(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(54)【発明の名称】医療用糸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/06 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
A61B17/06 520
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021536778
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 KR2020004193
(87)【国際公開番号】W WO2021085761
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0138169
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2019年4月5日に、ザ・ジャーナル・オブ・ミニマリ・インベイシブ・ガニコロジー、第27巻、第2号、第473-481頁において発表
(71)【出願人】
【識別番号】521274533
【氏名又は名称】サムヤン ホールディングス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】SAMYANG HOLDINGS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】31,Jong-ro 33-gil,Jongno-gu,Seoul,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,ホスン
(72)【発明者】
【氏名】リュ,デヒィ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ヒェスン
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160BB28
(57)【要約】
本発明は、医療用糸の終端を短時間で皮膚組織に固定し、それにより手術時間を短縮する手段を提供するために、長手方向に延びる本体、及び、前記本体の一端部に前記本体の断面より大きな断面を有するストッパーを有する医療用糸及びその製造方法を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる本体;及び
前記本体の一端部に、前記本体の断面よりも大きな断面を有するストッパー;
を有することを特徴とする医療用糸。
【請求項2】
前記ストッパーは、隣接する前記本体の長手方向に対して垂直に配置され、三角柱又は三角錐の形状を有する請求項1に記載の医療用糸。
【請求項3】
前記ストッパーの厚さは0.1mm~5.0mmであり、前記ストッパーの一辺の長さは2mm~5mmである請求項2に記載の医療用糸。
【請求項4】
前記本体は前記ストッパーの中心に連結され、前記ストッパーのコーナー角度は60°である請求項2に記載の医療用糸。
【請求項5】
前記本体と前記ストッパー間の付着強度は0.3kgf~10.0kgfである請求項1に記載の医療用糸。
【請求項6】
前記本体と前記ストッパーは、それぞれ独立して、ポリジオキサン(PDO)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリトリメチルカーボネート(PTMC)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から選ばれる一つ以上の共重合体を含む請求項1に記載の医療用糸。
【請求項7】
前記本体の他端部には、縫合部位に挿入可能な縫合用針が結合されている請求項1に記載の医療用糸。
【請求項8】
前記本体の表面は、外側に突出した複数のとげを有する請求項1に記載の医療用糸。
【請求項9】
長手方向に延びる本体を準備するステップ;
前記本体の一端部を加熱して溶融するステップ;
溶融した前記本体の一端部を、所定の形状を有するモールドに注入し、前記本体の端部にストッパーを形成するステップ;及び
前記本体と前記ストッパーを冷却した後、前記モールドから分離するステップ;を含み、
前記ストッパーが、前記本体の断面よりも大きな断面を有することを特徴とする医療用糸の製造方法。
【請求項10】
溶融した前記本体の一端部に対して前記ストッパーの相対的位置を調節する位置調節ステップをさらに含む請求項9に記載の医療用糸の製造方法。
【請求項11】
前記本体と前記ストッパーを冷却した後、前記モールドから分離するステップにおいて、前記本体と前記ストッパーを、0.01~3.0mpaの冷却空気量で5.0~120秒間冷却する請求項9に記載の医療用糸の製造方法。
