IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エーデラジェン アクティーゼルスカブの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(54)【発明の名称】デコンストラクテッド・ソイル
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/66 20150101AFI20220906BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220906BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220906BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20220906BHJP
   A61K 31/717 20060101ALI20220906BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20220906BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20220906BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20220906BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20220906BHJP
   A61K 36/00 20060101ALI20220906BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220906BHJP
【FI】
A61K35/66
A61P1/00
A61P43/00 121
A61K33/00
A61K31/717
A61K33/26
A23K20/163
A23K10/30
A61K31/716
A61K36/00
A23L33/135
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021576823
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2020067901
(87)【国際公開番号】W WO2020260498
(87)【国際公開日】2020-12-30
(31)【優先権主張番号】20190820
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521561477
【氏名又は名称】エーデラジェン アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】EDERAGEN AS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ロー、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】トロスヴィク、ポール
(72)【発明者】
【氏名】デ ミュンク、エリック
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C086
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AA06
2B150AB03
2B150AB10
2B150AD01
2B150CJ03
2B150DC14
2B150DD62
4B018LB10
4B018MD33
4B018MD80
4B018MD81
4B018ME11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086HA11
4C086HA27
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BA02
4C087BC01
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZC75
4C088AA20
4C088MA01
4C088NA14
4C088ZA66
4C088ZC75
(57)【要約】
本発明は、本明細書において「デコンストラクテッド・ソイル」と称される定義された安全な土壌代用物であって、エネルギー利用率をシフトさせて腸の健康に関連する細菌の増殖を有利にしかつ最も支配的な種および害を及ぼすと推定される種からは遠ざけることによってヒトの腸内部などの嫌気性微生物生態系内の生態学的なバランスを支援する土壌代用物を含む。本発明は、脆弱な細菌の群が、問題の生態系からの見かけ上の絶滅状態から回復することを可能にする。デコンストラクテッド・ソイルはプレバイオティクスまたはプロバイオティクスである成分を含有しないため、それはヒトおよび動物の消化管内の微生物生態系ならびに他の嫌気性微生物生態系の機能不全と関連づけられる状態を予防しかつ処置するための新規の製品概念に相当する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色腐植材料およびβグルカンを含む、デコンストラクテッド・ソイル組成物。
【請求項2】
前記βグルカンが微生物分解に対して抵抗性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記βグルカンが真菌タイプのβ-1,3/1,6-グルカンである、請求項1および2に記載の組成物。
【請求項4】
前記βグルカンが、酵母から得られるβ-1,3/1,6-グルカンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記黒色腐植材料が鉄およびリグノセルロースを含む、請求項1~4に記載の組成物。
【請求項6】
前記黒色腐植材料がレオナルダイトタイプのものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
粘土鉱物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
β-1,3/1,6-グルカンと黒色腐植材料との比が1:100から1:1の範囲であり、好ましくは5:100である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
β-1,3/1,6-グルカンと黒色腐植材料との比が3.5:100である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
β-1,3/1,6-グルカンと黒色腐植材料と粘土鉱物との比が1:100:5から5:100:15の範囲である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
β-1,3/1,6-グルカンと黒色腐植材料と粘土鉱物の比が3.5:100:10である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
嫌気性微生物生態系の調節における使用のための、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
標的生物におけるディスバイオシスの処置における、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、標的生物が哺乳動物、鳥類、水産養殖種からなる群から選択される、使用。
【請求項14】
前記哺乳動物がヒトである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記哺乳動物が愛玩動物または家畜である、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
嫌気性および微好気性条件下で、酸素感受性の有益な腸内細菌が選択的に有利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項17】
嫌気性および微好気性条件下で、酸素感受性の有害な腸内細菌が選択的に不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項18】
嫌気性条件下でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツイの増殖を亢進させる、請求項13に記載の使用。
【請求項19】
嫌気性条件下でプレボテラ・コプリの増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項20】
嫌気性条件下でアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項21】
嫌気性条件下でメタノブレヴィバクター・スミシーの増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項22】
嫌気性条件下でビフィドバクテリウム属の増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項23】
嫌気性条件下でラクトバシルス属の増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項24】
微好気性条件下でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツイの増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項25】
