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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-12
(54)【発明の名称】試料の撮像方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20220905BHJP
【FI】
G01N23/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500980
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2020068624
(87)【国際公開番号】W WO2021008881
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】19186052.7
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317016811
【氏名又は名称】エクシルム・エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン、ビョルン
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA09
2G001JA02
2G001JA03
2G001PA11
(57)【要約】
X線検出器(D)によって試料(S)を撮像するための方法であって、ターゲット(T)と相互作用してターゲット上のX線スポット(122)から放出されるX線放射(120)を発生させる電子ビーム(112)を提供すること(10)と、ターゲットに対して試料を移動させること(20)と、試料の移動と同時にかつ試料の移動に従ってX線スポットがターゲット上を移動するように電子ビームを偏向させること(30)と、X線スポットから放出され、試料と相互作用するX線放射を検出すること(40)とを含む方法が開示される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線検出器(D)によって試料(S)を撮像するための方法であって、
ターゲット(T)と相互作用して前記ターゲット上のX線スポット(122)から放出されるX線放射(120)を発生させる電子ビーム(112)を提供すること(10)と、
前記ターゲットに対して前記試料を移動させること(20)と、
前記試料の移動と同時にかつ前記試料の移動に従って前記X線スポットが前記ターゲット上を移動するように前記電子ビームを偏向させること(30)と、
前記X線スポットから放出され、前記試料と相互作用するX線放射を検出すること(40)と
を含む方法。
【請求項2】
前記電子ビームの移動及び前記試料の移動は、前記試料上の検査領域(180)が、前記ターゲット上での前記電子ビームの走査長さによって定義される露光時間中にX線放射によって照射されるように調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
繰り返される走査のシーケンスにおいて前記電子ビームを偏向させること(32)と、シーケンス全体の間、連続的な移動で前記試料を移動させること(22)とを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記シーケンス全体の間、実質的に一定の速度で前記試料を移動させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記X線放射が前記試料を照射する角度が、前記露光時間の間実質的に維持されるように前記電子ビームを偏向させることを更に含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記X線検出器上に形成された前記検査領域の画像が前記露光時間の間前記検出器に対して実質的に移動しないように前記電子ビームを偏向させることを更に含む、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料の移動を測定すること(24)と、前記移動に基づいて前記電子ビームの偏向を調節すること(34)とを更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記調節は、前記電子ビームが偏向されている間、基準特徴が前記X線検出器の画像平面内の固定位置に維持されるように実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
移動する試料(S)を検査するためのX線源(1)であって、
ターゲット(T)と、
前記ターゲットと相互作用して前記ターゲット上のX線スポット(122)から放出されるX線放射(120)を発生させる電子ビーム(112)を提供するように構成された電子源(110)と、
複数の繰り返される走査において前記ターゲット上に前記電子ビームを偏向させるように構成された電子光学システム(140)と、
前記電子光学システムに動作可能に接続されているコントローラ(150)であって、前記試料の移動と同時にかつ前記試料の移動に従って前記X線スポットが前記ターゲット上で移動するように、前記電子光学システムによって及び前記試料の移動を示す信号に基づいて前記電子ビームを偏向させるように構成されたコントローラ(150)と
を備えるX線源。
【請求項10】
前記コントローラは、前記試料の移動を示す前記信号を受信するように構成された入力ポートに通信可能に接続される、請求項9に記載のX線源。
【請求項11】
前記コントローラは、各走査について、実質的に一定の入射角で前記試料に衝突するX線放射で前記試料が照射されるように、前記電子ビームを偏向させるように構成されている、請求項9又は10に記載のX線源。
【請求項12】
前記コントローラは、各走査について、画像平面に形成される前記試料の画像が前記画像平面内で移動しないように前記電子ビームを偏向させるように構成されている、請求項9から11のいずれか一項に記載のX線源。
【請求項13】
試料(S)を撮像するための撮像システム(1)であって、
請求項9から12のいずれか一項に記載のX線源と、
検出器と、
前記ターゲットに対して前記試料を移動させるように構成された試料ホルダ(130)と、
前記試料の移動を示すデータを提供するように配置された位置センサ(132)と
を備え、
前記コントローラ(150)は、前記データに基づいて前記電子ビームの偏向を調節するように配置される、
撮像システム。
【請求項14】
前記試料ホルダは、前記位置センサによって検出されるように構成された基準特徴(134)を更に備える、請求項13に記載の撮像システム。
【請求項15】
前記電子光学システムは、前記ターゲット上で前記電子ビームを走査するように構成され、
前記試料ホルダは、前記電子ビームの走査中に前記試料を連続的な移動で移動させるように構成される、