【請求項12】
前記本体の一端部を加熱して溶融するステップにおいて、前記本体を溶融するモールドの温度は50~400℃である請求項9に記載の医療用糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用糸及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、医療用糸は、皮膚、筋肉、腱、内臓、骨組織、神経、血管などの組織の損傷部位及び外科手術に伴う切開部位を連結又は縫合するため、人体組職の修復、支持及び/又は固定などのために使用されている。
【0003】
従来の医療用糸を使用する場合、切開された組織を縫うために、結び目を形成する必要がある。しかし、様々な結び方があり、その中には非常に複雑なものもあるため、従来の医療用糸を使用するには事前の訓練が必要とされてきた。さらに別の問題は、結び目の形成には、外科的措置の総時間のかなりの部分が費やされることである。従って、医療用糸の結び目を形成せずに使用できる医療用糸を開発する必要性が浮上してきた。
【0004】
結び目のない糸の必要性に対処するために、返しとげのある医療用糸(barbed thread)が開発された。返しとげのある医療用糸は、双方向にとげが形成された双方向タイプ(Bidirectional type)と、一方向にのみとげが形成された一方向タイプ(Unidirectional type)とに分類することができる。前者の双方向タイプは、とげが反対方向を向いているため、縫合は、創傷の中心から始まり、切開の終端まで双方向に続くので、糸の端を結び目で固定する必要がない。しかし、後者の一方向タイプは、組織内で、とげが向いている方向とは反対方向にのみ移動を抑制するため、切開部位の終端では医療用糸を固定するための手段が必要となる。
【0005】
このような一方向タイプの返しとげのある医療用糸の終端を固定させるためには、端部をループ状に形成し、組織を縫合針で縫い合わせて、ループを組織に近づけ、再度縫い合わせて縫合針をループに通して糸を引き締め、これにより固定効果が達成される。即ち、従来技術は、一方向タイプの返しとげのある医療用糸の終端に形成された小さなループに糸を通し、ループを締めて固定効果を達成している。一方、手順の複雑さと不便を低減し、一方向タイプの返しとげのある医療用糸の終端を固定するために必要な時間を低減する解決策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2019-0061944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述のような従来技術の問題を解決するためのものであり、その目的は、医療用糸の終端を短時間で皮膚組織に固定する手段を提供することにより、手術時間を最小限に抑えることを可能にする医療用糸及びその製造方法を提供することである。
【0008】
また、本発明の別の目的は、医療用糸の終端が皮膚組織から離脱したり皮膚組織を通過することなく、患者の痛みを最小限に抑えることができる医療用糸及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、長手方向に延びる本体;及び、前記本体の一端部に、前記本体の断面よりも大きな断面を有するストッパー;を有する医療用糸を提供する。
【0010】
一実施形態において、前記ストッパーは、隣接する前記本体の長手方向に対して垂直に配置され、三角柱又は三角錐の形状を有していてもよい。
【0011】
また、一実施形態において、前記ストッパーの厚さは0.1mm~5.0mmであり、前記ストッパーの一辺の長さは2mm~5mmであってもよい。
【0012】
さらに、一実施形態において、前記本体は前記ストッパーの中心に連結され、前記ストッパーのコーナー角度は60°であってもよい。
【0013】
また、一実施形態において、前記本体と前記ストッパー間の付着強度は0.3kgf~10.0kgfであってもよい。
【0014】
さらに、一実施形態において、前記本体と前記ストッパーは、それぞれ独立して、ポリジオキサン(PDO)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリトリメチルカーボネート(PTMC)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から選ばれる一つ以上の共重合体を含んでいてもよい。
【0015】
また、一実施形態において、前記本体の他端部には、縫合部位に挿入可能な縫合用針が結合されてもよい。
【0016】
さらに、一実施形態において、前記本体の表面は、外側に突出した複数のとげを有していてもよい。
【0017】
