(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(54)【発明の名称】高シアル酸含量を有し、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインを含むポリペプチド二量体及び同ポリペプチド二量体を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220906BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220906BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220906BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220906BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220906BHJP
C07K 14/735 20060101ALI20220906BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220906BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220906BHJP
A61P 27/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20220906BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220906BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220906BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220906BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220906BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C07K19/00
C07K16/00
C07K14/735
A61P37/08
A61P11/00
A61P27/02
A61P27/00
A61P17/04
A61P17/00
A61K9/70 401
A61K38/02
A61K38/16
A61K39/395 Y
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575270
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(85)【翻訳文提出日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 KR2020008855
(87)【国際公開番号】W WO2021006599
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】10-2019-0082217
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521550909
【氏名又は名称】ジーアイ イノベーション, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GI INNOVATION, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, ミョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ボ‐ギー
(72)【発明者】
【氏名】リー, キョンファ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA72
4C076CC03
4C076CC10
4C076CC15
4C076CC18
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA22
4C084CA59
4C084MA63
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA341
4C084ZA342
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB131
4C084ZB132
4C085AA33
4C085BB34
4C085BB42
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA53
4H045CA42
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、高含量のシアル酸を有する改変されたIgE Fc受容体及び同受容体を含む医薬組成物に関する。本発明による高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、従来使用されている抗IgE抗体と比較して、身体での優れた安全性及び持続性を有するだけでなく、非常に強くIgEに結合もし、投与サイクル延長の利点を有する。加えて、本発明による高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、IgE単独標的物質であり、IgG1のFcが適用される従来の抗IgE抗体と異なり、Fcガンマ受容体に結合しない。したがって、肥満細胞の表面のFcガンマ受容体に結合することによって引き起こされるメディエーターの放出を阻害することができ、その結果、重篤な副作用を最小限にすることができる。加えて、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、皮下投与の場合でさえ血液中に高濃度を維持することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体であって、
2つの単量体を含み、その各々が、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIα-ECD)を含有し、
前記単量体が、Fc領域を含有し、
前記Fc領域及び前記FcεRIα-ECDが、ヒンジを介して連結し、
前記高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比が少なくとも8である、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項2】
前記IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインが、配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項3】
前記Fc領域が、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項4】
前記ヒンジが、免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域である、請求項1に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項5】
前記シアル酸がN-アセチルノイラミン酸である、請求項1に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項6】
前記ポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比が、少なくとも10である、請求項1に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項7】
前記ポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比が、12~25である、請求項6に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項8】
免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来する前記ヒンジ領域が、少なくとも1つのシステインを含有する、請求項4に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項9】
免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来する前記ヒンジ領域が、
Arg Asn Thr Gly Arg Gly Gly Glu Glu Lys Lys Xaa1 Xaa2 Lys Glu Lys Glu Glu Gln Glu Glu Arg Glu Thr Lys Thr Pro Glu Cys Pro(配列番号17)であり、
Xaa1が、Lys又はGlyであり、
Xaa2が、Glu、Gly、又はSerである;又は
Ala Gln Pro Gln Ala Glu Gly Ser Leu Ala Lys Ala Thr Thr Ala Pro Ala Thr Thr Arg Asn Thr Gly Arg Gly Gly Glu Glu Lys Lys Xaa3 Xaa4 Lys Glu Lys Glu Glu Gln Glu Glu Arg Glu Thr Lys Thr Pro Glu Cys Pro(配列番号18)であり、
Xaa3が、Lys又はGlyであり、
Xaa4が、Glu、Gly、又はSerである、請求項4に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項10】
免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来する前記ヒンジ領域が、配列番号3、配列番号4、及び配列番号19からなる群から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体を含む、アレルギー性疾患を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項12】
皮下注射用である、請求項11に記載のアレルギー性疾患を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項13】
