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特表2022-539600改変されたESCHERICHIA COLI株NISSLE及び胃腸障害の処置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-12
(54)【発明の名称】改変されたESCHERICHIA COLI株NISSLE及び胃腸障害の処置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220905BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220905BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220905BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220905BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220905BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220905BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220905BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
A61K35/74 A
A61P1/00
A61P1/04
A61P31/04
C12N15/31
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500706
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(85)【翻訳文提出日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2020069124
(87)【国際公開番号】W WO2021005059
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】19184867.0
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ
(71)【出願人】
【識別番号】521313636
【氏名又は名称】エコール・ナショナル・ヴェテリネール・ドゥ・トゥールーズ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE VETERINAIRE DE TOULOUSE
(71)【出願人】
【識別番号】505129079
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシュ・プール・ラグリキュルテュール,ラリマンタシオン・エ・ランヴィロンヌマン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE RECHERCHE POUR L’AGRICULTURE,L’ALIMENTATION ET L’ENVIRONNEMENT
(71)【出願人】
【識別番号】515034781
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニヴェルシテール・ドゥ・トゥールーズ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE TOULOUSE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】オズワルド,エリク
(72)【発明者】
【氏名】ヌゲレド,ジャン-フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】マシップ,クレマンス
(72)【発明者】
【氏名】マルティン,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】ブランチュ,プリシラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC34
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA68
4C087ZB32
(57)【要約】
本発明は、改変されたEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)及び胃腸障害を処置するためのその使用の分野に関する。本発明は、Escherichia coli株Nissle 1917(EcN)のプロバイオティックス特性に関係するメカニズムの研究に基づいている。本研究により、本発明者等は、遺伝毒性物質であるコリバクチンを活性化する酵素であるEcN ClbPタンパク質もプロバイオティックスEcNのシデロフォア-ミクロシン活性に必要であるが、興味深いことに、プレコリバクチンを開裂させて、活性なコリバクチンを形成するその酵素ドメインは必要でないことを実証することにより、EcNのプロバイオティックス活性をその遺伝毒性活性から切り離すことが可能となった。さらに、本発明者らは、細菌性病原体に感染させたin vivo動物モデルにおいて、ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質をコードするclbP遺伝子を有するEcN改変株の投与には遺伝毒性がなく(コリバクチンを産生せず)、細菌アンタゴニスト活性を維持し、シデロフォア-ミクロシン産生を維持することにより、病原体のコロニー形成及び毒性が低下することを実証する。このように、本研究は、EcNの安全な使用の道を開き、したがって、本発明は、ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質をコードする遺伝子を有するEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌並びに薬物として、とりわけ、胃腸疾患の処置に使用するためのその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質をコードする遺伝子を有するEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌であって、
ここで、配列番号:3のアミノ酸配列を有するClbPタンパク質のペプチダーゼドメインは、遺伝毒性物質であるコリバクチンの活性化に関与し、
前記EcN細菌は、(i)抗菌活性を有する能力を有し、(ii)遺伝毒性物質であるコリバクチンを活性化する能力を欠いている、
EcN細菌。
【請求項2】
ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質が、
S95の位置で突然変異したClbPタンパク質、
K98の位置で突然変異したClbPタンパク質、
Y186の位置で突然変異したClbPタンパク質、
ペプチダーゼドメインを有さないClbPタンパク質
からなるリストより選択される、請求項1記載のEcN細菌。
【請求項3】
S95の位置で突然変異したClbPタンパク質が、好ましくは、セリンと同等の極性アミノ酸及び非荷電アミノ酸により置換されていない、請求項2記載のEcN細菌。
【請求項4】
K98の位置で突然変異したClbPタンパク質が、好ましくは、リシンと同等の正に荷電したアミノ酸で置換されていない、請求項2記載のEcN細菌。
【請求項5】
Y186の位置で突然変異したClbPタンパク質が、好ましくは、チロシンの疎水性側鎖と同等のアミノ酸で置換されていない、請求項2記載のEcN細菌。
【請求項6】
ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質が、
ClbP S95A突然変異体(配列番号:4)、
ClbP K98T突然変異体(配列番号:6)、
ClbP S95R突然変異体(配列番号:8)、
ClbP Y186G突然変異体(配列番号:10)、
PhoAのアルカリホスファターゼ酵素ドメインにより置換されたペプチダーゼドメインを有するClbPタンパク質(配列番号:11)
からなるリストより選択される、請求項2~5のいずれか一項記載のEcN細菌。
【請求項7】
薬剤として使用するための、請求項1~6のいずれか一項記載のEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌。
【請求項8】
プロバイオティックスとして使用するための、請求項7記載の使用のためのEcN細菌。
【請求項9】
胃腸疾患の処置に使用するための、請求項1~6のいずれか一項記載のEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌。
【請求項10】
胃腸疾患が、細菌性胃腸感染症、腸炎症性疾患及び内臓痛からなるリストより選択される、請求項9記載の使用のためのEcN細菌。
【請求項11】
細菌性胃腸感染症が、Salmonella enterica serovar EnteritidisもしくはTyphimurium感染症又は腸管出血性E. coli感染症である、請求項10記載の使用のためのEcN細菌。
【請求項12】
腸炎症性疾患が、炎症性腸疾患(IBD)又は過敏性腸症候群(IBS)である、請求項10記載の使用のためのEcN細菌。
【請求項13】
炎症性腸疾患(IBD)が、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、グルテン過敏症及び嚢炎からなるリストより選択される、請求項12記載の使用のためのEcN細菌。
【請求項14】
内臓痛が、炎症性腸疾患(IBD)又は過敏性腸症候群(IBS)に関連する疼痛である、請求項10記載の使用のためのEcN細菌。
【請求項15】
胃腸疾患の対象における胃腸疾患を処置するための方法であって、
治療上有効量の請求項1~6のいずれか一項記載のEcN細菌を前記対象に投与することを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的には、改変されたEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)及び胃腸障害を処置するためのその使用の分野に関する。
【0002】
発明の背景
プロバイオティックスEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)は、重篤な下痢の集団発生に抵抗性を示した兵士において、Alfred Nissleにより第一次世界大戦中に単離された(1、2)。EcNは、最初に、細菌性胃腸感染症と闘うその能力について研究された。Salmonella enterica serovar Typhimurium(S. Typhimurium)による腸内コロニー形成を阻害し(3、4)、腸管出血性E. coli株に対して抗菌活性を示す(5)ことが実証された。EcNは、ヒト腸管の優れた生着菌であり、種々の腸管機能障害、例えば、乳幼児における急性下痢(6)、慢性便秘(7)及び過敏性腸症候群を有する患者における腹痛(8)に有益な効果を示す。EcNは、炎症性腸疾患の処置に広く使用されており(1)、小児及び成人の潰瘍性大腸炎の寛解維持のためのゴールドスタンダードであるメサラジンと同等の有効性があることが証明されている(9)。
【0003】
