チューブの底部にストリップガスを供給することを含む。好ましくは、ストリップガスはCO供給物である。好ましくは、尿素製造のためのCO供給物の少なくとも50重量%、又は少なくとも75重量%、又は更には少なくとも90重量%が、ストリップガスとしてストリッパに供給される。あるいは、NHをストリップガスとして使用することができる。いくつかの実施形態では、当技術分野において周知のように、セルフストリッピングも使用できる。セルフストリッピングの場合、NHのCOに対するモル比(N/C比;理論的初期混合物に基づく)は、少なくとも3.2、典型的には3.2~3.4が反応器内で使用され、過剰のNHは、合成溶液を加熱することによって、ストリップガスとして使用される。セルフストリッピング及びアンモニアストリッピングでは、一般に、COストリッピングよりも高い温度が使用されることから、カルバメートの腐食作用が更に深刻になる。したがって、セルフストリッピング及びアンモニアストリッピングに対して本発明は特に有利である。
【0054】
ストリッピングプロセスは、典型的には、ストリッパチューブ内におけるストリップガスとカルバメートを含む尿素溶液との間の向流接触、特に尿素溶液の流下液膜とガスの上昇流との向流接触を伴う。ストリッパは通常、シェルアンドチューブ熱交換器であり、好ましくは、上部の溶液入口とガス出口、及び底部のストリッピングされた溶液の出口を有し、COストリッピング及びアンモニアストリッピングの場合、底部にストリップガスの入口を有する(これらの入口及び出口はすべてチューブ側にある)。好ましくは、シェル側蒸気は、凝縮物の出口よりも高く配設された入口から供給され、チューブ内の尿素溶液と並流する蒸気の流れを提供する。加熱を含むストリッピングステップでは、尿素溶液中のカルバメートの少なくとも一部が分解されてCOとNHとを生じ、これがストリッピングにより除去され、ストリッパからの混合ガスはHPカルバメート凝縮器に供給され、そこでカルバメートへと凝縮される。HPカルバメート凝縮器からのカルバメートは、反応器へと再循環される。任意選択的に、凝縮器と反応器とは、1つの容器、例えばプール反応器に組み合わされる。既にいくらかの尿素がHPカルバメート凝縮器内に形成している場合がある。HPカルバメート凝縮器は、例えばシェルアンドチューブ熱交換器であり、例えば水平凝縮器であり、例えばチューブ内の冷却流体を受け入れ、ガスがシェル側で凝縮されるように構成されている。
【0055】
カルバメートの分解は吸熱反応であることから、ストリッピングは尿素溶液の加熱を伴う。好ましい実施形態では、ストリッパチューブの少なくとも一部の温度は、200℃超、又は更には少なくとも205℃であり、特にこの部品に上記のフェライト鋼合金を使用することができる。上記の温度は、例えば、チューブの内面における表面温度である。原則として、任意の種類の加熱を使用することができる。
【0056】
一実施形態では、ストリッピングは、セルフストリッピングに基づくものであり、少なくとも200℃、好ましくはストリッパ底部の温度として200~210℃の範囲の温度で実施される。このような温度は、セルフストリッピングに典型的である。従来の見解では、このような高温において、ステンレス鋼は、腐食の観点からストリッパの構成材料として好適ではなく、代わりにチタンなどの材料が使用される(Ullmann’sEncyclopedia,Urea,2010)。驚くべきことに、上記のフェライト鋼合金は、このような温度で動作するストリッパのチューブに、例えば、セルフストリッピング原理に従って使用できることが見出された。
【0057】
理論に束縛されるものではないが、上記のフェライト鋼合金で作製された装置部品は、動作中に酸化クロムの不動態化層を有する。理論に束縛されるものではないが、不動態化層は、例えば、製造中又は装置の設置中に形成され得る。例えば、不動態化層は、空気及び水蒸気との接触時に自然に生成する。
【0058】
好ましい実施形態では、CO供給物に含まれる酸素画分は、不動態化空気がCO供給物に添加されていない場合でも、装置部品の寿命を通して不動態化層を維持するために有利に使用される。CO供給物は、例えば、合成ガス製造プロセスから得てもよい。合成ガス製造プロセスは、例えば、Hを提供する場合があり、これがアンモニアプラントでNと反応してNHとなり、生成したNHは、少なくとも一部が尿素合成のための供給物として使用される。合成ガス製造プロセスは、例えば、下流の水性ガスシフト反応を用いた水蒸気メタン改質、又は炭化水素をCOとHとを含む反応混合物に変換する別のプロセスを含む。水蒸気改質は、使用される場合、例えば、一次改質を下流の二次改質と共に含む。二次改質は、例えば、酸素が添加された自己熱改質を伴う。一般に、反応混合物は、いくらかのOも含む。COは、例えば、吸収媒体への吸収と脱着とを使用して、反応混合物から分離される。分離された流れ、例えば、脱着されたガス流は、COに加えてOを含有し得る。好ましい実施形態では、Oのレベルは、特定の最小レベルより高く制御される。