本発明の別の態様は、長手方向に延びる本体を準備するステップ;前記本体の一端部を加熱して溶融するステップ;溶融した前記本体の一端部を、所定の形状を有するモールドに注入し、前記本体の端部にストッパーを形成するステップ;及び、前記本体と前記ストッパーを冷却した後、前記モールドから分離するステップ;を含み、前記ストッパーが、前記本体の断面よりも大きな断面を有する医療用糸の製造方法を提供する。
【0018】
一実施形態において、溶融した前記本体の一端部に対して前記ストッパーの相対的位置を調節する位置調節ステップをさらに含んでいてもよい。
【0019】
また、一実施形態において、前記本体と前記ストッパーを冷却した後、前記モールドから分離するステップにおいて、前記本体と前記ストッパーを、0.01~3.0mpaの冷却空気量で5.0~120秒間冷却することができる。
【0020】
さらに、一実施形態において、前記本体の一端部を加熱して溶融するステップにおいて、前記本体を溶融するモールドの温度は50~400℃であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、医療用糸の終端を短時間で皮膚組織に固定することができる手段を提供することにより、手術時間を短縮することができ、医療用糸の終端が皮膚組織から離脱したり皮膚組織を通過することなく、患者の異物感や痛みを最小限に抑えることができる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明による医療用糸の一実施形態を示した図である。
【
図2】
図1に示された医療用糸のストッパー(20)の拡大図である。
【
図3】
図1に示された医療用糸の本体(10)の一部の拡大図である。
【
図4】
図1に示された医療用糸の本体(10)の正面概略図である。
【
図5】
図1に示された医療用糸の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、そのような具体的な実施形態に限定されない。また、本発明を説明するに当たり、本発明の要旨とは関係のない既知の構成や機能についての詳細な説明が省略されるかもしれないが、本発明の範囲はそのような省略によって限定されるものと解釈されるべきではない。
【0024】
図1は、本発明による医療用糸の一実施形態を表しており、
図2は、
図1に示された医療用糸のストッパー20の拡大図であり、
図3は、
図1に示された医療用糸の本体10の一部の拡大図であり、
図4は、
図1に示した医療用糸の本体10の正面概略図である。
【0025】
図1~
図4を参照すると、本発明の一実施形態は、長手方向に延び、外側に突出する複数のとげを有する本体10と、本体10の一端部に本体10の断面よりも大きな断面を有するストッパー20とを有する医療用糸1を提供する。
【0026】
本発明の一実施形態による医療用糸1は、手術や外傷による組織の損傷部を縫合するのに使用される糸、あるいは皮膚組織に挿入して皮膚を引き締めるために使用される糸であってもよい。
【0027】
本体10は、長手方向に延びる細くて長い形状に形成され、外力によって変形できる柔軟な性質を有することができる。ここで、長手方向とは、
図3の本体10の中心軸Lが延びる方向として理解することができる。
【0028】
本体10の外側には、長手方向に接線方向(斜め方向)に傾斜した複数のとげ12、14、16を設けることができる。
【0029】
複数のとげ12、14、16は、本体10の長手方向に対して所定の角度で本体10の表面に形成することができる。例えば、複数のとげ12、14、16は、長手方向に対して10°~45°の角度を有することができる。本体10の表面に所定の角度を有するとげ12、14、16を形成することにより、複数のとげ12、14、16を皮膚組織に容易に絡ませることができる。ここで、複数のとげ12、14、16は、一方向に沿って形成することができる(一方向タイプ(Unidirectional type))。従って、本実施形態の医療用糸1は、一方向タイプの返しとげのある医療用糸(barbed thread)であってもよい。
【0030】
具体的に、第1のとげ12は、本体10の一側面の表面に配置することができ、第2のとげ14及び第3のとげ16は、第1のとげ12から円周方向に離隔され、本体10の反対側面の表面に配置することができる。また、第1のとげ12、第2のとげ14及び第3のとげ16は、複数配置することができ、それぞれを本体10の長手方向に沿って一列に並べる(配置する)ことができる。
【0031】
本実施形態では、
図4に示されように、医療用糸は、本体10の断面に対して円周方向に配置された3つのとげ12、14、16、又は2つのとげ、又は4つ以上のとげを備えることができる。
【0032】
