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特表2022-539628HPV E6特異性およびPD-1遮断性を有する二重機能性改変T細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(54)【発明の名称】HPV E6特異性およびPD-1遮断性を有する二重機能性改変T細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220906BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220906BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220906BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220906BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20220906BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220906BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/113 Z ZNA
C12N5/10
C07K16/18
C12N15/867 Z
A61K35/17 Z
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531623
(86)(22)【出願日】2019-08-10
(85)【翻訳文提出日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 US2019046076
(87)【国際公開番号】W WO2020036834
(87)【国際公開日】2020-02-20
(31)【優先権主張番号】62/717,787
(32)【優先日】2018-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/731,329
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521063052
【氏名又は名称】ティーシーアールキュア バイオファーマ コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】521232359
【氏名又は名称】グアンドン ティーシーアールキュア バイオファーマ テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】リ シ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087DA20
4C087DA31
4C087NA05
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、全体として、改変細胞およびその組成物に関し、特に、遺伝子改変されたT細胞受容体(TCR)およびチェックポイント阻害因子(CPI)を含むT細胞に関する。がんを処置するために当該組成物を使用するための方法も本明細書に開示される。遺伝子改変T細胞は、腫瘍抗原HPV E6を認識し、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)を遮断する単鎖抗体を同時に分泌する。HPV E6発現関連がんに対する免疫療法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)HPV由来の抗原に特異的に結合する遺伝子改変抗原受容体;および
(b)腫瘍における抑制性受容体の機能または発現を低下させる抑制性タンパク質
をコードする核酸を含む、改変T細胞。
【請求項2】
前記抗原が、E6またはE7を含む、請求項1記載の改変T細胞。
【請求項3】
腫瘍標的が、PD-1のうちの1つまたは複数を含む、請求項1記載の改変T細胞。
【請求項4】
前記抑制性タンパク質が抗PD1抗体である、請求項3記載の改変T細胞。
【請求項5】
前記抗PD1抗体が単鎖抗体である、請求項4記載の改変T細胞。
【請求項6】
前記抗PD1抗体が、
モチーフ配列:1)GYTFTNYYである重鎖CDR1、INPSNGGTである重鎖CDR2、およびTRRDYNYDGGFDYである重鎖CDR3;2)KSVSTSGFNである軽鎖CDR1、LASである軽鎖CDR2、およびQHGRELPLTである軽鎖CDR3
を含む、請求項5記載の改変T細胞。
【請求項7】
抑制性核酸分子が、PD1をコードする核酸に相補的な配列を含む、請求項1~6のいずれか一項記載の改変T細胞。
【請求項8】
抑制性核酸分子が、PD1をコードする核酸に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項1~6のいずれか一項記載の改変T細胞。
【請求項9】
前記抑制性タンパク質または抗体が、構成的に発現される、請求項1~6のいずれか一項記載の改変T細胞。
【請求項10】
前記抑制性タンパク質が、構成的に発現される抗体PD1である、請求項9記載の改変T細胞。
【請求項11】
(a)HPV由来の抗原に特異的に結合する遺伝子改変抗原受容体をコードする核酸;および
(b)腫瘍における抑制性受容体の発現を低下させる抑制性核酸分子
を含む、核酸。
【請求項12】
前記抗原受容体が、HPVのE6である、請求項11記載の核酸。
【請求項13】
腫瘍標的がPD1である、請求項12記載の核酸。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項記載の核酸によってコードされる、ポリペプチド。
【請求項15】
請求項11~13のいずれか一項記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項16】
レトロウイルスベクターである、請求項15記載のベクター。
【請求項17】
遺伝子改変T細胞を産生する方法であって、T細胞を含む細胞集団にベクターを導入する段階を含み、該ベクターが、
1)第1の抗原に特異的に結合する遺伝子改変抗原受容体をコードする核酸であって、第1の抗原受容体がHPVのE6受容体を特異的に標的とする、核酸、
(b)1つまたは複数の条件下でインキュベーションすると、集団中のT細胞におけるPD-1もしくはPD-L1の発現の低下をもたらすこと、および/またはPD-1もしくはPD-L1のアップレギュレーションを抑制することができる抑制性タンパク質をコードする核酸分子
を含む、方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか一項記載の改変T細胞と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項19】
がんを処置するための方法であって、それを必要とする対象に治療有効量の請求項18記載の薬学的組成物を投与する段階を含む、方法。
【請求項20】
前記がんが、子宮頸がんまたは頭頸部がんである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
化学療法または放射線照射を含む既存の治療法の治療有効量を前記対象に施す段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
細胞および既存の治療法が、順次または同時に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍が、リンパ球または腫瘍浸潤リンパ球を含む、請求項1記載の改変T細胞。
【請求項24】
前記腫瘍が、リンパ球または腫瘍浸潤リンパ球を含む、請求項11記載の核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年8月11日に出願された米国仮出願第62/717,787号および2018年9月14日に出願された米国仮出願第62/731,329号の優先権を主張し、これらの出願の両方の開示は、それらの全体で参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、全体として、改変された細胞およびその組成物、特に遺伝子改変されたT細胞受容体(TCR)およびチェックポイント阻害因子(CPI)を含むT細胞に関する。がんを処置するために組成物を使用するための方法もまた、本明細書に開示される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本明細書中のすべての刊行物は、各個別の刊行物または特許出願が具体的および個別に参照により組み入れられると示された場合と同じ程度に参照により組み入れられる。以下の説明は、本発明の理解に有用であり得る情報を含む。それは、本明細書に提供される情報のいずれかが目下主張される発明に対する先行技術であるもしくはそれと関連性があるという、または具体的もしくは黙示的に参照される任意の刊行物が先行技術であるという承認ではない。
【0004】
例えば子宮頸がんなどのいくつかの種類のがんの主因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染である。化学療法などの処置の進歩にもかかわらず、HPV関連がんを含む多くのがんの予後は不良な場合がある。したがって、がん、特にHPV関連がんに対する追加的な処置のまだ満たされていないニーズが存在する。
【0005】
HPV16は、悪性腫瘍にもっとも一般的に関連するHPVのサブタイプである。特定の理論またはメカニズムに縛られるわけではないが、HPV16は、少なくとも一部は、細胞周期の制御を調節解除する腫瘍性タンパク質E6の作用によりがんを引き起こすと考えられている。HPV16 E6は、がん細胞において構成的に発現され、正常な未感染のヒト組織によって発現されない。HPV16E6は、子宮頸部、中咽頭、肛門、肛門管、直腸肛門、膣、外陰、および陰茎のがんを含むが、それに限定されるわけではない多様なヒトのがんに発現される。
【0006】
T細胞受容体は、任意のHPV16 E6タンパク質に対して抗原特異性を有する場合がある。がんに対する免疫療法の一様式としての養子細胞移入(ACT)は、血液悪性腫瘍および悪性黒色腫を処置することに顕著な成功を示している。キメラ抗原受容体(CAR)を発現してCD19およびGD2などの腫瘍関連抗原(TAA)を特異的に標的とする遺伝子操作T細胞を使用する、特に有効な形態のACTは、B細胞悪性腫瘍および神経芽腫などの疾患を処置するための臨床試験において有望な結果を示している。
【0007】
天然のT細胞受容体(TCR)とは異なり、CARは、細胞内T細胞シグナル伝達ドメインおよび共刺激ドメインと融合した細胞外抗原認識ドメインからなる人工受容体である。CARは、主要組織適合クラス(MHC)非依存的に細胞表面のTAAを直接および選択的に認識することができる。血液悪性腫瘍を有する患者におけるCAR T細胞療法の実証された成功にかかわらず、固形腫瘍ではわずかな応答だけが観察されている。この原因の一部は、固形腫瘍における免疫抑制微小環境の確立にあるとすることができる。そのような環境は、T細胞における抑制性受容体(IR)の発現増加によって媒介されるいくつかの内因性抑制経路のアップレギュレーションを伴い、IRは、腫瘍内のそれらの同族リガンドと反応する。
【0008】
今までに、CTLA-4、T細胞Igムチン-3(TIM-3)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)、およびプログラム細胞死-1(PD-1)などのいくつかのIRが、T細胞において特徴づけられている。これらの分子は、慢性疾患およびがんにおけるT細胞の持続的活性化に続いてアップレギュレーションされ、それらは、T細胞の機能障害および疲弊を促進し、したがって、結果として免疫サーベイランスからの腫瘍の回避をもたらす。他のIRと異なり、PD-1は、T細胞の活性化の直後にアップレギュレーションされ、次にPD-1の2つのリガンド、PD-L1またはPD-L2との相互作用を介してT細胞のエフェクター機能を抑制する。PD-L1は、T細胞、B細胞、マクロファージ、および樹状細胞(DC)上に構成的に発現される。PD-L1は、多種多様な固形腫瘍に豊富に発現されることも示されている。対照的に、正常組織におけるPD-L1の発現は検出不能である。PD-1は、免疫抑制におけるその重要な役割の結果として、T細胞に対するPD-1のマイナスの影響を中和し、抗腫瘍応答を高めることを目指す最近の研究の焦点であった。臨床試験は、PD-1の遮断が結腸がん、直腸がん、肺がん、および黒色腫における腫瘍退縮を顕著に高めたことを実証している。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、(a)HPV由来の抗原に特異的に結合する遺伝子改変抗原受容体;および(b)腫瘍上の抑制性受容体(IR)の機能を低下させるかまたはその発現の低下をもたらすことができる抑制性タンパク質をコードする核酸を含む改変T細胞(例えば腫瘍浸潤リンパ球)を提供する。これらの改変T細胞は、より強力な抗腫瘍応答および低減したT細胞疲弊を示す。
【0010】
本発明の局面では、遺伝子改変抗原受容体はT細胞受容体であり、抑制性タンパク質はプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)を遮断し、ここで、当該タンパク質は単鎖抗体(scFv)である。
【0011】