EcNプロバイオティックス活性は、他の細菌に対する抗菌活性を含む複数の特定の特性と適応度決定因子に基づくと考えられている(10)。シデロフォア(エンテロバクチン、サルモケリン、エルシニアバクチン及びアエロバクチン)及び複数のシデロフォアレセプター並びに鉄輸送系の広範なリストのために、EcNは、鉄について競合することにより、S. Typhimuriumの腸内コロニー形成を減少させる(3)。エンテロバクチン、サルモケリン及びエルシニアバクチンは、非リボソームペプチド(NRP)又はポリケチド(PK)-NRPハイブリッドであり、これらは、同族ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPTase)により活性化されるNRPシンターゼ及びPKシンターゼ(NRPS及びPKS)により合成される。制限栄養素についてのこの競合に加えて、EcNは、2つのミクロシン(Mcc)、H47(MccH47)及びM(MccM)の産生に関連する直接的な抗菌活性を示す(4、11~13)。Mccは、リボソームにより合成され、翻訳後修飾され、系統発生的に関連した細菌に対して強力な殺菌活性を示す分泌型低分子量ペプチドである(14、15)。MccH47及びMccMは、「シデロフォア-Mcc」と呼ばれる。カテコールシデロフォアの結合により翻訳後修飾されるためである(13、16)。MccペプチドのC末端は、エンテロバクチンの線状化され、グリコシル化誘導体と共有結合している(13、16、17)。このシデロフォア部分は、ターゲット細菌のカテコラートシデロフォアレセプターにより認識される(12,16)。したがって、シデロフォア-Mccを、鉄-シデロフォア複合体を模倣することによる「トロイの木馬」戦略により感受性細菌に導入し、殺傷することができる。
【0004】
比較ゲノム分析により、EcNは、病原性E. coli株、例えば、尿路病原性株CFT073と密接に関連していることが示されている(18~20)。EcN及びCFT073は、遺伝毒性物質であるコリバクチンを合成するNRPS-PKSアセンブリ系統をコードするPKS/clbアイランドを含む8つのゲノムアイランドを共有している(21、22)。コリバクチンは、プロドラッグ部分として産生され、排出ポンプであるClbMによりペリプラズム中に輸送され(23)、ついで、ペプチダーゼ活性を有するペリプラズム膜結合ClbPタンパク質により加水分解され、活性コリバクチンを放出する(24、25)。コリバクチンは、真の病原因子(26、27)であるだけでなく、推定上の前発ガン性化合物でもある。コリバクチンは、宿主細胞のDNAをアルキル化し、その結果、in vitro及びin vivoの両方でDNA架橋、二本鎖切断、染色体異常及び遺伝子突然変異をもたらす(21、22、28~30)。コリバクチン産生E. coliは、大腸ガンを有する患者の生検において過剰発現しており(31、32)、マウスモデルにおいて大腸ガンを促進することが示された(31、33)。
【0005】
pks/clbアイランドの特定の酵素により、鎮痛性リポペプチドの合成が可能となること(34)及びEcNのプロバイオティックス特性が病原性アイランドの存在に関連すること(35)を本発明者らが示した時点で、EcNの病原性とプロバイオティックス能力との間の両価性が明らかになった。Olier et al(2012)の研究において、発明者らは、コリバクチン合成に特異的であると考えられていたホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPTase)ClbAをコードする遺伝子を不活性化した。一方、より近年の研究から、ClbAは、多面的効果を有し、また、シデロフォアの合成及び鎮痛性リポペプチドの合成をモデュレーションすることが示された(34、36)。予想されるように、遺伝毒性物質を産生するプロバイオティックス株の使用は、公衆衛生上の懸念事項である。したがって、本発明者らは、遺伝毒性物質をプロバイオティックス活性から明確に切り離そうと試みた。本研究において、発明者らは、コリバクチンの遺伝毒性活性を特異的に排除するために、pks/clbアイランドにより直接的又は間接的に産生されるコリバクチン及び他の二次代謝産物の生合成経路の知見を使用した。発明者らは、有益な二次代謝産物を依然として産生しながら、病原性細菌の増殖を阻害する突然変異体の能力を調べた。発明者らは、プロバイオティックス活性を遺伝毒性活性から切り離すことに成功し、その結果、EcNを最適化する道を開いた。一方、本発明者らは、驚くべきことに、pks/clbアイランドが予想よりEcNプロバイオティックス活性にさらに密接に関連していること並びに細菌において病原性及びプロバイオティックス特性の同時進化が存在することを観察した。EcNは、ある程度、「特効薬」アスピリンと同様である。アスピリンと同様に、この細菌株は、1世紀以上にわたって成功裏に使用されてきたが、作用方法を理解し、安全性及び潜在的な副作用を考慮することが極めて重要である。
【0006】
発明の概要
本発明は、Escherichia coli株Nissle 1917(EcN)のプロバイオティックス特性に関係するメカニズムの研究に基づいている。その直接的な抗菌作用を担う2つのシデロフォア-ミクロシン(Mcc)の産生に加えて、EcNは、pksアイランドによりコードされる遺伝毒性物質であるコリバクチンを合成する。コリバクチンは、病原因子であり、推定上の前発ガン性化合物である。したがって、本研究により、本発明者らは、EcNのプロバイオティックス活性をその遺伝毒性活性から切り離すことが可能となった。本発明者らは、プロバイオティックスEcNのシデロフォア-ミクロシン活性には、遺伝毒性物質であるコリバクチンを活性化する酵素であるpksコードClbPが必要であるが、興味深いことに、プレコリバクチンを開裂させて、活性型コリバクチンを形成するその酵素ドメインには必要ないことを実証した。本研究により、本発明者らは、EcNの安全な使用に道を開くClbPのペプチダーゼドメインを特異的にターゲット化することにより、遺伝毒性活性からシデロフォア-ミクロシンを切り離すことが可能となった。実際、コリバクチン産生に必須のClbPペプチダーゼ活性は、シデロフォア-ミクロシン産生には役割を有さず、シデロフォア-ミクロシン産生は、その抗菌活性を保持する非遺伝毒性株を構築する方法を提供する。さらに、本発明者らは、腸内細菌性病原体(S. Typhimurium)に感染させたin vivo動物モデルにおいて、ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質(すなわち、S95の位置で突然変異したClbP)をコードするclbP遺伝子を有するEcN改変株の投与が非遺伝毒性である(コリバクチンを産生しない)が、細菌アンタゴニスト活性を維持し、シデロフォア-ミクロシン産生を維持することにより、病原体のコロニー形成及び毒性を低下させる(図8)ことを実証している。
【0007】
このため、第1の態様では、本発明は、ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質をコードする遺伝子を有するEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌であって、ここで、配列番号:3のアミノ酸配列を有するClbPタンパク質のペプチダーゼドメインが遺伝毒性物質であるコリバクチンの活性化に関与する、EcN細菌を提供する。
【0008】
本発明の第2の目的は、薬剤として使用するための、上記定義されたEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌に関する。
【0009】
本発明の第3の目的は、胃腸疾患の処置に使用するための、上記定義されたEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌に関する。
【0010】
発明の詳細な説明
改変されたEscherichia coli株Nissle 1917
第1の態様では、本発明は、ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質をコードする遺伝子を有するEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌であって、配列番号:3のアミノ酸配列を有するClbPタンパク質のペプチダーゼドメインが遺伝毒性物質であるコリバクチンの活性化に関与している、EcN細菌を提供する。
【0011】
本発明者らは、遺伝毒性物質であるコリバクチンを活性化する酵素である配列番号:1のアミノ酸配列を有する天然(野生型)ClbPタンパク質もプロバイオティックスEcNのシデロフォア-ミクロシン活性に必要であるが、興味深いことに、プレコリバクチンを開裂させ、活性なコリバクチンを形成するその酵素ドメインは必要でないことを示した。特に、本発明者らは、本発明のペプチダーゼドメインについてのみ不活性なClbPタンパク質をコードする遺伝子についての突然変異体EcN細菌(すなわち、突然変異体S95A、S95R、K98T又はClbP-3H)がin vitro及びin vivoにおいて、その抗菌活性を(シデロフォア-MCC産生を介して)維持するが、全ClbPタンパク質をコードする不活性化遺伝子を有する突然変異体EcN細菌は維持しないことを示した(すなわち、実施例セクションの図4を参照のこと)。これらの結果から、コリバクチン産生に必須のClbPペプチダーゼ活性が、シデロフォア-ミクロシン産生には役割を有さず、その抗菌活性を保持する非遺伝毒性EcN株を構築する方法を提供することが証明される。その結果、本発明の突然変異体EcN細菌は、より安全かつ防御的な応答を誘発し、このため、本発明の改変EcN株を使用したin vivoデータで実証されたように(図8を参照のこと)、非常に有望で新規なプロバイオティックスを構成する。
【0012】
「Escherichia coli株Nissle 1917」(EcN又はDSM6601とも呼ばれる)は、重篤な下痢の集団発生に抵抗性を示した兵士において、Alfred Nissleにより第一次世界大戦中に単離されたプロバイオティックスEscherichia coli株を意味する(1、2)。EcNは、最初に、細菌性胃腸感染症と闘うその能力について研究された。Salmonella enterica serovar Typhimuriumによる腸内コロニー形成を阻害し(3、4)、腸管出血性E. coli株に対して抗菌活性を示す(5)ことが実証された。EcNは、ヒト腸管の優れた生着菌であり、種々の腸管機能障害、例えば、乳幼児における急性下痢(6)、慢性便秘(7)及び過敏性腸症候群を有する患者における腹痛(8)に有益な効果を示す。EcNは、炎症性腸疾患の処置に広く使用されており(1)、小児及び成人の潰瘍性大腸炎の寛解維持のためのゴールドスタンダードであるメサラジンと同等の有効性があることが証明されている(9)。
【0013】
Escherichia coli Nissle 1917(EcN)は、複数の腸管障害の処置について数か国で認可されているプロバイオティックス薬であるMutaflor(登録商標)(Ardeypharm GmbH, Herdecke, Germany)の有効成分である(10)。EcNは、pksと命名されたゲノムアイランドを有することが公知である。pksは、ハイブリッドペプチドポリケチド及び特に、コリバクチンと呼ばれる遺伝毒性物質の合成を可能にする遺伝子クラスターを有する(21)。コリバクチンは、構造的に特徴づけられていないPK-NRPであり、プレコリバクチンと呼ばれるプロドラッグから生じると考えられている。プレコリバクチンも、構造的に十分に解明されていない(Li, Z.R. et al. Nat Chem Biol 12, 773-5 (2016);Bode, H.B. Angew Chem Int Ed Engl 54, 10408-11 (2015))。この毒性物質は、ClbAからClbSへのタンパク質の連続的な作用を含む複雑な生合成機構により産生される(Taieb, F., et al EcoSal Plus 7(2016))。コア機構は、3つのポリケチドシンターゼ、3つの非リボソームペプチドシンテターゼ及び2つのハイブリッドPKS-NRPSからなる。また、この機構は、更なる成熟タンパク質及び排出ポンプも利用する。
【0014】
コリバクチンは、排出ポンプであるClbMによりペリプラズム中に輸送されるプロドラッグ部分として産生され(23)、ついで、ペプチダーゼ活性を有するペリプラズム膜結合ClbPタンパク質により加水分解され、活性なコリバクチンが放出される(24、25)。コリバクチンは、真の毒性因子であるだけでなく(26,27)、推定上の前発ガン性化合物でもある。