前記アレルギー性疾患が、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性皮膚炎、慢性特発性蕁麻疹、及びアレルギー性接触皮膚炎からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項11に記載のアレルギー性疾患を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項14】
請求項11に記載の医薬組成物を含む経皮パッチ。
【請求項15】
請求項11に記載の医薬組成物を含む局所パッチ。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体を含む、アレルギー性症状を改善又は軽減するための食品組成物。
【請求項17】
アレルギー性疾患を予防又は治療するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgE Fc受容体を含み、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体及び同ポリペプチド二量体を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会は工業化され、食習慣は西洋化されているので、喘息を含む、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、及び食物アレルギーなどのアレルギー性疾患の発生率が増加している。重篤なアレルギー性疾患であるアナフィラキシーの発生も増加している。これらの慢性免疫疾患は、個人の生活の質を著しく損ない、それに応じて社会経済的コストが急増している。したがって、そのような疾患を克服する手段が、切望されている。
【0003】
ほとんどのアレルギー性疾患は、免疫グロブリンE(IgE)の過度の免疫応答によって引き起こされる。IgEは、通常状態下で非常に低い濃度で血液中に存在する抗体である。IgEは、無害な抗原によっても通常産生される。IgEの数が、任意の特別の刺激なく増加する場合がある。そのような場合に、アレルギー性疾患が導かれる可能性がある。異常に増加した数のIgEが、肥満細胞、好塩基球などの表面に発現される高親和性IgE Fc受容体(FcεRIs)に結合できる。そのような結合は、ヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジン、ブラジキニン、及び血小板活性化因子などの化学メディエーターの放出を、肥満細胞又は好塩基球に引き起こさせる。これらの化学メディエーターの放出は、アレルギー性症状をもたらす。特に、アレルギー性疾患は、IgEとFcεRIとの間の結合に起因する症状の悪化を示す可能性がある。加えて、FcεRI発現細胞は、アレルギー患者において増加することが知られている。
【0004】
現在、アレルギー性疾患を治療するために、アレルゲンの回避、抗アレルギー薬の投与、身体におけるIgE合成の調節、及び抗IgE抗体の開発など、様々な方法が提案されている。しかしながら、薬の有効性が不十分である、及び深刻な副作用が発生するなど、多くの欠点がなお存在している。最近、IgE及びFcγRIIbに対して高親和性で結合することができ、膜にアンカーしたIgEを発現する細胞を阻害することができる組成物が研究されてきた。この組成物は、アレルギー及び喘息を含むIgE媒介疾患の治療に有用であると報告されている(KR10-1783272B)。
【0005】
特に、IgE抗体のFc部分を標的とするオマリズマブ(商品名:ゾレア(Xolair))は、難治性の重症喘息及び難治性蕁麻疹の治療剤として開発され、使用されている。しかしながら、治療効果を維持するためのオマリズマブの高用量投与は、高いコスト負担、血管浮腫及びアナフィラキシー反応などの副作用を導く(The Journal of Clinical Investigation Volume 99、Number 5、March 1997、915-925)。加えて、市販後の結果から、アレルギー性肉芽腫性血管炎及び特発性重症血小板減少症などの深刻な有害反応が報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明者らは、アレルギー性疾患に対して安全且つ有効な治療剤を開発するために研究を行った。結果として、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインを含む2つの単量体(FcεRIα-ECD)を含むポリペプチド二量体のシアル酸含量が高い場合に、上記ポリペプチド二量体は、IgEに対する優れた結合親和性を有し、血液中で高濃度を維持することが見出された。特に、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体が皮下に投与されたときでさえ、身体への効果的な送達が可能であることが確認されることにより、本発明は完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様では、シアル酸/ポリペプチド二量体のモル比が少なくとも8である、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIα-ECD)を含む2つの単量体を含むポリペプチド二量体が提供される。
【0008】
本発明の別の態様では、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体を含む、アレルギー性疾患を予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0009】
本発明の別の態様では、医薬組成物を含む経皮パッチが提供される。
【0010】
本発明の別の態様では、医薬組成物を含む局所パッチが提供される。
【0011】
本発明の別の態様では、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体を含む、アレルギー性症状を改善又は軽減するための食品組成物が提供される。
【0012】
本発明の別の態様では、アレルギー性疾患を予防又は治療するための、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体の使用が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明による高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、従来使用されている抗IgE抗体と比較して、身体での優れた安全性及び持続性を有するだけでなく、非常に強くIgEに結合もし、投与サイクル延長の利点を有する。加えて、本発明による高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、IgE単独標的物質であり、IgG1のFcが適用される従来の抗IgE抗体と異なり、Fcガンマ受容体に結合しない。したがって、肥満細胞の表面のFcガンマ受容体に結合することによって引き起こされるメディエーターの放出を阻害することができ、その結果、重篤な副作用、例えば、IgG1と肥満細胞のFcガンマ受容体IIIとの間の結合によって引き起こされうる、アナフィラキシーの出現を最小限にすることができる。加えて、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、皮下投与の場合でさえ血液中に高濃度を維持することができる。したがって、本発明による高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、アレルギー性疾患の予防又は治療に有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】SDS-PAGEによって各細胞株において産生されたポリペプチド二量体が確認される結果を示す図である。
【
図2】1つの実施形態によるポリペプチド二量体の非還元型及び還元型についてのSDS-PAGEの結果を示す図である。
【
図3】IgEに対するオマリズマブの結合親和性を示す図である。
【
図4】IgEに対する本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(IgE
TRAP)の結合親和性を示す図である。
【
図5a】IgG Fcガンマ受容体I(FcγRI)に対する本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(IgE
TRAP)又はオマリズマブの結合親和性を示す図である。
【
図5b】IgG Fcガンマ受容体IIA(FcγRIIA)に対する本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(IgE
TRAP)又はオマリズマブの結合親和性を示す図である。
【
図5c】IgG Fcガンマ受容体IIB(FcγRIIB)に対する本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(IgE
TRAP)又はオマリズマブの結合親和性を示す図である。
【
図5d】IgG Fcガンマ受容体IIIA(FcγRIIIA)に対する本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(IgE
TRAP)又はオマリズマブの結合親和性を示す図である。
【
図5e】IgG Fcガンマ受容体IIIB(FcγRIIIB)に対する本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(IgE
TRAP)又はオマリズマブの結合親和性を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(IgE
TRAP)又はオマリズマブとIgG Fcガンマ受容体との間の結合親和性を定量化することによって得られたグラフである。
【
図7】本発明の実施形態によるポリペプチド二量体の濃度に応じたIgEとの結合の程度を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(IgE
TRAP)及びその濃度に応じたゾレア(オマリズマブ)の、ヒトFcεRI発現マウス由来肥満細胞の活性に対する阻害能の間の比較を示す図である。
【
図9】食物アレルギーモデルにおいて下痢の頻度を測定することにより、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体の抗アレルギー効果を確認する図である。
【
図10】本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(SA