請求項13又は14に記載の撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、X線放射によって試料を撮像するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮像は、例えば、医療診断及び工業検査及び品質管理において試料についての情報を取り出すためにX線放射を用いる技術である。一般に、電子ビームをターゲットに向けることで作成されたX線スポットからのX線を試料に衝突させ、X線と試料の物質との間の相互作用をX線検出器によって観察する。例えば、試料を通過するときのX線放射の減衰、又は試料の物質と相互作用するときのX線放射の散乱を分析することによって、例えば、試料の組成及び構造に関する情報を取り出すことができる。
【0003】
比較的大きな試料のX線画像を高分解能かつ短時間で取得することが課題である。これらは、多くの工業検査システムにおいて見られる要件である。画像ぼけを誘発することなく小さな特徴を解像できるようにするためには、小さなX線スポットが必要である。これは典型的には、ターゲットに衝突する電子ビームを集束させることによって達成される。スポットの異なる部分からのX線放射が試料と相互作用し、異なる角度から検出器に到達することとなるため、より大きなX線スポットは必然的に画像ぼけを誘発することとなる。しかしながら、ターゲットの過熱というリスクを冒さずにより小さいスポットに印加可能な電子ビーム出力は、より大きいスポットの場合に可能なものよりも小さくなり得るため、X線スポットをより小さくするとX線束が低下され得る。小さなスポットに印加される電子ビーム出力を増加させることは、出力密度を増加させることを意味し、これは、ターゲットに局所的な損傷を与える可能性がある。所与のスポットサイズに対して利用可能な最大X線束は、一般に、電子ビームとの相互作用によりX線放射を発生させる電子ターゲットが、過熱すること及び他の熱的に誘発される損傷を受けることなく処理することができる最大熱負荷によって制限される。従って、スポットサイズが小さくなると、画質の観点から必要とされるX線量を得るために露光時間を長くしなければならない場合がある。露光時間を長くすると、一般に、試料を検査するのに必要な総時間が長くなる。従って、分解能と検査時間との間のトレードオフを行わなければならない。
【0004】
鮮明な画像を得るためには、試料がX線源及び検出器に対して動いていない間に試料を撮像するのが正攻法である。撮像システムの視野と比較して比較的大きい試料の場合、試料又は撮像システムは、繰り返される段階的な動きを行わなければならず(すなわち、静止から開始し、目的地に移動し、停止し、誘発された振動が減少するのを待ち、それを繰り返す)、これは、検査時間を増加させることとなる。
【0005】
代替案は、試料が撮像システムに対して動いている間に試料を撮像することであり得る。しかしながら、動きによって誘発される画像ぼけを回避するために、露光時間は、画像分解能及び試料の速度によって設定される時間スケールで短くなければならず、その結果、1回の露光の間に試料が移動する距離は、画像分解能と比べて無視できる程度である。上述したように、分解能を向上させると、ぼけを回避するために、露光時間が長くなり、また、速度が遅くなり得る。速度が遅くなると、検査時間も長くなることとなる。この場合も、分解能と検査時間との間に矛盾があるように思われる。
【0006】
更なる選択肢は、試料からより多くの情報を取得するために複数の検出器を使用することであり得る。試料の画像は、各検出器から得られる画像の合計として形成され得る。しかしながら、物理的な制約により、各検出器は、試料の同じ領域をわずかに異なる角度から見ることになり、結果として得られる画像に画像ぼけを誘発することになる。
【0007】
従って、改善されたX線撮像技術が必要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、上で説明した問題を解決又は軽減することである。より具体的には、本発明は、改善された品質及びスループット時間で試料を撮像するための方法及びシステムを提供することを目的とする。
【0009】
以下の説明から明らかになるであろう、この目的及び他の目的は、添付の独立請求項による方法及びシステムによって全体的に又は部分的に達成される。従属請求項は、好ましい実施形態を定義する。
【0010】
本発明は、特定の用途又は特定のタイプの試料に限定されると解釈されるべきではない。対照的に、本発明は、X線検査が望まれる多くのタイプの試料と共に及び異なるタイプの産業用途で使用され得る。本発明の利益を得るために、本開示は、好ましくは、2次元データから取り出された2次元試料情報が特に重要である試料の分析に使用され得る。そのようなデータは、試料の実質的に1つの側面からX線放射を提供することによって得られる2次元X線画像から抽出され得る。場合によっては、例えばラミノグラフィ用途では、何らかの深度情報を提供するために、わずかに異なる角度から得られた物体の複数の2次元画像を組み合わせ得る。完全な3次元特性を有する情報を必要とする試料は、複数の方向からX線放射を提供して、試料の完全な3次元画像を再構成する断層撮像により適しているであろう。本出願は、所望の検査目的を達成するために、すなわち、短時間で大きな物体の高分解能、高品質の画像を提供するために、そのようにX線源に課される制限を説明し、保護しようとするものである。特定のタイプの試料は、異なる撮像システム構成要素、例えば、試料ホルダ及び検出器の適応を必要とし得るが、本発明によるX線源は、依然として適用可能であり得る。
【0011】
一般に、本発明は、電子ビームとターゲットとの間の相互作用により発生するX線放射によって試料を撮像するために用いることができる技術を提供する。X線放射は、試料に向けられ、検出器によって検出され得る。
【0012】
電子ビームは、ターゲットからX線放射が放出されるX線スポットが適宜動かされ得るように、ターゲットに対して偏向され得る。X線スポットの移動は、試料の移動と関連している可能性がある。そのような関係の様々な例が、本開示で説明される実施形態の目的である。例には、検出器上に投影されるような試料の画像が検出器上で移動しないように、ターゲット上のX線スポットの移動を、試料によって描写される移動の少なくとも一部と調整することが含まれる。更なる例には、例えばターゲット上での電子ビームの走査など、X線スポット及び試料の移動を特定の期間にわたって同期させること、並びに試料の移動と同時にかつ試料の移動に従ってターゲット上でX線スポットを移動させることが含まれる。
【0013】
従って、一態様では、X線検出器によって試料を撮像するための方法であって、ターゲットと相互作用してターゲット上のX線スポットから放出されるX線放射を発生させる電子ビームを提供することと、ターゲットに対して試料を移動させることと、試料の移動に従ってX線スポットがターゲット上を移動するように電子ビームを偏向させることと、X線スポットから放出され、試料と相互作用するX線放射を検出することとを含む方法が提供される。好ましくは、X線スポットは、試料によって描写される移動の少なくとも一部と同時に移動される。