【0015】
「ClbPタンパク質」という用語は、Escherichia coli(及び他のEnterobactriaceae)のpksゲノムアイランドによりコードされるペプチダーゼを意味する。ClbPタンパク質は、タンパク質を内膜に向かわせるN末端シグナル配列、プロテアーゼの活性部位を含有するペリプラズムペプチダーゼドメイン(ペプチダーゼを形成するAA残基は、39~337である)及び3つのC末端膜貫通ヘリックス(3つの膜貫通ヘリックスを形成するAA残基は、390~412、433~455及び465~485である)を含有する。ClbPの結晶構造及び突然変異誘発実験から、ペプチダーゼ活性(24)ClbPに関連するセリン活性部位及び本来の構造的特徴により、プレコリバクチンからN-アシル-D-アスパラギンプロドラッグ足場を除去するClbPペプチダーゼ活性を介して、プレコリバクチンの遺伝毒性物質であるコリバクチンへの成熟が可能となることが明らかとなった(24、25)。S95、K98及びY186は、ClbPペプチダーゼ活性に重要な残基であり、これらの残基についての突然変異体では、プレコリバクチンを開裂させ、成熟活性遺伝毒性物質を放出することができない(24、25)。
【0016】
ClbPの配列を下記表1に示す。
【表1】


【0017】
本発明によれば、「ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質をコードする遺伝子」という用語は、非機能性ペプチダーゼドメインをコードする突然変異を有する遺伝子(例えば、ClbP S95、K98、Y186突然変異体)又は全くペプチダーゼドメインをコードしない突然変異を有する遺伝子(例えば、ClbP-3H突然変異体)を意味する。本発明によれば、遺伝子の特定のドメインの不活性化を当業者に公知の種々の方法により行うことができる。遺伝子を不活性化するための方法の例は、特に、Conde-Alvarez R. et al., Cell Microbiol 2006 Aug;8(8):1322-35に記載されるような定方向突然変異誘発又は相同組換えである。また、当業者であれば、ClbPタンパク質のペプチダーゼドメインを不活性化するのに遺伝子点突然変異を導入するために又は非活性同等物で置き換えるためにClbPタンパク質のペプチダーゼドメインを遺伝子的に特異的に組み換えるために、特定の「ヌクレアーゼ」又は「エンドヌクレアーゼ」(例えば、CRISPR)を設計することについても知っている。
【0018】
また、本発明の遺伝子の特定のドメインを不活性化するための特定の方法は、実験セクション(ラムダレッドリコンビナーゼ法により行われる遺伝子突然変異誘発(37を参照のこと))にも記載されている。
【0019】
このため、典型的には、本発明のEcN突然変異体は、(i)(シデロフォア-MCC:MccH47及びMccMの合成を介して)抗菌活性を有する能力を有し、(ii)(不活性なClbPペプチダーゼドメインにより)遺伝毒性物質であるコリバクチンを活性化する能力を欠いている。
【0020】
当業者であれば、本発明のEcN細菌が生物学的に活性であるかどうかを容易に決定することができる。例えば、抗菌活性を有する能力を、例えば、当業者に周知の任意の日常的な試験:耐性記録、競合的増殖アッセイ...により決定することができる。
【0021】
抗菌活性の効果を、in vitroアッセイ(競合的増殖アッセイ)を使用して、本発明の突然変異体EcN組成物を適用する前後の表面に存在するターゲット細菌株(EcNに感受性の株、例えば、E. coli株LF82)の減少をモニターすることにより測定することができる。産生株及びターゲット株の両方(すなわち、それぞれEcN又はEcN突然変異体及びLF82)を以前に記載されているように((3)及び実施例+図1~5にも記載されるように)植菌する。
【0022】
(EcN突然変異体候補についての)コリバクチンにより誘引される遺伝毒性作用の決定を、巨赤血球増加症と呼ばれる関連する細胞肥大に伴うコリバクチンにより誘引される細胞老化をモニターすることにより測定することができる。前述のように(40)、HeLa細胞をEcN候補で4時間感染させる。EcN及びEcN突然変異体(すなわち、clbP-S95R)の遺伝毒性を以前に記載されているように(36)、In-Cellウェスタン法により確認する。簡潔に、HeLa細胞を所定の感染多重度(感染開始時の細胞当たりに一定数の細菌)で4時間感染させる。感染終了の4時間後、細胞を固定し、透過性にし、ウサギモノクローナル抗ガンマ-H2AX、続けて、赤外線蛍光二次抗体で染色する。
【0023】
本明細書で使用する場合、本発明の「生物学的に活性な」EcN突然変異体は、EcN突然変異体の生物学的活性の全てを示すEcN突然変異体を指す。ただし、生物学的に活性な突然変異体は、抗菌活性の野生型EcN能力を保持しているが、遺伝毒性物質であるコリバクチンを活性化する能力を欠いているという条件である。本発明の生物学的に活性なEcN突然変異体は、例えば、(シデロフォア-MCCの産生を介して)抗菌活性を有することが可能であること;及びii)遺伝毒性物質であるコリバクチンを活性化する能力を欠いている(不活性なClbPペプチダーゼドメインを有する)ことを特徴とすることができる(実施例及び図5を参照のこと)。
【0024】
本発明の特定の実施態様では、ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質は、
S95の位置で突然変異したClbPタンパク質、
K98の位置で突然変異したClbPタンパク質、
Y186の位置で突然変異したClbPタンパク質、
ペプチダーゼドメインを有さないClbPタンパク質(配列番号:3)
からなるリストより選択される。
【0025】
本発明において、突然変異(ペプチダーゼドメインの点突然変異(punctual mutation)又は組換え)に関するアミノ酸のナンバリングは、野生型ClbPタンパク質配列(配列番号:1)に従う。
【0026】
好ましい実施態様では、S95の位置で突然変異したClbPタンパク質は、好ましくは、セリンと同等の極性のアミノ酸及び非荷電アミノ酸では置換されていない。したがって、S95の位置で突然変異したClbPタンパク質は、好ましくは、スレオニン、アスパラギン又はグルタミンでは置換されていない。
【0027】
好ましい実施態様では、K98の位置で突然変異したClbPタンパク質が、好ましくは、リシンと同等の正に荷電したアミノ酸では置換されていない。したがって、K98の位置で突然変異したClbPタンパク質は、好ましくは、アルギニン、アスパラギン又はヒスチジンで置換されていない。
【0028】
好ましい実施態様では、Y186の位置で突然変異したClbPタンパク質は、好ましくは、チロシンの疎水性側鎖と同等のアミノ酸では置換されていない。したがって、Y186の位置で突然変異したClbPタンパク質は、好ましくは、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン又はトリプトファンでは置換されていない。
【0029】
好ましい実施態様では、ペプチダーゼドメインを有さないClbPタンパク質では、ClbPのペプチダーゼドメインは、15~150kDa、好ましくは、25~100kDa、より好ましくは、30~80kDa、さらにより好ましくは、30~50kDaの分子量を有するペプチドドメインで置換され又は置き換えられている。
【0030】
ペプチドドメイン(重量は同等であるが、N-アシル-D-アスパラギンプロドラッグ足場をプレコリバクチンから除去してコリバクチンを形成する(24、25)ことからなる任意のClbPペプチダーゼ活性を欠く)についてのこの置換により、突然変異体ClbPタンパク質の三次元構造及び組織化を維持し、抗菌活性を維持することが可能である。
【0031】
ClbPのペプチダーゼドメインを置き換えるのに使用することができるペプチドドメインの例は、Escherichia coli phoA遺伝子によりコードされる成熟型アルカリホスファターゼPhoA又はbla遺伝子によりコードされる成熟型酵素ベータ-ラクタマーゼ又はEscherichia coli lacZ遺伝子によりコードされる成熟型酵素β-ガラクトシダーゼである。
【0032】
ペプチドドメイン(アルカリホスファターゼPhoA、酵素ベータ-ラクタマーゼ、酵素ベータ-ガラクトシダーゼ)のこれらの例は、特に、原核生物における遺伝子融合研究のための、特にペリプラズムドメインを有する膜貫通融合タンパク質のためのレポータタンパク質として(本研究においても同様に)最も一般的に使用されるアルカリホスファターゼPhoAである(the review van Geest M. and. Lolkema JS. Microbiol Mol Biol Rev. 2000 Mar; 64(1): 13-33を参照のこと)。
【0033】
好ましい実施態様では、ペプチダーゼドメインを有さず、ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質は、PhoAのアルカリホスファターゼ酵素ドメイン(配列番号:11)で置換されたペプチダーゼドメインを有するClbPタンパク質である。遺伝子融合物を生成する能力は、当業者に周知である。このClbP融合タンパク質に関して、そのシグナル配列を欠くPhoAの成熟部分のみが、膜タンパク質のC末端切断部分後ろに融合される(これも、the review van Geest M. and. Lolkema JS. Microbiol Mol Biol Rev. 2000 Mar; 64(1): 13-33を参照のこと)。より正確には、PhoAドメインは、ペリプラズムへの移行を可能にするClbP N末端シグナル配列及びアミノ酸390からのClbP C末端配列と融合される。3つの膜貫通ヘリックスを形成する残基は、390~412、433~455及び465~485である(実施例セクションを参照のこと)。
【0034】
本明細書で使用する場合、「アミノ酸」という用語は、キラルアミノ酸についてのそれらのD及びL立体異性体における天然又は非天然アミノ酸を指す。例えば、アミノ酸及び対応するアミノ酸残基の両方が、例えば、ペプチジル構造で存在することを指すと理解される。天然及び非天然アミノ酸は、当技術分野において周知である。一般的な天然アミノ酸は、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リシン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)を含むが、これらに限定されない。
【0035】
アミノ酸は、典型的には、それらの側鎖に従って、極性、疎水性、酸性、塩基性及び芳香族を含む1つ以上のカテゴリーに分類される。極性アミノ酸の例は、側鎖官能基、例えば、ヒドロキシル、スルフヒドリル及びアミドを有するもの並びに酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸を含む。極性アミノ酸は、アスパラギン、システイン、グルタミン、ヒスチジン、セレノシステイン、セリン、スレオニン、トリプトファン及びチロシンを含むが、これらに限定されない。疎水性又は非極性アミノ酸の例は、非極性脂肪族側鎖を有するような残基、例えば、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、プロリン、メチオニン及びフェニルアラニンを含むが、これらに限定されない。塩基性アミノ酸残基の例は、塩基性側鎖、例えば、アミノ基又はグアニジノ基を有するものを含む。塩基性アミノ酸残基は、アルギニン、ホモリシン及びリシンを含むが、これらに限定されない。酸性アミノ酸残基の例は、酸性側鎖官能基、例えば、カルボキシ基を有するものを含む。酸性アミノ酸残基は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含むが、これらに限定されない。芳香族アミノ酸には、芳香族側鎖基を有するものを含む。芳香族アミノ酸の例は、ビフェニルアラニン、ヒスチジン、2-ナフチルアラニン、ペンタフルオロフェニルアラニン、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンを含むが、これらに限定されない。一部のアミノ酸は、2つ以上のグループに分類され、例えば、ヒスチジン、トリプトファン及びチロシンは、極性アミノ酸及び芳香族アミノ酸の両方に分類されることが留意される。アミノ酸を非荷電アミノ酸又は荷電(正又は負)アミノ酸とさらに分類することができる。正に荷電したアミノ酸の例は、リシン、アルギニン及びヒスチジンを含むが、これらに限定されない。負に荷電したアミノ酸の例は、グルタミン酸及びアスパラギン酸を含むが、これらに限定されない。上記各群に分類される更なるアミノ酸は、当業者に公知である。