【0059】
例えば、合成セクションにおける酸素の濃度は、合成セクションにおける全プロセス流体に対して、重量で5ppm未満、3ppm未満、1ppm未満、0.50ppm未満、又は0.10ppm未満である。合成セクションにおける酸素の濃度は、例えば、合成セクションにおける全プロセス流体に対して重量で10ppb超である。
【0060】
好ましくは、不動態化空気は合成セクションに添加されない。
【0061】
したがって、好ましい実施形態では、尿素製造プロセスは、COとOとを含む第1のガス流からCOを分離することによって上記CO供給物を得る工程を更に含み、尿素プラントの高圧合成セクションに存在する酸素の量は、少なくとも50モル%又は少なくとも90モル%が当該第1のガス流に由来する。第1のガス流は、例えば、考察されるような水蒸気メタン改質を含む合成ガス製造プロセスからの反応混合物からのガス流である。尿素プラントのHP合成セクション中に存在する酸素の少なくとも50モル%、又は少なくとも90モル%が第1のガス流に由来するという特徴は、大量の酸素又は空気がCO供給物に添加されないか、又はHP合成セクションに導入されないことを示す。このようにして、有利には、上流プロセス(例えば合成ガス製造におけるCO製造)から既に存在する酸素が、構成要素、特にストリッパチューブのフェライト鋼を不動態化状態に維持するために使用される。
【0062】
ストリッピングされた尿素溶液は、例えば中圧又は低圧の回収セクションに供給され、そこで更にカルバメートが分解され、アンモニアが分解器内で除去されて、精製された尿素溶液及びガス流が得られ、これが凝縮器内で凝縮されてカルバメート溶液が得られる。カルバメート溶液は、ポンプで高圧合成セクションに戻される。精製された尿素溶液は、例えば、水を除去して尿素融解物を得るために真空蒸発器を含む蒸発セクションに供給される。蒸発器からの水蒸気は、典型的には凝縮され、凝縮物は、典型的には、尿素加水分解ユニットと脱着装置とを含む廃水処理セクションに供給されて、浄化廃水と、尿素合成セクションへと再循環できるCO及びNHを含む流れとを生じる。蒸発セクションからの尿素融解物は、例えば、仕上げセクションに供給され、当該セクションで固化されて、例えば、造粒又は噴射造粒により固体尿素生成物となる。精製された尿素溶液はまた、適切に希釈した後に、例えば、DEF(ディーゼル排気流体)を、例えば、純度レベルを設定し、特に最大金属含有量を規定するISOI 22241-4:2009に従って作製するために使用できる。DEFは、金属含有量が非常に低くなければならない。他の種類の液体及び固体尿素生成物にとっても、金属含有量が低いことが望ましい。腐食はプロセス流に金属イオンを導入し得ることから、低い金属含有量を達成するためには低い腐食レベルが重要である。
【0063】
本発明は更に、高圧ストリッパに関する。
【0064】
図1は、かかる高圧ストリッパの非限定的な例の概略図である。ストリッパ(1)は、尿素プラント用のストリッパであり、シェルアンドチューブ熱交換器であり、チューブ(2)と、シェル(3)と、上部チューブシート(4)と、下部チューブシート(5)とを備える。チューブは、チューブバンドル内に配設されている。実際には、チューブバンドルは、例えば、1000超のチューブ又は2000超のチューブ、3000~5000のチューブ、又は更に多くのチューブを含み得る。ストリッパは、カルバメートを含む尿素溶液(U1)を受け入れるための入口を備えた流下液膜式の縦型シェルアンドチューブ熱交換器であり、又は当該熱交換器として動作するように構成され、上記尿素溶液は、動作中にチューブの上方部分でチューブに受け入れられる。ストリッパは、蒸気(S1)を受け入れるための入口を、シェル(3)とチューブ(2)との間及び2つのチューブシートの間のシェル空間内(6)に更に備える。チューブは、少なくとも、前述のフェライト鋼で作製されていて、動作中にカルバメートも含む当該尿素溶液(U1)と接触する部分を備える。したがって、内管表面の少なくとも一部、好ましくは全てが、上記の元素組成、例えば、好ましい合金組成1~3に従う元素組成を有する上記フェライト鋼によって提供される。
【0065】