本発明の抗PD-1 scFv抗体は、以下のモチーフ配列を含む:SEQ ID NO:1に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR1;SEQ ID NO:2に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR2;SEQ ID NO:3に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR3;SEQ ID NO:4に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR1;SEQ ID NO:5に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR2;およびSEQ ID NO:6に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR3。
【0012】
本発明の局面では、抑制性核酸分子は、PD1をコードする核酸に相補的な配列を含む。
【0013】
本発明の局面では、抑制性核酸分子は、PD1をコードする核酸に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。
【0014】
本発明の局面では、抑制性タンパク質または抗PD-1 scFvは、構成的に発現される。
【0015】
本発明の局面では、抗原はHPV E6またはE7である。
【0016】
本発明は、(a)HPV由来の抗原に特異的に結合する遺伝子改変抗原受容体をコードする核酸;および(b)腫瘍標的の発現を低下させるかまたは発現の低下を引き起こすことができる抑制性核酸分子を含む核酸をさらに提供する。局面では、抗原はHPV E6またはE7である。
【0017】
本発明の局面では、抑制性タンパク質はプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)を遮断し、ここで、当該タンパク質は単鎖抗体(scFv)である。
【0018】
抗PD-1 scFv抗体は、以下のモチーフ配列を含む:SEQ ID NO:1に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR1;SEQ ID NO:2に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR2;SEQ ID NO:3に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR3;SEQ ID NO:4に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR1;SEQ ID NO:5に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR2;およびSEQ ID NO:6に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR3。
【0019】
本発明は、(a)HPV由来の抗原に特異的に結合する遺伝子改変抗原受容体をコードする核酸;および(b)腫瘍における抑制性受容体の発現を低下させるタンパク質をコードする核酸分子を含む、前述の核酸を含むベクターをさらに提供し、ここで、当該ベクターは、好ましくはレトロウイルスベクターである。腫瘍は、リンパ球または腫瘍浸潤リンパ球をさらに含む。腫瘍浸潤リンパ球は抑制性受容体を含む。
【0020】
本発明の局面では、遺伝子改変T細胞を産生する方法が提供され、ここで、当該方法は、T細胞を含む細胞集団にベクターを導入する段階を含み、当該ベクターは、(a)第1の抗原に特異的に結合する遺伝子改変抗原受容体をコードする核酸、(b)1つまたは複数の条件下でインキュベーションすると、集団中のT細胞におけるPD-1もしくはPD-L1の発現の低下をもたらすこと、および/またはPD-1もしくはPD-L1のアップレギュレーションを抑制することができる抑制性タンパク質をコードする核酸分子を含む。いくつかの態様では、第1の改変抗原受容体は、HPVのE6受容体を特異的に標的とする。
【0021】
本発明の局面では、前述の改変T細胞および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物が提供される。また、それを必要とする対象に治療有効量の薬学的組成物を投与する段階を含む、がんを処置するための方法が提供され、ここで、がんは、子宮頸がんまたは頭頸部がんである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
参照される図面に例示的な態様を図示する。本明細書において開示される態様および図面は限定でなく例証と見なされるべきであることが意図されている。
【0023】
図1】P2AおよびT2A配列によって連結された以下の3つの遺伝子を含有する核酸構築物の略図である:(a)ヒト抗E6 TCRのα鎖の可変領域が該TCRα鎖の定常領域に融合されたもの;(b)同じヒト抗E6 TCRのβ鎖の可変領域が該TCRβ鎖の定常領域に融合されたもの;(c)GSリンカーで連結された、抗PD-1抗体の重鎖および軽鎖の可変領域。
図2】抗PD1抗体の配列(c)のCDR配列を示す。
図3】本発明の改変T細胞から得られた細胞培養上清中の分泌された抗PD-1 scFvのインビトロ発現を示す。
図4】本発明の改変ヒトT細胞上の抗E6 TCRのインビトロ発現を示す。
図5】細胞表面に過剰発現されたPD-1への、分泌された抗PD-1 scFvの結合活性を示す。
図6】細胞表面に過剰発現されたPD-1への、分泌された抗PD-1 scFvの、rhPD-L1に対する競合結合活性を示す。
図7】PD-L1により媒介されるIFNγ産生阻害に対する、分泌された抗PD-1 scFvの効果を示す。
図8】抗原特異的刺激を受けたTCR-T細胞のIFNγ産生に対する、分泌された抗PD-1 scFvの効果を示す。
図9】標的細胞に対するTCR-T細胞の細胞傷害性を示す。
図10】抗原特異的刺激を受けたTCR-T細胞の増殖を示す。
図11】抗原特異的刺激を受けた様々なTCR-T細胞上のPD-1の発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
以下の態様およびその局面は、システム、組成物および方法と合わせて記載されかつ例証されており、それらは例示的かつ例証的であり、範囲において限定的でないことが意図される。
【0025】
定義
本明細書に使用される「含んでいる(comprising)」または「含む(comprise)」という用語は、態様に有用な組成物、方法、およびそれらのそれぞれの構成要素を参照して使用されるものの、有用であろうとなかろうと不特定の要素の包含を排除しない。概して、本明細書に使用される用語は、一般的に「非限定の」用語(open terms)として意図されることが、当業者によって理解されるであろう(例えば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、それに限定されるわけではない」として解釈すべきであり、「有している(having)」という用語は、「少なくとも有する」として解釈すべきであり、「含む(include)」という用語は、「含むが、それに限定されるわけではない」として解釈すべきである、等)。
【0026】
特に述べないかぎり、本出願の特定の態様を(特に特許請求の範囲に関連して)記載することに関連して使用される「a」および「an」および「the」という用語および類似の言及は、単数および複数の両方を包含すると解釈することができる。本明細書における値の範囲の記載は、単に、別々の値が各々その範囲内に入ることを個別に参照する短縮法として役立つことが意図される。本明細書に特に示さないかぎり、各個別の値は、それが本明細書において個別に記載された場合のように、本明細書に組み入れられる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書に特に示さないかぎり、または文脈と特に明らかに矛盾しないかぎり、任意の適切な順序で行うことができる。すべての例、または本明細書におけるある特定の態様に関して提供される例示的な言い回し(例えば「など(such as)」)の使用は、単に、本出願をより明らかにすることが意図されるのであって、別に主張された本出願の範囲に限定をもたらすものではない。「例えば(e.g.)」という省略形は、ラテン語exempli gratiaに由来し、本明細書において非限定的な例を示すために使用される。したがって、「例えば(e.g.)」という省略形は、「例えば(for example)」という用語と同義である。本明細書における言い回しは、本出願の実施に不可欠な、請求されていないいかなる要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0027】
本明細書に使用される「約」という用語は、量、期間、およびその他などの測定可能な値を指し、特定の値から±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%または±0.1%の変動を包含する。
【0028】
本明細書に使用される「抗体」という用語は、インタクトな免疫グロブリンを指すか、あるいはFc(結晶化可能フラグメント)領域またはFc領域のFcRn結合性フラグメント(本明細書において「Fcフラグメント」もしくは「Fcドメイン」と呼ばれる)を有するモノクローナルまたはポリクローナル抗原結合性フラグメントを指す。抗原結合性フラグメントは、組み換えDNA技術により、またはインタクトな抗体の酵素的もしくは化学的切断により産生され得る。抗原結合性フラグメントは、とりわけ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、dAb、および相補性決定領域(CDR)フラグメント、単鎖抗体(scFv)、単一ドメイン抗体、キメラ抗体、ダイアボディー(diabody)、およびポリペプチドに特異的抗原結合性を付与するために十分な、免疫グロブリンの少なくとも一部分を含有するポリペプチドを含む。Fcドメインは、抗体の2または3つのクラスに寄与する2つの重鎖の部分を含む。Fcドメインは、組み換えDNA技術により、またはインタクトな抗体の酵素的切断(例えばパパイン切断)または化学的切断により産生され得る。
【0029】
本明細書に使用される「抗体フラグメント」という用語は、一般的にインタクトな抗体の抗原結合部位を含み、したがって抗原と結合する能力を保持する、インタクトな抗体の一部分だけを含むタンパク質フラグメントを指す。本定義によって包含される抗体フラグメントの例は:(i)VL、CL、VHおよびCH1ドメインを有するFabフラグメント;(ii)CH1ドメインのC末端に1つまたは複数のシステインを有するFabフラグメントであるFab'フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインを有するFdフラグメント;(iv)VHおよびCH1ドメインならびにCH1ドメインのC末端に1つまたは複数のシステイン残基を有するFd'フラグメント;(v)抗体の単一の腕のVLおよびVHドメインを有するFvフラグメント;(vi)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., Nature 341, 544-546 (1989));(vii)単離されたCDR領域;(viii)F(ab')2フラグメント、すなわちヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab'フラグメントを含む二価フラグメント;(ix)単鎖抗体分子(例えば、単鎖Fv;scFv)(Bird et al., Science 242:423-426 (1988);およびHuston et al., PNAS (USA) 85:5879-5883 (1988));(x)軽鎖可変ドメイン(VL)に同じポリペプチド鎖として結合された重鎖可変ドメイン(VH)を含む、2つの抗原結合部位を有する「ダイアボディー」(例えば、EP 404,097;WO93/11161;およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)を参照されたい);(xi)相補性軽鎖ポリペプチドと一緒に抗原結合領域の対を形成する、タンデムFdセグメント対(VH-CH1-VH-CH1)を含む「線状抗体」(Zapata et al. Protein Eng. 8(10): 1057-1062 (1995);および米国特許第5,641,870号)を含む。
【0030】
本明細書に使用される「単鎖可変フラグメント」、「単鎖抗体可変フラグメント」または「scFv」抗体は、リンカーペプチドにより結合された重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)だけを含む抗体の形態を指す。scFvは、単鎖ポリペプチドとして発現されることが可能である。scFvは、それが由来するインタクトな抗体の特異性を保持する。軽鎖および重鎖は、標的抗原に対するscFvの特異性が保持されるかぎり、任意の順序、例えば、VH-リンカー-VLまたはVL-リンカー-VHであってもよい。
【0031】
本明細書に使用される「抗原」という用語は、MHC分子によって提示された場合に抗体またはT細胞受容体(TCR)によって結合されることができる分子を指す。本明細書に使用される「抗原」という用語は、また、T細胞受容体によって認識されるT細胞エピトープを包含する。この認識は、T細胞の活性化に続いて、T細胞の増殖、サイトカイン分泌などのエフェクターメカニズムを引き起こす。抗原は、追加的に、免疫系によって認識されることが可能であり、かつ/またはBリンパ球および/もしくはTリンパ球の活性化をもたらす液性免疫応答および/もしくは細胞性免疫応答を誘導することが可能である。