【0036】
「同等のアミノ酸」は、機能のいかなる認識可能な損失もなく、本発明のペプチド化合物中で別のアミノ酸で置換することができるアミノ酸を意味する。同等のアミノ酸は、当業者により認識されるであろう。同様のアミノ酸の置換は、例えば、本明細書に記載されたように、サイズ、電荷、親水性及び疎水性について、側鎖置換基の相対的類似性に基づいて行われる。「同等のアミノ酸」という表現は、個々のアミノ酸のリストに続けて使用される場合、リストに含まれる個々のアミノ酸の1つ以上の同等物を意味する。
【0037】
本発明のより特定の実施態様では、遺伝子によりコードされるペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質は、
ClbP S95A突然変異体(配列番号:4)、
ClbP K98T突然変異体(配列番号:6)、
ClbP S95R突然変異体(配列番号:8)、
ClbP Y186G突然変異体(配列番号:10)、
PhoAのアルカリホスファターゼ酵素ドメインにより置換されたペプチダーゼドメインを有するClbPタンパク質(配列番号:11)
からなるリストより選択される。
【0038】
本発明の突然変異したClbPの配列を下記表2に示す。
【表2】





【0039】
ClbPペプチダーゼドメインにおける突然変異(又は置換)は、AA配列において太字で示される。本発明において、アミノ酸のナンバリングは、野生型ClbPタンパク質配列(配列番号:1)に従う。
【0040】
胃腸障害を処置するための方法
本発明の第2の目的は、薬剤として使用するための、上記定義されたEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌に関する。
【0041】
以前に示されたEcNは、最初に、細菌性胃腸感染と闘う能力について研究された。Salmonella enterica serovar Typhimuriumによる腸内コロニー形成を阻害し(3、4)、腸管出血性E. coli株に対して抗菌活性を示す(5)ことが実証された。EcNは、ヒト腸管の優れた生着菌であり、種々の腸管機能障害、例えば、乳幼児における急性下痢(6)、慢性便秘(7)及び過敏性腸症候群を有する患者における腹痛(8)に有益な効果を示す。EcNは、炎症性腸疾患の処置に広く使用されており(1)、小児及び成人の潰瘍性大腸炎の寛解維持のためのゴールドスタンダードであるメサラジンと同等の有効性があることが証明されている(9)。さらに、本発明者らは、細菌性腸内病原体(S. Typhimurium)に感染させたin vivo動物モデルにおいて、ペプチダーゼドメインについて不活性なClbPタンパク質(すなわち、S95の位置で変異したClbP)をコードするclbP遺伝子を有するEcN改変株の投与が非遺伝毒性である(コリバクチンを産生しない)が、細菌性アンタゴニスト活性を維持し、シデロフォア-ミクロシン産生を維持することにより、病原体のコロニー形成及び毒性を低下させること(図8を参照のこと)を実証している。
【0042】
したがって、本発明の第3の目的は、胃腸疾患の処置に使用するための、上記定義されたEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌に関する。
【0043】
したがって、本発明の別の目的は、その対象における胃腸疾患を処置する方法であって、治療上有効量の本発明のEcN細菌を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0044】
処置は、疼痛に苦しんでいる対象の治療的処置及び疼痛に苦しんでいない対象(例えば、胃腸疾患についての高リスクであると特定された対象)の予防的処置を含む、任意の目的のためのものであることができる。本明細書で使用する場合、「処置」、「処置する」及び「処置すること」という用語は、採用された手段の不存在下で生じるであろうものと比較して、本明細書に記載された疾患もしくは障害(すなわち、胃腸疾患)の進行を逆転させ、軽減し、阻害すること又は本明細書に記載された障害もしくは疾患の発生もしくは発症を遅延させ、排除しもしくは減少させることを指す。本明細書で使用する場合、「予防(prophylaxis)」又は「予防的使用(prophylactic use)」及び「予防的処置(prophylactic treatment)」という用語は、その目的が本明細書に開示された疾患(すなわち、胃腸疾患)を予防することである任意の医学的又は公衆衛生手法を指す。本明細書で使用する場合、「予防する(prevent)」、「予防(prevention)」及び「予防すること(preventing)」という用語は、所定の状態(すなわち、胃腸疾患)を獲得もしくは進行のリスクの減少又は病気ではないが、その状態(すなわち、胃腸疾患)にある対象であった対象もしくはその状態に近い場合がある対象における再発もしくは前記状態(すなわち、胃腸疾患)の減少もしくは阻害を指す。
【0045】
特定のEscherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌を胃腸疾患、例えば、細菌性胃腸感染症、腸炎症性疾患及び内臓痛を処置するのに使用することができる。
【0046】
胃腸疾患を引き起こす非常に多くの細菌(E. coli、Salmonella、Shigella、Campylobacter、Clostridium)が存在する。腸管の細菌感染症のほとんどは、下痢もしくは赤痢、吐き気、嘔吐及び腹痛又はけいれんをもたらす。細菌感染症が、小腸にある場合、症状は、水様性下痢及び/又は嘔吐を含む。大腸における細菌感染症は、通常、赤痢(糞便量が少なく、粘液及び血液を何度も伴う)をもたらす。一部の疾患は、特定の素因となる状態(抗生物質療法:偽膜性大腸炎)に続発する。これらの疾患の全てが感染症に続発するわけではないが、既成の毒素の摂取後に起こる場合がある(ブドウ球菌性食中毒)。通常、中毒症状(嘔吐、下痢)は、毒素の摂取後すぐ(数時間)に起こる。この一連の疾患を分類するいくつかの方法がある。腸内での位置(小腸vs大腸)に基づいて分類されるものもあれば、疾患がどのように獲得されたか(食物vs水vs人から人へ)により分類されるものもあり、また、病原体がホストにどのように作用するか(中毒vs胃腸炎vs非炎症性下痢vs炎症性下痢vs腸熱)に基づいて分類されるものもある。これらの病因を分類するこれらの手段は全て、医師が症状の原因を絞り込むのに役立てるのに使用される。消化管感染症は、非常に一般的である。発展途上国では、下痢が最も多い死因である(死亡数250万人/年)。下痢を引き起こす病原体は、3つの基本的な方法:食物中、水中および人から人で、ヒトに伝播する場合がある。これらの感染症の多くは自然治癒し、処置を必要としない。一部は、身体の他の部位に広がる場合があり、更なる損傷を防ぐための処置が必要となる。その策略は、患者をいつ処置すべきか、患者をどのように処置すべきかを知ることにある。
【0047】
特定の実施態様では、細菌性胃腸感染症は、Salmonella enterica serovar Typhimurium感染症又は腸管出血性E. coli感染症である。
【0048】
より特定の実施態様では、細菌性胃腸感染症は、Salmonella enterica感染症である。
【0049】
特定の実施態様では、Escherichia coli株Nissle 1917(EcN)細菌を、胃腸疾患、例えば、腸炎症性疾患を処置するのに使用することができる。このような腸炎症性疾患は、例えば、炎症性腸疾患(IBD)又は過敏性腸症候群(IBS)である。
【0050】
本明細書で使用する場合、「炎症性腸疾患(IBD)」という用語は、結腸及び小腸の一群の炎症性疾患である。
【0051】
特定の実施態様では、炎症性腸疾患(IBD)は、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、グルテン過敏症及び嚢炎からなる群より選択される。
【0052】
本明細書で使用する場合、「過敏性腸症候群(IBS)」という用語は、胃腸管において不快感を引き起こす各種の病理学的状態についての用語である。慢性腹痛、不快感、腹部膨満、排便習慣の変化を特徴とする機能性腸障害であり、臓器に原因はない。また、一部の形態の食物に関連した内臓過敏症、例えば、グルテン過敏症(すなわち、セリアック病)も含まれる。
【0053】
また、別のタイプの胃腸疾患は、炎症性腸疾患(IBD)に伴う疼痛を含む内臓痛でもある。内臓痛は、腹腔の臓器を包含する内臓に関連する疼痛である。これらの臓器は、脾臓及び消化器系の一部を含む。内臓に関連する疼痛を消化器性内臓痛と非消化器性内臓痛に分けることができる。疼痛を誘引する一般的に遭遇する胃腸(Gl)障害は、機能性腸障害(FBD)及び炎症性腸疾患(IBD)である。これらのGl障害は、FBDに関して、胃食道逆流、消化不良、過敏性腸症候群(IBS)及び機能性腹痛症候群(FAPS)並びにIBDに関して、クローン病、回腸炎及び潰瘍性大腸炎を含む現在中等度にしかコントロールされていない広い範囲の疾患を含み、これらは全て、定期的に内臓痛を生じる。
【0054】
一部の実施態様では、本発明の方法は、機能性腸障害(FBD)及び炎症性腸疾患(IBD)、胃食道逆流、消化不良、過敏性腸症候群(IBS)及び機能性腹痛症候群(FAPS)並びにIBDに関して、クローン病、回腸炎、潰瘍性大腸炎を含む胃腸障害により生じる内臓痛、月経困難症、膀胱炎及び膵炎並びに骨盤痛の処置に特に適している。
【0055】
特定の実施態様では、内臓痛は、炎症性腸疾患(IBD)又は過敏性腸症候群(IBS)からなる群より選択される。
【0056】
一部の実施態様では、本発明の予防方法は、疼痛の高いリスクがあると特定された対象に特に適している。典型的には、疼痛のリスクがある対象は、外科手術を受けるであろう患者を含む。
【0057】
本発明の前記EcN細菌を薬剤として、特に、プロバイオティックスとして使用することができる。
【0058】
「プロバイオティックス」という用語は、当技術分野においてその一般的な意味を有し、適切な量で投与された場合、ホストに健康上の利益を付与する生きた微生物を指す(Clinical Infectious Diseases, Volume 46, Issue Supplement_2, 1 February 2008, Pages S58-S61, https://doi.org/10.1086/523341を参照のこと)。
【0059】
本発明の化合物及び組成物の1日用量は、正常な医学的判断の範囲内で、主治医により決定されるであろうと理解されるであろう。任意の特定の患者についての特定の治療上有効用量は、処置する障害の種類及び重症度、利用される特定の化合物の活性、利用される特定の組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事、投与のタイミング及び経路並びに利用される特定の化合物の排泄速度、処置の期間、利用される特定の細菌と組み合わせて又は同時に使用される薬剤並びに医学分野において周知の他の要因を含む各種の要因により決まるであろう。例えば、当技術分野の技能の範囲内で、所望の治療効果を達成するのに必要とされるレベルより低いレベルの化合物の用量で処置を開始し、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることが推奨される。
