(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(54)【発明の名称】腸骨大静脈圧迫、閉塞、静脈口径の減少、閉塞に起因する症候群および病態を治療するための方法ならびにデバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 2/86 20130101AFI20220906BHJP
A61F 2/848 20130101ALI20220906BHJP
【FI】
A61F2/86
A61F2/848
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566452
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(85)【翻訳文提出日】2022-01-05
(86)【国際出願番号】 US2020031908
(87)【国際公開番号】W WO2020227552
(87)【国際公開日】2020-11-12
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520127993
【氏名又は名称】ディーピー ホールディング(ユー.ケー)リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DP HOLDING (U.K) LTD.
【住所又は居所原語表記】Suite 2, The Grange, School Lane, Sedgebrook, Grantham NG32 2ES, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スペンサー, ダレン
(72)【発明者】
【氏名】バームフォース, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ソボトカ, ポール
(72)【発明者】
【氏名】ブレネマン, ロドニー
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267AA50
4C267BB02
4C267BB03
4C267CC09
4C267GG02
4C267GG21
(57)【要約】
自己拡張型ステントデバイスを提供する。デバイスは、管腔を有する細長い本体を備える。本体は、第1末端および第2末端と、その間に位置する長手方向の軸と、を有する。本体は、長手軸に沿って第1区域と第2区域を含む。デバイスの拡張状態において、第1区域は、外部からの圧迫力に耐える第1の半径方向強度を有し、第2区域は、外部からの圧迫力に耐える第2の半径方向強度を有する。第1区域の半径方向強度は第2区域の半径方向強度より大きい。第1末端近傍の管腔の直径は、第2末端近傍の管腔の直径よりも大きい。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織りまたは編みの細長い本体であって、前記本体は管腔を規定し、かつ、少なくとも第1末端と少なくとも第2末端、およびその間に位置する長手軸を有し、
前記本体は、前記長手軸に沿った、少なくとも第1区域と少なくとも第2区域とを含み、
デバイスの拡張状態において、前記第1区域は、外部からの圧迫力に耐える第1の半径方向強度を有し、前記第2区域は、外部からの圧迫力に耐える第2の半径方向強度を有し、前記第1区域の半径方向の強度は前記第2区域の半径方向の強度より大きく、
前記第1端末近傍の前記管腔の直径は、前記第2端末近傍の前記管腔の直径よりも大きい、自己拡張型ステントデバイス。
【請求項2】
前記本体が、前記少なくとも第1末端から前記少なくとも第2末端までテーパがつけられ、前記長手軸に沿って前記管腔の直径が減少している、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第1末端の直径が30mm以下である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第2末端の直径が6mm以上である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記第1区域が前記長手軸に沿って実質的に中央に位置する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1区域が前記第1末端の近傍に位置する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第2区域が前記第1末端の近傍に位置する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第2区域が前記第2末端の近傍に位置する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスが、前記長手軸に沿って順次配置された複数の第1区域と、隣接する第1区域間に配置された少なくとも1つの第2区域とを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスが複数の第1区域および複数の第2区域を含み、前記第1区域および前記第2区域が前記長手軸に沿って交互に配置された、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記第1区域と前記第2区域とが等長ではない、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記第1区域および前記第2区域の配置が、デバイスが設置される対象の解剖学的構造に適合する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスが静脈内に留置されるようになされた、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスが対象者の腸骨静脈領域内に留置されるようになされた、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記デバイスが腸骨静脈領域内に留置されるようになされ、拡張状態において、腸骨静脈を通って延びるようになされた、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記デバイスが腸骨静脈領域内に留置されるようになされ、拡張状態において、前記第1末端が下大静脈内に位置し、前記第2末端が大腿静脈内に位置するようになされた、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
ステントデバイスが、ステンレス鋼、ニチノール、コバルトクロム、タンタル、白金、タングステン、鉄、マンガン、モリブデン、などの外科的に適用可能な金属もしくは金属合金の、単独または組み合わせからなる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項18】
前記ステントの全体または少なくとも一部がカバーを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項19】
前記カバーが、PTFE、E-PTFE、ポリウレタン、シリコーン、パピルス、ダクロン(登録商標)、GORE-TEX(登録商標)、などの高分子膜、多面体オリゴマーシルセスキオキサン-ポリ(炭酸-尿素)ウレタン(POSS-PCU)などの生分解性ナノファイバーの、単独または組み合わせからなる、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記ステントが薬物コーティングを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
前記ステントがグラフトカバーを備える、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記ステントが1以上の放射線不透過性マーカーを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項23】
前記ステントがサイズの大きい開口を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項24】
前記ステントがアンカー機構を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項25】
前記アンカー機構が、腎静脈に導入可能な少なくとも1つのアンカーを備える、請求項24に記載のデバイス。
【請求項26】
静脈ステントの留置システムであって、
i.デリバリーカテーテルと、
ii.請求項1に記載の自己拡張型ステントデバイスと、を備える、システム。
【請求項27】
前記デリバリーカテーテルが、画像超音波トランスデューサ(IVUS)機能をさらに備える、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
必要とする患者に心房細動治療を行う方法であって、
前記患者の循環器の健康状態を判定すること、
血管の場所で静脈閉塞を検査すること、および
ステントを用いて静脈閉塞を治療し、心房細動を軽減すること、を含む方法。
【請求項29】
必要とする患者に高血圧治療を行う方法であって、
前記患者の循環器の健康状態を判定すること、
血管の場所で静脈閉塞を検査すること、および
ステントを用いて静脈閉塞を治療し、高血圧を軽減すること、を含む方法。
【請求項30】
必要とする患者に勃起不全治療を行う方法であって、
前記患者の循環器の健康状態を判定すること、
血管の場所で静脈閉塞を検査すること、および
ステントを用いて静脈閉塞を治療し、勃起不全を軽減すること、を含む方法。
【請求項31】
必要する患者に静脈潰瘍治療を行う方法であって、
前記患者の循環器の健康状態を判定すること、
血管の場所で静脈閉塞を検査すること、および
ステントを用いて静脈閉塞を治療し、静脈潰瘍を軽減すること、を含む方法。
【請求項32】
必要な患者に失神治療を行う方法であって、
前記患者の循環器の健康状態を判定すること、
血管の場所で静脈閉塞を検査すること、および
ステントを用いて静脈閉塞を治療し、失神を軽減すること、を含む方法。
【請求項33】
必要とする患者に深部静脈血栓症治療を行う方法であって、
前記患者の循環器の健康状態を判定すること、
血管の場所で静脈閉塞を検査すること、および
ステントを用いて静脈閉塞を治療し、深部静脈血栓症を軽減すること、を含む方法。
【請求項34】
必要とする患者に収縮不全(HFrEF)または拡張不全(HFpEF)治療を行う方法であって、
前記患者の循環器の健康状態を判定すること、
血管の場所で静脈閉塞を検査すること、および
ステントを用いて静脈閉塞を治療し、収縮不全または拡張不全を軽減すること、を含む方法。
【請求項35】
前記患者の循環器の健康状態の前記決定が、脈波伝播速度法を用いることをさらに含む、請求項28から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
血管の場所での静脈閉塞の前記検査が、ドップラー超音波法、セグメント圧力測定法および磁気共鳴イメージング法などを含む診断的スクリーニング法を用いることをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記静脈閉塞治療が、ステント利用などの、静脈閉塞を解消可能な技術をさらに用いることを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記血管の場所が腸骨大静脈接合部に近接している、請求項37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心房細動、高血圧、勃起不全、静脈潰瘍、失神、月経困難症、深部静脈血栓症、および駆出率が保持されたまたは駆出率が低下した心不全、ならびに静脈還流の減少または障害と関連する複数の疾患、より一般的には、メイ・ターナー症候群などの心血管または循環機能障害と関連する複数の疾患を治療するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静脈うっ血は、心臓のうっ血または全身の体液量過剰の結果であると考えられることが最も多い。しかし、静脈うっ血は、心臓に戻る血液の自由な流れが局所的に困難となることが原因で起こる場合もある。神経ホルモン活性構造としての静脈自体の役割や、心不全などの異常の関与はあまり考慮されない。実際、患者が心不全の症状を呈する場合、労作不耐性や下肢うっ血の徴候および症状に対する骨盤静脈閉塞の潜在的寄与を考慮することなく、患者の心臓の解剖学的および生理学的側面に焦点をあてて診察を行う心臓病専門医に紹介されることになる。
【0003】