微好気性条件下でプレボテラ・コプリの増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項26】
微好気性条件下でアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項27】
微好気性条件下でメタノブレヴィバクター・スミシーの増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項28】
微好気性条件下でビフィドバクテリウム属の増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項29】
微好気性条件下でラクトバシルス属の増殖が亢進する、請求項13に記載の使用。
【請求項30】
嫌気性条件下でクロストリジウム・パーフリンジェンスの増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項31】
嫌気性条件下でフィネゴルディア・マグナの増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項32】
嫌気性条件下でアリスティペス・シャーヒイの増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項33】
嫌気性条件下でスタフィロコッカス属の増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項34】
嫌気性条件下でバクテリオデス・ユニフォルミス(Bacteriodes umiformis)の増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項35】
嫌気性条件下でバクテリオデス・ブルガータス(Bacteriodes vulgatus)の増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項36】
微好気性条件下でクロストリジウム・パーフリンジェンスの増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項37】
微好気性条件下でフィネゴルディア・マグナの増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項38】
微好気性条件下でアリスティペス・シャーヒイの増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項39】
微好気性条件下でスタフィロコッカス属の増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項40】
微好気性条件下でバクテリオデス・ユニフォルミス(Bacteriodes umiformis)の増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【請求項41】
微好気性条件下でバクテリオデス・ブルガータス(Bacteriodes vulgatus)の増殖が不利になる、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内微生物叢中の脆弱な細菌種の回復を促進することおよび健康に対して悪い作用をすると推定される種を犠牲にして有益な細菌群を有利にすることによる微生物生態系の調節におけるデコンストラクテッド・ソイル(deconstructed soil)(DS)組成物、ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
西洋の生活習慣病の広がりの本質は、人類が生物学的進化を通して適応してきた自然環境から大きく逸脱した現代の生活条件の結果である可能性が最も高い。高度に加工された食品、無菌環境、正しく理解されていない衛生習慣、ならびに土壌および自然環境中の他の産物への暴露の欠如はすべて要因であり得る。そのような生活習慣病は、腸内微生物の群集、いわゆる腸内微生物叢(GM)内の生態学的かく乱と関連づけられる。多くの場合GMディスバイオシスと称されるこれらの生態学的かく乱は、何世代にもわたり医学を支配してきた「1微生物-1疾患」の概念からの根本的な逸脱に相当する種々の疾患状態に関連してきた。従って、GMディスバイオシスと関連づけられる疾患を予防または治癒するための試みは、どのようにGMなどの極端に複雑な生態系が機能して食品やその他の環境入力に対して反応しているのかについての理解に基づいていなければならない。本明細書に記載のデコンストラクテッド・ソイルの妥当性は、それが基本的な生態学的原理によってGMを調節するものであり、従って都市化された西洋諸国における生活習慣病に対し対抗するための好ましい製品カテゴリーであり得る、ということである。
【0003】
土食の生物学的合理性
本明細書に記載されるようなDSの概念は、より広範な生物学的および進化的な文脈の中に組み入れた場合に、より良く理解および評価され得る。土食と呼ばれる、土壌の自発的な摂取は、動物およびヒト集団の間で広範に見られる。ヒトにおいては、多くの文化の中で、その習慣は小児ならびに妊娠中の女性の間で特に共通して見られる。この行為の背後にある生物学的合理性は十分に理解されていない。しかしそれはとても広範に見られるため、それは何か有益なことに貢献していると想定され得る。もし危険であるかまたは有毒であれば、土食は進化によって放棄されていたであろう。
【0004】
土壌は鉱物の供給源である。従って、土壌の自発的な摂取は、鉱物および微量栄養素の適切な補給を確実にするための本能的なやり方として多くの場合は目されている。土食は通常のヒトの行動であるが、西洋社会におけるほとんどの人々は、それは胸の悪くなる、奇妙で異常なものとしてみなしている。よって、健康を増進する習慣として土食は社会的または精神的に受容されていない。また、医療専門家はそれを評価していない。たとえ受け入れられたとしても、特に都市化された地域においては、重金属、毒性化学物質および潜在的な病原体の混入と関連づけられるリスクが原因で現代では推奨されないであろう。
【0005】
土壌への暴露がマウスのGMを有意に調節することが示されている。モデル実験においては、敷料を含有する土壌の上で飼育されたマウスは喘息を起こしにくい傾向があったことが示されている。さらに、土壌調製物に対する繰り返される皮膚の暴露が、健康なヒトのGM内の微生物の多様性の上昇と関連づけられている。非汚染土壌および自然環境中に存在する成分に対する高度な暴露も、農村の集団および狩猟採集民族における非伝染性疾患の発生率の低減に貢献すると考えられている。これらの作用は、これらの環境中の生きた微生物に対する暴露に帰すると一般的に考えられているが、本明細書に提示されるDSの中にあるものなどの土壌の非生物成分に対してはほとんど注意が払われてこなかった。本発明のDS製品は、天然の土壌への暴露に対する、滅菌された、安全で一貫性のある代用物に相当する。
【0006】
先行技術
GMディスバイオシスに対して対処する既存の製品とは対照的に、本明細書に記載のDSは、生きた微生物(プロバイオティクス)、微生物のためのエネルギー基質(プレバイオティクス)、および微生物を培養した増殖培地に残される代謝物(ポストバイオティクス)を含有しない。本発明は、生きた細菌の導入または群集内の特定の微生物の群に対する追加のエネルギーの供給の代わりに、この群集のメンバー間のエネルギー分配を増進することにより、GM生態系固有の生態学的な複雑さを考慮している。
【0007】
プロバイオティクスは、多数の、1つまたは少数の細菌種をGM内に導入することを目的とする。ほとんどが乳酸菌である、多くの場合ヒトの腸にとって異質であるプロバイオティクス細菌は、たいてい有益であるとみなされている。しかし、この見解には科学的な裏付けがほとんどない。プロバイオティクス調製物中で最も共通して使用される細菌であるラクトバシルス(Lactobacillus)属の種のケースでは、個々が、宿主環境に既に適応している常在種および株を通常担持することになるが、これらは通常ヒトの大腸内で相対的に低い存在量で現れる。
【0008】
マイクロバイオームは高度に個体特有なものであり、多様な供給源からプロバイオティクス株を単離することは、異なるGM生態環境を有する宿主に対して有益であると推定される微生物を導入するための適切なアプローチではない可能性がある。プロバイオティクスに対して言明されている健康効果の多くが株特異的であるため、これは重要である。プロバイオティクスとは異なり、本明細書で提示される本発明はいかなる生きた微生物も導入するものではないが、常在細菌が適応した宿主中に存在しかつ同じ生態系内の他の微生物と共存するための適した条件がもたらされるように助ける。
【0009】
概念としてのプレバイオティクスは1995年に定義された。そして、それ以来その定義は多くの変更を受けてきた。国際プロバイオティクスおよびプレバイオティクス科学協会(ISAPP)によれば、プレバイオティクスは「健康上の利益を与える宿主微生物によって選択的に利用される基質」である。「基質」という用語は、生物がその栄養分を得る、またはそこから栄養分を得る物質を意味する。ほとんどのプレバイオティクスはオリゴ糖であり、それは有益であると推定される細菌、主に乳酸菌およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属のための増殖基質である。
【0010】
本発明のDSは、嫌気性条件下の細菌の増殖のためのいかなるエネルギー基質も含有しないものであるため、以下の実施例に記載されるGM生態環境に対するその作用は、他のメカニズムが原因に相違ない。
【0011】