【0060】
本発明の化合物を任意の適切な投与経路により投与することができる。例えば、本発明の化合物を経口(頬側及び舌下を含む)、直腸、鼻、局所、肺、膣又は非経口(筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、皮下及び静脈内を含む)により投与することができる。
【0061】
本発明の好ましい実施態様では、本発明の化合物を含有する治療組成物は、直腸内、局所又は経口投与される。直腸投与は、好ましくは、座剤、注腸又は泡状物質の形態で行われる。直腸内投与は、下腸部分、例えば、結腸に影響を及ぼす腸管疾患に特に適している。
【0062】
医薬組成物
本発明のEcN細菌は、1つ以上の従来のアジュバント、担体又は希釈剤と共に、医薬組成物及び単位投与の形態にすることができる。
【0063】
「薬学的に」又は「薬学的に許容され得る」は、ほ乳類、特に、ヒトに適切に投与された場合、有害なアレルギー性又は他の不都合な反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容され得る担体又は賦形剤は、任意のタイプの無毒性固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は製剤補助剤を指す。
【0064】
医薬組成物及び単位投与形態は、追加の活性化合物又は原理の有無に関わらず、従来の割合で従来の成分を含むことができ、単位投与形態は、利用される意図された1日用量範囲に相応する任意の適切な有効量の有効成分を含有することができる。医薬組成物を固体、例えば、錠剤又は充填カプセル剤、半固体、散剤、徐放性製剤又は液体、例えば、液剤、懸濁剤、エマルジョン剤、エリキシル剤もしくは経口使用のための充填カプセル剤として又は直腸投与のための座薬の形態又は非経口使用のための滅菌注射溶液の形態で使用することができる。したがって、錠剤当たりに約1ミリグラム 有効成分又はより広くは、約0.01~約100ミリグラム 有効成分を含有する製剤が、適切で代表的な単位投与形態である。
【0065】
本発明の化合物を広い各種の経口投与形態に製剤化することができる。医薬組成物及び投薬形態は、有効成分として本発明の化合物又はその薬学的に許容され得る塩を含むことができる。薬学的に許容され得る担体は、固体又は液体のいずれかであることができる。固形調製物は、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤及び分散性顆粒剤を含む。固体担体は、希釈剤、風味剤、可溶化剤、潤滑剤、懸濁剤、バインダー、保存剤、錠剤崩壊剤又はカプセル化材料としても作用することができる1つ以上の物質であることができる。散剤では、担体は、一般的には、微細固体であり、これは、微細有効成分との混合物である。錠剤では、有効成分は、一般的には、必要な結合能力を有する担体と適切な割合で混合され、所望の形状及びサイズに圧縮される。散剤及び錠剤は、好ましくは、約1~約70% 活性化合物を含有する。適切な担体は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、カカオ脂等を含むが、これらに限定されない。
【0066】
「調製物」という用語は、担体としてのカプセル化材料を含む活性化合物の製剤を含むことを意図し、担体の有無に関わらず、有効成分が、それと関連する担体により取り囲まれるカプセル剤を提供する。同様に、カシェ剤及びトローチ剤が含まれる。錠剤、散剤、カプセル剤、丸剤、カシェ剤、及びロゼンジ剤は、経口投与に適した固体形態であることができる。
【0067】
経口投与に適した他の形態は、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤、水溶液剤、水性懸濁剤を含む液体形態調製物又は液体形態調製物に使用直前に変換されることが意図される固体形態調製物を含む。エマルジョン剤を、例えば、水性プロピレングリコール溶液中で溶液に調製することができ又は乳化剤、例えば、レシチン、ソルビタンモノオレアート又はアカシアを含有することができる。水溶液剤を、有効成分を水に溶解し、適切な着色剤、香味剤、安定剤及び増粘剤を加えることにより調製することができる。水性懸濁剤を、微細有効成分を粘性物質、例えば、天然又は合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び他の周知の懸濁化剤と共に水中に分散させることにより調製することができる。固体形態調製物は、液剤、懸濁剤及びエマルジョン剤を含み、有効成分に加えて、着色剤、香味剤、安定剤、バッファー、人工及び天然甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤等を含有することができる。
【0068】
代替的には、有効成分は、粉末形態にあることができ、滅菌固体の無菌単離により又は適切な媒体、例えば、無菌の発熱物質を含まない水で使用する前に、構成のための溶液から凍結乾燥することにより得ることができる。
【0069】
本発明を下記図面及び実施例によりさらに例証するものとする。ただし、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】LF82に対するEcNの抗菌活性におけるpks/clbアイランドの役割。(A)野生型(WT)E. coli株Nissle 1917(EcN)又はコリバクチン成熟ペプチダーゼClbPについての突然変異体とのE. coli LF82(リファンピシン抵抗性)の24時間共培養物の系列希釈物を、リファンピシンを含有するLBプレート上にスポットし(10μL)、37℃で一晩インキュベーションした。(B)WT EcN、スホパンテテイニルトランスフェラーゼClbA、ペプチダーゼClbP及び対応する補完変異体(pclbP)、ポリケチドシンターゼ(PKS)ClbC及びClbO、非リボソームペプチドシンターゼ(NRPS)ClbH及びClbN、ハイブリッドPKS-NRPS ClbB、推定上のアミダーゼClbL、排出ポンプであるClbM並びにチオエステラーゼClbQについての遺伝子欠失とのM63培地中での24時間共培養後のE. coli LF82のコロニー形成単位(CFU)カウント。LF82も対照として単独で培養した(φ)。独立した実験の中央値及び個々の結果を示す。WTとの共培養との比較における一元配置ANOVA及びボンフェローニポストテスト;★★★P<0.001。
図2】LF82に対するEcNの抗菌活性におけるミクロシン遺伝子クラスターの役割。野生型(WT)E. coli株Nissle 1917(EcN)、ミクロシンM(MccM)前駆体遺伝子mcmAについてのEcN突然変異体、ミクロシンH47(MccH47)前駆体遺伝子mchBについてのEcN突然変異体、mcmA、mchB遺伝子の両方についてのEcN突然変異体、翻訳後修飾を担うmchC chmD遺伝子についてのEcN突然変異体及び補完株並びにMccM及びMccH47排出ポンプをコードするmchE mchF遺伝子についてのEcN突然変異体とのM63培地中での24時間共培養後のE. coli LF82のコロニー形成単位(CFU)カウント。LF82も対照として単独で培養した(φ)。独立した実験の中央値及び個々の結果を示す。WTとの共培養との比較における一元配置ANOVA及びボンフェローニポストテスト;★★0.001<P<0.01;★★★P<0.001。
図3】LF82に対するEcNの抗菌活性におけるシデロフォアの役割。(A)野生型(WT)E. coli株Nissle 1917(EcN)、エンテロバクチンシンターゼEをコードするentEについてのEcN突然変異体及びホスホパンテテイニルトランスフェラーゼClbA及びEntDについての二重突然変異体、グルコシルトランスフェラーゼIroB、細胞質エステラーゼIroD、ペリプラズムエステラーゼIroE及び輸出タンパク質IroCについてのEcN突然変異体及び補完株とのM63培地中での24時間共培養後のE. coli LF82のコロニー形成単位(CFU)カウント。LF82も対照として単独で培養した(φ)。独立した実験の中央値及び個々の結果を示す。WTとの共培養との比較における一元配置ANOVA及びボンフェローニポストテスト;★★★P<0.001。
図4】LF82に対するEcNの抗菌活性におけるClbP触媒及び膜貫通ドメインの役割。野生型(WT)E. coli株Nissle 1917(EcN)、clbP遺伝子欠損並びに野生型ClbPをコードするプラスミド(pclbP)、触媒部位に突然変異S95A又はK98Tを有するClbPをコードするプラスミド及びアミノ酸390からのアルカリホスファターゼPhoAとClbP C末端配列との融合物をコードするプラスミド(pclbP-3H)を有する補完変異体とのM63培地中での24時間共培養後のE. coli LF82のコロニー形成単位(CFU)カウント。LF82も対照として単独で培養した(φ)。独立した実験の中央値及び個々の結果を示す。WTとの共培養との比較における一元配置ANOVA及びボンフェローニポストテスト;★★★P<0.001。
図5】ClbP触媒ドメインを不活性化するゲノム点突然変異はEcNの遺伝毒性を消失させるが、LF82に対する抗菌活性は消失させない。(A)HeLa細胞に、野生型E. coli Nissle(WT)、触媒部位を不活性化するclbP遺伝子(clbP-S95R)に単一の染色体ヌクレオチド変化を有するゲノム編集突然変異体及びプラスミドpclbPで補完したゲノム編集突然変異体を一過性に感染させた。ついで、細胞を固定し、透過性にし、ウサギモノクローナル抗ガンマ-H2AX、続けて、赤外線蛍光二次抗体で染色した。DNAをRedDot2で対比染色した。(B)HeLa細胞に、野生型E. coli Nissle(写真B)、clbP遺伝子欠失突然変異体(C)及びゲノム編集clbP-S95R突然変異体(D)を一過性に感染させた。ついで、これらの細胞を洗浄し、ゲンタマイシンと共に72時間インキュベーションし、その後、ギムザで染色した。対照を写真Aに示す。バーは、50μmを表わす。(C)野生型(WT)E. coli株Nissle 1917(EcN)、clbP遺伝子欠失突然変異体(ΔclbP)及び触媒部位にS95R突然変異をもたらすclbP遺伝子の一ヌクレオチド変化を有するゲノム編集突然変異体(clbP-S95R)とのM63培地中での24時間共培養後のE. coli LF82のコロニー形成単位(CFU)カウント。LF82も対照として単独で培養した(φ)。独立した実験の中央値及び個々の結果を示す。WTとの共培養との比較における一元配置ANOVA及びボンフェローニポストテスト;★★★P<0.001。
図6】E. coli株Nissle(EcN)におけるミクロシンH47及びM(MccH47及びM)の産生に関与する遺伝子クラスターをゲノム地図上に表わした。EcNゲノムアイランド(GEI)IV上のエンテロバクチン(ent)、コリバクチン(pks)、イエルシニアバクチン(ybt)、GEI I上のサルモケリン(iro)並びにMccH47(mch)及びM(mcm)をコードするローカスを表わす。矢印は、EcNにおけるMccH47及びMの産生に関与する異なる遺伝子クラスター間の相互作用を表わす。
図7】E. coli Nissleにおけるシデロフォア-ミクロシンH47及びMの生合成のために提唱されたモデル。エンテロバクチン前駆体は、エンテロバクチングルコシルトランスフェラーゼIroBにより修飾される。このシデロフォア部分は、MchCD複合体により前駆体ペプチドのC末端に移される。シデロフォア-ミクロシンの活性型は、特異的排出ポンプであるMchEF-TolCによるその排出の間のリーダーペプチドの開裂によりもたらされる。ClbPのC末端ドメインにより、シデロフォア-ミクロシン産生のこの最終段階が可能となり、一方、そのN末端酵素ドメインは、プレコリバクチンを開裂させて、コリバクチンを産生する。