骨盤における静脈異常に対する血管内矯正には、それ以外の場所、例えば、脚や腕などに使用するために主に設計されたデバイスが用いられるが、これは、解剖学的、病理学に骨盤静脈の異常に特化したものではなく、理想的なデバイスとはいえない。罹患した静脈の骨盤ステント留置は、領域の両端にわたるように2本のステントを置いて行われることが多い。しかしながら、この技術では多くの場合、ギャップが存在し、それによってステント間の部分で再狭窄が発症することが多い。理想的には、ステントは、わかっている位置の閉塞を治療するように設計され、その特定の位置および閉塞の種類にあわせた特性を有するように設計されることが望ましい。ところが実際には、血流の閉塞または口径の変化を引き起こす原因となる閉塞および外部からの圧迫の位置はわからない。至適かつ妥協のない結果を得るためには、骨盤閉塞に対処するステントは、内部の閉塞と外部からの圧迫による閉塞との両方の必要性に適応するだけでなく、骨盤静脈の解剖学的構造に求められる特有の屈曲点に適応するものでなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、少なくともいつくかの従来技術に伴う不都合に対処するデバイスおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、腸骨大静脈圧迫、閉塞、口径の減少および/または静脈還流の低下が、これまで無関係と考えられていた症候群、疾患及び病態の連鎖をもたらすという驚くべき知見に関する。身体の腸骨大静脈領域内へのデバイスの埋込みは、これら圧迫、閉塞、口径および/または静脈還流の低下を緩和することができ、その結果、連鎖的に起こる症候群、疾患、及び病態を治療することができる。
【0006】
なかでも、これに限定されるものではないが、本発明の態様は、患者の心房細動を治療する方法、患者の高血圧を治療する方法、患者の勃起不全を治療する方法、患者の静脈潰瘍を治療する方法、患者の失神を治療する方法、患者の深部静脈血栓症を治療する方法および駆出率が保持された心不全を治療する方法、ならびに患者の駆出率が低下した心不全を治療する方法に関する。
【0007】
本発明の態様はまた、自己拡張型ステントデバイスを提供する。ステントデバイスは、織りまたは編みの細長い本体であって、前記本体に規定される管腔を有し、かつ、少なくとも第1末端と少なくとも第2末端、およびその間に位置する長手軸を有する本体を備え、前記本体は、前記長手軸に沿った、少なくとも第1区域と少なくとも第2区域とを含み;デバイスの拡張状態において、前記第1区域の、外部からの圧迫力に耐える第1の半径方向強度は、前記第2区域の、外部からの圧迫力に耐える第2の半径方向強度より大きく、前記第1端末近傍の前記管腔の直径は、前記第2端末近傍の前記管腔の直径よりも大きい。一実施形態において、前記本体は、全体または一部が実質的に円筒状または扁平円筒状あってもよい。前記ステントデバイスは、管腔を形成するように結合された複数のセクションを備えてもよい。
【0008】
有利なことに、半径方向強度が異なる区域を設けることにより、縮み(長さの変化)、柔軟性の欠如、管の摩耗、などの従来の技術に付随する問題をいくつか克服することができる。
【0009】
また、本発明の概念は、静脈ステントを留置するためのシステムであって、本明細書の実施形態に記載のデリバリーカテーテルおよび自己拡張型ステントを備えるシステムを包含する。
【0010】
本願の適用範囲内で、前出の段落、請求項、および/または、以下の説明及び図面に記載の様々な局面、実施態様、例、および選択肢、特にその個々の特徴は、独立または組み合わせて解釈することができる。すなわち、全ての実施形態および/または実施形態の特徴は、そのような特徴が適合しない場合を除いて、いかなる方法および/または組合せでも組み合わせることができる。出願人は、出願当初の請求項を変更したり、変更に伴う追加の請求項を提出したりする権利を有する。これには、当初の請求項を、他の請求項に従属させる、および/または、他の請求項の特徴を組み入れる補正が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下、本発明の1以上の実施態様を、添付の図を参照し、例示のためのみに記載する。
【
図1】
図1は、主要な骨盤動静脈を解剖学的に説明する図である。
【
図2】
図2は、骨盤領域の腸骨静脈接合部静脈(外腸骨静脈から下大静脈を通る)を解剖学的に示す図である。
【
図3】
図3(a)および3(b)は、骨格筋によって支えられていない血管を強調して示す、腸骨静脈接合部を示す。
【
図4】
図4は、血管全体の収縮期、拡張期、平均動脈圧および脈圧を示すグラフである。
【
図5】
図5は、慢性かつ薬物不応性の高血圧を呈する患者の腸骨静脈領域のMRI画像である。画像は外腸骨静脈の狭窄の存在を示している。
【
図6】
図6は、前述の症状、疾患および病態のいずれかを呈する患者に適用すべきスクリーニングの一般的手順を示す。
【
図7】
図7は、腸骨静脈領域の静脈血流の閉塞に対する外科的治療に加えて用いられる、薬物ベースの治療の投与で採用される抗血栓薬投与法の選択例を示す図である。図中、DOAC=直接経口抗凝固薬、LMWH=低分子量ヘパリン。
【
図8】
図8は、長期的な外向きの力、圧縮抵抗および半径方向の抵抗力などの、ステントデザインにおいて考慮すべき重要なステントの特徴を示す。
【
図9】
図9は、異なるステント設計型における、直径に対するフープ強度(ラジアルフォース)の関係を示すグラフである。図中、ハイブリッドステント設計型の半径方向の抵抗力の増加を強調して示す。
【
図10】
図10は、腸骨静脈ステント留置における最適なステント後の直径および面積を示す。
【
図11】
図11は、編み構造として示す、非対称ステントデザインを示す。HCS(圧縮強度が高い)区域は、より緊密な織りパターンにより形成され、LCS(圧縮強度が低い)区域は、より開いた織りパターンにより形成される。
【
図12】
図12は、編み構造として示す、非対称ステントデザインを示す。HCS区域はLCS区域の長さに比べてかなり長い。
【
図13】
図13は、左右両方の下大静脈の典型的なインピンジメント/圧迫場所に対し、ステントの区域ごとに圧迫強度を変えた、ステントの非対称なテーパの例を示す。
【
図14】
図14は、圧迫強度が低い区域、ステントの中間に位置する圧迫強度の高い区域、および柔軟な末端を有する単一の長い静脈ステントの例を示す。この実施態様では、直径が徐々に広がるようにテーパがつけられている。
【
図15】
図15は、ステントの長さに沿って1箇所以上の場所に、追加の半径方向の圧迫補強材を有する、編みメッシュデザインのステントの例を示す。
【
図16】
図16は、補強要素の構成の異なる例(a)、(b)および(c)を示す。
【
図17】
図17は、基本の編みシステムがさらにアンカー/結合要素を含む例を、上面図(a)および側面図(b)で示す。
【
図18】
図18は、アンカー/結合要素が、基本の編みシステム内に延在して半径方向の補強を提供する例を示す。
【
図19】
図19は、アンカー/結合要素が、基本の編みシステム(a)あるいは補強要素(b)から形成される例を示す。
【
図20】
図20は、本発明の実施形態による腸骨静脈領域に使用するステントデバイスを示す。
【
図21】
図21は、流入ブースターを有するステントの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここに引用されるすべての参考文献は、参考としてその全体が組み込まれる。別段の定義がない限り、本明細書に用いられるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者が共通に理解するのと同じ意味をもつ。
【0013】
本発明を説明するに先立ち、本発明の理解に役立つ文言の定義を以下に記載する。
【0014】
本記載で用いられる、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈によってそうでないことが明確に示されない限り、複数の場合を含む。したがって、例えば、「センサ」という用語は、単一のセンサ、または1つ以上のセンサ、または1連のセンサを指すことを意図している。本明細書の目的のために、「前方」、「後方」、「前」、「後」、「右」、「左」、「上方」、「下方」などの用語は便宜的な言葉であり、限定的な用語として解釈されるものではない。さらに、「本明細書に組み込まれる」と称されるいかなる参考文献も、その全体が組み込まれているものと理解されたい。
【0015】
本明細書中、「備える」という文言は、記載された要素のいずれかが必然的に含まれることを意味し、他の要素も任意に含まれてもよい。「から本質的になる」という文言は、記載された要素のいずれかが必然的に含まれることを意味し、列挙された要素の基本的および新規の特徴に実質的に影響を及ぼす要素は除外され、他の要素が任意に含まれてもよい。「からなる」とは、列挙されたもの以外のすべての要素が除外されることを意味する。これらの文言の各々によって定義される実施態様は、本発明の範囲内である。
【0016】
「交感神経系」(SNS)は、自律神経系の2つの区分のうちの1つを指し、もう1つは副交感神経系である。SNSは、相互に連結した一連のニューロンを介して働く。SNSは、内的環境と外的環境の両方に対する効果的な反応を可能にする。これは、血管緊張、血圧、心リズムや心拍数の神経因性制御のエフェクタであることが知られている。
【0017】
「交感神経活性」は、動脈筋緊張の急激な変化、ならびに中枢循環への静脈血流増加を指す。交感神経活動におけるこれらの変化は、一般に急性であり、例えば、外傷、ストレス、闘争または逃走反応または姿勢変化に対して、全身血圧および臓器潅流を保存する必要性に反応するものである。しかしながら、交感神経緊張の慢性的な高まりにより、静脈高血圧に反応して臓器機能不全に至りうる不適応過程に陥る。血圧は、いわゆる「交感神経緊張」の維持を介して一部調節されている。
【0018】
SNSは、血管運動中枢によって活性化され、その結果、実質的に身体全体で、心臓および様々な組織の静脈と細動脈との両方が変調をきたす。これが起こると全身動脈圧が全体的に上昇する。安静時の全身動脈圧は、ベースラインのSNS緊張に大きく依存している。SNS線維は細動脈平滑筋と静脈血管平滑筋の両方でノルエピネフリンを放出することが知られている。結果として、細動脈と静脈の両方の収縮が起こりうる。
【0019】
「血管緊張」は、完全に拡張した状態にある場合に対し、血管経験における収縮平滑筋のレベルを指す。血管緊張は、競合する血管収縮物質と血管拡張物質とが血管に与える影響のバランスによって決定される。さらに、「交感神経緊張」は、緊張が主に交感神経系からのインパルスによって維持される場合の血管平滑筋の状態を指す。
【0020】
「静脈閉塞」は、少なくとも、静脈狭窄、静脈うっ血、および静脈収縮を含む。これは、それによって、静脈の直径(または「口径」)が、正常な状態、すなわち非閉塞状態と比べて小さくなる、あらゆる出来事を指す。静脈閉塞は、静脈が細くなること(狭窄)や、詰まりや、静脈の局所的圧迫をもたらす外部からの圧力などによって起こる。この用語は、これによって、静脈の内腔における血液の流れが部分的または全体的に妨げられる、静脈閉塞も含む。閉塞は、血栓症(深部静脈血栓症(DVT)など)に起因することもあれば、腫瘍の侵入によることもある。「腸骨大静脈閉塞」とは、腹部の体静脈の症状を指す。総じて、これは、静脈口径の減少、および静脈圧や心臓への血液還流の変化をもたらす。
【0021】
「静脈還流」は、静脈系を介して心臓に戻る血液の容積によって定義され、末梢静脈系における平均全身圧と心臓の平均右心房圧との間の圧勾配によって引き起こされる。この静脈還流量は、充満時の心筋の伸展度、すなわち、前負荷を決定し、一回拍出量の主要な決定因子となる。
【0022】
「静脈圧迫」は、静脈の外部からの圧迫を指す。外部からの圧迫の発生源は、静脈が、隣接する動脈によって、別の固定された解剖学的構造、例えば、骨盤内にみられる骨性または靭帯性構造、脊椎自体、または重なり合う動脈枝などに圧迫されることによって生じることがある。
【0023】
腸骨静脈圧迫症候群(コケット症候群を含む)としても知られる「メイ・ターナー症候群」(MTS)は、腸骨大静脈圧迫の一形態であり、左総腸骨静脈が、その上にある右総腸骨動脈前方と腰仙椎後方(第5腰椎)の間で圧迫される。腸骨静脈の圧迫は、これらに限定されないが、例えば、不快感、腫脹、疼痛などの、無数の悪影響をもたらすことがある。
【0024】
腸骨静脈の圧迫および静脈血流の低下は、DVT(深部静脈血栓症)の原因となる血流うっ滞を引き起こす場合がある。DVTとは、血栓(血栓)が静脈中に形成される病状をいう。これは脚に最も多くみられる。血栓形成の主な寄与因子の1つは、静脈血の貯留である。長期の静脈うっ血および血流うっ滞の存在は、深部静脈血栓症を発症するリスクとなる症状である。閉塞病変の治療は、血栓症の基礎疾患を軽減し、再発を防ぐ上で極めて重要である。メイ・ターナー症候群の他のあまり一般的ではない変異として、右総腸骨動脈による右総腸骨静脈の圧迫が報告されており、これはコケット症候群として知られている。さらに最近では、メイ・ターナー症候群の定義が拡大され、不快感、下肢の腫脹および疼痛を伴うが、血栓の発現はみられない一連の圧迫障害が含まれている。総称して、これは非血栓性腸骨静脈病変(NIVL)と呼ばれる。