ポストバイオティクスは、微生物増殖中に産生されて培養媒体中に残される、クオラムセンシング分子を含めた低分子量の微生物代謝物である。本発明の製品中にはそのような代謝物は存在しない。
【0012】
GMを調節するためのプロ、プレおよびポストバイオティクスの使用に対する代替法は、新鮮な糞便の形態の完全な微生物生態系を健康なドナーから移植すること、いわゆる糞便微生物移植(FMT)である。FMTは、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridium difficile)によって引き起こされる下痢と関連づけられる抗生物質の処置において非常に成功している。これは通常健康なGM内に存在する細菌であるが、抗生物質によって最も多くの場合に引き起こされるGMディスバイオシスの極端なケースでは、それは生命を脅かす毒素の産生菌となる。しかし、FMTは、ディスバイオティックGMによって引き起こされる生活習慣病の処置のための現実的な代替法ではなく、それは本発明の範囲外の方法である。
【0013】
上記の潜在的なGM調節剤のカテゴリーに加えて、食物繊維(可溶性および不溶性の両方)がこの観点において検討されている。エンドウマメ繊維およびフラクトオリゴ糖が、あるGM群集のメンバーに対して多少の作用を及ぼすこと、例えばフィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)の存在量を低減させることが見出されている。F.prausnitziiの存在量の低減は、本発明を用いて行われる観察とは全く対照的である。
【0014】
レオナルダイトタイプの地質学的堆積物から抽出された精製腐植材料は、15人の健康な志願者で行った試験において、カプセル剤で経口的に与えられた場合には、安全でいかなる有害作用も伴わないことが示されている(非特許文献1)。この製品はヒトのGMを調節する可能性を有するように思われるが、この試験において提示された結果は、観察の大部分にわたって一致せず、結論が出ず、統計学的に有意ではなかった。このパイロット試験におけるヒトの志願者数が少なかったたことおよび彼らの全員が健康でおそらくGMディスバイオティックではなかったという事実がこの原因であり得る。また、この試験で使用された微生物叢分析と関係する方法論的限界もあった。例えば、この試験では、アッカーマンシア(Akkermansia)属における純増加はないと報告される一方で、同時に、ヒトの腸にコロニー形成することが知られている唯一のAkkermansia属の種であるアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の存在量において統計学的に有意な増加が報告されている。
【0015】
βグルカンは、β-D-グルコース多糖類のファミリーであり、植物ならびに真菌および細菌の細胞壁において広範に見られる。βグルカンの、他の以前記載された使用としては、ヒトの使用にとって安全な薬物送達システムとしてのその使用(特許文献1)および動物用飼料における充填剤としてのその使用が挙げられる。カラスムギおよび他の穀物のβグルカンは非分岐状の混合β-1,3/1,4-グルカンであり、それは消化管内の酵素によって加水分解され、エネルギー基質として微生物によって使用される。カラスムギグルカンおよびカラスムギグルカンの加水分解物(オリゴマー)は従って、プレバイオティクスの定義に該当する。この働きによりカラスムギのβグルカンを含めた穀物のβグルカンは栄養素をもたらし、それによりラクトバシルス(Lactobacillus)属およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属の増殖を支援し得る。
【0016】
ヒトの腸は、β-1,3-またはβ-1,6-グリコシド結合、およびDSの成分の1つとして使用される粒子状β-1,3/1,6-グルカン製品を加水分解する酵素を分泌しない。従って、それは消化管内の酵素消化に対して耐性である。それはまた、腸管の嫌気性区画内の微生物に対し容易にアクセスすることのできない非常に高密度な構造でもあり、実際の使用による観察では、粒子が糞便中に排泄されることが示唆されている。本発明のDSの粒子状β-1,3/1,6-グルカン成分は、高圧滅菌後に固体ゲルを形成するという技術的優位性を有する。従って、それは、DSの他の成分をそこに取り込むことができる理想的なマトリックスに相当する。このことは、経口投与のためだけではなく、創傷感染の処置における、またはデンタルケア製品における局所的な使用の場合にも、DS製品を配合する場合に重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5032401号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】スウィジンスキー(Swidsinski)ら、2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の製品の概念の背後にある基本的な考えは、プレバイオティクスのものとは反対であり、すなわち、製品は外部のエネルギーをGM生態系に対し供給するものとはならない。代わりに、ディスバイオシスを予防しかつそれに対し対抗するために、DSが目標とするのは、個々の種が限られたエネルギーの供給を分け合うように協同する機序に生態系を強制的にさせることである。本発明を例示するために使用されるβ-1,3/1,6-グルカン調製物は、実施例に示されるように、例を挙げると、カラスムギ中に見出されるβ-1,3/1,4-グルカン、とは異なる化学構造を有し、腸内細菌によってエネルギー基質としては利用されない。それは、例としてレンチナンなどの土壌キノコのβグルカンと同じ化学的なカテゴリーでありかつ同じ生物学的作用機序を有する、よく特徴づけられたβグルカンに相当する。本発明のDSにおいて使用されるβ-1,3/1,6-グルカンは、天然の森林土壌中に見出される菌糸体のβ-1,3/1,6-グルカンの代用物として働く。
【0020】
DSのGM調節作用は、いずれかの腐植質の構造またはリグニンの構造によって得られる単なる「繊維の作用」であると議論される可能性がある。我々は、以下の実施例において、リグニンおよび純粋な腐植材料の両方がGMに対し影響を及ぼすものの、それらのGM調節特性はDSのものとは全く異なることを実証している。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のデコンストラクテッド・ソイル(DS)組成物は、手付かずの土壌に見出される2つの有機成分および1つの無機材料、すなわち、
1)堆積物または天然土壌中の植物リグノセルロース材料の微生物学的および化学的な腐敗後に残存する、黒色の(酸化された)鉄を含有する腐植材料(腐植質)、
2)真菌の細胞壁β-1,3/1,6-グルカン、
3)無機粘土材料(イライト)、
を含有する。
【0022】
本試験で使用される黒色腐植材料は、純粋な腐植酸ではない。それは、土壌中に通常存在するセルロース/βグルカンおよび10%超(乾燥重量基準)の無機質を含有し、そのためそれは森林土壌の妥当な代用物であり得る。それでも我々は、粘土など(イライト)の無機土壌材料で富化したDS配合物も作製した。βグルカンおよび粘土鉱物を用いた富化は、基本のDS組成物の一般的な微生物叢調節特性を変えず、従って、DSのテクスチャ特性を改変する必要性がある場合にはそれを使用することができることを我々は示した。
【0023】
DSの成分は、無酸素条件下で微生物の増殖のためのエネルギー基質として利用することはできない。それでもDSは、嫌気性または微好気性のヒトのGM、例を挙げると、大腸および盲腸内などの生態環境に対し重大な作用をもたらす。それは、優れた健康と関連づけられる細菌種の増殖を強力に有利にすること、健康に対して悪い作用をすると推定される細菌群の増殖を不利にすること、および機能的に重要であり、希少であり、脆弱である種の回復を促進することによって、ヒトのGMを調節する。どのようにヒトの腸などの嫌気性微生物生態系が機能し、どのようにそのような生態系内の個々の種が相互作用しているかについての現在の理解に基づいて予想することができていなかったため、これはたいへん意外であった。
【0024】
DSは、プロバイオティクス(生きた微生物)、プレバイオティクス(腸内微生物のための増殖基質)またはポストバイオティクス(微生物代謝物)の定義には該当しない。本発明のDSは、健康なGMを増進するための代替概念に相当する。我々は、他の方法では嫌気性および微好気性環境中の微生物にとって利用可能でないエネルギー基質を協同的に利用するための化学環境および物理構造を、DSが作り出しているという仮説を立てている。
【0025】
黒色腐植材料およびβグルカンを含む本発明によるDS組成物を、嫌気性微生物生態系の調節における使用のために製剤化する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例1の結果を示す。
図2】実施例2の結果を示す。
図3】実施例3の結果を示す。
図4】実施例4の結果を示す。
図5】実施例5の結果を示す。
図6】実施例6の結果を示す。
図7】実施例7の結果を示す。
図8】実施例8の結果を示す。
図9】実施例9の結果を示す。
図10】実施例10の結果を示す。
図11】実施例11の結果を示す。
図12】実施例12の結果を示す。
図13】実施例13の結果を示す。
図14】実施例14の結果を示す。
図15】実施例15の結果を示す。
図16】実施例16の結果を示す。
図17】実施例17の結果を示す。
図18】実施例18の結果を示す。
図19】実施例19の結果を示す。