したがって、ストリッパは、尿素溶液(U1)の入口と、ストリッピングされた尿素溶液(U2)の出口とを有し、その両方が、チューブと液体連通しており;更に、蒸気(S1A)の入口と、凝縮物及び場合によってはいくらかの蒸気(S1B)の出口とを有し、その両方がシェル空間(6)と流体連通している。出口(S2)は、入口(S1)よりも下方かつ下部チューブシート(5)付近上方に配設される。COストリッパの場合、ストリッパは、ストリップガスとして使用されるCO供給物のチューブ底部への入口(7)を備える。ストリッパは、上部に混合ガスの出口(8)を更に備える。
【0066】
チューブは、蒸気と尿素溶液との間の間接熱交換のための熱交換チューブである。加えて、ストリップガスと尿素溶液との間の向流接触がチューブ内で生じる。
【0067】
上部チューブシート(4)は、好ましくは炭素鋼で作製された耐圧内部部分と、耐食鋼のオーバーレイとを備える。オーバーレイは、上部チューブシート側に設けられる。オーバーレイは、例えば、二相ステンレス鋼で作製される。
【0068】
下部チューブシート(5)は、好ましくは炭素鋼で作製された耐圧内部部分と、耐食鋼のオーバーレイとを備える。オーバーレイは、底部チューブシート側に設けられる。オーバーレイは、例えば、二相ステンレス鋼で作製される。
【0069】
本発明はまた、上記フェライト鋼を含む装置部品を備える高圧セクションを含む尿素プラントに関する。尿素プラントは、例えば、記載されるストリッパを含む。ストリッパは、上記フェライト鋼で作製された部分を含むチューブを備える。
【0070】
例えば、本発明は、反応器と、ストリッパ(好ましくは、記載のような)と、HPカルバメート凝縮器と、任意選択でスクラバーと、を含む高圧セクションを含む尿素プラントに関し、反応器はストリッパの入口に接続された液体出口を有し、ストリッパは液体入口とガス出口とを有し、ストリッパのガス出口は、凝縮器の入口に接続されており、凝縮器は、反応器の入口に接続された液体出口を有し、合成セクションはCO供給物の入口とNH供給物の入口、並びにカルバメート流の入口を有する。反応器は、任意選択でスクラバーの入口に接続されたガス出口を有する。任意選択のスクラバーは、例えば、凝縮器と接続された液体出口を有する。反応器と凝縮器は、任意選択で、単一の容器に組み合わされる。凝縮器は、例えば、U字型のチューブバンドルを備えたシェルアンドチューブ熱交換器である。
【0071】
図2は、かかる尿素の非限定的な例を概略的に示す。高圧セクションは、ストリッパ(好ましくは記載のような)と、高圧カルバメート凝縮器(HPCC)と、反応器(R)と、CO供給物の入口と、NH供給物の入口とを備える。反応器(R)は、ストリッパ(S)の入口に接続された、カルバメートも含有する尿素合成溶液(U1)の出口を有し、ストリッパは、例えばCO供給物の入口を有するCOストリッパである。ストリッパは、混合ガス(SG)の出口と、ストリッピングされた尿素溶液(U2)の出口とを有する。ガス(SG)は、高圧カルバメート凝縮器(HPCC)に供給され、そこでカルバメート溶液(C1)へと凝縮され、反応器(R)に供給される。カルバメート凝縮器は、例えば、NH供給物の入口を有してもよい。ストリッパは、例えばシェルアンドチューブ熱交換器であって、記載されるようなフェライト鋼及び/又は他の種類の鋼を含むチューブを備え、蒸気(S1)などの加熱媒体を使用する。凝縮器では、例えば、蒸気(S2)が上昇される。尿素プラントは、ストリッピングされた尿素溶液(U2)が供給される中圧処理セクション(MPP)を任意選択的に含み、MPPは、例えば、尿素溶液(U3)とガスとを生じる分解器又はフラッシュ容器と、HPセクションに直接又は間接的に再循環されるカルバメート溶液(C2)を生じる上記ガスの凝縮器とを備える。プラントは、更に好ましくは、加熱低圧回収セクション(LPR)を含み、LPRは、(任意選択的に上記中圧処理からの)ストリッピングされた尿素溶液(U2)の入口を有し、加熱(例えば、蒸気(S3)による)を用いて精製された尿素溶液(U4)とガスとを生じる分解器と、HPセクションに直接又は間接的に再循環されるカルバメート溶液(C3)を生じる上記ガスの凝縮器とを備える。プラントは、任意選択的に蒸発セクションを更に含み、当該セクションは、例えば真空蒸発器を備え、精製された尿素溶液(U4)を受け入れて、尿素融解物(UM)と、本質的に水蒸気である蒸気(V1)とを生じる。
【0072】
本発明のストリッパ及び尿素プラントは、好ましくは、本願に記載の尿素製造プロセスを実行するのに好適である。記載の尿素製造プロセスは、好ましくは、記載のストリッパを使用して実行され、好ましくは、記載される尿素プラント内で実行される。尿素製造プロセスの選好は、ストリッパ及び尿素プラントの選好として等しく適用される。特に、フェライト鋼組成の好ましい特徴は、ストリッパ及び尿素プラントに等しく適用される。