【0025】
左総腸骨静脈がとる経路は、下大静脈と一般に平行に伸びる右総腸骨静脈に比べて、あまり直接的ではない。この経路に沿って、左総腸骨静脈が右総腸骨動脈の下方にあって腰椎を圧迫する原因となることがある。腸骨静脈圧迫は、しばしばみられる解剖学的変異症状である。下肢における腫脹、疼痛または血栓症のいかなる外見の徴候も個人が呈さないことがある。左総腸骨静脈の圧迫が臨床的に重大となるのは、このような圧迫が静脈血流または静脈圧にかなりの血行動態の変化を引き起こした場合、またはそれが急性の深部静脈血栓症となった場合のみである。例えば運動中のようにシステムにストレスがかかると、運動中の下肢血流の需要が高まることによって静脈血流が明らかに悪くなるのが一般的である。圧迫や困惑する静脈血流還流に伴う他の問題に加えて、静脈は、上方にある動脈からの慢性的な拍動性の圧迫力の影響から管腔内繊維状骨棘を発生させることもある。
【0026】
「管腔内肥厚」(静脈棘または管腔内棘とも呼ばれる)は、第5腰椎に対する右総腸骨動脈による左総腸骨静脈のこの外部圧迫に関係する。静脈棘波は右総腸骨動脈の慢性的な拍動により生じ、最終的には静脈流出路の閉塞をきたす。静脈棘は、隣接構造による静脈の慢性的な外部からの圧迫に起因する内静脈閉塞である。メイ・ターナー症候群および他の非血栓性腸骨静脈病変の治療のための現在のベストプラクティスは、臨床症状の重症度に比例する。下肢の腫脹および疼痛については、動脈疾患と静脈疾患の両方を診断治療して、四肢痛の原因を確実に評価する、血管外科医、インターベンション心臓専門医、インターベンション放射線科医などの血管専門医によって最もよく評価される。MTS/NIVLの診断は、一般に、これに限定されるものではないが、例えば、磁気共鳴静脈造影、静脈造影などの、1以上の画像診断法の使用によって確認される。左総腸骨がつぶれたり扁平化したりすることにより、MTS/NIVLは従来の静脈造影法では視認できなかったり気付かないことがあるためであり、これは通常、血管内超音波(IVUS)によって確認される。左総腸骨止血の下流側の結果としての長期の腫脹や疼痛を防止するために、脚からの血流を改善/増加させる必要がある。早期または合併症のないケースは、単純に圧迫ストッキングで対応することができる。晩期または重度のメイ・ターナー症候群は、血栓症を近い時期に発症していれば、血栓溶解を必要とすることがあり、静脈造影および/または血管内超音波で診断を確定した後に、骨盤静脈セグメントの静脈形成術およびステント留置を行う。静脈形成術後に起こるさらなる圧迫からこの領域を支えるために、ステントが用いられることがある。
【0027】
現在市販されているステントには様々な選択肢があるが、デバイスが縮む、つぶれる、故障する、磨耗する、最終的に孔があく、など、多くの問題がある。これらの問題に寄与する主な基礎的要因には、柔軟性の不足あるいは過剰が含まれる。ステントの変形に対する負荷の増加は、初期疲労不全、および/または上に重なる腸骨動脈における流れのインピーダンスを引き起こし、末梢動脈疾患を引き起こす可能性がある。メイ・ターナー症候群に存在する圧迫された狭窄流出路は、深部静脈血栓症の重要な寄与因子である血液うっ滞を引き起こす可能性がある。
【0028】
しかし、メイ・ターナー症候群を有する患者がすべて血栓症状を経験するわけではない。メイ・ターナー症候群に罹患している患者の中には血栓症を示す者もいれば、示さない者もいる。にもかかわらず、血栓症のエピソードも症状も経験しない患者であっても、いつか血栓症を患う可能性がある。患者に広範な血栓症がある場合は、薬理学的および/または機械的(すなわち、薬力学的)血栓除去術が必要となることがある。メイ・ターナー症候群に起因するうっ血は、DVTの発生率増加と正の関連があるとされている。
【0029】
左右の総腸骨静脈は、深部静脈血栓症の発生が多くみられる部位であるが、他の部位でもその発生はよくみられる。この症状に関連する非特異的症状には、疼痛、腫脹、発赤、熱感および充血した表在静脈がある。深部静脈血栓症に伴う生命を脅かす合併症である肺塞栓症は、血栓の一部または全体が剥離して肺に移動することによって起こる。深部静脈血栓症は、血栓後症候群(PTS)としても知られる慢性静脈不全などの合併症を引き起こすこともある。PTSは深部静脈血栓症に伴う別の長期合併症であり、血液の貯留、慢性的な下肢の腫脹、圧上昇、皮膚の色素沈着または変色の増加、および静脈うっ滞性潰瘍として知られる下腿潰瘍を特徴とする。
【0030】
「深部静脈血栓症」(DVT)は、静脈セグメント内に血溜りや血栓が形成されることを指し、それ自体は生命を脅かすものではない。しかし、血栓が外れて肺に塞栓を起こすと、命にかかわる症状(肺塞栓症など)を引き起こすことがある。さらに、DVTは、静脈の弁機能の喪失、生涯にわたる静脈機能不全、安静時や運動時の疼痛を含む深部静脈症候群、下肢の腫脹、DVTや塞栓症の再発リスクにつながる可能性がある。DVTを発症するリスクが高くなる要因には、これに限定されるものではないが、以下が含まれる:長期の不活動、喫煙、脱水状態、60歳以上であること、がん治療を受けていること、炎症状態を有すること。さらなる凝固は防げるが既存の血栓には直接作用しない抗凝固療法が、深部静脈血栓症の標準的治療法である。他の補助的手段として用いうる治療/処置としては、圧迫靴下、選択的運動および/またはストレッチ、下大静脈フィルター、血栓溶解及び血栓除去が含まれ得る。
【0031】
MTS、NIVLおよびDVTまたは静脈血栓症に加え、右左の骨盤静脈のいずれかまたは両方に対する骨盤静脈セグメントの圧迫は、それがいかなる原因であっても、静脈還流を変化させる可能性がある。これらの静脈還流の変化があっても、メイ・ターナー症候群、非血栓性腸骨静脈病変、深部静脈血栓症について上記で詳述したように、重要な外見の徴候がみられない場合がある。しかし、これらの重要かつ臨床的な変化は、これに限定されるものではないが、以下のような疾患および症候の形で発現し得る:高血圧、静脈高血圧、低血圧、失神、起立不耐性、体位性起立性頻脈症候群、心房細動、心不全、駆出率が保持された心不全、駆出率の低下した心不全、息切れ、労作時の息切れ、静脈潰瘍、および勃起機能不全。メイ・ターナーおよび深部静脈血栓症の徴候および症状は、典型的には圧迫/閉塞下で発現するが(肺水腫を除く)、ここでは、心臓への静脈還流量の低下、およびその結果として生じる生理学的反応の連鎖に直接および/または間接的に関連性があるものとしてその影響を詳述する。
【0032】
下肢静脈脈管構造の解剖学的構造を考慮すると、骨盤静脈のインピンジメントまたは規制は、骨盤または脊椎などの他の固定部位に対し、動脈および/または靭帯または他の構造(例えば、腸または骨盤の手術後;リンパ節)が優位になることにより起こる可能性が高い。また、内腸骨動脈と総腸骨動脈の間の空間を通る静脈など、動脈のみによる静脈のインピンジメントとして起こることがある。
【0033】
いずれの場合も、上記を含む種々の静脈疾患の治療は、ステント、より具体的には静脈ステントで改善することができる。よりよい成果を得るため、また、あらゆる適応症に対して静脈ステント留置を用いることでさらなる合併症を防止するためには、ステントの設計性を高め、柔軟性、ラジアルフォース、圧縮抵抗、ねじれ抵抗といった種々のステントの特徴を骨盤静脈セグメントに沿った各場所に特化して適用することが求められる。
【0034】
「腸骨大静脈口径減少」は、上記で詳述したように腸骨大静脈閉塞を指す。閉塞は通常の動脈血管老化と同時に起こり、加齢とともに動脈弾性を低下させる。動脈弾性の低下は、心臓への血液の静脈伝導の機械的外部障害と、それに続く静脈うっ血をもたらす。腸骨大静脈接合部の静脈は、動脈と、脊椎や骨盤構造、靭帯、筋肉のいずれかとの間に閉じ込められる。この静脈口径の低下は、静脈うっ血、静脈高血圧および心臓へ血液を戻す静脈の能力の変化を引き起こす正常な静脈血流を変化させる。
【0035】
「パルス通過時間」(PTT)は、ここでは、各心拍の圧力波が、2つの場所(適切には、所定の場所)、例えば、心臓から特定のモニタされた血管への移動、または2つの動脈の場所の間の移動に要する時間を指す。モニタされる正確な場所は、モニタ装置の配置に依存することがあるが、これらの場所は「固定された場所」と言うことができる。固定された場所は、互いに比較的離れていてもよいし、隣接していてもよい。タイミングキューが、心室収縮や大動脈弁開放などの心臓でのイベントに関する場合、PTTは、タイミングキューとモニタされる血管における圧力波の到着の検出との間の経過時間である。タイミングキューが心臓での別のイベントである場合、または特定の血管における圧力波の到達のように心臓の外部でのイベントの時間とされる場合、経過時間は心臓から伝わる圧力波に対応しない可能性があり、それに応じて経過時間の調整が必要となる場合がある。したがって、「固定」という文言は、センサを対象の上に置く解剖学的位置または点を事前に決定する、施術者による選択を指すことが認識されるであろう。
【0036】
「脈波伝播速度」(PWV)は、収縮する心臓と特定の血管によって発生する圧力波の速度を指す。これは、2つの場所の間を圧力波が進む距離を、その関連PTTで割ることから計算できる。上記のように、タイミング合図が心臓の外に位置するイベントに対応する場合、タイミング合図の位置とモニタされた血管との間の距離を測定することができる。このような場合には、測定した経過時間、2箇所間の距離、またはその両方を調整して補償する必要があるかもしれない。例えば、計測された経過時間が頸動脈と大腿動脈における圧力波面到達時間の差に相当する場合、圧力波の実移動距離は、0.8を乗じた、頸動脈から大腿動脈までのテープメジャー距離によって推定することができる(Huybrechts et al.「頸動脈から大腿動脈までの脈波伝播速度:MRIで求めた実移動大動脈経路長と表在計測値の比較」J Hypertens 2011年8月、29(8):1577-82、および、Bortel et al.「頸動脈-大腿動脈脈波伝播速度を用いた日常診療における大動脈スティフネスの測定に関する専門家コンセンサス文書」J Hypertens 2011年12月、29(12):2491を参照)。
【0037】
「増大指数」(AIX)は、上行大動脈圧波形に由来する動脈硬化度の尺度を指す。
【0038】
「静水圧勾配」は、高さに伴う体液圧の形成の変化速度を指し、例えば、仰臥位と比較した場合の立位に関係する静脈の血液カラムの圧力を指す。静水圧の1つの形態は、血圧であり、これは、血液が血管または心室を流れるときに、その壁にかかる力である。
【0039】
「動脈硬化度」は、個人の動脈内に見られるある程度の弾性を指す。動脈硬化の増加は、加齢およびアテローム性動脈硬化の結果として生じる可能性があり、心血管イベントのリスクと関連する。PWVは動脈硬化とともに高くなり、この関係性から、PWVは個人の動脈症状をモニタするためにしばしば用いられる。
【0040】
「高血圧」は、動脈内の血圧が正常レベルを超えて持続的に高い慢性症状を指す。血液が発揮する力は、厳密には、血管の抵抗と心拍出量に厳密に依存する。抵抗性高血圧は、異なるクラスからの3種類以上の降圧剤の使用にもかかわらずコントロールされない血圧(BP)、または4種類以上の高血圧剤の使用によりコントロールされた血圧と定義される。英国国民保健サービス (NHS)は、高血圧を収縮期圧(SBP)140mmHg以上、拡張期血圧(DBP)90mmHg以上と定義している。米国心臓病学会/米国心臓協会タスクフォース(AMERICAN COLLEGE OF CARDIOLOGY/AMERICAN HEART ASSOCIATION TASK FORCE)は、SBPが120mmHgを超える場合を上昇血圧と定義し、SBPが130~139mmHgまたはDBPが80~89mmHgの場合をステージ1高血圧と定義している(Hypertension 2018; 71: e13-e115)。
【0041】
「心房細動」(AF)は、電気的インパルスが心房の異なる場所から発し、心房がランダムに収縮するときに起こる心臓の症状を指す。これにより心臓の効率が低下し、不整脈が起こる。AFは高血圧に最もよく見られる併存症であり、その発症は高血圧、およびHFpEFとHFrEFにおける罹患率と死亡率の増加のマーカーである。心房細動自体は、労作不耐性、呼吸困難、うっ血の増加(肺および全身の両方)、脳卒中および全身性塞栓のリスクと関連する。心室レート制御は、房室結節の伝導特性を介して達成される。
【0042】