【0014】
一態様では、試料を撮像するための方法であって、ターゲットと相互作用してターゲット上のX線スポットから放出されるX線放射を発生させる電子ビームを提供することと、ターゲットで発生し、試料を通過するX線放射を受けるように配置された検出器を提供することと、ターゲットに対して試料を移動させることと、試料上の検査領域の画像が検出器に対して移動しないように電子ビームを偏向させることとを含む方法が提供される。
【0015】
一態様では、移動する試料を検査するためのX線源であって、ターゲットと、電子源と、電子光学システムと、コントローラとを備えるX線源が提供される。電子源は、ターゲットと相互作用してターゲット上のX線スポットから放出されるX線放射を発生させる電子ビームを提供するように構成され、電子光学システムは、ターゲット上でX線スポットを移動させるように電子ビームを偏向させるように構成される。コントローラは、電子光学システムに動作可能に接続され、試料の移動に基づいてX線スポットがターゲット上で移動するように、電子光学システムによって及び試料の移動を示す信号に基づいて電子ビームを偏向させるように構成される。好ましくは、X線スポットは、試料の移動に従って、及びいくつかの例では、試料によって描写される動きの少なくとも一部の間、試料の移動と同時に、ターゲット上で移動される。試料の移動を示す信号は、いくつかの実施形態では、単に試料移動の速度及び方向についての情報であり得る。試料の移動が一定速度で直線的である場合、試料の移動の開始トリガが提供されると、それ以上の入力は必要とされないであろう。
【0016】
一態様では、本発明は、X線検出器によって試料を撮像するための撮像システムであって、ターゲットと、電子源と、試料ホルダと、電子光学システムとを備える撮像システムを提供する。電子源は、ターゲットと相互作用してターゲット上のX線スポットから放出されるX線放射を発生させる電子ビームを提供するように構成され、試料ホルダは、ターゲットに対して試料を移動させるように構成され、電子光学システムは、試料の移動に従ってX線スポットがターゲット上で移動するように電子ビームを偏向させるように構成される。
【0017】
一般に、本発明は、上で説明した分解能と露光時間との間のトレードオフ課題に対処し、特定の期間の間、試料に対するX線照射が試料に従って移動され得る技術を提案する。結果として、試料に対するX線照射は、試料とX線スポットとの相対移動の少なくとも一部について、試料上の固定された場所に固定されるか、又はそれに若しくはその中に衝突することができる。別の言い方をすれば、X線スポットの移動は、X線照射が少なくとも非ゼロ時間スパンにわたって試料に追従するように、非ゼロ時間スパンにわたって試料の移動と調整され得る。生成された画像の、動きによって誘発されるぼけを回避するために、試料及びX線スポットの動きは、試料及びX線スポットが移動している間も検出器に対して移動しない検出器上の検査領域の画像を作成するように調整され得る。
【0018】
いくつかの利点を挙げることができる。第1に、この技術により、試料に対するX線照射を試料に合わせて移動させるため、試料の特定の検査位置の露光時間を増加させることができる。第2に、増加した露光時間の使用により、低減された出力密度を使用することができ、これにより、X線源、特にX線源の電子ターゲットの過熱というリスクを低減することができる。第3に、X線スポットがターゲット上で移動するように電子ビームを偏向させることで、ターゲット材料の局所的な過熱というリスクを低減し、電子ビームの出力密度を増大させることができる。第4に、ターゲットに対して試料を移動させることで、試料上の複数の検査位置を順次撮像することができる。換言すると、この技術は、X線源及び検出器の視野を超える大きさを有する試料を撮像することを可能にする。第5に、検出器上の試料の画像と検出器自体との間の相対的な動きが低減されるように、又は画像が検出器上に実質的に固定されるように、ターゲット上のX線スポットの動きと試料の移動とを調整することができることで、検出器によって取得される画像の、動きによって誘発されるノイズ及びぼけを低減することができる。
【0019】
本発明は、電子光学システムが一般に、機械的手段によって達成することが可能な速度及び精度よりも高い速度及び精度で電子ビームとターゲットとの間に相対移動を引き起こすために使用され得るという認識を利用する。機械的に誘発される移動は、多くの場合、関連部品の工学公差及び慣性によって制限されるが、電子光学システムは、機械的部品の実質的な移動を必要とせずに電子ビームを偏向させることができる傾向がある。これにより、ターゲット上の電子ビームの位置ひいてはターゲットからX線放射が放出されるX線スポットを電子光学システムによって制御することができる。ターゲット上のX線スポットの動きは、例えば、試料に対する結果として得られるX線照射が試料の動きに追従するように制御され得る。正確な機械的移動を得ることに関する上述の課題に起因して、試料ホルダは、いくつかの例では、測定シーケンス中に実質的に連続的な方法で試料を移動させるように構成され得、電子光学システムは、同じ測定シーケンス中に複数回、X線スポットをターゲット上で前後に繰り返し移動させるように構成され得る。従って、測定シーケンスは複数の露光を含み得、各露光について、X線スポットを、照射が試料上の特定の検査位置に追従するようにターゲット上を順方向に移動させ、試料上の別の検査位置の次の露光が開始される前にターゲット上の開始位置に迅速に戻し得る。いくつかの実施形態では、開始位置に戻っている間、電子ビームをブランキングして、この段階中にX線放射が発生しないようにすることが好ましいであろう。X線スポットは、電子ビームがブランキングされていなければX線放射が発生していたであろうスポットに対応するであろう。
【0020】
試料の動きに従ってターゲット上でX線スポットを移動させる利点が実現されていない従来技術は、検査システムの利用可能な視野よりも大きい試料の検査を実行するために、試料及びX線源全体を互いに対して段階的に移動させることに頼らなければならない可能性がある。この技術は、本質的に、巨大な物体を加速及び減速する際の機械的制限によって制限される。典型的には、開始、移動、停止、及び誘発された振動が減少するのを待つために十分な時間が許容されなければならず、検査時間の延長につながる。検査時間を短縮しようとして、試料とX線源とが互いに対して静止する前に画像が取得される場合、残っている振動が画像ぼけを引き起こす可能性がある。本発明は、電子ビームをターゲット上で繰り返し走査しつつ、検査中に試料が連続的に移動することを可能にすることができるため、比較的短時間で試料全体の鮮明な画像を提供するという意味で有利である。更に、本発明は、各検査位置での露光時間を増加させることができるため、静止した試料上で照射を連続的な方法の動きで走査する(又は静止したX線源に対して試料を走査する)従来技術よりも有利である。この問題を軽減するために、いくつかの従来技術の解決策は、試料を繰り返し撮像するために使用される複数の検出器を含む。試料の画像は、各検出器から得られる画像の合計として形成され得る。しかしながら、物理的な制約により、各検出器は、試料の同じ領域をわずかに異なる角度から見ることになり、結果として得られる画像に画像ぼけを誘発することになる。本発明は、各検出器が画像データを記録するときに同じ角度から試料上の各検査領域を照射するように、試料に従ってX線スポットを移動させることによって、この欠点を解決する。更に、試料が固定されたX線源に対して走査される場合、画像は、試料速度に対する画像倍率でスケーリングされる速度で検出器上を移動し得る。一方、本発明に従ってX線スポットが移動される場合、検出器上の画像速度は試料速度に等しいであろう。これにより、検出器の読み出し速度に対する要件がいくらか緩和され得る。