low、SA
medi及びSA
high)の非還元型及び還元型についてのSDS-PAGEの結果を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(SA
low、SA
medi及びSA
high)の等電点を確認する図である。
【
図12】食物アレルギーモデルにおいて下痢の頻度を測定することにより、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(SA
low及びSA
high)の皮下注射の抗アレルギー効果を確認する図である。
【
図13】食物アレルギーモデルにおいて血液中のIgE濃度を測定することにより、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(SA
low及びSA
high)の抗アレルギー効果を確認する図である。
【
図14】食物アレルギーモデルにおいて血液中のMCPT-1濃度を測定することにより、1つの実施形態によるポリペプチド二量体(SA
low及びSA
high)の抗アレルギー効果を確認する図である。
【
図15】1つの実施形態によるポリペプチド二量体のマウスモデルにおけるシアル酸含量に応じた、薬物動態プロファイルの分析の結果を示す図である。
【
図16】受動全身アナフィラキシーマウスモデルにおいて体温を測定することにより、シアル酸含量に応じた1つの実施形態によるポリペプチド二量体の抗アレルギー効果を確認する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の1つの態様では、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIα-ECD)を含む2つの単量体を含み、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体が提供され、単量体がFc領域を含み、Fc領域及びFcεRIα-ECDが、ヒンジを介して連結し、ポリペプチド二量体はシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比が少なくとも8であることを特徴とする。
【0016】
本明細書で使用される、「IgE」という用語は、免疫グロブリンEとして知られる抗体を意味する。IgEは、肥満細胞、好塩基球などに対して親和性を有する。加えて、IgEとそれに対応する抗原(アレルゲン)との間の反応は炎症性反応を引き起こす。加えて、IgEはアナフィラキシーの主要な原因であることが知られている。
【0017】
本明細書で使用される、「IgE Fc受容体」という用語は、Fcε受容体とも称され、IgEのFc部分に結合する受容体を示す。受容体には2つのタイプがある。IgE Fcに対して高親和性を有する受容体は、Fcε受容体I(FcεRI)と称される。IgE Fcに対して低親和性を有する受容体は、Fcε受容体II(FcεRII)と称される。FcεRIは、肥満細胞及び好塩基球で発現される。FcεRIに結合したIgE抗体が多価抗原で架橋される場合、肥満細胞及び好塩基球で脱顆粒が起こり、それによってヒスタミンを含む様々な化学伝達物質が放出される。この放出は、即時型アレルギー反応を導く。
【0018】
FcεRIは、ジスルフィド結合によって連結された1つのα鎖、1つのβ鎖、及び2つのγ鎖で構成される膜タンパク質である。これらの鎖のうち、IgEが結合する部分は、α鎖(FcεRIα)である。FcεRIαは、約60kDaのサイズであり、細胞膜の内側に存在する疎水性ドメイン及び細胞膜の外側に存在する親水性ドメインで構成される。特に、IgEは、α鎖の細胞外ドメインに結合する。FcεRIαは、IgE Fc受容体のアルファサブユニットとして互換的に使用することができる。
【0019】
具体的には、IgE Fc受容体のアルファサブユニットは、NP_001992.1に記載のアミノ酸配列を有していてもよい。加えて、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIα-ECD)は、配列番号1のアミノ酸配列を有していてもよい。FcεRIα-ECDは、フラグメント又はバリアントがIgEに結合することができる限り、FcεRIα-ECDのフラグメント又はバリアントであってもよい。加えて、配列番号1のFcεRIα-ECDは、配列番号5の配列を有するポリヌクレオチドによってコードされてもよい。
【0020】
バリアントは、方法がFcεRIα-ECDの機能を変更しない限り、野生型FcεRIα-ECDにおいて1つ又は複数のアミノ酸を置換、欠失、又は追加する方法によって、調製することができる。このようなバリアントは、配列番号1のアミノ酸配列と、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上同一であってもよい。
【0021】
Fc領域は、野生型Fc領域又は改変されたFc領域であってもよい。加えて、本明細書で使用される、「改変されたFc領域」という用語は、抗体のFc部分の一部が改変されている領域を意味する。Fc領域は、免疫グロブリンの重鎖定常領域2(CH2)及び重鎖定常領域3(CH3)を含有し、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域並びに軽鎖定常領域1(CH1)を含有しない、タンパク質を意味する。特に、改変されたFc領域は、Fc領域の一部のアミノ酸を置換するか、又は異なるタイプのFc領域を組み合わせることによって得られてもよい。具体的には、改変されたFc領域は、配列番号2のアミノ酸配列を有してもよい。加えて、配列番号2の改変されたFc領域は、配列番号6の配列を有するポリヌクレオチドによってコードされてもよい。
【0022】
加えて、改変されたFc領域は、天然形態の糖鎖であってもよい又は天然形態と比較して糖鎖が増加してもよい。免疫グロブリンFc糖鎖は、化学的方法、酵素的方法、及び微生物を用いる遺伝子工学的方法などの従来の方法によって改変することができる。
加えて、改変されたFc領域は、Fcガンマ受容体(FcγR)又は補体成分1q(C1q)に対する結合部位がないことに起因して抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性細胞傷害(CDC)機能を欠く領域であってもよい。
【0023】
ある実施形態では、改変されたFc領域及びFcεRIα-ECDは、IgDのヒンジを介して連結してもよい。ヒンジは、免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域であってもよい。天然のIgDのヒンジ領域は、64個のアミノ酸で構成される。免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域は、20~60個の連続的なアミノ酸、25~50個の連続的なアミノ酸、又は30~40個のアミノ酸で構成されてもよい。ヒンジバリアントは、タンパク質産生プロセス中にトランケート型の発生を最小化するために、IgDのヒンジ領域のアミノ酸配列の一部を改変することによって得てもよい。
【0024】
ある実施形態では、免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域は、30又は49個のアミノ酸で構成されてもよい。加えて、免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域は、少なくとも1つのシステインを含有してもよい。
ある実施形態では、免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域は、以下の配列:
Arg Asn Thr Gly Arg Gly Gly Glu Glu Lys Lys Xaa1 Xaa2 Lys Glu Lys Glu Glu Gln Glu Glu Arg Glu Thr Lys Thr Pro Glu Cys Pro(配列番号17)を含有してもよく、Xaa1は、Lys又はGlyであってもよく、Xaa2は、Glu、Gly、又はSerであってもよい。具体的には、免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域は、配列番号3又は配列番号19のアミノ酸配列を有していてもよく、それによって、タンパク質産生プロセス中にトランケート型の発生を最小化する。
【0025】
別の実施形態では、免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域は、以下の配列:
Ala Gln Pro Gln Ala Glu Gly Ser Leu Ala Lys Ala Thr Thr Ala Pro Ala Thr Thr Arg Asn Thr Gly Arg Gly Gly Glu Glu Lys Lys Xaa3 Xaa4 Lys Glu Lys Glu Glu Gln Glu Glu Arg Glu Thr Lys Thr Pro Glu Cys Pro(配列番号18)を含有してもよく、Xaa3は、Lys又はGlyであってもよく、Xaa4は、Glu、Gly、又はSerであってもよい。具体的には、免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域は、配列番号4のアミノ酸配列を有していてもよく、それによって、タンパク質産生プロセス中にトランケート型の発生を最小化する。
【0026】
特に、配列番号4の配列を有する免疫グロブリンIgD又はそのバリアントに由来するヒンジ領域では、少なくとも1つのThrがグリコシル化されてもよい。具体的には、配列番号18のアミノ酸のうち、13番目、14番目、18番目、又は19番目のThrが、グリコシル化されてもよい。全ての4つのThrが、グリコシル化されうることが好ましい。グリコシル化は、O-グリコシル化であってもよい。
【0027】
糖タンパク質医薬品に付着している糖鎖は、品質を決定する主な因子の1つであり、治療有効性、身体での持続性、ターゲティング及び免疫応答などに重要な役割を果たしている。糖鎖の端がシアル酸で終結されていないポリペプチド二量体は、身体から即座に除去されることが確認された。
【0028】
本発明に使用される「シアル酸」という用語は、以下の式1のN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)及び以下の式2のN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を含み得る。