【0032】
本明細書に使用される「HPV抗原」という用語は、ヒトパピローマウイルス(HPV)に由来するポリペプチド分子を指し、好ましくは、HPVは、HPV1、HPV2、HPV3、HPV4、HPV6、HPV10、HPV11、HPV16、HPV18、HPV26、HPV27、HPV28、HPV29、HPV30、HPV31、HPV33、HPV34、HPV35、HPV39、HPV40、HPV41、HPV42、HPV43、HPV45、HPV49、HPV51、HPV52、HPV54、HPV55、HPV56、HPV57、HPV58、HPV59、HPV68、HPV69より選択される。より好ましくは、HPVは、高リスクHPV、例えば、HPV16、HPV18、HPV31、HPV33、HPV35、HPV39、HPV45、HPV51、HPV52、HPV56、HPV58、HPV59、HPV68、HPV69より選択される。HPVポリペプチド分子は、E6およびE7より選択される。
【0033】
本明細書に使用される「末梢血細胞サブタイプ」という用語は、好酸球、好中球、T細胞、単球、K細胞、顆粒球、およびB細胞を含むが、それに限定されるわけではない、末梢血中に通常見出される細胞型を指す。
【0034】
本明細書に使用される「T細胞」という用語は、CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞を含む。T細胞という用語はまた、Tヘルパー1型T細胞およびTヘルパー2型T細胞の両方を含む。T細胞は、標的細胞表面の特異的抗原部分を認識する細胞表面受容体を発現する。細胞表面受容体は、標的細胞に関連する抗原性部分を認識することができる、野生型もしくは組み換えT細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体(CAR)、または任意の他の表面受容体であり得る。典型的には、TCRは、ある特定の細胞の表面のMHCタンパク質によって提示される特異的ペプチドと結合する2つのタンパク質鎖(α鎖およびβ鎖)を有する。TCRは、標的細胞の表面に発現されるMHC分子との関連でペプチドを認識する。TCRはまた、がん細胞の表面に直接提示されたがん抗原を認識する。
【0035】
本明細書に使用される「遺伝子操作細胞」、「再方向付けされた細胞(redirected cell)」、「改変細胞」、「遺伝子改変細胞」または「操作細胞」は、遺伝子改変抗原受容体およびチェックポイント阻害因子を発現する細胞を指す。いくつかの態様では、遺伝子操作細胞は、遺伝子改変TCRをコードするベクターおよび1つまたは複数のチェックポイント阻害因子をコードするベクターを含む。いくつかの態様では、遺伝子操作細胞は、遺伝子改変TCRおよび1つまたは複数のチェックポイント阻害因子をコードするベクターを含む。一態様では、遺伝子操作細胞は、Tリンパ細胞(T細胞)である。一態様では、遺伝子操作細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞である。
【0036】
本明細書に使用される「遺伝子改変」または「遺伝子操作」という用語は、コード領域、非コード領域もしくはその一部を欠失させることまたはコード領域もしくはその一部を挿入することを含むが、それに限定されるわけではない、細胞の核酸配列の改変を指す。
【0037】
本明細書に使用される「ベクター」、「クローニングベクター」および「発現ベクター」という用語は、宿主に形質導入し、導入された配列の発現(例えば転写および翻訳)を促進するように、ポリヌクレオチド配列(例えば外来遺伝子)を宿主細胞内に導入することができる媒体を指す。ベクターは、プラスミド、ファージ、ウイルス、その他を含む。もっとも評判のよい種類のベクターは、関心対象の遺伝子を含む追加的なDNAセグメントがライゲーションされる場合がある閉鎖環状二本鎖DNAループを指す「プラスミド」である。別の種類のベクターは、輸送されるべき核酸構築物がウイルスゲノム中にライゲーションされるウイルスベクターである。ウイルスベクターは、それらが導入された宿主細胞中で自律複製することが可能であり、または宿主細胞のゲノム中にそれらを組み込み、それにより宿主ゲノムと共に複製される場合がある。さらに、ある特定のベクターは、それらが機能的に連結される遺伝子の発現を指示することが可能である。そのようなベクターは、本明細書において「組み換え発現ベクター」または単に「発現ベクター」と呼ばれる。本発明は等価の機能を果たすそのような他の形態の発現ベクター、例えばウイルスベクター(例えば複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)を含むことが意図されると明記される場合がある。
【0038】
本明細書に使用される、「レトロウイルスベクター」および「組み換えレトロウイルスベクター」という用語は、関心対象の核酸分子を保有する核酸構築物であって、ある特定の態様内でその発現を指示することができる核酸構築物を指す。レトロウイルスは、そのウイルスカプセル中にRNAの形態で存在し、宿主細胞中で複製した場合、二本鎖DNA中間体を形成する。同様に、レトロウイルスベクターは、RNAおよび二本鎖DNA形態の両方で存在し、その両方の形態が「レトロウイルスベクター」および「組み換えレトロウイルスベクター」という用語に含まれる。「レトロウイルスベクター」および「組み換えレトロウイルスベクター」という用語はまた、組み換えDNAフラグメントを含有するDNA形態および組み換えRNAフラグメントを含有するRNA形態を包含する。ベクターは、少なくとも1つの転写プロモーター/エンハンサー、または遺伝子発現を制御する他のエレメントを含み得る。そのようなベクターはまた、パッケージングシグナル、長末端反復配列(LTR)またはそれらの部分、ならびに使用されるレトロウイルスに適切なプラスおよびマイナス鎖プライマー結合部位(これらがレトロウイルスベクター中にまだ存在しない場合)を含み得る。任意で、ベクターはまた、ポリアデニル化を指示するシグナル、アンピシリン耐性、ネオマイシン耐性、TK、ヒグロマイシン耐性、フレオマイシン耐性、ヒスチジノール耐性、またはDHFRなどの選択マーカーのみならず、1つまたは複数の制限部位および翻訳終結配列を含み得る。例として、そのようなベクターは、5'LTR、リーディング配列、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、第2鎖DNA合成起点、および3'LTRまたはその一部を含み得る。
【0039】
本明細書に使用される「リンカー」(L)または「リンカードメイン」または「リンカー領域」は、本発明のCARのドメイン/領域のいずれかを一緒に連結する、約1~100アミノ酸長のオリゴペプチドまたはポリペプチド領域を指す。リンカーは、隣接タンパク質ドメインが相互に対して自由に移動するように、グリシンおよびセリンのような可動性残基から構成され得る。2つの隣接ドメインが相互に立体障害を及ぼさないことを保証することが望ましい場合、より長いリンカーが使用され得る。リンカーは、切断可能な場合と切断不可能な場合がある。切断可能なリンカーの例には、2Aリンカー(例えばT2A)、2A様リンカー、またはそれらの機能的等価物およびそれらの組み合わせが含まれる。いくつかの態様では、リンカーには、ピコルナウイルス2A様リンカー、ブタテッショウウイルスのCHYSEL配列(P2A)、ゾセアアシグナ(Thosea asigna)ウイルス(T2A)またはそれらの組み合わせ、変異体および機能的等価物が含まれる。他の態様では、リンカー配列は、2Aグリシンと2Bプロリンとの間の切断を結果として生じるAsp-Val/Ile-Glu-X-Asn-Pro-Gly(2A)-Pro(2B)モチーフを含み得る。他のリンカーは、当業者に明らかであり、本発明の代替的な態様に関連して使用され得る。
【0040】
「薬学的製剤」という用語は、その中に含有される活性成分の生物学的活性を有効にさせる形態の調製物であって、製剤が投与される対象に許容されないほど毒性である追加的な構成要素を含有しない調製物を指す。
【0041】
「薬学的に許容される担体」は、活性成分以外の薬学的製剤中の成分であって、対象に無毒の成分を指す。薬学的に許容される担体は、緩衝剤、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含むが、それに限定されるわけではない。
【0042】
本明細書に使用される「対象」は、ヒトまたは他の動物などの哺乳動物であり、典型的にはヒトである。いくつかの態様では、細胞、細胞集団、または組成物が投与される対象、例えば、患者は、哺乳動物であり、典型的にはヒトなどの霊長類である。いくつかの態様では、霊長類はサルまたは類人猿である。対象は、雄または雌であることができ、乳児期、年少期、青年期、成人期、および老年期の対象を含む、任意の適切な年齢であることができる。いくつかの態様では、対象は、げっ歯動物などの非霊長類哺乳動物である。
【0043】
「対照」という用語は、試験試料中の発現産物との比較を提供するのに適した任意の標準試料を指す。
【0044】
本明細書に使用される「抑制する」という用語は、例えば特定の作用、機能、または相互作用の任意の低減を指す。例えば、タンパク質の機能および/またはあるタンパク質の別のタンパク質への結合などの生物学的機能は、それが基準状態(例えば、野生型状態または適用される作用物質が存在しない状態のような対照)と比較して低減している場合、抑制されている。例えば、PD-1タンパク質の、そのリガンドのうちの1つもしくは複数(例えば、PD-L1および/もしくはPD-L2)への結合、ならびに/または結果として生じるPD-1シグナル伝達および免疫効果は、結合、シグナル伝達、および他の免疫効果が抗PD-1抗体などの作用物質との接触のせいで低減している場合、PD-1タンパク質が作用物質と接触されない場合と比較して、抑制されているかまたは欠損している。そのような抑制または欠損は、例えば特定の時間および/もしくは場所での作用物質の適用により誘導することができ、または連続的な投与などによって構成的であることができる。そのような抑制または欠損はまた、部分的または完全であることができる(例えば、野生型状態のような対照などの基準状態と比較して、本質的に測定可能な活性がない)。本質的に完全な抑制または欠損は、遮断されていると称される。
【0045】
本明細書に使用される「状態」および「病状」は、がん、腫瘍、または感染症を含み得る。例示的な態様では、状態は、任意の形態の悪性腫瘍細胞増殖性の障害または疾患を含むが、それに少しも限定されない。例示的な態様では、状態は、腎がん、黒色腫、前立腺がん、乳がん、膠芽腫、肺がん、結腸がん、または膀胱がんのうちの任意の1つまたは複数を含む。
【0046】
「がん」および「がん性」は、アップレギュレーションされた細胞成長によって典型的に特徴づけられる、哺乳動物における生理的状態を指すまたはそれを記載する。「がん」という用語は、組織病理型または侵襲性の段階とは無関係に、すべての種類のがん性成長もしくは発がん過程、転移性組織または悪性形質転換細胞、組織、もしくは器官を含むことが意味される。固形腫瘍の例は、悪性腫瘍、例えば、様々な器官系の肉腫、腺がん、およびがん腫、例えば肝臓、肺、乳房、リンパ系、胃腸管(例えば、結腸)、尿生殖器(例えば、腎細胞、尿路上皮細胞)、前立腺および咽頭を冒すものを含む。腺がんは、大部分の結腸がん、直腸がん、腎細胞がん、肝がん、非小細胞肺がん、小腸がんおよび食道がんなどの悪性腫瘍を含む。一態様では、がんは、黒色腫、例えば、進行期黒色腫である。前述のがんの転移巣はまた、本発明の方法および組成物を使用して治療または予防することができる。処置することができる他のがんの例は、骨がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門部がん、胃がん、精巣がん、子宮がん、卵管がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、膣がん、外陰がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病を含む慢性または急性白血病、小児期固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓または尿管のがん、腎盂がん、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄腫瘍(spinal axis tumor)、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮がん、扁平上皮がん、T細胞リンパ腫、アスベストにより誘発されるがんを含む環境に誘発されるがん、およびがんの組み合わせを含む。転移がん、例えばPD-L1を発現する転移がん(Iwai et al. (2005) Int. Immunol. 17:133-144)の処置は、本明細書に記載される抗体分子を使用してもたらすことができる。
【0047】
本明細書に使用される「処置する」、「処置」、「処置すること」、または「改善」という用語は、治療的処置を指し、ここで、目的は、疾患または障害に関連する状態の進行または重症度を後退、軽減、改善、抑制、減速または停止させることである。「処置すること」という用語は、がんなどの状態、疾患または障害の少なくとも1つの有害作用または症状を低減または軽減することを含む。1つまたは複数の症状または臨床マーカーが低減される場合、処置は概して「有効」である。あるいは、疾患の進行が低減するまたは止まる場合、処置は「有効」である。すなわち、「処置」は、症状またはマーカーの改善だけでなく、処置の非存在下で予期される症状の進行または悪化の休止または少なくとも減速も含む。有益なまたは所望の臨床結果は、検出可能であろうと検出不可能であろうと、1つまたは複数の症状の軽減、疾患の程度の減少、安定化した(すなわち、悪化していない)病状、疾患進行の遅延または減速、病状の改善または一時的緩和、および寛解(部分寛解であろうと全寛解であろうと)を含むが、それに限定されるわけではない。疾患の「処置」という用語はまた、疾患の症状または副作用からの解放を提供することを含む(姑息処置を含む)。いくつかの態様では、がんの処置は、腫瘍体積を減少させること、がん細胞数を減少させること、がんの転移を抑制すること、期待寿命を伸ばすこと、がん細胞の増殖を減少させること、がん細胞の生存を減少させること、またはがん性状態に関連する様々な生理的症状の改善を含む。