「駆出率低下を伴う心不全」(HFrEF)および「駆出率維持を伴う心不全」(HFpEF)は、過剰な交感神経駆動に関連する心不全症候群を指す。過剰な交感神経駆動は、心不全症候群関連の進行性心室機能不全、および交感神経系関連の心臓頻脈性不整脈の罹患率および死亡率に寄与する。駆出率は、心不全の診断と調査において重要な測定値である。HFrEFとHFpEFはともに、体が必要とする血液および酸素量を満たすように、血液を十分な速度で絶えず送り出すことができなくなるほど、心筋が低下したときに発生し、これは、疲労、息切れなどに現れる。HFrEFとHFpEFはいずれも、運動耐容能の低下、外的および安静時呼吸困難の増加、末梢浮腫の発生、および不整脈による突然死のみならず進行性心不全による過度の死亡と関連している。
【0043】
「勃起機能不全」(ED)(インポテンス)という用語は、男性が勃起を開始または維持できない特定の状況を指す。適切な勃起機能には、陰茎静脈怒張の増加が必要である。勃起機能不全には、身体的原因と心理的原因の両方がある。身体的原因には、心臓病、血管の閉塞、高コレステロール、高血圧などがある。
【0044】
「失神(T-LOC)」(非神経学的または構造的)とは、個人が、姿勢を維持するための筋緊張の喪失を同時に伴う突然の意識消失を起こす状態を指す。通常、意識消失は転倒を伴い、その後、介入を必要とせずに速やかに完全に回復する。姿勢の変化に反応して血圧を持続できなくなることに関係することが多い。個人が起立(座位/横臥位から立位への変化)するにつれて静脈還流量(流量)が低下するのは、持続しようとする代償メカニズムが遅れることが原因である。
【0045】
「体位性起立性頻拍症候群」(POTS)は、失神に類似した状態を指すが、この場合、収縮期に、血液の欠如により右心室壁同士が触れるほど血流が乏しくなる(これは空心室症候群として知られる)。その結果、恒常性を回復させるためにより多くの血液を右心室に送り出そうとして頻脈が絶えず起こる。最終的に、この結果、血流を改善するために適切な反応がなされないため、患者の虚脱/失神をもたらす。
【0046】
「深部静脈血栓症」(DVT)は、静脈内に血栓(血栓)が形成される症状を指す。これは脚に最も多くみられる。血栓形成の主な寄与因子の1つは、静脈血の貯留である。長期の静脈うっ血および血流うっ滞の存在は、深部静脈血栓症を発症するリスクとなる。閉塞病変の治療は、血栓症の基礎疾患を軽減し、再発を防ぐ上で極めて重要である。
【0047】
「静脈潰瘍」は、静脈圧の持続的な上昇により形成される潰瘍を指す。この潰瘍は、静脈弁逆流が原因で存在することが多い。これは、下肢に最もよくみられる。静脈弁が機械的に閉塞したり静脈が充血したりすると、弁尖が血液の逆流を防ぐために共働できなくなり、静脈うっ血が悪化し、この流体静力により、静脈から間質への体液の溢出および炎症性サイトカインの活性化の両方が起こると考えられている。この体液圧と炎症性サイトカインの蓄積は、皮膚の崩れ、慢性潰瘍形成の一因となり、局所感染が起こりやすくする。
【0048】
一般に、「生理痛」といわれる「月経困難症」は、プロスタグランジン(PGF2)および(PGE2)が増加し、その結果、付近の血管から子宮の筋肉組織への酸素の供給が遮断される、子宮筋収縮を指す。この酸素供給の減少により、個人は下腹部または骨盤部の疼痛を経験することになりうる。月経困難症は、定義可能な骨盤内病変とは関係のない原発性月経困難症と、骨盤内病変または骨盤内疾患(例えば、子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、筋腫など)の存在に関係する続発性月経困難症との2つに分類できる。
【0049】
「編みステント」とは、平織り技術を用いて製造される金属または金属合金ステントを指す。ステントは、長手方向に伸張可能な管腔を備えるが、外周的には、拡張状態にあるとき、多数のフィラメント状要素が長手方向と垂直な面と交差する。
【0050】
「ねじれ抵抗」は、体内の位置に応じて周囲からの機械的負荷に耐えるステントの能力を指す。通常、これは、ステントがねじれることなく耐えうる最小の曲率半径に基づく。体内の蛇行度が高い部位では、管腔の開存性の低下さらには完全閉塞に至ることがないように、ステントが高いねじれ抵抗を有する必要がある。
【0051】
「圧縮抵抗」は、外部からの非心臓性の限局的または分散的負荷を受けるステントの、崩壊に耐える能力を指す。これらの負荷は、最終的には、ステントが変形さらには完全または部分的に閉塞し、悪い臨床結果をもたらす可能性がある。
【0052】
理論に縛られることなく、発明者らは、複数の重大な疾患および症状が、静脈閉塞またはこの領域における腸骨大静脈接合静脈の口径の減少に起因するものであり、それにより、恒常性を維持する個人の能力が損なわれることを見出した。これにより、いくつかの心血管症状が進行する。さらに、本発明者らは、腸骨大静脈接合部が正常な血流の維持にとって極めて重要な構造であり、ベースラインおよび病理学的交感神経緊張に寄与することを見出した。静脈還流の制限は、上流と下流の両側で正常な恒常性に影響をもたらし、以前は無関係であると考えられていた複数の病態として発現する、多様な症候性反応が起こる。さらに、身体の腸骨大静脈領域内へデバイスを埋め込むことにより、腸骨大静脈圧迫、閉塞、口径の減少および/または静脈還流の低下を緩和することができ、その結果、この領域における腸骨大静脈接合静脈の静脈閉塞または口径の低下に起因する複数の重大な疾患および症状を緩和することができることが見出された。
【0053】
本発明者らは、本明細書に記載のデバイスを用いるなどして閉塞を治療し、腸骨大静脈領域における開存性(全体のステントシステムにわたる可視的な流れとして定義される)を回復させることにより、疾患の症状が軽減されることを見出した。連鎖する多数の関連障害を回復するための根本原因解決策と組み合わせた、診断スクリーニングプロトコルが、本発明の実施態様において提供される。
【0054】
本発明者らは、上述した病態の多くまたは全てには、今日存在する確立された臨床的因果関係があることを認識している。腸骨セグメントの圧迫は、これらすべての病態の根本原因の要因であるが、このことは、どの文献にも記載されておらず、また診断的スクリーニングと腸骨大静脈ステント留置による治療とが組み合わせられることもなかった。本願発明者らは、確立されたメカニズムが間違っていると示唆しているのではなく、圧迫、口径の変化、または腸骨セグメントの閉塞も疾患発現の根本原因として考慮すべきであることを示唆するものである。したがって、腸骨セグメントの閉塞は、これらの疾患を有する現在の患者対し精密検査と治療の両方を行うためのスクリーニングの一部として考慮されるべきであり、また早期特定のためのモニタリングツールの追加的利用も併せて考慮されるべきである。これにより、本発明は、腸骨大静脈圧迫または閉塞の診断および治療がなされなかった結果として、連鎖的な血管周囲、心臓および神経学的症状に苦しみ続ける可能性のある個人に対する予防的治療に寄与することができる。
【0055】
本アプローチがこれまで見出されなった理由の1つは、臨床ケアの性質によるものであると考えられる。例えば、抵抗性高血圧を呈する患者は、基礎原因としての骨盤静脈構造の寄与についてスクリーニングを行わない高血圧専門家に紹介される。同様に、依存性浮腫の徴候を有する患者は、骨盤静脈の解剖学的構造は考慮されずに、基礎的な心室障害があるとみなされる。さらに、AFの症状がみられると、心臓の正常な機能に関する症状に着目する心臓専門医に紹介される。AFを呈する患者は、脚のしびれなどを経験するが、これらの症状は、通常、何にも起因しなかったり、または患者のプロフィールによっては、高齢などの、症状とは無関係な病理に起因したりする。しかし、本発明で示されるように、AFおよび脚のしびれは関連している可能性がある。すなわち、しびれは腸骨大静脈閉塞の結果である可能性がある。結果として、患者は、左心室の後負荷を増加させる原因となる、下流側の問題を抱えている場合があり、これが、高血圧をもたらしたり、また、多くの場合、AF進行につながるある種の僧帽弁逆流および左心房拡大をもたらしたりする。よって、神経ホルモン活性構造としての静脈の役割は、心臓病専門医にはほとんど考慮されない。
【0056】
中央静脈は、胸部または腹部に位置する全身静脈である。それらは体静脈や内臓静脈とは異なる。
図1は腹部に焦点を当てたもので、静脈は第8胸椎のレベルで横隔膜下大静脈開口部の下方に位置し、肝内および肝下の下大静脈(IVC)、ならびに総静脈、外腸骨静脈、内腸骨静脈が含まれる。これらの静脈は、3対の胚性静脈の合流と退行から生じる。左側主静脈の大部分は退行するが、肝類洞から発達する短い肝大静脈セグメントを除いて、右側の心上静脈と心下静脈は下大静脈となる。腸骨セグメント全体が本発明に関連する関心領域であり、これは、大腿静脈から下部下大静脈に延び、外腸骨静脈、総腸骨静脈、および内腸骨静脈を含む。
【0057】
図1および2に示すように、腸骨大静脈接合部は内腸骨静脈と外腸骨静脈が合流して総腸骨静脈となる部位に形成されている。しかし、腸骨大静脈接合部は、腸骨動静脈が骨盤の坐骨棘上を骨盤前方から後方に向かって移動し、脊柱に沿って上部に向かうにつれて支持されなくなる(
図3(a)および3(b)参照)。この支持の欠如、すなわち移動の自由は、胴体が曲がったり回転したりする歩行運動の際に重要であり、また、例えば内臓の発達などの成長や発達の際、出産の際にも重要である。骨盤手術(一般的には股関節置換/修復および骨盤置換/修復)の増加によって、腸骨動静脈の自然な解剖学的位置がずれる可能性がある。さらに、より積極的なライフスタイルの結果としての寿命の増加、及び医学的治療及び技術の改善/これらへのアクセスにより、老化する血管は弾力性が失われたり、伸展性や容量が低下したりするリスクにさらされる。
【0058】
上述したメカニズムによる腸骨動静脈における解剖学的変化は、正常な血流の変化および適応をもたらす。これらの変化については、当技術分野において十分な記述がなされている。特に、若い健常者(特に女性)における正常な発達の結果としての静脈圧迫に関連して、腸骨静脈ステント留置後に、下肢浮腫/下肢痛を生じるが、すぐに痛みは軽減するという記述がある。典型的な原因は、腸骨静脈セグメントを閉塞する、靭帯、骨、筋肉などの自然構造である。
【0059】
血流障害は、腸骨セグメントに沿ったあらゆる場所で起こる可能性があり、これは、その領域の任意の靭帯、筋肉、組織、骨構造、動脈、他の静脈、または他の構造が静脈にあたって静脈を狭めることにより起こる。この位置で血液障害が起こりやすい理由は、腸骨セグメントが、(脚のように)静脈が筋肉によって支えられていない唯一の体内の場所であるからである。さらに、静脈は直線状ではなく、自由に動くことができる。身体の側面斜視図を見ると、静脈は脚から大腿静脈を経由して戻り、胴体の前方から後方(脊椎)に移動し、骨盤を横切って(屈曲)、脊椎を上方に移動する(屈曲)。この独特の解剖学的構造は身体の他のどの部位にも起こらず、この領域(大腿静脈~低位IVC)が特に動きや静脈の圧迫や閉塞を受けやすい。
【0060】
静脈閉塞は多岐にわたり、大腿、総腸骨系および下大静脈のいずれの部位にも起こりうる。血液がたまって血栓が形成されると、閉塞が起こる。このような血栓をヘパリンなどの抗凝固薬で治療すると、静脈内部に瘢痕組織が沈着し、最終的な静脈閉塞を予防するための治療が必要となる、さらなる閉塞を引き起こすことがある。
【0061】
慢性高血圧と持続的動脈圧増加は、自然老化の結果としての動脈壁における弾性の機械的損失、および動脈弾性機能の損失に対する圧力と容積過負荷の寄与と関連している。また、静脈うっ血、関連する静脈弁機能不全および静脈高血圧は、浮腫および免疫サイトカインおよび中枢性交感神経緊張の両方の増大をもたらし、これは、さらに交感神経活性、血圧、および投薬の降圧効果に対する耐性を増大させる。静脈うっ血は、それ自体が中枢性交感神経緊張を亢進させる。相互的に、下肢の静脈うっ血および静脈高血圧の減少は、脈波伝播速度および反射指数の測定値が下がることで示されるように、中心緊張を低下させる。したがって、静脈高血圧および静脈うっ血は、続発性高血圧の原因であり、これらの症状の治療は、結果として、高血圧の副因を効果的に治療することになる。
【0062】
心房細動(AF)の治療における臨床戦略には、心房細動患者の心室レートを減少させ、基調の洞調律を維持し、洞調律を回復するための治療(薬物およびデバイス)に対する長期的反応を改善し、心房細動発症の絶対リスクを低下させることが含まれる。交感神経緊張の亢進は、各特徴のリスク要因として認識される:心房細動患者の基礎心室レートの増加、心房細動の薬理学的またはデバイス治療後の再発リスク、間欠性心房細動患者の合計心房細動負荷の低下。上記症状の治療により、リスク集団における発症リスクを低下することができる。
【0063】
アドレナリン上昇の基礎原因の治療は、心房細動の発症リスク、心房細動に反応した心室レートおよび間欠性心房細動のリスクがある人における細動負荷を減少させることが期待される。これらはそれぞれ、寿命の質と長さを改善することが期待される。したがって、これまで特定されていない/認識されていない静脈閉塞を有する患者を治療すると、交感神経を介した後負荷が減少し、それによって心室機能が改善され、全身うっ血および肺圧が低下する。