また、第1のとげ12と第2のとげ14は、互いに異なる角度を有するように配置することができる。本実施形態では、第1のとげ12と第2のとげ14のみが本体10の表面に形成された医療用糸を例示して説明するが、反対側面に配置された複数のとげをさらに含むことができる。
【0033】
さらに、とげ12、14、16のパターンは、それに限定されず、本体10の円周に沿って螺旋状に配置することができる。
【0034】
本体10の一端部には、本体10の断面よりも大きな断面を有するストッパー20を設けることができる。例えば、ストッパー20は、三角柱又は三角錐の形状で提供でき、その厚さtは0.1mm~5.0mmとすることができる。ストッパー20の厚さが0.1mm未満であると、ストッパーが皮膚組織に絡まることなく皮膚組織を通過するおそれがある。ストッパー20の厚さが5mmを超えると、異物感による痛みを引き起こすおそれがある。好ましくは、ストッパー20の厚さtは0.1mm~3.0mmであってもよく、0.1mm~1.0mmであってもよい。
【0035】
ストッパー20が三角柱の形状で設けられる場合、その一辺の長さdは2mm~5mmとすることができる。ストッパー20が三角錐の形状で設けられる場合、三角錐の底面の一辺の長さdは2mm~5mmとすることができる。
【0036】
さらに、ストッパー20が三角柱の形状で設けられる場合、2つの辺がなすコーナー角度は5°~87.5°であってもよい。好ましくは、2つの辺がなすコーナー角度は60°であってもよい(即ち、ストッパー20の断面は正三角形である)。ストッパー20が三角錐の形状で設けられる場合、三角錐の底面に平行な断面の三角形において、2つの辺がなすコーナー角度は5°~87.5°であってもよい。好ましくは、2つの辺がなすコーナー角度は60°であってもよい(即ち、ストッパー20の断面は正三角形である)。
【0037】
また、ストッパー20のエッジをテーパー状に形成してもよい。この場合、ストッパー20のエッジによって皮膚組織に加えられる圧力を分散させることができ、その結果、患者の痛みを軽減することができる。
【0038】
なお、ストッパー20の形状はそれに限定されず、円柱、円錐、多角柱(例えば、四角形以上の多角柱)、又は多角錐(例えば、四角形以上の多角錐)の形状を有してもよい。
【0039】
また、ストッパー20は、本体10の長手方向に対して垂直に配置されていてもよい。即ち、ストッパー20の断面は本体10に対して垂直であってもよく、これにより、医療用糸を皮膚組織に容易に絡ませることができる。
【0040】
さらに、ストッパー20の中心Cは、本体10の長手方向の中心に位置していてもよい。この場合、本体10はストッパー20の中心に位置し得るため、医療用糸1を皮膚組織に容易に絡ませることができる。
【0041】
このようなストッパー20が提供されることにより、本体10の端部に結び目を形成する手順を省略することができ、その結果、手術時間が短くなり、結び目を形成する手順の間に引き起こされる可能性のあるリスクを軽減することができる。
【0042】
上記に説明した本体10の一方向に沿って形成されたとげ12、14、16は、医療用糸1の一方向の移動を抑制することができ、さらに、本体10の一端部に設けられたストッパー20は、医療用糸1の逆方向の移動を抑制することができる。即ち、医療用糸1は、とげ12、14、16とストッパー20によって患者の組織に固定することができる。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、本発明の医療用糸において、本体とストッパー間の付着強度は、0.3~10.0kgf、より具体的には、0.5~10.0kgf、0.7~10.0kgf、0.9~10.0kgf、1.1~10.0kgf、1.3~10.0kgf、1.5~10.0kgf、1.7~10.0kgf、2.0~10.0kgf、1.1~8.0kgf、1.3~8.0kgf、1.5~8.0kgf、1.7~8.0kgf、2.0~8.0kgf、又は2.0~7.0kgfであってもよい。
【0044】
本体10とストッパー20は、同じ材料から形成することができる。例えば、本体10を形成した後、本体10の材料を溶融することにより、同じ材料からストッパー20が形成される。これについては、以下で詳しく説明する。
【0045】