【0048】
本明細書に使用される「疾患の発生を遅延させること」は、疾患(がんなど)の発生を先送り、妨害、減速、遅滞、安定化、抑止および/または延期することを意味する。この遅延は、病歴および/または処置されている個体に応じて様々な期間であることができる。当業者に明らかなように、十分または顕著な遅延は、実際に個体が疾患を発生しない点で予防を包含することができる。例えば、末期がん、例えば転移の発生が遅延される場合がある。
【0049】
本明細書に使用される「予防すること」は、疾患素因があり得るが、まだ疾患であると診断されていない対象における疾患の発生または再発に関する予防を提供することを含む。いくつかの態様では、提供される細胞および組成物は、疾患の発生を遅延させるまたは疾患の進行を減速するために使用される。
【0050】
本明細書に使用される、機能または活性を「抑止する」ことは、関心対象の状態もしくはパラメーターを除き、それ以外は同じ状態と比較した場合に、または別の状態と比較した場合に、当該機能または活性を低下させることである。例えば、腫瘍成長を抑止する細胞は、細胞の非存在下での腫瘍の成長速度と比較して、腫瘍の成長速度を低下させる。
【0051】
投与に関する文脈における、作用物質、例えば薬学的製剤、細胞、または組成物の「有効量」は、所望の結果(例えば、治療結果または予防結果)を達成するために必要な投薬量/量および期間での有効な量を指す。
【0052】
作用物質、例えば薬学的製剤または細胞の「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するために、例えば疾患、状態、もしくは障害の処置および/または処置の薬物動態的もしくは薬力学的効果のために、必要な投薬量および期間で有効な量を指す。治療有効量は、対象の病状、年齢、性別、および体重、ならびに投与される細胞集団などの要因に応じて変動し得る。いくつかの態様では、提供される方法は、細胞および/または組成物を有効量、例えば治療有効量で投与することを伴う。
【0053】
「予防有効量」は、所望の予防結果を達成するために必要な投薬量および期間で有効な量を指す。必然的ではなく典型的には、予防用量は疾患前または疾患初期の対象に使用されるので、予防有効量は、治療有効量よりも少ないであろう。より低い腫瘍量に照らして、予防有効量は、いくつかの局面で治療有効量よりも高いであろう。
【0054】
本明細書に記載される様々な態様により、本発明は、改変細胞および改変細胞を含有する組成物/製剤を提供する。本発明はまた、病理学的疾患または状態を有する患者を処置するために有用であり得る、改変細胞を製造するための方法または工程を提供する。
【0055】
さらに、本明細書に記載される様々な態様により、本発明は、病理学的疾患または状態の処置のために使用され得る、細胞を遺伝子操作するために適する核酸構築物を含む組み換えベクターを提供する。
【0056】
さらに、本明細書に記載される様々な態様により、本発明は、病理学的疾患または状態の処置のために使用され得る、細胞を遺伝子操作するために適する核酸構築物を含む改変細胞を提供し、ここで、核酸は:(a)抗原に特異的に結合する遺伝子改変抗原受容体;および(b)腫瘍標的の発現を低下させるかまたはその低下を引き起こすことができる抑制性タンパク質をコードする。様々な態様において、細胞は、遺伝子改変抗原受容体および抑制性タンパク質を発現する。様々な態様において、抑制性タンパク質は、構成的に発現される。
【0057】
提供される細胞、組成物、方法および使用を用いた処置のための疾患、状態、および障害の中に、固形腫瘍、血液悪性腫瘍、および黒色腫を含む腫瘍、ならびにウイルスまたは他の病原体、例えば、HPV、HIV、HCV、HBV、EBV、HTLV-1、CMV、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、HHV-8、MCVまたは他の病原体、および寄生虫病による感染などの感染症が含まれる。いくつかの態様では、疾患または状態は、腫瘍、がん、悪性腫瘍、新生物、または他の増殖性疾患もしくは障害である。そのような疾患は、白血病、リンパ腫、例えば、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、難治性濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、緩徐進行性B細胞リンパ腫、B細胞悪性腫瘍、子宮頸がん、結腸、肺、肝臓、乳房、前立腺、卵巣、皮膚、黒色腫、骨、および脳がん、卵巣がん、上皮がん、腎細胞がん、膵臓腺がん、ホジキンリンパ腫、子宮頸がん、結腸直腸がん、膠芽腫、神経芽腫、ユーイング肉腫、髄芽腫、骨肉腫、滑膜肉腫、および/または中皮腫を含むが、それに限定されるわけではない。
【0058】
改変細胞
様々な態様において、改変細胞は、細菌、真菌、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、サル、ブタ、または任意の他の種から得られる場合がある。好ましくは、細胞は、ヒト、ラットまたはマウスに由来する。より好ましくは、細胞は、ヒトから得られる。様々な態様において、改変細胞は血液細胞である。好ましくは、細胞は、白血球、リンパ球、または任意の他の適切な血液細胞型である。好ましくは、細胞は末梢血細胞である。より好ましくは、細胞は、T細胞、B細胞、またはNK細胞である。
【0059】
好ましい態様では、細胞はT細胞である。本発明に使用されるT細胞の例は、患者から単離されたT細胞(例えば腫瘍浸潤リンパ球)のインビトロ培養によって得られた細胞;患者の末梢血から単離されたT細胞にウイルスベクターを形質導入することにより得られたTCR遺伝子操作T細胞;およびCAR形質導入T細胞を含むが、それに限定されるわけではない。好ましくは、T細胞はTCR遺伝子が操作されたT細胞である。
【0060】
本発明の一態様では、細胞はNK細胞である。
【0061】
組み換えベクター
任意のベクターまたはベクター型、例えば非限定的に、プラスミドベクター、ウイルスベクター、BAC、YAC、HACが、遺伝物質を細胞に送達するために使用され得る。したがって、使用され得るウイルスベクターは、組み換えレトロウイルスベクター、組み換えレンチウイルスベクター、組み換えアデノウイルスベクター、泡沫状ウイルスベクター、組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、雑種ベクターおよび/またはプラスミドトランスポゾン(例えばスリーピングビューティートランスポゾンシステム)またはインテグラーゼに基づくベクターシステムを含むが、それらに限定されるわけではない。本発明の代替的な態様に関連して使用され得る他のベクターは、当業者に明らかであろう。
【0062】
好ましい態様では、使用されるベクターは、組み換えレトロウイルスベクターである。ウイルスベクターは、ウイルスベクターの製造に特異的な培地中でやし得る。ウイルスベクターを増やすための任意の適切な成長培地および/または補助剤が、本明細書に記載される態様に従って使用され得る。
【0063】
遺伝子改変抗原受容体
遺伝子改変される抗原受容体は、非限定的に、T細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体ファミリー(KIR)、C型レクチン受容体ファミリー、白血球免疫グロブリン様受容体ファミリー(LILR)、1型サイトカイン受容体、2型サイトカイン受容体ファミリー、腫瘍壊死因子ファミリー、TGFβ受容体ファミリー、ケモカイン受容体、IgSFより選択される。
【0064】
本発明の態様では、核酸構築物によりコードされる遺伝子改変抗原受容体は、遺伝子改変NK細胞受容体である。いくつかの態様では、NK細胞受容体は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体ファミリー(KIR)に属する。代替的な態様では、NK細胞受容体は、C型レクチン受容体ファミリーに属する。
【0065】
好ましい態様では、核酸構築物によりコードされる遺伝子改変抗原受容体は、遺伝子改変T細胞受容体(TCR)である。好ましくは、この受容体を発現するT細胞は、αβ-T細胞である。代替的な態様では、この受容体を発現するT細胞はγδ-T細胞である。
【0066】
標的とされる抗原
いくつかの態様では、疾患または障害に関連する抗原は、HPV、HIV、HCV、HBV、EBV、HTLV-1、CMV、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、HHV-8、MCVもしくは他の病原体によって発現される分子、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、L1-CAM、CD19、CD20、CD22、メソセリン、CEA、およびB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、3、もしくは4、FBP、胎児アセチルコリン受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-α、IL-l3R-α2、kdr、カッパ軽鎖、ルイスY、L1細胞接着分子、MAGE-A1、メソセリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gp100、がん胎児抗原、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異抗原、PSMA、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、およびMAGE A3ならびに/またはビオチン化分子からなる群より選択される。
【0067】
好ましくは、遺伝子改変抗原受容体は、ヒトパピローマウイルス(HPV)由来の抗原に結合する。HPVのサブタイプは、非限定的に、HPV1、HPV2、HPV3、HPV4、HPV6、HPV10、HPV11、HPV16、HPV18、HPV26、HPV27、HPV28、HPV29、HPV30、HPV31、HPV33、HPV34、HPV35、HPV39、HPV40、HPV41、HPV42、HPV43、HPV45、HPV49、HPV51、HPV52、HPV54、HPV55、HPV56、HPV57、HPV58、HPV59、HPV68、HPV69より選択される。いくつかの態様では、遺伝子改変抗原受容体により標的とされるHPVのサブタイプは、少なくとも1つの高リスクHPV、例えば非限定的にHPV16、HPV18、HPV31、HPV33、HPV35、HPV39、HPV45、HPV51、HPV52、HPV56、HPV58、HPV59、HPV68、HPV69より選択される。
【0068】
いくつかの態様では、HPV抗原は、非限定的に、E1、E2、E3、E4、E6およびE7、L1およびL2タンパク質より選択される。好ましい態様では、抗原はE6抗原である。別の好ましい態様では、抗原はE7抗原である。より好ましい態様では、抗原はHPV16 E6抗原である。
【0069】
したがって、処置される疾患または状態は、非限定的に、ウイルス、レトロウイルス、細菌、および原虫感染、免疫不全、ヒトパピローマウイルス(HPV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、BKポリオーマウイルスなどの感染症または感染状態である。いくつかの態様では、疾患または状態は、ウイルス、例えば非限定的に、HPV、HCV、EBV、HIV、HHV-8、HTLV-1、MCVに関連する悪性腫瘍である。好ましくは、提供される組成物、細胞、方法、および使用を用いて処置されるウイルス関連悪性腫瘍は、HPV関連がんである。より好ましくは、提供される組成物、細胞、方法は、HPV関連がんによって引き起こされる固形腫瘍の処置のために使用されることができる。具体的には、疾患または状態は、HPV関連がん、例えば非限定的に、子宮頸部、中咽頭、肛門、肛門管、直腸肛門、膣、外陰、および陰茎のがんを含む。より具体的には、疾患または状態は、HPV関連頭頸部がん、HPV関連子宮頸がんを含む。
【0070】
チェックポイント阻害因子
様々な態様において、改変細胞は、少なくとも1つのチェックポイント阻害因子(CPI)を発現する。本発明の改変細胞によって発現される抑制性タンパク質またはCPIは、免疫チェックポイントを阻害または遮断し、ここで、免疫チェックポイントは、PD-1、PD-L1、PD-L2、2B4(CD244)、4-IBB、A2aR、B7.1、B7.2、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H6、BTLA、ブチロフィリン、CD160、CD48、CTLA4、GITR、gp49B、HHLA2、HVEM、ICOS、ILT-2、ILT-4、KIRファミリー受容体、LAG-3、OX-40、PIR-B、SIRPα(CD47)、TFM-4、TIGIT、TIM-1、TIM-3、TIM-4、VISTA、およびそれらの組み合わせからなる(しかし、それらに限定されるわけではない)群より選択される。
【0071】