【0073】
更に別の実施形態では、本発明の尿素プラント及び/又はプロセスで使用される尿素プラントは、HP合成セクションを含み、当該HP合成セクションは、例えば、反応器と、ストリッパと、HPカルバメート凝縮器と、任意選択でスクラバーと、を含み、HP合成セクションは、上記のフェライト鋼合金で作製された装置部品を備える。装置部品は、好ましくは、高圧カルバメート凝縮器、反応器、又はスクラバーの構成要素又は部品であり、例えば、プール凝縮器又はプール反応器の部品である。好ましくは、装置部品は、HP合成セクションに含まれる凝縮器、プール凝縮器、又はプール反応器の熱交換チューブである。
【0074】
フェライト鋼合金で作製された装置部品は、例えば、高圧制御弁のプラグ、弁棒又は取り外し可能な弁座、高圧逆止弁又はその構成要素、高圧安全弁又はその構成要素である。
【0075】
フェライト鋼合金で作製された装置部品は、例えば、HP合成セクションにおけるバルブのバルブブロックである。
【0076】
フェライト鋼合金で作製された装置部品は、例えば、エジェクタの本体などのエジェクタの部品であり、当該エジェクタは、HP合成セクションに含まれる高圧エジェクタである。HPエジェクタは、例えば、NH供給流ライン、又はカルバメート再循環流ラインに設けられ、例えば、アンモニアで駆動する液-液エジェクタである。
【0077】
フェライト鋼合金で作製された装置部品は、例えば、液体分流器(liquid divider)である。液体分流器は、例えば、ボアホールを備えたフェルール(例えば、シリンダ)であり、このフェルールは、ストリッパのチューブ端部の上方に配置されるように適合されている。液体分流器の更に好ましい特徴は、以下で論じるとおりである。
【0078】
本発明は更に、アンモニウムカルバメート環境におけるフェライト系ステンレス鋼の使用に関し、当該使用は、上記鋼をアンモニウムカルバメートを含む流体に曝露することを含む。上記プロセスに好ましいフェライト鋼は、使用にも好ましい。
【0079】
本明細書で使用するとき、「カルバメート」は、アンモニウムカルバメートを指す。
【0080】
本明細書で使用するとき、HPは、少なくとも100bara、例えば110~160bara、MPは20~60baraであり、LPは4~10baraであり、大気は1~2bara、例えば、1.0~1.8baraであり、及び準大気圧(LLP)は、1.0bara未満、例えば0.2~0.5baraであり、これらの圧力範囲は、プロセス溶液に対するものであり、蒸気及び加熱流体に対しては、必ずしも同じではない。略語「bara」は、絶対圧を意味する。
【0081】
バイメタルチューブ
本発明のなお更なる態様は、バイメタルチューブ及びかかるチューブを含む配置構成(arrangement)、特に、かかるチューブを含む尿素プラントの高圧ストリッパに関する。
【0082】
良好な耐食性、少ないメンテナンス及び長い寿命にとって、ストリッパ内のチューブ-チューブシート接合部はきわめて重要である。
【0083】
ストリッパは、例えば、シェルと、チューブ(典型的には100超のチューブ又は更には1000超のチューブ)を有するチューブバンドルと、上部チューブシート及び下部チューブシートとを備えるシェルアンドチューブ熱交換器である。チューブシートは、典型的には、少なくとも動作中に尿素溶液に曝露される側に、耐食鋼層(典型的にはオーバーレイ溶接によって適用される)を有する耐圧部品としての炭素鋼板である。ストリッパチューブは、チューブシートに穿孔されたボアホールを通して挿入される。各チューブは、溶接によってチューブシートに接合され、特にチューブシート上に適用された耐食溶接されたオーバーレイに接合される。この溶接は次の2つの機能を有することから、溶接は非常に高品質でなければならない:1)チューブシートへのチューブの強力接続、及び2)腐食性のアンモニウムカルバメートが炭素鋼チューブシートと接触するのを防ぐために、ボアホールを完全に封止しなければならない。例えば、チューブ-チューブシート接合部のピンホールなどの溶接不良は、耐圧炭素鋼チューブシートに重度の腐食損傷を引き起こす可能性がある。
【0084】
更に、ストリッパの寿命は、ストリッパチューブの不動態腐食によって制限される。本明細書で使用される場合、不動態腐食は、実際的に、腐食媒体に曝露されたステンレス鋼の腐食速度が0.30mm/年未満であることを指す。
【0085】