【0064】
現在のところ、HFpEFの転帰、特に患者が収縮期機能を維持していた場合の転帰に明らかな改善を示す治療法は知られていない。この疾患は左心室の機能不全と関連している。治療は主に、高血圧などの随伴状態および浮腫などの随伴状態に向けられる。アルドステロンアゴニスト、メタロプロテイナーゼ阻害薬、ループ利尿薬など、疾患治療の可能性を示唆する有望なエビデンスが早期に示されている薬理学的治療があるが、これらは現在研究が進行中である。そのため、代替治療法を見つけることが緊急に必要とされている。骨盤静脈閉塞が過剰な交感神経活動または症候性うっ血の一因となる場合、治療により、駆出率が保たれた心不全の徴候および症状が改善することが期待される。この診断および治療戦略はこれまで認識されていない。これは、心筋が十分に収縮できず、その結果、酸素に富む血液が身体の周囲を循環する量が少なくなった場合に起こるHFrEFとは対照的である。この疾患の重要な指標は、患者が心エコー図で正常より低い左室駆出率を示す場合に生じる。両疾患でよくみられる症状は、疲労感と息切れである。これまで特定されていない/認識されていない静脈閉塞など、HFpEFおよびHFrEFの基礎的および認識されていない病因因子を治療することにより、これらの疾患による病的症状および死亡が同時に減少することが期待される。
【0065】
勃起不全(ED)の原因は複雑であり、多くの寄与因子があり得る。喫煙、座りがちな生活習慣および過体重であることは、陰茎血管の狭窄、高血圧および高コレステロールを介してEDに寄与することが知られている。さらに、一般的な投薬や心理的要因も影響を及ぼすことが知られている。血管と神経が本質的に勃起を制御し、このとき、脳が神経経路を通じてインパルスを陰茎に送る。これらのインパルスは、陰茎に血液を供給する動脈の平滑筋に弛緩を誘導する。すると、大量の血液が陰茎に流れ込み、陰茎の充血と勃起を引き起こす。そうすると、骨盤領域で減圧があると、陰茎からの静脈血漏出が起こり、その結果、血液が過剰に陰茎から流出するにつれて勃起を維持することができなくなる。従来の治療法には、高血圧を治療やコレステロール低下のための薬物療法、また、ホルモン補充、副作用としてインポテンスを引き起こすことが知られている薬物の服用中止などがある。本発明の実施形態による静脈うっ血の治療およびその結果としての静脈還流の改善は、勃起を持続させることを可能にする。
【0066】
長時間の立位または運動に対する静脈還流の増加には、静脈還流量の増大も必要であり、還流量が増加すると心拍出量が増加する。下肢からの血流の戻りが妨げられると、立位や運動に対して心拍出量を増やす能力が損なわれ、血圧が低下して中枢神経系の潅流不足を引き起こす。これは、座位または腹臥位から起き上がった途端に起こる、めまいなどの一般的な症状、または瞬間的な意識消失などのより極端な症状につながる。従来の治療方法には、例えば、ベータ遮断薬、ジソピラミド、およびエフェドリンのような薬物の使用が含まれる。「傾斜訓練」のような他の方法は、患者が徐々に長時間の直立姿勢をとるように自ら訓練するよう促す。体位性頻脈症候群(PoTS)の場合、失神の症状と同様に、血液の欠如により右心室壁同士が接触するほど(空心室症候群)血流の戻りが悪くなり、より多くの血液を右心室に送りこもうと絶えず頻脈になったり、虚脱/失神を起こしたりする。この場合、問題は血流にあり、その結果生じる反応としての頻脈は恒常性を回復するのに不適切である。本発明の実施態様によれば、POTS患者に見られる頻拍/虚脱反応を防げる適切な静脈血流および圧力を回復を提供することにより、起立性代償メカニズムを正常にして空心症候群を防止することができる。
【0067】
さらに最近では、深部静脈血栓症(DVT)に起因する静脈閉塞は、血栓の穿刺吸引と、閉塞した静脈セグメントがつぶれることを防ぐステント留置との両方により治療が行われている。腸骨動脈の直径の減少、および/または伸展性の減少(血流減少とうっ滞)によりチョークポイントが形成され、これによって、完全な条件が満たされた場合(例えば、長距離飛行中に、運動不足に加えて水分不足となった場合)、血流うっ滞による血栓症が発症しうる。閉塞病変を治療して、血栓症の基礎疾患を軽減することが必要である。本発明の一実施態様において、血栓除去は、本明細書に記載される処置にしたがって実施される。さらに、回復の初期段階では、患者は、何らかの血管開通処置により回復した静脈血流を改善するためのAVシャント、例えば、グラフトやステント留置などを行うことが必要となる場合がある。
【0068】
静脈潰瘍は、腸骨静脈の血流制限による静脈圧の増大に起因することがある。腸骨動脈の伸展性が低下または直径が減少すると、血液が下肢に貯留し始めることがある。深部静脈血栓症にまでは至らない状況下では、血液の貯留が組織壊死をもたらし、それが静脈潰瘍の発生につながる可能性がある。これは、脱酸素化された血液が下肢に長時間留まり、酸素の組織を飢餓状態にすることによって生じる。症状は、下肢のかゆみおよび/または腫脹に始まり、ときに患部の変色または硬化した皮膚と組み合わさって起こる。足首より上の脚の内側に潰瘍ができることが多い。従来の治療法では、例えば、血流を改善するために、所定の期間の圧迫ストッキングの着用が患者にすすめられる。創傷治癒の補助として、創傷を洗浄し包帯を巻くなどの伝統的な創傷ケアも必要である。潰瘍の感染症を治療するためにまず抗生物質を処方することは一般的であるが、これによって基礎原因が除去されるほど潰瘍の治癒を助けるものではない。潰瘍を治療する期間は一般的に3~4カ月続き、その間、患者は長期間時間眠れないこともある。
【0069】
本発明の実施態様によれば、全体または一部の腸骨大静脈接合部内へのデバイス設置による静脈潰瘍の治療の結果、静脈うっ血を顕著に減少することができる。これにより、新鮮な酸素化された血が患部を流れるようになり、ほとんどのケースで症状の逆転が起こる。しかし、組織の死滅/壊死のレベルが進んでいる場合には、追加の局所治療の実施が必要となる可能性がある。
【0070】
月経困難症の従来の治療には、(i)疼痛が軽度の場合、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセンなどを用いた疼痛緩和が含まれる。これは、月経困難症の症状が現れる前に行わなければならない。症状を緩和する一般的な自然の方法は、下腹部/下背部に熱エネルギーを加えることであり、これには熱パッドまたは熱湯瓶を用いることができる。月経困難症に伴う痛みがより重症で数カ月間持続する場合、医療従事者は経口避妊薬(OCP)を患者に処方することがある。この治療法は、特にOCPの合成ホルモンが排卵を抑制するため、月経痛の軽減に有効であることが証明されている。OCPは、子宮内膜の腺のプロスタグランジン産生量を減少させ、子宮の血流を減らしてけいれんを起こす。この治療法は有効であることが証明されているが、妊娠を望む個人には適しておらず、他の日常的な薬との併用にも適していない。OCPの持続的な使用は、心臓発作、脳卒中、血栓のリスク上昇などの長期的な健康上の問題と関連するため、永久的な解決策としては推奨されない。さらに、子宮頸がん、乳がんおよび肝がんのリスク増大にも関連している。本発明の実施態様によれば、ステント留置を介するなどして腸骨大静脈領域における静脈閉塞を軽減することにより、子宮血流が減少し、それにより月経困難症の症状が緩和される。
【0071】
さらに、一般に、高血圧の早期発症は男性よりも女性に多いことが実証されている。女性はまた、左心室が正常であっても、拡張期充満圧が異常であることにより、拡張不全(HFpEF)のリスクも高い。さらに、HFpEFの女性は、心房細動の合併率が高い。これらのリスク上昇の理由は、骨盤内の静脈や動脈の変化、特に、下大静脈(IVC)の圧挫によるものと推測される。これらの変化は、場合によっては妊娠および/または出産中に引き起こされる可能性があると推測される。
【0072】
妊娠によってこの領域に生じるさらなる合併症は、分娩後の静脈血栓塞栓症の増加であり、30%の増加がある。この増加は、血液うっ滞を引き起こす妊娠中のIVCを通る血流のインピーダンスの結果である。妊娠中のIVCを通る血流のインピーダンスは、低体重児などのさらなる問題の連鎖を引き起こす可能性がある。子癇、子癇前症、および妊娠高血圧もまた、静脈還流量の減少から起こることがある。したがって、本発明の実施態様は、特定された部分集団として、女性患者、より適切には分娩後の女性患者の治療に関する。
【0073】
本発明の実施態様は、静脈系における高い可動性と伸展性を引き起こす遺伝性疾患によって弱められた静脈緊張の維持、およびそのような疾患を有する患者の治療にも関連する。
【0074】
上記のすべての疾患に影響を及ぼす基礎的因子に関連して、より健康的な食事、継続した定期的な運動、喫煙および過度の飲酒のような習慣の回避などによる生活習慣の全体的な改善は、早期治療および最終的には前述のすべての疾患の予防に役立つことが認識される。しかし、病気が進行した状態にあるときには、これらの生活習慣の変更だけでは、患者の症状に何らかの改善をもたらすには十分ではないであろう。本発明の実施態様は、医療経済レベルでの多大な節約を提供する。また、腸骨大静脈領域における静脈閉塞の特定のためのルーチンスクリーニング/診断技術の実施、および適切と考えられる場合には、ステント留置などによるその後の治療によって、薬剤の誤処方が大幅に減少することになる。
【0075】
腸骨大静脈領域の静脈血流の閉塞に対する外科的治療、例えば、ステント留置、AVシャントまたは静脈バイパス術に加えて、薬物に基づく治療法の投与を用いてもよい(
図7参照)。抗凝固剤、血栓溶解剤または抗血栓剤のような薬剤は、手術前、手術後、または必要に応じて手術の代わりに適切に投与され得る。本発明の実施態様によれば、腸骨大静脈領域における血栓静脈閉塞に起因する本明細書に記載の疾患および状態の1つまたは複数を有する成人患者は、低分子量ヘパリンを2週間毎日5000~20,000単位皮下投与し、続いてワルファリン2~10mgを6ヶ月間毎日経口投与する措置によって治療し得る。本発明の代替実施態様によれば、血栓はないが良好な流入がない、圧迫/閉塞/口径低下に起因する、本明細書に記載される疾患及び症状を有する成人患者(平均体重68kg)は、アピキサバン5mgを3ヶ月間毎日経口投与する措置によって治療し得る。同等又は補完的な効果を有する代替薬を適宜処方してもよいことは認識されるであろう。上述の疾患/状態の1つまたは複数の治療のための本発明の投与措置で用いられる薬物の例を以下に挙げるが、これに限定されるものではない。
【0076】
抗凝固薬:ヘパリン、ワルファリン、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス、イドラバイオタパリヌクス、ビバリルジン、ダビガトラン、アルガトロバン、ヒルジン、レピルジン、アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、ベトリキサバン。
血栓溶解薬:アルテプラーゼ、ウロキナーゼ、レテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼ。
抗血栓薬(抗血小板薬):チロフィバン、エプチフィバチド、アブシキシマブ、アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール、プラスグレル、ジピリダモール、チカグレロル、チクロピジン、ボラパキサル。
【0077】
図6に記載される本発明の実施態様において、ステップ102で始まる治療100の方法を提供する。ここで、患者は、静脈還流不良に関連する疾患または状態を示す症状を呈する。この疾患または状態は、例えば、心房細動、高血圧、勃起不全、静脈潰瘍、失神、月経困難症、深部静脈血栓症、駆出率が保持されている心不全または駆出率が低下している心不全からなる群から選択される1以上のものであってよい。最初の検査において、ステップ104で、患者は、血圧モニタリング、脈波伝播速度(PWV)分析、増大指数、脈圧(PP)波、静脈瘤を含む下肢浮腫のスコアリング、および/または、骨盤静脈の運動負荷試験(±Duplex法)を受ける。最初の検査に続き、患者は腸骨大静脈閉塞/圧迫のリスクの有無で分類される。患者に腸骨大静脈閉塞/圧迫のリスクがないと考えられる場合、患者が呈する疾患の症状を治療するための従来の治療を、ステップ106で実施することが勧められる。しかしながら、ステップ108において、患者に腸骨下大静脈閉塞/圧迫のリスクが高いと判断された場合、次いで、これに限らないが、例えば、骨盤のドップラー超音波および/または静脈MRIなどの方法を用いて、腸骨下大静脈圧迫または閉塞について、患者のスクリーニングが行われる。上記のスクリーニング方法または上記に記載されていない他の方法の1以上の結果が、腸骨大静脈圧迫または腸閉塞の存在、またはその可能性を示す場合は、侵襲的な診断評価、例えば、造影剤静脈造影、血管内超音波、圧力ワイヤおよび/または流体または固体状態カテーテルによる圧力勾配検査、腸骨セグメントでのコンプライアントバルーンのプルバック、などの方法で、最終的な確認を行ってもよい。腸骨大静脈の閉塞または圧迫が存在することが最終的に確認されると、ステップ110において、閉塞または圧迫は、本明細書に記載されているデバイス(例えば、ステント)、および任意に適切な薬学的補助療法によって適切に治療することができる。必要に応じて、上述のような治療後、数日、数カ月または数年にわたり、症状の改善についてさらに患者をモニタすることができる。