好ましい態様では、抑制性タンパク質は、PD-1またはPD-L1を遮断する。様々な態様において、抑制性タンパク質は抗PD-1 scFvである。抑制性タンパク質は、集団中のT細胞におけるPD-1もしくはPD-L1の低減をもたらすこと、および/またはPD-1もしくはPD-L1のアップレギュレーションを抑制することが可能である。好ましくは、抑制性タンパク質は、PD-1を遮断する。
【0072】
核酸構築物
様々な好ましい態様による図1を参照すると、核酸構築物は3つの配列を含む。好ましくは、当該3つの配列は、以下を含む:(a)抗E6 TCRのα鎖の可変領域が当該TCRα鎖の定常領域に融合された、「aE6_Va-Ca」と識別表示される配列[ここで、aE6_Vaは、抗E6 TCRのα鎖の可変領域に対応し、Caは、当該TCRα鎖の定常領域に対応する];(b)同じ抗E6 TCRのβ鎖の可変領域が当該TCRβ鎖の定常領域に融合された、「aE6_Vb-Cb」と識別表示される配列[ここで、aE6_Vbは、同じヒト抗E6 TCRのβ鎖の可変領域に対応し、Cbは、当該TCRβ鎖の定常領域に対応する];および(c)「aPD1_VH」と識別表示される、抗PD-1抗体の重鎖可変領域および「aPD1_VL」と識別表示される、抗PD-1抗体の軽鎖可変領域[ここで、抗PD-1抗体配列の主要領域は、重鎖可変領域のフレームワークFR1領域;SEQ ID NO:1に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR1;重鎖可変領域のフレームワークFR2領域;SEQ ID NO:2に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR2;重鎖可変領域のフレームワークFR3領域;SEQ ID NO:3に示される配列を有するアミノ酸を含む重鎖CDR3;重鎖可変領域のフレームワークFR4領域;軽鎖可変領域のフレームワークFR1領域;SEQ ID NO:4に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR1;軽鎖可変領域のフレームワークFR2領域;SEQ ID NO:5に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR2;軽鎖可変領域のフレームワークFR3領域;SEQ ID NO:6に示される配列を有するアミノ酸を含む軽鎖CDR3;および軽鎖可変領域のフレームワークFR4領域を含む]。
【0073】
様々な態様において、抑制性タンパク質をコードする抑制性核酸は、PD1をコードする核酸に相補的な配列を含む。いくつかの態様では、抑制性タンパク質をコードする抑制性核酸は、PD1をコードする核酸に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。
【0074】
核酸構築物はさらに、前述の配列(a)、(b)、および(c)を連結しているP2A配列およびT2A配列を含む。さらに、抗PD-1抗体の重鎖および軽鎖の可変領域(それぞれaPD1_VHおよびaPD1_VLと識別表示される)は、GSリンカーで連結されている。
【0075】
核酸構築物はさらに、構築物のトランスフェクション、形質導入、組み込み、複製、転写、翻訳、発現、および/または安定化を支持および/または可能にし得る他の配列を含み得る。
【0076】
改変細胞の調製方法
本発明は、病理的な疾患または状態の処置のために改変細胞を製造および使用するための方法または工程を提供する。当該方法は、以下を含む:(I)患者の血液からT細胞を単離する段階;(II)T細胞集団に、遺伝子改変抗原受容体および抑制性タンパク質をコードする核酸構築物を含むウイルスベクターを形質導入する段階;(III)形質導入された細胞をインビトロで拡大増殖させる段階;ならびに(IV)拡大増殖した細胞を患者に注入する段階であって、改変T細胞が抗原陽性腫瘍細胞を探し、破壊するであろう段階。同時に、これらの改変T細胞は、PD-1/PD-L1免疫抑制を遮断し、抗腫瘍免疫応答を強化するであろう。
【0077】
当該方法はさらに、段階(II)の前の、本発明の核酸構築物を含有するウイルスベクターによるT細胞のトランスフェクションを含む。
【0078】
T細胞のトランスフェクションは、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション、リポソーム媒介移入、マイクロインジェクション、バイオリスティック粒子送達システム、または任意の他の公知の方法などの任意の標準的な方法を用いて達成され得る。いくつかの態様では、T細胞のトランスフェクションは、リン酸カルシウム法を用いて行われる。
【0079】
本明細書に記載される様々な態様により、本発明は、HPV関連がん(特に、HPV16 E6+またはHPV16 E7+がん)に対する免疫療法を提供する。改変T細胞は、腫瘍抗原HPV E6を認識し、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)を遮断する単鎖抗体(scFv)を同時に分泌する。これらの改変T細胞は、より強い抗腫瘍応答および低減したT細胞疲弊を示す。
【0080】
(1)抗PD-1薬物送達が腫瘍部位に限局され、(2)抗PD-1単鎖抗体が現存の抗体よりも強く結合するので、本発明を用いるPD-1チェックポイントの遮断がより有効であることが実験的に見出されている。また、抗PD-1薬の送達が腫瘍部位に限局されるので、非特異的炎症が原因の毒性は低い。抗E6 TCRと抗PD-1との組み合わせが既存の代替物と比較してT細胞活性化を改善し、かつ/またはT細胞の疲弊を予防することが見出されている。
【0081】
また、本発明は、個別化抗腫瘍免疫療法を創出するために使用され得る。抗E6+/抗PD-1改変T細胞は、患者の血液から容易に産生されることができる。次にこれらの改変T細胞は、細胞療法産物として患者に再注入される。この産物は、子宮頸がん、頭頸部がんおよびその他を含むHPVE6+腫瘍を有する任意の患者に適用されることもできる。
【0082】
組成物、製剤および投与方法
本発明は、開示された方法によって産生された改変T細胞およびその集団を含有する組成物(薬学的組成物および治療的組成物を含む)を提供する。改変T細胞およびその組成物を対象、例えば患者に投与するための方法、例えば治療法も提供される。
【0083】
A. 組成物および製剤
所与の用量またはその分割量として投与するための細胞数を含む1回用量形態組成物などの薬学的組成物および製剤を含む、投与のための改変T細胞を含む組成物が提供される。薬学的組成物および製剤は、1つまたは複数の随意の薬学的に許容される担体または賦形剤を含む場合がある。いくつかの態様では、組成物は、少なくとも1つの追加的な治療剤を含む。
【0084】
いくつかの態様では、担体の選択は、一部には、特定の細胞(例えば、T細胞もしくはNK細胞)により、および/または投与方法により決定される。したがって、様々な適切な製剤がある。例えば、薬学的組成物は、保存剤を含有することができる。適切な保存剤は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、およびベンザルコニウム塩化物を含む場合がある。いくつかの態様では、2つ以上の保存剤の混合物が使用される。保存剤またはその混合物は、典型的には、保存剤またはその混合物は、典型的には総組成物の約0.0001重量%~約2重量%の量で存在する。担体は、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)によって記載されている。薬学的に許容される担体は、一般的には、採用される投薬量および濃度でレシピエントに無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウム塩化物;ベンザルコニウム塩化物;ベンゼトニウム塩化物;フェノール、ブチルアルコールもしくはベンジルアルコール;メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシンなどのアミノ酸;単糖、二糖、およびグルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む他の糖質;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);ならびに/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むが、それに限定されるわけではない。
【0085】
本発明に使用される適切な緩衝剤は、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム、ならびに様々な他の酸および塩を含む。いくつかの態様では、2つ以上の緩衝剤の混合物が使用される。緩衝剤またはその混合物は、典型的には、総組成物の約0.001重量%~約4重量%の量で存在する。投与可能な薬学的組成物を調製するための方法は公知である。例示的な方法は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott Williams & Wilkins; 21st ed. (May 1, 2005)に、より詳細に記載されている。
【0086】
製剤は、水溶液を含むことができる。製剤または組成物はまた、改変T細胞で処置されている特定の適応症、疾患、または状態に有用な複数の活性成分、好ましくは細胞を補完する活性を有する成分を含有する場合があり、ここで、それぞれの活性は相互に不利に影響しない。そのような活性成分は、意図される目的のために有効な量で組み合わせて適切に存在する。したがって、いくつかの態様では、薬学的組成物はさらに、化学療法剤、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、および/またはビンクリスチンなどの他の薬学的に活性な作用物質または薬物を含む場合がある。
【0087】
薬学的組成物は、いくつかの態様では、治療有効量または予防有効量のように、疾患または状態を治療または予防するために有効な量の細胞を含有する。治療または予防有効性は、いくつかの態様では、処置された対象の定期的な評価によりモニタリングされる。所望の投薬量は、細胞の単回ボーラス投与により、細胞の複数回ボーラス投与により、または細胞の連続注入投与により送達されることができる。
【0088】
細胞および組成物は、標準的な投与技術、製剤、および/またはデバイスを使用して投与され得る。細胞の投与は、自己または異種であることができる。例えば、免疫応答性T細胞または前駆細胞を、一対象から得て、それらを本明細書に記載される様々な態様により遺伝子操作した後、同じ対象または異なる適合性の対象に投与することができる。末梢血由来の免疫応答性T細胞またはそれらの子孫(例えば、インビボ、エクスビボまたはインビトロで得られたもの)は、カテーテル投与、全身注射、局所注射、静脈内注射、または非経口投与を含む局所注射により投与することができる。通常、治療的組成物(例えば、遺伝子操作免疫応答細胞を含有する薬学的組成物)を投与する場合、それは通常、単位剤形の注射剤(液剤、懸濁剤、乳剤)として製剤化される。
【0089】
本明細書に開示される製剤は、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋肉内、鼻腔内、口腔、舌下、または坐剤投与のための製剤を含む。いくつかの態様では、細胞集団は、非経口的に投与される。本明細書に使用される「非経口的」という用語は、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、膣、および腹腔内投与を含む。いくつかの態様では、細胞は、静脈内、腹腔内、または皮下注射による末梢全身送達を用いて対象に投与される。
【0090】
組成物は、いくつかの態様では、無菌液体調製物、例えば、等張水溶液、懸濁物、エマルション、分散物、または粘性組成物として提供され、それらは、いくつかの局面では選択されたpHに緩衝化され得る。液体調製物は、通常、ゲル、他の粘性組成物および固体組成物よりも調製が容易である。そのうえ、液体組成物は、特に注射による投与が幾分より好都合である。他方で粘性組成物は、特定の組織とより長い接触期間を提供するように適切な粘性範囲内で製剤化することができる。液体または粘性組成物は、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であることができる担体を含むことができる。
【0091】
無菌注射液は、細胞を溶媒中に、例えば無菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロース、またはその他などの適切な担体、希釈剤、または賦形剤と混合して組み入れることによって調製されることができる。組成物は、投与経路および所望の調製物に応じて、湿潤剤、分散剤、または乳化剤(例えばメチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化剤もしくは増粘添加剤、保存剤、香味剤、および/または着色剤などの補助物質を含有することができる。適切な調製物を調製するために、いくつかの局面で標準的な教科書が参考にされ得る。
【0092】
抗菌保存剤、抗酸化剤、キレート剤、および緩衝剤を含む、組成物の安定性および無菌性を高める様々な添加剤を添加することができる。様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸によって微生物の作用の防止を保証することができる。注射可能な薬学的剤形の長期吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によって引き起こすことができる。
【0093】