本発明者らは、驚くべきことに、特定のフェライト鋼合金が、ストリッパチューブで生じる200℃超の高温でさえ、更には不動態化酸素の添加を使用しなくても、カルバメート溶液に対して高い耐食性を有することを見出した。しかしながら、他のフェライト系ステンレス鋼は、アンモニウムカルバメート中での性能が非常に低い(オーステナイト系ステンレス鋼よりも悪い)。
【0086】
米国特許第4071083号(Droin)は、尿素プラントのCOストリッパのチューブをフェライト鋼で作製でき、チューブシートのクラッド(オーバーレイ)は、18~22%CR、14~18%Ni、1~3%Mo、及び4~6%Mnを有するオーステナイト鋼で作製されると記載している。良好なチューブ-チューブシート接合部を提供するために、チューブにオーステナイト鋼製のフェルール(スリーブ)が設けられ、このフェルールがチューブシートのクラッドに溶接される。フェルールのオーステナイト鋼は、25Cr-22Ni-2Moであり、これは、不動態化空気がCO供給物中に0.6体積%の酸素で使用されることを意味する。米国特許第4071083号は、使用されるフェライト鋼が、ストリッピング条件下でカルバメートによる腐食に耐えると述べているが、これは、高レベルの不動態化空気を想定している。当該文書は、フェルールのみがオーステナイト鋼製の複合管を製造する方が安価であることを教示している。各チューブについて、チューブとフェルールとの間の接合部はチューブシート内に位置し、これは不利である。特に、接合部は、炭素鋼板の深部に位置する。更に、米国特許第4071083号は、尿素溶液がチューブ内にどのように供給されるかを考慮していない。
【0087】
本発明では、ストリッパは、チューブ内に尿素溶液の流下液膜がある状態で動作するように構成されている。
【0088】
そのために、ストリッパチューブの上端に、好ましくは液体分流器(液体分配器とも呼ばれる)が取り付けられており、これは、液体侵入用の穴を有するスリーブ又はフェルールである。液体分流器は、ストリッパチューブのチューブ上端部に配置される。チューブ上端部は、上部チューブシートから突出している。液体分流器は、例えば、上部にガスチューブが設けられている。液体分流器に関する背景技術の参照文献は、米国特許出願公開第2012/0282149号である。
【0089】
例えば、各液体分流器は、管壁に各々直径2~5mmの穴を3~5個有する。良好な液膜形成を確実にするために、穴の正確な直径が重要である。チューブ詰まりを含むメンテナンス及び検査の目的で、液体分流器を取り外せることは不可欠である。したがって、チューブ-チューブシート接合部は、液体分流器又はスリーブを貫通しない。液体分流器は、例えば、ガススタブの端部がその中を通って突き出る穴の空いた薄いシートによって所定の位置に保たれる。このシートは、液体分流器がストリッパの動作中に転倒又は移動するのを防止する。液体分流器は、例えば、ガスケットを使用してチューブ端部上に取り付けられる。
【0090】
したがって、ストリッパ内のチューブにフェライト鋼を使用する場合、チューブ-チューブシート接合部を提供する方法が必要である。
【0091】
したがって、本出願は、一態様において、内管層と外管層とを備えるバイメタルチューブである熱交換器チューブに関し、内管層はフェライト鋼合金で作製され、外管層は二相ステンレス鋼、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金又はオーステナイトステンレス鋼の群から選択される材料で作製されている。
【0092】
外管層には、二相フェライト-オーステナイト系ステンレス鋼合金が好ましい。好ましくは、内管層は、本明細書に記載のフェライト鋼合金で作製される。好ましくは、内管層と外管層とは、互いに冶金的結合を有する。
【0093】
このようにして、管とチューブシートとの接合部は、外管とチューブシートのオーバーレイとの間を溶接することによって形成できる。これは、2種の類似の鋼の溶接(例えば、溶接しようとする部分が両方とも二相ステンレス鋼製)を伴い得る。これにより、信頼性の高い溶接が可能になる。具体的には、フェライト鋼をオーステナイト鋼又は二相ステンレス鋼と溶接することによるフェライト鋼へのN及びCの拡散と、その結果生じ得る腐食リスクの増加が回避される。
【0094】
内管層と外管層とは、互いに冶金的結合を有する。この結合はチューブ内部内側であり、したがって尿素溶液に曝露されない。チューブは、例えば、2~4mmの総壁厚を有し、各管層は、例えば1~3mmの厚さを有する。内管層と外管層とは互いに同心である。
【0095】
バイメタルチューブは、例えば、バイメタルチューブについて知られている方法で製造することができる。他の製造方法も可能である。
【0096】