【0021】
従って、一実施形態によれば、電子光学システムは、複数の走査においてターゲット上で電子ビームを前後に移動させるように構成され、試料ホルダは、電子ビームの1回又は数回の繰り返される走査(複数可)中に実質的に連続的な移動で試料を移動させるように構成される。いくつかの実施形態では、例えば、電子ビームをブランキングすることによって、又はそうでなければ電子ビームがターゲットと相互作用するのを防止することによって、電子ビームの逆方向への動きの間、電子ビームを制御して、この段階でX線放射が発生しないようにすることが好ましいであろう。
【0022】
一実施形態によれば、撮像システムは、試料上の特定の位置が検出器上の固定位置に投影されるような方法で電子ビームの走査中にX線照射がこの位置に追従するように、電子ビームの移動と試料の移動とを調整するように構成され得る。別の言い方をすれば、電子ビーム及び試料の移動は、走査中に試料の画像と検出器との間に相対的な動きがまったく又はほぼないように調整され得る。
【0023】
本明細書で使用される場合、「露光時間」という用語は、一般に、試料の領域が、撮像を実行するために使用されるX線放射に露光される時間スパンとして理解される。別の言い方をすれば、露光時間は、試料と相互作用するX線放射を検出器が記録する時間スパンを指し得る。
【0024】
「検査領域」又は「検査位置」という用語は一般に、好ましくはターゲット上での電子ビームの単一走査中に、検査されるべき試料上の物理的な位置又は領域を指す。従って、測定シーケンスは、試料上の複数の検査領域の測定を含み得る。
【0025】
検査領域が、互いに重なり合ってもよく、並んで配置されてもよく、又は互いから物理的に分離されてもよいことは理解されるであろう。
【0026】
検査領域の大きさ、又は面積は、いくつかの例では、X線源及び検出器の視野によって定義され得る。検査領域の大きさは、例えば、視野の大きさに等しいであろう。
【0027】
電子ビーム及びX線放射は、それぞれターゲット及び試料に一定の出力を伝達すると考えられ得る。この出力は、単位時間あたりにターゲット(又は試料)に送達されるエネルギーの総量として定義されることが知られており、単位時間あたりにターゲットに送達される電子(又は単位時間あたりに試料に送達される光子)のエネルギー及び総数(又は束)によって決定され得る。ターゲット(又は試料)の単位面積あたりの送達される出力は、出力密度と呼ばれ得、ターゲット上の電子スポット領域又は試料に対するX線照射の単位面積あたりの平均出力を表すと考えられ得る。
【0028】
X線スポット、又はX線の発生に関する関心領域は、X線放射が放出されるターゲット上の表面を指し得る。X線スポットは、ターゲット上の電子ビームスポット、ターゲットの幾何学的形状、及び/又は電子ビームに対するターゲットの向きによって定義され得る。
【0029】
「ターゲット」とは一般に、電子ビームとの相互作用によりX線放射を発生させることができるアノードを意味する。本発明の文脈において、異なるタイプのターゲットが用いられ得る。ターゲットは、例えば、X線を透過させるのに十分な薄さの透過性ターゲット、又は電子ビームが衝突する側と同じ側からX線が放出される反射性ターゲットであり得る。従って、ターゲットは、X線スポット及び電子スポットをターゲットと同じ側に位置付け可能なタイプ又は反対側に位置付け可能なタイプのいずれかであり得る。X線スポットの大きさは、X線を受けるために用いられるX線光学素子の視野及び/又は検出器の視野によって制限されると考えられ得る。
【0030】
更に、ターゲットは、例えば液体金属のジェットから形成されるいわゆる液体ターゲット、又は固体ターゲットであり得る。固体ターゲットは、静止型であっても回転型であってもよい。
【0031】
添付の特許請求の範囲の目的のために、「検出器」又は「センサ」は、検出器に衝突するX線放射の存在(及び、適用可能であれば、出力又は強度)を検出するのに適した任意の手段を指し得る。それはまた、そのような検出器の一部を指し得る。いくつかの例を挙げると、検出器は、電荷感知領域、光センサと組み合わされたシンチレータ、又は光センサと組み合わされた発光材料であり得る。検出器は、X線光子と半導体との間の相互作用によって作られる電子-正孔対が収集される直接検出器であり得る。検出器は、X線放射をCCD又はCMOSセンサによって検出され得る可視光に変換するためにシンチレータが使用される間接検出器であり得る。いくつかの実施形態では、検出器は、ラインスキャン検出器又は時間遅延積分(TDI)検出器であり得る。TDI検出器は、試料の画像が1つの検出器ラインから次の検出器ラインに移動すると、積分された電荷が画像に合わせて移動して、向上した分解能を提供することができるように、試料が走査され得る複数の線形検出器アレイを含み得る。
【0032】
検出器は、添付の独立請求項に定義されるシステムの一部を形成し得るか、又は別個のエンティティの一部を形成し得る。更に、検出器は、ターゲットに対して静止していてもよいし、移動可能であってもよい。いくつかの例では、検出器は、例えば、検出器上に投影される検査領域の動きに追従するように、試料の動きに合わせて移動し得る。
【0033】
データは、電子ビームによって実行される走査ごとに少なくとも1回、検出器から読み出され得る。好ましくは、撮像システムは、検出器読取値が1回の走査からのデータだけを含むように配置され得る。一実施形態では、データは、走査の合間に、すなわち、電子ビームがある走査の終了位置から次の走査の開始位置に移動されるときに、検出器から読み出され得る。検出器からデータを読み出すのに要する時間が、ある走査の終了位置から次の走査の開始位置まで電子ビームを移動させるのに要する時間よりも長い場合、検出器は、走査間の許容時間に下限を設けることができる。そのような場合、X線システムは、検出器がデータの記録を再び開始することができる状態になるまで次の走査が開始されないように制御され得る。一実施形態では、連続した検査領域は、検出器が常にデータを記録することができない場合であっても、試料の全ての又は実質的に全ての位置が検査されることを確実にするために重なり合うように配置される。