インビボ投与のために使用されるべき製剤は、通常、無菌である。無菌性は、例えば無菌濾過膜を通した濾過により容易に達成され得る。
【0094】
B. 養子細胞療法における改変T細胞の投与方法および使用
細胞、集団、および組成物を投与する方法、ならびにがんを含む疾患、状態、および障害を治療または予防するためのそのような細胞、集団、および組成物の使用が提供される。いくつかの態様では、本明細書に記載される細胞、集団、および組成物は、処置されるべき特定の疾患または状態を有する対象または患者に、例えば養子T細胞療法などの養子細胞療法により投与される。いくつかの態様では、インキュベーションおよび/または他の加工段階の後の改変された組成物および生産終了時(end-of-production)組成物などの、提供された方法により調製される細胞および組成物は、疾患または状態を有するまたはそのリスクを有する対象などの対象に投与される。いくつかの局面では、それにより方法は、改変T細胞により認識される抗原を発現しているがんにおける腫瘍量を減らすことになどにより、疾患または状態の1つまたは複数の症状を処置する、例えば改善する。
【0095】
養子細胞療法のための細胞の投与方法は公知であり、提供される方法および組成物に関連して使用され得る。例えば、養子T細胞療法の方法は、例えば、Gruenbergらの米国特許出願公開第2003/0170238号;Rosenbergの米国特許第4,690,915号;Rosenberg (2011) Nat Rev Clin Oncol. 8(10):577-85)に記載されている。例えば、Themeli et al. (2013) Nat Biotechnol. 31(10): 928-933;Tsukahara et al. (2013) Biochem Biophys Res Commun 438(1): 84-9;Davila et al. (2013) PLoS ONE 8(4): e61338を参照されたい。
【0096】
いくつかの態様では、細胞療法(例えば、養子T細胞療法)は、T細胞が、細胞療法を受けることになる対象またはそのような対象由来の試料から単離され、かつ/または他の方法で調製される自己移入により実行される。したがって、いくつかの局面では、細胞は、処置を必要とする対象、例えば患者に由来し、単離および処理後の細胞が同じ対象に投与される。
【0097】
いくつかの態様では、細胞療法(例えば養子T細胞療法)は、T細胞が、細胞療法を受けることになるまたは最終的に受ける対象以外の対象(例えば第1の対象以外の対象)から単離され、かつ/または他の方法で調製される同種移入により実行される。そのような態様では、次に細胞は、同じ種の異なる対象(例えば、第2の対象)に投与される。いくつかの態様では、第1および第2の対象は、遺伝的に同一である。いくつかの態様では、第1および第2の対象は、遺伝的に類似である。いくつかの態様では、第2の対象は、第1の対象と同じHLAクラスまたは上位タイプを発現する。
【0098】
いくつかの態様では、対象は、細胞または細胞を含有する組成物の投与前に、疾患または状態、例えば腫瘍を標的とする治療剤で処置されたことがある。いくつかの局面では、対象は、他の治療剤に抗療性または非応答性である。いくつかの態様では、対象は、例えば化学療法、放射線照射、および/または造血幹細胞移植(HSCT)、例えば同種HSCTを含む別の治療的介入による処置後に、持続性の疾患または再発した疾患を有する。いくつかの態様では、対象が別の治療法に抵抗性になったにもかかわらず、投与は、対象を効果的に処置する。
【0099】
いくつかの態様では、対象は、他の治療剤に応答し、治療剤による処置は疾患負荷を低減する。いくつかの局面では、対象は、初めは治療剤に応答性であるが、時間と共に疾患または状態の再発を示す。いくつかの態様では、対象は再発していない。いくつかのそのような態様では、対象は、再発のリスクがある、例えば再発のリスクが高いと決定され、したがって、細胞が予防的に、例えば再発の可能性を低減するためまたは再発を予防するために投与される。いくつかの態様では、対象は、別の治療剤による先行処置を受けていない。
【0100】
いくつかの態様では、細胞は、いくつかの局面で所望の用量もしくは数の細胞もしくは細胞型および/または所望の比の細胞型を含む、所望の投薬量で投与される。したがって、細胞の投薬量は、いくつかの態様では、細胞の総数(または体重1kgあたりの数)および所望の比の個別集団またはサブタイプ、例えばCD4+対CD8+の比に基づく。いくつかの態様では、細胞の投薬量は、個別の集団中または個別の細胞型の細胞の所望の総数(または体重1kgあたりの数)に基づく。いくつかの態様では、投薬量は、所望の総細胞数、所望の比、および個別集団中の細胞の所望の総数などの、そのような特徴の組み合わせの組み合わせに基づく。
【0101】
いくつかの態様では、CD8+ T細胞およびCD4+ T細胞などの細胞の集団またはサブタイプは、T細胞の所望の用量などの総細胞の所望の用量で、またはその許容差内で投与される。いくつかの態様では、所望の用量は、所望の細胞数または細胞が投与される対象の単位体重あたりの所望の細胞数、例えば個/kgである。いくつかの態様では、所望の用量は、最小細胞数または単位体重あたりの最小細胞数であるか、またはそれを超える。いくつかの態様では、所望の用量で投与される総細胞の中で、個別の集団またはサブタイプは、所望のアウトプット比(例えばCD4+対CD8+の比)またはその近くで、例えばそのような比のある特定の許容差または許容誤差内で存在する。
【0102】
いくつかの態様では、細胞は、CD4+細胞の所望の用量および/またはCD8+細胞の所望の用量のような、1つまたは複数の個別の細胞集団または細胞サブタイプの所望の用量で、またはその許容差内で投与される。いくつかの態様では、所望の用量は、サブタイプもしくは集団の所望の細胞数、または細胞が投与される対象の単位体重あたりのそのような細胞の所望の数、例えば個/kgである。いくつかの態様では、所望の用量は、集団もしくはサブタイプの細胞の最小数または単位体重あたりの集団もしくはサブタイプの細胞の最小数であるか、またはそれを超える。
【0103】
したがって、いくつかの態様では、投薬量は、所望の固定用量の総細胞および所望の比に基づき、ならびに/または個別のサブタイプもしくは亜集団のうちの1つまたは複数、例えばそれぞれの所望の固定用量に基づく。したがって、いくつかの態様では、投薬量は、T細胞の所望の固定用量もしくは最小用量およびCD4+細胞対CD8+細胞の所望の比に基づき、ならびに/またはCD4+細胞および/もしくはCD8+細胞の所望の固定用量もしくは最小用量に基づく。
【0104】
ある特定の態様では、細胞または細胞のサブタイプの個別の集団は、約100万~約1000億個の範囲、例えば100万~約500億個の範囲(例えば、約500万個、約2500万個、約5億個、約10億個、約50億個、約200億個、約300億個、約400億個、またはこれらの値のうちの任意の2つにより定められる範囲)、例えば約1000万~約1000億個の範囲(例えば、約2000万個、約3000万個、約4000万個、約6000万個、約7000万個、約8000万個、約9000万個、約100億個、約250億個、約500億個、約750億個、約900億個、またはこれらの値のうちの任意の2つにより定められる範囲)、場合により約1億個~約500億個の範囲(例えば、約1億2000万個、約2億5000万個、約3億5000万個、約4億5000万個、約6億5000万個、約8億個、約9億個、約30億個、約300億個、約450億個)またはこれらの範囲の間の任意の値の細胞数で対象に投与される。
【0105】
いくつかの態様では、総細胞の用量および/または細胞の個別の亜集団の用量は、104または約104~109または約109個の細胞/キログラム(kg)体重、例えば105~106個の細胞/kg体重の範囲内であり、例えば、少なくとも1×105もしくは少なくとも約1×105もしくは1×105もしくは約1×105個の細胞/kg、少なくとも1.5×105もしくは少なくとも約1.5×105もしくは1.5×105もしくは約1.5×105個の細胞/kg、少なくとも2×105もしくは少なくとも約2×105もしくは2×105もしくは約2×105個の細胞/kg、または少なくとも1×106もしくは少なくとも約1×106もしくは1×106もしくは約1×106個の細胞/kg体重である。例えばいくつかの態様では、細胞は、104または約104~109または約109個のT細胞/キログラム(kg)体重、例えば105~106個のT細胞/kg体重、例えば、少なくとも1×105もしくは少なくとも約1×105もしくは1×105もしくは約1×105個のT細胞/kg、少なくとも1.5×105もしくは少なくとも約1.5×105もしくは1.5×105もしくは約1.5×105個のT細胞/kg、少なくとも2×105もしくは少なくとも約2×105もしくは2×105もしくは約2×105個のT細胞/kg、または少なくとも1×106もしくは少なくとも約1×106もしくは1×106もしくは約1×106個のT細胞/kg体重、またはそのある特定の誤差範囲内で投与される。
【0106】
いくつかの態様では、細胞は、104または約104~109または約109個のCD4+および/またはCD8+細胞/キログラム(kg)体重、例えば105~106個のCD4+および/またはCD8+細胞/kg体重、例えば、少なくとも1×105もしくは少なくとも約1×105もしくは1×105もしくは約1×105個のCD4+および/またはCD8+細胞/kg、少なくとも1.5×105もしくは少なくとも約1.5×105もしくは1.5×105もしくは約1.5×105個のCD4+および/もしくはCD8+細胞/kg、少なくとも2×105もしくは少なくとも約2×105もしくは2×105もしくは約2×105個のCD4+および/もしくはCD8+細胞/kg、または少なくとも1×106もしくは少なくとも約1×106もしくは1×106もしくは約1×106個のCD4+および/もしくはCD8+細胞/kg体重、またはそのある特定の誤差範囲内で投与される。
【0107】
いくつかの態様では、細胞は、約1×106個より多くの、約2.5×106個より多くの、約5×106個より多くの、約7.5×106個より多くの、もしくは約9×106個より多くのCD4+細胞、および/または少なくとも約1×106個、少なくとも約2.5×106個、少なくとも約5×106個、少なくとも約7.5×106個、もしくは少なくとも約9×106個のCD4+細胞、ならびに/あるいは約1×106個より多くの、約2.5×106個より多くの、約5×106個より多くの、約7.5×106個より多くの、もしくは約9×106個より多くのCD8+細胞、および/または少なくとも約1×106個、少なくとも約2.5×106個、少なくとも約5×106個、少なくとも約7.5×106個、もしくは少なくとも約9×106個のCD8+細胞、ならびに/あるいは約1×106個より多くの、約2.5×106個より多くの、約5×106個より多くの、約7.5×106個より多くの、もしくは約9×106個より多くのT細胞、および/または少なくとも約1×106個、少なくとも約2.5×106個、少なくとも約5×106個、少なくとも約7.5×106個、もしくは少なくとも約9×106個のT細胞、あるいはそのある特定の誤差範囲内で投与される。いくつかの態様では、細胞は、約108~1012もしくは約1010~1011個のT細胞、約108~1012もしくは約1010~1011個のCD4+細胞、および/または約108~1012もしくは約1010~1011個のCD8+細胞、あるいはそのある特定の誤差範囲内で投与される。
【0108】
いくつかの態様では、細胞は、複数の細胞集団またはサブタイプ、例えばCD4+およびCD8+細胞またはサブタイプが所望のアウトプット比またはその許容される範囲内になるように投与される。いくつかの局面では、所望の比は、特定の比であってもよいし、比の範囲であってもよく、例えば、いくつかの態様では、所望の比(例えば、CD4+細胞とCD8+細胞の比)は、5:1もしくは約5:1と5:1もしくは約5:1との間(または約1:5よりも大きく約5:1よりも小さい)、あるいは1:3もしくは約1:3と3:1もしくは約3:1の間(または約1:3よりも大きく約3:1よりも小さい)、例えば2:1もしくは約2:1と1:5もしくは約1:5の間(または約1:5よりも大きく約2:1よりも小さい)、例えば5:1、4.5:1、4:1、3.5:1、3:1、2.5:1、2:1、1.9:1、1.8:1、1.7:1、1.6:1、1.5:1、1.4:1、1.3:1、1.2:1、1.1:1、1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、1:1.7、1:1.8、1:1.9、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、もしくは1:5、または約5:1、約4.5:1、約4:1、約3.5:1、約3:1、約2.5:1、約2:1、約1.9:1、約1.8:1、約1.7:1、約1.6:1、約1.5:1、約1.4:1、約1.3:1、約1.2:1、約1.1:1、約1:1、約1:1.1、約1:1.2、約1:1.3、約1:1.4、約1:1.5、約1:1.6、約1:1.7、約1:1.8、約1:1.9、約1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、もしくは1:5である。いくつかの局面では、許容差は、所望の比の約1%以内、約2%以内、約3%以内、約4%以内、約5%以内、約10%以内、約15%以内、約20%以内、約25%以内、約30%以内、約35%以内、約40%以内、約45%以内、約50%以内であり、これらの範囲の間の任意の値を含む。
【0109】