図20】実施例20の結果を示す。
図21】実施例21の結果を示す。
図22】実施例22の結果を示す。
図23】実施例23の結果を示す。
図24】実施例24の結果を示す。
図25】実施例25の結果を示す。
図26】実施例26の結果を示す。
図27】実施例27の結果を示す。
図28】実施例28の結果を示す。
図29】実施例29の結果を示す。
図30】実施例30の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
土壌およびデコンストラクテッド・ソイル(DS)
天然の森林土壌は、砂質粘土ならびに微生物学的および化学的に分解された、死んだ植物、土壌中にすむ動物、細菌および真菌の混合物からなる。土壌粒子の表面は通常酸素に対しさらされており、従って好気性土壌微生物の生息環境である。嫌気性の種は、無酸素堆積物層および個々の土壌粒子の内部に限定されている。無酸素土壌環境においては、微生物は植物のリグノセルロース構造中のリグニン片をエネルギーの供給源として使用することができず、リグノセルロースは非常にゆっくりと化学的および微生物学的な修飾反応を受けている。死んだ植物ならびに土壌細菌および真菌類は、従って、非常に長い期間にわたって、腐植材料(植物リグニン由来)、多糖類(植物の細胞壁由来)およびβ-1,3/1,6-グルカン(真菌の細胞壁由来)の化学的に極端に複雑な混合物として残ることになる。堆積物中および土壌中の最近の植物材料は急速に入れ替わるが、腐植材料がより緊密に粘土鉱物と関連づけられる場合、さらなる腐敗がもっとゆっくりと、徐々に現れる。土壌および堆積物は、従って、非常に長い期間にわたって「成熟」し、徐々に本発明に記載のもののような特性を獲得し、それが哺乳動物を土食に対して本能的に誘引する。
【0028】
砂および粘土中の鉄は、その三価の酸化状態(III)において、腐植ポリマーのフェノール/キノン基と非常に強く結合し、黒色の不溶性材料、例えば、褐炭のような表面地質学的堆積物中および黒色の森林土壌中などにある黒色の不溶性材料を形成することになる。淡水湖の嫌気性の部分で産生される「より新しい」腐植質材料は、黄色がかっているか、または淡褐色である。褐炭堆積物中の黒色の酸化された腐植物質および嫌気性の淡水環境中で形成された可溶性の黄色がかった/褐色の腐植材料の両方が、かつては緑色植物中に存在した植物リグノセルロース繊維の化学誘導体である。しかし、両方が同じ前駆物質-植物のリグノセルロース構造-の誘導体であるのにもかかわらず、以下の実施例に示されるように、それらは、それらのGM調節能において著しく異なっている。
【0029】
製品の必要性
「デコンストラクテッド・ソイル」(DS)と名付けられた製品の組成物は、GM調節組成物としての土壌の滅菌された代用物である。それは天然の土壌成分に基づくものであり、その使用は、GMの調節を目的とする現在の製品の市場とは根本的に異なる新規の原理の応用によりディスバイオシスを予防またはそれに対し対抗するためのものである。現在の、GM調節剤だとされている範囲の製品は、共通的に3つのカテゴリーに分類される。
【0030】
(1)プロバイオティクス-生きた細菌または他の微生物を含有する調製物、
(2)プレバイオティクス-有益であると推定される腸内細菌の増殖を選択的に支援するエネルギー基質、
(3)ポストバイオティクス-微生物の培養後に残される代謝物。
【0031】
これらの製品カテゴリーは大規模な市場に相当するものであるが、それらは、高度に複雑な代謝相互依存性ネットワークを形成する何百もの種から構成される群集であるGMの複雑な生態環境を適切に配慮していない。例えば、多数の、1つまたは少数のプロバイオティクス細菌種(ほとんどは乳酸菌)の導入は、導入された細菌が生き残ってGMの新たなメンバーになった場合には、必然的にGM内の種間の生態学的なバランスを変えることになる。プレバイオティクス物質(ほとんどはオリゴ糖)は、GM内の限られた数の種(有益であると推定される)の増殖を有利にする手段として増進されており、それゆえプレバイオティクスはGM生態環境中に変化を誘導する可能性がある。ヒトおよび動物の健康に対して良いとして販売されているプロバイオティクスの悪い作用が、GM生態環境の理論的知識に基づいて仮定されてきたが、確かな科学的試験に基づく重大な警告も存在している。例として、プロバイオティクスは、通常信じられていることおよび推奨されている医療行為に反して、抗生物質処置後のヒトのGMの通常の回復を遅らせる恐れがある。また、上記のように定義されるプレバイオティクスは、GMの基本的な生態学的原理に適合してもおらず、腸の健康の増進におけるそれらの有効性は疑わしい。
【0032】
よって、本発明のDSのなど、嫌気性環境における微生物の生態環境の基本的な法則に従ってGMを調節する製品に対する満たされない需要がある。
作用機序
DSの黒色腐植材料成分は、鉄(III)をキレートするフェノールおよびキノン部分を含有する芳香族モノマーのポリマーである。この構造は、嫌気性環境において電子シャトル剤(electron shuttling agent)としての役割を果たし得る。このプロセスにおいて鉄(III)は鉄(II)に還元され得、キノン部分はセミキノンおよびフェノール基に還元され得る。腐植材料のポリマー中の還元鉄(II)およびフェノール部分は、今度は、生態系内の他の微生物に対して電子を送達して再び酸化され得る。これにより、発酵性微生物が余分な還元当量を軽減することのできる手段がもたらされ、それによってエネルギーが他の群集メンバーに対して再分配される。嫌気性代謝についての我々の現在の理解からすると、この作用機序は我々の観察のすべて、例として、DSによって有利になる偏性嫌気性種もあれば有利にならない偏性嫌気性種もあることなどを説明するのに不十分である。例えば、偏性嫌気性群のバクテロイデス(Bacteroides)属の一種は、我々の対照実験において最も広くにわたって見られる群の間にあるものであったが、DSを用いた処置によって、これらの種はアッセイ培養物からほぼ取り除かれた。これは、対照と比べてこれらの種に対して作用を示さなかった淡水由来の精製腐植材料の作用とは明らかに対照的である。なお、害を及ぼすと推定されるクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)の増殖をリグニン成分が亢進させたが、DSはこの種を一掃した。さらに、プレボテラ・コプリ(Prevotella copri)およびフィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)の増殖に対しリグニンは影響を及ぼさなかったが、DSは同じ種を有意に亢進させた。従って、たいへん意外なDSのGM調節特性の発見の背後にある詳細なメカニズムを明らかにするためには、より基礎的な研究が必要である。
【0033】
潜在用途
本発明の製品は、生態学的にバランスの取れたGMを維持しかつGMディスバイオシスと関係した肥満、アルコール性および非アルコール性脂肪性肝疾患、自閉症、II型糖尿病、心血管の健康、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、メタボリックシンドローム、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、ADHD、パーキンソン病、AIDS、鬱、関節炎、アレルギーなどの状態に対して対処することにおいて、単独での使用または他の製品と組み合わせた使用が可能な基本的な製剤とされるべきである。それは、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridium difficile)の異常増殖の予防における糞便微生物移植(FMT)を支援するための基本処方としても使用することができる。それは、がん免疫療法を含めたがんの薬およびがんワクチンのための、ならびに一般的なワクチンのためのマイクロバイオーム調節アジュバントとしても使用することもできる。例えば、実施例に示されるように、これは、選択的にフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の増殖を亢進させ、バクテロイデス(Bacteroides)属の増殖を不利にすることにより実現され得る。
【0034】
DSの微生物叢調節能力は、GMディスバイオシスの予防または処置以外の他の用途、例として創傷および炎症を起こした歯周組織における微生物叢の調節などに対しても妥当性を有することが、以下の実施例に記載される発見において暗示されている。
【0035】
DSは、鳥(ニワトリ、シチメンチョウ)および魚の商業的農業における用途を有し得ることも暗示されている。受精卵から屠殺までの商業用のニワトリの生産は、ニワトリが進化の間に適応するようなった微生物の暴露を回避し予防するようにデザインされた技術的体制下で実行されている。そのような環境におけるニワトリを、ニワトリの生産施設における日和見病原体への偶発的な暴露に対しさらに強健にするために、DSのような製品を使用してそれらの閉ざされた嚢(blind-sacks)内の嫌気性微生物群集を有益に富化することは優れた戦略であり得る。
【0036】
水産養殖のセクター内では、ティラピアの現代農法がDSの使用にとって特に妥当なものである。この熱帯魚種は、藻類および微生物に富みかつ嫌気性の水底の汚泥を伴う淡水生態系に生物学的に適応している。その魚は定期的に嫌気性の水底の汚泥を飲み込み、酸素に富む水の表面に戻って植物プランクトンを食べる。汚染されていない池の水またはオープンネットケージ内での現代農法においては、この魚はそのような嫌気性の入力を奪われており、それは哺乳動物における土食と比較され得る。従って、本発明のDS組成物は優れた代用物である可能性がある。