一実施形態では、バイメタルチューブは、2種の異なる合金を管状に共押出しして、任意選択的にピルガー加工することで製造される。例えば、フェライト鋼スリーブをチューブに挿入し、スリーブとチューブとを、例えば、空引き(sink drawing)により一緒に引き抜く。
【0097】
2種の合金は、例えば、ビレットの形態である。一実施形態では、バイメタルチューブの製造は、第2のビレット内に取り付けられたフェライト鋼ビレットの熱間押出を伴い、第2のビレットは、例えば、オーステナイト鋼又は二相鋼である。押出されたピースは、例えば、冷間ピルガー加工され、最終直径及び壁厚を得る。
【0098】
更なる態様では、本発明は、少なくとも1つの鋼製チューブと少なくとも1つのホルダー要素とを含む設備(例えば、配置構成)であって、ホルダー要素が二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造を有する鋼を含む、設備に関する。鋼製チューブは、ホルダー要素を貫通し、チューブの外面上及びホルダー要素上に設けられた溶接接合部によってホルダー要素に取り付けられている。鋼製チューブは、純粋なフェライト微細構造を有する内管部分と、二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造を有する外管部分とを備える複合管である。
【0099】
その結果、二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造が純粋なフェライト微細構造よりも溶接性に優れるという事実により、チューブがフェライト微細構造のみを有する場合には必要となる溶接領域におけるチューブの後熱処理を必要とすることなく、強力かつ信頼性の高い溶接接合が達成できる。
【0100】
一実施形態によると、設備は、チューブ内に腐食性媒体を導入するための手段と、チューブを外側から加熱するための手段とを備える。一実施形態では、内管部分は、腐食媒体に対する第1の耐食性を有するフェライト鋼を含み、外管部分は、同じ腐食性媒体に第2の耐食性を有する二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト鋼を含み、チューブを外側から加熱するための手段によって引き起こされる高温(180~230℃の範囲など)において、フェライト鋼の第1の耐食性は第2の耐食性よりも高い。チューブに腐食性媒体を導入するための手段は、例えば、入口である。チューブを外側から加熱するための手段は、例えば、チューブバンドル内に配設されたチューブを包囲するシェルであり、シェルは、蒸気の入口と、蒸気及び/又は凝縮物の出口とを有する。
【0101】
例えば、腐食性媒体は、チューブを外部から加熱するための手段によって引き起こされる高温において、フェライト鋼が、上記二相オーステナイト-フェライト微細構造又は純粋なオーステナイト微細構造よりも高い耐食性を有する媒体である。
【0102】
好ましくは、フェライト材料は、尿素プラント中に存在するようなアンモニアカルバメート環境において卓越した腐食特性(外管部分の鋼の腐食特性よりも優れる)を有する。フェライト材料は、より低い酸素圧(プロセスへの空気添加なしでも)及び高温において、外管部分の鋼グレードで測定される腐食速度よりも低い腐食速度で使用できる。
【0103】
更に別の実施形態によると、腐食性媒体は、水と、尿素と、アンモニウムカルバメートとの混合物を含む。
【0104】
一実施形態によると、外管部分は、25%超のクロム、4~9%のNi、1~5%のMo、及び低不純物レベルを有する二相ステンレス鋼、例えばUNS S32906からなる。オーステナイト系ステンレス鋼、例えばUNS S31050も使用できる。
【0105】
本発明による設備の例を、ストリッパによる実施形態で、図3に示す。
【0106】
ストリッパの機能は、腐食性中間アンモニウムカルバメートから尿素を分離することである。ストリッパに入るプロセス流体は、水と、尿素と、アンモニウムカルバメートとの混合物である。ストリッパは、各熱交換器チューブ上に1つのフェルールを備えた縦型管板式熱交換器である。フェルールは、各チューブに入る流体の流量及び分配を制御する。通常動作中、熱交換器チューブの内面に液膜が形成される。ストリッピングは、熱によって行われ、ストリッピングガス(例えば、CO)によって補助される。カルバメート溶液が加熱されると、カルバメートは、気相においてアンモニアと二酸化炭素とに分解される。水と尿素は、液体としてストリッパの底部を(底部チャンバから)出て、プロセスガスは、ストリッパの上部から、特に上部チャンバから、出る。
【0107】