【0078】
病態によっては、最初の検査ステップを省略することが適切な場合もある。これは、疫学の改善、患者の病歴または独特の症状の組み合わせを呈する患者などの非限定的因子による場合がある。この場合、医療従事者は、例えば、本明細書に記載される医用画像技術を使用して、腸骨大静脈圧迫または閉塞のスクリーニングを行う。
【0079】
本発明のいくつかの実施態様において、一定の年齢/人口統計学的/生活様式プロファイルを満たす患者を、予防措置として腸骨大静脈閉塞または圧迫について日常的にスクリーニングする、公衆衛生スクリーニングプログラムが提供される。この場合、コレステロールまたは空腹時血糖値を個人に割りてるように、本明細書に記載の疾患または状態の1つ以上を発症する可能性の指標である、腸骨大静脈閉塞または圧迫のスコアを個人に割当ててもよい。本明細書に記載の方法によれば、このようなアプローチにより、リスクのある個人に対し、重篤な病的状態に陥り医療システムの負担となる前に、予防的な治療を行うことができる。
【0080】
一実施態様において、静脈うっ血のスクリーニング方法は、以下を含む:
【0081】
1.脈波伝播速度 (PWV)分析と脈波増大係数分析を用いた動脈壁硬化の測定
病院内および外来環境内で脈波伝播速度および/または増大指数を測定ための、校正および認証済みのデバイスがいくつかある(Complior Analyse、Alam Medical、フランス;SphygmoCor(登録商標)、AtCor Medical Pty Ltd、オーストラリア)。外来環境における患者のそのような一例において、患者は前述の疾患のいずれか1つを呈し、血圧モニタリングデバイスを用いた検査が行われる。ソフトウェアはコンピュータ上で校正され、デバイスは通常の使用ガイドラインに従い患者に装着される。正しいカフサイズは、上腕の周径に基づいて患者の腕に適切に適合するように選択される。これにより、正確で信頼性の高い測定記録を得ることができる。一般的には、空気チューブを上方向に向けて患者の左上腕にカフを装着する。カフは、患者の上腕動脈に正しく沿わせなければならない。デバイスが正しく装着されたら、次に空気流チューブを首の背面側周りに垂らして、適切なモニタデバイスに接続する。その後、このデバイスを用いて患者の脈波伝播速度(PWV)を記録する。さらに、このデバイスは、典型的には、中央血圧、増大指数および中央脈圧を含む様々な他のパラメータを検査する。一般的に、最長4時間、患者の記録が行われる。続いて、統計解析法を用いて、収集したデータを探索し、統計的有意差が存在するかどうかを決定する。PWV分析は、静脈うっ血の診断に対して非常に強い陽性適中率(ppv:88.9%)を有すると考えられている。本発明の実施態様では、50歳以上のグループにおいて、PWV値は、健康な患者については約8.03±1.43であり、静脈うっ血を有する患者については8.82±1.65である。測定値は年齢によって異なるが、若い健康な患者(30歳前後)の典型的なPWV値は6.81前後である。PWV価がこれをかなり上回る場合は、動脈壁硬化が進んでいると考えられる。
【0082】
本発明の実施態様によれば、静脈うっ血の所見は、腸骨大静脈圧迫、閉塞または口径の減少した静脈閉塞が発生/発生する無症候性の発生の初期徴候であり得る。
【0083】
2.下肢浮腫のスコアリング
患者の身体診察を行う。皮膚に圧力をかけると、問題がある部位に「へこみ」が形成される。この検査は、通常、患者のすね、足首および足に対し、手で行う。悪性度は、形成される「へこみ」の深さと、元のレベルに戻るまでどのくらいの時間その状態が続くかに基づいて、1~4の尺度に分類される。ステージ4の場合が最も深刻で、8mm以上の深さの「へこみ」が形成され、2分以上その状態が続くことがある。
【0084】
その他のモニタリング方法としては、血圧、心臓モニタリングおよび症候観察が挙げられる。
【0085】
腸骨大静脈の圧迫、閉塞または口径減少のスクリーニングは、腸骨大静脈の圧迫の重症度、閉塞または口径の減少および血流制限の程度に応じて行う。このステップの前には、通常、静脈うっ血のスクリーニングが行われるが、患者がどのように症状を呈しているかに応じて、場合によっては、このステップは、より迅速な診断および治療を達成するために実施される最初のスクリーニングプロトコルとなり得る。
【0086】
モニタリングデータを確認するには、症状がなくとも、両腸骨静脈セグメント(左側および右側)における、発現済または発現中の腸骨大静脈圧迫、閉塞または口径低下による静脈閉塞の有無を確認する必要がある。生活および運動習慣の変更後に血圧レベルが上昇した場合(「白衣」高血圧(臨床的モニタリングに対する不安に起因する急性高血圧)を除く)、高血圧の副因を除外するための標準的なスクリーニングプロトコルの一部としての腸骨大静脈圧迫、閉塞または口径減少の存在を排除するために、個人を診断的にスクリーニングしなければならない。
【0087】
1.骨盤のドップラー超音波検査
この方法は超音波スキャンまたは超音波検査を用いる。患者を診察台の上に仰臥位または座位にし、患者を傾けて超音波画像の質を操作してもよい。高周波超音波はゲル・プローブデバイスを介して体内を伝わる。この方法は、骨盤/鼠径部で患者の皮膚に直接置かれる手持ち式超音波トランスデューサの使用を含む。トランスデューサは、超音波用ゲルの層で覆われた皮膚に押しつけられて、接触と位置決めが行われる。トランスデューサを、十分な画質と量の画像が撮影されるまで、関心エリアにわたって前後に移動させる。腸骨静脈のいかなる圧迫または閉塞の存在も、静脈うっ血を示す可能性がある。圧迫または閉塞は、以下のように現れることがある:
a.腸骨大静脈血管における静脈うっ血
b.腸骨大静脈血管における側副静脈流の存在
c.腸骨大静脈血管における静脈棘の存在
【0088】
2.静脈の磁気共鳴画像法(MRI)
この方法は、身体の軟部組織の可視化を可能にするさらなる非侵襲的な画像診断アプローチである。MRI画像は、腸骨大静脈領域内の血管の閉塞および閉塞、ならびに静脈うっ血、対側静脈血流および静脈棘を検出することができる。MRI画像における静脈の鮮明度を改善するために、患者に造影剤を静脈注射することが一般的である。
【0089】
3.コンピュータ断層撮影(CT)走査法
この方法では、複数の角度から身体の周りのさまざまなポイントで撮影した一連のX線画像を組み合わせる。次にこれらの画像を、コンピュータを介して処理し、検査対象の骨、軟部組織および血管の断面画像(スライス)を作成する。CTスキャンは、人間の解剖学的構造のほとんどあらゆる場所に適合する。この方法では、患者にとって痛みがなく、迅速かつ正確な検査が可能である。まず、患者を台の上に仰臥位にする。その後、台をスキャナのトンネルにゆっくりと通し、体の周りでX線を回転させる。腸骨大静脈領域のCTスキャンは、静脈圧迫と閉塞の両方を検出できる。
【0090】
侵襲的診断検査は、以下のいずれかの方法による最終確認として行われる。
造影静脈造影:患者に鼠径部のカテーテルを挿入し、腸骨セグメントに沿って適切な位置まで移動させる。カテーテルを通じて腸骨セグメントの関心エリアにX線透視色素を連続的に注入し、X線をリアルタイムで記録する。
血管内超音波:小型の超音波プローブを遠位末端内に含むカテーテルを腸骨セグメントに挿入し、カテーテルの近位末端をコンピュータ超音波デバイスに取り付ける。この方法により、医療従事者は画像超音波を用いて血管の内部から静脈の開存性を調べることができる。あるいは、腸骨大静脈血管の腸骨セグメントでのコンプライアントバルーンのプルバックを用いて、固定された静脈セグメントの存在を特定することができる。
【0091】
本発明の代替実施において、診断手順は、適切な血液検査と置き換えてもよいし、またはそれを補足してもよい。経時的に測定された1つまたは複数の循環サイトカインのレベルは、特に腸骨大静脈領域またはその周囲における潜在的な静脈閉塞または収縮のバイオマーカーとなりうる。静脈圧が慢性的に上昇すると、体液が間質腔に溢出しやすくなり、免疫サイトカインの放出が活性化され、それ自体が心血管の炎症リスクの一因となる。発現増加を示すサイトカインとしては、インターロイキン-6(IL-6)およびケモカインリガンド2(CCL2)が挙げられる。心血管炎症リスクに関与するその他のサイトカインバイオマーカーとしては、例えば、インターロイキン-5(IL-5)、腫瘍壊死因子-A(TNF-A)、エンドセリン-1、アンジオテンシンII(A-II)、エンドセリン-1(ET-1)、血管細胞接着分子-1(VCAM-1)、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド2(CXCL2)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ-2および/または-9(MMP-2、MMP-9)が挙げられる。本発明の具体的な実施形態では、静脈血のIL-6レベルが上昇して約1.8pg/mLを超える場合、適切には少なくとも約2.0pg/mL以上であると診断された場合、静脈うっ血の可能性がある。したがって、本発明の実施態様は、静脈閉塞に関連またはその指標となる所定の閾値レベルを超える1つ以上の循環サイトカインの存在を特定するコンパニオン診断試験と組み合わせた、本明細書に記載の疾患および状態を治療する方法を含む。
【0092】
ステントは、圧縮抵抗、柔軟性、耐久性、継続性のある外向きの力、最小限の縮み、などの重要な特性を、体内で留置される場所に応じて、バランスよく有することが望ましい。静脈ステントは、静脈の機械的インピンジメントまたはねじれの解消に用いることができ、ラジアルフォースまたは半径方向の圧迫強度(以下、単に「圧迫強度」と称する)とも呼ばれるフープ強度が比較的高く、自己膨張性であり、縮みが最小限であるという特性を有し、圧迫強度が低くかつ柔軟性が高い領域または区域を有する。
図9は、ステントデザインの違いによるフープ強度と直径の関係を示したものである。
【0093】
高圧迫強度(HCS)の領域は、流速の変化を防止するために、ステントの末端を含むより低い圧迫強度(LCS)の領域と、最適に結合される。表1に、上記特性を腸骨大静脈の領域毎に示す。ステントにHCS/LCSセクションを設けて、ラジアルフォースを増加させるためにHCSセクションを追加して用いることについては、すでに詳述した。しかし、ステントを通過する液体の流速変化を防止するためのHCSとLCSの組み合わせについては、まだ詳述していない。
【0094】
本発明の実施態様では、強化を必要とする身体の正しい部分に適合するようにラジアルフォースを大きくした少なくとも1つのHCS区域と、ねじれ抵抗を見越して、複雑に入り組んだ解剖学的構造を収容するように柔軟性を高めた少なくとも1つのLCS区域が提供される。対象の必要性に応じて複数のHCSおよびLCS区域があるデバイスは、本発明の実施態様内に包含される。
【0095】
【0096】
最適なステントデザインは、以下の特徴のいくつかまたは全てを示す。
【0097】
1.鼠径靭帯(大腿静脈から外腸骨静脈)下での、圧縮抵抗とトレードオフしない柔軟性。すなわち、ステントの圧縮を防ぐのに十分な強度であるが、股関節内での動きに影響したりステントが破損したりしない程度の柔軟性。歩行中の自然な動きはこの領域を圧縮する可能性があるため、この圧縮に対するステントの弾力性も望ましい。これは、柔軟性を考慮したオープンセルステントデザインを採用することで達成できる。
【0098】
2.骨盤を覆う静脈セグメントである、外腸骨静脈(EIV)から総腸骨静脈(CIV)へのステントの移行に伴う柔軟性。これは、柔軟性を考慮したオープンセルステントデザインを採用することで達成できる。
【0099】
3.ステントはCIVを通って頭側へ、さらに下大静脈(IVC)に向かって上方へ移行するに従い、ステントの半径方向強度が大きくなることが望ましい。ここは、メイ・ターナーなどの非血栓性腸骨静脈病変(NIVL)のような圧迫症候群が起こりやすい領域であり、腸骨静脈が脊椎に沿って頭側に旋動し始める。この領域では、より大きなラジアルフォースおよび/またはより閉じたセルおよび/またはよりきつい織り模様または他のステント補強デザイン設計要素が望ましい。
【0100】
4.下大静脈接合部では、柔軟性がそれほど重要ではないため、ステントの半径方向強度が比較的高いことが望ましい。したがって、セルが小さく、織りが緊密なデザインが好ましい。