図8】ClbP触媒ドメインを不活性化するゲノム点突然変異ではなく、clbP欠失は、マウスの腸内病原菌Salmonella Typhimuriumに対するEcN保護を損なう。C57BL/6のメスマウスを20mg ストレプトマイシン/osで処置し、ついで、24時間後に、PBS中の10個のS. Typhimurium(STm)に経口感染させるか又は10個のS. Typhimuriumと10個のEcN野生型、ΔclbP又はclbP S95R株とを同時投与した。(A)マウスを4日間毎日、臨床徴候(体重減少、下痢、腹痛の徴候)についてモニターした。各点は、3回の独立した実験において、群当たりに10~15匹の動物の平均臨床スコア+/-SEMに対応する。3回の実験の最後の2回では、動物を盲検的に(感染菌を知らずに)スコア化した。STm+EcNと比較した二元配置ANOVA及びボンフェローニポストテスト、a:p<0.05、c:p<0.001。(B)STmの糞排泄を感染後2日目及び4日目に採取した糞の計数により調べた。中央値及び個々の結果を示す。STm+PBSと比較した対数変換CFUカウントの一元配置ANOVA、a:p<0.05。(C)STm及びEcNの糞カウントを使用して、競合指数(CFU STm/CFU EcN)を決定した。STm+EcN clbP S95Rと比較した一元配置ANOVA、a:p<0.05。
図9】EcN野生型、ΔclbN及びclbP S95R株におけるN-アシル-Asn-GABAOHの検出。EcN野生型、ΔclbN又はclbP S95R株をDMEM Hepes中で8時間増殖させ、ついで、細菌ペレット中のN-アシル-Asn-GABAOHを三重四重極質量分光計(G6460 Agilent)に連結させた高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1290 Infinity)により定量した。濃度Cを1E+8 CFU当たりのピコグラムとして示す。
【0071】
実施例
材料及び方法
細菌株、突然変異体及びプラスミド
本研究に使用された細菌株及びプラスミドを表3に列記する。遺伝子突然変異誘発をラムダレッドリコンビナーゼ法(37)により行った。二重突然変異体を連続的に構築した。FRTカセットの突然変異及び欠失を、ターゲット遺伝子の上流及び下流のプライマーを使用するPCRにより検証した。
【0072】
ClbP N末端シグナル配列、アルカリホスファターゼPhoA及びClbPの3つの膜貫通ヘリックス間の融合物を、各フラグメント間に重複するプライマーを有するHiFi DNAアセンブリキット(New England Biolabs, Ipswich, MA, USA)を使用して構築した。構築をPCRにより検証し、配列決定により確認した。40mg/L 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスファートを含むLBプレート上で青色に染色されたコロニー形成単位から、以前に報告されたように(38)、ペリプラズム中のPhoAアルカリホスファターゼドメインの存在が明らかとなった。
【0073】
プラスミドpmchEF及びpmchCDを構築するために、遺伝子をPCR増幅し、pCR-XL-TOPO(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)にクローニングした。
【0074】
プラスミドpIroBを構築するために、iroB遺伝子をテンプレートとしてのEcNゲノムDNA及びプライマーIRSDNG7及びIRSDNG8でPCR増幅し、EcoRI及びBamHIにより消化し、rfp遺伝子を除去するために消化されたpBbA5a-RFP(Addgeneから入手)にライゲーションした。
【0075】
EcN clbP-S95R染色体同質遺伝子突然変異株を、ゲノム編集技術(39)を使用して構築した。EcNをpORTMAGEでトランスフォーメンションし、ついで、30℃及び300rpmでLB中において増殖させて、OD600=0.5に到達させた。最初の突然変異誘発サイクルを、ラムダリコンビナーゼ及びドミナントネガティブmutLE32Kアレルの発現を42℃、250rpmで15分間誘引することにより開始した。ついで、培養物を0℃に冷却し、水中で洗浄し、clbP遺伝子配列中にS95A突然変異を含む50μM オリゴヌクレオチドIRSDNG26でエレクトロポレーションした。対照実験では、lacZ遺伝子を特異的変異原性オリゴヌクレオチドのターゲットとした。LB中において30℃及び300rpmで1時間回復させた後、2つの他の突然変異誘発サイクルを行い、細菌を最後に、抗生物質を含まないMacConkeyアガー上に播種した。対照実験では、分離株の約33%がLacZ陰性であった。60の候補clbP-S95R突然変異体について、以前に記載されているように(40)、感染HeLa細胞における遺伝毒性の消失及び巨赤血球症の表現型を検査した。pORTMAGEプラスミドを失った非遺伝毒性突然変異体を選択し、最終的に、PCR増幅clbP配列中のS95A突然変異によるClaI制限部位の除去について検証した。
【0076】
コリバクチンにより誘引される遺伝毒性作用の測定
コリバクチンにより誘引される細胞老化は、巨赤血球増加症と呼ばれる関連する細胞肥大と関連しており、Mcc遺伝子クラスター、iroAローカスにおいて、本研究で構築された全てのEcN突然変異体及びclbP-S95R突然変異体で測定した。以前に記載されているように(40)、HeLa細胞(ATCC、CCL-2)を4時間感染させた。ついで、細胞を洗浄し、ゲンタマイシンと共に72時間インキュベーションした後、ギムザで染色した。EcN及びclbP-S95R染色体突然変異体の遺伝毒性を以前に記載されているように(36)、In-Cellウェスタン法により確認した。簡潔に、HeLa細胞を所定の感染多重度(感染開始時の細胞当たりに一定数の細菌)で4時間、96ウェルプレートにおいて感染させた。感染終了の4時間後、細胞を固定し、透過性にし、ウサギモノクローナル抗ガンマ-H2AX(Cell Signaling,20E4、1:200)、続けて、赤外線蛍光二次抗体で染色した。DNAをRedDot2(Biotum)で対比染色した。蛍光をOdyssey赤外撮像システム(Li-Cor)で記録した。
【0077】
競合的増殖アッセイ
株をLB培地(LB Lennox, Invitrogen)中において、240rpmで振とうしながら、37℃で一晩増殖させた。リファンピシン、ストレプトマイシン、カナマイシン、カルベニシリン又はクロラムフェニコールを必要に応じて、培地に加えた。
【0078】
共培養実験に使用された培地は、15mM 硫酸アンモニウム、1mM 硫酸マグネシウム七水和物、100mM リン酸一カリウム、2.5g/L グルコース、1mg/L チアミン及び1g/Lバクトトリプトン(BD Biosciences, Le Pont de Claix, France)の最終濃度を有するM63最小培地又は25mM Hepes、10%(v/v) ウシ胎児血清(FCS、Eurobio, Courtaboeuf, France)及び1%(v/v) 非必須アミノ酸(NEAA、Invitrogen)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)GlutaMAX(Invitrogen)のいずれかとした。
【0079】
各一晩培養物 500μLを共培養培地 9.5mL中で培養し、240rpmで振とうしながら、37℃で2時間インキュベーションした。産生株及びターゲット株(それぞれEcN及びLF82)の両方を、以前に記載されているように(3)、これらの2時間培養物から、共培養培地 10mL中に106CFU/mLで植菌し、240rpmで振とうしながら、37℃で24時間インキュベーションした。CFU数値化のために、培養培地をPBS中で系列希釈し、必要とされる抗生物質(例えば、LF82についてリファンピシン(41))を含有する選択的LBアガープレート上に播種した。全結果セクションでは、ターゲット株(主にLF82)の増殖のみを報告する。対照として、競合株(主にEcN及びEcN突然変異体)の増殖を系統的にチェックした(データを示さず)。
【0080】
動物への感染
動物への感染を、科学的目的で使用される動物保護のための欧州指令(2010/63/EU)に従って行った。プロトコールは、地域倫理委員会により承認された(プロトコール番号:2019041710292271)。メスのC57BL/6(Janvier)を、食物及び水に自由にアクセスできる状態で、ケージ当たりに5匹の動物で、換気されたケージに収容した。
【0081】
動物に20mg ストレプトマイシンを強制経口投与し、ついで、24時間後、10個のS. Typhimurium株IR715(ナリジクス酸抵抗性)に経口感染させるか又は10個のS. Typhimurium及び10個のEcN、EcNΔclbP又はEcN clbP S95R(ストレプトマイシン抵抗性を付与するrpsLK42Rアレルを有する)と同時投与した。
【0082】
S. Typhimurium及びEcNの糞排泄を、PBS中での糞のホモジナイゼーション、系列希釈及びナリジクス酸又はストレプトマイシンを補充したLBアガープレート上での播種により決定した。
【0083】
サルモネラ症の重症度を体重減少、腹痛の徴候、発熱及び下痢の毎日のスコアリングにより評価した。
【0084】
致死を避けるために、実験を感染後4日で終了した。
【0085】
実験を群当たりに5匹ずつ3回繰り返し、3回の独立した実験のうち2回で盲検的に(感染菌を知らずに)臨床スコアをスコア化した。
【0086】
バイオインフォマティクス分析
MccH47及びMccM合成に関与する遺伝子を、BLASTn及びCA58 Mcc遺伝子クラスター:前駆体タンパク質をコードするmchB及びmcmA、免疫遺伝子mchI及びmcmI、特異的排出ポンプをコードする遺伝子mchE及びmchF、翻訳後修飾を担う遺伝子mcmK及びmcmL(及びE.coli H47 Mcc遺伝子クラスターであるmchS1及びmchAにおける各相同体)を参照として検索した。有意性のカットオフ値として、クエリーカバー>80%、同一性>90%、及びE値<1e40を選択した。pksアイランドの5’及び3’領域それぞれについてのマーカーとしての遺伝子clbB及びclbPを、同じ方法を使用して特定したため、サルモケリン遺伝子クラスター(iroAローカス)の5’及び3’領域についてのマーカーとして、遺伝子iroN及びiroBとした。4つの遺伝子:arpA、chuA、yjaA及びtspE4.C2(並びにA及びC系統群を区別するためのtrpA)の存在/不存在に基づいて、in silicoで系統群を決定した(42)。系統樹を、rpoC配列を使用して構築した。配列をPATRIC 3.5.8(43)を使用して収集し、MEGA7.0.26ソフトウェア(44)による対数期待値(MUSCLE)による多重配列比較によりアライメントさせ、系統樹を、MEGA7.0.26を使用する最尤法に従って構築した。
【0087】
統計分析
統計分析を、GraphPad Prism 7.0a(GraphPad, San Diego, CA, USA)を使用して行った。P値を、一元配置ANOVA、続けて、ボンフェローニポストテストを使用して計算した。CFU/mLを分析のために対数変換した。P値<0.05を有意とみなし、≪により示し、P<0.01を≪≪により示し、P<0.001を≪≪≪により示す。
【0088】
結果
EcNの抗細菌活性にはClbPが必要であるが、コリバクチン合成経路の他の成分は必要ではない