【0034】
一実施形態によれば、撮像システムは、試料の移動又は位置を示すデータを提供するように配置された位置センサと、センサデータに基づいて電子ビームの偏向を調節するように配置されたコントローラとを更に備え得る。これにより、試料の移動を監視することができ、監視された試料の移動に基づいてX線スポットの移動を制御又は少なくとも調節することができる。
【0035】
一実施形態によれば、試料ホルダは、位置センサによって検出されるように構成された基準特徴を備え得る。基準特徴は、例えば、X線放射との相互作用の結果得られる信号にコントラストを生成することができる構造又は幾何学的に異なる領域であり得る。従って、位置センサは、一実施形態では、基準特徴と相互作用するX線放射を検出するように構成され得る。一実施形態では、位置センサは、試料を撮像するために使用される検出器から形成され得る。撮像システムは、検出器上に形成された基準特徴の画像が走査中に検出器に対して移動しないように電子ビームの移動を調節するように構成され得る。
【0036】
一実施形態によれば、位置センサは、光学センサ、磁気センサ、誘導センサ、容量センサ、及びレーザ干渉計の要素のうちの少なくとも1つを備え得る。
【0037】
一実施形態によれば、電子ビームは、常にターゲットに衝突しないように試料の移動に従って移動させることができる。電子ビームは、ターゲットに短時間衝突してX線スポットを作成するように配置され得、残りの時間は、試料と相互作用して検出器に到達するX線放射が作成されない位置に向けられる。別の言い方をすれば、X線フラッシュを発生させることができる。この位置は、ターゲットの一部として配置され得るか、又はターゲットから離れて配置され得る。この実施形態は、試料の動き及び撮像システムの分解能によって定義される時間スケールで測定される、必要な露光時間が短い場合に有利である。必要とされる信号対ノイズ比を有する画像を作成するのに十分な線量が、動きぼけを生成しない程度に短い時間で提供され得る場合、この実施形態は、制御された様式で試料ホルダを移動させることに対する要件がいくらか緩和され得る代替案を提供し得る。この場合、試料ホルダの速度の意図しない変動は、画像ぼけに対して無視できる程度の寄与を与える可能性がある。この実施形態は更に、熱負荷がある閾値を上回ると気化する危険性があるが、次の露光に間に合うように新しいターゲット表面を再生する能力を有する液体ターゲットを含み得る。
【0038】
開示される技術は、X線システムに上述の方法を実行させるようにプログラム可能なコンピュータを制御するためのコンピュータ可読命令として具現化され得る。そのような命令は、命令を記憶する不揮発性コンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品の形態で分配され得る。
【0039】
上記の第1の態様による方法について上で説明した実施形態における特徴はいずれも、本発明の第2及び第3の態様による方法と組み合わせられ得、逆もまた同様であることは理解されるであろう。
【0040】
本発明の更なる目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な開示、図面、及び添付の特許請求の範囲を検討することによって明らかになるであろう。当業者は、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に記載されるもの以外の実施形態を作成することができることを理解するであろう。
【0041】
次に、添付の図面を参照して、例示の目的で本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本発明のいくつかの実施形態による撮像システムの概略断面側面図である。
図2図2は、いくつかの実施形態による、ターゲット、試料、及び検出器の概略斜視図である。
図3図3は、本発明のいくつかの実施形態による、撮像システムのターゲット、試料、及び検出器の概略図である。
図4図4a~cは、一実施形態によるX線スポットと試料との相対的な動きの概略図である。
図5図5は、いくつかの実施形態による方法を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
全ての図は概略的であり、必ずしも縮尺通りではなく、概して本発明を説明するために必要な部分だけを示しており、他の部分は、省略され得るか、又は示唆されるだけである。
【0044】
ここで図1を参照すると、本発明のいくつかの実施形態による撮像システム1の断面側面図が例示されている。
【0045】
撮像システム1は、電子ビーム112を発生させるための電子源110を有するX線源100を備える。電子源110は、例えば、電源(図示せず)によって電力供給され、熱電界又は冷電界荷電粒子源などの電子エミッタを含むカソードを備え得る。典型的には、発生した電子ビーム112の電子エネルギーは、約5keV~約500keVの範囲であり得る。電子源110によって発生した電子ビーム112は、加速アパーチャに向かって加速され得、その後、電子ビーム112の方向を制御するための電子光学システム140に入射する。電子光学システム140は、例えば、偏向板及び/又は静電整列板及び電磁レンズの配置を備え得る。電子光学システム140の可変特性は、コントローラ150によって提供される信号によって制御され得る。例示される例では、電子光学システム140は、電子ビーム112がターゲットT上で少なくとも1つの次元で走査されることができるように、電子ビーム112を少なくとも矢印Pで示す方向に偏向させるように動作可能である。
【0046】
電子光学システム140の下流で、出射電子ビーム112は、電子ビーム112との相互作用によりX線放射を発生させるためにターゲットTと交差し得る。ターゲットは、例えばタングステンターゲットであり得、透過性ターゲットとして動作することがきる厚さであり得る。図1に示されるように、電子ビームは、ターゲットTの1つの表面、すなわち、電子源110及び電子光学システム140に面する表面に衝突し得、出射X線放射120は、反対側からターゲットTから放出され得る。結果として、X線放射120は、電子ビーム112と実質的に同じ方向に放出され得る。
【0047】
ターゲットTの表面に電子ビームが衝突するターゲットTの領域は、ターゲットT上に形成された電子スポットと呼ばれ得る。更に、出射X線放射120が放出されるターゲットTの表面の領域は、ターゲット上のX線スポット122と呼ばれ得る。電子光学システム140は更に、電子ビームをターゲット上に集束させて電子スポットの大きさを設定するように動作可能であり、これによりX線スポットの大きさが決定される。本例では、ターゲットTの反対の面における電子スポットの位置を移動させることにより、X線スポット122の位置が変化し得る。従って、ターゲットT上で電子ビームを走査することによって、それに応じてX線スポット122を走査することができる。X線源100全体を移動させるよりも、電子光学システムによってX線スポットを移動させる方が一般にはるかに容易であることに留意されたい。