または、本体10とストッパー20は、それぞれ独立して、生体吸水性又は非吸収性ポリマー材料から形成することができる。例えば、本体10とストッパー20は、それぞれ独立して、ポリジオキサン(PDO)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリトリメチルカーボネート(PTMC)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から選ばれる一つ又は二つ以上の共重合体を含むことができる。ここで、ポリジオキサン(PDO)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)及びポリトリメチルカーボネート(PTMC)は生体吸収性ポリマー材料であり、ポリプロピレン(PP)、ナイロン及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は非吸収性ポリマー材料である。
【0046】
また、本体10の他端部には、縫合部位に挿入可能な縫合用針30を結合する(又は取り付ける)ことができる。
【0047】
縫合用針30は、皮膚組織に挿入され皮膚組織を貫通できるものであれば、その種類に限定されることなく使用することができる。
【0048】
図5は、本発明の一実施形態による医療用糸1の製造方法のフロー図を示す。
【0049】
以下では、
図5を参照して、本発明の一実施形態による医療用糸1の製造方法について説明する。
【0050】
まず、本体10を準備し(S10)、本体10の一端部を加熱して溶融する(S20)。具体的には、本体10の一端部を溶融するために、本体10を、本体10を移送する移送ユニットに配置し、本体10の一端部が加熱され溶融されるように、本体10を予熱されたモールドに注入する。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、前記本体を準備するステップは、本体の表面に複数のとげを形成するステップをさらに含むことができる。
【0052】
一実施形態において、移送ユニットによって本体10をモールドに注入する速度は、0.1~2.0mm/sであってもよい。ここで、注入速度が0.1mm/s未満であると、生産性が低下する可能性があり、注入速度が2.0mm/sを超えると、本体10の注入が溶融よりも速く行われ、本体10が曲がったり、注入自体が失敗したりするおそれがある。好ましくは、移送ユニットによって本体10をモールドに注入する速度は、0.1~1.0mm/sであってもよい。
【0053】
また、モールドは加熱ユニットで加熱することができ、加熱温度は50~400℃であってもよい。加熱温度が50℃未満であると本体10が溶融せず、加熱温度が400℃よりも高いと、本体10がモールド内で過度に溶融され、冷却が妨げられたり、本体10が焦げたりモールドに付着したりするおそれがある。好ましくは、加熱温度は150~250℃であってもよい。
【0054】
その後、溶融した本体10の一端部を所定の形状のモールドに注入し、本体10の端部にストッパー20を形成することができる(S30)。
【0055】
一実施形態において、所定の形状を有するモールドは、前述した三角柱又は三角錐の形状であってもよい。
【0056】
その後、本体10の一端部に対するストッパー20の相対的位置を調節するステップ(S40)によって、ストッパー20の中心Cが本体10の中心に位置するようにストッパー20を形成することができる。
【0057】
一実施形態において、本体10とストッパー20との間の相対的位置の調節は、本体10の移送ユニット又はモールドの位置を調節することによって実行することができる。
【0058】
その後、本体10とストッパー20を冷却して、モールドから分離するステップ(S50)により、本体10の一端部にストッパー20が形成された医療用糸1を製造することができる。
【0059】
一実施形態では、前記冷却ステップにおいて、冷却空気量は0.01~4.5mpa、0.01~4.0mpa、0.01~3.5mpa、又は0.01~3.0mpaであってもよい。冷却空気量が0.01mpa未満であると、冷却が不充分で成形品が排出されないことがあり、冷却空気量が4.5mpaを超えると、冷却が過剰になり、本体10とストッパー20間の付着強度が低下する問題が起こる可能性がある。
【0060】
より具体的に、前記冷却空気量は、0.01mpa以上、0.02mpa以上、0.03mpa以上、0.04mpa以上、0.05mpa以上、0.06mpa以上、0.07mpa以上、0.08mpa以上、0.09mpa以上、又は1.0mpa以上であってもよく、4.5mpa以下、4.3mpa以下、4.1mpa以下、3.9mpa以下、3.7mpa以下、3.5mpa以下、3.3mpa以下、3.1mpa以下、又は3.0mpa以下であってもよい。
【0061】
一実施形態では、前記冷却ステップにおいて、冷却時間は5.0~120秒であってもよく、より具体的には、5.0~100秒、5.0~80秒、5.0~60秒、5.0~40秒、10.0~100秒、15.0~80秒、20.0~60秒、25.0~40秒、30.0~40秒、又は35~40秒であってもよい。冷却時間が5.0秒未満であると、不適切な形状に形成されるおそれがあり、冷却時間が120秒を超えると、生産速度が低下するおそれがある。本発明の一実施形態によれば、冷却空気量は0.1~0.2mpaであってもよく、冷却時間は35~40秒であってもよい。