遺伝毒性活性をプロバイオティックス活性から特異的に切り離すために、プレコリバクチンの遺伝毒性物質であるコリバクチンへの成熟を可能にするClbP(24、25)を欠失したEcN突然変異体の抗細菌活性を試験した。PPTase(27、35、36)をコードする多面発現性ClbA突然変異体と比較した。野生型EcN、EcN ΔclbA及びΔclbP突然変異体と、EcNに感受性であることが以前に示されている(45、46)クローン病関連E. coli株LF82との共培養実験を行った。CFUから、EcN株が、LF82増殖を強力に阻害することが示された。LF82に対するEcNの抗菌活性は、ΔclbA突然変異体では変化しなかったが、ΔclbP突然変異体では完全に失われた(図1)。動力学実験から、LF82に対するEcNの阻害活性が、植菌後6時間で始まり、定常期の開始時である植菌後8時間で最高に達したことが示された(データを示さず)。LF82の増殖は、ΔClbP突然変異体によってはいつも変化せず、EcNの抗菌作用のClbP依存性がさらに証明された。このEcNのClbP依存性阻害活性は、E. coliの他の病原株(JJ186及びNRG857c)及び密接に関連する菌種、例えば、Salmonella enterca subp. enterica Typhimurium及びEnterobacter aerogenesにおいても観察された(データを示さず)。
【0089】
ClbP以外のコリバクチン合成経路の他の成分が、EcNの抗菌活性に必要であるかどうかをさらに決定するために、PKS ClbC及びClbO、NRPS ClbH及びClbN、ハイブリッドPKS-NRPS ClbB、推定上のアミダーゼClbL、排出ポンプであるClbM並びにチオエステラーゼClbQについての突然変異体の阻害効果をLF82に対して評価した。LF82に対するEcNの抗菌活性は、これらの突然変異体のいずれにおいても変化しなかった(図1)。これらの結果から、コリバクチン自体又は開裂産物であるN-ミリストイル-D-アスパラギンが、LF82(及び他のグラム陰性細菌、データを示さず)に対するEcNの抗菌活性に必須ではないことが確認される。したがって、EcNのプロバイオティックス活性は、pks/clbアイランド及びClbPの存在と明らかに関連しているが、コリバクチンは、EcNの阻害活性に関与しない。
【0090】
EcN ClbP依存性抗菌活性にはMccH47及びMccMが必要である
以前の研究では、EcNの抗菌活性とMccH47及びMccMとが関連づけられている(4、11、14、15)。したがって、MccH47及びMccM産生系において、LF82とEcN及び突然変異体との共培養実験を行った。LF82に対するEcNの抗菌活性は、MccM前駆体遺伝子mcmA単独又はMccH47前駆体遺伝子mchB単独の欠失により影響を受けなかった(図2)。対照的に、mcmA及びmchBの両方の欠失により、LF82に対するEcNの阻害効果がほぼ完全に消失した。同様に、MccM及びMccH47排出ポンプをコードする遺伝子mchE及びmchFを欠失させると、抗菌活性が失われた(図2)。mchEとmchFとのトランス補完性により、野生型EcN株と比較して、EcNの阻害活性が向上した(図2)。おそらく、MchE-MchF排出ポンプの過剰発現後にMcc輸送が増加したためであろう。Mcc産生系におけるこれらの突然変異のいずれも、EcNが活性なコリバクチンを産生する能力に影響を及ぼさなかった(データを示さず)。
【0091】
EcNの抗菌活性におけるMccH47及びMccMの役割をさらに確認するために、MccH47又はMccM免疫遺伝子をコードするプラスミドをLF82にトランスフォーメーションし、得られた株の抵抗性をEcNに対して評価した(データを示さず)。EcN ΔmchB突然変異体の抗菌活性は、MccM免疫遺伝子mcmIを有するLF82に対してほとんど完全に消失した(データを示さず)。同様の結果が、ΔmcmA突然変異体とMccH47免疫遺伝子mchIを有するLF82とでも得られた(データを示さず)。全体として、これらの結果から、LF82に対するEcN ClbP依存性阻害活性が、MccH47及びMccMによることが確認された。
【0092】
EcN ClbP依存性抗菌活性はシデロフォア-Mccの産生による
MccH47及びMccMは、カテコールシデロフォアの結合により翻訳後に修飾されて、「シデロフォア-Mcc」を形成することができる(13)。したがって、本発明者らは、ClbP依存性抗菌活性がこれらの修飾型のミクロシンに依存する場合があると仮定した。実際、LF82に対するEcNの抗菌活性は、シデロフォアエンテロバクチン産生に必須な酵素である2,3-ジヒドロキシベンゾアート-AMPリガーゼを欠損させたΔentE突然変異体において強力に低下した(47)。同様の結果が、エンテロバクチンを産生できないEcN ΔclbAΔentD二重突然変異体でも得られた(36)(図3)。
【0093】
エンテロバクチンのグリコシル化及びエステル化を担う2つの遺伝子(mcmL及びmcmK)は、EcNのMcc遺伝子クラスターから欠落している(18、48)。結果として、MccH47及びMccMが、シデロフォア-Mccであるか又は未修飾Mccであるかは、依然として議論されている(13)。EcNが、McmL及びMcmKホモログ、グルコシルトランスフェラーゼIroB及びエステラーゼIroDそれぞれを有している(13)ことを考慮して、Mccとサルモケリン産生系の間の相互作用を調査した。グルコシルトランスフェラーゼIroB、細胞質エステラーゼIroD、ペリプラズムエステラーゼIroE及び輸出タンパク質IroCをコードする遺伝子(49、50)についてのEcN突然変異体の抗菌活性を、野生型EcN株の活性と比較した。iroB欠失のみにより、EcNの抗菌活性における有意な低下がもたらされた(図3)。ΔiroB突然変異体の補完により、抗菌活性は完全に回復した。iroAローカスにおけるこれらの突然変異はいずれも、コリバクチンの遺伝毒性作用と関連する巨赤血球増加症を引き起こすEcNの能力に影響を及ぼさなかった(データを示さず)。これらの結果から、IroBが、エンテロバクチンのグリコシル化を担う可能性があり、McmLの不存在下でMcc前駆体タンパク質のシデロフォア由来部分への結合を可能にすることが示唆される。
【0094】
MchC及びMchDは、K. pneumoniae株E492のMceJ及びMceIにそれぞれ相同である(13)。これらのタンパク質は、グリコシル化エンテロバクチン誘導体の前駆体ペプチドMceAであるMccE492への結合を担う複合体を形成する(51)。mchC及びmchDについてのEcN突然変異体では、LF82に対する抗菌作用が失われたが、補完により、最初の表現型が回復した(図2)。これらの結果から、エンテロバクチン由来部分を有するMccH47及びMccMの翻訳後修飾が、EcNの抗菌活性に必要であることが示される。要するに、EcN ClbP依存性抗菌活性は、シデロフォア-Mccによる。
【0095】
ペリプラズムペプチダーゼ触媒部位ではなくClbP膜貫通ドメインがEcNの抗菌活性に必要である
シデロフォア-Mcc産生におけるClbPの役割をさらに解明するために、ClbP触媒活性が、EcNの抗菌活性に必要かどうかを調べた。S95及びK98は、ClbPペプチダーゼ活性に重要な残基であり、これらの残基についての突然変異体は、プレコリバクチンを開裂させて、成熟した活性な遺伝毒性物質を放出することができない(24、25)。共培養試験をLF82と、野生型ClbPタンパク質又はS95AもしくはK98Tの置換を有するClbPタンパク質をコードするプラスミドで補完されたEcN ΔClbP突然変異体とで行った。ClbP S95A又はK98Tで補完されたEcN ΔClbP突然変異体は、野生型ClbPタンパク質と同様の抗菌活性を示したが(図4)、コリバクチンの遺伝毒性作用に関連する巨赤血球増加症を引き起こす能力を失っていた(データを示さず)。
【0096】
ClbP酵素ドメインの別の推定上の触媒部位の役割を排除するために、この酵素ドメインを以前に報告されているように(38)、PhoAのアルカリホスファターゼ酵素ドメインにより置き換えた。PhoAドメインを、ペリプラズムへの移行を可能にするClbP N末端シグナル配列及びアミノ酸390からのClbP C末端配列と融合させた。3つの膜貫通ヘリックスを形成する残基は、390~412、433~455及び465~485である(24)。この融合物を有するプラスミドでトランスフォーメーションされたEcN ΔclbP突然変異体は、EcN WT株と同様のLF82に対する阻害活性を示したが(図4)、巨赤血球増加症は引き起こさなかった(データを示さず)。したがって、3つの膜貫通ヘリックスを含むClbPのC末端ドメインは、遺伝毒性活性にのみ重要なClbPペリプラズムペプチダーゼドメインとは対照的に、EcNの抗菌活性に必須である。
【0097】
この観察を確認し、非遺伝毒性EcNプロバイオティックス株を操作することができるという概念の証明として、染色体clbP遺伝子に一ヌクレオチド突然変異を示し、アミノ酸レベルでClbP触媒部位にS95R突然変異をもたらすEcN突然変異株を構築するためにゲノム編集を使用した。この突然変異体は、コリバクチンを産生せず、遺伝毒性はないが、野生型遺伝毒性EcN株と同様のLF82に対する抗菌活性を依然として示した(図5)。
【0098】
clbP遺伝子に点突然変異を有するEcN株は非遺伝毒性であるが、アンタゴニスト活性を保ち、S. Typhimuriumの腸内コロニー形成及び病原性を低下させる
EcNプロバイオティックスは、鉄について競合し、シデロフォア-ミクロシンを産生することにより、腸内病原体、例えば、Salmonellaに対して防御を提供することが周知である(3,4)。このため、EcN野生型、ΔclbP及びclbP-S95R突然変異体により、S. Typhimurium腸内コロニー形成及び病因を減少するかどうかを、in vivoモデルを使用して調べた。(高いコロニー形成を確実にするために)ストレプトマイシンで処置され、ついで、24時間後に、S. Typhimuriumのみに感染させ又はS. Typhimuriumと各EcN株とを同時投与されたC57BL/6マウス(3、4、66)を利用した。マウスを臨床徴候(体重減少、下痢、腹痛の徴候)についてモニターし、細菌コロニー形成を4日間(致死性により実験を停止しなければならない点)、糞の計数により調べた。単独投与した場合、S. Typhimuriumは腸管に容易にコロニー形成し、これは、強い腸管サルモネラ症と関連する高い臨床スコアと関連していた(図8)。野生型EcNと同時投与された動物では、臨床スコア及びS. Typhimuriumの糞コロニー形成の顕著な低下が認められた(図8A図8B)。感染後2日目までに、EcNは、S. Typhimuriumを有意に上回った(図8C)。対照的に、EcN ΔClbP突然変異体が同時投与された動物では、より高い臨床スコアが示され、S. Typhimuriumのコロニー形成に対する拮抗作用が低下したことから、急性サルモネラ大腸炎時のEcNの有益な効果におけるClbPの役割が実証された。EcN clbP-S95R株により、野生型EcNと同様に、糞排出が相当減少し、S. Typhimuriumを上回り、臨床スコアが低下した(図8)。
【0099】
まとめると、これらの結果から、EcNの遺伝毒性活性をそのプロバイオティックス(抗菌)活性から切り離すことが可能であることが示され、また、コリバクチン及びシデロフォア-ミクロシンの生合成経路は、当初考えられていたより絡み合っていることが示される。
【0100】
ClbP依存性抗菌活性が切断型Mcc遺伝子クラスター及びpksアイランドを有するE.coli株のサブセットで観察される