【0029】
【0030】
この場合、1つの実施形態では、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、高含量のN-アセチルノイラミン酸を有してもよい。
【0031】
加えて、ポリペプチド二量体のシアル酸の含量は、精製方法によって増加されうる。加えて、ポリペプチド二量体のシアル酸の含量は、シアル酸トランスフェラーゼ遺伝子が導入される細胞においてポリペプチド二量体を産生させることによって増加されうる。
【0032】
高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、シアル酸/ポリペプチド二量体のモル比が8又はそれ以上であることを特徴としてもよい。例えば、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比は、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30であってもよい。好ましくは、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25であってもよい。
【0033】
ある実施形態では、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比は、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、又は少なくとも21であってもよい。加えて、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比は、8~30又は12~25であってもよい。加えて、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比は、10~25、11~24又は12~23であってもよい。また、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体中のシアル酸/ポリペプチド二量体のモル比は、13~22、14~22、15~22、16~22、17~22、18~22、又は19~22であってもよい。シアル酸は、N-アセチルノイラミン酸であってもよい。
【0034】
加えて、シアル酸は、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIα-ECD)を含む単量体における8位及びFc領域に結合することができる。この場合、シアル酸は、上記位置の少なくとも4又はそれ以上に結合することができる。具体的には、シアル酸は、単量体における4、5、6、7又は8位に結合することができる。
【0035】
上記の通り、本発明によって提供される高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、2つの単量体が互いに結合し、各単量体がIgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインと改変されたFc領域との間の結合によって得られる形態であってもよい。高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、同じ2つの単量体が、ヒンジ部位に配置されるシステインによって互いに結合している形態であってもよい。加えて、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、2つの異なる単量体が、互いに結合している形態であってもよい。
【0036】
この場合、各ポリペプチド単量体は、シアル酸を同じ位置に含んでいてもよいが、シアル酸を異なる位置に含んでいてもよい。加えて、シアル酸/ポリペプチド二量体のモル比が8又はそれ以上である場合、二量体を構成する各単量体が異なるモル比のシアル酸/ポリペプチドを有していてもよい。
【0037】
加えて、ポリペプチド二量体は、互いに異なる2つの単量体を含有してもよい。具体的には、1つの単量体が、IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインを含有してもよく、他の単量体がIgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメインのフラグメントを含有する形態であってもよい。単量体の実施形態は、配列番号20、配列番号21、又は配列番号22によって表されるアミノ酸配列で構成されてもよい。
【0038】
加えて、本発明によって提供される高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、オマリズマブ(抗IgE抗体)より10~100倍、20~90倍、20~70倍、30~70倍、又は40~70倍高い、IgEに対する結合親和性を示し、オマリズマブより約70倍高い、IgEに対する結合親和性を示しうることが好ましい。
【0039】
本発明の別の態様では、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体を含む、アレルギー性疾患を予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0040】
ポリペプチド二量体は、上記と同じである。特に、医薬組成物は、皮下注射用であることを特徴としてもよい。高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体が、皮下注射の際に、低含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体と比較して、アレルギー性疾患の治療及び/又は予防に有効であることが確認された。
【0041】
本明細書で使用される、「アレルギー性疾患」という用語は、肥満細胞の脱顆粒などの肥満細胞の活性化により媒介されるアレルギー反応によって引き起こされる病理学的な症状を意味する。例えば、そのようなアレルギー性疾患は、それに限定されないが、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性皮膚炎、慢性特発性蕁麻疹、及びアレルギー性接触皮膚炎からなる群から選択されるものであってもよい。特に、アレルギー性疾患は、IgE媒介性であってもよい。
【0042】
医薬組成物では、ポリペプチド二量体は、使用、製剤、配合目的などに応じて、ポリペプチド二量体が抗アレルギー活性を示し得る限り、任意の量(有効量)で含有されうる。ポリペプチド二量体の典型的な有効量は、組成物の総重量に基づいて、0.001重量%~20.0重量%の範囲内で決定される。「有効量」は、抗アレルギー効果を誘導できる量を意味する。そのような有効量は、当業者が決定することができる。
【0043】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含有してもよい。具体的には、医薬組成物は、薬学的に許容される担体を含有し、当技術分野で公知の従来の方法によって投与経路に応じて経口又は非経口製剤に作られ得る。
【0044】
本発明の医薬組成物が経口製剤に作られる場合では、医薬組成物は、当技術分野で公知の従来の方法によって、製剤、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、懸濁剤、及びウエハー剤に、適切な担体と一緒に、作られ得る。適切な薬学的に許容される担体の例には、ラクトース、グルコース、スクロース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、及びキシリトールなどの糖、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、及び小麦デンプンなどのデンプン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、ステアリン酸マグネシウム、鉱油、麦芽、ゼラチン、タルク、ポリオール、植物油などが含まれ得る。調製物に作られる場合では、調製は、必要に応じて、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、及び界面活性剤などの、希釈剤及び/又は賦形剤を含ませることにより実行することができる。
【0045】
本発明の医薬組成物が非経口製剤に作られる場合では、医薬組成物は、当技術分野で公知の従来の方法によって、注射剤、経皮剤、経鼻吸入剤、及び坐剤の形態の調製物に、適切な担体と一緒に、作られ得る。注射剤に調製される場合では、滅菌水、エタノール、ポリオール、例えば、グリセロール及びプロピレングリコール、又はその混合物は、適切な担体として使用してもよい。担体に関して、等張液、例えば、リンゲル溶液、トリエタノールアミン含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、注射用滅菌水、及び5%デキストロースなどが、使用しうることが好ましい。
【0046】
医薬組成物の調製は、当技術分野で公知であり、具体的には、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.、1995)などを参照することができる。
【0047】
本発明の医薬組成物の好ましい1日投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢、疾患の重症度、又は投与経路に応じて、0.01μg/kg~10g/kgの範囲であり、0.01mg/kg~1g/kgの範囲であることが好ましい。医薬組成物は、1日1回又は投与量が高い場合には1日数回投与されてもよい。
【0048】
本発明の組成物を適用(処方)することができる対象は、哺乳動物であり、例えば、ヒト、イヌ及びネコであってもよく、ヒトが特に好ましいが、それに限定されない。医薬組成物は、抗アレルギー活性を高め且つ強化する目的で、安全性が既に確認されており、抗アレルギー活性を有することが知られている、任意の化合物又は天然抽出物をさらに含んでもよい。
【0049】
本発明者らは、アレルギー性疾患に対して安全且つ有効な治療剤を開発するために研究を行った。結果として、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体が、低含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体と比較して、IgEとの優れた結合親和性を有することが確認された(表3)。加えて、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体が、アレルギー性疾患を患う対象に対して皮下に投与される場合、血液中のIgE及びMCPT-1の濃度が、低含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体と比較して、効果的に減少し、効果が規定時間を経過した後でさえ存続することが確認された(