疾患の予防または治療のために適切な投薬量は、処置されるべき疾患、細胞または組み換え受容体の種類、疾患の重症度および経過、細胞が予防目的で投与されるかまたは治療目的で投与されるか、先行の治療、対象の臨床歴および細胞に対する応答、ならびに担当医の判断に依存する場合がある。組成物および細胞は、いくつかの態様では、一度にまたは一連の処置にわたり対象に適切に投与される。
【0110】
本明細書に記載される細胞は、任意の適切な手段により、例えば、ボーラス注入により、注射により、例えば静脈内もしくは皮下注射、眼内注射、眼周囲注射、網膜下注射、硝子体内注射、経中隔注射、胸膜下注射、脈絡膜内注射、前房内注射、結膜下(subconjectval)注射、結膜下注射、テノン下注射、眼球後注射、眼球周囲注射、または後傍強膜送達(posterior juxtascleral delivery)により投与することができる。いくつかの態様では、それらは、非経口、肺内、および鼻腔内に投与され、局所処置が所望の場合は、病巣内投与で投与される。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与を含む。いくつかの態様では、所与の用量は、細胞の単回ボーラス投与により投与される。いくつかの態様では、所与の用量は、例えば3日間以内の期間にわたる細胞の複数ボーラス投与により、または細胞の連続注入投与により投与される。
【0111】
いくつかの態様では、細胞は、抗体または改変細胞または受容体または細胞障害剤もしくは治療剤などの作用物質などの別の治療的介入と同時または任意の順序で順次などの、併用処置の部分として投与される。細胞は、いくつかの態様では、1つもしくは複数の追加的な治療剤と共に、または別の治療的介入に関連して同時または任意の順序の順次のいずれかで共投与される。いくつかの状況では、細胞は、別の治療法と十分に近い時間で共投与され、その結果、細胞集団は1つまたは複数の追加的な治療剤の効果を高める、またはその逆である。いくつかの態様では、細胞は、1つまたは複数の追加的な治療剤の前に投与される。いくつかの態様では、細胞は、1つまたは複数の追加的な治療剤の後に投与される。いくつかの態様では、1つまたは複数の追加的な薬剤は、例えば持続性を高めるためにIL-2などのサイトカインを含む。いくつかの態様では、方法は、化学療法剤の投与を含む。
【0112】
細胞の投与に続き、いくつかの態様における改変細胞集団の生物学的活性は、例えばいくつかの公知の方法のいずれかにより測定される。評価すべきパラメーターは、インビボでの、例えばイメージングによる、またはエクスビボでの、例えばELISAもしくはフローサイトメトリーによる、抗原への改変T細胞の特異的結合を含む。ある特定の態様では、改変細胞が標的細胞を破壊する能力は、例えば、Kochenderfer et al., J. Immunotherapy, 32(7): 689-702 (2009)およびHerman et al. J. Immunological Methods, 285(1): 25-40 (2004)に記載された細胞傷害性アッセイなどの、当技術分野において公知の任意の適切な方法を用いて測定することができる。ある特定の態様では、細胞の生物学的活性は、CD107a、IFNγ、IL-2、およびTNFなどの1つまたは複数のサイトカインの発現および/または分泌をアッセイすることによって測定される。いくつかの局面では、生物学的活性は、腫瘍量または負荷における低減などの臨床アウトカムを評価することによって測定される。
【0113】
ある特定の態様では、改変細胞は、それらの治療有効性または予防有効性が増加するように、任意のいくつかの方法でさらに操作される。例えば、集団によって発現される、改変されたCARまたはTCRを、標的指向性部分に直接的またはリンカーにより間接的のいずれかでコンジュゲートすることができる。標的指向性部分に化合物(例えばCARまたはTCR)をコンジュゲートする実施は、当技術分野において公知である。例えば、Wadwa et al., J. Drug Targeting 3: 111 (1995)、および米国特許第5,087,616号を参照されたい。
【0114】
C. 投与計画またはレジメン
いくつかの態様では、第1の用量の細胞が与えられ、続いて1つまたは複数の第2の継続用量の細胞が与えられる、反復投薬方法が提供される。養子療法の方法で対象に投与される場合、細胞の複数用量のタイミングおよびサイズは、概して、TCR発現改変T細胞の有効性および/または活性および/または機能を向上させるように設計される。いくつかの態様では、反復投薬は、PD-1および/またはPD-L1などの抑制性免疫分子がTCR発現改変T細胞上でアップレギュレーションされる場合に起きる可能性があるダウンレギュレーションまたは抑制活性を低下させる。当該方法は、異なる用量の間に特定の時間枠を有して、通常、第1の用量に続いて、1つまたは複数の継続用量を投与し、異なる用量の間に特定の時間枠を設けることを含む。
【0115】
養子細胞療法に関して、所与の「用量」の投与は、単一の組成物および/または単一の中断されない投与としての(例えば、単回注射または連続注入としての)所与の量または数の細胞の投与を包含し、また、複数の個別の組成物または注入で3日間以内の特定の期間にわたり提供される分割用量としての所与の量または数の細胞の投与を包含する。したがって、いくつかの状況では、第1の用量または継続用量は、単一の時点に与えられるまたは開始される特定の数の細胞の単一または連続投与である。しかし、いくつかの状況では、第1の用量または継続用量は、1日1回3日間もしくは2日間のように、3日以内の期間にわたる複数の注射もしくは注入で、または1日間にわたる複数回の注入により投与される。
【0116】
したがって、いくつかの局面では、第1の用量の細胞が、単一の薬学的組成物として投与される。いくつかの態様では、継続用量の細胞が、単一の薬学的組成物として投与される。
【0117】
いくつかの態様では、第1の用量の細胞は、合計で第1の用量の細胞を含有する複数の組成物として投与される。いくつかの態様では、継続用量の細胞は、合計で継続用量の細胞を含有する複数の組成物として投与される。いくつかの局面では、追加的な継続用量は、3日以内の期間にわたって複数の組成物で投与され得る。
【0118】
「分割用量」という用語は、1日間よりも長い期間にわたって投与されるように分割されている用量を指す。この種の投薬は、本方法により包含され、単一用量であると見なされる。
【0119】
したがって、第1の用量および/または継続用量は、いくつかの局面では、分割用量として投与され得る。例えば、いくつかの態様では、用量は、対象に2日間または3日間かけて投与され得る。分割投薬のための例示的な方法は、1日目に用量の25%を投与し、2日目に用量の残りの75%を投与することを含む。他の態様では、第1の用量の33%が、1日目に投与され、残りの67%が2日目に投与され得る。いくつかの局面では、用量の10%が1日目に投与され、用量の30%が2日目に投与され、用量の60%が3日目に投与される。いくつかの態様では、分割用量は、3日間よりも長くにわたっては投与されない。
【0120】
第1の用量などの先行用量に関連する「継続用量」という用語は、先行の、例えば第1の、用量の後、合間にいかなる介在用量も対象に投与せずに、同じ対象に投与される用量を指す。それでもなお、用量は、単一の分割用量内に含まれる一連の注入または注射の中の第2、第3、および/またはその他の注射または注入を包含しない。したがって、特に規定しないかぎり、1、2または3日間以内の第2の注入は、本明細書に使用されるところの「連続」用量であると見なされない。同様に、分割用量内の一連の複数の用量の中の第2、第3、およびその他もまた、「連続」用量の意味に関連して「介在」用量と見なされない。したがって、特に規定しないかぎり、たとえ対象が第1の用量の開始に続き細胞の第2または後続の注射または注入を受けた場合であっても、第1または先行用量の開始後3日間よりも長いある特定の期間投与される用量は、第2または後続の注射または注入が第1または先行用量の開始に続いて3日以内の期間に起こったのであるかぎり「連続」用量であると見なされる。
【0121】
したがって、特に規定しないかぎり、最大3日間にわたる同じ細胞の複数回投与は、単一用量と見なされるのであって、第2の用量が第1と「連続的」であるかを決定するために、最初の投与から3日以内の細胞の投与は、継続用量と見なされず、かつ介在用量と見なされない。
【0122】
いくつかの態様では、複数の継続用量は、いくつかの局面で、第1の用量と第1の継続用量との間のタイミングに関するガイドラインと同じタイミングガイドラインを用いて、例えば、第1および複数の継続用量を投与し、投与された第1の用量から、対象においてPD-1および/またはPD-L1などの抑制性免疫分子がアップレギュレーションされている期間内に各継続用量を与えることによって与えられる。末梢血または他の体液からのCAR発現細胞などの抗原発現細胞におけるPD-1および/またはPD-L1のレベルを評価することなどによって継続用量をいつ提供すべきかを経験的に決定することは、技術者のレベルの範囲内である。
【0123】
いくつかの態様では、第1の用量と第1の継続用量との間、または第1の用量と複数の継続用量との間のタイミングは、各継続用量が約5日間よりも長い、約6日間よりも長い、約7日間よりも長い、約8日間よりも長い、約9日間よりも長い、約10日間よりも長い、約11日間よりも長い、約12日間よりも長い、約13日間よりも長い、約14日間よりも長い、約15日間よりも長い、約16日間よりも長い、約17日間よりも長い、約18日間よりも長い、約19日間よりも長い、約20日間よりも長い、約21日間よりも長い、約22日間よりも長い、約23日間よりも長い、約24日間よりも長い、約25日間よりも長い、約26日間よりも長い、約27日間よりも長い、約28日間よりも長い、またはそれよりも長い期間内に与えられるようなタイミングである。いくつかの態様では、継続用量は、第1または直前の用量の投与後約28日間よりも短い期間内に与えられる。追加的な用量または複数の追加的な継続用量は、後続用量または後続の継続用量とも称される。
【0124】
細胞の第1の用量および/または1つもしくは複数の継続用量のサイズは、概して、改善された有効性および/または低減した毒性リスクを提供するように設計される。いくつかの局面では、第1の用量または任意の継続用量の投薬量またはサイズは、上記の任意の投薬量または量である。いくつかの態様では、第1の用量または任意の継続用量中の細胞数は、対象の体重に基づいて約0.5×106個/kg~5×106個/kg、約0.75×106個/kg~3×106個/kg、または約1×106個/kg~2×106個/kgである(それぞれ両端の値を含む)。
【0125】
本明細書に使用される「第1の用量」は、所与の用量のタイミングが継続用量または後続用量の投与の前であることを記載するために使用される。この用語は、対照が細胞療法薬の用量を以前に受けたことがないことも、対象が同じ細胞または同じ組み換え受容体を発現または同じ抗原を標的とする細胞の用量を以前に受けたことがないことさえも、必ずしも意味しない。
【0126】
いくつかの態様では、継続用量中の細胞によって発現される受容体(例えばTCR)は、第1の用量の細胞によって発現される受容体(例えばTCR)のように、少なくとも1つの免疫反応性エピトープを含有する。いくつかの態様では、継続用量で投与される細胞によって発現される受容体(例えばTCR)は、第1の用量によって発現される受容体(例えばTCR)と同一である、または第1の用量として投与される細胞によって発現される受容体(例えばTCR)と実質的に同一である。
【0127】
対象に様々な用量で投与される細胞によって発現されるTCRなどの受容体は、処置されている疾患または状態またはその細胞において発現される、それに関連する、および/またはそれに特異的な分子を一般的に認識するまたはそれと特異的に結合する。受容体は、分子(例えば抗原)に特異的に結合すると、概して、ITAM形質導入シグナルなどの免疫刺激シグナルを細胞内に送達し、それにより、疾患または状態を標的とする免疫応答を促進する。例えば、いくつかの態様では、第1の用量中の細胞は、発現される抗原に特異的に結合するCARを発現する。
【実施例
【0128】
以下の実施例は、本発明の特許請求の範囲を限定することを意図するものではなく、特定の態様の例示であることを意図するものである。技術者に思い浮かぶ、例示される方法における任意の変形は、本発明の範囲内に入ることが意図される。
【0129】
構築物の設計。標準的な分子生物学の技術を用いて、3つのコード領域を含有するMP71レトロウイルスベクター構築物を生成した。ここで、当該3つのコード領域は、以下の通りであった:(A)ヒト抗E6 TCRのα鎖の可変領域が当該TCRα鎖の定常領域に融合されたもの(aE6_Va-Caと称される);(B)同じヒト抗E6 TCRのβ鎖の可変領域が当該TCRβ鎖の定常領域に融合されたもの(aE6_Vb-Cbと称される);ならびに(C)GSリンカーで連結された、新規な抗PD-1抗体の重鎖可変領域(aPD1_VHと称される)および軽鎖可変領域(aPD1_VLと称される)。得られたレトロウイルスベクターは、概してE6.αPD1_m11と称される。本研究に使用されるレトロウイルスベクター構築物の略図を図1に示す。
【0130】
細胞株および培地。HEK-293T細胞およびCaSki細胞をATCCから購入した。匿名のドナーからの末梢血単核細胞(PBMC)をHemacareから購入した。ヒトPD-1を過剰発現させるベクターを用いた293T細胞のレンチウイルス形質導入によって、293T-PD-1細胞を生成した。DMEM+10% FBS、RPMI+10% FBS、またはX-Vivo+5% ヒト血清A/B+1% HEPES+1% GlutaMAX中で細胞を培養した。