【0048】
次いで、ターゲットT上のX線スポット122から放出されたX線放射120は、X線源100の下流方向に、及び、試料Sと相互作用するか、又は少なくとも試料Sを通過するX線放射120を受けるための検出器DとターゲットTとの間に配置され得る試料Sに向かって伝搬し得る。従って、試料は、露光時間とも呼ばれ得る特定の時間スパンにわたってX線放射によって照射され得るように配置され得る。
【0049】
試料Sは、ターゲットTに対する試料Sの位置を制御するための試料ホルダ130に配置され得る。好ましくは、試料ホルダ130は、ターゲットTから放出されたX線放射120を試料S上の異なる位置に衝突させることができるように、ターゲットTに対して試料Sを移動させるように構成される。試料S上の関心領域、すなわち検査又は撮像されるべき領域は、検査領域又は検査位置と呼ばれ得る。ターゲットTに対して試料Sを移動させることによって、異なる検査領域がX線放射120によって露光され得る。従って、X線源100及び検出器Dの視野よりも大きい試料を撮像することが可能である。
【0050】
試料Sを通過するX線放射120を受けるように試料Sの下流に配置され得る検出器Dは、エリアイメージセンサ(CCD又はCMOS)及びシンチレータを備え得る。イメージセンサは、シンチレータ(FOS)を有する光ファイバプレートに結合され得る。検出器は、センサチップ上に集積された追加の機能を有するフラットパネルセンサを備え得る。データは、直接、又は例えば時間遅延積分(TDI)などの何らかの内部処理の後に検出器から取り出され得る。本実施形態では、検出器Dは、ターゲットTに対して固定され得る。しかしながら、検出器Dは、移動可能又は調節可能でもあり得、これにより、検出されるべきX線放射に対してシフトされることができることは理解される。特定の実施形態では、試料の移動に従って得られたデータをシフトする能力を有する検出器を提供することが有利であり得る。これは、試料の一部を繰り返し撮像することに事実上対応する。従って、検出器を移動させる代わりに、検出器上で画像データを移動させる。X線放射120が検出器に衝突すると、検出器D上に試料Sの検査領域のX線投影が形成され得る。
【0051】
追加的に、位置センサ132を用いて、試料Sの位置及び/又は移動を検出し得る。位置センサ132は、例えば、センサの位置に対するホルダの基準面の位置を測定し得る誘導センサ又は例えばレーザ干渉計のような光学センサを備え得る。結果として得られたセンサ信号は、システムの動作、特に電子光学システムの動作を制御し、ターゲットT上の電子ビーム112の偏向、そして試料Sの位置を制御する試料ホルダ130を制御するためのフィードバック又は入力として使用され得る。制御動作及びプロセスは、有線で又はワイヤレスでシステム1の残りの部分に動作可能に接続され得るコントローラ150によって実行され得る。試料の動きを示すコントローラによって受信された信号は、必要とされる制御のレベルに応じて異なる特徴を有し得る。いくつかの実施形態では、試料の連続的な動きの開始を示すか、又は試料が既知の位置にあることを示すインデックスパルスで十分であり得る。他の実施形態は、試料の位置又は速度に対応する入力信号を備え得る。X線源は、コントローラに通信可能に接続され、試料の位置を示す入力信号を受信するように配置された入力ポートを備え得る。代替的に、撮像中に位置センサ132と電子光学システム140との間にフィードバック接続がない。この場合、試料ホルダ130は、所定のスキームに従って試料Sを移動させ、電子光学システム140は、他の所定のスキームに従ってX線スポットを移動させるように構成され得る。これらのスキームは、例えば、較正プロセスにおいて決定され得る。試料の位置を示す信号は、試料の移動の速度及び方向を示す信号であり得、これは一定であり得る。
【0052】
好ましい例となる実施形態では、電子光学システム140は、電子ビーム112がターゲットT上で(図の紙面の向きに関して)垂直方向に偏向されるように動作され得る。電子ビームをターゲット表面上の下方位置から上方位置に移動させることは、単一走査と呼ばれ得る。結果として、電子ビーム112によって生成されたX線スポット122は、それに応じてターゲットT上で走査され得る。静止した試料S、すなわちターゲットTに対して固定された位置を有する試料の場合、ターゲットT上での電子ビーム112の偏向により、試料Sは、それに応じてX線放射120によって走査されることになる。従って、複数の検査領域又は拡大された検査領域が検出器Dによって撮像され得る。
【0053】
しかしながら、いくつかの実施形態では、試料SはX線スポット122の移動に従って移動され得、逆もまた同様である。好ましくは、試料Sの移動及びX線スポットの移動は、結果として得られるX線放射120が試料S上の検査領域に追従するように調整され得る。従って、電子光学システム140及び試料ホルダ130は、試料に対するX線放射120によって生成されるX線照射124が、電子ビーム112の走査中、試料に対して実質的に固定されるように動作され得る。その結果、試料Sの特定の領域は、増加した露光時間の間、X線放射に露光され得る。
【0054】
電子光学システム140は、電子ビームの走査全体の間、X線照射124が試料の動きに追従することを可能にするように構成され得る。従って、試料が実質的に連続した経路を辿る場合、電子ビームは、好ましくは一定の速度で、それに応じて移動し得る。しかしながら、ターゲットTは(走査方向に見て)有限の長さを有するため、電子ビームがターゲット表面上の終端位置に到達したときに走査を終了しなければならない。電子ビームは、物理的及び/又は幾何学的制約によって定義され得る2つの端点を有する偏向範囲を有すると考えられ得る。終端位置に到達すると、電子光学システムは、電子スポットを偏向範囲の他方の端点を表し得る初期位置に戻す。この戻り動作は、システムが画像データを生成することができない時間を短縮するために、また、電子スポットの戻り中にもその移動を継続する試料の場合には、電子スポットの戻り動作中に試料Sが移動する距離を短縮するために、走査速度よりも速い速度で実行され得る。いくつかの実施形態では、戻り動作中、電子ビームをブランキングして、この段階中にX線放射が発生しないようにすることが好ましいであろう。
【0055】
試料ホルダ130は、試料を支持するステージを備え得る。ステージは、例えば、X線放射が試料Sを通過して検出器Dに向かうことを可能にしながら、試料に機械的支持を提供するためのプレート又はフレームで形成され得る。更に、試料Sをステージに固定するために、クランプ136などの取付け手段が設けられ得る。図1の本例に示されるように、試料ホルダ130は、ガイドレール137などの案内手段を備え得、それに沿って、試料が、ターゲットTに対して前後に移動され得る。ガイドレール137に沿った試料の動きは、コントローラ150によって制御され得るモータ138によって実現され得る。
【0056】