図13及び14)。
【0050】
したがって、本発明の別の態様では、医薬組成物を含む、経皮パッチが提供される。加えて、本発明の別の態様では、医薬組成物を含む、局所パッチが提供される。
【0051】
本発明の別の態様では、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体を含む、アレルギー性症状を改善又は軽減するための食品組成物が提供される。
【0052】
高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、上記と同じである。加えて、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、腸への効率的な送達のための適切な送達手段に結合してもよい。
【0053】
加えて、食品組成物は、任意の形態で調製されてもよく、例えば、飲料、例えば、茶、ジュース、炭酸飲料、及びイオン飲料、加工乳製品、例えば、ミルク及びヨーグルト、健康機能性食品調製物、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、液剤、散剤、フレーク、ペースト、シロップ剤、ゲル剤、ゼリー剤、及びバー(bar)などの形態で調製されてもよい。
【0054】
食品組成物は、製造及び流通された時点で施行規則に準拠する限り、法的又は機能的分類における任意の製品カテゴリーの範囲に入りうる。例えば、食品組成物は、健康機能性食品法による健康機能性食品であってもよい、又は食品衛生法(食品医薬品局から通知される食品の規格及び仕様)の食品コードにおける各食品のタイプに従って、菓子、豆、茶、飲料、特定用途食品などの範囲に入りうる。本発明の食品組成物に含有されうる他の食品添加物に関しては、食品衛生法による食品コード又は食品添加物コードを参照することができる。
【0055】
本発明の別の態様では、対象に、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体を投与するステップを含む、アレルギー性疾患を治療又は予防するための方法が提供される。高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体は、上記と同じである。
【0056】
対象は、哺乳動物であってもよく、ヒト、イヌ及びネコであることが好ましい。投与は、経口的又は非経口的に達成されてもよい。非経口投与は、皮下投与、静脈内投与、粘膜投与、及び筋肉投与などの方法により行ってもよい。
【0057】
アレルギー性疾患は、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性皮膚炎、慢性特発性蕁麻疹、及びアレルギー性接触皮膚炎からなる群から選択されるものであってもよい。
【0058】
本発明の別の態様では、アレルギー性疾患を予防又は治療するための、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体の使用が提供される。
【0059】
以下、本発明を以下の実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、本発明を例示することのみを意図しており、本発明の範囲はそれらのみに限定されない。
【0060】
実施例1 FcεRIα-ECD及びFc領域を含有するポリペプチドの調製
IgE Fc受容体のアルファサブユニットの細胞外ドメイン(FcεRIα-ECD)のC末端改変ポリペプチドを、米国特許第7,867,491号に開示された方法に従って調製した。
【0061】
第一に、タンパク質(FcεRIαECD-Fc1)、タンパク質(FcεRIαECD-Fc2)、及びタンパク質(FcεRIαECD-Fc3)を発現するために(配列番号1のアミノ酸配列を有するFcεRIのα鎖の細胞外ドメイン及び配列番号2の改変された免疫グロブリンFcが、それぞれ、配列番号19のヒンジ、配列番号3のヒンジ、及び配列番号4のヒンジを介して連結される)、各タンパク質をコードする遺伝子を連結することによって得られるカセットをpAD15ベクター(Genexin,Inc.)にクローン化して、FcεRIαECD-Fcタンパク質発現ベクターを構築した。次に、各々の発現ベクターを、CHO DG44細胞(米国のコロンビア大学のChasin博士から)に形質導入した。
【0062】
細胞株に形質導入される時点で、α-2,6-シアル酸トランスフェラーゼ遺伝子をpCI Hygroベクター(Invitrogen)にクローン化することによって得られた発現ベクターを、同時に形質導入して、FcεRIαECD-Fc2ST及びFcεRIαECD-Fc3STタンパク質を発現する能力がある細胞株を別々に調製し、これにシアル酸を加える。
【0063】
一次スクリーニング手順として、HT選択を、5-ヒドロキシトリプタミン(HT)-フリー10%dFBS培地(Gibco、USA、30067-334)、MEMα培地(Gibco、12561、USA、カタログ番号12561-049)、及びHT+培地(Gibco、USA、11067-030)を用いて実行した。次に、メトトレキセート(MTX)増幅をHT選択クローンを用いて行って、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)システムを用いて生産性を増幅した。
【0064】
MTX増幅の完了後、生産性の評価を目的として、細胞安定化のために約1~5回継代培養を実行した。その後、MTX増幅細胞の単位生産性評価を行った。結果を以下の表1に示す。
【0065】
【0066】
表1に示されるように、FcεRIαECD-Fc3細胞株は、2uMでのメトトレキセート増幅後に16.9μg/106細胞の生産性を示した。他方、2,6-シアル酸トランスフェラーゼで同時形質導入したFcεRIαECD-Fc3細胞株(FcεRIαECD-Fc3ST)は、1uMでのメトトレキセート増幅後に10.2μg/106細胞の生産性を示した。加えて、FcεRIαECD-Fc2細胞株は、0.5uMでのメトトレキセート増幅条件下で20.9μg/106細胞の生産性を示した。加えて、2,6-シアル酸トランスフェラーゼで同時形質導入したFcεRIαECD-Fc2細胞株(FcεRIαECD-Fc2ST)は、0.1uMでのメトトレキセート増幅後に25.1μg/106細胞の生産性を示した。すなわち、2,6-シアル酸トランスフェラーゼで同時形質導入したFcεRIαECD-Fc2細胞株(0.1uMでのメトトレキセート増幅条件下で選択された)は、最も優れた生産性を示すことが特定された。
【0067】
FcεRIαECD-Fc2細胞株から産生されたポリペプチド(FcεRIαECD-Fc)は、「FcεRIαECD-Fc2」と称され、FcεRIαECD-Fc2+a2,6-ST細胞株から産生されたポリペプチドは、「FcεRIαECD-Fc2ST」と称される。加えて、FcεRIαECD-Fc3細胞株から産生されたポリペプチドは、「FcεRIαECD-Fc3」と称され、FcεRIαECD-Fc3+a2,6-ST細胞株から産生されたポリペプチドは、「FcεRIαECD-Fc3ST」と称される。
【0068】
実施例2 ポリペプチド(FcεRIαECD-Fc)の精製及び純度の確認
上記実施例1で選択された細胞株のうち、i)FcεRIαECD-Fc3細胞株、ii)FcεRIαECD-Fc3+a2,6-ST細胞株、及びiii)FcεRIαECD-Fc2+a2,6-ST細胞株を、回分培養法によって、60mlスケールで培養した。生じた培養物を、プロテインAアフィニティーカラムを用いて精製してFcεRIαECD-Fcを得て、次に精製されたFcεRIα ECD-FcをSE-HPLC(サイズ排除高速液体クロマトグラフィー)及びSDS-PAGEに付してポリペプチドの純度を特定した。
【0069】
具体的には、SDS-PAGEを、非還元条件下で行った。非還元条件下、各精製されたポリペプチドを、非還元サンプル緩衝液と混合し、次に電気泳動を、30分間、ミニプロティアンTGX(商標)ゲル(Mini-Protean TGX
TM gel)(Bio-Rad)でTGS(TrisグリシンSDS)緩衝液中、200V条件下で行った。電気泳動後、タンパク質をクーマシーブリリアントブルー溶液で染色した。結果を以下の表2及び
図1に示す:
【0070】
【0071】
上記表2に示すように、SE-HPLC法によって精製された各ポリペプチドの純度が93%又はそれ以上であることが確認された。不純物、例えば、トランケート型が非還元条件において出現しないこと及び特に解凍/凍結プロセスの後でさえ純度が93%又はそれ以上であり、不純物がないことが確認された。
【0072】
実験例1 ポリペプチド(FcεRIαECD-Fc)の二量体形成の確認
上記実施例1で選択された細胞株のうち、i)FcεRIαECD-Fc3細胞株、ii)FcεRIαECD-Fc3+a2,6-ST細胞株、及びiii)FcεRIαECD-Fc2+a2,6-ST細胞株を、回分培養法によって60mlスケールで培養した。その後、SE-HPLC及びSDS-PAGEを、培養上清及びプロテインAアフィニティーカラムを用いてポリペプチドの精製から得た精製された産物で行った。この場合、それらを、培養上清並びにそれぞれ非還元条件及び還元条件下で精製された産物で行った。
【0073】
非還元条件を実施例2と同じ様式で行った。他方、還元条件下、各精製されたポリペプチドを、2-メルカプトエタノールを含む還元サンプル緩衝液と混合し、次に100℃の温度で5分間変性した。その後、電気泳動を、ミニプロティアンTGX(商標)ゲル(Bio-Rad)においてTGS緩衝液を用いて200V条件下で30分間行った。電気泳動後、タンパク質を、クーマシーブリリアントブルー溶液で染色した。
【0074】
結果として、約150kDaのサイズを有するポリペプチドを非還元条件下で検出し、約75kDaのサイズを有するポリペプチドを還元条件下で検出した。これにより、ポリペプチドが二量体を形成することが確認された(