【0131】
レトロウイルスベクターの産生。標準的なリン酸カルシウム沈殿プロトコールを用いた293T細胞の一過性トランスフェクションにより、レトロウイルスベクターを調製した。48時間目にウイルス上清を回収し、T細胞に形質導入するためにそれを使用した。
【0132】
T細胞の形質導入および拡大増殖。レトロウイルス形質導入の前に、T細胞活性化物質ビーズおよびヒトIL-2と共に培養することによって、PBMCを2日間活性化させた。形質導入のために、15μg/ウェルのRetroNectin(Clontech Laboratories)でコーティングされた非組織培養処理24ウェルプレート上、32℃で2,000g、2時間遠心分離することによって、新鮮回収されたレトロウイルス上清をスピンロードした。活性化PBMCをプレート上にロードし、32℃、600gで、30分間回転させた。T細胞を37℃および5% C02でインキュベートした。培地を2日毎に補充した。
【0133】
TCRおよびPD-1の染色。すべての抗体をBiolegendから購入した。トランスフェクションの72時間後に、TCRβ鎖に対する抗体染色に続くフローサイトメトリーによって、組み換えTCRの発現を検出した。CaSki標的細胞と共培養した72時間後に、PD-1に対する抗体染色によってPD-1の発現を検出した。CD3、CD4、およびCD8の染色を同時に行った。
【0134】
抗PD-1 scFvのインビトロ発現。E6、E6.αPD1_m11、またはE6.αPD1_5C4 TCR導入遺伝子のいずれかをコードするレトロウイルスベクターを293T細胞にトランスフェクトした。次に、トランスフェクションの48時間後に細胞培養上清を収集した。上清20μl中の抗PD-1 scFvをELISAにより検出した。
【0135】
結果:図3は、細胞培養上清中の分泌された抗PD-1 scFvの発現を示す。E6は、抗PD-1を有しないE6 TCRを示し;E6.aPD1_m11は、本発明の新規な抗PD-1単鎖抗体を有するE6 TCRを示し;E6.αPD1_5C4は、公開済の配列から得られた対照抗PD-1単鎖抗体を有するE6 TCRを示す。
【0136】
抗E6 TCR-Tのインビトロ発現。表示されている構築物を初代T細胞に形質導入した。72時間培養後、TCRβ鎖に対する抗体染色によって組み換えTCRの発現を検出した。生存CD3+リンパ球ゲーティング戦略を使用した。
【0137】
結果:図4は、E6.αPD1_m11構築物を含有するT細胞において抗E6 TCRが強く発現されているパネルを示す。
【0138】
分泌された抗PD-1 scFvの結合活性。E6、E6.αPD1_m11、またはE6.αPD1_5C4 TCR導入遺伝子のいずれかをコードするレトロウイルスベクターを293T細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に細胞培養上清を収集した。293T-PD-1細胞を上清300μlと共に室温で30分間インキュベートし、次に抗HAタグ抗体を使用して細胞を染色し、293T-PD-1細胞に結合した、分泌されたHAタグ付加抗PD-1抗体を検出した。
【0139】
結果:図5から分かるように、分泌された抗PD1は両方とも、293T-PD-1細胞と強く結合した。E6.αPD1_m11抗体およびE6.αPD1_5C4抗体は、細胞表面に発現されたPD-1に対して同等の結合親和性を有する。
【0140】
組み換えPD-L1の競合結合。293T-PD1細胞を、100μg/ml rhPD-L1/Fc 1μl、およびE6、E6.αPD1_m11またはE6.αPD1_5C4 TCRをトランスフェクトされた293T細胞培養物の上清300μlと共に30分間インキュベートした。次に細胞を、PEとコンジュゲートされた抗ヒトFcで染色した。
【0141】
結果:図6から分かるように、E6.αPD1_m11およびE6.αPD1_5C4 TCR-T細胞からの上清は、組み換えPD-L1と競合することが可能であった。したがって、このことは、単鎖抗PD1抗体がPD-1とそのリガンドPD-L1との間の相互作用を遮断できることを実証している。
【0142】
TCR-T IFNγのインビトロ活性化。3μg/mlの抗ヒトCD3抗体を用いて96ウェルアッセイプレートを4℃で一晩コーティングした。2日目に、ウェルの上清を吸引し、ウェルを100ml/ウェルのPBSで1回洗浄した。100μlのPBS中の10μg/ml rhPD-L1/Fcを添加した。次に各ウェルに10μlのPBS中の100μg/ml ヤギ抗ヒトIgG Fc抗体を添加した。アッセイプレートを37℃で4時間インキュベートした。ヒトT細胞を回収し、1回洗浄し、次いで1×106個の細胞/mlとなるようにTCM中に再懸濁した。アッセイプレートのウェルを吸引した。次に、100μlのヒトT細胞懸濁液(1×105個)と、E6、E6.αPD1_m11、またはE6.αPD1_5C4 TCRをトランスフェクトされ、GolgiPlugを補充された、トランスフェクションの2日後の293T細胞の培養上清100μlとを各ウェルに添加した。プレートをカバーし、37℃および5% C02で一晩インキュベートした。インキュベーションの後、T細胞を回収し、細胞内のIFN-γを染色した。
【0143】
結果:図7を参照すると、IFNγの発現によって測定した場合、E6 TCRを含有するTCR-T細胞をCD3抗体により活性化させることができたが、その活性化は組み換えPD-L1(rhPD-L1)の導入により低下した。しかし、E6.αPD1_m11およびE6.αPD1_5C4の両方については、PD-L1は前記活性化を低下させなかった。
【0144】
TCR-T IFNγのインビトロ分泌。TCR-T細胞をCa Ski細胞と共に1:0、1:2、1:1、および3:1のエフェクター対標的比で48時間または72時間のいずれかで共培養した。次に、上清を収集し、ヒトIFN-γ ELISAキットを製造業者の説明書に従って使用してIFN-γの産生を測定した。
【0145】
結果:抗PD-1 scFvを分泌することが抗原特異的刺激を受けたTCR-T細胞のIFNγ産生に及ぼす効果を図8に示す(NTは、対照として使用された非形質導入対照を示す)。図8から分かるように、E6.αPD1_m11およびE6.αPD1_5C4 TCR-T細胞の両方で上清からのIFNγの分泌が検出されたが、E6.αPD1_m11からのIFNγ産生の方が有意に高かった。
【0146】
特異的細胞溶解(細胞傷害性)。Ca Ski腫瘍細胞をCFSEで予備染色し、次に1:2、1:1、および3:1のエフェクター対標的比でE6、E6.αPD1_m11またはE6.αPD1_5C4 TCR-T細胞と共に一晩共培養した。Annexin V/7-AAD染色によりCa Ski細胞に対するT細胞の細胞傷害性を測定した。非標的293T細胞を対照として使用した。
【0147】
結果:図9から分かるように、すべてのE6 TCR-T細胞はE6+標的細胞(CaSki)を特異的に死滅させた。E6.αPD1_m11およびE6.αPD1_5C4は、E6単独よりも効率的に標的細胞を死滅させた。
【0148】
TCR-Tのインビトロ増殖。E6、E6.αPD1_m11およびE6.αPD1_5C4 TCR-T細胞をCFSEで予備染色した。次に、染色されたT細胞をCa Ski細胞と共に72時間共培養し、CFSEの強度をフローサイトメトリーによって測定した。非形質導入(NT)T細胞を対照として使用した。
【0149】
結果:図10から分かるように、E6+標的細胞への曝露は、すべてのE6 TCR-T細胞を刺激して増殖させた(活性化の別の尺度)が、E6.αPD1_m11 TCR-T細胞は、試験された他のTCR-T細胞よりも速く増殖した。
【0150】
抗原特異的刺激によるPD-1のインビトロ発現。すべてのTCR-T細胞をCa Ski細胞と共に72時間共培養した。次にT細胞を収集し、細胞表面のPD-1発現をフローサイトメトリーによって測定した。PD-1を発現するCD8 T細胞またはCD4 T細胞にゲート設定し、総CD8+ T細胞または総CD4+ T細胞に対するそれらの割合(%)を示した。NTは、対照として使用された非形質導入T細胞を示す。
【0151】
結果:図11から分かるように、抗原刺激後、E6 TCRおよびE6.αPD1_5C4を含有するT細胞上で抑制性受容体PD-1がアップレギュレーションされている。しかし、E6.αPD1_m11を発現している細胞上では、PD-1がアップレギュレーションされていない。
【0152】
TCR-Tのインビボ有効性。6~8週齢の雌性NSGマウスの皮下に2e6個のCa Ski腫瘍細胞を移植し、12日後、それぞれの担腫瘍マウスにポリ(I:C) 10ugをi.p.により与えた。24時間後に、10e6個のE6-TCR-T、E6.αPD1_m11-TCR-T、または非形質導入対照PBMCをマウスの尾静脈に注射した。腫瘍サイズを1週間に2回測定してTCR-Tの抗腫瘍有効性を評価し、マウスの身体の状態および体重を1週間に2回測定してTCR-T関連毒性を評価した。
【0153】
結果(データなし):TCR-T細胞が有効な場合、腫瘍の成長は、E6および非形質導入対照と比べてE6.αPD1_m11の方が遅いことが予期される。加えて、E6.αPD1_m11 TCR-T細胞のT細胞数は、非形質導入対照と比較して増加し得る。
【0154】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、完全に示されているかの如くそれらの全体で参照により組み入れられる。特に定義されないかぎり、本明細書に使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。Allen et al, Remington: The Science and Practice of Pharmacy 22nd ed., Pharmaceutical Press (September 15, 2012); Hornyak et al., Introduction to Nanoscience and Nanotechnology, CRC Press (2008); Singleton and Sainsbury, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3rd ed., revised ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 2006); Smith, March’s Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 7th ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 2013); Singleton, Dictionary of DNA and Genome Technology 3rd ed., Wiley-Blackwell (November 28, 2012);およびGreen and Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (Cold Spring Harbor, NY 2012)は、本出願に使用される用語の多くへの一般指針を当業者に提供する。抗体を調製する方法の参考文献については、Greenfield, Antibodies A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (Cold Spring Harbor NY, 2013); Koehler and Milstein, Derivation of specific antibody-producing tissue culture and tumor lines by cell fusion, Eur. J. Immunol. 1976 Jul, 6(7):511-9; Queen and Selick, humanized immunoglobulins、米国特許第5,585,089号(1996年12月);およびRiechmann et al, Reshaping human antibodies for therapy, Nature 1988 Mar 24, 332(6l62):323-7を参照されたい。
【0155】
当業者は、本発明の実施に使用することもできる、本明細書に記載されるものと類似または等価の多くの方法および材料を認識しているであろう。本発明の他の特徴および利点は、例により本発明の態様の様々な特徴を例証する添付の図面と共に採用された以下の詳細な説明から明らかになるであろう。実際に、本発明は、記載される方法および材料に決して限定されない。便宜上、本明細書において、すなわち本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲に用いられる特定の用語をここに集める。
【0156】
特に述べないかぎり、または状況から暗に意味されないかぎり、以下の用語および語句は、下に提供される意味を含む。特に明白に述べないかぎり、または状況から明らかでないかぎり、下の用語および語句は、該用語または語句が属する技術分野で獲得した意味を排除しない。定義は、特定の態様の説明を助けるために提供されるのであって、請求された発明を限定することを意図しない。それは、本発明の範囲が、特許請求の範囲によってのみ限定されるからである。特に定義しないかぎり、本明細書に使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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【国際調査報告】