【0037】
本発明によるデコンストラクテッド・ソイル組成物は、β-1,3/1,6-グルカンならびに鉱物および多糖類を含有する黒色腐植材料を含む。黒色腐植材料に対して添加されるβ-1,3/1,6-グルカンは、真菌タイプのものであり、好ましくは酵母から得られたものである。さらに、本組成物の黒色腐植材料は、鉄および酸化されたリグネート/腐植材料を含む。好ましくは、黒色腐植材料はレオナルダイトタイプのものである。場合により、本発明の組成物は粘土鉱物を含む。
【0038】
本発明のさらなる実施形態では、β-1,3/1,6-グルカンと黒色腐植材料との比は1:100から1:1の範囲であり、好ましくは5:100、最も好ましくは3.5:100である。
【0039】
本発明のデコンストラクテッド・ソイル組成物が粘土鉱物を含む場合、β-1,3/1,6-グルカンと黒色腐植材料と粘土鉱物との比は1:100:5から5:100:15の範囲であり、好ましくは3.5:100:10である。
【0040】
脊椎動物、特に哺乳動物におけるディスバイオシスの処置における上記で定義されたデコンストラクテッド・ソイル組成物の使用は、本発明の別の実施形態内に含まれる。本発明の他の実施形態によれば、その哺乳動物はヒト、愛玩動物または家畜である。本発明のさらに他の実施形態は、その脊椎動物が鳥または水産養殖種である、上記組成物の使用を包含する。
【0041】
本発明のさらに別の実施形態では、デコンストラクテッド・ソイル組成物を使用して、嫌気性および微好気性条件下で酸素感受性の有益な腸内細菌を選択的に有利にする。さらなる実施形態では、デコンストラクテッド・ソイル組成物を使用して、酸素の消費および有害な腸内細菌を選択的に不利にする。
【0042】
本発明の特定の実施形態では、デコンストラクテッド・ソイル組成物を使用して、嫌気性および/または微好気性条件下で、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)、プレボテラ・コプリ(Prevotella copri)、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、メタノブレヴィバクター・スミシー(Methanobrevibacter smithii)、ビフィドバクテリウム属およびラクトバシルス属の種の増殖を亢進させる。
【0043】
本発明の他の特定の実施形態では、デコンストラクテッド・ソイル組成物を使用して、嫌気性および/または微好気性条件下で、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)、アリスティペス・シャーヒイ(Alistipes shahii)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、バクテリオデス・ユニフォルミス(Bacteriodes umiformis)および/またはバクテリオデス・ブルガータス(Bacteriodes vulgatus)の増殖を不利にする。
【0044】
製品、方法および実験
テスト成分
本発明のデコンストラクテッド・ソイルは、森林土壌中に存在する基本的な成分、つまり、1)真菌タイプのβ-1,3/1,6-グルカン、および2)鉄および残留多糖類を含有する地質学的堆積物由来の黒色腐植材料、および3)粘土材料、を含有する。比較のために、4)淡水湖由来の純粋な腐植材料、および5)カラスムギ外皮由来のリグニンのGM調節特性をテストした。
【0045】
1)β-1,3/1,6-グルカン
代表的なタイプの土壌真菌細胞壁β-1,3/1,6-グルカンを作製するために、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を原材料として選んだが、菌糸体の真菌もβ-1,3/1,6-グルカンの供給源として使用することができる。
【0046】
抽出手順は以下の通りである:生きたパン酵母細胞のペーストを蒸留水に対して懸濁し(50グラム/リットル)、この懸濁液を60℃で24時間撹拌して細胞を自己融解させた。その後、主として粗細胞壁を含有する不溶物を遠心分離によって集めた。不溶性の粗細胞壁沈降物から可溶物を除去するために、不溶性の粗細胞壁沈降物の水への再懸濁および遠心分離による沈降を繰り返し行った。この洗浄した細胞壁調製物を、水酸化ナトリウムに対して60~70℃で5時間懸濁して細胞壁多糖類からタンパク質および脂質を分離かつ部分的に分解し、アルカリ処理した細胞壁調製物に対して遠心分離と水中での洗浄のサイクルを繰り返してアルカリ可溶物を除去した。アルカリ処理し、洗浄した細胞壁のスラリーのpHを、クエン酸を用いて7に調整し、中和スラリーを80℃に加熱して0.5mmメッシュの濾過布に通してふるいにかけた。得られた細胞壁ペーストのβグルカン含有量は65%であり、残り部分は主に脂質であった。βグルカンを80%超含有する調製物は、エタノールでの抽出によって作製した。
【0047】
この抽出手順は、バイオテックファーマコンASA社(Biotec Pharmacon ASA)によるNBG(Norwegian Beta Glucan)または米国を拠点とする会社であるバイオセラ社(Biothera Inc.)によるWCBGなどの粒子状酵母β-1,3/1,6-グルカン製品の商業生産において使用される手順と同じある。
【0048】
本発明のデコンストラクテッド・ソイル組成物中の種々の腐植材料調製物に対する適した担体として、β-1,3/1,6-グルカンを60重量%、80重量%、および98重量%含有するエタノール抽出調製物をすべてテストした。異なる粒子状β-1,3/1,6-グルカン調製物の担体特性は、腐植材料調製物および粘土と混合した場合であっても、それらをオートクレーブ(120C/20分)した場合に膨張しハイドロゲルを形成するのであれば優れているとみなした。オートクレーブの前に乾燥黒色腐植物質またはリグニンを混合した場合であっても、テストしたすべてのβ-1,3/1,6-グルカン調製物(60%、80%および98%βグルカン)が、5グラムの乾燥β-1,3/1,6-グルカンを水中でオートクレーブした場合に少なくとも100mLの水性ゲルとなるのに対応する膨潤能を有していた。
【0049】
実施例1~30は、β-1,3/1,3-グルカンを80%含有する市販のβ-1,3/1,6-グルカン調製物M-Gard(バイオテックファーマコンASA;www.biotec.no)を使用した場合の結果を示す。この製品を5グラム(乾燥)蒸留水に対して懸濁してオートクレーブした場合、それは100mlのゲル体積を形成し、独立した層内にいくらかの付加水が見出される。M-Gardを5グラム程の乾燥黒色腐植材料と混合した場合にも同じゲル体積という結果となり、従って、黒色腐植材料を充分に取り込むことができる理想的な担体である。
【0050】
GM調節能の全般的な様式を変えることなく、β-1,3/1,6-グルカンの量と黒色腐植材料を等しい量において混合できることは注目すべきことである。
2)黒色腐植材料
本発明のデコンストラクテッド・ソイルの他の主な成分は、数千年間続いた有機物の化学的および微生物学的腐敗の地質学的堆積物(褐炭)中に形成された、加工されていない、鉄を含有する高度に酸化された(黒色の)リグネート/腐植材料調製物であった。我々はその産物を、黒色の森林土壌中に存在する、微生物学的および化学的に改変された植物リグニンの代表物であり、化学的および他の特性において緑色の葉の中に存在するネイティブリグニンおよび多糖類とは異なるものであると認めた。実施例1~30において示される実験中で使用された黒色腐植材料は、ドイツのミュンスター産のレオナルダイトタイプの褐炭からアルカリで抽出された、水に不溶の黒色の粉末であった。その粉末は主として鉄(III)酸化物からなる含有量16%(480℃で燃焼後)の灰分を有していた。
【0051】
我々は、本発明のDSの微生物叢調節特性を、カラスムギ外皮から抽出したネイティブリグニンおよび淡水湖中で形成された純粋な黄色がかった(還元された、鉄を含まない)腐植材料の微生物叢調節特性と比較した。我々は、実施例に記載される作用が、微生物的および化学的な腐敗の間の腐植質のある程度の「経年化」および「成熟化」に起因し得るかどうかを検査するために、これを行った。そのような比較試験からの結果により、黒色腐植材料の作用が、淡水由来の純粋な腐植材料(実施例25~27)およびカラスムギ外皮由来のネイティブリグニン(実施例28~30)の作用と大きく異なることが示される。
【0052】
3)粘土材料
β-1,3/1,6-グルカンおよび腐植材料を含有する基本的なDSに添加される無機成分は、健康食品店において入手可能なイライトタイプのものであった。それは、主な成分としてケイ酸アルミニウムを含有する。
【0053】
4)純粋な腐植酸
実施例25~27において提示される実験中で使用された純粋な腐植酸は、オスロ大学での陸水学における研究プロジェクトに関係してもたらされた。オスロ地方の内陸の湖由来の黄色く澄んだ水をまず濾過して粒子状物(>1ミクロン)を除去し、次いで限外濾過(>10000D)を行って腐植物質を濃縮した。水中での洗浄および限外濾過のサイクルを繰り返した後、純粋な腐植酸を真空乾燥して、微小繊維の顕微鏡的微細構造を有するふわふわした薄褐色の粉末にした。本物質は、実施例25~27において提示される実験において使用した。
【0054】
5)リグニン