図2)。特に、ポリペプチド二量体の純度が、投入物に対応する培養上清においてさえ高く、ポリペプチドは、培養上清をアフィニティーカラムを通して通過させることによって得られたサンプル(FT;フロースルー)中に検出されないが、ポリペプチドは溶出したサンプル中に検出されることが確認された。加えて、溶出したサンプルの低pHのため1M Tris緩衝液(pH9.0)ですぐ中和されたサンプル(溶出_N)が、中和されなかったサンプル(溶出)と比較された場合でさえ有意差は観察されなかった(
図2)。
【0075】
加えて、ポリペプチドは非常に高純度(98%又はそれ以上)で精製されるだけでなく、ポリペプチドは培養上清においてさえ非常に高純度で発現されることも特定された。これにより、プロセス開発ステップは、問題の細胞株において発現されたポリペプチドを、医療製品に開発することを単純化することができ、結果として医療製品の開発コストを著しく減少させる可能性が非常に高いことが示される。
【0076】
実験例2 IgEに対するポリペプチド二量体の結合親和性の確認
IgEに対する結合親和性を、実施例1で産生されたポリペプチド、i)FcεRIαECD-Fc2、ii)FcεRIαECD-Fc2ST、iii)FcεRIαECD-Fc3、及びiv)FcεRIαECD-Fc3STを上記実施例2の方法により精製することによって得られる精製された産物、並びに市販の抗IgE抗体、オマリズマブ(商品名:ゾレア)に関して比較して測定した。
【0077】
具体的には、IgEに対する結合親和性を、IgEをタンパク質GLCセンサーチップ(Bio-Rad Laboratories,Inc.、カタログ番号176-5011)のチャネルにコーティングし、オマリズマブ又は各FcεR1αECD-Fcタンパク質を様々な濃度で、1分間当たり30μLの速度で流すことによって測定した。実験は、再生緩衝液として25mM NaOHを用いてゼロベースを特定し、次に、上記のステップを繰り返すことによって行われた。その後、タンパク質結合アナライザー(ProteOn XPR36、Bio-Rad Laboratories,Inc.、USA)を用いて結合曲線を特定した。結果を表3に示す。
【0078】
【0079】
表3に示すように、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体とIgEの会合速度(ka)値は、オマリズマブの値よりも1.5~2.0倍低いと測定された。すなわち、IgE以外の物質へのその結合親和性は、オマリズマブの結合親和性よりも1.5~2.0倍低いことが見出された。加えて、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体の解離速度(kd)値は、オマリズマブの値よりも40~106倍高いと測定された。結果として、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体は、オマリズマブよりも22~69倍高い平衡解離定数(KD<kd/ka>)値を有することが確認された。これから、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体は、オマリズマブと比較して、IgEに対する著しく増加した結合親和性を有することが特定された。特に、シアル酸が加えられたポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2ST)は、オマリズマブよりも69倍高い最高IgE結合親和性を示すことが特定された。
【0080】
加えて、
図3及び4に示すように、結合の後ある特定の期間の時間が経過した場合、オマリズマブはIgEに対するその結合を失い、一方、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2ST、IgE
TRAP)は、一度IgEに結合すれば、IgEから分離しないことが確認された。すなわち、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体は、IgEから容易に分離せず、オマリズマブよりも結合状態を維持する、より優れた能力を有することが確認された。
【0081】
実験例3 IgG受容体に対するポリペプチド二量体の結合親和性の確認
IgGのFcガンマ受容体に対する、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2ST、IgETRAP)又はオマリズマブ(ゾレア)の結合親和性を、Octet RED384システム(Pall ForteBio、CA、USA)を用いて確認した。
【0082】
具体的には、Fcガンマ受容体である、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、及びFcγRIIIB組換えタンパク質(R&D Systems Inc.、5μg/ml)を、300mM酢酸緩衝液(pH5)中で活性化したAR2Gバイオセンサーに固定化した。ランニング緩衝液として、0.1% Tween-20及び1%ウシ血清を含有するPBSを使用した。全ての測定を、30℃にてサンプルプレートシェーカーを用いて1,000rpmの速度で実行した。結果を
図5a~5eに示し、IgG Fcガンマ受容体に対するオマリズマブ及びポリペプチド二量体の結合親和性を定量化し、
図6に示す。
【0083】
結果として、オマリズマブはIgGのFcガンマ受容体に対する高い結合親和性を示し、一方、ポリペプチド二量体は、IgGのFcガンマ受容体に対する有意に低い結合親和性を有することが確認された。これにより、ポリペプチド二量体が、IgGのFcガンマ受容体と結合しないことが確認された。
【0084】
実験例4 マウス骨髄由来肥満細胞におけるベータ-ヘキソサミニダーゼアッセイによるポリペプチド二量体の活性の確認
ベータ-ヘキソサミニダーゼアッセイを、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体のインビトロ活性分析に関して行った。
【0085】
具体的には、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2)を、各濃度でIgE(1μg/mL)と混合し、20℃にて30分間インキュベートして、サンプルを調製した。肥満細胞活性化のための培養中のマウス骨髄由来肥満細胞を、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)緩衝液で洗浄して、培地を除去し、細胞の数を測定し、次に5×105細胞を40μLのHBSS緩衝液に再浮遊させた。
【0086】
このように調製した50μLのサンプルを、活性化した肥満細胞に加えた。次に、結果物(resultant)を5%CO2インキュベーターで37℃にて30分間インキュベートした。続いて、外来抗原である、各10μLのDNP(2,4-ジニトロフェノール、100ng/mL)の付加後、インキュベーションを再度37℃にて30分間、5%CO2中で行い、次に30μLの上清を分離した。
【0087】
30μLの分離した上清と30μLの基質(4-ニトロフェニルN-アセチル-β-D-グルコサミニド、5.84mM)とを十分に混合し、次に、37℃にて20分間、5%CO
2中でインキュベートした。次に、停止溶液として140μLの0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH10)を加えて反応を終了させた。その後、405nmで吸光度を測定して、活性化した肥満細胞において外来抗原によって分泌されたβ-ヘキソサミニダーゼの分泌量を特定した。結果を
図7に示す。
【0088】
図7に示すように、IgEの活性は、IgEと本発明のポリペプチド二量体の濃度が1:1である場合から、かなり阻害されることが確認された。すなわち、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体は、その濃度がIgEの濃度と同じ場合でさえ、反応することが確認された。
【0089】
実験例5 ヒトFcεRI発現マウス骨髄由来肥満細胞におけるβ-ヘキソサミニダーゼアッセイを用いたポリペプチド二量体とヒト抗IgE抗体の活性の比較
本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2ST、IgETRAP)及びヒト抗IgE抗体であるゾレア(オマリズマブ)の活性を比較するために、ベータ-ヘキソサミニダーゼ分析を行った。
【0090】
それぞれポリペプチド二量体及びゾレアを、各濃度に調製し、次にヒトIgE(1μg/mL)と混合した。次に、インキュベーションを室温で30分間行って、サンプルを調製した。加えて、ヒトFcεRI遺伝子が導入され、マウスFcεRI遺伝子が除去されたマウス骨髄に由来し、分化させた肥満細胞を調製した。調製した肥満細胞をHBSS緩衝液で洗浄し、次に、5×105個の細胞を60μLのHBSS緩衝液に再浮遊させた。
【0091】
次に、このように調製した20μLのサンプルを、肥満細胞に加え、次に、5%CO
2インキュベーターで37℃にて30分間インキュベートした。続いて、20μLのヒト抗IgE抗体(BioLegend、カタログ番号325502、0.5μg/mL)を加えた後に、結果物を5%CO
2インキュベーターで37℃にて30分間再度インキュベートした。次に、4℃にて1,500rpmで遠心分離した後、30μLの上清を分離した。30μLの分離した上清と30μLの基質(4-ニトロフェニルN-アセチル-β-グルコサミニド、5.84mM)とを十分に混合し、次に、5%CO
2インキュベーターで37℃にて25分間インキュベートした。次に、140μLの0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH10)を加えて反応を終了させた。その後、405nmで吸光度を測定して、分泌されたβ-ヘキソサミニダーゼの相対量を比較して、肥満細胞に対する阻害効果を、サンプルの各濃度に応じて特定した。結果を
図8に示す。
【0092】
図8に示すように、ポリペプチド二量体のIC
50をおよそ11.16ng/mLと測定し、ゾレアのIC
50をおよそ649.8ng/mLと測定した。したがって、ポリペプチド二量体が、ゾレアよりも、肥満細胞活性に対する58倍高い阻害能を有することが特定された。
【0093】
実験例6 食物アレルギーモデルにおけるインビボアッセイによるポリペプチド二量体の活性の確認
50μgの卵白アルブミン(OVA)及び1mgのアラムをBalb/cマウス(Orientbio Inc.)に14日間隔で2回腹腔内に投与して、感作を誘導した。その後、28、30、32、34、及び36日目に50mgのOVAを合計5回経口投与して、腸内で食物アレルギーを誘導した。