試料ホルダ130は、試料Sの機械的移動に対する安定性及び機械的支持を提供するハウジング170内に取り付けられ得る。検出器Dは、いくつかの実施形態では、検出器D及び試料ホルダ130の位置合わせ及び相対的位置付けを容易にするために、同一ハウジング170内に取り付けられ得る。
【0057】
図2は、図1に開示されるシステムに類似した撮像システムの一部の概略断面図である。本図では、例示的なシステムのターゲットT、試料S、及び検出器Dが開示されている。電子ビームは、第1の端点a’及び第2の端点a’’によって制限される偏向範囲にわたって偏向され得る。図2において、第1の端点a’は、実線112’で描かれた電子ビームの位置によって例示されており、偏向範囲の第2の端点a’’は、破線112’’で描かれた電子ビームによって例示されている。結果として、ターゲットT上の電子スポットは、ターゲット上の異なる位置に形成されることとなり、それに応じてターゲットT上の異なる位置にX線スポットが形成される。適宜、好ましくはX線放射が試料Sに衝突する位置が全偏向範囲にわたって同じになるように試料を移動させることによって、試料のその位置における露光時間が、全範囲にわたる偏向の間持続するように延長され得る。この状況は図2に例示されており、図2では、試料の位置、ひいては試料S上の検査領域180は、電子ビームが偏向範囲の第1の端点に配置される場合には実線で示され、電子ビームが偏向範囲の第2の端点にある場合には破線で示されている。本例では、検出器Dは、ターゲットTに対して静止しているため、X線投影は、偏向範囲のそれぞれの端点において検出器D上の異なる位置に衝突することとなる。しかしながら、例えば、試料及び/又は検出器の画像平面上に投影されるようなX線投影の移動に追従するか又は少なくとも部分的に追従し得るように、検出器Dも移動するように構成され得ることは理解されるであろう。静止した検出器を用いる実施形態では、同じ検査領域に対応する異なる時間に検出器の異なる部分から得られたデータを組み合わせて最終画像を形成することができる。これは、検出器の画素サイズに対応する距離だけ試料を移動させるのに要する時間に対応する速度で検出器からデータを読み出すことによって実現され得る。誘発される画像ぼけが特定の用途に対して許容可能であれば、より低い読み出し速度が使用され得る。代替案は、検出器内に含まれるセンサチップ上で時間遅延積分を実行することであり得、この場合、画像データは蓄積され、画像がセンサ上を移動するのと同じ速度でセンサチップ上を移動する。X線スポットが、少なくとも時間の一部にわたって、試料と実質的に同じ速度で移動される実施形態では、画像は、倍率にかかわらず、試料と実質的に同じ速度で検出器上を移動し得る。
【0058】
一実施形態では、試料は、測定のシーケンスを生成するために、第1の方向、好ましくは電子ビームの偏向方向に沿って複数の連続的な走査動作で移動され得、各連続的な走査動作の間に、第2の方向、好ましくは第1の方向に直交する方向に段階的に移動され得る。このようにして、比較的大きな試料は、物体がさらされる加速及び減速の回数が少ないままで、比較的高い分解能及び比較的高い速度で検査され得る。
【0059】
次に、例示的な仮定及び計算を参照して、X線スポット及び試料の様々な移動スキーム、並びにそのような移動に基づく撮像方法についてより詳細に説明する。追加的に、ターゲットTと試料Sと検出器Dとの間の可能な関係を例示する図3を参照する。
【0060】
試料Sが速度vで移動し、距離dだけ分離された検査位置180を含む場合、X線スポット122は、積分時間ti(露光時間とも呼ばれる)にわたって一定の速度で移動され得る。更に、X線スポット122は、搬送時間ttrにわたって速度vtrで反対方向に移動され得る(電子ビームひいてはX線スポット122が偏向範囲の一方の端点から他方の端点に戻されるため)。好ましくは、積分時間tと搬送時間ttrとの和は、試料Sが距離dを移動するのに要する時間以下である。試料Sに合わせて移動するときにX線スポット122がターゲットT上で移動する距離が、戻るときに反対方向にX線スポット122が移動する距離に等しいと考慮すると、以下の表記が成立する:
【数1】
【0061】
このことから、X線スポット122が、戻り中に、すなわち走査の合間に比較的高い速度で移動され得る場合、搬送時間ttrは比較的短くなることが分かる。X線スポット122の動きは、電子ビームを偏向させることによって生じるため、戻り動作は、試料Sを機械的に移動させる速度に比べて非常に速い速度で実行され得る。更に、X線スポット122を試料Sに合わせて移動させる時間と戻す時間の和は、好ましくは、2つの検査位置180の間で試料Sを移動させるのに要する時間よりも短い必要があるため、以下の関係が成立する:
【数2】
【数3】
【0062】
これは、特定の速度vで移動する所与の試料Sについて、積分時間tに上限があることを意味する。速度vtrが試料Sの動作速度と比べて比較的大きい場合、分母の第2項は無視され得、積分時間tは、試料Sを移動させるのに要する時間に等しく設定される。一方、積分時間tが制限因子と見なされる場合、vについて不等式を解くことができる:
【数4】
ここで、近似は上述の状態の間に得られる。
【0063】
検出器Dが移動されるかどうか及びどのように移動されるかが異なるいくつかの実施形態が可能である。
【0064】
一実施形態では、検出器Dは、ターゲットTに対して固定され得、X線スポットの走査は、各検査位置180の画像が走査の持続時間にわたって検出器上で移動しないように調節される。これは、X線スポット122がターゲット上を移動する距離が、検査位置180が移動する距離よりもわずかに長いことを意味する。この概略図が図3に示されており、ここで、Aはターゲット上のX線スポットから試料Sまでの距離であり、Bは試料Sから検出器Dまでの距離である。
【0065】
画像が検出器D上で移動しないことは、走査の開始時は、X線スポット122が(試料の動きの方向に見て)検査位置180のわずかに後方にあるべきであり、走査の途中では、X線スポット122が検査位置180と位置合わせされるべきであり、走査の終了時には、X線スポット122が検査位置180のわずかに前方にあるべきであることを意味する。これは、図4a~4cに描写される時系列によって更に例示されており、ここで、図4aでは、X線スポット122が検査位置180のわずかに左に配置されており、図4bでは、それらは垂直に位置合わせされており、図4cでは、X線スポット122は検査位置180のわずかに右に配置されている。これは、X線スポットが、積分時間(t)中、物体の速度(v)よりも高い速度(vspot)で移動すべきであることを意味する。合同な三角形を考慮することによって、以下のように書くことができる:
【数5】
【数6】
【0066】