【0101】
本発明の実施態様では、ステントなどのデバイスは、1以上の自己拡張部分を含んでもよく、また、例えばバルーンカテーテルを使用するなどの変形によって拡張可能な1以上の部分を含んでもよい。そのような実施態様において、ステントは、巻回密度が低い、または開口サイズが大きいメッシュを含む部分を複数有する一方で、末端部分では、巻回密度が高い、または開口サイズが小さいメッシュを含むものであってよい。メッシュは、一般的にチューブ状であり、その中央を流体が流れるための経路を規定するものである。チューブまたはシートを切ってストラットパターンまたはセルパターンを形成してもよい。ストラットは、切断後に残されたチューブまたはシートの部分であり、セルまたは穿孔または開口は、切り取られた部分である。チューブ(例えば、ハイポチューブ)を直接切断してもよいし、あるいはシートを切断してから、チューブ状に巻いてもよい。チューブまたはシートは、切断前または切断後に形状を設定してもよい。
【0102】
本発明の1つの実施態様において、実質的に全体の腸骨セグメントへのステント留置は、静脈の閉塞または圧迫が軽減されるように提供される。これにより、将来のインピンジメントに対する保護が得られ、また、留置される解剖学的位置に特化して設計されたステントが提供される。様々な長さおよび大きさ、ならびに長期的な外向きの力(ステントがその拡張時に発揮するラジアルフォース)、圧縮抵抗、および半径方向の抵抗力を含む、
図8に示すような適切な性質を有する、様々な長さおよび大きさを有する単一の最適に設計されたステントを作成することで、この領域のステント留置に伴う潜在的な危険性を最小限に抑えることができ、これにより、患者への損傷を減らすことができ、またステント寿命を延ばすことができる。
【0103】
以下の実施形態に記載されているステントは、単一の細長い内腔を有する単一のステントとして例示されているが、ステントの異なる複数の区域またはセクションを形成して個別に設置した後、結合したり、重ね合わせたりして、デバイスを形成してもよいことが認識されるであろう。したがって、ここで用いる「デバイス」という文言は、異なる特性を有し、かつ、他のステント部に隣接または他のステント部と重複して設置される、1つ以上の構成ステント部を有する、セグメント化されたステントに関する。ステントの結合メカニズムは当業者にはよく知られている。
【0104】
したがって、本発明の実施態様によれば、外腸骨/大腿静脈からEIV/CIVまでのオープンセルステントのオープンセル半径方向の抵抗力と、その後、CIV/EIV移行から頭側に移動するクローズドセルステントのより強い抵抗力と圧縮抵抗性とを組み合わせた、ステント状のデバイスが提供される。一実施態様では、静脈に特化されたステントは、鼠径靭帯下で必要な柔軟性を提供するが、腸骨大静脈セグメントの様々な部分下で、特に下大静脈でラジアルフォースを維持する材料から構成される。
【0105】
1つの実施態様において、静脈ステントは、ニチノール、形状記憶合金または他の生体適合性材料の固体チューブに、複数のスロット穴またはパターンをカットすることにより作成される。ニチノールを用いることにより、レーザー切断静脈ステントは、その後、マンドレル上でヒートセットすることにより、テーパ状輪郭を得ることができる。不連続なテーパまたは隆起は、より大きなラジアルフォースを発揮し、また、異なるパターンのストラット、連結棒など、半径方向の強度を増加させる特徴を有する。一実施態様では、下大静脈近位のステントの頭側末端をフレア状にすることで、ステントの固定を助けたり、また、正常組織への移行によりラジアルフォースを消散させたりすることができる。
【0106】
さらなる実施形態は、両側に圧迫強度の低い区域が結合された圧迫強度の高い区域を少なくとも1つ含む。これにより、ステントの末端の近傍で、その境界となるLCS区域を有する単一ステントを提供する。更に別の実施形態は、両側に圧迫強度の低い区域が結合された圧迫強度の高い区域を少なくとも2つ含む。
【0107】
本発明の実施態様では、軸径が、尾端から頭側末端にかけて変化しており、ステントがテーパ状になる(例えば、広い円錐台形状となる)ように、直径が連続的に変化してもよい。あるいは、第1末端の本体管腔の直径が第2末端の管腔の直径よりも大きくなるように(例えば、伸長されたテレスコープのように)、長手方向の軸に沿った段階的な移行部を複数形成してもよい。
【0108】
さらなる実施形態では、下大静脈内のステントのための支持/アンカー機構を設ける必要があるかもしれない。このアンカー機構は、ステントを、その残部が尾側に配置される前に、まず腎静脈に留置する単純な一対のアームであってもよい。腎静脈に支持/アンカー機構を導入することにより、ステントは重力と動きの効果により支持され、過度のラジアルフォースを用いることなく、適切に位置決めされ配置される。
【0109】
図11は、きつい織りパターン(高密度の織り込み)で形成されたHCSエリア(区域)(図中、「B」)と、ゆるい織りパターン(図中、「A」)を有するLCSエリア(区域)と、を含む織りステントデザインを示す。同様の効果および所望の結果は、別の実施形態のレーザーカットステントを用いても達成され得る。HCSエリアは、ステントの長手方向の軸に沿って、両側にLCSエリアがくるように、実質的に中央に配置されてもよい。対象毎に異なる、局所の腸骨大静脈解剖学的構造に対応するために、多数の配置が考えられることは当業者に理解されるであろう。
【0110】
図12は、上記デザインにおいて、LCSエリア「A」を両側にして、LCS区域「B」がステントの中間部において、ステントの大部分を占めるようになされた、さらなる実施形態を示す。
図12の実施態様は、HCSエリアが、末端まで伸びるLCS区域に比べてかなり長いことを示す。このデザインのステントは、その本体の大部分に沿って、より高い半径方向の圧縮強度およびねじれ抵抗性を示すが、末端においては柔軟な区域を有する。
【0111】
図13は、その長さに沿って非対称なテーパを有するステントの例を示す。
図13では、HCSおよびLCS区域の位置は、一般的なインピンジメント部位または圧迫部位を基準に示されている。
図13では、左右の下大静脈それぞれについて、2つのステントを示している。
【0112】
図14は、長い静脈ステントの例を示す。ステントの全範囲は図示されず、むしろその長さが模式的に図示されていることを理解されたい。
図14のステントは、LCS区域、ステントの中心のLCS区域、およびLCS区域の間にあるHCS区域を含む、柔軟な先細りの末端を有する。
【0113】
ステントは、総腸骨、外腸骨、総大腿静脈および下大静脈セグメント内での留置位置に特化された、種々の異なる強度のワイヤ/異なる織物構造から構築され得る。ステントは、ステンレス鋼、ニチノール、コバルトクロム、タンタル、白金、タングステン、鉄、マンガン、モリブデン、または他の外科的に適合する金属もしくは金属合金の、単独または組み合わせからなるものであってよい。ステントはさらに、ポリマーなどの非金属材料からなるものであってもよい。ポリマーとしては、例えば、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリグリコール-乳酸(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、その他の脂肪族ポリエステル繊維材料などの生体吸収性材料;ポリプロピレン;ポリアミド;炭素繊維;およびガラス繊維などが挙げられる。本発明の具体的な実施形態において、ステントは、金属部分と非金属部分の両方を含んでもよい。
【0114】
図15に図示された本発明の1つの実施態様において、編みメッシュデザインには、基本の編みシステム150と、基本の編みシステムに織り込まれた追加の編みフィラメントとが、ステントの周囲の1以上の選択位置に設けられている。
図15には、単一の追加の編フィラメント152のみが示されているが、複数の追加のフィラメントを必要に応じて編み込んでもよい。これらの追加の編みフィラメントは、半径方向の圧迫補強材として作用し、ステントに沿った特定の位置での圧縮抵抗を増加させる。追加の編みフィラメントは、基本の編みシステムと同じワイヤで構成されてもよいし、異なるワイヤで構成されてもよい。さらに編みフィラメントのワイヤは、平らあってもよく、円形または楕円形であってもよい。追加の編フィラメントの先端は、基本の編みシステム内で点接続されていてもよく、かつ/または浮遊末端であってもよい。追加の編みフィラメントは、基本の編みシステムの周囲に、対称的に分布されてもよいし、非対称に分布されてもよい。追加の編フィラメントが配置される場所および構造の必要条件を満たすために、その本数および種類、すなわちフィラメントの材質や太さ、編フィラメントの巻回数、および基本の編みシステムへの織り込み方法は、いずれも、所定かつ所望の量の圧縮抵抗が得られるように変更してもよい。
【0115】
追加の編みフィラメントは、通常基本ストランドと平行になるように、基本の編みシステムに織り込まれるが、これに加えて、
図16(a)から(c)に示すようにさまざまなパターンでフィラメントを追加することができる。一般的なパターンとしては、本図の(a)および(b)に示されるジグザグ構成(鋸歯状またはZ字型ともいう)と、例(c)に示される正弦波構成(S字型ともいう)が挙げられる。また、ジグザグパターンと正弦波パターンの間の混成体または中間体であってもよい。追加の編フィラメントは、不連続であるが反復されるパターンに配置されてもよく、デバイス全体に構造的な完全性を提供するために織り合わされたり重ね合わされたりしてもよい。
【0116】
図17に図示した本発明の1実施形態において、固定および/または結合要素162が、遊走を防止するために、ステント160の一方または両方の末端に備けられている。この固定および/または結合要素162は、静脈ステントの一端または両端を別の静脈ステントまたは別の移植構造体に結合するのに用いることができる。固定または結合を達成するために、アンカーはカテーテルに沿ってステントに送ってもよい。
図19の2つの例(a)および(b)に示すように、固定/結合要素は、基本の編みおよび/または追加のフィラメント末端から延びる、これらと同様の材料、または異なる厚さ、形状または材料から形成される、フック182やアンカーポイント184であってもよい。固定/結合要素は、基本の編みシステムに取り付けられた放射線不透過性材料で構成されてもよい。放射線不透過性材料は、溶接、または別の放射線不透過性材料であってもよい接着剤により取り付けられる。
図18に示すように、固定/結合要素172は、基本の編みシステム170内に延在して、半径方向の補強を提供してもよい。
【0117】
流速の変化は、ステントと健常組織の間の移行区間が大きすぎる場合、骨盤静脈内の静脈狭窄形成に関連する。そこで、静脈ステントの末端におけるLCS区域の目標は、本来の、健康な静脈組織をできるだけ模倣し、組織を過度に伸展させないようにし、これによりステントから組織へのより滑らかな移行を作り出すことである。
【0118】
ステントおよび配置を可視化するために、ステントは、任意に、縦方向および/または径方向に配置された1以上の放射線不透過性マーカーを含んでもよい。適切な放射線不透過性材料としては、チタン、タンタル、レニウム、ビスマス、銀、金、白金、イリジウム、タングステンなどが挙げられる。
【0119】
X線不透過性マーカーを使用することにより、単に圧迫または閉塞が除去されるだけでなく、動静脈瘻造設が必要な場合、隣接する腸骨動脈に向かって正しい回転方向にステントを配置しやくなる。通常、ステントは留置状態における縮みが少ない。
【0120】
本発明の具体的な実施形態では、ステントは、AVシャントデバイスの形成に役立つ放射線不透過性マーカーにより特定される、大きなサイズの開口またはセルを含んでもよく、ステント基部構造の穿孔を要しない。具体的な実施形態では、ステントの全体または一部が被覆されていてもよい。このような被覆材料としては、PTFE;E-PTFE;ポリウレタン;シリコーン;パピラス;ダクロン(登録商標);GORE-TEX(登録商標);その他の高分子膜;多面体オリゴマーシルセスキオキサン、およびポリ(炭酸-尿素)ウレタン(POSS-PCU);その他の生分解性ナノファイバーが挙げられる。
【0121】
本発明の具体的な実施形態では、ステントは、薬物塗膜、または薬物塗膜およびグラフト被覆の組合せを含んでもよい。これにより、再内皮化の促進、内皮機能の改善、炎症反応の減少、新生内膜過形成の阻害、ヘパリンの抗血栓作用を介するステント内再狭窄やステント血栓症などの有害事象の防止、などの効果が得られる。
【0122】