実施例28~30において示される実験中で使用したリグニンは、カラスムギ外皮から以下の通りに抽出した:乾燥カラスムギ外皮(ノーゲスモリーン(Norgesmollene)AS,ノルウェー)を1~2mmの粒子サイズに細かくすりつぶして水に対して懸濁し(1重量単位/50mL)、HClを用いてpH1~2に酸性化し、そこへ0.5グラムのブタペプシン(アークティック・ザイムズ(Arctic Zymes)AS、ノルウェー)を添加した。この混合物を37℃で24時間ペプシン消化させた後、固相を沈降させ、遠心分離および沈降を繰り返すことにより水で洗浄した。沈降物中の白色の最上層(セルロース)を吸い取り、褐色のリグニンを含有する底層を96%のエタノールで繰り返し洗浄してあらゆるエタノールに可溶な低分子物質を除去した。空気乾燥後に得られた褐色の粉末を、実施例28~30の実験において使用した。
【0055】
GM分析技術
科学者がGMについてあらゆるレベルで詳細に説明できるようになったのは、比較的最近ようやくのことである。DNA-シーケンシング技術の発達により、ヒトGMならびに他の複雑な微生物生態系に、研究の「爆発」が導かれた。これらの試みにより、腸内に宿る微生物群集の以前は知られていなかった複雑さおよび個々の性質が実証されてきた。GMを調査するための最も共通するアプローチは、標識遺伝子またはアンプリコンDNAシーケンシングとして知られている。細菌のケースでは、このアプローチには系統発生学的な標識遺伝子の超並列シーケンシングが伴い、その遺伝子はたいてい細胞のタンパク質合成機構であるリボソームの小サブユニットRNA成分(16S rRNA)をコードするものである。この遺伝子はすべての細菌および古細菌に見出され、高度に保護された部分ならびに可変的なストレッチを含有しており、それによってこの遺伝子は系統発生学的な比較に適したものとなっている。ハイスループットDNAシーケンシングにおける現在のゴールドスタンダードはイルミナプラットフォームであり、それは最良の費用対産出比を有している。イルミナ装置上でのアンプリコンシーケンシング用に試料を調製する方法、いわゆるDNAシーケンシングライブラリーの調製法に関しては、いくつかの異なる技術的アプローチがある。それらのすべてに共通してある1つのことは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術による標的DNA断片の増幅である。このプロセスの詳細ならびに増幅DNA断片の下流の処理は、ライブラリー調製と関連づけられるコストならびに出力データの質と同じ様に、使用されるプロトコールによって実質的に変わる。
【0056】
我々は、大規模なスケール(数千の試料)で微生物叢をうまく特徴づけるために、下流のバイオインフォマティクスパイプラインを含めた、16S rRNA遺伝子のアンプリコンシーケンシングのための新規の方法論を開発した(デ ミンク(de Muinck)ら、2017)。具体的には、我々は、第3のインデックス配列を第2段階のPCR増幅の一部として組み込み、シーケンシングに必要なオリゴヌクレオチドの必要数を低減させる、新規のライブラリー調製技術を開発した。主要なアイデアは、第1段階のPCRの間にデュアルインデックスおよび一部のイルミナアダプターを添加する一方で、第2の反応では1つの一般的なオリゴヌクレオチドをすべての反応に対して使用し、かつ1つのカスタムオリゴヌクレオチドを96試料(1標準試薬プレート)毎に使用し、うまく増幅した断片のみがシーケンシングされるようにアダプター配列を完成させる、というものである。我々は技術の広範囲にわたるベンチマークテストおよび最適化を実施した。我々の技術は非常にフレキシブルであるため、我々はそれを種々の異なる試料タイプに由来する複雑な微生物群集を特徴づけるために使用することが可能である。それにより、我々の方法は、費用対産出比の観点から細菌群集のアンプリコンシーケンシングにおける有意な進歩に相当するものであり、最高品質のデータを生産するための多数の試料の処理に理想的に適したものである。
【0057】
マイクロバイオームアッセイ
β-1,3/1,6-グルカンおよび黒色腐植材料からなる本発明のデコンストラクテッド・ソイル(DS)が、厳密な嫌気性条件下または微好気性条件下のいずれかで培養された糞便材料に基づくヒトGM微生物叢のモデルをどのように調節するかについての、以下の実施例中に示されるデータを生成するために、上記の技術を使用した。我々は、粘土鉱物のイライトを添加したDSの作用もテストした。Anaerobe Basal broth(オクソイド(Oxoid))を含有する2mLの滅菌されたチューブ中で、対照として、またはDSを添加して、培養物を37℃で7日間増殖させた。嫌気性条件に対しては、嫌気性GasPak(サーモ(Thermo))の小袋および嫌気性を確認するための指標ストリップを含有する気密瓶内で、培養物を増殖させた。微好気性の培養物は、標準のインキュベーター内で、最初の24時間はチューブに蓋をゆるめに被せて増殖させた。24時間後に蓋をしっかりと締めた。7日後にすべての培養物を-80℃で凍結し、さらなる工程を待った。MagAttract PowerSoil DNA kitを使用して、総DNAを培養物から抽出した。DNAを上記のシーケンシング手順を使用して分析した。シーケンシングを、67,498(±17,052s.d.)リードの平均深度になるまで行った。リボソームデータベースプロジェクトのトレーニングセット(コール(Cole)ら、2014)を使用して、配列のリードを属レベルに分類した。種レベルへのさらなる分類は、Genbankの16S rRNA遺伝子配列アーカイブに対するBLASTサーチ(アルチュール(Altschul)ら、1990)によって行った。我々が単一の種に対する高い同一性の一致(>99%)を見出した場合には、これを配列バリアントの分類法として提示する。配列が1つを超える種と100%の同一性を有することを見出した場合には、配列バリアントを分類法の属レベルにおいて提示する。
【0058】
実施例の概要
実施例1~6は、嫌気性条件下で、デコンストラクテッド・ソイル(DS)およびイライトを加えたデコンストラクテッド・ソイル(DS+)が、複雑な腸内微生物培養物中で、良い腸の健康に関連する細菌に対して良い作用を及ぼすことを実証する。さらに、希少な細菌タイプが回収される。
【0059】
実施例7~12は、嫌気性および微好気性条件下で、イライトを加えたDS(DS+)が、複雑な腸内微生物培養物中で、良い腸の健康に関連する細菌に対して良い作用を及ぼすことを実証する。さらに、希少な細菌タイプが回収される。
【0060】
実施例13~15は、同様に嫌気性である複数の細菌のタイプが本発明によって有利にならないという、本発明の特定の性質を実証する。提示される例は、悪い方向で腸の健康と関連してきたタイプである。
【0061】
実施例16は、本発明の特定の性質を実証する。通性嫌気性細菌のスタフィロコッカス属は、本発明によって有利にならない。スタフィロコッカス属は、通常の、しかしマイナーなGM群集のメンバーである。スタフィロコッカス属のレベルの上昇は、GMにおける好気生活の指標となり得る。
【0062】
実施例17~18は、同様に嫌気性であるが、腸の健康と良いようにもまたは悪いようにも必ずしも関連しない細菌のタイプが、本発明によって有利にならないという本発明の特定の性質を実証する。
【0063】
実施例19~21は、同様に嫌気性である複数の細菌のタイプが、微好気性条件下で本発明によって有利にならないという本発明の特定の性質を実証する。提示される例は、悪い方向で腸の健康と関連してきたタイプである。
【0064】
実施例22は、本発明の特定の性質を実証する。通性嫌気性細菌のスタフィロコッカス属は、微好気性条件下で本発明によって有利にならない。スタフィロコッカス属は、通常の、しかしマイナーなGM群集のメンバーである。スタフィロコッカス属のレベルの上昇は、GMにおける好気生活の指標となり得る。
【0065】
実施例23~24は、同様に嫌気性であるが、腸の健康に必ずしも良いようにまたは悪いように関連しない細菌のタイプが、微好気性条件下で本発明によって有利にならないという、本発明の特定の性質を実証する。
【0066】
実施例25~27は、嫌気性条件下での、純粋な淡水の腐植材料のGMに対する作用を実証するものであり、それはこの腐植材料の作用がDSの作用と著しく異なることを示す。
【0067】
実施例28~30は、嫌気性条件下での、カラスムギリグニンのGMに対する作用を実証するものであり、それは穀物食品由来のネイティブリグニンの作用がDSの作用と著しく異なることを示す。
【実施例
【0068】
(実施例1)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、ビフィドバクテリウム属の相対存在量の増加。
【0069】
両処理下での存在量の増加は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.003、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0070】
結果を図1に示す。
コメント:ヒト宿主に対する複数の有益な作用は、ヒトの腸内の常在のビフィドバクテリウム属の一種に起因すると考えられている。さらに、ビフィドバクテリウム属の存在量は、IBD、肥満、アレルギーおよび自閉症を患った患者において低減していることが見出されている。
【0071】
(実施例2)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、ラクトバシルス属の相対存在量の増加。
【0072】
両処理下での存在量の増加は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.01、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0073】