比較ゲノム分析により、EcNは、E. coli腎盂腎炎株CFT073及び無症候性細菌尿株ABU83972と密接に関連していることが示されている(18)。これらの3つ株及び参照株ATCC(登録商標)25922は、pksアイランド、iroAローカス及び遺伝子mcmL/mchA及びmcmK/mchS1を欠いた切断型Mcc遺伝子クラスターを有する。したがって、EcNで観察されたように、これらの株のシデロフォア-Mcc抗菌作用がClbP依存性であるかどうかを評価した。2つのセットのE. coli株の阻害作用をLF82と各ΔclbP変異株:i)切断型Mcc遺伝子クラスター及びpksアイランドの両方を有するEcNに類似する株:株CFT073、ABU83972及びATCC(登録商標)25922並びにii)pksアイランドを有するが、Mccコード遺伝子を欠く株:ヒト共生株M1/5、髄膜炎原因株SP15、マウス共生株NC101及びpksアイランドを有する細菌人工染色体(BAC)をホストする実験室株MG1655とに対する共培養実験で調べた。切断型Mcc遺伝子クラスター及びpksアイランドの両方を有する3つの野生型株は、EcNで観察されたように、顕著な阻害効果を示した(データを示さず)。対応する3つの全てのΔClbP突然変異株の阻害効果は著しく低下したが、ClbP補完により、最初の表現型が回復した(データを示さず)。対照的に、pksアイランドのみを有する株では、野生型株又はΔclbP突然変異体と培養したかどうかに関わらず、LF82の増殖に有意差は認められなかった(データを示さず)。累積的に、これらの結果から、pksアイランド及び切断型Mcc遺伝子クラスターの両方を有するE. coli株において、ペプチダーゼClbPが、MccH47及びMccMの抗菌活性に関与していることが示される。また、この結果から、この関連性が、病原性株及びプロバイオティックス株の両方に存在することも示される。
【0101】
E. coli集団におけるpks、サルモケリン並びにMccH47及びMccM遺伝子クラスターの分布
切断型Mcc遺伝子クラスターを有するE. coli株が、シデロフォア-Mcc依存性抗菌活性を示すことが実証された(データを示さず)。この抗菌活性には、遺伝毒性物質であるコリバクチンを産生する生合成経路からのClbP及びシデロフォアサルモケリンを産生する生合成経路からのIroBが必要である。その結果、GenBankで利用可能なゲノムを有するE. coli株において、pksアイランド、iroローカス及びMccアイランド間のこの関連性を確認した。興味深いことに、翻訳後修飾を担うmcmL及びmcmK遺伝子を欠いた株は全て、B2系統群に属し、pksアイランドを欠く株1105を除き、pksアイランド及びiroAを有していた(データを示さず)。逆に、mcmL/mchA及びmcmK/mchS1を有する株は、B1、C又はD系統群に属し、pksアイランドを欠いていた。これらの遺伝的決定因子の特別な関連性から、切断されたアイランドは、ほとんどpks及びiroAローカスを有する株にのみ存在するという仮説が導かれた。コリバクチン、サルモケリン及びシデロフォア-Mcc生合成経路間のこの相互作用は、病原性又はプロバイオティックスのいずれかである株における共選択によることが示唆される。
【0102】
Nissle clbP S95R株によるNissle 1917のプロバイオティックス活性に関与するであろう有益な化合物の産生
pksアイランドにコードされる酵素により合成されるコリバクチン以外の代謝産物は、Nissle 1917のプロバイオティックス特性に役割を有する可能性がある。代謝産物C12AsnGABAOHが、Nissle 1917野生型により産生されることが近年示された(一方、clbN突然変異体によっては産生されない。これは、pksコード機構がその産生に役割を有していることを示している)(34)。C12-Asn-GABAOHは、ニューロンにおける侵害レセプター活性化を阻害することが示された。腸管の侵害レセプターニューロンは、M細胞密度及び炎症をレギュレーションするため、腸管病原体に対する保護及び腸管のホメオスタシスに重要な役割を果たしている。このため、非遺伝毒性改変株が、Nissleの抗炎症特性に役割を有するC12AsnGABAOHの産生を保持することを確実にすることが重要である。
【0103】
Nissle 1917野生型、Nissle clbN突然変異体及びNissle clbP S95Rの細菌培養物中のN-アシル-Asn-GABAOHをHPLC-QQQ(34)により定量した。Nissle clbP S95Rは、野生型株と同様に、有益なGABAOHリポペプチドをなおも産生する(図9)。
【0104】
Nissle clbP S95Rの遺伝的安定性
Nissle clbP S95R株が遺伝的に安定であることを検証するために、マウスの強制経口投与(病原性Salmonella(67)と共に)及び糞からの再分離の前後にそのゲノムDNAを配列決定した。このゲノムを野生型株のゲノムと比較した。野生型株のゲノムも配列決定した。Nissle clbP S95R株は、野生型と比較して(5441200bpのうち)わずか2bpの変化を示した。マウス腸管通過前後のNissle clbP S95Rで差は認められなかった(データを示さず)。このため、Nissle clbP S95Rは、遺伝的に安定であると考えられる。
【0105】
議論
Flemingが、1928年にペニシリンを発見して以来、抗生物質は、ヒトの平均余命の延長に寄与してきた。以前は致死的であった多くの感染症が治癒可能となった。残念ながら、抗生物質の過剰使用及び誤用により、新たな抗菌剤の不足と並行して、多剤耐性菌が出現し、蔓延することになってしまった(52)。世界保健機関(WHO)によれば、この現象は、「世界中で罹患率及び死亡率に相当な脅威をもたらしている」(53)。この傾向は、特に、グラム陰性細菌について懸念されている。例えば、第3世代セファロスポリン抵抗性又はカルバペネム抵抗性E. coliに起因する死亡数は、2007年から2015年の間に欧州で4倍以上増加した(54)。静脈内投与用に現在開発されている抗生物質のうち、グラム陰性細菌に対してある程度の活性を示すのはごく一部(44種類中15種類)であり、これらの分子は全て、公知の抗生物質クラスに由来する。その結果、WHOは、グラム陰性細菌に対する新たな抗生物質の研究開発が「極めて重要な優先事項」であることを立証した(53)。
【0106】
新たな抗菌剤の探索において、ミクロシンは、「従来の」抗生物質に代わる有望な選択肢であると考えられる。実際、多くのミクロシンは、強力な狭域抗菌活性を示すが、抗生物質は、有益な細菌を排除し、微生物叢を変化させ、抵抗性株の選択を促進してしまう場合がある(55、56)。ミクロシンを使用する際の大きな課題は、特に、経口投与後の感染部位への十分な量の送達である。ミクロシンは、多くの場合、上部消化管で分解されるためである(57、58)。その結果、操作されたプロバイオティックス細菌が、腸管病原菌(59)と闘うか又は多剤耐性菌(60)によるコロニー形成を減少させるために、ミクロシンのin situ産生菌として提案された。
【0107】
EcNは、1世紀以上にわたってプロバイオティックスとして使用されており、多くの治療上の利点が記載されている。しかしながら、EcN投与の安全性についての深刻な懸念が、長年にわたって現れてきた。EcNは、乳児における重度敗血症の原因となることが報告されており(61)、そのゲノムは、腸外感染の原因となるE. coli株の真の毒性因子であるコリバクチン(26、27)をコードする病原性アイランドpksを有することが示された(21、35)。加えて、コリバクチン産生E. coliの保菌は、腸のホメオスタシスにも有害である場合がある。成体ラットでは、腸管上皮の透過性を亢進させ、腸管細胞に遺伝毒性損傷の徴候、例えば、陰窩分裂をもたらし、細胞増殖を亢進させた(28)。大腸ガンの素因があるマウスでは、pks陽性E. coliにより、腫瘍のサイズ及び数が増加した(31、62)。ヒトでは、pks陽性E. coliが、対照と比較して結腸直腸ガン生検で大きな比率を占めることが、幾つかの研究で報告されている(31、32、63)。全体として、これらの研究から、コリバクチン産生細菌により腫瘍形成が促進されるおそれがあることが示唆される。したがって、目標は、EcNのプロバイオティックス活性において、遺伝毒性物質であるコリバクチンの産生とpksアイランドに関連する有益な効果との相互作用を理解することであった。その結果、そのプロバイオティックス特性を維持しながら、EcNの武装解除を試みた。
【0108】
以前の試みにおいて、本発明者らは、そのプロバイオティックス活性も失った非遺伝毒性EcN PPTase ClbA突然変異体を構築した(35)。続けて、PPTase ClbAが、エンテロバクチン(及びしたがって、サルモケリン)及びイエルシニアバクチンの合成に寄与することが発見された(36)。本研究では、サルモケリン(iroB)とMcc遺伝子クラスターとの間に協調関係があることが実証された(図6)。これらは両方とも、EcNゲノムアイランドI及びpksアイランド(clbP)に位置する。織り合わせは、これらの決定因子の間で非常に強力であり、単一のタンパク質であるClbPはコリバクチン産生及びMcc産生の両方に関与する。これまで、ClbPは、プレコリバクチンからN-アシル-D-アスパラギンプロドラッグ足場を除去するペプチダーゼとしてのみ記載されていた(24、25)。ClbPの生物活性には、3つの膜貫通ヘリックスを有する完全なC末端ドメインが必要であるが、触媒活性は、N末端ペリプラズムドメインにより行われる(25、38)。本研究では、公知の酵素機能を欠くClbPのC末端ドメインが、MccH47及びMccMによるEcNの抗菌活性に必要であることが実証された。ClbP C末端膜貫通ドメインが、MchE-MchF排出ポンプを介して、EcNのMccH47及びMccMの輸送を促進することができることが示唆される(図7)。
【0109】
機能分析及びバイオインフォマティクス分析の両方を使用して、シデロフォア-Mcc、サルモケリン及びコリバクチンアセンブリ系統間の相互作用が実証された。驚くべきことに、2つの群のE. coli株が出現した。一方で、「切断型」MccH47及びMccM遺伝子クラスターを有する全ての株(すなわち、mcmL/mchA及びmcmK/mchS1を欠くEcN等の株)は、pksアイランド及びiroAローカスも有するB2株である。尿からの分離株は、この群の株(CFT073、クローンD i14及びD i2、UPEC 26-1、ABU 83972)が大きな比率を占めていたことに留意されたい。他方で、pksアイランド及びiroAローカスは、「完全な」MccH47及びMccM遺伝子クラスターを有する非B2株には存在しない。これらの株は全て、糞から分離された(起源が不明のACN002を除く)。したがって、「完全な」Mcc遺伝子クラスターを有するこれらの株は、その排他的ニッチである競合的腸内環境で生存するために、Mcc生産に特化しているという仮説を立てることができる。対照的に、腸外病原性E. coli(ExPEC)は、腸管ニッチから出現し、その後適応しなければならない他の身体部位(例えば、尿路)に感染するために、効率的な腸内生着菌でなければならない。そのため、ExPECは特殊な株ではなく、「ゼネラリスト」であることが示唆されている(64)。本研究で調べられた株は、このモデルに適合する。これらの株は、環境に応じた種々の毒性因子:例えば、MccH47及びMccM、シデロフォア並びにコリバクチン経路に由来する鎮痛性リポペプチドを発現することができる。限られた大きさのゲノムにより非常に多くの毒性因子又は適応因子を産生可能なように(65)、これらの決定因子を産生するアセンブリ系統の要素は万能であり、幾つかの明らかに独立した代謝経路に介入しなければならない。
【0110】
結論として、pksアイランドは、予想されるよりEcNプロバイオティックス活性にさらに密接に関連していることが発見された。この絡み合いは、種々の環境に適応するためのプロバイオティック決定因子及び病原性決定因子の同時進化を反映する。ClbPの酵素ドメインを特異的にターゲットとすることにより、プロバイオティックスを遺伝毒性活性から切り離すことにより、EcNの安全な使用に道が開かれる。
【0111】
【表3】




【0112】
参考文献
本願全体を通して、種々の参考文献に、本発明が属する最新技術が記載されている。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【0113】
【表4】





図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
【配列表】
2022539600000001.app
【国際調査報告】