実施形態において、ステントは、直径が6~8フレンチサイズであり、10フレンチサイズの導入カテーテルデバイスを介して留置することができる。一般的には、これらのパラメータに適合するステントは、腸骨大静脈領域における正常な内腔径を回復するのに適している。これらのサイズの、テーパ付きステントを用いることにより、IVCにおいて、最小径を最大24mmまで2mmずつ増大させることができる。本発明の実施態様において、ステントの長さは、まず、大腿静脈からEIV/CIV移行までの柔軟なコンポーネントにおける長さと、IVCへのCIV移行部の頑丈なセクションにおけるクローズドセルの長さとの2通りに変化してもよい。
【0123】
1つの実施態様において、本発明は、前述の範囲の疾患を治療するための静脈に特化されたステントを包含する。ステントは、疾患の症状に応じて、適切にサイズ調整、位置決めおよびポスト拡張される。ステントは、外腸骨静脈から総腸骨静脈への移行部、すなわち、腸骨大静脈接合部で、腸骨セグメントを介して患者に挿入される。
【0124】
一実施態様では、静脈に特化したステントは、必要な条件に応じて、ゆっくりと制御されたステントリリースと速いスムーズなステントリリースとが可能な送達システム上で自己拡張可能である。これは、リリースの第一段階において、患者内にステントを適切に配置した後、ステントの残りを留置する前に、ステントを調整する時に起きる。一実施態様では、ステントの最小長さは、少なくとも10cm、通常15cm、または18cmであってもよく、ステントの最大長さは、最大で28cm、通常25cm、または22cmであってもよい。いくつかの実施態様において、ステントは、拡張状態で所望される形状および構成に製造されてよく、腸骨大静脈領域内の血管の場所へカテーテルにのせて運ぶためのスリーブの内部に適合するように圧縮可能であってもよい。本発明の1つの実施態様において、ステントを配置および拡張するために、スリーブをステントから引き戻し、デバイス内の形状記憶材料を予め設定された形状に戻す。これにより、通路中にステントを固定することができ、ステントが十分な半径方向強度を有する場合には、通路を拡張して、閉塞を軽減することができる。バルーンカテーテルの使用は、完全な自己拡張型ステント場合は不要であるが、場合によっては留置の改善または最適化のために使用してもよい。
【0125】
最適なステントサイズは、総腸骨セグメントおよび総大腿静脈セグメントにおいて、それぞれ、管腔直径が16mmから12mmの間である。一実施態様では、
図10に記載されているように、ステントは様々なサイズまたは直径および長さで提供される。留置後の適切な直径は、8mm以上、適切には10mm以上、通常12mm以上、または14mm以上の範囲である。留置後の適切な直径は、16mm以下、適切には18mm以下、通常20mm以下、または22mm以下の範囲である。
【0126】
米国特許第8257265B1号には、(a)外部症状を評価するステップ、(b)IVUSを実施するステップ、(c)静脈病変を同定するステップ、および(d)他のCVD診断前にIVUSを実施するステップが記載されている。本発明のさらなる実施態様では、蛍光透視鏡を操作して腸骨大静脈領域内の所望の位置にステントデバイスを正確に送るために、本明細書に記載されているステントデバイスのいずれかを組み合わせることができる。この場合、IVUSおよび/または蛍光透視法で静脈圧迫領域が確認されると、内部にIVUSカテーテルを配置するのに十分なサイズの管腔を有する特別な静脈ステントが、ワイヤに沿って入れられる。
【0127】
別の実施形態では、対応するIVUSカテーテルに対応するサイズのガイドワイヤに沿うトランスデューサで、IVUSカテーテルは、3~4フレンチサイズであり、通常0.25mm(0.010インチ)以上である。
【0128】
別の実施形態において、本発明は、静脈圧迫を治療する方法であって、
I.同時および/または選択的に動脈および静脈に造影剤をボーラス注入することにより総体的解剖学的評価を行い、静脈圧迫の関心ポイントを特定するステップ、
II.血管内超音波(IVUS)カテーテルを用いて、1または複数の静脈圧迫(VC)領域を確認するステップ、
III.IVUSを用いて、静脈圧迫の近位および遠位の正常血管領域または圧迫を特定するステップ、
IV.静脈ステントをIVUSカテーテルと同軸に配置するステップ、
V.IVUSとX線透視を用いて静脈ステントの位置を確認するステップ、および
VI.静脈ステントを静脈内腔に置くことにより、静脈圧迫を治療するステップ、を含む方法を提供する。
【0129】
特定の実施態様において、本発明は、共軸血管内超音波を用いて、静脈圧迫を治療するためのデバイスであって、
I.静脈ステント(自己拡張型)と、
II.デリバリーカテーテルにあらかじめ搭載され、IVUSカテーテルを通すことができ、かつ、ガイドワイヤを通すことができるようなされたことと、を含むデバイスを提供する。
【0130】
具体的な実施態様において、本発明は、ガイドワイヤを通してもよい少なくとも片側のLCSのエリア近傍に、少なくとも1つのHCSのエリアを有する自己拡張型静脈ステントを提供する。
【0131】
具体的な実施態様において、本発明は、IVUSカテーテル及びガイドワイヤを共軸システムとして通してもよい少なくとも片側のLCSのエリア近傍に、より少なくとも1つのHCSエリアを有する自己拡張型静脈ステントを提供する。この場合、共軸システムの自己拡張型静脈ステント送達IVUSカテーテルおよびガイドワイヤはいずれも摺動自在に配置され、IVUSカテーテルが治療対象の静脈の第1の位置で静止される一方、静脈ステントは第2の位置で摺動自在である。このシステムは、IVUS及び静脈ステントの両方の透視同定を可能にし、かつIVUSカテーテルが同軸位置にある間、ステントカテーテルを通した造影剤の注入を可能にする。
【0132】
図20は、腸骨大静脈領域でのステント留置状態を示すために、上述の要素をまとめたものである。
図20に例示するステント200は、単一のステント、あるいは、複数の隣接または接合されたステントのいずれかを含む。
図20のステントの部分に対応する腸骨大静脈領域の異なる血管を、それぞれ括弧で示す。血管間の移行を点線でステント上に示す。
【0133】
図20のステントは、3つのセクションを含む:IVCおよびCIVでの設置のための第1セクション202、CIVおよびEIVでの設置のための第2セクション204、ならびにEIVおよび大腿静脈(CFV)での設置のための第3セクション206。第1セクションおよび第2セクションの半分は、ステントの上端で高圧迫の区域を形成する。これは、EIVおよびCFVでの設置のために、第2セクションの残り半分および第3セクションにおける低圧迫の区域へと移行する。以上のように、IVCおよびCIVにおける圧迫抵抗、EIVにおけるねじれ抵抗と柔軟性、ならびにCFVの動きを妨げないような柔軟性を有するステント構造を実施する必要があり、これは、長さに沿って異なる地点で基部ステントの特性が変化するように、追加の編みフィラメントを使用することによって達成される。
【0134】
IVCのための高いラジアルフォースは、ステントの基本の編みに追加の編みフィラメント208を織り込むことによって、第1セクションで達成される。CIVの領域で必要とされる圧縮抵抗は、追加の編みフィラメント208を有する第1セクション202の先細りの部分と、よりきつい織りを有する、追加の編みフィラメント208が組み合わされた第2セクション204の前半分とにより達成される。
【0135】
追加のブレードフィラメント208が、第2セクション204に沿って経路の一部のみで延びることにより、第2セクション204の特性が変化し、その結果、第2セクション204の後半分がEIVに適することになる。したがって、EIVに対するねじれ抵抗性および柔軟性は、第2セクション204のきつい織りを用いて達成される。第3セクション206の前半分もEIVに適しており、織りはより緩いが、柔軟性はより高い。最後に、第3セクション206の一端はまた、よりゆるい織りとより小さい直径を有しており、圧縮に対して特に弾力性があり破折率が低い、すなわち、CFVに適している。
【0136】
ステントは柔軟性を改善するために、長さ方向に沿って、編みニチノールから形成される。
【0137】
また、図示されているようにステントは下端に向かって漸減し、血管の直径に一致する。通常、
図10に示すように、IVC、すなわち上端でのステントの直径は18~24mmである。直径は、
図10に示す値に従い、ステントの長さに沿って漸減し、CFVに留置されることになる下端部では、ステントの直径は約12~14mmとなる。
【0138】
図21に、動脈と静脈が近接するCFVおよびEIVに使用するステント210の例を示す。ここでは、動脈と静脈が近接している。これにより、血管のこの部分をAVシャントの形成に非常に適したものにすることができる。上述のように、シャントの形成はステントに開口を設けることによって行うことができる。さらに、あるいは、流入ブースタートラクト212をステント内に設けて、AVシャントの形成を助けてもよい。トラクトは、ダクロンのような透過性の材料からなる。
【0139】
図22は、静脈(図示せず)内に配置された
図21のステント210を示す。トラクト212は、動脈214に面してシャントが形成できる方向に向けられている。いったんAVシャントが形成されると、矢印で示すように、血液がトラクトを介して動脈から静脈に流れ込む。
【実施例】
【0140】
実施例1-血管うっ血の指標としてのサイトカインバイオマーカーの使用
一側性の圧迫帯膨張を用い、静脈狭窄の程度を変えて、透析で実施された試験(欧州ハートジャーナル、第35巻第7号、2014年2月14日、448~454頁)では、同じ患者において、シャントのある腕とシャントのない腕でのサイトカイン(具体的には、血漿インターロイキン-5、エンドセリン-1、アンジオテンシンII、血管細胞接着モデルおよびケモキンリガンド)のレベルを検討した。狭窄のないシャントのある腕を、シャントのない腕と比較した場合、測定されたサイトカインレベルに差があることが分かった。サイトカインレベルに差はなかった。患者が様々な程度で狭窄を発症し始めると、サイトカインの差は変化し始めた。シャントのある腕は、シャントのない腕より高レベルのサイトカインを示した。
【0141】
経時的に測定された循環サイトカインのレベルは、非特異的バイオマーカーとなる(他の因子がサイトカインレベルを上昇させる可能性がある)ことが示された。圧迫された腸骨セグメントの存在/発達を探すためには、さらなる評価が必要といえる。
【0142】
実施例2-腸骨大静脈領域の閉塞を伴う高血圧患者の臨床像
図3(a)および
図3(b)は、骨盤領域を別の角度から示す図である。骨盤はいくつかの血管とつながっている。内腸骨動脈と外腸骨動脈はともに仙腸関節に始まり、腸骨接合部で会合する。静脈系は、後方にある間は、前方の動脈系とほぼ同一の経路をたどることがわかる。静脈系は、脱酸素化された血液を流し、心臓に戻す役割を担っている。図示されているように、大腿静脈は鼠径靭帯の下で交差すると、外腸骨静脈になる。静脈は外腸骨動脈の医学的側面に沿って走り、次いで内腸骨静脈と合流して総腸骨静脈を形成する。骨盤領域の静脈還流の大部分は、内腸骨静脈を介して行われる。静脈は、閉鎖静脈、膀胱静脈および殿静脈を含むが、これらに限定されない多数の支脈からの血液を受ける。
【0143】
人体は、酸素化された血を心臓(動脈)から運び出し、再び心臓に戻して肺(静脈)で再度血液を酸素化する一連の血管を有する。この回路をめぐる血液の流れは、血圧調節システムを介して制御され、これにより、血液は、回路の再充満には、高圧(LV/Aorta:正常120/80mmHg)から低圧(RA:12/0mmHg)へと圧力勾配曲線を下降する。
図4から、脈圧は収縮期圧と拡張期圧の差であることが分かる。血管内圧は交感神経緊張の維持を介して調節される。交感神経の調節とは、動脈系の筋線維を活性化させて、血管拡張と能動的収縮を可能にし、これらの動脈緊張と圧較差を維持することにより、血流を促進することである。一方、静脈容量と緊張はいずれも、交感神経介在の静脈平滑筋細胞により調節される。収縮が起こると容量は減少し、静脈圧は上昇する。さらに、静脈は、静水圧勾配による血流依存性血の逆流を防止するために、一連の弁を有する。
【0144】
患者は、身長170cm、体重88kgの65歳の白人男性である。患者の血圧は142/72と記録されており、外来時血圧は137/74であった。患者は、1995年から高血圧、2010年から発作性心房細動(PAF)を患い、2013年にアブレーション療法を受けている。2014年から左上肢に疼痛があったが診断は得られず、2012年から高コレステロール血症が見られていた。血圧管理のため、インダパミド(2.5mg)、オルメサルタン(10mg)およびフェロジピン(10mg)の3種類の降圧薬を処方した。しかし、患者の状態は内科的治療に不応のままであった。
【0145】
図5に示すMRI画像は、患者が、外腸骨静脈(EIV)の60%を超える部分で、外腸骨動脈(EIA)と内腸骨動脈(IIA)による圧迫を受けていたことを示す。この圧迫は過去に診断されていなかった。患者が経験した高血圧の症状を軽減するために、この圧迫に対処する治療を提案する。
【国際調査報告】