結果を図2に示す。
コメント:L.ラムノサス(L.rhamnosus)またはL.カゼイ(L.casei)のようなラクトバシルス属の一種は、伝統的な食品保存技術において広範に使用されており、これらの食品が有益な作用を与えることは広範に想定されている。ラクトバシルス属の一種は、最も広範に使用されるプロバイオティクス細菌群でもある。
【0074】
(実施例3)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、プレボテラ・コプリ(Prevotella copri)の相対存在量の増加。
【0075】
両処理下での存在量の増加は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.01、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0076】
結果を図3に示す。
コメント:プレボテラ・コプリは、バクテロイデス(Bacteroidetes)門に属する。それらは、ヒトのマイクロバイオーム中にかなり広くにわたって見られ得るものであり、特に、西洋の生活習慣病が実際には存在しない狩猟採集民のコミュニティにおいて高い存在量が見出されている。さらに、IBD患者において、健康な対照と比べてプレボテラ属の存在量が低減していることが見出されている。
【0077】
(実施例4)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)の相対存在量の増加。
【0078】
両処理下での存在量の増加は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.004、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0079】
結果を図4に示す。
コメント:現時点でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツイは偏性嫌気性であって、酪酸を産生しかつ抗炎症性の種であるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツイのみを含有する。この高度に酸素感受性の、粘液と関連づけられる細菌は、炎症性腸疾患(IBD)において激減していることが見出されている。その極端な酸素感受性が原因で、この細菌を培養物中で増殖させることは非常に困難であり、従って、プロバイオティクスとして開発することの難しい細菌候補である。
【0080】
(実施例5)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、メタノブレヴィバクター・スミシー(Methanobrevibacter smithii)の相対存在量の増加。
【0081】
両処理下での存在量の増加は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.02、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0082】
結果を図5に示す。
コメント メタノブレヴィバクター・スミシーは、古細菌属であり、M.スミシー(M.smithii)はヒトのGMと関連づけられている。それは、ヒトの腸内で、細菌代謝の共通する副産物である水素ガスを除去する。このプロセスは厳密に嫌気性であり、M.スミシー(M.smithii)種は酸素に極端に敏感である。ヒトの腸内でのM.スミシー(M.smithii)の激減が、IBDに対するバイオマーカーとして提案されている。
【0083】
(実施例6)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の相対存在量の増加。
【0084】
両処理下での存在量の増加は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.02、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0085】
結果を図6に示す。
コメント アッカーマンシア・ムシニフィラは偏性嫌気性細菌の属であり、ベルコミクロビア(Verrucomicrobia)門に属する。それらは、I型糖尿病および肥満のマウスモデルにおいて激減していることが示されている。アッカーマンシア・ムシニフィラ細菌は、ヒトにおける代謝の健康と関連づけられており、次世代のプロバイオティクスの優れた候補と認められている。
【0086】
(実施例7)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、ビフィドバクテリウム属の相対存在量の増加。
【0087】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の増加は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.05、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0088】
結果を図7に示す。
(実施例8)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、ラクトバシルス属の相対存在量の増加。
【0089】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
結果を図8に示す。
【0090】
(実施例9)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、プレボテラ・コプリ(Prevotella copri)の相対存在量の増加。
【0091】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の増加は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.05、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0092】
結果を図9に示す。
(実施例10)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)の相対存在量の増加。
【0093】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の増加は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.05、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0094】
結果を図10に示す。
(実施例11)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、メタノブレヴィバクター・スミシー(Methanobrevibacter smithii)の相対存在量の増加。
【0095】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の増加は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.05、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0096】
結果を図11に示す。
(実施例12)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の相対存在量の増加。
【0097】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の増加は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.05、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0098】
結果を図12に示す。
(実施例13)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)の相対存在量の減少。
【0099】
両処理下での存在量の減少は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.003、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0100】
コメント クロストリジウム・パーフリンジェンスは、ヒトおよび動物における腸疾患に広範に関連している。
結果を図13に示す。
【0101】
(実施例14)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)の相対存在量の減少。
【0102】
両処理下での存在量の減少は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.05、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0103】
コメント フィネゴルディア・マグナは、日和見性のヒト病原体として働く。
結果を図14に示す。
(実施例15)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、アリスティペス・シャーヒイ(Alistipes shahii)の相対存在量の減少。
【0104】