好ましい実施形態では、設備、好ましくはストリッパは、ホルダー要素(例えば、チューブシート)を貫通するチューブを備える。外管と同じ材料(例えば、S32906鋼)で作製された液体分配器は、チューブ端部の上方に配置されたボアホールを有するシリンダからなる。ボアホールは、プロセス流体(尿素及びアンモニウムカルバメートを含有する水性流)がチューブに入ることができるようにする。
【0108】
図3は、チューブ(2)(チューブシート(4)として図示されている)がホルダー要素を貫通し、突出するチューブ端部(16)を有する、本発明の設備、特にストリッパを示す。チューブ(2)は、外管部分(11)と内管部分(12)とを含む複合管である。液体分配器(9)は、例えば、外管部分(11)と同じ材料(例えば、UNS S32906)で作製され、例えば、ボアホール(10)を有するシリンダからなる。液体分配器(9)は、チューブ端部(16)の上方に配置される。ボアホールは、プロセス流体(尿素及びアンモニウムカルバメートを含有する水性流)がチューブに入り、ストリッピング中に内管部分(12)と接触できるようにする。内管部分(12)は純粋なフェライト微細構造を有し、フェライト鋼、好ましくは本願に記載のフェライト鋼合金で作製されている。ストリッパの動作中、上部チャンバ(17)内の尿素溶液の液体レベル(13)は、ボアホール(10)よりも上方に維持される。上部チャンバ(17)は、尿素溶液の入口(18)を備える。チャンバ(17)内には、外管部分(11)、特にその突出端部と、上部チューブシート(4)のオーバーレイ(20)との間に溶接(19)も設けられている。
【0109】
任意選択で、ガスチューブ(14)が液体分配器(9)に取り付けられている。ガスチューブは、設備の動作中に液体レベル(13)よりも上方に配設されるガス用の出口(15)を有する。
【0110】
この実施形態の利点は、外管材料が、特に底部チャンバ及び上部チャンバで生じる(比較的低い)温度において、アンモニウムカルバメート含有環境での良好な耐食性を有することである。したがって、内管と外管を接続するために特定の措置を講じる必要はなく、例えば、オメガ結合接続は必要ではない。同じ利点は、外管材料がオーステナイト鋼又はオーステナイト系-フェライト系ステンレス鋼を含むプロセス、ストリッパ、及びプラントの実施形態に当てはまる。
【0111】
製造方法
更に別の態様では、本発明は、バイメタルチューブ構成要素、特に熱交換チューブの製造方法に関する。
【0112】
本発明者らは、驚くべきことに、特定のフェライト鋼合金が、200℃超の高温(例えば、205~220℃の範囲)でさえ、更には(本質的に)酸素を含まないカルバメート溶液中でも、カルバメート溶液に対して高い耐食性を有することを見出した。
【0113】
しかしながら、そのようなフェライト鋼合金を含む又はフェライト鋼合金からなる装置部品を尿素プラントで使用するには、装置部品を、尿素プラントのユニット及びセクションの他の部品と接合しなければならない。典型的に、溶接は、鋼製部品を接合するために使用される。しかしながら、耐腐食性に影響を与えない高品質溶接を達成することは、フェライト系ステンレス鋼、特にフェライト系ステンレス鋼のオーステナイト鋼又は二相ステンレス鋼への溶接にとって、困難である。より高いN又はC含有量を有するオーステナイト鋼又は二相ステンレス鋼にフェライト鋼を溶接する場合、フェライト鋼にN及びCが拡散するリスクがあり、これは、腐食リスクの増加を引き起こし得る。
【0114】
したがって、より良好に接合できる、特に、オーステナイト鋼及び二相ステンレス鋼などの他の種類の鋼で作製された装置部品により良好に接合できる、フェライト鋼合金を含む尿素プラントの装置部品が必要とされている。
【0115】
本発明は、一態様において、構成要素、好ましくは尿素プラント用の構成要素を製造する方法に関し、当該構成要素は、互いに冶金的結合を有する第1の部品と第2の部品とを含み、第1の部品はフェライト系ステンレス鋼で作製されており、第2の部品は、例えば第1の部品とは異なる種類の鋼で作製されており、例えば、第2の部品は、オーステナイト又は二相ステンレス鋼で作製されており、当該方法は、
i)製造しようとする物体の形状を画定する金型を用意することと、
ii)金型のうちの上記第1の部品に対応する部分に、フェライト系ステンレス鋼合金粉末である第1のステンレス鋼合金粉末を充填することと、
iii)金型のうちの上記第2の部品に対応する部分に、上記第1のステンレス鋼合金粉末とは異なる元素組成を有する第2のステンレス鋼合金粉末を充填することと、