図4a~cは、X線スポット122がターゲットT上の第1の端点a’(図4a)からターゲットT上の第2の端点a’’(図4c)に移動されるときに、検出器D上に投影される試料Sの検査領域180の画像が検出器D上で移動しないように、X線スポット122及び試料Sが移動される撮像方法を実行する、図3のものと同様の撮像システムを概略的に例示する。端点a’、a’’は、電子光学システムが電子ビーム(図示せず)を偏向させるように構成され得る偏向範囲の端点を表すと考えられ得る。本実施形態では、検出器Dは、ターゲットTに対して静止していてもよい。結果として、検査領域180は、露光中、検出器Dの画像平面上に異なる角度で投影され得る。図4a及び図4cでは、X線スポット122は偏向範囲の端点a’、a’’に位置し、検出器D上に検査領域を斜めに投影するが、図4bでは、X線スポット122、検査領域180、及び検出器Dが検出器の画像平面に対する法線と位置合わせされた状況が例示されている。
【0067】
場合によっては、特に、図4a~4cに関連して上述したように、わずかに異なる角度から露光されたときに試料の厚さが許容できないぼけをもたらす場合、移動する検出器を含む実施形態が好ましいであろう。そのような実施形態の一例では、検出器は、試料と同期して移動するように配置される。X線スポットは、試料の動作方向に沿って試料及び検出器と同じ速度で移動され得、もう一方の方向にはより速い速度で移動され得る。従って、X線スポットは、1つの走査長(図2の位置a’及びa’’に対応する)にわたって試料及び検出器を追従し、次いで、次の走査を行うために開始位置a’に戻ることができる。このようにして、検査領域180は、露光中、検出器Dの画像平面上に実質的に同じ角度で投影され得る。この実施形態は、画質を向上させることができるが、試料全体をカバーする露光に対応するためにより大きな検出器を必要とし得る。更に、この実施形態は、検出器を試料と共に又は同期して移動させるための手段を必要とし得る。
【0068】
一実施形態では、検出器Dは、試料Sの動きに合わせて移動され得る。これは、各走査中に実質的に一定の視野角を提供することができるが、画像全体に対応するために比較的大きな視野を有する検出器Dを必要とする。異なる検査位置180を異なる角度で見ることが許容可能であれば、より小さい視野を有する検出器が使用され得る。この場合、X線スポット122は、各走査中、各検査位置180の画像が検出器に対して移動せず、更に各走査中、視野角が実質的に一定に維持されるように移動され得る。しかしながら、連続的な走査は、異なる検査位置180に対して異なる視野角で実行され得る。
【0069】
X線スポット122の走査が試料Sの実際の移動と一致することを確実にするために、フィードバックループが提供され得る。次いで、X線スポット122の動きは、試料又は試料ホルダ(図示せず)の測定された動きに基づいて調節される。これにより、試料Sの移動で生じる誤差が補償され得るという利点が得られる。そうでなければ、記録された画像は、アーチファクトに悩まされる可能性があり、例えば、特徴は、移動方向において実際よりも長く知覚される可能性がある。更に、アクティブフィードバックは、例えば、試料の異なる部分が異なる積分時間を必要とする場合、より複雑な動きパターンを可能にし得る。
【0070】
一実施形態では、検出器は固定され得、画像データは蓄積され、X線スポットが試料の動きに追従する際、試料の移動に従ってシフトされ得る。このようにして、検査領域180は、露光中、検出器の画像平面上に実質的に同じ角度で投影され得る。更に別の実施形態では、画像データは、画像が画像平面内で1ピクセル移動するのに要する時間に対応する速度で検出器から抽出される。従って、1回の走査中に生成される画像は、試料及びX線スポットが互いに同期して移動する間に取得される、検出器に対してそれぞれいくらかシフトされた一連の画像の合計である。更なる実施形態では、各段階中に検出器上での試料上の検査領域の投影が検出器に対して実質的に固定され、次の走査ステップが、前の段階中の試料の移動に対応する前のステップからのオフセットを伴って開始されるように、X線スポットを段階的にターゲット上で走査することができる。このようにして、検査領域の視野角は、各段階について実質的に同じになる。試料は依然として連続的に移動され得、走査段階の長さは、試料の動きが検出器の画素サイズに対応するように選択され得る。従って、検出器上の投影が走査段階のうちの1つの間に移動しないように走査速度を選択することによって、画素のぼけを回避することができる。別の言い方をすれば、X線スポットの平均速度は、試料の速度に実質的に等しくなるが、X線スポットの走査速度は、上述したように、ターゲットと検出器との間の距離をターゲットと試料との間の距離で除算することによって与えられる係数だけ高くなるであろう。X線スポットが利用可能な走査範囲の終端に到達した場合、利用可能な走査範囲の始端に戻され得、プロセスが再開され得る。
【0071】
図4a~cは、検査領域の露光中に試料が実質的に一定の速度vで移動するときの検査領域180、検出器D、及びターゲットTの相対位置を例示する。従って、露光時間は、電子ビームがターゲットT上で端点a’から端点a’’まで走査を実行するのにかかる時間として定義され得る。電子スポットを第1の端点a’に戻すことによって、好ましくは試料の別の検査領域に第2の露光が実行され得る。後続の検査領域の位置は、試料の移動によって決定され得る。試料が前回の走査から動き続けている場合、後続の検査領域は、試料S(及びX線スポット122)の移動方向に見て、前回の検査領域の隣に配置され得る。しかしながら、試料Sが、撮像されるべき次の領域の位置に応じて、他の方向にも移動され得ることは理解されるであろう。
【0072】
次に、図5を参照して、X線検出器Dによって試料Sを撮像するための方法について説明する。本方法は、先に開示された実施形態のいずれかによる撮像システムによって実行され得る。本方法は、ターゲットTと相互作用してX線放射120を発生させる電子ビーム112を提供すること10と、試料Sを通過するX線放射を受けるための検出器Dを提供すること12と、ターゲットTに対して試料Sを移動させること20とを含み得る。試料Sは、例えば、画像のシーケンス全体の捕捉中に連続的な移動で移動され得る22。試料Sの移動の間、試料の移動及び/又は位置は、例えば干渉計によって、又は試料自体に若しくは例えば試料ホルダに設けられた基準特徴の位置を監視することによって測定され得る24。試料Sが試料ホルダによって移動されると、電子ビームは、X線スポットが試料Sの移動に従ってターゲットT上を移動するように偏向され得る30。電子ビームは、例えば、好ましくは試料Sがシーケンス全体にわたって実質的に一定の速度で移動されている間に、X線スポットがターゲットT上で走査のシーケンスを描写するように偏向され得る32。一実施形態では、試料Sの移動が測定され得24、測定された試料の移動に基づいて電子ビームの偏向が調節され得る34。最後に、試料Sと相互作用するX線放射が検出器によって検出され得40、そこにおいて、X線放射は、検出器Dの画像平面上に投影されたターゲットTの検査領域180の画像を描写し得る。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
【国際調査報告】