両処理下での存在量の減少は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.01、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0105】
コメント アリスティペス属の一種の増加レベルは、過敏性腸症候群を伴う小児における痛みの増加と関連づけられている。
結果を図15に示す。
【0106】
(実施例16)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、スタフィロコッカス属の相対存在量の減少。
横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0107】
コメント スタフィロコッカス属は、通性嫌気性菌であり、通常の、しかしマイナーなGM群集のメンバーである。スタフィロコッカス属のレベルの上昇は、GMにおける好気生活の指標となり得る。
【0108】
結果を図16に示す。
(実施例17)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、バクテロイデス・ユニフォルミス(Bacteroides uniformis)の相対存在量の減少。
【0109】
両処理下での存在量の減少は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.006、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0110】
結果を図17に示す。
(実施例18)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)と比較した、バクテロイデス・ブルガータス(Bacteroides vulgatus)の相対存在量の減少。
【0111】
両処理下での存在量の減少は、対照と比べて統計学的に有意である(p<0.006、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0112】
結果を図18に示す。
(実施例19)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)の相対存在量の減少。
【0113】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の減少は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.05、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0114】
結果を図19に示す。
(実施例20)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)の相対存在量の減少。
【0115】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の減少は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.05、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0116】
結果を図20に示す。
(実施例21)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、アリスティペス・シャーヒイ(Alistipes shahii)の相対存在量の減少。
【0117】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の減少は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.04、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0118】
結果を図21に示す。
(実施例22)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、スタフィロコッカス属の相対存在量の減少。
【0119】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
結果を図22に示す。
【0120】
(実施例23)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、バクテロイデス・ユニフォルミス(Bacteroides uniformis)の相対存在量の減少。
【0121】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の減少は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.04、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0122】
結果を図23に示す。
(実施例24)
イライトを補ったデコンストラクテッド・ソイル(MDS+、n=3)で処理した微好気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(MC、n=5)と比較した、バクテロイデス・ブルガータス(Bacteroides vulgatus)の相対存在量の減少。
【0123】
対応する嫌気性のアッセイを、比較のために含めた(AC=対照、ADS+=イライトを補ったDS)。MDS+で処理した培養物中の存在量の減少は、対照(MC)と比べて統計学的に有意である(p<0.04、ウイルコクソンの順位和検定)。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0124】
結果を図24に示す。
(実施例25)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)および淡水由来の純粋な腐植材料(PHA、n=4)と比較した、ビフィドバクテリウム属の相対存在量の増加。
【0125】
PHA処理下での平均の相対存在量は対照より有意(p=0.04、ウイルコクソンの順位和検定)であるが、PHAの作用はDSおよびDS+と比べて明らかに低減する。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0126】
結果を図25に示す。
(実施例26)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)および淡水由来の純粋な腐植材料(PHA、n=4)と比較した、バクテロイデス・ユニフォルミス(Bacteroides uniformis)の相対存在量の減少。
【0127】
DSおよびDS+とは違って、PHA処理では、対照と有意には異ならない。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
結果を図26に示す。
【0128】
(実施例27)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)および淡水由来の純粋な腐植材料(PHA、n=4)と比較した、バクテロイデス・ブルガータス(Bacteroides vulgatus)の相対存在量の減少。
【0129】
PHA処理において、相対存在量は対照と比べて有意に上昇する(p=0.02、ウイルコクソンの順位和検定)が、DSおよびDS+は反対の作用をもたらした。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0130】
結果を図27に示す。
(実施例28)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)およびリグニン(Lig、n=5)と比較した、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)の相対存在量の減少。
【0131】
リグニン処理において、相対存在量は対照と比べて有意に上昇する(p<0.01、ウイルコクソンの順位和検定)が、DSおよびDS+は反対の作用をもたらした。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
【0132】
結果を図28に示す。
(実施例29)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)およびリグニン(Lig、n=5)と比較した、プレボテラ・コプリ(Prevotella copri)の相対存在量の増加。
【0133】
リグニン処理では対照と有意に異ならなかったが、DSおよびDS+処理では相対存在量は上昇した。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
結果を図29に示す。
【0134】
(実施例30)
デコンストラクテッド・ソイル(DS、n=5)およびイライトを補ったDS(DS+、n=4)で処理した嫌気性のヒトGM微生物叢アッセイシステムにおける、未処理対照(C、n=7)およびリグニン(Lig、n=5)と比較した、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)の相対存在量の増加。
【0135】
リグニン処理では対照と有意に異ならなかったが、DSおよびDS+処理では相対存在量は上昇した。横線は平均値を表し、ドットは実際のデータポイントを表す。
結果を図30に示す。
【0136】
(参考文献)
【0137】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
【国際調査報告】