【0062】
一方、本体10をモールドに注入して、ストッパー20を形成する速度は、モールドのサイズ及び本体10の原料によって変わり得る。
【0063】
注入速度と本体10の原料とサイズとの関係を下記表1に示す。
【0064】
【0065】
下記表2は、本体10の注入速度をPDO0.8mm/s、PGCL0.6mm/sとし、冷却空気量を0.5mpa、注入完了後の待機時間を5秒に固定したときの、本体10のサイズ別の、ストッパー20の製造時の冷却時間に応じたストッパー20の外観及び付着強度を表す。
【0066】
【0067】
下記表3は、本体10の注入速度をPDO0.8mm/s、PGCL0.6mm/sとし、冷却空気量を0.5mpaから0.1mpaに下げて製造したときの、本体10のサイズ別の、ストッパーの付着強度を表す。
【0068】
【0069】
以下、前述した医療用糸及びその製造方法による効果を説明する。
【0070】
本発明による医療用糸1は、本体10の一端部にストッパー20が設けられているため、本体10の端部に結び目を形成する手順を省略することができ、これにより、手術時間を最小限に抑えることができるだけでなく、結び目を形成する手順中に引き起こされる可能性のあるリスクを軽減することができる。
【0071】
また、ストッパー20のエッジはテーパー状に形成されてもよい。この場合、ストッパー20のエッジによって皮膚組織に加えられる圧力を分散させることができ、患者の痛みを軽減することができる。
【0072】
さらに、ストッパー20は、本体10の長手方向に対して垂直に配置されてもよい。即ち、ストッパー20の断面は本体10に対して垂直であってもよく、これにより、医療用糸を皮膚組織に容易に絡ませることができる。
【0073】
また、ストッパー20の中心Cは、本体10の長手方向の中心に位置していてもよい。この場合、本体10がストッパー20の中心に位置し得るため、これにより、医療用糸1を皮膚組織にバランスよく絡ませることができる。
【0074】
以下では、医療用糸本体とストッパー間の付着強度の測定結果について説明する。
【0075】
1.PDO医療用糸の本体とストッパー間の付着強度の測定
下記表4に示す直径となるように医療用糸本体をPDOから製造し、その後、その一端を上記に説明した方法で0.5mpaの冷却空気量の条件で加熱することにより、三角形のストッパーを備えた医療用糸を製造した。
【0076】
次に、組織抗力(Tissue Drag)を測定するために、縫合針をゴムに通し、ストッパーがゴムにくっつくまで縫合針を引っ張った。
【0077】
次に、引張強度試験機マニュアル(MTR-001-S008)に準拠して、試験サンプルに適した手動引張強度試験機を設置し、縫合針を取り付けた本体10の端を上部グリップに固定し、ゴムを取り付けた本体10の端を下部グリップに固定し、付着強度を測定した。その結果を表4に示した。
【0078】
表4に示されるように、0.5mpaの冷却空気量条件では、試験サンプル1-1~1-5から得られたストッパーの付着強度は、目標値に達していなかった。
【0079】
そのため、試験サンプル1-1~1-5は、冷却空気量を0.1mpaに下げた状態で製造し、前記と同じ方法で付着強度を測定した。その結果、表4に示されるように、ストッパーの付着強度が著しく向上した。冷却空気量0.1mpaで製造した医療用糸は、冷却空気量0.5mpaで製造された医療用糸と比較して、ストッパーの付着強度が1.2倍~6倍と、優れたストッパー付着強度を有することが実証された。
【0080】
また、本発明のストッパーを備えたPDO医療用糸は、本体とストッパー間の付着強度に優れており、皮膚組織や内臓組織などの身体の一部を本発明の医療用糸によって縫合することにより、優れた固定力を達成することができる。
【0081】
【0082】
2.PGCL医療用糸の本体とストッパー間の付着強度の測定
下記表5に示す直径となるように医療用糸本体をPGCLから製造し、その一端を上記に説明した方法で加熱し、三角形のストッパーを備えた医療用糸を製造した。
【0083】
次に、ストッパーとPGCL医療用糸の本体との間の付着強度を上記と同じ方法で測定した。その結果を下記表5に示す。
【0084】
【0085】
表5に示されるように、PGCL医療用糸のとげ形成後の直径が増加するにつれて、ストッパーの付着強度が増加し、本体とストッパー間の目標付着強度が十分に達成されたことが確認できた。
【符号の説明】
【0086】
1:医療用糸
10:本体
20:ストッパー
30:縫合用針
【国際調査報告】