【0094】
OVAを2回経口投与した後、すなわち、31日目に、マウスを、各々7匹のマウスを含む3つのグループに分けた。3つに分けたグループは下記の通りであった:ポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2ST)の高濃度(200μg)を受けたグループ1、ポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2ST)の低濃度(20μg)を受けたグループ2、及び何も受けていないグループ3。
【0095】
OVAを経口投与している間、下痢が食物アレルギー性の誘導に起因して起こるのかどうかを観察した。加えて、37日目にマウスを安楽殺し、各グループに属するマウスについて、小腸の肥満細胞の数、血液中のIgE濃度、及び血液中の肥満細胞脱顆粒酵素(肥満細胞プロテアーゼ1(MCPT-1))の濃度を分析した。
【0096】
結果として、
図9に示すように、下痢は、OVAの第2の経口投与後、グループ3のマウスに発生した。他方、下痢は、OVAの第3の経口投与後、グループ1及びグループ2のマウスに発生した。特に、グループ1のマウスの下痢の頻度は、グループ2のマウスのものより低かった。これにより、食物アレルギーに対する効果が、ポリペプチド二量体の濃度に比例して増加することが確認された。
【0097】
実験例7 ポリペプチド二量体のシアル酸の含量の分析
上記実施例1で調製したFcεRIαECD-Fc2+a2,6-ST細胞株から産生されたポリペプチドの産生速度が最高であり、実験例4~6のポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2ST)の抗アレルギー効果が優れているとの態様に基づいて、ポリペプチド二量体のシアル酸含量を分析して、シアル酸含量に応じた、ポリペプチド二量体の抗アレルギー有効性を調査した。
【0098】
具体的には、上記実施例1で調製したFcεRIαECD-Fc2+a2,6-ST細胞株から産生されたポリペプチド二量体(FcεRIαECD-Fc2ST)のグリカン構造に含有されるシアル酸含量を測定するために、シアル酸を最初にシアル酸の異化と関連している酵素であるシアリダーゼで処置することによって分離した。その後、分離したシアル酸を、HPLC(waters、alliance e2659)を用いて単離し、検出し、定量化した。
【0099】
ポリペプチド二量体を、pH勾配に応じて3つのサンプルに分け、単離し、精製した。3つのサンプルを、AmiconUltra 10K(Millipore、UFC501096)フィルターに配置し、10分間、13,000rpm、4℃温度の条件下での遠心分離し、5回繰り返し、濃縮物を脱イオン水で交換し、濃縮した。サンプルの濃度を、280nmの波長で測定したときに10mg/mL又はそれ以上にセットした。
【0100】
その後、0.5mgの各サンプルを採り、EPチューブに配置し、1μLのシアリダーゼ(Roche、10 269 611 001)及び40μLのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を10mMの濃度で加え、次に脱イオン水を加え、最終的な容量を100μLとした。2μLの各サンプルを採り、280nmの波長での濃度を測定し、確認した濃度値を最終的な分析濃度として使用した。
【0101】
サンプルを18時間、37℃インキュベーターで反応させ、次にAmiconUltra 10Kフィルターに配置し、13,000rpm、4℃の条件下で15分間遠心分離し、フィルターを通して通過させた濾過物を分析のために使用した。HPLC分析条件を以下の表4に示す。
【0102】
【0103】
シアル酸の含量を計算するための標準物質は、N-アセチルノイラミン酸(以下、NANAと称する)及びN-グリコリルノイラミン酸(以下、NGNAと称する)の混合物である。標準曲線に関する線形回帰方程式を得て、分析物中のNGNA及びNANAのモル濃度を計算した。使用した混合物を以下の表5に示す。
【0104】
【0105】
サンプル中のNANAシアル酸含量を、NANA含量を用いて計算した。サンプル中のシアル酸含量を、シアル酸/サンプルのモル比(mol/mol)として表した。
【0106】
[等式1]
サンプルのシアル酸含量=(サンプル中のNANAのモル濃度)/(サンプルのモル濃度)
【0107】
加えて、サンプル中のNGNAの含量を、NGNA含量を用いて計算した。サンプル中のNGNAの含量を、NGNA/分析物のモル比(mol/mol)として表した。
【0108】
[等式2]
サンプルのNGNA含量=(分析物中のNGNAモル濃度)/(分析物のモル濃度)
【0109】
結果を以下の表6に示す。
【0110】
【0111】
表6に示すように、pH勾配に応じて3つのサンプルに分け、分離し、精製し、サンプル中のシアル酸含量を別々に測定した。シアル酸含量に応じた抗アレルギー有効性を比較するために、ポリペプチド二量体は、シアル酸含量の順に「SAlow」、「SAmedi」及び「SAhigh」と称される。
【0112】
実験例8 シアル酸含量に応じたポリペプチドの二量体形成における変化の確認
シアル酸含量に応じたポリペプチドの二量体形成に変化があるかどうかを確認するために、実施例9で分離したSAlow、SAmedi及びSAhighを実験例1と同じ様式の非還元条件及び還元条件下でSDS-PAGE分析に付した。
【0113】
結果として、SA
low、SA
medi及びSA
highの全てで、約150kDaのサイズを有するポリペプチドを非還元条件下で検出し、約75kDaのサイズを有するポリペプチドを還元条件下で検出した。これにより、ポリペプチドが二量体を形成することが確認された(
図10)。
【0114】
実験例9 シアル酸含量に応じたポリペプチド二量体の等電点の確認
ポリペプチド二量体の等電点がシアル酸含量に応じて変化するかどうかを確認するために、実験例7で分離したSAlow、SAmedi及びSAhighをIEFサンプル溶液と混合し、次にpH3~7 IEFゲル(Invitrogen)にロードし、電気泳動を100V条件下で1時間、200V条件下で1時間、及び500V条件下で30分間、で順次行った。電気泳動が完了した後、ゲルを、12%トリクロロ酢酸及び3.5%スルホサリチル酸を含む固定液中で30分間反応させ、次に蒸留水で洗浄した。タンパク質を、クーマシーブリリアントブルー溶液で染色した。
【0115】
結果として、SA
low、SA
medi及びSA
highの等電点はシアル酸含量に応じてわずかに異なり、それぞれ約5.3、4.9及び4.7であることが見出された(
図11)。
【0116】
実験例10 食物アレルギー動物モデルにおけるシアル酸含量に応じたポリペプチド二量体の抗アレルギー活性の確認:下痢の頻度の測定
ポリペプチド二量体の活性が、シアル酸含量に応じて変化するかどうかを確認するために、Balb/cマウス(Orient Bio)に対して50μgのOVA及び1mgのアラムの腹腔内投与により2回、14日間隔で感作を誘導した。その後、28、30、32、34、36、38、40日を越えて50mgのOVAを合計7回経口投与して、食物アレルギーを誘導した。この場合、OVAの経口投与を、4時間の絶食後に行った。
【0117】
OVAを2回経口投与し、次に40日目に、マウスを、7匹のマウスの3つのグループに分けた。高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体(SAhigh)が皮下に高濃度(200μg)で投与されるグループであるグループ1、低含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体(SAlow)が皮下に高濃度(200μg)で投与されるグループであるグループ2、及びPBSが皮下に投与されるグループであるグループ3にマウスを分けた。OVAを経口投与した場合に下痢が食物アレルギーの誘導により発生するかどうかを確認した。
【0118】
結果として、下痢は、OVAの第4の経口投与後、グループ3のマウスに発生した。下痢は、OVAの第5の経口投与後、グループ2のマウスに発生した。特に、下痢の頻度は、OVAの第6の経口投与後、グループ2のマウスにおいて即座に増加した。他方、下痢は、OVAの第6の経口投与後、グループ1のマウスに発生したが、下痢の頻度は維持され、OVAの第7の経口投与後でさえ、グループ1のマウスにおいて増加しなかった(
図12)。これにより、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体(SA
high)が、低含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体(SA
low)と比較して、優れた抗アレルギー効果を有することが確認された。
【0119】
実験例11 食物アレルギー動物モデルにおけるシアル酸含量に応じたポリペプチド二量体の抗アレルギー活性の確認:血液中のIgE濃度の測定
血液を、眼窩サンプリング法で実験例10のOVAの第7の経口投与が行われた各グループのマウスから採取した。30分間、周囲温度で反応させた後、血清を、13,000rpmの条件下、温度4℃で15分間の遠心分離によって分離した。血液中の遊離IgE濃度を測定するために、マウス総IgE ELISAキット(BioLegend)を使用した、この場合、ELISAを製造者のプロトコールに従って行った、但し、本発明の実施形態によるポリペプチド二量体(SAlow及びSAhigh)を、抗IgE抗体の代わりに96ウェルプレートにコーティングする物質として使用した。
【0120】
具体的には、96ウェルプレートを、PBSで希釈したポリペプチド二量体(SAlow及びSAhigh)でコーティングし、一晩、4℃の温度で反応させた。次の日、0.05% tween 20を含有するPBS(以下、洗浄緩衝液)で洗浄後、ブロッキング緩衝液(アッセイ希釈剤)を加え、1時間反応させた。その後、洗浄緩衝液で洗浄し、次に規準液として使用されるマウスIgE及びマウスの血清サンプルを、1Xアッセイ希釈剤で希釈し、プレートに配置し、2時間反応させた。
【0121】
洗浄緩衝液で再度洗浄後、ビオチン標識マウス抗IgE抗体を加え、1時間反応させた。洗浄緩衝液で洗浄後、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)標識アビジン(アビジン-HRP)を加え、30分間反応させた。洗浄緩衝液で洗浄後、基質溶液を加え、20分間反応させた、その間は光を遮断した、次に停止溶液(1M H2SO4)を加えて反応を停止した。その後、吸光度値を、450nmの波長にてマイクロプレートリーダー(Epochマイクロプレート分光光度計)で測定し、濃度を計算した。