iv)上記第1及び第2のステンレス鋼合金粉末を充填した上記金型に熱間等方圧プレス(HIP)を施し、圧密化された物体を得ることと、を含む。
【0116】
例えば、HIPは、粉末の粒子が互いに冶金学的に結合して物体を形成するように、充填した金型を、所定の温度及び所定の圧力に所定の時間にわたって供することを含む。温度は、合金の融点未満であり、例えば、500℃超又は900℃超である。圧力は、例えば、500バール超又は900バール超である。時間は、例えば、少なくとも30分又は少なくとも60分である。圧力は、等方圧流体圧力、特に等方圧ガス圧力として適用される。金型は、例えば、コンテナである。コンテナは、例えば、HIP段階中に圧力炉内に置かれ、例えば、アルゴンが炉内の圧力ガスとして使用される。コンテナ材料は、例えば、HIP温度で可鍛性である。コンテナは、例えば、HIP圧力で防漏性である。
【0117】
充填ステップは、例えば、金型から空気を除去するために真空を適用するステップを含む。充填ステップは、例えば、金型又はコンテナを閉鎖及び封止するステップを含む。
【0118】
米国特許出願公開第2018/0304224号は、フェライト-オーステナイト鋼合金の熱間等方圧プレス(HIP)によって作製された物体を記載している。本発明の一実施形態では、本製造方法で使用されるHIPは、米国特許出願公開第2018/0304224号で使用されているものと同様である。
【0119】
鋼合金粉末は、例えば、高温合金の噴霧によって得られる。粉末は、例えば、D50が80~130μmの範囲の粒径分布を有する粒子からなる。
【0120】
好ましくは、方法は、圧密化された物体を金型から外すこと、又は物体から金型を取り除くことを更に含む。この方法は、任意選択で、圧密化された物体を、例えばその中に穴を形成するために、機械加工又は穿孔することを更に含む。圧密化された物体はまた、更なる機械加工又は穿孔を必要とすることなく、構成要素を直接提供することもできる。
【0121】
製造された構成要素が尿素プラントの一部分である実施形態では、第1の部品は、動作中に、例えばカルバメート含有溶液に曝露される表面を含む。有利には、第2の部品は、溶接、例えば第2の構成要素への溶接に使用され得る。第2の構成要素は、溶接点において、例えば、オーステナイト鋼又は二相鋼で作製されている。例えば、第2の構成要素と第2の部品とは、同じ種類の鋼で作製される。第2の部品は、例えば、構成要素の外面を含む。
【0122】
構成要素は、例えば、第1の部品が内管層であり、第2の部品が外管層である、バイメタルチューブストリッパチューブである。
【0123】
好ましくは、第1の部品は、本明細書に記載のフェライト鋼合金で作製され、例えば、本明細書に記載の好ましい合金組成1~3に従う。
【0124】
本発明はまた、冶金的に結合された第1の部品と第2の部品とを含む構成要素、特に尿素プラントの構成要素に関し、第1の部品は、フェライト鋼、好ましくは上記フェライト鋼で作製され、第2の部品は、例えば、オーステナイト鋼又は二相ステンレス鋼で作製されている。構成要素は、例えば、記載のようなストリッパチューブである。本発明はまた、そのようなストリッパチューブを含むストリッパに関する。ストリッパは、例えば、記載のような流下液膜構成を有するシェルアンドチューブ熱交換器である。構成要素は、例えば、記載のようなHIP法によって得ることができる。第2の部品は、例えば、等方性微細構造を有する二相ステンレス鋼で作製される。
【実施例
【0125】
本開示を、以下の非限定例により更に例示する。
【0126】
実施例1
いくつかのグレードのフェライト系ステンレス鋼(FSS)について、酸素を含まないアンモニウムカルバメート中で腐食試験を実施した。二相ステンレス鋼グレード(DSS-01)及びオーステナイト系ステンレス鋼グレード(ASS-05)を参照として、性能を比較する。腐食試験は、不動態化空気なし(ゼロ酸素)で、濃縮アンモニウムカルバメートを収容した210℃の高圧オートクレーブ内で実施した。組成(重量%、残部Fe)及び結果を、表1に示す。50ppm超のNb、50ppm未満のC、及び125ppm未満のNを含有するフェライト鋼FSS-90は、参照二相ステンレス鋼の腐食速度よりも低い腐食速度をもたらした。上記腐食試験において、フェライト鋼FSS-90の不動態腐食の腐食速度が0.11mm/年であり、参照DSS-01(0.22mm/年)と比較して非常に低いことは、既存のストリッパ及びストリッパチューブの耐用年数が15~18年であるのに対し、上記FSS-90を含有するストリッパの耐用年数が、不動態化空気を使用しなくても20年を超えることを意味する。
【0127】
【表1】
図1
図2
図3
【国際調査報告】