【0122】
結果として、PBSが皮下に投与されたグループ3のマウスに関して、血液中のIgE濃度は約8,000ng/mLであると計算された。加えて、低含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体(SA
low)が皮下に投与されたグループ2のマウスに関して、血液中のIgE濃度は約7,000ng/mLであると計算された。他方、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体(SA
high)が皮下に投与されたグループ1のマウスに関して、血液中のIgE濃度は約4,900ng/mLであると計算され、グループ2とグループ3のマウスの間の血液中のIgE濃度値に有意差があった(
図13)。
【0123】
これらの結果から、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体が皮下に投与された場合、血液中のIgE含量が減少することが見出された。加えて、そのような血液中のIgEの減少に基づいて、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体がアレルギーの治療に有効であることが予測された。
【0124】
実験例12 食物アレルギー動物モデルにおけるシアル酸含量に応じたポリペプチド二量体の抗アレルギー活性の確認:血液中のMCPT-1濃度の測定
血清を、食物アレルギー実験が完了した2日後、各グループのマウスから血液を採ることによって調製した。血液中のMCPT-1(肥満細胞プロテアーゼ-1)濃度を測定するために、MCPT-1 ELISAキット(Invitrogen)を使用して、製造者のプロトコールに従う手順を行った。
【0125】
具体的には、96ウェル免疫化プレートを、マウス抗MCPT-1抗体でコーティングし、一晩、4℃の温度で反応させた。次の日、0.05% tween 20を含有するPBS(以下、洗浄緩衝液)で洗浄後、1%BSA(ウシ血清アルブミン)を含有するPBS(以下、ブロッキング緩衝液、アッセイ希釈剤)を加え、1時間反応させた。その後、洗浄緩衝液で洗浄し、次に規準液として使用されるMCPT-1及びマウスの血清サンプルを、1Xアッセイ希釈剤で希釈し、プレートに配置し、2時間反応させた。
【0126】
2時間後、ビオチン標識マウス抗MCPT-1抗体を加え、1時間反応させた。洗浄緩衝液で洗浄後、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)標識アビジン(アビジン-HRP)を加え、30分間反応させた。洗浄緩衝液で洗浄後、基質溶液を加え、20分間反応させた、その間は光を遮断した、次に停止溶液(1M H2SO4)を加えて反応を停止した。その後、570nm波長の波長で測定した吸光度値を、450nmの波長で測定した吸光度値から除いた吸光度値を、マイクロプレートリーダー(Epochマイクロプレート分光光度計)で決定し、濃度を計算した。
【0127】
結果として、PBSが皮下に投与されたグループ3のマウスに関して、血液中のMCPT-1濃度は約4,000ng/mLであると計算された。加えて、低含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体(SA
low)が皮下に投与されたグループ2のマウスに関して、血液中のMCPT-1濃度は約4,200ng/mLであると計算された。他方、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体(SA
high)が皮下に投与されたグループ1のマウスに関して、血液中のMCPT-1濃度は約2,800ng/mLであると計算され、グループ2とグループ3のマウスの間の血液中のMCPT-1濃度値に有意差があった(
図14)。
【0128】
実施例3 精製による高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体の調製
シアル酸含量に応じたポリペプチド二量体の物理的特性を確認するために、広範囲のシアル酸を含有するポリペプチド二量体を得た。具体的には、FcεRIαECD-Fc2+a2,6-ST細胞株から得たポリペプチド二量体を、アフィニティークロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製した。
【0129】
最初に、細胞培養液を、アフィニティークロマトグラフィーに付して培養液から主な不純物を除去した。アフィニティークロマトグラフィーを、Amsphere(商標)A3樹脂を充填したAmsphere(商標)A3プレパッキングカラム(ベッド高5cm、容量5mL)及びAKTA Avant 25装置の液体クロマトグラフィーシステムを用いて行った。アフィニティークロマトグラフィーを、100mMグリシンpH3.3を溶出緩衝液として用いて行った。
【0130】
その後、陰イオン交換クロマトグラフィーを、Q Sepharose Fast Flow樹脂を充填したHiscreen QFF(ベッド高10cm、容量5mL)及びAKTA Avant 25装置の液体クロマトグラフィーシステムを用いて行った。20mMホスホ-シトレートpH3.5を、溶出緩衝液として使用した。この場合、洗浄緩衝液として20mMの濃度のホスホ-シトレートpH4.0を調節して様々なシアル酸含量を有する二量体を得た。シアル酸含量の分析を、実験例7で使用された分析方法により行った。これにより、7.0mol/mol、10.3mol/mol、12.9mol/mol、14.9mol/mol及び21.4mol/molのシアル酸含量を有するポリペプチド二量体を得た。
【0131】
実験例13 マウスモデルでのシアル酸含量に応じたポリペプチド二量体の薬物動態分析
ポリペプチド二量体のシアル酸含量に応じた薬物動態分析を行うために、実施例3で調製した7.0mol/mol、10.3mol/mol、12.9mol/mol、14.9mol/mol及び21.4mol/molのシアル酸含量を有するポリペプチド二量体を、それぞれ10mg/kgの濃度でマウスに皮下注射した。ポリペプチド二量体の薬物動態を分析するために、物質の投与後0時間、3時間、10時間、24時間、72時間、168時間、及び240時間に血液を採取し、以下の様式で分析した。
【0132】
抗FcεRI抗体(Invitrogen)を、1X PBS(Welgene)で0.5μg/mLの濃度に希釈し、イムノプレート(Thermo)に加え、4℃条件下で一晩反応させた。反応が完了した後、イムノプレートを、1X PBSTで洗浄し、ブロッキング溶液であるI-Block溶液(Invitrogen)をウェル毎に加え、周囲温度で1時間反応させた。ブロッキング中に、標準及び分析サンプルを調製した。ポリペプチド二量体を、マウスブランク血清を含有する1%BSA/PBSで、0.19ng/mL~200ng/mLの濃度に希釈して標準物質を調製し、ブランク血清を含有する1%BSA/PBSを用いて1/20~1/300の希釈も行って、分析サンプルを調製した。
【0133】
ブロッキングが完了した後、プレートを、1X PBSTで洗浄し、調製した標準及び分析サンプルをウェル毎に加え、次に周囲温度で1時間反応させた。その後、プレートを1X PBSTで洗浄し、1:10,000に希釈した抗ヒトIgG4-HRP(Southern biotech)を加え、次に周囲温度で1時間反応させた。反応が完了した後、プレートを、1X PBSTで洗浄し、TMB溶液(Thermo)をウェルに加え、反応させた。吸光度値がマイクロプレートリーダー(Molecular devices)を用いて650nmの波長で0.8~1.0の範囲に測定されたとき、停止溶液(Sigma)をウェル毎に加えて反応を停止した。反応が終結した後、450nmの波長にて5分間内にプレートで吸光度を測定し、数値を分析した。シアル酸含量に応じたポリペプチド二量体の得られた薬物動態グラフ及び薬物動態パラメータを
図15及び表7に示す。
【0134】
結果として、表7に示すように、マウスに投与されたポリペプチド二量体のシアル酸含量が高いほど、血液中の濃度が高いことが確認された。
【0135】
【0136】
実験例14 受動全身アナフィラキシーマウスモデルでのポリペプチド二量体のシアル酸含量に応じた有効性の確認
ポリペプチド二量体のシアル酸含量に応じたインビボでの抗アレルギー効果における差を確認するために、文献に開示された方法を適用して、以下のような様式でマウスに受動全身アナフィラキシー(PSA)を誘導した(Methods and Protocols、Methods in Molecular Biology、vol.1032、DOI 10.1007/978-1-62703-496-8_10)。肥満細胞がアナフィラキシーの誘導によって活性化され、体温が肥満細胞を増加させることによって減少することが知られている。これを用いてマウスにPSAを誘導している間に、それぞれのシアル酸含量を有するポリペプチド二量体を投与し、次に体温を測定して抗アレルギー効果を比較した。
【0137】
トランスポンダーを挿入したBalb/cマウス(Orient Bio)の体温を測定し、次に20μgの抗DNP IgE(Sigma)含有0.9%NaClを腹腔内に投与し、次にそれぞれ異なるシアル酸含量を有するポリペプチド二量体を10mg/kgにて皮下に投与した。 24時間後、マウスの体温を、DNP-HAS(Sigma)含有0.9%NaCl、外来抗原を投与する前に測定した。その後、1mgの抗原を、静脈内に投与した。投与後、マウスの体温を、リモート体温計(Bio 中間c data systems)を用いて10分間隔で1時間測定した。実験結果を
図16に示す。
【0138】
結果として、マウスの体温はビヒクル及び10.3mol/molのシアル酸含量を有するポリペプチド二量体を投与したグループで減少し、マウスの体温は14.9mol/mol又はそれ以上のシアル酸含量を有するポリペプチド二量体を投与したグループで減少しないことが確認された。これにより、高含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体が、低含量のシアル酸を有するポリペプチド二量体と比較して、受動全身アナフィラキシーの誘導を減少させる優れた効果を有することが確認された。
【配列表】
【国際調査報告】